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異界が発生した世界のロールスレ

1 ◆MfBiO.rGQU:2020/12/11(金) 21:59:48
ここは、
『ここだけ異界が発生した世界』
>ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17097/1603454505/
のロール専用スレです。

日常、バトル、エッチ等々、『ここだけ異界が発生した世界』スレに基づくロールにお使いください。
それ以外の方のご使用はご遠慮ください。
リアルタイム、置きレス、どちらでも使用可能です。

104忍法・「燕女」 ◆v6j.R9Z2OE:2021/02/21(日) 07:39:50
(お昼は郁橋様たちの手料理をご馳走していただくか、はたまた店屋物をとるか)
(ホロくんの料理の腕を披露して貰うかは場の流れに任せるが――そこでも既に仕事は始まっている)
(皆様には料理を堪能していただき、燕女さんも料理を幸せそうに堪能するとして)
(食事をしながら、ゴマ子ちゃんと郁橋様たちにゴマ子ちゃんの問診票を作る為の質問をなめらかに重ねていく)

(2年、食事に関してトラブルがなかったということは、ゴマ子ちゃんは猫の姿であれば)
(こちらの猫用の食事については問題なく摂取出来ていたということなので)
(普段の猫用の食事について聞き取った上で、2年で判っているだけの彼女の生態を確認)
(問診票形式で記憶していく。食事中なので書き写しは後にするのだ)

(人用の食事については、可否が不明瞭なのだ)
(今は家族と同じ食事が摂れないか、摂らせていいかわからない状態だろう)
(そこについても、来訪者互助組合に来訪者も診れる医療機関があることを説明)
(一度受診して貰い、猫の姿と人の姿でのアレルギーなどについても検査して貰うよう勧めておく)

(ゴマ子ちゃんはクッッッッソ可愛いスコティッシュフォールドで人型も美少女である)
(同じ食事を摂らせてあげたい気持ちもわかるが、アレルギーが出たりするとお互いに辛い思いをする羽目になる)
(そこはお互いの為を思って受診結果が出るまでは控えていただくと)
(その流れで、「変身能力のある来訪者と暮らす際のあるある倫理観」の話についても確認しておく)

(ゴマ子ちゃんは猫の姿と人の姿になれる来訪者である)
(そして人の姿が本当の姿の来訪者であり、本質的には人間に近い)
(そういう来訪者を愛玩動物のように扱っていいものか)
(愛玩動物と同じ食事だけで満足させていいものか)

(逆に人間と同じとして扱わなければならないのか)
(それはホストファミリーが迎える問題の一つである)
(それに答えはない。答えはないが、実例はいくつもある)
(食事をしながら、ささっと問診票用の質問を終えた燕女さんは、まったり食事を続けながら)
(他のホストファミリーの様子を話し、家族でひとつ、その問題について考えていただく種を撒いておく)


(さて、食事を終えれば血糖値が上がり、眠くなるもの)
(なので、ここでいきなり大事な金銭の話を切り出したりはしない)
(まったりした時間はまったりした話を挟もうと一つ提案する)
(お土産のケーキと猫姿のゴマ子ちゃん用のチュールを振る舞いつつ)
(ゴマ子ちゃんの問診票を秒で書き終えたらやるのはゴマ子ちゃんの身の上話を調書としてまとめる仕事である)

(当たり前の話だが、来訪者の世界はこの世界とはだいぶ常識が違う)
(そこについて、家族全員揃って、また所轄の谷本巡査と、今後付き合いが発生する可能性もある)
(ホロケウ氏も合わせて、彼女の世界の身の上話を聞いておいて損はないだろう)
(特に警察機関についてはいい印象がないと聞いているので、そこの認識については)
(ホストファミリー全員が持ってもらわないと、危ない)
(この世界はどこに居ても、異界災害がいつ起こるか全くわからない)
(つまりこの家から避難しなければならない事態がいつ発生するか、誰にもわからないのだ)
(その際の避難誘導に従って貰えないと、家族を危険に晒す必要もあるし、そこで公務執行妨害が発生すると)
(ゴマ子ちゃんの持つ武器の威力から考えると、所轄の署員や警察官の方々の身も危ない)

(その他、常識のズレから起こるトラブルは多々ある)
(そういったものの認識合わせに、家族全員からの質問を交えてのゴマ子ちゃんの身の上話となる)
(もちろん、燕女さんが誘導質問を混ぜて、肝心の要点は綺麗に抑えた上で、だ)

(この家の家族構成は交友関係に至るまで、事前に丸裸にさせていただいている)
(そこから予想されるトラブルについて、事前に小石を退けられそうな質問をさりげなく混ぜておくのだ)
(お兄ちゃんを好きな子がいるのにゴマ子ちゃんが家にいるからっていう話になって)
(その好きな女の子がゴマ子ちゃんに色々と面倒をかけてレーザーが発射される事態になったら、まあ)
(家庭崩壊は免れまい。クッッッッソ可愛いスコティッシュフォールドを愛する燕女さんとしては御免である)

(この調書をとる意味はもうひとつある)
(調書と身の上話を進めていき、最後はこの街を数ヶ月前に襲った鬼の話が出てくるか、である)
(あの鬼は零課が回収しているが、民間で遺骸を回収していれば一千万単位で報奨金の出る大物だ)
(その鬼を倒したのは他ならぬゴマ子ちゃんである。そこの証拠固めをはっきりさせないといけない)
(鬼を討伐したのが彼女なら、本来なら彼女が受け取るべき報酬だ)
(だが額が額だけに慎重に確認を行わなければいけない)

(ゴマ子ちゃんの身の上話を聞き、攻撃、殺傷した対象の確認がとれ)
(その上で、彼女の武器の威力が真実、鬼を殺傷させられるかを確認する)
(あらかじめ用意しておいた、零課で回収された当該鬼の遺骸を加工した装甲板)
(それを撃って貰うだけである。無論、外に出て、忍法で左右上下と上空の安全確認)
(それを行った上で、萬海川集を変形させた、鬼の遺骸装甲板以上の強度をもたせた上で)
(光学系の攻撃をジャミングする忍法を周囲に配置して、繭状にした萬海川集の中の装甲板を)
(繭に銃口を突っ込んで撃って貰う。装甲板が見事貫かれたら証明は完了である)
(銃痕を確認するためのテストなどを思い浮かべていただければありがたい)

105忍法・「燕女」 ◆v6j.R9Z2OE:2021/02/21(日) 07:42:12
(そして、お昼を食べた後の眠気もそろそろ引いた頃合いになったら――金銭の話になる)
(互助組合から出る来訪者ホストへの補助金は巡り巡れば国庫から出ていること)
(そして細かい税制などについての話と書類を来訪者互助組合の佐々木・燕女としてご両親に渡した後)
(公安零課の佐々木・燕女として、鬼を民間の人間が倒した際には報酬が支払われること)
(そして諸税を処理した後の額が1200万ほどであることを伝えた上で、報酬を受け取っていただく)
(それは零課や国防軍の各方面軍が本来果たすべき業務を代行してくれた民間人への正当な報酬であり)
(国政が護るべき市民の救出に間に合わなかった分、その生命を救ってくれた者へ贈る金銭なのである)

(一、零課員として、改めて)
(数ヶ月前、予報をすり抜けて襲来した鬼の討伐について、ゴマ子ちゃんへと感謝を込めて佐々木・燕女は頭を下げる)
(市町村でも町規模となると、死傷者は数千〜万単位にのぼっていた可能性がある)
(国政の防衛政策としてはそれだけの死傷者が出れば完全な敗北だ)
(ここ数年、死傷者を日毎で1000人以下に抑えていた予報部署としても足元の崩れる失態である)
(それを未然に防いでくれた彼女には、それを受け取るだけの権利と、心からの感謝を受け取る権利がある)

(来訪者互助組合員として深々と頭を下げた後、顔をあげると僅かな乱れもない敬礼)
(零課の課員。国家公務員たる警察官としての感謝をゴマ子に伝えた後)
(きりりとしまった場の空気をそのままに燕女は金銭面での話を進めていく)
(ゴマ子ちゃんが暮らすには補助金が出るが、流石に医療保険も効かない来訪者の一生の面倒を見られる額ではない)
(何故、子供を交えてこんな話をするのか、というと。「それは皆さんがこれから、本当の家族になるからです」と燕女は前置く)

これから、貴女はこのご家族と本当の家族になるんですよ

それは、そう
たとえば、です
こちらの可愛い妹さんが大きくなって
奥様と旦那様みたいな素敵な恋をして
幸せな家庭を築いて

その時、ゴマ子さんは妹さんの愛する人を受け入れられるか
ずっと一緒に過ごしてきた妹さんを他の誰かを好きになっても我慢できるか
なんて、少し難しいことを考えたり

この国は大体、お箸でご飯を食べますから、まず手づかみで食べ物を食べるのをやめて
フォーク、スプーン、そこからお箸の使い方を
日常の小さなことから妹さんやお兄さんに教えて貰ったりするんです

妹さんの恋人の話は、まだ早いかもしれませんね
でも
貴女がここにいる限り、それは『いつか』、貴女だけではないご家族全員の下に訪れる未来
一緒に暮らしていく人たちの20年、30年
40年、50年先が訪れる場所にいること

それが本当の家族になるっていうことじゃないでしょうか

ちょっとうまくいかないことも、泣きたいこともあるかもしれません
その時は、貴女が銃を手にした時に見た、妹さんの苦しそうな顔を思い出して下さい
それで大抵はうまくいく筈ですが、どうにもならなかった時は遠慮せず、ギルドを頼って下さい

逆に貴女もこれからは家族なんです、貴女も苦しそうな顔を我慢しないでください
貴女の世界では馴染みが薄いかもしれませんが、この世界では
誰かが苦しそうにしていたら、他の誰かが手を差し伸べてくれる世界でもあるんです
そのときもギルドやこの制服を着た警察官の皆さん、先程資料を見せた中にある
国防軍の軍服を着た方を頼ってみてください

そして願わくば、いつか貴女の手が
貴女を助けてくれたホロくんのように誰かに差し伸べられますように


一組合員からの言葉としては、こんなものですね
独身貴族の口から出たことなので、話半分で

最後のところだけ聞いてください
来訪者互助組合は、いつでも人手不足
ゴマ子さんを含めた郁橋様のご支援をお待ちしていますね

(家族になる。「誰かと一生を共にする」というのは、綺麗事ではない)
(この、人一人、老後まで生きていけるかという世界で、子供たちが適合者になった時)
(あるいは両親が事故で一生の怪我を負った時。「その先」を一緒に考えていく関係になるということである)

(そこには金がいる。ゴマ子ちゃんが「愛玩動物」ではなく、「家族」になるのであれば)
(それは誰かから、金を与えられ続ける関係のままでいてはいけないということだと燕女は語る)

(その上で、子供二人をこの世界で育てている郁橋家がどれだけ立派かということ)
(子供たちがいかに恵まれて愛されているかということを、燕女は静かに語る)
(「こういう機会でもないと、照れくさいかもしれませんので」とはにかみながら)

(本心ではある。本心ではあるが、打算と下心が0というわけではない)
(家族愛を強調し、家族の絆を確認していただいた後、こう切り出すのである)

106忍法・「燕女」 ◆v6j.R9Z2OE:2021/02/21(日) 07:47:44
(「ゴマ子さんは非常に強力な武器をお持ちです。大型の鬼も仕留められるでしょう」)
(「お仕事の選択肢として、民間のハンターとして働くという選択肢もありますが」)
(「そちらについては、一度よく、話し合ってください」)
(「確かに、実入りは成功すれば大きいのですが、同業者との軋轢もありますし」)
(「何より――“こう”なって引退。残りの余生を病院のベッドの上で過ごされる方も少なくありません」と)


(気軽に1200万稼げる手段があるのである。ただしそこにはリスクが伴う)
(ゴマ子が負傷しても回復する、というのは現時点では知らない話ではあるが)
(だとしても、前提は同じだ。1200万、ポンと渡されて浮足立っているかもしれない家族に)
(左腕がなく、右目のない燕女と同じ姿になって稼がせる道を選ばせますか、と)
(そう問うて、「ゴマ子が家族のために金を運ぶだけの傭兵」にならぬように釘を刺す)

(家族が決めた上で結論を出すのなら、燕女に否やはない。そこは干渉するところではない)
(ただ、金銭の話は容易く倫理観を狂わせる。狂った倫理観に冷水を浴びせるくらいは許されるだろう)
(出来る営業のトークスキルというヤツである)

(零課用、そして来訪者互助組合用に調書を取り終わり、金銭授受を行い)
(今後の話として、民間傭兵のリスクについて説明した後は、「怖がらせてしまってすみません」と微笑み)
(「それでも」と道を選ぶ際のテクノロア社を含めた契約傭兵、民間ハンターとしての選択肢の資料)
(それ以外、バベルセプトの影響下にある為、国際通訳としての様々な通訳業や事務員としての選択肢)
(その他、クッッッッソ可愛いスコティッシュフォールドである面を活かしてのアニマルアクターへの道)
(それはそれとして地域の平和に貢献する為の防衛講習を受けるなどの互助組合の講習がある旨を伝え)
(このまま猫チューバーとして活躍するのであれば当面はそれもいい旨を話すと、事務方の仕事は終わりである)

(どこかのタイミングで少々、ご両親に時間をとっていただき、大人だけで)
(普段が猫の姿であり、人型の羞恥心が薄そうなことについてご両親ともちゃんと話し合っておく)
(堅い話が続くので、ひと休憩挟んだタイミングなどが適当なところだろう)


(とまれ、当面の生活、医療、金銭関係問題を解決)
(ゴマ子ちゃんの身の上話を皆で共有することで)
(出身世界の警察機構が、所謂特別警察のようなものであり、通常の治安機関への意識が皆無なことを関係者が認識)

(大型の鬼を殺害出来る殺傷力を備えた上で、彼女の武装は変身時に出現する常備化装備であり)
(どこかに離れて保管しても、結局彼女の装備として戻ってしまうことを確認)
(彼女の殺傷力は彼女と不可分であることを改めて確認したところで、必要がなければ武器を使用しないよう伝えて)
(その日はお開きとなる。その他、諸々の質問などあれば来訪者互助組合か地元警察署の窓口へ)
(そのために税金を貰って動いているのが国政が営むお役所というものであるのだから)
(その場で燕女が答えられることについては全て回答は済ませておいて貰ったと思っていただいてかまわない)


いやあ、あんなにクッッッッソ可愛いスコティッシュフォールドのお嬢さんと
お知り合いになれたのは大変な役得ですねえ……♪
(全ての仕事を終え、最後に、忍法で左腕と右目をご家族の前で再生し、「どうぞお健やかに」と敬礼して微笑む)
(ちなみに彼女だけの特異体質であり、普通はあんな重傷は一生モノの怪我だということも忘れない)
(そして郁橋様宅を辞した燕女さんは、帰りにホロケウ氏ことホロくんと谷本巡査を食事に誘い)
(その席で心底幸せそうに、クッッッッソ可愛いスコティッシュフォールドさんと撮った写真を眺めてたという)
(零課の仕事をし、来訪者互助組合の組合員としてもしっかり働いた燕女さんは大変に幸せそうだった)

107ゴマ子 ◆ZiOG0lyEZs:2021/02/23(火) 17:20:18
>>102
「玉ねぎとか……?」
(敬語が抜けてきて、息子の友達みたいな感覚が強くなってきた……けれど、悪印象にならないのはホロくんの少年然とした姿のおかげか)

「郁橋……私がカリンで、主人がユキヤスです。よろしくお願いします」
(電話番号交換、そして)

(むー、といまいち何が悪かったかわかってない顔のゴマ子が写真に撮れて)
(それから猫モードになると、着せられていた服はその場にとさりと落ち、布の中から猫が出てきて)
(また人間になると、件のボロを着た状態……ママはどうしたものかと天井を見上げる1幕があったりした)


……ありがとう
「どうもお世話になりました、今後もゴマ子のこと、よろしくお願いします」
(玄関まで出てきて――ゴマ子はまた服を着せられ――お見送りし)
(見送ってすぐに、取り急ぎ、服屋へ急ぐのだった)

【まずはここまで、ありがとうございました。無事ゴマ子の人間としての暮らしが始まりますね】

108ザック・ヒメタン ◆k1072NP5UU:2021/02/24(水) 00:40:42
【α-130型さんとのロールに、レスを置かせて頂きます】

――うちの嫁はね。料理がとっても上手いんです。
チーズ味のキャセロール。具だくさんのクラムチャウダー。ミートボール入りのトマトスパゲッティ。
ベーグルは粉から捏ねて作るし、タルトやパイ菓子のレパートリーもめちゃくちゃ多い……。

(独り言のように言いながら、あたし……ザック・ヒメタンは、アサルトライフルの銃口を、すっと持ち上げた)
(胸と腕で、その重々しい兵器をがっちりと支える。バレルが真っ直ぐ前を向き、セメントで固めたように揺らがなくなる)
(軽く首を傾げて、ピープサイトを覗き込む。200メートル先に設置した標的が、風景の中に浮かび上がって見えた)

何かコツがあるのかと聞いてみると、まず第一に、道具を手になじませることが必要だって言うんですな。
包丁もフライパンも、秤や計量カップ、コンロやオーブンだってそう。
自分の手に合うサイズを選んで、何回も使って、指に重さと形、操作の仕方を覚えさせる。
料理が終わったら、ちゃんと出し入れしやすい場所に整理して片付けて、次に使うまでに手入れもしっかりしておく。
最初にそういう訓練をしておくと、初めてのレシピを見て料理を始めても、もたつくことなく、上手く作れるんだそうです。
なるほどなぁ……と、思いました。
自分に合った道具選び、道具の扱いの最適化、そして反復練習。確かに全部、大事なことです。

(鳥の声もしない、静かな山の中。青々と茂った木立ちの中にすっくと立つ、人型の黒い板はよく目立つ)
(その頭部に、意識を集中し……すぅ、と息を吸い込み……止めて……)
(引き金を搾るように、引く)
(風船の破裂に似た乾いた音が響き、銃口が薄い煙を吐いた)
(そして、標的の狙った場所に、小さな穴がぱつんと空く)
(10センチ下……ノドを狙って、もう一発。……命中。さらに下、胸の真ん中を狙って、もう一発。……グッド)
(縦にみっつ、直線に並んだ弾痕を確認して、あたしは気分よく頷く)

鬼退治を仕事にしていると、道具のありがたみがよくわかります。
銃が持ち運びやすい大きさと形で、きちんと言うことを聞いてくれるというのは、本当に心強いですもん。
……あー……それで、α-130型さん。あなたにお渡しした「支給品」の調子はいかがです?

(銃を下ろして、少し離れた場所に顔を向ける)
(標的の板とは真逆の、真珠を思わせる純白のシルエットが、森の風景を切り取っていた)
(もっと具体的に言うなら、不自然なまでに白い髪を長く伸ばした、小柄な少女がそこにいるのだった)
(そう、少女である。背が低く、線も細く、顔立ちも幼い。ジュニア・ハイスクールにでも通っていそうな歳格好だ)
(しかし、そんな彼女が身につけているのは、学生服なんかじゃなく、軍人が着そうな飾り気のない戦闘用スーツで)
(その小さな手には、少し前に他ならぬあたしが、テクノロア社製のアサルトライフルを握らせている)
(……あー、度し難い話ではあるけども。この少女は銃を持って敵と直接戦う、いわゆる戦闘要員というやつで)
(あたしと一緒に、人類の敵である鬼の支配領域に突入する任務を帯びた、一人前の鬼退治屋なのだ)
(さらにいうと、最近流行りの適合者とか来訪者とかいうジャンル区分ともちょっと違っていて)
(どこかの組織の誰かしらがクリエイトした、人工生命とか人工知能とかそういった感じのシロモノらしいよ。わお)
(……うん)
(テクノロア社に入り、鬼どもを狩るという特殊な仕事に就いて、異常な出来事への遭遇には慣れてきたつもりだが)
(世の中にはまだまだ、あたしの想像の及ばない奇妙なことがあふれているようだ)

うちの上司とあなたの上司が、どういう目的であなたとあたしを組ませて、仕事をさせようとしてるのかはわかりませんが。
少なくとも、期待している結末は「失敗」じゃあないでしょう。
勝って帰るためにも、α-130型さん、あなたにゃ最高のパフォーマンスを発揮して頂く必要がある。
そのために、うちの社のライフル銃が、お気に召してくれたらいいんですが。
バレルを多少短めにして、重心も移動させて取り回しやすいようにカスタムしてあります。
威力はそれほどデカくないが、滑らかに連射できて反動が少ない。非常に扱いやすい、良い製品だと思いますよ。
……ええ、ハンティングには、たぶん最適なものです。
今回の標的……『コールドナンバー1201』を仕留めるにはね――……。

(苦いものを噛むような気持ちで、その名前を口にする)
(この山の奥、少し歩けばたどり着く場所に、居を構えた一匹の鬼……人類の敵であり、あたしらがこれから撃ちに行く獣の名前を)

【では、こんな書き始めで、よろしくお願いします!】

109α-130型 ◆BpYjFWEe7.:2021/02/24(水) 20:53:15
>>108
(そんな話を半分――正確に表すならば、9割5分程度聞き流しながら白い少女は手にしたアサルトライフルを眺めていた)
(マガジンを外せばそこから弾薬を一発分取り出し、手のひらの上で転がしてみる)
(――何気ない動作だが、それだけで一発分の凡その火薬量は把握出来た。これによって何が分かるか)
(引き金を引いた際の衝撃を推測できる。つまりは、反動の制御も容易になる。試し撃ちもしない、その動作だけで、だ)
(彼女は人間では無い。適合者でも、来訪者でも――鬼ですらない。人工生命体……目的をもって造られた命である)
(だから、その容姿もまた綺麗に作られている。それこそ、二次元に生きる者を三次元の世界に引き戻す程度には)
(彼女の所属する組織は殆どが謎に包まれたままだ。人数も、目的も、長すらも。とは言え、こうして他の組織に話を持ち掛ける位の社交性はある)
(それでも尚情報が洩れる事が無いのだから……相応の実力者達である事も知れよう)

(発砲音が聞こえた時、漸く少女は今回組むこととなった男性へ視線を向けた)
(その後、「的」へと視線を移す。……手のひらで弄んでいた弾薬を込め直し、マガジンを装填)
(――「的」へ数発の発砲。この間、約二秒。幾ら動かない「的」とは言え、銃口を向けて狙いを定めるまでに掛かった時間は極短い)
(更には、一発毎に狙いを直す素振りすらも見せない。見掛けこそ幼い物の、銃火器の扱いに関しては其処らの軍人よりも優れているのだろう)
(さて、「的」だが……新たな穴が増えている様子は無い。視力さえ良いのならば、男性が空けた穴が僅かに大きくなっている事が分かるだろうか?)
(つまり、だ。短時間の間に装填、リロード、発砲を行ったに関わらず彼女の弾は男性の弾痕をほぼ正確に撃ち抜いたのである)

ふふん。優秀な者ならば、どんなに劣悪な物であっても戦果を出すことは容易なのですよ?
――……ま、コレも合格点に届くレベルではあるのです。逆にポンコツを寄越すようならお前の頭に3段のたんこぶでも作ってやっていたのです
あと、αで良いのです。お前はエアコンに対しても一々エア・コンディショナーとでもいうのです?
私の名前を呼ぶのが恐れ多いのならば、α様と呼ぶのを許可してやるのですっ!

(ドヤ顔。物凄くドヤ顔。まるで誰もが羨望する人形の様な顔立ちが一気に憎たらしい顔へと変わるのである)
(この少女であれば、泥水に浸したカラシニコフでも一定の戦果を挙げるのは誇張でも無いのだろう)
(でも、やはり性能が高い銃器の方が使っていて好ましい。この少女が素直に(?)褒めるのは珍しいのだが――それはまだ、知る所では無いだろうか)
(そもそも褒めていると取って貰えるかすら怪しくもあるが……)
(黙っていれば良いのに勿体ない。俗にそう言われる様な少女なのである)

モジャモジャ頭にしては気が利くのですね?――ま、私が関わっている以上少なくとも失敗は無いのですよ
お前の考える失敗と私の考える失敗の意味が同じかどうかは知った事では無いのですが
傾斜や石に躓いた挙句に頭を打って死ぬならば、それは誰が見ても失敗として評価する上に今後の教訓として未来永劫語り継がれるのは間違いなしですが

(初対面であろうと罵詈雑言。相手が上の立場であろうと、自分の組織の者でなければ平気でズケズケと言う)
(――そう、まるで人間みたいに。人間一人を造った。それは一部論争の火種ともなりうるのだけれど)
(本人はそんな事はまるでどうでも良いと言わんばかり。ポケットから取り出したチョコレートを一欠けら頬張ると、残りを男性の方へと放り渡そうとして)

そんな間抜けな死に方をしたく無ければ食べておくと良いのですよ。お前の弱々しい細胞も多少は活性化するのです
血小板や白血球の一時的な増加、エネルギー効率に筋肉疲労の軽減――その上後遺症も生じないクリーンなドーピングなのです!
お前が死んで始末書を書くのも面倒ですし、お仲間のお悔やみごっこに参加させられるのもまっぴらごめんなのです!
……それで、『コールドナンバー1201』とやらをさっさと片付けるのですよ。お前と二人でこうしてるより、早く終わらせて甘いお菓子でも食べている方が有意義なのです

(協調性:著しく乏しい。いや、チョコを渡したのが彼女なりの心配なのか、それとも本当に死なれると面倒だからなのか)
(――兵器の扱いには突出して優れている。だが、耐久面がその容姿通りだ。まともに攻撃を喰らう事は極力避けなければならない)
(その事も加味してザックという男性と組むことになった。――との経緯があるとか無いとか)

(そんなことは兎も角として、早く任務を終わらせて直ぐに帰る。そう言い放てば、男性に先導して案内する様に目で合図)
(まだ信頼関係的な意味合いでの距離は大分遠いけれど)

110ゴマ子 ◆ZiOG0lyEZs:2021/02/25(木) 14:42:29
>>103
(ホロケウの訪問があった午後、お兄ちゃんこと北斗、妹こと渚は、ペットからお姉ちゃんにクラスチェンジしたゴマ子と面通し)
(夜にはパパこと幸安とも顔を合わせ、無事に、一家に受け入れられた)
(ただ……大人二人は、経済的問題、部屋の問題、などなど多くの課題に頭を悩ませることになったが)
(実際に受けられる保障内容を聞くまで確定できないながら、取りうる手段をあらゆる形で検討していた)
(それらプランがいい意味で崩壊するとは思いもせずに……)


(郁橋一家は、お客様を迎えるにあたりそれぞれに、きちんとビジネス正装で備えていた。子どもたちも私服ながら襟付きだ)


(さて。郁橋幸安はただのサラリーマンである。警察とも軍需産業とも、その逆のワルな人々とも関わりのない。血生臭さと無縁の暮らしをしてきた家族だった)
(だから、警察というか軍服様の零課の制服に、ぴりりと緊張が走る。それも、美人ながら目立つ負傷の跡があるのだから余計に)

「郁橋幸安と申します。この度は、我が家のゴマ子がお世話になります。」
(複数の、制服をパリッと着た公的、かつ警察・軍人的性質の人々を前に、かしこまった態度で臨む。決して体力も態度も猛々しくはないけれど、一家を背負う父の背中だった)
(とはいえ。最初は特異な経歴による諸注意だ。堅苦しかったり、小難しい話は後になっていた)
(子どもたちは開幕お土産のお菓子で、負傷のびっくりするような見た目にも警戒感なく、素直に注意を聞き、スムーズに和やかに諸々は進む)
(子どもたちの注意の傍らで、大人は戸籍の新規登録なり保険加入なり、そうした手続きも並行して進め、名前を書いたりサインしたりのよくあるお役所の作業で、最初の緊張感も解れていく)
(なお、途中で実際に変身するところを見せるにあたっては、ゴマ子が人間になって直後は半裸という事情から、燕女さんだけを別室に通してのこととなり)
(谷本氏には少しの間、蚊帳の外になってもらうこととなった)
(お昼はお客様には出前のお寿司、子どもたちはお子様寿司サビ抜き、一匹は猫缶。万全を期して、食事はあと少しの、専門家の受診まではと、もう少しの我慢を強いていた)
(寂しそうな顔をしたゴマ子には、変わりにとちゅ〜るが与えられ、ぴちゃぴちゃぺろぺろする姿が来客達に範囲攻撃を繰り出したのである)
(それと同時に、ママと燕女さんとの間で、診断未確定とはいえママからも、来訪者食事事情の一般論リサーチも行われていた)
(もし大きな差し障りがあったなら、重度アレルギー者向けの食事や、ハラルフードのように専門店があるかとか、)
(そんな逆質問の合間に、ゴマ子のほぼ一般猫然とした暮らしが明かされる)
(診断が頼めると聞き、すぐに受診しましょう、そうしたらお祝いのご馳走ね、とママが約束をすると、「本当に!?」と、どうしてもお返事したかったゴマ子は人前で変身。幼い生尻が見えるのも構わずで、パパとママを慌てさせるのだった)
(少なくとも……郁橋家は、ゴマ子を一人として迎えなおす、それを前提にしていたので、倫理問題は半ばふーん、というものだった。強いて言えば、ゴマ子とは異なる、動物形態が正体である例には関心が向いたが……子どもたちが青い鼻のトナカイくんのイメージを共有してから、そっちの話に流されてしまって有耶無耶になってしまった)

(午後、お茶をテーブルに……ゴマ子はひとまずはお水を傍らに、身の上話を始める)

私のいた世界は……酷いところだったの
(そんな語り出しからはじまったのは、滅びかけの世界の悲惨な姿)
(空はずっと鈍色。彼女が生まれる少し前、隕石群に世界は打ちのめされ、半壊した。草木はろくに育たず、)
(その前は、生まれる前の話だから、と辿々しいうろ覚えの語り口だけれど)
(いるかいないかもわからない敵に怯えた国が、怯えてパニックに陥り、僅かでも反体制、反国家の言動をしたものは通報、警察により逮捕の後、再教育という名の拷問や洗脳、および処断がされる)
(それを奨励するために、賞金を出してのスパイ狩りなど行ったものだから、無辜の民もスパイ疑惑で捕まり、魔女狩り同然の行為が行われ)
(そして国や警察が物理で崩壊してからは、誰も信じちゃいけない、人を見たら泥棒か人さらいだと思うのが常という世界になっていた)
(そんな中、何歳かまでいたママ……実母とはぐれてからは、旧世界の保存食を漁ったり盗んだり、不味いコケ、焼いたネズミを糧に、生き延びたという)
(なお、ゴマ子は母国語で、「痛いことをして言う事聞かせる」みたいな辿々しい言い方をしていたのだけれど、バベルセプトによる翻訳がそれを脅迫でなく「拷問」と伝えるなど、幼さに不釣り合いな語彙を流暢に操っているように聞こえた)
(そんな身の上に絶句し、パパママの守護らねば意識をより強固にしたあと)
(現役警官および大人たちによる、ここの警察は安心だよプレゼン大会になって)

