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第一外典:魔法少女管理都市『瀬平戸』

1名無しさん:2018/04/25(水) 15:48:01
                                    魔法少女で在り過ぎる      ラッキークローバー         
          ルシフェル               ゲームマスター                   
                       少女境界   
                  剣鬼                          永劫回帰
               骸姫

                              魔法少女管理都市『瀬平戸』

                                                   正直な心
             大いなる終幕
                          斬殺少女
                                  輝ける黒百合

2名無しさん:2018/05/02(水) 03:25:54


                                  黒百合学院生徒会
                黒百合学院生徒会は生徒会に認められた優秀なる魔法少女による完全なる統治を目指す組織です。
                         全ての魔法少女は黒百合学院生徒会の決定に従いましょう。
                         全ての魔法少女は黒百合学院生徒会に所属しましょう。
                         全ての魔法少女は黒百合学院生徒会に認められなければいけません。
                         全ての魔法少女は黒百合学院生徒会に管理されなければいけません。
                    黒百合学院生徒会に非協力的な魔法少女は、生徒会により、適切な手段の下に処理されます。

                                Black lily School student council
 Black lily School Student Council is an organization that aims to governance of the magical girl by excellence Naru magical girl that was found in the student council.
                All magical girl must follow the decision of the black lily Academy student council.
                All magical girl must belong to the black lily School student council.
                All magical girl must be approved by the black lily School student council.
                All magical girl must be managed in black lily School student council.
     Uncooperative magical girl in black lily School student council, by the student council, will be processed under the appropriate means.




                               第一期黒百合学院生徒会メンバー

                                  生徒会長:藤宮 明花
                                     状態:特例

                           副会長:ヘレネ=ザルヴァートル=ノイスシュタイン
                                     状態:正常

                                 書記長:如月 千寄子
                                     状態:停止

                                   顧問:高辻 狐花
                                     状態:停止

3名無しさん:2018/05/15(火) 02:37:19
丁寧に。

四葉を探すよりも丁寧に。剣戟の応酬よりも丁寧に。大事なアニメグッズを扱うよりも丁寧に。病気の身体を起こすよりも丁寧に。
丁寧に、丁寧に、書かれた脚本をなぞらなければならない。そのステージに立つ者達は、皆が描かれた脚本の通りに演じる役者達だ。

観客は唯一人。藤宮明花唯一人。

この“ゲーム”は、彼女の思うように描かれなければならない。彼女の思う結末へと辿り着かなければならない。
彼女は何もかもを知っている。彼女は何もかもを知らない。故にこそ、彼女の思うように、彼女の思うままに、その結末へと導かなければならない。
大団円はいらない。負の終幕もいらない。只々、望むままに描かれればいい――――不確定要素は、必要ない。

これは、数多無数の為に描かれる演劇ではない。ただ一人、たった一人の“友達”のためだけに描かれるグラン・ギニョル。
貴女だけに捧げよう。貴女の為だけに捧げよう。数多の少女を貴女に捧げよう。私の命を、貴女に捧げよう。

――――貴女は、私のはじめての友達だから。

次の段階へと進めよう。丁寧に、丁寧に――――インプロヴィゼーションを、削ぎ落とさなければ。

4名無しさん:2018/05/15(火) 02:37:50


コノハナ少佐の身体が、崩れ落ちようとして。その身体を、レギナ・ルシフェルが支えた。
ヴォーパルアリスによって刻まれた傷と疲労は、如何に姫獣の身体と言えどカバーしきれるほどではなかった。
剣術の腕では、比べるべくもない。だがそれでも、その条件下で、そして大きく強化された……“ルシフェル”の能力であれば。
完全に理解し合っている間柄なのであれば。その結果は、お互いにとっては、決着を終えた今では、ある意味で必然だったのだろう。

