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鏡の世界の迷子の旅路 無断転載
305
:
小閑者
:2017/12/03(日) 12:54:33
外見通り清楚で柔和な内面を持つ上に人見知りの気のあるすずかにしては、それほど親しいと言えない恭也に対して随分と踏み込んだ発言だった。
そして、すずかがあんな態度をとったという事は、
「そうとう怒らせた、かな」
「それもあると思うけど、凄く心配してるんだよ」
「…そうだな」
恭也が相手を怒らせる事を承知しながら態度を崩さないのだから、なのはとしてもそのことを注意しても仕方がないと思っている。それは、本当の意味で相手を傷つけたりはしないだろうという信頼も含めた諦観ではあるのだが、それでも口を出したのはなのはとしても恭也に親友の事を誤解して欲しくはなかったからだ。
短い返答から恭也も理解してくれている事を感じ取ったなのはは、改めて恭也の様子を窺った。
先程3人が口にした『目から感情を読みとれる』という言葉は嘘ではない。それなのに、今の恭也からはほとんど読み取ることが出来ないでいた。
じっと見つめていれば、時折微かに揺れている様には見える。ただし、それがどんな感情なのかまでは分からないし、小さ過ぎるためか即座に抑え込んでいるためか、すぐに消えてしまう。
それらが意図したものか無意識の行為か、それすら分からないという事実が更にはやて達の不安を掻き立てる。
恭也がリインフォースの死を悲しんでいるのは想像するまでも無いことだ。
なのはやフェイトですらショックを受けた。
そして、逢って間もないにも拘らず家族として受け入れていたはやての受けた傷はなのは達の比ではなかった。
泣き崩れずにいられるのは家族に心配を掛けないための虚勢でしかなく、このパーティへの参加もその意味が強い。
逆に、はやての傷心を知るシャマル達が送り届けてそのまま帰っていったのは明るい場に居ることではやての気が紛れる事を期待したのと、自分達の存在がはやてに虚勢を張らせる要因になると理解しているからだ。
では、恭也は?
病室でシグナムが言っていたように、リインフォースに最も深く接したのは間違いなく恭也だ。
その距離は、あるいは家族としてのそれよりも近いものだったのかもしれない。ならば、彼女の死に誰よりも深く傷付いたのは、彼女の死を誰よりも深く悼んでいるのは恭也ということになる。悲しみや動揺を隠せなくなるのは当然と言えるだろう。
だが、恭也は故郷の実の家族の死により受けた衝撃すら、意識を保っている間は周囲から隠し続けた。
愛情の深さに優劣をつける行為は決して褒められたものではないが、これでは恭也にとって家族への愛情が合って間もないリインフォースへの思いより低い様に見えてしまう。
だが、転移事故で孤独に押し潰されそうになっていた姿や新聞記事で知った一族滅亡の事実に打ちのめされていた時に寄り添っていたはやても、家族の死ぬ場面の記憶を取り戻した直後の錯乱する様や夢に魘され跳ね起きる姿を見たなのはとフェイトも、恭也の家族への想いが決して低いものでない事を知っている。
ならば、リインフォースの場合だけ隠し切れないほど精神を疲弊させているのは、本当に死を悼んでいる事だけが原因だろうか?
リインフォースが飽和状態のダムを決壊させる止めの一撃になったという可能性は十分にある。だが、3人は何か別の要因が絡んでいるのではないか、という何の根拠も無い想像が拭えずにいた。
そのために、問題を先送りしているだけだと理解していても3人には様子を窺う事しか出来なかった。
「あの、恭也君、来てくれてありがとね」
「招いて貰ったのは俺の方なんだ。なのはが礼を言うことでもないだろう。
とはいえ、ここまで気遣われるとは思っていなかった。
あからさまな態度は取っていないつもりだったんだが、来たのは失敗だったかもな」
「そ、そんなことないよ」
「そうだよ。
招待したのは私だし、楽しむために来たんだからそんなこと気にする必要ないよ。
それより恭也君、無理だけはしないでね」
「ああ。ありがとう」
なのはとフェイトは言葉に、はやては静かに握る恭也の手に、想いを込める。
少しでも、僅かでも恭也の心が晴れますように、と。
周囲の微笑ましげな視線にも気付くことなく一心に想いを寄せていた3人が不意に振り向いた。
特に大きな音をたてた訳でも声を掛けた訳でもないのに唐突に視線が集まったため、視線を受けた方が面食らって問い掛けた。
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