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エフェメラ本部
1
:
群集
:2015/06/07(日) 23:05:20
【場所】エフェメラ本部
【説明】
旧・東京都庁。
トキオコロニーの行政をつかさどるシンクタンク300人余り。
そしてシンクタンクの事務等を司る職員たちの職場。
それがここ、エフェメラ本部である。
市民向けの各フロアには行政の各部門の窓口があり、
さまざまな手続きのために市民が行きかう。
もちろん、市民向けではないよりプロフェッショナルな部局もある。
アントリオン、ボーダーズ、リンケイ、あるいは黒社会の人間など
用があることもあるであろう。
【入場可能者】
エフェメラ。
全ての市民
(ただし内部機密にかかわる部分はエフェメラ及び事案の関係者のみ)
※一部の黒社会の人間、シンクタンクとつながりのある特殊な民間人も出入りしているという噂。
【時間】
開庁時間 9:00-17:30(トキオ市民など一般の来訪者)
ボーダーズ、リンケイ、アントリオン、また民間案件当事者との
エフェメラの事業についての交渉等はこの限りではない。
夜を徹しても会議、交渉があることもある。
2
:
在原輝夜
:2015/06/12(金) 02:26:26
[ 入室しました ]
一般市民向けの各種窓口とは別のフロアに設けられた、『特殊窓口』。
技術・研究機関に関する専門的な窓口である。
この窓口はエフェメラお抱えの技術・研究機関への依頼申請などの手続きをはじめ、各研究員への取り次ぎも行ってくれる。
アントリオンだけでなく、ボーダーズやリンケイの者などが利用を中心とした専門の窓口だ。
その特殊窓口に一人の研究員の姿があった。
狐の面で顔を覆った風変わりな女……その名は 在原輝夜 。
各窓口一つ一つに設置された内線電話の一つの受話器を左手に。
右手は分厚い紙の束、基、アントリオンから提出されたレポートの束をぱらぱらとめくりながら内容にさっと目を通していた。
「魔術研究課第2班、在原だ。今受け取った。ご協力感謝する」
在原が受け取ったレポートというのは、先日アントリオンに配布された対火属性魔術専用の防護スーツの試験運用に関してのものだ。
通話の相手は実際にテスト着用を行ったアントリオンの一部隊の隊長だ。
「ううむ。もう少し改良が必要だな。貴殿らの声を踏まえた上で今一度手を加えていこう」
また改良が終わった際には是非ご協力を、と事務的な会話を終えて受話器を下ろす。
分厚いレポートを一通り目を通し終え、本来ならば来客専用の椅子へとどさりと腰かけた。
お疲れですね、と窓口から顔をのぞかせる事務員にそちらもな、と肩を竦めてから小さく溜息を吐いた。
「やれやれ。やはり魔術とは扱い難いものだ。上の輩ときたら…何れはドラゴンの吐く焔にも耐えれられる代物などと簡単に言うて来よって」
まだ研究段階の現在ではドラゴンの焔を防ぐなど夢の話である。
とはいえ、ある程度の魔術の火に耐える事の出来る防具は幾つか実用化されつつはあった。
「いずれはボーダーズに支給し、レッドラインの拡大を計るつもりなのだろう。全く…」
元ボーダーズ所属であるが故に、レッドラインの拡大がそう簡単に行えるものでは無いことも彼女は知っている。
エフェメラの連中は実に複雑な輩である。
いつもそう思って生きて来たが…今や己もそのエフェメラの一員である。
定期的に行われる本部での会議に参加する度にどっと一気に疲れが蓄積する。
本日も其の定期的な会議に出席していたのだ。
本日の議題は梅ヶ丘で実施されたアントリオンの模擬戦にて配布された試験弾薬に関してだ。
そろそろ本格的にアントリオン側からのレポートが提出される頃合いだろうが…。
一先ずは記録映像を閲覧したうえでの分析といった所だ。
「今日はえらく長い会議であった…。個人的には実際に被弾したボーダーズ側の意見もじっくり聞きたい所だったが…」
なかなかそうはいかぬか。
久方ぶりに疲れを感じた狐面の女はふうー、と深い息を吐いた。
嗚呼、酒が恋しい。
3
:
山田五郎【電話とか】
:2015/06/12(金) 21:24:15
”メールボックスに アカウントが 入室しました”
職場のパソコンから、
Eメール到着の効果音がした。
”件名:防火防具についてのレポート”
"送信元:BORDERS 山田 五郎"
『エフェメラ本部 魔術研究課 御中
過日の作戦について 装備についてのレポートをお届けします。
ご査収いただければ幸いです。』
メールの到着のわずかのち、電話が鳴る。
発信元の電話番号が表示される。BORDERS笹塚駐屯地からだ。
書面はPDF。
作戦についての研究課の尽力に謝意を記し、
装備の使用感に様々な感想を記していた。
防火性は重量に比して格段に向上しており、
疲労感なく攻撃を仕掛けやすくなりました。
断熱性がさらに向上すれば、短時間のうちに発火点である魔獣を倒せるはず、など。
総じて、試作初号モデルよりも全面的に進歩していた事を真面目に讃えるものであった。
*************
笹塚駐屯地。
事務所の電話を借りて、山田五郎が電話をかけている。
エフェメラ本部に、魔術研究科第二班の内線番号をつけて発信している。
「開庁時間のはずだが」
誰かいるだろうか。
山田は時々、装備の試用やアドバイスに出向いたこともあったが、
多忙の上機密のかかわる部署。人が出ないときは出ないものだ。
4
:
在原輝夜
:2015/06/13(土) 01:54:23
よし、次の休みは必ず酒を飲もう。
一体いつ来るかは定かではない次の休みの計画へと想いを寄せる。
そんな最中。
短い電子音が耳に届いた。
パソコンへメールが届いた様である。
『在原さん、メールっすよ』
パソコンを覗き込んでいた窓口の事務員が声を投げかける。
「おい、勝手に見るでないぞ…ッ」
メールが届いたのは魔術研究課第二班専用のパソコンである。
知らせてくれた事務員(どうやら随分と好奇心が旺盛らしい)が勝手に内容を見ぬ様に、しっしっと追い払う。
残念そうに事務員が退散していったと同時に電話が着信を告げる。
発信元には『BORDERS笹塚駐屯地』と記されていた。
ああ、と頷いた在原が好奇心旺盛な事務員が動くよりも先にその受話器を手に取った。
「こちら魔術研究課第二班 在原だ」
女性にしてはやや低めのアルトヴォイスが響く。
声が渋いだの怖いだのよく言われるがそんな事は気にはしない。
左手は電話に出つつ、空いた右手はマウスを操りって届いたばかりのメールボックスを開く。
防火防具の試作品は一部ボーダーズへも配布されていた。
同じ試作品を配布されていたアントリオンからはつらつらと細かい要望がかかれたレポートが届いていた。
届いたメールの内容は随分と讃えてくれているものだ。
電話の主はおそらく、在原の勘が間違えていなければメールの送信者であろう。
「今メールを受け取り確認中だ。貴殿らのご協力に深く感謝するぞ」
深々と、礼を述べた。
5
:
山田五郎【電話とか】
:2015/06/13(土) 03:36:23
声だけでも相手の気持ちなど、伝わるもので。
「無事に届きましたか。よかった。
ボーダーズ笹塚駐屯地の山田です。初めましてですかね?」
山田の声は落ち着いている。
声だけでは既知の人かどうか知らず、とりあえずそう言った。
「実際、梅ヶ丘で使ってみましたが、なかなか使い勝手があって、いい道具でした。
能くファイアドラゴンの炎も防いでくれましたしね。
…本題に入りますが。
過日の梅ヶ丘での、装備使用状態のデータをお届けに上がろうと思いまして。」
ボーダーズ司令部からの許可であった。
エフェメラ=官僚機構への、ボーダーズができる仕事としては、こんなものもあるのだった。
(上層部が覚えめでたくありたいという欲得もあるかもしれない)
データには装備の試用状況から算出された防火装備の消耗具合、
そして老朽箇所の統計など、見るのもが見れば役立つフィードバックとなりえるものだった。
しかしいかんせん膨大なデータのため、メールに添付して送るのも不用心である。
「ご都合が悪くなければ、お邪魔に上がろうと思いますが。どうでしょう。」
エフェメラと本部と直結の専用回線で送ってもよいのだけれども、
山田としてもできるだけエフェメラのの知人を増やしておきたいと思ったようである。
大人なりに。
6
:
在原輝夜
:2015/06/13(土) 22:31:16
電話の相手は確かにメールの送信者だった。
山田という男。
落ち着いた声が印象的だった。
「ああ、実際に言葉を交わすのは初めてだろうな。改めまして、私は在原だ。よろしくな、山田殿」
姿ぐらいなら、見たことはあるだろう。
在原自身、駐屯地に赴いた事も幾度となくあった。
実際、彼女は山田という男を何度か見掛けた事があった。
続く山田の言葉に、ふむ、と頷いた。
メールの文章といい、思っていた以上に丁寧な男らしい。
「有難い言葉だ。ここまで来れたのも貴殿らの協力あっての事。お陰でまた新たに改善すべき点がハッキリと見えてきた」
研究が進むのも、様々な協力があってこそだ。
山田の言う本題とやらに、在原は正直驚いていた。
正直エフェメラ本部、というか変わり者が多く揃う魔術研究課に足を運ぶ者は少ないのが現状だった。
互いに多忙ゆえ、会う機会も取りがたいのが現状ではあるのだが。
大抵は窓口を経由してのコンタクトで終わる。
「おお!それは非常に助かる話だ。今日は特殊窓口にて事務作業をする予定ゆえ、窓口まで頼めるだろうか」
直接話が出来る事は在原にとって非常に喜ばしい事だ。
本題は勿論の事、色々聞くまたとない機会だ。