(それから、その後に話が向かう。ただ……ゴマ子は、自分が抱えたそれの価値を、わかっていた。どんな願いも、変な形でだけど叶えてくれる力なんて、言いふらしたら危ない。必要なときまで伏せるべき札だ、と)
(だから……お祈りしたらこの世界に猫としてきた、と。家族の危機にまたお祈りしたら、前の世界と同じ姿になれるようになったと。あと一度願いが叶うことは、伏せて語った。)
(そうして、その話が終わると、銃の使用試験だ。厳重に流れ弾が飛び出ないように構築されたケースの中、ZAPZAPと繰り出されたビームは、見事に竜の鱗の装甲板を溶かしせしめ)
(ゴマ子の銃の、恐ろしさと頼もしさを知らしめたのだった)

(そして……ついに告げられた、ゴマ子を倒した鬼の価値。1200万円)
(パパは0を一つ多く数えたのかと何度も書面を確認し、ママは氷漬け。)
(パパはこんなに貰えない、と言いそうになり、ゴマ子へのお金なのだからとぐっと飲み込んだ。ママはまだ凍っている。)
(ゴマ子が守ったもの。お向かいさんの、お隣さんの、子どもたちのクラスメートの、いつも通うスーパーの店員の、そんな人たちの価値がこれなんだと。燕女の説明が続いて、その価値の正当性を理解した)

(ただ……貨幣経済もボロボロ、遺失はしていなくても底辺民には縁のなかったゴマ子は、その金額の価値にピンとこず、また、家族以外を守った意識もなくて)
(当の本人はまるできょとん、ぽかんとしていたのだが)

(そんな当事者意識のない彼女だったけれど……本当の家族、その言葉で、パパ・ママに遅れて意識がひきしまる。)
(けれど。恋愛もなにもあまりなかった過去のため、最初の例えがあまりピンとこずに、代わりにパパがやきもきして)
(お箸やフォーク・スプーン、そんな身近なところで、いろんな違いが壁になることに、深く頷く。服の文化をはじめ、ほんの数日の間にも色々な違いに躓いてきたから)
(頼ること。助けること。それが、家族以外の人にも、頼って、助けての関係ができうることに、まだ半信半疑ながらも)
(信じて、動いてみよう、そう思わされて、大きく頷いた)
(仕事……となると、この子に?まだ学校も通ってないのに?といったパパママの反応と、仕事とは……?なゴマ子と、どちらもすぐには考えられなかったけれど)
(そして……)

(一つ。大きな実績があって、ハンター職ならすぐ適性があるんじゃ、と確かに考えた。学習に大きなハンデがある今、確実な将来像にも見えたから)
(しかし、すぐに燕女が、欠けた片眼と片腕を示せば、止まる。それは駄目だ。それは……どうしてもゴマ子がそうしたいとしても、認めたくない)
(すぐにそれにNOは出した、けれど)
(地域の防衛講習。家族をまた、あんな事態から守れる講習には、ゴマ子は目を輝かせて)
(渋るパパママを置いて、燕女に食いつくように詳しく聞いた……理解度はともかくとして)

(それはともかく、アニマルアクターの道には、パパが食いついた。パパが主体となって動画配信、盛況でスパチャも得ているくらい)
(自然体にではないけれど、それなら平和だしもっと大舞台に……と乗り気な反応)
(ただ、それらを決めるのはゴマ子だし、その道をすぐ決めるのも早急にすぎる。14歳のハ○ーワークを見せようか、と、現段階ではそれで落ち着かせ)

(当面のことを共有、把握、将来的な課題の認識、そうした諸々で大きな実りを得て、その日はお開きとなった)
(最後にネタバラシで再生した眼と腕に、なるほどしてやられた、そんな気持ちと、そこに込められた、よく考えられた忠告に納得するしかなく)
(ともあれ、まずは……ゴマ子のこれからの学習をどうするか。そこから始めよう、と決まったのだった)


【大変なボリュームで、掻い摘み返すにも色々悩ましく、このようになりましたが】
【ゴマちゃんがこの世で生きるあれこれを固めていただきありがとう御座いました】

111ザック・ヒメタン ◆k1072NP5UU:2021/02/26(金) 00:29:33
>>109
……ん? んんん〜……? ……ほぉーう?
こりゃお見事。正確さと速さがいい感じに同居してますな。
これほどうまく「刺せる」なら、たとえば看護士なんかに転職したとしても、超一流になれるでしょうよ。

(目を凝らして、α-130型が狙い撃った訓練用標的の状態を確かめたあたしは)
(彼女のやってのけたことを理解し、降参するように両手を挙げた)
(針の穴に糸を通すような、繊細な狙撃。それも、ほとんど間隔を開けずに、連続して撃ち込んでいる)
(低反動で狙いのブレにくい銃を与えはしたが、だとしても弾痕という極小の的を射抜く腕前は尋常じゃない)
(実際の戦場で、動く標的に対しても、このレベルの狙撃ができるのなら、何とも心強い……)
(……いや、「できるのなら」なんて、仮定の言葉を使う必要もないのだろう)
(彼女は「できる」のだ。だからこそ、あたしと一緒にここに来ている――)

(とはいえ。メンタルはどうやら、見た目の年齢相応みたいだなぁ……)
(彼女の言葉使いに、あたしは苦笑する。声のトーンは淡々としているが、感情の温度が高めだ)
(人の脇腹を小突いてくるような種類のトークではあるけれど、特にむかっ腹は立たなかった)
(アメリカに住んでた時、親戚のちびっ子にこういう感じのが何人かいたことを思い出す)
(生意気盛りで、飛び蹴りや首へのぶら下がりを得意技にしている連中だったが……みんな、根はいい子たちだった)
(連中の思い出を参考に、彼女の言葉をよく咀嚼すれば、その内容も別にきついものではないとわかる)
(こちらをバカにして下げるというより、自分を誇っているものがほとんどだ)
(結局のところ、彼女の能弁は、絶対的な自信の表れなんだろうと思う)
(戦うための力を、ためらうことなく怯えることなく十全に発揮できる心を持っているのなら。それはきっといいことだ)

ふむ? α……アルファと?
それは、悪くないですな。うん、わかりました、アルファ。これからはあなたをそう呼ぶことにしましょう。
あたしのことも、ザックでよろしい。……部隊の部下からは、「コーン」って呼ばれたりもしますがね。
ちなみに嫁はね、ふたりっきりの時は「ハニー・クッキー」なんて呼んでくれるんですよ。
ザクザクした歯ごたえのクッキーと、ダーリン・ハニーから連想したあだ名らしくて……おっと、話が横に逸れましたな。
とりあえず、その銃があなたの手足と大して変わらず動くってことがわかって、ホッとしましたよ。
これで安心して、本番用の弾丸をお渡しできるってもんです。……はい、どうぞ。

(言いながら、あたしはずっしりと重いマガジンと、同じくしっかりした重みのある卵型の塊を、アルファに差し出した)

弾頭は、金属質の鬼の外骨格から削り出したものです。さっきお使いになった練習用の弾と、発射の感触は変わりません。
そしてもうひとつ。文字通りの爆発力が欲しい時のために、鬼の鱗を使った手榴弾。
ちょいとばかし過剰かも知れませんが、異界の中じゃ何が起こるかわかりませんからね。
あなたのいうところの、間抜けな死に方を免れるためには、攻撃手段をひとつでも多く持っていた方がいい。
……ああ、もちろん、その甘みとカロリーに優れたドラッグで、体力を底上げするのも良い手ですな!
あたしは死にたくないし、甘党でもあるんで、遠慮なくごちそうになりますよ。……うまうま。

(弾薬と交換するように、アルファから与えられたチョコレートのブロックをパキリとかじって、その甘みを楽しむ)
(アルコールほど劇的ではないが、糖分は血を温めて、頭の働きを良くしてくれる作用がある)
(仕事の前に、そうして体を活性状態にしておくことは、実際悪くない行動だろう)
(親指にこびりついたチョコの欠片をぺろ、と舐めて、「ごちそうさま」を呟き……頭の中のスイッチを入れる)

ウォーミングアップ、よし。装備品、よし。本部との通信、よし。記録装置も……オン。
オーケイ、準備はととのった。アルファ、お望み通り、狩りに行きますよ。
あたしの右斜め後ろから着いてきて下さい。敵の領域はもう、ホントに近いんです。
今いる場所から、ちょいと下ったところに……ここからも一部は見えてますな……高速道路があるでしょう。
■■インターチェンジから、■■■パーキングエリアまでの約5キロメートルの区間が、敵の支配領域になっています。
――あなたも資料は受け取って読んでいるでしょうが、認識のすり合わせも兼ねて、簡単に説明しておきましょう。
今回の敵、コールドナンバー1201は……「道路」を異界に変える性質を持つ、巨大な鹿です。

(話しながら、木々を掻き分けて斜面を下っていく)
(やがて、整備されたアスファルトの地面……高速道路内のパーキングエリアの敷地にたどり着く)
(現在は異界発生のため、避難指示が出されていて、人のひとり、車の一台も見当たらない)
(そして……高速道路へ合流する道の先に……薄紫色の、半透明のカーテンのような膜が広がり、不気味に揺れていた)
(これが異界への入り口。現世と幽冥を分かつ、恐るべき境界線……)
(あたしは感覚を鋭く研ぎ澄ませながら、それに歩み寄っていく。後ろにいるアルファに話しかける言葉も、途切れさせない)

大きさはまあ、ちょっとした軽トラぐらいと思っといて下さい。大きく、重量もあり、車並みのスピードで走行します。
異界に入り込んだ人間を発見すると、主に、突進による体当たりで攻撃してきます。
要するに、単純な物理攻撃の獣ですな。
……でも、1201の真の脅威はそこじゃない。我々が特に警戒すべきは……やつに付き従う、眷属。
異界の中に大量に湧いている、「生きた道路標識」たちです……。

(薄紫色のカーテンを潜るようにして、異界に足を踏み入れる。境界さえ越えてしまえば、中の明るさは外と変わらない)
(同じ幅で長く続く、黒いアスファルトの道路。空は青く、太陽は輝いている。そんな空間の真ん中に、あたしたちは立つ)
(そして周囲を見渡すと……あちこちに……ひらひら……ひらひら……ひらひらと)
(春の野原で遊ぶ蝶のように、何十匹もの「交通標識」が、身をよじるように羽ばたいて、ゆっくりと宙を飛んでいた)
(『一時停止』。『徐行』。『指定方向外進行禁止』。『すべりやすい』、などなど……種類も様々)
(幻想的というか、悪夢的というか、シュールというか。非現実的で、不気味な光景である)
(もちろん、そんなものに見とれてやる義理などない。あたしはあご下に取り付けた通信機に口を寄せて、本部へ連絡を送った)

……イチサンマルマル。こちら『コーン』。『アルファ』とともに、1201の異界に突入。これより捜索を開始する。
アルファ。周囲を警戒しながら、異界の主である「鹿」を探して下さい。
交通標識どもには、近付いたりしないように。撃ったりして、刺激するのも駄目です。
連中の周囲、およそ半径2メートルの空間では、物体はその表示に従った運動を強制されます。
『一時停止』に近付けば、3秒ほど動けなくなるし、『徐行』なら動きがゆっくりになる、といった具合ですね。
積極的に襲ってはこないし、動きも緩慢だが。それでもあれらは敵の一部。
無数の「状態異常トラップ」が、そこら中に仕掛けられているものと意識して行動して下さい。オーケイ?

(あたしらは急造のコンビで、信頼関係はまだできちゃいない)
(でも、この異界の中では、あたしたちはふたりっきりだ。彼女以外に信頼できるものはないと考えて、指示を出す)
(はたしてうまくやれるか……いや、やらなきゃならない。気合いを入れて取り組みましょうや、アルファ?)
(銃を構えて、やや身を低くして、長い道路を慎重に進み始める。まずは、1201の本体を見つけるところからだ……)

112α-130型 ◆BpYjFWEe7.:2021/02/26(金) 23:31:23
>>111

態々そんなものに転職する訳が無いのですよ。それに、もしソレに転職でもするならお前の血管に空気でも送り込んでやるのです
――大体にして、私がそんな事をしなくても医療に特化した妹がいるのです
人間の看護士や医者なんかよりもよっぽど優れているのですよ。お前が死ぬには惜しい人間なら、その時は診せてやってもよいのですよ?

(妹、との言葉から察するにこの人工生命体は他にも複数人存在しているのだろう)
(それぞれがそれぞれの役割を持つ為に作られた存在。知識を取り入れてその職に就く人間とは元から異なる存在だ)
(だから――少女が誇るのも無理はないであろうか。自分の分野に関しては並大抵の人間よりも秀でている。それは明らかな事なのだから)

(そして、ザックの少女に対する推測だが――当たって居る。まあ、外見の年相応素直でない……そんなところもあるのだが)
(ただ、少女もプロフェッショナルだからこそ戦果も能力も無い人間とは組まない。つまり、簡単な資料に目を通した上でザックの事を認めているからこそ組んでいる)
(上司の――マスターの言う事は基本的に絶対ではあるが、αの意志を確認したうえで命令を与えられる事が殆どだ)
(今回も同じこと。ザックと組む事に対しての軽い意思確認を行ったうえで今に至っているのだろう)
(――実際に本人に「ザック・ヒメタンに実力を認めているのか」と問えば、何時も通りの罵詈雑言が返されることになるのだが)

別にお前はお前で良いのです。此処にはそれ以外に居ないのですから、問題は無いのです?
そのお前がコーンでもクッキーでもどんな様に呼ばれていても構いませんが、精々爆散してあだ名がポップコーンや焼きトウモロコシにならない様に気を付けるのですよ
そんな死に方をすればお前の墓石に私が渾名をキチンと刻んでおいてやるのです!
日本式の戒名まで考えてやらない事もないのですよ?最後の晩餐は私に恵んで貰ったチョコだったとも付け加えておいてやるのです!

(マガジンを受け取ると、それ自体の重さの計算。更には、マガジン交換後の重心変化の再確認)
(弾の説明を聞きながらサイトを覗き込む動作。――先ほどと大きく変わる事も無いと判断すると、銃を下げて手榴弾も手に取る)
(破片により対象にダメージを負わせるオーソドックスな性能な物の様だが、この場ではそれが正解なのだろう)
(それもまた、手に馴染ませるようにして何度か握ったりと繰り返して。重さ、遠投に必要な筋力――それらを把握すると、スールの空いている枠へと提げた)
(狩りの準備も整った。バイタルも異常なし。自分が遭遇する初のタイプだが……やる事に変わりはない)

鹿なんて山にでも籠っていれば良いのに、何で態々高速道路なんかに陣取るのか理解に苦しむのですよ
鬼の鹿も山で草でも食べて過ごして居ればいいのです。そんなに道路が好きならばアスファルトの中にでも埋もれていれば良かったのです
……それで、その鹿狩りについてはよく分かったのですが

(素直に斜め後ろ、直ぐに援護も回避も可能な距離と角度を保ちながら注意事項とも言える言葉に対して耳を傾けた)
(簡単な事、とまでは言わないが、それでも良くある鬼に等しい。大型でも無ければ、極めて特殊な力を持ち合わせている風でも無い)
(それだけならば直ぐ終わる。でも、その鹿が最大限に力を発揮する道路というフィールド……そこに普段は人々を守るために立てられた標識が脅威になるとは)
(つくづく皮肉な物だ。資料を流し読んでいた時にも一癖二癖あるとは思っていたが――より詳しく理解している彼の言葉を聞くと、やはりげんなりとするものだ)
(本体にこの弾が通用するであろうことが幸い。ただ、発射された弾丸すらもその標識に従うとなれば、その場その状況に応じた即興的な作戦も必要になってくる筈だ)
(殆どの状況で、その標識達は脅威となり得る。されど、敵の武器を上手く扱うことが出来れば不意を突く事もまた可能となるだろうか)

(後に続いて異界内に入り込めば、僅かに顔を顰めて見せた。先ほど話を聞いたばかりだが、何だか感覚が可笑しくなってしまったかのような錯覚すら覚える)
(道路がチキンと道路らしく真っ直ぐな道である事だけが喜び。もしもこれで道まで歪んでいたら、慣れるまでに少し時間を要していた)

まるで薬に溺れる中毒者が見る幻覚のような世界なのですね。どうせならばケーキやクッキーでも浮いていた方がよっぽど楽しいのです
――お前は1201とやらと何回の交戦経験があるのです?
それだけの詳細なデータが残っているとなれば、何回か討伐しているか……何度か交戦して逃げているか。そのどちらかの筈なのです
でも、お前たちの組織力から考えると後者は先ず考えられないのです。――お前は何回その鬼を殺したことがあるのです?

(少女は自分の力に自信を持って居る。ただ、それは力を過信しているということでは無い)
(刺激しない様に、との注意があるならばそれに従うだけの協調性も持ち合わせてはいる)
(何より――この鬼については、彼の方がよっぽど詳しい筈だ。互いの生存確率を高めるには、より多くの実績を持って居る者を指揮官とするのが常)

(身を低くしたザックに反し、普段通り歩きながらもその足音は聞こえず。軽口の頻度も変わらないが、感覚はしっかりと研ぎ澄まされていた)
(まるで空気の揺れからでも獲物の気配を捉えようとする研ぎ澄まされた感覚。耳も僅かな情報も逃すまいと周囲の音をしっかりと聞き取り)
(――山を抜けたにもかかわらず、僅かな汚れも見られない白の髪。それは太陽の光も鋭く反射させる事だろう)
(つまり……相手の注意を引く可能性もある、ということだけれど)

113ザック・ヒメタン ◆k1072NP5UU:2021/02/28(日) 00:32:21
>>112
まったくねぇ。鹿らしく山とか森とか、自然の中に巣を作ってくれるのなら、人間の犠牲も出にくくて助かるのに。
よりによって出現場所が道路に限定されてるもんだから、運が悪いととんでもない数の死者を出すんですよね、こいつ。
まあ、今回はこの場所に1201が出現するって予知を、異界予報士が成功させてくれたんでね。
運良く犠牲がひとりも出ないうちに、異界全体を封鎖することができましたよ。
……それでも、高速道路が一日使えないってだけで、経済的には相当な損失なんで、早めの始末を頼まれちゃいるんですが。

(アルファの軽口に、こちらもまったりと言葉を返しながら)
(しかしかなりの速さで、あたしたちは車のいない高速道路を駆けていく)
(周りには数十の道路標識が踊り、中には好奇心でもあるのか、近寄ってくるようなそぶりを見せる個体もあったが)
(それらのすべてを無視し、進行に邪魔ならば大きく迂回するように避けて、先へ進む)
(昼の1時、太陽は真上からわずかに正面寄りにある。あたしたちの体が作る影は、身長よりやや短い)
(敵本体である鹿の姿も見えないが……しかし……2キロほども走ると、視界に映る標識の数が、やや増してきたように思えた)

交戦経験? 1201との? んー……そうですねぇ、ざっと30回ぐらいですかね。
最初の数回は、どんな性質の鬼なのかを調べるために、異界を見て回るだけして、ろくに戦わずに撤退しましたが。
それでも、かなり早い段階で能力がわかったんでね。いろいろ試した結果、安全な狩り方も確立できました。
これまでにうちのチームで、25、6回はぶち殺すことに成功してます。
かなり楽にハメられるんで、よっぽど予想外の大事故でも起きない限り、今後も負けることはないでしょう。
……ただ、ええと……ひとつ問題があるとすれば、ですね。
そのハメ方を実行するのに必要な仲間を。1201を無力化できる能力を持った部下を、今回は連れてきてません。
ま、仕方ないですわな。これは、あたしとあなたのふたりが任されたお仕事ですもん。
そんな時に、あなたが関わる必要もない安全な殺し方をしても意味がないし……あなたもそれを良しとはしないでしょう?

(ラクゴでいうところのオチを言ったような気分で、ははは、と小さく笑いつつ)
(ちら、と一瞬だけ振り返って、背後のアルファの様子を確認)
(小柄で口の悪い相棒は、問題なく着いてきている。声の大きさは控えめ、足音もほぼない)
(顔色も変わらず、呼吸も異常なし。実によろしい。……というか、人工生命って息が上がったりするんだろうか?)
(ただひとつ……細かいことだが、気になることがあった……美しい光沢のある、彼女の長い髪についてだ)
(降り注ぐ太陽の光を跳ね返し、オパールのような光沢を見せるその髪)
(ことによると、それは遠距離にいる敵に、我々の存在を知らせかねないものではないだろうか)
(今回の敵は接近戦専門の鬼で、遠距離戦を得意とするスナイパーではない。光の反射は、それほど脅威ではない)
(だが、先手を取られる可能性があるなら……)
(……飛ぶ標識たちの様子を見る。『一時停止』や『徐行』、そして『通行止め』の数が増えてきている)
(それともうひとつ、少し前方で、道路そのものに顕著な変化が起きていた)
(地面が。人が息を吸い込んだ時の胸のように……ぐぐ、と、盛り上がっている)
(ああ、こりゃ向こうさん、明らかに先手を取りに来ているな)
(だが、それに気付けた以上、こっちにもその先手を逆手に取れる目が残ったようだ)

……アルファ。あたしの後ろから着いてくるのはそのままで。そして、前方に集中。
銃を正面に構えて、いつでも撃てるように。

(上り坂になった道路。角度はざっと、10パーセントぐらいか)
(その原因は、道路にぽつぽつと止まって羽根を休めている『急こう配あり』の標識だ)
(こいつが地面に接触すると、その場所の高さが高くなったり低くなったりする。最も露骨なフィールド効果だ)
(しかし、今、こいつらが集中して、あたしらの向かう先を高くするってことは)
(相対的に、こちらのいる場所を低くするってことは……自分たちに有利な土俵を作り始めたってことは……)
(やっこさん、もうそこにいるんだろ?)

(地面がわずかに振動するのを、足の裏が感じた)
(ダカッ……ダカッ……ダカッ……と、硬い蹄がアスファルトを蹴る音が連続し、はっきりと近付いてくる)
(坂の向こうから。頂上を乗り越え。その姿を我々の前に現す――)

_人人人人人人人人人人人_
> シ カ に 注 意 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄

(まず、その明確な警告文が、目に飛び込んできた)
(コールドナンバー1201は、巨大な鹿の姿をした鬼だ。ただし、本物の鹿とはかなり様相が異なる)
(その全身は、角も顔も胴体も脚も、全身がコールタールに浸かったように真っ黒だ)
(そして、頭上には、1201本体と同じぐらいデカい「シカに注意」の文字が、天使の光の輪よろしく浮かんでいる)
(あー……つまり……『動物が飛び出すおそれあり』系の道路標識から、そのまま抜け出してきたかのような姿なのだ)
(……うん、見た目はちょっとアホっぽいな?)
(でも、結局は軽トラ……どころか、小型のバスぐらいあるでっかい鹿だから)
(踏まれたり蹴られたり、角で引っ掛けられたりしたら、即死するぐらいの脅威的存在ではあるのだ)
(そんな化け物が、坂を駆け下りながら加速して、あっという間にあたしたちの目前に迫る……)

――アルファ、散開! 左右から横腹を狙う!

(というわけで、まずはセオリー通りにいこう)
(1201の真正面からの突進に対して、あたしはとっさに叫びながら、左に飛んだ)
(今回の相棒であるアルファは、機械のような冷静さと正確さを持ち、そして、人の言うことをきちんと聞く子だ)
(本番前の練習も真面目だったし、準備もしっかりしていた。あたしが声をかければ、律儀に皮肉混じりで返してくれる)
(この指示に反応できないほど、頭の回転が遅いとは思えないし、不真面目な子供のようなサボタージュもあり得ない)
(彼女はあたしの右斜め後ろにいたから、右に飛ぶ方が楽だろう。なのであたしは左へ行きます)
(標的がふた手に分かれれば、1201も両方同時には襲えなくなる)
(少なくともあたしたちのどちらか片方は、相手の意識から外れた状態で攻撃ができるようになるわけだ……)

114α-130型 ◆BpYjFWEe7.:2021/02/28(日) 21:03:41
>>113
ふん、経済的な損失がどうだろうと、私にとってはお前の食べた朝食並みにどうでも良い話なのですよ
ただお気に入りのお菓子が来なくなると困ることと、命令だからするだけのことなのです
――それにしても、異界の予報が出来るなら、その中に予めお前でも案山子みたいに立たせて置けば良いのです
全く……それか車を全部鬼の身体で作った装甲車にでもしてそのまま轢いてしまえばいいのです!

(果たしてそれを実現した場合、どれだけの費用が掛かるのか――いや、この少女からすればそんな事はどうだっていいのだろう)
(背丈は男性に比べて非常に小さい。ともなれば、足の長さも異なる。それでもしっかりと速度に合わせているのはこの少女が見た目とは裏腹にそれなりに体力がある証左ともなろう)
(この場の主たる鬼を探しながらも辺りを漂う標識達を眺め、「コレはどんな意味だったっけ」なんて考える余裕も持ち合わせている)
(あまり害の無い物にはつい触れたくなってしまう。出来れば持ち帰ってマスターに渡したり悪戯の材料にしたい)
(――まあ、流石に任務の遂行中に捕獲なんて真似はしないけれど。この標識達も鬼を倒してしまったらきっと消えると思うと、少しだけ残念である)

115α-130型 ◆BpYjFWEe7.:2021/02/28(日) 21:09:37
それなりの数を経験しているのですね。ならば、失敗した場合はお前の責任として全部被せておくのです
――…ある意味お前にとっても良い経験になるのですよ。その仲間とやらが死んだら、同じ作戦は使えないのです
況してやアホの鹿が新たな能力を入手した場合、不意を突かれる事だってあるのです
こんな世界じゃ何時消えるかも分からないし、何時組織に切られるかも分からないのです
……私の心配は無用なのです。後ろを見ている暇があるなら、髪の一本一本に神経を通して、鬼の気配がある方に髪が立つようにでもする事を勧めるのですよ?
――もうその必要も無くなって居る様ですが

(風を切って進む速度に、髪が靡く。きらりきらり、その存在を辺りに良く知らせる)
(男性の速度に合わせるためには、男性よりも多く地面を蹴らねばならない。それにも関わらず体軸はブレず、音も立てず)
(態々心配をして後ろを見てくれたザックに対し、「べっ」と軽く舌を出して毒づく位にはまだまだ大丈夫な様子)
(この少女を構成している材料が材料だ。鬼――では無いが、鬼に近い身体能力でもある。……それも鬼によって様々ではあるが)
(目の前の道路が盛り上がっていく様は初めてだ。成る程、標識が厄介とは確かにその通り)
(自分達に目掛けてくるだけならば対処法だって幾つも思い浮かぶが……こうして地形自体も変えられてしまう事を考えると、瞬時の判断も必要になってきそうだ)

116α-130型 ◆BpYjFWEe7.:2021/02/28(日) 21:10:19
……本当にアホな鹿なのです。案外目立ちたがり屋なのです?
それとも、夜になると見辛い事を考えると逆に恥ずかしがり屋なのですか?

(足裏に伝わる微細な振動。近づく蹄の音。そろそろ今回の討伐対象の姿が見える頃か)
(巨大な鹿とは聞いているが、単純なソレとは異なるであろう事は予期していた。していた、が――流石に予想外である)
(標識云々の事からこの可能性も考えておくべきであった。……本体、どっちだ)
(アレ、「シカに注意」の「シカ」を上手い具合に消したり壊したりしたらあのまっくろくろすけにも影響したりしないだろうか)
(そんな事を考えながらも、同時に辺りの状況を把握。標識達が一時停止だとか、上り坂に向けて一方通行だとかして来ない事から搦め手はあまり使ってこないと思いたいが)
(あの鬼の知能がどの程度なのかは――交戦しながら見極めていけば良い。本来の獣よろしく本能のままに突撃するだけならば楽なのだが)

――ッ!言われなくてもそうするのですっ!挟撃失敗して私を撃ったらお前の腹にも穴を空けるのですよ!
ついでに少し耳を背けておくのも勧めるのです!

(ザックの声よりも数舜早く右へと飛び退く。一度の跳躍ではあるものの、それだけで十数メートル……ザックが反対側へと飛んだことを考慮すると、二人の間は数十メートルの距離があるだろうか)
(跳躍の最中、両足を宙に浮かせながらも黒き鹿の側腹目掛けて肝臓、心臓、後ろ足の股関節――と、思われる部位――それぞれに数発の弾丸を放って)
(巨体とはそれだけで脅威だ。だが、プラスに考えれば同時に大きいという事でもある。一般的な鹿と同じ場所に同じ臓器があるかは分からないが……機動力を削る事が出来れば僥倖)
(僅かな砂埃を上げながらアスファルトに着地すると、左手を銃身から離して――パチン、と指を鳴らす)
(それに呼応するかのように左掌に現れたのは、丁度野球ボールと同じ大きさの球体。所謂魔術によって作り出されたソレ)
(正体は「音」を閉じ込めたもの。スタングレネード程に強力では無く、広範囲に影響を及ぼす訳では無いが……間近で炸裂すれば、まともな生物ならば一時的に聴覚を阻害する事も可能であろう)
(狙いとしては、この鬼の性質を知る事だ。生き物らしい外観では無いが、五感があるのか否かを探るため)
(此方を認識しているのが視覚や聴覚であるならば、良い。ただ、この道路全体に神経を巡らせて位置の特定をしているならば隠れるのも無意味となろう。――だが、その情報を得られるだけでも儲けものだ)
(更に指先に魔力を込めれば、鬼の頭部へ向けて放たれ――何の阻害も無ければ、丁度耳に当たる部分に到達した頃に炸裂する)

(耳を背けておけ。それは少女なりの注意。元よりザックの聴覚を麻痺させる程の範囲は無いが……銃撃以外の何かが起きる、と心構えをさせる猶予を与えるには十分だろうか)

117ザック・ヒメタン ◆k1072NP5UU:2021/03/03(水) 00:32:29
>>114>>115>>116
……胴体なら、貫通の恐れはない! 標識を避けて、撃ちまくれ!
あと、耳、了解!

