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ゼルダの伝説でエロパロ・したらば別館【2スレ目】

1名無しさん@ピンキー:2010/06/10(木) 03:02:32 ID:jrwnNF0w0
このスレは「ゼルダの伝説」のエロパロを書き込むスレです。
何らかの事情で本スレへの投下がためらわれるSSは、こちらに投下して下さい。

<本スレ>
ゼルダの伝説でエロパロ 【8】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1211063548/

<保管庫>
ttp://red.ribbon.to/~eroparo/
ENTER>ゲームの部屋>ゼルダの伝説の部屋
<前スレ>
ゼルダの伝説でエロパロ・したらば別館
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/2051/1211887584/-100

393PS-18 思いを決するお姫様 (3/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:10:29 ID:LrWLVYmY0
 ゼルダは迷った。
 そこまでは察していないのか。察した上で訊ねているのか。どちらにしても真実を告げるべきか
否か。王女の──そして一人娘の──婚前交渉。告げれば怒りを買う公算が大だ。事を
好ましからぬ方向に進めてしまうかもしれない。が……
「はい」
 父に嘘はつきたくなかった。既成事実が他者との結婚を成り立たせない事由になると開き直る
心理にもなっていた。
 王は箝口した。目も閉じ、沈思の態である。叱責を予想していたゼルダは意表を突かれたが、
父の眉根に寄った皺をその前兆とも感じた。
 先んじる。
「よくよく考えた上でそうしたのです。わたしはリンクを愛しています。そしてリンクもわたしを
愛してくれています。彼ではない人の妻になるつもりは、わたしには露ほどもありません」
 おのれの弁に高揚を誘われ、
「リンクの妻になれないのなら、わたしは、一生、結婚などしませんから!」
 とまで言い放ってしまう。
 王が開眼した。鋭い眼光だった。
 はたと気づく。
「……申し訳ありません。言葉が過ぎました」
 結婚しなければ子孫を残せない。王家の断絶を主張するがごとき台詞を、かりそめにも王女たる
者が発するべきではなかった。叱責が倍するをゼルダは覚悟した。
 が、
「まあよい」
 王は目を平常に復させ、
「それほどの想いだということはわかった」
 しかもなお、まことに寛容だった。
「わしとて、お前とリンクの結婚に反対ではない」
 ゼルダの口はぽかんとあいた。声は出なかった。想定外の事態が喉を機能させなかったのである。
「剣闘で彼の右に出る者は、いまのハイラルにはおるまい。ゲルド戦役でガノンドロフを討った
武勲は言うに及ばず、九年前、幼い身でゲルド族の反乱を未然に防ぎ、ゴロン族とゾーラ族の
危機を救った功績も忘れられぬ。正義を希求する姿勢に揺るぎのない勇者。加えて人柄は純一かつ
誠実。お前が婿とするに不足のない男だと思う」
 驚きと喜びが入り混じってゼルダの胸を満たした。
 父がこうまでリンクを評価しているとは。これならわたしたちの行く末に差し支えは全く──
『けれど……』
 引っかかった。
 では、なぜ、父は、「反対ではない」と消極的な言い方しかしないのだろう。双手を挙げて
賛成してくれてもよさそうなものなのに。どことなく顔つきが渋いのも気になる……

394PS-18 思いを決するお姫様 (4/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:11:11 ID:LrWLVYmY0
「しかし」
 王は所以を明らかにした。
「リンクはお前との結婚を望んでおるのかな」
 ぎくりとする。
 そう、行き着くところはそこなのだ。いくらわたしが気負ってみても。
「王女と結婚するからには、相応の地位が求められる。リンクは名門の血筋ゆえ、本来ならば
支障はないのだが、一向に家を継ごうとせぬのではどうにもならぬ。わしが以前から勧めて
おるのにな。リンクもそのあたりの機微を知らぬではなかろうに、ことさら跡取りの務めを
避け続けておるのは、お前を愛しこそすれ、王家の婿となるのには気乗りがせぬからだ、と
解したくもなる」
 反論できない。同じ危惧を抱くわたしとしては。
「おそらく……政治に携わることについて……リンクなりに考えるところがあるのでは……」
 政治はリンクの欲せざるところだろう、とまでは言えなかった。言えばリンクは花婿候補から
除外されてしまう。ためにぼかした表現をしたのだったが、擁護にはならないとわかってもいた。
実際、国王は渋い顔つきのままだった。ただ、
「政治に携わることについて、か……難しく考える必要はないと思うが……」
 と、含みありげな独白をし、それがゼルダの懐疑を誘った。しかし国王は意を説かず、話を
帰着の方向へと持っていった。
「ともかく現状では、この縁談を断るのに、アンビ女王を納得させられるだけの理由はないと
言わざるを得ぬ。さすれば──」
「待ってください」
 あわててゼルダは遮った。
 これで片をつけられてはたまらない。
「リンクと話し合って彼の気持ちを確かめます。アンビ女王に返事をするのはその後にして
いただけませんか」
 一気に言葉を連ねる。が、
「といっても……かなり先になりますけれど……」
 最後は歯切れが悪くなってしまう。
 視察団の出発に先立ってゲルド地方へ赴いたリンクは、そこで国王一行の到着を待ち、あとは
それに合流する運びとなっている。別隊を率いて他の地方を巡回するゼルダは、視察終了まで
リンクに会えない。その間、およそ三か月。返事を引き延ばすには、いささかためらわれる
長さである。
 しかるに、
「よかろう」
 王は従前どおりの寛大さを示した。
「そうせねばお前の気がすむまい。アンビ女王には、とりあえず、当方は大規模な国内視察を
控えて取り込み中ゆえ、落ち着くまで回答はお待ち願いたい、と一報しておこう。こちらでも、
お前の決心がつかぬうちは、誰にもこの件は知らせず、わしの胸の内だけにとどめておくことに
する。だが、譲歩はそこまでだ。よいか?」
 国王という立場でできる最大限の配意と理解できた。
「わかりました」
 ゼルダは諾し、一礼をもって面談に結末をつけた。

395PS-18 思いを決するお姫様 (5/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:11:44 ID:LrWLVYmY0
 状況が大きく変わったわけではない──と、自室への通路をたどりながら、ゼルダはおのれに
言い聞かせた。
 リンクとの結婚については、もともと、視察旅行が終われば、その実現に向けて本腰を入れる
つもりだったのである。まずはリンクと話し合わねばならない、とも、当然、すでに考えていた。
降って湧いた縁談が時間的余裕に制限を課したのは確かだったが、それによってなおさら事を
進める踏ん切りがついた、という心境でもあった。
 国王がアンビ女王の意向を無理に押しつけようとはしなかった点も、ゼルダを気強くさせていた。
顧みれば、縁談を枕に振りつつも、実は娘の望みに沿う展開となるよう、会話を誘導し、演出した
先ほどの父であった、と思われもするのである。
 だが、リンクが結婚に難色を示した場合、翻意を後日に待つことはできない。縁談を断る理由が
無となれば──「譲歩」の限界を超えるとなれば──国王とて了承の旨をアンビ女王に伝えざるを
得なくなる。
 大きくは変わらずとも、以前に比して切迫した状況ではあった。
 そうした状況の切迫が──と、緊張を感ずる一方、期待をもこめて、ゼルダは思案した。
 リンクを動かす要素とはならないだろうか。ここで結婚に踏み切らねばわたしを失う、と考えて
くれたら……
 いや──と、もう一人の自分が諫めにかかる。
 尊重すべきはリンクの意思だ。関わらずにいたい政治に強いて関わらせることが、リンクを
幸せから遠ざける結果となるのであれば……
 でも──と、今度は願望が声高に主張を始める。
 リンクとともに生きてゆきたい。リンクがいなければ生きてゆけない。いかにしてでもリンクを
説得して……
『詮ないわ』
 ゼルダは思いを堰き止めた。
 またしてもこの堂々めぐり。無意味だ。リンクの胸中がわからないうちはどうしようもないのだ。
 ……が、それを推測する手がかりはあるかもしれない。
 自室の前まで達していた足を、その中へは進めず、なおも廊下の先に送る。次のドアに至る。
インパの部屋である。
 ノックする。
 答があった。
 ゼルダは開扉し、室内に入った。
 机に向かって何やら書き物をしていたらしいインパは、訪問者が誰かを見てとるやいなや、
素早く立ち上がり、
「ご用でしょうか」
 と、はきはきした口調で言った。
「話があるの」
「では、そちらにおかけください」
 手で示されたソファに腰を下ろした時には、俊敏に身体を動かしたインパが、もう傍らに
直立していた。
「あなたもすわってちょうだい」
 促して、ようやく、
「お言葉に甘えます」
 辞儀ののち、インパは対座の位置についた。臣下の分をわきまえつつも過剰な丁寧さは排した、
いつもながらに実際的なその挙止が、安慮と信頼を改めてゼルダの心に呼び起こした。

396PS-18 思いを決するお姫様 (6/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:12:27 ID:LrWLVYmY0
 一部始終をゼルダは語った。
 誰にも知らせぬと父は言い、無論、ゼルダも同様にするつもりではあったが、インパにだけは
明かしてもよいと考えていた。秘密の保持にかけては絶対に信用でき、助言をも期待できる、
唯一の人物だからである。
 元隠密のインパもさすがに縁談の件はつかんでいなかったようで、驚きの表情を隠さなかった。
しかし、それは受けずリンクとの結婚のみを期す、とゼルダが表明すると、インパは大きく点頭し、
激励ともとれる言をくれた。
「あなたも、もう十八歳。そうなさるに妥当な時期だと私も思います。お父上がご反対では
ないのでしたら、他にも異論を唱える者はおりますまい」
「だといいけれど……でも、お父さまが怒りもせずに許してくれたのは意外だったわ。わたしと
リンクが……その……」
「密な関係だと判明したにもかかわらず──ですか?」
「ええ」
「お父上にも覚えがおありだからでしょう」
「え? というと……」
「お父上と、いまは亡き王妃様、つまり姫のお母上とは、結婚される前から、たいそうご親密な
仲でした。意味はおわかりですな? もちろん、これは極秘事項で、知っているのは、情報蒐集が
なりわいだった、われらシーカー族くらいのものですが」
「そうだったの……」
 初めて聞く両親の恋愛模様の一端。ゆえにあの寛大さだったか、と納得もできる。
 とはいえ、いくら身に覚えがあろうとも、娘の相手が生半可な男であれば、父もたやすくは
許さなかっただろう。それだけリンクは父に認められている……
 勇気づけられた。
 もっとも、リンクを政治に縛りつけるのはいかがなものか、という最大の懸念に対しては、
「リンクにも考えがあるようですが、そのあたりは、姫ご自身がお訊ねになって、確かめられるのが
よろしいでしょう」
 と、すでにゼルダが達している境地に相当する程度のことしかインパは述べず、リンクの
考えとやらについても──漠然とではあれ何かを知っているらしいのに──詳しくは語らなかった。
 助言としては物足りない。
 が、一種の「手がかり」と解釈することも可能だった。
 リンクとの結婚自体には応援の姿勢をとってくれているのだから、大きな障害があるのなら
何らかの言及はするはずだ。わたしがリンクと話し合いさえすれば乗り越えられる課題だとの
判断なのだろう。手取り足取りの世話まではしないのがインパのいつものやり方。自分の結婚は
自分で実現に持ってゆけという、これもまた彼女流の「厳しい愛情」なのだ。
 そう受け止められた。

397PS-18 思いを決するお姫様 (7/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:13:03 ID:LrWLVYmY0
 ところが、話はそこで終わらなかった。
「もう一つ懸案がありますな」
「懸案? 何かしら」
「リンクの女性関係です。彼と深い関係を結んでいる女性は姫だけではない、と私は踏んでいます。
図星でしょう?」
「あ──」
 迂闊にも考慮していなかった、けれども非常に重要な点だった。
 リンクをめぐる女性たちとは、お互いリンクを独占しないという了解のもとに、これまで宥和を
保ってきた。しかしながら、リンクと結婚するなどとわたしが言い出せば、当然、みな黙っては
いまい。
「かく言う私もその一人ですが」
「えッ!?」
 喫驚した。
 まさかインパも黙っていないつもり?
「ご安心ください」
 インパが頬に微笑を見せる。
「姫を差し置いてどうこうする気は毛頭ないと断言します。リンクとは長らく共寝もして
おりませんし、第一、そういったことに熱意を持てる歳でもありません。あなた方お二人を
祝福する側に、喜んでまわらせていただきます」
 ほっとした。軽口だったのである。ふだんは謹厳なインパだけに、いきなりユーモアの感覚を
発揮されると、咄嗟にそれと見抜くのはなかなか難しい。
 同時に、感謝もできた。このところインパが自分やリンクと同衾しなくなったのを不思議には
思っていたのであったが、いつかこういう局面となった時、こちらがよけいな気をまわさずとも
すむよう、あらかじめ影を薄くしてくれていたのだ、と、いまにして悟られたのだった。
 ただ、
「ですが、私のようにものわかりのよい者ばかりとは限りません。容易には片づかない問題かも
しれませんぞ」
 という指摘にも、また、頷かざるを得ない。
『どうする?』
 一つの案が心に浮かんだ。
 目前に迫った視察旅行。彼女たちそれぞれと会う機会を持てる。そこで各人の思うところを
訊いてみよう。
 とはいうものの、リンクの意思を確かめさえしていない現状で、彼女たちに結婚の旨を
切り出すのは憚られる。ましてや、だからあなたたちは手を引きなさい、などと高圧的な態度を
とるのはもってのほか。いずれは決着をつけねばならぬにせよ、その時、彼女たちと交渉するのは、
初めから直接のつき合いがあるリンクの役まわりだ。今回は、あくまでも、それとなく、みなの
意中を探るにとどめておくべきだろう……