「互いの時間の許す限り、色々語らおうではないか」
茶菓子を用意しておこう。
何なら酒も。
などと言いながら。
7
:
山田五郎
:2015/06/14(日) 04:48:00
在原氏、といえば。
名前は覚えていなかったが、面をしていたというのがとても特徴的だったので、
狐面の女性として記憶していた。
駐屯地やエフェメラ本部で目にしたことはあった。
彼女の謝意に電話越しに頷く。
山田はそれなりに長く生きている。
窓口を通すのは本筋であり正しいステップではある。
しかし、話を通すときは上に掛けあうとより円滑になりうる。
今回は窓口ですべて事が済みそうであった。
「恐縮です。私どもとしても、データがより良い装備になれば、
より多くの命が守れると思っているのです。協力は惜しみませんよ。
幸い、今日は出撃任務はありません。話に差し支えないでしょう。
これからタクシーで向かいます。お気遣いなく。すぐつきますよ。」
電話を切り、駐屯地前からタクシーに乗った。
実際、スマホのナビでは11分かかるという事だった。
暫時後。
肩章付きの半袖の開襟シャツに
ベージュ系カーキのトラウザーを体で着ている男が到着した。
ボーダーズの軍帽をかぶっている。
前線で身に着けるものではない、きちんとした装いだ。
警備員に似ているが、青系ではないからすぐわかる。
いわゆる旧都庁正面玄関に到着した。
正面から入るが、一般市民向けのルートには入らない。
何の案内板もない、がらんとしたエレベーターホール方面へ行く。
もろもろ移動。特殊窓口前につく。
「失礼します。」
脱帽し、軍人特有のかっちりとした所作で入室。
片手には紙袋を下げている。
中は袱紗で包んだ酒と、和菓子だ。
ところで、在原氏の窓口はどこだろうか。
山田は探していた。
8
:
在原輝夜
:2015/06/14(日) 23:37:37
「有り難う。では、後程」
より多くの命が護れる。
そう、それこそが我々研究室の目指すべき場所である。
電話の受話器を置いてから、来客専用のスペースの空き具合を見る。
来客用に、と、ちょっとしたミーティングルームの様なスペースがいくつか設けられているのだが、生憎今は何処も使用中らしい。
仕方ないか、とやや散らかり気味の第二班のデスクをそそくさと片付ける。
その様子を見て退散していた事務員がのこのこと戻って来る。
「ミーティングルームは使用中の様だな。山田殿には申し訳ないが………ここで話を聞かせていただく。鈴宮、粗相のない様にな」
『それは在原さんの方でしょう』
事務員(鈴宮という)の言葉に、むっとした顔を見せた。
いや、実際は狐の面に隠れているのだが。
「む。聞き捨てならぬ…が、今は聞かなかった事にしておいてやろう。さあ、さっさと片付けるぞ」
事務員と共に来客を迎え入れる準備を整える。
ある程度整った辺りで 窓口前に、(在原にとっては)懐かしい装いの殿方を発見した。
窓口の場所は伝えていなかった事を思いだし、窓口の外へとひらりと躍り出た。
「ボーダーズの山田殿。こちらだ」
軽く手を上げて呼び掛ける。
狐面の女がひらひらと手を振る様は、おそらく、いやかなりハッキリと相手の目につくはずである。
「魔術研究課第二班。私が在原だ。改めてよろしく」
こちらへどうぞ、窓口の中のデスクへと手招く。
「すまない、ミーティングルームがどこも使用中でな。ここで話をさせてくれ」
さあ座ってくれ、と妙にファンシーな花柄が目立つ椅子を指し示した。
因みに、普通のシンプルな椅子も一応ある。
ボーダーズ隊員の山田五郎という男を少しばかりからかってみたかっただけの話である。
9
:
山田五郎
:2015/06/15(月) 03:43:40
彼女はボーダーズだった。
この軍装も懐かしかったことだろう。
山田は、躍り出た女性に視線を向けると、会釈した。
彼女の招きに応じて第二班デスクの方へ向かう。
改めて入場の前に申し上げた。
「ボーダーズの山田五郎です。わざわざお時間をいただいてすみません。
もちろん、お話の場所はお構いなく。」
デスクの上に、失礼しますと添えて贈り物を置く。
なお中身は
和菓子(最中、羊羹、ねりきり)と
そこそこ高い日本酒(吟醸・国産・袱紗に包まれてる)
であった。
「お菓子は皆様で召し上がってください。日本酒は貴方に。」
在原氏は酒好きだということを、駐屯地の面々から聞いていた。
贈り物を置いたので話に入ろうと、面を上げたら
ファンシーThe椅子。
「失礼します。」
無駄のない動きできびきびと歩んでから、
おもてなし側への礼を重んじて、ファンシーな椅子の方に座る五郎。
真面目で、真顔だった。
山田は誠実だけれども、
愛想笑いというものができなかった。
しかも背筋をしゃんとただし、軍人らしい力強さと適度な清潔感を持っている。
そして真顔の上にも真顔だった。
「……自分の顔に、何かついていますか。」
何となく視線を感じたようなので、
愚直に伺ってみた。
10
:
在原輝夜
:2015/06/15(月) 10:58:22
「こちらこそ、貴重な時間を設けてもらい嬉しく思うよ」
と、言ってから山田殿が置いた差し入れに視線が向いた。
「何から何まで、すまないな。………………!!!」
酒の気配を察知!
こやつ、なかなか出来る男ではないか!
「気を楽にしてくれ」
にっこり。(狐面の下で笑っていた)
ファンシーな椅子は在原のちょったした悪戯だ。
山田五郎という男がとても真面目であると聞いていたゆえ、どんな反応を返すのか少しばかり興味がわいたのである。
が。
流石現役のボーダーズ。
実に無駄のない動きである。
真面目に腰かけてくれた。
『ぶっふ!!』
コーヒーとケーキを準備していた事務員、鈴宮が少し離れた場所で吹き出していた。
こやつ、なかなかやりよる…………!!
在原、本日2度目の衝撃が走る。
「いや、周りは気にするでない。ボーダーズの隊員をお目にかかる機会があまりないのでな、皆、山田殿の無駄のない動きに感動しておるのだ」
真面目に答えた。
山田殿が真面目なら、こちらも真面目に応えるとしよう。
そう思った在原は、普通のシンプルな椅子に腰かけて狐面をそっと外した。
折れた角と、鼻の頭にある横一文字の傷痕が久方ぶりに露となる。
それはそれで、周りから珍しいと視線が集まった。
在原が狐面を置いたと同時、事務員・鈴宮がコーヒーとケーキ(どちらも巷で人気の洋菓子店のものである)を真面目顔の山田殿の前へと並べた。
事務員・鈴宮は笑いを必死にこらえていた。
「これぐらいの事しか出来ないが、遠慮なく食べてくれ」
そんな鈴宮の様子をさっと流して、在原はにこにこと笑んでいる。
この妙な状況を心底楽しんでいた。
「では、本題に入ろうか。梅ヶ丘での実戦での話だが」
事前に受け取っていた一部の資料をざっと広げた。
因みに、先程鈴宮が置いたコーヒーカップも花柄だった。
在原の指示である。
花柄にまみれつつある山田五郎隊員。
更に女子受けの良さそうなケーキである。
ああ、何という光景だろうか!!!
11
:
山田五郎
:2015/06/15(月) 22:21:50
気を楽にしてくれといわれて、では、とためらいなく気を楽にできるかといえばなかなか難しい。
それが社会生活である。
「…」
耳ざとく噴き出した音をキャッチしたが
「そうですか…。」
彼女の申し開きに納得しておく。
彼女の向こう疵や折れた角が目に留まる。
眼光の質や、そこはかとない雰囲気に、
一般人とは違うものを感じる。
元・ボーダーズ。
その経歴を生かしてエフェメラに入るものがあり、
あるいは大企業の兵器顧問になるものもいる。
在原もまたそのようなものだろうかと考えた。
いずれにせよ、万が一の不詳や老いの際には五郎も辞職後の事は考えなければならない。
生きるとは大変なことだ。
表情が思いにつられて余計真顔になっている。
「ありがとうございます。」
お茶とお菓子に謝意を述べる。
「いただきます。」
ここは戦場か。
というくらいの真顔で
「これは…」
(名店のやつじゃないか…買ったやつはセンスあるぞ…)
思わず我先に食べた。
「美味い…。」
しみじみと鈴宮、在原両名につぶやいた。
いつ死んでも悔いはない。
という視線を彼女に向けたが
死んでも構わないくらいうまい、ではなくて
末期の菓子かたじけない
という表情になっている。
彼女が資料を広げる。
戦いの記憶を思い出し、未来のために生かそう。
その為なら何でも伝える覚悟が、五郎には有った。
繰り返すが椅子もカップも花柄であった。
もののふ系乙男(40。来月誕生日)の爆誕であった。
12
:
在原輝夜
:2015/06/15(月) 23:53:42
「私がまだ最前線に居た頃は…まだ技術的な研究も進んで無くてな。今ならば護れたであろう同志の多くが志半ばで逝ってしまった…」
思い返す様に言い、ゆるゆると首を振った。
怪我を繰り返した結果、ボロ雑巾の様になってしまったというわけだ。
「私はもう最前を駆ける事は出来んが、少しでも多くの同志の命を救うべく今ここに居るのだ」
もっと強い武器があれば。
もっと強い防具があれば。
護る為に。
其れこそが在原の今の存在意義である。
どんどん真顔になってゆく山田五郎隊員を見遣り、おお、見れば見るほど面白い奴だとテンションがぐーんと上がった。
彼がケーキを食す様子を見れば、甘いものが好きであるという情報は間違い無かったのだと確信する。
第二班のおやつ用にと余分に買ってきておいて良かったと、事務員・鈴宮は小さくガッツポーズしていた。
(ケーキを買ってきたのは鈴宮である)
まさか
まさかここまで喜んでもらえるとは予想外だった。
もう完全にオトメンというヤツじゃないか…!!