(1201の走行ルートから、ひとっ跳びで距離を取る)
(体を丸めて地面を横向きに転がり、その勢いのまま身を起こし、敵の方へ銃口と視線を向ける)
(目の前には真っ黒な巨体。このまま引き金を引いて、弾を適当にばら撒くだけでも、まず外しはしないだろう)
(だが、あたしは多少臆病なところがある男なので。安全を確保するために、もう一手加えておきたい)
(目を大きく見開き、視界をできるだけ広く取って)
(頭の中でスイッチを入れるようにして、能力を発動させた)

――Towards ZERO――。

(瞬間的に、世界が写真のように動きを止める)
(適合者になって手に入れた、奇妙な超能力……自分の精神以外の時間を停止させるという、よくわからない力)
(世界まるごとピタッと動けなくしてしまえるが、あたし自身も動けなくなる)
(最初は、「何だこれ役に立たねぇ」と思っていたが、いざ戦いの場で使ってみると、なかなかどうして)
(シューティングゲームで「ポーズ」をかけて、目の前の状況をチェックできるのって、意外とめっちゃ便利なのだ)
(さて、着地した巨大な1201だが、やつは立派なツノの生えた頭を、ぐるりとアルファの方に向けている)
(ふむ、やっぱりあのキラキラした髪が気になっているのか? それとも単に、何となく気が向いたのがそっちだっただけか?)
(標識は――1201が突進する時、後ろから着いてきていたのだろうか――かなりの数がこの場に集まってきていて)
(1201とあたしの間を遮る壁を作るように、空中に平面的に並んで、独特の幾何学模様を作っていた)
(数を数えてみる。ひーふーみーよー……こっちに来ているのは、今のところ28枚か)
(『通行止め』が8枚。『指定方向外進行禁止』が5枚。『一時停止』が7枚。『徐行』が4枚。『すべりやすい』が4枚と)
(こちらからはよく見えないが、アルファの方にも同じくらいの数の標識が行っているはずだ)
(そして、時間が経てば経つほど、集まってくる標識の数は増え、1201は戦力を増す)
(つまり、敵の軍勢が整列する前に、できるだけ速攻でぶちのめすのが正解、というわけだ)
(オーケイオーケイ。それはあたしの得意技だ)
(今は、アルファの方に気が向いているだろうが、クソ痛い注射をぶち込んで、むりやりにこっちを向かせてやる)
(ああ、いや、彼女も彼女で撃つだろうから、あっちとこっち、どっちを向いていいかわからなくしてやる……が正解か?)
(ま、どっちでもいいさ。鬼なんてみんな、痛がってビビッて慌てて、何もわからないうちに死んじまえばいいんだ)
(全部の標識の位置、1201本体の位置、そしてアルファの位置、すべてをしっかり頭に入れて)
(『Towards ZERO』解除――)

(瞬間、動き出す世界。音も風も、標識たちの羽ばたきも、1201本体の咆哮も再開する)
(あたしは落ち着いた気持ちで、ピープサイトを覗き込む)
(そして、時間を止めている間にゆっくり厳選した、標識と標識の間のごくわずかな隙間に)
(紳士的な余裕と冷静さでもって、銃弾をありったけ注ぎ込む!)

――オラアアァァ――ッ! くたばれや鬼アアアァァァ――ッ!
こっち無視して、そっちのちっこいのイジメようとしてんじゃねェ――ッ!!!
ケンカ売ってんだから買ってけやアアァァ――ッ!!!!!

(シンプルな罵声と弾丸が、標識たちの間をうまくすり抜けて、1201の黒い毛皮に突き刺さる)
(狙いは腹部。肋骨よりは下半身に近いあたり。本物の動物であれば、腸がたっぷり詰まってる位置だ)
(弾丸が命中したことを知らせるように、ビシビシ、ビシビシと、薄い金属板に穴を空けるような音が響く)
(そしてその音は、1201の巨体の向こう側でも、合唱でもするかのように重なって響いていた)
(見ると、アルファが煙を吐くライフルを右手で支えつつ、アスファルトの地面を踏み締めたところだった)
(彼女はどうやら、あたしとは違い、跳んで着地するまでの空中にいる間に、攻撃を開始する決断をしたらしい)
(前のめりというか、思い切りがいい。ううむ、うすうす感づいてはいたけど、彼女は口以外の部分も攻撃的だったか)
(でも、その決断が有効打を生んだようだ。おそらくだが、彼女が銃撃を行なったタイミングは、あたしより半秒ほど早い)
(その速攻のせいで、きっと、あっち側では標識たちの整列が間に合わなかった)
(身を守る準備のととのっていない場所に、すばやく正確に、弾丸が刺し込まれたわけだ)
(あたしの分も、彼女の分も。どちらの殺意も、1201に届いた)
(狙った場所から、ばっ、と真っ黒いしぶきが飛び散る)
(1201は「Puiiiiiiimmmm!!!!!」と、車の警笛のようなけたたましい音を発し、前脚を振り上げた)
(胸が悪くなるようなシンナー臭が、風に乗って漂ってくる)
(それは悲鳴であり、香っているのは体液……血の匂いだ。あたしたちはさっそく、相手に手傷を負わせることに成功した)

(だが、すべての弾丸が命中したわけではない)

(1201に直撃したのは、主に最初の1、2秒の間に放たれた数発程度だろう)
(敵側の兵隊である交通標識たちは判断が早く、本体にダメージが通っていると気付くや否や、速やかに隊列をずらして)
(弾の軌道に割り込んできては、攻撃をうまくいなし始めた)
(『すべりやすい』のマークのそばを通った弾丸が、ぐにゃっとぶれるように蛇行し、地面にめり込んだ)
(『通行止め』のマークはバリアだ。4平方メートルほどの八角形をした光の壁を展開し、キン、キンと弾丸を弾く)
(『指定方向外進行禁止』。その矢印の向いている方向に弾丸が向きを変え、どこへとも知れず飛び去ってしまう)
(うん、典型的な1201の眷属による、防御行動だ。ひとつひとつの標識が自分で思考しているような動きを見せて、本体を守る)
(あたしはこれまでに1201と向かい合ってきた経験から、その動きや特性を把握しているが)
(アルファもこれを見ることで、敵の行動パターンを学習できるだろう)
(書類で読む情報も大事だが、実地で得た情報は、さらに深く理解できる「経験」として、彼女の頭の中に入るはずだ)

(――経験)

(あたしにとっても、良い経験になる……先ほど、アルファが言った言葉が、頭の中でふと蘇った)
(うん、その通りだ。完璧で安全な狩り方がわかっていても、それだけあれば他はいらないというほど、この世界は甘くない)
(仲間がいない時に、独りで。あるいは、戦えない誰かを守りながら)
(はたまた、今回のように、初対面の相手と連携を取って仕事にあたらないといけなかったり)
(「普段とは違う状況」で戦うことを強いられる場面には、きっとこれから先、いくらでも遭遇する)
(だからこそ、この世界でやっていくなら、アドリブの強さを……即応力を鍛える必要がある)
(今回の任務に、あたしなりの意味を見い出すなら、それにしよう)
(初めての相棒のことを可能な限り把握し、可能な限りうまく使う。アルファの能力を活かし、支える)
(そうして、普段の必勝パターンと変わらない戦果をあげる。よし、よし、わかりやすい。あたし好みにまとまった……)

118ザック・ヒメタン ◆k1072NP5UU:2021/03/03(水) 00:33:15
(……で、そのアルファだけども。銃撃音が止まったと思ったら、左手を1201に向けて、カッコいいポーズを取っておられる)
(その手のひらには、なんか得体の知れない球体があるように見える。なんだあれ)
(可能性として高いのは……彼女が得意としているという『魔術』という力によって生み出されたものだろう)
(ゲーム的な表現をしてもいいなら、『攻撃呪文』的なやつ? メ■とか■ラゾーマならギリわかる!)
(銃撃の合間に、別な手段による攻撃も試してみようというのだろう)
(うん、ピンときた。さっき耳を塞いどけって言ってたのは、きっとこれに関連しての指示だな?)
(ならば、それがうまく決まるようにサポートしてやるのが相棒の務めだ。敵の意識を、あの魔法弾から逸らしてやろう)

――ヘイッ、まだ終わっちゃいねーぞッ、マヌケ!
ほんの10か20発はじいた程度で、生き残った気になるたぁ残念な脳ミソしてんなァ――ッ!?
いいぜ、その薄っぺらい紙切れで、あとどれだけ防げるのか試してやるよォッ!

(今度はあえて、標識にもそれなりに当たるように、やたらめったら弾丸をばら撒いてやる)
(キン、キン、キンと、無駄弾をはじかせる。軌道の湾曲を許して、空や地面に弾を逃がすことを許す)
(だが、その行動は広い目で見れば無駄にはならない。そんだけ撃ちまくってれば、1201はこちらを喫緊の脅威と見なし)
(アルファの方にいる防御用の標識を、徐々にあたしの方に移動させるだろう)
(向こうの防御が手薄になれば、それだけ彼女が、狙った場所に一発の攻撃を当てやすくなるってわけだ)
(……うん、この囮作戦はうまくいった)
(アルファが放った謎の球体は、標識のガードが薄くなった空間を、するりと抜けるように飛び)
(1201の頭部に接したあたりで激しくはじけて、爆発的な轟音を撒き散らした)
(あたしはそのタイミングの直前に撃ち方をやめて、とっさに耳を塞いだが、それでも内臓がずしっと揺れるほどの重い音)
(これを、まさに文字通り耳に叩き込まれる形で聞かされた1201の心地たるやどれほどのものか)
(外見的な反応は……まず、その黒い巨体が、びびくん! と感電したかのように跳ねた)
(よっぽど驚いたのか、四本の足が一瞬、30センチぐらい浮き上がった。全身の毛も、ぶわっと逆立ったかのように見える)
(そして……)

「Puiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiimmmmmmmmmmmmmmmm!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

(アルファの音爆弾に、負けじと張り合うかのように、1201は高らかに吠えた)
(そして、その全身から、青地に白で稲妻のマークが2本並んだような標識を何十枚と生み出し)
(そのすべてから、けたたましいブザー音を鳴り響かせ始めた)
(……この状況から、あたしが得られた情報は、ふたつ)
(1201は、少なくとも聴覚を持つ鬼だということ。それも、すぐそばでの大きな音を嫌う、デリケートな耳を持っている)
(そしてもうひとつ。……野郎、今の攻撃を喰らわせたアルファに対して、激怒しやがったということ)
(やつの巨大な頭が、地面を嗅ぐように下を向く。そして、後ろ脚が、ザッ、ザッ、と、具合を確かめるように道路をこする)
(それからの展開は速かった)
(どごん、と、アスファルトがひび割れるほどの力で、1201は大地を蹴り、アルファに向かって突進した)
(その姿はまさに、黒い砲弾)
(先端の枝分かれした、ごつく鋭い角が。車をも上回る重量の巨体が。そして、『シカに注意』という明朝体の極太文字が)
(一気に、アルファの小さなシルエットに迫っていった)

119α-130型 ◆BpYjFWEe7.:2021/03/04(木) 23:26:34
>>117>>118

(放った弾丸の数発の着弾を確認。確かに効いている様だ。――効いていなかったら、この弾丸を渡した男性の尻を蹴り上げようと物騒な事を考えていたのは内緒)
(標識達の行動も幾つか把握した。咆哮を行っている辺り、痛みも感じているのだろうか)
(……そんな事は今はどうだって良い。先ずはこの真っ黒な鹿を如何に素早く仕留めるか、必要なのはそれだけ)
(この弾速であっても標識の強制力からは逃げられない。地面にすら作用するのだから、想定範囲内ではある)
(だが、防御に割り切った動きをされればたちまち厄介な事となるだろう。能力を無効化するか……それとも、意識外からの強い一撃を与えるべきか)
(今この場では後者の選択しかあるまい。幸いにして、それを行うに相応しい物も一つ受け取っている)
(だからと馬鹿正直に真正面から投げた所で破片は防がれるだろうし――逆に此方へ返ってくる可能性も考慮せねばなるまい)
(一度限りのチャンス。緊張などする筈が無い。彼女はこういった作戦を行う為に造られたのだ。即興でのプラン立てなど直ぐに行って見せる)

口が悪いアホなのです。誰が「ちっこいの」なのか後で吐かせた上でトウモロコシ畑の肥料にでもしてやるのですよ
――ま、判断自体は悪くない様なのです。引き立て役としては十分な能力を持って居る事は素直に評価するのです

(音による攻撃を確実に決められるようなアシスト。即興のペアであってもそれを瞬時にこなす事には内心感心していた)
(一瞬が命取りの場面で何を行うのか詳細に語る時間は無い。最低限の会話で伝わるのは大きなアドバンテージである)
(やはり個々に攻撃しているよりも連携を取った方が火力が上がるのも明らか。魔法の質を瞬時に理解して、合わせる。伊達に隊長を務めていないという事か)
(まあ、この少女が素直にその事を褒めたりする筈が無いのだが)

(「音」に対しては過敏に反応して見せた。成る程、五感があると考えて良いだろうか)
(――怒り。良い、実に良い。確かに動物的である。これで標識で身を固められたら別なプランを練り直す必要があったが……この反応は悪くない)
(流石に盛大なブザー音で応戦されれば僅かにビクリ、と体が反応するけれど、怯みはしない)
(鼻息荒く、怒りも隠さず此方へと突撃してくる姿を見て次の一手が確定した。だが、先ずはこの窮地を乗り越えるのが先決だろう)
(ザックは――流石に猛スピードで迫ってくる鬼から守るだけの援護も期待は出来ないだろう。尤も、それに対して嫌味を言う少女では無い)
(あの魔法によりこうなる事は元々想定の一つにあった。誤算を挙げるとすれば……想像以上に鬼のスピードが速い点である)
(下げた頭部に向けて弾をありったけ撃ち込むか?いや、仕留められなかった時のリスクが大きい)
(推進力と重量を利用して首を真っ二つに切断しようにも自分の持って居るナイフではそれは難しく、もっと言えばそれだけの技量も無い)
(そうなると、避ける事になる訳だが――……)

あぅ――ッ――…!こん、のォ……ッ!

(思いっきり肉を叩きつけたような鈍い音が響く。宙に舞うのは少女の左前腕)
(角によって切断されたソレが、断面から血を吹き、回転しながら辺りに細い朱の線を描きやがて落ちる)
(少女は、と言えば。左の肘から先を失いつつも無事であった。――深手を負いはしたが、死に至るものでは無い)
(最小限のリスクによって回避できたのだから上々だ。生きているならばまだ任務は続行できる)

(少女自体も錐揉み状に回転していたが、バランスを取り直すとアスファルトに両足からの着地)
(――痛覚を遮断。腕を失った、という現状を認識すると小さく悪態を吐きはするものの、怯えの表情は見られず)
(外見こそ少女だが、やはり造られた存在。精神力は勿論、思考回路も見た目と同年代の少女等とは大きく異なる)
(鬼の様子を伺うことも無く、ザックの方へと駆け出す。折角的が二つに分散していたのに意味が無くなる?)
(いや、それで良い。確実に此方へと向かわせる必要があるのだから)
(ライフルをその場に捨て置き、後ろを見ずに後ろへと同じ音魔法を放つ。注意が此方に向けば良い。激昂すれば更に良い)
(汚れを知らなかった白髪も、今や彼女の血で斑に汚れている。それでも、気にする事なんて無い。――鬼を仕留める、それだけだ)

「ザック」!!合わせた後にさっさとその場から離れるのです!!
あの害獣をさっさと仕留めて

(初めて「ザック」と名を呼んだ。認めた、という証であろう)
(何をするのか、それを伝える暇はない。ただ、ザックに対しては身体能力が大幅に上がる魔術が掛けられる事となる)
(――これから何を行うのか把握できればそれで良い。考える必要があるとしても……彼には、その時間を安全且つ長時間取る事が出来る能力がある)
(即ち、ザックの手を借りて高く飛び上がった後に頭上から手榴弾を最大限のダメージを狙って放る)
(標識達に囲まれたとてど真ん中目掛ければ良いだろうし、標識の種類によっては想定以上の効果も望めそうだ)
(その為には地上付近を漂っている標識を避けて通れるだけの高さに飛ばねばならず、同時に信管を抜いた上で正確な時間まで保持しなければならない)
(仮にこれが致命とならずとも、ザックが更に追い打ちを掛けるであろうと踏んだ上での作戦だ)
(音であれだけ驚いていたのだ。今度はそれの比では無い)

(そしてザックが爆発までの短時間の間に破片の被害を受けない位置に移動できるかと言えば――身体能力の向上している間ならば十分に出来るだろう)
(意識が着いてこれるか否かは……彼ならばきっと大丈夫だろうか)

120α-130型 ◆BpYjFWEe7.:2021/03/04(木) 23:33:35
【ちょっと文字抜けの修正を!】

「ザック」!!合わせた後にさっさとその場から離れるのです!!
あの害獣をさっさと仕留めて

「ザック」!!合わせた後にさっさとその場から離れるのです!!
あの害獣をさっさと仕留めて戻るのですよ!

121ザック・ヒメタン ◆k1072NP5UU:2021/03/06(土) 00:39:24
>>119>>120
(その一撃を妨害するには、あたしとアルファの間に横たわる距離が大き過ぎた)
(野生動物そのものの瞬発力には、残念ながら人の身では追いつけない)
(アサルトライフルの弾をどれだけぶち込んでも、すでに走り出した真っ黒い巨体を止めることはできない)
(その結果――ああ、くそっ――まるでサムライ・ソードを真っ直ぐ振り下ろしたかのように、アルファの腕がひじから離れる)
(黒いアスファルトの地面に多量の血液が飛び散り、彼岸花を思わせる鮮やかで複雑な模様が浮かび上がった)

――アルファっ!?

(1201の突進の直撃を食らったわけではない。おそらく、角の先がかすめただけだ)
(それでも爆発的な運動エネルギーは侮れるものではなく、小柄な少女を翻弄し、その肉体に深い深い傷を負わせた)
(――この結果は、明らかにあたしの失策である)
(気を張っているつもりでいたけど、きっと無意識では油断していた。これまで楽に倒せていた相手だからと)
(敵が『警笛鳴らせ』の標識で悲鳴を表現した時点で、次の展開を予想し、アルファを救助できる位置に移動するべきだったか?)
(いや、もっと前に、音爆弾による実験が行なわれた時点で、集中して敵の足を潰しにかかるべきだったか?)
(どうであっても、起きてしまった事故は覆せない。あたしの脳内自分テストに、マイナス30点をつけておく)
(それで……ここからどうする?)
(安全を取るなら、もちろん即座に撤退だ)
(1201の異界は、高速道路の中だけ。つまり、道を横に外れれば、簡単に敵の手の届かないところに脱出できる)
(アルファを連れて外に出て、すばやく治療をすれば、傷口の具合によっては、ちぎれた腕でもくっつくかも知れない)
(あたしの中では、8割方その方針で決定しつつあった。迷いはない。考える時間も、0.1秒も必要なかった)
(……まあ、うん、あたしもこれまで、機動部隊のリーダーとしてやってきたからね。安全を大事にするのが当然なのよ)
(ひじから先がふっ飛ぶ怪我って、普通に重症だしね。ヘタすると普通に死ぬし)
(勝ちにこだわって、パートナーに無理をさせる選択肢はなかったんだ)
(なかったんだけどさぁ……)
(鬼にふっ飛ばされて、くるくると宙を舞って、片腕なくしたアルファがさ?)
(悲鳴も上げずに、力強く両足で着地して、白銀色の目を戦意でギンギンに輝かせたまま、こっち向かってダッシュしてきたらさ?)
(後ろ向きの方針をほとんど決めかけてても、「あ、これ、考え直さないとダメなやつだ」ってなっちゃうだろ?)

おまっ……お前、イカれてんのかぁああぁっ!?
ああもう、ああもう――こーなったら速攻で片付けるぞっ、気合い入れろよ、アルファ――ッ!!!

(こういう時、彼女があたしの本名を呼んでくれたように、あたしも彼女の名を呼んでやれば格好がつくのだが)
(アルファベットと数字の組み合わせである彼女の本名は、とっさに叫ぶには向いていないのが残念だ)
(だがまあ、愛称で呼ぶのもさ、信頼の形のひとつってことで。こらえてくれ)
(アルファが空き缶でもポイ捨てするかのようなフォームで放った2発目の音爆弾が、1201の足元で炸裂する)
(1201はその時、アルファに向かって再度ぶちかましをかけようとしていたのか、方向転換をしてこちらに顔を向けつつあった)
(派手な破裂音に続いて、またしても鳴り響く『警笛鳴らせ』の耳障りなブザー音)
(たぶんだけど、この鬼は轟音に驚いて悲鳴を上げているというより、単純にこの魔法の音が嫌いなんじゃないだろうか)
(とにかく、この嫌がらせによって、やつがまた頭を下げて突進を始めるのが、ひと呼吸ほどの時間分遅くなった)
(そして、そのひと呼吸の間にあたしは、アルファがどのような構想のもとに動いているのか、推理する必要に迫られた)

――Towards ZERO。

(時間を止める。考える。気を落ち着かせて、アルファの気持ちになって、考える)
(目の前には、血まみれで、しかし殺る気マンマンって顔でこちらに駆けてくるアルファの姿がある)
(その背後には、身をよじってこちらを向こうとしている1201がいる)
(時間停止がなければ、あと5〜10秒程度であたしのいる位置まで突撃してくるだろう)
(やつは何発かの銃弾を受けてケガをしてはいるが、まだ充分に元気だ)
(倒すとしたら、頭や心臓などの急所に、あたしとアルファで大量の銃弾を集中させるしかない)
(うん、銃弾……アサルトライフルでの速攻が、あたしの考えていた一番シンプルなやり方だったんだが)
(アルファのやつ、どう見ても自分の銃を放り捨ててやがる)
(んー? どういうことだこれ。走るのに重いから、速さを得るために捨てた? まさかね)
(彼女の考えている1201の倒し方に、銃は必要ない? じゃあどうやって? ナイフじゃ弱いし、他に高火力な武器は……)
(――あ。ひとつあった。作戦開始前に、あたしがひとつ手渡している)
(え、あれ使うの? いや、まあ、当たれば大ダメージだけどさぁ……敵に近付かないとダメだよね?)
(怒り狂ってめっちゃ走り回る1201相手には、ちょっと危ないよ? 手榴弾)
(い、いや、いやいや。アルファひとりでやるつもりじゃない。こいつ、さっき言った。「合わせたあとに離れろ」って)
(敵に手榴弾を通すために、あたしが必要だってことだ)
(彼女がそれを投げる時、確実にぶち当てられるように。障害を排除し、彼女自身を守る。それがあたしに求められている)
(やれってんだな? 綱渡りになるぞ? それでも1201を殺して、勝って凱旋するんだな?)
(ああ、いいよ、いいともさ。パートナーの期待だもん、応えなきゃなぁ)
(目の前の状況を、よく観察する。いつだって、目の前の不可能を可能にする鍵は、目の前の光景の中にある)
(よし、よし、よし……いける。やる。失敗しないようにやる……アルファ、お前もしくじるなよ?)
(時間停止、解除)

よっしゃオラァッ! 来たな! 何も聞かずに、腹に力を入れてろよッ!

(すべてが動き出すと同時に、あたしのもとにアルファが到達する)
(無事な方の彼女の手を取……らない。細いウエストに腕を回し、コンパクトな体を持ち上げる)
(そのままあたしの肩と背中を使って、彼女のお腹を下にするように抱えれば、ファイヤーマンズ・キャリーの出来上がりだ)
(日本だと、お米様抱っことか言われることもある。ネーミングセンスやべーな日本人)
(本来なら、自力で歩けないような人を運ぶ時の抱え方で、力いっぱい走れるアルファには必要のないものなんだが……)
(今回の手榴弾作戦には、あたしがアルファを持ち上げて移動することが重要になる)
(どういうことかって? まあ、見てておくれよ)

(地面を砕くほどに猛然と加速しながら、1201がこちらにやってくる)
(巨大で頑丈な角を突き出して迫り来るそれは、まさに戦車。さらに、何十枚もの標識たちが周囲を浮遊して、防御を固めている)
(今、バカ正直に真ん前から手榴弾を投げても、あまり効果はないだろう)
(なので、狙うとしたら――うん、ここしかない――やつの頭上だ)
(1201の真上、高い位置に、手榴弾を持ったアルファを送り届ける。そのために、1ミリのミスも許されない綱渡りの始まりだ)
(でも、何でだろう。失敗する気が微塵もしない)
(アルファを抱え上げた瞬間、全身が石炭をくべられたように熱くなったのを感じた)
(その熱は、体の内側から湧きあがってくる力であり、「あたしならやれる」という、自信そのものでもあるような気がした)

まずは……ここっ!

(腰の鞘からコンバットナイフを抜いて、地面に近い位置を浮遊していた『一時停止』の標識に向けて投げつける)
(この標識は、周囲にあるものの動きを3秒間、停止させる。停止空間に侵入したナイフは、ぴたり……と空中で固定された)
(これで、ナイフは3秒間、何をしてもそこから動かない。……たとえ、あたしが全体重をかけて踏んづけても)

コンクリートで固めたみたいな、いい足場の出来上がりっ……とっ!

(アルファを抱えたまま、あたしは空中に固定されたナイフの柄を踏んで、跳び上がった)
(人ひとり抱えた上でのジャンプだ、そう簡単ではない。全力でやらねば失敗する……はずだったのだが)
(異様に熱を帯びた筋肉が膨れ上がり、あたしはまるでオランウータンのように、軽々と宙を駆けることができた)
(跳んだ先にあるのは『通行止め』。バリアとして攻撃をはじき返すその標識も、要するにただ硬いだけなので、問題なく踏める)
(さらにさらに、『通行止め』を蹴った先には、上に矢印を向けた『指定方向外進行禁止』のマーク)
(この標識の作り出す力場の影響を受けて、あたしたちの体は、さらに上へ……ふわっと浮き上がる……)

――オーケイ。ここまで昇りゃ、充分でしょうよ。
アルファ、あとはあんたの仕事だ。絶対に、はずすんじゃありませんよ。

(まるで、スポーツジムのボルダリングの壁を攻略するように、標識を利用してポンポンと跳んだあたしは)
(ほんの2、3秒のうちに、8メートル近い高さにまで上り詰めていた)
(こちらに向かって突撃してくる1201が、斜め下に見える。「シカに注意」のロゴすら、今なら見下ろせる)
(今、このアングルからなら、こちらの攻撃を邪魔する標識もほとんどいない)
(敵の急所である、太く頑丈そうな首が、あたしからはよく見えた)
(当然、アルファからも丸見えだろう……あとは彼女の、投擲の正確さ次第だ)

122ザック・ヒメタン ◆k1072NP5UU:2021/03/06(土) 00:41:40
>>120
【オーケイオーケイ、大丈夫、意味わかりますよ!】

123α-130型 ◆BpYjFWEe7.:2021/03/07(日) 03:04:06
>>121
(うむ。最低限の伝達であったが結果としては上々な気がする。作戦実行前の軽いブリーフィングにてザックの能力は軽く教えられたが)
(取り敢えず、安全に長考可能な時間が取れるとだけ認識をしていた。間違いは無い筈だ。多分)
(後はその状況、言葉からの推測に賭けていた。――ただの兵士相手ならば、そんな一か八かなんて事はしなかったけれど)
(彼の実力を評価している。求めている答えに辿り着くと判断したからこその行動)
(α-130型は人工生命体である。基本的に合理的な処理を好む。――だから、この場では力を借りる事こそが、最もよい結果を導き出せると踏んだ。それだけだ)

至極真っ当なのですよ。思考もクリーンで内部状態も腕が吹っ飛んだ以外にはオールグリーンなのです
――ふふ。幼子が此処まで痛めつけられているのに撤退の二文字を出さないお前は鬼なのですね
だけれど――……この場では、その判断は極めて評価できるものだと伝えてやるのです

(片腕を失くし、血に濡れても少女は何時も通りにトゲトゲな言葉を放つ。だが、心なしかその表情は嬉しそうでもあった)
(此処で撤退と伝えていれば、冗談で無く回し蹴りでも放って蹴り飛ばそうとした事だろう。それも、「舐めているのか」と悪態を吐きながら)
(だが、ザックの出した答えはこの少女に合わせるというもの。つまるところ、作戦の続行だ)
(それは信用しているとも取れるだろうし、一兵士として認めているとも取れるだろうか)
(α-130型は優秀な人工生命体だ。それでも、その容姿で実力を侮られる事がある。――彼女を作った人物曰く、それも狙いの一つであるという)
(α自身もソレを良しとしている。――だが、「仲間」からその様に思われる事に対しては憤慨するのだ)
(彼女が問題無いと言えば問題無い。過度に心配すれば逆に刺激する。だから、ザックの判断はベストなものである)

――……ま、抱え具合は100点中10点といった具合なのですが
この私を荷物の様に扱うなんて、失礼なお猿なのですよ
仕事が無くなったら曲芸師になる事でも勧めるのです

(これからの行動については聞かない。ザックもそれを語るだけの時間は無いだろうし、下手に舌でも噛まれて失敗されては困る)
(それに、今回は完全なアドリブ作戦だ。刻一刻と変化する状況から瞬時に最適解を見つけなければいけない状態なのだから、「討伐する」以外の情報は不要だ)
(いざαを抱えてみれば分かる事だが、見た目に比べて非常に軽い。そして、人に比べて明らかに体温が低い)
(彼女が人間と異なる事を改めて示唆するかの様である。ただ、感触自体は人間と何ら変わりはない)
(大人しく――でも、無いが――抱えられたまま上に上がっていく事は彼に任せる。その最中に自分が行うことは、最良の手を打てるように幾つもの平行思考)
(起爆に必要時間。投げた後の到達時間。その後のダメ押し。それらは全て、彼が標識を攻略した頃には終えていて)

誰に対して外す事を心配しているのです?
――私は外さないのですよ。特に、私を怒らせた相手に対しては……絶対に外さないのです

(手榴弾のレバーを握り、ピンを歯で咥えて引き抜く。それをやれば歯が欠ける、なんて話も有るが――そんなの、人間で無ければ心配いらない)
(この高さであれば、気持ち早めの投擲を行えば最大火力をあの首にぶつける事が出来るだろう)
(――1秒。2秒。コンマの単位まで、少女は正確に測り……やがて、その首目掛けて投げつけられた)
(余程のイレギュラーが起きない限り、それは首の直ぐ真後ろで起爆する事だろう。爆発自体のダメージが無くとも、中枢神経に深手を負わせる事が出来ればよい)
(対象が大きければそれだけ破片が刺さる範囲も広がるという物だ。)
(この場所も良い。高さも良い。角度も悪くは無さそうだ)

さ、終わらせるのですよ。あの鬼には早く地獄に帰って貰うのです
お前も無駄な残業をしたくなければ此処で片を付けるのですよ
二人揃って帰って任務完了なのです。モジャ毛、生きて帰るまでが遠足なのです

(抱えられながらもニヤリ、と今度は明らかな笑みを見せた。それは自分への強い自信と、この一手で終わると言う確信)
(するり、とザックの肩から抜ければ猫の様に軽やかに着地。場所は鬼のやや後方――そう、アサルトライフルを置き捨てた場所である)
(鬼と自分との間に幾つかの標識があれば計画通りだ。爆風も破片も干渉され此方に被害は及ぶまい)
(左腕が無いから精密な射撃は出来ないが、手榴弾が成果を出していれば問題ない)
(それに今回は単独任務では無く、二人での任務だ。もし火力が足りなかったとしても、ザックの方が補ってくれるだろう)
(信頼と取るか否かは人によるのだろうが)

(銃を拾い上げ、大雑把に狙いを定める。片手で長物を扱う故に、本来通りに構えて撃つという事は不可)
(――それでも、数発を放つ事は可能だ。今回は精密な射撃も要らない。手榴弾によって抉れた箇所に弾を通す。それだけで良い)
(剥き出しの箇所を弾が貫けばそれだけで甚大なダメージを与えられるとも考えられよう)
(仮にこれらがオーバーキルであったとしても気にしない。鬼なんて、必要以上に攻撃する位が丁度良いのだから)

124ザック・ヒメタン ◆k1072NP5UU:2021/03/08(月) 23:33:08
>>123
ええ、ええ、ええ。あんたに任せるのが今の最善ってことですよ。
ここに来る前に見せてくれた、標的を精密に狙う腕前。銃でなくても発揮できるって信じてます。
――もし外したら……成功の時はご褒美として、フルーツパフェの美味しい喫茶店に連れてってやるつもりでしたけど……。
その代わりに、超がつくレベルの激辛系ラーメンのお店にご招待してやる……!

