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ゼルダの伝説でエロパロ・したらば別館

1名無しさん@ピンキー:2008/05/27(火) 20:26:24 ID:Uuv8PJ0c0
このスレは「ゼルダの伝説」のエロパロを書き込むスレです。
何らかの事情で本スレへの投下がためらわれるSSは、こちらに投下して下さい。

<本スレ>
ゼルダの伝説でエロパロ 【8】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1211063548/

<保管庫>
ttp://red.ribbon.to/~eroparo/
ENTER>ゲームの部屋>ゼルダの伝説の部屋

951名無しさん@ピンキー:2010/06/17(木) 00:25:18 ID:P1TuF3rUC
今本スレの叩きの挑発に乗って書き込んでる奴なんなんだ?
◆JmQ19ALdig氏のイメージそんなに悪くしたいのか? 今は互いに平和な状態を保ってんのに本スレに出向いて騒ぎ立てやがって、しかも誰が見たって意味不明な理屈ばっか並べて、しかも押されてるし、頭悪すぎだろ、書き手とか決めつけたら無害な書き手まで敵になるとか考えないのか? 誰かあいつ止めないと、叩きの挑発に乗るとこっちにまで踏み込みかねないぞ

952名無しさん@ピンキー:2010/06/17(木) 00:48:14 ID:29PhI7uM0
ID:MmeAwVPVか?
あいつここに叩き呼び込む気?
いいじゃねぇかあっちに書き手が増えようがこっちには関係ないんだし、むしろ互いにプラスになって良かったと思うべき、それを何ムキになってんのアイツ?
そんなに「自分たち勝利www」にしたいのか、おかげで均整が崩れそうだ。
おいこの記事読んでるなら聞け、お前みたいな書き込みが誰の得になると思ってんの? 叩きを言い負かせば(負かせてすらいねぇし)氏が喜ぶとでも思ってんのか?

953名無しさん@ピンキー:2010/06/17(木) 05:30:28 ID:VNFKY52Y0
最初からスレを荒したいだけで主張なんて全部口先だけでしょ

954名無しさん@ピンキー:2010/06/17(木) 23:31:18 ID:js86ke8g0
自演だろ ほっとけよ

955名無しさん@ピンキー:2010/06/18(金) 00:09:23 ID:0zU.JHfQC
>>954
だからその浅はかな決めつけ発言が敵を増やすんだよ

956名無しさん@ピンキー:2010/06/18(金) 00:56:16 ID:x6xCuUPY0
確かに、さすがになんでも自演と決めつける姿勢は考え直したほうがいいと思うんだが…
というか、全スルーするべきなんだがな、>>954も立派な挑発

957 ◆JmQ19ALdig:2010/07/25(日) 02:58:31 ID:pYOHiZQA0
>>950 スレ立て乙です。
が、まだ残りがあるので今回はこっちに投下します。

『Princess Stories』(続・私本・時のオカリナ)
第八話 好機を逸さぬお姫様(The Shrewdness of the Princess)
主にリンク×ゼルダ
視点はアンジュ(仮名)=コッコ姉さん


958PS-08 好機を逸さぬお姫様 (1/28) ◆JmQ19ALdig:2010/07/25(日) 03:00:38 ID:pYOHiZQA0
「アンジュ!」
 と呼びかけられ、それが誰であるかを声から瞬間的に判別してふり返ると、予想どおり、緑衣の
少年が路上に見いだされた。満面に笑みを浮かべ、高々と片手を上げて、足早に歩み近づいてくる。
再会の喜びを率直に表すそのさまが、アンジュの胸を清々しくし、頬を自然に緩ませた。
「リンク!」
 応じて名を呼び、差し招く。少年は顔をひときわ輝かせ、駆け足となって庭に飛びこんできた。
アンジュは仕事の手を休め、目の前で立ち止まった相手と、しばし談ずる姿勢をとった。
「いらっしゃい。元気にしてた?」
「とても。アンジュは?」
「わたしもよ。けれど、ずいぶん久しぶりだわねえ。前に会ってから、もう一年くらいに
なるんじゃない?」
「長いこと南の方へ行ったりしてて、こっちに来る暇がなかったんだ」
「相変わらず旅の毎日?」
「うん。今度は東の方をまわろうと思ってね。それでやっとここにも寄れたってわけで」
「そう……じゃあ、旅の話でも聞かせてもらおうかしら」
「いいよ。だけど、アンジュはかまわないの? 仕事の途中だったんじゃ……」
「かまわないわ。放っておいても大丈夫だから」
 世話をしていたコッコの群れには、勝手に餌をついばませておき、アンジュは母屋から
ティーポットとカップ二つを持ち出して、庭の隅に置かれたテーブルへと運んだ。
 木製のベンチにリンクと並んで坐し、茶を飲みながら、生き生きと語られる各地の珍しい話に
耳を傾ける。
 やがて冒険談に一段落をつけると、リンクは穏やかな口調で言葉を継いだ。
「ここにすわって、こういうふうに話をしてたら、アンジュと初めて会った時のことを思い出すよ」
「そうね……」
 まさに同じ感慨を抱いていたアンジュは、当時の記憶を脳裏によみがえらせた。
 あれは三年前。コッコの扱いに難渋し、困り果てていたところを、たまたま通りかかった
リンクに助けられた。村中に逃げ散ってしまったコッコを一生懸命かき集めてくれたのだ。お礼に
お茶をご馳走した。このベンチに腰かけて話をした。ちょうどいまのように。
 大事な用件があってデスマウンテンに登ると言うリンクに、こんな子供がなんと無謀な──と、
あの時は危ぶみを覚えたものだが……
 あとで噂を聞くに、リンクは「王家の使者」としてゴロン族のもとに赴き、族長ダルニアと
協力し合って、人々を苦しめていた巨大な怪物を打ち倒したのだとか。いまでもゴロン族の間では
恩人と讃えられているらしい。
 ゾーラ族も同様の恩恵を被ったという。一族の守り神であるジャブジャブ様に取り憑いた魔物を
退治して、その命を救ったのがリンクなのだそうだ。
 さらには、ゲルド族の反乱を未然に防いだ功労者でもあるとのこと。
 子供ではあっても、立派な「勇者」だ。
 なのに、全然、威張ろうとはしない。
 リンクはハイラル中を旅していて、時には、ここ、カカリコ村へもやって来る。来れば必ず
わたしを訪ねてくれる。態度は初会の時と変わらない。素直で、溌剌としていて、笑顔が印象的な
男の子だ。大人のわたしと話すのに敬語も使わず、「アンジュ」と呼び捨てにするあたり、
礼儀にはいささか問題ありだけれども、むしろそこに純真さを感じる。接しているとさわやかな
心持ちがする。
 そんなリンクを、わたしは好きになった。
 無論、恋愛の対象ではない。歳が離れた弟のような存在といったところか。
 もっとも、常に前向きなリンクの男っぽさに、女としての感情を刺激されたことはある。
たとえば、もしもリンクが男の好奇心を発揮して、裸の胸を見せてくれとでも頼んできたら、
場合によっては応じてやったかもしれない。が、すでに無二の連れを持つわたしとしては、他者と
──しかもはるか年下の少年と──それ以上の関係を持とうなどという気には決してなれないし、
第一、リンクはわたしに性的な接触を求めてきたりはしない。
 三年の間にけっこう成長したとはいえ、いまもリンクのありようは以前のままだ。心身ともに
健康な一男児だ。
 ただ、ごく稀に、リンクは奇妙な雰囲気を漂わせる。ふだんは年齢相応に子供っぽい表情が、
その時だけは何となく大人びた感じになって……

959PS-08 好機を逸さぬお姫様 (2/28) ◆JmQ19ALdig:2010/07/25(日) 03:01:51 ID:pYOHiZQA0
「そういえば──」
 リンクの声が思いを破った。
「──アンジュはコッコが苦手だったはずだよね。触ると鳥肌が立つんだって。でも、さっきは
平気で世話をしてたじゃない? どういう風の吹きまわし?」
「ああ、それは……」
 当然の疑問。そもそもリンクと知り合う機縁になったコッコの逃走も、わたしのそうした
苦手意識が原因だった。久しくカカリコ村を訪れなかったリンクは、その間にここで起こった
諸々の変化を知らないのだ。説明してやらなければ。
「新しい井戸のことは、前に話したかしら」
「うん。一年前に来た時、教えてもらったよ。もともとカカリコ村には公共の井戸が一つしか
なくて、しょっちゅう水が不足していたから、もう一つ井戸を掘り当てられたのは幸運だって
言ってたよね。だけど、それとコッコに何の関わりが?」
「その井戸の水を使い始めてから、コッコに触っても鳥肌が立たなくなっちゃったの」
「え? どうして?」
「水が身体にいい成分を含んでいるんでしょうね。他にも、関節の痛みがなくなったり、皮膚病が
治ったりした人が、村には何人かいるわ」
「へえ……」
「人だけじゃなくて、コッコの方にもいい影響があったみたい。カカリコ村のコッコは卵や肉の
質が高いって、最近、この地方じゃ引っ張りだこなのよ。それに、ほら、あのコッコを見て」
 群れの中の一羽を手で示す。
「あれだけ他のコッコより小さいでしょう?」
「ほんとだ」
「近頃は、時々、ああいうのが生まれるの。専門の人に言わせると、やっぱり水が影響したんだろうって。
性質がおとなしいから、こんなふうに……」
 席を立ち、当該のコッコを抱え上げる。
「腕にとまらせることだってできちゃうのよ。居眠りしてる飼い主を鳴き声で起こしてくれたりも
してね。それで、手乗りコッコと呼ばれて、ペットとして高値で取り引きされてるの。それや
これやで……」
 ベンチに戻って説明を締めくくる。
「カカリコ村は、かなり豊かになったわ。新しい井戸が、本来の意味でも、経済的な意味でも、
村を潤してくれてるっていうわけ」
 加えて──と、アンジュは心の中で述懐を続ける。
 コッコは予想外の恵みをわたしの身内にもたらした。
 ある時、思いもかけず生まれてきた、手乗りコッコにも増して珍しい青色のコッコに、怠け者で
通っていた兄が、なぜか──仲間らと毛色が違う点を自分の孤独に重ね合わせでもしたのか──
いたく執着してしまい、コジローという名前までつけてかわいがるようになった。それが元で
動物全般に求知心を持ち、いまでは育種家として熱心に働いている。
 のみならず……

960PS-08 好機を逸さぬお姫様 (3/28) ◆JmQ19ALdig:2010/07/25(日) 03:02:50 ID:pYOHiZQA0
「実は、わたしにも、いいことがあったの」
 今度は言葉としてリンクに伝える。
「アンジュにも? どんなこと?」
 興味をあらわにするさまが微笑ましく、
「この家ね……」
 母屋を指し、わざと勿体ぶった言い方をする。
「いまは、わたしの家じゃないの」
 不思議そうな顔をするリンクに、
「家族はみんな、前のとおり、ここに住んでるわ。でも、わたしだけは別の所で暮らしてるの。
時にはこうしてコッコの世話をしにここへ来るけど、夕方になったら自分の家に帰るのよ」
 なおもまわりくどい表現をしてみせる。
「アンジュだけが引っ越ししたっていうの?」
 ますます怪訝の色を濃くするリンク。
 気性がまっすぐなだけに、察しはよくない。焦らすのはほどほどにしておこう。
「わたし、結婚したの」
 リンクの顔が驚きに満ち、次いで、
「おめでとう!」
 混じりけのない喜びをあふれさせた。
「あの人と?」
「そうよ」
 だいぶ前から婚約はしていた。リンクも相手の人物を知っている。わたしより少し年上で、
養鶏を営む優しい青年。昨今のコッコ景気で蓄えができ、二人で暮らしてゆける目途がついたのだ。
わたしが苦手意識なくコッコを世話できるようになったことも、結婚に踏み切る好材料だった。
「いつ?」
「四ヶ月前」
「じゃあ、まだ新婚さんなんだ」
 冷やかしめいた言ではあったが、声の調子は温かかった。それまで示されていた子供らしい
快活さとは異なる趣がうかがわれた。アンジュは少しく奇異の念をもってリンクの面貌に見入った。
 微笑みがあった。
「アンジュ」
「なに?」
「幸せ?」
「ええ」
 正直に答えながらも、アンジュはいぶかしんだ。静かに問う声と、慈しむような色合いを湛えた
目に、やはり子供らしからぬ風情が──例の大人びた雰囲気が──感じられたのだった。
「そうだよね」
 しみじみと、リンクが言う。
「好きな人と、気兼ねなく、ずっと一緒に暮らしていけるというのは、幸せなことだよね」
 いぶかしさがいっそう募った。
 わたしの結婚を祝福してくれている……のは間違いない……のだろうけれど……
 まるで懐かしい者でも見るかのような……わたしの知らないもう一人のわたしを見るかのような
……リンクの、この眼差しは……いったい……
『考えすぎだわ』
 わたしの知らないわたしなどありはしないし、ましてやリンクがそんなわたしを見られる
はずもない。

