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鏡の世界の迷子の旅路 無断転載

388名無しさん:2018/02/24(土) 23:17:57
 『恭也』は自分に厳しく他人には甘い。
 そして、どれほど容姿が酷似していようと、良く似た境遇を歩んでこようと、自分ではない以上、他人なのだ。
 それは、空想でしかないはずの平行世界にいる自分に相当する『高町恭也』であっても、それぞれの自我が融合でもしない限り変わらないだろう。『自意識過剰』という言葉とは対極に位置していそうな彼らだが、強固な自我が確立出来ていなければ剣士など務まらない。
 だからこそ、不破恭也は高町恭也を見ても堕落した『自分』などとは思わないはずだ。

(だから、自分に無いものを持ってる恭也を見て、自分の未熟さを思い知った、なんて展開を想像したんだがなぁ。
 あ、そうか、自分の未熟さを『他人』に当り散らしたりしないのか。
 ったく、ややこしい性格しやがって)

 順調に八つ当たりへとシフトしていこうとする士郎の思考を押し止めるように恭也が口を開いた。

「俺が前に住んでいた世界にも、あなたの様に遠慮会釈無く踏み込んでくる迷惑極まりない人がいましたよ」

 それが時間差の付いた先程の推理の返事だと気が付いた士郎は、狙い通り、と言う態度を繕いながら鷹揚に応えて見せた。

「はっはっは!
 そいつは災難だな」
「まったくです。
 …どうして、」
「ん?」
「…いえ、我ながら進歩が無いなと思っただけですよ」

 そう呟くと、恭也は再び口を閉ざした。
 今度は士郎も声を掛ける事無く、辛抱強く待ち続けた。

「高町恭也さんは、笑えるんですね」
「!」

 再開した恭也の第一声に、士郎は咄嗟に言葉を詰まらせた。予想していた通りの答えに、それでも動揺を抑えきれない。
 恭也が『剣士として理想的』と称した感情を殺した在り方が、彼自身が望んで獲得したもので無い可能性は十分にあった。いや、望んでいた可能性の方が低かったと言うべきだろう。
 そう、士郎は少年が感情を自ら殺したのではなく、殺されてしまったのだという想像がついていた。だからこそ、望まぬ姿に羨望を寄せる恭也にその気持ちを彼に決して見せないようにと釘をさしたのだ。
 紛争地帯に足を踏み込んだ事のある士郎は、そうした子供を何人も見てきた。特に、兵士として鍛えられた少年兵は、引き金を引く事に躊躇いを見せるような心を大人達に殺され、兵器の一部として扱われていた。
 ただ、そういった少年達と彼の間には明確な違いがあった。絶対的な従順さを求めて自我さえ壊された少年達とは違い、彼には明確で強固な意志がある。
 だから、会ったこともない『彼の父親である自分』が彼の在り方を意図的に作り上げた訳ではないのだと自分に言い聞かせる事が出来た。しかし、それは同時に『子を守る』という親の責務を果たせていない言い訳にはならない。
 十年近く前の仕事中の負傷で恭也の在り方を歪めてしまった士郎にとって、平行世界の自分もまた同じ過ちを犯していたという事実を改めて突きつけられて大きなショックを覚えたのだ。
 特に答えを期待していなかったのか、単に動揺していることに気付いていないのか、無言の士郎に反応する事無く恭也はそのまま言葉を続けた。

「それに、『妹の友人』というだけで俺の様な胡散臭い男を信用出来るんだそうです。
 俺には真似する気にもなれません」
「…それで試合の勝敗に拘ったのか?」
「そうなんでしょうね。
 はやて達が凍えてるのに気付いた時に漸く自覚しましたよ。
 正直、愕然としました。あいつらの様子も気付かないほど勝敗に執着していたなんて。
 何のために剣術を身につけようとしていたんだか…」

 自嘲的な台詞ではあるが、その手の失敗は別に恭也に限った事ではない。
 目的を達成するために手段に磨きを掛けている内に、手段を磨くために掲げた小さな目標にのめり込んで最初の目的を忘れてしまうというのは、残念ながらよくあることなのだ。
 むしろ、観戦していただけの士郎や美由希すら気付かなかった、本人達が自覚していない体調の変化を試合中の身で最初に察知したのだから、気遣い過ぎと評価してもいいのではなかろうか?


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