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鏡の世界の迷子の旅路 無断転載
384
:
名無しさん
:2018/02/24(土) 22:58:04
何かの作戦と言う風でもない。
何故なら、荒い呼吸を整える事も忘れて驚愕の表情の張り付いた顔がそもそもこちらを見ていないからだ。
そして、彼の様子に驚いているのは恭也だけではなかった。彼の視線の先にいる観戦していた少女達も揃って戸惑いの表情を浮かべていた。
彼女達に何らかの危険が迫っていたのなら、彼は驚愕に任せて立ち尽くしたりしないだろう。補足するなら恭也も少女達の傍らにいる美由希も脅威となるような気配を感じていない。だが、彼の様子を見る限り唯事とは思えない。
無為に時間が経過して事態が悪化するのを警戒した恭也が問い質そうと口を開くより早く、元凶となった少年が声を発した。
「はやて!
早く部屋に戻れ!」
「へ!?わらひ?
恭也はん、急にどう…
あえ?くひがうあく動かへん」
恭也の呼びかけに応じようと口を開いたはやてだったが、ろれつが回らず妙な言葉が吐いて出た。
「自覚してないのか!?凍えてるんだ、阿呆!」
「ええ!?」
「ちょっ!?
はやてひゃん、じふんでわかあなかったの!?」
「はやて、くひびる真っ青らよ!?」
「お前等もだ、ド阿呆!」
はやての様子に驚いて声をかけるなのはとフェイトだったが、2人とも負けず劣らずろれつが回っていなかった。
「美由希、傍に居たんだから気遣ってやらないか!」
「うう、ゴメン恭ちゃん。
一応気にはしてたんだよ?ここ寒かったし。
でも、30分経っても誰も寒そうにしないし震える様子もなかったから、魔法で暖房でもかけてるのかと思って」
『えぇ、はんじゅっぷん!?』
「時間の経過にすら気付いてなかった訳ね。30分どころかもうすぐ1時間になるよ」
自分が凍えている事に気付かないほど集中して見入っていただけあって、3人共時間が経つのも忘れていたらしい。なかなかの集中力である。
「あ、れ?な、なんや、いまはら震えが…」
「雑談は後だ!早く暖房の効いた部屋に移動するぞ!」
「いや、ここまで冷えきってるなら風呂に入れた方がいいだろう。
美由希、風呂は沸かしてあるから一緒に入ってやってくれ」
「私も?」
「大丈夫だとは思うが、体がかじかんで風呂場で転んだりしたら危ないからな」
「うん、わかった。はやて、抱っこするから掴まって」
「おてふう掛けまふ」
「どういたしまして。
なのはとフェイトも急いで」
「あ、うん」
「あ、あえ?足が動からい…なんれ?」
「わ、わらしも…?」
「え、2人ともそんなに凍えてるの?」
末端部や細かい動作に影響が出るならまだしも、足そのものが動かないとなればかなりの大事だ。
単なる寒さでは無かったのかと焦る美由希が視線をさ迷わせると、先程までの動揺を沈めた年下の少年から落ち着いた声音が帰ってきた。
「いや、慣れない正座で足が痺れただけでしょう。
ほれ、運んでやるから掴まれ」
「うひゃぁ!?」
「ほわわわわ!?」
恭也の声に美由希から伝染したなのはとフェイトの僅かな不安が氷解したのも束の間、言葉が終わるや否や両腕に抱え上げられ揃って驚きに声を上げた。
恭也の厚い胸板を背もたれにしてそれぞれ片腕で膝裏から太股辺りを下から支えられているため、まるで椅子に座っている様な体勢だ。2人が小柄だと言ったところでそれなりの体重はあるのだが、全くふらつく様子が無いのは流石と言うべきか今更と言うべきか。
それでも、お尻が完全に浮いている上に支えられてる足の感覚が曖昧な2人は、ずり落ちないように体を捻るようにして恭也の胸元にしがみついている。
その様子を端的に表すなら、
「バストショットで写真を撮ったら不破君がもの凄く女誑しに見える構図だね」
「5年以上後やっはら、完へきれすね」
「くだらん事言ってないで、さっさと進め。
…高町さん、こちらから申し出ておいて済みませんが」
「気にしなくていいから早く行ってくれ。
片付けは任された」
「はい、ありがとうございます」
少年の挨拶も早々に一同が退室して扉が閉められたのを見届けた恭也は、長く深く息を吐き出した。
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