「長かった。辛い役目を、与えてしまいました」

白い羽が、コノハナ少佐の……否、少女、此花立夏の身体を包み込んだ。
その瞳は流血によって虚ろでは在ったが、それでも、彼女の……来栖宮紗夜子の姿だけは、はっきりと認識して離すことはなかった。
そうして、彼女を抱きしめる紗夜子は。また逢えた歓びと、そして彼女に与えた役割をただ後悔して歯噛みし。そして、涙を流す。

「……泣かないで。紗夜子は、まだ、歩き続けなければいけないんでしょう?」

それを立夏の指先が掬い上げて、小さく微笑んだ。それだって。その言葉だって、残酷なものだと立夏は思っていた。
その選択は彼女が全てを背負うという意味で、その選択は酷く痛く苦しいものだと分かっている。こうして口にだすことさえ。
その“役割”よりも、遥かに重いものであるとすら思っていたが――――それでも尚、言葉を紡ぎ続けなければならない。


「私は。一度だって、私の結末に後悔したことはないし。
 “2+2=5”……そうやって自分に言い聞かせることは、とても大変だったけど。私のこの役目に、今だって後悔していないから」


自身を包む翼のように、此花立夏は来栖宮紗夜子の身体を抱き締める――――紗夜子は、そこで思わず崩れ落ちそうになるのを必死に押し留めた。
ここで崩折れてはいけない。ここで立ち止まってはいけない。ここで終わってはいけない。それだけは理解している。だから、その理性だけが自身を押し留めた。
嗚呼、でも、これで辛い戦いは終わりだ。ここからは、きっと……“夢のような戦いが、幕を開けるのだろう”。


――――レギナ・ルシフェルの身体を、コノハナ少佐が突き飛ばした。


――――コノハナ少佐の身体に、何かが“撃ち込まれた”。


「立夏!」

「来るな!!!」

非常に高度なレベルで安定していたコノハナ少佐の“魔力”が、凄まじい勢いで乱れていくのをレギナは感じ取った。
駆け寄ろうとするレギナを、コノハナ少佐が静止する……そして、それが撃ち込まれた胸元を押さえながら、それを“撃ち出した何者か”を見た。
コノハナ少佐にとっても、レギナ・ルシフェルにとっても見覚えのある相手だった。因縁のある相手だった。故に――――“またか、やはりか”と。
盤上の駒を嬲り、俯瞰するもの。瀬平戸における全ての魔法少女の元凶であり、忌むべき黒幕――――。

5名無しさん:2018/05/15(火) 02:38:22
「……やはり貴様か、ゲームマスター……!!!」

無色透明の魔法少女、全てを始め、全てを終わらせる魔法少女。
彼女はただ静かに、そこに立っていた。彼女と初めてあったときと変わらない姿で、ほんの少しだけ……色づいた笑いを、浮かべている。


「それは、いけないわ」


「正しくなくてもいい。正しく終わらなくてもいい――――私は、明花を楽しませたい」


コノハナ少佐に撃ち込まれた“もの”が、光り輝いていく――――それは、“指輪”だった。
ゲームマスターが有する、オリジナルの指輪。嘗て魔法少女たちへと配布され、絶大な力と引き換えにあらゆるものを奪い去った悪魔の如き魔道具。
それは、“姫獣”と化したコノハナ少佐の身体をすら強化せんとしていた。同じ魔力を使えど、構造が大いに異なる姫獣という存在を、無理矢理に。


「立夏、そんな――――そんなの、余りにも」


コノハナ少佐の身体から、暴走した無数の刃が体の内側を突き破っては圧し折れて消えていく。
やがてその膨大な魔力は収束し――――背に、黒と白の“翼”を出現させた。
左の半身は、正しく異形の“黄金の外骨格”によって蝕まれ、その瞳は黄金に染まり、頭髪には白銀と黄金が入り交じる。