961PS-08 好機を逸さぬお姫様 (4/28) ◆JmQ19ALdig:2010/07/25(日) 03:03:48 ID:pYOHiZQA0
『それにしても……』
 いまの台詞。
『子供のくせに、いっぱしの口をきくのね』
 問うてみる。
「リンクにも好きな人がいるの?」
 もちろん、肯定を予想してはいなかった。恋愛の経験があるわけでもなかろうに、という揶揄を
こめての戯言だった。
 ところが、
「うん」
 意外にもリンクは頷くのである。
「ほんとに? ただの友達じゃなくて? どんな人?」
 思わず質問を畳みかけてしまう。その勢いに押されたか、リンクはどぎまぎした様子となり、
「あ、いや……それは……」
 頬を赤らめて羞じらう気色をも呈し、
「……ちょっと……言えないよ……」
 ぼそぼそと声を消え入らせる。
 アンジュは追及しなかった。
 興味は湧くが、強いて聞き出すほどのことでもない。この年齢なら──確か、リンクは十二歳
──どうせ、恋愛の域にはほど遠い、ほのぼのとした、ままごと的なつき合いがせいぜいだろう。
あるいは単なる片思いかもしれない。
「でも、まあ、何というか、新しい井戸が──」
 唐突にリンクがしゃべり始めた。
「──この村の……つまり……水源として、見つかったのは……幸せだと、思ってたけれど、
他にも、健康のこととか、コッコとか──」
 笑い出しそうになる自分を、どうにかアンジュは抑えた。
 無理に言葉を繋げたような、ぎくしゃくした物言い。照れて話をそらせようとしているのだ。
かわいいリンク。
「──それで、村も、アンジュも、幸せなのは、やっぱり、インパが……あ、いや、ええと……
とにかく……よかったなと……」
「そうそう、インパ様といえば──」
 なぜリンクはその名前を出すのか──との不審は、アンジュの意識にとどまらなかった。
より重要な一件を思い出したのである。
「もうすぐだわね」
「え? 何が?」
「お里帰りよ」
「カカリコ村に来るの?」
 寝耳に水といった態のリンク。
「知らなかった? リンクはたびたびお城へ行ってて、インパ様にも会うんでしょうに」
「しばらく旅をしていたから、最近の事情には詳しくないんだ」
「あ、そりゃそうよね。じゃあ、ゼルダ様がおいでになるのも知らない?」
「ええッ!?」
 リンクが大きく目を見張る。
「どういうこと?」

962PS-08 好機を逸さぬお姫様 (5/28) ◆JmQ19ALdig:2010/07/25(日) 03:04:55 ID:pYOHiZQA0
 アンジュは経緯を略説した。
 ──近年、国王の名代で、たまさかには地方を訪問する折りもあるゼルダ姫だが、ハイラル
北東部は未見の地である。今回、インパが休暇で里帰りするのを好機とし、ぜひ同行して
カカリコ村を訪れたいと希望した。国王はこれを許し、村に受け入れを要請してきた。王女様の
ご滞在という栄誉を担えるとあって、村人たちに否やのあろうはずもなく、みな大喜びで、
いまかいまかとその時を待っている。国王からの触書に、これは公式の行事にあらず、若輩の
娘がする私的な旅行に過ぎぬゆえ、大がかりな接待は不要、と記されていたにもかかわらず、
歓迎の意を表するのに躊躇を差し挟もうとする者はいない。大工をなりわいとするアンジュの
父親などは、迎賓館を建てるのだと息巻いたくらいである。もっとも、そんな時間的余裕はなく、
村を挙げての宴席を設けるというあたりに話は落ち着いたのだった──
「いつなの?」
「一週間後よ」
「どこに泊まるのかな?」
「インパ様のお家ですって。ああ、そうだわ、そろそろそっちの準備をしないと……」
「準備って?」
「お掃除したり、ベッドを整えたり、飾りつけしたり。わたしの受け持ちなのよ」
「家の中に入れるの?」
「インパ様のお許しは貰ったし、鍵は守備隊長さんが預かってるから、それは大丈夫。でも、何を
どういうふうにしたらいいのか……」
 不安が発問を促した。
「リンクはゼルダ様に会うことがあるの?」
「まあ……たまにはね」
「ゼルダ様って、どんな感じのお部屋がお好みなのか、知ってる?」
「うーん……好みとか、そのあたりは、ぼくには……」
『わからないでしょうねえ……』
 男の子に女性の好みなど把握はできまい。いわんや貴人のご趣味をや、だ。たまに会うとは
言っているものの、いくら「王家の使者」であっても、王女様と大した接点があるわけでは
なかろうし。
「できる範囲でやればいいんじゃないかな。あまり深刻にならないでさ」
 こともなげなリンクの弁。なんとも能天気で参考にならないと、一瞬は思ったアンジュだったが、
『そうだわ』
 すぐさま考えを変えた。
 接点が乏しいにせよ、ともかくもリンクはゼルダ姫を知っているのだ。そのリンクが深刻に
なるなと言う以上、ゼルダ姫は細かいことにうるさくこだわるような気質ではないのだろう。
忠告のとおり、自分にできる範囲でもてなそう。心をこめて。しかし気は楽に持って。となると……
「ねえ、リンク」
 急きこんで訊く。
「これからの予定は?」
「ハイラル城に帰るつもりだよ」
「じゃあ、とんぼ返りになって悪いんだけど、できたら一週間後にもう一度こっちへ来て、
ゼルダ様との仲立ちをしてもらえないかしら。どう?」
 仲立ちならインパや守備隊長にも可能なところを、わざわざリンクに頼むのは、気安く当てに
できる相手だからである。もっともリンクは、種々の功績と人なつこい性格ゆえにカカリコ村でも
人気者となっており、アンジュだけでなく住民全般と親しく交流しているので、実際、仲立ちに
好適な人物ではあるのだった。
「わかった。ぼくでよければ」
 リンクの快諾にアンジュは心強さを覚え、
「ありがとう」
 と礼を述べつつ、準備の手筈を頭に描き始めた。

963PS-08 好機を逸さぬお姫様 (6/28) ◆JmQ19ALdig:2010/07/25(日) 03:06:02 ID:pYOHiZQA0
 そして当日の午後──
「私的な旅行」とはいっても、王女様のそれともなると、下々の者が旅するのとは事情が異なる。
カカリコ村に到来したのは、総勢五十人にも及ぶ大集団だった。地方の小村が一度に引き入れる
客としては異例の人数である。
 住民たちの代表数名と守備隊長が、村の入口で一行を出迎えた。歓迎の辞を述べたのは
アンジュの父だった。平素より村の諸事をうまく取り仕切ってきた経歴から、代表の中の代表と
なるのを誰もが妥当と考えた、この大工の親方も、事前には応対の方法に迷い、地面に平伏して
お迎え申し上げるべきか、と守備隊長に訊ねたほどである。そこまではせずともよいとの返事を
貰って、立ったままでの演説とはなったが、饗応役の一人として同じ場にいたアンジュの目にも、
父親の緊張ぶりは歴然としていた。高貴なお方との対面は初のことゆえ、やむない仕儀では
あるものの、端で聞いていて、はらはらするくらい、その口調は拙く、たどたどしい。
 そんな緊張を解きほぐしたのは、他ならぬ「高貴なお方」が、温雅な笑みとともに返して
よこした答礼だった。涼やかな声で、流暢に、ただしあくまでも真摯に語られる内容は、歓迎に
対する謝意の他、自分のわがままで住民の手を煩わせる羽目になったのを詫びる弁をも含んでいた。
事実、そう言いながら、語り手は深く頭を下げさえした。年端もゆかぬ身であることをわきまえた
上での言動とは思われたが、それでも、王族であるのに偉ぶらない、むしろ謙虚に過ぎるとも
いえる態度は、アンジュの──そして、アンジュが見るところ、そこにいる全員の──心を
安らがせた。
 しかし、眼前にあるのが、一般の少女とは隔絶した存在であることも、また、確かなのだった。
立ち居振る舞いから自ずと醸し出される気品や、いまだ若年にしてこれならば成人する頃には
どこまでに達しようかと嘆じずにはいられない美貌は、余人が競える範疇をはるかに超えている。
 好意と敬意が入り混じってアンジュの胸を満たした。感動的ですらあった。
 そうこうするうちに挨拶の交換は終わった。歓迎される側に随行していた護衛の兵士らは休息を
与えられ、村に駐留する守備隊と合流すべく、ぞろぞろとその場を去っていった。アンジュは
当惑した。一行のうち、そこに残ったのが、ゼルダ姫、インパ、リンクの三人だけだったからである。
 多数の護衛が必要なのは当たり前としても、付き従うのが兵士のみとは……
 同様の当惑を覚えたらしい父が、おずおずと質問を口にする。
「あのう……侍女の方とか、姫様のお世話をなさる人は、いらっしゃらないので?」
 にこやかに返事がなされた。
「侍女は連れてきておりません。ただでさえ多くの人数がご厄介になるのです。この上、わたし
ひとりの役にしか立たない者を加えて、村のご負担を増やすわけにはゆきませんから」
「では、うちの娘にでもお手伝いを……」
 との提案も、
「どうか、おかまいなく」
 丁重に遮られる。
「たいていのことは自分でできますし、インパもいてくれます。お申し出はたいへんありがたく、
お断りするのがまことに心苦しくもあるのですが、人に頼るばかりであってはならないと常々
思っておりますので、そこをご勘案くだされば……」
 謙虚な上に、存外、自立しておられる──と、アンジュは重ねて感嘆した。
 一行の乗り物に馬はあったが、馬車や輿のたぐいはなかった。王女様が徒歩とは考えられないから、
騎馬で旅してこられたのだろう。じきじきに馬を操るほどの活発さを、この年若い姫君は有して
いるのだ。そんなところも自立精神の表れか。
 父も納得したようである。
「承知いたしました。ですが、もしお困りの点でもございますれば、ご遠慮なく、何なりと
お申し付けくださいまし」
「はい。その節は、よろしく」
「で、いまから姫様もご休憩なされますか?」
「ええ、できましたら」
「娘がご案内を仕ります。いや、これについては、どうぞお聞き入れを。ご滞在のお部屋を
整えましたのが娘でございまして、せめていっときのご接待くらいはさせていただきたいと……」
「わかりました。お願いします」
 親方は安堵の表情となり、自分は宴席の設営を監督しなければならないから、と言い置いて、
他の代表らとともに広場の方へ去った。

964PS-08 好機を逸さぬお姫様 (7/28) ◆JmQ19ALdig:2010/07/25(日) 03:07:06 ID:pYOHiZQA0
 あとを一手に引き受けさせられる次第となったアンジュは、しかしそれを不服とは思わなかった。
父が忙しいのは事実であるし、また、休憩の場に大勢が押しかけたのでは休憩にならない。加えて、
準備した饗応の品は自らの手で献じたいという気持ちがアンジュにはあった。単独で王女様に
相対し、和らいでいた緊張がぶり返しそうにもなっていたが、その比類ない魅力に接していられる
嬉しさの方が大きかった。
 そうした前向きの心情を、さらに後押しする要素もあった。リンクである。迂闊な父親に
「娘」としか呼ばれず、中途半端な立場となっていたアンジュを、リンクは正式な形でゼルダ姫に
紹介し、仲立ちの役割を果たしてくれたのだった。結果、先ほどの挨拶では村全体に向けて
贈られた、出会いの喜びと歓迎への感謝に満ちた言葉を、再び──あまつさえ、このたびは一身に
──受けることとなり、アンジュの感動は強まった。
 ただ、紹介に際してリンクが示した態度は、一種、滑稽な印象をアンジュに与えた。リンクと
いえどもゼルダ姫との会話では、さすがに敬語を使用していたが、アンジュが初めて聞くリンクの
それは、あからさまにぎこちなく、不自然だった。敬語を使い慣れていないのが明白であり、
従って、やはりリンクはゼルダ姫と話すことがめったにないとわかるのである。
 とはいうものの、そうまでして紹介の労を取ってくれたのだから、リンクへの好感は増しこそすれ、
決して減じはしない。あとでぜひお礼をしなければ──と、三人の前に立ってインパの家へ
向かいながら、アンジュはひそかに思いを定めた。
 一方では、別個の印象がアンジュの意識を捉えていた。
 わたしがリンクに対して持つ好感と、ゼルダ姫に対してのそれとが、妙に重なり合うような
気がする。つまり二人には何らかの共通点があって、そこにわたしは惹かれているらしいのだが、
では、その共通点とは何なのだろう。
 ゼルダ姫は十二歳と聞いている。リンクとは同い年だ。しかし年齢は表面的な共通点でしかない。
いくら同い年であれ──リンクは「弟」と見なせても──ゼルダ姫を「妹」とはとうてい見なせない。
身分があまりにも違いすぎる。そうではなくて、わたしが感じているのは……もっと……
 検討は続けられなかった。目的地に到着したのである。自分の手でもてなしたいと思いつつも、
かねてから並行して抱いていた不安が、アンジュの胸中で頭をもたげた。
 田舎暮らしのわたしは、ハイラル城の中はおろか、その外壁さえ見たことがないけれども、
おそらくは内外ともにすこぶる壮麗であるだろう。そんな所に住むお方が、果たしてこちらの
接遇に満足するかどうか……
 それでも、リンクの言葉を信じ、壮麗さでは初めからかないっこないと開き直りもし、できる
範囲で準備をした。清潔を第一に心がけ、装飾はせいぜい花を生ける程度にとどめた。他人の家を
大幅に模様替えするわけにはいかないし、どうせそうするだけの元手もないのだ。
 なおかつ、不安を弱めてくれる事柄もある。
 ゼルダ姫の風体。
 白と紫を基調にした清楚な服。上質ではあるが華美に偏してはいない。同配色の頭巾は聖的な
しるしとも見え、慎み深さをうかがわせる。あまり派手好みではないのだろう。となれば、質素な
もてなしにも理解を示してくれるのではあるまいか……

