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鏡の世界の迷子の旅路 無断転載
296
:
小閑者
:2017/12/03(日) 12:24:40
「阿呆が…
何が、嬉しかった、だ」
頭や肩に積もった雪は、溶けては積もりを繰り返した結果、頭髪やシャツを凍らせていた。下手すれば凍傷になりかねない状態でありながら、恭也にはそれに対処する様子はない。気付いてすら、いないかの様に。
「どうして、罵らない。
どうして、…助けを、求めてくれない」
承知していたからだ。
あの場に居た同胞や書の主よりも。
居なかった魔法世界の管理者を自称する組織の提督や執務官よりも。
改善する余地も、覆る可能性も、奇跡に縋る猶予も、何もかもが無い事を、誰よりもリインフォース自身が、一番正確に把握していたからだ。
不破恭也に、それが理解出来ない筈がない。
たとえ納得出来ていなかったとしても、理解してない筈がない。
大切な友達を失った。
その事実から逃げ出す様に、目を背ける様に、二度と繰り返す事が無い様に、遮二無二、力を求めた。
そうして得られた僅かな力を圧倒的に凌駕する筈の父親を含めた一族の者達ですら、命を落とした。
ならば、当然未熟な身に負いきれない事態などごまんと在ると、そんな簡単な理屈が、分からないなどと言うことはあり得ない。
それでも、出来ないのだろう。
認める事が、割り切る事が、諦める事が。
「…たわけが…
助けられなかったんだぞ…」
恭也を責める者は、一人しかいない。
今も、昔も。
はやても、シグナムも、シャマルも、ヴィータも、ザフィーラも、なのはも、フェイトも、リンディも、クロノも。
ティオレも、アルバートも、士郎も、静馬も、美沙斗も、一臣も、琴絵も。
空へと還るその時まで、静かに涙を流しながらも澄み切った笑顔を浮かべていたリインフォースも。
現実の恭也を認識出来なくなり目に映る恭也の姿に恐怖しながらも、眠りに付けば恭也への謝罪を呟き続けるフィアッセですらも。
誰もが知っているから。
それまで、恭也がどれほどの努力を続けてきたのかを。
そのとき、恭也がどれほどの無茶を押し通したのかを。
そのあと、恭也がどれほどの後悔を抱えてしまったのかを。
それらを知る、恭也本人以外の誰も、彼を責める事は一度としてなかった。
誰からも、罪と認められない罪。
だからこそ、責められる事は無く、だからこそ、赦される事も無い。
視界一面の雪景色。
重ねる事で白さを濃くするかの様に、雪は音も無く降り続ける。
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