「――――さぁ、さぁ。全ては“貴女”の、思うまま」


最早、コノハナ少佐の意思をすら奪い取って――――姫獣は、“獣”へと変貌を遂げようとしている。
それでも彼女は、最後に残された意思の欠片を握り締めた。鏖殺を心の奥底から求めるその身体を、必死に抑えながら。その背に在る、彼女へ。


「……行け。お前には、まだ、やることがあるのだろう」




精一杯に笑って、その姿を見送った。

6名無しさん:2018/05/15(火) 02:39:21
第五話 HONEST JOKER 四節 終

7名無しさん:2018/06/05(火) 16:37:29

「……きて、起きてください、藤宮さん」

誰かに揺さぶられて、藤宮明花はようやく目を覚ました。いつの間にか眠っていたらしい……ベッドの上ではなく、ここは生徒会室だった。
顔を上げると、およそ成人女性……どころか、高校生にすら見えないほどに背の低い、まるで童女のような教師がこちらを覗き込んでいた。
どうやら眠ってしまっていたらしい。流石に無理をし過ぎたと、藤宮明花は反省する――――何より、他の生徒に見られたら示しがつかない。あの時の二の舞は、ごめんだ。

「明花様。対一位戦の準備はすでに完了しています……後はいつでも、お好きなように」

生徒会顧問、高辻狐花が自らに傅きながらそう言った。
その手に持ったタブレットの中身を見せる。数多の魔法少女を束ね上げ、統率し編成した部隊……その第一軍から第五軍までの現在位置と詳細が書き込まれていた。
そうだ、これから向かうは初めての本格的な対骸姫戦。失敗は許されない、否、失敗など――――ある筈がないのだ。

「ご、ごめんなさい、ごめんなさい、ヘレネさん……!!」

「ヘレネさん、立夏をあまり虐めないでもらえませんか?」

「うるせぇな、こんな時にまでヘタレた面見せられる方にもなれよ、ああ?」

部屋の一画で、何時も通りのやり取りをしている三人に視線を送れば、その空気はより張り詰めた、緊張したものへと一変する。
その扉の横には、二人、生き写しのように似た少女が凭れ掛かり、その傍らには、薄い表情の少女が腕を組んで立っている。

「漸く、漸くだ――――総ての魔法少女の未来のために、この私の愛を以て、彼奴らを打倒するこの日を、どれほど待ち望んでいたことか」

「アンタ……今回は集団戦なんだから、ちょっとは考えてやりなさいよ」

藤宮明花は扉の前に立つと、生徒会室を見渡した――――生徒会役員の一同は、それを以て一様にそちら側へと視線を集めた。
これより始まるは、魔法少女、否、人類の未来を賭けて行われる怪物との戦い――――人智を超えた魔法少女を、尚超える怪物同士の戦い。
それでも尚、誰もが勝利を確信していた。この、藤宮明花という少女の才能と……魔法少女たちの力を、信じ切っていた。


「それでは、征きましょう。優雅に、気高く、美しく――――“獣”共に、我らの誇りを示すのです」


ガチャリと、扉が開き――――世界が暗転する。

8名無しさん:2018/06/05(火) 16:37:51




扉を開いた先にあったのは、暗く濁りきった世界だった。
振り返れば、先にあった生徒会室も、生徒会のメンバーも、扉さえも消えていて、藤宮明花ただ一人が暗黒の中にただ立ち竦んでいた。
そして――――その背後に、何者かの気配を感じて、振り返った。

「殺戮に人間性なんてありません。藤宮さん、貴女はただの虐殺者です」

銃剣を、その胸元に突き刺された銅島環が、そこに立っていた。

「そうやって殺し続けて、最後には自分も殺すつもりかよ」

半身を引き裂かれた、新野角武がそこに立っていた。

「貴女は、本当にそれで良いんですか。私の見てきた、貴女は――――」

砕かれた人形、メリー・メルエットは、涙を流しながら何かを嘆願するようだった。

「――――それで良いのです。それこそが、私の役目ですから」

■■■■は、叫ぶようにそう言って、心を閉ざした。

9名無しさん:2018/06/05(火) 16:38:09




何時終わる。彼女が言うには、残された魔法少女はあと四人。
死骸の道を歩み続ける。歩を進める度に、ブーツの裏側が汚れていき、纏わりつく命が足取りを重たくしていく。
だが止めることは出来ない。今更止められるものか。今更止めてしまえるものか。駄目だ、駄目だ、駄目だ――――それだけは駄目だ。