(『指定方向外進行禁止』の標識による上昇が止まり、あたしとアルファの体は一瞬、空中で停止する)
(これから落下が始まるまでの、ほんの短い時間。しかしそれでも、アルファならしっかり狙いをつけることができるはずだ)
(そこに疑いはない。……疑いはないけど、一応、近所の辛い系ラーメンの美味しい店を、頭の中でピックアップしておく)

(アルファの片腕が、いくらかの血のしたたりと一緒に、手榴弾を放る)
(くるくると回転しながら、その兵器は1201の首の根元あたりに吸い込まれていき)
(相手の黒い毛皮に触れるか、触れないかといった素晴らしいタイミングで……炸裂した)
(白い閃光と、腹に響くような轟音。アルファが使っていた音爆弾とは違う、暴力的な衝撃)
(もうもうとした黒煙が1201の頭部と背中を包み、その姿を数秒、視認不可能にする)
(あたしとアルファは……爆風に少しばかり流されはしたものの、落下するタイミングはちゃんと計れていたので)
(ケガをすることも転ぶこともなく、優雅に着地することに成功していた)
(……おっと、もちろん、1201への警戒も怠っちゃいないとも)
(器用に身をくねらせて、あたしの肩から下りたアルファは、先ほど放り捨てたアサルトライフルを拾い上げると)
(本来両手で扱うべきそれを、片手でむりやり持ち上げて、その銃口を煙に包まれた1201に向けていた)
(ふむ、よし。手榴弾で勝負が終わったと決めつけてない。敵の反撃を前提に、迎え撃つ準備を整えている)
(アルファにプラス20点。でも、しっかり支えきれない片手だけでアサルトライフルを扱おうとするのはよくない)
(あたしというおじさんがすぐそばにいるんだし、頼ってくれていいんだよ?)
(彼女に倣うように、あたしも銃を1201に向ける)
(片膝を地面についた射撃姿勢。位置取りは……アルファのすぐ前)
(彼女のライフルの銃身を、あたしの肩に乗せられるようにする)
(片手だけで銃を支えようとすれば、どうしても反動でブレが大きくなるが……簡易な台座があれば、ずっと安定するはずだ)
(耳元で発砲されることになるんで、めちゃくちゃうるさいのは間違いないだろうが、うん、それくらいは耐えてみせる)

煙、晴れますよ……。

(自然の風が、1201を覆う煙幕を拭い去っていく)
(黒いヴェールがはらわれて、初めてあたしたちは、手榴弾が奴に与えたダメージを確認できた)
(1201は、まだ、生きていた)
(首全体が大きく傷つき、滑らかな毛皮はズタズタに引き裂かれている)
(角が両方ともへし折れて、頭部の右半分が大きくえぐれていた。普通の鹿であれば、脳がこぼれ落ちているだろう)
(頭上の『シカに注意』の文字も破損しており、『ンカ こ 主意』みたいな感じになっている)
(最後のは敵にとって、どれくらいダメージなのかわからないが。少なくとも、先の爆発はやつの命を、ほとんど刈り取っていた)
(瀕死である。瀕死であるが……それでもまだ、敵は生きる意志を失っていない)
(「Puiiiiiiiiiiii……」と鳴きながら、またしても頭を下げ、突進の姿勢を見せる)
(頭の上から、標識を生成し始める。「!」マークの『その他の危険』標識を、大量に――……)

――発射ァ!

(当然、こちらはその反撃の準備など待ちはしない。新たな標識が効果を現す時間など与えたりしない)
(フルオート設定でトリガーを引く。やつの頭部の傷跡に、弾丸をこれでもかとぶち込んでやる)
(明るい中でも、菫色のマズル・フラッシュが閃き……敵の体が、バイブレーターをあてられたかのようにぶるぶると震えて……)
(ちょっとしたバスのような巨体が、悲しげにひと声鳴いて、つんのめるように前脚を折って倒れていき……)
(ばちゃん!)
(……と……大量の黒いペンキのような粘液となって、崩壊した)
(それが、コールドナンバー1201の最期であった)
(5秒ほど緊張を解かずに、その様子を見届けてから、あたしは銃を下ろし)
(ふ――っ……と、肺の中に溜めていた空気を一気に吐き出した)

……本部へ。こちら『コーン』。ターゲットの無力化を確認……。
これより、ポイント23-Gより脱出する。『アルファ』の治療の準備を頼む。通信終わり……。
……アルファ……あー……アルファ。よくやりました……討伐作戦は完了。あの鬼はしっかりぶち殺せましたよ。
あなたはいい仕事をしました……ええ、実に。打ち上げはラーメンじゃなく、もとの予定通りパフェでいきましょう。
もちろん、その腕の治療をしてからね。ちぎられてから今、1分ぐらい? 急いで手術すればくっつくかな?
ああ、ああ、希望は捨てないで! うちの社の医療スタッフは優秀だから! きっと元通りに治してくれますよ!
というか、えっと、吹っ飛んだ腕どこにいった? ちぎれた部分がないこと、くっつけるも何もないもんだ!
脱出前に、あれ回収しないと……ああ畜生、敵倒したってのにこんなざまじゃ、嫁に笑われちまう!

(鬼が死に、異界が崩壊し。眷属である標識たちも一斉に命を失い、風に吹かれた枯葉のように地面に落下していく)
(なんとも儚いその光景の中で、あたしはわたわた、きょろきょろしながら、落ちた腕を探していた)
(戦いが終わると、なんかどうしても緊張の糸が切れる。この辺カッコがつかないと、部下にもよく注意されてる)
(家に帰るまでがピクニックだってのは、わかっちゃいるんだけどね……やっぱり、自然とホッとしちゃうんだよなぁ)

125α-130型 ◆BpYjFWEe7.:2021/03/11(木) 20:58:41
>>124
(パートナーの肩を銃座とする事には躊躇いを見せなかった。逆転劇が有り得る状況でそれだけの気遣いも出来まい)
(平時でもそんな気遣いを発揮する事が無い事も否めないが……それは兎も角として、やはりまだ鬼は生きていて)
(予想通りと言うべきか何と言うべきか。ただ、限界が近い事も一目で分かる。どれだけボロボロになっても同情などない)
(――合わせる様にして射撃。もう弾倉の中身を気にする必要も無いだろう。撃ち切る頃には鬼が事切れていることなど明白なのだから)

(今回の討伐が終わった、と実感したのは鬼が粘液と化した時だ)
(それと同時に覚えるのは疲労感。初めてのタイプの鬼との戦闘はやはり疲れるものだ。さっさと帰って糖分補給でも、なんて思っていたけれど)
(横で報告を行っていた男性が何やら若干のパニック状態。……自身の無くなった左腕を見て、「嗚呼」と納得し)

――手術なんて必要ないのですよ。マスターに言って新しく腕を作って貰うだけなのです
お前達人間と違って私は元々造られた体なのです。腕の一本程度ならば少し時間を掛けてまた付け直すだけなのです
……共闘記念に持って帰りたいと言うのならば止めはしないのですよ?ガラスケースに入れて毎朝拝むことも許可してやるのです!
それよりも……これ、お前に返すのですよ。新しく鬼がまた湧いて来ない限りは不要なのです

(何十年という長い時間を掛け、様々な経験を経た訳では無い。故に、命の価値観も異なるのだろう)
(指差す先には少女の細い腕が落ちていて――何も知らない人物が見れば、鬼から逃げきれず犠牲となった子供の一部分とすら認識されそうで)
(その腕に対しても、当の持ち主はさして執着を見せはしない。もし持ち帰るのならば、それはそれで良い研究材料となるだろうか)
(実際に腕を拾った所で咎めはしない。好きにしろ、とは文字通りの事だ)
(代わりとしてマガジンの中身を撃ち尽くした無理やり銃を押し付け、自身は身軽になれば)

さ、早く帰るのですよ。任務が終わったのに長居していても無意味なのです
そんな事よりも、お前にはパフェを奢って貰うと言う新たな任務があるのです
――別に食べるのは片腕が無くても支障は無いのですよ

(もがれたて新鮮な左腕を周りが見てどの様に思うか、なんて事は重要では無い。ザックが食わせてくれるというパフェの方が今は大事だ)
(帰りの道中もジュースも追加しろだのお土産も欲しいだの、散々好き放題言うのは今更伝えるまでも無いか)
(……しかし、つい先ほどまで異界との境目であった所に一人何者かが立っていた)
(後から別な者達が追って来るのか、それはまだ分からない)
(バイザーを下したフルフェイスのヘルメットを被り、オートバイジャケット。手はミリタリーグローブで、足はミリタリーブーツ)
(完全に肌の露出を隠した、所謂不審者。そんな人物が二人の姿を見つけると、あいさつ代わりに大きく手を振って)

「やあやあ、お疲れ様二人共。特にザック・ヒメタン君はじゃじゃ馬のお守りもあって大変だっただろう?」
「α-130型の視覚から得られた情報を元に、コールドナンバー1201について私から見た限りの情報を纏めてみたよ」
「君達の組織は優秀だからねェ……もうあの鬼についての情報は探り尽くしているだろうけど、別な人物からの観点として役立てて貰えたら嬉しいよ」
「お世話になった隊長くんへの労いと言うにはちょっと味気が無いが……この天才画伯の私が描いた図解付きだからね。売っても良い金にはなると思うぜ?」

……マスターは何時も通り絵が壊滅的に下手なのです。これじゃ古代壁画の謎生物と言われても信じるのですよ

(α曰く、マスターと呼ばれる人物らしい。声も変声機を通している所為で男か女かも分からない)
(バイザーにはネオン文字で「労い」と浮かんでいる始末だ。人工生命体が変人なら、それを造った人物も変人らしい)
(差し出された一冊の薄い紙の束は今回討伐対象となった鬼の情報がこの人物なりに纏められているのだが――その量が半端では無い筈)
(更には丁寧にイラスト付きだ。ネコか犬かはたまたモンスターかよく分からない図に色々と文字が書き加えられている)
(新たな発見を得られるかは分からないが……受け取ってやるならば、バイザーに浮かんでいた文字がサムズアップへと変わり)

「本当は色々とザック・ヒメタン君から生の声を聴きたい所だけど……流石に今この場で聞く程に空気読めないさんでは無いからね」
「取り敢えずは休息して貰うのと……α-130型。君は腕を早めに治さなければいけないね。まーた私が色々と面倒を見るのはごめんだからさァ」
「あ、でもこれだけは聞いておきたいな。ザック・ヒメタン君――α-130型。延いては人工生命体との共同作戦はどうだったか。そこだけ率直な感想を聞かせて貰って構わないかな」

(α-130型の片腕が無くなって居る所を見ても、特に動揺は見せなかった。寧ろ、冗談めかして一言述べるだけである)
(やはり人間とは根本的に異なるのだろう。創作では腕の一本や二本、何て言う者も居るが……正に、その通り)
(バイザーに浮かんでいたサムズアップも消え、今度は「?」だけが浮かび上がっていた)
(問い掛け自体も何ら難しいものでは無い。実際に感じたことを伝えれば良いだけだ)
(――別組織の者達との共闘が可能か否か。それもまた、今回の調査対象であって)

126ザック・ヒメタン ◆k1072NP5UU:2021/03/13(土) 00:58:11
>>125
……あ、あそこかぁ! よかった、今の戦闘で踏み潰されてたりしたらどうしようかと!
どれどれ……ん、よし。切断面もきれいだ。これならたぶん……って、えー?
いらないってあんた……あー……そうか、人工生命ってそういうことできるのかぁ……。
ん、ん、ん、んー。まあ、この場にポイしとくわけにはいけないんで、お持ち帰りは確定ですけども。

(アルファの指差した先に目をやるあたし。そこにあった切断された腕に駆け寄り、持ち上げる)
(アスファルトの破片や散乱した1201の体液で多少汚れていたが、状態は良さそうだ)
(これで少なくとも、アルファは今後の活動を片手でこなさねばならない、という事態は避けられるだろう)
(……と、思っていたんだけれども)
(α-130型という存在は、怪我というものを人間が思うほど重大なエラーととらえていないようで)
(血のしたたる白い腕は、なんかあたしのお持ち帰り品になりそうな雰囲気が生まれてしまった)
(えええ……これ飾るの、さすがにあたしみたいな流血慣れしたおじさんでも勇気いるんだけど?)

あー、銃の方はまあ、返してもらっても困らないですが。え、この腕ホントに、あたしにパスするの?
まあ、うん、それでいいってんなら、もらっときますけど。これを置物扱いするよりは、有効に扱える人の心当たりあるし。
でもとりあえず、最優先は止血……! 傷口から血ィポタポタ垂れてたら、どこの喫茶店も入店させてくれないですもん!
おごりをつつがなく遂行するためにも最低限の処置はしていきましょう!? ね!?

(アサルトライフル2丁と、血まみれの腕を抱えておろおろする中年男。見る人が見れば新しい都市伝説が生まれるやつだな?)
(ステーション・フェブラリーとかミズ・240センチみたいに、ネットを騒がせることになってもいけない)
(何とかして速やかな返却を試みたいが……でも、いらんって言ってるもんを無理に押しつけるのもよくないし)
(そんな風に悩みながら、異界の外――正確には、さっきまで異界だった道路の外――に向かっていると)
(行く先に、何かメカニカルな誰かが待ち受けているのを発見した)
(うん、メカニカル)
(ライダースーツの質感は金属的ではないが、ごついヘルメットとグローブ、ブーツと組み合わせると、総合的にロボっぽくなる)
(中身はたぶん……たぶん、人間だよね? いや、そうでもないのかも……横にいるアルファがまず、人じゃないし)
(でもまあ、その辺はどちらでもいいとしよう。今考えるべきことではない)
(かかとを揃え、右腕を上げて、額に手のひらを添える敬礼をする。相手はあたしの上司ではないが、目上の相手だ)
(具体的には、今回のビジネスの取引先。アルファの方の上役さんである)
(メットのバイザーに電気的な手法で、文字やピクトグラムを表示して意思を表現するパンクな種類のお方だが)
(うちの上司が相手方のお偉いさんだって教えてくれたので、お偉いさんで間違いない。……世の中変なのしかいないな?)

お疲れ様です! ザック・ヒメタンならびにα-130型、第20■■03■号作戦を完了し、帰還しました!
ターゲットのコールドナンバー1201は撃破。これ以降の現場での活動は、当社の資源回収班が引き継ぎます。
……それはそれとして。はい。まずこれだけは先に。――申しわけありませんでした。
そちらからお借りした人員を、こちらの不手際で傷つけてしまいました。
事前情報は充分でしたが、敵の行動速度にあたしの対応が間に合わず……本当に申しわけありませんでした!

(アルファと一緒にいるうちにこの人に会えたのは、ある意味ではちょうどよかった)
(こういったことのケジメは、早いうちに済ませておいた方が誰にとっても良いのである)
(自分の怪我を、アルファは気にしていなさそうだった。でも、だからいいってわけではないのだ)
(今回の作戦は、テクノロア社と向こう側の共同のものだが、現場を用意したのはこちらで、あたしはリーダー職)
(それでいて、あたしは無傷で向こうは怪我をした。――頭下げねーとダメなあれである)
(あたしとアルファの状態が逆か、どっちも怪我してたら少しは違ってたんだけどなぁ! あたし能力的に怪我し難いんだよなぁ!)

(まあ、この謝罪を向こうさんがどうとらえるかは、向こうさんに任せるとして)
(向こうさんが現場を観察してまとめて下さったという資料については、ありがたく受け取らせて頂く)
(こういった情報は、あたしたち機動部隊でなく、専門の研究班に回されることになるが)
(ぱらっとめくって読んでみただけでも、ものすごい情報量が詰まっているように見えたんだけども)
(この人いったい、どういう情報処理能力をお持ちなんだ?)
(あと、アルファみたいな見目麗しい人工生命の製作に関わってるわりに、挿絵のつたなさはどういうことだ)
(さすがに、古代壁画の謎生物だなんて、失礼な感想は浮かばなかったが)
(それでも、オムライスにケチャップで描いたんじゃないかって思うぐらいの線のよれ方ではあった)
(……どっちにせよ、口に出すべき感想ではない? オーケイオーケイ、まったくもってそうだな)
(マスター氏の絵の上手さについては言及を避けて通ろう。ジャングルで地雷を避ける要領で)

【ふたつに分けます】

127ザック・ヒメタン ◆k1072NP5UU:2021/03/13(土) 00:59:18
このレポートは、ありがたく頂戴いたします。こちら視点でまとめた情報も後日、お届けにあがりましょう。
アルファ……α-130型さんについては……率直な感想、でよろしいのであれば、そうですな……。
フィジカル、特に技術的な部分については、見事としか言いようがありませんね。
道具の扱い。狙撃の正確さ。反射神経。行動速度。どれも一級品でした。
メンタルも強靭。最初から最後まで、動揺が見られませんでした。
腕を切断されてもうろたえず、作戦の続行を即時決断していました。本職の軍人でもこの思い切りはなかなかできません。
……一方、課題もあります。
いや、アルファの課題じゃないな。これは、あたしとアルファ、両方の課題なのですが。
人間の意識と、アルファの持つ人工生命としての意識。そのふたつのギャップを埋めることに、もう少し時間を取るべきでした。
あたしは、彼女が腕を失ってもショックをあまり受けない、ということを知りませんでした。
人工生命だから、肉体を損壊しても容易に治せる。そしてそれゆえに、果敢な決断をすることができる……それを知らなかった。
アルファもおそらく、人間のものの感じ方について、無知であるか、あるいは鈍感な部分があるように思われます。
人間は、他者のものでも、腕が飛んだら動揺します。それは人間の認識では、充分に死につながり得る重傷だからです。
重傷を負ってなお攻撃をするのは、無謀な選択であり、さらに致命的な失敗を招くとしか思えないからです。
だからあたしは、正直な話をすると、アルファが腕を失った時、作戦の中止を考えました。
でも、アルファはやった――……片腕のまま、敵を抹殺する予定を変更せず、むしろアクセルを踏み込むように行動した……。

(まだほんのり温度のある血まみれの腕を、あたしはマスター氏に差し出す)
(アルファにとっては、すぐ直せる部品のようなそれを。あたしにとっては、宙を舞ったのを見た瞬間、背筋が凍りついたそれを)

運が悪ければ、あの時、あたしとアルファの間に、意見の食い違いが生まれていたでしょう。
そしてそれは、もしかすると、あたしたちの敗北につながったかもしれないのです。
偶然、そうはなりませんでしたが。この人間と人工生命の感性のズレは、今後を考えると非常に恐ろしい。
手足の破損を計算に入れて行動できる者と、手足を失うと致命的な者。同じ感覚で運用すれば、きっと大事故を起こすでしょう。
……もっと深く、分かり合うことが必要です。
人間と人工生命で話をして、お互いがどういう存在なのか、どういう考えで生きているのか、共有しなければなりません。
たぶん、それほど苦労はしないんじゃないかと思います。アルファの話を聞く限り、味覚なんかは共通してるっぽいんで。
あー……大勢で甘いもんでも食って、お茶をして。くだらないおしゃべりに時間を使えば、充分、理解は進むんじゃないでしょうか。
もし、また我々がアルファと組むことを許して頂けるなら。いえ、他の誰かと組ませるのだとしても。
彼女という人材について、そういった方向での運用を提案したいのです。
……いかがでしょうか?

(首を傾げて、相手の様子をうかがう)
(どうも目上相手だと、堂々と話を進めることができないあたしだけど、言ったことは限りなく本心だ)
(マスター氏はアルファをして、「じゃじゃ馬」と表現した。あたしもその意見には全面的に賛成する)
(言うことは小生意気だし、凄まじく飛び跳ねるし。こいつを使いこなそうとすれば、相当な苦労をともなうだろう)
(でもそれは、気に入らないとか、勘弁してくれとか、そういう気持ちにはつながらない)
(その実力も、その性格も――人工生命としての矜持込みでも――とても魅力的だし、信頼に値する)
(これからも一緒に仕事ができたら、きっと退屈しないだろう。うちのチームの仲間たちも、彼女を気に入ると思う)
(うちの嫁だってそうさ。あいつは……自分の精神に、しっかりした芯があるような性格の持ち主を気に入るんだ……)
(いつか、信頼できる仕事仲間として、嫁にアルファのことを紹介できる日が来ればいいなぁ)
(……きっと来る。一生懸命に仕事を続けていれば、いつかはそういう日も来るさ)

(でも、少なくとも今日は、あたしひとりでこいつにパフェをごちそうしないとなぁ)
(それが約束だ。いいパフェは値段が張るけど、あたしも社会人だもん……うん、たまには財布のヒモを緩めるよ!)
(時刻はまだ、午後2時にもなっていない)
(諸々の後始末を終えた頃、きっとちょうどよくおやつ時に、あたしたちは近くの喫茶店に向かえるんじゃないだろうか)

【……という感じで、こちらは締めさせて頂きます!】
【いい感じにバトルできたし、いい感じに今後も絡めそうに展開できたー……!】
【頭からしっぽまで、とても満足できるロールでした(*´ω`*)どうもありがとうございます!】

128α-130型 ◆BpYjFWEe7.:2021/03/14(日) 00:47:58
>>126>>127
「いやなに、『道具』という物は傷付くのだからしかたないのだよ。うん」
「それに、それ相応の成果を出して来たんだろう?だったら猶更問題無いさ」
「もっと言えばその件でザック・ヒメタン君も再度同じような状況に陥った際に経験を活かせる。実に実に良いじゃないか。何事もプラス思考だよザック・ヒメタン君」
「君のは失敗でも無く、今後の糧を増やしただけじゃあないか」

(肩を竦めた後にこれ以上の慰めは見当たらないとばかりに天を仰いだ)
(バイザーには「HAHAHAHAHA」とアメリカンな笑いが左から右へとずっと流れ続けている。文字だけで五月蠅い)
(――しかし、マスターなる人物はαを「道具」と例えた。作り出した本人がそういうのだ、皮肉でも何でも無いのだろう)
(感情が有り、喋り、食べる。生物から産まれた訳でも無いにしても、確かに生きている少女に対してコレは道具であると)
(対してαは特別何かいう訳でも無い。ソレで良しとしているからであろう)
(……腕一本を犠牲にする事すら厭わない事から、その精神性は既に垣間見えたかもしれないが)
(組織図も不明瞭で、人工生命体と呼ばれるそれらが後何体居るかも分からない。況してや、AIなどとは比べ物にならないほどの人間らしさ)
(未だバイザーに文字を流し続けている人物も、きっとまともな人間では無いのだろう)

「それは素晴らしい。だが、我々の場所に届けに来るには色々とリスクが高いなぁ……そうだ、後日頃合いを見て別な人工生命体を向かわせよう」
「ザック・ヒメタン君の好みは何かな?クラシックなタイプのメイドやお転婆な少女……ふふふ、我が組織には豊富な人材が居るからね」
「その時には好みのタイプを派遣しようじゃあないか。……ああ、お触りはほどほどにしたまえよ?」
「今挙げた二名は許可無く振れ過ぎていると腕を捩じり折ってきてねぇ……かくいう私も腕を2回転させられたクチでさ」
「全く酷い話だと思わないかい?」

(やはり変人である。圧倒的変人である。バイザーには「期日までに好みを教えてね♥」と浮かび上がっていた)
(その時の出来事を再現するかの様に左手がギュルンギュルンと音を鳴らして回転を始める)
(可動域の限界は無いらしい。この世界で常識を抱えて生きていくとSAN値が一気に低下しそうだ)

「ザック・ヒメタン君。君は優しすぎるきらいがあるな。確かに理解を深めればそれだけ作戦を立てやすくなるだろう」
「しかし……君は理解した上で、どうしてもその相手の命を駒として使わなければいけない作戦が上がった際には許可できるのかい」
「何も知らなければ、ただ人の形をした道具であるとの認識だけで済む。もし、戦友との認識が芽生えたら……果たして、同じように出来るかい」
「四肢を?がれ、機能停止をするその直前まで敵の注意を引き付ける事が目的の彼女らを尻目に任務を遂行出来そうかな」
「ナパーム弾で特攻して、炭と化していく人型のソレに見向きもせずに任務の続行が可能かい」
「――何も知らずに、道具であると言われた方が気楽じゃないかい。種族が異なれば、考えの擦り合わせも難しいものさ」
「…………と、カッコよく言いたい所だったけど……ふむ、悪くない。少しその辺りのデータも取ってみたいところだ」

(使い捨ても許容範囲として造られた命。それを何処まで受け入れる事ができるのか)
(人工生命体の殆どが女性型だ。相手を欺くため、本能的に油断させるため。そこには様々な理由がある)
(ザックの言う事も大いに理解できる。――だからこその助言でもあった。それらを人として見るべきではない、と)
(差し出された腕に触れると、忽ちそれは崩れ落ち……ザックの掌には、異界産のこぶし大の鉱石だけが残って)

「自身の過少評価は出世に影響するぜ?ザック・ヒメタン君。それは偶然では無い、必然だよ」
「君は柔軟に対応し、即興な組み合わせながらも確実にαに合わせる事が出来る能力を有している」
「――だからこの結果は必然だ。君は極めて優秀な人材だ。ザック・ヒメタン君」
「後はもう少し現実を見る目があれば完璧なのだが……いやはや、こればっかりは時間を掛けて養っていくほかないねェ」

(αと組ませる際に、ザックの情報もある程度流して貰っている。優秀な彼が伴侶を亡くしたという事実を受け入れる事が出来ていない)
(惜しい。同時に、どれだけ強く優秀でも人間はやはり脆い存在だと思い知らされる)
(まあ、後半の言葉は聞き取れなかった事だろう。何せ、そろそろ飽き始めたαが――)

もう話は終わりなのです?なら、さっさとパフェに行くのですよ!
マスター!今日は買えりが遅くなるのです!このあほうに色々奢って貰わなきゃいけないのです!

