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【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!第一章

1 ◆POYO/UwNZg:2019/01/20(日) 20:19:33
――「ブレイブ&モンスターズ!」とは?


遡ること二年前、某大手ゲーム会社からリリースされたスマートフォン向けソーシャルゲーム。
リリース直後から国内外で絶大な支持を集め、その人気は社会現象にまで発展した。

ゲーム内容は、位置情報によって現れる様々なモンスターを捕まえ、育成し、広大な世界を冒険する本格RPGの体を成しながら、
対人戦の要素も取り入れており、その駆け引きの奥深さなどは、まるで戦略ゲームのようだとも言われている。
プレイヤーは「スペルカード」や「ユニットカード」から構成される、20枚のデッキを互いに用意。
それらを自在に駆使して、パートナーモンスターをサポートしながら、熱いアクティブタイムバトルを制するのだ!

世界中に存在する、数多のライバル達と出会い、闘い、進化する――
それこそが、ブレイブ&モンスターズ! 通称「ブレモン」なのである!!


そして、あの日――それは虚構(ゲーム)から、真実(リアル)へと姿を変えた。


========================

ジャンル:スマホゲーム×異世界ファンタジー
コンセプト:スマホゲームの世界に転移して大冒険!
期間(目安):特になし
GM:なし
決定リール:マナーを守った上で可
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり
避難所の有無:なし

========================

2 ◆POYO/UwNZg:2019/01/20(日) 20:37:06
【キャラクターテンプレ】

名前:
年齢:
性別:
身長:
体重:
スリーサイズ:
種族:
職業:
性格:
特技:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:


【パートナーモンスター】

ニックネーム:
モンスター名:
特技・能力:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:


【使用デッキ】

合計20枚のカードによって構成される。
「スペルカード」は、使用すると魔法効果を発動。
「ユニットカード」は、使用すると武器や障害物などのオブジェクトを召喚する。

カードは一度使用すると秘められた魔力を失い、再び使うためには丸一日の魔力充填期間を必要とする。
同名カードは、デッキに3枚まで入れることができる。

3 ◆POYO/UwNZg:2019/01/20(日) 20:39:31
【キャラクターテンプレ】

名前:赤城真一/Shinichi Akagi
年齢:17歳
性別:男
身長:174cm
体重:66kg
スリーサイズ:細身だが筋肉質
種族:人間
職業:高校生
性格:熱血、健康不良少年
特技:剣道、バイクの運転
容姿の特徴・風貌:ウルフカットの黒髪、濃い茶色の双眸。服装は赤いTシャツの上から学ランを羽織っている。
簡単なキャラ解説:
日本の湘南で生まれ育った高校二年生。
中学時代は地元で名の知れた不良少年だったが、高校に進学してからは比較的更正した。
実家が剣道道場を営んでおり、剣道の腕前は全国大会にも出場したことがある程。
高校進学と同時にアルバイトを始め、貯めた給料でバイクを購入した(ホンダのホーネット250)。
バイクに乗るのが趣味だったが、最近は友人の勧めで始めた「ブレイブ&モンスターズ!」にも熱中している。


【パートナーモンスター】

ニックネーム:グラド
モンスター名:レッドドラゴン
特技・能力:頑強な爪や牙を使った格闘戦、炎のブレス、高速飛行
容姿の特徴・風貌:全身を覆う赤い鱗と、左右一対の翼、琥珀の二本角を持つ中型のドラゴン。
簡単なキャラ解説:
「竜の谷」に生息する火竜であり、韻竜と呼ばれる貴重な古代種の末裔。
まだ幼生なので、成体に比べるとサイズは大きくないが、韻竜に相応しい高度な知能と戦闘力を誇る。


【使用デッキ】

・スペルカード
「火の玉(ファイアボール)」×3 ……対象に向かって火球を放つ。
「火球連弾(マシンガンファイア)」×2 ……無数の小火球を放つ。
「炎の壁(フレイムウォール)」×2 ……眼前に炎の壁を生成する。
「燃え盛る嵐(バーニングストーム)」×1 ……強力な炎の嵐を繰り出す。
「大爆発(ビッグバン)」×1 ……特大の火球を生成して放つ。
「陽炎(ヒートヘイズ)」×1 ……陽炎によって幻影を作る。
「火炎推進(アフターバーナー)」×3 ……自身の後方に炎を噴射し、高速移動する。
「限界突破(オーバードライブ)」×1 ……魔力のオーラを纏い、身体能力を大幅に向上させる。
「漆黒の爪(ブラッククロウ)」×1 ……パートナーの爪や牙などに、漆黒の気を纏わせて硬化させる。
「高回復(ハイヒーリング)」×2 ……対象の傷を癒やす。
「浄化(ピュリフィケーション)」×1 ……対象の状態異常を治す。

・ユニットカード
「炎精王の剣(ソード・オブ・サラマンダー)」×1 ……炎属性の魔剣を召喚する。
「トランプ騎士団」×1 ……剣、盾、杖、銃を持った4体の騎士人形を召喚する。

4 ◆POYO/UwNZg:2019/01/20(日) 20:40:07
【キャラクターテンプレ】

名前:崇月院なゆた/Nayuta Suugetuin
年齢:17歳
性別:女
身長:163cm
体重:ヒミツ
スリーサイズ:83-59-85
種族:人間
職業:高校生
性格:世話好き かわいいもの好き 負けず嫌い
特技:家事全般
容姿の特徴・風貌:
肩甲骨までの長いストレートヘアをシュシュで左側に纏めたサイドテールと、頭頂部のアホ毛
気の強そうなつり目がちの整った顔立ち、学校指定のセーラー服

簡単なキャラ解説:
赤城真一の自宅の隣に住む幼馴染。
学校では優等生で通っており、生徒会で副会長をしていることもあり教師の受けは上々。
成績優秀、運動神経も人並み以上で学校ではゲームの「げ」の字も出さない。
「ブレイブ&モンスターズ!」に関しても、なんとなく暇潰しで始めたエンジョイ勢……
と思いきや、実は実家でのバイト代のすべてを「ブレイブ&モンスターズ!」につぎ込むガッチガチのガチ勢。
学生なので限りはあるものの同年代のプレイヤーより遥かに重課金している。
赤城真一に「ブレイブ&モンスターズ!」を勧めた張本人。
実家は寺。「なゆた」という名前で幼い頃からかわれたのが心の傷になっており、周囲には「なゆ」と呼ばせている。
成績優秀だが肝心なところで抜けている、いわゆるポンコツ属性持ち。

【パートナーモンスター】

ニックネーム:ポヨリン
モンスター名:スライム
特技・能力:変幻自在の身体、耐久力に優れる
容姿の特徴・風貌:
普段は60センチ程度の水色で楕円形の物体
硬さは通常グミキャンディー程度だが、命令によってゲル状になったり硬化することも可能

簡単なキャラ解説:
「ブレイブ&モンスターズ!」のマスコットキャラにして序盤のザコキャラ。
ぷよぷよしたボディとつぶらな瞳で人気。レア度は最低レベルだが、実は鍛えると強い。
なゆたのえげつないデッキのコンボによって、低レアだからと舐めプしてくるプレイヤーを狩りまくる日々。



【使用デッキ】

・スペルカード
「形態変化・硬化(メタモルフォシス・ハード)」×2 ……瞬間的に硬くなる。
「形態変化・軟化(メタモルフォシス・ソフト)」×2 ……瞬間的に軟らかくなる。
「形態変化・液状化(メタモルフォシス・リクイファクション)」×1 ……瞬間的に液体化する。
「毒散布(ヴェノムダスター)」×1 ……毒を振りまき対象に継続ダメージを与える。
「分裂(ディヴィジョン・セル)」×3 ……瞬間的に二対に分裂する。重ねがけで更に倍々で増える。水フィールドだと更に倍
「再生(リジェネレーション)」×2 ……パートナーに継続回復効果を与える。
「麻痺毒(バイオトキシック)」×1 ……対象を麻痺させしばらく行動不能にする。
「限界突破(オーバードライブ)」×1 ……魔力のオーラを纏い、身体能力を大幅に向上させる。
「鈍化(スロウモーション)」×1 ……対象の素早さを著しく下げる。
「融合(フュージョン)」×1 ……合体する。
「高回復(ハイヒーリング)」×1 ……対象の傷を癒やす。
「浄化(ピュリフィケーション)」×1 ……対象の状態異常を治す。

・ユニットカード
「命たゆたう原初の海(オリジン・ビリーフ)」×2 ……フィールドが水属性に変化する。
「民族大移動(エクソダス)」×1 ……とにかく大量のスライムを召喚する。

5 ◆POYO/UwNZg:2019/01/20(日) 20:41:11
【キャラクターテンプレ】

名前:うんちぶりぶり大明神(本名:瀧本)
年齢:25
性別:男
身長:175
体重:58
スリーサイズ:肥満ではないが筋肉もついてない
種族:人間
職業:会社員(総務課)
性格:卑屈だけど声は大きい
特技:運営を煽るためだけのクソコラ編集技術
容姿の特徴・風貌:毛羽立ったオールバックによれよれのスーツ
簡単なキャラ解説:
今月の残業時間が80を超えた社畜。ただし残業理由は仕事量ではなくソシャゲに夢中なため。
『ブレイブ&モンスターズ!』を長らくプレイしているが、ガチ勢ではなく課金も少額。
主な活動場所はゲーム内ではなくフォーラムやツイッターの公式アカウント。
重箱の隅を突くようなクソリプや批判スレッドを毎日大量に立てる古式ゆかしきフォーラム戦士。
仕事中も暇を見つけてはフォーラムで暴れまわり、既に3回アカウントを凍結されている。
何度BANされてもめげずに似たようなアカウント名で運営や信者と大論戦を繰り広げていたため、
ゲーム内では悪い意味で『明神』の名前が有名になった晒しスレの常連。
批判のためだけにゲームの仕様に精通し、多分ガチ勢より詳しい(自慢)。

【パートナーモンスター】

ニックネーム:ヤマシタ
モンスター名:リビングレザーアーマー
特技・能力:剣、槍、弓、杖など多彩な武器とそのスキルを扱うことができる
      回復力が高く、破壊されても別の鎧に憑依することで復帰が可能

容姿の特徴・風貌:
つやつやしたハードレザー製の全身鎧。兜の中身はどどめ色の靄が入っている。
その靄の中から付属部品である様々な武器を取り出したりしまったりする。

簡単なキャラ解説:
死者の怨念が取り付いて魔物と化したいわゆる『動く鎧』。
その中でも最下級のモンスターで、材質も鋼鉄ではなく序盤に買える革製の鎧。
材質相応のみじめな防御力のため序盤の冒険者の稼ぎどころとして愛される悲しき存在。
しかし軽さゆえに前衛・後衛問わず『誰でも着れる』という特性は、取り憑く怨念を選ばないということであり、
育成すれば職業適正を問わない多彩なスキルを覚えるスルメのような持ち味の魔物である。
フレンドのいない明神はこのソロ性能の高さに目を付けて重用していた。
ちなみにニックネームは明神の職場の上司(怖い)。

【使用デッキ】

・スペルカード
「工業油脂(クラフターズワックス)」×3 ……ねばねばした油を撒き散らす。時間経過で硬質化するため乱発すると他人に迷惑
「終末の軋み(アポカリプスノイズ)」×1 ……騒音を立てて敵の集中力を奪う。普通にうるさいので他人に迷惑
「幽体化(エクトプラズム)」×2 ……自分の肉体から幽体離脱する。その間本体は無防備。攻撃力はないが目障りなので迷惑
「迷霧(ラビリンスミスト)」×3 ……濃い霧を散布して、範囲内にいる全ての者の視界を奪う。本当に迷惑
「黎明の剣(トワイライトエッジ)」×2 ……パートナーの武器に光属性のオーラを纏わせ攻撃力上昇
「万華鏡(ミラージュプリズム)」×1 ……対象の分身を3つ出現させる。分身は対象の半分のステータスで自律行動可能
「座標転換(テレトレード)」×2 ……指定した2つの物体の位置を入れ替える
「濃縮荷重(テトラグラビトン)」×2 ……一定範囲にかかる重力を二倍に引き上げる

・ユニットカード
「武具創成(クラフトワークス)」×2 ……任意の武器か防具を複数生成する。他人も装備可能
「奈落開孔(アビスクルセイド)」×2 ……近付く者を引きずり込む亜空間の入り口を生成。閉じると出られない

6 ◆POYO/UwNZg:2019/01/20(日) 20:41:48
名前:五穀 みのり(プレイヤーネーム:五穀豊穣)
年齢:18歳
性別:女
身長:165cm
体重:50kg(四捨五入)
スリーサイズ:87-60-88
種族:人間
職業:農業
性格:ドライ
特技:農作業、トラクターの運転
容姿の特徴・風貌:おっとりのした表情、茶髪ギブソンタック、ツナギの作業服と長靴

簡単なキャラ解説:
とある田舎の専業農家の後継ぎ娘、農業高校卒業後、家業を継ぐ
農作業で鍛えられた肉体は頑強にして壮健、持久力に優れる
代々続く農家であり己の立場に納得もしているが、周囲が青春を謳歌している中で男に縁のない農作業を続ける不満もあり
手間のかかるギブソンタックの髪型を保っているのはその反発心の表れ

大きな農家であり、かなり裕福
お金には困っていないが農作業は過酷であり、むしろ使い道がないのでどんどんブレモン!への課金量が増える
ただし農作業の間に遊ぶ程度なので、プレイングやコンボ構築の試行錯誤の為の時間は圧倒的に少ない。
故にレアカードが揃い戦闘力は高くともランキングに乗ってくることはなかった

「欲しいカード?出るまで買えばよろしいですやろ?
出現率1%って事は100回買えば必ず手に入るのであるわけやし、運任せよりわかりやすくてよっぽどええやないの」

【パートナーモンスター】

ニックネーム:イシュタル
モンスター名:スケアクロウ
特技・能力:防御能力が高く、回復・強化に優れる
150センチほどの案山子
顔はカボチャに目鼻を書き込み、眼深にとんがり帽子を被っている
案山子で所詮は藁の体で機動力や防御力は低い
しかし探知能力が高く、HPや回復力が高い
ダメージ反射を主体とするバインドコンボに適しているため拠点防衛には無類の強さを誇る

簡単なキャラ解説:
スマホ向けアンチウィルスソフト会社とのコラボ企画で、グッズフルコンプリート(総額15万円)&アンチウイルス契約者へのプレゼントキャンペーンで契約者に送られる特典モンスター
聖域(田畑)の守護者と銘打たれているが、石油王のコレクターズアイテムの象徴的な存在として見られている
ニックネームイシュタルはメソポタミアの豊穣神から

【使用デッキ】

・スペルカード
「肥沃なる氾濫(ポロロッカ)」×2 ……フィールド上を洪水が押し流し、与えたダメージ分回復
「灰燼豊土(ヤキハタ)」×2 ……フィールド上を業火が包み、与えたダメージ分回復
「浄化(ピュリフィケーション)」×3 ……対象の状態異常を治す。
「高回復(ハイヒーリング)」×2 ……対象の傷を癒やす。
「地脈同化(レイライアクセス)」×1 ……地脈の力を吸い上げ継続回復
「威嚇結界(フィアプレッシャー)」×1 ……範囲内の敵の攻撃力をダウンさせる
「来春の種籾(リボーンシード)」×1 ……致命のダメージを負ってもHP1残して復活できる

・ユニットカード
「雨乞いの儀式(ライテイライライ)」×2 ……雨を降らせてフィールドを水属性に変化させる
「太陽の恵み(テルテルツルシ)」×2 ……太陽を照らせてフィールドを火属性に変化させる
「荊の城(スリーピングビューティー)」×1……荊の城を出現させる。荊に触れたものは睡眠状態に
「防風林(グレートプレーンズ)」×1……林立する樹を出現させる。風属性や衝撃波を軽減
「囮の藁人形(スケープゴートルーレット)」×1 ……5体の藁人形を出現させる。身代わりとなり攻撃を受け、内1体は他の藁人形を受けた累積ダメージを反射する
「収穫祭の鎌(サクリファイスハーベスト)」×1 ……攻撃力0の鎌。累積ダメージがそのまま攻撃力になる

7 ◆POYO/UwNZg:2019/01/20(日) 20:42:20
【キャラクターテンプレ】

名前:“知恵の魔女”ウィズリィ(Wizly)
年齢: 14歳
性別: 女
身長: 151cm
体重: 41kg
スリーサイズ:81-57-80
種族:魔女術の少女族(ガール・ウィッチクラフティ)
職業:森の魔女
性格:無口で物静かだが、必要である時には押しが強い。
特技: 本の速読
容姿の特徴・風貌:色白な肌、流れるような長い黒髪は腰辺りで無造作にリボンで結んでいる。瞳は紫と黄金のオッドアイ。ゆったりした黒いローブ状の服を好む。
簡単なキャラ解説:
アルフヘイムとニヴルヘイムの狭間に広がる「忘却の森」出身の一族(ブレモンではモンスターの一種)の一人。
アルフヘイムを襲った「とある困った事態」に際し、おろおろする大人たちを他所にウィズリィは逆に興奮を隠せずにいた。
「……伝説は本当だったのね……異世界から現れる魔物使い達……!」
窮状を救ってもらえると喜んだこと自体は本当である。
ただ、ウィズリィが極端な実践主義者だったことが吉と出るか凶と出るか……。
後、運動は基本的に苦手だぞ。大丈夫か。


【パートナーモンスター】
ニックネーム: ブック
モンスター名: 原初の百科事典(オリジンエンサイクロペディア)
特技・能力:
◎知識の源流(ナレッジオリジン):数多くの事柄についての知識を有する。また、現地の民であるウィズリィが(外部からやってきた人々と同様に)スペルを使用できるのは彼のおかげである。
◎知の避難所(ナレッジへイブン):契約者のデッキのカードを4枚まで格納することができる。それらのカードはスペルやユニットの効果の対象にならないほか、魔力充填速度が倍になる。
◎小さな知の片鱗(ピースオブナレッジ):基本4属性(地水火風)の中位魔法までを使用可能。
容姿の特徴・風貌: 1辺30〜40cmほどの豪奢な装丁の百科事典。外見的にはそれ以上でも以下でもない。自律して飛んでいるのは少々驚きに値するかもしれないが。
簡単なキャラ解説: 忘却の森のほど近く、世界図書館マップに出現する『リビングブック族』のうちの1種類。ウィズリィが連れているのは、その中でも中堅辺りに位置する個体である。
         付き合いは相当に長く、出会った時に比べてその能力は何倍にも高まっている。

【使用デッキ】
・スペルカード
「知彼知己(ウォッチユーイフミーキャン)」×3……敵1体の情報を一通り解析する。相手がデッキを所有しているならデッキリストも分かる。
「多算勝(コマンド・リピート)」×3……魔力充填期間中のカード1枚を使用可能状態に復帰させる。
「其疾如風(コマンド・ウインド)」×1……範囲付与。味方全員に飛行能力を付与する。速度は全力疾走のさらに倍程度。
「其徐如林(コマンド・ウッズ)」×1……範囲内の使用可能な全てのカードを、使用に10分ほどの魔力充填期間を必要とする状態に移行させる。また、すでに魔力充填中なら加算する。
「侵掠如火(コマンド・ファイア)」×1……強力な炎の嵐を繰り出す。「燃え盛る嵐」の同系再販。
「不動如山(コマンド・マウンテン)」×1……既に起動しているユニットカード、スペルカード1枚の効果を打ち消す。
「難知如陰(コマンド・シャドウ)」×1……敵1人のデッキからカード1枚を選び、選んだカードを使用不可能状態にする。
「動如雷震(コマンド・サンダー)」×1……雷撃を召喚し、範囲攻撃を行う。威力は高いが隙が多め。

ユニットカード
「忘却殺しの杖(ハードメモラライズ)」×3……発動時、スペルカードを1枚指定し同時に使用する。この杖を振うと指定したカードの効果を幾度も使う事が出来る。
                            ただし、杖は10分程度で壊れる。
「魔に触れぬ誓いの槍」×2……非常に高い攻撃力を持つ槍。ただし、槍の視界内で(先端に目が付いている。グロい)カードが使用された場合、即座に召喚は解除される。
「城塞」×3……その名の通り、石造りの非常に堅牢な城塞を作り出す。

8 ◆POYO/UwNZg:2019/01/20(日) 20:43:00
【キャラクターテンプレ】

名前:佐藤メルト(プレイヤーネーム:メタルしめじ)
年齢:14歳
性別:女
身長:138cm
体重:35kg
スリーサイズ:B60 W47 H62
種族:人間
職業:中学生
性格:慇懃無礼、ネット弁慶
特技:ゲームのバグ探し
容姿の特徴・風貌:肩までの長さの黒髪。右側の額から頬にかけて大きな傷跡があるのを前髪で隠している

簡単なキャラ解説:ごく普通の少女であったが、小学生の時に不良同士の喧嘩に巻き込まれて顔に傷を負って以来、不登校となった
 家に居る間は「ブレイブ&モンスターズ!」を延々とプレイしている無課金廃プレイヤー

そのプレイスタイルは極めて悪質であり、外部サイトを利用してのシャークトレードまがいの行為やRMT、
 バグを利用したアイテム入手、マクロを使用したキャラ育成など、規約違反を複数に渡り行っている
 メルトがこの世界を訪れた時は、最近見つけたカード増殖バグを行っている最中であった為、産廃カードの所有率が非常に高い

【パートナーモンスター】

ニックネーム: ゾウショク
モンスター名: レトロスケルトン
特技・能力:一部の属性を除く魔法攻撃に対する耐性が極めて高い反面、物理攻撃に対しては非常に脆い
容姿の特徴・風貌:人間の白骨の様な姿。頭蓋骨に魔法陣が彫り込まれている

簡単なキャラ解説:
無念の死を遂げた屍が魔力の影響を受ける事により動き出した。所謂アンデット
チュートリアルの道中に出現するコモンモンスターであり、脆く弱い
ドロップアイテムも『骨の欠片』だけなので倒しても何一つ旨味がなく、プレイヤー達には見向きもされない。
尚、初期装備では倒す為に2撃が必要になる為、速度が命のリセマラ勢に蛇蝎の如く嫌われている
本体は頭蓋骨

【使用デッキ】

・スペルカード
「腐肉喰らい(スカベンジャー)」×1 …… モンスター撃破時のアイテムドロップ率に×1.5の補正が掛かる。
「死線拡大(デッドハザード)」×2 …… 対象に『状態異常:アンデット』を付与する
「生存戦略(タクティクス)」×1 …… 敵味方問わず、範囲内のモンスターに対して回復効果(大)
「骨折り損(デッドラック)」×3 …… 『状態異常:アンデット』のモンスターが致命のダメージを負った際、HP1の状態で踏み止まる
「愚鈍な指揮官(ジェネラルフール)」×2 …… 所持するアイテムを3つ破棄する事で、スペルカード1枚の効果発動を遅延する
「感染拡大(パンデミック)」×1 …… 敵味方問わず、効果範囲内のモンスターの状態異常耐性を戦闘終了までの間半減する
「携帯食(カロリーブロック) ×1 …… 使用後、戦闘終了まで毎ターンHP回復(極小)
「病原体(レトロウイルス)」×1 …… 1ターンの間、対象の状態異常耐性を半減する
「勇者の軌跡」×2 …… HPが1割以下の状態でのみ使用可能。対象の状態異常を全て解除し、更に、戦闘終了まで運以外の全ステータスが毎ターン上昇する
             尚、HPが2割以上になるとステータスの上昇は停止する

・ユニットカード
「骨の塊」×2 …… アイテム『骨の欠片』を持つ場合のみ使用可能。骨の欠片を3つ入手する。
「戦場跡地」×1 …… フィールドから継続的にオールドスケルトンが湧き出る様になる。特定のフィールドにおいては湧き出るスケルトンの種類が変化する
「血色塔」×1 …… 赤く発光する塔を産み出す。塔が破壊されるか、一定時間が経過するまで範囲内のプレイヤーとモンスターは全ての色が赤色と黒色でしか認識出来なくなる

9 ◆2zOJYh/vk6:2019/01/21(月) 19:01:12
見上げる空の左半分には、燃えるように鮮やかな紅が広がり、もう片方は暗い海の底のように、冷たい蒼で染まっている。

――月は東に、日は西に。
そんな言葉を体現している美しい光景だったが、その空の下に取り残された少年――赤城真一には、とても景色に見惚れている場合ではない理由があった。

「……おいおい、ここは一体どこなんだ?」

彼はほんの小一時間ほど前まで、日本の湘南に住む平凡な高校生だった。
中学の頃は少しばかりやんちゃをし過ぎたせいで、悪目立ちしてしまったこともあったが、ただそれだけだ。
毎日地元の高校へ通い、放課後はバイク屋のアルバイトに精を出す、ごく一般的な高校生。
そして、彼は今日も江ノ電に乗り、帰路についている最中だった筈。なのだが――

「寝過ごしてどっか遠くの駅まで来ちまったのか? いや、それにしても、江ノ電の沿線にこんな場所なんてなかった筈だけど……」

真一が気付いた時、そこは見知らぬ線路の上だった。

足元には、ところどころ崩れたレール。
付近には、古いステーション……のように見えなくもない廃墟。
そして、地平の彼方まで広がっている、見渡す限りの荒野。

最初は寝過ごして遠くまで来てしまったのかと思ったが、こんな駅は江ノ電の沿線上には存在しない。
そもそも、ここが日本なのかどうかさえも怪しい。
真一は眉間の辺りを指でつまみ、必死に記憶を辿ってみるが、それらしい心当たりは全くなかった。
思い出せることといえば、いつも通り授業を終え、帰りの電車の中で「ブレイブ&モンスターズ!」の対戦でもしようかと、アプリを立ち上げたくらいだ。

その後、唐突に真一の記憶は途切れ、いつの間にやらこの場所に立っていた。
しかし、吹き付ける風の感触や、砂の匂いはまさしくリアルそのものであり、白昼夢の中に迷い込んでしまったということも考えにくい。
ならば、ここは一体どこなんだろうか? 自分は何故、こんな場所にいるのだろうか?