朝顔 小雨。蔵間 貢。早苗取月 皐。千羽 鶴次郎。高辻 狐花。ダリア。血染違 虚。凍真=エヴスヴォルカ=躯。
兵馬 一姫。北条 豊穣。美月 アリア。メリー・メルエット。水無月 水月。レイラ・ウィンブラスト。
エリス・ヴァーミリオン。ヴァルプ・ヴェリエル。桐島 栞。キリミアラ・ヘパベルズィールテ・ベル・メル・クラリアンカ。
黒崎 マヤ。黒野 愛里。鈴木 怜子。高宮 紗奈。多田 晴。天堂 香美那。ナナシ。兵馬 二那。フォルリィア。ホロロ=ハルム=パルーミラ。望月 冬哉。
ラウラ=フォン=ベルク。神流 水月。エリーゼ・N・デッドエンド。朝霧 叶方。九条 恵子。百井 千世。黒崎千尋。風祭 雷宴。二宮能々。宮古 メグ。
エヴァージェリン=ナイトロード。ストレルカ。九意 契。桐咲 澪里。梅原 忍。甘井 苺。カウ・ベル。恩風 コル。強正 美義。九重 夢乃。
紅 麗玲。九条院 永麗奈。草照 八百維。如月凛音。椎名 為浄。沈丁 悠。江口 茜。篠崎胡桃。アンネリース=クレヴィング。橘 葵。
焚衿柳 狼牙。いすず・"ウィリス"・オーバランド。糸神 千早。火暴 炎。村正 喜梨。上田美奈。パメラ・レジエル。柊 雫。四之宮亜久里。
創堕 終離。如月凛音。惣江 美余。血雨 璃理亞。一ノ宮 肇。彩華木 結愛。樹心院 珠輝。汐月 メアリ 知理。フェデーレ。リースコル=ゼア=エーテルシア。
篠原 皐月。神宮 美弥。詩音加美楽。山本 有香。愛染 濁。風神 翡翠。月摘 陽子。狂犬病 鬱月。ストレーガ・ヴァルプルギィ。如月 千寄子。
アイリス・アイゼンバーン。金岡 こぶし。メリー・メルエット。美月 アリア。ステラ・ナナセ。姫扇園華。パメラ・レジエル。恩納 風利。
ドラセナ・ダークファントム。レティーシャ・シェフィールド。東雲天子。風鈴賛花。柊崎 陽菜子。斜乃 月緋。小鳥遊胡桃。望月 星奈。神帰月 真奈。
鈴木 小悪魔。メイベル・アルヴェーン。ローラ・フォン・カルンシュタイン。津山 涼。未草 蓮華。高坂 椿姫。上田美奈。月光 花音。藤堂 沙月。
執行 留姫。久城地花。霧ヶ峰 蒼。甘寺 陽乃。梔子里穂。百済 神酒。岸辺 沙耶。夜霧 美樹。アールグレイ。東風谷 千秋。場徳 逸花。初園 由香。本庄恵美。
七瀬 可憐。兜川 龍子。甘粕 若菜。福家 愛。霧ヶ峰 響子。哀川 祀利。朝倉 未来。東江 藍那。斎藤 奈緒。緋新 薊。余田 瑞穂。一ツ谷 奈々緒。
朝宮 桜。早川 推。倉嶋 彩。竜胆 夜美。馬 春花。宝仙 揚羽。星海 愛里紗。北条 さち。久留爽 愛。高原志綱。咲本 梨花。
東城 実悟。柊木 真優。双海 司。生神 かなえ。犬束 結。烏丸 うるし。五条河原 架凛。執行 悲歌。城井 莉子。筑標 澪桜。勅使河原 玲子。鳥谷 鏡子。藤 あいら。藤井 眞銀。
由懸 真耶。雪乃 白。舞城 英子。御子神 心。天塚 煌。天之川 星乃。天羽 柊。岩畔 朝雨。河嶋 由那。刈谷 真朱。杭田 柚月。白鳥 風音。瀧澤 アレクサンドラ。
丹波 正十郎。辨野 唯。水無月 燕。骸川 幽。森次 マリオン。四ツ木 ユーリ。深草 愛美。小倉 瑞姫。亜麻霧 らむね。神楽坂 レイラ。刀坂 結希奈。琴無 あやめ。
辻桐 彩葉。銅島 環。八須賀 式。御空白奈。村雨 永。六道 真里奈。雪月 真鉄。伏華 詠狐。真翁 尊。泉ヶ淵 真。蒼華崎ありす。山階宮 咲。東谷 光紗。遼 朱翼。イリーニャ・ロマノフ。
六徳 片理。森谷 綽恵。比崎 柳子。厳夏 蒼。金谷 蒔絵。泉ヶ淵 真。芹香・アバクロンビー。秋桜 千晴。六連 のあ。天王寺 紅葉。陽羽 晃。成瀬 叶子。縹 真理。
朝風 梢。古賀 皇花。歌林 夏希。姫宮 レナ。宮永 佳未那。剣城 蘭。此花 白露。


