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鏡の世界の迷子の旅路 無断転載

327小閑者:2017/12/24(日) 17:38:06
 とうとうはやての頬を涙の雫が伝い始めた。
 見かねた恭也が話を止めようと口を開くが、静かに首を振る事で柔らかく拒む。
 この話をする時には最後まで話すと決めていたのだから。
 服の袖で乱暴に目元を拭うと、はやては視線と声に力を込めて話を再開した。

「だからな、決めたんよ。
 心配しとっても何も変えられんなら、その人のために、私に出来る事をしたろって。
 それで、何が出来るか一生懸命考えて、リインフォースから貰ったこの力を活かして働くことにした。
 あの子がこの使い方を喜んでくれるかどうかは自信があらへん。でも、きっと分かってくれるとは思てる。
 管理局員になって、悪い事してる人捕まえて、困ってる人助けて。
 そうやって、いつか誰も悲しんだりせんでもいい世界に出来たら」

 瞼を伏せたはやては、あまりにも現実的とは言えないその世界で穏やかな時を過ごす恭也の姿を想像して自然に微笑みを浮かべる。
 リインフォースが夢の中で構築した『悲しむ人の居ない世界』。それを実現させるなどという夢、人に話せば一笑に付される事ははやてにだって分かっている。無知な子供の絵空事だ。
 それでも。

「きっと、その人も、心から笑って過ごせるんやないかなって」

 何に変えてでも幸せにしたいと想える恭也が幸せそうに微笑む姿を想い描いてしまったのだ。
 それなら、もう頑張るしかないじゃないか。
 先の事など分からない。挫折するかもしれないし、心変わりするかもしれない。それでも、今、言い訳を並べて何もしなければ、絶対に後悔する事だけは確信しているのだから。

「だから、私は特別捜査官になろうと思ったんよ」

 はやては言葉を結ぶと真っ直ぐに恭也を見つめた。
 恭也なら本気の言葉を嘲笑うような事はないだろう。ただ、自分のために途方もない目標を定めたと知れば心を痛めるかもしれない。
 聞かれても答えるべきではなかっただろうか?少しだけそう思うが、途方も無い夢だけに口にすることで少しでも意思を強くしたいという甘えもあった。
 だが、恭也のリアクションははやての想像とは違っていた。何と言うか、こう、眩しいものを見るというか、子の成長を喜ぶ親の様な…?

「そうか。
 そこまで想い合う相手が居るとは知らなかった」
「…想い合う?」
「自覚してないのか?
 その世界の実現が途轍もなく難しいのは分かっているんだろう?
 それでも一個人を幸せにするために努力を惜しまないという事は、『一生を懸けてその人のために尽くす』と言っているのと変わらん。つまり、愛の告白と言う訳だ」
「こくッ…!!!」

 はやては思いもよらない展開に混乱した。
 確かに、恭也に対してそういう気持ちがない訳ではないが、この気持ちは何の自覚も覚悟も無しに口にした言葉で伝える予定ではなかったのだ。

 出来れば、やっぱりこういうことは男の子から切り出して欲しいけど、きっと恭也さんは恋愛感情とかには無頓着と言うか、自分の気持ちに気付くのにも年単位の時間が掛かりそうだから、恭也さんと吊り合うくらい魅力的になったと自覚出来たら、2人っきりでムードのある夜景をバックにこちらから告白しようかと

「危険を伴う仕事となればはやて一人の問題じゃないんだ、相手とよく相談しろよ。
 俺から言えるのはそれくらいだ」
「うん、うん、ありがとなぁ。
 恭也さんならそう言うてくれると思とったわ」
「…何故泣く?」
「泣いとれへんわ!
 これは心の汗やねん!!」
「そ、そうか」

 恭也を怯ませるほどの気迫で言い切るはやて。
 さっきの言葉を告白として受け取る感性があるのに、よもや『その人』が誰なのか分からないなんて予想もしなかった。

 普通気付くやろ!?エロゲの主人公属性は生まれ持った天賦の才やったんか!?

 どこぞの電波を受信するほど錯乱するが、現実逃避も長くは続かなかった。
 身内とは言え衆目監視の中での一世一代の告白をスルーされた形になったはやてに注がれる生温い哀れみの視線は、全く有り難くない事に錯乱していたはやてをすぐさま正気づかせてくれた。
 そんなマジ泣きしそうなほどの居た堪れなさに悩まされるはやてに助け舟を出したのは、事の元凶である恭也だった。


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