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【お気軽】書き逃げスレ【SS】

163『台輔の勤め』14:2004/12/02(木) 04:52
「え?」
意味がわからずに聞き返す。
氾王はそれには答えずただ笑い、少女のように可憐な装いをした目の前の美しい子供を見つめた。
「景色は悪くないが、ここはちと風があるの…なんと埃を被ったことよ」
立ち上がり髪に手をやった氾王に、六太も慌てて立ちその着物に指をやった。
舞い上げられ薄くついた砂を、布地に気を遣いながらはらい落とす。
甲斐甲斐しいその様を満足げに見下ろしながら氾王はお主もの、と言い六太の髪を撫でた。
「さよう…宴の前に湯を使わせてくりゃるかえ」
口にした言葉は六太の動きを止める。
「え。──ああ!うん。構わないけど…」
「ならば女官を控えさせておかなくてはなるまいね。湯上がりの様装も整えねばならぬであろ」
そなたはね、と氾王は六太を見て微笑んだ。六太の目が開く。
「えっ──ちょ、それって、もしかして──」
俺も、と開きかけた口をそれに触れた長い指が押しとどめる。
「…よもや湯殿での身世話を他の者に任せるなどということはすまいね、台輔?」
「──!…」
何か言おうとしたものの甘く、だが真っ直ぐに煌めく瞳に見据えられ六太はとうとう頷く。
「わかったよ…。──沃飛」
はい、と足元から返した女の声に告げる。
「…女官に氾王の湯殿の用意、…それと、俺の浴着の用意をするよう伝えてくれ。
新しい着物も…それから」
おめかしの支度もですね、と柔らかな笑いを含んだ声がそれを引き継いで絞める。
「…そうだ」
六太は短く応え、女怪を行かせた。
「なあ…。思い付いた悪趣味ってこれか?」
溜め息をついて見上げると、なんの、と言って氾王は笑った。
「湯世話など当然の義であろ、台輔」
「じゃあ何だよ」
「…この場で申すようなことかえ。総い延麒にはその覚悟が出来ておると思うておったのじゃが?」
ぴくりと背が張った。
「…予定は今日一日のはずじゃ?」
日を跨ぐとは聞いてはいない。
胸が不穏な音を立て始める。六太は横を向き、平静を装って尋ねた。
「確かにね。そのつもりであったのじゃが…さてね」
だから宴も早い時間に設定されている。だが湯を使えばそれは遅れることになろう。
そうすれば宴席の終わりには陽は落ちている。国賓を夜に帰すことは有り得なかった。
無論不測の事態に備えて臥室の用意はされている。…だが、この状況でそうなれば。
まさかとは思うが、…だが。
六太の表情が強張った。
「……」
覚悟がない訳ではなかった。


伽という役。


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