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鏡の世界の迷子の旅路 無断転載

346小閑者:2017/12/24(日) 17:59:50
「…う」
「あっ!気が付いた!」
「恭也君、大丈夫!?」
「痛いところ無いか?」

 あの後、3人は後先考えない全力飛翔で重力に引かれるままに落下を始めた恭也に追いつくと、体当たりするように抱きついたところで3人同時に魔力エンプティで仲良く団子になって落下した。シャマルが溜息混じりに掛けてくれた浮遊魔法が無ければ無理心中になっていたところだ。
 恭也が意識を取り戻したのは、着地して身体を地面に横たえて直ぐの事だった。
 流石の恭也もあれだけの砲撃に晒された直後だけあって、雰囲気に鋭さも堅さも感じ取れない。
 その事が余計に3人を落ち込ませた。
 迷子の子犬の様に項垂れる少女達は、叱り付けられる事に、あるいは嫌われる事に怯えながら窺う様な上目遣いで恭也の反応を待つことしか出来ない。
 少しの間、そんな少女達を茫洋とした視線で眺めていた恭也が漸く口を開いた。

「…まったく。
 少しは、加減しろ。
 死ぬかと…思ったぞ」
『ゴメンなさい…』

 弱々しい、聞き様によってはのんびりとした恭也の文句に縮こまりながら異口同音に謝罪を口にする。
 そうして下げた頭を少しだけ持ち上げて恭也の様子を窺ったところではやて達の顔に疑問の色が浮かんだ。
 てっきり、怒るか呆れるかしていると思っていた恭也が、不思議なほど穏やかだったからだ。別の何かを隠すために取り繕っているとも思え難い。
 困惑する少女達を他所に、恭也は寝転がったまま思い返すように目を閉じた。

「負けたか…。
 ぐうの音も出んな。
 …フ、フフ、ハハハ」

 穏やかに笑い出す恭也をはやて達も、離れて様子を見守っていたクロノ達も呆然と眺めることしか出来なかった。
 衝撃が強過ぎて…、と言うほど異常を感じるものではない。
 勿論、あの恭也が人前で笑い声を上げているからには、ダメージや疲労による自制心の低下はあるだろう。少なくとも誰もが今までに感情の発露として笑声を零す恭也を見る機会はほとんど無かったはずだ。
 それでも、これほど無防備に、そして穏やかに笑い声を響かせている理由はもっと別にあるだろう。

 単純に全力を振るえた事に満足しているのかもしれない。
 困難な道を選んだ少女達が、3人がかりとは言え自分の全力を上回る力を示した事に安心したのかもしれない。
 戦略級の攻撃魔法を持ちながらも、子供らしい素直さを無くしていない事に喜んでいるのかもしれない。
 自分の敗北が事件を破綻させる致命打になるのではないか、という重圧から開放された事を漸く実感出来たのかもしれない。

 どれも推測でしかない。
 当たっているものがあるかもしれないし、全てが当たっているかもしれないし、逆にどれ1つとして当たっていないかもしれない。
 それでも、実際がどうだったとしても、こんな笑い方が出来るならきっと恭也にとっては良い事なのではないだろうか。

 その手伝いが出来た事が嬉しくて、役に立てた自分が少しだけ誇らしくて、少女達も知らず穏やかな笑みを浮かべていた。





終わり


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