とりあえず誰かと連絡を取ろうとスマホを起動してみるが、電波は圏外でアンテナ一つ立っていない。
真一は仕方なく近くの廃墟へと足を進め、手掛かりになるものでも見付からないかと探索を試みようとする。
だが、その直後、廃墟の壁を突き破って、何かが砂地の下から躍り出た。

真一の前に現れた“それ”は、俄には信じがたい姿形をしていた。

「サンドワーム……! ウソだろ!?」

それは真一も熱中している「ブレモン」に登場する、サンドワームという種族名の大蛇であった。
このような荒野や砂漠を生息地としており、全身は甲殻類みたいに頑強な皮膚で覆われている。
そのため、物理攻撃に対して高い防御力を誇り、強力な猛毒も持ち合わせているので、かなり厄介なモンスターとして知られている。
――しかし、それはあくまでもゲームの中の話だった筈だ。

10 ◆2zOJYh/vk6:2019/01/21(月) 19:02:47
『シャアアアアアーッ!!』

サンドワームは巨大な口から涎を垂らしながら、眼下に捉えた真一を獲物と見定める。
これが現実なのか、夢なのかなど、こうなってしまってはどうでもいい。
思考よりも先に動物的な恐怖に襲われた真一は、文字通り脱兎の如くその場から逃げ出した。

「冗談じゃねえ、何だってんだ一体!!」

真一は日本人高校生としては、かなり足が速い部類の少年だったが、それでもサンドワームと比較すれば相手にならない。
サンドワームは砂地の上を這って進み、瞬く間に彼我の距離を詰める。
自身のすぐ背後に迫る吐息の感触で、最早ここまでと真一が歯を食いしばった瞬間、不意にポケットに入れたスマホが振動を始めた。

『もー、何やってんだよ! 早くキミのパートナーを召喚して!!』

そして、真一はスマホの振動と同時に何者かの声を聞いた。
――いや、それは「聞いた」というよりは、もっと脳内へ直接響き渡るような声だったのだが、声の主が誰かを気にする余裕などありはしない。
ともかく、その指示通りに慌ててスマホを取り出すと、画面上には何故かブレモンのアプリが起動されていた。
ブレモンはオンラインゲームなので、電波の入らない場所ではログインすらできない筈なのだが、それを見た真一には何か確信じみた予感があった。

真一は縋るような思いでスマホを操作し、画面に表示された〈召喚(サモン)〉のボタンをタップする。
――その瞬間、強烈な閃光がスマホから迸り、真一の眼前に“何か”が現れた。

それは炎を帯びた右腕を振り被り、鋭い一撃でサンドワームの巨体を吹き飛ばす。

「……まさかお前、グラドなのか?」

真一の眼前に立つそれは、全身に真紅の鱗を纏い、頭部には琥珀の二本角。
そして、背には一対の翼を有する、レッドドラゴンの姿そのものであった。


こうして、この異世界で真一とグラドは邂逅を果たす。
しかし、彼らの出会いは、後に二つの世界を揺るがすことになる、勇気と友情の物語の始まりに過ぎなかった。

11 ◆2zOJYh/vk6:2019/01/21(月) 19:03:09
「……どこ? ここ……」

どこまでも続く、見渡す限りの荒野。
生命という生命のすべてが死に絶えたようにも見える、荒涼たる光景の中に立ち尽くし、崇月院なゆたは呆然と呟いた。
なゆたは湘南にある隼ヶ峰(はやぶさがみね)高校の生徒会で、副会長を務めている。
今日も人当たりのよさと生真面目さだけが長所の生徒会長とふたり、放課後の生徒会室で資料整理に追われていたのだ。
時刻が午後五時を回り、生徒会長が帰宅すると、なゆたは生徒会室でひとりになったのをいいことに、スマートフォンを取り出した。
帰る前にちょっとだけ、今や世間で知らない者のいない大人気ソーシャルゲーム「ブレイブ&モンスターズ!」をしようと思ったのだ。

――が。

スマートフォンの液晶画面をタップし、ブレモンのアイコンに触れてアプリを起動させた瞬間――
なゆたの身体は隼ヶ峰高校の生徒会室ではなく、見たこともない荒野に投げ出されていたのだった。

「……はぁー……」

ぽかんとした間の抜けた表情のまま、スマートフォンを右手に握りしめたなゆたは息を吐く。
ひゅうう……と乾いた風が頬を擽り、シュシュで纏めたサイドテールと制服の短いプリーツスカートを揺らしてゆく。
いかにも気の強そうな眼差し以外は概ね整っている、まずまず美人と言っていい顔立ちの少女であるが、今は呆然自失といった表情だ。
ほんの数瞬前まで見慣れた生徒会室の中にいたというのに、一瞬で荒野のど真ん中に放り出されては無理もない。
はっと我に返ると、まず白いニーハイに包んだ太股をギュッとつねる。

「痛った!」

痛い。――紛れもない現実である。第一、白昼夢など見るほど耄碌してはいない。ピチピチ(死語)の17歳だ。
ならば、これはいったいどういうことなのか?
ふと、足許にレールが敷いてあることに気付く。錆びつき、もう長い間使用されていないであろう線路だ。
線路は前方にずっと続いており、その果てに何やら人工の建築物のようなものが見える。
周囲には他にランドマークになりそうなものはない。あるのは乾いた大地と、美しくもどこか不吉に見える紅蒼の空だけだ。
スマートフォンは圏外。これでは救助も呼べない。

「……なんなのよ、もう……! 意味がわかんない!」

ここがどこかもわからない。ブレモンのアプリも起動できない。
早く帰ってログインしなきゃ、デイリーログインボーナスをもらいそびれちゃう――。
そんなどこか呑気なことを考えながら、なゆたはとりあえず建築物らしきものの方向へ歩き出した。
ここに突っ立っていてもしょうがない。まずは行動、トライアンドエラーである。
と、その瞬間、遠くに見える目的地から突然何かが飛び出すのが見えた。
人間を一呑みにしてしまうくらいの大きさの長虫。それが、同じく遠くに見える人のような影に向かってゆく。
なゆたは瞠目した。もちろん、現代日本での生活においてそんな生物に遭遇したことなどかつてない。

「な……、なに? あれ……!?」

もちろん、なゆたの独語に答えを与える者などいない。
しかし、なゆたの相手をしようと出現した者ならば、いた。
なゆたの前方の柔らかい砂地が不意に隆起し、ざざざ……と音を立てて、巨大なロープ状の生物が現れる。
それはたった今遠くの建築物に出現したものと同じ、見たこともない異形の長虫だった。

12 ◆2zOJYh/vk6:2019/01/21(月) 19:03:27
いや、見たことがないというのは誤りである。
なゆたはこの怪物を見たことがある。見たことがあるどころか、『見慣れている』。
それは大人気ソーシャルゲーム「ブレイブ&モンスターズ!」のモンスター、サンドワームだった。

「サ、サササ、サンド……ワーム……!」

これは夢か、幻か。どちらにしてもリアルすぎる。
キシャアアーッ! とどこからか耳障りな叫び声を上げ、サンドワームが襲い掛かってくる。
節くれだった胴体の先端にぽっかり空いている巨大な口が、なゆたを養分にしようと迫る。
なゆたは間一髪危ういところで避けると、こけつまろびつ駆け出した。

「な、なんなのよ、なんなのよ、なんなのよーっ!」

必死で走るものの、脚がもつれてうまく行かない。一方のサンドワームはここがホームグラウンドとばかりに距離を詰めてくる。
挙句なゆたはほんの小さな地面の凹凸に足を取られ、どっと前のめりに転倒した。

「……ぅ、う……ぁ……」

サンドワームが涎を垂らしながらにじり寄ってくる。なゆたは絶望に蒼褪めた。
こんなワケのわからないところで、ゲームの敵キャラなんかに喰い殺されるなんて。
まだ、捕まえてないレアキャラが沢山いるのに。アイテム合成してないのに。マンスリースコアランキング更新してないのに。
こんなトコロで、死んじゃうなんて――。
そのとき。

『もー、何やってんだよ! 早くキミのパートナーを召喚して!!』

声が、聴こえた。

「……へっ?」

思わず頓狂な声を出してしまう。
見れば、ずっと硬く握りしめていたスマホの液晶画面が明滅している。
液晶画面いっぱいに、手塩にかけて育て上げたパートナーモンスターが映し出されている。
『ここから出して!』と言わんばかりに、ぽよん、ぽよん、と飛び跳ねている。
圏外でネットに繋がらないときは、タイトル画面を見ることさえできないはずなのに――。
自らの置かれた状況も忘れ、なゆたは液晶画面に語りかける。

「……出せ、って。そう言ってるの?」

ぽよん、ぽよん。

「そんなことが……できるの? あなたは、ゲームでしょ?」

ぽよん、ぽよよん。

「……信じても……いいの?」

ぽよよんっ、ぽよんっ。

「わかった。わかったよ……あなたを信じるよ。それなら!」

荒唐無稽なことを考えているのは、わかってる。そんなバカなことなんてない、ということも。
でも、それをやらずにはいられない。

13 ◆2zOJYh/vk6:2019/01/21(月) 19:03:49
「おいで! ――ポヨリン!!」

なゆたはパートナーの名を呼ぶと、大きく右手を振って左手に持ったスマホに表示された〈召喚(サモン)〉のボタンをタップした。
その、途端。

『ぽよぽよ、ぽよよん、ぽよよよよ〜〜〜んっ!!!』

スマホが眩い光を放ち、液晶画面が不意に盛り上がる。
と、そこからぼよんっ!と弾き出されるように、60センチ程度の水色の球体が飛び出してきた。
白目のない黒くてくりくりした双眸と、愛嬌のある口。つるつるすべすべ、ぷにぷにの身体。
シンプル極まりない顔立ちは、某太鼓ゲームのキャラクターのそれに酷似しているかもしれない。
なゆたの召喚に応じて出現したのは、「ブレイブ&モンスターズ!」の看板キャラにしてマスコット的存在。
初めて冒険に出たプレイヤーの九割九分九厘が初陣の相手にする、基本中の基本モンスター。

スライム、だった。

「……で……、出た……」

なゆたは驚愕するしかない。
出現したスライム、なゆたがポヨリンと名付けたパートナーモンスターは、サンドワームと真っ向から対峙した。
なお、相変わらずぽよぽよと小さなジャンプを繰り返している。
ポヨリンとサンドワームが対峙している、その光景。
それにも、なゆたは見覚えがあった。

(……これ。ゲームと一緒だ……。わたしがいつもやってる、「ブレイブ&モンスターズ!」の画面と……!)

いまだにここがどこなのかわからないし、自分がなぜいるのかもわからない。
こんなバケモノがいる理由も不明だし、ゲームキャラクターであるはずのポヨリンが実際に現れたのも意味不明だ。
だが。

(……ゲームなら……勝てる!!)

それだけは、ハッキリしている。
握りしめたスマートフォンが輝く。見れば、いつもの見慣れたバトルコマンドが表示されている。
なゆたが得意としているスペルカードのデッキが展開され、選ばれるのを待っている。
で、あれば。
あわや虫のエサかと思っていたが、俄然心に余裕が生まれてきた。

「西関東エリア・ランキングベスト20を舐めんじゃないわよ! この……コモン素材風情が!!!」

素早くスペルカードの一枚ををタップし、ポヨリンに指示を送る。
自分の十数倍もの長さ、大きさを誇るサンドワームを前にしても臆することなく、ポヨリンは強く地面を弾いて跳躍した。

14 ◆2zOJYh/vk6:2019/01/21(月) 19:04:09
「やっぱり『サンドワームの甲殻』しかドロップしないか。この素材はダブついてるからスルーね……」

絶命したサンドワームを調べながら、小さく息をつく。
サンドワームは甲殻による高い防御力を誇り、猛毒をも有するモンスターということで危険視されている。
が、それは「ブレイブ&モンスターズ!」を始めてそう日が経っていないプレイヤーの話である。
二年前、このゲームがリリースされる前から事前登録しており、今も湯水のように課金しているプレイヤーからすれば雑魚でしかない。
実際なゆたもポヨリンもピンピンしている。重課金者にしてランカーの面目躍如である。

「おいで! ポヨリン!」

『ぽよぽよ! ぽっよよよ〜んっ!』

なゆたが大きく両手を広げると、ポヨリンは大きくジャンプしてなゆたの胸に飛び込んできた。
画面を見てイメージしていた通り、すべすべでぷにぷにの素敵な触り心地だ。
実体化と、マスターに抱擁される喜びを現すように、ポヨリンが頬擦りをしてくる。
なゆたはしばらく犬でも相手にするようにポヨリンとじゃれ合った。

「さて。ポヨリンのお蔭で、身の安全は保障されたわけだけど」

それから、気を取り直して現状を整理する。
サンドワームとポヨリンが出現し、スペルカードが使えたということは、ここは「ブレイブ&モンスターズ!」の中なのだろうか?
最近はVRもだいぶ進歩してきたが、ヘッドセットなどつけた覚えはないし、第一こんなにリアルではあるまい。
といって病気や幻覚の類とも思えない。健康優良児のなゆたである。
結局、何もわからないということだ。はぁ、と一度息をつく。

「結局、あそこへ行くしかないってわけね……」

遠くに見える、崩れかけた建築物に視線を向ける。
そういえば先程、サンドワームに襲撃された人影を見たような気がした。もし、その人が事情を知っているならしめたものである。
逆に危険な存在であったとしても、ポヨリンがいれば安心であろう。
西関東エリアのマンスリースコアランキングでは、20位を下回ったことのないなゆたである。
抱いていたポヨリンを下ろすと、ふたたび歩き始める。
まずは、一人(と一匹)旅を解消するため。協力者を募るため。

一緒に、物語を紡いでゆくために。


【一路廃墟へ】

15 ◆2zOJYh/vk6:2019/01/21(月) 19:04:31
それは、まるでお伽噺のような光景だった。

真一の眼前で対峙する、紅蓮の飛竜と甲殻虫。
しかし、グラドの纏う熱気が、敵から感じられる確かな殺意が――この光景が、夢でも幻でもないことを証明している。

『グルルルルルルッ……』

グラドは口の端から炎の吐息を漏らしながら、低い唸り声を上げて、サンドワームを睨み付ける。
先程は鋭い鉤爪で一閃されたサンドワームであったが、よく見てみれば大したダメージを負っているようにも思えない。
ゲームの中では、サンドワームは物理攻撃に強い耐性を持っているモンスターだった。
だとすれば、こいつを倒すには一体どうすればいいか――

『ほらほら、パートナーが力を発揮するためには、キミの協力が不可欠だよ? 早く指示を出さないと!』

――と、そこでもう一度、さっきの声が頭の中に響いた。
相変わらず耳から入るのではなく、直接脳内を刺激されるような不思議な感覚だったが、言っていることは理解できる。
そして、真一は握り締めたスマホに再び目を落とすと、画面上にはまさしくゲーム通りのバトルコマンドが表示されていた。
あの時は〈召喚(サモン)〉のボタンをタップし、グラドを喚ぶことができた。
ならば、こいつはどうだろうか――

「食らいやがれ――〈火の玉(ファイアボール)〉!!」

真一はスマホを操作して、スペルカードをプレイする。
すると、次の瞬間には虚空に火球が現れ、サンドワームの胴体を穿ち貫いた。

16 ◆2zOJYh/vk6:2019/01/21(月) 19:04:49
『キシャアアアアアアッー……!!』

火球を受けたサンドワームは、おかしくなったように身悶えしながら、壮絶な絶叫を轟かせる。
幾ら全身を甲殻で覆われているといっても、所詮は芋虫なのだ。
物理には耐性があっても、こういった炎属性の攻撃には滅法弱いのが弱点である。

そして、怒り狂ったサンドワームは、獰猛な牙を思い切り見せ付けながら、凄まじい勢いでグラドに躍り掛かる。
だが、飛竜のスピードを以てすれば、そんな攻撃など止まっているようなものだった。

「飛び上がって躱せ、グラド! そのまま反転して……ドラゴンブレスでトドメだ!!」

真一の指示を受けたグラドは、その場で飛翔してサンドワームの体当たりを回避。
更に上空でクルッと身を翻すと、今度は下方の敵を目掛けて、口から猛烈な炎のブレスを吐き掛けた。
――これぞレッドドラゴンと称するべき、必殺の一撃。
弱点の炎を全身に浴びたサンドワームは、しばらく断末魔の雄叫びを上げ続け、やがて身動き一つすらしなくなった。

「ふぅー、何とか片付いたみたいだな。……ん、何だこりゃ?」

九死に一生を得た真一が思わず息を吐いていたら、スマホが「ピロッ」と音を鳴らした。
その画面上には、ドロップアイテムを入手したことを意味する文面が表示されており、律儀にもこういうところまでゲームの中と同じだった。
結局ここがどこなのか、何故自分がこんな場所にいるのか、謎は全く解消されないままだ。
唯一の手掛かりになりそうなスマホとにらめっこをしていると、上空からゆっくりと降りてきたグラドが、真一に対して嬉しそうに鼻を擦り付けてくる。

「……ああ、そうだな。お前のおかげで命拾いしたよ。サンキューな、グラド」

真一はそんなグラドの頭を優しく撫で付け、それに応じるようにグラドは尻尾を揺らす。
こうして見ていると、つい先程まで勇敢に戦っていたレッドドラゴンと同じだとは思えないくらいだ。
しかし、彼らの間に存在する確かな絆が、やはりこの竜は自分の相棒であることを示している。

「にしても、結局ここがどこかなのかは分からんし、やっぱあの廃墟を調べてみるしかねーのかなぁ。
……って、あれはひょっとして人じゃないか? おーい、そこのアンタ! ちょっと待ってくれー!!」

思い悩むも妙案が浮かばず、最初に考えていた通り廃墟の散策へ踏み出そうとする真一。
だが、そこで不意にこちらへ歩いて来る人影のようなものを見付け、両手を大きく振りながら呼び掛けた。

右も左も分からない、こんな状況なのだ。
遠くを歩いているどこかの誰かが、少しでも情報を持っている人間ならばいいのだが――さて、どうだろうか。



【戦闘を終え、廃墟に向かって来る人影を呼び止める】

17 ◆2zOJYh/vk6:2019/01/21(月) 19:05:06
「……なるほどね」

ポヨリンとふたり、荒野を歩きながら、なゆたは右手を顎先に添え得心したように呟いた。
この地に放り出された直後はあまりの突拍子ない事態に混乱し、頭がうまく働かなかったが、だいぶ落ち着いてきた。
それを踏まえて考えると、この場所がどこなのかということがおのずと分かってくる。

「ブレイブ&モンスターズ!」は、GPS機能を用い実際にフィールドワークすることで様々なモンスターをゲットする。
実際の地点地点によって捕獲できるモンスターは異なり、プレイヤーは実地でそれを確認していく。
その際の画面はスマホのカメラ機能を使い実際の景色を投影したものと、バーチャル空間を表示したものを選択できる。
なゆたはリアリティ重視で、普段は現実世界の景色を背景に設定していたのだが――

「……これって。バーチャルモードの景色……だよね」

バーチャルモードでは、現実世界の地名の代わりに場所ごとにいかにもゲームらしい名前の地名がつけられている。
記憶によれば、ここは確か『赭色(そほいろ)の荒野』……だっただろうか。
豊かな生命を育む緑がすべて死に絶え、ただ毒を持つ長虫だけが生息するという赤土の地。
難易度としては、中級以上のプレイヤーが腕試しで来るような場所だ。
むろん、重課金プレイヤーであるなゆたにとってはとっくに狩り尽くし、掘り尽くした場所なのだが。

「まぁ、場所はわかったとして。問題は、どうしてわたしがここにいるのかってことよね」

位置情報がはっきりしただけで、自分が生徒会室から一瞬でここへ連れてこられたことに関しては、やはり何もわからない。
いずれにせよ先へ進むしかないということだ。

『ぽよぽよ……ぽよ〜ん?』

ふと、傍らのポヨリンが鳴き声をあげる。
見れば、シンプルな顔にどこか心配げな表情を浮かべ、なゆたのことを見上げている。
基本的に知能がないに等しいと言われているスライムだが、ポヨリンはなゆたがすべての財と時間を注ぎ込んだ特別製だ。
ステータスはカンスト、スキルマ、挙句に限界突破とやれることはすべてやってある。
当然、INTも高い。――あくまでスライムにしては、だが。

「心配してくれてるの? ありがと、ポヨリン」

屈み込み、にっこり笑ってポヨリンの頭を撫でる。……頭しかないのだが。
一人旅であれば不安に押し潰されそうになっていただろうが、ポヨリンがいてくれるなら心細くはない。
どんなレアモンスターを捕獲しても図鑑を充実させるだけで育成はせず、ポヨリンだけに尽くしてきたなゆたである。
その絆は生半可なことでは壊れはしない。

「大丈夫! ポヨリンのおかげで、わたしは元気いっぱいだよ! さあ――行こう! この世界の謎を解かなくちゃ!」
『ぽよっ! ぽよよ〜ん!』

勢いをつけて立ち上がり、ぐっとガッツポーズをしてから、廃墟の方を指差す。
ポヨリンもやる気充分らしく、ふんすふんす! と鼻息(?)を荒くしている。
一人と一匹は、地面に敷かれた壊れた線路をたどって廃墟へと近付いていった。

18 ◆2zOJYh/vk6:2019/01/21(月) 19:05:25
「……あれは……」

廃墟に先客がいる。なゆたは右手で額に庇を作り、目を眇めて注視した。
人だ。やはり、先ほど人がサンドワームに襲われているように見えたのは見間違いではなかったらしい。
現在サンドワームの姿がない辺り、きっと自分と同じようにモンスターを召喚して窮地を脱したのだろう。
その証拠に、人影の傍らに真紅のドラゴンが寄り添っているのが見える。
レッドドラゴン。レアキャラだ。竜の谷というエリアに棲む、強力なモンスターである。
最初期に回せるガチャでもごく低確率で排出されるらしく、リセマラをする輩は多いが、出たという報告は滅多にない。
そんなレアキャラを持っているプレイヤーといえば……。

「んっ? んんん? ……んんんんん〜〜〜〜っ???」

どこかで見たことのある学校の制服と、どこかで見たことのあるウルフカット。
学ランの胸元から覗く、赤いシャツ――。

>あれはひょっとして人じゃないか? おーい、そこのアンタ! ちょっと待ってくれー!!

「う……、うわ――――っ!! 真ちゃあ〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!」

聞き覚えのある、いや、聞き間違えようのない声がこちらへ向けて投げかけられる。
なゆたは思わず両手を大きく上げ、ぶんぶんと振って叫んだ。ついでにポヨリンよろしくぴょんぴょん跳ねる。
相手は幼馴染の赤城真一に間違いない。お隣同士、親の代から家族ぐるみの付き合いをしてきた間柄だ。
彼が中学時代、荒れに荒れていた頃は少しだけ付き合いも疎遠になっていたが、今はその関係も修復されている。
なゆたは息せき切って真一へ駆け寄った。

「真ちゃんもこっち来てたんだ! あ〜……でも当然か! でもまさか、ここで真ちゃんに会えるなんて!
 よかった〜〜〜〜〜〜!!!」

なゆたは嬉しそうに駆け寄ると、ためつすがめつ真一の全身を見た。紛れもない本物だ。

「ねえ、真ちゃん! 真ちゃんはどうしてこんなところへ飛ばされちゃったのかわかる?
 わたしは生徒会室でアプリ起動させたら、いつの間にかここにいたんだ。で、サンドワームに襲われて、
 でも絶体絶命ってときにこのポヨリンが助けてくれて、あー、ここはブレモンの世界なんだなーって。
 けど、どうやってわたしがここへ来たのかは全然わからなくて――」

知った顔と会えた嬉しさからか、マシンガンのようにまくしたてる。
それからしばらく、とりあえずの情報交換をするものの、やはり結果は『わからん』という一点しかなかった。
廃墟の崩れた壁に腰掛け、白いニーハイソックスに包んだ両脚を交互にぱたぱたさせながら、なゆたは眉をしかめる。

「んー……やっぱり、真ちゃんにもわかんないか……。手詰まりだなぁ」

はー、と小さく息をつき、ポヨリンに視線を向ける。
ポヨリンは最初いかついレッドドラゴンのグラドを警戒していたが、少し経つとすっかり慣れたのか足元に纏わりついている。
敵意のないモンスターに対しては人懐っこい性格なのだ。

19 ◆2zOJYh/vk6:2019/01/21(月) 19:05:47
「じゃあ〜……とりあえず、この廃墟調べてみる?」

ひょいっと壁から下り、両足で地面を踏みしめる。短めのプリーツスカートの裾がひらりと躍る。
廃墟を調べれば、もしかしたら誰か他にも自分たちと同じ境遇の人間を発見できるかもしれない。
ブレモンにはギルドやコミュニティがあり、フレンド機能もついている。助け合いは大事だ。
自分と真一だけではまだ戦力として心もとない、という意識もある。
自分とポヨリンのタッグなら大抵の相手に負けないという自負はあるが、念には念を入れておく必要がある。
体力が兆単位もあるレイドボスなどに出られた日には、いくら自分たちでもとても太刀打ちできないからだ。
加えて……

「っと、その前に。真ちゃん、デッキ見せて」

何を思ったか、不意に右手を突き出す。スマホをよこせ、と言っているのだ。
真一から半ば無理やりスマホを取り上げると、液晶画面をフリックしてスペルカードを確認する。
そして、ため息をつく。

「スペルカード、攻撃系ばっかりじゃん……。そりゃ派手だし手っ取り早いけどさぁ……。
 でも、全部単発の攻撃スペルだし、それじゃコンボが続かないよ?
 ブレモンはタクティクス! 戦術が大事なんだから! それ、わたし口すっぱくして教えたよね?
 レッドドラゴンは最強クラスのモンスターだけど、性能だけに頼ってちゃ上は目指せないよーって!」

人のデッキにダメ出しする始末。基本世話焼きというか、お節介な性分である。
重課金プレイヤーの自分と違い、ブレモン初心者の真一はまだまだ戦い方に粗が多い、と思っている。
加えてこんな状況だ。悠長に真一が上達するのを待ってはいられない。

「っても、今はデッキ再構築してる時間はないし、まずは安全な場所を確保しなくちゃね。
 さ、行こ! 廃墟探検へ!」

真一にスマホを返すと、廃墟探検なんて小学校のころ以来だね、などと呑気に言う。
ポヨリンを抱き上げて胸にぎゅっとかかえ込むと、なゆたは楽しそうに笑った。


【一緒に廃墟探検?】

20 ◆2zOJYh/vk6:2019/01/21(月) 19:06:08
ついさっきまでは東と西の最果てで相対し、空模様を二分していた月と太陽であったが、
サンドワームから逃げ回っているうちに、いつの間にやら夕日は沈みかけ、夜の帳が下りて来ていた。
ただでさえ見知らぬ場所で右往左往しているというのに、こんな状況で夜を明かすなどたまったものじゃない。
そこでようやく自分以外の人影を見付け、両手を振り回しながら呼び掛ける真一だが、彼の声に応じたのは予想外の人物だった。

>「う……、うわ――――っ!! 真ちゃあ〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!」

「おーい! ……って、お前……なゆ!?」

それは、真一の隣の家に住む少女――崇月院なゆたであった。

真一となゆたの関係は、幼少期を更に飛び越えて親の代から続く、いわゆる幼馴染だ。
真一は幼い頃に母親を病気で亡くしているため、このなゆたが母に代わり、真一と妹の夕食を作りに来てくれることなども珍しくない。
まさに、家族ぐるみの腐れ縁。そのなゆたと、よもやこんな場所で出くわすとは思っていなかった。

>「ねえ、真ちゃん! 真ちゃんはどうしてこんなところへ飛ばされちゃったのかわかる?
 わたしは生徒会室でアプリ起動させたら、いつの間にかここにいたんだ。で、サンドワームに襲われて、
 でも絶体絶命ってときにこのポヨリンが助けてくれて、あー、ここはブレモンの世界なんだなーって。
 けど、どうやってわたしがここへ来たのかは全然わからなくて――」

真一は「だからいい加減、真ちゃんはやめろって!」などとツッコミつつ、矢継ぎ早に捲し立てるなゆたと問答を交わす。
と言っても、正直こちらもロクな情報を持っているわけではない。
分かることと言えば、このスマホを――正確にはブレモンのアプリを使って、グラドを喚び出したり、スペルカードを発動できたというくらいだ。

「しかし、ここがゲームの世界だって? んなこと言われても信じられるか……って言いたいところだけど、実際にこいつらを見ちまった後だからなぁ」

真一は首をクイッと動かし、傍でじゃれついているグラドとポヨリンの方に視線を向ける。
足元のスライムに纏わり付かれ、グラドは何やら困ったような表情を浮かべていた。

>「じゃあ〜……とりあえず、この廃墟調べてみる?」

「ああ、そうだな。そろそろ完全に日が暮れちまいそうだし、最悪でも野宿できそうな所くらいは確保しといた方がいい。
 こういう場所の夜って、かなり冷え込むんだろ?」

なゆたのスカートがヒラっと捲れそうになるのを見て、思わず目を背けつつ、人差し指で頬を掻きながら返答する。
真一はあまり学校の勉強に熱心な方ではないが、放射冷却という言葉は覚えていた。
こんな風に日差しが強く、乾燥しているような土地では、夜になると急激に大地が溜め込んだ熱エネルギーを吐き出してしまうというやつだ。