398PS-18 思いを決するお姫様 (8/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:13:46 ID:LrWLVYmY0
 ほどなくして視察は開始された。
 国王を長とする第一陣が西方に向けて発つのを見送ったゼルダは、翌日、今度は自らが
見送られる立場となり、随行の多衆ともども、第二陣としてハイラル城をあとにした。
 最初の訪問先はカカリコ村である。
 若き姫君を贔屓することにかけては国内でも随一という土地柄とあって、到着した一行を
取り巻く空気の熱さは尋常ならず、歓迎の辞を述べようとする人々が群れをなし、ゼルダも
いちいちそれらに応える労を厭わなかったので、村の入口から迎賓館──かつて大工の親方が
建てるに尽力した施設──までの短い距離を進むのに、たっぷり半時間が費やされた。
 その日は、守備隊長──ゲルド戦役で王国軍の総大将を務めたのちは、無欲にも慰留を断って
旧職に復していた──をはじめとする村の要人たち、そして、これを機にとデスマウンテンを
下ってきた、ダルニア率いるゴロン族の幹部らと会談する予定が組まれており、事前に多少の
ご休息は必要との配慮で、ゼルダは護衛のインパとともに館内の個室へと案内された。アンジュが
そこで待っていた。ゼルダが初めてカカリコ村を訪れた際に饗応を受け持った彼女は、以後の
何度かの滞在時にも同じ役目を買って出てくれ、今回もまた然りなのだった。
 そうした経緯から、ゼルダの内でアンジュへの親しみは自ずと深まっていた。身分の違いを
顧慮せず話ができるようにもなった。いまやゼルダにとってアンジュは会うのが最も楽しみな
カカリコ村の住人であった。
 ただ、このたびは『あの世界』の記憶を備えた自分がアンジュと顔を合わせる初の場面と
なるため、シークが愛した女性という感慨を否応なく彼女に対して抱くだろう、とも予想していた。
 しかし予想は覆された。
「お久しゅうございます」
 と、にこやかに言うアンジュに目をやった瞬間、ゼルダの注意は一点に引き寄せられ、所期の
感慨は生じる時機を逸してしまったのだった。
 若干の間をおいて口から出たのは、答礼ではなく問いかけである。
「……お身籠もりに?」
「ええ」
 ふくらみかけた腹に右手を添えつつ、アンジュは笑みをいっそう明るくした。
「五か月になりますの」
「それはそれは……おめでとうございます」
 ゼルダは祝いの言葉を述べたが、相手の具合が案じられもした。
「でも、そんなお身体では大変でしょう。ごゆっくりお休みになってください」
 ところがアンジュはけろりとしている。
「ご心配には及びませんわ。もう安定期ですし、二人目の子供で慣れてもいますし、お茶と
お菓子をお出しするくらいのことですから」
 事実、難儀そうな様子はうかがえない。まだ幼い長子がいる点も案じられたが、そちらは実家の
母親と兄に守りを頼んであると言う。ためにゼルダもこだわらず、勧められるまま席につき、
供される茶菓を味わいながら、暫時、歓談に興じた。
 子を持つ母の生活や心境といったあたりに、いきおい話題は集中した。経験者ならぬゼルダと
インパは、もっぱらアンジュの語りを拝聴する側である。次から次へと紡ぎ出されるそれは、
量のみならず精彩にも富み、語り手もまことに溌剌として見え、あたかも全身が光り輝いている
かのようだった。妻であり母であることによって女性はこうも生気を帯びるものかとゼルダは
感動し、また、羨ましくもあった。

399PS-18 思いを決するお姫様 (9/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:14:24 ID:LrWLVYmY0
 やがてインパが立ち上がり、会談の準備状況を確かめてくると言って退室した。すると、それを
よい折りと思ったか、アンジュは、
「こんなことを申し上げては失礼かもしれませんけれど……」
 瀬踏みの様子を示しながらも、興味津々の態で、
「ゼルダ様にはご結婚の話はございませんの?」
 と訊いてきた。ゼルダはどきりとした。しかしアンジュが縁談の件を知っているはずはない。
単にそれまでの話題を発展させただけだと判断した。
 曖昧に答える。
「そうする時もいつかは来るでしょう」
 なおもその点に関心ありげなアンジュだったが、ちょうどインパが戻ってきたせいか、
続く発言は内容を変化させていた。
「ところで、今度のご旅行は、リンクとご一緒ではありませんのね。何かご事情でも?」
 ゼルダは説明した。重要な役割を担って別行動をとっているリンクと聞き、アンジュは
納得したように頷いたものの、昔からの知人に会えないのが残念とみえ、面差しは少しく明るさを
減じた。
 けれども一時のことだった。会談の用意が整った旨をインパに告げられ、では、と席を立った
ゼルダに、アンジュは再び笑顔を表した。
「その時を早くお迎えになられますよう、切にわたしも願っております」
 鍵となる語を含まない、ぼかした言葉遣いだったが、真情は充分に感取できた。
「ありがとうございます」
 ゼルダは礼を述べ、それをもって休息の終わりとした。
 部屋を出て会談の場──迎賓館内の別室──へと向かう。頭を政治用に切り替えようとする。
 ところが、できない。
 心に引っかかっているものがあった。
 最前の会話である。
 ……なぜアンジュはあそこでリンクのことを口にしたのか。
 王女の結婚について穿鑿するという厚かましい──とは、別にわたしは感じなかったけれども
──振る舞いを、部屋に戻ってきたインパに咎められまいとして咄嗟に話題を変えたのだ、と、
あの時は思った。そもそもアンジュは、インパの中座を好機とみて、あんな問いかけをして
きたのだろうから。
 でも、それだけ?
(リンクとご一緒ではありませんのね)
 何となく妙な言いまわし。わたしとリンクを同格に扱っているかのような。表向きはわたしの
家来に過ぎないリンクだ。お供に加わってはいませんのね、とでも言うのが普通だろう。
『ひょっとして……』
 わたしとリンクが恋人同士であることに、アンジュは気づいているのでは?
 わたしともリンクとも懇意のアンジュなら、わたしたちが秘そうとしているそのことを──父や
ハイラル城内の他の人々のごとく──何かの拍子に嗅ぎ当てたとしても不思議はない。
 だが……
 たとえそうであっても、彼女はそのことを誰にも口外してはいまい。すれば必ずどこからか噂が
広まっていたはず。すべてを胸にしまった上でわたしたちを見守ってくれていたのだ。リンクが
別行動と聞いて残念そうな顔をしたのも、ただリンクに会えないがためではなく、わたしと
リンクがともにあるさまを眺められないがためではなかったか。
(その時を早くお迎えになられますよう、切にわたしも願っております)
 とは、彼女のほんとうにほんとうの真情を明らかにしたものであったに違いない。
『ありがとう、アンジュ』

400PS-18 思いを決するお姫様 (10/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:15:13 ID:LrWLVYmY0
 デスマウンテンの鉱石産出量が変動したのを契機に、ハイラル王国とゴロン族とカカリコ村の
三者が結んだ通商協定は、年を経るごとにその重要性を増し、ハイラル全土の経済情勢に影響を
与えるまでとなった。長期にわたったゲルド戦役に王国が勝利できたのも、他の二者が全面的な
支援を惜しまなかったからこそである。戦後の復興、さらに『新世界』との交易において、経済は
ますます精妙な調整を要する事項と認識され、ゆえに三者も関係をますます密とし、頻繁に協議を
重ねているのだった。
 もっとも、とりたてて厄介な問題が降りかかっているわけでもない昨今ではあり、ゼルダが
臨んだ会談も、終始、議事は円滑に進み、和やかな雰囲気のうちに幕を閉じた。
 夕方からは例によって奉迎の宴が開かれる。待ちの時間があったので、ゼルダはダルニアを
私的な懇談に誘った。快諾が得られた。公式の席では硬い物言いに徹しなければならなかったのを
かなり窮屈に感じていたらしく、また、そうと察したらしいインパが同座せず、その場を
二人きりにしてくれたためでもあろう、ダルニアはいかにも心地よさげに、遠慮のない言葉遣いで
のびのびと語り、時には呵々大笑もするのだった。
 ゼルダは親しくそれに応じつつも、一方では、どういうふうに本題へと入ろうか、と機を
うかがっていた。が、本題は唐突に相手の方から呈示された。
「ところで、あんた、リンクとはいつ結婚するんだ?」
 すぐには反応できなかった。いきなり核心を突かれた驚きに加え、アンジュといいダルニアといい、
なぜその点にこうも関心を持つのか、という不思議さが、一瞬、思考を躓かせたのである。ただ、
後者については、適齢期の女性に対して誰もが抱く関心なのだろうと頷かれもし、さほどの
遅れなく返事はできた。
「頃合いをみて、とは思っています」
 アンジュとは異なり、ダルニアにはリンクとの交際を隠す必要がない。なので答え方も
変わってくる。しかし、すぐにでもそうしたい、などと本音をさらけ出すのは差し控えた。
はなはだ魁偉な外観ゆえに女としての人生を捨てねばならなかったダルニアが、その縛りを断って
「女」を捧げた唯一の人物であるリンクに、どれほど特別な想いを寄せているかを、ゼルダは
よくわきまえていた。
 ところがダルニアは、そんな気遣いは無用とばかり、
「俺はなあ、あんたら二人が一緒になってくれたらこんなに嬉しいこたあねえって心持ちなんだよ。
それこそ、自分がそうするよりもっとずっと嬉しいってくれえにな。王女様ともなるといろいろ
事情があって、すんなりとは話が進まねえのかもしれねえが、なんとか
早いとこ話を決めて、この年寄りを喜ばせちゃあくれねえか」
 たいそう熱をこめて語るのである。
 実のところ、ゼルダは楽観していた。リンクに固執するダルニアではあるまい、と。
「年寄り」とは大げさにしても、インパよりもさらに年上ではあり、しかも長年「男」として生き、
いまなおゴロン族の族長たるダルニアが、自らをリンクの妻となそうなどと考えるはずがない。
実際、二度きりの交わりを除いては、一貫してリンクの「友人」であろうとし続け、「恋人」の
立場はゼルダに譲り、恬然と振る舞ってきた彼女なのである。
 だが、それにせよ、こうまで積極的な支持をくれようとは、ゼルダも予期していなかった。
自分がそうするよりも嬉しいとの弁はさすがに本意を超えているのでは、と思われもしたものの、
左様な表現を敢えてするところにダルニアの厚情が垣間見えた。
「ご希望に添えるよう、手を尽くします」
 ゼルダは深々と頭を下げた。

401PS-18 思いを決するお姫様 (11/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:16:30 ID:LrWLVYmY0
 カカリコ村とゾーラの里を結ぶ山道は傾斜がきつく、人々に楽な往還を許さない。ゾーラの泉が
豊富に産する魚類を流通経路に乗せるという本来の目的を、そんなふうでは充分に果たせないとの
声に応え、ハイラル王国が拡幅工事を行い、状況はかなり改善したが、それでも女性が
歩き通すのは、依然、相当の難事である。しかしゼルダは果敢にも、工事完成の際、その難事に
挑み、みごと踏破を成し遂げていた。両所の交流をいっそう密にせんとする機運に合わせ、
ハイラル王家とゾーラ王家が史上初の直接会見を図ったのであった。
 二度目の行となる今回も、ゼルダは、登坂に適した活動的な衣服を着用するなど、万全の態勢を
敷いて事に臨み、甲斐あって特筆するほどの障害にも遭わず、ゾーラの里への安着を果たした。
 目当てはキングゾーラとの「頂上会談」である。が、その後に控えたルトとの語らいも──
政治的な意味合いは皆無ながら──ゼルダにとってはすこぶる重要だった。
 わたしがリンクと結婚するについて、インパとダルニアは大いに賛同してくれたけれども、
より若い他の面々となると話は別。なかんずくルトは難関。リンクを我がものにしようとして、
かつてはわたしに──『あの世界』でも『この世界』でも──ずいぶん強硬な態度を示した。
いまでこそ親しい間柄のわたしたちだが、それは互いに相手を出し抜かないという暗黙の了解が
あるからだ。リンクへの恋情を彼女は少しも薄めていないはず。さて、どんな具合に探りを
入れたものだろう……
 ルトの私室で二人は相まみえた。非公式の、いわば内輪話なので、同席者はいない。それも
あってか、ルトはすっかりくつろいでいる様子だった。久方ぶりでそなたに会えて嬉しい限り
云々と、満面を笑みにして楽しげにしゃべる。使う言葉は雅やかでも、言いたいことは腹蔵なく
言うのが常のルトだけに、本心から喜んでいるとはっきりわかる。
 翻ってわたしの方は──と、上機嫌の相手に自らも笑顔を返しながら、しかし含むところがある
おのれをゼルダはひそかに恥じた。
 そんな思いのせいかもしれない。自己主張の強いルトの性格に似合った、目鼻立ちの
くっきりした華やかな美貌が、今日はやたらと眩しく見える。華やかさが強まったわけではない。
新たな輝きを得たというか、新たな彩りに飾られたというか、落ち着いたというか、奥深いと
いうか、どことなくやわらかな雰囲気。身体つきも少し変わったのではないか。ほのかに青みを
帯びた肌と、泳ぎの達人ならではのしなやかな筋肉に包まれる、すっきりとした長身が、切れ味の
よい名刀のごとき鋭利さを感じさせる一方で、女としての完璧な形状をも具備する点に、やはり
彼女の人となりが反映されている、というふうな印象を、わたしはこれまで受けてきたのだが、
いま、例によって一糸も纏わずわたしの眼前にある肉体は、丸みの度合いをいくらか増したようだ。
過去にはなかった豊潤さを湛えている。わたしより二つ年上のルト。二十歳ともなると、人間、
これほど素晴らしい成熟を遂げるものなのか。二年後のわたしはこの域に達せるだろうか。
無理だ。姿形の上では可能だとしても、わたしには不可能なことが他にある。ルトの姿勢。
ルトの動作。いずれもが実に自然。全裸が常態ゆえ、裸体の美しさを表現するに最適の仕草を、
ルトは無意識的に会得しているのだ。わたしだとこうはいかない。この場でルトがわたしに脱衣を
勧め──現時、ハイラル王国を代表する立場であり、よって着衣というハイラルの文化を体現する
義務のあるわたしに、ルトがそう勧めてくるはずなどないのだけれど──わたしがそれを
受け入れたとしよう。とうていルトほど自然には振る舞えない。羞恥心が先に立つ。見物が同性の
ルトひとりであってもだ。裸の姿を幾度もその目にさらしたリンクの前でさえ、いまだに羞恥の
念を完全には捨てられないわたしなのだ。もっともリンクは、恥ずかしそうな君がいい、といった
意味の感想をわたしにくれたことがある。つまりリンクはルトよりもわたしの方を、あ、だめ、
いけないわ、こんな自惚れた発想をしてしまうなんて……

