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鏡の世界の迷子の旅路 無断転載
379
:
名無しさん
:2018/02/24(土) 22:29:05
零れた呟きからすればなのはの友人として扱われる事に不満があるようにも受け取れるが、そもそもこうして恭也的に鬼門であるはずの高町家に事情を説明に来ているのはなのはの友人として在るためなのだ。それにいくら恥ずかしがり屋とはいえ、恭也が照れ隠しとして採る態度とは思えない。
それでは一体何が?
そこまで考えた少女達は少々突飛な可能性に辿り着いた。恭也一人が何らかの異変を、あるいは危険を察知して警戒しているのではないか、と。
仮にそれが事実であれば、恭也がここまであからさまに雰囲気を変化させた現状は凄く危険なのではないだろうか?少なくともあの事件中でさえこんな事は数えるほどしか無かったはずだ。
そう思い至ったなのは達は、不安を滲ませながらも表情を引き締めた。
表情からその危惧を察した剣士2人が揃って小さく首を振るが、高町兄姉の実力を知らないなのは達が警戒を解く事はなかった。
先程までの会話からすれば姉と兄は少なくとも魔法に頼らない能力については自分達を遥かに上回るのだろう。だが、そうであったとしても恭也が気付いて2人が気付いていないという可能性を否定した事にはならない。そしてそれ以前の問題として、闇の書事件を恭也と共に戦った3人にとって、実際の能力や技能の優劣などとは関係なく、高町兄姉より恭也への信頼の方が厚いのは当然だった。
だが、続いて恭也が口にしたのは誰もが思いもよらない言葉だった。
「承諾すると言いましたが訂正します。
高町さん、是非、俺と手合わせ願えませんか?」
『え…?』
消極的だった態度を覆した恭也に対して、全員が疑問の声を漏らした。
会話の流れを考えれば、先程の兄の言葉に腹を立ててその憂さを晴らそうとしているとしか思えない。だが、いくら今が平時だとはいっても、あの恭也がそんな行動を採るだろうか?
物問いた気な視線を兄と姉から受けてもなのはにだって返せる答えは持ち合わせていない。
恭也の極端に起伏の小さい感情を察知する事に長け、非常に特殊な思考回路がはじき出す結論を高い精度で推測出来るからと言っても、彼の全てを理解している訳ではないのだ。それははやてやフェイトも同様だった。
妹達の表情から凡その心情を想像出来た恭也は、小さく息を吐くと挑みかかってくるような視線を静かに受け止めた。
事情を問い掛けたところで返事は期待出来ないだろうな。
それならいっその事、利害が一致したと考えるべきか。
そう結論を出した恭也は、少年の感情を煽る様に意識して唇の端を小さく持ち上げながら短く答えた。
「いいだろう」
* * * * * * * * * *
厳粛な静寂と身を切るような冷気に満たされた板張りの道場で2人が対峙していた。
大仰に構えるでもなく、気勢を発するでもない。
始まりの合図は無かった。それでも、間違いなく始まっている。
敢えて言うなら、先程なのはの兄の名乗り上げを遮る様なタイミングで振られた、素振りと言うには無造作な、他意が無いというには鋭すぎる恭也の一薙がそれに当たるのかもしれない。
…さっき?
さっきって何時や?
数分前?それとも、もう10分以上過ぎたんやろか?
たった数十秒間をはやてにそう錯覚させる程に、空気が張りつめていた。
いや、そう感じていたのははやてだけではない。並んで座っているなのはとフェイトも身動ぎもせずに固唾を飲んで見守っている。
普段行っている魔法の戦闘訓練とは明らかに何かが違っていた。
なのに、それが何か分からない。
はやては草薙道場での、フェイトとなのはは砂漠の惑星での恭也とシグナムの戦いを見ている。
だが、その剣士同士の戦いとも違うように思う。
ただ、静かに。
このまま、外界からの刺激が無ければ道場内は永遠に静止しているのではないかと本気で考え始めた頃。
「動く」
呟くような美由希の台詞が、やけに大きく耳に届いた。
続く
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