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【伝奇】東京ブリーチャーズ・玖【TRPG】

194多甫 祈 ◆MJjxToab/g:2020/09/21(月) 17:27:28
「たとえばあたしは……たぶんだけどまだ龍脈と繋がってる! これ、使えないかな!?」

 因子は奪われたが、おそらくまだ、祈に龍脈の神子の資格は残っている。
 途中で、アンテクリストによって、資格を剥奪される可能性はあるが、
まだ、星が持つ無限大のエネルギー使用して戦ったり、運命変転をしたりできるということだ。
当然、半妖と神に作られた天使相手では、そもそも地力に差がある。
向こうはブリガドーン空間の力も持っているから、正面からやり合えば敗色は濃厚だろう。
だが、龍脈の力を上手く利用すれば、何らかの手は打てるはずだ。
それについては祈は何も思い浮かばないものの、アイディア次第で逆転の切り札となり得るだろう。
 祈はそれから、倒れたままのレディベアを見遣った。

「それから、妖怪大統領とか。あたしはあいつ、“いる”と思ってんだよ!」

 それは、レディベアの心の中に生きているだとか、キレイな話ではない。
レディベアに対する気休めでもない。本当にいるのだと祈は思っている。

「モ……レディベアは、自分が妖怪大統領の娘だと疑わなかった。
その思い込みがレディベアを、ブリガドーン空間の力を持った妖怪に変えたんだろ?
それと同じように、レディベアは“妖怪大統領が実在する”って疑わなかったはずだ。
だとしたら、幻が現実になってなきゃおかしくないか?」

 妖怪大統領は、確かに赤マントが演じる幻だったかもしれない。
だが、レディベアがそうあれかしと願っていたのであれば、幻と現実はきっと入れ替わる。
 元々は現象か何かに過ぎなくても、
空亡やバックベアードという名前で、“人々の間で妖怪として知られていた”のだから、
その影響もあるだろう。
 しかし、この世界に姿を現していないということは。

「たぶん妖怪大統領は、あいつの――モンテクリストだかアンチキリストだかいう、
ふざけたやつの中にいるんだ。御幸みたいに、もう一つの人格として。
きっと、アンテクリスト本人も、妖怪大統領も気付いていない状態で」

 妖怪大統領の幻を操る赤マントにも、
当然ながら「これは幻、これは演技だ」というそうあれかしがあっただろう。
 だが当時の赤マントは、神に力を奪われて不完全な状態だった。
保護者を求め、父の実在を信じる子供の強い願望や、
たった一人の父に幸せになって欲しいという、
ブリガドーン空間の中で最も強化される、他者を想うそうあれかし。
自身へと向けられるそれらに、完全に抗えていたとは思えない。
 そうして赤マントとレディベア、二つのそうあれかしがせめぎ合った結果、
妖怪大統領としての人格が、アンテクリストの精神内に生じた可能性はゼロではない。
だが、妖怪大統領自身が「自分はアンテクリストが演じている人格に過ぎない」と思い込んでいるが故に、
外に現れていないのではと、祈は考え、そう主張する。
 でなければ、“人を破滅させることを生き甲斐とする悪魔が、
赤子のおむつを替え、ミルクを作って育てきることなどできるだろうか?”と。
 赤マントが賦魂の法で分けた魂が、黒い球体だったことも薄弱ながら根拠の一つだ。
 故の、「たぶん」や「きっと」や「おそらく」といった、
仮定に仮定を重ねた不確かな策ではあるが。

「だから――【妖怪大統領に、内側からアンテクリストを攻撃してもらう】ってのは?
レディベアだったら起こせるんじゃねーかな……そもそも、いるかどうかは賭けだけど」

 そんな風に祈は提案するのだった。
 アンテクリストの一人格として妖怪大統領が生じているとすれば、
妖怪大統領はアンテクリストと同じく、
龍脈の力とブリガドーン空間、いずれの力も手に入れている状態であるはずだ。
それでいて、【レディベアのそうあれかし】から生まれているのだから、
レディベアに対してはいくらか好意的であると思われた。
 その協力を得られれば、アンテクリストの力を削ぐ、奪うといった弱体化が狙えるのではないか。
あるいは、精神をかき乱せば、有効な攻撃を届かせる隙を生じさせることもできるかもしれないと、
祈はそう考えた。
 もしかしたらアンテクリストは、内側から邪魔してくる妖怪大統領の人格を、
賦魂の法によって追い出すかもしれないが、それはそれで、強力な味方が増えることになるだろう。

「みんなはなんかない!?」

 祈は皆の顔を見て、そう問いかける。
 思いもよらない策を思いつくノエリスト。
千年も願いを諦めなかった諦めの悪い鬼。
家族思いで、奥さんと未来を作る約束をした狼犬。
 仲間たちは、これまで多くのピンチを乗り越えてきた歴戦の猛者たちだから、
なんらかのアイディアが出ると信じて。
 祈が知らない、把握していない、思い出していない、そんな強力な切り札があるかもしれないし、
橘音だって、きっと立ち上がってくれるはずだ。
 祈は希望を手放すことなく、仲間たちの作戦を募る。
神を倒すための作戦を。


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