花柄の椅子にカップに。ケーキを食すその後ろにはもう花畑が広がっている様にしか在原には見えなかった。
「うむ。喜んでいただけて何より」
にっこり。
面白い光景が見れたのでこちらも大満足である。
「まずは今回耐火精度だけでなく機動性も重視してデザインから一新してみたのだが。実際どうであったか聞かせてくれ」
耐火性を上げるとどうしてもスーツの素材に重量が出てしまっていた。
今回はその耐火性を落とす事無く軽量化を目指したものだ。
軽量化する事により、やはり耐火性が以前より落ちてはいなかったか。
実際軽量化は成功していたのか、軽量だけでなく機動性はどんなものだったのか。
何でも良いから聞きたかった。
ふ、と資料から視線を上げると…もののふ系乙男が真顔で居る。
凄く…もの凄く和んだ。
こっそり写メなんぞは撮れまいか…。
そんな思考が駆け巡る。
鈴宮がこっそりスマホのカメラを起動させていた。
隙あらば。
山田五郎隊員を狙っていた。
13
:
山田五郎
:2015/06/16(火) 19:48:27
本題に入る前に山田はこんなことを言っていた。
「…ご存じかと思いますけどね。
軍隊生活をやってると、炊事、洗濯、服を縫うのまで、全部できるようになってしまうんですよ。
ヤバいな。大変だな…って思った時にケーキ食べると救われましたね、大いに。」
ヤマ将、スキル面でもいかんなくオトメンであることが判明。
【本題に入る】
「では、ストレートに申しますが…
私のもとには防火性のある服とケープが配られました。
機動性自体は問題ありません。軽量化の割になかなかの耐火性でしたが、問題も耐火性です。」
貴重な感想をとつとつと述べながら、随所でしっかりとケーキを食べている。
「敵が火を吐く場合、短時間であれば全く問題はありませんでした。
ただ、ファイアドラゴンです。牛ほどの大きさがありました。
あれはヒューマノイドよりも筋力が弾力に富み、強く、斬りにくいのです。
魔獣戦になると、防火繊維の表面が焦げだしましてね。インサレーションも」
(インサレーション=生地に挟まれた防火層の中綿的なもの)
世代が古いのか、話すときに「ろくろをまわす」所作を取っている。
山田の真顔がやや緩み、笑みがこぼれた。
ケーキがウマいからだ。
なおエフェメラ内部で敵に襲われる心配はないため、
隙あらばどころか隙だらけだった。
シャッターチャンスが多い。
口の端にケーキがついている。
なのに在原に真剣に語りつづける。
「インサレーションの改善が必要でしょう。
あるいは表面を強化する‥たとえば火鼠の革を使うとか。サラマンダーの革を使うとか。」
かぐや姫でおなじみのアレなのだが、地下世界とつながった今、そう言った幻獣は実在していた。
ナプキンで口の端をやっと拭う山田。
一区切りついたので山田はお茶を飲んでいる。
特に柄に頓着せず有難くいただいている。馴染んでいる。
鈴宮の所作に気づいていない。
(なお戦場では鬼となる模様)
14
:
在原輝夜
:2015/06/17(水) 14:54:18
確かに。
確かに軍隊生活が長いとある程度の事はそれなりにできるようになる。
それは在原も同じであった。
山田殿はそのストレス解消の1つに甘味へと辿り着いたのだろう。
「そうだな。それは同意だ」
にこやかに同意する。
在原の場合、酒に行き着いたという事になる。
さて。それはさておき、やはり現役ボーダーズ隊員の言葉には一つ一つ重みが出ている。
聞き逃すまいとさらさらとノートにペンが走る。
「成る程…。では一度素材を見直して…」
さらさらと走り書いていく。
(しかし、幻獣素材を使うとなると費用が羽上がる………)
否。
それで成果が上がるならば…。
「よし。では一度素材の見直しから手を加えてみるとしよう。上への交渉は私自ら行おう」
真剣な会話が交わされる。
が。
大変だ。山田殿の口の端にクリームが!!
在原は軍隊時代に鍛え上げた無駄のない動きでスマホを取り出した。
パシャ。
そんな機械音が聞こえた気がする。
「失礼」
そう告げて何事も無かったようにスマホを白衣のポケットへと戻した。
「的確な意見、感謝する」
にっこり。
とても良い笑顔を浮かべていた。
「他に何か要望があれば聞いておきたいのだが。今回の事案だけでなく、武器や装甲の事でも構わぬ」
またとない機会だ。
一先ず話だけでも聞く時間はいくらでもとろう。
お茶を啜る山田五郎隊員。
すかさず鈴宮がバサバサと書類をぶちまける。
絶好のシャッターチャンスだ!花柄椅子に花柄カップを啜る山田五郎隊員!!!!
『あっ、すみません、』
山田五郎隊員のやや左斜め下に散らかった書類。
拾い集めようと屈む事務員・鈴宮。
そそくさと書類を拾い集めようとして………………
…………………と見せかけてさりげなく。
それはもうさりげなくスマホ(カメラ起動中)を向けていた。
パシャ。(二回目)
そして何事も無かったようにささっと書類を拾い集める。
「鈴宮、気をつけろ。書類はまとめて研究室に送ってくれ」
『すみません!了解っす!』
在原と鈴宮の両者が互いにぐっと親指を立てあっていた。
山田五郎隊員。
良いショットをありがとう。
もちろん
15
:
在原輝夜
:2015/06/17(水) 14:56:52
補足。
もちろん。
山田五郎隊員が気付いて、消去を求めるならば二人は素直に応じるつもりではいる。
一応は。
16
:
山田五郎
:2015/06/17(水) 20:34:44
彼女の聞き書きを待っているとき
後ろに人の気配がした。
気になったので振り向いたその少し前に
シャッター音。
でも後ろにいる人影を見るのが先、口元に山田は違和感をまだ感じていなかった。
(ウォーヘッド隊員のようだ…スーツについているバッヂで分かる。
エフェメラに武装の件で用があるのはどちらも似たようなものか…)
山田が物思いしているので、彼女はスマホを難なくしれっとできるであろう。
「ほかに意見、ですか。…今のところあまり。
強いて言えば、兵士の補充も、人が育たなければ無理がありますからね。
海を渡るのも難しい、地底の亜人を日本人としてトキオに住まわせるのも簡単ではないでしょう。
梅ヶ丘の二の舞が無いよう、上手に計らってくれれば、というところ…」
ここでお茶をすする山田…
書類の落ちる音。
やや遅れて立ち上がると、書類拾いを黙々と手伝う。
「体の間合いが狂う日は、気を付けた方がいいですよ。」
何となくミスに気が付かないということが、意外なピンチを招くからである。
なお撮影されたことに山田は気付かなかった模様。
何かメカニカルな音がしたように聞こえたが、
まさに隣のブースでも、スマホで写真資料を作っていた職員がいたのであった。
「在原ァー。アントリオンに見せる書類の写真できたけど。
メアドどこに送るんだっけ?サーバーにFTP転送でいいんだっけ?」
頭がバーコードのスダレ禿げになったエルフの職員【50代】が彼女に言っている。
「ところで、さっきシャッター音がしませんでしたかね…
空耳かな…。」
山田のスマホに本部から問い合わせのメールが来たので
【今、エフェメラと会議中です。帰投次第回答します。】
とSMSを送る。
「ともあれ、幻獣素材が高いのはしょうがないのですが、一考の余地はあるかな、と。
あ、そうだ。
…ちょっと、今回の装備の話ではないんですけどね。
そろそろ武器を改めようかなと思うんですよ。何か面白いやつ、在りますか。」
なお山田五郎の得物は重量級の武器が多い。
薙刀や胴太貫など。それを簡単に説明した。
(在原&鈴宮は五郎おじさんの画像を手に入れた!)