(ザックの尻を蹴って、その場から動く様に促すのだから)
(それはマスターの紡ぐ言葉を考えさせない為の彼女なりの気遣いだろうか。その答えは、彼女にしか分からないけれど)
(奢るつもりの無かったものも沢山奢らされ、結構な出費になったであろう事だけは付け加えておく)

「人工生命体が個々の感情を持つことは私も想定外ではあったけどねぇ」
「――鬼を作り出す計画も一歩……いや、半歩前進といった所かな。世界を綺麗にするのも大変だ大変だ」
「人格コード停止。オートモードに移行。座標は――……」

(その座標。異界に飲み込まれ、誰も近寄らなくなった山の一角であると知る者は多くとも――そこに基地を構えている者達が居ると知るのはほんの一握り)
(更にはその中でどの様な事が行われているのか知る者は……)

(――後日、ザック達の下を一人の少女が訪れる事となる)
(話を聞いてやれば、どうやら「マスター」から命じられて来たとの事だ)
(ただ、α-130型とは異なりその少女は髪が蒼く、肩口辺りで切りそろえられていた)
(更にはαとは正反対に口数が少ない。話せない訳でも無いし、話したがらない訳でも無いが兎に角物静かなのだ)
(おもむろに差し出されたペンダント。中を開けば、ミニチュアサイズのマスターがホログラフィックとして浮き出て)

「やっほー、ザック・ヒメタン君。α-130型はまた別な任務に就いていてね……αを送る事は出来ないが、代わりに別な人工生命体を送ってみたよ」
「ソレは隠密作戦や現地の情報収集に長けている個体だから良かったら上手い具合に使ってみてくれないかい?」
「ああ、でも定期的に海馬領域からの情報は此方にバックアップとして送らせているから、機密作戦には同行させない様に。私も巻き込まれるのはゴメンだからねぇ」
「もし作戦中に壊れてしまっても気にしないでくれたまえよ。コレはまだ試作型だ。君達は多少の戦力が増える、私はデータを得ることが出来る。双方にとって悪くは無いと思うがどうだろう?」
「そうそう、因みに……あ、もう出発時間?あー、悪いねザック・ヒメタン君。そんな訳だ!チャオ〜☆」

(つまり、この少女を暫くおいてやって欲しいとの事らしい)
(短刀の扱いに長け、弓にも精通。音も無く忍び寄り、体が小さい故に様々な場所に潜り込める)
(――もし、名を問うたのならば)

「-next試作型です。宜しくお願いします」

(一度お辞儀をすると、また素晴らしく綺麗な直立の姿勢で命令を待つ。……新たな変わり者を採用するか否かは、ザック達に委ねられた)

129オスカー ◆v6j.R9Z2OE:2021/03/14(日) 00:50:24
(―――休むこと無く、ペンの走る音が響く)

(そこは聖堂に似た空間だった)
(この世界の教会の、どの建築様式とも異なる内装は、だが根底に近しい何かを感じさせずにはいられない)
(すなわち、祈りを捧げる以外に術を失った者たちを受け入れる、開かれた神の家)
(救いを求める者たちが幽き希望に肩を寄せ合う、迷い子たちの仮初の宿の気配を)

(だが建築様式がどうであれ、そこを聖堂と見做す者は恐らくはいないだろう)

(聖堂様の壁にも、灯りも入らぬ形だけの窓にも)
(大理石にも似た材質の冷たい床の一片に至るまでに)
(ここに集う者たちの妄念が染み付いていた)

(そこは愚者たちが魂を繋ぎ止められた牢獄であり)
(怨嗟と祈りが積み重ねられた墓標であり)
(この世界を拒む客人たちが夢の中に逃げ込むための微睡みの寝所であり)
(狂おしい望郷の念と共に、散っていった同志たちの無念が渦巻く棺桶だった)

(聖堂の中央、棺桶の主がいる)
(自らの郷里の土を踏むことなく、物言わぬ亡者と成り果てた者たちの始祖がいる)

(何故、我々はこの世界に繋ぎ止められなければならないのだ)
(何故、我々は明日を奪われ続け、崩れ去る昨日に怯え続けながら今日を生きなければならないのか)
(何故、我々は我々の国を、空を、大地を望みながら死ぬことすら叶わないのか)

(そう吼えた男が居る)
(その熱を伝え続けた男がいる)
(“帰還”)
(その「熱病」を「広めた」男がいる)


(男の名はオスカー)
(キネマ劇場が幹部の一人)
(「監督(director)」を務める男だった)


(その男は、何かが優れている訳ではなかった)

(昔は殴り合いなど考えることもなかった気弱な男であり)
(拳を握りしめるのは、作品を紡ぎ出す時に鉛筆を握るときくらいだった)
(近所の子供を叱ることも躊躇う、優しい男だった)

(生来、あまり人付き合いの多い男でもなく)
(彼が師に見い出されたのはまったくの偶然と言ってもよかった)
(長じてからも、付き合いのあった人々は、昔あった両手両足の指の数で足りるほどだった)
(今も、自らの手足の指の数で足りるほどの付き合いしかない)
(その両手足が、合わせて4本のままであれば、この男にとって、どれだけよかっただろう)

(世界と子供に、夢を願っている男だった)
(自らの道を定めて職を得、幼い子どもたちに夢を見せるために)
(優しくあたたかな物語を紡ぐことを生業として、未来に想いを馳せる)
(彼はそんな作家だった)

(もう、彼には、そんなものは一欠片も残っていない)
(全て棄てて、歩き続けていた)

(顔を見ずに誰かの体を引き千切ることも厭わず)
(世に闇に蠢き、届かぬ願いを自らの手に引きずり下ろす為に他者を陥れる)
(大人も、子供も。男も、女も。等しく自らの想いを遂げる為の贄でしかない)
(自分の、無数に増えた手とも足ともしれぬ異形の指先)
(その数ほどに泣き叫ぶ魂を置き去りにして)

(それでも、彼は歩き続ける)
(たった一つの願いの為に)

130オスカー ◆v6j.R9Z2OE:2021/03/14(日) 00:51:36
(彼は抗い続けていた)
(人の姿を棄て、人の魂を棄て、人の情を棄て)
(人の眠りを棄て、何もかもを擲って)
(この世界の条理……否、不条理に。理不尽に、抗い続けていた)
(“帰れない”という、その一つの現実を否定する為に)

(その想いが、積み重ねた十数年以上の年月以上の重みを以て、その場所に渦巻いていた)

(ある者は、その異形の背中に望みを見出して胸打たれるという)
(ある者は、その痛ましい姿に目を逸し、悍ましいものとして彼を遠ざけるという)
(ある者は、その姿に殉ずる。せめてこのインバネス姿の男の願いが、報われますようにと)
(この聖堂の真の主、物言わぬ、物言えぬ乙女である一人の女性がそうであるように)


(たった一つの願いを叶えるための狂気と執念)
(それが、その何かに優れているわけでもないただの男)
(ただのチンピラとホームレスに痛めつけられて何度も死にかけた、ただの男を)
(キネマ劇場の幹部にまで押し上げた)

(聖堂の中心。祭壇が本来は鎮座しているべき場所に設えられた剥き出しの書斎)
(その背後、祈りを捧げるべき神の証が鎮座する筈の場所に、十字架や神像に類する祭器の姿はない)
(そこには男の紡ぎ出す犠牲者の頁を編纂し、組織内部に供給する為の複雑な機構が備わっていた)
(見た目としては、パイプオルガンに似ている。だが、複雑な駆動機関が紡ぎ出すのは荘厳な賛美歌などではなく)
(どこか禍々しさを伴って聞こえる無慈悲な歯車と機巧の駆動音だった)

(蒸気駆動なのか。それとも類似の動力を用いているのだろうか)
(機構からは時折、呼吸音のように蒸気にも似た煙が吹き出して、装置の稼働を伝えていた)

(装置の至るところには譜面台のような板が取り付けられ)
(分厚い、羊皮紙にも似た質の紙束がうず高く積み重なる)

(中心に座す男の姿は、正しく異形だ)
(直立した3mほどの黒い蟻。ただ、蟻に似ているだけで蟻そのものではない)
(その姿には、昆虫類に特徴的な巨大な腹部が欠けているからだ)
(蟻の頭部、人の胴体に似た形状の胸部。一際大きな、上体を支える為の巨大な2本の脚部)
(その異形の体躯を隠すように黒いインバネスコートが翻り、頭部には黒いソフト帽)

(そして胸部から無数に伸びる、数多の節足は譜面台に設えられた紙束に向かって)
(休むこと無く、ペンを走らせている。羊皮紙に文字列が綴られ、筆が止まり、執筆が終わった瞬間)
(巨大な機構の幾許もの譜面台の下から小さな小さなアームが伸び、その『リスト』を機構内部へと飲み込んでいく)
(機械内部に飲み込まれた『リスト』の頁は読み取られ、編纂され、電子的、あるいは書面として複製され)
(そうして、真実、組織の者が閲覧できる「名簿」として編纂されていくのだ)

(それは中心に座す男を一つの部品として完成する、異形の情報収集機関にして)
(巨大な「活版印刷機」に他ならなかった)

(男にとって、そこが世界の中心であり、世界の全てであり)
(そして、いずれ“帰る”ための術を探る全てであった)
(あった筈なのだ―――)

131オスカー ◆v6j.R9Z2OE:2021/03/14(日) 00:54:40
(――――少なくとも、2年以上前)

(その重苦しい聖堂にして書斎。編纂室にして活版印刷室に訪れた一人の少女)
(この世界で成人も迎えていない、一人の少女に向き直る為、男は一度、筆を止めた)
(そうして、振り返り、再び節足を譜面台に走らせながら、異形の複眼で少女を見た)


『――――「監督」、オスカーだ』
『“帰還派”の首魁になる』


(男の声は、奇妙なエコーを伴っていた。発声器官が異なるのだろう)
(無理矢理、人間の声を出し、一音一音をつなぎ合わせたかのような酷薄さを感じさせる冷たい声だった)
(男が出迎えたのはキネマが新たに迎え入れた適合者の一人であり、幹部候補生に値する戦闘力を有する剣士だった)

(男の属する派閥は、男が広めた思想の元に団結する“帰還派”と呼ばれる来訪者たちの一派だった)
(来訪者。異なる世界から様々な事情でこの世界を訪れ、そして「帰れなくなった」異邦人たちの総称)
(男は、その来訪者たちの中でも強く、強く故郷への帰還を望むうちの一人であり)
(彼は志を同じくする者たちに呼び掛け、組織に身を寄せる来訪者たちの居場所を作った)

(実績がなかった訳ではない。彼は彼自身が生きた実績だった)
(彼以外の被検体が全て、脳を覆い尽くす圧倒的な情報量により狂死した因子適合試験を潜り抜け)
(その上で、彼はさらに2つの因子の適合を乗り越えてみせたからだ)

(彼に適合している鬼の因子は3つ)
(そのうちの1つはかつて日本に凄まじい災害をもたらした“黄泉十種神宝”の一柱だ)

(派閥の長となるには十分な実績だった)
(そして彼の勢力が、適合者が殆どの組織である一定の影響力を持ち始めるのに、そう時間はかからなかった)
(何より、中心の彼の持つ能力は組織が運営されるにあたって、無視できないほどに強力なものだった)


(この世界の住人ですらない、来訪者たちの集う集団。組織内での警戒は当然の帰結となる)
(故に、彼らの派閥には定期的に組織の別派閥から監視、監査役としての人材が送り込まれてきた)
(その組織のパワーゲームのやりとりに取り合う者は多くない)
(“帰還派”は目的意識がハッキリしている分、組織内の権謀術数については興味がない者が殆どだったからだ)

(だが首魁ともなると、派閥の長ともなるとそうはいかない)
(男にとって世界の中心、世界の全てであった筈の場所から、彼は、「外」への対応を否応無しに迫られた)
(致し方ない。彼が始めた、彼の始めた物語であり大望だった)
(彼らの望みは、彼らだけで叶えるにはあまりにも大きすぎた)

(彼らは仕方なく、必要にかられて、組織との繋がりを維持し、各派閥との連携を続けてきた)
(全ては“故郷への帰還”の為に。ただそれだけの望みのために)

(監査と言われれば持てる情報で出せるものは全て供出し、必要であれば派閥の人材を別の派閥に派遣し)
(自らの望み、帰還を阻もうとする者があれば脅し、突き返し。謀ろうとする者たちには牙を剥いた)

(十数年。そんなことを続けていれば、どうしても生まれてくる)
(人と人との繋がりが。組織の中での繋がりが)

(その姿は、正しく異形だ)
(少女を見つめる複眼は、昆虫が苦手な者にとってじゃ生理的な嫌悪感を催さずにはいられないだろう)
(感情を浮かべる表情筋などは皆無だ。冷たい外骨格の頭部には人間らしい表情など望むべくもない)
(人外の発声は感情の発露を感じさせない、冷たい単語の羅列としか聞こえず)
(組織で、彼と彼の派閥を評する声は概ね「血も涙もない帰還狂いの化け物共」という評価で統一されていた)

(だが。その少女――エマをこの派閥に紹介した、派閥と古馴染みの男はこう言った)
(「そう、悪いヤツじゃないんだよ。ただ、哀しいだけだ」と)


『事情は聞いている』
『――望みは薄いが、僕の「シンドラーのリスト」が少しは役に立てることもあるだろう』


(『シンドラーのリスト』)
(キネマという、地獄の劇場に招かれる為の招待者を綴り重ねたリスト)
(男が、自らの欲望の為に、人生を、悲哀を、そして能力と隠された秘密を余す所無く綴った地獄の人別帖)
(事前にエマへと詳細を知らされていたその、彼の贖い切れない罪が記された告解の石版を)

(眠り姫が目覚める為の手段として。彼女が眠り続ける秘密を明かす為の一つの道標として)
(ごく自然に、その男は示してみせた)

『祈るといい、君の信じるものに』
『なければ、抗うといい』
『祈る神すら遠い、僕たちのように』

(――それが、後に幹部へと上り詰める少女エマと、オスカーとの出会いだった)

132エマ ◆ZiOG0lyEZs:2021/03/17(水) 15:06:22
>>129-131
(私達の命は、そこで終わるはずだった。個人にとっては極めて不幸な、ただ、世界を見渡せば酷くありふれた理由で)

(自然公園に避難命令の放送が響く。異界に飲まれたスピーカーは、すぐにノイズだらけになり、たちまち機能を停止した)
(公園の奥にある展望デッキには、私と彼女、それからもう二人がきていた。私達はデートに、その二人は、取引のために)
(そんなところを獣のような鬼に襲われ、一人は一瞬で物言わぬ肉塊になり、もう一人も片腕を失い血みどろ)
(鬼は腹ペコだったのか、最初に仕留めた獲物を食べるのに気を取られた。負傷したそいつは、私達の隠れ場所に来た)

『……これを使えば、適合者になれる……』
(そいつは、左手で不器用にアタッシュケースを開く)
(それは、即死したもう一人が買うはずのものだった、アンプルが二つ)
(鬼の因子を込めたアンプル。麻薬同様の扱いで、買うな使うなと広報されている、危険な代物)
(学校であれこれ言われても、縁なんてないと思っていたそれが、そこにあった)

『知ってるだろうが、ご禁制品だ。勝てるとも限らない、副作用もありえる、それでも三人でオダブツするくらいなら……賭けちゃくれないか?』
(私も、彼女も、濃厚な血の臭いと、異界に蝕まれる息苦しさで、このままだと死に至ることを身を持って感じていた)
(互いに、向き合って、頷く。それぞれにアンプルを手にする。きっと大丈夫。二人で生き延びよう。そう誓って)
(そして、その瞬間、私と彼女の運命は分かたれた)




(“バケモノだよ。見た目もだがそっちじゃない、機械みたいなバケモノ”……オスカーについて語られた構成員の言葉を、私は目で見て理解した)

幹部候補生、“花咲ける騎士道”、エマ。本日よりあなたの指揮下に就きます。
(端的な挨拶に感情は見受けられない。薄く、冷たく、ただ昆虫のように、駒が一つ加わった事実だけを認識したかのよう)
(動き続ける節足のため、やり取りも片手間で、機械のように蠢き続ける。それは、有機質の見た目をしながら、まるで無機物のように気味が悪く思えて)
(直後、加えられた言葉に、覆される)

……痛み入ります。
(“哀しいだけ”……オスカーと馴染みの男がの言葉の意味を、心で理解した)
(人は泣き、笑い、浮き沈む動きを感情だと認識する。ただ、このオスカーは、強すぎる感情が、存在と常の行動を形作っているのだろう。感情が強く振り切れたままい続けているのだ)
(声音にも表情にも表せないキチン質の体が、さらにその理解を妨げる)
(そして、改めて、バケモノだった。休むことなくその激情を燃やし続け、動き続けている、その精神力が、人外の強さだった)


それでは……情け深い上司の、その腕に祈りましょう
(彼の悲願が叶うまでは、意味ある神託を綴り続けるその腕は、神や仏より確かなもので)
(膝を付き、手を組んで)

祈りを託した分は、この剣を、あなたの願いのために役立ててください
(立ち上がって、深く礼をする。恐ろしいまでに強い心に、感服と敬意、信頼を示す)
(彼の剣となれることを、誉れだと感じられた)

133オスカー ◆v6j.R9Z2OE:2021/03/20(土) 08:47:33
>>132
(年の頃は十五に届くか届かないか、と聞いていた)
(意図せずに手に入れた適合者の力。変貌を続ける日常の裏に潜むもうひとつの世界)
(陽の当たる場所を歩んでいれば、一生交わることのない社会の闇を覗き込んだ少女)

(決して、望んで足を踏み入れたわけではなかった筈だ)
(だが彼女には守りたい人が居た。守るべき大事な日常の絆があった)
(彼女は生き延びた。そして、彼女の大切な「誰か」は、目覚めなかった)

(この世界の十五歳や、それよりも年下の少年少女たちは、オスカーから見て幼い)
(明日を夢見て、自分の行く道を悩み、未来に想いを馳せる、そんな年頃だ)
(彼の世界では既に成人に近い年齢で彼自身も師の徒弟として作家の道を歩んでいた)
(それだけ社会が成熟している証拠なのだろう。この世界は子供の未来を守る仕組みが出来ていた)
(そこから理不尽に蹴り落とされて、少し。彼女はもう、組織に馴染み始めている)

(あるいは、組織と水が合っていたのかもしれない)
(彼女の所作には淀みがなかった。戦士の振る舞いだった)
(挙措は風雅と評するにはまだ若々しく眩しい。だが清淑たると評するには足る風格がある)
(幹部候補生に名が挙がるのも納得出来るだけの逸材だった)

(もう少し若ければ。もう少し早く、今の彼女と出会っていれば)
(未練がましい過去の亡霊をまだ見ていた頃の男なら、彼女が舞台に立つ姿を夢想したかもしれない)
(動きに華がある者を見た時に沸き起こる、かつての生業の残滓だった)

(才と、それを支えるに足る強い信念と想いがあるのか)

(それを問うことはすまい。それは問うものではない。答えを告げられるものではない。おのずと語られるものだ)
(為すことで推し量るものだ。その先を語られるのは、彼女が為すことを見てからでもいい)
(だが――そうした気風を纏う者を、彼は慮らずにはいられない)
(表情の伺えない黒衣と黒殻の怪人は、物言わぬ面映えの男は、最後の最後で人間性を棄てられずにいた)

『―――――』

(跪拝を受ける男の表情は元より変わらない。何某かの言葉を発することもない)
(ただ向けられる、己を仰ぎ、敬する若い志の徒を冷たい複眼が静かに見据える)

(祈りを向ける声、捧げる心に「やめろ」と言えれば、どれだけよかっただろう)
(自分はそんな大層なものではない。そう叫びたくなる時がある)
(現に十数年、誰も彼もを地獄に叩き落としながら、己の帰郷を叶えられずにいるではないか)
(自分は飢えた無様な負け犬なのだと、己を呪いながら筆を走らせている心の裡がどうしても消えてはくれない)

(託された物の重さに、堅い心と体が軋む。誰も彼もが生き残る彼に託す)
(「君は願いを叶えろ」と。最期に言い残して、叶わぬ望みを彼に託す)
(この、億を超える砂粒の中から一粒のガラスを探す為の作業に願いを込める)
(「いつか」と言いながら、その訪れぬ「いつか」に心が折れて諦め、別の願いを見つけて去っていく)

(人らしい姿も、人らしい生き方も。人の情も、涙も眠りも全て擲ってきた)
(己の中にたった一つだけの願いを込めて、叫び、歩き続けてきた)


『わかった』

(だから)
(せめて同じ地獄に踏み込んだ者たちが投げ掛けるものだけは、擲つことなく背負おう)
(いつか叶う願いの日に、その時まで積み上げた犠牲と想いを無駄にしない為に)

(「帰還狂いの化け物」と呼ばれた男は、己を打つ運命の過酷さに精一杯、花開いて抗おうとする若き剣士の言葉に)
(短い返答を返した。己を称え、慕う言葉に、常と変わらぬ冷たい――鋼そのものの堅く強固な声で)



『――だが見ての通り、僕は忙しい』
『君への細かい指示や作戦指揮は彼女が担当する』

『エリー、後は任せる』

(重苦しい応答とその余韻。それらをしっかりと踏まえた間をとった後、怪物は空いた節足を二本広げ)
(両腕を広げて自らを見せる仕草をした後、聖堂の闇に言葉を放つ)
(下知を受け、舞台袖から「了解」と静かな声で姿を現したのは、白髪の女性だった)

(身長は155センチ程度)
(服装はゆったりしたカジュアルなもので、黒のニット・セーターにジーンズとラフなものだ)
(足運びや身のこなしから、戦闘訓練をしっかりと積んできたことが伺える)
(一見して、白髪であること以外は普通の人間にしか見えない)

こんにちは、お嬢さん
私はエリー、キネマではそう呼ばれているわ
(年の頃は、容姿を見れば20代の、若々しい姿で、彼女が若いらしい、ということは伺える)
(伺えるが……彼女の纏う空気が、彼女を年齢通りに見させてはくれない)
(30、失礼だが40代と言われても納得するだけの老成が彼女からは漂う)
(あるいは、それは拭いきれない諦観や疲れともとれたかもしれない)

これでも異世界人なの
よろしくね、エマ
(にこやかに手を伸ばし、握手を求める女性とエマ)
(二人を一度ずつ、交互に見遣った男は、冷たい声音にどこか)
(言いしれぬ哀しみと、他人へと伝播する己の熱を込めて、常より少し重く、エマへと告げた)


『エマ』
『君に働きに期待する』


(――その言葉に込められた真意は、程なく、明らかとなる)

134エリー ◆v6j.R9Z2OE:2021/03/20(土) 08:48:51
>>132

(平山・真白)


(その名前が明かされたのは、エマが“帰還派”へと派遣され、少し経った頃になるだろう)
(エマが、一つ一つ。“帰還派”へと課された任務をこなし、実績を積んで)
(彼女とオスカー、その二人から信頼を勝ち得ていくたびに、その白い女性の来歴が明らかになっていく)


(エマに当初、課されたのは単純な戦闘任務だ)
(世に蔓延る鬼を狩り、その因子を持ち帰る)
(時代はようやく、占部姉弟の異界予報の精度が上がり始めた頃)
(日常的に行われる予報の精度が上がり、その予報を元に)
(キネマでも行われている予報と照らし合わせ、治安機関の介入の少ない地域)

(国連軍と駐屯地、零課の守備範囲から遠い地方の田舎での鬼狩りは)
(むしろその空所を狙うフリーランス、あるいはその地域を縄張りとするヤクザ)
(日本の国土に飛び地の拠点が欲しい、主に中国が占める大陸系の工作員との戦闘が主となる)

(下級構成員を率いての鬼狩りやフリーランス、ヤクザの排除は本来は結構な難易度だ)
(戦闘力2の「経立」程度であっても、山岳地形で襲われれば脅威度は高く)
(フリーランスで生計を立てられる適合者や来訪者の実力は高い、撃退はより困難を極める)
(脅威度の低い鬼を倒せるからこそ生き残れる面々なのだから)
(さらにヤクザともなれば、荒事専門の人間が出張ってくることもある)
(それらは武装した下級構成員には荷が重い相手となる)

(だが、高くとも戦闘力は5程度の相手だ)
(戦闘力6、幹部候補生の実力の前には物の数ではなかった)
(多少の能力の過多など、スペックで叩きのめせる)

(目覚ましいエマの活躍と共に、組織内での名声と信頼は高まり)
(大切な恋人を目覚めさせるという願いを秘めた少女の前に)
(平山・真白という女性の実態が、彼女自身の口から語られていく)


私がこの世界に来たのはね、もう8年も前になるかな
……私、いくつに見える? 30? 40かな?

気にしなくていいよ、老けてみえるのは自覚があるから
今はね、23歳

そ、この世界に来たときはね、君とよく似た年頃
15歳のときだった
(エマからの報告を受け、戦勝へのねぎらいに、と連れられた組織内のバーで)
(静かにウイスキーのグラスを傾けるのは、「元少女」の独白だった)

ひどかったな
あのクソザル、そう、「経立」
私が異世界転移をしたところは、他の人が襲われてる真っ最中の場所でね

そこで私もめでたく、「女の子」は卒業
ここに拾われてなかったら、きっとあのエテ公のお腹の中だった

逃げる逃げないの話じゃないよ
私、この世界に転移する原因は交通事故だったんだ
トラックに撥ねられた直後だったの、笑っちゃうよね

そんなわけのわからない状態で、オランウータンの化け物に襲われたんだから
逃げられるわけないよ、異世界ガチャ、外しちゃったな
(穏やかに笑って過去を語る、あまり裏社会の組織には似つかわしくない「元少女」)
(その姿はありえたかもしれないエマという少女のifであり)
(そして)

……そこから8年か
気づけば、もうお酒も煙草も出来る歳になっちゃったな
(エマという少女の歩む、残酷な未来の姿の一つに他ならなかった)

135エリー ◆v6j.R9Z2OE:2021/03/20(土) 08:51:50
>>132
(任務で信頼と実績を重ねていくエマに許された次の任務は)
(“帰還派”の内情に幾許か関わる、派閥の資金源に関わる任務だった)

(「リンク」)
(1986年制作の、サルによるアニマルホラー映画)
(その名前が何故、彼女につけられたのか)

(答えはあまりにも皮肉なものだった)
(「経立」によって適合者へと覚醒した彼女に与えられた能力は、憎んでも憎みきれない)
(嫌悪しても飽き足らない「経立」への変身能力だった)
(同一の能力は既に症例がある程度確認されているメジャーなものだ)

(彼女はエマへと語る)
(“帰還派”の収入源の一つは、裏社会で一般的に出回っている非合法薬物)
(『モンキーエナジー』と呼ばれる興奮剤、その精製と売買によるものだと)

(平山が身を寄せ、そしてエマという少女が身を寄せる組織の、明確な非合法性に関わる暗部)
(それを明らかにしながら、小柄な、元内気な少女は、自身が暴走した際の立会人)
(そして、「麻薬の資金源」である彼女の護衛としてエマを選び)
(学閥派のラボ、実験室の前で衣服を脱ぎ、美しく哀しい裸身をさらしながら首筋に無針注射器を突き立てる)


ひどい話だよね
……ひどい話だよ、ホント
(容姿から10年、あるいは20年、老成して見える秘密がそれだった)
(そして鬼の因子に適合する、というのがどういう悲劇を生むのか)

(――眠り続ける少女の目覚めが帰結するかもしれない可能性の一つ)

(それを示しながら、自分の運命を受け入れた異世界人は彼女が最も忌み嫌う化け物の牡へと姿を変えた)
(獣欲と情欲に猛り狂い、供された実験体の女性を2メートルの長身で覆い隠して、言葉通り、サルになって腰を振る)
(あるいは拘束器具に己を拘束させ、ただビーカーや試験器具に精液を吐き出すだけの経済動物)
(牛や豚、屠殺されて肉を加工されるだけの食肉動物よりも下の、麻薬の種を搾り取るだけの生き物と成り果てた姿を)
(彼女は臆することなく、エマへと晒してみせた)

(それらを晒し終えた後、やはり、平山はエマを酒に誘う)
(いつもと変わることなく、彼女と酒盃と、時を共にする)


……この世界なんて、どうなってもいいと思うよ
昔よりも、ずっと

もう8年、ああいうことしてるからね
明日、この世界が滅びてくれるなら大喜びで秘蔵のお酒、あけちゃうと思うな

でもね、そうしないとやっていけないから
……帰れないから、それならやるしかないよね、って思いながら、仕事してるな
少し意趣返しの意味もあるかな、この世界をめちゃくちゃにしたい気持ちは正直あるよ

そりゃ、辛いよ
イヤになるし、自殺未遂も何度か
私のかもしれない麻薬でボロボロになった人がキネマに運ばれてきたこともあった
殺されそうになったこともあるかな

まあ、自業自得だよね
私にとっては異世界でも、君たちにとってはこの世界が自分の故郷だもの
その世界をしっちゃかめっちゃかにされて怒るのは当たり前だよね
自分が畜生だっていう自覚も、もちろんあるよ

(「それでも」と)
(8年、少女から女性になり、異世界から転移し、願いを抱いたときから8年の年月を経ても)
(棄てきれぬ願いを抱えたままの「元少女」は告げた)


それでも、帰りたいんだ
好きな子がいるの
君と同じで、女の子なんだ

136平山・真白 ◆v6j.R9Z2OE:2021/03/20(土) 08:54:04
>>132
(朴訥な語り口だった)
(そのときだけは、30代にも40代にも見える、まだ20代の少女は)
(15歳の頃に還って、思い出を語る)

私、昔は、ちょっと根暗な子でね
内気で読書好きな……今だと陰キャっていうのかな?

そんな子だった
だからいじめられて、家庭にも居場所がなくて
死のうかな、って思って

そんなとき、早美ちゃんに助けてもらったの
久藤・早美ちゃん

あんなに、誰かに優しくしてもらったことなんてないよ

お父さんもお母さんも、泣くときは私を叱る時だけだった

でも、早美ちゃんはそうじゃなかった
死のうとした私のために泣いてくれた

居場所のない私の、帰るところになってくれたの
早美ちゃんが、私の世界のすべてだった

(もうその頃とは何もかも変わってしまった)
(身長が伸びて、化け物に変わって)
(辛いときは酒に逃げて、煙草で自分を誤魔化す)
(同性の少女に未だに恋い焦がれながら、同性を牡になって犯す)
(そんな大人になってしまった)

(平山の横顔は、そう語っていた)


……早美ちゃんにね
帰って、「あなたのことが好きです」って、言いたいんだ
言えないまま、こっちに来ちゃったから


だからまあ、お姉さんはさ
君みたいな子の味方なんだよ

応援してるよ、君のこと
大事な人に、また逢えるといいね
(「がんばりなよ」)
(そう締めくくって、彼女は隣の少女に微笑んでみせた)


――それにね、この世界は最悪だけど、悪いことばかりじゃなかった


君、私の悪い噂はキネマで聞かなかったでしょ?
あんなことしてるのにね

私が、ああいう仕事に手を染め始めた頃にね
学閥派のラボで私のことを「サル」って吐き捨てた人が居たんだよ

その次の仕事の時にね
オスカーがラボまで付き添いに来て、仕事を見てたの
前回と同じく、「サル」だって私のことを言った人は、真っ二つになった

私は仕事中だから、その光景は見られなかったけど
生きたまま、力任せに正中線で引き千切られて死んだんだって

それから、私は「リンク」の一人なのに少なくとも聞こえるところでは何も言われなくなった


君のことを調べた上で、教育係を私に決めたのは彼
いじめられてても助けてくれない大人ばかりじゃないんだって、少しは判ったから
悪いことばかりじゃ、なかったよ

(いつか、辿り着くかもしれない結末。叶わぬ望みを抱えたまま、年月を重ねていく姿)
(残酷な未来が待ち受けているかもしれない可能性)
(華やかな舞台だけではない、どす黒い裏側と、世界の残酷さと理不尽さを知らしめた上で)

(『君の働きに期待する』と)
(『折れることなく戦い続けろ』と、そう、直截には言わずに告げた男と)
(彼が選んだ元少女との日々は、そうして過ぎていき――やがて、現在から2年前へと至る)

137 ◆v6j.R9Z2OE:2021/03/20(土) 09:35:16
平山、もう死んでるってよ(現在時間軸では)

>>339
というわけで、お待たせしました……!

“帰還派”の資金源かつ、この世界で一般的な麻薬というか興奮剤というか
バイアグラ的なものを一つこさえた上での新キャラ投入
そして、ロールの返信をさせていただきました!

