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【伝奇】東京ブリーチャーズ・玖【TRPG】

107尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE:2020/07/05(日) 11:53:38
>「チェリャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

「おいおい、でけぇトカゲが沸いて出たと思ったら……こりゃあ何の冗談だ……?」

男が居た。
巨大な爪に大剣が如き牙。降りかかるドラゴンと言う名の災害の直下。
伸び放題の灰褐色の髪に、一対の角。
鋼と比喩して尚いかめしい巨躯と、其処に刻まれた不規則でしかし奇妙に美しい紋様の刺青。
武骨な鋼の手甲を纏い、一人の男が立っていた。

男が纏うのは笑える程に心許ない装備だ。
古来、様々な英雄が神剣魔剣を手に神の恩寵のもと『かろうじ』で討ち果たした怪物と相対するには、情けない程に頼りない武装だ。
だというのに――――

>「どうしたどうしたァァァ!それでもうぬは幻獣の王と呼ばれたシロモノかァァァァァァ!!
>こんなことでは――暇潰しにもならぬわ!この――――大トカゲ風情がァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

その心許ない装備で、その情けない程の武装で
男はドラゴンを――――天に座す暴君を圧倒していた。
男が一撃を放つ度、どんな金属よりも固いと讃えられる竜麟は捲れ、万象を穿つとされる竜爪が砕けていく。
ああそうだ。これが、この男こそが尾弐の覚えた違和感の正体だ。
ドラゴンは尾弐に気付かなかったのではない。この男によって、尾弐に気付けない程に追い詰められていたのだ。
そして、ドラゴンを蹂躙していた男が不意にその視線を動かす。その視線の先に居るのは――――悪鬼、尾弐黒雄。

>「おう、来たか!待ちかねたわ!
>ちと待っておれ、今すぐ片付けるゆえな!」

「……さて。オジサンは野郎と待ち合わせした覚えはねぇんだがな」

気安く投げかけられた男の言葉に同様の軽口で返す尾弐だが、その肉体と精神は最大限に張りつめている。
当然だ。生態系のピラミッド、その上位者に餌として認識されたかの如き緊張を覚えて尚、気を緩められる様な生き方を尾弐はしてきていない。

そして次に起きた出来事は、覚えた危機感が間違いでは無かった事を尾弐に知らしめる。

>「ゴハハハハハハハ―――――ッ!!微温いわ!これしきの炎でこのアラストールを燃やせるものかよ!!―――ツァッ!!!」

ドラゴンがその咢より放ったのは一筋の閃光。
幻獣の王が、内包する膨大な魔力を己が心臓と血液を回路とする事で高速循環、純化、増幅させたうえで口腔から放出する破壊の一撃。
その規格外の魔力の奔流は、通過する空間自体を磨滅する事で『結果的に』万物を焼き尽くす。

竜の息吹(ドラゴン・ブレス)

ドラゴンの奥の手にして、万物焼き尽くす神にも届き得る幻想の一撃。
その一撃を――――あろうことか男は受け止め、あまつさえ勢いのままにドラゴンをその腕で殺してみせたのだ。

>「待たせたな!貴様が尾弐黒雄か!
>我はアラストール!何の変哲もない、ただの闘い好きの老いぼれよ!
>中には我を闘神とか、戦いの化身とか抜かす輩もおるがなァ!ゴッハハハハハーァ!」

見せつけられた常識はずれの生物機能。
先程までドラゴンへと割かれていた男の意識が自分一人だけに向けられた事で、尾弐の肉体は電撃を受けたかのような緊張を覚える。

「ご丁寧にあいさつしてくれてあんがとよ。お察しの通り俺が尾弐黒雄だ。オジサンは戦いなんざ好きでも何でもねぇからお前さんとは仲良くなれそうにねぇな」

しかし。されど。
尾弐は屈する事は無い。不遜に腕を組み、敵意を籠めて言葉を吐き捨てる。


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