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鏡の世界の迷子の旅路 無断転載

316小閑者:2017/12/03(日) 13:16:30
 込み上げる恐怖心を必死になって押さえつける。
 今まで見てきた恭也の異質さとは一線を画すその反応に、嫌悪感すら含んだ恐怖心で体が震えだす。
 好きな人が、大切な人が、守りたい人が傷付いた時に悲しまない人間などいる訳が無いと思っていた。
 そんな事は、心を持つ者ならどんな存在であろうと、例外など居る筈が無いと。
 その、居る筈の無い例外が、今、目の前に―――

<そんな筈、あるかい!!><違う!!><有り得ないよ!!>

 同時に上がった否定の言葉。
 互いの言葉に励まされて揃って胸を撫で下ろす。
 そうだ。ある筈が無い。
 あれほど心を痛めている姿を見せるのも、無力な自分を責めるのも、悲しいからこそだ。
 ならば、何故恭也自身がそんな勘違いをしているのだろうか?余程の理由が無ければこれほどの思い込みは出来ないだろう。
 あるいは、その理由が分かれば恭也を解放する糸口が見つかるかもしれない。

<なんやと思う?>
<ちょっと想像もつかないかな>
<恭也君のことだから物凄く突飛な事を考えてるのかも>
<う〜ん、そう言われればそんな気もするねんけど、具体的な事が思いつかんのよね>
<そう、かな?
 恭也も結構、理論的だと思うんだけど…>
<そうかぁ?>
<うん。
 ただ、普通の人なら『無理だ』って諦める所をそのまま突き進んじゃうって言うか…>
<ああ、そうか。
 そうだね、だから恭也君のやることってトンでもない事に見えるのに、説明されると凄く単純な言葉で済まされちゃうんだよね>
<う〜ん、そうなるとこの場合は…>

 『悲しくない』ではなかったとしたら何があるだろうか?
 悲しいと思えない?そんな筈は無い。それにこれでは意味合いがほとんど変わってない。
 悲しいと思ってはいけない?悲しむ権利の無い人なんて、…権利の、無い人?それは、加害者だろうか?でも、恭也は決して加害者などでは…守れなかったから?守れなかったから、悲しんではいけない、の?
 いくらなんでも、そんな…そんな理由で?
 そんな通ってもいない理屈で、感情を捻じ伏せることが出来るなんて思えない。感情をコントロールするのは容易な事ではないのだから。そう、如何に筋道立てた論理を示したところで泣き止んでくれる子供などいない。…理屈ではないのだから。
 理屈でも、論理でも、道理でもなかったのなら。…ただ、赦せなかったのではないのか?
 フィアッセを傷つけた者を。フィアッセを守れなかった己を。
 だから、フィアッセを守れなかった自分には、悲しむ権利なんて、無い、と…

 のろのろとした動きで左右を確認すると、なのはとフェイトも同じ結論に至ったようで、呆然とした顔には『信じられない』と書かれているかのようだ。
 純粋、だったと言う事なのだろうか?
 悲しむ事を禁じるなんて、自傷行為に近いものだったのかもしれない。
 その思い込みが、時と共に暗示となり、強固な呪縛となったのではないだろうか。

 真相など、分からない。
 本人にすら、自覚はないだろう。
 でも、そうだとしたら、あまりにも…

「アホや、なぁ…」

 はやてが軽く笑い飛ばそうとするが、震える声では成功しているとは言い難かった。

 なんて不器用な人なのだろうか?
 普通の人には真似出来ない様な事は平然とこなすくせに、誰も疑問に思わないような事に躓いて先に進めなくなってしまうなんて。
 はやては唇を噛んで湧き上がる感傷を振り払う。今考えるべきことは、恭也をこの呪縛から解放する方法だ。


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