965PS-08 好機を逸さぬお姫様 (8/28) ◆JmQ19ALdig:2010/07/25(日) 03:08:15 ID:pYOHiZQA0
 観測は当たった。居間に入って椅子に腰を下ろしたゼルダ姫は、室内の地味さを気にする
模様もなく、逆に、落ち着いてくつろげる素敵な部屋だと賛辞を呈した。それだけなら家の主である
インパへの言ともとれたが、次には、卓上や窓際に置かれた花瓶に目を留め、生けられた花卉の
瑞々しさや色鮮やかさを賞美し、心尽くしに感謝する旨を、他の誰でもないアンジュに伝えてきた。
準備にあたり特に配慮した点を評価してもらえて、アンジュはようやく不安を解き、また、先に
倍する嬉しさを覚えた。
 その後、嬉しさはさらに倍増した。茶とともに献じた饗応の品が、思いのほかゼルダ姫の嗜好に
合ったようなのである。それはある種の焼き菓子で、料理をあまり得意としないアンジュが、
結婚ののち、夫のためにと頑張って会得した献立の一つだった。美食に慣れた貴人の舌を
満悦させるほど洗練された味ではないはずだが、むしろ野趣に徹したところを気に入って
もらえたらしい。いつもは愛想なしのインパまでが褒めるので、実際に良好な出来映えであること、
ゼルダ姫の賞揚も単なる社交辞令ではないことがわかる。アンジュは天にも昇る心地となった。
 ただ、喫茶に際してゼルダ姫に同席を求められたのは意外だった。王女様と向かい合って一つ
テーブルにつくなど非常に僭越とは思われたけれども、せっかくの勧めであるから、言われる
とおりにする。リンクが断りなくそうしているのにも勇気づけられた。もっとも──姫君との
同座に慣れていないせいだろう──黙しがちのリンクと同じではいられなかった。ゼルダ姫が
さまざまな話題を提示してくるのである。話しぶりはたいそうこまやかで、温かい気分を誘われる。
訊ねられるままにアンジュは語った。
 自分のこと。家族のこと。夫のこと。家業のこと。
 ゼルダ姫は養鶏という仕事に関心を示し、その実態を知りたがった。とりわけ手乗りコッコに
興味を惹かれたとみえた。アンジュは夫が営む養鶏場の見学を提言し、それは即座に同意された。
王女様と親しく話ができただけでなく、我が家にお招きする機会まで得られたのは、アンジュに
とって欣幸の至りといえた。ただし実施は翌日まわしとなった。すでに日は傾き始めており、
夜には歓迎の宴が控えてもいて、そうするだけの時間がなかったのである。
 とはいえ、なおしばらく座談を続けるだけのいとまはあった。ゼルダ姫はコッコの経済的効果を
話柄とし、カカリコ村が好況にあることを寿いだ。のみならず、その好況が近隣の地域に、
ひいてはハイラル全土に及ぼすと予想される影響につき、インパを相手に論じ始めた。巨視的すぎて
アンジュにはついてゆきかねる内容だったが、王国の現状を分析し、よりよい未来のために
役立てようとする熱意はひしひしと伝わってきた。さすがは王女様とアンジュは何度目かの感嘆を
覚え、少女らしからぬ理知的な面にも新たな魅力を見いだしたのだった。

966PS-08 好機を逸さぬお姫様 (9/28) ◆JmQ19ALdig:2010/07/25(日) 03:09:53 ID:pYOHiZQA0
 宴はカカリコ村が始まって以来の盛大さであった。ゼルダ姫とインパはもちろん、護衛の
兵士ら全員が招待され、村の側も成人のほとんどが参加したからである。一つの建物で催すのは
とうてい不可能な規模であり、よって、村の広場にテーブルと椅子を並べ立てての、いわば
園遊会的な様式となっていた。
 そこでもアンジュはゼルダ姫と同席した。ともにテーブルを囲んだのは、インパ、リンク、
守備隊長、そして大工の親方である。親方は当初こそ恐縮していたものの、ゼルダ姫の物腰が
柔らかいのに安心してか、徐々に日頃の地を現し始め、数杯の酒が喉を過ぎる頃には、言葉遣いが
すっかりくだけてしまっていた。そんなさまを見て、自分らも王女様とお近づきになろうとする
村人たちが、厚かましくも次々に寄ってくる。ご機嫌が損なわれるのではとアンジュは気が気で
なく、折りをみてゼルダ姫に、父をはじめとするみなの不作法を小声で詫びた。ところが先方は
実に鷹揚だった。
「堅苦しい儀礼は抜きでかまいません。ありのままのみなさん方と接していたいのです。こういう
気のおけない集まりは、城ではほとんど経験できませんし」
 ゼルダ姫は微笑みながら返事をし、静かな声であとを続けた。
「各地に住む方々と広く積極的に交流して、その暮らしぶりに通じようと努めている人が、
わたしの知り合いの中にいます。わたしもそれに倣うべきだと思ってきました。城に閉じこもる
ばかりでは、国の実状が見えなくなってしまいますから」
 アンジュは改めて胸を打たれた。
 淡々とした発言だが、内含される意志は限りなく高邁だ。しかも口だけではない。ゼルダ姫は
自らの意志を現実の行動にしている。コッコの件がそうだった。そして、いまも……
 押しかける人々に対して嫌な顔ひとつせず、丁寧に、親しげに会話を交わし、聞き取った彼らの
生きざまを深く賞翫するふうのゼルダ姫である。また、誰をも分け隔てしないそのあり方は、
気品や美貌とも相まって、村人たちの心をすっかり捉えたようだった。無礼講ゆえ馴れ馴れしさも
当たり前といった雰囲気の中で、それでもなお、敬愛の情を真率に抱かぬ者は一人としてあるまい
とアンジュには思われた。
 かくして賑やかに、かつ和やかに時は過ぎ、やがて会場の様相は次第に変化し始めた。ゼルダ姫を
取り囲んでいた群衆が、気づけば数を減らしている。宴が終わりに近づいたわけではない。逆に
賑わしさは増す一方である。村ではいまだかつてなかった大宴会とあって、一同の浮かれ気分も
高まりきっており、ただ、その気分の対象が、いつしか主賓から多彩な事柄へと分散して、
それぞれに熱中する種々の人数の集団を、そこここに分立させる状態となっていたのだった。
 たとえば、護衛の兵士たちは、守備隊の面々と入り混じって、彼らにしかわからない軍の
内輪話に興じている。いまはハイラル城とカカリコ村に別れていても、元は同じ隊の仲間だったと
いう関係が稀ではないらしく、そんな者同士が久闊を叙するには、まさに絶好の場といえる。
守備隊長にしてからが、酒も手伝ってか、いつになく興奮気味に、インパと戦術論を取り交わして
いる。村人たちも然りで、仕事、遊興、家庭、社会情勢など、とりどりの放談に余念がない。

967PS-08 好機を逸さぬお姫様 (10/28) ◆JmQ19ALdig:2010/07/25(日) 03:11:03 ID:pYOHiZQA0
 頃合いとみて、アンジュは席を離れようとした。
 好きなだけ飲み食いしていればよい男たちとは違い、女たちには賄いという役目がある。無論、
せっかくの宴会で、裏方に専念したがる奇特な者はいないから、各人が交代で仕事を分担しようと、
事前に取り決めがなされていた。饗応役のアンジュも例外ではなかった。実家の母親に引き継ぎを
頼まれており、その刻限が近づいていたのである。
 ところが意図したとおりにはできなかった。
「すまないが……」
 と、インパにささやかれたのだった。
 ──楽しさのあまりか、どうやら姫様は、少々、御酒を過ごされたようである。さしあたり
お休みいただくのがよかろうと考える。ついては、滞在所へお連れしてはもらえまいか──
 アンジュは話題の主に目をやった。
 未成年でありながら平然と飲酒するゼルダ姫を風変わりと思う一方で、王族とはそんなもの
なのかもしれないと納得もしていた。が、いま見ると、なるほど、顔色に翳りがうかがえる。旅の
疲れも加わっているようだ。
「それに、羽目をはずしすぎて、よろしくないことを口走る者もいるのでな」
 言われてみれば、確かに、年若い王女様の耳に入れるのが憚られる、猥雑な色話が聞こえてくる。
 ここは引き受けるべきか。しかし仕事の引き継ぎも気にかかる……
「インパ様はどうなさいますの?」
「私は──」
「インパ殿!」
 いきなり守備隊長が割りこんできた。
「話は終わっておりませんぞ。カカリコ村が敵を迎え撃つとしたら、どんな戦法が最善なのか、
ぜひともご高説をお聞かせ願いたいですな」
 こんなありさまだから──と言いたげにインパは苦笑し、次に、頼むといった調子で片手を顔の
前に立て、その格好のまま、上機嫌の守備隊長に引っぱられていってしまった。
 やむなくアンジュは予定を変えた。身内である母との約束と、村の恩人であるインパの依頼。
どちらを優先すべきかとなれば、当然、後者である。
 声をかけると、ゼルダ姫は神妙に頷いて椅子を離れた。すでにインパから言い含められていた
らしい。ただ、インパが口にしなかった一つの点を、ゼルダ姫は指摘した。
「リンクも一緒の方がよいと思いますが」
 アンジュは同意した。
 年少者に不適な話が飛び交う場所を避けさせようとの配慮は、リンクにもなされて然るべき。
 そのリンクは、初めのうちこそ、仲立ち役としてゼルダ姫と村人たちの間を取り持ってくれて
いたが、座の人数が増えたため、場所を譲って別のテーブルに移動していた。いまもそこにあって、
心なしか、手持ち無沙汰な風情である。アンジュが簡単に事情を説明すると、リンクも否とは
言わず、素直に席を立った。

