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【伝奇】東京ブリーチャーズ・玖【TRPG】

30尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE:2020/04/25(土) 21:51:48
切り裂かれた肺腑が、肋骨と言う支えを失った腹から吐き出すようにまろび出る。
行き場を失った血液は口腔と傷口からとめどなく噴き出し、外気によって赤黒く変色していく。
垂れ下がる腸を引きずりながら、それでも前に進まんと足を踏み出そうとするがその直後、世界が落下した。
それが自身の首が落とされたのだと。落ち行く首が眺め見た景色なのだと気付いたのは、側頭部に叩きつけられる衝撃を感じてから。
虫食いのように黒く染まっていく意識。
自分が消え果て、無へと還って行く喪失感。
抗おうにも、首だけでは何をする事も出来ず――――



「か、はっ……!!」

言い表せない程の吐き気と頭痛を伴いながら、尾弐は目を覚ます。
反射的に手で自身の首に触れれば、確かに首は胴体と繋がっており、流れ出る汗はその生命活動を肯定している。

死んだ。『また』死んだ。
その事に気付いた尾弐は、額の汗を拭く事もせず歯ぎしりする。
修行を初めてまだ僅か、にもかからわず尾弐黒雄は既に百度は殺されている。

斬殺、圧殺、焼殺、絞殺、刺殺、殴殺、撲殺、撃殺

百鬼の手に寄る尾弐の殺害はあらゆる手段を以って執り行われた。
その度に味わう激痛と、生命の本能にとって最大の負荷である死。
それらは真っ当な神経をしていれば到底耐え難いものであるが……しかし、尾弐が苦悩しているのは激痛や繰り返す死についてではなかった。
何故なら、それらは尾弐にとってさして問題の無い事だからだ。
尾弐黒雄は、苦痛と死に続ける事に慣れている。
かつての暗い地下室での日々は地獄であった。あの時は死こそが救いに見えていた。
矮小なその魂に相応しくない酒呑童子の力を宿していた日々は、全身が砕ける様な痛みを常に感じていた。
故に、死を何度味わおうとそれだけで心が折れるような事は無い。
尾弐の苦悩が向けられているのは別の事――――即ち、遅々として進まない修行についてであった。

痛みを恐れぬが故、虎熊童子の金棒も金熊童子の鉄球も自然体で回避する事が出来る。
死に感慨が無いが故、星熊童子と天邪鬼の斬撃も平常心のままに応じる事が出来る。
数多の鬼どもの攻撃は言わずもがな。無感情に対処する事すら可能だ。
最善で最短で機械的に。
無駄を削ぎ落して、立ち向かう事が出来てる筈……それなのに

「ぐ……っ!」

死ぬ。殺される。何度繰り返しても、進展がない。
冗談のように一定以上から先を生きる事が出来ない。
天邪鬼の告げた千度の死は一刻前に過ぎ去っているというのに、非才なる身は何も得る事が出来ていない。
尾弐の中に焦燥感が澱の様に募っていく。
それでも何かを掴まんと、尾弐は再度立ち上がり――――

>「本当に死ぬ訳ではない。私の術で、貴様に死んだと知覚させているのだ」


ふと。殺し合いが始まってから久方ぶりに、天邪鬼が声を出した。

>「しかしながら、貴様の感じる痛みや死の衝撃は紛れもない本物だ。
>このまま失敗を続ければ、貴様の意識が。魂が消耗しきり、やがては本当の死を迎えるだろう。
>その前に事を成せ。帝都を守りたいと。仲間たちとの約束を果たしたいと。
>好いた女と共に在りたいと願うのなら……」

「一体、何の話を……」

>「我らを凌駕してみせろ!
>千年に渡る悵恨の果て、貴様は未来を掴み取る選択をしたのだろう!
>貴様の望みは、そこに至る階(きざはし)は――我ら酒呑党を斃した、その先に在る!!」

その言葉に困惑しながらも尾弐は再び殺戮の嵐に身を投じる。
眼球を抉られ、脊髄を斬られ、数多と呼べる回数を殺されながら尾弐は考える。

>「目で物を見るな。視界に囚われず、心で視よ!五感の全てを動員し、全天全地よりの攻撃に備えよ!
>貴様の身体に触れんとするものは、空気さえ敵と思え!」
>「莫迦め!避けることに意識を割き過ぎて攻撃が疎かになっておるわ!
>攻めながら避け、避けながら攻める!どちらか一方に偏ってもならぬ、両の天秤――その均衡を崩すな!」
>「今までの経験を棄てよ!敵は貴様の常識の埒外から遣って来るぞ!
>こんな攻撃はどうだ!?これは?ならばこんなのは!?さあ……凌いで見せろッ!」

堰を切ったかのように天邪鬼が投げかけた……そして、今投げかけている言葉の意味を。

>「どうした――クソ坊主!
>貴様が望んだ!貴様が選んだのだ、この道を!
>人間へと立ち戻り、平穏無事な人生を再び歩むことができる……その安寧を投げ捨ててな!
>ならば仕遂げてみせろ、すべて凌駕してみせろ!
>千歳(ちとせ)の生は、こんなところで無様を晒すためのものではあるまい!」


不意に、鉄の鎖を引き擦る様な音が聞こえた。

そして、あまりにも唐突に。

尾弐黒雄は天邪鬼の一撃を回避した。
これまで確実に己が命を刈り取ってきた一撃を、死の刻限を――――超えた。

・・・


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