17
:
小柳八千代
:2015/06/18(木) 07:54:47
「それは私達が渡しておきますよ」
スダレエルフの後ろを追いかけるように、人影が新たに入室する。
黒のシンプルな上下のパンツスーツだ。本部の装いとは違い、多少
キッチリとした装いである。まあ勿論ジャケットの下には銃を
携帯してはいるのだが。
そんな女が、疲れ気味の顔で手に持っていたファイルをペラペラめくりながら、
在原達達の真横まで移動してくるだろう。
「あと在原、アンタには言いたい事がたっっっくさんあるのよ。
このファイルを…」
ファイルを見ながら入ってきたせいかもしれない。
来客中なことに全く気づかなかったらしい。
在原にファイルを突き出したポーズのままで、やたらファンシーな
ものに囲まれたボーダーズ隊員に半歩離れながら慌てて向き直った。
「申し訳ありません、来客中とは気づかず…
って、あれ…?」
慌てて愛想笑いを浮かべてボーダーズ隊員に軽く頭をさげ謝罪をするが、
そのどこかで見たことある顔に、八千代の顔があからさまに
崩れた。
「……げっ…! 山田…!?
さん…!」
あわてて敬称をつける
18
:
小柳八千代
:2015/06/18(木) 07:57:45
『入室しました』
19
:
在原輝夜
:2015/06/19(金) 01:59:09
山田殿がふと意識を逸らしている間に在原は見事にファンシーまみれの彼をスマホにおさめることが出来た。
はて、山田五郎という男は前線では鬼の様だと耳にしていたが。
こうもギャップが出るものなのか。
ますます興味深いではないか…。
にやりと、陰ながらほくそ笑んだ。
「…梅ヶ丘の二の舞を招きたくないのは我々も同じだ。私の力が何処まで及ぶかはわからぬが…善処しよう」
実際の所、上層部に強く意見出来るほど在原に権力は無いのだが。
現状を伝え続けることは出来るだろう。
鈴宮が見事なテクニックを使用して山田五郎隊員を写メにおさめていた。
在原の表情は実に満足げである。
「シャッター音???はて…スマホを使用して書類を作成する者も少なくないゆえ…」
空耳かと首を傾げる山田殿には、しれっと誤魔化した。
「幻獣素材の使用に関しては前向きに検討していこう。大変参考になった。
……ほう。武器を改めるか。面白いもの…ううむ。幾つか開発中の物があるゆえ…鈴宮!第1班の資料を!」
先程山田殿の手を借りて拾い集めた資料を鈴宮がいくつかピックアップして抜き取った。
素早く在原へと手渡される。
うむ、と頷いた在原が山田隊員の前に資料を広げた。
「まだ開発中ではあるが、御手杵の槍をモデルとした槍がある。刃の部分に雷属性の魔術の呪文が刻み込まれているから、突いた対象物を感電させる事が可能となっている」
槍以外をお望みか?と他の資料を見やりながら問うた。
…ふと、スダレ禿が特徴のエルフのおやじの声が聞こえた。
「ああ、それは…」
言いかけた時に、颯爽と現れたる女。
見知ったウォーヘッドの隊員だ。
「おや、小柳殿」
めずらしく賑やかな窓口になりつつある。
ファイルを見ながら入ってきた小柳隊員が、山田殿と鉢合わせる。
…はて?
どうにも面白い展開の様である。
驚いた様に、在原の視線が表情が一変した小柳隊員と、相変わらずファンシーまみれのままの山田隊員との間を行ったり来たりしていた。
「何だ、お二人とも知り合いか?」
小柳隊員の反応からしてきっと…以前二人の間に何かしらあったのだろうと推測していた。
20
:
山田五郎(ファンスィー)
:2015/06/19(金) 16:49:49
>在原
確かに書類は写真もスマホで、というのはある。
山田の缶が微妙な怪しさを察知しかけている。」
山田は訝しげに在原を見ている。
が、些末なことなので、すぐに忘れることにした。
「おてぎねですか。随分有名な奴できましたね。」
面白そうだ。顔に感情がやや現れ、身を乗り出して読む。
「水分の多い生き物にはとても有効に思われますね。
あるいは対ロボットか…
センサーを搭載した武装に電流を打ち込む、というのが思いつくな。」
落雷の勢いでパソコンが壊れるという事例を応用して考えていた、
「他のも有れば拝見したいですね。
御手杵は衝くのに特化した槍のはず。斬る機能もあるもの、ありますかね。」
>八千代
さっき後ろを通ったウォーヘッドは彼女だったのか。
完全にファンシーに囲まれたもののふおじさんだよ。
一旦立ち上がり頭を下げ。
「こんにちは。」
ごく常識的に、温厚な態度で、山田はあいさつした。
「先日は、お疲れ様。苦労を掛けて、すまない。」
その後、同僚も変わりないか?と山田は気遣った。
済んだ話だ。お互いに気にしないで行こうじゃないか、といなす山田の所作だった。
「ケーキをいただいたんだ。美味いぞ。」
>在原
「先日、梅ヶ丘占領に協力を頂きました。任務をしっかりこなす、立派な隊員ですよ。」
いい部下がいるアントリオンはうらやましいですな、と付け加えた。
21
:
山田五郎(ファンスィー)
:2015/06/19(金) 18:29:35
山田の缶>勘
22
:
小柳八千代
:2015/06/20(土) 01:19:20
山田の見ながら顔を引きつらせていたが、知り合いかと聞かれて我に返り、
咳払いをして在原へと向き直った。
「…梅が丘のこないだの作戦でちょっとね」
在原は知ってるかもしれない。
ウォーヘッドが先日行った、ボーダーズ制圧作戦のことを。
それはボーダーズを試すために行った模擬戦にすぎなかったが、その作戦で
ウォーヘッドが使ったプロトタイプの魔術弾が在原の所の研究所から
渡されたものだった。
「《Prz0017》の報告書よ。このプロトタイプ弾の製作責任者は誰?
そいつの顔にこの精魂込めたクレーム集を叩き付けたいから、名前を教えて」
八千代は苛立っているようだった。
目の下にクマがあるのは、この報告書を徹夜で書き上げたせいかもしれない。
在原の前で、ばっさばっさとファイルを振ってみせる。
「ほんっっとに酷かったんだから!ジャムるわ暴発するわ!!
おかげでこっちは、そこで呑気にケーキ頬張ってるファンシーおっさんに
危うく殺される所だったわよ…!!」
と、ビシ、と山田のほうを指差した。
指差したところで、立ち上がる山田に、なぜかビクっとして半歩下がり、
在原の横に立つ。やや在原を盾にする形である。
「…別に、あんたに謝られる筋合いはないわよ。ジャムりさえしなかったら、
あんたが刀を振るう前に制圧できてたわ」
フン、と鼻を鳴らす。
梅が丘で最後に話した時とは、ずいぶん態度が変わっていた。
非常につっけんどんで敵意すらにじんでいる。
「…それで?ちょっと聞こえたけど今度は槍ですって?
