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鏡の世界の迷子の旅路 無断転載

329小閑者:2017/12/24(日) 17:41:02
 何かのスイッチが入ってしまったらしいはやては、詐欺師然とした表情でなのはとフェイトを罠へと誘い込む。
 無論、なのは達にもはやての意図は読めているが、ここで提案を拒めば鬼の首を獲ったかのように『それ見たことか』と言われるのが目に見えているので引き下がる訳にもいかない。

「い、良いよ。はやての思い通りになんてならないんだから!」
「そうだよ、全然平気なんだから!」
「ふっふっふ、よう言うた。
 じゃあ、まずは2人とも目を瞑って」

 はやての言葉に2人が素直に従ったことを見届けた後、はやては恭也を手招きした。
 この状況で手招きに応じれば片棒を担がされる事は明らかだが、今のはやてに逆らう事と天秤に掛ければどちらに傾くかという事もまた明らかだろう。

「そのまま頭の中にその『大事なお友達』の顔をしっかり思い浮かべて」

 2人ともはやての言葉に逆らう事無く、素直に相手の顔を思い浮かべているようだ。何故それが分かるかと言えば、2人の頬が仄かに色づいているからだ。
 …思い浮かべただけで頬染めといて、よう『友達』なんて言い張れるなぁ、とはやてでなくても思うだろうが、言い張る以上はぐうの音も出ないほどの証拠を突きつけるのみである。
 はやてがそのためのミッションを耳打ちすると、予想通り恭也が胸の前で両手を交差させて拒否の意思を伝えてきた。
 とはいえ、ここで恭也に動いて貰わなければ効力が半減どころか激減してしまう。
 それでも、恭也に強制する権利など持たないはやては、気持ちを込めた笑みを浮かべて、もう一度視線でお願いしてみた。
 幸いにしてはやての笑顔を目にした恭也は一度だけ肩をビクッ!と揺すると、ミッションを実行するために脇目も振らずに二人の方へと歩いて行った。誠意を込めれば気持ちは通じるものである。

「普段私らをからかう時とは違う真剣な顔で見つめてきました。あなたに何かを伝えようとしとるようです。
 手の届く距離から更に半分の距離まで顔を近付けてきました。目を逸らしたらあかんよー。
 『落ち着いて、良く聞いてくれ』と前置きしてから、ゆっくりと息を吸いました」

 気をつけの姿勢で指先まで真っ直ぐ伸ばしてカチコチに固まっているなのはと、左手を右手で包み込み胸元に引き寄せた姿勢で緊張から震えているフェイト。
 そして、目を閉じたまま想い浮かべた相手に視線を合わせるために上げた顔が、正確に自分の顔を捉えている事に首を傾げる恭也。
 疑問を抱えながらも振られた役割を全うするべく、少女達の緊張が最高潮に達した瞬間、はやての用意した台詞を並んで立つ少女達の間、その耳元で囁いた。


「好きだ」


 変声期前でありながら低く落ち着いた声に一瞬意識を漂白された後、言葉の意味が浸透したところでなのはとフェイトが両目を開き、間近にある恭也の顔を目にして腰を抜かしてバランスを崩す。
 恭也が慌てて受け止めるが、それはイコール密着するということだ。つまり、逆効果。
 これこそ純色の赤だ、と言わんばかりの顔色。口から漏れ出す意味を成さない呻き声。落ち着く事無く泳ぎまくる視線。
 自立することも恭也にしがみ付く事も出来ない身体は、だからこそ恭也に強く抱きしめられ、だからこそ混乱に拍車が掛かる。それを悪循環というか好循環というかは彼女たちの表情からでは判断に迷うところだ。
 左右の手で一人ずつ抱き寄せた体勢の恭也は、一緒に屈み込みながら2人を地面に座らせてから顔を覗き込む。

「人間の顔ってこんなに紅くなるものなんだな」

 完全に人事風味の台詞に周囲から白い視線が突き刺さるが、自覚のない恭也には視線の意味も理解出来るはずがない。

「それにしても相手に関係なく『その言葉』だから反応するというのはどうかと思うぞ?」

 恭也の斬新な解釈の仕方に対して、満面の笑みで高々とVサインを掲げるはやて以外にリアクションの取れる者は居なかった。
 ど真ん中ストライクだったからだろ!という直球の言葉を少女達のために飲み込むと、他のリアクションが思いつかなかったのだ。
 そんな周囲の気持ちを他所に、立ち上がった恭也が独り言の様に呟いた。


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