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鏡の世界の迷子の旅路 無断転載

101小閑者:2017/07/16(日) 16:05:37
 この場ではなのは以外知る者の無いフェイトの秘密。大魔導師プレシア・テスタロッサが、事故で亡くした一人娘アリシアを蘇生しようと試み造り出した、しかし、アリシアではない何か。“失敗作”であり“紛い物”であり“偽者”である自分。
 PT事件の後、本格的な身体検査を行った結果、何の欠損も無い人間であると言う結論が出た。その時はそれを教えてくれたリンディ達に「おめでとう」と祝福された事に素直に喜ぶ事ができたが、時間が経つにつれて別の考えが頭を擡げてくる。
 そもそもアリシア・テスタロッサであることを望まれて生み出されたにも関わらず、それ以外でしかなかった自分は“人間”であろうと価値など無いのではないか?実情として親に愛されない子供が居ることは知っていたが、少なくともその子供も両親の愛の結晶であって自分とは生まれ方が違うのだ。(フェイトが具体的にどうやって子供が出来るのか知らないからこその誤解ではあるのだが)

 確固たる自我が確立されていない子供が、価値観の全てとも言える母親に面と向かって拒絶されてからたったの半年しか過ぎていないのだから、思考が後ろ向きになるのは当然の結果だ。そして、その事が頭の隅に常にあり続けたため、自らの根幹に関わる内容である先程の恭也の発言に反応したのだ。

 フェイトは決して自分本位でもなければ短慮な方でもない。たまに思い込みで突っ走り恥かしい思いをするようなうっかりやさんではあるが、人を思い遣る優しさはある。
 にも関わらず、“八神恭也”の存在を否定するような質問を発したのは、普通の生活を送っている者であれば馬鹿げた仮定だからだ。…人と関わる経験が圧倒的に少なかった上に、恭也と会って間もないフェイトからしても、恭也が“一般的”に分類して良い存在であるのか非常に疑わしいことは感じ取っていたが、流石に現在の境遇を推測することなど出来る訳が無い。
 だから、なのはを心配させるであろう事、初対面のアリサやすずかに良い印象を持たれないだろう事を頭の片隅に浮かべながらも問わずには居られなかった。
 多少なりとも近い境遇における、フェイトの事情を知らない他者の、慰めの言葉ではない本音を聞きたい。
 後で振り返ってみると、この時のフェイトは何故か、恭也から奇異の目を向けられたり馬鹿にされる可能性を疑っていなかった。“馬鹿げた想定”でありながら、恭也ならこの問いに真剣に応えてくれると何の根拠もなく確信していた。

 そんな事を考えていたため、忍やなのはの恭也を心配する言葉は頭に入る事がなく、自身の不安と打算と奇妙な信頼に任せて疑問を発したフェイトは、ただ一人恭也の顔に表れた表情を見て、血の気が引いた。

 フェイトには恭也の仏頂面から感情や思考を読み取ることは出来ない。
 恭也の表情を読み取るには対人関係の経験だけでは足りず、本人との長い付き合いが必須となる。
 なのはと忍は“高町恭也”との経験を“八神恭也”に適用しているからこそ読み取れているが、“高町恭也”との接点の少ないアリサとすずかにはそれが出来ない。
 どちらも不足しているフェイトには望むべくも無い技能だ。

 だから、フェイトが驚いたのは希少な恭也の表情から感情を読み取れたからではない。
 自身と近似した感情であったために共感できてしまったのだ、半年前に自分が母から受けた衝撃に劣る事が無い程の心境であることを。
 せいぜいが悪口を言われた程度の事だと思っていたからこそ、自分の言葉がどれほど恭也の傷を抉ったのかを悟り、フェイトは蒼褪めた。

「あ…、ごっごめんなさい…いま、今のは」
「辛いだろうな」

 動揺し、発言を取り消そうとしたフェイトを抑え込む様に呟いた恭也の弱音とも言える台詞に誰も口を挟む事が出来ない。

 この中で恭也の境遇を垣間見た事があるのはなのはだけだ。それも出会って間もない頃、魔法を秘密にして貰うように頼んだ時のみで、その時ですら愚痴を零すことすらなかったのだ。
 アリサやすずかなど恭也に悩みがあることすら今日まで知らなかった。
 だが、たった一言の呟きにより、今まで見てきた人をからかうことに人生の全てを費やしているかのような恭也の姿がほんの一面であると言う当然の、しかし、先程忍となのはに心配されていた様子からは実感できなかったその事実を突き付けられた気がした。


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