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鏡の世界の迷子の旅路 無断転載

298小閑者:2017/12/03(日) 12:30:49
「よかった、これなら普通の手当てでも回復出来るレベルだわ」

 シャマルが恭也にも聞こえるように診断結果を口にしても反応する様子はなかった。
 今回の凍傷は下手をすれば肩の肉を、連動して両腕を失う可能性があった。それが理解出来ていない筈が無いのに、症状が軽度であるという言葉にも無反応とは。
 シャマルが回復魔法を起動しながらも眉を顰めて視線を落とす。
 昼間にはやての病室を去る時にもここまでではなかったはずだ。あの後、何かがあったのだろうか?…それとも、なけなしの精神力で覆い隠していただけで、あの時点で既にここまで傷付き疲れ果てていたのだろうか?

「…助けられなかった」

 シャワーの音に掻き消されそうな、か細い声がシャマルの耳にも辛うじて届いた。弾かれた様にシャマルが顔を上げると、恭也は前を向いたまま神に懺悔するかの如く呟き続けた。

「…はやてを助ける事は出来た。
 たくさんの協力者が居たとはいえ、それだけでももの凄い幸運だとは分かってる。
 更には、貴方達まで助かったのは奇跡以外の何物でもないんだろう。
 …だから、これ以上を望むのは贅沢だし、ただの無いもの強請りだ。
 それは、分かって、いるんだ」

 顔を上げた恭也の目尻から水滴が頬を伝う。
 まるで、涙の様に。
 あるいは、流す事の出来ない涙の代わりとするかの様に。

「…それでも、助けたかった」
「恭也君は十分に頑張ったわ!」

 シャマルは恭也の言葉を遮る様に声を重ねると、濡れるのも構わず恭也の横顔を胸元に包み込むように抱き寄せた。
 小さな衝撃で壊れてしまうガラス細工を守ろうとする様に抱きしめたまま、恭也の心に届きますようにと祈りながら、必死に言葉を紡ぐ。

「貴方の所為ではないの。
 あの場に居た誰にも、管理局の人達にだってどうする事も出来なかった。だから、リインフォースはあの結末を受け入れたの。
 主のためなら、はやてちゃんのためなら、どれだけ辛い出来事でも耐えられる事が私達の誇りよ。その私達が以降の奉仕を放棄するという選択肢を受け入れるしかなかった。他にどうする事も出来なかった!
 責任があるとすれば、ずっと魔法に携わってきたのに何の対抗手段も持ち得なかった私達にこそあるわ!
 …恭也君は何も悪くないの。何の責任も無いの」
「…責任なんて、知らない」

 恭也が漏らした荒げた訳でもない小さな呟きにシャマルの言葉が途切れた。
 胸の中の恭也の顔に表情は無く、何処かへ消えてしまいそうなのに、か細い声だけはシャワーの音にも紛れること無くシャマルの耳に届く。

「今更誰がどう責任を取ったところでリインフォースが還って来る訳じゃない。
 どんな事をしてでも助けたかったんだ。それなのに、俺の持っているどんなものを差し出してもあいつを救い出すには足りなかった。
 どう言い繕ったとしてもその事実は変わらない。

 だから、
 俺は、八つ裂きにしてやりたいほど、俺が憎い」

 殺意も、怒気も、憎悪もそれどころか、感情らしい感情も籠もらない呟きにシャマルは身を竦ませた。

 このままでは、いけない。
 何とかしなくては、きっと、恭也を失ってしまう。
 だが、自分の言葉では恭也に届かない。



 なんて無力なんだろう。
 抱きしめる手に力を込めて、必死に涙を隠し続ける事しか出来ないなんて。






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