したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

鏡の世界の迷子の旅路 無断転載

304小閑者:2017/12/03(日) 12:53:06
 恭也の半眼ににこやかな笑みを返しながら、忍はそっと肩の力を抜いた。
 以前から八神恭也を知る者として、今の彼が初対面になる人達の印象が気になっていたのだ。
 初対面の相手であろうと平然とからかったり、目上の者が相手であろうと敬意に値しないと判断すれば心証を気にすることなく横柄な態度をとる男なので絶対に万人受けはしないだろう。
 それでも彼の事を気に入っている忍としては自分の親しい人にも受け入れて貰いたいというのが本音だ。
 ごく最近まで学校での友達付き合いを放棄していたため忍の交友関係は同年代の少女達と比べて極めて狭いと言ってもいいだろう。
 それは本人の性格だったり、家庭の事情だったり、血筋や体質だったりと色々な事情が絡んではいる。
 妹の様子を見る限り、本人の性格や態度の占める割合が非常に高かったんじゃないかと今更ながらに反省してはいるのだが、矯正するにはちょっと遅かったかなぁ、と開き直ってもいる。開き直れる程度には、今の狭くとも深い付き合い方を気に入っているということでもあるのだが。
 だからこそ、と言うと責任転嫁でしかないのかもしれないが、自分の気に入った者同士も仲良くなって貰いたい。
 贅沢で身勝手な考えであることは重々承知しているが、それが忍の偽らざる本心だった。








「私、何か飲み物貰ってくるわね」
「アリサちゃん、私も行くよ」
「ありがと、すずか。
 何でもいいわよね?」
「甘くないもので」
「恭也は水ね」
「いいけどな」
「冗談よ。
 『とろけるシリーズ』とかあるかしら」
「聞き慣れんが、それ絶対甘いだろう」
「良い勘してるわねー」
「このヤロ」
「アリサちゃん、ほどほどにね」
「はいはい」

 なのは達の苦笑に不安が滲み始めたのに気付いたすずかが声を掛けるとアリサもあっさりと頷いた。
 ポーズも過ぎれば負担になる。過度の干渉は禁物だろうと手を引いたアリサに余計な言葉を足したのは恭也自身だった。

「気を使わせてばかりで済まんな」
「…あんたね、そういう事は言わないのが暗黙の了解ってものじゃないの?」
「そうなのか?
 子供なんで難しい事はよく分からないな」
「いけしゃあしゃあと、よくもまあ」
「八神君のそういうところは凄いと思うけど」

 あんまりな発言内容にすずかは苦笑を浮かべたまま逡巡した。
 言えば、気まずくなるだろう。なのは達が懸命に取り繕っているこの場の雰囲気を完全に壊す事にもなりかねない。
 だが、それでもきっと誰かが告げなくてはならないことだ。
 そう結論付けたすずかは、恐らく彼の事情を知るからこそなのは達が言えなくなってしまったであろう言葉を、知らない者の責務として代わりに口にした。

「ダメだよ、八神君。辛い時には辛いって、苦しい時には苦しいって言ってくれなくちゃみんなも手を差し延べる事が出来ないんだから。
 強がり過ぎると余計みんなに心配掛けちゃうよ?」
「…手厳しいな。
 子供だからな、オトコノコとしてはカッコ付けたいんだ」
「…そっか」

 恭也から返された実質的な拒絶の言葉にすずかが小さく嘆息した。
 詳しい事情を知らない気楽さと無神経さを装って単刀直入な物言いをしてみたが、これくらいで改善するならなのは達も苦労はしてないだろう。
 一瞬とはいえ恭也が言葉に詰まった事に疑問も浮かぶが、曲がりなりにもパーティに参加する意思を示している以上、幾らなんでもこの程度の言葉で動揺するほど深刻な状態ではないだろう。
 そう思いながらも幾許かの不安を覚えたすずかは無難に話の矛先を恭也から逸らすことにした。

「八神君にそんな甲斐性があるなんて知らなかったなぁ。
 あ、でも甲斐性があるからこんな状態なのかな?」

 話を振って3人の反応を見るが、意外にも動揺して頬を赤らめたのははやてだけでなのはとフェイトは不思議そうに見つめ返してきた。
 この2人がこの手の話題で動揺を隠せるとは思えないので、無自覚なのか言葉の意味が理解出来なかったかのどちらかだろう。ああ、和むなぁ。

「すずか、思いっきり飛び火してるわよ」
「あはは、ちょっと見かねちゃって。ごめんね、はやてちゃん」
「な、なんでそこで私に振るの!?」
「なんとなく。
 それじゃあ、八神君もほどほどにね?」

 それだけ告げると、すずかはアリサと共にテーブルを離れていった。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板