968PS-08 好機を逸さぬお姫様 (11/28) ◆JmQ19ALdig:2010/07/25(日) 03:12:06 ID:pYOHiZQA0
 三人はインパの家へと移り、居間に腰を落ち着けた。
 飲用にと、とりあえずゼルダ姫に水を供したアンジュは、しかし、その先の行動に迷った。
 悪酔いしているのでもなさそうなゼルダ姫だが、口数は少ない。気分が優れぬのであれば、
わたしがいると、かえって煩わしかろう。会話が弾まないから、こちらとしても、何となく、
いたたまれない感じになってくる。いっそ、この場を離れようか。お連れしてくれとは頼まれた
けれども、続けて侍っておれとは言われていないのだし、母との約束もあることだし……いや、
それでも……
 迷いが態度に出てしまったものか、ゼルダ姫が気遣わしげに訊いてきた。
「ひょっとして、何か他にご用事があったのでは?」
 言い当てられて、しかたなく、
「実は──」
 と、賄いの件を告白する。
「それでしたら、どうかお仕事に戻ってください。わたしのことは気になさらず」
「ですけど、姫様をここにお残ししてしまっては、用心の点で行き届きませんわ」
「ご心配なく。リンクがいてくれますから」
『そう言われれば……』
 子供とはいえ「勇者」たるリンクなら、仮に誰かがこの家に侵入しても──平和なカカリコ村で
そんな椿事が起こるはずもないが──しっかりゼルダ姫をお守りしてくれるはず。
 リンクに目を向ける。力強い頷きが返ってきた。任せてくれとの身ぶりである。
 アンジュは心を決めた。そこから去る失礼を謝し、一時間ほどで帰ると告げ、念のため玄関の
戸に内から閂をかけるよう勧めておき、二人を置いて居間を辞した。
 玄関を出ようとして戸を開く。そこで思いついたことがあった。
 ゼルダ姫は先に就寝するかもしれない。寝室にも水を用意しておいた方がいいだろう。
 いったん開いた戸を閉め、台所に赴く。水差しとグラスを用意し、寝室に運ぶ。ついでに
ベッドを整え直す。
 作業を終えて玄関に戻ると、戸に閂がかかっていた。
 二人が勧めに従ったとみえる。戸を開閉した物音を聞いて、わたしが去ったと誤認したのだ。
寝室にいるとは思いもしなかったらしい。
 準備の際、守備隊長から渡されたこの家の鍵は、もうインパに返してある。閂をはずして外に
出てしまうと、あとの戸締まりができない。出入りできる場所としては、もう一つ、勝手口が
あるが、外からの施錠が不能な点は同じだ。まだ去っていなかったことを二人に話して、いま一度、
閂をかけてもらわなければ。
 アンジュは居間の方へと立ち返った。ドアが閉まりきっておらず、廊下に灯火が漏れ出ている。
その光の範囲に達する直前で、足は止まった。室内からリンクの大声が聞こえてきたのだった。
「えッ? 酔ったっていうのは嘘だったの?」
 発言の内容にも増して、そのぞんざいな口ぶりが、アンジュを驚かせた。
「わたしがあれしきのお酒で酔うと思った? それに、嘘はつかなかったわ。ちょっと話をやめて、
考えごとをしていたら、インパが勝手に酔ったと勘違いしたのよ」
 いかにもおかしそうに応じる声が、驚きに輪をかける。
 ゼルダ姫も丁寧語を使わない。さっきまでの二人とはまるで様子が違う。これはいったい
どうしたことか。

969PS-08 好機を逸さぬお姫様 (12/28) ◆JmQ19ALdig:2010/07/25(日) 03:13:05 ID:pYOHiZQA0
「でも、インパの勘違いを、君は正さなかったんだよね」
「酔っていないなんて言ったら、この家へ来られなくなってしまうでしょう? 一応、他にも
わたしを休ませたい理由はあったみたいだけれど」
「なぜそんなにまでしてここへ来たんだい?」
「わからない?」
「わからない」
 間があってのち、ゼルダ姫が、はにかんだふうに言う。
「あなたと二人きりになりたかったから」
 再び間があき、今度はリンクが、口ごもりながら──
「……ぼくを、連れて行けと、アンジュに言ったのは……そういうわけ?」
「ええ」
「……アンジュを、仕事に戻らせたのも?」
「ええ」
 ──そして、あきれたように言葉を連ねる。
「ずいぶん大胆だなあ」
「今回は別荘に行く暇がなかったんだもの。あなたも残念がっていたじゃない」
「そりゃあ、ぼくだって……だけど、旅先なのに、そこまでするのは……」
「いまならお城より安全なくらいよ。みんな宴会で盛り上がっていて、わたしたちのことなんか、
誰も気にかけていないし」
「インパが気にかけてるだろう」
「あなたがここにいるのを、インパは知らないわ。あなたも一緒の方がいいとわたしがアンジュさんに
言ったのは、インパと別れたあとだから」
「アンジュがインパに知らせるんじゃないかな」
「賄いをしているうちは、知らせる暇もないほど忙しいでしょうね」
「ぼくが会場にいないのを、インパが怪しむかも」
「あそこは人が多くて、誰がどこにいるのかわからないありさまだったわ。あなたが見つからなくても
怪しんだりはしないはずよ」
「やれやれ……すべて想定ずみってわけかい? 悪知恵が働くお姫様だ」
「まあ、悪知恵だなんて、失礼ね。『機を見るに敏』と言ってちょうだい」
 二つの忍び笑いが重なり合う。
 ようやくアンジュは実状を把握し始めていた。
 つまりこの二人は仲のいい友達同士だったのだ。リンクが敬語を使い慣れない感じだったのは、
ゼルダ姫と話すことが稀だからではなく、いつも敬語抜きで会話を交わす間柄だったからだ。
「それはそうと、昼間はびっくりしたわよ。もう少しで吹き出すところだったわ。あなたがやけに
恭しくするせいで」
「ハイラル城ならともかく、よそで打ち解けたしゃべり方をするのは、やっぱりまずいだろう?」
 そう、こんな具合に対等の口をきき合う二人を見たら、村人たちは多大な不審を抱いたに
違いない。ゼルダ姫の評判にも影響が及びかねない。そのように考え、今日、リンクは敢えて
敬語を使用し、二人の関係を秘そうとしたのだ。
 両人に欺かれた形のわたしだが、腹は立たない。自分たちの仲を守るに、そして自分たちの
時間を持とうとするにひたむきな、この二人なのだと思うと、むしろ微笑ましい気持ちになる。
他面では──

970PS-08 好機を逸さぬお姫様 (13/28) ◆JmQ19ALdig:2010/07/25(日) 03:14:06 ID:pYOHiZQA0
「あなたも考えてくれているのね」
「それくらいは考えるさ。けれど、いつもまわりの目を気にしていなくちゃならないってのは、
正直、疲れるよ」
「そうねえ……」
 ──同情も湧く。十二歳の少年少女であれば、ざっくばらんに話をする方が自然だ。なまじ
一方が王女様であるため、この二人は不自然なつき合いを強いられている。普通なら無心に
遊び合える年頃なのに。
「でも、いまは、わたしたちだけだわ」
「アンジュが帰ってくる一時間後までは、ね」
「その一時間を、有効に……」
「使おうか」
 わたしはここにこうして立っているのだが──と、アンジュは胸の内で独り言ち、おのれがいる
状況の微妙さを認識した。
 居間に入りにくくなってしまった。子供がするかわいらしいやりとりではあっても、せっかくの
逢瀬を邪魔するのは悪い気がする。それに、いまわたしが姿を見せれば、二人は大いに動揺する
だろう。自分たちの関係がばれたと悟るかもしれない。そうなってはかわいそうだ。とはいうものの、
戸締まりのことを考えると、このまま家を出るわけにはいかない。
 どうしよう。
 入りやすい空気になるのを待つか。しかし、時が経てば経つほど、わたしが家の中に残っている
ことの奇妙さが強調されてしまう……
 ──と困惑する一方で、アンジュはなにがしかの違和感をも覚えていた。二人が使う言葉の
端々に、「かわいらしいやりとり」では説明できない意味深な趣が感じ取れたのだった。
(旅先なのに、そこまでするのは……)
 何をするつもりなのか。
(その一時間を、有効に……)
(使おうか)
 どんなふうに使おうというのだろう。
 気がつくと、話し声が聞こえなくなっていた。無言で何かが行われているのである。
 一段と好奇心が刺激された。
 アンジュは忍び足で前に進んだ。こんなことをするのは礼儀に反すると自らを諫めながらも、
室内の現況を確かめるためなのだと理由をつけ、ドアの隙間に目を当てる。広い視野は得られない。
それでも目的のものは観察できた。

 仰天した。

 正面にあるテーブルの向こう側。先刻は離れていた二つの椅子が、いまはぴったりと隣り合わされ、
壁を背にしてそこに坐す二つの身体も接着している。こちらから見て右にリンク。左にゼルダ姫。
リンクの右腕はゼルダ姫の肩を抱き寄せ、ゼルダ姫の左腕はリンクの背にまわされ、余った二つの
手は卓上で互いを握り、二つの顔は近々と相対し、その上、あろうことか、二つの唇は密に
重ねられている。

971PS-08 好機を逸さぬお姫様 (14/28) ◆JmQ19ALdig:2010/07/25(日) 03:15:08 ID:pYOHiZQA0
 アンジュの脳は紛乱した。
 信じられない。だがこれは現実だ。この二人は友達同士どころではなかった。それ以上の……
ああ、やっとわかった。どうしていままで思いつかなかったのか。リンクの好きな人というのは
ゼルダ姫だったのだ。しかも、ままごと的なんかではなく、片思いでもなく、恋仲としか
呼びようのない関係。リンクが相手のことを話さなかったのも道理だ。ハイラル王国の王女様が
恋人で──別の言い方をすればハイラル王国の王女様に恋人がいて──それも二人揃って未成年で、
未成年というばかりか十二歳の子供で、そんな二人がキスする間柄だなどと人に知れたら
大事件になる。好き合っているだけならわからなくもないけれど、十二歳でキスとはいかにも
早すぎる。わたしが初めてのキスをいまの夫としたのは十八歳の時だった。最近の子供は
ませている? 年齢にそぐわず大人びたゼルダ姫だから? リンクも稀に大人びた雰囲気を
漂わせるが、そのせいで……いや、逆に、ふだんからこういうことを──そう、二人を見れば
キスに慣れているとわかる──しているからこそ大人びてくるのか? どっちなのだろう。
どっちでもいい。そこが問題なのではない。問題はわたしの目の前でとんでもない事態が生じて
いるということで、わたしが大変な秘密を知ってしまったということで、いったいこれから
わたしはどうしたら……
 ちょっと待って。落ち着こう。大げさに考えすぎかもしれない。十二歳といえば思春期だ。
性への関心が起こり始める頃だ。たぶん二人はその関心が少しばかり強く、大人っぽく振る舞って
みたいと背伸びをしているのだろう。キスくらいで大騒ぎする必要もないのではないか……
 自らを説き伏せようとするアンジュの努力は不成功に終わった。二人の行為はますます濃厚に
なっていったのである。
 合わさっていた唇が離れたとみるや、次には舌と舌が絡み始めた。一方が他方の口中に押し入り、
ほどなく押し入られた方が押し入り返す。唇が舌を吸う。舌が唇を舐める。かてて加えて、
リンクは卓上で結ばせていた手をほどき、相手の胸へと差し伸ばしてゆく。そこを触る。撫でる。
揉む。そんな不埒な所行をゼルダ姫は拒もうともせず、
「ん……あぁ……」
 と切なげに呻きを漏らす。顔には陶酔の色が浮かんでいる。
 やがてリンクの左手が胸を離れ、ゆっくりと下降し、テーブルの陰に隠れた。かすかに衣擦れの
音がする。ゼルダ姫が接吻を中断した。首を半ば仰け反らせ、目を閉じ、口を開き、何かを
待ち受けるような緊張感を面に表す。刹那──
「あんッ! うぅッあッ! あぁあッ!」
 鋭い音声がその喉からほとばしり出た。眉間に皺を寄せている。苦痛を訴えているかに見える。
しかし内にある感覚が苦痛ならぬ快美であることは、あとに発せられる喘ぎのなまめかしさで
容易に推断できた。
 悶えるゼルダ姫をリンクは右腕で支え、もう一本の腕を下方での作業に勤しませ続ける。成果を
確認するつもりか、喜悦にゆがむゼルダ姫の顔を注視している。が、沈着なのでもないようだった。
リンクにも切迫の気配があった。いまにも興奮が溢出しそうにみえる。
 ──との印象は正鵠を射ていた。もう我慢できないといったふうに、リンクがゼルダ姫の耳元に
口を寄せ、何ごとかをささやいた。一瞬、戸惑いの気振りを示したゼルダ姫だったが、すぐに
蠱惑的な笑みを面差しに含ませ、テーブルに残していた右手を、リンクの左腕と交差させる形で
下に派した。再び衣擦れの音。今度はリンクが緊張状態となり、暫時ののち、ぴくりと胴を
震わせた。悩ましげでありながら、やはり快美の色調が浮き出ているその顔。けれども
ゼルダ姫とは違って声は出さない。耐えている。そして対抗の意図でか、いったん止めていた
左手の作業を再開させる。
 アンジュは絶え間のない驚愕に襲われていた。瞬きさえろくにできなかった。
 キスにしろ、愛撫にしろ、大人のやり方となんら変わらない。とすれば、下に伸ばされた二人の
手は、おそらくわたしが想像するとおりのことをしている──と思われるのだがどうだろう。
テーブルが邪魔してそれを目にはできない……