大丈夫。全部覚えてる。殺した数、殺した名前、殺した姿。全部全部この脳髄の中に記憶している。
無駄にはしない。ここで止めれば水泡だ。歩き続けなければならない。歩き続けなければならない。後少しで、もう少しで、完走する。そうしたら――――ああ。

高貴なる者は責務を負う。ただそれだけの話。それに――――最早、疑問など。


「――――馬鹿な人」


違う、私は、私は――――

10名無しさん:2018/06/05(火) 16:38:57








目を覚ますと、そこは生徒会室だった。
じっとりとした不快感が藤宮明花を先ず出迎えた。どうやら眠っている間に嫌な汗を流していたようで、長い髪が自身の頬に張り付いているのが鬱陶しかった。
嫌な夢を見ていた、という感覚は残っているが、その詳細はすぐに消えて失せていた。立ち上がって、せめてその汗を拭き取ろうと考えて。

「……あら」

その手を、誰かが握っていることに気づいて、動くのを一度止めた。
視線を向ければ、その先には透明な少女が座っていた。自分の肩に頭を預けて、その右手を握り締めながら、すやすやと寝息を立てていた。
態々椅子を隣に持ってきて、そうしていたらしい……何時頃からそうしていたのだろうか。外は既に日が落ちていて、大きな月を見上げることが出来た。

「……随分と、広くなりましたね、ここも」

生徒会室は酷く静かだった。明花の溜息は静寂に吸い込まれ、後に残るのは傍らにいる少女の寝息だけ。
ただの感慨が、藤宮にそう言わせた。それは、きっと――――自身の精神面を、自己分析しようとして、取りやめる。そんなものに、意味はない。
心など関係ない。感情など関係ない。ただひたすらに、自分は、自分が成すべきことをする。ただそれだけで、それこそが自分に課せられた義務なのだと。
刻む、刻む、塗り潰す。二度とそんな感情が出ないように、今度こそ、今度こそ、と封じ込める。


「……もうすぐ、長い戦いが終わります。ねぇ、『    』」


傍らの少女の名を。透明の少女、純粋な少女、盤上の駒を動かすための駒。
哀れな少女の名を。最後に遺された、自身の隣りにいる彼女の名を。




「――――本当に、貴女は馬鹿な娘ですね」

11名無しさん:2018/06/05(火) 16:39:15






とれみぃの扉を開くと、這々の体で二人は店内に転がり込んだ。
店内は酷く薄暗く、只管に広々としていた。取り敢えずで点けた照明すらも、どうにもたった二人には明るすぎる気がして、余計に寂しくなった。

