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鏡の世界の迷子の旅路 無断転載

301小閑者:2017/12/03(日) 12:46:58
「…ま、上手くすれば今日会えるんだ、楽しみにするとしようか。
 それにしてもまさに『恋は盲目』だな。周りの様子なんてまるで見えてない」
「小学生なんだから無理も無いわよ。
 これからいろんな経験していっぱい学んでいけばいいのよ。
 仮に失恋に終わったとしても、若い内なら『女』を磨く糧に出来るもの」
「…桃子も磨かれてきたのか?」
「さあ、どうかしら?」
「むぅ…」
「母さん、焼けたみたいだよ」
「あ、ありがと恭也。
 こっちはもう良いから忍ちゃんの所に行って上げなさい」
「今焼けた奴が…」
「運ぶくらい美由希に任せて上げなさいよ。ホントに拗ねちゃうわよ?」
「…まあ、配膳くらいは平気か」
「そういうこと。じゃあこれ、あなた達の分ね」
「ありがとう」

 雑談の片手間に入れた紅茶をトレイに載せて恭也に渡すと桃子が入れ替わりにキッチンへと引っ込んだ。
 士郎が横目で見やると、こちらの遣り取りが聞こえていた忍が蕾が綻ぶ様な笑みを浮かべていた。目鼻立ちの整った、下手をすれば冷たい印象を与えかねない美貌が、それだけのことで非常に魅力的な女の子へと変貌する。
 それまで、恭也の唯一と言える男友達である赤星勇吾と、美由希が招いた神咲那美と陣内美緒を交えて取り留めの無い話に花を咲かせていた時に浮かべていた笑みだって決して愛想笑いなどではなかっただろうが、やはり恋人に向けるものとは質が違うということだろう。
 良い子に巡り合えたものだ。
 そんな感慨に耽っていると、トレイを持ってフロア側に回った恭也の気配が警戒色を滲ませた。
 以前にからかったことで未だに警戒している様だ。クリスマスにまで無粋な真似をすると思われているとは心外だ。失礼な奴め。

「ほれ、さっさと ―――― 恭也」
「!―――ああ」

 士郎が意識的に口調をそのままにして呼びかけると、恭也も心得たもので動揺を表す事無くトレイをカウンターに置いて店の玄関へ向かった。
 ドアまでの数歩で呼吸と体勢を整え、窓の無い木製のドア越しにそこに立つ人物と対面する。街中で遭遇するにはあまりにも異質な気配を纏うこの人物は恭也の面識の無い相手だ。
 仮にただの来客で無かった場合、この気配の人物の用件が穏当に済むようなものとはとてもではないが思えない。万が一の事態になれば、撃退するのは恭也の役目だ。
 士郎が美由希に非常時用の模擬刀を用意するように指示しているのを視界の片隅で確認した後、恭也はドアを引き開けてそこに立ち尽くしている人物に丁寧に話し掛けた。

「失礼ですがご来店でしょうか?
 申し訳ありませんが、本日は貸切となっておりまして…」

 恭也の言葉が途切れた。
 士郎も咄嗟に言葉が浮かばない。
 限りなく透明な気配を纏い、恭也の声でこちらに顔を向けた自然体で玄関先に佇む人物に目を見張る。言葉では可能性を論じながら、心のどこかである訳がないと否定していた存在が実像を成して目の前にいた。
 御神の剣士としては完全に失態でしかないが、思考が漂白されてしまった。
 早めに引退を宣言しておいて良かった。心のどこかでそんな馬鹿げた思考が流れる余裕があるのは、自分と同じ顔をした不審人物と対面しながらも揺らぐ事の無い息子の背中が見えているからだろう。

「あ!恭也君!」
「え!?」
「あ、あれ!?こっちの道から来るんやないの?」

 少女達の安堵と喜色の含まれた声に恭也が辛うじて警戒心を押し隠して来客を迎え入れた。

「っ失礼。
 確か、…八神恭也君、かな」
「…はい」
「いらっしゃい。楽しんでいってくれ」
「ありがとうございます」

 微かとはいえ笑みを浮かべて歓迎の言葉を述べる恭也と、仏頂面のまま表面上だけ謝辞を返す恭也。
 どう好意的に受け取ろうとしたところで、不機嫌か喧嘩を売ろうとしている様にしか見えない応答に士郎と恭也が僅かに眉を寄せた。
 そんな周囲にいる初対面の人達の反応が予想出来ていたはやてが軽い口調に聞こえるように恭也を嗜める。


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