4分割で恐縮なんですが、「キネマで普段なにやってるのかなー」
「ファルスハーツ的な悪役の人、普段何して過ごしてるのかなー」
という風景の参考になれば幸いです

来訪者らしい資金稼ぎについては、一つ思いついたんですが
今回入れるには尺をとりすぎなのでカットいたしました

オスカーとのロールなのにオスカーが全然出てきませんが
平山さんとも絆が深まったところで、次の返信で双子拉致計画の話を切り出す流れになるかな、と

138平山・真白 ◆v6j.R9Z2OE:2021/04/03(土) 10:30:49
>>132
【本来ならロールオンリーで使用すべきなんだろうけど、2週間経過したから伝言させてもらうね】
【すごく忙しい時期にロールをお願いしてしまったか、あるいはこちらのロールの力不足か】
【どちらにせよ、返信が難しい状況になってしまって、ごめんね】

【あと1週間待って返事がなければ、一旦、ロールはキャンセルさせてもらえるかな】
【重ねて返事が難しいロールをしてしまったか、返信の難しい時期にロールをお願いしてしまってごめんね】
【もちろん、返信が難しそうなら、今すぐキャンセルでもかまわないから】
【本当にごめんね】

139平山・真白 ◆v6j.R9Z2OE:2021/04/10(土) 23:46:09
>>132
【もう一度だけ、伝言に使わせて貰うね】

【返信が難しいか、とても忙しい時期にロールを申し込んでしまって、ごめんね】
【宣言通り、1週間経過したから、エマちゃんとのロールはキャンセルさせて貰うね】

【色々と至らなくて、本当にごめん】
【今回は巡り合わせが悪かっただけだと思うから、また手が空いたときにでも】
【スレ主さんのスレには顔を出してね】
【それじゃ、どうか元気で】

140 ◆BpYjFWEe7.:2021/05/13(木) 22:40:06
(――時刻は正午。普段は人々の活気で溢れるこの港町に建つショッピングモールも今や地獄と化していた)
(一帯を全て覆う程の異界が発生。異界の特性は人間の生気を奪うといった単純な物ではあったが、長居すればそれすらも脅威となり得る)
(悲鳴、怒号、断末魔。異界の主たる巨大な蜘蛛型の鬼を中心にそれらが広がっているのだから、離れた場所からでもその状況は理解出来よう)
(蜘蛛の大きさは凡そ中型のトラック程。逃げ遅れ、腰を抜かしていた男性が、たった一本の脚でいとも簡単に――原型を僅かに留める程度の肉塊となったのだから重量も外見相応か)
(更には各国で人気の氷菓を集めたイベントが重なって居た事も不味かった。親子連れに他県から訪れた者。この建物内はいつも以上に賑やかで、それ故に被害も大きくなる)
(イベント会場となっていた場所に異界の主が足を運び、本能のままに破壊と殺戮の限りを行う――その、刹那)

――あー……もう。面白いコトでもあるかと思って来てみれば、まーた虫だよ……
喋れねェし単純だし、今回も外れか……
(小柄な影が上階から飛び降り、巨大な得物を横薙ぎにして左側面の脚4本を纏めて切断。体勢が崩れるものの、ついさっきまで絶対的な強者と思っていた鬼には何が起きているのか理解も出来ず)
(対してその影は――緑色の体液が降り注ぎ、悲鳴とも咆哮とも取れる鬼の叫びを無視して頭胸部と腹部の境目たる括れを切断するかの如く、今度は得物を……巨大な鎌を、振り上げる)
(死神を思わせる様なその大鎌は人間が持つには余りにも巨大で非効率。それを易々と振り回すその人物もまた、普通ではない)
(蜘蛛が漸く状況を理解する。然れど、胴が二つに割れて止めどなく体液が溢れている状態で理解したところで何が出来よう)
(既に反撃の力は無い。この異界による特性も“鬼”が相手であれば意味を為さない)
(残った4本の脚が床を掻き、必死に逃げようとするもその動作は苦痛を長引かせるだけだ。かしゃかしゃ、かしゃかしゃ。束の間の絶対王者が立てる情けない音)
(――複眼が退屈そうに大鎌を振り下ろす少女の姿を捉える。それが、この鬼の見た最後の光景であった)
(異界発生時間十数分。異界による建物及び食料品への被害無し。人的被害不明)

ッたく!人間共が多い場所に何か出てきたと思えば小粒小粒小粒!ぜーんぶ雑魚ばっかじゃねーか!
オレが同族の中で最強だって決まってるのは当然だけど――だからって張り合い無さすぎんだろ!
あー、もう!ムシャクシャする!!いっそ此処の物全部ぶっ壊せば少しは気が晴れ――……
(鬼を瞬く間に片付けたのも、また別な鬼であった。但し、今度は少女の形をした姿だ)
(漆黒のローブを纏い、目深くフードを被った姿。身長は140前後。大鎌は少女よりも大きいのだから、恐らくは150cm程はあるだろうか)
(蜘蛛の頭部目掛けて振り下ろした故に床に深く突き刺さった切っ先を引き抜き、腹いせとばかりにその頭を思いっ切り蹴り飛ばそうとして――結果、力が強すぎて破裂する)
(『ワールド愛すフェスティバル!〜売り上げの一部は異界災害復興に寄付されます〜』そんな大きな幕が下げられ、煌びやかであった会場も今や緑色の血があちらこちらに飛散し)
(アイスが保存されているカート群も例外無く汚し……異界発生直前に誰かが購入したのだろう。ミント系のアイスなんて、蓋が開いたままであったが故に悲惨な事になっていた)
(更には……べちゃり、と。少女の蹴りで四散した肉片の一部がチョコミントのケース内にトッピングされることになる。まあ、具体的な表現は避けるが少なくとも食べ物では無くなった状態である)

――る訳、無いよなぁ。反撃も何もして来ないし。
はぁ……取り敢えずもうどっか行くかなァ……人間殺すのも飽きたし……
(異界の発生か、人々の悲鳴か――或いは、催しに釣られてか。何であれ、この場に関心を寄せる要因は数多くある)
(若しくは、既にその場に居たものの大鎌を携えている少女が気付いていなかった可能性も考えられるか)
(何であれ……もし新たに何者かの存在が生じれば、この鬼の興味を引くには十分であろうか)

141ウエハースメザー ◆k1072NP5UU:2021/05/18(火) 00:12:33
>>140
(ウエハースメザー・パシフィックが、人間という存在に対して持つ印象はただひとつである)
(この鬼は、生まれてまだ数ヵ月しか経っていない。海の中で意識を覚醒し、潮流に揉まれて自我を形成した)
(なのでもちろん、地上にいるひとつの種族のことを深く学ぶ時間などなかったが、それでも知っていることはあった)
(ヒトという生物は、塩水のない陸地に広く繁栄する、ウエハースメザー自身によく似た姿の生物であり)
(ウエハースメザーのものであるべき世界で増えまくってエラそーな顔をしている、クソ邪魔で不快な害虫であった)

(陸上はいずれ、自分によって征服されねばならないと彼女は思っている)
(そのために邪魔な陸生生物は、一匹残らず駆逐しなければならないと彼女は決意している)
(もちろん、倒さねばならない相手の数の膨大さは、理解しているつもりだ)
(しかしそれでも、やらねばならないと感じているし、自分にはそれができるだけの力があると確信してもいる)
(ならば、やらねばなるまい。――彼女はやる気に満ちており、行動力も並外れていた)
(暗い海の水の中から、ざばりと身を起こし、砂浜を踏みしめ、人々の暮らす街々へ向かい)
(自らの手足であり兄弟であり信奉者である眷属たちと、生きとし生けるものを無差別に殺しにかかる)
(それが、彼女が目覚めてから今日まで、一日たりとも欠かしていない日課であった)
(濡れた足で、整備されたコンクリートの地面を踏みしめながら考える――今日は何人殺せるだろうか)
(今、目の前には、カラフルな壁面に堂々たる企業のロゴマークを掲げた、横に広い巨大な建物があった)
(それはショッピングモールと呼ばれている施設で、大規模な商業活動の場として利用されていることを彼女は知っていた)
(つまり、ヒトが大勢集まる場所で。ひとつ発見できたら、一気に大量に殺せる可能性があるボーナスステージというわけ)
(……なのだが)
(ウエハースメザーは、その入り口のそばにじっと立って、深い緑色の目を訝しげに細めていた)

んー? ……ん、ん、んんー。なんぞこれ。……しーんとしてない? してるよね。
おかしいなぁ。これまでに襲った『しょっぴんぐもぉる』って、遠くからでもわかるぐらいガヤガヤしてたのに。
ヒトいるのこれ? いなかったりしない? 静か過ぎる。妙だよね、妙。
『てーきゅーび』ってやつ? ……いや、違うなぁ……こういうデカい施設は、年中無休だってホタテ貝が言ってた。
おかしい。おかしいわ……今までない感じがしてるわ、ここ。
無抵抗なやつらを殺し放題で、美味しい加工食を食べ放題な『しょっぴんぐもぉる』とは違う気配を感じる。

(ざりり、と音を立てて腕組みし、赤く輝く髪を軽く振って、静寂に包まれた真昼の商業施設を見上げる)
(若い人間女性の姿をしている彼女だが、その精神性は野生の肉食獣に近い)
(自然な殺意と慎重さを併せ持っていて、さらに「自分は世界一の強者である」というプライドも持っている)
(敵を倒すという作業は、一方的なものでなければならないと思っているし、獲物を諦めることは屈辱だと思っている)
(なので、目の前の建物の異常さを肌で感じ取りつつ、背中を向けて立ち去るという選択肢を喪失し、思案していた)
(何が起きていようと、中に入ることは確定。それでいて、強者として余裕たっぷりにふるまうには、どうすればいいか)
(情報が必要だ、と、ウエハースメザーは結論した)

……ふむ、よし。ローカルフォース。アスレチックレビー。ピンクスイッチ。ボンブ。ペーパーエール。
ランドコード。シープスグラス。フードマンマイヤー。スプラバッグ。デザー。プレグニ。コインジョック。
スパゲッティン。アウトフラー。ジュエルプラグ。チェアフラグナー。モ。コーストコールト。ガムシャイン。
あんたたち、私に先んじて、中をちょっと見てらっしゃい。
人間がいるようだったら、てきとーに殺しといて。いなかったら、食べ物があるところを探して報告ね。
ぱっと見でわかる異常があったら、それも教えなさい。――はい、レッツゴー。

(ウエハースメザーの後ろからぞろぞろと着いてきていた、無数の眷属……手のひらサイズの、レンガ色のカニ……が)
(あるじからの命令を受けて、まるで専門の訓練を受けた軍隊のように、ざっざ、ざっざと建物の中に乗り込んでいく)
(集団である彼らは、広範囲の情報収集、そして一般人に対する虐殺という仕事に関して、非常に適していた)

『ひろいひろい。このおみせ、だいぶ中身、ぼろぼろ』『ひと、いない。いないというか、死体だらけ?』
『ごしゅじんさま、いっぱいひと死んでる。うずくまって、くるしそうにして、死んでる』
『こっち、つぶれて死んでるひとはっけーん。血だらけ。ないぞうでてる』『あ、生きてるひといたー。ころしとくね』

(カニたちは手分けして行動し、それぞれが見た情報をウエハースメザーに伝えていく)
(ぼろぼろになった建物の内部。衰弱して死んでいる人々。たまに、明確に暴力的に殺害された死体もある)
(ウエハースメザーは比較的愚かであるが、それでも、この場所が他の鬼に襲撃されたのだということは察せられた)
(しかし、その次にもたらされた情報には、少なからず混乱させられることになった)

『あ、でっかいクモさん死んでる。カラダばらばらになって死んでる』『すごいみどりいろ。ミントのアイスみつけた!』
『たってるひとみつけたー。おんなのこ。げんきそう!』『でっかいおれまがったはものもってる! おもそう!』

ん、ん、ん、んー……?

(メザーは考える。でかくて死んでる蜘蛛。立っている刃物持ちの人間。何が起きた? 鬼はどちらだ?)
(冷静に考えて、蜘蛛が鬼だ。そして、立っている人間は、その鬼を退治したやつだということだろう)
(となると……「となると、この建物で起きた異常は、もう解決してるってことになるわけかしらね」)
(「鬼による虐殺があって『しょっぴんぐもぉる』は静かになった。その鬼も倒されて、鬼退治が最後に残った」)
(「うるさい人間どもが死にまくったのはイイ気味だけど……今、建物に入ったら、私が鬼退治と遭遇することになる」)
(「ん、別に怖くはないけど……楽ができるならしたいわね……プレグニがミントアイス見つけたって言ってるし」)
(「よし、みんな。その立ってる人間、寄ってたかってぶち殺しちゃって」)
(「一応、鬼を殺せる実力はあるみたいだから、油断せずに……なるべく近寄らないように、削り殺すのよ!」)

『『『『『りょうかーい、ぼすー』』』』』

(あるじの指示を受けたカニたちが、かさかさ、かさかさと音を立てて、死神風の格好をした少女へと接近する)
(左右のハサミをフリフリしながら、5メートルほどの距離を保って、数十匹が少女を取り囲んだかと思うと)

(――ドゴン!――)

(という鈍い音が、突如、地面を揺るがした)
(少女を中心に、集中線を引いたかのように、モールの床に深いひび割れが生じている)
(それが、少女やカニたちを囲む壁や柱にまで、びきびき、びきびきと音を立てつつ、あっという間に広がって――)
(半径10メートルほどの範囲限定ではあるが、建物を構成する要素のほとんどが、ほんの2、3秒で破砕)
(太い石の柱や、鉄骨を含んだ重い瓦礫などが、集中線の中心にいる少女に向かって、倒れ込むように崩落し始める……!)

【お待たせー! こちらこんな感じで、早速だけどケンカ売らせてもらったわ!】
【私は今、モールの外。あなたとはそれなりに離れた位置にいるけど、アイス食いたいから徐々に近づいていくつもり】
【眷属たちの攻撃をかわし、眷属たちを倒しながら、本体である私に攻撃を届かせることができるかしら!?】
【そんな、遠隔攻撃型スタンドに襲われたジョジョの主人公みたいな窮地を、ぜひ楽しんで欲しい……!】

142 ◆BpYjFWEe7.:2021/05/19(水) 20:35:16
>>141
(鬼という同族であっても所詮蜘蛛は蜘蛛。ヒリヒリと生きている事を実感できるような、血肉を滾らせるような命の遣り取りは出来なかった)
(完全に持て余した闘志に行き場も無く、また一つ舌打ちをすれば新たにこの後のプランを練ってみる)
(此処で待って居れば、人間共の中で鬼を狩る任務を与えられた者達がその内来るだろうけど――自分が興味あるのは鬼同士で優劣を競い合うことだ)
(そんなのを相手にして生き残った所で、鬼としての格付けが上がる事は無い。……と、少なくともこの死神は考えていて)
(どこぞの適当な異界でも見つけ出して殴り込みにでも行こうか。それとも帰って不貞寝でもしてしまおうか)
(――そんな事を考えていた時の事だった)

……あァ?何だコイツ等。……さっきの蜘蛛の子供か何かか?
一生懸命仇討ちのつもりか何か知らねーけど、こんなチビを踏み付けた所で暇潰しにもならないしなァ……
やっぱり帰って寝るか。完全に時間の無駄だっt――ッ!?
(何処からともなく現れ、辺りを囲み始めた蟹には早々に気付いていた。が、だからと言って何か行動に移すことは無く)
(どうせ先ほど殺した鬼の眷属なり子供なりであろうと考えたのだろう。何だか見た目も少し似ているし)
(一瞥しただけで興味も失せ、もう帰るかと歩みを進めたその瞬間……漸く、違和感に気付く)
(この音はなんだ?振動はなんだ?いや、幾度も聞き覚えのある音だが……何故、今此処で?)
(あの蜘蛛は建物が倒壊する程暴れる前に始末した。――人間共の部隊到着には早すぎるし、今までの経験からこんな小規模な崩壊を起こす奴らは居ない筈だ)
(――小規模な崩壊?つまり、これは自分を狙った攻撃か。それ、なら――……)

(蟹達の狙い通り、崩落したそれらは完全にその死神を捉えていた。総重量にしたら一体どれ程の瓦礫だろうか?)
(……ただ、瓦礫が落ちる数舜前。その少女が浮かべたのは笑みであった)
(驚きでも絶望でも無い。口角を吊り上げ、犬歯を覗かせ――実に楽しそうな表情。それも、一瞬で下敷きとなったのだが)
(死んだ筈だ。少なくとも、人間であれば。……だが、瓦礫の間から僅かにでも流れ出る筈の血が一筋も見当たらない)
(呻きも、命乞いの言葉さえも、だ。……僅かに瓦礫の下から音は聞こえるか。まるで石を擦り合わせる様な、ギリギリとした音)
(そして、数秒後。小さな山の頂上に乗っていた石柱が、転がり落ち……代わりに、細腕が突き出され)

ハハハハハハハッッ!!悪くない、嗚呼、思ったよりも悪くない!!
やっと久し振りに楽しめそうな気がする……!
(中から這い出てきたのは、先ほど潰されたはずの死神だ。目立った傷は無い。それよりも、笑みが深まっている)
(正確には、あの蜘蛛の体液が飛び散った物が崩落物として体に当たった際に打撲だ切り傷といったものは生じていたが、それでも想定よりも相当な軽傷であろう)
(――つまり、人工物が大きなダメージを与える事が出来なかった。此処から導かれる答えは、鬼同士であれば分かる事)
(この少女もまた鬼である。それも、人間達への一方的な蹂躙を好む蟹達の主とは異なり、命の遣り取りにおけるスリルを楽しむ性)
(初手がこの攻撃であると言う事は、自分が鬼であると言う事にまだ気付いていなかったか……それとも、目眩しが目的だろうか)
(しかし追撃が無い。ならば前者として考えるのが妥当だろう。……つまり、きっとコレで対鬼への攻撃にシフトする訳だ)
(そう思うだけでもゾクゾクとしてきてしまう。そして、連携力も高い)
(この蟹達が群れで一つの鬼か、それとも指揮を執る鬼が居るのかは分からないが――……関係ない。全て、壊してしまえば良い)
(散らせばこれらが独自に動いているのか、そうで無いのかも必然的に理解できる筈)

――まさかコイツ等だけでお散歩って訳じゃねェーだろ、なァ!?
何処に居ンのか知らねェけど、放っておくと大事なお友達全部潰しちまうぜェ!?
(フードが外れ、露わとなった素顔は銀色のショートに緋色の双眸)
(好戦的を通り越し、狂犬にも思える様な表情は新たな獲物――件の蟹達を捉えていた)
(同時に、僅かに腓腹筋が僅かに膨らむ。走り出す直前に起きる筋肉の膨張、だが――……)
(この鬼に加速という概念は無い。最初からトップスピードで奔るだけの筋力を持ち合わせている)
(故、大鎌を肩に乗せて蟹達に向かって走り出すのも実に一瞬の事であった)
(的が小さい。敢えて鎌を振るならば、それは無駄な時間を増やすだけ。だから、この死神が選んだのは原始的な攻撃……「踏みつぶし」であった)

(余程硬く無ければ、次から次へと踏みつける事だろう。甲羅が砕け、その肉が床に散ろうと滑る事もせずに次の一匹、また次の一匹へと足を伸ばす)
(無論、最初の一匹に狙いを定めた瞬間に他の蟹が距離を取っても不思議な話ではあるまい)
(その蟹達が踏まれ、そして断末魔と言うものを上げるのかはまだ分からないが……仮にそうであるならば。その主たる鬼にも良く聞こえるだろうか?)
(甲羅が砕ける音。肉の潰れる音。一命と取り留めたとしても、トドメと足首を捻った事で挽肉へと変わる音)
(尤も、崩落物の下敷きにした後も油断を解いていなければまた半紙は変わってくる。何しろ、小さな生き物を踏みつぶすと言う単純な行動だ)
(瓦礫から這い出てきたときに距離を取るなり、小さな体を活かして何処かへと隠れる事は十分に可能)
(もし、そうでないならば。宣戦布告には十分な惨状となるであろうか――――)

【蟹がどうなっちまうかについての判断は全て一任!瓦礫から手が突き出てきた瞬間に様子見で離れちまうのも十分アリ!】
【取り敢えずオレが鬼って事も理解させる為に、崩落物の下敷きになった上で対人間と同じじゃ意味がねェって事を直ぐに勘付かせる様にしてみた!】
【名前は必要が出てきたときに入れておく!……蜘蛛の肉片入りアイス、食うのか……】

143ウエハースメザー ◆k1072NP5UU:2021/05/24(月) 22:07:36
>>142
んっふっふー。んっふっふー♪ 今日はちょっとばかし期待できそうねー♪
この横断幕に書かれてる文字……ヒトの言語に興味はないけど、この形だけはわかるんだなぁー。
『アイス』って書いてある! それもかなりでっかく! 派手派手しく!
これってつまりあれよねー、この建物にどっさりと、アイスクリームが備蓄されてるってことよねー!
うん、うん、今日、この場所に来てよかったわー。ヒトもいなくて静かだから、アイス探しも落ち着いてできそうだし。
鬼退治野郎が単独で生きてはいるみたいだけど、それもローカルフォースたちがすぐ始末してくれるだろうしー……。
――――んん?

(ひと気なく、静まり返ったショッピングモールのホールを、ルンルン気分で歩いていたウエハースメザー)
(その頭脳に、先触れとして派遣した眷属たちの思考が届く)
(彼女としては、「鬼退治の人間をつつがなく倒した」とか、そういう報せが来るものと期待していたのだが)
(実際に受け取ったのは、そんなめでたいものではなかった)

『うわーん! うわーん! ぼすー! 鎌もったにんげんにはんげきされたー!』
『がれきでおしつぶすの、きかないよー! というかこいつにんげんじゃないかもー! 腕力がひどい!』
『にゃー! スプラバッグとアウトフラーとボンブがふまれたー! にげろにげろー!』

(信頼する眷属たちの、動揺の声)
(敵は並の――いや、鍛えている能力者でも殺害できる質量攻撃を耐え切り、それどころか即座に反撃を開始した)
(哄笑しながら瓦礫を振り払い、地を這い回る小さな眷属たちを、楽しそうに踏み潰しにかかる)
(狂乱とでも表現すべきその様子を、メザーは眷属たちの目と耳を通じて、鮮明な情報として受け取った)

何だ……? 人間にしてはパワフルすぎる……言ってることも過激過ぎるような……。
いや、そもそも本当にヒトか、こいつ? ……もしかしてとは思うけども、私と同じだったり……?
可能性はあるわよね。転がってる死骸はクモ……『鬼』にも、いろんな形がある……ヒト型のやつも多いのかも知れない。
でも、まあ、あの暴れまくってる女がヒトだろうと鬼だろうと、やることは変わらないわね。
スプラバッグとアウトフラーとボンブ……仲良し3人組だ……サザエの殻を投げ合って遊ぶのが好きな子たちだった。
あんないい子たちを薄汚い靴底で足蹴にしたってんなら、その報いをくれてやらないと。
――総員、ちゅうもーく。
他の作業は全部中断。最優先で、私たちの食べ物狩りを邪魔するクソみたいなやつをぶちのめすわ。
敵は――鎌を持ってるし、仮に『昆布採り』とでも名付けましょうか――。
昆布採りは、建物西側のホールで、ローカルフォースたちと交戦中。今出ている仲間全員で、加勢に向かいなさい。
ローカルフォースたちは、《フォーメーション:うずしお》でやつを巻き込んで。
私もすぐに、そちらに向かう……!

(怒りのこもったその思念を受け取ったカニたちは、速やかに指示を実行しにかかる)
(死神装束の少女に踏まれまいと、必死にジグザグに、ばらばらの方向と速度で走り回っていた彼ら)
(その動きが、スイッチを切り替えたように、等速で、パターンを持ったものに変化した)

『めいれーい。ぼすからのめいれーい。《ふぉーめーしょん:うずしお》ー』
『ならべならべー。ぱわーをきんとうにじめんにながせー』
『こんぶとりをまんなかにしろー。おくれるなおくれるなー』『かせいにきたぜー。おれたちもまぜろー』
『あいてるところにはいるよー。ぼくらでじめんにもようをかくんだー』

(カニたちが少女を中心に、また並んでいく)
(少女の動きは激しく、すばやいが、わらわらといるカニ全部をあっという間に全部潰してしまえるほどの速度ではない)
(4匹目のカニが、彼女の足の裏の下に消えた時、その靴底は甲羅を踏み潰す感触を捉えなかった)
(「バキン」という音とともに、少女の足首までが、地面に沈み込む)
(バキン――バキン――バリリッ、ビキッ――!)
(少女は目にするだろう。自分のいるフロアの床に、碁盤の目のような、等間隔な縦と横の直線のひびが刻まれていくのを)
(16マス×16マスの、きれいな正方形の模様が生まれ――それがさらに分割され、32マス×32マスになり)
(それがさらに細かくひび割れ、64マス×64マスに――128マス×128マスに――さらに、さらに、さらに割れていき……)
(分割に分割を重ねて破砕されていった床は、瓦礫から小石に、小石から砂に、砂から粉に、粉からさらに細かな粒子になり)
(ひと粒ひと粒が目に見えないサイズになるまで、延々とすり潰されていく)
(そういった処理を施された床に触れた時、生き物が感じるのは「さらさら」とした感触ではない)
(水分をまったく含んでいないにもかかわらず、質感はまるで液体のように「とろり」として感じられるようになるのだ)
(死神の少女も、「とろり」となった床に、足がずぶずぶと沈み始める)
(もちろん、カニたちを踏み潰すという攻撃方法は、足元がそのような状態になったからには使えないし)
(仮にだが、彼女が泳げなかった場合、沈みこむ深さによっては、溺れてしまう可能性だってあるだろう)
(そして、これが何より危険だが……液状になった床の中を「泳いで」、カニたちが少女を襲える環境が生まれてしまった)

『よしゃー、はんげきかいしするぞー』『ぼすとおなじ鬼さんだろうと、なにするものぞー』
『にんげんにやるのとおなじように、たかってまとわりついてぶっころせー』『はだもにくもほねもそぎ落とせー』

(じゃば、じゃば、じゃばと、とろけた床のあちこちで、小さな波紋が起こる)
(それはカニたちが床の中を泳ぐことで発生しているもので、いくつもの波紋が少女に接近していた)
(彼らの本質的な能力は、物体の激烈な劣化と剥離である)
(人間が彼らに触れれば、たまねぎの皮を剥くように、全身を薄く剥かれまくって殺されてしまう)
(鬼に対しては、多少効果が薄くなるかも知れないが……それでも、まったく効かない、ということにはならないだろう)
(カニたちが少女の足にまとわりついた時。ざっと2秒ほども、彼らと密着したならば)
(触れた部分の皮膚が、肉が、痛みもなく剥離してしまうだろう……たとえるならば、剃刀で削ぎ落とされるかのように)

【『ハーヴェスト』のように、何匹か潰されても次から次へ湧いてくる系ちっちゃいのがうちの眷属!】
【それでも仲間を踏み潰されたので、怒ってそっちに向かいます】
【あなたがとろとろの床を脱出できないと、クソ不利なフィールドで私と握手する感じになっちゃうよ!】
【とりあえず、こっちが勝手に呼ぶ仮の名前として(ターゲット的なやつ)、『昆布採り』と呼ばせてもらうことにしたわ!】
【私って海を拠点にしてるから、鎌って漁師や海女さんが、昆布やワカメを採る時に使う道具って印象なのよね……】

144 ◆BpYjFWEe7.:2021/05/26(水) 23:09:12
>>143
(靴底から伝わる感覚は、確かに仕留めたと確信を持てるものであった)
(何分この蟹達の数は多い。全てを潰すのは非効率であり、非現実的でもある。……だが、コレを行う事で見えてくるものもある)
(相手に指示系統が存在するか否か。仲間意識を持つのか、死の恐怖を会得しているか)
(――……踏み潰した所で怒った大きな蟹が出てくる訳でも無かったが、行動を変えるという事が分かった)
(やはり、一匹一匹が本能のままに攻めているのではなく、組織的。何よりもこの数の差は如何に一匹が弱小であろうと、それを容易にひっくり返すだけの差である)
(範囲攻撃の様な能力を持たない自分からすれば、正に圧倒的不利な立場だ。――だからこそ、燃える)

さーて、親玉が居るんだとしたらどうやって引き摺りだしてやろうか……
時間を掛け過ぎれば人間たちの茶々が入るにしても、こんな楽しい状況を逃がす手はねェ
いっその事、この一帯をぶっ壊せば――うおォッ!?

(複数の展開を想像し、次の一手を想像しながら更に一匹を踏みつぶそうとしたその時)
(急に、床の感覚が無くなる。心構えも無く伝わる筈であった感覚を喪失した脚。既に床を蹴っていた方とは逆の脚が前に運ばれていた故に)
(派手に転び、大きな飛沫を上げる事となる。――別個体の異界に巻き込まれたか?しかし、辺りの物の劣化が進んでいる様子は見当たらない)
(口に入ってきた泥とも砂とも言い表せない物を吐き、状況を整理しようとするけれど)
(余りに予想外。這い出る事もままならず、手にしていた大鎌の柄の感触だけを確りと確かめる)
(――鮫でも出てくるか?それとも鯨でも現れて一飲みさせるつもりか?……いや、この音は。無数の小さな水音は、そのどれでも無い)

ッ、ビックリさせやがって……
そんな小さいハサミで一生懸命オレを刻んだ所で、解体が終わる頃には2晩位過ぎちまってんじゃねーか?
さっさと親蟹に泣きつかねーと数日分の食料としてお前らを――……あァ?

(最初は足止め程度だと思っていた。液状化にして脱出を困難にさせ、時間を取らせるつもりなのだろう、と)
(当然、短時間それが出来たとしても長い間この場に留まるつもりはない)
(ハサミで刻まれた所で肉体的に大したダメージにもならないと思っていた。……が)
(鬱陶しくも顔に近付いた蟹を手の甲で払いのけた時、「ソレ」に気付いた。先ほどまで別な蟹が触れていた前腕の一部皮膚が剥がれ、筋肉がハッキリと見えているのだ)
(小指に至っては最早動かせるだけの筋肉が剥がれ、多少の肉と腱で繋がっている様な状況)
(痛覚を刺激しない、という事が厄介であった。――先ほど、どれだけの蟹が入ってきた?どれだけの蟹が触れていた?)
(もっと早く気付くべきであった。警戒すべきだった。顔に触れようとしていた蟹を払えた事だけがまだ救いだった)
(もし、気管まで達していたらどうなっていただろう。――この液体に沈んだ状態では、自身の身体の程度は分からない)
(足は動いている。動いている、筈だ)

――随分と厭らしい事シてくれるじゃねーか……ア?親の蟹ってヤツを見てーもんだなァ!!
ゼッテーブチ殺してやるからよォ!