……当初の作戦は失敗した。

星のかけらを奪取する作戦は、結果として大失敗だった。
その一つすらも、奪い取ることは出来ず、結果として二人の魔法少女を犠牲にしてようやく帰ってくるのが精一杯だった。
いや、それすらも、『彼女』の手助けがなかったら出来なかっただろう。そして……余りにも想定外な、奇跡のような悪夢の力も含めて。
結果として、姫獣の一角を落としたが、ただそれだけだ。遺された二人で……何をすればいいというのか、全く分からなかった。それでも。


「……なんとか、帰ってこれたんやなぁ、ひよりちゃん」


端なくも大の字に床に寝転がりながら、ヨツバはそう言った。
そう語りかけられたひよりは……その手に、『紅い宝石』を握り、それに視線を落として見つめるがままだった。
レギナ・ノクティスに渡された宝石、これが輝くまでは覚えている。それ以降を、雛菊ひよりは全くと言っていいほどに思い出せなかった。
気が付けば、“姫獣”が血の海に沈んでいた。知らぬ間に、自分はそれを滅茶苦茶に破壊しようとしていたようで――――だが、その間。

悪い感覚はしなかった。寧ろ、心地よいとすら言えるほどだった。
何か温かいものに包まれているかのような、快適な睡眠のような、誰か心を許せる人に抱きしめられているような。
そんな最中にいるようだった。不安感は欠片もなくて、寧ろ心が穏やかに溶けていくようであった。


「……一つだけ、言えることがあります」


だが、これさえあれば。姫獣には勝てる。
普通の魔法少女として歯が立たなくても、この力さえあれば姫獣と同等の立ち位置に立てる。それならば、使わない手はないのだと。
何を考えているかは、ヨツバにはすぐに分かった。だから重い体を起こして、彼女の下へと向かい、その両肩に手を置いた。

「あかん、その力は使ったらあかん。それはきっと、良くないもんや」

それを傍らで見ていたからこそ分かる。その力はただの力ではない、と。
下手をすれば、指輪以上になにか恐ろしいことが起こるかもしれない。そして、だとしても目の前の彼女はそれを躊躇なく使うだろう。
だからそれだけは止めなければならない。力づくで、奪ってでも、だ。

「――――これを使えば、まだ活路があるんです!」

「あかん! それでひよりちゃんの身に何かあったらどないすんのや! 絶対、絶対あかん!!」

「それでも私はやらなければならないんです! 私は、私は――――」

ガチャリ、ととれみぃの扉が開いた。
言葉の応酬は、それを以て停止する。その視線は……そこに辿り着いた、一人の『天使』に注がれる。


「――――皆様、改めて」


純白の翼を血に染めて。血塗れの身体を、引き摺って。嘗て吸血鬼だった少女は、嘗て仲間だった少女達の前に立った。
今更、どんな顔をして立てば良いのか分からなかったし、役目を果たすために現れたその時ですらも、どんな顔をすれば良いのか分からなかった。
ただ、それでも……それでも。彼女は元よりそうするつもりではあった。あったが、その心にあった、僅かな心残りも、今は消えていた。



「――――レギナ・ルシフェル。今は、そう名乗らせて頂きたく」



――――彼女等は、最後に超えてはならない一線を越えた。
故に、故に、やはり……どんな手を使ってでも。どれだけその手を汚してでも、彼女達と共に……藤宮明花を、止めねばならない。

