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鏡の世界の迷子の旅路 無断転載

315小閑者:2017/12/03(日) 13:15:05
「だけど、それ以上に、母さんを失った事が悲しいから、思い出して泣いちゃう事もあるんだ。
 でもね、夢に見て泣きながら目を覚ました事は何度もあったけど、起きてる間に思い出して泣ける様になったのは最近の事なんだ。
 恭也が、泣いても良いんだって、教えてくれたからだよ」


『理由なんて、どうでも良い。状況が許す限り泣きたい時に泣いておけ』


「自分の事を赦せなくても、嫌いになっても、仕方ないかもしれない。
 でも、悲しい時には、泣きたい時には、ちゃんと泣かなくちゃダメだよ?
 だって、泣いてもいい時には我慢しちゃいけないって教えてくれたのは恭也なんだよ?」
「…別に、我慢なんて、していない」
『えっ!?』

 思わず口を衝いて出た驚きの声が自分の耳に届く事で我に返る。
 同時に、その声が自分のものだけでない事を知って、他の2人の前で泣いていた訳では無い事も理解する。
 では、他の人の前で泣いていた?あの、恭也が?
 自惚れる積もりはないが、それは無いような気がする。
 では、独りで居る時に?
 過去の新聞記事から一族の滅亡を知った夜に『寂しい』と零した時にさえ涙を流さなかった恭也が?
 家族の死亡する光景を思い出して錯乱していた時にも、夢に魘され跳ね起きた時にも涙を見せなかった恭也が?

「恭也君、それじゃあ、悲しい時には、ちゃんと泣いてたの?」
「…」

 なのはが恐る恐る口にした疑問に恭也が答える事はなかった。
 その事に、3人は嫌な想像が膨らむ事を止められない。


 悲しい時には泣くべきだと言ったのは、恭也だ。我慢なんてしていないとも。それなのに、泣いたのかと尋ねると沈黙で応えた。

 泣いたと答える事が恥ずかしかっただけなら構わない。男の子としての矜持だってあるだろう。
 だが、たとえ独りで居る時だったとしても、本当に恭也に感情を吐き出す事が出来たのだろうか?それが出来ていて、それでもここまで追い込まれているのだろうか?
 客観的に見るなら、追い詰められても何の不思議も無い状況だろう。自分が恭也の立場に居たら、家族の死を知らされた時点で、暫くの間、行動どころかまともに思考する事も出来ないかもしれない。
 だが、その立場に在るのは、あくまでも恭也だ。
 過大に評価してはいけないが、過小に評価する事にも意味は無い。
 それに、今現在、心の傷と虚ろな表情を晒している恭也は泣いていないのだ。独りで居たからといって泣けるとは思えない。

 ならば、我慢していないという言葉が嘘なのだろうか?
 普通に考えれば、それが一番有り得る話だ。
 異常と言っても差し支えないほど我慢強い恭也なら、本当に限界ぎりぎりまで耐えてしまうかもしれない。たとえ、限界の先が崩壊だと承知していたとしても。
 3人が心配していたのもまさしくその事だ。だからこそ、感情を、悲しみを泣くと言う行為で吐き出させようと考えていたのだから。

 だが、もしも先の言葉に一つとして嘘が無かったとしたら?
 全てに嘘がなく、それでいて矛盾しないように説明する事は出来る。
 だが、そんな事が有り得るなど信じられない。
 それでも、その条件であれば納得出来る事もある。
 『我慢強い』と言う言葉だけで片付けるには、恭也の状態は異常に過ぎる。
 想像通りだとすれば、今の恭也を占める感情は自分への嫌悪と憎悪だけだ。それらの感情を吐き出させれば、確かに自傷行為、最悪、自殺以外にはないだろう。過剰と言うのも生温いほどの鍛錬を自らに課していたのは自傷行為と変わらないと思っていたが、まさしくその通りだったのでは?
 その想像が単なる妄想だと笑い飛ばすために、意を決したなのはが震える声で問い掛けた。

「…ねぇ、恭也君。
 ちゃんと、悲しんでるよね?
 フィアッセさんの事も、リインフォースさんの事も。
 ちゃんと、悲しいって思ってから、それから、自分の事を責めてるんだよね?」
「―――?」

 恭也のリアクションに、今度こそ3人は言葉を失った。
 その疑問符は、『何を当たり前のことを?』と言うものではない。
 『何故、悲しむのか?』と、『悲しむ理由が何処にあるのか?』と、そう問い返していた。


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