>「っと、その前に。真ちゃん、デッキ見せて」

さて、話も纏まりようやく廃墟探索へ繰り出そうとしたところで、なゆたがこんなことを言ってきた。

>「スペルカード、攻撃系ばっかりじゃん……。そりゃ派手だし手っ取り早いけどさぁ……。
 でも、全部単発の攻撃スペルだし、それじゃコンボが続かないよ?
 ブレモンはタクティクス! 戦術が大事なんだから! それ、わたし口すっぱくして教えたよね?
 レッドドラゴンは最強クラスのモンスターだけど、性能だけに頼ってちゃ上は目指せないよーって!」

「むっ……まーた、そんなこと言いやがって。
 だから攻めて攻めまくるのが、俺とグラドの戦い方なんだって! ……見とけよ、いつかこれでギタギタにしてやるからな」

なゆたに勧められてブレモンを始めた真一だったが、それからというもの、何かにつけてこういうダメ出しをされるのだ。

まあ、未だになゆたと対戦して、まともに勝てた試しがないのだから仕方ない。
真一はレッドドラゴンという超レアを引き当てたにも関わらず、何度なゆたと対戦しても、最弱の筈のスライムに翻弄されてしまう。
無限に増えまくるスライムを殲滅するため、〈燃え盛る嵐(バーニングストーム)〉などの上級スペルを入れてみたりもしたが、これまで有効に使えたことはなかった。
いつかはなゆたとポヨリンを圧倒してやりたいと思っているが、今のところは言われるがままになっておくしかないだろう。

21 ◆2zOJYh/vk6:2019/01/21(月) 19:06:22
>「っても、今はデッキ再構築してる時間はないし、まずは安全な場所を確保しなくちゃね。
 さ、行こ! 廃墟探検へ!」

そして、場所は移り変わり廃墟の中へ。

内部には当然灯りなどは点いていないが、いい具合に天井が崩れて月の光が差し込んでいるので、全く視界が利かないわけでもなかった。
ちなみにグラドは幼生といえどドラゴンなので、サイズ的に連れてくることができなかったため、建物の外で待機させている。

「……ここは、やっぱ駅なんだな。つっても、しばらく使われた形跡はなさそうだけど」

外から見た印象通り、やはりここが駅であるということは、中に入ってすぐに分かった。
と言っても、日本で使われているそれとは大分構造も違い、一見すると豪華な西洋風の館などに見えなくもない。

「この先が、外で見たレールに繋がってんのか。って、あれ……」

『おーい、こっちだよー! 早く早くー!』

廃墟の奥まで進み、ホームのような空間を調べていた時、何かその先に朧気な光が灯っているのが見えた。
その直後、またしても脳内に響く不思議な“声”。

真一は一度振り返り、なゆたと目配せを交わしたあと、足早に光の差す方へと進む。
そして、ホームの先端部まで出ると、そこには何者かが手摺りに腰掛け、二人の姿を見据えていた。

『やーやー! まったく、待ちくたびれたよ。ボクはスノウフェアリーのメロ。
 ボクらみたいな種族にとって、ここは本当に暑苦しいんだから勘弁して欲しいよね』

その正体は、白銀の髪と白い肌を持つ小柄な妖精――スノウフェアリーだった。
本来は雪原などに登場する筈の種族が、何故こんなところいるのかも気になるが、今はそれどころではない。

彼女こそ、ここへ訪れてから何度も真一に語りかけて来た声の主だったのだ。
メロと名乗ったスノウフェアリーは、夜空を照らす月光を背景に、ニコニコと満足げな笑みを浮かべていた。



【廃墟の中でNPC登場。ちなみにNPCの扱いは自由にしようと思いますので、他の方が操作してもOKです】

22 ◆2zOJYh/vk6:2019/01/21(月) 19:06:41
真一と話しているうちにすっかり日は落ち、夜になってしまった。
懐中電灯もなしに廃墟の中へ踏み入るなど自殺行為のようにも思えたが、予想に反して廃墟の中は意外と明るい。
天井の崩れた部分が明かり窓の役目を果たし、差し込む月の光が要所要所を照らしている。
とはいえ、暗いことには変わりない。先行する真一の後ろについて、ポヨリンを抱きしめながらおっかなびっくり歩く。

「し……真ちゃん、あんまり早く先に行かないで……。足元危ないんだから……。
 やっぱり、グラちゃん連れてきた方がよかったんじゃない……?」

ポヨリンをぎゅっと胸に抱き、きょろきょろしながら言う。
もしグラドがいたなら、炎を吐いて周囲を明るく照らすことも可能だっただろう。
とはいえ、グラドのサイズでは翼が邪魔して廃墟の入口をくぐることが困難だったため、仕方ないのだが。

「ポヨリンに発光スキルを付与するべきかしら……」

そんなことを言う。ポヨリンの強化に余念のないなゆたである。

>「……ここは、やっぱ駅なんだな。つっても、しばらく使われた形跡はなさそうだけど」

「でも、こんな駅見たことないよ。ブレモンの世界にもあったかどうか……。わたしたちの住む世界にも、もちろんなかったし」

よく海外の映画などで描写されるメトロの構造に、それはよく似ている。
どこかゴシックな佇まいの壁や柱は、だいぶ古い時代のものだろう。こんなところに誰かがいるとは思えないが――

>『おーい、こっちだよー! 早く早くー!』

「ひゃああああああっ!?」

ホームに降り立ち、前方にぽんやり輝く光を見つけたと同時、突然脳内に響いた声に甲高い悲鳴を上げる。
思わずぎゅーっと強くポヨリンを抱きしめてしまい、ポヨリンもついでに『ぴきーっ!』と悲鳴を上げる。
声は、サンドワームとの戦いのときにも聞こえたもの。ポヨリンを召喚するようにと指示してきたもの。
とすれば、何か手がかりを持っているかもしれない。
なんとか腰を抜かさず踏みとどまり、真一とアイコンタクトする。
いずれにせよ、こちらには進むしか選択肢がないのだ。

ホームの先端に向かうにつれ、おぼろげだった光が強くなってゆく。
そして、ホームの端。これ以上は線路を降りて進むしかないというところで。

>『やーやー! まったく、待ちくたびれたよ。ボクはスノウフェアリーのメロ。
 ボクらみたいな種族にとって、ここは本当に暑苦しいんだから勘弁して欲しいよね』

手すりに腰掛けたスノウフェアリーが、真一となゆた(とポヨリン)を待ち受けていた。

23崇月院なゆた ◇uymDMygpKE:2019/01/21(月) 19:07:55
スノウフェアリー。
この荒野エリアとは真反対の雪原エリアに出没するモンスターだ。
知能が高く、人語を解する。魔法を得意とし、鍛え上げれば氷雪系の強力な魔法を多様に使いこなす。
総じていたずら好きだが、心優しい者も多く一概に悪とは言えない。
倒すとたまに氷雪属性モンスターの強化素材『雪のかけら』をドロップする。

「……アンコモン……」

真一の背後で、ボソリと呟く。
アンコモンとはブレモンのモンスターやアイテムの等級である。
スノウフェアリーはレア度的に下から二番目のアンコモン。つまり別段珍しくはないということだ。
もちろんなゆたは捕獲済みである。なお、図鑑目当てで捕らえただけで育成はしていない。
ともあれ、このスノウフェアリーが自分たちにモンスター召喚の方法を教え、ここへ導いたのは間違いない。
……であれば。

「メロ、とか言ったわね。ひょっとして、あなたがわたしたちをこの世界に呼び寄せたの?」

ニコニコと笑っているメロに、ずいと一歩踏み出して訊ねる。

「どういうこと? ここはブレモンの世界ってこと? どうして、ゲームの世界の中にわたしたちが入っちゃったの?
 何が狙いなの? ここから出るにはどうすればいいの? あなたはわたしたちを元の世界に帰せるの?
 この辺に村とか街とか、安全に寝泊りできる場所はない? このままデイリーログインボーナス継続切れちゃわない?
 運営に問い合わせた方がいい? あとこの辺でレアモンスター狩れる狩場とかない?」

真一と再会したときと同じマシンガントークだ。息つく暇もなく、一気にメロへとまくし立てる。
最後のあたりに変な質問が混ざっているのはご愛敬である。

「さあ、わたしの質問に答えてちょうだい。こっちはさっさと帰らなくちゃ、夕飯の支度とか色々あるんだから。
 本当のことを隠したり、ウソを言ったりはしないでね。もし、そんなことをしたら――」

そう言って、胸の前で拳をボキボキと鳴らしてみせる。

「――狩る。わよ?」

本気だ。もしもメロが自分たちにとって有害な存在であるなら、躊躇いなく潰す気でいる。
ポヨリンもぽよんぽよんと跳ねながら、きゅぴーん! と剣呑に目を輝かせている。

「さ。ってことで、あなたの知ってること。一切合財話して?」

九割脅しの文言を告げながら、なゆたはにっこり笑って小首を傾げた。


【脅迫という名の情報収集】

24明神 ◇9EasXbvg42:2019/01/21(月) 19:08:38
荒野を冷ややかに照らす青白い月の下で、濡れた布を引き裂くような嬌声が耳朶を打つ。
叫びの主は、巨大な鶏の頭とトカゲの体躯をもった禍々しい造形の生物。
荒野を徘徊しては不運な旅人をその毒爪で縊り殺す危険なモンスター、『コカトリス』だ。
その声帯から発せられる雄叫びは獲物を狩り殺した快哉ではなく、断末魔に近かった。

「うるせえよ。時間考えろ時間」

普通に耳障りだったので俺はトドメを刺した。
といっても手を下すのは俺じゃなく、傍で長弓に矢を番える俺の"しもべ"だ。
革製の鎧で全身を武装した鎧武者にも見えるが、実際のところ武者ではなく鎧そのもの。
鎧に怨霊が憑依して生まれた生ける鎧と呼ばれる魔物の中でも、最低級に位置する『リビングレザーアーマー』だ。
革鎧が撃ち放つ矢によって既に無数の貫傷を作っていたコカトリスは、最後の一撃を頭部に受けて絶命した。

ピコン!と場違いな電子音と共に俺の手の中にあるスマホにリザルトが表示される。
EXPバーを微動させる僅かな経験値と、インベントリに入るドロップアイテムは――

「コカトリスの肉。ちっ、またノーマル素材かよ」

一回レアドロの霜降り肉をゲットして焼いて喰ったときの感動が忘れられずに、俺はコカトリスを狩り続けていた。
コカトリスは毒持ちの厄介なモンスターだが、安定して狩れる小ワザってのが存在する。
代表的なのが今俺がやってるような、奴の攻撃の届かない位置から一方的に遠距離攻撃しまくるいわゆる高台ハメだ。
荒野に点在する破壊された建物の上に安地を発見して以来、俺はここを拠点として不毛なモンスター狩りに励んでいた。
なぜかと言えば、食料が全然見つからなかったからである。

「おら、料理しとけヤマシタ」

ドロップしたての肉をインベントリから出して、指示を待っていたヤマシタ(革鎧のニックネーム)に放る。
ヤマシタは無言でそれを受け取ると、鎧の中からナイフを取り出して黙々と調理を開始した。
リビングレザーアーマーは戦闘力こそ低い低級モンスターだが、革鎧が装備可能なあらゆる職業のスキルを使うことができる。
狩人の持つ野外調理のスキルは俺の乏しい食糧事情にいくばくかの潤いをもたらした。

下処理を施した肉を一口サイズに切り分けて、一列に串を通して焚き火で炙るだけの野趣溢れる簡単調理。
荒野の植物モンスター、デザートローズの触手は毒棘さえ取り除けば強靭な串として使える。
肉の脂が溶けてブジュブジュいい出したら、その辺で拾った岩塩を削って味付けして『コカトリスの焼き鳥』は完成だ。

一口齧れば溜息が出る。
硬くて筋張ってて変な臭みがある上に全体的に生焼けと生ゴミみたいな焼き鳥の味にだ。
クソ不味い……俺料理とかしたことねーから気づかなかったけど、臭み消しってすげえ大事だったんだな……。
ネギかショウガみたいな香味野菜か、胡椒とかの香辛料が欲しい。
胡椒一粒が金一粒だった時代の価値観が今ならよく分かる。
こんな食生活続けてたら遠からず病気になっちまうよ。

「何やってんだろうな俺……」

今度は自分の状況の過酷さに溜息が出た。
いつものように会社のトイレでサボりつつ、ブレモンの公式フォーラムで信者相手にレスバトルを繰り広げていた俺は、
気付けばケツ丸出しで荒野のど真ん中に放り出されていた。

その時立ててたスレッドのタイトルまで鮮明に思い出せる。
『ブレモンはクソ、育成要素は死んでて課金スペルを買って殴るだけのゲーム』、確かこんなスレタイだったはずだ。
10分くらい気合入れて書いた長文を投稿しようと送信ボタンを押した瞬間、不意にトイレが真っ暗になった。
座ってた便座の感覚がなくなって、代わりに砂が尻に触れて変な声が出た。
今思い返しても、スレッド立てる前にケツ拭いておいたのが不幸中の幸いと言うほかない……。

25明神 ◇9EasXbvg42:2019/01/21(月) 19:09:09
これが白昼夢や精神的な疾患の類でないのなら、俺がウンコしてる間に核戦争でも起きて全てが滅んだか。
あるいは度重なる荒らし行為にキレたブレモンの運営が超法規的措置で俺を秘密裏に拉致したかのどっちかだ。
まさかゲームの中に取り込まれたなんて、そんな一昔前のライトノベルみてーな展開はねえだろう。
荒野の中でブレモンのモンスターに襲われて、変な声に導かれるままにサモンに成功するまでは、そう思ってた。

認めねばなるまい。
俺は今、何の因果かソーシャルゲーム『ブレイブ&モンスターズ』の世界の中にいる。
夢なら別に覚めなくても良い。クソつまらん現実世界の不毛な伝票整理で一生を終えるよりかは楽しい夢だ。
ただ、この世界に向き合うスタンスを決めた俺に、もうひとつ厄介な問題が立ちはだかった。

腹が減った。
そして、メシがねえ。

RPGでもあるこのゲームには食料系のアイテムが存在こそするが、実情はほとんどフレーバー要素に近い。
スマホの向こう側で俺の代わりに動き回るキャラクターたちが、空腹で死ぬことはない。
まあ多分ゲームの演出上不要なシーンはカットしてるだけで、本当はなんかしら食ってんだろうけど、システムに反映はされない。
食料は不毛なお使いクエストのお届け物とか、一時的なステータス効果をもたらす、実用度の低いアイテム群だ。
貴重なインベントリ枠を食料系に割くプレイヤーはほとんどいなくて、俺もその例に漏れなかった。

僅かに持ってたパン(HP微上昇効果。味は雑巾みたいだった)は早々に食い切っちまって、
この草もろくに生えてないような荒野には食べられる野菜や木の実の類も望めない。
モンスターに食い殺されるよりも餓死の方が心配になるって始末だ。

早々に訪れた食糧危機に、俺が選んだ生きる道は……モンスターを狩って喰う、原始人みたいな狩猟生活だった。
『モンスターの肉』系アイテムは主に換金素材としてそこそこの確率でドロップする。
おそらくは魔物を狩って路銀に変えて旅をする、冒険者のロールプレイとして実装されたアイテムだろう。
そのままじゃ喰えたもんじゃないが、煮るなり焼くなりすれば当面の栄養源にはなるようだった。

幸い水は十分に確保できている。
エンカウント率を下げるアイテム『聖水』は実用度が高く、俺も常に限界までインベントリに詰め込んでいた。
なんか変な塩味がついてて明らか飲用に適した味じゃなかったが、まともな湧き水もない荒野で贅沢は言えねえ。
とまれかくまれ、今の主食はコカトリスの肉。いい加減腹壊すんじゃねえかとビクビクしている。

……どっかに街の一つもありゃいいんだが。
安全を確保した上で見て回れる範囲を検分した結果、ここがブレモン世界で言うところの『赭色の荒野』だってことは分かった。
だが中級者以上推奨のこのフィールドに、カジュアル勢の俺はあまり土地勘がない。
どっちに向かえば都市にたどり着けるかもわからない。そもそもNPCとか居るのかこの世界?
道標になりそうなのは、荒野を横断するようにずっと先まで続いているレールだった。

……地道に歩くしかないか。
どの道ここにずっといたってジリ貧になるばかりだ。
『赭色の荒野』に出現するコモン敵くらいなら俺でも狩れるが、確かここには時間帯限定でPOPするレア敵がいた。
上級者でも苦戦するボス級の魔物に遭遇した時、今度こそ俺が生き延びられる保証もない。
とっとと安全地帯を見つけてこの先のことを考えよう。

串を綺麗に洗ってインベントリに納めた俺は、レールの向こうに見える巨大な建造物へ向かって歩き始めた。
物言わぬ死者の鎧、リビングレザーアーマーと共に。


【とりあえず導入をば。そっちの情報共有が終わったくらいのタイミングで乱入したいと思ってます
 明神は基本ゲス野郎なので敵対します】

26赤城真一 ◇jTxzZlBhXo:2019/01/21(月) 19:10:14
>「メロ、とか言ったわね。ひょっとして、あなたがわたしたちをこの世界に呼び寄せたの?」

>「どういうこと? ここはブレモンの世界ってこと? どうして、ゲームの世界の中にわたしたちが入っちゃったの?
 何が狙いなの? ここから出るにはどうすればいいの? あなたはわたしたちを元の世界に帰せるの?
 この辺に村とか街とか、安全に寝泊りできる場所はない? このままデイリーログインボーナス継続切れちゃわない?
 運営に問い合わせた方がいい? あとこの辺でレアモンスター狩れる狩場とかない?」

>「さ。ってことで、あなたの知ってること。一切合財話して?」

『ちょ、ちょ、ちょっ……! やだなぁ、もう。こんなに愛らしいボクを脅かさないでよ〜。
 そんな風に怖い顔してたら、せっかくの美人さんが台無しだよ?』

相対していきなり脅しに掛かってきたなゆたの形相に、流石のメロも笑顔を引き攣らせながら、胸の前でブンブンと両手を振る。
しかし、なゆたは説教をする時など、たまにこういった様子になることは知っていたが、この剣幕には真一も若干引いていた。
中学時代は「テメーどこ中だよ?」が口癖だった男がたじろぐのだから、中々のヤンキーっぷりである。

「おいおい、いきなりビビらせ過ぎだろ……
 だけど、なゆが聞いたことを知りたいってのは俺も同じだ。わざわざ呼び付けたくらいなんだから、教えてくれる気はあるんだろうな?」

真一はなゆたを宥めつつも、メロに対しての質問は後押しする。
その問いを聞いて、メロは「こほん」と芝居じみた咳払いをしてから、ぷらぷらと泳がせていた両足を組み直す。

『もちろん。キミたちに会うために、わざわざこんな辺境の場所まで来たんだからね。
 と言っても、ボクはただの使いっ走りだから、何もかも答えられるというわけではないんだけれど』

そんな前置きをしたあと、更にメロはこう続ける。

『もう気付いてるかとは思うけど、ここはキミたちが住んでいたそれとは別の世界――“アルフヘイム”なんだ。
 そりゃ大昔は神様同士で戦ったり、様々な国が出来たり滅んだり、色んなことがあったらしいけどね。
 ここ数百年くらいは特に大きな戦争もなくて、皆が平和に暮らしていたんだよ』

アルフヘイムとは「ブレイブ&モンスターズ!」の主な舞台となっている異世界の総称だ。
ちなみに作中では魔界と呼ばれている“ニヴルヘイム”と表裏一体の構造になっており、両者の神々が大喧嘩をした結果、世界がそういう形に区切られたという歴史設定がある。

『だけど、最近“とある異変”が起こって、この世界の生態系とか、国境なんかが滅茶苦茶になっちゃってさ。
 ご覧の通りボクたちは何百年も平和ボケしてたから、自分らだけで戦うこともできなくて、にっちもさっちも行かなくなっちゃったんだよ』

一旦メロは言葉を区切り、両手をポンと打ってみせる。

『そ・こ・で! ボクたちの王様が、キミたちに目を付けたんだよ!
 ボクも詳しいことは知らないんだけど、キミらの世界の住人はその“魔法の板”を使って、モンスターを自在に操る戦いのエキスパートなんだろう?
 実際に見てみるまでは半信半疑だったけど、二人の技はもう見事だったよ!
 何もないところからパッとモンスターを召喚して、すごい魔法も使いこなして……そっちの世界では、さぞや魔法技術が発展しているんだろうねぇ』

メロは腕を組みつつ、先程の戦いをしみじみと思い出す。
だが、そこでなゆたの質問とは、若干の食い違いがあることに引っ掛かるだろう。
メロはあくまでも、ゲームという概念のことは知らないのだ。
彼女にとって、ここは異世界アルフヘイム。そしてブレモンのプレイヤーは、モンスターを巧みに操る魔法使い。
それが彼女の認識なのである。

27赤城真一 ◇jTxzZlBhXo:2019/01/21(月) 19:10:48
『……というわけで、まずキミたちにはこの国の王様に会って欲しいんだけど――って、あれ?』

メロがそこまで話し終えたあと、不意に上空から何か異音が聞こえてきたことに気付く。
ブブブブブ……と、不快な印象を受ける重低音は、徐々にこちらの方へと近付いてきているようだった。

「こりゃ、一体何の音だ? 虫の羽音っぽくも聞こえるけど……」

『あーらら。まったく“蝿の王”とは、つくづくツイてないね。
 にしてもこんな果ての地にまで、あんな奴が現れるなんて、これも侵食の影響なのかな……』

メロは何やら不穏なことを呟きつつ、腰掛けていた手摺りからさっと飛び降りて、空中へと舞い上がる。

『ともかく! もうちょっとしたら、この駅に迎えが来る筈だから、そいつに乗って王様まで会いに来てよ。
 あと、上にいる“あいつ”は多分襲って来ると思うけど、キミたちみたいな魔法使いならきっと大丈夫!
 頑張って、コロっとやっつけちゃってね〜!』

などと極めて無責任なことを言ってのけながら、メロはそのままヒラヒラとどこかへ飛んで行ってしまった。

「お、おい……ちょっと待てって! あいつって一体誰のことだよ!? それに、他にも聞きたいことが――」

『グルルルルルルルッ……!!』

真一はメロを呼び止めようと手を伸ばすが、その瞬間、外で待機させていたグラドが獰猛な唸り声を上げ始める。
そのただならぬ様子に、慌ててホームから身を乗り出してみると、グラドは上空にいる“敵”の姿を見据え牙を向いていた。

そして、その“敵”の正体とは――

「……おいおい、あれはひょっとしてベルゼブブって奴じゃねーか?
 かなりレアなモンスターだった筈だけど、何だってこんなところに!」

夜天から襲来する敵は、巨大な蝿の姿をしたモンスター――ベルゼブブだった。
蝿の形はしているものの、中身は上級悪魔であり、レア度に比例してステータスも非常に高い。
しかも厄介なことに、ベルゼブブは自身の周囲に“デスフライ”という蝿型モンスターまでも大量に引き連れていた。

このまま通り過ぎ去ってくれないだろうかという期待も虚しく、無数の蝿たちは既に眼下の獲物を見定めていた。
そして、まるで夜空が落ちてくるかのような勢いで、荒野に向けての急降下を開始する。

「ちっ、やるしかねーってわけか。……上等だ。行くぜ、グラドッ!!」

真一はホームから飛び降り、ポケットから取り出したスマホを握り締める。
それに呼応するかの如く、グラドは両翼を広げて雄叫びを放ち、月下の戦いは火蓋を切って落とされた。



【簡単な舞台説明&序章のボスキャラ登場】

28崇月院なゆた ◇uymDMygpKE:2019/01/21(月) 19:11:22
>おいおい、いきなりビビらせ過ぎだろ……

「……だって」

こちらを窘めてくる真一の言葉に、ぷう、と頬を膨らませる。
アニメやマンガの登場人物のように、どことも知れない場所の誰ともわからない者を無条件に信じることなんてできない。
それに、相手は自分たちを問答無用でこの異世界に引きずり込んだかもしれない輩だ。
疑ってかかることは大事である。
床にポヨリンを下ろし、いつでもメロを狩りにいけるポジションをキープしながら、彼女の話を聞く。

>もう気付いてるかとは思うけど、ここはキミたちが住んでいたそれとは別の世界――“アルフヘイム”なんだ。

「……アルフヘイム……。やっぱり、ここはブレモンの世界ってわけね」

メロの告げた言葉は、自分にとっても聞き覚えのあるもの。
光の世界アルフヘイムと、闇の世界ニヴルヘイム。
かつて和合していたふたつの世界は光の神々と闇の神々の戦いによって分断され、それが今なお続いているという。
その設定はゲームを最初にDLするとき、『Now Downloading……』の一文と共に画面に表示されるので、皆が知っているだろう。
しかし、そこからが問題だった。

>だけど、最近“とある異変”が起こって、この世界の生態系とか、国境なんかが滅茶苦茶になっちゃってさ。
 ご覧の通りボクたちは何百年も平和ボケしてたから、自分らだけで戦うこともできなくて、にっちもさっちも行かなくなっちゃったんだよ

「新しいイベントってことね? いいじゃない。
 最近はストーリーモードも粗方やり尽くして、素材集め周回しかやることなかったのよね。
 でも、そんなイベントを開催するなんて告知、公式にあったかしら? 毎日チェックしてるのに……」

運営め……これは詫び石案件だわ……などとブツブツ言っている。
いまだにゲームだと思い込んでいるなゆたである。

>そ・こ・で! ボクたちの王様が、キミたちに目を付けたんだよ!
 ボクも詳しいことは知らないんだけど、キミらの世界の住人はその“魔法の板”を使って、モンスターを自在に操る戦いのエキスパートなんだろう?

「……ふぅん……あなたたちの王さまって言うと――」

ブレモンに精通しており、有志による攻略Wikiの編集も手がけているなゆたである。当然、彼女らの王についても知識がある。
その王が、自分たちをこの世界へいざなった張本人なのだという。
とは言うものの、もちろん言われたことを鵜呑みにはしない。そもそも王に人をゲームの世界へいざなう力などないはずだ。
話の腰を折るのもなんなので、そういう設定なのねと自分を納得させる。

>実際に見てみるまでは半信半疑だったけど、二人の技はもう見事だったよ!
 何もないところからパッとモンスターを召喚して、すごい魔法も使いこなして……そっちの世界では、さぞや魔法技術が発展しているんだろうねぇ

「あー……うん、まぁ……。そういうことになる……のかな? アハハ……」

わたしたちはこのゲームのプレイヤーで、あなたたちはゲームキャラ。なんて、言っても通じないに違いあるまい。
ゲームのキャラクターにツッコミを入れたところで仕方ない。なゆたは曖昧な愛想笑いを浮かべた。

29崇月院なゆた ◇uymDMygpKE:2019/01/21(月) 19:12:11
>……というわけで、まずキミたちにはこの国の王様に会って欲しいんだけど――って、あれ?