972PS-08 好機を逸さぬお姫様 (15/28) ◆JmQ19ALdig:2010/07/25(日) 03:16:36 ID:pYOHiZQA0
『だめ!』
 できなくていい。見てはならない。わたしはこの場を離れるべきだ。家を出てしまうのはまずい
としても、覗き見などという卑しい振る舞いはとにかく即座に打ち切って……
 ……なのに、ああ、なのに、わたしは足を動かせない。どころか、腰をかがめて、視点を下げて、
見えないものをわざわざ見ようとしてしまう。なぜなら──
 思考は妨げられた。テーブルの下の衝撃的な光景がアンジュの視界を占領したのだった。
 ゼルダ姫が纏う衣装の、履物に届くほど長い裾が、いまは腿まで捲り上げられ、白い長靴下に
包まれた両脚はしどけなく開かれ、その奥に眺められる、同じく白い下穿きの中で、リンクの
左手が蠢いている。ゼルダ姫の右手もリンクの股間にあって、こちらは下着の前開き部分から
棒状の器官を引き出し、そこにせわしなく玩弄を加えている。
 想像していたにもかかわらず、実際に見ると息が詰まりそうになる。心臓が破裂しそうになる。
 行い自体が驚きなのではない。この程度の性技ならわたしも夫としばしば施し合っている。
結婚前からやっていた。大人であればなんら珍しくない行為だ。ところが、現在、わたしの眼前で
それをしているのは──
「あ……」
 ゼルダ姫が不意を突かれたように小さく呟いた。
「リンク、あなた、生えて……」
 誇らしげに微笑むリンク。しかし言葉は控えめである。
「やっとね。だけど、君にはほど遠いよ」
「あら、わたしも、まだ、それほどは……」
 ──そう、あそこの毛も生えそろっていない子供同士。ましてや一方はこの国の姫君。そんな
二人が大人なみに性器をいじり合うなど決してあってはならないこと。あまりにも異常だ。
異常すぎる!
 アンジュは心の中で激しく言い立てた。が、室内に踏みこんで二人の行いを阻む気には
なれなかった。当事者の一人が王族だからとの遠慮だけが理由ではない。遠慮するならそこを
離れるという選択肢もあるのに、依然としてそうすることもできず、ドアの前にしゃがみ続けて
いる。「異常すぎる」二人のありさまに、かえって倒錯的な関心をかき立てられ、おのれの内に
じわりと染み広がる興奮にも焚きつけられて、この先どうなるかを見届けたいと思わずには
いられなくなっていたのだった。
「生えただけじゃないんだ。わかる?」
「ええ。ちょっと大きくなったみたいね」
「育つのは君の方が早かったけれど、これで合うようになったかな」
「あら、いままでだってぴったり合っていたわ」
「もっと合うかもしれないよ、いまなら」
「そうかしら」
「試してみるかい?」
「いいことよ」
「じゃあ、寝室……は、まずいか」
「ベッドを使ったりしたら、絶対、インパにばれるわね」
「なら……」
「ここで……」
「どこにせよ、ばれそうな気もするな」
「きちんと始末をしておけば大丈夫よ。それに、もしばれても弁明はできるわ。この家では
するなとインパに言われたわけではないから裏切りにはならないし、お城よりも安全なのは確かだし」
「だったらベッドでもかまわないんじゃ?」
「ばれないに越したことはないでしょう?」
「まあ……そうだね」

973PS-08 好機を逸さぬお姫様 (16/28) ◆JmQ19ALdig:2010/07/25(日) 03:17:47 ID:pYOHiZQA0
 意味ありげな会話である。アンジュの動悸はいっそう速まった。
 何が「大きくなった」のかは話の流れから明らかだ。しかし、それが「合う」とはどういう
意味なのか。ベッドでするか否か、ばれるか否かがが問題となる行為とはいったい何なのか。
 見当はつく。にしても……
 まだ十二歳の子供二人が、まさか、まさか、そこまでのことを……
 そのまさかだった。
 ゼルダ姫がリンクの股間に遊ばせていた右手を引いた。応じてリンクが左手を撤退させる。直後、
椅子の上にあったゼルダ姫の腰がわずかに浮き、両手と両脚が素早く動いた。捲り上げられていた
裾が元に戻ってしまったため、詳細を目の当たりにはできなかったものの、床に脱ぎ落とされた
小さい布片が、起こったことの本質を物語っていた。
 リンクが立ち上がり──テーブルと壁に挟まれた場所では狭すぎると考えたのか──椅子を
横方向に移動させた。それで視界が改善された。椅子にすわり直したリンクの全身が見える。
勃起したものが下着の前からあらわに突き出ている。取り立てて大きくはない。年齢相応と
思われる。が、先端を露出させていきり立つそのさまに、大きさを超えた迫力が感じられもした。
 そこへゼルダ姫が歩みを寄せた。婉然と笑みつつ裳裾を持ち上げ、ためらうふうもなく、
対面する形でリンクの膝に跨った。互いの両腕が互いを抱きしめる。上気した二つの顔が
至近距離で向かい合う。ゼルダ姫の腰がおもむろに沈んでゆく。
「あぁッ!」
「んッ!」
 短くも悦ばしげな二つの声が重なった。
 ゼルダ姫の衣服に隠れて肝腎の部位は見えない。けれども、そこがどのような状態にあるのかは、
もう想像するまでもなかった。きれぎれに交わされる言葉がアンジュの確信を裏づけた。
「ああ、素敵……リンク……」
「ゼルダ……ぼくも……」
「感じる……ぴったりだわ……」
「ほんと? 合ってる?」
「ほんとうよ……前より、ずっと……」
「全部? 奥まで?」
「ええ、全部……あなたで……いっぱい……」
 いまリンクはゼルダ姫の中にある! 二人は肉体を交わらせているのだ!
 婚約していた彼に処女を捧げた時、わたしは二十歳だった。奥手の方だ。村の女たちは
たいていもっと早くに体験する。それでも十二歳でというのは聞いたことがない。いや、キスに
限らずセックスにさえ慣れているとしか見えないこの二人は、ひょっとすると、もっと幼い頃から……
 アンジュの思念は統制を失った。すでに考えた内容、新たに考える内容が、渾然となって脳内に
渦を巻いた。
 ゼルダ姫は全身を凍りつかせている。リンクに貫かれる感覚を堪能しているのである。
アンジュはその心境を理解できた。二人がとっているのは女が男を体内の最も深い所に
迎え入れられる体位の一つであり、アンジュ自身も何度となく夫を相手に同じ体位で同じ感覚を
堪能してきたからだった。
 記憶がなおさら興奮を煽った。常にも増して身体がうずいていた。他者の性交を見るのは
初めてである。傍観者としての立場が興奮に新奇さを加えているのだった。先に抱いた倒錯的な
関心も、相変わらず興奮と連動し、アンジュを固く囲繞していた。もはや善悪の判断もままならず、
目の前で展開される艶事を、アンジュは、ただ見守ることしかできなかった。
 ゼルダ姫が腰を動かし始めた。垂直方向の動きによって内部の、水平方向の動きによって外部の
摩擦を図るその動きは、女が上にあっていかにすれば最高の快感に浸れるかを知りつくした者の
それである。遅速と強弱の取り混ぜ方も堂に入っている。
 対してリンクは自らを動かさない。うっとりとした表情で、ゼルダ姫の奔放な所作が生む悦楽を、
なすすべもなく享受しているだけに見える。口を食いちぎらんばかりのキスを挑まれても、唇と
舌と歯による蹂躙を無抵抗で受け入れている。

974PS-08 好機を逸さぬお姫様 (17/28) ◆JmQ19ALdig:2010/07/25(日) 03:18:54 ID:pYOHiZQA0
 まるでゼルダ姫がリンクを犯しているかのようだった。実際、ゼルダ姫の腰が急速な上下動を
繰り返す際の勢いは、獰猛という表現が至適と思われるほど激しい。息は弾み、目は爛々と輝き、
肉体的な快楽とともにリンクを追いつめる精神的な快楽をひたすら希求するふうである。身長に
おいてゼルダ姫が──この時期の少年少女はえてしてそんなものだが──同い年のリンクを
上まわっている点も、女の側の優位性を強調していた。
 しかしゼルダ姫の攻勢も終わりを告げる時が来た。絶頂を極めたのだろう、背を弓なりに反らせ、
硬直し、しばしの間をおいて、弛緩した上体をリンクの腕に預けた。
 受け身に徹しつつも、いまだ達していないらしいリンクは、抱き取った相手に、そっと行動を
仕掛けた。胸の部分のなだらかなふくらみを手で懇ろに撫でさすりながら、時おり唇に優しく
接吻する。ゼルダ姫が見せた攻めとは対照的な穏やかさ。いったん登りつめたあとに連続して
過大な刺激を与えるのは不適切という気遣いかもしれない。が、心まで穏やかなリンクなのでも
なさそうだった。服越しの愛撫は執拗である。もどかしげでもある。ゼルダ姫もやはり
もどかしいのか、胸をリンクに押しつけるような仕草を示す。
 二人の目と目が合った。無言のうちに意思交換は果たされたとみえ、なお落ち着かぬ呼吸のまま、
ゼルダ姫は腰のまわりに巻かれた装身具風の金属帯を解きはずした。次いで、幾枚か重ね着された
上下ひと続きの衣装をまとめてたくし上げ、頭部を中にくぐらせて身体から分かち、無造作に
床へと放り投げた。かろうじて躯幹を隠す薄い下着も、同様の手順で床に落ちた。脱衣に際して
乱れ傾いだ頭巾もまた──それが象徴する慎み深さを包含するようにして──惜しげもなく
捨てられた。
 すでに下穿きは取り去られているので、残るは靴と長靴下のみ。腿から上は皮膚がすっかりあらわである。
 王女様の裸を見ているという恐懼を超えた、無量の感銘がアンジュの背筋を震わせた。
 面立ちが美しいだけではなかった。身体の美しさも抜群だ。総じて細めで、胸部や臀部の張りも
控えめで、まだまだ女としては不完全だが、そこは全く瑕疵とはならない。成熟と未熟が混淆した、
思春期の少女にしかない独特の魅力が、絶妙に、完璧に、形となっている。まぶしいほどの肌の
白さや、背に垂れかかる金髪のつややかさも、その魅力を一段と引き立てている。
 女のわたしですら、こうも感銘を受けるのだから、男であるリンクは──と、注意をそちらへ
移してみるに、案の定、茫然とした表情で、鼻先に出現した裸身を見つめている。ついさっきまで
もどかしがっていたのに、手は愛撫するのを忘れてしまったようである。
 若干の時をおいて、からくも自分を取り戻したらしいリンクが、かすれた声を発した。
「ぼくも、脱ごうか?」
 同意は返されなかった。
「着たままでいて」
「いいのかい?」
「ええ……離れたくないの……」
 二人がまぐわいの最中であるという事実を、いまさらのごとく、アンジュは意識した。
 リンクが脱衣しようとすれば、一時にせよ、二人は身体をほどかねばならない。そのわずかな
空白さえ許せないゼルダ姫なのだ。かくも情欲の虜となって……いや……かくもリンクを……
 またもや感銘が背筋を駆けのぼった。なにゆえの感銘かをアンジュは確かめようとし、けれども
確かめることはできなかった。再びゼルダ姫の体動が始まり、それを端的に表現する、先ほどは
衣服の陰になっていた「肝腎の部分」へと、アンジュの注意は吸い寄せられてしまったのだった。
 リンクの股間を跨いで左右に広がった両脚のつけ根。なめらかな曲面をなす双臀の狭間。
まばらに発毛した陰唇を割り、男の武器が深々と突き刺さっている。刺された側が、苦悶の
素振りもなく、むしろ嬉々として腰を上下させるのに合わせ、恥液に濡れ光る肉柱の側面が
見え隠れする。

975PS-08 好機を逸さぬお姫様 (18/28) ◆JmQ19ALdig:2010/07/25(日) 03:20:32 ID:pYOHiZQA0
 生々しい肉交場面が、傍観者としての興奮を飛躍的に高めた。自らも毎日のように夫としている
行為でありながら、眺めてみるとなると、ことさら猥褻に感じられる。動悸の頻度は心臓が
耐え得る上限に達し、血液は激流となって全身を駆けめぐった。頭の奥がずきずきと痛んだ。
眩暈さえ覚えるほどだった。
 それでもアンジュは観察をやめられなかった。
 恋人の裸体にそそられたのだろう、このたびは受け身に甘んじていないリンクである。活動に
復した両手が、咲きかけた花を思わせる清新な乳房に戯れかかり、頂点で小さく尖り立つ部分に
対しては、唇と舌が不断に働いて、べっとりと唾液をまとわりつかせる。腰も突き上げに精励し、
結合部は淫らな粘性音を奏でる。
 ゼルダ姫は悩乱の態だった。愉悦の言葉と、言葉未満のよがり声を、脈絡なく口から垂れ流して
いる。が、優勢な立場を手放そうとはしない。女の方が動きやすい体位という利点を活かし、
リンクの上で総身を盛んに踊り狂わせる。膣内に捉えた陰茎を磨り潰さんばかりの猛々しさである。
 熱烈にして放埒なせめぎ合いの末、先に限界を口走ったのはリンクだった。
「もう……いく……」
 これまで遂情を経ていないだけに、順当な成りゆき。
 ところがゼルダ姫は、
「だめ!」
 と、にべもなく、
「まだよ! 我慢して!」
 叱咤に近い叫びを散らし、いよいよ体動を激甚にする。
「でも……」
「もう少し! あぁッ! もう少しだけ!」
「ん……」
「もう少しで! わたしも! あああわたしもッ!」
「く……ぅッ……」
「だから! ああぁあッ! 待って! リンク!」
「うん……んん……」
「ぅううぁああとちょっとッ! ちょっとでッ! いきそうッ!」
「んッ!……ん、ん……ッ!」
「いぃいいきそぉおッ! おッ! おぁッ! あぁぁああッ! いくッ!」
「ゼルダ?」
「いくわッ! わたしッ! いくッ! いくうぅッ!!」
「ぼくも──」
「いってッ! あなたもッ! いまよッ! いってえぇッ!!」
「ゼルダ!」
「リンク! あッ! あぁああぁッ!! リンクッ──!!」

