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異界が発生した世界のロールスレ
6
:
◆bY.FBdBpj.
:2020/12/14(月) 23:43:33
【キャラクター@参加者一覧】 ※2020/12/14(月) 21:55:02時点
エレティコス@◆BpYjFWEe7. >>
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17097/1603454505/5
継膳紗羅@◆BpYjFWEe7. >>
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α-130型@◆BpYjFWEe7. >>
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アリス=インセント@◆BpYjFWEe7. >>
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神羅万象@◆BpYjFWEe7. >>
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冥塚仁王@◆BpYjFWEe7. >>
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ブリード@◆BpYjFWEe7. >>
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天道煇@◆BpYjFWEe7. >>
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鉄鎚祀@◆MfBiO.rGQU >>
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朱火@◆MfBiO.rGQU >>
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威狛/猩々/天虹@◆MfBiO.rGQU >>
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日疋暁一@◆MfBiO.rGQU >>
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昼子未来@◆bY.FBdBpj. >>
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17097/1603454505/15
メルティ=メルル@◆bY.FBdBpj. >>
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17097/1603454505/393
下関鉄火@◆ZiOG0lyEZs >>
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エマ@◆ZiOG0lyEZs >>
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fffff@◆ZiOG0lyEZs >>
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17097/1603454505/111
鯖江透子@◆ZiOG0lyEZs >>
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17097/1603454505/524
ゲオルグ・コルヴィッツ@◆ZiOG0lyEZs >>
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17097/1603454505/525
関川志桜里@◆ZiOG0lyEZs >>
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17097/1603454505/527
藤壺闘司@◆ZiOG0lyEZs >>
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17097/1603454505/663
ウエハースメザー・パシフィック@◆k1072NP5UU >>
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エノーラ・デフラル@◆k1072NP5UU >>
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ソニアリップ・グレイ・グリッツナイン@◆k1072NP5UU >>
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17097/1603454505/621
流しのおでん屋@◆mEjXUlYtLo >>
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ナディア・ケストラル@◆mEjXUlYtLo >>
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星史郎@◆mEjXUlYtLo >>
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時任綾雪@◆bdmTZsjpqc >>
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占部・蓮/恋@◆v6j.R9Z2OE >>
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榎本正@◆v6j.R9Z2OE >>
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須藤透@◆v6j.R9Z2OE >>
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忍法・「燕女」@◆v6j.R9Z2OE >>
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「皇帝」@◆v6j.R9Z2OE >>
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17097/1603454505/298
オスカー@◆v6j.R9Z2OE >>
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17097/1603454505/318
7
:
鉄槌 祀
◆MfBiO.rGQU
:2020/12/15(火) 00:32:47
>>5
(あたしの返事に、ちょっとだけ表情を和らげた大隅さんは)
(次の瞬間、また顔を引き締めていた)
――んん?
(差し出されたのは、黒いクリアファイル……黒いのに透明(クリア)? ニホンゴムズカシイネ)
(まあともかく、出てきたのは、表やらグラフやらがまとめられた印刷用紙)
(中身は――異界予報の実績データ、か)
(テレビでもネットでも見られるごく普通のデータ、別に機密でもなんでも無いと思うけど……)
――ふむ?
(大隅さんの口から出てきたのは……異界予報の手伝い?)
……なんであたしです?
ダウジングのアイテムでも作ります? 鬼鉄で。
(反射的に出たのはそれだった)
(一応、冗談ではない)
(時々……本当に時々、そういう依頼もある)
(高い金払って異界で戦闘できる人間を雇い、鬼を狩らせて、占いの道具だの儀式魔術のアイテムだの)
(怪しい代物を作ってくれ、というやつが居るのだ、実際に)
(まあ勿論、お代をいただければ断ったことはない)
(――それはさておき)
(大隅さんは、気にせずに説明を続ける)
(――確かに、思い出の中の異界予報は、大して信用できるものではなかった)
(ワイドショーの政権批判ネタとしては定番で、異界発生が予報より早すぎて逃げおくれた人や)
(逆に遅すぎて「なんだ何もなかった」と戻ってきた人が巻き込まれるなんて事故もあった)
(あたしの学校でも、巻き込まれた人は居た――しつこくあたしに粉かけてきた、チャラい先輩だけど)
(あたしの胸しか見てなかったのは解っていたし、終いには工房まで追いかけてきたので、金槌投げつけて追い払ったなあ)
(聞くところによると、どうもガチでガラの悪い連中とつるんでいたらしく、そいつらと一緒に居たときにまとめて被災したのだとか)
(――ただ、異界災害に巻き込まれて死んだ、と聞いたときの反応が「ああせいせいした」だったのは)
(我ながら、申し訳ないと思うけど)
(閑話休題)
(そんなもんだったから、たしかに批判の声も大きかった)
(雑誌や新聞の批判記事、あるいはテレビで見たデモなど)
(まあよくやるもんだ、と思いながら見ていたが)
(確かに、改めてここの数字を見てみれば、文句も言いたくなるだろう)
(一日に1000人を超える人死に)
(それも、病気や交通事故、老衰や自殺など、それまで普通にあった死人に上乗せする形での死亡数)
(一年で数十万人、という数字は、確かに洒落では済まされない)
――んー。
(そこまで考えて、こつん、と額をげんこつで叩いた)
(どうにも、他人事だな、と)
(数十万人には、それに倍する家族が居たのだろう)
(その数倍の、知り合いが居たのだろう)
(その人達にとっては、溜まったものではない)
(偶然、自分はそうではなかっただけだ)
――幸い、あたしの身内には、異界被災者は居ませんでしたね。
(「恨まれていたことも」という大隅さんの言葉)
(――誰が恨んでいたのか)
(わざわざ聞き出そうとはしないけど)
(気を取り直して、資料に目を落とす)
(じりじりと、言い方を変えればノロノロと、数を減らしていく死者数)
(異界予報――どう考えても、百葉箱や雨雲レーダーでどうこうできるものじゃない)
(多分、特殊な適合者や来訪者の協力があるのだろう)
(それでも、精度は上がらない、グラフが証明している)
(鬼の行動原理なんて、予測できる方がおかしい、とも言える)
(それが――ある時から、急激に数を減らしていく)
(時期にして5年前、そこから、グラフが示す数はずんずん減っていく)
(死亡総数も、平均死亡者数も。代わりに増えるのは、異界予報の的中率)
(なんだ、最近すごいじゃん、と思った所で)
(ぽん、と、数字が跳ね上がった)
(およそ1年前、数カ月に渡って、死者数が妙に増えている)
――これ、何かあったんです?
予報っつってもチームでやってるんでしょ?
まさか、予報チームがまるごと異界災害で――
(「やられたとか?」と、言おうとした矢先)
(遮るように、大隅さんの硬い声が聞こえた)
……それは、誰に対しても?
例えば、その詳細を知ってる人相手なら――ここの人相手なら、話してもオッケーですよね?
(矢立を受け取り、誓約書を手元に引き寄せながら、質問する)
(別に、混ぜっ返すつもりがある訳じゃない)
(その後、誰に聞けば、納得行く答えがもらえる可能性があるのか、その確認だ)
(後はまあ……厳密な意味で「誰にも話せない」ってなると、大隅さんとも話せなくなるし)
(――揚げ足取りか、これは)
まあ、別に断るつもりはないですけど。
(言って、スラスラと誓約書に署名する)
(――達筆、とは行かないのはご愛嬌)
(書き終えて、筆を誓約書から離し、ふう、と一息ついた所で)
(その言葉を、聞いた)
(途端、ぼんやりしていた情報が、組み上がっていくような感覚)
(5年前から跳ね上がった予報精度、なんでこんなのがここに、と思ったこと、1年前の急激な精度の悪化)
(ああ、と手を打ちたくなるような感覚、爽快感すらあった)
(そんなに、優秀な予報士だったのか、あいつら)
(なら、あの子らを欲しがるところなんてそれこそ掃いて捨てるほど……)
(――と、まで考えて)
……じゃあ、あたしは何しに?
自慢じゃないですが、あたしは持ち技能以外は一般人ですよ?
……異界予報の儀式の生贄になれ、とか言いませんよね?