「ふむ。そこなら当面の衣食住は確保できそうね……って、結局しばらくは戻れないのかしら。
 困るなぁ……明日、生徒会の役員会議があるのに……。え、なに?」

後頭部をぽりぽり掻いて、仕方なさそうに眉をしかめる。
と、不意に聞こえてきた耳障りな異音に、なゆたはきょろきょろと辺りを見回した。
それはよく夏場に耳にする、眠っていると耳元に飛んでくる蚊の羽音を、数百倍に増幅させたような――

>あーらら。まったく“蝿の王”とは、つくづくツイてないね。
 にしてもこんな果ての地にまで、あんな奴が現れるなんて、これも侵食の影響なのかな……
>ともかく! もうちょっとしたら、この駅に迎えが来る筈だから、そいつに乗って王様まで会いに来てよ。
 あと、上にいる“あいつ”は多分襲って来ると思うけど、キミたちみたいな魔法使いならきっと大丈夫!
 頑張って、コロっとやっつけちゃってね〜!

「ち、ちょっとぉ! 待ちなさいよ、そんなこと勝手に――!」

こちらが何か言う暇もなく、メロはさっさと飛んでいってしまった。無責任なことこの上ない。
駅の外にいるグラドがうなり声を上げているのが聞こえる。何者かが近づいているのだ。
そして、月光の差し込む廃墟の崩れた天井から視界に飛び込んできたのは。
ちょっとした乗用車くらいはありそうな、巨大なハエのモンスターだった。

>……おいおい、あれはひょっとしてベルゼブブって奴じゃねーか?
 かなりレアなモンスターだった筈だけど、何だってこんなところに!

「ベ……、ベルゼブブぅ!? ちょっ……冗談でしょ!?」

真一の言葉に驚愕する。
ベルゼブブ。ニヴルヘイム産の上級悪魔と呼ばれるレアモンスターの一体だ。
巨体に似合わぬ速度で自在に空を飛び回り、体当たりや酸の唾液、上級スペルなどで攻撃を仕掛けてくる難敵である。
デスフライという自らの眷属を常に従え、デスフライの群れを縦横無尽に操っての戦闘も得意とする。
生命力、攻撃力、防御力もきわめて高い。間違いなく初心者お断りのモンスターである。
倒すと稀に風属性モンスターの強化レア素材『蝿王の翅』をドロップすることがある。

「よりにもよって……! 厄介な相手ね!」

ポヨリンを自分の前方に配置し、身構える。
確かに、このエリアでは夜になると時間限定でベルゼブブが出現するというのは有名な話だ。
しかし、どう考えても今はこちらに分が悪い。
倒せない相手ではないが、ポヨリンとベルゼブブでは水と風、属性不利である。
今までもベルゼブブを狩る際、なゆたはフレンドとパーティーを組んで戦っていた。
しかし――今の仲間は真一しかいない。
真一のグラドとベルゼブブでは火と風でグラド有利だが、決定的なレベルの差というものがある。
初心者で遮二無二突っ込むことしか出来ない真一では、返り討ちに遭うのがオチだ。

30崇月院なゆた ◇uymDMygpKE:2019/01/21(月) 19:12:52
「真ちゃん! ここは無理しないで、この駅の壁を盾にしながら戦って!
 まずはデスフライから片付けて、徐々にベルゼブブの体力を――」

>ちっ、やるしかねーってわけか。……上等だ。行くぜ、グラドッ!!

「っておーいっ!? 人の話ィ!!」

こちらの話を聞きもせずに突っ走っていってしまった真一に突っ込む。

「ああもう! この……単細胞おばかーっ!!」

苛立ち紛れに叫ぶ。けれど、真一が直情径行なのは今に始まったことではない。
それこそ物心つく前から、自分は真一のそんな猪武者な行動の尻拭いをしてきたのだ。
今更何を言ったところで始まらない。と思えば、なゆたはすぐにスマホの液晶画面をタップした。

「誰でもいい! 誰か……誰か! 近くにいて!!」

なゆたが開いたのは、ポヨリンの戦闘コマンドでもスペルカードデッキでもない。
開いたのは『フレンド一覧』。
「ブレイブ&モンスターズ!」は戦闘の際、ソロで戦うかパーティーで戦うかを選択できる。
パーティーで戦う場合、GPS機能を使い自分の近くにいる他のプレイヤーを招待し、一緒に戦えるのだ。
一度共闘した相手にはフレンド申請することができ、互いの位置情報などを把握することもできる。

「――いた!!」

フレンド一覧の画面に、数人のプレイヤー名が表示される。
半分はかつて共闘し、フレンド申請して承認された知り合いのプレイヤー。
もう半分は見知らぬ他人、たまたまこの近くにいるらしい野良。
なんの戦術もなく突っ込んでいく真一とふたりでは、敗色は濃厚である。ポヨリンは無事でも、グラドは無事では済むまい。
この状況を打破するには、フレンドの力を借りるしかない。

「お願い――、応えて! わたしたちと一緒に戦って!」

建物の外では、グラドが大量のデスフライと、そしてその首魁ベルゼブブと熾烈な戦いを繰り広げている。
が、多勢に無勢だ。レベル上げの充分でないグラドがそう長持ちするとは思えない。
グラドが力尽きる前に、――誰か!

なゆたは祈るような思いで、フレンドのプレイヤー名をタップした。


【劣勢と見てフレンド募集。既に申請済みでも野良でもOKです】

31明神 ◇9EasXbvg42:2019/01/21(月) 19:13:20
『ブレモン』はクソゲーだ。
強いモンスターを手に入れようと思ったら重課金かリセマラは必須だし、
変に流行りに乗ったGPS連動機能のせいで都心と地方の在住者で入手できるゲーム内資源に格差がある。
丹精込めて育てた歴戦のパートナーよりもガキの小遣いで買える強力スペルの方が大抵の場合強いし、
肝心のレアモンスターはガチ勢どものマウントの取り合いの種にしかなってねえ。

なにより――

「俺のような善良プレイヤーをこんな意味不明世界に放り出しやがる……」

砂漠に棲息する大型モンスター、"初心者殺し"の異名をとるサンドワームが亜空間の穴に引きずり込まれていくのを眺めながら、
俺は誰に聞かせるでもなく吐き捨てた。いやマジで危なかった。思わずカード使っちまった。
『奈落開孔(アビスクルセイド)』。亜空間を開き、近付く者を区別なく飲み込む強力なユニットだ。
マジで区別なく吸い込まれてくから使い所を誤ると自分もやべえ諸刃の剣だが、サンドワームの巨体が良い遮蔽になった。

こんなところで貴重なカードを使うハメになるのは想定外だった。
この世界に降り立って間もない頃にもう一枚、『工業油脂』のスペルを使ってる。
デッキを確認してみたら、まだ『工業油脂』のリキャストは出来てなくて、使用不可のマークが付いたままだった。
ブレモンの設定通りだとすれば、カードのリキャストにはリアル時間で丸一日かかる。
安全なねぐらも確保できてない今の状況でカードを使い切るのは即ち死を意味していた。

「こういう不親切なところもクソゲーだっつうんだよなぁ、ヤマシタ」

俺のあとを無言で追従する革鎧は、やっぱり何も答えやしない。
俺はこの件について半年くらい前からフォーラムで改善案を提示してんだけど、公式の返答は『検討中』の一辺倒。
論戦を挑んできた信者達いわく、こういう部分に戦略性を見出してこそのゲーマーらしいけど、
カードの使用制限にリアル時間を使うってシステムは露骨にゲーム寿命を水増ししようとする魂胆が見え見えだよなあ?
この制限のせいでレベリングがいつまで経っても捗らず、パートナー単体で戦える狩場を廃人共が占領し始める始末だ。
リアルの方で経験値効率の良い敵の湧き場に廃人が溜まってんの見たことあるけど、炊き出し会場にしか見えねーよアレ。

おっと、話が逸れまくってるうちに目的地が近づいてきた。
果てしなく続くレールの先に、巨大な構造物が聳え立っていた。
レールがその中に引き込まれてるから多分これは駅なんだろう。
比較対象のない荒涼とした原野の風景のせいで距離感狂ってたけど、こりゃマジででけえ建物だ。
東京駅みたいな瀟洒なデザインの洋館。まさにファンタジー世界の駅って感じだった。

……ただ、このクソでかい駅にも、人の気配はない。
生活感のかけらも残ってない、あちこち風化が始まってる、こいつは形容しようもない『廃墟』だった。
荒野マップにはよくあるフレーバー建築だ。雨風凌ぐ以上の居住性は期待できそうにもない。
いやマジでどうすんだコレ。このままだと俺こんな色気もねー場所で干からびて死ぬの?
思わず頭を抱えた俺の耳に、猛獣の唸り声みたいな低い音が聞こえてきた。

「ヤマシタ!」

咄嗟に革鎧に俺を庇わせる。だが刻一刻と大きくなる音に反して俺の目には何も移らない。
いかにも洋風建築って感じの石畳の上で、荒野の砂粒が震えていた。

「反響……してんのか?ってことはこの音は、駅の中からか……!」

危機との対面を避けられたことで俺の頭もようやく回転してきた。
唸り声に思えたこの音。実際多分これ、羽音だ。クソでけえハエがぶんぶん飛び回ってるみたいな音。
その羽音の主に、俺は思い当たりがあった。
荒野に時間限定でPOPするレアモンスター、"蝿の王"『ベルゼブブ』。
そいつが駅の中で湧いているんだ。

32明神 ◇9EasXbvg42:2019/01/21(月) 19:13:51
ここで俺の脳裏に二択の天秤が出現する。
つまりは逃げるか、戦うかだ。

ぶっちゃけヤマシタのステータスじゃあのクラスのモンスターには太刀打ちできねえ。
カードを上手く使えばやれないこともないだろうが、多分総力戦になる。デッキは空っぽになるだろう。
この状況でカードを使い切っちまうのはその後のリスクを考えるとかなりアホな選択だ。
そしてベルゼブブが俺の存在をまだ認識していない以上、そっとここを離れれば逃げ切るのは容易い。

――だけど、ベルゼブブ、超欲しい!!
カジュアル勢にはなかなかお目にかかれないクソレアモンスターだ。
中級者以上しか彷徨けないこの荒野で、しかもごく僅かな時間にランダムな範囲にポップするレイドボス。
必然的に時間の有り余ってる廃人が、しかも徒党を組んで連携を取らなけりゃ戦うこともできない仕様だ。
その希少性から、ヤフオクなりメルカリなりで売っぱらえばリアルマネーでも10万は下らない金銭的な価値もある。
そんな垂涎級のモンスターが、今、目の前に居るってのに……逃げる理由がゲーマーにあるか?
ねえよ。ねえだろ。ねえっつってんだろ!!!

一応、一応だが勝算もある。
この状況はスマホの中の画一化されたシステムとは違う。
俺が荒野でコカトリスを高台ハメできたように、アクションゲーじみた『地形』の概念が存在する。
遮蔽物をつかって隠れつつ遠距離から弓でチクチク攻撃し続ければ、勝てるんじゃねえの?
この際多少カードを切ったって良い。ベルゼブブにはそれだけの価値がある。
奴を……捕獲する!

そのとき、俺のスマホがブルった。
ベルゼブブに気取られないようマナーモードにしてたけど、こいつはブレモンアプリの通知音だ。
なんだこりゃ……フレンド申請?

ブレモンの対人要素はプレイヤー間でのバトルの他に、ベルゼブブのようなレイド級を相手にする際の共闘というシステムがある。
まあ俺フレンドとかいねーから詳しく知らねえんだけどな。

共闘するフレンドはいないが、俺のフレンドリストには名前がいっぱいだ。
フレンドになると、相手がどこにいるのかとか、どんなクエストの最中なのかが一目で分かる。
つまり、いつでも相手のところへ行って対戦を申し込めるようになってるわけだ。
下手にフレンドになっちまうと、四六時中対戦を申し込まれて非常にめんどくさい事態になることもある。

故に俺のような敵の多いプレイヤーにとって、フレンドリストとは敵対リストに等しい。
そしてフレンド申請という行為は――宣戦布告なのだ。

「上等だ……!でもちょっと待っててね今忙しいから」

俺は申請を送ってきた相手の名前も見ずに承認して、そのままマップを表示した。
革鎧を引き連れて、駅の構内を疾走する。
リビングレザーアーマーに金属部品が使われてなかったのは僥倖と言うほかねえ。
板金鎧はガチャガチャうっせーからな。

……あれ、待てよ。
今のフレンド申請、どこから送られてきた?
フォーラムでレスバした相手からゲーム内で申請送られてくることなんざ日常茶飯事だが、そもそもここは圏外だ。
外界――現実世界(?)から申請が送られてくるなんてことはあり得ない。
いやあり得ないとか言い出したらこの状況がそもそもあり得ねーんだけどそれは置いといて。

「まさか……」

そのまさかが、羽音の源まで辿り着いた俺の目に実証として飛び込んできた。
天井が砕け、夜空の見える駅のホーム。上空に飛び交う無数の眷属と、王者とばかりに君臨する蝿の王ベルゼブブ。
その複眼が敵対の視線を送る先に、二つの人影があった。

33明神 ◇9EasXbvg42:2019/01/21(月) 19:14:19
男と女。同じくらいの年頃の、似たようなデザインの制服を着た……多分高校生だろう。
女子高生と男子高校生が、それぞれスマホを手に、パートナーと共にベルゼブブと対峙していた。
この絵面を見てこいつらがこの世界の原住民だと結びつける間抜けはいないだろう。

「いたのか……俺の他にも、この世界に放り出されたプレイヤーが……!」

その時俺の胸に過ぎった感情は、ようやう人を見つけた安堵なんかじゃあなかった。
――先を越された!
奴らがいつからこの世界に居るのか知らねーが、ベルゼブブと既に交戦を開始しちまっている。
やめろ、そいつは俺のもんだ。

ヤマシタに高校生たちへ弓を引かせようとして、どうにか思いとどまった。
三竦みになるのは悪手だ。そもそも連中は二人、俺は一人、数の上でも形勢は不利。
このままベルゼブブと敵対しつつ足を引っ張り合っても良くて双方共倒れ、悪けりゃ俺だけがぶっ殺されるだけだ。
何より、駅のホームはだだっ広い空間になっていて身を隠せるような遮蔽物がない。
これじゃハメ殺しも出来やしねえ。

ここは……一時的に高校生共に味方をしよう。
共闘してベルゼブブの体力が十分に減れば、俺が抜け駆けして奴を捕獲する。
そして戦いの中で連中の手札を観察し、闇討ちの手順を整える。
なんなら捕まえたてほやほやのベルゼブブでフルボッコにしてやるぜ。

「おーい君たち!大丈夫か!?俺も助太刀するぞ!」

俺はいかにも高校生たちの加勢として馳せ参じた善良なプレイヤーを装って声をかけた。
まずは信用を勝ち取る。そのためにはこっちも身銭を切ってやらねえとな。

「デスフライが残っているうちはベルゼブブに防御上昇のバフが付く!先に眷属から落とすんだ!俺が隙を作ろう!」

スマホをたぐり、デッキから一枚のスペルカードを選択。
貴重な貴重な一枚だ。うまく機能してくれよ……。

「『工業油脂(クラフターズワックス)』――プレイ!」

スペルの効果が発動し、デスフライ達のはるか上空から、大量の液体が雨となって降り注ぐ。
強い粘性を持ったワックスだ。薄羽によって飛行するデスフライ達がこれを浴びれば、羽を動かせなくなり地に落ちる。
クソハエどものクソ鬱陶しい機動性が大幅に落ちるはずだ。
そして既にデスフライ達と交戦しているあのドラゴンの主ならピンと来るだろう。
降り注ぐワックスが、引火性の高い――『油』であることに。


【ベルゼブブ戦に乱入、スペルを使って油を降らせて支援】

34五穀 みのり ◇2zOJYh/vk6:2019/01/21(月) 19:14:46
>「お願い――、応えて! わたしたちと一緒に戦って!」
なゆたの悲痛な叫びにも似た願いは近くにいたプレイヤーに届いたようだ
様々な思惑は交錯するも、同じくこの世界に転送された者たちがホームに集う

>「おーい君たち!大丈夫か!?俺も助太刀するぞ!」
明神が声をかけた少し後、何かがなゆたの足元をぽんぽんと叩いていることに気付くだろう。
見れば30センチほどの藁人形が足元にまとわりついている

「はぁ〜い、こっちもいてるよ〜」
藁人形から発せられた声と同時に背後から肩に手をかけられる。
振り向けば五穀みのりが笑みを讃えて手を上げ挨拶をするだろう。

穏やかな表情としっかり纏められたギブソンダックの髪
上着部分をはだけ腰の部分で結んだツナギと黒いタンクトップであらわになる上半身のライン
そして長靴というどことなく場違いな格好ではあるが、各々が事情に関係なくこの世界に送り込まれたという事を表していた

「初めまして〜。2.3回やけど共闘したことのある五穀豊穣こと五穀みのりよ〜よろしくねぇ。
それにしても、スライムつこてトッププレイヤー張ってはるモンデキントさんがこんなかわいらしい女の子とは驚きやわ〜」

現在の状況を把握していないかのような和やかな挨拶とともに、自身の体によじ登りまとわりつく藁人形を指して、先ほどの種明かしをする。
「囮の藁人形(スケープゴートルーレット)」で呼び出される五体の藁人形はダメージ計算がリンクし、累積ダメージとして蓄えられる。
ゲームデータではそれだけなのだが、こちらの世界ではそのリンクが他にも適用されないだろうかとやってみたらトランシーバーのような機能も果たしたという事だった。

地形を利用した戦術然り、ゲームの設定やフレーバーに実際の機能との誤差や利用法による応用の幅が随分と広がっているようであった。
そこまで説明し、ようやくホームへと顔を向ける

「それで、あっちの男の子がモンデキントさんの彼氏さんかしらぁ?
まあ……いうのもあれやけど、結構なアホの子やねえ」

呆れるように苦笑いを浮かべ、肩を竦めて見せる
その意味はなゆたにも伝わるだろう、といより、なゆたが一番身をもって感じているであろうから
飛行する多数の敵を前に自分の身を晒してレッドドラゴンと共に戦っているのだ。

ゲームでは画面の外から指示を出すだけであるが、今は違う。
危険に晒される同じ場所に立っているのだから。

「ほやけどまぁ、アホな子ほどかわええともいうし、しゃぁないわなぁ」

戦う真一を見ながらクスリと笑い、藁人形を一体掴みスマホのように耳に充てた

35五穀 みのり ◇2zOJYh/vk6:2019/01/21(月) 19:15:17
その頃、上空を舞うベルゼブブとその眷属のデスフライ
唸りを上げ飛び回り、グラドと戦いを繰り広げているのだが、数が多すぎる
しかもその攻撃に晒されるのは、モンスターであるグラドだけではなく、その場にいる生物全て。
すなわち当然真一も攻撃対象である。

上空から襲いかかるデスフライの攻撃、躱しきれぬその一撃を確かに真一は受けた
のではあるが、衝撃は来ないだろう。
偶然?人間だから?
いや違う、確かに真一にデスフライの攻撃は命中したのだが、そのダメージを腰あたりにしがみついている藁人形が引き受けたのであった。

みのりが放った藁人形が二体、真一の腰あたりにまとわりついている、
二度目の攻撃を受けたところで、一撃目のダメージを引き受けぼろぼろになっていた藁人形がはじけ飛んだ

更なる猛攻が続く中でそれは降り注ぐ
>「『工業油脂(クラフターズワックス)』――プレイ!」
明神の発動したスペルによって周囲に粘性の高いワックスが降り注ぎ、それにまみれたデスフライの羽根は機能を失い地に落ちていく。
もしその範囲に真一がおり、効果が及ぶとしてもワックスにまみれる事はない。
判りに残った一体の藁人形がその効果を引き受けているのだから



「あらあら、あのお兄さんもやりよるねえ。デスフライを油で叩き落しはったわ
もう十分やろけど、せっかくやし私もいかせてもらおうかしらぁ」
ホームの状況を見ながらスマホを取り出し、イシュタルを召喚
それと同時にスペルカード「地脈同化(レイライアクセス)」を発動。

飛び出したイシュタルはホーム中央に突き刺さり、耳障りな笑い声をあげた。
その姿はまさに案山子であり、その性質上周囲の注目を浴びやすく、攻撃の的になりやすいのだ。
ただでさえ攻撃の的になりやすい上にさらに挑発するような笑い声が響き渡るとそれに反応し、地に落ちたデスフライが一斉にイシュタルに群がり攻撃を浴びせかける。

数の暴力かくたるや。
藁の体で防御力が低い事もあり、あっという間にズタボロにされていくのだが、切り裂かれた場所が即座に再生していく。

地脈同化(レイライアクセス)は地脈に接続する為に移動不可になるがその分高い継続回復力を誇る
更に伊達に石油王のコレクションと言われるわけではなく、HPと回復力の高さはプレイヤーの使用できるモンスターの中でもトップクラス
ダメージ10:回復8の割合ではあるが、高いHPの為、たかられてもまだしばらくは持ちこたえられるのだった。


「はぁ〜い、こんばんは
共闘させてもろてる五穀豊穣云います〜
うちのイシュタルが油まみれのデスフライさんをひとまとめにしている状況やし、焼いちゃってぇくださいねえ
もろとも焼かれても死なひん程度のHPと回復力はありますよって、お気になさらず〜」

真一の腰にへばりついた藁人形を通し、みのりの声が届く

ゲームとこちらの世界との差異の把握
それがみのりの狙いであった。
ゲームは範囲攻撃を使っても味方はその対象から除外され、敵だけにダメージや効果が及ぶ。
だがこの世界では?
みのりのデッキには範囲スペルが多く、この点は早めに把握すべきところなのだから。

それにもう一つ。
アホの子と称した真一にこのままベルゼブブを倒せるとは思っていない。
現在回復しながらダメージを食らい続けているのはそのためだ。

みのりのデッキは食らったダメージを反射するバインドデッキ
累積ダメージが増えるほどに強力な攻撃を放てる
効果から除外されデスフライだけ倒せるのならそれもよし、もろとも焼かれるならばそれはイシュタルの攻撃力上昇に繋がるのでそちらもまたよしなのだから。

36赤城真一 ◇jTxzZlBhXo:2019/01/21(月) 23:54:35
>「ああもう! この……単細胞おばかーっ!!」

遥か後方からなゆたの叫び声が耳に入るが、この男にとって、そんなことは知ったこっちゃなかった。
喧嘩は先手必勝。考えるよりも先に体が動くのが、赤城真一という人間なのである。

「心配すんな、なゆ。俺は生まれてから一度もハエに負けたことはねえ!」

などという、謎理論から導き出された自信を引っさげて、真一は勢い良くグラドの背に飛び乗る。

「さぁ、行くぜ――〈炎精王の剣(ソード・オブ・サラマンダー)〉!!」

そこで真一はスマホを操作し、一枚のユニットカードをプレイする。
行使されたのは〈炎精王の剣(ソード・オブ・サラマンダー)〉。
刀身に炎を纏ったロングソードを召喚するカードであり、通常はパートナーモンスターに装備させて攻撃力アップを図るのだが、真一はそれを自らの手で握り締めた。

そして、グラドは真一を背に乗せたまま上昇し、蝿の王の軍勢に飛び掛かる。
先刻戦ったサンドワームと同様、ベルゼブブとデスフライはこちらにとって相性の良い敵ではあるものの、それにしても多勢に無勢。
瞬く間に無残な死体を晒すことになるだろうと思われていたが、その予想に反し、彼らは獅子奮迅の活躍を見せる。

真一とグラドの戦い方は、さながら竜騎士を彷彿とさせた。
遠くのデスフライにはグラドがドラゴンブレスを浴びせ、間合いの中に入られた敵は、真一が剣を振り翳して叩き落とす。
――伊達に物心付いた頃から、剣道をやってきたわけではない。
初めて握った得物とは思えないほど、真一は炎の魔剣を巧みに操り、次々とデスフライを撃墜する。
慣れない魔法を遠距離からチマチマ撃つよりも、こうやって前線で暴れる方が、余程自分の性に合っていると感じた。

「ちっ、次から次へとキリがないな。何とかデカいのを叩き込みてーところだが……」

このように奮闘する真一とグラドであったが、それでも未だ、敵に対して有効打を与えることができているとは言い難かった。
落としても落としても、デスフライの群れは続々と現れ、神風特攻のように襲い来る。
纏めて炎スペルで焼き払うことができればいいのだが、こう散らばられてしまっては、一網打尽にするのも困難だろう。

そして、遂に躱しきれなくなったデスフライの一体が、真一の腹部に直撃した。
次いで訪れるであろう激痛に備え、真一は歯を食いしばったが、意外にも痛みは感じない。
恐る恐る腹部に目を落とすと、そこには奇妙な藁人形が纏わり付いていた。

「な、なんだこいつ……お前が身代わりになってくれたのか?」

藁人形は返事の代わりにもう一度攻撃を受け、そのまま弾け飛んでしまった。

37赤城真一 ◇jTxzZlBhXo:2019/01/21(月) 23:55:21
>「おーい君たち!大丈夫か!?俺も助太刀するぞ!」
>「デスフライが残っているうちはベルゼブブに防御上昇のバフが付く!先に眷属から落とすんだ!俺が隙を作ろう!」

そんなやり取りがあった直後、いずこから知らない男の声が聞こえてきた。
最初はまたメロのようなモンスターかと思ったが、声の発せられる方を見やると、そこにはサラリーマン風の男がいた。
あの服装と、片手に握られたスマートフォン。
あれは真一やなゆたと同じく、現実世界からやって来た人間と見て間違いないだろう。

「なんだよ、居たんじゃねーか! 俺たちの他にも……!」

>「『工業油脂(クラフターズワックス)』――プレイ!」

期待していなかった増援の登場に安堵するのも束の間、見知らぬ男はスペルカードを発動して、蝿の群れに大量の油を落とす。
油が羽に染み付いて、身動きを取りにくくなったデスフライたちは、ゆらゆらと地上へ滑降して行く。
その直後、何処からともなく飛び出してきた案山子型のモンスター――スケアクロウがフィールドの中央に突き刺さり、けたたましい笑い声をあげ始めた。

>「はぁ〜い、こんばんは
共闘させてもろてる五穀豊穣云います〜
うちのイシュタルが油まみれのデスフライさんをひとまとめにしている状況やし、焼いちゃってぇくださいねえ
もろとも焼かれても死なひん程度のHPと回復力はありますよって、お気になさらず〜」

そんな最中、いつの間にか真一の腰にくっ付いていたもう一体の藁人形が、若い女の声を発した。
状況を全て理解できているわけではないが、真一となゆたを援護する人間が、少なくとも二人以上現れたのは分かった。
スケアクロウ――イシュタルというニックネームなのだろう――の笑いに挑発されたデスフライは、目論見通りに一箇所へと密集し始める。

「どこの誰だか知らねーが、恩に着るぜ! チャンスだ、グラド。一気にカタをつけるぞ!!」

真一の呼び掛けに、グラドは唸り声を一つ返し、ダンゴ状態になったデスフライの方へと向かう。
先程までは鬱陶しく散らばっていたこいつらだけれど、今の状況ならば――

「纏めて薙ぎ払え……〈燃え盛る嵐(バーニングストーム)〉!!」

そして真一が撃ち放ったのは、炎属性の上級スペルであった。
荒野に現れた炎の風が、ぐるぐると渦を巻いて竜巻となり、デスフライの群れを呑み込む。
――ただでさえ弱点属性の上に、この密集形態。
更に、デスフライの体に先程の油が染み込んでいることもあり、それは絶大な威力を発揮した。

