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【伝奇】東京ブリーチャーズ・玖【TRPG】
7
:
那須野橘音
◆TIr/ZhnrYI
:2020/04/07(火) 15:06:43
「ぅ……」
「あなたもお死になさいね、ハクト。
恨むなら乃恵瑠を恨みなさい。いつまでも不甲斐ない乃恵瑠のために、あなたは死ぬのですよ」
最後に残ったのはハクトだ。
まったく抵抗らしい抵抗もできずに砕け散ったカイとゲルダを目の当たりにし、ハクトはその場に釘付けになった。
蛇に睨まれた蛙のように――いや、強大な妖壊と対峙した非力な小動物のように。
一歩も身動きが取れずにいる。
肩越しにノエルへと振り返ると、女王はにたあ……と日頃の気品や慈愛とはかけ離れた粘つくような笑みを浮かべて嗤った。
「……怒りましたか?ノエル?
私は言ったはずですよ……『甘ったれた考えは捨てろ』と――
カイとゲルダが死んだのも、これからハクトが死ぬのも、すべてすべて……あなたの不甲斐なさが招いたこと。
あなたのせいでみんな死んでゆく。あなたが皆を死なせてゆく。
それが嫌なら――この母を斃すことです。今すぐに!!」
ゴッ!!!
女王の全身から冷気が迸る。
凍土の世界を統べ、万物万象をあまねく滅ぼす絶対の死の導き手。
倭、唐土、天竺の三界に名を轟かせた極東の大妖、白面金毛九尾の狐に優るとも劣らない、氷雪の大妖怪――
『雪の女王(Sneedronningen)』。
「最後に、氷の神器の使い方を教えてあげましょう。
ソレは単品で使うものではない。そもそも『三つ同時に使うことを前提として造られている』ものなのです」
いつの間にか、女王の右手には理性の氷パズルが。左手には世界のすべてが握られている。
足には新しいそり靴。三種の神器がすべて女王の手にある。
もっとも、本物ではない。女王が妖術によってオリジナルからコピーした紛い物だ。本物はノエルの許にある。
「粗悪な海賊版(ブートレグ)ですが、一度くらいは使えるでしょう。
あなたを葬り去るのには一撃あれば充分。それで一切合切を終わらせましょう。
こうも言いましたね?私は――『ものにならないならば、母の手で引導を渡すもよし』と――
ならば、受けなさい。この母の最大の奥義を」
ひゅん、と世界のすべてを振り、女王はノエルを見遣った。
冗談や軽口の類ではない。使い物にならない、素質がないと見切りをつければ、女王は躊躇いなくノエルを殺すだろう。
そしてその霊気を山に還元し、新しい女王の後継者が生まれるのを待つだろう。
……今までずっと、そうしてきたように。
「我が槍の名はフィムブルヴェト。
古くは北欧世界において『神々の黄昏(ラグナロク)』の先触れとなりし、我が極鎗を見よ!」
真の力の一端を解放した女王の発する妖気が、ノエルの全身を蝕んでゆく。
その右手には、いつの間にか世界のすべてが長柄となり理性の氷パズルが穂先に変形した巨大な槍が握られていた。
穂先を中心に雹嵐が吹き荒れる。並の雪妖なら瞬く間に氷漬けになってしまうだろう。
「生き残りたければ。これから先も、大好きな者たちと一緒にいたいのならば。
この一撃――凌いでご覧なさい!」
雪の女王が一気にノエルへと間合いを詰める。
それはまさに、何もかもを滅ぼす最終戦争の勃発を連想させる先立ちの一撃。
『災厄の魔物』と呼ばれる妖怪の持つ、真なる力。
セルシウス度-217.15℃、絶対零度の槍――
「『堅き氷は霜を履むより至る(ラグナロク・アンクンフト)』!!!!」
ギュオッ!!!
引き絞られた弓のように凝縮された力が解放され、神速の鎗がノエルの心臓めがけて突き出される。
奥義を喰らえばノエルは死ぬだろう。現在のノエルの防御力では絶対零度は防げない。
自らの眠れる力を目覚めさせ、三種の神器の力を十全に使用して、雪の女王を斃す。
そうしなければ、すべてが絶望という名の氷壁に閉ざされる。何もかもが終わる。
極鎗がノエルの胸を刺し貫くまで、あと0.003秒。
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