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【伝奇】東京ブリーチャーズ・壱【TRPG】

201品岡ムジナ ◇VO3bAk5naQ:2018/04/13(金) 13:35:43
ずだだだだ、と不格好なガニ股走りでロッポウから逃げる品岡。
無論敵から目を背けて無防備を晒しているわけではない。ちゃんと背中に目を生やしている。
追って飛んでくる粘液を目視し、ジグザグに動いて躱しながら疾走する。

「あかん息切れてきた……!煙草やめよっかなもう……!」

タールに塗れた肺が酸素を求めて律動し、水際の金魚のようにパクパクと喘ぐ。
肉体疲労とは無縁の妖怪と言えど、今日は朝から色々妖術を使いすぎた。
元々そこまで妖力の残高に自信のあるほうでない品岡は露骨に足運びの精彩を欠く。
ロッポウの足音がすぐ背後まで迫ってくる……!

>「――スリップ」

横合いから鈴の鳴るような声がしたが早いか路面が突如凍りつき、疾走していたロッポウが足を取られた。
重量感のある転倒の音が響き、走りながら吐いていたゲロが明後日の方向に飛んで街灯を溶かす。

「でかした優男!」

出現したアイスバーンの主は、何故か精肉屋の庇の上でチューブ容器を名残惜しそうにちゅうちゅう吸っているノエル。
涙の出るような好アシストだった。
思わぬ加勢に調子を取り戻した品岡は振り向きざまに、抜け目なく再装填を終わらせていたトカレフを撃つ。
二発、三発。相変わらずの糞エイムで無駄玉が遠くを穿つが、一発がロッポウの右半身に命中した。

「よっしゃ、弾ぜろやクソガキ!」

間断なく妖力を遮断し弾頭の形状変化を解除、廃車のフレームに復元する。
体内で異物を膨張させられたロッポウはイッポウと同じ末路を――辿らなかった。
廃車はロッポウのすぐ後方に現れた。

「なんやと……!」

着弾観測から弾頭の復元、その一瞬の間隙を縫って、ロッポウは被弾箇所を自らえぐり取ったのだ。
虚空に放られたロッポウの肉片が、出現した廃車によって押し潰される。
深く抉られた傷口からは緑の体液が溢れ、それが地面を焦がす頃には傷が塞がってしまった。
ケ枯れには、至らない。

「そら学べ言うたのはワシやけど……適応早すぎるんとちゃうか」

イッポウがケ枯れさせられた原因を即座に理解し、その対策まで完璧にやってのける。
最悪の霊災、最凶呪具の付喪神。わかりきっていたことではあるが、やはり怪異としての格が違う。
ヒトを殺す為の呪いは、より効率よく殺す為に――殺し続ける為に、進化を続けている。

――!…………――!!!

ロッポウは吠える。
その轟きにイッポウのような品岡を揶揄する響きはなく、純粋な己を鼓舞する叫び。
味方を破壊され、孤立し、自分を滅ぼせる相手とおそらく初めて対峙したコトリバコに、最早愉悦の色はない。
ただ人間を嬲り殺すだけだった呪詛の化身が、己が敵を滅する戦士と化し始めていた。

「しんどいなぁ、付き合いきれんわ。ちゅうても見逃してくれるわけやないよな。
 ええで、とことん付き合うたるわ。……大人やからな」

ボコ、ボコ、ボコ……と地面に穿たれた複数の穴から廃車のフレームが生える。
それらの圧縮に使っていた妖力を止め、わずかではあるが回復はできた。
氷の棘付きスレッジハンマーを片手で構え、重心を落とす。

「……行くでコトリバコ、ジブンの好きなじゃれ合いや」

202品岡ムジナ ◇VO3bAk5naQ:2018/04/13(金) 13:36:19
刹那、品岡の姿がロッポウの視界から消えた。
十歩ほど離れたアスファルトが擦れる音、一瞬だけ現れた品岡が更にブレて消える。
品岡の姿を捉えたロッポウが粘液を吐く頃には最早的はそこにない。
形状変化で足の骨を強力なバネに変え、鞠のように跳ね回っているのだ。

「っつおらぁ!」

バネの加速そのままに、横合いからハンマーがロッポウの顔面を捉えた。
氷の棘が赤子の表皮を一瞬で凍結させ、次いで打撃がそれを砕く。
そうして二度、三度と少しづつではあるが、確実にコトリバコの体積を削いでいく。

「修復する隙なんぞやるかいな」

祈ほどの強烈な速力はないが、ロッポウの反応速度を超えられればそれで十分。
復元弾頭のように一撃では仕留められなくとも、このまま一方的な攻勢に持ち込み続ければ、いずれはケ枯れさせられる!

ロッポウが息を吸い込んだ。粘液を吐く予備動作だ。
しかしその射出口たる巨大なあぎとは明後日の方を向いている。
コトリバコの恐るべき学習能力が、品岡の機動力をバネによる直線的なものと見抜いた。
彼の一瞬後の位置を予測してそこ目掛けて粘液を吐きかける。
果たして、放物線を描く粘液の先に品岡が現れた。

「浅いわ」

地面のアスファルトがめくれあがり、粘液に対する壁となった。
溶けゆく壁の向こうからハンマーが飛び、コトリバコの下顎を砕いた。
痛みに悲鳴じみた叫びを上げながらもロッポウの両眼は品岡を睨めつける。
ボコンボコンと身体を蠕動させながら赤子の唇が蕾のようにすぼまった。

(何するつもりや……距離開けたほうがええな)

ただならぬ動きに警戒する品岡は二歩、三歩とバネ足でバックステップ。
踏んだ地面が隆起し、都合三枚の壁が品岡とロッポウの間に形成された。
ロッポウの身体がかつてないほどに、体積にして倍ほども膨れ上がる。
キィ……と甲高い音で鳴いて唇から粘液が噴き出した。

「それしかできんのかい、芸が無いのぉ――」

鼻で笑った品岡の右腕に激痛が奔った。
さながら水鉄砲の要領で射出口を狭め速度と圧力を増した粘液が三枚の壁を一瞬で貫通し、その先の品岡を撃ち抜いていた。

「あ……?ああああああああっ!?」

圧縮粘液に穿たれた右腕が毒々しく変色し、煙を立てながら腐食の範囲を広げていく。
品岡はたまらず情けない悲鳴を上げながら左手で右の腕を掴み、形状変化で引き千切って捨てた。
握ったスレッジハンマーごと地面に放られた右腕が、溶解してアスファルトの染みと化した。

「前言撤回や。頭使っとるやないか……」

自切した右腕が戻らない。コトリバコの呪いの一部が残っているのだ。
形状変化で強引に腕を作ることも考えたが、残り少ない妖力を無駄には出来なかった。
品岡は潔く腕を諦めて再び走る。彼のいた場所にロッポウが轟音を立てて着地した。

「おのれが……!」

残った左腕で拳銃を撃つ。利き腕を失い回避しながらの射撃では当然当たらない。
ロッポウが距離を詰める。牽制に鉛玉をばら撒きながら少しでも距離を取る。
趨勢は完全に逆転し、品岡は防戦一方だった。
片腕でできる攻撃などたかが知れているし、何よりノエルの妖術のかかったハンマーを落としたのが痛い。
現状コトリバコに対して有効な打撃の放てる唯一の武器だった。


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