デスフライたちは断末魔の大合唱を轟かせ、そのほとんどが一撃で灰燼と化す。
これでようやく厄介な小バエ共の鎧は、引き剥がすことができたというわけだ。

38赤城真一 ◇jTxzZlBhXo:2019/01/21(月) 23:55:54
『ギギギギギ……』

しかし、デスフライを統べる蝿の王――ベルゼブブは、その攻撃を受けて尚健在だった。
自身を取り巻く眷属を盾代わりにして、炎の嵐が過ぎ去るのを待ちながら、両脚を擦り合わせて不協和音を鳴らしていた。
そして、炎が消えて視界がクリアになった直後、ベルゼブブは猛然と飛び出した。

「なっ、速い……!?」

一瞬で最高速度に達したベルゼブブは勢いのままに突撃し、グラドに強烈な体当たりを浴びせる。
グラドは寸でのところで身を捩り、何とかその直撃を食らうことは避けたものの、体を掠めて体勢を崩してしまう。
それを好機と見たベルゼブブは、こちらへと酸の唾液を吐き飛ばし、更なる追撃を見舞った。

「やべえっ……〈炎の壁(フレイムウォール)〉!!」

真一は咄嗟の判断でスペルを発動し、炎の壁でその攻撃を防御した。
ここまでどうにか凌いではいるが、流石に真一の額にも、一筋の冷や汗が流れ落ちる。

そんな一方、真一とグラドを視界に捉えたまま、ベルゼブブは上空を旋回して最初に倒すべき相手を選定していた。
対多勢の戦いにおいて、弱そうな敵から仕留めるのは定石である。
竜族のレッドドラゴン。鬼のような耐久力を持つスケアクロウ。スライムは一見雑魚だが、レベルの高さは直感で分かっている。

順々に敵の姿を一瞥し、ベルゼブブがターゲットに選んだのは――リビングレザーアーマーだった。

『ギギギッ……!!』

ベルゼブブは再び前脚を擦り合わせた後、鳥が威嚇するみたいに、背中の羽を広げて見せる。
そして次の瞬間、ベルゼブブ周辺の夜天が揺らぎ、衝撃となって降り注いだ。

〈闇の波動(ダークネスウェーブ)〉と呼ばれている、闇属性の上級スペルだ。
高位の悪魔であるベルゼブブは、そのステータスの高さだけではなく、こういった強力な魔法までも使いこなすのだ。
防御力に劣るリビングレザーアーマーがまともにこれを受ければ、当然無事では済まないだろう。



【炎の嵐でデスフライ殲滅。
 ベルゼブブは最初のターゲットを明神&ヤマシタに定めて攻撃開始】

39 崇月院なゆた ◇uymDMygpKE:2019/01/21(月) 23:57:13
>「心配すんな、なゆ。俺は生まれてから一度もハエに負けたことはねえ!」

「サイズと状況を見てからものを言え――――――!!!!」

ツッコんだ。基本的に真一と一緒のときはツッコミ役に回るなゆたである。
確かに普通のハエに負ける人間はいないだろう。手でパチンと叩くだけで仕留められる。
けれども、今目の前にいる蝿は乗用車よりも巨大なバケモノで、しかも闇の世界産の上級悪魔。
翅に刻印されたドクロと交差した骨のマークが、やけに禍々しく浮かび上がって見える。
こんなモンスターとまともに戦っては、こちらが間違いなくパチンと叩かれて終わってしまう。
が、そんな全力のツッコミも功を奏さず、真一はヒラリとグラドの背に乗ると勢い込んで蝿の群れに向かっていってしまった。
手綱も何もなく、乗馬や何かの経験もないのに、ぶっつけ本番でドラゴンの背に跨って剣を振るなど言語道断だ。
……というのに、その言語道断をあっさりとやってのけている。
呆気に取られたなゆたはしばし我が身の状況も忘れ、ポカーンと口を半開きにして立ち尽くしてしまった。

いくらゲームの世界だからって、ムチャクチャだわ。これ。

そんなことを考えるも、いつまでもボーッとしてはいられない。いくら真一とグラドが奮闘していると言っても、ベルゼブブには勝てない。
眷属のデスフライを伴っているときのベルゼブブには、常に強力なバフがかかっている。
状態異常耐性、防御力上昇、継続HP回復、そして眷属の召喚。
デスフライが場に一匹でも残っている限り、ベルゼブブは無限に眷属を召喚できる。
そんなデスフライを残したままベルゼブブを倒すというのは、上級者でも至難の業。
トロフィー獲得条件に『デスフライを残したままベルゼブブを狩る』という項目があるくらいなのだ。
中には無限湧きするデスフライを狩ってレベルとスキル上げをする猛者もいるが、今はそんな悠長なことなど言っていられない。

「く……ポヨリン、わたしたちも行くよ!『形態変化・硬化(メタモルフォシス・ハード)』!!」
『ぽよっ!!』

なゆたはスマホの液晶画面を手繰ると、スペルカードを一枚選択した。
『形態変化・硬化(メタモルフォシス・ハード)』。自分のパートナーを瞬間的に硬化させるスペル。
スライムに対して発動させれば、スライムとしての弾性を保持したまま鋼のような硬さを得ることが可能になる。
単純に攻撃力と防御力の強化が望めるスペルである。
ポヨリンの体色が鮮やかな水色から鈍色に変化し、光沢を帯びる。
なゆたの編成したデッキ内の「ぽよぽよ☆カーニバルコンボ(なゆた命名)」は、決まれば必殺。
不測の事態におけるリカバリー能力にも優れた強力なコンボだが、コンボという特性上成立に若干の時間がかかる。
なゆたは早速次のスペルカードを発動させようとしたが――

「まだ、時間が……!」

スマホの液晶画面に横一本、青いゲージが表示されており、それが徐々に伸びていっている。
「ブレイブ&モンスターズ!」はターン性ではなく、アクティブタイムバトルを採用している。
プレイヤーと相手とで交互に行動するのではなく、ゲージが満タンになった者から行動できるというシステムだ。
よって、すぐには次のスペルカードを使うことができない。なゆたは歯噛みした。

「もーっ! 肝心なところでゲームっぽいー!!」

しかし、地団駄を踏んだところで仕方ない。矢継ぎ早のカード発動は不可能なのだ。
こちらのコンボが成立するまで、果たして真一とグラドは持ち堪えられるのか――。
なゆたは祈るような気持ちで、飛翔するグラドと真一を見上げた。

しかし、そんなとき。

「おーい君たち!大丈夫か!?俺も助太刀するぞ!」

声が、聞こえた。

40 崇月院なゆた ◇uymDMygpKE:2019/01/21(月) 23:57:59
>「デスフライが残っているうちはベルゼブブに防御上昇のバフが付く!先に眷属から落とすんだ!俺が隙を作ろう!」

見れば、サラリーマン風の男とリビングレザーアーマーがこちらへと向かってきている。
先程神頼みとばかりに送信したフレンド募集の通知に、応えてくれたプレイヤーがいたのだ。
自分と真一がいる以上、他のプレイヤーもいるはず。
そう思っての行動がまんまと図に当たった、というわけだ。

「ありがとう! お願いします!」

サラリーマン風の男に感謝の言葉を告げる。今は、この男が何者かなどということは後回しだ。
パートナーのリビングレザーアーマーはレアリティもスライムとどっこいのメジャーなモンスターであり、能力もお粗末なものだ。
が、人型という強力なアドバンテージを有しており極めて汎用性が高い。
器用貧乏の評価は否めないが、多様なスキルを習得できることもあり、伸びしろの大きさから玄人向けとされるモンスターである。
強力なレイドボスであるベルゼブブとの戦いに名乗りを上げるくらいだ。少なくとも初心者ではあるまい。
にわかに現れた援軍にホッとした――のも束の間。
不意に、何かがポンポンと脛のあたりを叩いている。
なゆたは足許に視線を向けた。そして

「――――ひ」

驚きのあまり、喉の奥にものの詰まったような声を漏らしてしまった。
いつの間にかなゆたの足許に小さな藁人形がおり、それが自らの意志を持つかのように動いている。

>「はぁ〜い、こっちもいてるよ〜」

藁人形が喋り出す。まさに恐怖だ。以前観たホラー映画にこんなのがいたような……なんて、妙なことを考える。
かと思いきや、今度は足許でなく肩にかけられる手。なゆたはびくぅっ! と全身を強張らせた。
しかし、恐る恐る振り返った視線の先に立っていたのは、にこやかな笑みを浮かべた女性だった。
歳の頃は自分と同じか、少しだけ上くらいだろうか。
農作業の最中です的な出で立ちがどことなく場違いだったが、彼女もまたブレモンのプレイヤーなのは間違いなかった。

>「初めまして〜。2.3回やけど共闘したことのある五穀豊穣こと五穀みのりよ〜よろしくねぇ。
  それにしても、スライムつこてトッププレイヤー張ってはるモンデキントさんがこんなかわいらしい女の子とは驚きやわ〜」

「ふ……ふえっ!? ご、五穀豊穣さんって、あのスケアクロウの……?」

はんなり。という感じのみのりを失礼にも指差して、頓狂な声を出してしまう。
多数のプレイヤーとフレンド登録しているなゆただが、五穀豊穣というプレイヤーネームについては特によく覚えている。
課金者にはランクがあり、月に数百円、多くて数千円程度の課金者を微課金勢。
月にウン万円を惜しみなく注ぎ込む重課金勢、さらにその上を行く廃課金勢。
そして。
その廃課金の壁さえ超えた課金者を、プレイヤーたちは尊敬とやっかみ、そして少しの侮蔑を込めてこう呼ぶのだ。
『石油王』と――。
彼女のパートナーモンスター・スケアクロウは、そのみすぼらしい(?)外見と相反した、紛れもない石油王の証だった。
事前登録からブレモンを続けてきたなゆただが、スケアクロウ持ちと遭遇したことは二度しかない。そのうちの一人がみのりだ。
もちろん、なゆたの方から共闘を持ちかけフレンド申請したことは言うまでもない。

「あっ! モ、モンデンキントの崇月院なゆたです! はじめまして、いつもお世話になってます!」

こんな状況ではじめましての挨拶もないものだが、ぺこりと頭を下げて言っておく。
彼女のデッキはかつて共闘した際に見たことがある。自在にヘイトコントロールし累積ダメージを増してゆくバインドデッキだ。
数の暴力に訴える系のなゆたのデッキでは、少々相性が悪い。何にせよその実力は折り紙付きだ。
リビングレザーアーマーといい、誰でもいいからとランダムに募集したにも拘らず、強力な助っ人が来たものである。

41 崇月院なゆた ◇uymDMygpKE:2019/01/21(月) 23:58:34
>「それで、あっちの男の子がモンデキントさんの彼氏さんかしらぁ?
 まあ……いうのもあれやけど、結構なアホの子やねえ」

「かっ、かかかか彼氏っ!? ちちち、違います!! 真ちゃんとは生まれたときからの付き合いで、単なる幼なじみで!
 いっつもわたしが尻ぬぐいしてて、全然そんな、彼氏とか彼女とかじゃないですからぁぁぁ!!」

みのりの何気ない一言で、滑稽なほどうろたえる。大袈裟に両手をバタバタさせて全力否定の方向だ。
が、アホの子という点は反論しない。本来パートナーを戦わせるブレモンというゲームで、自分も戦うとは何事か。
ゲームのコンセプトに全力で抗っている。これは垢BAN案件ではないか、とさえ思う始末だった。

>「ほやけどまぁ、アホな子ほどかわええともいうし、しゃぁないわなぁ」

「かわいくないですよう!? いやまぁ、わたしがいないとしょーがないなーっていう部分はありますけど。
 ……って、そんなこと言ってる場合じゃなかった!」

みのりのペースにすっかり巻き込まれてしまっていたが、やっと我に返る。
空では真一とグラドが無数のデスフライにたかられていたが、なぜか被弾している様子はない。
みのりの差し向けた藁人形がダメージを肩代わりしているのだ。

>「『工業油脂(クラフターズワックス)』――プレイ!」

さらに、サラリーマン風の男の発動させたスペルカードにより、空から大量の鼻を突く臭いの液体が降り注ぐ。
工業油脂の雨をその翅に浴びたデスフライの群れは、面白いようにボトボトと地面に墜落した。
『工業油脂(クラフターズワックス)』は極めて高い可燃性を持つ油であり、容易に発火する。
ベルゼブブ討伐のセオリーであるデスフライ狩りには、もっとも有効なスペルのひとつである。

>「あらあら、あのお兄さんもやりよるねえ。デスフライを油で叩き落しはったわ
  もう十分やろけど、せっかくやし私もいかせてもらおうかしらぁ」

さらに、みのりが自らのパートナーモンスターを召喚する。
スケアクロウ。ごくごく一部の限られたプレイヤー(経済的な意味で)のみが手にできる超レアモンスター。
それが出現すると同時、なんとも言えない不快な高笑いを始める。
スケアクロウの笑い声はエネミーのヘイトを一気に上昇させ、自らに向ける能力を持っている。
そうしてスケアクロウがエネミーの攻撃を一手に引き受け、他のプレイヤーが本命を集中攻撃するというのがパーティープレイの定石だ。
以前共闘したときも、みのりのヘイトコントロールには随分助けられた記憶がある。

「五穀さん、ナイス! あとでプレゼントボックスにアイテム贈っときますね! 回復系の!」

このころには、なゆたのATBゲージも溜まっている。さっそくなゆたは二枚目のスペルカードを手繰った。

「『分裂(ディヴィジョン・セル)』! 発動!!」

スペルを発動させると同時、鈍色に輝くポヨリンの姿が俄かにぐにゃりと歪む。
かと思えば、一匹だったポヨリンはまるでプラナリアか何かのように二匹に分裂した。
スペル『分裂(ディヴィジョン・セル)』の強みは、バフを維持したままモンスターの数を増やせるという点にある。
バフ効果をすべて打ち消す類のデバフスペルを喰らうと一匹に戻ってしまうが、基本バトル終了まで増えたままなのも強い。

>「纏めて薙ぎ払え……〈燃え盛る嵐(バーニングストーム)〉!!」

地面に墜落してスケアクロウに群がっていたデスフライへ、真一がスペルカードを発動させる。
途端に発生した炎の渦が、可燃性の油脂をたっぷりと浴びた蝿の群れを蹂躙する。
デスフライたちは瞬く間に燃え上がり、黒く澱んだ塵と化した。

42 崇月院なゆた ◇uymDMygpKE:2019/01/21(月) 23:59:06
「真ちゃんったら、考えなしにあんな大技使っちゃって……」

『工業油脂(クラフターズワックス)』に着火するには、ほんの僅かな火で充分事足りる。
真一のデッキなら、最弱の『火の玉(ファイアボール)』でも油を浴びたデスフライを充分殲滅できたのだ。
いや、むしろグラドのブレスでも発火しただろう。スペルを使う必要さえなかった。
その辺りのコストをまったく考えず、派手なことばかりやりたがる辺り、真ちゃんはまだまだ……と肩を竦めるなゆたであった。

デスフライは全滅した。あとは首魁のベルゼブブを始末するだけである。
デスフライのバフが消滅し、ベルゼブブは大幅に弱体化している。――とはいえ、油断は禁物だ。
相手は腐っても上級悪魔、レイドボスである。
ここからベルゼブブの猛攻に押し返され、全滅したパーティーも数多くいるのだ。

>『ギギギギギ……』

ベルゼブブは形勢不利と見たか、一度体当たりと酸の唾液を見舞っただけで真一グラドペアとの戦いを避けた。
また、ヘイトコントロールをしているスケアクロウにも見向きもしない。本能に屈さない高い知能を有する証拠である。
そんなベルゼブブがフィールドにいる四人と五体の中で最初に目を付けたのは、貧相な革鎧の人型モンスター。

>『ギギギッ……!!』

蝿の王の巨大な半透明の翅。そこに刻印された髑髏マークが不気味に輝く。翅が激しく振動する。
黒色の衝撃波、『闇の波動(ダークネスウェーブ)』。デスフライを失った後のベルゼブブのメイン武器のひとつだ。
指向性を持った衝撃波の威力は強大で、充分に育成したレアモンスターすらしばしば一撃で撃破されるほど。
サラリーマンの相棒であるリビングレザーアーマーがどれほど育っているのか確認はしなかったが、直撃は危険である。
何らかの防御系スペルカードを持っているのならいいのだが――。
しかし、なゆたはサラリーマンの対応を待ちはしなかった。

「ポヨリンA! 『しっぷうじんらい』!」
『ぽよよっ!!』

スキル『しっぷうじんらい』。
バトルの際、必ず相手から先制を取ることができるスキルである。
分裂したポヨリンAはスライムらしからぬ電光石火のスピードで跳ね飛ぶと、ベルゼブブとヤマシタの間に割り込んだ。
『闇の波動(ダークネスウェーブ)』がヤマシタの盾となって飛び出したポヨリンを直撃する。

『ぴき―――――っ!!』

闇色の衝撃波をまともに受けたポヨリンはぼよんっ、ぼよっ、と地面を数回バウンドしてひっくり返った。
……けれど、生きている。目を回しているだけだ。
一番最初に付与したバフ『形態変化・硬化(メタモルフォシス・ハード)』と、レベルマスキルマの恩恵である。
そして。

「ポヨリンB! 『てっけんせいさい』!!」
『ぽっよ……よよよ〜〜〜んっ!!』

分裂したもう一匹のポヨリン、ポヨリンBが、衝撃波を放った直後のベルゼブブの側面に回り込む。
グミキャンディーのような楕円形だったポヨリンBの姿が、瞬く間に巨大な右拳に変化する。
スキル『てっけんせいさい』。攻撃力を倍増させる格闘スキルだ。
『形態変化・硬化(メタモルフォシス・ハード)』によって上乗せした破壊力で、ポヨリンBは力の限りベルゼブブをぶん殴った。
鋼の拳がフック気味にベルゼブブの柔らかい腹部に突き刺さり、ドゴォ!!という重いSEが轟く。
そして頭上に表示される『CRITICAL!!』の文字。
ギエエエエーッ!と悲鳴を上げて仰け反る蝿の王。一定のダメージを与えると、ベルゼブブはスタン状態になる。
絶好の反撃のチャンスだ。


【殴。】

43明神 ◇9EasXbvg42:2019/01/21(月) 23:59:52
俺の放った油の雨音が、クソうっとおしいコバエ共の羽音を上書きする。
薄っぺらな羽にべっとりと付着した油の重みで、ハエ達はゆっくりと高度を下げつつあった。

「やべーな、散開し始めやがった」

眷属たちが油にまみれたのを見て、ベルゼブブの触覚が蠢き、指示を出している。
それに従ってデスフライの群れはお互いに距離をとり、一網打尽を防ぐシフトを取り始めた。
着火コンボを警戒した――?ベルゼブブの戦闘AIにそんなアルゴリズムはなかったはずだ。
まるで生きているかのような――思考しているかのような挙動じゃねえか。

「クソ、とっとと着火を――マジかよあいつ」

肝心の着火役、レッドドラゴンの使い手である男子高校生は、あろうことかドラゴンの背に乗って飛翔していた。
その手に剣を握ってデスフライの群れの中を飛び回り、すれ違いざまに斬撃を見舞ってる。

炎精王の剣自分で振るう奴初めて見たわ。
あいつだけなんか世界観違わない?
ていうかおもくそデスフライにタゲられてるけど死ぬんじゃねえのアイツ。

助けに行くか、行かざるべきか。
俺が逡巡している間に、駅のホームに更に飛び出す影があった。
ホームのど真ん中に出現したのは……カカシ。人間大のサイズで、頭に被ったカボチャの奥に生命の光を感じる。
新手の魔物――じゃねえ!ありゃ『スケアクロウ』、野生じゃ絶対に出逢うことのないモンスターだ。
課金者の中でも更に他者の追随を許さぬ額を支払った者に与えられる称号――『石油王』。
スケアクロウはそんな石油王だけが手にすることのできる、高額課金特典なのだ。

「あのコラボ金払った奴いたんだ……」

スケアクロウって確か、グッズのフルコンに加えて胡散臭いウイルス対策ソフトの契約までしなきゃならねえ、
情弱一本釣りみてーな特典配布条件だったはずだ。一回試算してみたけど俺の月給軽く吹っ飛ぶ額だぜアレ。
一体どこのアホが二ケタ万円このクソゲーに費やしたのか、その間抜け面を見てみてえ。うぷぷ。
高校生二人組はそれぞれレッドドラゴンとスライム(笑)だから違うとして――

「……あいつか」

女子高生の後ろにいつの間にかもう一人現れていた。
ツナギにタンクトップと、いかにも農作業の最中に飛ばされてきましたって格好の女。
まあ俺もウンコの最中に飛ばされたクチだからアレだけど。
あれが『石油王』?なんか若くない?農家ってそんな儲かるの?
この戦いが終わったら俺、脱サラしようかな……。

さて、戦場に闖入したスケアクロウだったが、カカシらしくその場を動こうとしない。
代わりに耳に障るケタケタ笑いがホームに響き渡り、デスフライ共の目がそっちに向いた。
群れのど真ん中で剣振り回してる馬鹿を放置して、一斉にスケアクロウへと襲いかかる。

……すげえ、一発で全部のタゲ取りやがった。
回復力に優れる耐久型のスケアクロウは、こうやって敵のヘイトを一身に集めて耐えまくるタンク的な運用に向く。
回復上昇のスペルも組み合わせれば、他のPTメンバーが完全フリーで長時間火力を発揮できるって寸法だ。
そしてデスフライ共のヘイトを集中させたおかげで、奴らが一箇所にまとまってる。

「……今だ!」

>「纏めて薙ぎ払え……〈燃え盛る嵐(バーニングストーム)〉!!」

「いやブレス吐けよブレス。何のためのドラゴンだよ」

俺の届くわけもない突っ込みも虚しく、ドラゴン乗りはスペルを発動。
着火するには無駄にでかい炎の嵐がデスフライ共を呑み込み、一瞬で消し炭へと変えた。
だが結果オーライだ。ククク……せいぜい上級スペル無駄打ちしてろ。それで有利になるのはこの俺だ。

44明神 ◇9EasXbvg42:2019/01/22(火) 00:00:36
俺は油断なく他にデスフライの生き残りがいないことを確認。
これがゲームならデスフライのバフ欄を見りゃ一発で判別出来るんだが、俺の目には禍々しい蝿の王のご尊顔しか映らねえ。

……よしよし、デスフライは全滅したな。
ベルゼブブ本体も巻き添えにしてやれるかと思ったが、敵もやっぱりアルゴリズムの奴隷ってわけじゃないらしい。
巧妙に防御態勢をとって、着火コンボを耐え抜いてやがった。
だが所詮お山の大将、手下がいなくなりゃ奴は砂の上の城に過ぎねえ。このPTなら削りきれる。

「ヤマシタ、『月天弓』」

上空でレッドドラゴンと一騎討ちを始めたベルゼブブ目掛けて、ヤマシタが矢を射掛ける。
『月天弓』は元々弓系武器に備わってる飛行特効を更に倍加させて撃つ弓使いのスキルだ。
しかしこれ、誤射したらどうなるんだろうな。
ゲーム上はオートターゲットだから味方に射撃が当たることないんだけど。

と、しばらく援護射撃を続けていると、レッドラがベルゼブブに弾き飛ばされて距離を離す。
それを契機として、ベルゼブブの複眼がこっちに向いた。
あれ?もしかしてヘイトこっち向いてね?
自問に自答するより早く、ベルゼブブが俺とヤマシタ目掛けて何らかのスペルの詠唱を始めた!

「タゲ剥がれてんじゃねーかクソタンク!!」

なにやってんすか石油王さんヘイト取るのやくめでしょはやくして!
だが一旦スペルの詠唱に入ったモンスターがターゲットを変えることはない。
やべーのは、この辺に身を隠すような遮蔽物は一切ねーってことだ!
あの挙動は確か『闇の波動』、馬鹿みてーな超威力の前にリビングレザーアーマーなんざ紙だ。
なんぼバフ使ったところでバフごと消し飛ぶだろう。

……なーんてな。
デスフライが全滅した時点で、ベルゼブブが『闇の波動』を使ってくるなんてことは予想済みだった。
なんで分かったかって?Wikiに書いてあったからだよ!!
廃人の先駆者共が何匹もパートナーを使い潰して得た情報の殆どは、攻略Wikiで共有されている。
こうしたレイドボスの討伐に参加する時は予習しておくのが前提とされるほどだ。

俺の方にタゲ跳ねてんのはちょっと予想外だったが、正味問題はねえ。
ククク……闇の波動を無力化するスペルもちゃあんと用意済みよぉ!

>「ポヨリンA! 『しっぷうじんらい』!」>『ぽよよっ!!』

しかし、俺がスペルを選び終えるよりも女子高生の反応の方が早かった。
パートナーのスライム――ポヨリンとかいう捻りのないネーミングのそいつが、猛然とこっちに走ってくる。

「ぐええ!」

何らかのスキルの影響か、どちゃクソ素早いスライムがヤマシタを直撃し、跳ね飛ばす。
そんで跳ねられたヤマシタは俺にぶち当たって、一人と一体仲良く荒野の上を転がった。

「なにすんだ軟体生物!」

受け身とか一般リーマンの俺にとれるはずもなくて、悪態と咳込みを交互にしている間に、闇の波動の詠唱が終わった。
オイオイオイ死ぬわ俺――と恐怖よりも先に諦めが来る中で、ポヨリンが波動に飛び込んで行くのが見えた。
それ意味あるぅ?スライム如きが肉壁になったってスライムごと掻き消されるだけだろ!?

>『ぴき―――――っ!!』

だが俺の絶望的な予測に反して、スライムは健闘した。
スライムの真芯を捉えた波動は、あろうことかスライムを貫通できずにそのまま威力を使い果たしたのだ。
一方波動を直撃したポヨリンが目を回しながら俺の傍を跳ね転がる。
えっマジで?なんで生きてんのこいつ。
俺はおそるおそるそのぷるんとしているであろう表面を指で突付いた。突き指した。

45明神 ◇9EasXbvg42:2019/01/22(火) 00:01:18
「こ、このスライム……硬い!」

いやマジでクソ硬え!なにこれどういう鍛え方したらこうなんの。
なんぼスペルで支援したところで、スライムが相殺できる威力じゃねえだろ闇の波動って!
……これはアレか、愛の為せる業なのか。
むかーしポケモンがまだ全盛期だった頃、嫁ポケとか言って弱いポケモンを愛で運用すんの流行ったもんな。
そういう趣味ビルドを否定するつもりは一切ないが、ここまで極まってるといっそ引くわ。明神ドン引きですぅ。

とは言え、助けられたのは確かだ。そこは感謝するほかあるまい。
なにせスペル一回分温存が出来た。馬鹿め……自分の首を締めているとも知らずに……!

