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鏡の世界の迷子の旅路 無断転載

408小閑者:2018/04/19(木) 20:37:18
「…あら、凄いのね、士郎さん」
「も、桃子さん!?ち、違いますよ!?
 今のは彼のお父さんの事であって、僕は無実なんですよ!?
 な?な?そうだよな!恭也!美由希!俺、そんな自慢した事無いよな!?」
「私は聞いた事無いかな?」
「そうだろ!?ほらな!?」
「…恭也はどうして目を逸らしてるの?ちゃんと母さんの目を見ながら正直に話してごらんなさい?」
「…俺が聞いたのは、同時に6人、だったかな?」
「きょうやぁー!」
「俺が母さんから隠し通せるはずないだろ?そもそも自業自得だ。
 まぁ、時効という事で許しを乞うてくれ」
「15年経ってると良いですね」
「恭也君、これ以上は勘弁して下さい!!」

 確認出来ないのを良い事に事実無根の話をでっち上げたのかと思いきや、本当に暴露話だったとは。しかも、何やら余罪があるっぽい。
 美由希を含め、顔を赤らめた女の子達から非難の視線を浴びる士郎と、彼の懇願からワザとらしく顔を背けてそ知らぬふりをして食事を再開する恭也。
 だが、桃子の追及に便乗する形で更なる追撃の機会を窺っているかと思われた恭也が、唐突に動きを停止して口をつけた味噌汁の椀を見つめた。
 感嘆の声を上げた訳でも表情を変えた訳でも無い。
 それでも、直前までのやり取りを全て忘れたかのように呆然としている恭也に釣られて、収拾の付きそうになかった食卓の喧騒がピタリと止まった。
 恭也が自失していた時間は1秒にも満たなかった。
 そして、我に返ると一変してしまった雰囲気に気付き、恭也にしては珍しく取り繕うように口を開いた。

「美味いですね、この味噌汁。
 和食までこなすなんて驚きましたよ」
「ありがとう。
 結婚する前から和食もそれなりに自信はあったんだけど、味噌汁だけは士郎さんが納得してくれなくて、試行錯誤を続けて漸く辿り着いた味なのよ」
「…あの頃の味も美味かったし、ちゃんと『美味しい』とも言ってたろ?」
「でも、いつかの旅行で泊まった旅館のお味噌汁では感動してたじゃない?」
「…そりゃ、単に懐かしがってただけでだなぁ」
「ふふ、分かってるわよ。でも、こういう味って馴染んだものの方が良いもの。恭也や美由希のためにもね。
 だから、士郎さんが出張で居ないうちに恭也に協力して貰って色々と工夫して…。
 恭也の味覚が鋭くて助かったわ。その分、ハードルも高くなった気もするけど、苦労の甲斐はあったと思うし」

 黙って聞いていた少女達にも事情が理解出来てきた。
 どうやら、この高級料亭で出されそうな味噌汁の味こそ、恭也が慣れ親しんだ実家のそれだったのだろう。


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