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鏡の世界の迷子の旅路 無断転載

321小閑者:2017/12/24(日) 17:31:40
 別に、その時々に2人の傍に居たのは恭也だけではないし、恭也が居なかった時もあった。居た時であっても恭也自身が直接的に2人のために何かをしていた訳ではなかった。逆に恭也が原因になりかねないものさえ混ざっていた。
 それでも2人が恭也と距離を取る事はなかった。
 それは、辛い時に何時も助けてくれる『英雄』に、言い換えれば助けてくれなければ存在価値の無い『英雄』に、恭也を祭り上げていた訳ではないということだ。
 そもそも、恭也には他人に手を差し伸べている余裕などなかったはずなのだ。何故なら、両陣営の状況を知っていた恭也は事件に係わった誰よりも辛い立場に在ったのだから。
 恭也ははやてを助ける手段を探すために管理局に潜入した事で、徐々に追い詰められていく守護騎士達の様子を突き付けられ続けた。そして、そんな彼女達を助けるどころか追い討ちをかける立場に在ったのだ。毛筋ほどの動揺も表すことの無かったその胸の内ではどれほどの葛藤があったのだろうか。
 ヴォルケンリッターが私欲で動いている訳では無いと察して力になりたいと思いながらも犯罪を是とする事も出来ず苦悩するなのはとフェイトの姿も恭也は見続けていた。仮に2人がヴィータやシグナムを純然たる『悪』であり単なる『敵』だと認識して、自分達を『正義の味方』とでも思い込んでいる様な単純な子供だったなら恭也の抱く想いも変わっていたかもしれない。だが、そうではなかった以上、恐らく戦闘で互いに傷付けあう2人にも守護騎士達にも恭也は心を痛めていただろう。
 そんな状況にあって、悲観にも楽観にも傾く事無く、程よい緊張を保ちつつ適度にくつろいでいる様を繕いながら、必死に、有らん限りの力を尽くして手を差し伸べようとする恭也。
 なのは達が心の支えにしていたのは、あるいは逆境でも踏み止まり自らが強く在ることで支えたかったのは、そんな恭也なのだ。
 その想いの強さは、嫌われる事を覚悟してでも恭也を諌める姿から容易に推測出来るだろう。
 そして、居候していた八神家においても、孤独に苛まれながらもはやて達のために尽力していたであろう事は、はやて達の態度を見れば想像に難くない。

 結局のところ、平時には一見すると傲岸不遜な態度を取る恭也であるが、非常時に垣間見せる彼の本質を知ってしまえば嫌う事が酷く難しくなるのだ。
 全くもって、厄介な事この上ない男だ。

 感慨に耽る少年達を脇に、少女達の舌戦は続いていた。
 そして、徐々にヒートアップしていく3人の様子を見かねて口を挟んだのはシグナムだった。

「主はやて、互いに譲歩する気がないならいつまでも結論は出ないでしょう。いっその事、本人の意見を採用しては如何です?」
「はぁはぁ、そ、それもそやな」
「そ、それなら、はぁ、私も構わないよ」
「恭也は、はぁはぁ、どっちのチームが良いの!?」
「…ん?チーム?
 …まぁ、また別の機会もあるだろうし、今回はその組み合わせで良いんじゃないか?」
「…あ、うん」
「そう、そうだよね。次があるよね」
「はは…、じゃあ、今回はこのまま、いう事で」

 まるで自分を巡って行われていた少女達の言い争いが聞こえていなかったかのような恭也の至極冷静な答えに、息も絶え絶えになるほど白熱していたはやて達も“素”に戻されてしまった。

「…恭也は相変わらずみたいだね」
「まぁ、な…はぁ」

 諦め口調のユーノの台詞に、クロノも溜息に溶ける様な声を返した。
 もともと恭也は多弁とは言えなかったが、こうしてみんなで集まった時に火が消えたように感じてしまうと恭也の変化を痛感させられる。


 クリスマス以降、恭也の発言からは皮肉や冗句の類が完全に抜け落ち、常に張り詰めていた雰囲気は霧散してしまっていた。いや、恭也と一緒に居る少女達は妙に落ち着いていたというか安心していたので『張り詰めていた』という表現には語弊があるのだろう。ただ、周囲を威嚇することも無く傍から見ていて欠片ほどの油断も無い事が見て取れた以前とは明らかに違っていた。
 あの晩の事で恭也を助けられた、少なくともそのきっかけにはなったと思っていた少女達は勿論、周囲の者は皆多少の差はあれ困惑した。
 彼の言動が高町恭也に似ている事に気付いたユーノの『憑き物が落ちた結果、本来の不破恭也に戻ったのではないか?』という仮説に一度は全員が頷きかけた。今の恭也も『抜け殻』と言う訳ではなかったし、一緒に居ると落ち着ける雰囲気は残っているからだ。
 だが、翌日には自他共に認める恭也観察者達がその仮説を否定し、『考え事か悩み事に没頭している』という一致した意見を出した。
 そして、恭也に対する観察眼の高さを鑑みた結果、少女達の説が有力視された。丁度、今後の身の振り方を決める時期ではあったし、そもそも誰にとっても激動の日々が収束したばかりなのだから無理もない、という今の状況もこの説を補強していた。


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