976PS-08 好機を逸さぬお姫様 (19/28) ◆JmQ19ALdig:2010/07/25(日) 03:21:33 ID:pYOHiZQA0
 室内に響き渡っていた叫声が、ぱったりと途絶えた。二人は互いをしっかと抱きしめ、彫像の
ごとく微動だにしない。唯一の動きは、女陰に埋めこまれた肉茎の間欠的な脈打ちである。が、
それもほどなく安静に至った。
 アンジュも凝結を維持していた。
 事が終われば観察の要もない。そもそも見てはならぬものを見ていたのである。にもかかわらず、
そこを離れねば、という意思は生まれなかった。さりとて眺めることに固執したいわけでも
なかった。あまりにも度外れた一連の経過によって、なおもアンジュは精神を縛られ、「魂を
抜かれたような」と言い表すのが至当な様態に陥っていたのだった。
 粛然とした数分間ののち、椅子の上の男女は抱擁を解いた。その動作がアンジュを我に返らせた。
 そこで二人が身仕舞いを始めていれば、アンジュの思考も正常に復しただろう。
 しかし、そうはならなかった。
 ゼルダ姫は立ち上がり、密着させていた身体を別々にはしたものの、衣服を手に取ろうとは
しない。床にへたりこみ、着座の姿勢を保つリンクの脚に取りすがって、膝に、腿にと口づけを
繰り返す。上体は少しずつ前のめりとなり、口づけの対象部位も中枢方向に移ってゆく。
歓迎するふうにリンクが両脚を開くと、すかさずゼルダ姫はその間へ這い進み、股間に顔を寄せ、
一戦のあと萎縮状態にあった陰茎を、臆する気配もなく口に含んだ。
 アンジュは愕然となった。
 ゼルダ姫が舌や唇や頬肉を使うさまは実に自然で、頻繁にその行為を経験しているとわかる。
満足げに吐息をつくリンクも、そうされるのはいつものことと態度で語っているかのようである。
 ただ、大人なら──アンジュ自身も含めて──稀ならず行う口戯に、子供の二人がふけっている
というだけでは、もはや驚きにならない。性器と性器の結び合いを習慣としていれば、口と性器の
結び合いも習慣としていて不思議はないのである。
 驚きの対象はゼルダ姫の変容ぶりだった。
 衣装を捨て、気品も捨て、美しい顔をもいびつに変じさせ、うら若い身で性の快楽を貪る
ゼルダ姫のありようは、風貌についても行動についても、アンジュが有する王女様の概念を、
すでに大きく逸脱していたが、それでもなお、リンクとの交わりにおいて主導権を保持する姿には、
人の上に立つ者としての威風が感じられた。ところが、いまやゼルダ姫は、その威風さえも
放擲してしまった。リンクの前に跪き、口で男根を慰めるという屈従的な奉仕に、いそいそと
励んでいるのだった。
 アンジュの中にあった既存の価値観は粉々に崩壊した。
 が、喪失感は覚えなかった。常識を超越した何かが確然と残存しているのである。アンジュが
二人に対して抱く思いを反映させた何かである。
 何かとは何なのか。
 追求するゆとりをアンジュは持たなかった。もみくちゃになった頭脳が理性の稼働を拒んでいた。
新たな展開に目が惹きつけられてもいた。
 いつの間にか、リンクの一物が逞しさを回復している。ゼルダ姫の行為は、濡れ事の残滓を
舐め取るといった後戯的な目的からなされたものではなく、次なる濡れ事に向けての前戯だったのだ。
 もう充分との意思表示だろう、リンクがゼルダ姫の頭にそっと左手を置いた。頭が局部から
離れるのを待って、左手は右手とともに自分の服へと移り、脱衣の挙動を示す。まぐわいを
中断する必要のない今度こそ素肌の接触を果たそうと、リンクは企図しているのだった。

977PS-08 好機を逸さぬお姫様 (20/28) ◆JmQ19ALdig:2010/07/25(日) 03:22:37 ID:pYOHiZQA0
 意外なことに、ゼルダ姫はその企図を封じた。リンクの腕を手で押さえ、首を横に振って
見せたのである。
「どうして?」
 いぶかしげなリンクに、
「万が一、人が来た時のため」
 と説くゼルダ姫。
「アンジュなら、まだ当分は戻らないよ」
「予定が早まるかもしれないでしょう? 他の誰かが急に訪ねてくる可能性もあるし」
「戸締まりはしてあるんだ。いきなり踏みこまれる心配はないさ。外で待たせておいて、その間に
服を着れば……」
「だけど、長く待たせると怪しまれるわ。それより、あなただけでも早く応対に出た方がいいと
思うの。玄関の所で時間を稼いで、来た人がこの部屋に入るのを遅らせてちょうだい。その間に
わたしは身なりを整えて、あとの始末をするから」
 数拍おいて、リンクは長息し、
「ほんとに知恵がまわるなあ、君は」
「悪知恵と言いたいんじゃなくて?」
 からかうふうに笑むゼルダ姫を、
「いやいや、本気で感心したんだよ」
 褒めつつも、くすりと似たげな笑みを返す。
 アンジュの心はさざめいた。
 確かにゼルダ姫は周到といえる。しかしこの場では無意味な周到さだ。わたしはずっとここに
いて、二人の秘め事をしっかり目撃してしまった。そしてそれに二人は感づきもしていないのだ。
『でも……』
 二人を浅はかと決めつける気にはなれない。なぜというに、わたし自身も、かつては……
 記憶が呼び覚まされるうちにも、室内では事態が進行していた。
 会話に時を費やしてはいられないとばかり、ゼルダ姫は床にすわらせた身をくるりと半回転させ、
上体を前に倒して四つん這いとなった。リンクも椅子から床へと降り、ゼルダ姫の後ろで膝立ちの
体勢をとった。左右に開かれた脚の間に進み入り、突き出された尻を両手でつかみ、股間の屹立を
まっすぐ近づけてゆく。先に放たれた精液を滲ませる、赤く充血した粘膜の裂け目に、同じく
赤みを帯びた肉塊が触れかかり──
「ん……ッ……」
 遅滞なく中へと分け入ってゆき──
「あ……うぅッ……」
 たちまちその全長は見えなくなった。
 こここそ安住の地と表白するかのごとく表情を陶然とさせ、胴を反らし気味にして凝り固まる
リンクに、
「あぁあ……いい……わ……とても……」
 ゼルダ姫の方は顔を伏せたまま言語で歓喜を表白し、けれどもなお歓喜の余地はあるとの意を、
「もっと……よくして……」
 すすり泣きにも似た震え声で訴える。

978PS-08 好機を逸さぬお姫様 (21/28) ◆JmQ19ALdig:2010/07/25(日) 03:23:49 ID:pYOHiZQA0
 リンクの腰が前後に動き始めた。ゆったりと大きな振幅を見せるかと思えば、小刻みな刺突を
急速に繰り返したりもする。合わせてゼルダ姫が発する声も、
「ああーーーあぁぁぁ……んんん……んーーんんッ……んあぁあぁ……はあぁ……」
 嫋々とした波打ちと、
「あッ! あッ! うッ! んあッ! あぁッ! あぅッ! うぅッ! あぁッ!」
 短い叫びの反復という二極間をさまざまに移ろう。あたかもリンクに操られているかのような
同期ぶりである。
 最前よりかき立てられていた興奮が、ひときわ強烈となってアンジュを燃え上がらせた。同じ
格好で夫と交わる時のことが、ありありと思い出されたのだった。男に屈服したがるたちではない
アンジュではあったが、そうする際の愉楽は愉楽として率直に肯定できた。
 後ろから挿入される、この体位。女が上になる場合にも増して、男を体内の深奥に迎えることが
できる。のみならず、獣のごとく這いつくばった姿勢で一方的に攻められる状況が、男に
支配されているという被虐的な快感を生み出す。
 ゼルダ姫もその快感を味わっているに違いない。
 服を着ているリンクに対して、靴と長靴下だけの裸体をさらすゼルダ姫。支配者と被支配者の
関係を絵に描いたふうでもある。ゼルダ姫がリンクの脱衣を肯んじなかったのは、実のところ──
人が来た時に云々とは単に方便であって──このように被支配者としての自分を強調したかった
からではないだろうか。
 屈従の悦びにどっぷりと浸かっているのだ! ハイラル王国の王女様ともあろうお方が!
『ただ……それも……』
 リンクが腰の動きを和らげた。上半身を前傾させ、ゼルダ姫の背中に接吻しながら、左手を
胸にやり、かわいい乳房を弄ぶ。される側の声はやはり同期して欣喜を表現する。左手が下腹に
移動すると、表現される欣喜の程度は格段に増した。女の最も敏感な部分がまさぐられて
いるのである。
 複数の性感帯を同時に刺激されて、いかに女が快くあれるかを、アンジュは実体験として
知っていた。ゆえに、ゼルダ姫が描出しようとしている欣喜の絶大さは、造作なく想像することが
できた。
 が、次に演じられた二人の行為は、アンジュの想像力がとうてい及ばない領域に属するものだった。
 リンクが上半身を元の位置に戻し、今度は左手を、結合部の直上に位置する窪みへと差し向けた。
「あッ……リンク……そこ……そこよ……」
 ひとしきり愛撫を行ったのち、
「そこに……あぁッ……挿れて……お願い……」
 哀訴を受けて、指はずぶずぶと侵入してゆく。
「くぅッ!……うぅぅッ……ぅぅ……ぅぁぁ……ぁああッ!……」
 首を絞められる者が出すような呻きをゼルダ姫の喉は断続させ、しかるにそれはここでもやはり──
「あぁああッ!……いいッ!……いいわッ!……リンク!……」
 苦痛ならぬ快美の表れであって──
「そうよ!……してッ!……両方で!……思いっきり!……」
 その快美が引き出す欲深な求めに応じ、前門に陰茎を、後門に指を、リンクは猛々しく突入させる。
「おぉッ!……ぉあぁあッ!……いいわぁッ!……どっちもッ!……」
 二重の交接に狂乱するゼルダ姫。しかし快美に際限はないようで、さしたる間もおかず、新たな
求めを叫喚にした。
「お尻がッ! お尻が気持ちいいのッ! そっちにほんとのあなたをちょうだいッ!」

979PS-08 好機を逸さぬお姫様 (22/28) ◆JmQ19ALdig:2010/07/25(日) 03:24:58 ID:pYOHiZQA0
 たちどころにリンクは両所から撤収し、淫液にまみれた股間の硬直を、もう一方の坑口に
押し当てるが早いか、ただの一突きで、その根元までを埋没させた。
「ひぃぁああッッ!!」
 空気を切り裂くようなゼルダ姫の悲鳴にも構わず、リンクは容赦なく腰を躍動させる。
こうするのを君は望んでいるんだろうと言わんばかりである。そのとおりなのよと言い返すかの
ごとく、ゼルダ姫も熱狂的に腰を揺すり立てる。
 アンジュの驚愕は極点に達していた。
 肛門が性交に使われ得るとの知識はあった。多少の興味もあるにはあった。が、実践したことは
なかったし、実践したいと本気で考えたこともなかった。そんな変わった交わりを好む者も
広い世の中にはいる、という程度の認識だった。
 ところが……
『なんて……こと……』
 左様にわたしとは──そして大概の一般人とは──無縁の行為を、いまだ子供に過ぎない二人が
営んでいる。もう何度もそうしているとわかる自然さで。そこに生起する快感のすべてを何の
障害もなく自分たちのものとしながら。
 驚愕は次第に興奮の推進剤へと遷移した。火照りに火照る身体のあちこちで、痛いとも痒いとも
つかぬ刺激感が頻発していた。どろどろと熔け落ちてしまいそうな部位すらあった。頭は朦朧とし、
見えるものがまともな像を結ばなくなった。
 ぼんやりとした視界の中で、二人の体動が激しさを増してゆく。当初は見られなかった動きも
加わっている。ゼルダ姫が右手でおのれの秘所をなぶり立てているのだった。リンクは後方での
抽送に専念していて、前方を慰撫する余裕がない。その欠損の補填である。といっても、
ゼルダ姫がそうと明確に意識しているかどうかは疑わしかった。一心に快楽を欲するがゆえの
本能的行動とも解された。顔貌がそれを示唆している。両目の焦点が定まっておらず、だらしなく
開かれた口は涎を垂らしている。知性のかけらも感じられない呆けきった表情だった。
 否定的な思いは浮かばなかった。そこまで恍惚となれるゼルダ姫が羨ましくさえあった。欲情が
身中で荒れ狂っていた。
 突然──
「おおおぉッッ!!」
 発声を憚らないゼルダ姫とは対照的に、歯を食いしばって攻撃に注力していたリンクが、
とうとう叫号に及び、腰の躍動を終結させた。
「ああぁんッッ!!」
 ゼルダ姫も叫号に続けて全身を硬くした。
 同時に二人は行き着いたのだった。
 外見的には不動の二体。しかしアンジュは承知していた。見えない所──ゼルダ姫の腸内──
では、いま、まさに、リンクの分身が、どくどくと白濁液を噴出させているのである。