殺しにきてる人間を斬るのをためらってたような甘ちゃんに、御手杵は
もったいないんじゃない?在原、この人にはデッキブラシでも持たせて
たらいいわよ」
23
:
在原輝夜
:2015/06/21(日) 00:41:56
ファンスィー山田五郎隊員と小柳隊員が先の梅ヶ丘での任務で知り合ったという事は両名の話で理解できた。
山田隊員は真面目に小柳隊員を評価している様子であるが、小柳隊員の反応はどうにも違う様だ。
在原は任務中に何かあったのだろうなぁと推測していた。
「斬る目的のもの…か。ふむ…」
突くものよりも斬るものの方がお好みか、と他の資料を捲りあげる。
「うーむ…これは完全に第1班の奴らの趣味の様なものだが……いわゆる斬鉄剣と呼ばれるものの分類になるな。
これは【鉄砲切り】をモデルにした脇差があるぞ」
写真が添付された資料を一枚、山田五郎隊員の前に示した。
「これは刃の部分に土の魔術の技術が用いられている。強度を増す目的だな。まだ実験段階だが、この魔術の効果がもっと強くできればいずれは一突きで地割れを引き起こす事も可能になるだろう」
あくまで実験段階の試作品ではあるが。
他にないだろうかと資料を探る。
ハンマー状のものや、弓矢、銃などに手を加えた魔術効果のある武器の資料がある様だ。
さて、小柳隊員が言う魔術弾は紛れも無く在原の所属する研究チームからウォーヘッドへ配布されたものである。
在原が来客を迎える前に出席していた会議の議題もその魔術弾のものだった。
小柳隊員が目の前で振るファイルを見遣り、おお、と声を上げた。
「《Prz0017》の製作責任者は…第3班の柴崎だが…生憎第3班はまだ会議を続行しておる様でな」
その弾に関しての議論が白熱しておるのだ、と付け加えた。
「取り敢えず落ち着かぬか。話は代わりに私が聞いてやるから…一先ず座るが良い。鈴宮、椅子を」
真っ白なフリルがふんだんについた椅子が準備されていた。
「弾詰まりに暴発か…。むう、やはり限界があったか…。とはいえ、ボーダーズ諸君を気を引き締めさせる程の効果はあったのだな」
成程、山田五郎隊員と対峙したのが小柳隊員だったのか。
漸く話が完全につながった。
立ち上がった山田隊員に小柳隊員がやや怯え…いや、威嚇か?している様に思える。
盾にされても在原に何の力もない、のだが…。
あくまで冷静の山田隊員と、敵意がにじむ小柳隊員。
傍観する在原の目にはどこか微笑ましい光景に見えていた。
「おや…デッキブラシ??」
そっと、資料を広げる。
そこにはデッキブラシ型の魔術武器?の試作品の写真が添付されていた。
あるには、あるぞ。
在原は真顔だった。
24
:
山田五郎
:2015/06/21(日) 04:00:35
>八千代
はげしい剣幕でミッションへの不満、および五郎への怒りをぶちまける八千代の声を、
五郎は感慨深そうな目つきで聞いていた。
五郎は八千代がびくっとふるえたのを見逃さなかった。
在原を盾にした時、山田の眼光がほのかに変わった。
それでも、淡々とスルーしている。
八千代が五郎に叩きつける罵倒を、
五郎はごく普通の表情で聞くだけだった。
すでに着席していた五郎は、モンブランを平らげ、飲み込んだ。
カップの中のコーヒーを飲む余裕すらある。
今は。
>在原
開発本部は資料の質量からして違う。
八千代についてのレスポンスから、「そのまま」資料の吟味に入る。
「斬鉄剣!こんにゃくは斬れないのかな。」
なんか古いテレビのネタを五郎は知っていた。
「それ、すごく興味があるな。
実験段階というのが残念だが、実用に耐えるものができたら、ぜひ頂きたいと思います。
切れ味があり、丈夫な刀がほしかったところで…魔獣相手にはとくに。」
魔獣を斬るのは、ヒューマノイドを斬るよりも大変なのだった。
鱗も爪も人間のレベルをはるかに超える。叩き斬るための威力を彼は欲していた。
腕力で戦う己にはこの剛刀は適しているだろうと、五郎は予期していた。
「ああ、武器ですが…自分は大概のものは扱えますが、接近戦が一番です。
射撃は弓でも銃でも、まあ普通です。どれも興味深いですが。
刀によく合う、いい装甲も捨てがたいな…」
あごに手を当てて考える。
それが少し時間を置くと八千代を待たせるためのフリになる。
在原が弾丸についての報告を受けている間、
胸ポケットに差したペンで適当にメモ帳に字を書いていた。
そのペンは、キャップをした時、ナイフのような、弾丸のようなフォルムをしている。
デッキブラシ、という話になったとき。
山田は資料を黙読する。
「棒術の要領で使えますね。ただ、これは僕みたいな剣士よりも、諜報員の潜入工作に使えそうだな。」
八千代にこれも乙女っぽさがある椅子が勧められている。
在原、俺も狙ってたなと山田は感じ取った。
ファンシーな椅子に、ファンシーな茶器。
おもてなしを受けている側として、それでも山田はありがたく思い黙していた。
>八千代-2
おもむろに口を開く。
「ご意見、ありがとう。そんなに勇ましく散りたいのなら、まず民間人を盾にするのは止めよう。」
ここは庁舎の中にすぎない。もちろん五郎はそれを見切っているから、任務中の自分で接しない。
であれば八千代も同様だろう。いささか厳しい言葉を使う。
「一つ、君は生きている。二つ。ここが都庁だと君は知っている。
TPOを見切っているだろう?君には十分に状況を読む目と頭はある。
ならジャムに即応して結果を出せるように頑張れ。僕を始末することでさえも。」
そして五郎は、さっき取り出したペンがタクティカルペンであることを明らかにする。
ボールペンだが、キャップを締めることで刺突武器になるものだ。
力を籠めればリンゴぐらいは余裕で刺せる。
そう付け加えた。
デッキブラシでさえも使い方と急所の狙い方では使い手の勝利となる事をほのめかして。
「結果を何とか出すのに苦労するから大人なんだろう。甘えんなよ。」
山田はため息をつく。
「僕だってな。斬る筋道もなしにザクザク人を斬れるわけないだろう。マンガじゃないんだぞ。」
25
:
群集
:2015/06/21(日) 09:26:32
「マジメかっ!!!!!」
デッキブラシについて真顔で検討する2人に、思わず突っ込みながら震脚した。
ズダァン!という音が在原のオフィスに響く。
怪力術は使ってないので安心してください。
「ああもう!普段在原だけでも突っ込み忙しいっつーのに、あんたまで
それじゃ私の胃がはち切れるわ!皮肉!!今のは皮肉!!
説明させないでよ恥ずかしいでしょ!?」
一気にまくし立てると、ぜはーぜはー、と肩で息をする。
「はあ…柴崎ね。刻んだわよ魂に…。
とにかく、三班の会議が終わるまで待たせてもらうわ。
ああ、ありが…
とう」
在原が支持し、鈴宮がだしてくれたイスに思わず八千代の動きが止まる。
フリルを見た瞬間、ぎしっ、と固まったので趣味じゃないと
言うかと思わせるだろうが…
一瞬。
ほんの一瞬だけ、フリルを見た瞬間八千代の顔の周りに
ぶわっと花が咲いた。(心象風景)
「か、かわ…
い、いやちょっと在原、またこんな椅子出して遊んで…
いつも普通のにしてって言ってるでしょ!!」
ウソだった。
何度か在原のオフィスに来たことがあるが、その度に
ファンシーグッズにきゃーきゃーカワイーコレカワイー
と騒ぎまくった過去がある。
普段言わない文句をぶつぶつ言いながらなんだかんだでいそいそ座る。
(つづきます)
26
:
小柳八千代
:2015/06/21(日) 11:20:59
座ってすぐ、鈴宮さんがお茶を注いでくれたので、
ああおかまいなく、どうも、と言いながらとりあえず
ありがたくお茶を頂き一息ついた。
「ああ、在原…代わりに聞いてくれるのは嬉しいけど、
こういうのって又聞きはよくないと思うの。
柴崎くんが『まあしょうがないよね』で
片付けた問題によって我々ウォーヘッドがどれくらいの
損害を受けたか直接訴えないと、私の気がすまな…
もとい、本人のためにならないわ」
ま、でもいつもありがと。悪いわね、と八千代は
少しいつもの調子に戻ってため息をつきながら在原に感謝を述べた。
二口目を口に含もうとカップに唇をつけた時、
山田氏からチクリと説教じみた言葉が投げられ、
八千代の額に青筋が走った。
「ンなことは…アンタに言われなくても分かってんのよ…!」
カシャン、と強めにカップを皿に置く。
「あーやってやるわよ。ジャムろうが不発弾だろうが受け入れて、
死んでも結果出してやるわよ!それで、アンタは
私達がこーやって実験体になったことで生み出された完成品を
嬉しそーにぶん回してたらいいじゃない!」
カシャン、と強めにカップを皿においてフリル椅子の上で足を組んで腕を組みふんぞり返る。
「さっきまで斬鉄剣とかコンニャクとかいってた男に
言われたくないっつーのよ!!」
アニメじゃないんだぞ、と言われれば、思わず身を乗り出して
バァンとテーブルを叩いた。ティーカップが軽く浮いて
カシャン!と音を立てて元の位置に戻る。
アントリオンとボーダーズの険悪な空気と、ファンシー空間のギャップがいよいよヤバくなってきていた。
27
:
山田五郎
:2015/06/21(日) 12:23:17
>八千代
山田、年の差と業務でもまれたせいか、
八千代のツン100%唐辛子対応にも表情が平静であった。
たとえティーカップが浮こうとも、である。
山田、ため息二発目。
ふんぞり返る八千代に相対する五郎は
やや足を開いて椅子のサイドに肘を乗せ、あごに手を当てている。
険悪にした覚えがなくても、
歯車のかみ合わせによってそうなってしまう、
というのが世間ではしばしばある。
山田五郎は、言葉のデッドボールを自制している。
甘えるな、と五郎が言ったのは
暴言を吐ける相手だと思われたことが、ある種の甘えなのだと観じていたからだった。
おそらく、40代という年齢もあり、何を言っても説教だと言われるだろう。
仕方のないことだ。
「反抗期か…」
八千代は思春期をこじらせている。
五郎はそう考えていた。
ちょうど、16になる娘、美樹も反抗期気味だった。
28
:
在原輝夜
:2015/06/21(日) 23:58:30
>山田五郎隊員
斬鉄剣モデルの脇差に興味を示す山田隊員を見て、そっと資料を手に取った。
「では一度このモデルの開発に本腰を入れる事にしよう。山田殿に釣り合ったものを提供できる様にせねばな」
白衣の胸ポケットに差し込んでいた赤いペンで資料にさらさらとメモを書き込んで行く。
デッキブラシに対しての山田隊員の言葉には、その通り!と頷いた。
「確かに魔獣の皮膚は強靭なものが多いな。大抵の刃物は傷んでしまうだろう。だがこのモデルは強度を上げているゆえ、その問題も解消できよう」
資料に走り書いたメモには 【ボーダーズ 山田五郎 隊員】と使用希望者の簡単な内容が記されていた。
「オールマイティーに扱えた方が前線での作戦で幅広く動けるだろう。装甲も多数開発中だ」
更に資料を広げた。
指輪型のものから籠手などバリエーションは様々だ。
「これらは風の魔術を応用してあってな。一時的に高い風圧を発生させて盾にする、というものだ。風の壁が銃弾を弾く所まではテスト済みだ」
後は軽量化を重視したシールドなどの資料を広げた。
誰の趣味なのか、そのシールドは綺麗な花柄だった。
デッキブラシに、ついての山田隊員の言葉には察しが良いな、と褒め称えた。
「デッキブラシといえど侮るなかれ。これはドワーフの協力を経て精製した超軽量金属を使用してあってな。力の弱い女性でも軽々と扱えるのが特徴だ。これもブラシ部分に雷魔術の技術が施してあってな。叩かれると痛いぞ」
楽しげに笑った。
元は一般市民の護身用にと開発の企画が立ち上がった代物だ。
デッキブラシとしての性能は勿論、護身用にもなる。
まさに一石二鳥!
