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鏡の世界の迷子の旅路 無断転載

410小閑者:2018/04/19(木) 20:38:47
9.学校



「…もう一度言って貰えますか?」
「恭也さんの転入手続きが済んだから、明日から学校に通えるわよ?」

 恭也の要望に応えてリンディが発したのは、ハラオウン邸のリビングでくつろいでいた恭也に帰宅した彼女が唐突に切り出した台詞と律儀な事に一字一句違えていなかった。
 彼女の表情が輝いていないところを見ると、本当に聞き逃したと思っているようだ。恭也の反応を楽しむために綺麗に言い直したのであれば、三十路を過ぎた一児の母とは思えない可憐な容貌にマッチした豊かな表情が雄弁に語ってくれるはずだからだ。

「どうして本人の意思確認も無しにそんな話しになってるんですか?」
「なのはさんのご両親、士郎さんと桃子さんとお話したのだけれど、やっぱり今の恭也さんにそのまま管理局で働いて貰うのは良くないって結論になったの」
「本人の、意志の、確認は?」
「省略しちゃった。えへ☆」

 言葉を区切って強調しながら訪ね返す恭也に、ちょっとした悪戯を告白するように小さく舌を出しながら小首を傾げるリンディ。
 だが、年齢詐称で訴えられかねないほどよく似合う男心をくすぐりまくる彼女の仕草は恭也の琴線に触れないのか、眺める視線は痛いほどに冷たかった。勿論、推定年齢が外見年齢を大きく上回っているから萌えない、という事ではないだろう。
 そして、恭也の眼差しを真っ向から受け止める自信は無かったのか、よく見るとリンディの視線は会話を切り出してからずっと恭也の目から微妙に外れていた。先程言い直した時の丁寧さも、聞き逃したと思ったからでは無く後ろめたさからだったようだ。
 少なからず怒気を纏っていた恭也だったが、リンディがその場のノリと勢いだけで個人の意志を無視したりしないだろうという程度の信頼は寄せていたようで、小さく息を吐くと口調を改めて問い直した。

「今の俺のままでは駄目な理由は何なんです?よもや今更戦力にならないから、とは言わないでしょうね?」
「管理局の基準が魔導師ランクに準拠してるのは厳然たる事実だけれど、それ以外の能力を全て無視している訳じゃないわ。
 少なくとも、優秀なアースラのクルーを軽くあしらってしまう人物に対して戦力外なんて評価を下したりしません」

 恭也に合わせて改めて穏和ながらも真面目な顔になったリンディは恭也の懸念をきっぱりと否定した。

 次元航行手段が確立されてから次元世界の広さに見合う多数の異能の生物が確認されてきた。
 人語を理解し意志の疎通が出来る植物に近い生命体や、人間と同等以上の知性を示す昆虫に似た種族や、宇宙空間で単独で活動出来る魚類にしか見えない何かなど、魔法世界の住人であろうと実際に自分の目で確認しなければ信じられない生物は確かに存在するのだ。
 だから、魔法以外の得体の知れない力であろうとコミュニケーションが可能で局の方針に賛同する存在を受け入れるように制度を整えるのは、次元世界の治安組織たる時空管理局としては必要な事だった。
 尤も、ヒューマノイドタイプにおいては、いわゆる超能力を代表とする突発的な先天性固有技能者や、おとぎ話的な『魔法使い』、更には生まれつき肉体機能が突出して高い種族が少数ながらも確認されていたが、後天的に鍛えた運動能力だけで並の魔導師を凌駕する者が現れるなど誰も想定していなかっただろうが。

 流石の恭也もそんな事をつらつらと考えていたリンディの思考までは読み取れなかったようで、訝る様子もなくまだ語られていない『理由』の続きを無言で促した。

「士郎さんが言うには、恭也さんには同年代の子供と遊ぶ事で知らなくちゃいけない事があるそうよ」
「…どういう、意味です?」

 士郎の言う『知らなくちゃいけない事』が先日公園で話した感情を育てる事に繋がっている事に気付かない恭也ではないだろう。ならばこの問いは言葉通りの意味ではなく、恐らくは士郎がどこまでリンディに話しているかについて探るためのものだろう。
 恭也の声が僅かに堅くなったが、リンディに気付いた様子はなく士郎との会話を思い出して困惑した表情で答えを返した。

「ご免なさい、私も具体的には教えて貰えなかったのよ」
「…」

 どうやら士郎はあの会話を引き合いに出した訳ではなかったようだ。
 居心地悪げに視線を逸らす恭也の様子に、逆にリンディが訝しげ眉を寄せた。


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