12名無しさん:2018/06/05(火) 16:39:37
第五話 HONEST JOKER 第五節 終

13名無しさん:2018/07/12(木) 15:45:15
「……レギナさん」

「あら、私を“ルスキニア”と呼ばないのですね」

――――レギナ・ルシフェル、来栖宮紗夜子は、雛菊ひよりにとって酷く覚えのある微笑と共に、彼女のことをそう皮肉った。
ひよりは、何も言わなかった。言う必要など無いだろうと。貴女の中に、きっと答えは出ているだろうとその視線を以て問うた。
そしてそれを、紗夜子は受け取ってただ微笑んだ。それで答えとしては十分だった。

「……と、とにかく治療せんと。紗夜……」

「――――その名で呼ぶなと、言ったはずですが」

口を出そうとしたヨツバへと向けて、濃密な殺気が送られた。
全員が満身創痍、誰もがここで戦闘行為をする気はないとは理解していたが、それでも放たれるそれは。
“瞬きをすればそのときには首が飛んでいるのではないか”と勘違いするほどだった。これが“勝利者”か、とひよりが息を呑む。

「……すんません」

しゅん、と縮こまるヨツバを尻目に、レギナは手近な椅子の上に腰を下ろした。
羽根を折り畳んだが、変身を解除するつもりはなかった。その姿は、一人を除いた誰にも見せるつもりはない。何より、まだ遂行しきっていないのだから。

「……先程はありがとうございました、レギナさん。でも、何故ここに。何故、今――――」

確かに一度、ひよりとヨツバは彼女に助けられた。コノハナ少佐を彼女が抑えていなければ、今頃ここにはいなかっただろう。
だが、何故。何故もう少しだけ早く来てくれなかったのか、そうしていてくれれば、きっとミヅハノメノカミとヴォーパルアリスは犠牲にならなかった。
それに、彼女のことはやはり信用しきれない。彼女は謀略家だ、それをひよりは一番良く知っているのだから。


「ええ、そうですね……色々と、説明しなければいけないでしょう。この世界のこと、あの二人のこと――――明花のこと、立夏のこと」


――――彼女らは、未だ何も知らない。

ただ何もわからないまま、それでも戦い続けてきた。ただ殺されないために、ただ黒百合に対抗するために。
ここで、それが分かる。そう思えば自然と息を呑んだ。ヨツバも、ひよりも、自然とそこに沈黙を作っていた。

14名無しさん:2018/07/12(木) 15:45:34
「……この“瀬平戸”については、説明を受けているのかしら?」

「はい、藤宮明花が成したこと、成そうとしていること……そこまでは」

レギナは少しだけ沈黙を挟んだ後、頷いた。
ならば、その空白――――藤宮明花以外が、何をしていたか。それを彼女らに語らなければならない。


「……藤宮明花の異変に最初に気づいたのは、ミヅハノメノカミ――――岩畔朝雨という少女だった」


最初にその口から出たのは、聞き覚えのある魔法少女の名。最も、その“実名”を聞いたのは初めてだったが。
思っていたよりも、遥かに綺麗な名前をしているなと、ひよりは場違いな関心をしつつも、続く言葉に耳を傾ける。


「いつからだったのか……彼女が違和感を感じたのは。
 彼女は、彼女の親友であった……バランス・ポリシーという魔法少女にそれを打ち明け、彼女の持つ資料を徹底的に調べさせた」
 そしてそれによって浮かび上がってきたのが――――『魔法少女絶滅計画』」


その、攻撃的を突き詰めたかのような単語に、ひよりとヨツバは絶句する。
『魔法少女絶滅計画』――――ただ、文字通りに捉えるのであれば、それは。

「……現存する、そして今後現れる、全ての魔法少女の殺戮計画。それが明花の計画だった。
 荒唐無稽だと思うでしょう? だけどそれを、ゲームマスターと星のかけらの力によって実現しようとした、そして……。

 ――――それが出来るだけの実力が、あの人にはあった。事実として、残されている魔法少女は、後はもう、ここにいる“三人”と、ゲームマスターが一人」

全ての魔法少女を纏め上げ、最大の敵である骸姫を打破した生徒会長。
だが、その逆が出来るとは到底思えなかった――――のは、恐らく“凡人だからだろう”。
実際に藤宮明花はそれを成し遂げようとしている。その後一歩を今正しく踏破しようとしている。それが今ここに残る事実だ。

