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鏡の世界の迷子の旅路 無断転載

378名無しさん:2018/02/24(土) 22:28:31
 確かに、突然、自分の同一存在が現れれば普通の人は驚くだろうし、それを許容するか拒絶するか嫌悪するか歓迎するかは本人の性格に依るだろう。
 そして、恭也にとっては『それがどうした?』と言う程度なのだ。
 如何に酷似した経験を積んでいようと、或いは全く同一の記憶を持っていようと、今この時間に同時に存在している以上、彼は彼であって自分ではない。記憶が共通であったとしても共有している訳ではないし、意志だって独立している。
 ならば、自分と彼は、間違いなく他人であって本人ではないのだ。
 だから、同一存在である不破恭也も同じ結論に至る事で、気兼ね無く状況を説明してくれる、そう思っていた。
 少なくとも、『話す必要がないから話さない』事はあっても『隠す必要が無いのに隠す』事は無いのだと疑いもしなかった。たとえ相手が腹立たしい存在であったとしても、屁理屈を捏ねてまで手合わせを避けようとするとは思っていなかったのだ。
 手合わせを避けるのは技を隠すため、と言うのが最もそれらしく聞こえるが、恐らくは違うだろう。
 実戦剣術である以上、剣技は門外不出が原則だ。生死を賭けた戦いで必殺を期して繰り出した剣技に対抗手段を編み出されていれば、死ぬのは自分であり同門の仲間である。
 『技』と表現する攻撃は決して同門の人間以外には見せず、見せた相手からは確実に命を奪わなくてはならないものだ。いくら同じ流派と目されていようと身内でない相手においそれと見せる事は出来ない。その考えは理解出来る。
 だが、通常の斬撃を全て隠す必要がないのもまた事実である。刀の種類によって戦闘スタイルは変わってくるが、日本刀である以上、基本的な扱い方に違いは無いのだ。流派特有の剣技をさらけ出したりしない限り、一度や二度の手合わせで全てを見抜ける訳では無い事くらい彼も承知しているはずだ。
 先の事件で負った負傷を妹達から隠しているから、露見しかねない戦闘行動を避けている、と言う方がまだ納得出来る。尤も、恭也の目から見ても動作に不自然さが無いためこの可能性も限りなく低いとは思っているのだが。
 では、自分との力量差を確かめたくないとでも言うのだろうか?
 だが、言っては何だが、彼は自分と同じでたとえ負けても子供然とした駄々を捏ねるタイプには見えないし、何より力量差から目を逸らしていては剣士など勤まらない。
 勿論、相手より力量が上だから手を抜ける訳ではないし、下だからと諦める訳でもない。
 敵と自分の持つ技能について何が上で何が下かを正確に見極めた上で、敵に力を出させずに自分の能力を最大限に活かす戦い方をする。それが趣味でもスポーツでもない、戦闘の本質だ。それを実戦経験を積んでいるであろう彼が履き違えているとは思え難い。
 そもそも上達の途上にある者が自分より格下を選んで戦っていては先が知れているし、彼の実力からしてそんな事をしてきた筈がない。
 ならば、この程度の考え方の違いは誤差の内で、彼にとっては隠す必要のある情報という判断なのだろうか?
 考えてみればそれは仕方の無い事なのかもしれない。恭也と言えど非常識な経験(一族の運動能力は除外)は全て高校3年に進学して以降のものだ。彼の老成した雰囲気から誤解していた面はあるが、恭也とて未経験の頃に自分の同一存在に出会っていれば混乱していたかもしれない。

「…腹立たしくはあるが、なのはの言う通りいつまでも目を逸らしていても解決はしないな」

 聞こえた声に思考を中断した恭也が顔を上げると、彼の視線とぶつかった。
 迷いは晴れたのか、相変わらずの仏頂面ではあるものの眼光には強い意志が見て取れた。恐らく、これが本来の彼の顔なのだろう。

「…恭也君のイジワル」
「何を今更。
 高町さん、先ほどの手合わせの件、承諾します」
「良いのか?
 こちらから言い出しておいてなんだが『なのはの友人』である事に君の素性は関係ないんだ。
 だから、君が俺と酷似している事についての説明自体、省略されても非難するつもりはないよ」
「…『なのはの友人』、ね」
「!?」

 徐々に友好的(?)になってきていた恭也の雰囲気が再度硬質なものに変化した事に困惑し、全員が視線を交わし合う。


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