(最後はちょっとわざとらしく、大げさなくらいの懐疑的なポーズを取ってみせて)
8
:
占部・蓮
◆v6j.R9Z2OE
:2020/12/15(火) 03:49:21
>>7
(「あるいは、あてにならない予報を恨まれていたこともあるかもしれません」)
(そう言ったのは、果たして誰だったのだろうか)
(「――幸い、あたしの身内には、異界被災者は居ませんでしたね。」)
(そう答えてくれたのは、果たして誰だっただろうか)
(大隅の表情は涼やかなまま、変わりはしなかった)
(けれど、数字に触れていた指先は、その言葉に、柔らかく、紙の資料から離れていった)
(その言葉を、「どうしてお前だけは」、と、恨むことのない人間に育てたことを思い出しながら)
(心から、その「幸い」を素直に祝福できる自らを噛み締めながら)
(鉄槌が額を打つ姿を、大隅は非情だとは思わなかった)
(零課にも、そして市井にも、今日を生き延び、明日を見据えて、強く前を向いて生きる)
(大多数の「数字」を気に留めずに、割り切って生きる者は多い)
(あまりにも死が身近すぎるのだ)
(そうして生きた方が、引き摺る影に振り向いて、泣きながら暮らすより余程いい)
(私、ネクラなんでしょうか)
(ふと、学生時代、多くの男子から言われた言葉を思い出し)
(明るく強く笑えるクラスメイトの鉄槌が居た幻想を、一瞬だけ弄ぶ)
(もし、そんな「もしも」があったなら、きっと、憧れてやまなかっただろう)
(いや、今もだろうか。つまらない男に言い寄られていたとき、彼女なら助けてくれた気がした)
「――――」
(その心遣いに、「まさか」と)
(そう言えれば、どれだけよかっただろう)
(場を和ませるつもりで、自分を責めるつもりは一切ない筈のその言葉に)
(けれど、次の言葉は、どうしてもワンテンポ、遅れてしまった)
(生贄)
(命に別状がすぐにはないだけで、その言葉の意味するところと)
(自分たちがやっていることは、一体、何が違うのだろう)
(突き刺さった言葉が、一瞬、唇と目元を震わせた。堪える)
(手元のクリアファイル内の資料で「特」「秘」と銘打たれた資料には、5年前の異界予報の日毎のデータがある)
(そして、それに紐付けられた、占部・恋、占部・蓮の――能力までを詳細に書き出した資料が)
(5年前、あの双子たちが零課に保護されたのは、100%に近い予報精度で異界出現地点が通報されたのがきっかけだった)
(双子たちは保護される数日前から既に予報を開始しており、脳裏に現れる風景から、浮かぶ数値の意味を突き止め)
(それが緯度と経度だということを理解し、通報したその日、初めて、彼らは自分たちで緯度と経度から異界出現地点を割り出したのだ)
(100%に近い数字は、双子たちが保護された日以降、発揮されることはなかった)
(異界予報に携わる人々は、精度70%程度の予報に首をひねりながらも)
(それでも異界予報が行える双子たちを、予報チームへと組み込むことを早期に決定する)
(70%は、それでも大きな数字だった。それほど大きな数字だった)
(それは幼い双子を交えての、届かない予報を埋めていく為の歩みになる筈だった)
(身辺調査の結果)
(その「数日前」が、保護された施設の施設員に性的虐待を受けた日であることが判明する)
(そして、性的虐待が行われた翌日に、予報は100%の精度を発揮していたことも)
(双子たちは、理解してしまっていた)
(誰にも触れられない夜の安らかな眠りは、もっと遠くまで伸ばせる筈の指先を届かせなくすることを)
(6歳の子供にもわかるくらいに。毎夜眠り、そして目覚めて告げる数字の数は、桁違いだった)
(大人たちも理解してしまった。だが、誰も、何も言わなかった。誰も言いたくなどなかった)
(6歳)
(精通もなかった。初潮もなかった)
(弟の初体験は、男性職員からのものだった)
(姉の初体験は、相手の職員が小男でなければ骨盤が歪んでいた筈だった)
『―――わたし、に』
『―――ぼく、に』
(7歳)
(恋が初潮を迎え、それに呼応するように蓮が精通する)
『―――あのひとたち、と、おなじことを、してください』
『―――あのひとたち、と、おなじことを、してください』
(ある夜、二人の健康診断を終えた医師の前で)
(双子たちは、診察着を自ら脱いで、告げた)
(ただでさえ少食で、施設の食料状況も悪かったために、悲しいほど痩せた身体だった)
(白い、白い、男の子とも、女の子とも殆ど見分けがつかない、小さな身体だった)
(二人は、医師にしがみつきながら、言ったという)
『―――おとうさんと、おかあさんを、たすけて』
『―――おとうさんと、おかあさんを、たすけて』
(身辺調査の結果、双子の両親は異界災害に巻き込まれて死亡したことが判明している)
(3歳のことだった。誰の父なのか。誰の母なのか)
(それは双子が助けられなかった、何も出来なかった、面影さえおぼろげな父と母だった)
(ぬくもりさえ既に微かな父と母だった)
『―――みんなの、おとうさんと、おかあさんを、たすけてください』
『―――みんなの、おとうさんと、おかあさんを、たすけてください』
(それはいつの日にか見た、街角ですれ違う、誰かの父と母だった)
『―――たすけて、ください、おねがいします』
『―――たすけて、ください、おねがいします』
『―――おねがい、します』
『―――おねがい、します』
『―――おねがいします』
『―――おねがいします』
『―――おねがい』
『―――おねがい』
『―――おねがい』
『―――おねがい』
『――――――たすけて』
『――――――たすけて』
『――――――たすけ、させて』
『――――――たすけ、させて』
『――――――たすけ、させて、ください』
『――――――たすけ、させて、ください』
『――――――しなないで』
『――――――しなないで』
『おとうさん……』
『おかあさん……』
(誰も何も言わなかった)
(誰も何も言えなかった)
(誰も言いたくなどなかった)
(誰もが言っていい筈がないと判っていた)
(だから、双子は、自分で決めて、言った)
(繰り返し、言い続け、希った)
(大人にしがみつくことすら精一杯のその手で)
(小さな手のひらに有り余るモノを救って欲しいと)
(涙に霞む声で、大人を初めて求めた)
(「抱いてください」と頼む言葉すら知らない幼さのままに)
(その医師は泣きながら、ただ二人を抱きしめ続けていたという)
(大の大人が、まるで子供に縋り付くかのように、歯を食い縛りながら泣いていたという)
(「咽び泣く」、そう言い表すのに相応しい、魂からの慟哭だった)
(――皮肉なことに、その嗚咽を聞きつけて駆けつけた課員により、その光景が発見されたことで)
(後日、その医師は事情聴取を受けて、全てを話し―――双子たちの意思は、伝わった)
(そして。4年前のある日を境に、被災死者数は1000人を割ることになる)
(概算で、日に約200人、年間で約7万3000人)
(4年でのべ約30万人)
(それが、あの夜に希った双子たちが、大人たちと一緒に伸ばした指先、が届いた数字だった)
(件の医師は記憶処置を自ら望んだ後、零課を辞したことが無機質なフォントの文字で調書の中に一行だけ記されていた)
(大隅は――その全てが記された資料を、黙って机の上に置いた)
(「特」「秘」の文字が踊る表紙に、国防に食い込む双子の全てが記されていた)
「――――零課と国防軍。
国防機密に関わる部署の方々は、誓約対象外になる別の誓約を結んでいます。
零課であれば、日疋くん、私。
エレティコス課長などが、そうです。
鉄槌さんも、こちらの情報を知った瞬間から、準零課員扱いとなり
今までの外部嘱託業者の方から、特例公務員の扱いで、零課に籍だけ置いていただく形になります」
(大隅は全ての感情を押し殺した声で、双子の全てが記された書類を鉄槌へと差し出し)
(閲覧を促すと、いつもと変わらぬ、「準零課員扱い」の契約書と同意書を、鉄槌の前に追加で置いた)
(ただの紙切れ2枚が、鉛のように重く感じるのは久しぶりだった)
9
:
鉄槌 祀
◆MfBiO.rGQU
:2020/12/15(火) 22:13:10
>>8
(――あれ?)