(大鎌の柄を両手で持ち、腰を大きく捻る。――ぷつり、と何処かの筋が切れた感覚はあれど、気にしている場面では無い)
(――グォン!!水中で大きく横薙ぎされたソレは、無数の小さな波紋が生じていた所に一つの変化を生むだろうか)
(奇しくも、渦潮の様な流れ。逆らうことが難しい程では無いが、確かに渦が生じている)
(――グォン!!二度目の横薙ぎ。流れに沿って行われたそれは、死神の少女を中心としてより一層大きな渦を作り出す)
(渦の中心部に居るのだから、余計に蟹が体に纏わり易くなりだろう。だが、少女の狙いはその先にあった)
(三度目の横薙ぎ。この水面一帯を1つの渦巻きと化す程に大きくなれば、当然少女も水中に飲み込まれる事となる)
(吸い込む力に従って、下へ、下へと流れに運ばれ――足裏が「底」に着いたとき)
(全身の力を込めて、「底」を使って一気に跳躍した。泳ぐでも鎌先を何処かに引っ掛ける訳でも無い脱出法を選んだ訳だ)
(水柱と共に再び宙に姿を現すと、猫の様に宙返りを行いつつ液体と化していない床に降り立ち)

……チッ。細々と小さい割には小賢しい動きをしやがる……どっかで見て指示を出してるヤツでも居んのか?
ンなチビを全部潰したトコで決着なんて訳にもならねェだろうけどよォ

(――右手小指。左大腿部。右足関節。大きく目立って「剥がれている」のはその部分だ)
(筋肉の半分近くが削がれ、動かす事が可能である程度。鬼同士の肉弾戦ともなれば、圧倒的に不利である事は確か)
(他にも糜爛の様な個所も数多く見受けられるが――闘志、殺意が消えた様子は無さそうだ)
(尤も、件の作戦が著しいダメージを負わせ、機動力を幾分奪っているのも見て分かる通り。それでも撤退を選択しない程に、この鬼は争いを好んでいた)
(ウエハースメザーがこの場に到着するならば。真っ先に向けられたのは射貫く様な鋭い視線――では無く、この鬼の血が付着した拳サイズのコンクリート片)
(目で捉えるのが難しい、という程の速さでは無いけれど。当たれば痛い、で済まないのは先ず確実であろう)

【おー、湧いて出て来んなら安心した。べ、別に有限だったらとかそんな心配をしてた訳じゃねーけどな】
【脱出すべきか否か悩んだけど、取り敢えず力任せに出てみた!っても、遠慮なく追撃で全然構わねェ!】
【ついでに投げつけた瓦礫も好きに対処しちまってくれよなー!】
【……つか、昆布採りなんて随分変な名前付けてくれるじゃねーかよ。もっとデビルシャークとかカッコいい呼び名を……】
【あァ?鎌のせい?……コレか〜……】

145ウエハースメザー ◆k1072NP5UU:2021/05/31(月) 23:38:32
>>144
(──ドパァン! という、海中で魚雷が爆発したかのような重い轟音が、ショッピングモール全体を揺るがした)
(滑らかな粉末の水面から、昆布採りが脱出するのに必要としたエネルギーは、それだけ大きいものだった)
(ただでさえ重い流体に大渦を巻かせ、微粒子化していない水底にまで沈み込み、自身にかかる流体の重みを、脚力ではね除ける)
(爆発物に例えても大袈裟でない、巨大な力だったはずだ)
(それによって、微粒子の中を泳ぐカニたちは──狙ってやったかどうかはともかく──思いがけぬダメージを負うことになった)
(少女の体が水面から飛び出すと同時に、その周囲にあった流体も四方八方に超高速で飛び散る)
(カニたちも巻き込まれて吹っ飛び、建物の構造物──壁や天井に叩きつけられる)
(超音速に近いその衝撃を耐え抜くには、カニたちの甲殻はあまりに柔らか過ぎた)
(ホールで昆布採りと対峙していたカニの数は、全部で63匹。そのうち、45匹が即死。7匹が行動不能の重傷)
(残りも激しく渦巻く不透明な水面の中で、敵の姿を完全に見失ったまま混乱していた──)

えー……えええ……マジなわけ、これぇ……?
じ、冗談じゃないわ、冗談じゃないわよこんなの……いくらなんでもひどすぎる……!
私のきょうだいを何だと思ってるのよ、あいつ! う、う、海鳥が貝を岩場に落として割るみたいに、あの子たちを……!
許せない、許せない……死んだ子たちを『作り直す』の、メチャクチャ手間がかかるってのに……!

(その光景を、カニたちの視界を通じて目撃していたウエハースメザーの機嫌は、もう底の底の底である)
(苛立つどころではない。一歩進むごとに、昆布採りへの憎悪が頭の中でグツグツと煮えたぎる)
(冷静さを殺意が覆い隠し、思考のほとんどがとにかく突撃したいという欲求に収束する)

よーし、よし、殺す……あれは純粋なパワータイプだ……殴る蹴る、鎌を振り回す以外の行動を見せてない……ぶち殺す……。
あの子たちの肉体破壊も効いてたし、極端な防御力も回復力も確認できない……特殊能力はないと考えていい……殺す殺す殺す……。
あいつの皮膚が食らってたダメージから考えて……私が『2メートル』の距離まで近付ければ……かなり優位に立てる……!
あとは、あの場所に私が着くまでに、あいつが逃げないかどうかだけが不安だわね……。
生き残った子たち、落ち着いて……! 攻撃はもう仕掛けなくていいから、あいつの位置を探し出して?
ああ、もう、粉塵が舞い上がって、広い範囲で霧がかかったみたいになっちゃってるじゃない!
あの子たちの目を使っても、よく見えない……まだ、あのホールのどこかにいるのは間違いないけど……!

(彼女の踏みしめた床は、バキバキ、ビシビシという音とともに、蜘蛛の巣状にひび割れていく)
(その派手な破砕音の連続は、静謐な無人のショッピングモールの中では、かなり遠くまで響いた)
(もちろん、昆布採りが身を潜めているホールにだって届くだろう)
(複数の廊下がそのホールにつながっていたが、メザーは自分がどこからやって来るのか、大声で宣伝しているようなものだった)
(そしてついに、もはや破壊し尽くされて、採石場と沼地を混ぜたみたいなありさまになったホールに、メザーは足を踏み入れる)

さーて来てやったわよクソ漁師いぃっ! いったいどこに隠れ――ぅぼふぅっ!?

(メザーの悲鳴と、ハンマーがコンクリートを叩き割ったかのような硬い衝突音が重なる)
(昆布採りの投擲した岩は、油断していたメザーの左側頭部に見事、直撃した)
(赤い髪が乱れ、細い体が大きく傾く。血まみれの岩がこめかみに深くめり込んで、白い肌に深い亀裂が走る)
(亀裂。そう、メザーの顔面に、本当に岩を割ったかのような、稲妻型のひび割れが入っていた)
(こめかみから目の下を通り、鼻を上下まっぷたつに断ち、右の頬まで達する黒い傷跡)
(人間の柔らかい肉体であれば、まず生じないような硬質な谷間……)
(その奥から、どぼっ……どぼどぼどぼっ……と、大量の液体があふれ出す)
(血ではない。透明でさらさらとした、磯の香りを漂わせる液体だ)
(エビや、カサゴのような小魚も、ぴちぴちと跳ねながらこぼれ落ちてくる。アサリなどの貝、ヒトデ、クラゲもいくらか)
(それはどうやら、多くの命を含む海水だった。海が、彼女の中にある)

――見つけた。

(ごり、ごりごり、ごりごりと。石と石がこすれ合うような音をさせて、傾いていたメザーの首が起き上がる)
(そして、自分の顔から噴き出す海水を、手のひらにすくい、それを野球のピッチャーのようなフォームで振りかぶり……)

どっせぇい!

(石が飛んできた方向に、お返しとばかりに、思いっきり投げつけた)
(投擲された水しぶきは、薄い霧のように空気中に広く漂う粉塵を貫いて、昆布採りに迫る)
(水は直線でなく、扇状にバラけて飛び散るので、狙いを外れた水の玉が、積み重なった瓦礫や壁にいくらか降りかかるが)
(そういった場所には――ババババッ! と、散弾銃ででも撃たれたかのような無数の穴が、深く穿たれる)
(実を言うと、メザーが放ったのは、ただの水ではなかった)
(本当に小さな、1、2センチほどの生まれたての赤ちゃんガニが何十匹も、ウヨウヨと泳いでいる水なのだ)
(もちろん、それらは眷属としての破壊性能を有している。接触すればその部分が崩壊し、穴が空く)
(石でも鉄でも、人でも、鬼であってもだ)

アンタッ、よくもうちの子たちを足蹴にしてくれたわねっ!
たまに海に潜ってきては、昆布だけ刈り取っていく大人しい人間みたいな見た目して……絶対許さねーわよ、このスカタンッ!
ボロッボロのバラッバラのズッタズタの肉片ッつーか粉微塵にして、生まれてきたことを後悔させてやるわ――ッ!

(片手で首を掻っ切るようなジェスチャーをして、宣戦を布告)
(その上で、子ガニたちを含んだ海水をまた手に受けて、相手のいるであろう方向に向かって投擲、投擲、投擲!)
(粉塵によって視界は不充分であり、一発目の攻撃が相手に当たったかどうかも判断できない状況ではあるが)
(何発も投げてれば、どれかはきっと当たってくれるだろう……という、シンプルな思考をメザーはしていた)

【眷属たちはいっぱいいるわ! 繁殖もして、子供もぽこぽこ生まれてくるから実質無限!】
【投げつけた瓦礫も好きに対処していい、ってことだったから、ホールに入った瞬間投げつけられた、という形で書いたけど】
【問題ない……わよね? たぶん!】
【人間の創作物や宗教概念に触れていれば、鎌から死神をイメージしたんでしょうけど、私はそういうの読まないから……】
【文字もろくに知らなくて、「アイス」をかろうじて甘くて冷たくて美味しいものとして理解している程度よ!】
【でびるしゃーく……デビルシャーク……カッコい……かっこ、いい……?】
【……うん! 強そうで悪そうで、すごくかっこいいネーミングね!(その目は優しかった)】

146 ◆BpYjFWEe7.:2021/06/05(土) 00:32:03
>>145
――ハンッ。蟹共の親分がどんなヤツかと期待してみれば、ただのガキじゃねェか
もっと目玉を飛び出させるなり蟹に近付く努力でもしてみたらどうだ?
……っても、大分「らしく」なってるみてェだけどな。ちいせェ子分にコソコソ頼んでる様じゃ鬼としての格も落ちるんじゃねェーの
本当の殺し合いってのはな……こうやって、相手をぶん殴る感触を楽しむのもだぜ――!!

(投擲を終えたフォームのまま、その攻撃が当たったことに対してニヤリと笑みを零した)
(鬼のダメージは人間と異なって外見では判別が難しい事もある。だが、あの音に外見の変化……それなりの効果は得られた筈だ)
(ならば、追撃を選択するのが常。ウエハースメザーの分析は決して間違ってはいない)
(この鬼は搦め手を用いない純粋なパワータイプである。異界も広範囲に展開する事もなく、その大鎌自体にも鬼に対して目立った力がある訳でも無い)
(――だから、追撃も単純だ。近づいて一気に片を付ける。グ、と力を込めればロケットスタートの合図)
(蟹によって抉られた箇所もある。先程の様な速度にまで達する事は不可能だが……近付くには十分だ)
(そして。ウエハースメザーが海水を投げるのと、走り出すのは殆ど同時であり)

苦し紛れにンな物を投げた所でテメェが死ぬ未来は変わらねェんだからぼうっと立っとけボケェ!!
なぶり殺しにする趣味はねーから大人しくしとけば直ぐに――……な、ぁッ!?

(海水に対して、自ら突っ込む様な形になる事だろう。そして、横っ腹に当たったそれは彼の鬼の狙い通りの効果を上げる)
(風穴、と言うには大きすぎる……指4本分程の穴が、この鬼の腹に空く事となって)
(失速した状況を見れば、ダメージも相応に大きいものである事が見て取れるであろうか――失速したとは言え、それでも速い事に変わりは無いのだが)
(痛みはある。だが、脚は止めない。――このまま殴れば、あの海水をまともに浴びる可能性……も、頭から排除する)
(殺す。単純に、破壊する。それだけを念頭に、ただ突っ走り)

嫌だったら最初からテメーが出てくるべきだったなァ!
子分どもに任せて胡坐を掻いてたせいで相当な数が死んじまったんじゃねェか!?
オレはなァ……ズッタズタの肉片になろうが、テメェは絶対にブチ殺す!!!

(2つ3つと投げられている事が分からなかった訳では無い。そして、視界不良の危険性を認知していなかった訳でも無い)
(ただ単に、逃げる事が性に合わないから突き進む。そんなイノシシの様な思考からの突撃だ)
(幾つかのソレをいなし、避ける事は出来たが……距離が縮まっていくに従って、それも難しくなる)
(ガチャン、と聞こえた音は大鎌の落ちた音だろうか。だが、未だに足音は止まらない)
(――――粉塵を分けて現れたその鬼を目視出来た頃。謂わば満身創痍に近い状態である事が理解できるだろうか)

(抉れた頬からは鋭い歯が?き出しとなり、左手は致命傷を庇ったが故に手首に穴が空き)
(右手も一部指の先端が欠けていたり――その他にも、飛沫によって幾つもの小さなダメージを負っている)
(だが、獲物を見る目だけは変わっていなかった。それは、至近距離になった事でより一層良く分かる事だろう)
(正に、鬼だ。相手を食い殺す怪物。伸ばされた右手は、ウエハースメザーの顔面を掴もうとして――……)
(亀裂から漏れた海水が直に手を焼こうとお構いなしに、だ。被害を抑える事よりも、相手にダメージを与える事を最優先とする生粋の戦闘狂)

(以降、もしも顔を鷲掴みにされたならば……の、話だが)

ふはまえはへ―――!!

(「捕まえたぜ」。残った半分の唇を楽しそうに吊り上げて、実に楽しそうにそう宣言するのだ)
(死ぬ恐怖にも勝る戦闘欲。――そのままウエハースメザーの顔を握りつぶそう、という訳では無い)
(走った際の勢いを殺すことなく、思いっ切り自分の膝に後頭部を叩き付ける事こそが目的)
(コンクリート片を投げた時と同じように、思いっ切り頭を振るって――叩き付ける。まともに受けたならば、人間基準で考えればスイカの如く砕けてしまうであろうか)
(しかし、この鬼の指は欠けている。必然的に握力も弱まり、急所をズラす……或いは抜け出すことも可能である)

(何よりも、『2メートル』よりも更に近いこの距離感。凌げれば、大きなアドバンテージとなる事だろう)
(対して鎌を持って居た鬼は見ての通りの状態だ。コレは決死の一撃――と、捉えても良いか)


【無限に出せる蟹……狐辺りが聞いたら日本酒持っていきそうだな……依り代の本体が飲めないのに……】
【瓦礫も本当に好きな様に扱って貰って良かったから助かったぜ!ありがとうな!】
【……へっ。オレの方が学があるじゃねーか!FACK←これはファックって言うんだぜ!……スペルミス?スペルってなんだ?】
【お!このネーミングセンスの良さがお前にも分かるんだなっ!えーっと……マッドクラブ!!】
【よぉし、これからオレとお前でデビルシャークandマッドクラブってチームで世界を取りにいくぜ!!(それはそれは純粋な目だった)】

147ウエハースメザー ◆k1072NP5UU:2021/06/08(火) 22:43:23
>>146
ほほうほほう来るか来るか来るかァッ!
いい度胸だわね好感持てるわだからこそ今ここでわかりやすくえぐれて崩れて飛び散って落ちろおぉ──ッ!

(硬いものに穴を穿つ音が、タイプライターを激しく叩くかのように絶え間なく連続する)
(海水を手に受ける。腕を鞭のようにしならせる。子ガニを含んだ飛沫を投げつける)
(この3行程だけで、ウエハースメザーは重機関銃のフルオート連射に匹敵する破壊を眼前にばらまいていた)
(粉塵の煙幕は千々に切れて吹き飛ぶ。床のタイルは剥がれてめくれ上がる)
(そして、メザーに向かって突進してくる死神の肉体が、徐々にしかし確実にすりおろされていく)
(皮膚が散る。肉片が散る。血が飛沫よりも細かくなって粉塵に混ざり吹き散らされる)
(しかし、彼女は止まらない)
(人間であれば最初の一撃を受けた時点で行動不能、悪くすればショック死しかねない大怪我であるのに)
(ガソリン満タン、オーバーホール完璧のトラックのように、パワフルに地面を蹴ってメザーとの距離を詰めていく)
(さて、そんな相手にメザーが向ける感情はいかなるものであるのか)
(さしあたり、憎悪が30パーセントほど。すごいガッツだと称賛したい気持ちが2パーセントくらい)
(で、残る68パーセントは、焦りであった)

え、ちょ、当たって……当たってるわよねこれ!? 大部分直撃してるわよね間違いなく!?
何で倒れないっつーかどんどん加速してるとか嘘でしょ!?
うおああああっ、た、倒れろ倒れろ倒れろ倒れろ倒れろいい加減倒れときなって力尽きろこのこのこのこの!
その汚ならしいザマで近づくなってちょっまだ走れ骨見えてる顔剥がれかけてるってうわぁ目がイッてるヤバいこいつ!
ちょ、ちょっとはダメージ気にしなさいよバカアアアアッ!?

(敵がどのくらい体力を残しているのか、それを判断するためのファクターのひとつに表情がある)
(疲れている時、くじけそうな時、もう残り時間が少ない時。それにふさわしい表情を浮かべるのが人型存在にとっての当たり前だ)
(ウエハースメザーは今までに大勢の人間を殺し、力尽きていく時の表情を見てきた)
(文字はほとんど知らなくても、「私の攻撃が効いてるわね! ヨシ!」と判断できる表情がどんなものかは知っている)
(どの程度肉体を破壊すれば、人がその表情を浮かべるのかを知っている)
(なので、ダメージがめちゃくちゃ大きく見えるのに、不敵な笑みを浮かべて突っ込んでくるバーサーカーのような昆布採りの姿は)
(メザーの頭の中の理屈に真っ向から反していて、不気味としか言いようがなかった)
(最初は「接近して戦う」つもりでいたのに、今では少し及び腰になってるくらいには、無自覚にビビっているのはナイショだ)
(来る。瞳孔が開き、狼よりも歯を剥き出しにした獣が来る)
(ボロボロのその手が、メザーの顔に伸ばされる。血まみれの指が、赤い髪を櫛けずりながら頭皮に食い込む)
(人ならぬ握力。めしり、と音がして、メザーの顔面に刻まれていたひび割れがさらに大きく広がる)
(上下の唇が左右に両断され、あご、首、胸元に達する裂け目が生じる。左目が砕けて、ガラス片のように地に落ちる)
(首がもげそうなくらい、深いひびによって安定感を欠いたメザーの体が、大きく傾いた)
(そこに繰り出される、昆布採りの渾身の一撃)
(ダッシュの勢いと、万力のような握力によって補強されるハンマーのような膝が、メザーを打ち砕くべく迫る──)
(直前に)
(メザーの濡れた手が、昆布採りの手首をつかんだ)

──私は岩礁。私は珊瑚。
私は朽ちた船。私は鯨の骨。

広い海原の底に沈むものすべてで、
暗い塩水に潜むものすべてのゆりかご──。

(ひび割れた唇から、搾り出すような乾いた声がこぼれる)
(負けてたまるかという必死さが、ギリギリのところで焦りと恐怖を上回った)
(冷静になれば勝てる。敵の剣幕に押しきられるな。自分は自信を持つに相応しい強者だという事実を忘れるな)
(呪詛を紡ぐのは、心をととのえるため。言葉そのものに意味はない)
(いや、己の根源を見つめれば、自分に最も向いた行動ができるわけだから、意味はちゃんとあるのかも)
(とにかく、冷静にやることが必要だ──合気道の使い手が、瞬間的な判断で技を正確にかけるように)
(『2メートル以内』)
(こちらから踏み込むはずだった殺しの距離に、向こうからやって来てくれたのだ。うまく利用しなければ失礼というもの)
(メザーは、つかんだ昆布採りの手首に、自分の能力を注ぎ込んだ)
(ばり、べき、という破砕音とともに、メザーの頭をとらえていた指の表面が、牡蠣殻のように変化して剥離し始めた)
(もともと欠けていた指を、そうしてさらに弱くする。結果、緩む拘束──ずれる上半身の位置)
(耳の横を、昆布採りの膝が唸りをあげてかすめていく)
(その勢い。直撃していたら、メザーの頭は本当に粉々だったかもしれない)

水の深さが光を奪う──最も深い場所に雪が降る。
軟らかな肌のものが、衰えた目を持つものが、その冷たさを知る。

原始の粒。白く滑らかな平面。何ものもいつかはそこへたどり着く。
私はゆりかご。私は終着点のくらやみ。私は始まりから終わりまでの道のり。
軽く小さく儚いものたちの中でひとつだけ、重く巨大でゆるぎないもの。

私の出会うもの、私を見るもの、私の声を聞くもの──すべて、すべて、すべて──。
すべて、私とともに沈め──。

(バランスの崩れた体は、昆布採りの胸に顔を埋めるような形で倒れ込んだ)
(石のような質感を持つ両腕が、昆布採りの背中に回され、ぎゅっと引き寄せる)
(ゼロ距離)
(ウエハースメザーの異界が──ものを劣化粉砕する厚さ2センチのヴェールが、昆布採りを音もなく抱擁した)

【うちの子は食べちゃダメだって! 仮に調理したあとでも能力残ってたら、歯がボロボロになるわよ!?】
【日本酒も若いうちは肝臓の負担が大きいから控えなさい! 甘酒とか栄養豊富で美味しいんじゃないかしら?】
【……くっ……! 英語でマウント取られる日が来るなんて思いもしなかったわ……アルファベットはまだキツい……!】
【で、その、ふぁっく? ってどういう意味なの? ウミウシかなんかの仲間?】
【そして生暖かいネーミングで私にも生暖かい二つ名がつけられてしまった。すごく頭の中が簡単そうなコンビに見える!】
【くそう、こうなったらホントにそのコンビで世界を獲って、こんな名前のふたりにやられた人間どもを笑い者にしてやるわ!】
【(そして、実際にコンビが結成された場合、いつか……数百年後ぐらいに……起こり得る出来事)】
【(そういやデビルシャークって、本名何だろう?)(`・ω・)(・ω・´)(そういやマッドクラブって、本名何だろう?)】

【さて、そろそろ私たちのバトルも決着かしらね? どんな風に締めたものか、どんな風に閉まるものか】
【お互い悔いのないよう、派手に絢爛にクライマックスしたいものだわね!】

148 ◆BpYjFWEe7.:2021/06/12(土) 16:57:48
>>147
(決まった。久し振りに楽しい殺し合いを終える事が出来た。この場で立っているのは自分だけ)
(さあ、後はこの場から立ち去って傷を再生させよう。一週間で済むだろうか――なんて、考えていたけれど)
(渾身の一撃が外れた事を悟ると、そんなのも全て無くなってしまい。本能的に、それが外れた原因を探る思考へと移る)
(――成る程。よくもまあ咄嗟の判断を行ったものだ)
(ただただ心底楽しそうに笑って見せる。それだけ)
(きっと反撃が来る事は予測できるが、それを躱すだけの体力も無ければ潰す力も残っては居なかった)
(それに死闘には勝敗がつきものだ。戦いに生きていたのだから、何れ死ぬ事は理解していた)
(つまらない死に方では無いのだから良しとしよう。――でも、大人しく死ぬのは柄では無い)

――小難しい言葉ばっか並べやがって――……ハッ……最後まで気に食わねぇやつ……
……でも、まぁ……今回はオレの――……

(抱擁されるその寸前、先ほど掴まれていた手首をウエハースメザーの顔を目掛けて思いっ切り振るった)
(――が。それには既に蚊程の力も残ってはいなかった。当たった所でそれが何かの脅威となる事は無いであろう)
(やがて、抱擁されたならば。そのまま胸部から上だけがどさり、と床上に落ちる事となる)
(まるで胸像にも似た――と表すと語弊もあるだろうが。しかし、誰が勝者であるのかハッキリと分かる構図)
(流石は鬼と言うべきか、未だにしぶとく生きてはいる様だが正に虫の息であり)
(トドメを差すのも差さないのも自由。それは戦い抜いて生き残った者だけが選べる特権なのだから)

(――――そして、戦闘が終わった直後。遠く離れた入り口からこの場に迫る複数人の足音や気配も感じ取れるだろうか)
『鬼同士の争い?縄張りでも荒らしてたのかね』『どうでしょうね。詳細は不明だけれど、人型の鬼が争っていた事だけは確からしいけれど』
『派手に暴れられたら店の再開も大変だろうネ。ワタシ関係無いけど』『大企業サマだから異界災害の保険でも入ってんじゃねーの』
『はいはーい、お喋りタイムは終わり。今回の依頼内容は分かってるね?鬼の生け捕り。貴重な武器として活用するから、出来る限り殺さない様に』
『戦闘音も止んだ様だし、どっちかが死んだのかしらね。早く見つけないと何処かに逃げられてしまうんじゃないかしら。政府の組織が来ても面倒だし……』
『鬼を殺さずに生け捕りっていう依頼も無茶苦茶ダヨネ。知性ある鬼ならコッチの誰か死ぬヨ?』

(鬼の遺骸から作り出したアーマーを着た集団。装備は別世界の鉱物によって造られた銃火器に刀類にと実に様々である)
(今から鬼の居る場所を探り当て、剰え戦闘を繰り広げるというのに談笑をしている様子から、今までに何度も異界の修羅場を潜っているのだろう)
(接敵までまだ暫く時間がある。敵も少数先鋭であるが故に建物も封鎖されて居らず、幾らでも逃げ道はある――が)
(そこに、更に新たな気配。今度はウエハースメザー達から数歩離れた距離)

「あっははは♪凄いわね、とっても凄いのね、貴女。まさか1対1で勝てるなんて思っていなかったもの」
「おめでとう?お疲れ様?怪我は痛い?――どれを言おうかしら。どれを言うべきかしら。どれでも良いわね、うん、きっとどれでも良いの」

(話しかけてきたのは、赤いドレスを纏った少女だ。艶のある銀髪に整った顔立ち――まるで精巧な人形を思わせる様な姿)
(しかし、この少女もまた鬼である事は理解できるだろうか。何より、「1対1で勝てるなんて思っていなかった」と言っている事から、昆布採りと呼んでいた鬼を知っているのだろう)
(笑みを浮かべたままに、小首を傾げながらメザーの顔を眺め――くすくす、より一層愉快そうに笑って見せて)

「本当は少し貴女とお茶会をしてみたかったの。あの子に勝った貴女とお話をしてみたかったの」
「本当よ?ホントの本当。だけれど、人間達が邪魔をする為に来ているみたいね。困っちゃう。とても困っちゃうわ」
「――だから、また今度お話しましょう?お茶会に招待するわ。紅茶は好き?クッキーはどうかしら。あ、それとも――……」

(視界に入ったのは、もう解け始めているアイス達。「飛びっきり美味しいアイスは如何?」と言葉は続けられて)
(深紅の双眸はじぃ、っとメザーを見つめていた。「その誘い」にどう返すも自由ではあるが、了承の意を表したのだとしたならば外見相応の嬉しそうな表情を見る事となる)
(それだけを見れば、人間の子供とそう違いは無い。――が、鬼は鬼だ)

「その状態で帰るのは大変でしょう?送ってあげましょうか。貴女のお家は何処かしら。名前を聞いても構わないの?」
「わんわんわわん、私は犬のおまわりさんでは無いけれど――……今度貴女とお話しするのに、死なれてしまっては困るもの」
「それに、その子もちゃんと回収していかなければいけないの。そう、貴女の足元に居るその子」

(敵意が無い事は明確。抱いている感情と言えば好意……或いは、興味。少なくとも、攻撃してくる気配が無い事だけは確かであって)
(自力で脱出を行うのも良いであろう。ただ、この鬼の誘いに乗っても危険は無い筈だ。……恐らくは、だが)

【「メザーがママ属性を持ち始めてる……流石小蟹ならぬ子蟹を沢山従えてるだけはあるね……」】
【「ボク自身は並みの人間よりはずっと長生きだからいいんだよ!沙羅が酔い潰れたら介抱だけ宜しくね〜」】
【ファックは世界平和って意味らしいぜ!!ファックファックファァァァッック!!!】
【それじゃあオレがギターとボーカル担当だな!お前はドラムッ!……何だよ】
【世界を取りに行くって言ったらロックに決まってんだろ!!】
【(こうして楽器と壊滅的な音痴を武器に戦う鬼が云々……)】

【返しに大技をブチ込む!!と思ったけど、それじゃあ締まりがねェからこんな風にしてみた!】
【新しく出てきた奴は戦闘になったりする訳じゃねえからな!】

149ウエハースメザー ◆k1072NP5UU:2021/06/18(金) 22:12:22
>>148
ふっ、ふ、ふあははははっ、や、やった……やった、わよね?
これでもうケリついたわよね? また起き上がってファイティングポーズ決めるとか、いらないどんでん返ししてこないでしょうね?
こ、ここまでボロッカスにしたんだもの。さすがに死んでくれないとウソよ。正々堂々、物言わぬ屍になってもらわないと困るってもんだわ。
……動かない、わよね? 止まってるわよね? か、勝鬨上げるわよ? わーい……わーい……! か、勝ったー……!