「おきろポヨリンA、お前の飼い主が頑張ってんぞ」

失神しているスライムの頬(?)をペチペチ叩きながら、俺も立ち上がる。
大技を放ったあとの硬直はしっかり再現しているらしく、ベルゼブブからの追撃は来ない。
畳み掛けるなら今がチャンスだ。

>「ポヨリンB! 『てっけんせいさい』!!」

女子高生もそいつを理解しているらしく、ポヨリンBとかいうこれまた安直なネーミングのスライムをけしかけている。
うおっ、殴った!スライムが拳の形に変形してベルゼブブを殴り飛ばした!クリティカルだ!
防御力だけじゃなくて攻撃力も振りまくってんのか……愛のちからってすげー。

「捕獲は……まだ出来ねえか」

スマホの捕獲コマンドはまだ使用可能状態になってなかった。
ある程度HPを減らさないと捕獲自体不可能って仕様は、相手の残り体力を推し量る指標になる。
まだまだベルゼブブ君元気いっぱいってことっすね。
仕方ねえ、せっかく温存できたことだしもう一枚くらいカード切ってやろうじゃねえの。

「ヤマシタ、『曳光弾』」

革鎧の射掛ける矢に、線香花火のような光が灯る。
光る矢は空を切って飛び、スタン中のベルゼブブの肩に突き刺さった。
弓使いのスキル、『曳光弾』。矢や弾に魔力の光を灯し、着弾した敵はあらゆる攻撃が当たりやすくなる。
ゲームのシステム上では『着弾対象をターゲットとした全ての攻撃に命中補正』とかいうややこしい仕様だが、
この戦いにおいてはもっと分かりやすい効果を見込むことができる。

「『迷霧(ラビリンスミスト)』――プレイ!」

スペル発動、ベルゼブブを中心に乳白色の濃い霧が発生し、奴の複眼から視界を奪う。
同時に味方の視界も奪ってしまうというクソ迷惑な仕様だが、正味問題はねえ。
霧越しにもはっきりとわかる、突き刺さった曳光弾の光がベルゼブブの居場所を教えてくれる。

「迷霧の中にいる敵はクリティカル発生率が上がる!畳み掛けるぞ!」

ヤマシタ『乱れ打ち』スキルで矢の雨を降らせながら、俺は声を上げた。
このまま順調に削れて、捕獲可能になった瞬間、コマンドを実行してやるぜ。


【迷霧のスペルでベルゼブブの視界を奪いつつ、曳光弾で味方からは丸見えにする支援】

46五穀 みのり ◇2zOJYh/vk6:2019/01/22(火) 10:56:30
>「五穀さん、ナイス! あとでプレゼントボックスにアイテム贈っときますね! 回復系の!」
「はいな、おおきにさん。でもみのりでええよ〜」
なゆたの言葉に応えながら返事を返し、戦況を見守るみのり
ゲームではない、実際に目の前で繰り広げられる戦いに緊張はしていたが、戦いそのものはゲームと同じように順調に進んでいる。
それゆえに緊張よりも楽しさの方が若干上回っており、こうして余裕をもって眺めていることができたのだった

そして何より、最もみのりを楽しませているのが真一となゆたであった
>「纏めて薙ぎ払え……〈燃え盛る嵐(バーニングストーム)〉!!」
>「真ちゃんったら、考えなしにあんな大技使っちゃって……」
油まみれになり密集したデスフライに、上級スペルを使っての着火
なゆただけでなく、離れた明神もシンクロしたかのようにツッコミを入れてしまう所業なんだが
「ふふふ、元気があってええやないの、かぁいらしいわ〜」
と、みのりは面白そうに笑いをもらすのであった。

元よりグラドに騎乗して戦うなどという行動に出ている時点で、真一に対する評価は戦略的、理論的な行動は期待できない、となっている
故に今更着火にわざわざ上級スペルを繰り出しても驚きも呆れもしない。
それよりも、先ほどのやり取りからのなゆたの反応がかわいく思えてしまうのだ。

(世話焼き女房と、まだお子様な男の子って感じかしらぁ?
甘酸っぱいわ〜
こういうの見ていると、ついついつつきたくなっちゃうのは悪い癖やねえ)
などと思いを馳せるゆたの目に映るのは紅蓮に染まる駅のホーム

炎に包まれたデスフライは、身を焼かれながらもイシュタルへの攻撃を続けている
そしてイシュタルもまた燃え盛りながらデスフライへの攻撃を続けている。

スケアクロウのイシュタルはトップクラスのHPと回復力を誇るが、反面防御力や回避そして攻撃力はないに等しい
例えデスフライ相手であってもダメージは一桁あるかどうか
それでも攻撃を続けるのは、ダメージが狙いなのではなく被ダメージが狙いだからだ。

攻撃をする瞬間というのは攻撃をされやすく、最も脆い瞬間である。
そう、ともすればカウンターを受けるからだ
本来ならば避けるべき事態であるが、バインドを目的とするイシュタルにとっては累積ダメージを上積みする為の戦略であった。。
更に炎がデスフライだけでなくイシュタルも焼いているのは幸運だったといえよう。
これならばあと一つ大きな攻撃を食らえばベルゼブブですら倒しきるまでにダメージは累積されるだろうから。


しかし、その思惑は大きく外れることになる。
眷属を盾に紅蓮の炎を凌いだベルゼブブが真一に牽制の唾液を飛ばし、狙いをリビングレザーアーマーのヤマシタに定め、闇の波動を発動したのだ。
「はうぅ〜、タゲが外れてもうだわ〜おかしいなぁ」
ベルゼブブの思いがけない行動に驚きの声とともにあたりを見回す

47五穀 みのり ◇2zOJYh/vk6:2019/01/22(火) 10:57:08
みのりのバインドデッキは累積ダメージを跳ね返す事を旨としている
【累積】というところがポイントであり、回復しながらダメージを食らい続ける事でどんどん強力な攻撃力を蓄えていけるのだ。
その強力さに注目されがちだが、この戦略の本当の要所はヘイトコントロールにある。

ダメージ【反射】であるから、そもそもダメージを食らわなければいけない
エネミーが複数いるプレイヤーの中で誰に攻撃をするかはランダムではなくヘイト値によって決定されるのだ。

ヘイト、すなわち憎しみ
判りやすく言えば一番ムカつく奴を殴り倒す!というものだ
ヘイトにも様々な種類があり、ヘイト値をためやすい順に

近接ヘイト:パーソナルスペースに入られるとイライラするよね
視覚ヘイト:目につく奴にイライラ、目立つ奴は特にイライラ
ダメージヘイト:殴られれば殴り返す、基本ですよね
回復ヘイト:せっかく殴ったのに回復されたら台無しって怒るよね
デバフヘイト:邪魔されるとうっとおしいよね、まずこいつから排除しようってなるよね
挑発ヘイト:イラつかせるためだけの技術で他に何の影響もないけどとにかくイラつかせるよ

エネミーによって優先順位が変わるものもあるが、基本的にこういった要素で決定づけられる。
他にも、イラつきまぎれに何か蹴飛ばそうとした時、硬そうなレンガより空き缶の方を蹴るように、属性や防御力などの弱いものを優先的に攻撃をする傾向がある。

逆にムカつく相手を殴ってすっきりするように、ダメージを与えられることでヘイト値が低下したらい、他にもヘイトカットのスキルやスペルはあるのだが、ここでは割愛


このような要素を加味してみのりのバインドデッキはイシュタルをパートナーにすることで絶大な効果を誇っていたのだ。
敵のど真ん中に出現し近接ヘイトを獲得
案山子という視覚的に注目されやすい特性で視覚ヘイトを獲得
持ち前の回復力と「地脈同化(レイライアクセス)」による継続回復効果
そして最初に響き渡った笑い声は挑発効果のあるイシュタルのスキル『不協響鳴(ルーピ―ノイズ)』
更に低防御力と属性による不利

これだけのヘイト獲得手段を講じていれば、被ダメージによるヘイト低下も問題なくベルゼブブのターゲットを固定し続けられるはずであった。
にもかかわらずターゲットがヤマシタに移ったのは、ブルゼブブに指示を送った者がいるのかと周囲を見まわさずにはいられなかったのだ。
だがあたりにそれらしい人物はいなさそうで、ふぅと、一息ついて視線を戦場へと戻す。

指示されていないのであれば、生物としてのベルゼブブの知性という事なのであろう。
ならば知性を掻き消すほどのヘイト稼ぎか、他の戦略を考えねばならない、と感じつつ目の前の戦いに集中する。

48五穀 みのり ◇2zOJYh/vk6:2019/01/22(火) 10:57:27
みのりが思いを巡らせている間に戦いは佳境に入っていた
なゆたのコンボが発動し、闇の波動は防がれ、ベルゼブブはスタン状態に。
そこへ畳みかけるようにヤマシタの矢が叩き込まれている。

「闇の波動欲しかったけど、全部が全部ゲーム通りとはいかへんわねえ。
まだ足りひんやろけど頃合いという事で〜収穫祭の鎌(サクリファイスハーベスト)」

スペルが発動し、イシュタルの手に巨大な黄金の両手持ちの鎌が現れる。
鎌を握りしめイシュタルがベルゼブブに向かい進みだす
移動した時点で継続回復の地脈同化(レイライアクセス)の効果を放棄する事になる
既に十分回復しているのと、もはやここから先回復の必要がない、すなわち決着をつける事を表していた。

後はベルゼブブの動きを封じ確実に当てるために荊の城(スリーピングビューティー)を用意していたのだが、明神とヤマシタがそれを不要としてくれた。
ベルゼブブを中心に濃い霧が発生しているが、曳光弾により命中補正がかかり動きを封じる必要がなくなっていたのだ。

「ほんにやりよるねえ。おおきにさん〜それでは行かせてもらいますえ〜」

明神に声をかけた直後、イシュタルが飛びその大鎌を振るう!
クリティカル状態でのデスフライの総攻撃を受け、更に燃え盛る炎にまかれた累積ダメージがクリティカル状態でベルゼブブを直撃したのだ。
大きく切り裂かれ、体液をまき散らしながもベルゼブブは死ななかった。

「はぁ〜やっぱり闇の波動分足りひんわねえ。
まあしゃあないし、なゆたちゃんの彼氏君に花持たせてあげましょか〜」

ぽよりんコンボにヤマシタの乱れ打ち、そしてイシュタルの累積ダメージ反射はベルゼブブに大ダメージを負わせた。
HP残量的には瀕死状態で、捕獲コマンドも使用可能となっている状態であろう。

だがそれでもベルゼブブはレイドボスなのだ。
残量的には1割を切っているが総数が膨大なため、1割であってもそれなりの数値になっているはず。
そして次を託す真一だが、みのりの中ではかなりの低評価。
例え属性的に相性がよい炎属性のレッドドラゴンを使っているとはいえ、このままトドメを任せてベルゼブブを沈めきれるとは考えていないので

「あのお兄さんのおかげで温存できたスペルカード一枚分サービスですえ〜
太陽の恵み(テルテルツルシ)!
さて、効果はフィールドを火属性にするスペルでおすし、あとはおきばりやす」

みのりの声は藁人形を通じて真一に届くであろう
スペルカードが発動し、夜空に目映い光球が出現し、当たりを照らし出す。
効果はフィールドを火属性にし、火属性のモンスターやスペル、スキルの強化をもたらすのであった


【累積ダメージ反射にてベルゼブブを攻撃、大ダメージを与える】
【フィールドを火属性に変えて支援】

49ウィズリィ ◇gIC/Su.kzg:2019/01/22(火) 10:57:59
大人は勝手だ。

「ウィズリィ、お酒を飲んではだめだ。大人になってからにしなさい」
「ウィズリィ、あなた、そんな難しい本を読んでいるの? 子供らしく絵本でも読んでいればいいのに」
「ウィズリィ、言っただろう? これは苦みの分かる大人の味で、お前にはまだ早いって」

大人は勝手だ。

「ウィズリィ、お前は子供なんだから向こうに行っていなさい。私たちは大事な話があるんだ」
「ウィズリィ、あなたが背伸びしたがる歳なのは分かるわ。でも、これは大人のお仕事なの」
「ウィズリィ、このバカ娘! 聞き分けがないにも限度がある! 次にこんな事をしたらお前をタンスにしまってしまうからな!」

大人は勝手だ。自分勝手だ。
誰もかれもが自分の権威と既得権益を守るためだけに動いている。
かつて読んだとある物語では、大人たちはみんな死んで、少年少女が国の最後の希望、というような筋だった。
……本当にそうなってしまえばいいと思った事も、一度や二度ではない。

「ウィズリィ」

声が響く。他の誰の声とも違う、厳かなトーン。
そして、声とともに、わたしの眼前に現れる、一つの人影。
『王』だ。わたしは思わず居住まいを正した。

「ウィズリィ。我が敬愛する森の魔女よ。教えておくれ……私の国は、あとどのぐらいもつ?」

不確定要素が多すぎてまともな計算もはばかられるところだったが、概算では現状維持でよくて5年。おそらく実際はその半分以下。
そう伝えると、『王』は悲しそうな顔になった。

「ありがとう。……辛い言葉を言わせてしまったね。すまない」

首を振って応える。単なる事実を伝える事に、辛い事なんてないから。

「いや、それでも謝らせてほしい。これから私は君に、この質問とは比較にならないぐらい過酷な仕打ちを強いるのだから。
 ウィズリィ、我が敬愛する魔女よ」

『王』がそう言った瞬間、気が遠くなっていく感覚に襲われる。視界がぼやけ、『王』の姿が薄れていく。
言葉に答える事も出来ないまま、わたしの視界は完全に暗闇に呑まれていった。
最後に、『王』の言葉だけが響く。

「私は、君に……」

50ウィズリィ ◇gIC/Su.kzg:2019/01/22(火) 10:58:16
「……夢……?」

どうやら、少々うたた寝をしてしまっていたらしい。二、三回まばたきをして、寝ぼけ眼をまぶたから追い払う。
真っ先に視界に映るのは、シンプルな装飾ながら設えの良い革張りの椅子。
私が今現在座っている(そして眠っていた)椅子とほぼ同じデザインのそれは、現在は空席である。
もちろん、そこに『王』が座っているという事は……座っていたという事も、ない。
私が『王』とあの会話をしたのは、もう2日は前の事になるのだから。

「……ふむ」

軽く体を動かし、少々のこわばりをほぐす。
この感触からするとそう長くは眠っていなかったようだが、さて。

「ブック」

わたしの最高の相棒である、本の姿をした魔物の名を呼ぶ。
言わずとも傍に控えていたのだろう。彼……彼女かもしれないが、性差のない種族に対しては無意味な呼称だ……は、即座に私の目の前に飛んできた。

「わたしが『これ』に乗ってからどれぐらい経っているかしら」

分かる?などと確認する必要はない。彼に分からないことなどないのだから。
今回も、彼は即座に回答する。
彼のページがひとりでに開き、その上に円状に小さな火の玉が12個並ぶ。
彼が知る知識の一つ、日の出から次の日の出までを24分割する、時の表記方法。
12個の火の玉のうち、二つの色が赤から青に変わった。……2単位分寝ていたという事だろう。

「思ったより疲れていたようね……しかも、それでまだ到着していないなんて。
『これ』の乗り心地は悪くないけれど、時間がかかるのは考え物ね」

いいながらわたしは立ち上がり、『これ』の内部を見渡す。
わたしが座っていたのと同じ椅子が、いくつも向かい合うように配置されている。
それほど高くない天井からは、小ぶりながら悪くない趣味のシャンデリアが下がり、室内を照らす。
ある一点に目をつぶれば、ここは王宮の応接室だ、と言っても通るかもしれない。
部屋の端にある窓からの景色が、流れるように通り過ぎていく事さえ、気にしなければ。

「……慣れないわ」

同意する、とでもいうように、ブックが火の玉を消し、自らを閉じた。

*  *  *

種を明かそう。『これ』とは、わたしの『王』が用意した乗り物なのだ。
魔法機関車、と『王』は呼んでいた。線路、というあらかじめ用意した鉄の道にそって、大量の荷物や人員を運搬できるからくりなのだという。
普段は『王』自らが乗り込み、あちこちに視察に赴くのだそうだ。
まさかそれにわたし(とブック)が乗る事になるとは夢にも思っていなかったが、この程度で驚いていては始まらない。
わたしがこれから魔法機関車で迎えに行くのは、博識であるわたしやブックでも一度も遭遇したことのない相手だという。
『異邦の魔物使い(ブレイブ)』と呼ばれる彼らを迎えに行く事が、さしあたってわたしがこなすべき任務なのだ。
そう、あくまでさしあたっての。

「……君に世界を救ってほしい、か。まったく、買いかぶられるのも考え物ね」

あの日の『王』の言葉を思い返す。
わたしが対応するべき最大級の謎。
世界の危機。
実感はない……が、いずれ嫌でも湧いてくるだろう。

51ウィズリィ ◇gIC/Su.kzg:2019/01/22(火) 10:58:30
気が付けば、窓の外の景色はいつのまにかすっかり赤茶けた荒野になっていた。
『赭色(そほいろ)の荒野』だ。つまり。目的地は近い。
何事もなければよい、という期待は早々に裏切られた。

夜空に太陽が浮いている。スペルの効果だ。
夜を昼にしようという斬新なリフォームを試みたバカがいるのでなければ、おそらく何らかの戦闘行為が行われているのであろう。
見れば、緩やかなカーブの先に見える建物の周囲で、何か大きなものが飛び回っている。
モンスターだ。敵か味方か通りすがりか、までは判別しきれないが、いずれにせよ邪魔だ。
いざとなれば、わたしも対応できるだけのスペルは貯蔵しているが……まずは穏健な策を取るべきだろう。
つまり……。

部屋の隅に用意されていた伝声管を開き、声をかける。

「運転手、聞こえるわね。目的地の方に障害物が多数あるわ。
 最悪わたしが対応するけれど、まずは注意勧告をお願い」

しばらく後。
魔法機関車の警笛が『赭色の荒野』に響き渡った。

【ウィズリィ&ブック:魔法機関車内で到着待ち】
【魔法機関車運転手(詳細不明):警笛を鳴らす】

52佐藤メルト ◇tUpvQvGPo:2019/01/22(火) 10:58:58
青白い蛍光灯の明かりに照らされたマンションの一室。
赤いランドセルを背負った少女が、連続ドラマを眺めながらソファに横になっている母親の背に、何事かを語りかけている
顔をくしゃくしゃにして涙を流しつつ声を紡ぐその様子と、泥の跡の様な物が付着したままの服装から、恐らくは少女の身に学校で何事か……良からぬ事があったのだろう
えづきながら語る少女。その訴えかけに、けれど母親は適当な相槌とドラマの滑稽な場面への笑い声で答えている
そのやり取りは数分の間に渡り続いたが

「それで……あのね。お母さん、今日、学校に行ったら友達に……笑われたの。お化けみたいだって」
「ああっ、もう!なによ、さっきからうるさいわね!ドラマが聞こえないでしょ!?」

ドラマがコマーシャルに入った瞬間に、怒りで顔を歪めた母親の怒鳴り声で中断する事となった
大声を向けられた少女はビクリを身を竦めたが、それでも母親に縋り付きたかったのであろう。再度口を開こうとするが

「でも、お母さ――」
「さっさとその汚れた服洗濯機に入れて自分の部屋に戻りなさい!汚いのはその【顔の傷痕】だけにしてよ!!」

……返されたのは怒声。少女の心は、母親の娯楽への興味により封殺されてしまった
先程まで滂沱の如く流していた涙も、まるで水源が枯渇したかの様にピタリと止まり、呆然としたまま浴室の洗面台の前まで歩を進め、少女は洗面所に設置された姿見に映った自分自身を眺め見る

肩までの長さの黒髪に、少し赤みがかった色の瞳。日焼けしていない白い肌

そこには、いつも見慣れた少女自身の姿が写っているが……ただ一つ。少女が【事件】の前と後で変わってしまった物があった
それは、長く伸ばした前髪で隠した、右顔

その上を縦断する醜い切傷の跡

右手で前髪を掻き揚げながらその傷跡を眺め見た少女は、小さく、泣き出しそうな歪んだ笑みを浮かべ……


――――……・・

53佐藤メルト ◇tUpvQvGPo:2019/01/22(火) 10:59:14
「う、ぁ――――な、何事です!?」

突如として響いた轟音
爆轟の如きそれを耳に入れた少女――【佐藤メルト】は驚愕の声をあげつつ飛び起きる事となった

「ま、また……! 地震ですか?ガス爆発ですか!?」

慌てて寝かせていた体を持ち上げるメルトだが、そんな事はお構いなしとばかりに先程彼女を叩き起こした轟音は断続的に続いている
混乱したまま周囲を見渡すも、そこは先ほどまで自身が見ていた青白い微睡の世界ではなく、目に写るのは、所々崩れた石壁により囲まれた見知らぬ部屋
当然の如くメルトもランドセルなど背負ってはおらず、着ている服は黒色のパーカーと同色のスキニー
そして「ラーメンライス」と筆文字でプリントされた白の謎インナー……彼女が中学校に通える年齢になってから愛用している部屋着であった

夢と現の境を振り切れぬまま、暫しの間、継続して鳴り響く轟音や爆音に振り回され、手を振って見たり蹲ってみたりと混乱を続けていたメルトであるが、
ふと、自身が現在潜んでいる部屋……線路が通る廃墟の中に有る、例えるのであれば駅長室とでもいうべきその場所の、崩れた壁の隙間から飛び込んできた風景を見て
空に座する蠅の王【ベルゼブブ】の姿によって、ようやく混乱を振り解く事に成功した

「……うわ、思い出しました……最悪、です。やっぱり夢じゃなかったんですね、コレ」

そして思い出す
自身が突如としてこの赤錆色の世界に放り出された事を
自身がプレイをしていた【ブレイブ&モンスターズ!】に登場する魔物、蠅の王【ベルゼブブ】に酷似した怪物に追われていた事を

54佐藤メルト ◇tUpvQvGPo:2019/01/22(火) 10:59:33
遡る事数時間前。ある事情により、登校拒否の半引きこもりと化していた彼女がこの世界に落とされたのは締め切った自室で【ブレイブ&モンスターズ!】をプレイしていた時の事であった

ゲームのストーリーモードを進めたり素材集めをする訳でもなく、最弱レベルの雑魚モンスターであるレトロスケルトンをパートナーに、業者すら未発見のバグを利用したハイレベルのレアカードの増殖を行っている最中
一度目の増殖を成功させたそのタイミングで、瞬きをした瞬間に世界が切り替わっていた


切り替わり、目と鼻の先程の距離に眼前に蠅の王【ベルゼブブ】が鎮座していた


至近距離に高レベルのモンスター……昨今の糞ゲーですらあまり見ない、本来であれば致命的である状況の中でメルトが生き延びる事が出来たのは、殆ど奇跡といっていいだろう

まかりなりにも一日の殆どの時間をブレイブ&モンスターズにつぎ込む廃人と言って良い程の経験を積んでいた事で、ベルゼブブのモーションに対し異様な速度で反応、回避行動ができた事
回避した先が、赤い砂に塗れた急斜面であり、そこを転がりながら滑り落ちる事で、一時的にベルゼブブとの距離を取る事に成功した事
その二つの要因が、辛くもメルトの命を救った

当然の事ながら【近接ヘイト、視覚ヘイト、挑発ヘイト】この三つを完全に満たしたメルトをベルゼブブは獲物と定め、執拗に追跡を行ってきたが……運良くベルゼブブに殺される事無く、
逃げて逃げて逃げて、追跡を逃れ、廃墟の駅に逃げ込んだ事で事で気が緩み、そのまま意識を失い――――そして冒頭へ至ったという訳である

……つまり、真一達がここでベルゼブブに遭遇したのは、メルトが図らずもトレイン(モンスターを引きつけて他者に擦り付ける行為)を行った成果であるとも言えるのだが、それは誰が知る所でもない


「それにしても、さっきから響いてるこの轟音……戦闘音でしょうか? ――あっ。今の炎は確か【燃え盛る嵐】のエフェクトですね。なんか思った以上に物凄く燃えてる気もしますが」

一度大きく深呼吸をして、再度壁の隙間からベルゼブブの様子を眺め見るメルトだが、彼女はそこでベルゼブブの様子がおかしい事に気付いた
メルトを追跡していた時は泰然自若とした様子を崩さなかったベルゼブブが、殴られたかの様にふら付き、かと思えば突如としてその身が燃え上がったりしているのだ
暫く観察して、その炎の形状がスペルカードの一つと酷似している事を思い出したメルトは、
次いで現れた乳白色の霧とその中で輝く線香花火の様な発光を見て、ベルゼブブが【プレイヤー】と戦闘している事を確信する

これまで状況の掴めない中で逃げる事に精いっぱいだったメルトは、自分以外の他者の存在を感じた事でホッと息を吐こうとし……
けれど、直ぐに【プレイヤー】が友好的な人間とは限らないと思い至り頭を横に振った

ただ……それでも何もしない事は不安なのだろう、メルトは駅長室から恐る恐る歩み出て、
廃駅のホームの朽ちた看板の影から戦闘の様子を眺め見ていたが……そこでふと、彼女は己の懐に入っているスマートフォンの存在を思い出した
気を紛らわす手慰みなのだろう。ポケットに入れてあったスマホを取り出すと、
特に深く考えず、画面を良く確認する事も無く、何故かログイン出来ているブレイブ&モンスターズの『召喚』ボタンを作業的に押し

55佐藤メルト ◇tUpvQvGPo:2019/01/22(火) 10:59:46
『カタタタカタカタ』
「……うぇえええええええええ!?」

眩い光と共に現れた、ガイコツ標本の様なモンスター
【レトロスケルトン】を至近距離で見る事となり奇妙な声を上げた
そして、そのタイミングで追撃とばかりに響き渡る大音量の【警笛】
限界まで張りつめた緊張のなか、視覚と聴覚の双方に奇襲を受けたメルトは

「……きゅう」

数歩ふら付きながら歩いてから、廃駅のプラットホームのど真ん中で、再度その意識のブレーカーを落とした

夜空に輝く眩い光球に照らされたレトロスケルトン……メルトがパートナーとして選択していたそのモンスターは、
未だ続く戦闘と、情けなく倒れた自身のパートナーを中身のない虚空の目で見比べて、
まるで困った人間の様に骨しかない指で頭蓋骨をポリポリと掻いた

【トレインしたり覗いたりのあげくに、特に何も成し遂げる事無く、誰かと遭遇する前に気絶】

56赤城真一 ◇jTxzZlBhXo:2019/01/22(火) 11:00:32
青白い燐光を放つ満月の下で、蝿の王との激闘は続く。

一瞬の攻防の後、素早くグラドと距離を取ったベルゼブブが次に狙ったのは、こちらに向けて矢を射かけるリビングレザーアーマーだった。
真一はゲーム内でベルゼブブと戦ったことはなかったが、広げた羽を震わせるその挙動には、ピンと来るものがあった。

「――闇魔法か! おい、そこのアンタ。さっさと逃げろ!!」

真一は下方から援護するサラリーマン風の男に、慌てて声を掛ける。
先程はその助けによって、デスフライの群れを一掃することができたものの、彼のパートナーは脆弱な革鎧の亡霊だ。
金属製の鎧を纏ったリビングアーマーと比べれば、防御性能も遥かに劣り、ベルゼブブのスペルをまともに受けてしまえばひとたまりもないだろう。

>「ポヨリンA! 『しっぷうじんらい』!」
>『ぽよよっ!!』

しかし、そんな真一の心配をよそに、彼らの前に立ちはだかったのは、なゆたのポヨリンだった。
一見ただのスライムだが、なゆたの異様なやり込みによって鍛えられたその強靭さは、真一もよく知っている。
ポヨリンは〈闇の波動(ダークネスウェーブ)〉の直撃を貰って吹き飛ばされるも、何とか耐え切ったようであった。

>「ポヨリンB! 『てっけんせいさい』!!」
>『ぽっよ……よよよ〜〜〜んっ!!』

更に分裂したもう一匹のポヨリンが、衝撃波を放って隙ができたベルゼブブを狙う。
スライムが拳の姿に変化する様は、こうしてリアルで見ると中々不気味だったが、攻撃力はお墨付きだ。
強烈な鉄拳がベルゼブブの横っ腹を見舞い、敵の巨体をぶっ飛ばす。