(「生贄になれ、とか言いませんよね?」という、割と渾身のジョークだったが)
(どうも滑ったと言うか、当たりどころが悪かったと言うか)
(大隅さんの反応が、鈍る)
(――が、その数秒後、スッ、と資料ファイルが差し出された)
(と、大隅さんから、最後通告のような言葉)
(ふむ。……まあ、ここまで来たんだし)
(今更引き下がれない、というか、引き下がるにはちょっと、タイミングを逸しすぎた)
(ならまずは、やることをやってしまおう)
(零課の準課員扱いに対する契約書と同意書、それにさっさとサインをしてしまう)
(知ってしまえば忘れるか進むかしか無いのなら、実質的にどっちが先でも関係あるまい)
(なら、先にこっちを済ませてしまったほうが気が楽だ)
(サインを終え、いよいよ、といった体で、デカデカと『特』だの『秘』だのと書かれたそれを、手にとって、めくる)
(――結論を先に言えば、通しで3回読んだ)
(1回目は、感情を制御することに専念した)
(頭の中で刀を打つときのことを思い出す)
(真っ赤に焼けた鬼鉄をハンマーで叩く、音、感触、飛び散る火花)
(その際に最も大切なのは、余計な念を混ぜないこと)
(テンションの上下は邪念、雑念の有無とは関係なく、しかし邪念、雑念の有無は、武具の出来に大きく関わってくる)
(これも同じだ、余計なことを考えず、ただ、情報を受け取ることに専念……専念、する……しろ)
(2回目で、データを噛み砕き、理解に務める)
(書いてあることはともかく、データの内容自体はさっきまでの予報精度の裏付けに過ぎない)
(『何』を『どうする』と『どうなる』のか、その情報が補強されるだけだ)
(極めて合理的な話であり、口を挟む余地はない……)
(3回目で、もう一度内容を確認した)
(データに破綻はないか、余計な情報が混ざっていないか、こちらを誤魔化すようなデータの用い方がされていないか)
(最初から最後まで、もう一度丁寧に読み直して)
(確信した)
(少なくとも、こいつらは正気でやっているのだと)
(倫理は逸脱しているのかもしれない、非難は避けられないのかもしれない)
(だが少なくとも、こいつらは正気だ……データは嘘をつかない)
(正しいデータを残しているやつが言うことは、信じるしか無い……)
―――フーーーー……
(ファイルを閉じて押し返し、大きく息を吸って、吐く)
(肘をついて両手を合わせ、それを額にくっつけるようにしてうなだれて)
(そのまま数分、何も考えずに脳を休めた)
――あの、あたしもそこまで察しが悪いとは思わないんで、跳ばしで聞きますけど。
(あの資料を渡されて、異界予報の協力を頼む、と門外漢が言われているのだ)
(むしろ馬鹿でなければ誰だって解る)
なんで、あたしなんですか?
(さっき聞いた、そして答えを貰えなかった質問を、もう一度繰り返した)
10
:
占部・蓮
◆v6j.R9Z2OE
:2020/12/15(火) 23:36:09
>>9
(先に書類へのサインが行われた)
(果断な人物だという評価が、改めて補強される)
(大隅が、自分で思うよりも、ノロノロと。その書類を、ファイルにしまう前で)
(機密資料の情報に、鉄槌が目を通し始めた)
(胃の、上の辺りが、ギュッと締め付けられる気がする)
(同時に、見えない何かが、首を締め付けてくる)
(それは精神的な重圧が、物理的な圧迫を伴って、呼吸をじわり、じわりと抑え込んでくる)
(先の見えない、暗闇を歩いているような感覚が毎日するのだ)
(それは時折、真っ黒な手を伸ばして、長い黒髪を掻き分け、そろりと喉に巻き付いてくる)
(耳元の囁きは、日毎、別の何かを囁いてくる。それは心無い市民の声)
(それは遺族のぶつけどころのない怒り。それは、死んでいった仲間たちの無念の呟き)
(形のない不安だ。――それに比べて、なんて、楽なんだろう。そう自分に言い聞かせる)
(少なくとも、今。目の前の人は。そうした、へばりつくような暗闇の声を齎さないだろう)
(怒る時は怒ってくれる人だと、大隅の勘でしかなかったが、信じられた)
(怒声も罵声も、受け止める覚悟はしてきた。――その先の期待も、抱いていた)
(勝算がなければ、こんな大それた頼み事は出来ない)
(それでも……やはり、気は咎めた。そして気が滅入った)
(なんのことはない)
(この人に嫌われたり軽蔑されるのは、堪える。それだけだった)
(慣れていた)
(一度目。資料を読み終えて)
(罵声も怒声も、飛んでこなかった)
(賭けに、勝ったと思った)
(すぐさま資料を読み直し始めるその顔を、大隅はじっと見続けていた)
(雑念を払うことに集中する職人の表情から、今度は材質の見聞と見極めに集中する、理知的な表情へと切り替わる)
(二度目、資料を読み直し終えた鉄槌の挙措に、自分は、ふと、過去の自分に思いを馳せる)
(自分の時は、どうだったのだろうか)
(答えは見つからなかった。自分は――前提として。双子の身辺調査と、特に恋の資料の精査に携わったからだ)
(スタート地点が違った。そうしている間に、鉄槌が三度目の資料の再読を終える)
「―――――」
(大きく吐かれる鉄槌の息に……大隅は、全身の力が抜けていくようだった)
(一番の関門を、突破したと確認出来たからだ)
(気がつけば、持参のファイルを抱きしめて、椅子に沈み込むように、身体を丸めていた)
「……すみません」
(果たして、その声は届いていたかどうか。互いに身体を休めるような状況)
(投げかけられた声に、大隅は椅子に座り直し、姿勢を正すが)
(声は、一先ずの重圧から解放されたかのように、掠れていた)
(小さく咳払いをして、喉を正す)
(貴女は、責めないのか)
(貴女は、罵らないのか)
(貴女は、何も言わないのか)
(その資料を見て)
(そう問いたかった。正直に言えば、叫びたかった)
(だが、それは最も卑劣な行為だ)
(そうして欲しいと、そうされることで、少しでも自分の心を責め苦の痛みで誤魔化そうとする行いだった)
(そんなものを望んで、誰も彼もがしていることではないのだ)
(それに打ちのめされてでもやると決めたから、大隅も、他の皆も)
(倫理を捨てて、実利をとったのだ)
「……順を追って、話すべきなんでしょうけれど。
私も、跳ばしで、最後から2番目の決め手になった理由をお話します」
(尋ねられた理由に、答えられる説明はいくつもある)
(だがそれは、後に付け加える形でいいだろう、と。そう思った)
(真っ直ぐに自分を射抜く視線に、大隅は、心の苦痛も、良心の痛みも抑え込んで)
(涼やかな表情で、答えた)
「――――貴女は、この協力を仰ぐに相応しい人だと、零課が判断したからです。
貴女は私達に関わりながら、貴女の武器を受け取る筈の誰かが欠けても
それを悔やみこそすれ、“悔やみすぎる”ことはありませんでした。
私達は、肩を並べて危険に赴く以上……
どうしても、戦友である課員への感情を大きくし過ぎてしまう。
それは、占部さんたちも、同じなんです。あの子たちは戦う場所が違うだけで、零課の課員です。
どうしても、同じ痛みを。前線に出れない分、後方課員には後方課員の懊悩がありますが
あの子たちはその後方課員の中でも、特異な葛藤を抱えています。
大なり小なり、私達に付き纏う影の匂いが、貴女にはありません。
そして、貴女にこの理由を話したとして……貴女は、それを“冷たい”と感じる人ではない。
それは、貴女が人間関係での感情の割り切りに優れているからであり
必要以上に、身を入れないということは、長所だと……私個人は思います。
明かしてしまいますが貴女を推薦したのは、私です。
貴女は、恋さんのことで沈んでいる蓮くんと私たちを、外から励ましてくれました。
私達が命懸けで守っている『平和』と『安全』の中から、私達に手を伸ばしてくれました。
今も、伸ばそうとしてくれています。
私達が、自分たちのやっていることを誇りに思えるほどに善良で。
でも、善良で繊細すぎはしない。この時代を、一人の独立した職人として
したたかに、そして、強く逞しく生きて…………その上で、貴女は、誰かに優しく出来る人だからです」
(優しいだけでは、苦しい)
(そして強いだけでは、生きていけない)
(優しく強く生きられる才能は)
(戦う力の是非ではないのだ)
(一つ一つ、言葉を区切り、目を逸らさず。照れもせず)
(そんな理由を、訥々と述べて。ファイルから、身辺調査の結果資料を出す)
(それは必要なもので、申し訳なく思うが、そこで謝ってしまうのは)
(自らの行いに非があると言ってしまうことになる)
(だから、その資料を鉄槌の前に出す時に、大隅はいつもと違って、謝らなかった)
「――事前に身辺調査をさせていただいて、クリアされているとか。
――病状や交際記録を確認させていただいて、問題ない、と確認できたとか」
「そういうのは、全部、この結論を固める為の前提条件、ですね。
……蓮くんと恋さんの2人で行えていた2交代の予報シフトが、今は蓮くん一人でしか組めません。
女性側の負担が大きくなったことで、我々の課員の人事状況もあって、女性の協力者を欲していたのは……」
(そこだけは申し訳なく思い、誰の非もないところなので、「申し訳ないのですが」と、そう謝った上で)
「……最後から2番目の理由は、以上になります。
最後の決め手になった理由は、私からはお伝え出来ません」
(大隅は、最後にそう、付け足した)
「――最後に決めたのは、蓮くんですから。その理由は、蓮くんに聞いて下さい」
(常に最後の意思を決定している少年の名前を)
(その一言に、常、彼の意思が最終決定を下すものだという揺るがない姿勢が根付いていた)
11
:
鉄槌 祀
◆MfBiO.rGQU
:2020/12/16(水) 22:45:20
>>10
(一通り、うなだれ切ったという気がしたので)
(頭を上げ、再び大隅さんに目を向ける)
(彼女が、どんな顔をしていたか、それはあえて目に入らないようにしていた)
(見るべきではないと思っていたのか、それとも見たくなかったのか)
(――どっちかは、自分でもよく分からないが)
(そして、再び目にした大隅さんは……さっきまでの、涼し気な表情だった)
(それでいい、と思う――そうしていてくれ、と思う)
(どんな時であれ、泣きそうな顔よりはよほど良い、と思ったからだ)
――なんだか、随分ロマンチックと言うか、ポエミーな答え来ましたね。
(思わず苦笑――して、おっと、笑う余裕があるのか、と自分で驚いた)
(また新たに差し出された資料を手にとって、中身に目を通す)
(――うえー、メチャクチャ調べてあるじゃん)
(病院の通院記録、健康診断の記録、性病の有無……本当によくぞまあ、といったところ)
(学校時代の交友関係とか、よく調べたもんだ)
(――あ、同居人の欄、『多々良 朱火』だって)
(朱火ちゃんはあたしから見ていとこのいとこあたりの親戚で、両親はもう亡くなっている――ということになっている、という話)
(佐々木・燕女さん……申し訳ないけど、どうにも胡散臭い人だなと思っていたら、本当に胡散臭い人だったらしい)
(朱火ちゃんの大昔の知り合いの部下だと言うから、胡散臭さは天井知らずだろう)
(――だけど、仕事は確かだった、という証明だ)
(こんどお礼しなくては)
(などと思っていたら、こんどはシフトの話と来たもんだ)
(苦笑が、本格的に笑いに変わってくる)
(こういうのもギャップどうこうというのだろうか)
(くっくっく、と腹筋を震わせて、顔を伏せ、流石に声は抑えるように苦労して)
――あ、ちゃんとあの子からご指名あるんですね、良かった。
(答えたときには、なんとか笑いの残滓が残っているだけ、位には抑え込めた)
でも、本当に大丈夫です? 見誤ってません?
