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鏡の世界の迷子の旅路 無断転載

366名無しさん:2018/02/24(土) 21:53:23
「それじゃあ、恭也君もこれに懲りたら不用意な発言は慎む事。
 良いですね?」
「腰に手を当てて指を立てるな。言動が俺の嫌いな職種のものになってるぞ」
「私もスーツを着たらそれっぽく見えると思うんだけどどうかしら?
 放課後の個人指導とかって男の子の喜ぶシチュエーションって聞いたんだけど?」
「慎めと言った話題を俺に振るな」

 ジト目で睨む恭也に小さく舌を出しながら笑顔を返すシャマル。あまり多くない攻撃チャンスに調子に乗っているようだ。
 恭也がどういった反撃をするかと、黙って見ているつもりだったはやてだが、ふと浮かんだ疑問を恭也にぶつけてみる事にした。

「なあ、恭也さん。
 恭也さんは何で『不破』に戻そうと思ったん?
 あっ、いや、理由が無いとあかんとか言う訳やないんよ?本名なんやし。
 ただ、恭也さんは前の世界との繋がりは、無理してでもなのはちゃんのお父さん達から出来る限り隠そうとする気がして…」
「…そうか。
 …よく見てるな」
「え?」

 恭也の呟きが聞き取れなくてはやてが聞き返すが、聞こえなかったのか恭也は静かに目を閉じてしまった。
 考えを纏める為なのか、口にする事で何かが決まる事を躊躇しているのか、決まる事に対して覚悟を固める為なのか、それ以外の何かなのか。
 それは目を閉じた静かな表情から読み取る事は出来なかった。

「先に言っておくが、理屈なんて通ってないからな?
 …聞いているかもしれないが、俺の居た世界への移動は実質的に不可能と告げられた。
 だが、『だからこの世界に残る』とは言いたくないんだ。
 時空間を飛ばされた事は偶然だ。
 飛ばされた先がこの世界だった事も、その出口が散歩中のはやて達の眼前だった事も偶然だ。
 だが、俺がこの世界に残る事は俺自身が決めた事だ。
 此処に居る事が仮初めではないのだから、名乗る姓も仮初めのものにはしたくない。
 自己満足以外の何物でもないが、それが理由だ」

 説明を終えた恭也に視線が集まる。
 別に疑っている訳ではない。驚いているのだ。
 恭也が人の為に動くのはいつもの事だ。
 だが、自分の為に動く事は極端に少ない。
 趣味らしい趣味を持っているとは聞いた事がないし、自分の時間の大半を費やしている剣術すら、守りたい人を守るためだ。
 その恭也が、自分勝手な行動を、自分の感情を優先した行動を取ろうというのだ。

「そか。
 じゃあ、しゃあないな」

 恭也にそこまで思って貰えた。
 その理由には、きっと自分達の存在が占める割合もある筈だ。
 そう自惚れる事で良しとするべきなのだ。

「ありがとう」

 そう答えた恭也の表情を見てはやては思う。
 どうやら思っているほど自分は上手く笑えてはいないようだ、と。

「そういえば、これで恭也君と結婚した娘は苗字が不破になるのね」

 シャマルが唐突に発した言葉にはやての思考が停止した。

 …不破はやて?
 …悪くないのではなかろうか?

 視界の端に険しい顔が見える。
 フェイトだった。

 不破フェイト。いや、フェイト・不破か?
 どちらもちょっと語呂が悪いだろうか?
 日本人的には漢字の苗字に横文字の名前というのもしっくり来ない気がする。

「…?
 それはそうだろうが、どうして今そんな話が出てきたんだ?」
「あ、でも婿養子なら恭也君の苗字が変わるのよね?」

 なるほど。それなら正式に八神恭也になる。この響きはとても好ましいと思う。
 今度はフェイトも納得しているようだ。恭也・テスタロッサがお気に召したのだろう。

「…なぁ、ハラオウンの家でも時々あるんだが、この脈略のない話題転換は最近の流行なのか?
 それとも繋がりが読みとれない俺が鈍いのか?」
「恭也君が鈍いのよ。
 でも、そのままの恭也君で居てくれた方がお姉さん嬉しいわ」
「誰がお姉さんか!」

 からかわれて不満を表す恭也だが、それ以上続ける事はなかった。
 先程まで表情を曇らせていたはやてとそんな彼女を気遣わしげに見つめていたフェイトが、そろって夢見る少女風味の表情で壁を突き抜けた遙か彼方を見つめていたからだろう。
 尤も、恭也が心配そうな雰囲気を纏っている辺り、顔を曇らせているのとトリップしてるのでどちらが良い状態なのか判断に迷っているのかもしれない。


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