402PS-18 思いを決するお姫様 (12/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:17:05 ID:LrWLVYmY0
 後ろめたさに誘発された思いの乱れが、
「最近、早うに身を固めろと親父殿がうるそうてのう」
 ルトの台詞によってぴたりと止まった。
「結婚──ですか?」
「無論」
 ルトもまた適齢期の女性。そういうことがあっておかしくはない。それに、わたしたちの座談は
互いの近況報告から始まっていて、ルトが自身の「近況」たるその件を口にするのは、話の流れに
即してもいる。しかし単に何気なく出された話題とは思えない。ルトの目はひたとこちらを
見据えている。いつしか笑みは消えている。底意があるのだ。どんな? 想像はつく。わたしが
「含むところ」に少なからず関係してくる事柄。探りを入れる手間が省けたのはいいとしても、
のっけから「難関」ぶりを披露されたら……
「どう……なさいますの?」
 出方をうかがうに、ルトは昂然と胸を反らせ、
「もしわらわが結婚するなら」
 声を大にして宣言した。
「夫となるのはリンクのみじゃ」
 どん!──と胸を突かれたような気がした。予想の範囲内でありながら、聞かされてみると
動揺を禁じ得ない。
『難しいことになったわ』
 ルトの腹を探るだけなら目的は完了だが、ここまではっきり意志を表明されると、はあ、
そうですか、ではすまされない。承認したと思われては困る。そちらの意志に真っ向からぶつかる
意志を、わたしもかねてから持っているのだ。ここで一気に対立の構図へ持ってゆきたくは
ないけれど、せめてこちらの意志を匂わせるくらいはしておかなければ。でもそうしたところで
事態は解決しない……
 迷いに囚われているうちに、
「が」
 ルトは言葉を継ぐ。
「せぬ」
「え? 何と?」
 覚えず聞き質していた。音声は正確に認識したつもりだったが、そのとおりの意味だと
確信できなかった。耳に届いた言葉があまりにも短いために同音異義語と取り違えたかとまで
考えた。それほど案に相違したひと言だった。
 補足がなされる。
「リンクとは結婚せぬ、と申したのじゃ」
『やはり……』
 そのとおりの意味だったのだ。同音異義語ではなかったのだ。しかし……
「なぜ?」
 ルトは面に笑みを戻した。びっくりしたか?──とでも言いたげな、悪戯っぽい表情である。
「幼い頃はひたむきに夢を抱きもしたが、この歳となればわらわとて分別もつく」
「分別……とは?」
「わらわとリンクが結婚するとすれば、リンクには婿入りしてもらわねばならぬ。わらわは
ゾーラの里を離れられぬからの。じゃが、この里でリンクがまともに生活できるわけがない。
里の衆も扱いに苦労しよう。文化が違いすぎるのじゃ。これまでリンクが生きてきた世界と、
こことではな。結婚しても破綻が目に見えているなら、せぬ方が吉というものよ」

403PS-18 思いを決するお姫様 (13/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:17:43 ID:LrWLVYmY0
 なるほど、冷静な判断だ。が……
「すると……」
 結婚するならリンクのみ。けれどもリンクとは結婚しない。ということは……
「これから先、他の誰とも結婚するつもりはない──とおっしゃるのですか?」
「いかにも。リンクを除けば、そうするに足る男は、わらわのまわりにただ一人としておらぬ」
 言い切るルト。
 結婚せずとも操は立てる。そのあり方はゼルダにもよく理解できた。リンクがだめなら別の男に
鞍替えしようなどと単純にはとても考えられない。とはいうものの、自分の境遇と照らし合わせるに、
ルトの目論見は非現実的と思えた。
「でも、あなたには王家の跡継ぎを残す務めがおありなのでは?」
「いやいや」
 ルトは平然と首を横に振った。
「よそには知られておらぬことじゃが、ゾーラ王家の王位継承権を持つのはわらわのみではない。
遠縁の男児が一人おるのじゃ。これがなかなかよくできた子での。のほほんと暮らすわらわより、
はるかに政治向きの性分じゃによって、次代の王も、跡継ぎの件も、その子に任せた方が
ゾーラ族のためになる。まあ、そうしたところで、ハイラル王家の要人と腹を割って話ができる
わらわであれば、将来、何かの役には立つじゃろうから、無駄飯食らいと誹られることもあるまい」
 得心がいった。
 ルトらしい奔放な言い草だけれども、それが可能なだけの自由を彼女は有しているのだ。しかし、
対して──
「そなたはわらわのようにはゆかぬわな。ハイラル王国の跡継ぎはそなた一人だけなのじゃろう?」
「ええ……」
 そう、わたしにはルトほどの自由がない。
「しかるがゆえにじゃ。リンクの妻となる権利はそなたに譲る」
 ゼルダは耳を疑った。
 さぞかし間抜けな表情を呈していたのだろう、ルトはひとしきり声をも露骨に笑いとし、次に
いくらか真面目な顔つきとなって、ただし戯言的な趣を残しもして、あとを続けた。
「礼には及ばぬぞ。それが順当な帰結じゃからな」
 強がっているふうではない。無理をしているふうでもない。
 自然である。
 感嘆した。
 最難関と考えていたルトが、かくもすんなりと「分別」するとは。『あの世界』の彼女が
『水の賢者』としての覚醒を決意し我執を捨て去ったのにも似て。これもまた「成熟」のなせる
わざか。
 礼には及ばぬとのこと。だが、
「まことに、痛み入ります」
 思いは伝えておきたかった。
 しかし別個の思いもゼルダにはあった。
 ルトがリンクとの結婚を断念したのは、ゾーラの里での生活にリンクが適応できないからだと。
 他人事ではない。
 ゾーラの里ほど特殊な社会ではなくとも、リンクにすればハイラル城とて暮らしづらい場所。
そこにリンクを居続けさせようとするわたしの望みは、つまるところ、「分別」を欠いたものと
いうことになる。ルトの心遣いは嬉しいけれども、乗り越えるべき課題としてその点を忘れては
ならない……

404PS-18 思いを決するお姫様 (14/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:18:32 ID:LrWLVYmY0
 カカリコ村を去った視察団は、南に向かって旅を続けた。といっても、訪問先の町村が
一直線上に並んでいるわけではないので、日により進路は東へ、あるいは西へと偏る。最も西に
寄った所がハイラル平原中央部で、そこに位置するロンロン牧場へ、王家は前もって一時の休憩の
ための立ち寄りを申し入れていた。
 これには先例があり、ハイラル城から地方へ赴く公人たちが、過去にも何度か同種の目的で
その地を利用している。牧場の方は、主収入源のロンロン牛乳を日頃ふんだんに買い上げて
もらっていることに恩義を感じており、そうした要望を常に気前よく容れてくれる。
 今回も例に洩れず、到着した一行は歓待された。住人が三名きりの地に多人数がどやどやと
踏みこむ仕儀となるのを考慮し、場所を野外に借りるだけでよい、格別のもてなしは必要ない、
と伝えておいたにもかかわらず、タロンもマロンもインゴーも大張り切りで、まめまめしく世話を
焼いてくれた。
 ゼルダの接待役はマロンが務めた。同性であり、同年代であり、かつ、従来より個人的な
交友関係を結んでいる両者ゆえ、当然の成りゆきといえた。
 四年前、リンクとともにハイラル平原を騎行中のゼルダは、喉の渇きを癒すためにロンロン牛乳を
求めた。それがマロンとの出会いを導いた。その際は牧場の塀の外で話をするにとどまり、
内を拝見するのはまたの機会に、としたのだが、以後、なかなか機会を持てぬまま時は流れ、
よって実質的に初となる牧場訪問を、このたびようやくゼルダは果たしたわけだった。
 やはり王女の来駕を待望していたマロンは、有頂天でゼルダを引っぱりまわし、牧場の各施設を
上覧に供した。王城暮らしのゼルダにとってはどれもこれもが物珍しく、また、さわやかな風を
渡らせる草上に動物たちが佇む光景はいかなる絵画も及ばぬ清涼感にあふれ、加えてマロンが
見せる笑顔は常にも増しての明るさで、それらは合して大いに心を刺激し、浮き立たせ、楽しませた。
 とはいえ、広い牧場内をあまねく巡覧していれば、自ずと疲労を感じてくる。長旅の途中と
あってはなおさらである。さすがにマロンもそうと察し、休憩場所の用立てという本来の役割を
思い出したらしく、適当なところで観光案内を切り上げ、ゼルダを──そして影のごとく
ゼルダについて離れぬ警護のインパを──母屋にいざなった。
 テーブルにつくと、マロンは、何をおいてもまずはこれとばかり、ロンロン牛乳を勧めてきた。
ゼルダとしても期待どおりのものだったので、ありがたくいただく。いつもながらの芳味が、
たちまち身に活力を取り戻させ、他方、脳裏には一つの記憶をよみがえらせた。
 牛乳をたくさん飲めば乳房が大きくなる──と、いつか侍女が言っていた。科学的根拠なしと
わかってはいたものの、ロンロン牛乳の産地に住み、人一倍それを摂取しているはずのマロンが、
思春期の頃から胸の豊かさでは目を引く存在だったことを考え合わせると、あながちでたらめとも
思えず──とりたててマロンに対抗意識を燃やしたわけではないにせよ──しばらくの間、日々の
消費量を増やしてみた。しかし効果は上がらなかった。当初の考えどおり虚説だったのだと認定し、
以後、その試みは放棄した……のだが……
 改めてマロンに注目する。
 ここへきて彼女の胸はいっそう大きさを増したようだ。身近な女性では豊胸度最大のインパを、
もはや凌いでいるかもしれない。牛乳の作用には個人差があるということなのだろうか。まあ、
だとしてもいまさら焦って多飲に走る気はさらさらないのだが。なぜなら、胸が大きかろうが
小さかろうがわたしの本質は不変なのだし、その本質にリンクが寄せてくれる想いもやはり不変と
信じられるから……

405PS-18 思いを決するお姫様 (15/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:19:10 ID:LrWLVYmY0
『いいえ、そうじゃなくて』
 陶酔に流れかける心を、現実に引き戻す。
 マロンは胸だけが発育しているのではない。いまや彼女も十七歳。結婚しようと思えばいつでも
できる立派な大人だ。そしてリンクとのそれに的を絞れば、王女という肩書きを持つわたしや
ルトよりも、身分の差がない分、ずっと有利な立場にあるといえる。ことにリンクが王城での
堅苦しい生活を好まぬとなると。
 では、そこらあたりをマロン本人はどう考えているのか。
 読めなかった。自ら口火を切ったルトとは異なり、その種の内容に触れようとしない。牧場での
仕事のあれこれを、インパと楽しげに談じている。時々ハイラル城へ遊びに来るマロンは、
持ち前の明るさで謹厳なインパとも親しくし、インパの方も物怖じしない彼女の性格を買ってか、
らしからぬ朗らかさで応対するのが常で、そんなやりとりにゼルダはかねがね微笑ましさや
ぬくもりを感じてきたのだったが、眼前で交わされる同様の会話を、いまは聞いていても
落ち着けない。もともと長からぬ休憩時間が、なおさら残り少なくなってゆく。
 しかるに、反面、それが転機となった。出発の用意ができているかどうか見てくると言って、
インパが母屋を離れたのだった。
 マロンと一対一である。
 乗ずべし。だがインパの戻りは早かろう。急がなければならない。
 先行の話題を引き継ぐ形で探測に取りかかる。
「牧場のお仕事は、いろいろとご苦労が多いようですわね」
 マロンは笑みつつ首を横に振った。
「そんなでもありませんわ。あたし、この仕事がとっても好きなんで、忙しかったり疲れたり
しても、苦労だとは思わないんです」
「これから先もずっとここでお働きに?」
「ええ、もちろん」
「では、将来はロンロン牧場のご主人というわけですか」
「うーん、それはどうかなあ。うちの父さん、まだまだ元気だし……」
「でも、いずれは跡を継がれるのでしょう?」
「一応はそうなんですけど……いくら跡継ぎにしたって、結婚したら、旦那さんを差し置いて、
女のあたしが主人だっていうのは、ちょっと変な感じがするんですよねえ」
『つまり……』
 さりげなく誘導できたことに満足しつつも、ゼルダは気を引き締めた。
 マロンは自分の未来を考えるにあたって結婚を視野に入れている。すると、「旦那さん」に
想定されているのは、疑いなく……
 ところが見込みは全くはずれた。
「まあ、いま、あれこれ言ってもしょうがないですわ。あたし、当分の間、結婚するつもりは
ないし、したい相手がいるわけでもないし」
「え? リンクは?」
 思わずその名を口に出してしまっていた。さりげなさに執着してはいられなかった。
「ああ、リンクねえ……」
 首をかしげ気味にし、のんびりとマロンは語を継ぐ。
「彼のことは大好きですけど、結婚相手としては、いただけないかなあ」
 意表外だった。
 マロンにとってリンクはその程度の重みしかなかったのか?