このタイミングで笑えてる奴ですよ?
――でもまあ、良いですよ。やりましょ。
ご指名付きじゃ、断れませんしね。
(笑ったら、随分気が楽になった)
(落ち着いてみれば、感情的になってしまったのも恥ずかしい話だ)
(引っかかっていたのは最後の一つ――蓮の意思だけだったという気もする)
(半纏の内懐から手帳を取り出して、スケジュールを確認)
えーと、来週一杯まではまとめてお休みなんで、その間ならいつでも。
こっちで用意するものとかあります? 着替えとか寝間着……は要るかどうか微妙だけど。
……あ――小道具とか、用意したほうが良いです?
(最後の言葉は、やや眉をひそめて神妙に)
(こうして、あたしは立場上、零課の一員になった)
(仕事は一つ……11歳の子供とヤッて、一発キメるのだ)
【閑話――面接終了後】
ところで、ですね?
(話が終わり、お疲れさまでした、という流れで、ポロリと頭の中から転がり落ちてきた疑問があった)
あの、さっきの『誓約対象外』の人の話ですけど。
――なんで日疋です??
いやほら、たしかに二人共通で知ってる相手じゃありますけど。
そういうときって、もうちょっとこう、部隊長とか、そういうまとめ役的な人の名前が出るべきじゃ?
というか、あいつがウチに――鬼鉄屋にちょくちょく通ってるって、知ってたんですか??
……ああ、さっきの資料に載ってたっけ? 見落としてたかな……
(そんな事を言ってみたり)
12
:
占部・蓮
◆v6j.R9Z2OE
:2020/12/17(木) 01:14:08
>>11
(身辺調査、身体関係のプライバシー、過去の交友関係、現在の交際関係の詮索)
(そうした情報が記録された資料を目にしても、鉄槌は眉一つひそめることなく、笑ってみせる)
(強い人だ、と。何度目か、わからないが、大隅はそう思う)
(その笑顔に、励まされて出動する前線組の姿を思い)
(彼らが――帰らぬままに、遺品だけが戻ってきた後)
(彼女の飾らない、けれど重苦しく捉えすぎない励ましに、やはり何度となく、救われてきた)
(鉄槌の笑顔と、笑いの発作を見守って、ようやく―――大隅の表情に、一つ、笑顔が溢れる)
(涼やかな表情も似合うが、笑うと、春風のように穏やかな笑みを見せる女性だった)
「はい、勿論です。
それに……結局、これだけ大騒ぎしても。
男性と女性の、そういうお話ですからね。
最後は、そういう、ロマンチックでポエミーなお話に行き着くんです。
そうですね、プロファイリングです、とでも、勿体をつけさせていただければ」
(普段の会話では、こうした茶目っ気のある会話や言葉も出る女性だった)
(ようやく、そんな素顔が覗いた会話を交わし、彼女は鉄槌の「見誤っていないか」という問いに)
(長く美しい黒髪を靡かせて、ゆるゆると首を横に振ってみせた。見誤ってなど、何一ついなかった)
「笑ってくださるから、ですよ」
(そう、笑顔で答える。「断ってくださっても、いいんですよ」と、立場上はそういうべきだろう)
(だが、もう彼女は決めたのだ。なら、選択肢の余地を話す段階ではなく、もう選択は終わった段階だった)
「はい、着替えや寝間着はご自由にお願いします。
小道具もお任せします。繰り返しになりますが、男性と女性の、そういうお話ですから。
鉄槌さんのやりやすいようにしてください――――ただ、保安上、全て、事前確認だけはさせていただきます……」
(そこだけはままならないものではあるから、ここは保安上必要であっても、心情的な肩身の狭さで)
(やはり「すみません」と謝るのだが、その一言は、どこか、大きな大きな肩の荷物を下ろした、そんな表情とともに放たれた)
(危険日での職務を避ける為、そしてもし、避妊対策をした上で「失敗した場合」)
(生理周期の検査への同意書、ピルの服用かアフターピルによる避妊への同意)
(もし妊娠した場合、させた場合の親権の保証と妊娠、出産費用の国からの補填への同意)
(凡そ、11歳の少年相手との行為で並べていいものではない書類が続く)
(だが――残りの契約や誓約を進めていく大隅の表情はどこか晴れやかだった)
(この状況下で、笑っていられるくらいにタフな人なのだ)
(この強さは、きっと、あの少年を救ってくれると思った)
(そして、出来れば……あの少女にも、このあたたかさと大きさを味わって欲しいと、祈らずにはいられなかった)
「――――鉄槌さん」
(全ての会話が終わり、手続きが終わり。改めて後日、その予定が決まり)
(蓮との件の専用連絡先を手渡した後、大隅は最後に居住まいを正して)
「―――ありがとうございました」
(深々と、深々と。鉄槌へと頭を下げた)
(言葉に詰めきれぬ感情の籠もった、感謝の言葉だった)
「え? ああ、それは、以前、話されているのが見えたからでして……
日疋くんが鬼鉄屋に業務外で通っているのは、初めて知りました。そうだったんですね」
(最後のそんな一幕に投げかけられた一言は、そんな)
(一男性同僚と一女性同僚の関係の域を出ない、爽やかな回答だったという――――)
13
:
占部・蓮
◆v6j.R9Z2OE
:2020/12/17(木) 01:25:26
>>11
(――――日は過ぎて、数日後)
(零課宿舎の、別の奥まった一角)
(先の防諜区画とは別の、物理的な警備体制も随所に見られる宿舎へと場所は移る)
(その部屋は、一言で言えば、「優しい牢獄」だった)
(無機質すぎないように色調を柔らかなグレーに統一された部屋は、けれど)
(壁材との間に挟まれた防音材や、そもそもが強固な素材の壁材自体の重苦しさがどうしても消し切れない)
(大きなユニットバスを完備したシャワールームは、隔てる扉が強化ガラス材質のようなもので仕切られており、中が丸見えだった)
(浴室やシャワールームで何かあった際に、その他の防犯上の様々な理由で、すぐさま中の様子を確認できるようになってはいるのだが)
(プライバシーも何もあったものではなかった――いや、この部屋を主に訪れる人物たちには、厳密な意味でのプライバシーなどないのだ)
(部屋の中央には大人3人が横たわれるキングサイズのダブルベッド)
(サイドボードのテーブルには官品としての経口避妊薬。つまりアフターピルが詰め込まれていた)
(テーブルの別に抽斗には、ローションも。部屋の片隅には鏡台を兼ねた化粧台もある)
(壁際やベッドサイドに目立たないように配置されたコールのスイッチがあり、コール一つで保安員がなだれ込んでくる仕組みだ)
(それは、ここが最低限のプライバシーだけを守られた上で監視下にあることを静かに物語っている)
(この部屋に主に訪れる人物たちには皮下にバイタルチェック用のチップや発信機が埋め込まれていた)
(誤解を恐れずに言えば、造りはラブホテルの一室に似ているのだが、雰囲気は、それとは程遠い)
(確かに、「そういうこと」を――――セックスをする為の部屋には違いないのだが)
(そこは、そういう匂い以上に……別の執念が染み付いている部屋のように思えた)
(性的な用品を詰め込んだサイドボードとは反対側には、キャスターつきの可動式テーブルが一つある)
(端末と一体化しているらしく、キーボードの他に、折畳式アームが数台、その上にはモニターが複数配置されている)
(部屋の訪れる人物たちの、「仕事道具」だった)
(起動させられる端末は複数台、モニターも複数台。どれかが沈黙しても、シームレスに次の業務に移れるよう)
(「時間的な遅滞を削る為」の執念がとって見える工夫が凝らされていた。アームと可動式テーブルのあちこちには、メモとサインペンが用意されている)