(ウエハースメザーの抱擁によって、上半身と下半身をまっぷたつに断ち切られた昆布採り)
(倒れ伏し、その全身から力を失っている相手を見下ろし、勝ち誇ってみせるメザー)
(しかし──しかし、勝者としての立場に反して、彼女の言葉は怯えを含んで震えていたし、腰は引けていた)
(そうなるのも仕方ないと言えば仕方ない。相手は、皮膚や肉を骨が見えるほど抉られてなお、殺意満点で突っ込んできた猛犬のような鬼なのだ)
(メザーが本気で勝利を確信し、背を見せた瞬間、「かかったなアホが!」とか言いながら脳天ぶち抜くチョップを繰り出してきても意外ではない)
(だから、安心して勝利の感覚に浸るために、もう少し念を入れておきたいとメザーは考えた)
(具体的には、残った昆布採りの上半身をさらに粉砕し、死を確実にする)
(それほど難しい仕事ではない。ほんの数歩近づき、もう一度ゼロ距離でステキ異界パゥワーを浴びせる。それだけでいい)
(それだけでいいのだが──その作業の最中に、ガバッ! と相手が起き上がってきたりしたら本気で怖いので)
(歩み寄るメザーの一歩一歩は、じりじりと慎重で遅いものになってしまっていた)
(結局のところ、ここで思いきらなかったのが彼女の失敗だった)
(速攻で昆布採りに飛びかかっていれば、この戦場に第三者が介入する余地など生まれなかったのだから)

…………ッ!?
足音……声……? ちっ……まずい……。
どこの誰よ、空気読めないわね……私の獲物を横からかっさらおうっての……?
そうはさせない……そうはさせるもんですか。このボロ屑は私がぶち殺すんだ……私を舐めてかかったやつは私の手で殺す……。
何て言うんだっけ……ぎょふのり? だっけ? そんなのを狙ってくるアホどもも、私を舐めてる……殺さなきゃ……!
でも、くそっ、何人いる……? ふたり以上だ……あっちから来てる……今の私の怪我で、迎え撃てるか……?
今いる子供たちを全員集合させれば、いけるかもしれないけど、でも──。

(不愉快そうに独り言をつぶやいて、声と足音のする方に目を向けたとき)
(メザーは意識の範囲外に、いつの間にかさらにもうひとり、歓迎しない誰かが立っていることに気づき、肌を粟立たせた)
(華麗な赤い服をまとった妖女。ヒト型ではあるが、有機的な気配のない異様な美人である)
(もちろん、今のメザーにとって、それの登場は新たな脅威の到来以外の何事も意味しなかった)
(相手がどれだけ友好的な言葉と態度を取っていても、今、この状況で、それができるというだけで充分にやべーやつ認定が可能なのである)
(じり、と、そのフランス人形じみた女から──同時に、ぴくりとも動かない昆布採りから──距離を取りながら、メザーは思考を回転させる)

お茶会……? クッキー……? 何言ってんの? 人間どもが会話で使うっていう、暗喩とかいうやつ?
生憎だけど、このウエハースメザー様は美味しそうな言葉が並んだくらいで油断するほど甘くはないのよ。
それよりあんた、その昆布漁師の知り合い? そいつをかばい立てするってんなら、ふたりまとめてチリカスにしてや──ぐ、うぎぎっ……!

(凄みをきかせて優位を取ろうと試みるが、それは成功したとは言えなかった。メザーにも、苦痛という感覚があったからだ)
(昆布採りとの戦いでひび割れた、彼女の体。左目から上、頭全体の4分の1ほどが、床に落ちて、がしゃんと砕け散る)
(胸や肩にもひびは走っており、そこから流れ出るのは海水であっても、普通の人間の怪我同様にズキズキと痛む)
(認めなければならない。メザーは満身創痍だ)
(赤い服の女がどれほどの戦闘能力を持っているのかはわからないが、よっぽどの雑魚でもない限りはメザーを殺し得る)
(時速120キロぐらいに加速した乗用車で、正面からぶつかる程度の弱い力でいい)
(たったそれだけの衝撃で、今のウエハースメザーは命を落とす。力量のわからない相手に挑むのは危険だ)
(では、戦わなければいいのだろうか?)
(赤服の言葉に敵意はない。それどころか、怪我をしている自分のことを助けようとしているようだ)
(お言葉に甘えて、安全なところまで移動させてもらうというのも、ひとつの選択肢ではある)
(いや、メザーはそれを絶対に選ばない)
(誰かに手を差しのべるというのは──強者が弱者にたいしてすることだ)
(世界最上の存在であると自認しているメザーにとって、助けてもらうというのは他者の下につくということだ)
(それは許容できない屈辱である)
(相手が他意のない善意でそうしようとしているのであっても関係ない。助けられるぐらいなら、まだ危険を選ぶ)
(なら、結局どうすればいい? ──メザーは考える)

(「まず昆布採りに突進して、頭を踏み潰してから、返す刀で赤服を殴るか?」)
(「いや、死んでる確率が高い昆布採りより、先に赤服に飛び蹴りした方がよくないかしら」)
(「いやいや、こいつを相手にしてたら、あとから来る連中も混ざってわちゃわちゃしちゃう」)
(「まだ遠くにいる連中を先に殺すよう、小ガニたちに命令して……」)
(「それより頭がスゴく痛い! まず怪我の手当てがしたい、したくない? 珊瑚でこう、隙間を埋める感じで!」)
(「アイスクリームどうする? そもそも私、アイス奪いにここに来たんじゃん……もうお腹空いたよ……」)
(「どうしよう」「昆布採りを」「赤服を先に」「遠くにいる奴らを奇襲しよう」「アイス……」)

……うう……うううううぅうううー……ううううー……!
うが────────ッ!

(数秒間の熟考ののち、メザーの中で)
(何か張りつめていたものが、プチンと切れた)
(げしっ、と地面をひと蹴りし、澱んだ右目で赤福の女を睨む)

【長くなったから、ふたつに分けるわ!】

150ウエハースメザー ◆k1072NP5UU:2021/06/18(金) 22:14:04
>>149の続きー】

……あんた……お腹壊したこと、ある?
私は一回だけあるわ。でっかい船がこぼした、重油? ってのを間違えて飲んじゃってね。
あの時はツラかったー……下っ腹がしくしく痛くてさぁ。何もする気が起きないし、何も考えたくなくなるんだもん。
三日ぐらい、真っ暗な海の底で丸くなって、うんうん唸ってたわ。
今の私、限りなくそれに近い気分。体じゃなくて、心が。
何ていうかもう、考えるのめんどくさい。
全部ぶっ壊してスカッとできればそれが最高だけど、力をぶん回すにはコンディションが最悪。
あれもこれもあんたもあいつもそいつもこいつもどれもこれも全部みんな無視して、冷たい水に浸ってじっくり寝たい。
言いたいことわかる? あんたは無傷で余裕がありそうだからきっとわかるわよね。察しの良さは全生物にとって美徳であるべきだもの。
ああ、でも、いちおう言っとくわ。可能性は少ないだろうとはいえ、誤解が起きたらかわいそうだもの。つまり──。

(苛立ちをたっぷり含んだ言葉を垂れ流しながら、メザーは右手を振り上げ、握りしめて拳を作り)
(そしてそれを──ぶんっ、と──ハンマーのように、床に叩きつける──)

もーやだあぁーっ! あたしもうおうみにかえる!
お前らみんな大っ嫌いだああぁぁ! オニダルマオコゼ踏んで苦しんで死ね──ッ!

(ゴグンッ、と鈍い音がして、メザーの周囲の床面が細かいサイコロ状に切断される)
(そしてそのまま、泣きわめく赤毛の鬼は、落とし穴にでもハマったかのように、地面に素早く全身を沈めた)
(ほんの少し前に、眷族のカニたちがやってのけた、固体の流動化である)
(自分の真下、直径2メートルほどの範囲を、深さ十数メートルに渡って分子レベルにまで粉砕し、滑らかにして飛び込んだ)
(彼女は充分な深さまで沈んだら、今度は海の方向に向かって、横にトンネルを掘って進むだろう)
(戦場となったショッピングモールは、海に近い)
(液状となった地面を泳ぐことのできるメザーが、自分のホームに帰りつくには、3分もかからない)
(そう。彼女は考えに考えた末、ちゃぶ台をまるごとひっくり返して、今日という日をなかったことにする決断をしたのだった)
(より簡潔にいうなら、逃げた)
(でも、ウエハースメザー・パシフィックという鬼は、それを逃走とは認識していないだろう)
(例えるなら、ゲームしてたら読みこみがやたら遅くてストレスが溜まったんで、途中で電源を切ってふて寝した、みたいな感覚だ)

(「痛いのはイヤだ! 戦闘狂の相手もやってらんない!」)
(「さらに相手変えて二戦目、三戦目? そんなギリギリチャレンジするもんかっての!」)
(「一方的になぶり殺しにするのは楽しいけど、こっちも死にかねないつばぜり合いは趣味じゃなーい!」)
(「めんどくさい邪魔者どもめ……死んじゃえ、死んじゃえ、くそっ……昆布採りも、あの赤服も、顔覚えたかんな!」)
(「今度、どっかでひとりきりでブラついてるとこ見かけたら、後ろから問答無用で即死パンチ叩き込んでやるぅ!」)

(そんなことを思いながら、「うわーん」と涙声で叫びつつ、我が家へ向かってゴーゴゴー)
(その後ろから眷族のカニたちも、わらわらわらわらついてくる)
(穴に逃げ込みきれなかった子たちは、四方八方にバラバラに別れて、陸路で戻ってくるだろう)
(潮が引くような動き。メザー本人はけっして認めることはないだろうが──)
(それは彼女の、生まれて初めての撤退であった)

【ファックが世界平和……? なんてこと、人類ぶちのめして世界を自分のものにしたい私には敵対的な単語じゃない!】
【ならばここは、街中で「ファック」と叫ぶ平和主義者たちを後ろから叩いて砕くロックな生き物を目指すことにしましょう】
【ドラム? ↑のとおり、私はまさにモノを叩くのが好きよ。岩状のものでごすんと叩いて、音楽を奏でてあげるわ!】
【あんたもギターと、お得意の大鎌を振り回して、美声で人類抹殺を叫びなさい! 真の音楽がここにある……!】
【作詞作曲はできないけれど、きっとわかる人にはきっとふたりのソウルが伝わるはずよ!】
【(世界初! 観客の悲鳴をメロディとして奏でる系ロックバンドがここに誕生した!)】
【(同じ観客、同じコンディションはありえないので、同じ演奏は二度と聴けないぞ! 要チェックだ!)】

【そしてこちらはこんな風に。第三者の出現は、私らしいへタレさを出すのにちょうどよかったかもしれない……!】
【昆布採りは、赤い子預かりで復活するのかしらん。……メカ昆布採りとか、今後顔出したりしないわよね……!?】

151 ◆BpYjFWEe7.:2021/06/23(水) 20:04:08
>>149-150

昆布漁師?誰かしら、誰の事かしら?――ああ、この子ね!きっとそう、この子の事ね!
駄目よ、名前はしっかりと言ってあげなければいけないわ。この子は――……名前、何だったかしら
フフフ、ごめんなさいね、ごめんなさい。私もこの子の名前は知らなかったわ

(メザーの心情を知ってか知らずか、くつくつと笑いを零しながら床に転がるもう一人の鬼を眺めて)
(対して、敗者たる伏した鬼は最早その会話すらも耳には入っていないのだろう。当然の事だ)
(確かにまだ生きている。生きているが――「まだ」が付く。その内に失血死かそれ以外が原因か、どちらにしても死ぬ未来は確実であろう)
(「かばい立てする」……その言葉に対して、これまた可笑しそうに笑って居た)
(最初は声を殺すかのように――やがて、我慢できなくなった様に体を震わせて)
(何が楽しいのか、何処が面白いのか。それは当の本人にしか分からない事ではあるけれど)


そうね、それも面白いかもしれないけれど――でも、この子は知り合いであって仲間では無いのだから
このまま死んでしまっても悲しまないの。悲しまない……?まるで人間みたいな事ね、どうなのでしょうね
ええと……ウエハースメザー?悲しむってどういう感情なのかしら。きっと難しい感情なのね。だって想像が出来ないもの
――……それで。私が此処に来た理由は簡単よ、とっても簡単。きっと私がこの子と戦ったら負けてしまうから
そんな子に勝った貴女とお話してみたかったの。だって、面白そうでしょう?どんな風にして勝ったのか、直接生き残った鬼から聞くのって
でも、巻き添えにされてしまうのは嫌、痛いのは嫌いなの。だから、その時は逃げるの。こう見えても逃げる事には自信があるのよ?
ウエハースメザーが追いかけようとしても、ずっとずっと遠くに逃げてしまうの

(見ず知らずでは無い。だけれど助ける理由も無い。仮にメザーがトドメを刺したとて、特段咎める事も止める事も無かったであろう)
(先ほどの鬼が闘争心を原動力として生きていたならば、この鬼は楽しそうであればそれで良い、との生き方をしているに違いない)
(敵意は無い。――それは強者の余裕だとかその様な物では無く、猫が興味を持って近寄ってきたと表した方がより正確)
(恐らくは、満身創痍なメザー相手でもこの鬼は逃げの一手を選択するのだろう。実力差、メザーの殺傷力の高さ、応用性。それらを判断した故に)
(尤も、この場で更なる戦闘に発展する事も無いのだからそれが実現する事も無いのだが――……)

――……あら。頭が落ちてしまったけれど痛く無いのかしら。とっても大きな塊が落ちてしまったみたい
ウエハースメザーは肉では無いのね。石かしら?陶器?もしかしたらもっと別なもの?
赤でも緑でも黒でも無い……貴女の血は透明なのね。血、かしら。血?綺麗な色の血が流れているのね
とても素敵な血。でも、頭に大きな穴が空いていたら少し揺れただけでも零れそう。――大変ね、大変

(床に砕けたそれを興味深そうに見つめ、次に視線を蟹を従える少女へと移す)
(――文字通り、“肉”体の鬼ならば数多く見かけてきたが、まるで陶器にも思える体を持つ鬼を見たのはこれが初めてだ)
(爛々と輝かせた目は、より深く観察したい気持ちの表れ。――それを少女が許すとも思えないが、触れずに見る分には良いだろうか)
(威嚇されようと警戒されようとなんのその。どこ吹く風で砕けた破片と、大穴とを視線が何度も行き来して)
(そんな最中。咆哮……とまで行かずとも、感情をそのまま声にした様なソレには僅かにピクリと体を動かし)
(警戒を見せるも、攻撃を行う前兆でないと知ればまたくつくつと笑って)


お腹を壊したことは無いから分からないの。でも、酷いのね。凄くすごく酷いのかしら?
でも、私は戦いが嫌いだもの。痛くて面倒で、嫌なの。とっても嫌
――だから…………?

(戦う気は無い、と繋げようとした所。拳を振り上げた動作を見て――次の出来事を予期し、首を竦めた)
(――果たして叩き壊すような熾烈な音と異なれど、床へと変化を齎したその一撃)
(止める事もせず――否、止める術を持たないが故にそのまま見送る事となるのだが)
(呪いの言葉を吐いた少女に対して、和やかに手を振ってのソレだ。敵意が無い、そして気紛れ)
(まあ、また次の機会があるならば話してみれば良い――そんな考えなのだろう)
(世界は広い。そんな中で、また巡り合わせがあるかも分からないが……鬼の寿命は長い)
(それに、必然的に話題となるのだからソレを追えば良いのだ。何より、楽しそうな子だから……きっと、また名前を聞く日も遠くは無いだろう)

振られてしまったわね。でも、それもまた出会いの一つじゃないかしら
ねえ、貴女もそう思うでしょう――……?もう死んでしまったかしら。死んでしまったわね
でも大丈夫。私が貴女を本にしてお話を綴ってあげるから。貴女は死んでしまったけれど、それまで紡いだ貴女のお話が消えたわけではないのよ?
そろそろあの人たちも此処に到着しそうね。ふふ……私も帰ろうかしら
此処で死んでしまっては、新しいお話が読めなくなってしまうもの、ね?

(逃げ遅れた蟹達に何らかの危害を加える事もせず、小動物を見守るかの様に眺め)
(液体と化した床を興味深そうに指で触れていたが、遠くから近寄りつつある足音に中断)
(指の腹を擦り合わせて粒子を落したならば、腕を一振り)
(直ぐ側には球体状の虚ろな空間が出現して膨張し――少女と、死んだ鬼と。そして、鎌だけを飲み込んで消え失せてしまった)
(それから十数秒後。武装した人間達が到着するも、その通りの状態)
(既に朽ちつつある蜘蛛型の鬼を素材として回収し、被害状況の写真を収めた上での撤収となったのだと言う)

(数日後、件のショッピングモールも再開。事件翌日には鬼同士の争いであった可能性も含め新聞の一面記事となったり)
(ネット上では様々な考察が飛び交ったりするものの、それもまた何時もの事件として風化して行く)
(――結局は、人間は自分に直接の被害が無ければ興味も薄れていくのだろう)


【えー、出演者1名死亡によりお狐様であるボクが引き継ぐこととなりました。ファンの皆様にはご了承願います】
【それに伴ってグループ名も蟹の日本酒鍋へと変更になり……何さメザー。まさか不満があったりしないよね!】
【絶対こっちの方が活かしてるって!キミは和太鼓、ボクは篠笛か尺八でも吹いてさぁ……】
【木魚でも良いよ?あの形と音は良いものだし……何より魚って字がキミに相応しい!】

【「オレは倒される度に復活して立ちはだかってやるからなァ!!ゼッテー次こそブっころ……」】
【今回でキミの出番は終わりだからメカ化も第2形態も無いってスタッフさんが】
【「……現場からは以上だ!!!」】

152ウエハースメザー ◆k1072NP5UU:2021/06/28(月) 23:27:24
>>151
(人類は社会的な動物だ)
(一体一体は脆弱で、彼らの造るもの自体も鬼にとっては藁のようなものだが)
(しかしその数と連携という面で見ると、人類に匹敵できる鬼は存在しないだろう)
(鬼と鬼の殺し合いによって、ずたずたに破壊されたショッピングモールも)
(彼らの知識と技術にかかれば、ほんの数日で復旧し、出来事そのものが過去へと押しやられていく)

(ウエハースメザー・パシフィックは、無数の眷属を抱える集団戦を得意とする鬼ではあるが)
(その本質はあくまで、大量の道具とたったひとりの使用者だ。そこに社会性はない)
(戦いで負った傷を治すのはメザー自身がやらねばならないし、破損した道具を直すのもメザーの仕事だ)
(マイナスをゼロに戻し、再び動き出すために必要とする時間は、どうあがいても人間に勝てない)
(……深く暗い海の底。さらさらの砂地に胎児の姿勢で横たわり、メザーはうーんうーんと唸っている)
(昆布採りとの死闘で負った傷を、少しずつ、少しずつ、持ち前の回復力だけを頼りに治していく)

うえあああぁぁ〜……いたい、いたいいいぃぃぃ〜……。
こん畜生めぇ〜……今回の遠征は、さ、さ、散々だったわっ……!
あ、あんな、でかいわけでも数が多いわけでもないやつ相手に、ここまで怪我させられるなんてっ!
地力か? ただ純粋なフィジカルかぁ〜っ……? それだけで私、こんなにバッキバキに割られたのっ……!?
くそう、ガチ悔しい……私も拳に拳でやり返せるぐらい、カラダ鍛えたほうがいいのかしら。
あ、痛っ、いたたたっ……頭のひびが広がるっ……まだちゃんとつながってないっ、絶対安静、絶対安静ッ……!

(もうすでに一週間ほど、彼女は療養を続けている)
(欠けて落ちた頭からは、赤い珊瑚の枝を無数に生やし、顔や首に走ったひびはフジツボで埋めている)
(これらが定着し、メザーの新しい肉体のパーツとしてなじんだあと、余計な部分が剥落し、彼女は健康体に戻るのだ)
(メザーより構造が簡単な小ガニたちは、どれだけの数が失われても、3日程度で『作り直し』することができるが)
(今は本体がそれどころではないため、眷属の補填作業も棚上げになっている)

あーもう、アイスも持ってこれなかったし、最悪よっ……!
でも、でもでも、損失ばかり抱えて泣き寝入りする根性なしの私じゃないわ。
痛い目見ながらも、学んだことは確かにあるっ……次に生かすために、忘れちゃいけないことは覚えておこうっ!
ひとつっ、物陰からの不意討ちには注意すべーしっ! 特に頭を狙った石投げッ!
ふたつっ、チビで防御力紙でも、かまわず突進してくるやつはいるっ……! 慌てず対処しないとダメっ……!
みっつっ、とどめ刺すと決めたときは、迷わず頭を踏み潰すべしっ……! とろとろしてたら邪魔が入るっ……!
……いやでも、みっつめはいいかな? あの昆布採り、きっと死んだだろうし……あそこまでやったら生きてないよね?
でも、万が一生きてたら……いやいや、心配しすぎだと思うけど……。
ええい、こんなことグルグル考えなくてもいいように、やっぱり頭は踏んどくべきだ! そしたら安心できる!

……というか。あとから来たあの赤い服の女は、何だったのかしら。
昆布採りの仲間にしては言ってることおかしかったし、あれを助けようって雰囲気もなかったし。
よく考えたら、あれの名前も聞いてない……聞いてなかったわよね確か……?
うん、どっちにせよ、これも忘れちゃいけないよっつめね。戦いに乱入してくるアホがいるかもって思っとくべし。
あいつが下品にも「こんにちは、死ね!」してきてたら、さすがの私も死んでたかもしれない。マジで気をつけないと。
次にどこかで見かけたら、問答無用で即死攻撃ぶち込むのがいいかも。
眷属たちを10匹ぐらいまとめて、球体にして投げつけるの。直径5メートルぐらいの範囲なら一瞬で粉にできるわ。
この必殺技、いざというときにさっと使えるよう練習しとこう。名前は……かに玉アタックでいいか。
まあ、この広い世界、どこかで偶然出会うなんて、そうそうないかもだけど……。

(水面すらまともに見えないぐらい、深い深い水の底で、ひとりつぶやきながら、メザーはさざ波立つ心を押さえつける)
(あの不気味な赤服の女に、またどこか出会うかもしれないという不安)
(死を確かめられなかった昆布採りが、本当は生きていてまた戦うことになるかもという不安)
(それらはまったく好ましくない、精神にぶら下がった重りだ)

生きるならば。……幸福でいたいならば。「安心」を持たなければいけない。
不安や恐怖は、弱者のものだわ……私はこの世界を支配し……完全な「安心」を得なければならない……。
誰にも脅かされることがないという、最強者のみが持ち得る幸福を、他ならぬこの私が手に入れなくっちゃ……。
うん。やはり、狙って会おうとは思わないけれど、あの赤服はいつか殺す。
10年後か、100年後か、10000年後か、10000000000年後か。偶然出会ったときは叩き潰して、「安心」するとしましょう。
どんな能力の鬼か人間かわかんないけど、なぁに、粉にすりゃさすがに死ぬでしょ。
先のことを決めると少し安心した。よし……休みながら、もう少しいろいろ決めるかな……。

(ゆっくりと流れる時間の中で、まぶたを閉じたり、開けたりしながら、取り留めのない思考に浸る)
(次はどこの海岸から上陸して、人を襲おうか。チョコミントアイスと抹茶アイスを見つけたら、どっちを先に食べようか)
(より効率的に人を粉々にするには、どんな風に眷属たちを動かせばいいか。軽油は飲んでも大丈夫だろうか)
(海流に巻き上げられた砂に半ば埋もれて、まどろみはさらに深くなる)
(ウエハースメザー・パシフィックの駆逐すべき敵対生物は、まだこの世に何十億と存在する)
(それでも慌てることはないし、恐れることもない。時間は鬼である彼女の味方だし、彼女は自分の強さを知っている)
(遠い遠い年月の果て。地球上に自分しかいないという、理想の未来を夢見ながら、メザーは眠る……)

【というわけで、こちらも締めよ!】
【昆布採り、死んでしまったのね……とりあえず合掌(ただし、あの世という概念はない)】
【でも、これで終わりなのかしら……? 赤服女がしれっと死骸を持っていったし、あるいはと思ってしまうわ……!】
【生き返らないにしても、能力が収集されるとかぐらいはありそう。能力バトル系だとひとりはいるラーニング能力者!】

【鍋の名前は油揚げと冬野菜の京風鍋とかならご馳走になるわ。海草以外の植物もたまに食べたくなるの】
【木魚……木魚かぁ……確かに字ヅラはとても魅力的……!】
【でも、実物見たら、どこも魚っぽくなくて首を傾げる自身がある! 魚と称するには丸すぎない!?】

【そして最後にもう一度、良い試合をしてくれた昆布採りに合掌】
【まあ安心なさい! 某世界には、ひとりで30種類以上の不老不死のパターンを網羅した元オーストラリア首相もいるのよ!】
【メカ化も第2形態もなくても、その他いろいろな方法で復活のとかリターンズとか帰ってきたとかできるかもしれない!】
【いっそ、私の記憶の中で生き続ける系のオチでもいいわよ!】
【とにかく、ありがとう! 楽しい命の取りあいだったわ! 鬼同士でなら、これくらい殺伐としたのもアリよね!】
【こちらの現場からも以上よ!】

153 ◆MfBiO.rGQU:2021/07/04(日) 23:16:36
【閑話】

(『鬼鉄屋』の工房は、巨大な炉や巨大な作業機械『ダイダラ』が収まるだけあり)
(小さな体育館ほどもある巨大な建物であるが)
(今そこは、巨大な肉の塊によってみっちりと占拠されていた)

――でーっか。
これ、あれでしょ? 市街地のし歩いてたのが、誰ぞに穴だらけにされてたっていう……
(鬼鉄屋の主、金鎚 祀は、専用のグローブで覆われた手で、巨大な肉塊……鬼の死骸を撫でる)
(固く、しかし表面的には柔らかいそれは、子供の頃に遠足で行った動物園で見た、アフリカ象を思わせた)
(――いや、象に乗ってみる体験イベントやってたんだ)

「ああ、どうも来訪者らしいが……詳しいことは解らねえ、ギルドの方に取られちまったからな。
 知り合いのワンコロにも聞いてみたけど、「守秘義務ですんで!」の一点張りだ。
 ――ま、良いだろ、それは。要求通り、『相応にデカくて、質のいい鬼鉄』だ」
(そう言ってくるのは、零課の日疋 暁一)
(季節柄だいぶ薄着ではあるが、相変わらずの分厚いミトン型グローブが暑苦しい)

でも、こんな大物よく売ってくれたねえ、零課。
研究用でも武装用でも、喉から手が出るほど欲しいって人多いんじゃない?

「それが、研究用にはもうあんまり役に立たないんだと。
 ――まあ、穴だらけだしな。内臓もボコボコで、欲しい所が根こそぎ駄目になっちまってるんだとさ」

あー、うん、まあ、そりゃあねえ……
(死骸を見れば、焼け焦げた大穴や、切り落とされた部分が結構多い)
(SFで見るレーザーとかビームとか、そういう武装でやられたような傷口だ)
(確かに、見るからに「状態の良い」死骸ではない……)

「んで、武装用の方は……まあ、金積んだ。
 貯金だいぶと、向こう10年のローンと……」

……家でも買う気?
そーんなに突っ込んじゃって、入れ込み過ぎじゃない?
(呆れ顔で、言う)
(いくら今の世界で『鬼』が深刻な問題だと言っても、こいつは鬼退治に身命を賭すってタイプではないと思っていたからだ)
(おとぎ話の桃太郎さんじゃあるまいし)
(だが、当人は平然と)

「恋助けるために頑張れ、つったのはお前だろうが。
 ちっとやそっとは入れ込まねえとな」
(こうだ)

へいへい。ヒーロー気取りかよ。
少年漫画のキャラじゃねーんだから……
(そう言われれば、引き下がるしかない)
(その通り、言ったのは自分だったから)
「おい聞こえてんぞ。――あと、作戦があるっつってな」

作戦? なんの? 恋ちゃん救出の?
「いや……エノーラ・デフラル。あいつの攻略作戦だ」
エノーラ……って、あの『べとべと鬼』? ネットじゃ観察スレとかあるアイツ?
どっかの地ビール工場が潰されたってビールマニアからヘイト集めてるアレ?
「いや知らんが……てか、そんな事になってたのかあいつ。
 まあ多分そいつだ。お前と話してた通りのモンに仕上がって、ギルドのワンコロに話が通れば、行けそうなんでな。
 慣れねえ頭使って、大隅さんにも手伝って貰って、作戦提案書にしてアピールした。
 ……あんまり上等なもんじゃねえと思うが、どこもかしこも攻めあぐねてんだろ。
 ウチと国防軍、あとどっかの企業軍で、アホみてーな作戦が実行された記録もあるしな……」
(そう言う日疋の顔は――いつもそうだが、更に酷い――しかめっ面で)

アホ……そんなに……?
ま、まあいいよ、これだけデカけりゃ、かなりの量の鬼鉄にできるだろうし、そうなりゃ試作品も作れるから。
――なんか、病気みたいなもん撒いてたんだって?
「ああ、インフルエンザみてーな症状のな。幸い、後遺症みたいなもんは残らなかったらしいが……」
ふんふん、いいねいいね、そういうバラマキ系のは実にいい感じだよ。
上手いこと『毒抜き』して、「伝染」を「伝搬」に抑えられれば……
(言っている内に、段々とテンションが上ってきて)
(べしべしべし、と鬼の死骸を叩く)
(――うん、なかなかにいい感触)
(こういうでっかい肉の塊みたいな、そういう感触ってちょっと癖になるんだけど、わからん?)
(……と、ちょっと色々とテンション任せになっていたのに気付いて、コホン、と咳払い)

――え、ええと、まあ分かった、早速取り掛かるよ。あんたの体型は取ってあるし、まあ鬼鉄だから、あんまり不都合もないと思う。一回試作品作って、それを基にして本番作る感じかな、色々調整も要るだろうし。
余った鬼鉄は……買取ってことにしよか。せっかくだからそれで制作費はチャラにしたげるよ。
「おう。……正直、ありがてえ。こいつの買取でだいぶ困窮してるんでな……」
――まあ、そうだよね。ともかく、制作にはスグ取り掛かるけど、割と時間かかるだろうし、他の仕事も挟まるだろうし……
形になったら連絡するから、暇なときにでも来てよ。試しもやってもらわなきゃいけないしね。
「ああ、分かった。――よろしく頼む」
はいはい、仕事だからね。――半分くらいはあたしの実験でもあるし。
(ただ、早速、とは言っても、実際に取り掛かるのは明日からだ)
(今夜から早速『食事制限』を始めなければならない)
(体力勝負でもあるし、今夜は食って風呂に入って、さっさと寝てしまおう)
(――朱火ちゃんになにか文句を言われるかもしれないが、我慢してもらうしか無い)
(仕方ない、社会人は大変なのだ……)

【了】


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