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【伝奇】東京ブリーチャーズ・弐【TRPG】

177ポチ ◇xueb7POxEZTT:2018/05/01(火) 23:31:54
送り狼は、暗闇の中にいた。
大量の失血と体温の低下は、彼の意識に微睡みをもたらしていた。
だが、彼はこのまま意識を手放してもいいと思っていた。
自分は既に役目を果たした。
心の内まで狼にはなれずとも、仲間に尽くし、頼みをやり遂げ、狼としての行為は果たせた、と。

>「……――――――■■」

けれども不意に、声が聞こえた。
送り狼ではない、しかし「居心地のいい自分」の名を呼ぶ声が。
祈の声……寒さも失血も彼女の命には届いていなかった。
送り狼はその事実に喜びを覚え、

>「見つかると……いいな。狼……」

しかし続けて紡がれた言葉を聞いた瞬間、彼は自分の弱った体の中で、心臓が大きく跳ね上がるのを感じた。
聞かれていた。自分の狼らしからぬ、女々しい泣き言が。
無意味な願望を捨てられない、仲間への不義が。
その事実が、彼の朦朧とする意識を更に遠のかせる。
いよいよ、彼は意識を手放して、楽になってしまおうと目を閉じかけて……

>「でも……自分を、嫌いに、なんて……なるなよ……。あたしは■■のこと、嫌いじゃないから、さ……」

しかし、思い留まった。
嫌いじゃない……たった今、祈は確かにそう言った。
彼女が血を流し、吹雪に蝕まれていても、あり得る筈のない可能性を手放せなかった送り狼を。
それでも嫌いじゃない、と。
その理由が、彼には分からなかった。
分かるのはただ……彼女は自分よりもずっと狼のようだという事だけ。
仲間の為に何もかもを投げ出す事が出来なかった自分よりも、
そんな自分をも嫌いじゃないと言ってのけた彼女は、ずっと狼に近かった。

>「例え狼じゃなくても、どんな姿であっても……ポチは……あたしの、あたし達の、仲間…………だから……」

祈の言葉が、送り狼に染み入る。
劣等感に突き刺さり、自身の情けなさを思い知らされるその言葉は……しかしそれでも、嬉しかった。
だから彼は……もう暫くの間、その嬉しさに溺れていたいと、願った。
同時に彼の首元に黒い首輪が現れる。
送り狼という妖怪を、飼い犬の姿に定義付けるその名前が、首輪という形を取って彼の体を縮ませ……「送り狼」が「ポチ」へと戻る。

「ごめんね、祈ちゃん……嬉しいよ……」

橘音に迷い家外套を被せられ、尾弐の手に撫でられながら、ポチはうわ言のように呟く。

「嬉しいのに……なんで……ぼくは……」

その言葉の最後は、声にはならない。
こんなにも温かい愛を受けてなおも、あり得もしない夢物語を捨てられない、愚かな自分を呪う言葉は。
……もう、考えるのはやめよう。ただ、このぬくもりの中で眠ってしまおうと、ポチは目を閉じて……
不意に彼の鼻腔に、新たなにおいが、妖気が届いた。
ポチには、そのにおいが誰のものなのかは分からない。
だが、一つだけ、すぐに分かる事があった。
その何者かは、邪悪さと、愉悦のにおいを纏っていた。
疲弊も負傷も忘れ、ポチは跳ね起きる。
……そして、胸から何本もの楔を生やしたクリスと、その後方に立つ赤マントを目にした。
それから先は、雪崩れるように状況が動いた。
楔に四肢を貫かれ、屋根から転げ落ちるクリス。奪い取られ、破壊された神宝と神体。
だが……その光景を目にしても、ポチは冷静だった。
声一つ上げず、赤マントと、未だ目を覚まさない祈の間を遮るように、体を動かす。
ポチは、まだ、この時点では冷静だった。


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