406PS-18 思いを決するお姫様 (16/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:19:45 ID:LrWLVYmY0
 それほど単純な意でもないようだった。
「リンクは、ほら、前の戦役で敵の大将と決闘して、立派に打ち勝ったくらいの勇者でしょう?
そういうふうに強くてかっこいいリンクが、あたしは好きなんです。なのに、あたしなんかと
結婚したら、田舎の小さな牧場で、一生こせこせと動物の世話をするだけ。そんなの全然
リンクらしくないし、あたしもきっとがっかりしちゃう。いまみたいに時々でも勇者のままで
訪ねてきてくれる方がよっぽどいいですわ」
 きっぱりとした言いぶり。応ずる弁をすぐには思いつけない。
 そこへインパが帰ってきた。
「いつでも出発できます」
 やむなくゼルダは席を立った。自分の都合でみなを待たせるわけにはいかない。マロンも──
タロンやインゴーとともに見送りの態勢をとるためだろう──あたふたと母屋を出て行き、結果、
話は中途半端に終わりとなってしまった。
 が、話し足りないと思ったのは自分ばかりでないことを、ややあってゼルダは知った。牧場側の
三人との別れの挨拶もすみ、いよいよ視察団が行進を開始しようとした時、騎乗のゼルダの傍らへ、
マロンがつと歩みを寄せてきた。何ごとかと訝りつつ馬上の身をかがめると、耳に小さな
ささやきが届いた。
「彼の連れ添いでしたら、あたしよりもずっと似合わしいお方が他にいらっしゃいますわ」
 ゼルダは理解した。そばに人が多いのを慮ってか、曖昧な表現ではあったものの、「他に
いらっしゃ」るという「ずっと似合わしいお方」が誰を指しているのかは、敬語の使用から
明らかだった。
 ルトと同じく、マロンも道を譲ってくれたのである。
 言うだけ言えばよいとばかり、すぐにマロンは馬から離れてしまい、いったん動き出した
大集団を止めるのも困難ではあり、適当な返しもできぬまま、ハイラル平原へと進み出て
行かざるを得ないゼルダだったが、それで事をすませる気は毛頭なかった。次の折りには必ずや
赤心を吐露しようと心に誓った。
 ただ、その情誼を受けるについては、いささか惑いも覚えるのだった。
 かっこいいリンクが好きだというマロンの言を軽薄だとは思わない。リンクにはリンクらしく
あって欲しいと彼女は純粋に望んでいるのだ。だからリンクにロンロン牧場を終の棲家とさせたく
ないのだ。すると、リンクをハイラル城に安住させようとするわたしは、誠実さにおいてマロンに
数段劣ると言わねばならない……
 改めて課題を意識する。
 マロンの譲歩は──その点でもルトと同じく──決して無条件でなされたものではないのだった。

407PS-18 思いを決するお姫様 (17/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:20:23 ID:LrWLVYmY0
 視察団が最遠の目的地としたのはコキリの森である。ゲルド戦役の顛末や以後の世界情勢──
特に『新世界』発見の経緯──を、二代目デクの樹に報告しておく必要があった。
 そのデクの樹が結界を張っているため、森の奥まで足を踏み入れられるのは、『時の賢者』という
資格を持つゼルダのみ。過去三度の訪問においては一緒だったリンクを、このたびは伴わずしての、
初の単独行動となる。王女のそれを危ぶむ意見はあったが、結界の内は絶対安全と知れていたので、
慎重論者の声も長くは続かなかった。
 事実、心配は無用だった。コキリ族たちはすでに顔馴染みのゼルダを──初訪問の際は露骨に
怪しみの目を向けてきたミドでさえいまでは──大喜びで迎え、デクの樹への報告もつつがなく
果たされた。
 公式行事を終えれば、多少は時間を自由に使える。ゼルダはサリアと連れ立って、周囲を
気にせず会話ができる場所──『森の聖域』──に赴いた。
 草上に坐して向かい合う。
 サリアはリンクの不参を残念がったが、森の仲間を除けばただ一人である同性の友人を
久しぶりに身近とする嬉しさは、それはそれで格別らしかった。
「ゼルダとこんなふうにお話しするのって、ほんとにほんとに楽しいわ」
 初めて相まみえた八年前と少しも変わらぬ女の子の姿で。
 そしてまた少しも変わらぬ率直さと明朗さをもって。
 ゼルダの胸は安らいだ。
 ともにいて気が置けない点ではマロンもかなりの程度ではあるものの、そのマロンでさえ、
わたしと話す際は、一応、敬語を使う。階級が通念として厳存する社会に暮らす両者だからだ。
けれどもサリアは違う。コキリの森は階級とも敬語とも無縁の社会。人と人とが、素のまま、
夾雑なく触れ合える。心の温度を、鮮度を、いささかも損ねることなく交流できる。ゆえに
サリアはわたしにとって二人といない特別の友達なのだ。
 が、しかし……
 安らぎに浴してばかりはいられない。物事には両面がある。二つの社会の違いがこの後の会話を
難しくする。
「ねえ、サリア」
「なあに?」
「あなた、リンクと話す時も楽しい……わよね?」
「うん、とっても」
「抱かれる時も?」
「そりゃもう!」
 顔と声を一段と明るくするサリア。
「あんなに素敵な気分になれる時って他にないわ。ゼルダだってそう思うでしょ?」
「え、ええ……で……」
 性の悦びという、日常的場面ではおおっぴらに語りにくいことを、臆面もなく口にするサリアは、
やはり自分とは違う社会の住人なのだ、と感じながらも、ゼルダは話を──いったん始めた
からには──より難しい所へと向かわせなければならなかった。
「もしも……もしもよ、そういう気分になれる時が……なくなるとしたら……あなたは、
困るかしら」

408PS-18 思いを決するお姫様 (18/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:21:03 ID:LrWLVYmY0
「困るわ。大困りだわ。だけど、なんだってそんなことを訊くの?」
 きょとんとしていた表情が、徐々に怪しみの色を帯びてゆく。
「ひょっとして、ゼルダ……」
 悟ったか?──との予測は、
「今日、リンクと一緒に来なかったからって、あたしを気の毒がってるの? だったら──」
 的はずれだった。サリアは再び表情を無垢の笑みとした。
「ちっとも心配いらないわ。いつかは来るとわかってるんだもの。それまで待ってればいいだけよ」
 ゼルダは小さく嘆息した。
 駆け引きめいた台詞ではこちらの秘めた意が通じない。ルトやマロンなら間違いなく何かを
感じ取っただろうが。ここは打ち明けねばなるまい。そうしたところで理解が得られるかどうかは
心許ないけれども。
 とりあえず言ってみる。
「わたし、リンクと結婚したいと思っているの」
「それ、何?」
「え?」
「ケッコンって何のこと? あたし、わからないわ」
 案の定。
 できるだけ平易な語で説明を試みる。
「お互いをとても好きな男と女が、一緒に暮らすこと」
「ふうん……でも、だったら、ゼルダはもうリンクとケッコンしてるじゃないの。『外の世界』で
一緒に暮らしてるんだから」
 いや、違う──と言い足すより早く、
「それでもって、リンクがこの森に来た時は、あたしとケッコンすることになるのよね」
 サリアは突拍子もない解釈へと走ってしまった。
「……そうとも……いえるわね」
 ゼルダは説明を断念した。
 この調子だと、結婚の何たるかを理解させるには相当の手間がかかるだろうし、どうにか理解は
させられても、とうてい納得はしてもらえないだろう。こうまで一途にリンクを想うサリアで
あれば。
 かといって、自身の望みまでを捨てる気はない。
 となると……
 認めずばなるまい。
 今後もサリアとは「特別の友達」であり続けることを。

409PS-18 思いを決するお姫様 (19/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:21:50 ID:LrWLVYmY0
 会っておくべき人物がいま一人いる。
 ナボールである。
 彼女が居すゲルドの砦は、ハイラルの西方、すなわち国王の視察範囲に含まれ、よって東方を
担当するゼルダには、本来ならば対顔の機会がない。しかるに、よくしたもので、東方に
いながらでも会うことはできるのだった。
 視察の開始に先立ち、ナボールが一つの提案を伝えてきた。
 国王の一行がゲルド地方の視察を終え、ハイラル城へと帰還する際、ゲルド族の頭目である
自らが身内の一隊を率い、旅の終わりまで護衛として付き従おう──と。
 警護の人員を増やさねばならないほど危険な道中だからではない。国王じきじきの来駕に対する
感謝を形にして表そうという誠意からである。ゲルド族の恭順ぶりをも形にして表すこととなる
この提案を、王国は喜んで受け入れた。
 国王の帰城は王女のそれの数日前と予定されている。従って、任務を果たしたナボールが
ゲルドの地へ戻るにあたり、少しまわり道さえすれば、すでに城の近くまで帰り来たっている
もう一つの視察団と、労せずして落ち合えるのである。
 そうして欲しいというナボールへの伝言を、ゼルダは父王に託した。日程上、先方からの返事を
聞かずして視察に出る成りゆきとはなったものの、交友の深いナボールならきっと希望に添って
くれるだろうとゼルダは信じていた。
 期待は裏切られなかった。そろそろハイラル城も遠からずといったあたりで、投宿のため
立ち寄った町の入口に、ゲルド族の一団がたむろしていたのだった。
 建て前は王女への表敬とあって、やたらと畏まった態度をとるナボールだったが、板については
いない。儀礼を排した友人同士の対話をゼルダは持ちかけてみた。ほっとしたように相手は承諾の
返事をよこした。
 宿泊先の一室で、二人は水入らずの時を持った。
「父は視察で見知ってきたことと思いますけれど、このところ、西の方の世情はどうなのでしょう。
ゲルド族の方々は近隣の人たちとうまくやっていますか?」
「だいぶよくなったよ。『新世界』との交易じゃ、うちが中継を任されてるだろ? ハイラル王国の
側と仕事の上での行き来や用談がひっきりなしなんだ。そういう日々の積み重ねがお互いの
気持ちの触れ合いにも役立ってる感じさ」
「個人的な交際にも繋がっていると?」
「ああ。うちの連中も、最近じゃ、男とのつき合い方がわかってきたみたいでね。もう昔みたいな
乱暴ごとは抜きで、けっこう仲よくやってるよ。一つ屋根の下に暮らす奴も増えてきたし」
「結婚されて、ですか?」
「うーん、もともとゲルド族には結婚の制度がないから、あんたらの言うそれとは違うかも
しれないけど、まあ、実質はそうだな。ええと、そんなのをどう呼ぶんだったか……」
「同棲?」
「ああ、それそれ」
「あなたご自身は?」
「あたしには──前にも話したっけ──昵懇の妹分がいるんでね。男とは、同棲だろうが
結婚だろうが、する気なんかさらさらないよ」

410PS-18 思いを決するお姫様 (20/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:22:38 ID:LrWLVYmY0
 ゼルダは心の内で莞然とした。雑談のふうにしてナボールの考えを聞き出せたからである。
結婚というものに通じていないナボールならそれにこだわりもしないだろう、と見積もっては
いたのだったが、実際にそうとわかって肩の力は抜けた。
 ところが、それで事はすまなかった。
「ただ、ちょっと引っかかるねえ」
「え? 何に?」
「あんたがあたしの男関係に興味ありげなとこにさ。リンクのことが心配かい? 結婚がどうとか
言い出したのも、自分がリンクと結婚したいからだとか?」
 からかうような台詞をにやつきながら並べるナボール。
 ゼルダは言葉を返せなかった。出し抜けに正鵠を射られたため、少なからずうろたえてしまい、
それほど察しのよいナボールであれば笑いの奥に本音の──こちらにとっては不都合な──発信を
すでに用意ずみなのか、と警戒されもしたのだった。
 そんな胸中をも見透かしているらしいナボールは、しかし、
「身構えるなって」
 軽い口調を変えず、
「結婚したけりゃすりゃあいい。文句はつけないよ。それどころか、たっぷりとお祝いさせて
もらいたいくらいさ。あんたらにゃ前からいろいろと世話になってるし」
 思いのほか、あっさりとした物腰である。
 ゼルダは緊張を解いた。
 早計だった。
「つっても、リンクと切れるつもりはないからね」
「そ、それは……」
 驚きが、
「わたしたちが結婚しても……」
 告白も同然の言を自分から引き出したことに、ゼルダは気づかなかった。
「リンクとは、つき合い続ける、と……いう、意味……でしょうか?」
「そうとも」
「ですが……それは……道義的に、いかがなものか、と……」
「道義? 変なこと言うねえ。あんたらが結婚するかどうかってのはそっちの問題だろ。
こっちにゃ関係ない。あたしはあたしの好きなようにするよ」
 悪びれた様子もない。
「ま、そんなとこだ。あんたも自分の好きなようにしな」
 泰然と構えるナボールに、ゼルダは何も言えなかった。