「よっしゃ、流石ポヨリンだぜ!」

間近でその一撃を見た真一は、思わず拳を握ってガッツポーズを決める。
いつもは煮え湯を飲まされ続けている相手だが、こうして味方として戦う分には、これほど頼りになる奴らも中々いない。

57赤城真一 ◇jTxzZlBhXo:2019/01/22(火) 11:00:50
>「迷霧の中にいる敵はクリティカル発生率が上がる!畳み掛けるぞ!」

>「闇の波動欲しかったけど、全部が全部ゲーム通りとはいかへんわねえ。
 まだ足りひんやろけど頃合いという事で〜収穫祭の鎌(サクリファイスハーベスト)」

だが、他の仲間たちも、なゆたとポヨリンに負けず劣らずの活躍を見せた。
ベルゼブブのメインターゲットに定められていたサラリーマンらは、ベルゼブブの体に光の矢を突き刺しつつ、スペルで濃霧を発生させる。

そして、その援護を受けたイシュタルは、先程まで回復に徹していた構えを解いて、今度は両手に大鎌を握る。
ユニットカードの〈収穫祭の鎌(サクリファイスハーベスト)〉。
今まで自分が受けたダメージを攻撃力に変換する武器であり、あれだけデスフライの的にされていたことを考えると、その火力の程は計り知れないだろう。

>「ほんにやりよるねえ。おおきにさん〜それでは行かせてもらいますえ〜」

イシュタルは大鎌を振り抜き、ベルゼブブの胴体を見事に斬り裂いた。
真一もこれで決着がついたものかと思ったが、これだけの攻撃を立て続けに受けて尚、ベルゼブブは健在だった。

「まだ息があるのかよ。……思ってたよりも、随分タフな野郎じゃねーか」

やがて濃霧は晴れ始め、徐々に視界がクリアになる。
ベルゼブブは腹から体液を溢しながら、相変わらずその両脚を擦り合わせて不協和音を鳴らしていた。
然しものベルゼブブといえど、もはや息も絶え絶え。このまま畳み掛けることができるだろうと真一が身構えたその時、不意にベルゼブブの周囲を紫色の光が覆い始めた。

――蝿の王の異名は、伊達ではない。
ベルゼブブはこうして瀕死の状態まで追い込むと、俗に言う「バーサク状態」へ変貌するのだ。
闇の魔力を纏ったベルゼブブは、その高度な知性を失う代わり、あらゆるステータスを大幅に上昇させて暴れ始める。
残り体力的には〈捕獲(キャッチ)〉のコマンドを実行することも可能なのだが、今のままではまず捕獲に成功することもない。
更に攻撃を与えてバーサクを解除するか、或いは状態異常にさせて、身動きを封じるなどの工夫が必要になる。

>「あのお兄さんのおかげで温存できたスペルカード一枚分サービスですえ〜
 太陽の恵み(テルテルツルシ)!
 さて、効果はフィールドを火属性にするスペルでおすし、あとはおきばりやす」

「よし、任せとけ! ……って言いたいところだけど、何かヤバそうな雰囲気だ。油断すんなよ、グラド!」

先程、五穀豊穣と名乗ったイシュタルの主人は、藁人形を通して真一に声を掛ける。
そして、彼女が行使したユニットカードによって、夜空に太陽が昇った刹那、最後の戦いが幕を開けた。

58赤城真一 ◇jTxzZlBhXo:2019/01/22(火) 11:01:09
「――〈火球連弾(マシンガンファイア)〉!!」

まずは手始めに、真一は牽制とばかりに一枚のカードをプレイする。
小さな火球の礫を無数に放つスペルであり、一発一発の攻撃力は低いものの、このように弾幕を張るには非常に優秀な効果を持つ。
――だが、バーサク状態に入って運動能力を高めたベルゼブブは、それらの攻撃を容易く回避し続けた。

「くっ、なんつー速さだよ……! グラド、ドラゴンブレスだ!!」

回避機動を取りつつ、ベルゼブブは複眼をこちらに向けて狙いを定め、再び闇の波動を解き放った。
グラドは自身のスキルである〈ドラゴンブレス〉を以てそれを迎え撃ち、両者の攻撃は虚空でぶつかり合って相殺される。
〈太陽の恵み(テルテルツルシ)〉の効果によって、こちらの火力も上がっていたため、威力負けすることはなかったが、敵に命中しなければ意味がない。
そのようにして、繰り返し撃ち出される真一とグラドの攻撃を、ベルゼブブは立て続けに躱し、自身は酸の唾液と闇の波動で応戦する。
幾度にも渡る攻防は、互いに致命打を与えるに至らず、空中戦は更に凄烈の様相を呈した。

「このままじゃ埒が明かねえ。なんとか、あいつの動きを止めねーと……」

しかしながら、そう呟いた真一の脳内には、敵の意表を突くための“ある作戦”があった。
それはかなりデンジャラスな賭けでもあったが、既に意は決している。真一はグラドの頭に顔を近付け、その内容を耳打ちした。
グラドは驚きに一度目を見開くも、その直後に腹を括ったようで、対峙するベルゼブブを鋭い眼光で見据える。

『グァアアアアアアッ――――!!』

そして、グラドは激しい咆哮を上げながら、ベルゼブブを目掛けて突っ込んだ。
理性を失っているベルゼブブは、その雄叫びに挑発されるがままに羽を開き、こちらを迎え撃つ構えを取る。
突進するグラドと、それを迎撃するベルゼブブ。互いの体当たりが炸裂し、両者は共に倒れたかのように見えた。

――だが、蹌踉めくグラドの背の上には、既に真一はいなかった。
今の衝突で振り落とされただけのようにも思えるが、そういうわけではない。

「――貰ったぜ。真上がガラ空きなんだよ、ハエ野郎!!」

そう叫んだ真一の姿は、ベルゼブブの死角――その直上にあった。
ぶつかり合う寸前、真一は〈限界突破(オーバードライブ)〉のスペルを発動して身体能力を底上げし、グラドの背を踏み台に跳び上がっていたのだ。
パートナーの突撃を囮に使い、自分自身が飛矢となる捨て身の作戦。
しかし、あまりにも無謀に思えるその行動は、完全にベルゼブブの虚を突いた。

真一は裂帛の気合と共に剣を振り下ろし、唐竹の剣戟でベルゼブブの左翼を斬り落とす。
ようやく届いたその一撃を受け、ベルゼブブは悲痛な叫び声を響かせながら崩れ落ちた。

「今だ! ブチかませ、グラドッ!!」

更にダメ押しとばかりに、グラドは〈ドラゴンクロー〉のスキルを発動。
右腕に炎を纏わせ、自慢の鉤爪を渾身の力でベルゼブブの顔面に叩き付けた。

真一とグラドのダブルアタックが炸裂し、遂に決着の時は訪れる。
ベルゼブブの周囲を取り巻いていた紫色の魔力は消え去り、そのまま荒野へと墜落していく。
やがてHPが尽きるのは明らかだったが、完全に息絶える直前――バーサク状態が解除されたこの瞬間に捕獲を試みれば、或いは成功する可能性もあるかもしれない。

そして、同様に落下する真一をグラドが背でキャッチした直後――この荒野を切り裂くように、けたたましい警笛が鳴り響く。
異世界の少年たちを「王都キングヒル」へと導く“迎え”が到着した合図であった。



【真一とグラドのコンビ攻撃が決まりベルゼブブ撃破。
 ちなみに汽車に乗って移動するシーンでこの章を締める予定なので、そのつもりで準備お願いします】

59崇月院なゆた ◇uymDMygpKE:2019/01/22(火) 11:01:56
スライム、リビングレザーアーマー、スケアクロウ、そしてレッドドラゴンの波状攻撃によって、ベルゼブブが墜ちていく。
急造チームではあったが、近距離アタッカー二体にタンク、遠距離アタッカーと、編成的にはまずまずだ。
あとはヒーラーでもいれば、より一層強いパーティーになるだろう。
何よりこの異世界に放り出され、右も左もわからない状態でレイドボスに遭遇するという絶体絶命の危機。
それを乗り切ったというのは、まさに奇跡としか言いようがない。

……と。

(……あれは……キャプチャーの……)

どどう、と赤色の土煙を上げて荒野に墜落したベルゼブブへ向けて放たれた、一条の光。
それはモンスターを捕獲するときに見られる光のエフェクトだった。
ダメージを与えて弱ったモンスターは捕獲できる。――たとえ、それが強大な力を持つレイドボスだったとしても。
普通のゲームならNPC専属であろうモンスターをも捕獲できるというのが、このブレイブ&モンスターズ!のウリである。
光の飛んできた方向を見ると、サラリーマンがいるのが見えた。間違いなくあの男性が捕獲を試みたのだろう。
……しかし、その光は一瞬ベルゼブブを取り巻くも、すぐにパッとかき消えてしまった。捕獲失敗のサインだ。

なゆたはその時点で、サラリーマンに軽い不信感を覚える。
通常、多人数のプレイヤーが参加するパーティープレイにおいてモンスターの捕獲はご法度とされている。
なぜなら、モンスターは分け合うことができない。
素材収集目的の討伐の場合は、討伐した時点でドロップアイテムが全員に行きわたるが、捕獲は違う。
一人が捕獲に成功すると、他のプレイヤーは経験値以外は何も貰えず終わるのである。
よって、特定のモンスターを捕獲しようとする場合はフレンド募集の時点で『○○捕獲希望』とメッセージを出すのが普通だった。
もしそうでないとしても、最低限『これ捕獲してもいいですか?』と一声掛けるのがマナーであろう。
学校で生徒会副会長を務める真面目さからか、ネットマナーにもうるさいなゆたであった。

ともかく、サラリーマンはベルゼブブ捕獲に失敗した。
捕獲自体に回数制限はない。もう少し弱らせて、次のATBゲージが溜まったときにリトライすることも可能だ。
真一とグラドはもうベルゼブブには見向きもしていない。既に戦いには勝った、と思っているのだろう。
真一らしい詰めの甘さだが、なゆたはそれを許さなかった。

「ポヨリンAアーンドB! 『スパイラルずつき』!」
『ぽよよよっ!』

地面に墜落し息も絶え絶えのベルゼブブへ、分裂した二体のポヨリンが突っ込んでゆく。
かと思えばポヨリン達は加速をつけて跳躍し、まるで弾丸のような形状になってきりもみ回転しながらベルゼブブを攻撃した。
エネミーの防御力を無視してダメージを与える、貫通属性持ちのスキル――スパイラルずつき。

硬化のスペルはまだ切れていない。銃弾めいた形になった鋼のスライム二体が、蝿の王の胴体を貫通する。
蝿の王はギョォォォォォ……と断末魔の悲鳴を上げながら、今度こそ動かなくなった。
と同時、戦闘に参加していた各人のスマホにドロップアイテムの報告表示が出る。
風属性モンスター育成のレアアイテム、『蝿王の翅』だ。

60崇月院なゆた ◇uymDMygpKE:2019/01/22(火) 11:02:15
戦闘が終了した瞬間、けたたましい汽笛の音が鼓膜を震わせる。
見れば、廃墟とばかり思っていた駅のホームに一両の列車が近付いてきている。
魔法機関車――ブレイブ&モンスターズに出てくる、メジャーな交通手段のひとつだ。
ストーリーモードでは、飛空船を手に入れるまでこの魔法機関車でほうぼうを旅することになる。

「あれが、メロの言ってた迎えってことね……」

戦闘を終えてスペルカードとスキルの効果が切れ、一体に戻ったポヨリンを胸に抱き上げると、そう呟く。
メロの言っていた『王』とは、王都キングヒルに君臨するあの王のことで間違いないだろう。
ゲーム内では最序盤に出会う相手だ。もちろん、ストーリーモードをプレイした者なら全員知っているはず。
こんなミミズとハエしかいない荒野に突っ立っていても仕方ない。次の行き先は決まった、が――。

「みのりさん! ホントに助かっちゃいました、ありがとうございます!
 まさか、こんなところでフレンドの方に会えるなんて!すごくすごく嬉しいです!」

まずは、共闘してくれたフレンドにお礼を言うのが筋であろう。すぐになゆたはみのりに向き直ると、深々と頭を下げた。

「改めて、崇月院なゆたです。崇月院の月を取って、月の子(モンデンキント)って。
 でも、ここじゃ本名の方がいいですね。わたしのことは、なゆって呼んでください」

快く共闘に応じてくれ、なおかつ人当たりもいい。決して悪い人ではなさそうだ。
かつてスケアクロウを見たときは、どんだけ金満なプレイヤーなのよと思ったが、認識を改める。

「あそこのレッドドラゴンに乗ってるおバカが、赤城真一。えと……さっきも言った通り、わたしの幼馴染で。
 ホント、ムチャクチャな戦い方で……。ド初心者なんです、みっともないところお見せしてお恥ずかしい……」

パートナーモンスターと一緒にエネミーと戦うばかりか、自分にバフを掛けるなど聞いたこともない。
軽く彼の方を指差して紹介すると、なゆたはまたみのりに対しぺこぺこと頭を下げた。

「……で。わたしたちは、さっきスノウフェアリーにあの機関車に乗れって。
 そう言われたものですから、これから乗ろうと思うんですが……。
 みのりさん、よかったらご一緒しませんか? 仲間は一人でも多い方が心強いですし」

彼女は信用できる。それがなゆたの下した結論であった。
寺の一人娘という出自もあってか、基本的に性善説を採用しているなゆたである。
以前からフレンドとして共闘しているという繋がりもある。
そして。

「お兄さんも! ありがとうございます!」

みのりから視線を外し、やや離れたところにいるサラリーマンの方を見る。大きく手を振ると、なゆたはお礼を言った。
共闘してくれたのはありがたいし、スペルカードで援護してくれたのも助かったのは事実だ。
独断でベルゼブブの捕獲を試みた先ほどの行動がどうも引っかかるが、それもたまたまかもしれない。
空気の読めないプレイヤーはどこにでもいる。いちいち目くじらを立てていてはきりがない。
それより、今はやはり味方を一人でも確保しておく必要がある。
急造でも上級レイドボスのベルゼブブを撃退したパーティーだ。この先もこの面子なら大抵の苦難は乗り越えられるだろう、と思う。

61崇月院なゆた ◇uymDMygpKE:2019/01/22(火) 11:02:34
やがて真一とグラドが降りてくると、なゆたは肩を怒らせて彼の方へ歩いて行った。
そして、真一の顔に自らの顔を近づけると、む。とその目を見つめる。

「……真ちゃん」

と、その直後。なゆたは徐に右拳を握り込むと、ごちん。と真一の脳天にゲンコツを落とした。

「なんなのよ、今の戦いは!? どこの世界にパートナーモンスターと一緒に戦うマスターがいるのよ!
 あの炎精王の剣も! 限界突破も! モンスター用のスペルカードなんだから!
 あんたいつからモンスターになったのよ!? わたしはモンスターを幼馴染に持った覚えはないっ!」

途端に嵐のようなお小言を開始する。

「まだ、ここがどんな場所なのかもわかんないんだよ!? やられて、ゲームオーバーになるだけならいい。
 ゲーム続行不可になって、この世界から元の世界に戻れるなら、わたしだってすぐにそうするよ。
 でも、そうなるとは限らない! モンスターに傷つけられたら、本当に怪我をして! 死んじゃうかもしれないんだよ!?
 そうなったらどうするの!?」

矢継ぎ早にまくしたてるうち、なゆたの大きな瞳に涙がにじんでゆく。

「……心配、させないでよ……。あんたにもしものことがあったら、わたし……。
 あんたの家族に、なんて説明すればいいのよ……!?」

制服の袖でぐいっと乱暴に目元を拭うと、なゆたはもう一度真一を睨みつけた。
そして、右手の人差し指をびしぃっ! と真一の鼻先に突きつける。

「テンションが上がっちゃったのはわかるけど、もう二度とあんな無茶なことはしないでね!
 じゃないとぉ〜……真ちゃんの好きなハンバーグ、もう作ってあげないから!
 わかった!? 『はい』は!?」

ぴしゃりと言い放つ。それで言いたいことは言ったらしく、なゆたは一旦矛を収めた。

「……ま、まあ、グラちゃんに乗って戦う姿は、その……ちょっぴり、カッコよかった、けど」

腕組みし、そっぽを向きながらぽそぽそと零す。

「さ! お迎えも来たし、このフィールドには用はないわ。早く魔法機関車に乗ろう!」

一旦倒したレイドボスは日が変わらない限りリスポンすることはないが、サンドワームは無尽蔵に湧く。
スペルカードを使って消耗している現在、度重なる戦闘は避けたい。なゆたは真一の手を引き、プラットホームへ行こうとした。
そして、停車している魔法機関車に乗り込もうとしたとき――

「……あれ?」

いつのまに現れたのか、プラットホームの中央で倒れている少女を見つけたのだった。

62崇月院なゆた ◇uymDMygpKE:2019/01/22(火) 11:02:49
「ひょっとして、あの子もわたしたちと同じプレイヤー?」

中学生くらいの背格好の少女が倒れているのを見て、なゆたは顔をしかめた。
というのも、少女のすぐ近くにレトロスケルトンがぼんやりと突っ立ってるのを認めたからである。
通常のエンカウントモンスターなら、とっくに少女に襲いかかっているはずだ。
また、レトロスケルトンが少女を襲い殺害し終わった後だとしたら、とっくにその場を離れているはずである。
たまに執拗に死体蹴りしてくるエネミーもいるが、基本モンスターはヘイトがなくなるとターゲットから離れる。
少女のそばを離れず、かといって攻撃するそぶりもない。
それはつまり、このレトロスケルトンが敵ではないということの証左に他ならない。
スライムやリビングレザーアーマーと並ぶザコ敵で、なおかつそれらほどの伸び代もない、正真正銘のザコモンスターだ。
何より可愛くない(なゆた的価値観で)。
そんな箸にも棒にもかからないモンスターをパートナーにしている辺り、相当な物好きか初心者か。
ともかく、捨て置くことは出来ない。なゆたは少女に駆け寄った。

「……目立った怪我はないみたいね……」

少女を抱き起し、その身体の様子を確かめる。恐らく気絶しているだけだろう。
こんな奇妙きわまる世界に着の身着のままで放り出されたのだ、それも致し方ない。
いち早く状況を理解したなゆたや、理解どころかモンスターとの共闘さえやってのけた真一の方がおかしいのである。

「真ちゃん、この子も連れて行こう。ここに置き去りにはできないよ」

巨大なハエとミミズののさばる荒野に少女をひとり置いていくなどという非人道的行為は、なゆたにはできない。
強力なパートナーモンスターがいるなら話は別だが、レトロスケルトンではサンドワームに一撃で粉砕されるのは目に見えている。
真一を振り仰いで告げると、ついでに少女のことを抱きかかえていくように、とも言う。

「よしっ! じゃあ、行きましょう!」
『ぽよっ!』

真一とみのり、そしてサラリーマンに言うと、なゆたは機関車に乗り込んだ。
ポヨリンもぽよん、と一度跳ね、意気揚々と客車に入る。
そして。

「んっ?」

テレビで観た王宮の応接間もかくや、というような豪奢な客室に入ると、等間隔に並んだ席に座っている小柄な人影が目に入った。

63崇月院なゆた ◇uymDMygpKE:2019/01/22(火) 11:03:08
座っていたのは、ゆったりしたローブに身を包んだいかにもな魔法少女風の出で立ちの女の子だった。
その姿には見覚えがある。主にアルフヘイムとニヴルヘイムの狭間『忘却の森』エリアに出没するモンスター。
『魔女術の少女(ガール・ウィッチクラフティ)』だ。
知能が高く、その名の通り豊富な魔法を使いこなす。見た目の可愛さから、パートナーにしているプレイヤーも多い。
この少女もメロと同じ、王の使いということなのだろうか。

「えーと……、こんばんは?」

なゆたは率先して声をかけた。往々にして、こういう場合はエリア内のキャラクターに声をかけるとイベントが進むものだ。

「この魔法機関車が、メロの言ってた王さまのお迎え……ってことでいいのかしら?
 わたしたち、アルフヘイムは初めてだから。右も左もわからなくて……。
 あ、わたしの名前は崇月院なゆた。なゆって呼んでね。
 こっちの無愛想なのが赤城真一。こちらの女の人が五穀みのりさん。あとは、えーっと……」

サラリーマンとプラットホームに倒れていた少女のことは、よくわからないのでお茶を濁す。

「とにかく、メロの言ったとおり王さまに会えってことなら、こっちもそのつもりよ。
 わたしたちは元の世界へ帰りたいの。あなたたちの王さまなら、きっとその方法も知ってるはず……よね?
 いや、絶対知ってるはず。直接的な方法は知らなくとも、そのヒントくらいは知ってるはずよ、絶対!
 でないとユーザーフレンドリーじゃないクソゲーってフォーラムでまたアンチに叩かれちゃう!
 ってことで――」

自分の意見を一気にまくし立てる。
そして機関車の二人掛けになっている席の窓際に腰を下ろすと、気絶している方の少女を自身の隣に横たわらせ、膝枕する。

「真ちゃんはそっち。また何かあったとき、すっ飛んでいかれると困るから」

真一に対し、自分と向かい合う形の席を指差して、座れ、と言う。

「まずは、道すがら事情を説明してもらえるかしら?それから――あなたのことをなんて呼べばいいのかも、ね」

魔女術の少女の名前を訊ねると、なゆたはにっこり笑った。
まだ、魔法機関車は出発しそうにない。その間、ここにいる人間たちの情報交換や自己紹介もできるだろう。


【メルトちゃんを保護。魔法機関車に乗り込みウィズリィちゃんと接触、情報収集開始。
 なんか一気にやっちゃいましたが……。とにかくウィズリィちゃん、メルトちゃん、よろしくお願いします!】

64明神 ◇9EasXbvg42:2019/01/22(火) 11:03:43
対ベルゼブブ包囲網は着実に奴を追い込みつつあった。
いや実際ダメージレートすげえことになってんな。クリティカル連発でハエがスタンし続けてる。
ほとんど反撃出来てなくていっそ可哀想になってくるわ。

>「ほんにやりよるねえ。おおきにさん〜それでは行かせてもらいますえ〜」

相変わらずレッドラと一緒にハエと殴り合ってる男子高校生と、
最弱クソモンスのスライムでベルゼブブ相手に防戦一方を強いてる女子高生もやべーけど、石油王も伊達に廃課金してねーなアレ。

レイド級モンスターってのは残りHPの割合によって攻撃パターン(フェーズ)が変化するアルゴリズムになってる。
カカシ使いの石油王は、ベルゼブブが攻撃モーションに入った瞬間を狙って蓄積反射の特大ダメージをぶちかました。
HPをがっつり削られたベルゼブブは、次の攻撃パターンに以降する為に現在の攻撃モーションを解除させられるわけだ。
モーション強制解除で発生する硬直の間に更にHPを削られて、またパターン移行に伴うモーション解除。

「無限ループって怖くね?」

敵の行動パターンの熟知と、いっそ過剰なまでの火力の両方があって初めて成立するハメ殺しの一つ、『フェーズ飛ばし』だ。
普通は廃人PTが入念なタイムラインの打ち合わせのうえでやるレイド狩りの手法だが、この即席PTでお目にかかれるとは思わなんだ。
ダメージレートをある程度任意で調節できるバインド系のデッキでも、PTの火力を完全に信頼出来なきゃムリだろう。
あいつらフレンドかなんかなの?もしかしてこの場で野良なのって俺だけだったりするぅ?

「……そろそろか」

スマホをチラ見すれば、捕獲コマンドが使用可能を示す点灯状態にあった。
ベルゼブブのHPが1割切ってる。捕獲自体は実行可能だが、成功するかどうかはモンスターの状態次第だ。
当然、HPが1割丸々残ってるよりも0.1割まで削れた方が成功し易いし、状態異常もそこに加味される。
コマンドのリキャストタイムも考慮すれば、捕獲を行えるチャンスは一度か二度くらいってとこか。
そろそろ『濃霧』の効果も切れる。HPの減少は緩やかになるだろうし、しっかり機会を吟味しねーとな。

「あ、やべっ」

晴れつつある濃霧の向こうに再び姿を現したベルゼブブは、なんか毒々しい紫色のオーラを纏っていた。
バーサク入ってんじゃん。物理攻撃しかしなくなる代わりに各種ステータスにアホみたいな超補正がかかるバフだ。
上昇するステータスには、『捕獲難易度』も入ってる。つまりほぼほぼ捕まらねえってことだ。
そして何より問題なのは――

「当たらねえ!」

ヤマシタの射掛ける矢はおろか、男子高校生が至近距離で放ったスペルすら躱し切る圧倒的回避補正!
これはもう純粋にステータスの格差で、必中効果の付いた攻撃以外殆ど失敗するハイパークソチート技なのだ。
PT構成や残ってるスペルによってはこのまま詰みも有り得る。神ゲーかよ。
そんでもって間の悪いことに、俺の残存スペルで必中の魔法は……皆無!神ゲーだったわ。

宵闇に包まれた荒野に明星の如く輝く光球は、おそらくフィールド効果カードの影響だ。
ツルツルテルシだったか、炎属性の威力を底上げするカード、発動したのは多分石油王だろう。
男子高校生を支援して決着を付けさせるつもりらしい。すげー苦戦してんだけどアイツ大丈夫なの。

>『グァアアアアアアッ――――!!』

バーサク状態のベルゼブブに防戦を強いられていたレッドラが、一際大きく吠えた。
スケアクロウのヘイト上昇スキルを見よう見真似でパクったのか、ハエのタゲがレッドラに集中する。
いやここで更にヘイト重ねてどうするつもりだよ!どう考えてもプレイヤーごと捻り潰されるパターンだろ!
空中で闇と炎を纏った二つの影が激突する。オイオイオイ死んだわアイツ。
俺はおそらく繰り広げられるであろう一方的な虐殺を予感して目を伏せた。そんでもっかい見た。
ベルゼブブが勝利の雄叫びを上げなかったからだ。

65明神 ◇9EasXbvg42:2019/01/22(火) 11:04:18
「……アイツ、どこ行った?」

レッドラの背にしがみついてたはずの男子高校生がいない。空中でもみ合いになるうち振り落とされたか?
――いや違う!ツルツルテルシの逆光に紛れるように、ヤツは上空に高く飛び上がっていた!
その手に握る炎精王の剣で、自由落下の勢いそのままに、ベルゼブブの片翼を裁ち落とす!
パートナーの吶喊に呼応するように、レッドラもまた炎の爪でハエのもう片翼を引き裂いた。
完全に虚を突かれ深手を負ったベルゼブブが彗星のように落下していく!

「マジかよあいつ……マジかよ!」

レッドラの咆哮を布石にした、身体強化スペルを使っての単身ダイブ。
そしてフィールド魔法のオブジェクトさえも目眩ましに利用する圧倒的リアルファイトのセンス。
やっぱあいつだけ世界観違うって!そういうゲームじゃねーからこれ!

……っと、いかんいかん。つい実況に夢中になり過ぎた。
ベルゼブブは最早最終フェーズを通り越すレベルで削られてバーサクも解除されている。
地面に激突したダメージでそのまま討伐完了しちまいそうだ。
前にも後にも、チャンスは今しかねえ!