980PS-08 好機を逸さぬお姫様 (23/28) ◆JmQ19ALdig:2010/07/25(日) 03:26:03 ID:pYOHiZQA0
 耐えられなくなった。
 アンジュは腰を上げ、ドアの前から離れた。
 脚が震える。よろめいてしまう。物音をたててはならないと必死で自分に命じ聞かせ、どうにか
転倒は免れた。
 台所に着く。が、場所としては不適当。声を出さずにいられる自信がなかった。出せば二人に
察知されるのは確実である。
 勝手口の鍵をあけ、外に出る。暗がりの中、細い道が左右に延びている。人影はない。みな
宴の場にいるのである。その方角から浮かれ騒ぎのざわめきが聞こえてくる。これなら自分の声も
かき消されるだろうと信じられた。
 閉めた勝手口の戸に背を寄りかからせ、アンジュはスカートを捲り上げた。
 下穿きに触れてみる。
 ぐっしょりと濡れていた。布を隔ててもはっきりと触知できるくらい、肉芽が異常な腫脹を
呈していた。
 圧する。
 瞬時に爆発が起こった。
 脚の力が抜けた。腰が地面に落ちた。痛みはなかった。あるのは快感だけだった。
 結婚してのち、自慰からは遠ざかっていたアンジュである。夫との濃密な交情がそれを不要と
したのだった。だのに、いまやアンジュは、押し殺してきた欲情を発散させずにはいられなく
なっていた。寸刻たりとも快感を絶やしたくなかった。
 右手を下穿きの内に差し入れる。荒々しく急所をこねくりまわす。
 絶頂が続けざまにアンジュを襲った。何度と数えることもできないくらいだった。
 それでも満足には遠かった。
 わたしの知らない方法がある──と、自分の中で自分が声高に言い続けていた。
 指を後ろへと届かせる。
 不可思議な感覚が湧き起こった。快感というよりは違和感だった。けれどもやめようとは
思わなかった。そこまでするわたしなのだという自認が興奮を極値にしていた。同じことをされて
狂喜するゼルダ姫の姿が念頭にあった。
 挿入する。
 感覚が暴走した。
 全身が痙攣した。
 何が何なのかわからないまま、どれほどとも知れぬ時間が流れ去った。
 アンジュは理性の一端を取り戻した。身体のうずきは消えていなかったが、暴走の域からは
脱していた。
『いまのは……』
 絶頂だったのだろうか。
 違和感と見なしたのは誤りだった。その語では表しつくせない感覚だった。しかし快感と呼んで
いいのかどうか。
『いや、そんなことよりも……』
 淫らな妄執から無理やり思考を引きはがす。
『わたしは、これから……どうしたら……』
 二人を観察する間に頭をよぎった種々の想念。それらを取りまとめようとするのだが、なかなか
うまくいかない。埋み火のように燃え続ける欲情が、理性の働きを邪魔するのだった。
『ともかく』
 まとめられない考えはひとまず措こう。もう一時間は過ぎたはず。さしあたって対処しなければ
ならない事柄がある。

981PS-08 好機を逸さぬお姫様 (24/28) ◆JmQ19ALdig:2010/07/25(日) 03:27:10 ID:pYOHiZQA0
 アンジュは立ち上がり、道をたどって、玄関へとまわった。
 ノックする。
 待つほどもなく、反応があった。
「誰?」
「わたしよ」
 閂をあける音がし、戸は開かれた。
「お帰り。遅かったね」
 いつものように明るいリンクの声。ごめんなさいとでも返すべきところであるのに、
「ええ……」
 と応じるのが精いっぱいだった。顔をまともに見られなかった。ただ、リンクの身なりが秩然と
していることは看取できた。
 引き止めようとする言動はない。すでに始末は完了しているのだ。さもあろう。そうするだけの
時間は充分あった。
「お茶を入れるわ。居間で待ってて」
 リンクを遠ざけておき、台所に向かう。急いで勝手口に鍵をかける。
 安堵の息がアンジュの口をついて出た。
 わたしが家の中にとどまっていたという証拠は、これで隠滅された。あとは知らぬ顔を
決めこんでいればいい。そうすれば事は荒立たない。
 ──と、思い切るには至らなかった。
 この件を放置していいのだろうか。正すべきこと、もしくは質すべきことがあるのではないか。
 かといって、具体的な方針は立たない。覗き見の証拠を消しておきながら、それを自ら反故に
しようとするのは、大きな矛盾でもある……
 なおも考えをまとめられないまま、アンジュは茶の仕度をし、居間に赴いた。いまは離れて
位置する二つの椅子に、二人は端然とすわっていた。
 リンクの表情をうかがう。落ち着き払っている。
 ゼルダ姫の態度にも作為は感じられなかった。微笑む顔の美しさといい、
「お手数をかけます」
 と言いつつ一礼する仕草に漂う気品といい、まさに完全無欠である。服装には一点の乱れもない。
 アンジュはゼルダ姫にお辞儀を返し、盆に載せた茶器をテーブルに移した。平静を装っては
いたものの、胸の中で狐疑せずにはいられない。
『さっき見たのは、もしかして、幻?』
 しかし事実なのだった。始末しきれない痕跡が残っていた。
 室内の空気が妙に甘ったるい。情交に際して女が発する身体の匂いと推し量られる。かすかに
精臭も混じっている。部屋に居続けの二人はこの空気に慣れてしまって、特異さを感知できないのだ。
 腰の奥がむずむずとした。嗅覚が得た官能的な気配によって、欲情が刺激されたのだった。
 それをアンジュは強いて無視した。
「少し暑いですわね。風を通しますわ」
 と何気ないふうに言い、窓をあける。席につく。養鶏場見学の細かい段取りをゼルダ姫と
相談する。互いの秘密に無関係な話題を選んだのである。
 換気ができたと思われる頃には、窓の外でも変化が起こっていた。聞こえてくる広場の
ざわめきが賑やかさを減じていた。
「そろそろ宴会はお開きみたい。インパ様もじきにここへ来られるでしょうね」
 独り言めかして呟く。やにわにリンクが椅子から腰を浮かせた。
「じゃあ、ぼくは……」
 ゼルダ姫と一緒のところを見られてはまずいと判断したのだろう、自分の宿所へ行くと
言い残して、そそくさとその場を去った。リンクは護衛の兵士らとともに、守備隊の兵舎で寝る
手筈となっているのである。ゼルダ姫も同じ判断をしたとみえ、リンクを引き止めようとは
しなかった。

982PS-08 好機を逸さぬお姫様 (25/28) ◆JmQ19ALdig:2010/07/25(日) 03:28:30 ID:pYOHiZQA0
 しばらくしてインパが姿を現した。久しぶりの帰郷と大がかりな歓待に、酒の影響も加わってか、
機嫌のほどは上々である。それでも身のこなしには全く乱れを見せず、ゼルダ姫への配慮も
欠いてはいなかった。
「お加減はいかがです? 酔いは醒めましたか?」
「何ともないわ。心配かけてごめんなさい」
 巧妙──とアンジュは思った。
 いまの問いに「はい」と答えていたら偽言だが、「何ともないわ」だけならそうとはならない。
事実だからだ。ゼルダ姫は決して嘘をついてはいない……
 所感は途中で打ち切られた。
「長く付き添わせてしまったな。すまなかった」
 インパに話しかけられ、アンジュは自分の身を案じなければならなくなった。
 確かにわたしはずっとこの家にいた。しかし付き添ってはいなかった。一方、ゼルダ姫は
わたしが不在だったと思いこんでいる。下手に会話を続けていたら、わたしの居場所について、
二人のうちのどちらかが──あるいは二人ともが──不審を抱くおそれがある。ひいては、
覗き見をしていたと──そしてこういうものを見たのだと──白状せざるを得なくなるかも……
 あとはインパに任せるという意味の台詞を、アンジュは早口で告げ、蒼惶と家を出た。
 歩きつつ、黙想する。
 ひとまず窮地は脱したものの、懸案が解決したわけではない。自分がどうすべきなのか、
いまだに考えはまとまらない。とはいいながら、すでにいくつかの行動をとってしまったのだが……
 部屋の空気を入れ換えた。事前に警告してリンクを去らせた。情事の発覚を防いでやるために。
 咄嗟ではあったにせよ、気まぐれではなかった。自分の経験と照らし合わせ、思うところが
あってそうしたのだ。ただ、それが正しい行動だったといえるだろうか……
 いつしかアンジュは広場に足を踏み入れていた。約束を破ってしまった件で母親に謝らなければ
──と、思考の向きを転じかけたところで、別の方向へと思考は転がっていった。宴に興じる
人の数は、減ってはいたが、まだ残っている。その中に夫の姿が認められたのだった。
 欲情が急激に膨れ上がった。もう無視することはできなかった。結婚前に夫と積んだ「自分の
経験」への追想も、高ぶりの増進に寄与していた。
 アンジュはつかつかと夫のもとへ歩み寄り、その耳に口を近づけ、小声で言った。
「抱いて」
 寸時、夫は唖然とした顔になったが、愛妻の直な要求を断るほど冷淡ではもちろんなく、むしろ
喜んで承諾の意を表明した。
 二人は急いで自宅に帰り、寝室に直行し、身に着けたものをすべて脱ぎ捨て、ベッドに倒れこんだ。
 交わりは嵐のような激しさで推移した。アンジュは幾度も絶頂以上の絶頂に押し上げられた。
指では満たしきれなかった肉体が、ついに本格的な感悦を得たのだった。
 けれども完全な満足とはいえなかった。その夜の彼女にとっては、である。
 ひとたび果てた夫を、しつこいまでの愛撫と口戯で立ち直らせたのち、アンジュは肛門での
性交をせがんだ。さすがに驚きを見せた夫も──実は以前からひそかに望んでいたことだったのか
──たちまち満身を性欲の塊とし、アンジュをベッドに這わせるや、背後から猛り立った剛棒を
突きつけてきた。
 初めは、あの不可思議な感覚だった。それはすぐに痛みへと変じた。たまらずアンジュは暫時の
休止を求めた。
 ただしあくまでも休止である。中止ではない。
 子供のゼルダ姫がこの行為で恍惚となれたのだから、大人のわたしが同じ境地に達せられない
はずはない──との思いが、強固な忍耐を可能としていた。
 耐えた甲斐はあった。やがて痛みは減退し、代わってその部に別の感覚が宿った。通常の交合で
生じるものとは異なる、しかしこのたびは明らかに快感と断言できる、甘美きわまりない感覚だった。
 アンジュは夫に再開を促し、自らも腰を振り立てた。快感が急増した。突かれている部分だけを
残して肢体がばらばらになりそうな気がするかと思えば、そこを発火点として全身が轟々と
炎上してゆくような心地にもなった。それほど鮮烈な印象でありながら、甘美さは甘美さの
ままだった。天国的な幸福感がアンジュを支配した。ゼルダ姫の恍惚を自分のものとして了得できた。
 無限とも感じられる法悦の中で、その感じを最後の記憶とし、アンジュは意識を失っていった。