411PS-18 思いを決するお姫様 (21/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:23:16 ID:LrWLVYmY0
 その夜は満月だった
 宿所の寝室にひとりとなったゼルダに、窓から差しこむ青白い光は、存外な明るさで触れかかる。
が、胸の奥にわだかまる翳りを払拭するには至らない。
 ナボールの弁が耳にこびりついていた。
 ……最後の最後に難題が降りかかってきた。結婚にはこだわらずともリンクその人にはこだわる
ナボールだったのだ。ああまで明確に既得権を主張するとは。彼女らしい直截さといえばいえる
けれど。
 決して敵対的ではなかった。しかし、言い分が聞き入れられなければ、おそらく態度を
翻すだろう。いったんは許容したわたしとリンクの結婚にも異議を唱えてくるに違いない。
 いかにしたものか。
 サリアについては割り切った。リンクとの「交際」はやめさせられない。結婚という概念さえ
理解困難な相手に、どうしてこちらの都合を押しつけられよう。ましてや、リンクとつき合って
きた期間の長さでは、わたしよりもはるかに上のサリアなのだ。
 そう、だからサリアは例外。
 ──と決めたのだったが……
「昵懇の妹分」──『副官』──と、いわば「結婚」しているナボールだけれども、他の男女と
「交際」することを異常だとは全く考えていない。それが本来の意味での結婚制度を持たぬ
ゲルド族の常識。つまり、結婚という概念を理解しがたい点では、ナボールもサリアと大差ない。
 とすると……
 ナボールも例外とせざるを得ない? リンクとの「交際」継続を容認せざるを得ない?
 確執が生ずるとすればルトかマロンと踏んでいた。ところがその二人は──幸いにも──
はなはだ広量だった。なのにナボールが……
 そこで、
『広量?』
 ふと疑念が芽生えた。
 ルトとマロン。
 はなはだ広量だった。
 幸いにも。
『……あまりにも』
 彼女たちはほんとうにリンクを諦めたのだろうか。
 結婚に関しては、確かにわたしを立ててくれた。が……
 それだけだ!
『まさか……』
 二人とも──ナボールと同じで──リンクとの「交際」は続ける気なのでは?
 結婚という名は捨てても、実までを捨てようとは思っていないのでは?
『そういえば……』
 マロンは──ああ、そうだ、マロンは──こう言っていたではないか!
(いまみたいに時々でも勇者のままで訪ねてきてくれる方がよっぽどいいですわ)
 彼女がリンクにどんな勇者ぶりを望んでいるかというと、単に訪ねてきてくれただけで
満足するほどたわいなくはあるまい。幼い頃から性行為に興味津々で、会うたびリンクに
言い寄っていたほどなのだ。その方面での勇ましさを今後も求めないはずはなかろう。
 ルトの方は……
(ハイラル王家の要人と腹を割って話ができるわらわであれば)
「要人」とは「将来の女王」たるわたしのことだと思いこんでいたけれど、実のところは
「将来の王婿」を指していたのではあるまいか。誰とも結婚しないというのも、リンクと
「交際」する余地を将来に残すためではあるまいか。
 考えてみれば、あの自由勝手なルトが、いくら成熟したとはいえ、ひたすらご執心のリンクを、
そうやすやすと手放すわけがない!
 そんな想像が当たっているとすると──もはや当たっているとしか思えないのだが──
彼女たちの期待を裏切るような挙に出たら、わたしとリンクの結婚は、ナボールのそれに加えて、
さらに二人分の異議を叩きつけられるはめになるだろう……
 ──かくしてゼルダは、懸案を解決するどころか、それをいっそう増大させて旅を終えねば
ならなかった。

412PS-18 思いを決するお姫様 (22/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:23:49 ID:LrWLVYmY0
 ハイラル城に帰り着いても務めは全うされない。先に帰還していた国王や重臣たちに、視察の
成果を報告する必要がある。公事の面では成功といってよい旅行であったので、報告自体に難渋は
しなかったが、述べるべき事柄は多く、ために費やされた時間も長く、ゼルダが解放されたのは
夜になってからだった。
 しかし捨てては置けない用が──私事にせよ──残っている。
 そちらの面ではとても成功とは呼べぬ今回の旅行であり、おのれの考えもなお未整理とはいえ、
アンビ女王に返答すると自ら設定した期限が来ているとあっては、リンクとの話し合いを
先延ばしにはできない。それに、長らく離ればなれだった恋人の顔は、やはり一刻も早く見たい
ものである。
 居室に行ってみた。
 ところが、いない。
 他にいそうな所をまわってみたが、どこにも姿は見当たらない。
 どうしたことだろう。父の一行に加わって、すでに帰還しているはずなのに……
 インパの部屋に向かう。
 いた。ただし部屋の主だけ。
「リンクを見なかった?」
 内心の波立ちを隠して問う。
「見ました」
 さらりと答が返ってくる。
「どこで?」
「彼の部屋です」
「さっき覗いたけれど、いなかったわ」
「私が会ったのは昼のうちですので」
「いまは?」
「城内にはおりません」
 いや増す不審に駆られ、ゼルダは急きこんで問いを重ねた。
「どこかへ行ったの?」
「そのようで」
「どこへ?」
「存じません」
「いつ戻るの?」
「存じません」
 当惑した。リンクの行動の奇妙さもさることながら、インパの態度が解せなかった。返事は
簡潔明瞭で、問いにきちんと照応したものなのだが、淡々としすぎている。木で鼻を括ったような、
とも感じられる。
 訊き方を変えてみた。
「リンクとは、何か話をしたんでしょう?」
「はい」
「どんな話を?」
 そこが要諦に違いない。ところがインパは、
「別に大した内容ではありませんでしたが……」
 ふいと韜晦的な口ぶりに転じ、しかし次には再び明解な語調で、ゼルダが予想もしなかった
ことを言った。
「そうそう、姫に縁談が持ちこまれた件は伝えておきました」
 唖然とした。
 口の堅さを信じたからこそ、インパにだけは打ち明けた秘密だというのに!
「どうして?」
「伝えた方がよいと思いましたので」
 では、なぜそう思ったのか──とは続けられなかった。何も間違ったことはしていないと
言わんばかりの、あまりにも堂々としたインパの語りぶりが、ゼルダをたじろがせたのだった。

413PS-18 思いを決するお姫様 (23/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:24:27 ID:LrWLVYmY0
『確かに……』
 おのれを説得する。
 知られて困る話ではない。はなから断るつもりの縁談なのだ。リンクを裏切ったわけでは
ないのだ。それがちゃんとリンクに通じてさえいれば……
「じゃあ、わたしがその縁談を受けないことも伝えてくれたのね?」
「いいえ」
 またもや唖然。
「どうして?」
 繰り返しての質問にも、インパは相変わらず無感動な表情で答える。
「縁談が舞いこんだという事実は述べられても、それに対する姫のお考えまでを勝手に
代弁するのは、臣下としての分を超えます。なのでリンクには伝えませんでした」
 納得できなかった。
 もっともらしい台詞だが、理屈に合わない。そういう不完全な伝え方をする必要がどこに
あるのか。初めからいっさいを伏せておけばよいではないか。事実だけを小出しにされたら、
しなくてもいい心配をリンクは──
『もしや……』
 したのではなかろうか。しなくてもいい心配を。リンクは。
 ゼルダはラルフ王子と結婚する気なのかもしれない、と。
 それで失望してハイラル城を去った?
『まさか!』
 そんなに意気地のないリンクなものか。長きにわたった恋愛関係が無に還るやも、と思いでも
すれば、直情径行なリンクのこと、必ずや矢のようにわたしのもとへと駆け来たり、これは
どういうわけなんだ云々とまくし立てるだろう。そうしないのはわたしが自分以外の男と結婚など
するはずがないと確信しているからだ!
『でも……』
 それではいったいリンクはどこへ何をしに行ったのか。
「ご心配には及びますまい。じきに戻ってくるでしょう」
 インパが言った。格別、優しくもない、事務的な口調だったが、ゼルダの心は鎮まった。
 妙に曰くありげな風情のインパだけれど──何かを隠しているような気もするのだけれど──
わたしの不利益を企てるとは考えられない。
 よかろう。信じよう。リンクは戻ってくる。そしてその時に──
「その時にじっくりと話をされてはいかがですか」
 そうだ。話をしなければならない。
 第一。不得手な政治の世界にリンクを住まわせられるか否か。
 第二。リンクとの関係を切ろうとしない女性たちにどう対応するか。
 これらについてはリンク本人の意向を聞かねば事が進まない。だが、その前にわたし自身の
意向を固めておく必要がある。インパもそうしろと──恋人に会いたいというだけの浮ついた
気分では駄目だと──暗に釘を刺しているのではなかろうか。
「それまでに姫も頭をおほぐしになって」
 何気なさそうなインパの付言に、
「ええ」
 何気なくゼルダもこくりと頷き、しかしそうしたあとで腑に落ちないものを感じた。
 頭をほぐせとは? よほど頭が固いと思われている?
 なるほど、わたしは問題を解決できず堂々めぐりをしている。が、簡単に解決できる問題では
ないのだ。精いっぱい思い量った上でこうなのだ。なのに……
『いや……』
 精いっぱいなのが、かえって堂々めぐりの原因なのかもしれない。だから柔軟に考えろと
インパは言いたいのだろう。
 そう酌んでゼルダは会話を終わらせた。いかにすれば柔軟な考え方ができるのかはわからなかったが、
訊いてもそこまで教えてくれる過保護なインパではない──特に腹蔵ありげないまはなおさら──
と推断できたので、時間の徒費を避けたのだった。
 自分の問題は自分で解決せねばならない。

414PS-18 思いを決するお姫様 (24/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:25:03 ID:LrWLVYmY0
 視察がすめば通常業務である。留守は有能な大臣に預けてあったので、政治は滞りなく
運ばれていたが、形式的にせよ王家の者の決裁を必要とする案件は多々あり、ゆえにゼルダは
忙しかった。日中は頭を柔軟にするいとまなし。そこで夜の短い余暇に少しずつ考えを進めようと
図った。
 第一の点に関しては、しかし、なかなか良策が浮かばない。
 他方、第二の点では、徐々に道筋が見えてきた。ただ、それはゼルダにすれば素直には
辿りがたい行路で、別途を求めての思案から抜け出すことができない。
 というふうに、考えの進み具合は牛歩にも劣るほどだった。
 アンビ女王への返事については、リンクに会えないことを理由に、さらなる猶予を父に申し入れ、
許しを貰ってはいたものの、長期の延引は憚られる。
 焦る。
 そんなありさまを周囲には気取られまいと心がけるのだが、自ずと口数は少なくなり、
ややもすれば眉間は皺をつくる。
 かねてからお気に入りとしている侍女は、いつもそばにいるせいか、主人の深刻げな様子を
感じ取っているようだった。あまり話しかけてこない。熟考の邪魔をすまいとしているらしい。
ありがたい配慮である。さりとて、自分と同じく恋人持ちの彼女が、自分と違ってそれを誰にも
隠す必要がなく、近い将来においての結婚も決まっているということに対しては羨望の念を
禁じ得ず、結果、よけいに焦りを意識してしまうのではあった。
 そうこうするうちに一週間が経った。
 リンクは戻らない。
 ほんとうにインパを信用していいのだろうか、との不安は強いて胸の奥底に押し沈め、いまの
自分にできること、すべきことに集中しようと、その日、夜を迎えてゼルダは決めた。
 父とていつまでも待ってはくれない。
 結論を出すのだ。今宵こそ。
 そのためには環境を変えた方がいい。いつものごとく部屋に籠もっていては、いつものごとく
考えが停滞してしまいそうだ。
「いまからしばらく中庭で過ごしたいの。誰も来ないようにしてもらえるかしら」
 とインパに告げる。
 城の敷地内とはいえ、夜間、王女が独りで戸外に出るのは異例のことである。が、
「承知しました」
 インパは妨げず、理由も訊かなかった。こちらの心境を見通した上での情けと察せられた。
「ありがとう」
 思いを伝え、しかるのち、ゼルダは自言のとおりにした。

415PS-18 思いを決するお姫様 (25/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:25:46 ID:LrWLVYmY0
 城壁に穿たれた窓のいくつかは、その内の灯りにほんのりと染まっている。
 番兵の焚く篝火が、木々にうっすらと朱を添えている。
 しかしそれらはあまりにも遠く、小さく、また数も少なく、中庭の闇を払うにはとうてい
至らない。
 ただ、足元が石畳なのか草なのかを弁別できる程度の明るみは、天に懸かる月が、半ばに
欠けながらも、どうにか送り届けてくれていた。ためにゼルダは、緩々とではあれ、庭の奥まった
所にある壇まで、転びも躓きもせずに歩を進められた。
 壇と地面の間は短い階段で結ばれている。
 腰かける。
 甘い記憶が湧き上がってくる。
 ……そう、九年前もわたしはここに腰かけ、その時初めて出会ったリンクを隣にして、語らい、
心を通わせ、そして口づけを交わした。以後も折りにふれてわたしたちはこの場に並び坐し、
誼みを深めてきたのだった……
 回顧をしに来たのではない。が、突き詰めるべき事柄の主題となる人物への原初的な想いを
勘案の出発点とすることは、環境を変えるという動機に適っている。無人の空間が湛える静けさと、
肌に触れる夜気の涼しさも、頭脳を働かせるには好ましい環境要因である。
 ゼルダの思考はなめらかに進み、二点のうちの一方──リンクをめぐる女性たちの問題──
については、ほどなく結論が得られた。
 当初、サリアだけはと一歩を譲ったリンクとの「交際」の継続は、それを望む他の女性、
すなわちナボール、そして──未確認ながらそうとみてまず間違いない──ルトとマロンにも
許されなければならない、と。
 早くから見えていた、しかし首肯しづらかった落とし所を、このたびは抵抗なく受け入れられた
のである。
 おのれの心理が不思議でもあった。
 甘い記憶を出発点としながら、その記憶に調和しない結論を、なぜこうも容易にわたしは
受容できるのか。
 認めなければ彼女たちは一転してわたしとリンクの結婚に強烈な反発を示すだろうから?
 そう。
 だが、そんな消極的な理由ばかりではない。
 わたしは彼女たちに借りがある。『あの世界』の彼女たちが自己犠牲──とりわけ賢者たる
サリアとルトとナボールの場合は覚醒にあたって現実の世界から切り離されるという甚大な犠牲
──に耐えてくれたからこそ、わたしとリンクは愛を成就できたのだ。『この世界』の彼女たちと
『あの世界』の彼女たちとは厳密に言えば別人格だけれども、恩は恩。忘れてはならない。
わたしにとってのリンクが無二の男性であるように、『この世界』の彼女たちも生きる上で
それぞれリンクに相当の重きを置いているのだ。彼女たちが望むことをわたしはかなえてやる
べきだし、かなえられれば嬉しいとさえいまのわたしは思う。彼女たちの喜びはわたし自身の
喜びだと声を大にして言い切れる。一般に照らせば奇矯な心状かもしれないが、彼女たちとじかに
「親密」な時を持ったことがあるわたしには、むしろ自然な発想と感じられる。
『そうすると……』
 微苦笑を誘われる。
 わたしとリンクが結婚しても、彼女たちとの関係においてわたしたちのありようは本質的に
なんら変化をきたさないわけだ。
 結婚とは人生の重大事だと、これまでわたしは考えていたのに。
 さほどに仰々しいものにもあらず、ということか。
 思えば、わたしとリンクは、実質上、すでに結婚していたも同然といえるかもしれない。この先、
わたしたちのありようが変化をきたさずとも、何の差し障りがあるだろう。