(電子的に端末が全く無力になった時、アナログに手で数字を書き綴ることが出来るように準備が整えられていた)
(同一の端末は、部屋の別の一角にも備え付けられている)
―――ん、しょ……
(この部屋に主に訪れる人物……今は、人物「たち」ではなく、人物になってしまった少年)
(占部・蓮は、その可動式テーブルを部屋の片隅に移動させ、別の端末も含めてパーティションで隠す)
(この部屋での「職務」が終わり、就寝することもあった。だが、その眠りが破られたら)
(甘やかな寝覚めは、許されない。1秒でも早く、彼は予報を終えなければならなかった)
(彼らの部屋には同じ端末が用意されているが、ここで就寝して、自室まで戻るのには時間を要する)
(だから、ここも。彼にとっての「仕事場」で。彼と姉は進んで、その役割についていた)
(とは、言え。零課の課員にとって、その端末はある意味で凄まじい重圧を与えてしまう)
(行為の最中、目に入ってしまって連鎖的に感情を呼び起こしてしまい、感情が揺れ動く場合もあった)
(職務中に泣く大人の人を見てきた)
(職務中に、萎れてしまう男の人を見てきた)
(職務中に、我に返ってしまって縋り付く女の人を見てきた)
(そんな人を抱きしめて、膝の上に抱えた経験が、姉にも、弟にもあった)
(落ち着くのを待って、口に含んで、あるいは手で、再び昂ぶらせた経験も、姉弟ともにあった)
(だから、姉と弟の二人で決めて、せめて端末はパーティションで隠すことに決めた)
(本格的な清掃は業者の人にお願いするが、この部屋の軽い清掃や、整理整頓は双子たちの仕事だった)
(今は――占部・蓮、独りの仕事だった)
―――ん……
(事前準備を終えて、白いキングサイズの縁に腰を落ち着ける)
(いつも、零課の制服として着ているベストもキュロットも、今日は身につけていない)
(服装は、どこか手術着を思わせるような診察着だ。その方が洗濯に出す時、大人の人の手間にならないからだ)
(数多くの手術着、診察着と一緒に出して貰えば、それで済むから。そう考える子供だった)
(シニョンにまとめあげている黒髪も、今はシニョンを解いて、背中に流していた)
(細く、華奢で。目元まで伸びた長い黒髪が、視線を隠している)
(職務の前なので、入浴を終えた後なのだろう。ほのかな石鹸、シャンプーやコンディショナーの匂いが香る)
(中性的な撫で肩を落とせば、そこに掛かっていた黒髪が、するりと、診察着から覗く鎖骨を滑って胸元にかかる)
(そうしていれば、もう、少女にしか見えない、そんな少年だった)
(男の人にも、女の子に見えるように、という理由が、半分。もう半分は……姉とおそろいでいたかったからだ)
――――
(サイドボードの抽斗に、視線をやる)
(アフターピルやローションについては最初に確認していたので、期限などに問題はない)
(抽斗の中の、別の錠剤。興奮剤。そう教えられていた、ただの……ビタミン剤も)
(大人の人たちは、みんながみんなではないが、今、周りにいる人たちは概ね。優しいうそつきだった)
(だから、彼も、姉も。そんな大人が大好きだった。今でも、あのお医者さんに会いたいと思う日がある)
(でも、会えない。彼の姉は外出中に、誘拐、拉致の憂き目にあった)
(この官舎から出られるようになるのは、何年後だろう。それまで、生きていられるだろうか)
(能力は、自分の性器は、擦り切れないで、働いてくれるだろうか。そんなことを考える)
(あのお医者さんに会っても、あの人は姉弟のことを覚えてはいない。そういうきまりだった)
(会って、「ありがとう」と、そう伝えたら。もし、覚えていてくれたら、あの人は……ダメだ、きっとまた、泣かせてしまう)
(「あなたのおかげです」と。そう言って、苦しめたくなかった。あんなに苦しそうに泣く大人の人は、初めて見た)
(だから、やっぱり、自分たちは会わない方がいいのだ。それはとても、さびしいことだけれども)
――――
(サイドボードの上)
(そこに置かれた袱紗の包み、紅の飾り紐が結ばれた白鞘の刀子を、袱紗の包みごと、そっと握る)
(鞘の鯉口には「封」の札が張られ、彼がその刀子で自傷行為に走らないよう配慮されている。余人にも抜けない)
(だから刀身を窺い知ることは出来ないが……それでも。そこには、あの鮮やかな紅の彩光が輝いている筈だった)
(この輝きが残っている限りは、恋は無事だと、信じるしかなかった。双子の勘に縋るしかなかった)
(今日、ここには。この贈り物をくれた人が訪れる)
(大隅さんがお膳立てをしてくれたけれど。最後の最後には、蓮が決めた)
(自分たちには、この部屋も、服も、ご飯も、お金も)
(おとうさんとおかあさんを救うための手段も)
(きまりも用意してくれた人たちがたくさんいるのに)
(この上で、まだ。ぬくもりを求めてしまう自分が)
(ひどく、情けなくて、甘えている子供だと思えてしまう)
(もう一度、あのぬくもりが欲しい、と思ってしまった)
―――………恋……………
(気持ちが後ろ向きになるとき。自分たちを卑下しそうになるとき)
(そんな時は、互いの顔を見ながら、励ましあった)
(大人がみんな、頑張ってくれているのに)
(自分たちだけ、情けないとか、甘えているとかいって)
(その気持ちを台無しにしちゃダメだと、叱りあった)
(大人の人たちの優しさを無駄にしちゃダメだと、言い聞かせあった)
(泣きながら叱り合っても、喧嘩になったことはなかった)
(だって、世界中の誰よりも、相手の気持ちはわかっていたから)
(そうすることで、小さな小さな勇気を振り絞って)
(二人で立ち向かって、大人の人たちの期待に、答え続けられるように肩を支え合ってきたから)
(通信機越しでも、気持ちは一緒だった)
(今は、その声すらも届かない。確かめられない)
(だから、今は、恋が持ち続けられているかもわからないお守りに囁く)
(せめて、この言葉が届きますように、と)
―――恋が、戻ってくるまで、僕、頑張るから……
―――せめて、元気でいてね、恋……
(ちいさなちいさな、ささやかな願いを)
(そうして、袱紗の包みをサイドボードの上に戻すと、気持ちを切り替えて)
(診察着姿の蓮は、来客を待った。多くの多くの、プライバシーをほじくり返して)
(たくさんの書類を書いてでも、自分に応えてくれた、外の世界の、優しい人を)
14
:
鉄槌 祀
◆MfBiO.rGQU
:2020/12/17(木) 22:27:35
>>13
(案内されたのは、零課宿舎の随分と奥まったところ、警備体制も厳重な一角)
(――宿舎で警備体制というのも何だと思うが、いざとなれば周りの課員もここの防衛、ないしは制圧に向かうのだろう)
(言ってみれば、ここはこの宿舎の中で、防御も監視も一番厳しい区画なのだ)
(そんなところに通されて、途中で身体検査と持ち物検査を受け、通せるものは通してもらって、この扉の前にたどり着いた)
(持ち物はやや大きめのボストンバッグ一つ、服装はいつも通りのサラシに半纏……ではなく)
(Tシャツにジャージの上下という、軽装)
(身体検査がしやすい格好で、という配慮だったけど、要ったのかどうか)
(まあ、実際スムーズだったから良しとする)
――さて、と。
(改めて、一つ深呼吸して、ドアをノック……)
(しようとして、その扉の見るからに防音性の高そうな仕様に、意味ないなと思った)
(見れば、インターホンらしきものがある……ボタンを押せば、ぴんぽーん♪と軽い音)
やあやあ、どーも。鉄槌 祀でーす。
入って良い?