小柳隊員に準備した椅子は、一応は彼女のお気に入り…なのだが。
山田隊員がやたらファンシーづくしになった事に関して、在原のただの悪戯であった事に関して、流石に気付かれただろう。
>小柳隊員
「私へのツッコミが大変だとは心外な。私はいつも至って真面目なのだが?」
いや。
決して真面目ではない。
ファンシーグッズやら、他にもドクロ柄の禍々しいものまで様々なものが揃っているのは完全に在原を中心とした魔術研究課の面々の仕業である。
フリルがふんだんに使われた椅子を前に完全に固まり…花を咲かせる様を見れば、在原は満足したように笑った。
そそくさと座る小柳隊員はどうみても喜んでいる。
「気に入ってくれて何よりだ」
今後も沢山準備しておこう。
又聞きは良くないという彼女の言葉に、余程直接言いたいのだな、と察していた。
「そこまで言うなら直接言ってやってくれ。奴も良い勉強になるだろう」
ようやく調子が戻ったらしい。
が、山田隊員へ反論する様はまさに思春期の父親と娘そのものである。
なんと微笑ましい。
こっそり動画に残すとしよう。
さりげなくスマホを起動させる事とした。
29
:
山田五郎
:2015/06/22(月) 03:32:42
前述の八千代への応対からこう続く。
山田は気を取り直した。
>在原
「私のため、というよりも、前線に立つ兵士全てに役立つと思いますよ。
脇差でできれば、ナイフに応用できるでしょう。便利で丈夫な刃物は命を守ります。
もし、予算の回収を重視したい技官がいたら、
アウトドア用のナイフに転用すればコロニーの市民も文句ないはずです。」
軍事技術の民間開放で市場を作り、
以て予算回収を良くしながらコロニーの生活向上にも役立つ。
そういう山田の提案だった。
装甲の件。
「なるほど、風の壁ですか。装備を損なわず、リスクを減らせる。指輪なら場所も取らない。」
魔術に特化した人材の自衛にも適しているだろう。
やはり技術本部にはディープなアイテムがある。一軍人として興味は尽きない。
資料を見る目が進む。そこで遂に至った花柄盾の件。
「ずいぶんオシャレだなあ。…リンケイって装備のおしゃれさにこだわってる連中もいますから、
そういう分野では最適でしょうね。」
八千代への椅子と合わさって、ついに五郎は確信した
「…自分ではなく。」
俺が、狙われている。
ファンシーなのはむしろこの部局なんじゃないか、いや、目の前の在原ではないか。
貴様、俺を花柄でどうするつもりだ‥
「デッキブラシは、自分も自宅用に一本貰えたら、いいな。最近は物騒でね。強盗も出るときがあるらしい。」
命知らずな強盗もいたものだが、怪しまれない武器として家にあればいいだろう、と一人暮らしの五郎は考えた。
冗談ではなく、デッキブラシ一本あれば、半端な犯罪者は余裕で叩きのめせる。
急所攻撃の技術を混ぜれば、無力化以上のダメージを与えることすらできる。
山田五郎は思わず、
花柄パジャマでデッキブラシを揮う己をイメージしてみた、
「流石開発部だ。恐ろしい才能を持ってるな。」
真顔で在原にそう言った。
まがお。
すごい。
そしてこの真顔からの
八千代とのガチンコ対面への流れ。さらに録画。
30
:
小柳八千代
:2015/06/22(月) 08:37:42
「あんたらは………」
自分が冗談で言い出したデッキブラシできゃっきゃきゃっきゃと
盛り上がる真顔コンビ (在原は面だが)に八千代はフリル椅子に
座ったまま力なくうな垂れた。
「間違った方向に真面目を発揮するなって言ってんのよ私は!!
なんなのよその花柄シールドって!アンタも真面目にリンケイなら
イケるとか言ってんじゃないわよ!!イケるか!!!!
視認性あがって即蜂の巣にされるわ!!」
花柄シールドが出てきた時点でさすがに限界だった。
某サムライアニメのメガネばりにまくしたてて
突っ込んだが、疲れで色々限界がきたらしい。
「だーーもう、鈴宮さんもなんとか言ってよ!
突っ込み疲れで自律神経がやられる!!
両手で顔を覆って近くにいた鈴宮に健康被害を訴えた。
そしてそのあと、五郎に対して散々な言葉を投げつけた後
返された言葉に、八千代の額に青筋が立った。
急にガタン!と立ち上がれば、底冷えする目で山田を見下ろす。
何故か今までで一番怒っているように見えた。
「年下の女を全員娘扱いしてんじゃないわよ…」
そう呟くように言うと、ファイルを引っ掴み踵を返し、肩で風を
切るようにその場から離れていく。在原には、横を通り過ぎ様
「また今度ね」とぶっきらぼうに言い残し、奥の廊下へ
と入っていった。
残された2人の耳には、奥の廊下で会議が終わったらしい三班ががやがやと
出てくる音と、「しぃーばぁーざぁーきーぃーー!」とそれを急襲する
アマゾネスの声。そして哀れにもその毒牙にかかった柴崎の悲鳴であった。
後日、在原にはチャットアプリでメッセージとスタンプが送られて
くるだろう。あの女にはまったく似つかわしくないゆるゆる系の
ネコスタンプ。そして一言、「うるさくしてごめんぬ」という謝罪。
仕事がひと段落したらまた顔を出そう。ケーキでも持参して。
しかし不幸にも女の理不尽な怒りにさらされた山田氏には、
後味の悪い別れだけを、押し付けて帰ったのだった。
『退室しました』
31
:
在原輝夜
:2015/06/23(火) 02:33:59
「そうだな。何れは前線の同志達全てに行き渡れる様、努力しよう」
在原が言う同志とは前線に配属されている兵士たちの事である。
広げていた資料を少しずつ束ね始めた。
「装甲も風の壁だけでなく水や土の壁でも応用出来ないか研究中だ。そちらの方も早い段階で活用できる様に開発を進めるとしよう」
ふ、と花柄の盾の資料に手を伸ばし…一瞬止まった。
流石の山田隊員も在原の過ぎた悪戯に警戒してしまった事だろう。
「これは女性隊員の要望で企画が立ち上がったものでな…」
女性の声を受けてデザインされたものであることは事実である。
在原が山田隊員にやたらファンシーなものを奨めた事にも理由があった。
……遡る事小一時間。山田五郎隊員より入電があった直後の話である。
在原が内線電話の受話器を置いたと同時に、聞き耳を立てていたらしい女性事務員達が顔を覗かせた。
『在原さん、今のお電話ってぇもしかして…ボーダーズの山田五郎隊員ですか?』
もじもじと何かを言いたげな彼女たちの言葉に在原は小首を傾げながら頷いた。
「ああ、そうだが…。それがどうしたというのだ?」
在原の返答と同時にきゃあきゃあと彼女たちから黄色い歓声が上がった。
その勢いに耳を軽く塞ぐ。
『今からいらっしゃるんですよねっ?!!やだぁ、どうしよう!!』
『まじやばいんですけど…!!』
口々に騒ぎ出す女性事務員達(いずれも30代前半の女たちである)は何だかすっかり興奮してしまっている様だ。
『実はぁ…、私たち…山田五郎隊員のファンでぇ〜』 『在原さぁん、お願いっ!!』
山田五郎ファンクラブ(非公認)だと主張する彼女たちの頼みはこうだ。
山田五郎の写真、または動画の取得。
彼女たちが心を込めて改良した花柄椅子に腰かけ、彼女たちが心込めて探して来た花柄食器を使用してもらい、彼女たちが心を込めてデザイン案を出した装甲を見てもらうというものだ。
妙な心境だが、彼女たちの熱意に負けた。
「…まあ、そうだな。うん。中々面白い計画だな。よかろう、私に任せるが良い」
在原輝夜 は 特殊ミッション 『山田五郎を狙撃せよ』 を受注した!
………という経緯があったりするのだが。気付けば純粋に悪戯を楽しんでいた在原である。
「…このデッキブラシのテストモデルが入用なら何時でも言ってくれ?」
にっこり。
山田隊員がえらい想像をしているとは知りもせず。
「褒め言葉として受け取っておこう」
山田隊員は真顔だった。すっごい真顔だった。
だから在原も真顔で返した…が、キレのある小柳隊員のツッコミが炸裂する。
見事な早口だ!