416PS-18 思いを決するお姫様 (26/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:26:23 ID:LrWLVYmY0
『けれど……』
 彼女たちがわたしとリンクの結婚を認めてくれても、それで事は片づかない。
 サリアにせよルトにせよマロンにせよナボールにせよ、リンクとの「交際」を続けてゆく
ためには、彼の訪れを待たなければならない。ところが、わたしと結婚すればリンクは
ハイラル城に常住し、気ままに旅などできない身となってしまうから、結果として彼女たちの
望みは実現不可能という大きな矛盾が生じるのだ。つまり、いま一点の問題──リンクの
政治参加について──を解決しなければ……
 そこで思考は破られた。
 足音。
 近づいてくる。
 怪しみが湧いた。
 誰も来させるなとインパに頼んだのに。いや、そのインパがやって来たのか?
 否だった。
 現れた人影が目に入るか入らないうちに、弾かれたかのごとくゼルダは立ち上がった。
暗さで顔や衣服が判然としないにもかかわらず、おぼろげな輪郭だけで即座に正体は知れた。
それほどまでに見慣れた姿だった。
 呼名の声が口から飛び出しかけた。が、やたらと性急な歩調で眼前に迫り来たったその人物は、
発語をも先取りし、
「ゼルダ! ぼくは!」
 と、大音量を場に響かせた。
 ゼルダはあっけにとられた。久々の顔合わせなのに挨拶もなく、憤激調で呼ばわるさまも
さることながら、薄青い月光のもと、相対してやっと視認できた表情が意想外だった。
 まるで何かに追い立てられてでもいるかのような、いますぐにも感情が爆発しそうな、異様な
緊張ぶり。
 ──だったが、
「ぼくは……あの……」
 おのれの異様さを自覚したのか、我に返ったふうにリンクはどぎまぎした顔つきで視線を泳がせ、
「いや……つまり……その……ええと……」
 言葉は断片と化し、声も少しずつ小さくなり、ついには消えてしまった。
 沈黙。
 ──を、そっと、押し分けてみる。
「……どうしたの?」
 なおも沈黙。
 答えを渋っているのではなく、答え方を決めかねているという感じ。
 待つことにする。
 妥当な選択だったとみえ、やがてリンクは静かに口を切った。
「今度の……旅に出る前に……」
 緊張の気配は残していたが、落ち着きは取り戻したようだった。
「ぼくたち、話をしたよね」
「……ええ」
 最短の語で応じる。リンクの言わんとするところが、まだ読めない。
「あの時、君の……あれが……遅れたって聞いて……」
 何を指しての「あれ」なのかは明白だった。男化によって周期にずれが生じた月経のことである。
「まあ、遅れただけだったけれど……もし、ほんとうに止まってたら……って、考えてさ」

417PS-18 思いを決するお姫様 (27/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:27:14 ID:LrWLVYmY0
 ゼルダの胸はにわかに動悸し始めた。
(もしほんとうにわたしが妊娠していたら直面することになった事態にまで、リンクは思い及べて
いるだろうか)
 思い及べていたのだ! リンクは!
 ならば、いまリンクの心の中にあるのはわたしがこのところ頭を悩ませているのと同じ事柄に
違いなく、それについてリンクは──
(然りとせば、どうするつもりであっただろうか)
 ──そう、どうするつもりなのか、リンクは何を言おうとしているのか、もしかして、ああ、
もしかして……
「いや、気持ちの上では、考えるまでもないけれど……それですむほど、単純な話じゃないんで……」
 考えるまでもない? けれど単純じゃない? まどろこしい口ぶり。前向きのようでもあり
後ろ向きのようでもあり。なぜそんな言い方を? 迷っている? リンクは迷っている?
わたしたちのその「事柄」について?
「……で、考えてみて、わかったのは……やっぱり……」
 結論? ここで結論? どんな? 聞きたい。でも怖い。胸騒ぎがする。このためらいがちな
語りからは、何か芳しからぬ匂いが……
「君と同じようには、やっていけないな、と」
 どくん──と、心臓がひときわ強く拍動した。
 否定的な言である。
 何を否定しているのか。
 推量はできた。しかし断じたくはなかった。まだ不鮮明。そう思いたかった。
 おそるおそる、訊く。
「……どういう、ことかしら」
「つまり……」
 リンクは要約の語を使い、けれども実際には要約へと移らず、うつむき、声を途切れさせた。
両手を腰にやってベルトを持ち上げる。片方のつま先で地面を軽く叩く。が、衣服やブーツに
不具合があるようには見えない。
 強いて無言の理由を作ろうとしているのか。それほど話しにくいことなのか。
 募るゼルダの不安は、
「つまり、ぼくは……」
 黙したままでもいられないと腹を括ったらしいリンクの、要約の語の繰り返しに続く、
「学問がないから」
 との弁で、一瞬、つんのめった。
「……まあ、子供の頃から、ろくに勉強してこなかった、ぼくが悪いんで……自業自得だけれどさ」
 意外だった。
 学問? そんなことをリンクが気にしていたとは。いままで考えもしなかった。なるほど、
学力の点でリンクはわたしに劣る。だがそれにいかほどの意味がある? 学力の高低などには
左右されぬ魅力を、存在意義を、十二分に有しているリンクではないか。誰しも勇者に数学や
経済学の知識を期待はすまいし、わたしにせよそんなものを恋人には──
『あ……』
 そこで不安が再帰した。
 ただの女の恋人なら頭脳面を等閑視もできよう。しかし王女の恋人となると──その将来の
地位を考慮すれば──そうもいかない。というのは……

418PS-18 思いを決するお姫様 (28/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:27:52 ID:LrWLVYmY0
「政治のこと?」
「うん」
 あっさりとリンクは頷いた。言ってしまって迷いは失せたようだった。
「人の上に立って国の進む道を決めるのは、しっかりした教養と見識の持ち主でないとね。
君みたいに。でも、ぼくには無理だよ。剣の腕はともかく、平和な時だとまるっきり能なしさ。
できるのはあちこち旅してまわるくらいのことで、まあ、実際、そっちの方が性に合ってるし」
 背筋に冷たいものが走った。
 やはり……やはりそうだったのだ。リンクは政治を敬遠している。となると、わたしたちの
その「事柄」に対して……
「で、今度の旅の間にも考えたんだけれど、もう、それでいいんじゃないかな」
 ──ソレデイイ?
「そうした方が、きっとうまくいくよ」
 ──ウマクイク?
 何が? 何がそれでいい? 何がうまくいく?
 政治には関わりたくない。旅暮らしを続けたい。その言い分は理解できる。もともとリンクは
そうだった。それでもわたしたちは大過なく愛を育んでこられた。だがもはや現状は維持できない。
そこのところはリンクもわかっているはずなのに。
「……わたしに縁談が来たことは、知っているわよね?」
「知ってる。インパから聞いたよ」
「すぐにも返事をしなければならないのも?」
「うん」
 わかっている。わかった上での台詞なのだ。それでいいとか。うまくいくとか。
「そう聞いたから、決めたんだ。できるだけ早く君に言わなきゃいけないって」
 ゼルダは脚が震えだすのを感じた。
 言う? 何を? わたしたちのその「事柄」が実現しなくてもかまわないと? 実現しない
ことをむしろ望んでいるのだと? そんなに軽いものだったのかリンクにとってわたしたちの
繋がりは? そんな程度の認識だったのかリンクの内でわたしたちの──
 暴発しかかるゼルダの心は、しかし、かろうじて制動力を残していた。リンクの声は晴れやかで、
長いつき合いに終止符を打とうとしている不実な恋人のそれとはとうてい思えない。その違和感が
歯止めになったのである。
 ゼルダを襲う恐れや憤りや惑いにはまるで気づかぬふうに、ただ、幾分か声を硬めにして、
リンクは言った。

「結婚しよう」

 耳は働いていた。
 が、頭は混乱した。
 ために口を働かせられなかった。
 満を持してのひと言が相手を沈黙させてしまったことで、リンクは狼狽したらしく、次いでの
弁は一転してぎくしゃくしたものになった。
「も、もちろん、君が、よければ、だけれど……」
 よからぬはずがない。しかしそれを言葉にすることができない。脳内には疑問が居座った
ままだった。
 いったいどうしてその結論になる?
 結婚する。旅暮らしは続ける。この二つは両立できない。
 そう、決して、両立……

419PS-18 思いを決するお姫様 (29/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:29:06 ID:LrWLVYmY0
『え?』

 できない……?

『あ!』

 近視の人が初めて眼鏡をかけた時、それまでぼやけた像でしかなかったものが、突如、
くっきりとした輪郭を纏って現出することに、衝撃的な印象を受ける場合がままある。
 類似の感覚をゼルダは味わっていた。

 両立できない? なぜ?
 サリアやルトやマロンやナボールの希望は実現不可能? なぜ?
 リンクはハイラル城に常住? 気ままに旅ができなくなる? なぜ?

 それでいい! 旅すればいいのだ! リンクは! いくらでも!
 そうした方が、きっと、きっと、きっと、きっとうまくいく!

 王女の婿は城にあって政治に専念しろなどと誰が命じた?
 誰でもない! わたしがそのように決めこんでいただけ!
 王女の──そして将来は女王の──婿が旅三昧とは、確かに奇抜で非常識なあり方だろう。
 だが、不都合か? 不合理か? 不料簡か?
 否! 否! 否!
 城で長々と会議をしたり書類をいじくったりといった、好むでもない用務に忙殺されるよりも、
リンクは旅にあった方がよほど国のためになる。
 ゴロン族やゾーラ族はもとより、かつては敵だったゲルド族とまでも、現在、ハイラル王国が
良好な関係を保てているのは、リンクがその足で諸地を踏み、人々とじかに触れ合ってきたから
ではないか。
 このたびの視察に先立ってリンクがゲルド地方に派遣されたのも、彼のそんな真価が認められた
からではないか。
 わたしが街道整備事業を進めるにあたっても、リンクが旅で得た知見がずいぶん役に立ったでは
ないか。
(この世界のどこで、どんな人たちが、どんなふうに、どんな考えを持って暮らしているのかを
知って、これはいいとか、これは悪いとか、いろんな点があるだろうから、悪い点はよくして、
いい点はもっとよくして、みんなが幸せに生きることができる平和な世界をぼくたちは
作らなくちゃいけないんだ)
 九年前のリンクの言。
 それはいまでも真理だし、今後も真理であり続ける。王女の──そして将来は女王の──
婿自らが旅人たればこそ、その真理は支えられるのだ。不都合だの不合理だの不料簡だの誰にも
言わせるものか!
 唯一、難があるとすれば、多くの時間を離れて暮らさねばならない夫婦になってしまうという
点だが、結婚不成就の際のことを考えれば、難点と呼ぶにはまるで値しない。いままでも多くの
時間を離れて暮らしてきた、けれどもその愛にはいささかの瑕瑾もない恋人同士なのだ。
わたしとリンクの繋がりは──これも九年前、わたし自身が見極めたように──常にべったりと
くっついていなければ保てないような、そんな脆弱なものではない!

420PS-18 思いを決するお姫様 (30/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:29:37 ID:LrWLVYmY0
『九年前……』
 そう、九年前、わたしはすでにその心構えができていた。なのに、なぜ、こんな単純明快な
解決法を、このたびのわたしは思いつけなかったのか。
 政務に埋没するがごとき日々にあって、政治の常識に判断力を侵蝕されて、知らず知らずの
うちに視野が狭くなってしまっていたか。
 インパは気づいていたのだ。
(姫も頭をおほぐしになって)
 あれはわたしが既成概念に囚われすぎていると──わたしの頭が固いと──指摘するものだった。
「旅する王婿」という解決法にしろ、インパは以前から腹中に持っていたのかもしれない。
わたしの前ではおくびにも出さなかったが、そこは過保護ならぬインパのこと、自分の問題は
自分で解決しろと暗に示唆をしたわけだ。そしてその示唆はインパのみならず──
「あ、それと……」
 リンクの声がゼルダを現実に立ち戻らせた。おびただしい量の思考を営みながら、要した時間は
大して長くもなかったらしい。リンクは最前の狼狽を引きずったまま、ぎくしゃくと語を続ける。
「君の、お父さんには、まだ、何も、言ってなくて、だから、許しも、もらって、ないんだけれど……」
「心配しないで」
 即座に応じられた。
「お父さまは許してくださるわ」
 そう、父はリンクを評価している。リンクが家督相続に不熱心なことには眉を顰めていた
けれども、こうなったら躊躇は不要。リンクは家を継げばいい。継いだ上で旅暮らしをすればいい。
いずれは騎士にというかねてからの父の勧めは辞退せねばならないが、父は反対すまい。
「旅する王婿」がもたらす政治的利点──それもまた政治の一形態であること──を父は
理解できるはずだし、すでに理解もしているはずだ。
(政治に携わることについて、か……難しく考える必要はないと思うが……)
 いまにすれば、あの言は、政治のやり方にも種々あると、インパ同様、わたしに示唆したものに
違いない。いかにすればリンクは本領を発揮できるか、正しく把握していたのだ、父は!
「じゃあ……」
 リンクが口から言葉を漏らし、しかし、あとを続けなかった。続けられないのかもしれない。
国王の意向を伝える言いまわしから、同時にゼルダの意向をも悟ったのである。ほんの短い発語に、
感激の響きがはっきりと聞き取れた。
「ええ」
 酌んでゼルダは応諾し、しかし、やはりあとを続けられない。申し込みを聞かされた際は疑問に
妨げられた感情が、ここに至って自由となり、胸を急速に熱くしてゆく。
 リンクが示す純粋な喜び。いかにも率直。いかにも透明。
 それなのだ。
 リンクとて迷いはあっただろう。が、わたしたちの前に横たわる課題を、小細工なくまっすぐ
乗り越える方途に、結局、リンクは自ずから行き着いたのだ。常識に囚われず濁りない目で物事の
本質を見極められる器量。時として余念に視野を狭められてしまうわたし──リンクなら、
『あの世界』でもそうだったように、「君は頭がまわりすぎる」と評するだろうか──の傍らに、
ぜひ、ぜひ、ぜひ、ぜひ、いてもらわねばならないひと!
 胸の熱さが陶酔を呼ぶ。初めは心の隅にあった、あとを続けなければ、求婚の承諾を
より明らかに言葉としなければ、という意識も、次第にはらはらと散り消えてゆく。同種の陶酔が
リンクの面貌にも充ち満ちていた。もう言葉など要らないのである。

