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鏡の世界の迷子の旅路 無断転載

389名無しさん:2018/02/24(土) 23:22:56
「笑う事も、きっと悲しむ事も怒る事も自然に出来る高町さんが羨ましかったんでしょうね。せめて感情を失った代償に磨き上げた剣椀だけでも負けたくないとでも思ったんでしょう。
 試合を申し込んだ時にはそんな事は自覚してませんでしたが」
「勝利を手にして少しは気が晴れたかい?」
「まさか。
 実力を計る事を念頭に置いた勝敗度外視の戦い方で臨んだ高町さんを騙まし討ちしただけですから何の価値もありませんよ。
 実感出来たのは勝率3割がやっとっていう実力差だけでしたしね」
「随分辛い評価だな。あの内容なら4割くらいは言っても良いんじゃないか?」
「初撃であれだけ優位に立っておきながらあそこまで凌がれておいて、そんな評価が出来るはず無いでしょう」

 こういう自己評価の低さを見せられると、本当に恭也と彼が同一存在だと納得させられる。
 武術に携わる者として自分の実力を過小に評価するのはむしろ害悪な面もあるのだが、士郎が客観的に見た限り3勝は出来そうだが4勝目は出来るかどうか、という辺りなので不当に低くしているという訳でもないのだ。
 ただし、普通はなんのかんの言っても自分には甘いのが人間の性のはずなので、彼も息子も自然に低い方だとしているのは呆れるばかりだ。
 せめて、謙遜して不確定な勝ち星を相手に譲っているだけだと信じたいところだ。
 それは兎も角、ここまで内面が似通っているなら、きっと考え方も同じなんだろう。それならこのまま有耶無耶にする訳にはいかない。

「…でも、本当の悩みはそこじゃないんだろう?」
「…そんなにちっぽけですか?この悩みは」
「まさか。それだって十分に重大事だ。
 ただ、君が会って間もない俺にあっさり話すって事は、本心を隠すためのカモフラージュなんじゃないかと思ってな。いくら俺が『誰か』にそっくりだとしても、だ。
 よくやるだろ?隠し事をする時には真実の一端を含ませる事で本当に隠したい事柄から意識を逸らさせるってやつ」

 どうだ、と言わんばかりの顔を向ける士郎に恭也が太く重い溜め息を吐いた。
 事実上の白旗に士郎が笑みを深くする事で続きを促すと、ゆっくりと海に目を向けながら恭也が口を開いた。

「感情に振り回される自分に戸惑ってるんです」

 その台詞の意味を図りかねた士郎は一瞬戸惑い、直ぐに納得した。

「意外ですか?」
「いや。
 意表は突かれたし驚きもしたけど、納得も出来る」
「前の2つは意外だったって事でしょうに」
「ハハッ
 そうとも言うかな。
 ただ、俺は以前の君を知らないからな。
 だから、君が恭也の在り方に嫉妬したり向きになって突っかかったりするのが特に不自然だとは思わなかった。その位の感情の起伏は誰にだってあって当然だからな。
 尤も、クリスマスの時の印象ではそれすら押さえつけてしまいそうだったから、そっちが本来なんだ、と言われれば納得出来るのも確かなんだ。
 ここんところのなのはの愉快な百面相を見てる限り、昨日は久しぶりにそこはかとなく嬉しそうな顔が見れたから何かしらの変化があったんだろ?」
「…笑っていたらしいですよ。朗らかに」
「君が?
 へぇ、そいつは想像し難いな。
 …なんで『らしい』なんだ?」
「模擬戦で襤褸雑巾にされた後の朦朧とした状態だったんで自覚が無いんです」
「うわぁ…
 頭打って配線がずれたとかじゃないだろうな?」
「可能性は十分に有ります」
「真顔で言うなよ、怖いから。
 まぁ、真面目な話し、在り方ってのはそう簡単に変えられるものでもない。君くらい強固になっていたら特にな。ましてや自覚出来るほどの変化となればかなりの大事だ。
 脳味噌は言うまでも無くデリケートだから、現実問題として物理的な作用で変化する可能性も零ではないが、君の場合は逆に変化が小さ過ぎるから考え難い。
 そうなれば精神的な理由で変化したと考えるのが順当なんだが、思い当たる節は?」
「…残念ながら、無くは無いです」
「それは何より。
 尤も、君にとっての問題点は変化そのものであって、原因ではないんだろうけどな」

 士郎が確認の意味を込めて言葉を切って恭也の顔を横目で窺うが仏頂面に変化はなかった。
 それを肯定の意として受け取ると士郎は再び口を開いた。


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