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尚六SS「永遠の行方」

10贈る想い(4):2007/10/22(月) 19:38:12
 鳴賢は考え込んだ。はたしてそうだろうか。いや、玉麗はおとなしくて控え
めだが、芯の強い娘だった。自分が高級官吏になったからといって、それだけ
で尻込みするとも思えない。そもそも大学に入った以上、卒業して官吏を目指
すのは当たり前のことだ。単に身を引くなら自分が大学に入ったときにそうし
ただろう。
「幼なじみだったんだ。官吏になろうがなるまいが関係ない」
「それでも、さ。鳴賢が長いこと苦労しながら頑張っているってことは知って
いたわけだ。便りもない、帰省もしない。自分は寂しいけれど、そんなふうに
思うのは鳴賢のためにならないんじゃないだろうか、むしろこのままでいては
いけないんじゃないだろうかって――考えたことがあったのかもな、と思って。
ま、勝手な想像だけど」
「……」
「好きだから……寂しさに耐えられなくて。でも相手には幸せになってほしく
て、だからこそわがままをぶつけられなくて。そして他の男を選んで結婚して、
鳴賢に会わせる顔がなくて。悩んだのかな。鳴賢のことが好きだから。でもそ
のままじゃ鳴賢にも亭主になった人に申し訳がないから。だから故郷を去って
踏ん切りをつけようとしたのかな」
 鳴賢は黙り込んだ。あばずれだの何だのという悪友たちの罵りに比べれば、
はるかに玉麗に似つかわしい想像ではあったが、それが事実かどうかは別の問
題だ。それでも長年彼女を放っておいたという自覚はある鳴賢に、六太の言葉
はちくちくとした痛みをもたらした。
「まあ――何も約束してなかったしな……。別につきあってたわけでもないし」
「それでも八年待ったわけだろ」
「八年か。長いよなぁ……。さすがに卒業も危ういし、見捨てられても仕方が
ないよな……」
「正直に言ってりゃ良かったかもな。允許を取るのに苦労して、先行きどうな
るかわからない。手紙を書く暇もない。でもとにかく死にものぐるいでやって
いるから待っててくれって」
「そんなこと言えるか」
 鳴賢は力なく笑った。こんなことを言われたら普段なら腹が立ったに違いな
いが、今はその気力もなかった。むろん相手が年端もいかない子供にすぎない
せいもあったろう。ここで怒っては年長者の立場がない。




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