421PS-18 思いを決するお姫様 (31/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:30:19 ID:LrWLVYmY0
 しかるにリンクは、さらに一言と、そして一品を用意していた。
「これを……」
 懐から取り出され、指先に挟み持たれた物体は、ごくごく小さく、弱い月光のもとでは
何たるかを判別しづらい。顔を寄せようとするゼルダの仕草で、リンクもそうと気づいたらしく、
手を眼前に近づけてきた。
 見えた。
 胸の温度が跳ね上がった。いまにも身体が燃えだしそうだった。なのに苦痛はいささかもない。
究極の幸福感。あるのはそれのみだった。
 ゼルダは左手を差し出した。頭は半ば朦朧としていたが、甲を上にすることはさすがに
失念しなかった。そこにリンクの手が触れるさまも、リンクの持ち物がおのれの薬指に──多少
ぎこちない移し方ではあったにせよ──納まるさまも、そうと感知できるくらいには視覚も触覚も
正常に作動したし、
「ありがとう……」
 と、この場合にはどうしても必要な言葉を口にすることはできた。
 思考が働く余地も残っていた。
 婚約にあたって男が女に指輪を贈るというしきたりがハイラルにはある。かつては全くの
世間知らずだったリンクも、いつの間にか、誰からか──結婚ずみのアンジュあたり?──情報を
得ていたのだ。しかも……
 指輪は大きすぎも小さすぎもせず、実に具合よい装着感。
「知っていたのね」
「え? 何を?」
「指輪の号数」
 そこまで把握してくれているリンクと思えば感動もひとしおである。
 ところが、
「いや、知らなかったよ。インパに聞いたんだ」
 せっかくの感動に水を差すような告白を、しごくあっさりとリンクはするのだった。
 君のことなら何だって知っているさ──などと気障な台詞までは吐かずとも、要領のよい男なら、
馬鹿正直に知らぬと白状したりはすまい。
 しかし、そんな要領のよさとは無縁なところが、子供の頃から一貫した、リンクのリンクたる
所以なのである。ゼルダとしては、
『そこが、好き』
 なのである。ゆえに、陶酔も、幸福感も、水を差されるどころか、いっそう強まり、
深まるのだった。
 無論、薬指にあるもの自体も喜びの大いなる源泉となっていった。
 形や質が抜きんでているわけではない。むしろ地味。相手に金銭的な苦労はかけない当方なりと
男が資力を誇示する意味合いもあって、金銀や宝石をあしらった高価なものが婚約指輪の
通例なのに、それとは対極の質素さ。
 にもかかわらず、嬉しい。
 昔はともかく、いまは王家からもどこからも経済的援助を受けず、自力で生活費を稼いでいる、
決して裕福な部類ではないリンクであれば、おそらくは城下町の小店あたりで、財布の底を
はたいてようやく購えたのがこれなのだろう、と推し量ると、その健気さ、真摯さに打たれこそすれ、
不満を覚えるなどあり得べからざることなのだった。
 が……

422PS-18 思いを決するお姫様 (32/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:30:55 ID:LrWLVYmY0
「ぼくの分は、あとでいいから」
 これには面食らった。
「あなたの分?」
「うん。こういう時の指輪って、交換するものなんだろう? どうしても早く君に渡したくて、
今日はぼくだけ先走っちゃったけれど」
 わかった。
「交換するのは婚約指輪じゃなくて結婚指輪よ」
 リンクは混同しているのだ。情報は得ても理解の度合いはずいぶんあやふやなようだ。貰った
指輪に華美さが欠けているのも、婚約指輪ほどにはそれが求められない結婚指輪──にしても
地味に過ぎるが──と間違ったから……
「わかってる。そのつもりさ」
 またもや面食らう。
 間違いではないと? はなから結婚指輪のつもりだった?
 だとしてもおかしい。結婚指輪を交換するのは文字どおり結婚式の場であって、事前に、しかも
一方だけ先渡しするなど前代未聞。やはりあやふやな理解をリンクは──
『あやふや?』
 なのか? ほんとうに?
 常識に囚われないリンク。直情径行なリンク。慣習を知った上で敢えてそれを無視する挙に
出たのかも。
『どっち?』
 問おうとした、その時──

 思い至った。

 どっちだってかまわない!

 やがて執り行われるだろう結婚式の場で、数多の参列者が見守る中、わたしたちは改めて指輪を
交換する。でなければ儀式は成り立たない。
 だが!
 それを待つまでもなく!
 理解の度合いがどうであれ、リンクがそのつもりでくれたものを、わたしがこうして身に着けた
からには!
 わたしたちは!
 いま!
 ここで!

 結婚したということなのだ!

423PS-18 思いを決するお姫様 (33/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:31:29 ID:LrWLVYmY0
 究極に達していたはずの幸福感が、さらに幾層倍にもなってゼルダを押し包んだ。「実質上、
すでに結婚していたも同然」という達観も、ほんとうのそれにいざ立ち至ってみると、そうして
得られる真の喜びを知らぬ者のたわごとでしかない。いったん止まっていた脚の震えが、先ほど
以上に顕然と──ただし先ほどとは別の理由で──再発した。立ったままでいるのが困難だった。
『でも!』
 ひとりで立っていなければならないわたしでは、もはや、ない。
 ゼルダは身を投げ出した。
 リンクがしっかりと抱き支えてくれた。
 胴に食いこむ逞しい力がただただ快い。
 自らもひたすら両腕を抱擁に使う。
 加わる圧。加える圧。いずれもが甚だしく強烈で、息をすることさえ覚束ないはずなのに、
ほんのわずかもそうとは感じず、相手もまた然りと確言できる。
 さほどに二人はひとつだった。
 ゼルダはリンクの匂いを嗅ぎ取っていた。城に帰り着いたばかりで、身体を清める暇も
なかったのだろう、汗と埃の臭気をまじえたそれは、しかしリンクが纏う野性の象徴でもあって、
ゼルダにとっては至上の芳香だった。
 加うるに自分も、リンクとともにいる時に発するあの香りを、いま、ふんだんに放っているに
違いなく、それがリンクの鼻腔に届いているのも、同じく疑いを容れぬところである。
 そして、リンクの情熱を一段とかき立てる役割も、その香りは果たしたようだった。
 ゼルダは下腹に新たな圧を感じた。ちょうどリンクの股間にあたる箇所で、何によって
もたらされたものなのかは明らかだった。リンクが何を考えているのかもたちどころにわかった。
視察旅行を挟んで、もう数か月も肌を合わせていない。そうならない方がおかしい。ましてや
「婚儀」が成立したばかりなのである。
 ゼルダの心臓は早鐘を打った。悪い心持ちでは全くなかった。情熱が伝染したかのごとくに
思われた。
 それゆえ、いきなり重心が揺らぎ、次いで身体が地面の上に押し倒されても──行為者の
性急さに不意を打たれはしたものの──抵抗する気はまるで起こらなかった。
 条件は整っていた。
 城壁の窓からは死角に入る位置。加えて夜暗の中。さらに中庭はインパに命じて立ち入り禁止に
してある。見咎められるはおそれはない。
 唯一、邪魔する者があるとすれば……

424PS-18 思いを決するお姫様 (34/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:32:13 ID:LrWLVYmY0
 かつて、やはりこの中庭で、無謀にも情を交わした幼い二人を、あとでさんざん叱り飛ばした
人物。ゲルド戦役終結を祝う宴の晩には、またも同所で二人が事に及ぼうとする寸前、咳払いで
制止をかけてきた人物。今宵とて、立ち入り禁止を徹底させようとするなら、中庭の入口で
見張りに立っているに違いない、その人物。
 だが、ゼルダは見通していた。
 インパはわたしの指輪の号数をリンクに教えた。それを知ってリンクが何をするつもりなのかも、
もちろん心得ていただろう。
 縁談の件を敢えてリンクに伝えたのは?
 彼を求婚に踏み切らせようと仕向けたもの。
 わたしにそうした事どもをいっさい告げなかったのは?
 リンクが指輪を携えて重大発表をする場で、わたしが得ることになる感激を、予備知識によって
薄れさせまいとする、いわば粋な計らい。
 そこまで考えているインパなら──そして立ち入り禁止の中庭にリンクだけは立ち入らせた
インパなら──ここでわたしたちが何を始めようとするかは予想ずみのはず。実際に、現時、
中庭の入口で、わたしたちの行為を把握しているはず。にもかかわらず今回は咳払いの一つも
発しようとはしない。なぜなら制止する意図を持たないからだ!
 リンクがのしかかってきた。
 口を吸われる。身体のあちこちをまさぐられる。舌も手も捌きが荒い。やはり気が急いて
いるのである。
 ゼルダは意に介さなかった。される以上にせわしなく接吻と愛撫を返した。そうまで逸って
リンクが目指す行為を、ゼルダもまた熱望していた。
 城の自室や別荘であれば、ベッドの上で、より安楽に行えるそれを、しかし、いま、その場で
行うことに、ゼルダは固執した。
 リンクと初めて出会い、語らい、心を通わせ、口づけを交わしたそこでこそ、「初夜」は
過ごされるべきなのである。
 慌ただしく前戯に勤しむうち、限りなさを超えた陶酔と、急速に膨れ上がる欲情とが、ゼルダの
思考を霞ませていった。二人の絆の象徴たる右の耳飾りに触れられ、さらに右耳そのものを舌で
くすぐられるに及んで、理性は完全に失われた。インパのことはすっかり頭から消え去った。
 意識も時々にしか稼働しなくなった。
 秘所に肉楔を打ちこまれた瞬間は、さすがにそれと感受できた。が、そうするに邪魔な下穿きが
邪魔とならぬよう、あらかじめ取り計らったはずなのに、いつ、いかに取り計らったのかを──
自分で脱いだのか、リンクに脱がされたのかさえ──全く覚えていないのだった。
 同様に、ふと気づけば仰臥するリンクを跨ぐ格好で踊り狂っているゼルダであり、ふと気づけば
リンクの剛直を頬ばり喉に精を噴射させているゼルダであり、ふと気づけば素裸の肢体を
四つ這いにしてリンクに肛門を激しく抉り抜かれているゼルダであった。
 ただ、絶大きわまりない至福と快美の感だけが、途切れず認知できるもののすべてだった。

425PS-18 思いを決するお姫様 (35/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:32:52 ID:LrWLVYmY0
「初夜」とはいえど、いつまでも戸外にはとどまれない。
 事が終わってのち、二人は着衣した。
 ゼルダはようやくインパの存在を思い出した。このままにはしておいては申し訳ない。が、
直ちには立ち去りかねた。肉体の快美は薄まっても、精神の至福は濃密なままである。そこで
インパには、詫びつつもしばしの見張り延長を心で依頼し、壇に腰を据え、倣って坐すリンクに
ひたと寄り添い、しかしながら、より密な交歓は求めず、静かに時を過ごした。甘い気分が胸を
とろけさせるに任せているだけで満足だった。
 ややあって、リンクが口を開いた。
「君のお父さんに会いにいかないと」
 まさにそれ。次にすべきは。
「そうね、でも……今日はもう遅いから、明日にしましょう」
 リンクにも言ったように、許しが得られることはわかっている。そののちに進むであろう
段取りを思うと、気分の甘さがなおさら深まりもするのだが、ここまで来たらあわてる必要はない。
楽しみはあとにとっておこう、というのにも近いゆとりが、わたしの心には生まれている。
「うん」
 素直に頷くリンクに、
「話をつけておかなきゃならない人が、他にも何人かいるんじゃない?」
 と、鷹揚に、戯れるふうに言いやることさえ、いまのわたしにはできる。
 けれど、さて、こんな遠回しの表現を、リンクは理解できるだろうか。なにせ察しは悪い人。
きょとんとしてしまうのではなかろうか。「つき合いの広いあなただったら」とでも補足して
やろうか……
 過小評価だった。
「もう話はつけたよ」
「え?」
 きょとんとしてしまったのはゼルダの方である。
「知らせてきたよ。六人みんなにね。君と結婚するって」
 苦笑いと照れ笑いを混ぜ合わせた面持ちで、それでもはっきりと、リンクは言った。
 腑に落ちた。
 もっと早くに気づいて然るべきだった。一週間の不在が指輪を調達するだけにしては長すぎる
ことに。
 リンクはやはり誠実だった! きちんと筋を通したのだ!
 ただ、長すぎるというのは不正確。
 城にいるインパと、近場のロンロン牧場に暮らすマロンはいいとしても、デスマウンテンの
ダルニア、ゾーラの里のルト、コキリの森のサリア、さらにゲルドの砦──にはまだ着いていない
だろうが、そこへの帰りを急いでいるはず──のナボールといった遠隔地の面々まで含めた
六人すべてを、一週間で残らず訪いの対象とするのは、エポナの健脚を恃めたにせよ、かなりの
過密日程。ハイラル中を駆けまわるに等しい強行軍を、それだけの短時日で──わたしにすれば
じりじりする日々だったけれども──よく成し遂げられたものだ。
『そうまでして……わたしを……』
 だが、結果は?

