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鏡の世界の迷子の旅路 無断転載

293小閑者:2017/12/03(日) 12:19:23
 なのはが八神恭也君も似た様な事が出来ると言っていたように思う。という事は、ひょっとして自分が知らないだけである程度運動が出来る人にはポピュラーな技で、偶然居合わせた眼前の人物にも同じことが出来るのだろうか?…いやいやいや、そんな筈は…無いわよね?
 そんな風に自分の常識を疑い始めた桃子が改めて前を向くと、視線が合った。

「高町さんでしたか」
「え?…あ、八神君!?」

 声を掛けられた事で漸くその人物が以前翠屋で会った娘の友人であることに気付いた。
 後姿から息子・恭也に見えれば連想して思い付きそうなものだが、何故か全く気付かなかった。

「どうしてそんなに驚いて…って、気付いていたから付いて来てたんじゃ…
 気付いていたなら声くらい掛ける距離か」
「う、後姿に見覚えがあるな〜とは思ってたのよ?」
「嘘ですね。ご子息に酷似した後ろ姿だと気付いた時点で連想した筈です」
「御免なさい。気付けませんでした」
「勘違いしないで下さい。気付いてくれなかった事を非難している訳ではありません。
 貴方自身の危機感の無さに呆れているんですよ」
「え?危機感?」
「御主人から警戒するよう言われていないんですか?
 貴方のような麗人が昼日中とはいえ人気の無い場所で素性の知れない男に近付くべきではないでしょう」
「れ、麗人って…
 もう、大人をからかうんじゃありません!」

 耳慣れない褒め言葉に思わず頬が染まる。
 娘と同じ歳の男の子の言葉に動揺してどうする、と自身に言い聞かせながら少し顔を顰めて見せるが、遥かに年下の筈の少年の方が圧倒的に視線に篭る力が強い。

「厚着をしているとはいえ、自分の容姿が異性を引き付けるものだと自覚していない訳ではないんでしょう?」
「…はい。
 不用心でした。
 御免なさい」

 淡々とした口調に反してかなりキツイ内容ではあったが、間違いなく桃子の身を案じる言葉だ。親子ほどの歳の差がある相手であろうと無意味なプライドを発揮して跳ね除けて良い物ではないだろう。

 幼い子供…幼い?―――ともかく、娘と変わらない年頃の子供に真剣に心配されたうえ、お説教まで受けた事に軽く凹む。彼の言い分が全面的に正しいので反論の余地も無い。
 続く言葉も甘受するしかないと恭也の様子を窺うと、素直に非を認めたことで十分と考えたのか視線が和らいだ事がわかった。

「…軽視出来る事ではありませんでしたからキツイ言葉になりましたね。言葉が過ぎた事は謝ります」
「え?…あ、違うの!さっきのはホントに私が悪かったんだから!
 だから、その、…そう!心配してくれてありがとうね、八神君」
「いえ、分かって頂けたなら十分です。
 とは言え…さて、どうしたものか」
「え?」
「これからお店ですか?」
「え?あ、ええ、今夜のクリスマスパーティの準備でね。
 八神君は用事があるから来れるかどうか分からないって聞いてるけど、用事が済んだらぜひ来てね」
「はい。
 それより、人通りのある道まで送りますよ」
「え!?
 いいわよ、そんなの。用事があるんでしょ?」
「小言だけ言って放り出す訳にもいきませんよ。通り道でもあります。気にせずどうぞ」
「そ、そう?じゃあ、お願いしようかしら」
「では、少々お待ちを」

 恭也は話が纏まったところで桃子に背を向け道路を渡った。桃子が何をするのかと見ていると、大した助走も無しに軽く跳躍すると2mを超える塀に手を掛けた。と、思う間もなく跳躍のスピードのままに片手で体を引き上げる。
 すごーい、と単純に感心する桃子には、それが一般人には到底真似出来る芸当ではないことには思い至らない。家族の過半数に出来てしまうため、少々感覚が狂っているのかもしれない。
 桃子の感嘆の視線の先で、恭也はその家の庭から道路まで張り出した枝に積もった雪を掴んで降りてきた。何をしているんだろうと眺めていると、掌中の雪を崩して何かを取り出す。
 手品かと思って見直すと、雪だと思っていたものは白いビニール袋だった。取り出した物にもう一度目を戻すと、それは黒い携帯電話だ。何故あんなところにあったのかという疑問を口にして良いのか迷っていると恭也の表情が僅かに曇ったように見えた。


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