(軽く、気負わずに)
(今回ここに来るにあたって、自分で何が必要かを考慮した結果がそれだった)
(出来る限りの「いつも通り」で、――可能なら、ストレス発散になればいいな、と)
(そのための『考慮』もしてきたつもりだった)
(どうぞ、との短い声に従い、分厚い扉を開けて部屋に入る)
(映画館や学校の放送室を思わせる扉は、しかし鍵がついていない)
(保安上の理由、というやつか)
(部屋に入り、しっかりと扉を閉めて、改めて部屋の中を見回す)
(真ん中にベッドが一つ、その脇にテーブル)
(端にあるやたら立派なシャワールームはガラス張り……プレイ用かな?)
(いやそんな訳はない、あの中で爆弾仕込まれたりとかしないように、だろう)
(片隅には、何かを押し込んででもいるのか、不自然なパーティション……)
(そして、あえて意識から外していたが……ベッドに座る、占部の弟、蓮の姿)
や、どーも。――あ、お風呂入ったばっかり?
あたしも一応入ってから来たけどさ、もう1回入っといたほうが良いかな?
(ベッドに近寄り、バッグを足元に放り出す)
(ぼすん、とあまり重くもない音を立てたバッグをよそに、隣の蓮を見つめる)
(背はそんなに変わらず、しかし明らかに細い体は、もしかしたらあたしよりも軽いかもしれない)
(そんな彼と、今からすることを思い返して……)
――あ、そうだ、ちょっとあそこ、パーティション。
あそこ使わせてもらって良い? 着替えあるから。
荷物は全部OKもらってるから、ね?
(放り出したバッグをすぐに拾い上げて、そんな事を言う)
(なんというか、落ち着ける状態を作りたかったんだ)
(済ませることは先に済ませてしまったほうが良い)
(蓮の返事も確認せずに、部屋を仕切るように置かれたパーティションを空けて、蓮への目隠しを作る……うお、なんだこれすげえ)
(なにやらパソコンみたいなものがごちゃごちゃとくっついた、SF映画のセットみたいな機械)
(とりあえず触らないように注意しながら、ゴソゴソと着替えを始める)
(脱ぐものを脱いで、バッグの中に用意したものを着て――)
――やあやあ、お待たせー。どうよ、可愛い?
(着てきたのは、家でも愛用している着ぐるみパジャマ――勿論下ろしたて)
(家で着ているのは猫タイプだが、今着ているのは犬タイプ)
(柴犬カラーのふかふか生地がとってもキュートな一品だ)
(触り心地も着心地もいいし、何より温かいそれに身を包んで、蓮の隣に腰掛ける)
(――バッグは置きっぱなしだった。まあ、どうせ出るまで使わないし……)
――あ、そうだ。
大隅さんに聞いたんだけど。
……なんで、あたしなのかなって。
決めたのはお前だって言うからさ。理由聞いときたいなーって。
15
:
アリス=インセント
◆BpYjFWEe7.
:2020/12/18(金) 00:43:47
(この世界に来てから既に相応の歳月が経ち、この屋敷の認知度も向上した今日この頃)
(人食いの吸血鬼が住んでいる。異能を授ける代わりに寿命を奪う鬼が居る。綺麗なメイドさん達が居るが見たら目を抉られる)
(――山中にあるものだから、憶測が憶測を呼び、更に尾ひれが付いてネット上ではまるで都市伝説の様に噂されているのが現実だ)
(とは言え、それは興味本位で訪れる厄介な者達を遠ざける事にも役立っているのだから訂正することも無い)
(少なくともこの屋敷に関係する者達が真実を知っていれば良いのだから)
(さて、そんなメイドの内の一人、メルティ=メルルが学校に通うようになってからもそれなりに経つ)
(元の世界の事も有り、最初は本人等に気付かれる事無く、隠密が得意な屋敷の住民やメイドに見守りを頼んではいたが)
(それも必要ないと分かり、後は本人の力で年相応の青春を謳歌して貰おうと過度に首を突っ込むことも無く今に至る)
(食事の際などに時折話を聞いていたが――学校に通う事を許可した事は間違いではないのだろう。少なくとも、明るくなった彼女を見てそう思う)
(特に何か大きなトラブルや問題に巻き込まれている訳でも無し。それ所か、自ら地域の人々とも交流を持って居る)
(メイド長等の報告からしても、無理をしている訳でないと理解しているから安心であるが……同時に、変化のある彼女とお茶会を行わなくなって少し経つ事にも気付いた)
(最初は学校に慣れるまで気を遣わせない様にと控えていたが――今となっては、この喜ばしい状況で、彼女が忙しい事もある)
(自分自身も依頼が多く舞い込んできたからその余裕が無かった、という事もあるけれど)
(そこからの行動は早かった。メルルに「今度、二人でお茶をしましょう?」と日にちを決め、準備を進め)
(――そして、当日。メルルが準備をしようとしても、他のメイドがそれを制止する事だろう。今日はお客さんなんだから、事前の準備は此方でする……と)
(季節毎の花々に彩られた中庭。時間で水の色が変わる噴水があり、2人で使うには贅沢過ぎるスペース)
(その中央に配置されたティーテーブルを始めとしたティーセットの一式。メルルが訪れた頃には既に屋敷の主人ことアリスが座りながら本を読んでいて)
(メルルが寄ってきたことに気付くと、顔を上げて微笑んで見せた事だろう)
いらっしゃい、メル。
――……ごめんなさいね。今日、何か予定をキャンセルさせた訳で無いのなら良いのだけれど……
(何時も通りの簡素なドレス姿。身動きをしなければ人形が座らせられている、と錯覚してしまいそうな容姿)
(丁度向かい側に配置された椅子に腰を掛ける様に、と目配せで指示を出せば後はメルルが落ち着くまで待って)
(彼女から聞いてみたい事は色々とある。学校の出来事でも、それ以外の事でも。――だけれど、何よりも彼女自身が話したいと思った事を聞いてみたい)
(だから、最初から促すような事はしなかった。報告の為に呼んだ訳では無く、ただ話を楽しむためのお茶会なのだから)
16
:
占部・蓮
◆v6j.R9Z2OE
:2020/12/18(金) 05:00:19
>>14
―――はい、どうぞ
(インターホンが鳴る。一つ、鼓動が跳ねた)
(緊張していなかった、と言えば、嘘になる)
(いつもより少し張った声が、震えていなければいい、と思った)
(「ここに来る」ということは、つまり、蓮と恋の「今まで」を知らせることだった)
(自分たちが、どれだけ多くの男女と「寝て」いるか、それを明らかにすることだった)
(大隅からその話を持ちかけられた時、ひどく悩んだ)
(鉄槌は彼と恋の中で、零課とは別の「若く、それでいて立派な大人」だった)
(この、誰もが生き残ることに必死で、明日は今日よりも厳しく、昨日の痛みが途切れることのない世界で)
(したたかに、強く逞しく生きて…………その上で誰かの命を、技術と心で支えられる、立派な人)
(二人でずっと憧れていた)
(厳格な流派のしきたりを今も守っている伝統派の職人。なのに、少しも近寄りがたいところがない)
(抱きしめられた腕の逞しさと力強さ。小さな体から溢れる活力や生気を、今も覚えている)
(そして、外の世界にある「自由」と「平和」は、こんなにもあたたかいものなんだと)
(自分たちに教えてくれる、そんな人だった。その手伝いが出来ていることが、改めて誇らしいと思えた)
(その気持ちは、今でも変わらない。ずっと憧れて、尊敬している)
(でも、それだけの人ではなかった)
(直接言ったら怒られるかもしれないし、失礼だと思うから)
(恋とこっそり、そう思っていることを話し合っていたけれど)
(鉄槌 祀という人は)
(ちょっとだけドジで面白いところもある)
(等身大の年上の人だった)
(よく笑う人だった。ちょっとドジなところもある人だった)
(失言をして、挙動不審になって、焦ったりするところもある人だった)
(どこにでもいそうで、でも、似た人を探したとき)
(得がたい人だったと気づくような、そんな人だと思った)
(零課の皆のような人で、そこから少し向こうの、生死の境界線の、「生」の側に居る人だった)
(その人には、零課に漂う影を無理矢理にではなく、無理なく晴らしてくれる快活さがあって)
(その優しさに零課の人たちとは別の元気をわけて貰って、立ち直ることが出来た)
(贈って貰った刀子『鋼玉連枝』は、恋が拐われた時からずっと、心の支えだった)
(そんな人に、自分たちのことを明かして。「ここ」に、招く)
(恋も、告白も、交際もデートも、したことがないのに)
(自分と恋は、恋も、告白も、交際も、デートも出来はしないのに)
(体を重ねることをお願いする。自分のような子供でもわかる。いけないことだ)
(とても、とても、不自然で。ずるいことだ。怒る人がいて、当たり前だった)
(それでも――――手の届くところにある、誰かを救う力を。救えなかった人たちの代わりに)
(誰かの「お父さん」と「お母さん」を助けられるなら。出来うる全てをしたかった)
(自分たちで選んで、希って、頼んで、縋って。皆を巻き込んで、そうしなければいけないのなら)
(せめて――――最後の罪は、自分で選んでいたかった。大人たちがやらせているのではなく)
(自分たちが自分の意思で、「大人たちに」してもらっている、「大人たちと」していることだと、忘れない為に)
(扉が開く。覗いたのは、いつもと変わらない顔)
(少し違う格好の、あの人だった)
17
:
占部・蓮
◆v6j.R9Z2OE
:2020/12/18(金) 05:05:43
>>14
―――こんにち、は
(「や、どーも」)
(その軽い挨拶と笑顔で、ストン、と。落ち着かなかった気持ちが、あるべきところに納まった)
(少しだけ、泣きたいくらいに嬉しかった。嫌われたり、していない)
(そんな人ではない、と思っていたけれど。大隅さんに聞かされてはいたけれど)
(それでも、実際に会ってみるまでは、不安だった。そこにあったのは、いつも通りの笑顔だった)
(1年前に、抱きしめてくれた人の笑顔だった)
(どうしても、体を重ねる時に擦れてしまう傷痕を持つ人たち)
(自分たちを見つめる瞳に、ふとした時、申し訳無さが過る人たち)
(一緒に戦う、生死の境に居る零課の人たちとは違う強さと優しさに)
(やっぱり、触れたい、と、思ってしまった)
(その想いを、改めて自覚する)
――え、と……
(今日、来てくれたお礼をまずは、と、居住まいを正そうとして)
(広く白いベッドの上から鉄槌を見上げる。身長差は8センチ)
(ベッドの上に座ったままの細く華奢な蓮と、立って蓮を見下ろす健康的な鉄槌は)
(体型が違うせいで、実寸よりも遠く、年が離れて見える。診察着の、髪を下ろした蓮は、いつもよりは小さく見えた)
(問いかけに言葉を探す際、黒髪が肩の上を滑って、診察着から覗く細い鎖骨を隠した)
(少し迷う。ユニットバスつきのシャワールームは、見た通りの設計で)
(ここで入る、となると、必然、こちらから丸見えになってしまう)
(後ろを向いている、と告げた方がいいだろうか。いや、それよりも―――)
(―――なん、だか……焦って、る……?)
