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鏡の世界の迷子の旅路 無断転載

62小閑者:2017/06/18(日) 19:43:45
 しかし、今回の恭也の新聞記事の検索には大きな落とし穴があった。
 検索項目の絞込みに“年代”を加えなかったのだ。記事が多年に渡っている事を考慮したこともあるが、何より恭也がパソコンに初めて触れたため情報を読み落としたことに気付かなかったのだ。
 先入観もあった。恭也の記憶が途切れていたのが結婚式近辺であったため、“結婚式当日の事故”という記事を読んだ瞬間にイコールで結び付けてしまったのだ。だから、恭也の“一臣と琴絵の結婚式”がこの世界のそれとずれていることに、つまり、恭也が居た世界ではないことに気付くことが出来なかった。

 恭也は記憶と情報の食い違いに気付くことが出来なかった。



* * * * * * * * * *



 昼食を取り終わると、恭也は山間の公園で鍛錬に励んだ。はやては休息を取ることを勧めたが、体を動かした方が気が紛れると言われれば頷くより他、選択肢が無い。
 一心不乱に両手に持った鉄パイプを振り回している恭也は、盛大に息を乱していた。休憩を入れずに全力で動き続けていることもあるが、雑念が入って動作が雑になっているのだ。
 ちなみに鉄パイプは不燃物置き場から持ち出してきたものだ。誰と打ち合うわけでもないため手頃な太さのものを見つけ、重量と重心を整えるために重りを巻きつけただけの代物だ。
 飽きることも無く仮想敵と切り合い続けていた恭也だが、唐突に動きを止めて登山道へと視線を向けた。視線の先には飛び立つ鳥がいる訳でも、物音が聞こえる訳でもないが、持っていた鉄パイプを木陰に隠して登山道に向かって歩き出すと、あからさまに“足音を忍ばせてます”という歩き方をした少女と出くわした。
 恭也は、驚きに目を見開く少女・高町なのはを一瞥すると、声を掛けることも無く下山しようとした。

「あ、あの!こんにちは…」

 去り際に声をかけられたことで足を止めた恭也は、尻すぼみに小さくなるなのはの声に答えることもなく視線のみを向ける。その視線に含まれる怒気ではない何かが、なのはの体を震わせ混乱させた。
 なのはの挙動から察したのか、恭也は視線を体ごとなのはから背けると大きく深呼吸した後、改めてなのはに話しかけた。

「悪いが見ての通り余裕がないらしい。俺への用件なら後日に出来ないか?」
「ごめんなさい。出来れば、今すぐにお話したいんだけど」

 申し訳なさそうに、しかしはっきりと意思を示すなのはに恭也が今度こそ正面から向き直る。

「わかった。だが、さっき言った通り余裕が無いらしい。何に反応して暴れ出すかわからん。トチ狂って俺が襲い掛かったら遠慮なく魔法で吹き飛ばせ」
「そっ、そんなこと出来ないよ!?」

 本人からの突拍子もない提案に、思わず反発したのは当然の反応だろう。だが、酷く物騒な言葉ではあったが、なのはは僅かながらも安堵した。本人いわく“余裕のない″状態でありながら人を気遣えるのは、彼の性根が優しいからだと思ったのだ。
 だが、恭也は冗談の積もりはないようで、なのはと共に公園へ戻りながら更に言葉を重ねる。この辺りの言動からすると本当に余裕が無いのだろう。

「別に殺せと言ってる訳じゃない。自衛してくれれば十分だ。
 それから魔法でどんなことが出来るか知らないが、意思を介して行使するものなら虚を突かれたら対処できないんじゃないか?俺の行動に対応できるだけの距離を取れ。
 いや、それより壁のような、あーバリア?そんなものが張れるなら今から使っておいてくれ」
「僕が結界を張っておくよ」
「そうしてくれ」

 フェレットに変身したユーノの言葉に同意する恭也を見て疑問を持ったのはなのはだった。今の恭也に多少は慣れてきたのか、観察するくらいの余裕が出てきたのだ。

「どうしてユーノ君が喋ったことにびっくりしないの?」

 なのはが口にした疑問に恭也が返したのは答えではなかった。

「よく気付けたな。高町はこちらが堂々としていれば疑問を抱かないと思っていたが」
「ひどーい!私そんなにぼんやりしてないもん!ね、ユーノ君!」
「もちろんだよ」
「…ねぇユーノ君?どうして目を逸らすの?」
「魔法使いのペットなら言葉くらい話すだろう」
「僕はペットじゃない!」
「使い魔、だったか?」
「違う!人間だ!」
「ああ、人間に育てられたチンパンジーは自分を人間だと思い込むと言う奴か」
「それでもない!魔法で姿を変えてるんだ」
「ペットにしか見えんぞ。何か意味が…高町、これと一緒に風呂に入ったりしているか?」
「な!?」
「え?うん、一緒に入ってるよ」
「ほう」
「ち、違っ」
「少女、いや幼女の範囲か?何れにせよ、実行に移る前に処分しておくか。なに命までは取らん。ペットらしく去勢で済ましてやろう」
「ま、待って!僕は彼女と同じ歳なんだ!」
「訂正するのはそこか。目的が合っているなら十分だ」
「今のは言葉の綾なんですー!」


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