15名無しさん:2018/07/12(木) 15:45:59
「ただ、まともに戦ったところで明花には勝てない。だから私達は策を打った。そのために、私達は暫く生徒会として従順に行動した。
 その結果、立夏も朝雨も姫獣としての力を手に入れた……結局の所、私達とて最後には始末される対象。
 それでもそうしたのは、“いくらでも勝てる自信があった”からなのでしょう。事実、私達は誰ひとりとして彼女には勝てていない」


その絶対的な力は、ここにいる全ての魔法少女が垣間見た。ひよりもヨツバも、納得せざるを得なかった。
その通り。ここにいる三人が束になってかかったって、あれには“勝てない”。まともな武器も魔法も使わなくて、“あんな所業”を出来る相手に。
だが、それでも。可能性はここに在る……ひよりは、手の中に、レギナから受け取った石を握り締めた。

「……朝雨は賢明だった。回収できなかったとされる、第一位の核……今正しく、あなたが持つ“それ”を。
 私に託し、そして行方を晦ませるように言った。その骸姫……“魔法少女”に“適合する魔法少女”を待つように、と」

――――そして、予想は的中していた。

不完全ながら、雛菊ひよりはそれに適合する素振りを見せた。もう少し“詰めて”いけば、彼女は完全にあの力を扱うことが出来るようになる。
ギリ、と。ひよりがそれを握る力がより強くなる。その骸姫の名が、“魔法少女”。これはなんという皮肉なのだろうか、と。


「……そして私は、最後に立夏と約束をした。私がきっと、迎えに行くと。それまで、貴女は藤宮明花の駒として、生き残って欲しいと。
 立夏はそれを快諾してくれました。そして……あれで終わるつもりだった」


……つまるところ、コノハナ少佐は徹底的に“自己暗示”をかけていたのだろう。
彼女が戻るというトリガーが引かれるまで、自身を騙し続ける。それまで、心を閉ざして殺戮を繰り返し続ける……そんな、残酷な覚悟。
彼女ならば出来るだろう。だが、彼女は。戦闘に狂っていたとはいえ、“善性の人間”であるはずだろうと。ひりは――――

16名無しさん:2018/07/12(木) 15:46:19

「……あの人に、殺させ続けたんですね」

責めるようにそう言った。レギナは言い訳をするでもなく、ただその言葉を受け止めて、何も言わなかった。
彼女には辛い役目を押し付けてしまった。そして今、予期していなかった結果が此花立夏を苦しめているのだから。
それは正しく、レギナの“罪”。今も尚、この世界に至っても尚、重ね続ける――――罪。それを直視しないことこそ、レギナにとって“悪”だった。


「朝雨は、残された魔法少女と徹底抗戦に至った。その過程で親友は処刑された。それでも、戦い続けた。
 それは一重に――――貴女。雛菊ひより、オーネストハートのために」


最初に、“ミヅハ”に言われた言葉がフラッシュバックする。
『雛菊ひより、オーネストハート――――お前こそが。私達にとっての、最後の一欠片だ』
それは正しく、嘘偽りのない真実だったのだろう。正しくこのときのためだけに、あの二人は――――


「最後の最後、それを見極めるために、ヴォーパルアリスとミヅハノメノカミは戦った。そして確信し、貴方を生かした。


 ――――単刀直入に言います、オーネストハート」


彼女の瞳が“ひよりを見据える”。その瞳は知っている。最後の最後に見たそれと、きっと同じものだった。
恐らく、そこから紡ぎ出される答えを――――自分は断れないのだろうと、その瞬間に理解した。


「貴女には、人柱になってもらいます。骸姫第一位、その核に適合する、唯一の魔法少女として」


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