したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

鏡の世界の迷子の旅路 無断転載

357名無しさん:2018/02/24(土) 21:07:59
ピンポーン
「おお、流石。
 時間ぴったり!」
「たまに時間に遅れる事自体はあるのに、どうして来て欲しい時にはしっかり時間通り来るんでしょうね?」
「時間て言うよりタイミングやろうな。
 天性の女誑しやから、タイミング外したりせえへんねん」
「ほぉ。
 実に興味深い考察だが、そもそも女誑しとは誰の事だ?」
「…きょ、恭也さん?
 出迎え無しに入ってくれる言うことは、自分の家だと思ってくれてるんやね。うれしいわぁ。
 でも、それならチャイムもいらんのとちゃう?」
「ザフィーラが迎え入れてくれた」
「よし、ザフィーラお昼ご飯抜きな」
「主!?」

 怖くてはやてが振り向く事も出来ないまま裁定を下した後、全員で揃って食事を始めた。
 勿論、話を逸らした上にうやむやにするためにザフィーラに理不尽な命令を出したはやての後頭部には恭也のデコピンが炸裂している。冗談だと言うことが分かっている筈なので本気モードではなかったとは思うが、ダイニングに響いた炸裂音はなかなかに澄んだ良い音だった。
 意外なことにはやて至上主義者たちが、この教育的指導に表だって文句を並べる事は無かった。
 以前に言われた『過保護に接する事で、はやての人格を歪めるのが忠臣の成すことか?』という恭也の言葉が呪縛になっているのだ。
 ちなみに、その言葉が恭也がヴォルケンズの矛先を躱すための屁理屈であり、はやてがこの程度のやりとりで本気と冗談の区別がつかなくなる訳がない、という結論に至るのはもう少し先のことである。
 そんな訳で、涙目で食卓に着くはやてにおろおろとした気遣わし気な視線を送る一同の中で、当然恭也だけは平然と食事に取りかかっていた。
 恭也の前には他の皿と同量に盛られたパスタが3皿並んでいる。八神家で生活していた時期に恭也の食事量を把握しているはやてが、飽きが来ないように3種類の味付けのメニューを作ったのだ。
 流石に一緒に暮らしていた期間が長いだけにはやての配慮は細やかだ。勿論、『特別な想い』が含まれているからこそではあるのだろうが。

 ちなみに、恭也の食事量は朝昼晩とほとんど違いがない。
 『朝を抜くけど晩はしっかり』とか『朝食をたくさん食べる代わりに晩ご飯はつまみ程度』など、三食のどこかだけしっかり食べるという考え方が一般的だし、アスリートにしてもカロリーコントロールを念頭においた食事制限を行うものだが、そう言った配慮は見受けられない。せいぜい好き嫌いなく野菜類もタンパク質も取っているという程度だ。
 尤も、運動量自体が尋常ではない上に、彼の戦闘スタイルは持久力だけとか瞬発力だけに特化していては成り立たないので、ある意味『質より量』という形になるのも当然かもしれない。いや、あれだけの量を摂取すれば自然に必要な栄養も得られそうなので理には叶っているのか?誰にでも出来る方法ではないだろうが。
 そして、普段通りの健啖家ぶりを示す恭也の隣に座るフェイトはあまり食事が進んでいない。
 朝食の後、フェイトも恭也と一緒に『軽い』運動をしたのだが、朝食を頑張ってたくさん食べたせいか運動量のせいか、食欲を刺激するはずの香りがちょっと辛い。
 とはいえ、招いて貰った手前、残したりしたらはやてが気を悪くするだろうと態度に出さない様に食事を続けていると、一心不乱にパスタを頬張っているように見えた恭也が不意にフェイトに顔を向けた。

「フェイト、食欲が無いのか?」
「…えっと、ちょっと朝、食べ過ぎたみたいで」

 見抜かれているとは思っていなかったため、とっさに誤魔化すことが出来なかったフェイトは無難な理由を口にすることで恭也の言葉を肯定した。

「だから無理をするなと言ったのに」
「口に合わんかったかな?」
「そんなことないよ。おいしいよ?」
「これだけの味に文句をつける奴は居ないだろう」
「…そ、それはちょっと褒め過ぎやろ」

 恭也のやや婉曲な褒め言葉にはやてが頬を染める。
 最近は恭也が言葉にして料理を褒めてくれる機会自体が少なかったからか、思いの外、顔が熱い。
 そして、当然の様に恭也がその事に気づいた様子はない。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板