(緊張しているのだろうか。そんな感じがした。変な話で、妙な話で)
(業深い話だが……蓮は、初めてではない。ここでの仕事が日常だった)
(少しだけ先輩で、少しだけ余裕があったから、そんな鉄槌の様子を見て取れた)
(小柄な女性の鉄槌よりも低い位置にある肩、細い両肩。凹凸のない体型)
(長い黒髪。伸ばされた前髪から覗くつぶらな瞳は、鉄槌の視線が自分に注がれていることに気づいても)
(恥じらったり、逃げたりはしなかった)
―――はい
(足元のバッグをすぐに拾い上げて移動する鉄槌に、はっきりと返事をして、着替え終えるのを待つ)
(パーティションの向こうの端末に触れないよう、伝えようとしたが、思い直す)
(きっと、耳には届かない気がしたので。おとなしく、着替えが終わるのを座って待った)
―――
(そして、出てきた姿に、一瞬、ぽかん、としてしまった)
(気分を盛り上げる為に、ネグリジェやベビードール。扇情的なランジェリー姿になる人は見た)
(私服や普段着、デートに行くときのようにおめかしをする人も居た)
(職務だから、と制服姿で始めて、終わったら涼しい顔で身を清めて出ていく人も居た)
(着ぐるみパジャマは、初めてだった)
(鉄槌は彼と恋の中で、零課とは別の「若く、それでいて立派な大人」だった)
(この、誰もが生き残ることに必死で、明日は今日よりも厳しく、昨日の痛みが途切れることのない世界で)
(したたかに、強く逞しく生きて…………その上で誰かの命を、技術と心で支えられる、立派な人)
(でも、それだけの人ではなかった)
(鉄槌 祀という人は、ちょっとだけドジで面白いところもある)
(等身大で年上の――可愛らしい人だった)
(私生活を想像して、こんな格好で寝るんだ、と思うと。とても、親しみが湧いた)
―――ふふ……
(隣に、もふもふとした鉄槌が座る)
(軋むことのない、丈夫な造りのベッドが、ほんの僅かだけ他人の体重で沈む)
(緊張はなかった。こぼれた笑い声は年相応の、明るいものだった)
―――はい、とっても
(言葉少なに。けれど、確かに届くように、声を意識する)
(零課の女の人たちより、背は低くても負けない、立派な大人の人の)
(素朴な可愛らしさに心からこぼれた、そんな笑顔と言葉だった)
18
:
占部・蓮
◆v6j.R9Z2OE
:2020/12/18(金) 05:14:45
>>14
―――もっと、「優しくして欲しい」、って……思ったん、です
(そして、投げかけられた問いに。蓮は、静かに応える)
(問われた時に答えられるよう、決めた時から用意していた言葉だったから)
(それはいつも、語り口に独特の間のある蓮の唇からであってもなめらかに滑り出た)
(鉄槌の方を見ず、視線を目の前に向けて、視線の先の足先を超えて、心が過去と己の裡に向かう)
―――1年、前に……恋が、いなく、なって
(その言葉は)
(未だに、口にするたびに、ズキリと心が痛む)
(ようやく傷口が塞がったばかりで、まだカサブタの下で血の瘤が疼いている)
(世界でたった一人の、大事な大事な、今はもういない自分の半身だった)
―――「予報」も、満足に出来なく、なって……
(その先の言葉は、全く癒えても、塞がってもいない)
(2ヶ月。慎重に投薬で睡眠障害を克服して、マインドセットを重ねて体調を回復しても)
(復帰するまでに取りこぼした命の多さに……今でも、悲鳴をあげて飛び起きることがある)
(だが、震えている暇などない。すぐさま端末に向かわなければいけない)
(「予報」、「予報」を。悪夢に魘される眠りがあっても、悪夢に立ち竦んでいい目覚めなどないのだ)
(ようやく。ようやく、救えるようになったのに。溢れていく命を、皆で少しずつ減らせたのに)
(大人の人たちが頑張って、ようやく、ここまで辿り着けたのに)
(優しいお医者さんをわんわん泣かせて、何人もの大人の人を地獄に巻き込んで)
(それでも食らいついて、二人で求めたものに手が届いたのに)
(恋が居ない分、僕が頑張らないといけなかったのに―――!!)
(負けてしまった。耐えられなかった)
(現実の苦しみに押しつぶされてしまった)
(恋がいなくなったから、恋の分まで、恋を悲しませないように)
(僕が頑張らないといけなかったのに、眠れなくなってしまった)
(「予報」が出来なくなってしまった。一睡もできなくなってしまった)
(僕に出来る、たった一つ、たった一つだけのことなのに!!!!!)
