したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

鏡の世界の迷子の旅路 無断転載

307小閑者:2017/12/03(日) 12:56:52
「あの、」
「わ、態とじゃないぞ!?」
「は?」

 いっそ床に降ろして貰おうと彼を見上げると脈略も無い言葉が返ってきた。
 どちらかと言えば言い訳染みたその台詞は自分が口にするべきものではないだろうか?

「わ、鷲掴みや…」
「だ、だから態とじゃないんだ!」
「…え?」

 その遣り取りで美由希にも漸く事情が理解出来た。
 美由希を支える彼の手が美由希の左胸を掬い上げるように堂々と鷲掴みにしてると言っていた訳だ。まあ、この位置関係なら当然…!?

「ひゃああああ!?」
「っちょ、暴れたら余計に押し付けられてっ!?
 速く立ってくれ!」
「そ、そんな事言われても届かな、っわ!?」
「何をやってるんだ、お前は」
「あ、きょっ恭ちゃん」

 背後から襟首を摘まんで引き上げてくれたのは今度こそ兄だった。
 どさくさに紛れて揉みしだく様な真似はされていないが、人一人分の体重を片手で支えて微動だにしない力強さが、遥かに年下の子供である彼が『男』なのだと強く意識させられた。
 顔が熱い。きっと真っ赤だ。
 無意識の内に抱き寄せていた自分の腕に胸を守るように力が籠もる。

「まったく。
 ほら、ちゃんと礼を言っておけよ。同時に2度も助けられたんだからな」
「あ、う、うん。
 あの、ゴメンね?それと、ありがと。折角のケーキや料理が台無しになるところだったよ」
「…いえ、大事無くて何よりです。
 ところで、助けておいて礼を求めるのは自分でもどうかとは思うのですが、出来れば俺の背後で膨れ上がるプレッシャーを何とかして貰えませんか?」
「え、え〜と。助けて貰ったんだし、恩は返したいところだけど、多分私が口出しすると余計に縺れると思うんだ。
 ゴメンねー!」

 それだけ告げると、美由希は那美と美緒のところへ逃げ帰ってしまった。
 なかなかに薄情ではあるが、流石に年頃の女の子にどんな理由であれ胸を鷲掴みにされた直後にその相手と朗らかに会話をするなど無理な要求というものだろう。
 仮に、小学生の妹達の放つ気迫が凄いことになっていたとしても、きっと逃げ出した原因としての割合は些細なものなのだと思いたい。
 取り残された恭也の腕を両脇から抱えた眉間に皺を寄せたなのはとフェイトが、車椅子を玉座と錯覚させるほどに睥睨しているはやての前に恭也を連行した。

「恭也さん、なんか言うことないか?」
「うむ。
 りんごみたいな大きさで手に収まりきらないのに、もの凄く柔らかかった」

 半眼で問い質すはやてに対して、真面目な表情のままでありのままを語る恭也。
 逃げ帰った美由希の耳にも届いたらしく遠くから『あぅ…』とかいう呻き声が聞こえてくる。

「素直で宜しい。ちょお話があるから、ここに座りなさい」
「拒否権は」
「無い」

 他の人達に背を向ける形で置いた椅子に両脇を固められたままの恭也を座らせるとはやては正面へ回り込んで小声でも聞こえるように顔を近づけた。

「恭也さん、大丈夫?」

 問い掛けるはやてのか細く掠れた小さな声は既に震える事を抑えられなくなっていた。
 そんなはやてを落ち着かせるように、何かを包む様に開かれた右手を見下ろしながら恭也が静かな声で答えた。

「心配し過ぎだ。流石に驚いたけどな。
 それにしても、柔らかいものなんだなぁ。
 鼓動まで感じられたし、暖かいし、手に余る程成長してるん、だっ…て」


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板