983PS-08 好機を逸さぬお姫様 (26/28) ◆JmQ19ALdig:2010/07/25(日) 03:29:26 ID:pYOHiZQA0
 饗応役の割り当ては初日のみ、よって次の日は暇になるはずだったが、ゼルダ姫を我が家に
迎えるとあっては、のんびりと惰眠を貪ってもいられない。アンジュは夫とともに早起きして、
屋内外の整理整頓に精を出した。ただ、訪問は午後と予定されていたので、自由がきく時間も
多少はあった。アンジュはその時間を割き、実家に赴いた。前夜、積み残しにしていた、母親への
詫びを果たすためである。
 なかなか尽きない母の小言を、ひたすら低頭してどうにかしのぎ、自宅へ戻ろうと母屋を出た
ところで、
「おはよう、アンジュ!」
 リンクに元気な声で呼ばわられた。どきりとして見れば、道に一人である。
「……おはよう」
 と挨拶を返し、続けて問う。
「ゼルダ様に付いていなくてかまわないの?」
「午前中は、インパとか、守備隊長とか、他にも村の人がたくさん付いてまわるから、ぼくは
一緒じゃなくてもいいんだ」
「そう……」
 今日、ゼルダ姫は、まず風車小屋を訪れることになっている。カカリコ村の象徴とされる、
他所ではお目にかかれない稀有な建造物ゆえ、見学対象の筆頭に選ばれたのだ。自慢したさで
案内を志願した者も多かったのだろう。
 アンジュにすれば好都合だった。他人をまじえずにリンクと話ができるからである。知り合って
間もない、しかも王女様であるゼルダ姫には言いにくいことでも、日頃より親しくしている
リンクになら言える、との決意があった。
 とはいえ、実行するとなると容易ではない。リンクを誘い、庭のベンチに隣り合ってすわった
まではよかったが、どう切り出したものかと迷ってしまう。依然、考えがまとまりきって
いないのだった。
 そんな葛藤に、リンクは気づく様子もない。ゆうべ宴の場にいた人たちがやたら朗らかだったのは
酒のせいなのだろうけれど、ぼくには酒の旨さというものがよくわからない──などと無邪気に、
快活に語るのである。
 相槌を打ちながら、アンジュは思いをめぐらした。
 大人顔負けのセックスに熱中していた昨晩とは打って変わった、リンクの、この態度。
 こういうのを「何食わぬ顔で」と表現するのだろう。一般的には。
『でも……』
 その表現を、わたしは使いたくない。
 なぜなら、いまの──そしていつもの──リンクが見せる無邪気さ、快活さは、断じて虚飾では
ないからだ。わたしがリンクを好きになった所以の純真さ、さわやかさは、あれだけの淫蕩な
行いによっても損なわれはしない。どちらも真実のリンクなのだ。
 セックスの悦びを心得ない者であれば、男女が淫らに結び合うさまを汚穢と評し、別の場面で
その淫らさを表に出さないのは偽善だと非難するかもしれない。しかし、わたしは心得ている。
夫と抱き合う時は限りなく淫らになるわたしも、ふだんは真面目な顔で生活しているわけだが、
そういう自分を偽善的であるとは考えない。どちらも真実のわたしなのだ。
 ゼルダ姫についても然り。
 リンクとの交わりにおいて驚くべき変貌を遂げ、とりわけリンクに屈従することを全く
厭わなかったゼルダ姫の姿は、確かにわたしの持つ「王女観」を崩壊させたが、わたしは失望も
幻滅もしなかった。ゼルダ姫が持つ真実の一面と了承できた。リンクを求める一途なありように
感銘し、羨ましいとさえ思った。わたしだって、夫に抱かれる折りには、徹底的に乱れるし、
乱れたい。つまり、わたしが見たゼルダ姫の「醜態」は、彼女とて神格的存在ではなく、わたしと
同じ一人の人間、一人の女であることの証左なのであって、彼女に備わった種々の魅力──美貌、
気品、知性、真摯さ、謙虚さ、親しみ深さ──を色褪せさせる要因とはならないのだ。

984PS-08 好機を逸さぬお姫様 (27/28) ◆JmQ19ALdig:2010/07/25(日) 03:30:30 ID:pYOHiZQA0
 さらに言えば、リンクとゼルダ姫の交際は、わたし自身と夫──になる前の彼──のそれを
想起させる。
 自分たちが肉体関係にあることを、わたしも彼も、家族には隠していた。その手の話を
大っぴらにはできない家庭環境だった。互いの家では事に及べない。そこで、夜、こっそりと
墓地を利用するなどして、逢瀬の時間の短さを嘆きながら、狂おしく身体を絡ませ合った。そんな
苦労の思い出が、同様の苦労を強いられている若い二人への、同情を、親近感を誘発する。
 しかも、二人を取り巻く状況は、わたしたちの場合より、はるかに厳しい。
 わたしと彼は婚約していた。日常、つき合う分には、周囲の目を憚らなくともよかった。
肉体関係についても、案外、家族は気づいていて、そうと表に出さなかっただけなのかもしれない。
 そんな救いは望めない、現在の二人なのだ。
(好きな人と、気兼ねなく、ずっと一緒に暮らしていけるというのは、幸せなことだよね)
 あのリンクの言は、こちらの境遇に思いをめぐらしつつ、自身の境遇を見つめるふうでもあった
ではないか。
 だからわたしは情事の痕跡を隠してやった。放っておけない気持ちになってしまったのだ。
仲立ちの件でしようと思っていたリンクへのお礼という意識もないではなかった。加うるに、
いまなら、新たな性交方法を──間接的にせよ──教えてくれたことでも、二人にお礼を言いたい
気分だ。
『けれど……』
 おのれが正しい対応をしたか否かについて、なおもアンジュは惑っていた。
 互いを求め合う二人の心情は理解できていた。しかし二人が子供同士であるという現実を
無視するわけにはいかなかった。単に興味本位でセックスに溺れているのなら、堕落としか
言えない。特に、いずれハイラル王国を統治する身となるゼルダ姫の場合、人品や振る舞いに
問題があれば、国の将来が危ぶまれる事態ともなりかねないのである。ゆえにアンジュは──
昨晩はその目を眩ます行動に出てしまったものの──二人に近しい立場のインパに事実を告げ、
善処を勧めるべきではないか、とまで考えていた。
『ただ、そうする前に……』
 アンジュは口を切った。
「訊きたいことがあるの」
「なに?」
 リンクの顔がアンジュを向いた。
「前に、好きな人がいるって、言っていたわね」
「うん」
 突然の言及が腑に落ちないといった感じで眉根を寄せ、それでも頷くリンク。
「その人のことを、どう思っているの?」
 即座の返答はなかった。怪訝な表情は不変である。
 婉曲な話し方をしたつもりだったが、いまの問いでリンクは、ゼルダ姫との関係を見抜かれたと
悟ったかもしれない。それもやむを得まい。確かめておかねばならないのだ。
 ややあって、リンクは謹直な面持ちとなり、一片の曇りもないまっすぐな視線を投じてきた。
「愛してる」
 確信ありげな発言だった。しかしアンジュは疑念を捨てられなかった。
「愛というのが、どんなものなのか、わかってる?」
 再度、リンクは頷いた。大人びた──そして、なぜか──まるで懐かしい者でも見るかのような、
あの眼差しで。
「その人のそばにいたい。その人と一緒に生きていきたい。その人のためなら何でもできる。
そんなふうに、思ってるよ」

985PS-08 好機を逸さぬお姫様 (28/28) ◆JmQ19ALdig:2010/07/25(日) 03:31:32 ID:pYOHiZQA0
 胸を衝かれた。

 仮にわたしが、愛とは何かと訊ねられたら、同じ回答をしただろう。
 リンクは真剣にゼルダ姫を愛している。そして──
「その人も、リンクのことを、そんなふうに思っているかしら」
「思ってる」
「言い切れるの?」
「言い切れる。絶対に」
 疑いを差し挟む余地はなかった。
 わたしが感じた、二人の共通点。
 いまなら、わかる。
 人との繋がりに誠実であろうとする志操だ。
 それは二人の繋がりにも反映されている。
(各地に住む方々と広く積極的に交流して、その暮らしぶりに通じようと努めている人が、
わたしの知り合いの中にいます)
 リンクのことだ。明らかに。
(わたしもそれに倣うべきだと思ってきました)
 そう、リンクの存在があってこそ、ゼルダ姫は統治者としての高みを目指せる。堕落などしよう
はずがない。
 昨夜、漏れ聞いた会話の切れ端を、アンジュは思い起こした。
(この家ではするなとインパに言われたわけではないから)
 アンジュが告げるまでもなく、インパは二人の関係を知っているのである。知っていて容認して
いるのである。インパもまた、二人の繋がりに意義を感じ、二人を見守っているのである。
 王女様と勇者の恋。おとぎ話のようなその組み合わせが、至上のあり方とも思われてくる。
『ならば……』
 わたしも二人を見守ろう。ゆうべ見たことは、わたしの胸の内だけに納め、決して誰にも話すまい。
「その人と、どうか、幸せに──ね」
 できる範囲で贈った最大限の言葉に、
「ありがとう」
 純粋な笑みとともに返される、単純でいて、何かしら深い意味を秘めていそうな謝辞を、温かい
心持ちで受け取るアンジュだった。


To be continued.

986 ◆JmQ19ALdig:2010/07/25(日) 03:32:48 ID:pYOHiZQA0
以上です。
敢えて傍観者の視点で通しました。語彙の容量を問われることになってしまいましたが。

987名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 03:39:51 ID:kTBEvuMU0
覗き見アンジュさんハァハァ
浮気せずにすんでよかったよかった。

988名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 20:24:11 ID:GsrQKqzcC
臆面もなく

989名無しさん@ピンキー:2010/08/03(火) 23:45:07 ID:cV/Z//eg0
ID:pYOHiZQA0
GJ!!
売り物の小説読んでるみたいだった、文章巧いわ。
やっぱリンゼルが一番だなー。
できれば大人になったリンゼルで長編書いて欲しい。

990名無しさん@ピンキー:2010/08/11(水) 14:23:09 ID:tCbF8XvE0
◆JmQ19ALdig氏続きマダァ?(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン

991名無しさん@ピンキー:2010/08/11(水) 23:03:36 ID:ICaJcRbo0
2ヶ月強ごとのペースみたいだから次は10月頭頃なんじゃない

992名無しさん@ピンキー:2010/08/12(木) 11:37:04 ID:LxJC9PC.0
ゼルダってオフィシャルの詳細な設定ってないですよね?
だからこそ難しいんだけどそこで作者の腕が問われますよね。
私はイギリスの階級社会をリアルに取り入れたリンゼルが読みたいなーとか妄想中(≧ω≦)

993名無しさん@ピンキー:2010/08/12(木) 11:53:50 ID:2sJi4nSs0
『ゼルダの伝説』世界の完全な年表は門外不出
http://www.inside-games.jp/article/2010/07/23/43326.html

994名無しさん@ピンキー:2010/08/13(金) 11:26:06 ID:X2s30tlUO
読むほどゼルダ姫を身近に感じさせる小説で、作者さんの言葉選びの素晴らしさに尊敬します。

995名無しさん@ピンキー:2010/08/13(金) 14:04:26 ID:7uxUvZ.60
みなさんのおすすめのリンゼルサイト教えてplz(´・ω・`)
ググっても検索サイトでも同じサイトばかりでぜんぜんヒットしないんですよね、あとイラストサイトばかり・・・。
甘々な大人リンゼルがいいです、パラレルでも学園モノでもおk

996名無しさん@ピンキー:2010/08/13(金) 15:58:59 ID:JP.kaEj.O
毎度乙です!
この小説を読んでからますますゼルダ姫を好きになりました( ´艸`)

読んでいてその才能にほんと感激です。
次待ってます(^▽^)ノ

997名無しさん@ピンキー:2010/08/15(日) 09:35:26 ID:pgyIe18A0
でもゼルダ「姫」って敬称おかしいような。
ハイラル王国の国王の娘だから王女ですよね。

おう‐じょ【王女】 ワウヂヨ
(1)王の娘。また、皇女。
(2)内親王宣下のない皇族の女子。女王。おうにょ。

おう‐にょ【王女】 ワウ‥
⇒おうじょ

おおきみ‐おんな【王女】 オホ‥ヲンナ
王女(おうじょ)。ひめみこ。源氏物語(常夏)「ほのかに京人と名のりける、ふる―、をしへきこえければ」


き【姫】
身分の高い女性。貴人の娘。ひめ。また、女性の美称。

ひめ【姫・媛】
(日女の意)
(1)女子の美称。古事記(中)「亦の名は―多多良伊須気余理―」⇔彦(ひこ)。
(2)貴人の娘。ひめぎみ。宇津保物語(蔵開中)「この母皇女(みこ)は昔名高かりける―、手書き歌詠みなりけり」
(3)(近世上方で)遊女。娼妓。
(4)(接頭語的に)小さくて愛らしい意を表す語。「―百合」


細かいようだけど気になる、任天堂はなんとも思わないのかな(´・ω・`)

998名無しさん@ピンキー:2010/08/16(月) 17:51:40 ID:oVqT/nHg0
>身分の高い女性
合ってる

999名無しさん@ピンキー:2010/08/16(月) 17:56:07 ID:oVqT/nHg0
姫というのは公的な身分を表す言葉じゃなくて
あいまいな尊称ってことだろ

王女と女王をまちがえたら問題だが
王女をゼルダ姫と呼ぶのは全く問題ない

1000名無しさん@ピンキー:2010/08/16(月) 19:18:12 ID:xjb/DTZA0
次スレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/2051/1276106552/




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