426PS-18 思いを決するお姫様 (36/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:33:29 ID:LrWLVYmY0
「承知してもらえたの?」
「うん、みんな聞き入れてくれたよ。すっきりと」
 さもあろう。わたしも好感触は得ていた。
 しかし、六人のうちの幾たりかは条件を出してきたのでは?
 それに対してリンクは何と答えた?
 ……などとこの場で質す必要もあるまい。
 想像はつく。確信的に。
 リンクは誠実だ。
 誰にでも。
 そんなあり方が世間の常識から逸脱していると、いまではリンク自身もわかっているだろう
けれど、だからといってそのあり方を変えようとは思っていない。
『それでいいの』
 いまではわたしも心静かでいられる。
 とはいえ、気になることがないでもない。
 立場が逆になった時、はたしてリンクは……?
「ねえ」
「なに?」
「わたしに縁談が来たと聞いて、どう思った?」
「そりゃあ──」
 リンクが笑みを明るくした。
「びっくりしたさ。寝耳に水で。だけど、よく考えてみたら、君の歳とか立場とかだと、
そんな話が来ても全然不思議じゃないし、ぼくもうかうかしてられないと思って……」
 そう、そして「できるだけ早く君に言わなきゃいけない」という気になって、事はここに
至ったわけだ。でも、わたしの腹づもりをインパから知らされなかったことで──それが彼女の
手管だったのだが──不安は湧かなかったのだろうか。
 問うまでもなかった。
「まあ、その縁談がまとまらないのはわかってたけれど」
「あら、どうして?」
「君がうんと言うはずがないから」
 断定するのである。一に一を足せば二になるのと同じくらい当たり前だ、とでもいうふうに。
 ゼルダは口元が緩むのを止められなかった。
 こんな話で嫉妬心を刺激されるほど、なよやかなリンクではなかった。わたしが他の男に心を
動かすことなどあり得ないと信じきっている。純粋というか、はたまた単純というか。もっとも、
そうしたリンクであるとわたしも固く信じてはいた。そこまで信じ合えるわたしたち。嬉しさは
限りない。
 だが、次に聞かされた言葉は思いがけなかった。

427PS-18 思いを決するお姫様 (37/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:34:09 ID:LrWLVYmY0
「それに、ラルフも」
「え?」
「ラルフも君と結婚する気なんかありゃしないよ」
「なぜわかるの?」
「ラルフには──ああ、あいつとはラブレンヌに行った時に知り合って、友達になったんだけれどね
──将来を誓い合った恋人がいるんだ。でもアンビ女王にはそれをまだ話してなくて、だから
こんなことになっちゃったんだな。息子に恋人がいると知ってたら、アンビ女王だってこっちに
縁談を持ちこんだりはしなかっただろうさ」
「そうだったの……」
 少しく心が安まった。縁談の不成立を自らの都合のせいばかりにせずともすむのである。
『それにしても……』
 ラルフ王子に恋人云々とは、インパすら得ていない情報だろう。現地に足を運んだ経験のある
者の強みというべきか。隣国の王子を「あいつ」呼ばわりできるほど親しい仲であることも、将来、
なにかと役に立つはず。「旅する王婿」の利点は、早くも着々と具体化している……
 リンクの方は、おのが地位の価値には無頓着なようで、楽しげに話題を敷衍させる。
 曰く、ラルフ王子は恋人にぞっこんで、その美しさ、淑やかさ、賢さは世界一だと主張して
憚らず、彼女の足跡にさえ接吻しかねないほどであること。紹介されて対面したところでは──
「ぼくに言わせりゃ世界一は大げさで、ほんとうの世界一はハイラルにいると思うけれど」と
意味深な註釈をつけつつも──力説するだけあって確かに素晴らしい女性ではあること。彼女の
名はネールということ。
「ネール? 女神様の名前と一緒なの?」
「うん、あっちじゃ珍しくないらしいよ。ハイラルとは違って。他にもディンという名前の
踊り子がいたし、どこかの店員でフロルってのもいたな。まあ、それはともかく……」
 リンクが身を乗り出した。
「君をラルフとネールに会わせたいね。とりわけネールに。彼女も君と同じで、竪琴が上手なんだ。
おまけに、彼女は知恵の女神の名前を持っていて、君は知恵のトライフォースの持ち主だから──
というか、持ち主だったというか、その資格があるというか、いずれにしても、そんな君だから
──きっと気が合うよ。いい友達になれるよ」
 熱心である。
 そこまでリンクが言うからには、まこと、優れた人物なのだろう。
「ぜひ会ってみたいわ。でも……」
 大きな障害。二つの世界を隔てる広大な砂漠。
「わたしにせよ彼女にせよ、お互い、相手の国へは行けないでしょう? あなたみたいに男なら
まだしも……」

428PS-18 思いを決するお姫様 (38/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:34:49 ID:LrWLVYmY0
「行けるさ」
 リンクの声が強くなる。
「ナボールだって行ったんだ。君に行けないわけはないよ。確かに楽な道のりじゃあないけれど、
ついこの間までは没交渉だったのに、いまじゃ、とにかくも人が行き来してるんだ。これからは
もっともっと交通の便も増して、女だろうが何だろうが、平気で旅ができるようになるさ。
いつかは、必ず」
 それはあまりにも楽天的に過ぎるのでは?──と、ひとたびは思ったゼルダだったが、
「……そうね」
 すぐに考えは変わった。
 たとえ遠い彼方でも、赴く値打ちがあるとなれば、人は動く。誰かが動けば、他の誰かが続く。
動く人が増えれば、動きやすいように環境は整えられる。いまでもゾーラの里やコキリの森へは
自力で到達できるわたしだ。いつかは、必ず、砂漠の踏破も可能となるだろう。いや、可能に
しなければならない。そもそも、街道整備事業に携わるわたしこそが、そこに注力すべき者の
筆頭なのだ。
「あなたの言うとおりだわ。だけど……」
 無条件ではない。「いつかは」だ。
「さしあたって交流はあなたにお願いしなくちゃ。お二人にはよろしく伝えてちょうだい。
また行くんでしょう? 近いうちに」
肯定を疑わず、であっても不服を唱える気は毛頭なかったが、
「あ、うーん……いずれはね。でも……」
 案に相違してリンクは口ごもり、再び照れ臭そうな風情となってあとを続けた。
「何か月かは遠出を控えようかな、と……せっかく結婚するんだし」
「ほんとう?」
 嬉しい誤算である。
「うん。君だって、結婚したら、しばらく仕事から離れられるだろう?」
「ええ、少しは」
「よしんば旅をするにしても、君と二人でどこかに行って、のんびりできるんだったら
いいんだけどなあ」
「新婚旅行? そうねえ……」
 行けるとしたら? どこ? 風光明媚なハイリア湖は? 久しぶりでみずうみ博士や釣り堀の
親父さんにも会ってみたい。が……
「無理だと思うわ。残念だけれど。そんなに長くは仕事を休めないもの」
「だよね」
 肩をすくめながらリンクは応じた。もともと過大な期待は抱いていなかったらしく、格別、
落胆したふうでもない。
「まあいいさ。もし行けたとしたって、お供の人たちがいっぱいついてきて、落ち着かないだろうし」
「せいぜい別荘で幾日か過ごせるくらいね」
「上等だよ。これまでだと別荘行きは一泊二日がほとんどだったんだから」
「何泊をお望み?」
「一週間くらいかな」
『とは、つまり……』

429PS-18 思いを決するお姫様 (39/39) ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:35:25 ID:LrWLVYmY0
 思い出す。
 廃墟と化した『あの世界』の城下町に、二人きりで滞在したのが、やはり一週間だった。
あの日々の再現をリンクは欲しているのだ。無論、わたしとて否やはない。従来だと、リンクと
一緒に一週間も別荘に居続けたら、いくらインパというお目付役がいても、必ずや、さては、
あの二人、と勘繰られていただろう。しかし結婚すれば気がかりは何もなくなる。連日連夜
まぐわい続けたところで、誰にも後ろ指は指されない。逆にそうしろと奨励される身になるのだ。
なぜなら……
「といっても、ぼくが……その……」
 いっそう面映ゆげとなって、リンクが言い継ぐ。
「王家の、婿の……務めとか……役割とかを……果たそうとするなら……一週間でも、
足りないかも、しれないけれど……」
 ああ、リンクもわかっている。「なすべきことをなせ」が信条なだけあって、「危険な四日間」を
「幸運の四日間」とすべく、当面は文字どおり「精を出す」所存なのだ。
「一週間にこだわらなくてもいいでしょう? そのあとも夜は二十四時間ごとにめぐってくるわ」
「うん、そうだね、でも……」
 リンクは笑んだ。
「ぼくは昼でも一向にかまわないよ」
「まあ」
 ゼルダは眉を聳やかしてみせた。なんと不埒な、との意を声には装わせた。
 あくまでも「装い」である。
 政務に専心せねばならない昼間でも、たまには時間の空きができよう。そんな折り、リンクに
迫られたら、とうていわたしは拒めまい。いや、場合によっては自分から誘いをかけるかも
しれない。それほど淫らなわたしであることは、この九年間の──そして『あの世界』での
一週間の──行状が証明している。
 リンクも見透かしているのだろう、かりそめの非難に動じもせず、顔をほころばせたままである。
 その大らかさが、温かく胸に染み渡る。
 その人の子を胎内に宿すことへの喜びが、早くもありありと予覚されてくる。
 子供ができれば──リンクはともかく、わたしは──当分、旅には出られない。けれども、
『新世界』との往来が難行でなくなる頃には、生まれた子も成長し、おのれの足で歩けるように
なっているだろう。父親の持つ視野の広さを、ぜひとも受け継いでもらいたい。そうすれば……
 自身ではなし得なかった隣国との親善深化も、次代には実現の運びとなるかもしれない──と、
前途に多望を抱くゼルダだった。



THE END

430 ◆JmQ19ALdig:2014/03/06(木) 01:36:04 ID:LrWLVYmY0
全編完結しました。

『私本』では各キャラをいろいろと大変な目に遭わせましたので、
あまり劇的でないマターリした話も書いてみたいというのが、この続編を構想した動機でした。
ただ、原作のバックボーンがない分、展開が間延びしてしまった感もありです。

『私本』の頃をふり返ると、よくもまあ、あのペースであれだけ大量の文章を書けたものだと
自分でも驚きます(何かが憑いていたのでしょう)。
いまは諸事多忙で、今回の投下に一年以上かかってしまったように、書く時間の確保が困難です。
この先も当分状況が変わる見込みはありません。
そのため、また、書きたいネタは書き尽くしたことでもあるので、
今後、この設定で「時オカ」のSSを書くことは、もうないと思います。
他作のネタもないではないのですが、文章にできる目途は、残念ながら全く立てられません。
とはいえ、現時、とにもかくにもこの長い物語を完結させられたことには、大きな満足を
感じています。
最後の最後まで読んでくださった方々、そして投下の場を提供してくださいました管理人様に
深く感謝いたします。

どうもありがとうございました。

431名無しさん@ピンキー:2014/03/06(木) 10:43:07 ID:h6SodGEY0
本当に…完結お疲れ様です…!ずっと追い続けてて良かった。みんな幸せになって良かった。二度の完結に立ち会えて光栄だ…!

432名無しさん@ピンキー:2014/03/06(木) 22:13:25 ID:YrQhv286O
完結!!
おめでとうございます!!
お疲れ様でした!!
ありがとうございましたー!!!!

それでは◆JmQ19ALdigさん。もしよかったら。
ナビィはじめ、豆売りのおっさん、お面屋、Cでお願いしますさん、スタルチュラハウスの家族達、その他惜しくも出演漏れした方々に一言……w

433名無しさん@ピンキー:2014/03/08(土) 06:24:21 ID:pUJA7lG20
素晴らしい……。言葉が出ません。本当にありがとうございました!

434名無しさん@ピンキー:2014/03/08(土) 17:39:48 ID:LjFsgTmE0
これだけの長編、完結おめでとうございます
ゼル伝への愛に溢れて読んでいてワクワクする作品でした

435名無しさん@ピンキー:2014/03/15(土) 03:04:21 ID:QQsfmBU.O
久しぶりに覗いたら最終話キテルー
完結おめでとうございます&長い間お疲れ様でした
どのエピソードも非常に楽しませていただきました

436名無しさん@ピンキー:2014/03/30(日) 21:20:38 ID:uurEtuFw0
堪能させていただきました。本当に素晴らしい物語でした

終わってしまうのが寂しくないかと言われると嘘にはなりますが、
これ以上にないハッピーエンドだと思います

本当にお疲れ様でした。そしてありがとうございました

437名無しさん@ピンキー:2014/05/03(土) 18:26:18 ID:PGOkPcw60
長い間、本当にお疲れ様でした…!!
この物語に出会ってからの数年間、◆JmQ19ALdigさんの文章力と世界観には圧倒されるばかりで、新作をひたすら待ち続けていたものでした。
あまり説得力はありませんが、この物語に出会い、かつ完結を見届けられたことがなによりの幸せでございます。
何卒、リアのほうも一生懸命頑張っていただいて、小説もまた気軽に書きたいものをお書きいただければと思います。

438名無しさん@ピンキー:2015/02/14(土) 20:34:21 ID:bljC/oaw0
完結を見逃しておりました
堂々たる大団円お疲れ様です
ルト姫の全裸ごちそうさまでした
生涯独身を誓ったルト姫の体が夜泣きしないよう
リンクには今後もハイラルを駆け回って夜の営みに励んで欲しいです。

439名無しさん@ピンキー:2015/02/26(木) 23:03:33 ID:axGPd5n.0
「お面はセックスにより生まれる」的な設定で、なんとかムジュラが成り立たないだろうか……
幸せのお面屋というか、悦びのお面屋で。

440名無しさん@ピンキー:2015/12/15(火) 01:35:42 ID:KfD8Zs6.0
シュタインズ・ゲートをプレイしたときに過去改変を記憶してる表現に
覚えがあると思ったらこの小説で読んでたからだわ
まあ無関係だろうけどなんか面白かったからメモ

441名無しさん@ピンキー:2015/12/15(火) 01:51:24 ID:KfD8Zs6.0
久々に保管庫覗いたら最終18話だけ収録されてない
あとちょっとで完全収録完了なのに〜

442名無しさん@ピンキー:2018/12/20(木) 18:46:35 ID:qxAHw2rg0
本当にこの作品好きだけど作者さんに声届けられるかももう分からない
でも何年も経過してもなおここほど作り込んだ作品にはそうそう出会えていない 今でも指折りのお気に入りの一つです


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