助けを求められた鈴宮はお手上げっす!とやや離れた席で両手を挙げていた。
そして二人のやり取りがヒートアップ…しているのは小柳隊員だけの様で。
遂には青筋立てて怒り出す彼女に最初は微笑ましいかと思っていた在原も、流石にやれやれと肩を竦めた。
ファイルを掴んで足早に出ていく彼女を呆然と見送った。
「はは…また来るが良い」
柴崎の悲鳴は聞かなかった事とする。
おそらくたっぷりと絞られた事であろう。
さて。残された在原と山田隊員であるが。
嵐が去った後の静けさが訪れていた。
「山田殿。まあ、その…気を悪くしないでくれ。あの子は少しばかり…素直すぎるのだ。うん」
取り敢えずフォローをしようとしていた。
その間も資料は手際よくまとめていく。
「かわいい娘ほど、手が焼けるものよ」
束ねた資料をとんとんとデスク上で整えて、控えていた鈴宮へと手渡した。
すっと背筋を伸ばして改めて山田隊員へと向き直る。
「山田殿。実に貴重な話を聞かせてもらい感謝するぞ。貴殿からの話を受け、我々の気力も大いに奮い立つだろう。機会があらば、また様々な話を聞かせて欲しい」
今回の話題に上がった物達はすぐにでもサンプル品の試作に取り掛かるだろう。
深々と頭を下げ、卓上に置いてあった妖怪柄の時計に視線を向けた。
(妖怪柄こそが在原の趣味である)
「おお。思った以上に時間を取らせてしまったな。私も次の会議が控えているゆえ、そろそろ研究室に戻らせていただこう。良いサンプルが出来上がり次第、また連絡をさせていただこう」
がたりと椅子から立ち上がり、軽く頭を下げた。
今後ともよろしくどうぞ。そんな意を込めて。
「嗚呼、鈴宮。山田殿に手土産を」
『了解っすー!』
山田隊員が帰路につく頃。
鈴宮が先程彼が食していた洋菓子店の別のケーキが一つ、手渡されるだろう。
丁寧に包装された袋の中に、小さく『からかってすまなかった』と書かれたメモが入っていたのは、また別の話。
32
:
在原輝夜
:2015/06/23(火) 02:37:20
後日。
小柳隊員からのメッセージに微笑む在原の姿があった。
『またおいで。心待ちにしている』
と、おどろおどろしい妖怪のスタンプを返した。
そして。
山田五郎ファンクラブ(非公認)の彼女たちの手元にも、無事?任務を終えた在原からの写真が複数届けられていた。
彼女たちの黄色い悲鳴が再び上がったのは、言うまでもなく……
【退室しました】
33
:
山田五郎
:2015/06/24(水) 03:25:45
>八千代
40代とは、30代と同じ気分でいるものだが
30代ではない。
諦念とか、分別とか、大人らしくふるまうことの深さを、強めなければならない。
八千代のような言動を勢いで取れる年齢は過ぎていた。
山田の表情は茫洋とはしていない。
八千代の言い分を掴もうとしているのだが、
八千代が山田にいちいちおこる理由が腑に落ちない。
さりとてとりあえずあやまるのも違う。
若干、厳しい表情で見ていたが、八千代は怒りを吐き出しきると、帰ってしまった。
五郎は息を詰めて視線を据えていた。
眉間にしわがより、苛立ちの色をにじませていた。
34
:
山田五郎
:2015/06/24(水) 03:45:17
>在原
山田は、ガラスのタンブラーを満たす、飲み水を干す。
かすかな眉間のしわは解けていた。
「解りますよ。生きていればこそああなるんです。
ただ、せっかく任務から生きて帰ってきたのに、ああ振舞ってしまうのは心配なんですよ。」
ここが戦場なら死んでいる。
戦場じゃないからああなのか。
五郎の一念が軽く転回した。
それも八千代の普通か、と。
可愛い娘は手が焼けるという言葉に、五郎は心から頷いた。
実に五郎の娘も手が焼ける。
しかし、手が焼けるくらい摩擦が無かったら、娘は自分を持たないまま育ってしまうだろう。
父として案じることはいろいろあった。
「修業不足だなあ…まだまだ俺はいかん。」
(八千代の出て行った時点から話を継いでいるが
山田は指輪の件、花柄シールドの経緯、両方聞いて、その仕事ぶりの筋の良さに納得している。
ただ、エフェメラ事務所内のファンの存在までは、知る由もなかった。)
「いえ、時間はいいんですよ。それより有意義な話ができ、素晴らしい時間でした。
サンプルの連絡、お待ちしております。フィードバックをご要望であれば、電話をこちらに。」
渡し忘れた名刺を在原に差し出す。
そこには山田の業務上の携帯番号と、ボーダーズ本部への電話番号が書いてあった。
本部に電話すれば、オペレーターが隊員個人に転送してくれる。
五郎は立ち上がり、礼をした。
武勲を支える研究と生産の世界に山田は敬意を示していた。
鈴宮からの手土産を受け取る。
「お邪魔しました。楽しいおもてなし、心が軽くなりましたよ。」
鈴宮氏をねぎらいつつ。
颯爽とした所作で本部を出る。
タクシーを捕まえ、笹塚駐屯地へと急いだ。
*************
駐屯地の所用も終わり、五郎は家に帰る。
トキオ内のアパートの一室。
午後9時。息抜きに沸かしたコーヒーも出来上がった。
先の手土産を開けると、お詫びのメッセージカードが入っていた。
気にしないでください、と五郎はつぶやいて、
一人でケーキをつついている。
「優しい味だな…。」
戦いばかりのボーダーズにとって、得難い潤いの味わいだった。
【退出します】
35
:
山田五郎
:2015/06/24(水) 03:57:05
補足
山田五郎は和室にちゃぶ台。
畳の上にあぐらをかいて食べてます
36
:
久世十蘭
:2015/09/14(月) 23:19:23
【ID:XXX-0679874…入室しました】
本部内のディテクションションゲートが開く。
限られたものだけを通す特殊な区画である。
ちょうど、ウォーヘッドがカーチェイスイベントを行っていたその時。
(
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17142/1436570415/-100
)
エフェメラ本部上層階。
密談は夜の闇の上で行われる。
「幣原(しではら)様におかれましては、いつも私どもがお世話になっております。」
眼差しをおっとりと細めた、女性の姿がある。執務室の机の前に坐している男に対して、壁を背にして直立不動だった。
手には革製のダレスバッグを持っている。
シンクタンク議員に慇懃に礼を述べる彼女の姿は、ごくクラシカルな英国調家政婦の姿。
メイドであった。
50代半ばかという、やや肥えた男であった。
シンクタンク富国派の議員である。
「いやいや。そちらにはいつも世話になっているのは私の方こそで。」
幣原には、企業群提供で迂回された献金を渡す。
「司令にはこの幣原がよろしく申していたと、伝えておいてくれ久能君」
「久世、でございます。」
久世、と名乗ったメイドが献金で買い取っているのは、政財界、及びアントリオンの動向についての内部情報だった。
「ところで幣原さま。先日頂きました”蟻地獄の飼育方法”の件ですけれども。
当方で手配しておいた"飼料"をつい先ほど盗まれた、とか。」
久世達無名部隊は、梅ヶ丘駐屯地の一件以降、ウォーヘッドが敢えてボーダーズを狙っているらしいことに気づいていた。
ボーダーズ諜報部も感づいていたかもしれないが、無名部隊側はもう少し独自の分析を重ねていたようである。
「そのような人々がアントリオン内部にいる、とは確かに承りましたが。そちらで手を受けてるなら打っていただかなくては困る、と申しました。
もうわすれまして?」
(梅ヶ丘の件→1-31まで
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17142/1433354132/l50
)
無名部隊は面だって動かない組織である。
記録にさえ残らない。通常はもろもろのエージェントを立てて、暗躍している。
彼等とかかわる場合は、オファーを履行する信義と忠誠が重要であった。
その為にエージェントには様々な利益を供与して、目を曇らせ耳をふさがせているのだ。
幣原は何気ない久世の言葉が異様に重く感じられた。
その何気ない物言いの裏にある組織の怒りが匂い立っていたからだ。
当面のアントリオンの動きについて、久世経由で手渡していた諸事の情報が無効であっただけでない。
幣原が無名部隊の圧力を恐れ、有形無形の圧力を駆使してウォーヘッド含むアントリオンの配置を操作しようとしていたのだったが、
ユーリたちウォーヘッドは署内の力関係を上手に遊泳し、あるいは逆用し、彼ら独自の動きをしているようなのである。
「…幣原様にコンタクトを取るのは、いささか難しくなるかもしれません。
何より、一介の小間使いにすぎないわたくしの名字をお忘れでは…。」
幣原の脳裏には、きわめてネガティブな予測がひしめきだす。
十蘭は穏やかな表情を揺るがせにせず、薄く笑む目の向こうで瞳を凍りつかせていた。
十蘭はバッグから書類を出す。
37
:
久世十蘭
:2015/09/14(月) 23:39:01
書類には、様々な個人情報が書かれていた。
執務机に歩み寄り、さ、と書類を並べた
書類のヘッド部分を見せて、すぐにそれをバッグに仕舞う。
それは、幣原の家族や、議員の地盤を構成する商工会の人脈のプライバシーに深く触れる情報をまとめたものだった。
「一応わたくしも徹夜で調べましたけれど。もうこういう物に用はないですわね?
