したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

鏡の世界の迷子の旅路 無断転載

128小閑者:2017/08/06(日) 23:55:46
 だが、何時までも動揺を引き摺るクロノではない。体術はほぼ同等の腕前であるため、この劣勢を押し返すことは出来ないが、クロノは魔導師、体術に拘る必要は無いのだ。
 恭也の蹴りをS2Uを立てて受け止めると同時にそのまま上空へ向けて魔法を発動。威嚇ではない。放ったのは操作性の高いスティンガースナイプ。クロノの意志を反映した魔力弾は鋭い弧を描いて恭也の頭上から襲撃した。
 だが、反射的に魔力弾を視界に納めようと恭也が頭上を仰いだところをS2Uで殴り制圧する積もりでいたクロノの予想に反して、恭也はクロノの挙動を注視したまま上空からの魔力弾をバックステップする事であっさりと躱してしまった。クロノにとって信じたくない事ではあるが、誘導弾の軌道修正が間に合わない程ぎりぎりまで回避行動に移らなかったのは決して偶然ではないのだろう。
 だが、クロノにとっての本当の悪夢はここから始まる。屋上に着弾する寸前に弧を描かせて再度恭也へ向かわせた誘導弾を恭也が躱し続けたのだ。

 何が起きている!?
 この男からは幻術系を含めて魔法を使っているような魔力を感知できない。これが本当に純粋な体術なのか!?
 だけど、さっきの攻撃は僕にも捌く事が出来たんだ。ここまで非常識では無かった。
 手を抜いていたのか?この状況ではそれも考え難い。最初に喰らった蹴りは十分に人を殺せる威力があったし、手を抜いているかどうか位は流石に分かる筈だ。…まさか、この男、本来は武器を扱うのか?

 魔導師にとって、近接戦闘は手段の一つに過ぎない。アームドデバイスの担い手が多ければ事情が変わっていたかもしれないが、そう言った者はごく少数だ。また、平均的なミッド式の魔導師は砲撃を主体としているため、近接戦闘に持ち込まれれば勝率が極端に下がる。言い換えれば武装毎の対応方法を練習するより、中・遠距離での戦闘に持っていく方法を練習する方が実践的と言える。近接戦闘能力について高い評価を得ているクロノと言えど、習得した武装の種類によって現れる所作の違いを見分ける事は出来ないのだ。
 一方、誘導弾を躱し続ける恭也も決して余裕がある訳ではない様だ。複数の誘導弾を扱うなのはの攻撃にさえ、隙を見て飛礫を放ってみせる恭也がクロノの単発の誘導弾を躱す事に専念しているのがその証左と言えよう。飛針ではバリアジャケットに阻まれて有効打にならないと予測できるからではない。“無駄な事はしない”のと“試す事無く諦める”のは違う事は恭也とて知っているのだ。
 クロノとなのはの違いは誘導弾の運用法だ。常に直撃を狙うなのはと、回避姿勢を誘導する事で身動きの取れない姿勢まで体勢を崩そうとするクロノ。眼前の光景は生まれ持った才能の差を努力で埋めた結果なのだが、残念ながら当のクロノは知る由も無い。
 クロノは成果の得られない攻撃に見切りを付けるのにいくらかの時間を要した。体力の低下に伴い回避運動が鈍る事が無いと言う結論に至るための時間、と言う事にしたが実際には、思考が停止しかけていたのだ。
 敵の回避手段が魔法を使った他の方法なら切り替えも早かったのだろうが、あまりにも想定外に過ぎた。それでも、魔導師としてのプライドを粉砕する様な恭也の技能を初めて目の当たりにしたにも拘らず、意地になって誘導弾に固執する事無く柔軟な思考を保っている辺りは流石と言って良いだろう。
 クロノは誘導弾を維持したまま、新たな魔法の詠唱を始める。選択したのは直線的に進む火炎魔法だ。誘導弾をもう一発打つのも手だが、あの動きが上限とは限らない。

「フレイム・ブレード!」

 名前の通りの炎の剣を右から左へ薙ぎ払う。と、炎を突き破るようにして飛び出す物体を確認。すかさず先程の誘導弾をぶつけるが、予想通りデコイ(上着だろうか?)だった。持続時間の限界を迎えて誘導弾もそのまま消滅するが、クロノは拘泥する事無く屋上を見渡す。
 誰も居ない。

「…に、逃げられた…?」
『クロノ君のバカー!!』
「うお!?」


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板