「『捕獲<キャプチャー>』!」

温存していたATBゲージを使い、俺は捕獲コマンドを実行した。
モンスターを隷属させる光、プレイヤー達の間で『洗脳ビーム』とか俗称されてる光条がベルゼブブに直撃する。
光が拘束具となってモンスターをガッチリ巻き取れれば捕獲成功――途中で弾ければ失敗という分かりやすいエフェクトだ。
ベルゼブブに巻き付いた光は、自由落下するハエの身体をぐるぐる巻きにしたが、地面に激突した衝撃でばらばらに弾け飛んだ。

「クソ、失敗か!」

流石にレイド級ともなると洗脳ビーム一発だけじゃ隷属させられないらしい。
ちょっと前にYouTubeに上がってた動画では、拘束スペルでガッチガチに固めたベルゼブブを5回ぐらいビームぶち当てて捕獲してた。
幸いにもベルゼブブはHPミリで生きてるようだし、もう一回ぐらい捕獲コマンドを実行できるはずだ。
ATBゲージの蓄積具合が遅くてイライラする。はやく溜まれはやく溜まれはやく溜まれ……!

>「ポヨリンAアーンドB! 『スパイラルずつき』!」

「あっ馬鹿!やめろ!やめてお願いマジで!」

しかし無慈悲にも、女子高生のスライムが二匹一緒に死に体のベルゼブブに殺到する。
闇の波動にも耐えきるアホみたいな硬さの物体が二つ、蝿の王の胴体に風穴を開け……討伐完了のリザルトがスマホに表示された。

「ほぎゃああああ!?」

絶望のあまり変な声が出ちゃった。
あ、あの女……!俺が捕獲ビーム撃ったの見た上でベルゼブブにトドメを刺しやがった!
つまりこいつは明確な捕獲妨害だ!!晒しスレ直行案件だぞ!!!

まあ確かに事前に何の取り決めもなく抜け駆けで捕獲しようとしたのは俺の方だ。
しかしそれはこの際棚に上げる!俺は誰よりも自分に甘い男!
あの女子高生野郎……絶対許さねえ……!
スライムなんか育ててる趣味勢のクセして狡猾な嫌がらせをしやがってぇ……!

「大人の陰湿さを思い知らせてやる……ヤマシタ!」

革鎧は暫く逡巡するかのように押し黙ったあと、無言で弓に矢を番えた。
あの女のスマホを射抜く。頼るべきものを失ったこの世界で干からびて行くがいい……!
だがヤマシタが矢の先を女子高生に向ける前に、ホームを揺るがすような音が轟いた。

66明神 ◇9EasXbvg42:2019/01/22(火) 11:04:34
「うおっなんだこりゃ……汽笛?」

ヤマシタが弓を放り出して剣を抜き、俺とホームとの間に割って入る。
俺はそれを右手で制した。この汽笛は知ってる。つーかこのゲームのプレイヤーならみんな聞き覚えがある。
エリア同士を繋ぐアルフヘイムの交通大動脈、魔法機関車だ。
多くの初心者プレイヤーを危険地帯へと送り出し、そのうちもっと便利な飛空船に取って代わられて埃を被る哀しい乗り物。
ベルゼブブとやり合った後にこんなこと言うのもなんだけど、ホントにここってブレモンの世界なんだな……。

「……ってことは、こっから脱出できるってことか!?」

魔法機関車があり、それを運行してるNPCの組織がある。
そいつはつまり、俺達の放り出されたこの荒野の外に、まともな宿と飯の食える街が存在するってことに他ならない。
俺達のような『漂流者』を回収する出迎え、とも言えるのかもしれない。
もうコカトリスの生焼け肉で食いつながなくてもいいのか!
にわかに立ち上がった希望の存在に、女子高生に対する怒りも忘れて俺は密かに小躍りした。

>「お兄さんも! ありがとうございます!」

と、なんか向こうで石油王とワイキャイしてた女子高生がこっちに向かって手を振った。
チッ……なにがありがとうだこの女……ぜってー晒してやっからな憶えとけよ。

「……ああ、皆無事で良かった」

本音をひた隠して建前で喋るのは社畜の得意技だ。
『瀧川君トイレの時間長くない?』と課長に言われた時も俺はこのスキルでどうにか誤魔化すことに成功した。
まあ翌日も長時間トイレでサボって、そのままこの世界に来たわけだけれども。
再び今度は男子高校生とワイキャイやり出した女子高生を尻目に、俺はとっとと魔法機関車に乗り込むことにした。

「うおお……客室ってこんなんなってたのか」

多くのプレイヤーは魔法機関車に移動コマンドとして以上の価値を見出していない。
俺もその類で、こうしてじっくり内装を見るのは初めてだった。
なんつーか無駄に豪華だな。やっぱプレイヤーって設定的にはすげえ高待遇だったりすんのかね。

「ん、先客か」

客室の奥に一つ、人影があった。
古典的な魔女が来てそうな黒のローブに、対照的な色白の肌、黒髪にオッドアイの少女。
なんか見たことあるなと思ったらこいつ、ブレモンのモンスターじゃねーか。
『魔女術の少女』。けっこーレアでその見た目からコアな人気を誇る、言わば売れ線のモンスターでもある。
思わずヤマシタを呼びそうになったが、少女に敵意はないらしかった。NPCとして配置されてる感じか?

>「えーと……、こんばんは?」

いつの間にか客室に入ってきていた女子高生が魔女術の少女に声を掛ける。
後ろには男子高校生と石油王と……なんかもう一人いるんだけど!
泡吹いて気絶してる女子中学生と思しき少女を、男子高校生が抱きかかえていた。
どこで拾ってきたんだよこんなの……もといた場所に返さなくて大丈夫?なんか変なフラグ立たない?

>「この魔法機関車が、メロの言ってた王さまのお迎え……ってことでいいのかしら?
 わたしたち、アルフヘイムは初めてだから。右も左もわからなくて……。
 あ、わたしの名前は崇月院なゆた。なゆって呼んでね。
 こっちの無愛想なのが赤城真一。こちらの女の人が五穀みのりさん。あとは、えーっと……」

流れるように『崇月院なゆた』とかな乗った女子高生が自分と仲間の紹介をしていく。
なにこいつ。この意味不明な状況で一向に物怖じする様子もねえしどういうメンタルしてんの?
なゆたちゃんコミュ強すぎていっそこえーよ……。

67明神 ◇9EasXbvg42:2019/01/22(火) 11:04:51
「俺は……『明神』とでも呼んでくれ。本名プレイは好きじゃないんだ」

俺はゲームと現実は切り離したい派なので、オフ会とかでもキャラ名で呼び合うタイプだ。
まあフレンドいないしオフ会とかやったことねーから知らねーけど。

>「とにかく、メロの言ったとおり王さまに会えってことなら、こっちもそのつもりよ。
 わたしたちは元の世界へ帰りたいの。あなたたちの王さまなら、きっとその方法も知ってるはず……よね?
 いや、絶対知ってるはず。直接的な方法は知らなくとも、そのヒントくらいは知ってるはずよ、絶対!
 でないとユーザーフレンドリーじゃないクソゲーってフォーラムでまたアンチに叩かれちゃう!
 ってことで――」

……なゆたちゃんグイグイ突っ込むなあ!
ここでそういうこと言うぅ?ほら魔女術の少女めっちゃ真顔じゃんぜってーアンチとかフォーラムとか分かってねーよ!
ちなみにフォーラムでそのスレ立てたの俺だわ!ごめんね!でもクソゲーだと思うよ実際!

暫定NPCを差し置いてなゆたちゃんは場を仕切る!仕切りまくる!男子高校生改め真一君もずこずこ従っている。
わはは真ちゃんオモクソ尻に敷かれてやんの。おめーハエと殴り合ってた威勢はどこ行ったのよ。
あとさっきからすげえ俺の腹がピーゴロ鳴ってるんだけどやっぱコカトリスの肉ってやべーやつなのかな。

>「まずは、道すがら事情を説明してもらえるかしら?それから――あなたのことをなんて呼べばいいのかも、ね」

「異論なしだ。俺が知りたいのはこの魔法機関車がどこに向かってるのかと、
 そこでまともなメシと寝床が提供して貰えるか。それから――」

そろそろ限界だったので俺は脂汗まみれの額を拭って聞いた。

「この列車、トイレある?」


【ベルゼブブの捕獲に失敗し、なゆたちゃんを逆恨み。コカトリスの肉に当たってピンチ】

68五穀 みのり ◇2zOJYh/vk6:2019/01/22(火) 11:05:25
断末魔を上げるベルゼブブに照射される赤い光。
その光の発生源は明神
それを視てみのりは思わず手を打った。

どれだけぶりだろうか?
モンスターの捕獲というものを意識したのは
モンスターの捕獲、育成、それぞれのモンスターに合った戦略とそれに伴うデッキ構築。
みのりの短いプレイ時間ではとてもできるものではなく、だからこそそれをお金で補った

捕獲する手間がなく、褒賞モンスター故に育成する必要もなし。
高HP高再生、低機動、低防御力に挑発能力
バインドデッキ専用に設定されたかのようなスケアクロウを入手する為に課金は惜しまなかった
それ以降、新たに捕獲する必要もなく、短いプレイ時間の狭間でタンクとして活躍する
そんなブレモンライフだったので、捕獲に拘りがなく、明神が抜け駆け的に行動に出てもむしろ新鮮さを覚えるのであった。

捕獲が失敗に終わった瞬間は思わず自分のように身悶えしてしまったのだが、すぐに失敗して残念、だけの話ではない事に気が付いた。
高火力のレッドドラゴン
高レベルのスライム
そしてスケアクロウ
この中にあってリビングレザーアーマーはあまりに貧弱であり、これからこのような戦いが続くと考えるのならば戦力増強は急務であろう。

といったみのりの思惑とは裏腹に、なゆたの怒涛のトドメでベルゼブブは消滅。
魔法機関車の到着と共に戦闘は終了となったのであった。

69五穀 みのり ◇2zOJYh/vk6:2019/01/22(火) 11:05:57
「はぁい〜。ゆくあてもあらへんし、ご一緒させてもらいますわ〜
そちらのお兄さんも、五穀みのりと言います〜よしなにねぇ〜」
魔法列車を前になゆたに状況と魔法列車の話を聞き、同行を承諾。
戦闘のどさくさにお互いの顔もよく見合わせられなかったので、ようやくここで顔合わせして挨拶ができたのだった。


挨拶を交わしているところでなゆたの拳骨が真一の脳天に落ちる
と共に真一の背中に張り付いていた藁人形が破裂した
未だにダメージを肩代わりする効果が続いており、真一の頭には拳固の痛みは伝わらなかったのだが、きっと心には伝わったであろう。
涙目になってお説教するなゆたの後姿を見ながら、クスリと笑みを浮かべてみのりが動く

「うふふ、真ちゃんゆぅんやねえ。
こんな可愛い彼女を泣かしたらあかへんよ〜」

なゆたのお説教が終わった頃合いを見計らいそういいながら真一の頭、拳骨が落ちたあたりを撫でながら、声をかける
藁人形から届いていた声と同じことから、五穀みのりであることが判るだろう。
そしてそっと耳元に口を近づけ

「見させてもらったけど〜真ちゃんとなゆちゃんて結構好対照なパートナーやデッキ構成みたいやん?
一緒に肩を並べて戦う事は出来ても、うちがしよったみたいにフォローや守ってあげる事は難しいやろうからぁ辛いと思うんよ
うちが出来るからと言ってあまり助け過ぎても、なゆちゃん彼女としての立場もあらへんやろうしねぇ
そういうところ、ちゃ〜んと汲んであげるんが、色男ゆうものやよ〜」

腕組みをしてそっぽを向いているなゆたを目線で指示しながら、吐息と共に囁く。
みのりの中で真一への評価は、当初は無鉄砲で理論的な行動ができない、というものであった。
だが、ベルゼブブへの飛び移りなど、もうここまでされると一周回って清々しく感じてしまうほどになっている。
本来ならばなゆたと異口同音の注意を与える所だが、思わずつついてしまいたくなる程度には。


>「さ! お迎えも来たし、このフィールドには用はないわ。早く魔法機関車に乗ろう!」

なゆたが振り向いた時には、すっと位置を外し、ゆったりとした足取りで魔法機関車へと乗り込むのであった。

70五穀 みのり ◇2zOJYh/vk6:2019/01/22(火) 11:06:22
機関車の中は豪華な造りとなっており、先ほどまでの砂漠然とした暑さとは比べ物にならないほど快適であった。
客車の中には魔女術の少女族がおり、さっそくなゆたが話しかけている。
大勢で話しかけてもまとまらないだろうし、どれも明確な答えが返ってくるとは思っていないからだ。

そも、ブレモンの世界にプレイヤーを引き込んだのが誰なのか?
おそらく王を始め、この魔女術の少女族を含んで誰も知らないだろう

各プレイヤーがこの世界に来た時に、呼び出した者がいるはずだ
遠隔で呼び出したとしても、呼び出した対象を速やかに回収するために待ち構えているはず
こんな風に【迎えが来る】というのは、
『いつくらい』に『あそこらへん』に来ると『思われる』
という、伝承程度の情報を頼りに迎えに来ているのだろうから。
迎えが『この場所』だけとも限らないし、各地にプレイヤーが呼びこまれている可能性もある
そういった事から予想するに、お願い事はされても『元の世界に戻す方法』を知っているとは思えないのだから

とはいえ、身も知らぬ場所に放り出されるよりは、身を落ち着けられるのは有り難い話だ。

であるから、みのりから付け加えてウィズリィに質問する事はなく、軽い自己紹介だけに……いや、一つ注文を加える

「そうそう、とりあえずお水か何かあらしませんかしらねえ?
皆さんこちらにきてから何も飲んだり食べたりしてへんやろし、外は暑かったからねえ」

そういいながら、イシュタルに巻き付いている蔦についている赤い果実を一つむしりとる
大きさはスモモ程度で、力を軽く込めた程度で二つに割れた

「ま〜飲み物来るまで、こちら子にはこれでも上げましょか〜」

ぎゅっと握ると果汁が滴り、メルトの唇を濡らす
イシュタルのグラフィックにフレーバー程度に書き込まれていた蔦と果実だが、このおかげでみのりはこちらの世界にきてからも飢えと乾きに苦しめられることはなかったのだ。

「なゆちゃんも〜良かったら食べたってえねぇ〜
大丈夫〜うちも何個か食べたけど、お腹痛くなってへんからね〜」

もう片割れをなゆたに渡し、ゆっくりと立ち上がりスマホを取り出した
取り出したのは「浄化(ピュリフィケーション)」
勿論使用する先は脂汗で一杯な明神である

「せめてお腹痛いのだけはこれで治るとよろしいな〜」

あの状態になっては出すもの出さなければ収まりがつかないだろうが、腹痛だけでも収まれば、と。
真一は「限界突破(オーバードライブ)」をかけて実際に身体能力が上がっていたのだし、スペルカードが人間には利用できるというのは大きな収穫であった。
それに、ベルゼブブの翅を切り落としたのも、だ。
攻撃をただのダメージではなく、攻撃部位によってダメージ以上に機能に損傷が与えられる
ゲームとは違う戦いの様に、戦い方もまた変えていく必要もあるだろうから。

「さて、色々お話を聞きながら、デッキ編成でもしよかしらねえ」

ゲームとしてのブレイブアンドモンスターであっても戦う敵や目的によってパートナーやデッキ編成は当然である
みのりはそういった時間がなくほぼ固定であはあるとはいえ、実際に戦うとなればまた話は変わってくるであろうから。

71ウィズリィ ◇gIC/Su.kzg:2019/01/22(火) 11:06:54
「……ふうん」

窓から嫌でも見える、地に落ちる巨大な蝿の姿を見ながら、わたしは感心していた。
あの蝿はベルゼブブ……ニヴルヘイムに住まう上級悪魔族の一種だ。
基本的にはニヴルヘイム内にとどまっている彼らだが、時折こちら(アルフヘイム)に現れる事がある。
ここ、『赭色の荒野』にベルゼブブが時折現れている、という噂は聞いていた。
まさか、倒されている姿を目の当たりにするとは思わなかったが……。

あの蝿も、伊達や酔狂で上級悪魔と呼称されているわけではない。
強大な力を持ち君臨するからこそ、そう呼ばれ恐れられるのだ。
それを倒してのける。どうやら、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』達の力は本物のようだ。
幾つものスペル、魔物の使役、なにより……。

「……あの光。一瞬しか見えなかったけど、間違いない」

『捕獲(キャプチャー)』の術。
その名の通り対象を捕獲し、自らの思うままに動く手駒とする。極めて危険な術だ。
理論上は、この世界(アルフヘイムに限らず、ニヴルヘイムも、わたしたちのような『境界』の住民も含む)に住まう
ありとあらゆる生物を隷属させることができると言われている。
その危険性から、基本的にはあらゆる魔術書から抹消され、その使い手はこの世界にはいない、とされている。
そもそも、現代ではごく一部の例外を除けば存在すら知られていない。禁術の中の禁術。
何故それをわたしが知っているのか、というのは、少々長い話になるのでまたいずれ語るとして。

「当たり前のように禁術を使う……『王』の言うとおりね。
 彼らは良くも悪くもこの世界の存在ではない、か」

その存在をうまく御する事が出来なければ、世界の危機以前にそもそも彼らにこの世界が滅ぼされかねない。
責任は重大だ。警笛を聞きながら、わたしは大きく息を吐いた。

72ウィズリィ ◇gIC/Su.kzg:2019/01/22(火) 11:07:11
魔法機関車は建物の中に滑り込み、その動きを止める。
からくり仕掛けで扉が開くと、ほどなくしてどやどやと乗り込んでくる者たちがいた。
まず一人。それから遅れてさらに数名。
彼らが……『異邦の魔物使い』。

外見的には、わたし達『魔女術の少女』や『王』達とさほど変わらない、いわゆる『人型』族の特徴を備えているようだ。
見た目的には男性が二人、女性二人……いや、もう一人背負われている少女がいた。合計五人だ。
いずれも見た事もないような意匠の衣服を纏っているが、装飾過多な印象はない。実用性に優れた服装であることが窺える。
魔力的な防御はされていないようだが、恒常的でない魔力付与に関しては分からなかった。
他、レトロスケルトンやスライムなどの魔物も何体かいた。彼らは『捕獲』で使役されているのだろう。

さて、何を話したものだろうか。
内容を吟味しているうちに、第二陣でやってきた面々の先頭に立つ少女が先に話しかけてきた。

>「えーと……、こんばんは?」
>「この魔法機関車が、メロの言ってた王さまのお迎え……ってことでいいのかしら?
 わたしたち、アルフヘイムは初めてだから。右も左もわからなくて……。
 あ、わたしの名前は崇月院なゆた。なゆって呼んでね。
 こっちの無愛想なのが赤城真一。こちらの女の人が五穀みのりさん。あとは、えーっと……」

「……」

言葉が『石礫連弾(ストーンバレット:ガトリング)』のように撃ちだされてくる。
まずい。正直苦手なタイプだ。普段なら黙って聞き手に回るのだが、この局面ではそうもいかない。

「……こんばんは。メロという子は知らないけれど……ええ、この乗り物が『王』の迎えよ」

王の遣い、と一口に言ってもその数は軽く4ケタは下らない。いくらわたしでもその全員を把握してはいないのだ。
……あるいは、『王』自身なら全員の名と顔を一致させているのかもしれないが。

「ナユに、シンイチ、それにミノリね。それから……」

意識がない様子の少女はひとまず置いておき、最初にこの車両に入ってきた青年を見る。

>「俺は……『明神』とでも呼んでくれ。本名プレイは好きじゃないんだ」

「……ミョウジン。分かったわ」

自ら本名でないと名乗るというのも怪しいが、現状ではそこまで突っ込むべきではないだろう。
あとから調べる方法はいくらでもあるのだから。彼はミョウジン。今はそれがわかればいい。

73ウィズリィ ◇gIC/Su.kzg:2019/01/22(火) 11:07:26
と、安心したのもつかの間。ナユはさらに言葉を連ねてくる。

>「とにかく、メロの言ったとおり王さまに会えってことなら、こっちもそのつもりよ。
 わたしたちは元の世界へ帰りたいの。あなたたちの王さまなら、きっとその方法も知ってるはず……よね?
 いや、絶対知ってるはず。直接的な方法は知らなくとも、そのヒントくらいは知ってるはずよ、絶対!
 でないとユーザーフレンドリーじゃないクソゲーってフォーラムでまたアンチに叩かれちゃう!

「……」

思わず瞬きを数度する。傍目にはきょとんとしている、という風に見えるかもしれない。
『王』から、『異邦の魔物使い』は奇妙な言葉を話すかもしれない、と聞いてはいたが。

「(これほどまでなんて……最後の一文なんて文法以外何もわからないのだけど)」

こほん、と咳払いを一つ。その間に、ナユはシンイチと気絶した少女の席割を決め、さらにこちらに話しかけてきた。

>「まずは、道すがら事情を説明してもらえるかしら?それから――あなたのことをなんて呼べばいいのかも、ね」

さらに、ミョウジンも続ける。

>「異論なしだ。俺が知りたいのはこの魔法機関車がどこに向かってるのかと、
 そこでまともなメシと寝床が提供して貰えるか。それから――」
>「この列車、トイレある?」

次いで、ミノリも。

>「そうそう、とりあえずお水か何かあらしませんかしらねえ?
 皆さんこちらにきてから何も飲んだり食べたりしてへんやろし、外は暑かったからねえ」

「……」

順を追って対処することにした。
まずはミョウジンの方を見る。彼の様子は急を要しそうだ。

「向かう先は王都よ。王都キングヒル……偉大なる『王』のおひざ元ね。
 食事と寝床は提供されるはずよ。贅を尽くした、とまではいかないけれど料理人は全力を尽くすはず。
 個人の嗜好に合うかまでは保証しないけど。あと、トイレはあっち」

機関車の最後尾の方を指す。
さすがに、乗り込むときにその辺りの事は聞いている……私は比較的我慢が出来る方なので、今のところ使ってはいないが。
ちなみに、出発前に軽く覗いた範囲では清潔でよい具合のトイレだった。
ミョウジンがそちらに向かうのを見届けてから、次はミノリの方を見る。

「水と軽食程度なら用意があるわ。必要があれば、あれに話しかければ『運転手』に伝わって、持ってきてくれるはず。
 王都までは少し長い道のりになるから、呑まず食わずでいるならせめて喉を湿らすぐらいはした方がいいでしょうね」

あれ、と言いながら指すのは伝声管だ。
あらかじめ敷設した範囲であれば魔法抜きで声を遠隔で届けられる、驚異の技術である。
まったく、この魔法機関車に詰め込まれた技術の粋には驚かされるばかりだ。
最後にナユを見て、言う。

「そうね。話せば長くなる……と言いたいところだけど、わたしもそのすべてを把握しているわけじゃない。
 わたしにわかる範囲の話でよければ、ミョウジンがトイレから戻ってきてから話すわ。
 詳しい話は、『王』から話していただけることになっているから、それを待って頂戴。
 ……あと、ユーザーフレンドリーとかクソゲーとかは……恥ずかしながら、よく分からない。ごめんなさい」

74ウィズリィ ◇gIC/Su.kzg:2019/01/22(火) 11:07:38
最後に、小さく咳払いをしてから

「自己紹介が遅れたわね。
 私はウィズリィ。忘却の森に住まう魔女術の少女の一人、『森の魔女』ウィズリィよ。
 ……まあ、ウィズリィと呼んでくれればいいわ」

精一杯の笑顔を作って、言う。

「よろしくね、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の皆さん」

【ウィズリィ:邂逅。そして自己紹介】
【魔法機関車:停車中】
【トイレ:清潔】

75佐藤メルト ◇tUpvQvGPo:2019/01/22(火) 11:08:16
唇をなぞる液体の感触
それは、乾いた砂漠で過ごした為に罅割れかけていたメルトの唇に潤いを与える
水分を求める身体は、無意識にもかかわらずその液体を求め……桃色の唇は小さく開き、流れ込んできたそれをゆっくりと嚥下する

「はい……これは……桃の天然の……」

そして、その行動に反応したメルトの意識が覚醒し、目を開く――すると、その眼前には【見慣れない見知った光景】が広がっていた
まるで王宮の様な豪奢な意匠が施された、けれど王宮とは思えない細長く狭い形状
窓から入り込む光を内部で屈折させ幾何学的で美しい模様を描く、神秘的な灯り
それを目にしたメルトは、寝ぼけ眼を擦りながら無意識に口を開く

「……知ってる天井です……運営は列車移動のスキップの実装を――――って、ここどこですか!?」

そして叫ぶ。己が目にしている光景が何百回と見た魔法機関車の室内グラフィックであり、尚且つ
それが画面越しではない肉眼で捕えた物である事を自覚した瞬間、メルトは勢いよく上体を起こそうとし

「ちょっ、うあっ、そして痛いですっ!?」

枕にしていたものが柔らかな人間の腿であった為に、耐性を崩し床へと転がり落ちる事となった
起きて早々に騒々しいメルトであったが、それでもなんとか起き上がり、ぶつけた額ごと片目を隠している前髪を抑えつつ、キョロキョロと周囲を見渡してみる
するとそこには……メルト自身を除いて5人もの人間が存在していた

学ランを羽織った、ウルフカットの高校生らしき少年
先までメルトに膝を貸してくれていたと思わしき、芯の強そうな瞳が印象的なサイドテールの少女
芯が傷んでそうな皺の多いスーツが印象的な、今まさにどこかへ向かわんとしている中……青年
落ち着いた雰囲気。そしてツナギとタンクトップと長靴という、都心では見かけない衣装に目が行ってしまう少女
オッドアイと長い髪が印象的な――――ゲームプレイ中に何度も目撃したモンスターに酷似した少女

見知ったバーチャル世界に酷似した見知らぬ世界で、見知らぬ人物達と遭遇したメルトは、一瞬で身体を石像の如く硬直させると
暫くしてからそのままジリジリと動き、一同と一つ分離れた座席へ移動し、身を隠してしまう
……仕方がない、といえばそうだろう
なにせ、このメルトという少女は小学校からの登校拒否児童なのである
対面での会話や画面越しのチャットであればまだしも、いきなり生身の人間の前に晒されて、まともな反応を期待する方が酷な話だ
だがそれでも、混乱にかまけて状況を無視する程に、メルトは純粋ではない
何とか情報を集めるべく聞き耳を立てて見れば

>「この列車、トイレある?」
>「さて、色々お話を聞きながら、デッキ編成でもしよかしらねえ」
>「そうね。話せば長くなる……と言いたいところだけど、わたしもそのすべてを把握しているわけじゃない。
 わたしにわかる範囲の話でよければ、ミョウジンがトイレから戻ってきてから話すわ。
 詳しい話は、『王』から話していただけることになっているから、それを待って頂戴。
 ……あと、ユーザーフレンドリーとかクソゲーとかは……恥ずかしながら、よく分からない。ごめんなさい」
>「自己紹介が遅れたわね。
> 私はウィズリィ。忘却の森に住まう魔女術の少女の一人、『森の魔女』ウィズリィよ。
> ……まあ、ウィズリィと呼んでくれればいいわ」

トイレはどうでもいいとして。大事な事なので二回言うが、トイレはどうでもいいとして
聞こえて来たのは、まるでゲームで遊んでいるプレイヤーとイベントを進行するNPCの様な会話
……それだけを聞いて、そして見れば、コスプレ会場か運営の企画したリアイベかとでも思いかねない状況ではあるのだが、砂漠をベルゼブブに追われ続けたメルト自身のリアル過ぎる体験がその可能性を否定する
そうなると、現実にしては悪夢の様ではあるが、今メルトの置かれている状況は……

(考えたくありませんが、あんな蠅の化物が地球に居る訳がありません。そうすると、多分というか、やはりここは……地球ではないんでしょうか)


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