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鏡の世界の迷子の旅路 無断転載
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:
小閑者
:2018/04/19(木) 20:38:04
桃子は士郎にとって後妻に当たる事を、はやては八神家で恭也から、フェイトはアースラでなのはから聞き及んでいる。だから、桃子の手料理は恭也にとって『家庭の味』には該当しない事は知っていた。
だが、他の料理が違っていたからこそ、味噌汁の味が懐かしさを強調したのかもしれない。
寂しい事ではあるが、恭也は士郎や美由希と一緒に居る間、感情を乱さないように警戒しているはずだ。何度も対面し、会話を重ねる事で緊張が解れたとしても、警戒を解く事はないだろう。それは、恭也がありのままを受け止められるようになるその日まで変わらないはずだ。
そんな恭也が無防備な姿を晒したのだ。
不意打ちだったのは間違いないし、鮮烈な味だったのも確かだろう。
だが、やはり最大の要因は、恭也が押し殺しひた隠しにしている家族を失った悲しみが、望郷の念が、それだけ強いと言う事なのではないだろうか。
分かっていた事だ。だが、時折忘れてしまいそうになる事でもある。
恭也の心の傷が簡単に癒える様なものでは無い事は。
恭也がその傷を決して人前に晒すはずがない事は。
恭也が自分達と変わりのない一人の子供でしかない事は。
「ま!なんだな。
飲みたくなったらまたいつでも来ると良い。
リンディさんの料理の腕前は知らんが、流石に直ぐにこの味は出せないだろうしな」
恭也の心情を察して言葉を無くす子供達に代わり、軽く笑い飛ばしてみせる士郎。
それは相手によっては単なる無神経な態度と言われてしまうだろう。
「…ありがとうございます」
だが、恭也に対しては確かに正しい選択だったのだろう。彼の感謝の言葉はきっとそういう意味だ。
そして、謝辞を述べる恭也の顔に強く表れる羨望とも憧憬とも取れる表情が、どれほど否定しようとも士郎を父親と重ねてしまっていることを教えてくれた。
先程の高町家で暮らすと言う提案は、強靭な精神力を持つ恭也が『代わりなど要らない』ときっぱりと言わなくてはいられないほど、抗い難い魅力に溢れたものだったのだと遅まきながら気付かされた。
「なのは、フェイトちゃん、はやてちゃん」
込み上げる悲しみを隠そうと歯を食いしばっていた少女達は、桃子に呼ばれて顔を上げた。
「頑張ってね」
慈愛に溢れた笑顔で告げられた抽象的なその言葉の意味を掴みかねて困惑するが、直ぐに気付く事が出来た。
恭也の失った家族の代わりなんて誰であろうとなれる訳はない。
それなら、その悲しみを支えられる存在になればいい。恭也にとっての特別な1人になれる自信はまだ無いけれど、ずっと恭也の傍で支える事なら出来るはずだ。
想いを新たに見つめ返すと、桃子が柔らかく微笑み返してくれた。
続く
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