司令は幣原さま信用しておりましたが、最近は物思いに沈んでおられまして」
時間となりましたわ。
しっとりとした声音が時間を打ち切る。
懐中時計で時刻を確認する。と、執務室の机に身を乗り出し、十蘭は耳をくすぐる女の声で笑った。
「いろいろ楽しゅうございました。では、御機嫌よう。」
幣原の顔を十蘭の張り付くような肌の手がつかんで。
骨を軋ませた。
指の隙間から見上げる幣原の瞳を見くだす。
「三度目はないですよ。」
十蘭の頭髪を割って表れた角が、消えていた。
エプロンのポケットからウェットティッシュを取り出すと、顔から離した手を拭った。
執務室の机にそれを投げ捨て、かかとの音も少し響かせ、ディテクションゲートを出る。
次、我々の意に背くならば、物理的か、社会的か、いずれかのアプローチで葬ることになる。
その伝達のために赴いたのだった。
密談が済んだ朝五時。
一度、岡部からスマホに任務の経緯のメールが来た。
”無駄に手を下すことはないでしょう。利用価値があるはず。少なくとも実行部隊の男でしょう。泳がせなさいな”
後、十蘭のスマホに電話がかかる。
『岡部』という文字列がモニタに現れる。
「もしもし。あら、雪ちゃんお疲れ…どうしたの?」
妹に接するかのような物腰。
「うん?業者?起きてくれるかしら…。連絡しておくわね。ちゃんと寝ないと視力下がるわよ?
…切れちゃった。」
先ほど送ったメールとともに、
無名部隊の関係者に帰投希望のメールも送った。
黒いバンがやがて彼女を迎えに来る。十蘭は乗り込む。
本部門前は静かな日常の空気だけが残った。
幣原議員は眠れなかった。今後もそうだろう。
【退出しました】
38
:
在原輝夜
:2015/10/31(土) 16:12:44
【入室しました】
エフェメラ本部、魔術研究課専用特殊窓口。
世間がハロウィン一色に染まる中、彼らは休むことなく仕事に追われていた。
事務員はもちろん、研究員も通常運転だ。
気持ちだけ乗っかったらしい事務員達が飾った歪なカボチャオバケがにこやかな笑みを浮かべている。
そのカボチャオバケが鎮座しているフリフリレースの椅子に向かい合う様にして腰かける女研究員が居た。
「ふむ。鈴宮、お前にしては良い出来ではないか」
鈴宮とは魔術研究課の事務員の一人だ。
カボチャオバケを飾り付けた張本人である。
人間と然程大きさの変わらないサイズに作られたカボチャオバケは鈴宮事務員のお手製だった。
「でしょう!?俺めっちゃ頑張っちゃいましたよー。
…あっ、在原さんそういえば朝陽さんから書類を預かってますよ」
「なかなか愛らしい顔をしておる。折角だから写メで拡散しておいてやろう
…書類??全く、直接渡しにこればよいものを。受け取ろう」
(ぱしゃ)
スマホを取り出しフリフリレースの椅子に鎮座するカボチャオバケを絶妙なアングルで写す女、研究員の一人在原輝夜である。
鈴宮が取り出した書類は、彼女の双子の弟にして同じく研究員の一人である在原朝陽からのものだった。
「はろうぃん…か。ならば気持ちだけ私も乗っかるとしよう」
すちゃりと何時もの狐面を顔から離して、取り出したのはおどろおどろしい死神のお面だった。
資料を手渡そうとした鈴宮が短く悲鳴を上げたのはいうまでもない。
カボチャオバケの前に死神の女がここに降臨す。
39
:
在原輝夜(死神のお面着用)
:2015/10/31(土) 16:34:54
(カボチャオバケの写真は素早く仲間内に拡散されたようである)
鈴宮から書類を受け取り、眺める。
丁寧に封筒に入れられ、ぴったりと封がしてある。
それ程重要な書類を弟は持っていただろうかと首を傾げつつも、丁寧に封を開けていく。
「・・・・・」
封を開けて出した書類には達筆な文字が描かれていた。
『 都理九 御亜 途理居兎!! 』
死神お面の女研究員はそっと書類を封筒に戻した。
何事も無かったかのように、自然な動きだった。
「…え、どうしたんすか在原さん??」
「…いいや、何でもない。ただ少し…私は時折弟がとてつもなく心配になる事があってな…」
ふう、と深いため息を吐きながら在原輝夜は遠くを眺めていた。
視線の先には相変わらずにこやかな笑みを浮かべた歪なカボチャオバケが鎮座していた。
何となく察したらしい鈴宮事務員が苦笑を浮かべる。
「…ああ、ほら…朝陽さん確か徹夜続きですし…」
「…良いんだ、鈴宮。お前がフォローする事でもない。大方、菓子を持ってこいという事だろう…。全く私とて暇ではないのだが。ボーダーズとアントリオン双方からの報告を受理してまとめねばならんというのに…」
深いため息をつく死神とかいう中々面白い構図が出来上がっていた。
40
:
在原輝夜(死神のお面着用)
:2015/11/01(日) 12:01:00
「あっ。在原さん、先日受けたリンケイ事務所からの依頼の件でメールが来てますよ」
項垂れる死神のお面の女研究員を横目に、パソコンのディスプレイを眺めていた鈴宮事務員がふと声をあげる。
「ああ、わかった。今確認しよう」
自分専用のタブレットを取りだし、メールボックスを開ける。其所には幾つかのメールが届いていた。
一通目は今、鈴宮事務員が言った件のメールだ。
もう一通は……。
「 都理九 御亜 途理居兔!! 」
と書かれた見覚えのある一文が添えられたものだった。
在原輝夜はそのメールをそっとゴミ箱へと移した。
何事もなかったかの様に、件のリンケイ事務所からのメールを開ける。
「………やれやれ、えらく注文が多い事務所だ」
「どうかしたんスか?」
「兄の紹介で受けた依頼なんだがな………どうにも提供した物が気に食わない様だ」
「在原さんのお兄さんって確かリンケイ事務所の社長さんでしたよね」
エフェメラ所属の在原姉弟には他にも兄弟がいる。
それも各所に所属している為、其々の兄や姉、もしくは弟や妹から特別に依頼を受けることがあるのだ。
今回は個人的にリンケイ事務所を立ち上げている長兄からの紹介を経た依頼だった。
「全く、この依頼者は我々を武器屋と勘違いしている様だ」
「ああ、たまに居ますねぇ、そういう依頼者」
「ただ殺す為だけの物を創った覚えはない」
殺傷能力の高い武器の依頼だった。まさにグレーゾーンのものだ。
エフェメラに集まる技術者は有能な者の寄せ集めでもあり、国の指示に従い様々なものを開発している。
表向きはホワイト一色に見えるものでも、蓋を開けてみれば真っ黒な事も少なくはない。
この魔術研究課もそれは同じ事だ。
「鈴宮、後で電話を入れるゆえ……番号を転送しておいてくれ」
「わかりました」
なかなか複雑な立ち位置だと我ながら思った。
軍人だった頃とはまた違った圧力を感じていた。
「全く、平和・平穏とは一体何なのだろうな?」
フリフリレースの椅子に鎮座したままのカボチャオバケへと声だけを投げ掛けた。
歪なカボチャオバケはにこやかな笑みを抱いたままだった。
41
:
在原輝夜
:2015/11/16(月) 15:45:37
幾つかのメールを開いて、一つ一つに目を通していく。
依頼や報告などその内容は様々だ。
面倒な案件も無論だが少なくはない…が、これも仕事だ。
一つ一つ丁寧に返信をしていく。
「ふう…一区切りついたか」
一通り返信を終えた所で、在原は死神のおどろおどろしいお面を外した。
やや疲れ気味の研究員の顔が其処にあった。
「在原さん、珈琲でも飲みますか?」
「いや、それはまた後で頼もう。早く来いと煩い奴が居るのでな」
新着メールが一通届いていた。
都理九 御亜 途理居兔!!という奇怪な一文だけが書かれていた。
「嗚呼…はは。了解ッス。良かったらこのお菓子一通り持って行ってもらって構わないッスよ」
鈴宮事務員は本当に気が利く良い奴だと在原は何時も思う。
そこそこモテそうだというのに、どうしてこんな引き籠り同然の研究所の事務なんぞに納まっているのか。
こちらからすれば、大変ありがたい話ではあるのだが。
鈴宮事務員が指示した菓子を一瞥してから、在原はかけていた椅子から立ち上がった。
「有難く頂戴しておこう。何時も感謝するぞ、鈴宮」
「菓子の貸しは今度一杯奢りってことで…
…いって!!」
くだらない冗句を交える事務員の額へ軽いでこピンをお見舞いする。
元軍人のでこピンの威力を在原は気づいていない。
悶絶する事務員の傍を通り過ぎ、フリフリレースがふんだんに使用された椅子に鎮座するオバケカボチャの頭をぐりぐりと撫でた。
「一通り作業の区切りが付いたら知らせるゆえ、それまでに何が食いたいか考えておけよ、鈴宮」
「っはは、ありがとうございまーッス!!」
悶絶したままひらひらと手を振る事務員に見送られ、在原は窓口の事務所から出て行った。
向かう先には、ここ数日ずっと研究室に籠りっぱなしの兄弟の元だ。
其の兄弟と、頂戴した菓子を摘みながら研究内容の議論が白熱し、うっかりビーカーをひっくり返してしまった事はまたべつの話。
転がるビーカーの薬品たちが混ざりあって研究目的で持ち込まれていた異界植物が異様に発育し、研究所全体が軽いジャングルと化してしまった事は後の伝説として研究員達の間で語り継がれる事であろう。
無論、この事態は上にはしっかりと伏せられていた。
そんな魔術研究課のある一幕である。
【退出しました】
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