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鏡の世界の迷子の旅路 無断転載

326小閑者:2017/12/24(日) 17:37:28
「力を持たない人を守るというのは尊い行為だ。
 お前たちの持つ類い稀な力を持ってすれば、きっと多くの人を助けられるだろう。
 その選択自体を非難する積もりはないし、そんな権利は持ち合わせてはいない。
 ただ、これだけは聞いておきたいんだ。
 その選択の先にはお前達にとっての幸せが存在するのか?」
「幸せ?」

 突然概念的な内容になったため思わずはやてが尋ね返す。
 幸せ
 それは個人の趣味・嗜好に依存するものだ。
 たった一人で豪華な食事を取る事を、喜ぶ者も居れば寂しいと評する者も居る。それは絶対的な正誤の存在しない問題だからだ。
 恭也もそれを理解しているからこそ、『お前たちにとって』と聞いているのだろう。

「呼吸するように人助けをする人も居る。それはその人の価値観が他人を助ける事を是としているからだ。
 だが、社会的通念として『そうする事が正しいから』という程度の気持ちであれば止めた方が良い。
 その考えはいつか必ずお前達自身を不幸にする。
 力を持ちながら人助けをしない事を非難する者が現れるかもしれないが、そんな奴は無視して良い。俺が許す。
 力を持たない者も持つ者も同じ人間だ。持たない者は守られるのに持つ者は守られないなんて事があっていいはずが無い」

 権力も財力も無い(武力だけは一個人としては破格なほど持ち合わせているが)小学生に許されたところで何の慰めにもならない筈だが、矢鱈と心強く感じる。
 何より、自分達の事を心底から心配してくれているというだけで、この上も無く嬉しい。

「うん、心配してくれてありがとうな。
 でも、大丈夫や。私ら、管理局に入るんは目的があんねん」
「目的?
 そうか…ん?3人とも同じなのか?その目的は」
「えっと、まぁ、同じ、かな?」
「差し支えなければ教えてもらえないか?」
「はは、やっぱそうなるわな」
「無理強いする積もりは無いが?」
「ああ、ええねん。聞かれたら答えようとは思とったし。
 なのはちゃんもフェイトちゃんもええよね?」
「うん、いいよ」
「はやてに任せるよ」
「では、私が代表して。
 あ、一応言うとくけど、3人で相談して決めた訳やないんよ?それぞれが決めた事をお互いに話とこってことになったら、同じ目的やった言うだけやねん」

 それだけ前置きをした後、小さく深呼吸したはやては、恭也に向き直るとゆっくりと話し始めた。

「私な、守りたい人がおるんよ」

 その言葉に反応した恭也の眉がピクリと動いた。
 その言葉は、恭也がデバイスマイスターである老人に特殊な仕様のデバイスを求める動機を聞かれた際に、説明の冒頭に用いた言葉と重なっていた。そうとは知らないはやては、恭也の反応を不思議そうに見返しつつも話を続けた。

「その人、えらい強い人でな、その人に無理なら他の誰がやっても無理やろって思わせるような人やねん。
 おまけに心まで強くてな、その人の事良く知ってる人が言うには、その人は大切な人を守るために必要やったらその他の全部を見捨てられるんやって。
 …私も、そう思う。
 きっと、相手が小さな子供でも、無力なお年寄りでも、男の人でも女の人でも関係なく、それがどうしても必要やって判断したら、躊躇無く、平然と、…見捨ててみせると思う。
 …どれほど苦しくても、どれほど悲しくても、どれほど辛くても、…平然とな。
 誰にも言い訳せんと、誰にも悩みを打ち明けんと、誰にも…心配させてくれへんと、平然として見せる、そういう人やねん」

 震えだした声を落ち着けるために、言葉を止めて深く大きく呼吸する。
 見ると、なのはの目には涙が浮かび、フェイトは震える身体を治めようと胸元で両手を重ねて握り締めている。2人も翠屋の控え室で決壊寸前の心を抱えて床に蹲る恭也の姿が脳裏に浮かんだのだろう。

「いっくら良く見てても、次は気付かれへんかもしれん。次は大丈夫でも、その次はどうか分からへん。きっと隠すのも上手くなってくから、いつか見つけられんくなるかもしれん。
 でも、『やめて』なんて言えれへん。
 不器用やから、そういう風にしか生きられんのやって、自分で言うとってん。
 なら、止める訳にはいかへんやん?その人に、『その人である事をやめて』って言うのと変わらんもんな」


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