(何人の子供から、お父さんとお母さんを奪ったんだろう)
(その家族の住む家が喪われてしまったんだろう)
(お父さんとお母さんがいなくなった、何人の「僕たち」が生まれてしまったんだろう)
(いつもそう思っているその想いが、激しさを増して)
(今も喉笛に、嗚咽と慟哭の杭になって突き刺さっている)
―――そんな、中……僕を、支えて、くれたのは、零課の人と……
(一瞬、前髪で隠れた目元が、くしゃくしゃに歪みそうになる。でも、泣かない)
(大人の人だって、泣きたかった筈だ。悔しかった筈だ。被害を受けた人は、その何倍もいた筈だ)
(親しかった人たちの顔ぶれも、随分と、変わってしまった)
(死別とは別の苦しみが、胸を締め付ける。鬼を恨めばいい悲しみとは、別の哀しみだった)
(それでも、皆、優しかった)
(誰も、自分を責めなかった)
(だから――――押しつぶされてだけはやらないと思った)
(精神重圧の中でも稼働することが実証されている能力だけは、動かし続けてやろうと思った)
(せめてこの、大人の人たちだけには、報いようと)
(あの人たちの守りたいものに、手を伸ばそうと思った)
(そうして、遮二無二、復帰して――ある日、大隅さんに泣かれてしまった)
―――鉄槌さん、と……鉄槌さんのくれた、お守り、でした
『――――頼ろう』
『―――あの人に、頼ろう、蓮くん』
(視線が、サイドボードの上の袱紗の包みに移る)
(そこには、紅の飾り紐を結ばれた、彼の守り神があった)
(袱紗の包みに重なるように、過去が浮かぶ)
(睡眠障害を克服した蓮を抱き終えたある夜)
(大隅は泣きながら、そう言った)
『――――私、もうそんな顔の君を抱くのは嫌だよ……』
(その当時の蓮の目元は、痛ましさを通り越して、真っ黒だった)
(消えることのないクマが目元にへばりついて、表情から悲愴さが消えない日はなかった)
(大隅の嗚咽は心の底から、あのお医者さんの泣き顔を引きずり出した)
(その日から数日。心の中で侘びながら、職務を休んだ)
(夢も見ないほど深い泥のような眠りに落ちた時、ああ、自分は擦り切れて死ぬところだったんだと、気づいた)
(忘れていたのだ。大事なことを――――「助けて」と、まず、そう言わなければいけなかった)
(零課も、蓮も、傷が深すぎた)
(互いの傷の深さを癒やすには、傷口の血の味を知りすぎていた)
(互いを癒そうと肌を重ねるたび、無意識に傷を癒そうと唇を触れさせた傷口が開くのだ)
(思いやりが突き刺さることで、鮮血が溢れる有様だった)
(この地獄は、余りにも善良な善意で舗装されすぎていた)
(その道を乗り越えるのではなく、別の強さを持つ橋をかけて渡る必要があった)
(いつかもう一度、その地獄の道を歩けるようになるまで)
(傷ついた足の傷を癒やすために)
(外出時に恋が拐われた状況下で、蓮がエントランスまで出る準備が整えられた)
(なるべく、鉄槌が顔を出す時分に、その時間帯は調製されていた)
(大隅は、1年前。そこで見た光景に、自分たちにない強さとあたたかさを見ていたから)
(そこに、賭けた。蓮が肌身離さずに握る、刀子の加護を信じて。そして、その賭けに、彼女は勝った)
(自分を支えてくれる刀子をくれた鉄槌との、少なく、短いながらもあたたかな触れ合いに)
(蓮の心は癒え――今を迎えている。鉄槌は優しかった。踏み込みすぎない優しさだった)
(外の世界の厳しさと、自由。そこで生きている人間の強さに、蓮と零課は救われた)
―――「弱音を吐いていいんだ」って、示してくれた人が、居ました
(大隅と。今は居ない新道が、折に触れて伝えてくれたことだった)
―――そこにいるだけで、周りを明るく、してくれる人が、いるんだって、改めて、思いました
(日疋は自分たちを見ると、気合を入れて出動して、そして生きて返ってきてくれる)
(その姿に、自分たちも救われるのだ)
―――零課の人たちが、どういう人たちのために、戦っているのか
(見ず知らずの世界のために……零課を作ってくれた人がいる)
(彼らは、手を伸ばす相手を選ぶわけではないが。だとしても)
―――鉄槌さんが、教えて、くれました
(そこに、優しい彼女が居てくれたことが嬉しかった)
(虚空を見つめて、自らの想いを綴る横顔は、幼く、小さく)
(誰かに甘えなければ、頼らなければ生きていけない子供で)
(――そこから逃げずに、「助けて」と、言える、か弱く強い命だった)
(ゆっくりと、視線が鉄槌へと戻る。いつもより、言葉数が多く、白い肌に赤みが差して)
(溢れた激情に、こぼれそうな大きな瞳が微かに潤んで輝いていた)
―――僕は、たくさん、女の人と、体を重ねて、きました
―――これからも、重ねて、ゆきます
―――男の人とも、重ねて、ゆきます
―――それを、知った上で、鉄槌さんは……祀さんは、来て、くれました
―――そんな、祀さんだから、もっと、優しく、して欲しい
―――あの、日、抱きしめてくれた、ぬくもりを、もっと、貰いたい
―――僕たちを、助けて欲しい
(隣に座る祀の手に、蓮の手が触れる。鍛冶職人の祀の手とはまるで違う)
(荒事などまるで知らない、つるりとした手と指先。もし、祀の指先が逃げようとしても)
(蓮の指先は、その手を追って。きゅっと掴んだ。大好きな手だった。自分を支えてくれたお守りを作る手だった)
(彼は、戦う人間の手が好きだった。前線でも、後方でも。自分に出来る何かをしようとする人間の手が)
(爪先が綺麗に揃えられて、淡くジェルネイルが施されているのは他人の性器に触れる機会が多い為だろう)
(きめ細かい肌質の指先だけが、堅い。毎日、端末を叩き続けた人間の指先だった)
(自分に出来る何かをしようと足掻いている人間の指先だった)
―――祀りさんに、触れたい
―――祀さんに、触れて欲しいって、思ったんです
(彼は、そこを誤魔化さなかった)
(義務感や、優しさだけで、求めているのではなく)
(最後の最後には、体を重ねたい、と思った想いを、隠さなかった)
(鉄槌を――祀を呼ぶ声は、静かに熱かった)
―――祀さんは、こんな、我侭な僕でも、いいですか……?
19
:
鉄槌 祀
◆MfBiO.rGQU
:2020/12/18(金) 23:49:22
>>16-18
(いかん、どうにも落ち着かないな、と、パーティションの向こう側に姿を隠して思う)
(そりゃそうだ、こちとら経験人数二人……いや三人? 回数も似たようなもので)
(最後の一回は……確か、高校の卒業コンパの二次会でカラオケボックスに入って……)
(気づいたらだいたいが半裸の死屍累々の中、その時付き合ってた男と抜け出して……)
(結局どうしたんだっけ、ヤッたような気もする)
(――まあともかく、その程度だ)
(記憶にも残らない、思い出にもならないような、スカスカした情報でしか無い)
(それと比べれば、5歳のときに初めて見たじいちゃんの鎚の動きのほうが、よほど脳裏に焼き付いている)
(美しい円弧を描く鎚が、真っ赤な鉄に叩きつけられて、パッと火花が散って……)
(――閑話休題)
(そんな事だから、経験なんて無いに等しい)
(まあ、歳が歳だし、性欲がない訳でもないし、知識はそれなりに持っている)
(今更臆して引き下がるなんてことも、感情的にも心情的にも有り得ない)
(――だけどちょっと狼狽えてるな、と)
(とりあえず、途中で席を立たなくても良いように、整えるものは整えておく)
(――――)
(我ながら、この仕込みは11歳相手にするのにどうなんだ……?)
(ともかく、もこもこな姿になって蓮の隣に腰掛ける)
(犬の頭型のフードを被り、体の前面に付いた、ジッパー代わりのマジックテープもしっかり止めて)
(露出しているのはほとんど顔だけという格好)
(フードがもっとピッタリしていたら、可愛い通り越してギャグにしかならなかったところだ)
(――とりあえず、可愛いと言ってもらえたのには満足しよう)
(質問に対して、最初に帰ってきたのは、甘えの言葉だった)
(意外といえば意外な返答、しかし、続く言葉を聞いていれば、それも当然だと思えてくる)
(子供にされる事ではない、あんまりな仕打ちの数々)
(双子の姉を奪われ、打ちのめされ、心をボロボロにされて)
(しかしそれでも、自分達の力が届かないと嘆き、立ち上がり、踏ん張った)
(――踏ん張って、しまったのだ、この子は)
(ただ、わからない感情ではない)
(いいや、自分は解っていなければいけない)
(やると決めて、それで生きていくと決めて、それを求められたのだから、やらねばならない)
(――鬼を斬れる武器を、否、刀を打つと決めたのだ)
(そして、それを求められた。お前の刀を呉れと、それなら鬼を斬れると)
(だから打った、只管に打った)
(そして、その刀で鬼を斬った者もいれば――逆に鬼に倒され、戻らなかったものも居る)
(その結果に、打ちのめされもした)
(自分の刀は、人を死地に駆り立てるだけの物ではないのかと悩みもした)
(――だが、仕方ないのだ、やると決めたからには)
(鎚を握って、これで生きていくと決めたからには)
(そして、自分の刀を持って、しかし死んでしまった者が居ても)
(それでも尚、お前の刀が要ると、求めてくる人がいるのなら)
(やるのだ、やらねばならぬのだ)
(使命感などではない、責任感でもない)
(ただ、自分がそうすると決めたから、そうするのだ)
(だからせめて、次の刀は、もっと鋭く、もっと硬く――折れず、曲がらず、斬り続けられるものを)
(せめて、せめて――最上の刀を)
(そうして、鎚を振るって生きてきた)
(だから解る、この子の言うことは、少なくとも自分には解る)
(――だが)
(この子が負った傷は、抱えた痛みは、あまりにも重くて)
(――他人どころか、自分への甘え方すら知らなかったのだ)
(この子は……そして、この子を支えた人たちも)
(そんな子供に、そんな子供を取り巻く、不器用な大人達に)
(あたしは、逃げ道を示してやれたのだろうか)
(ちょっとズルして、一休みすればいいよと、手招きしてやれたのだろうか)
(――サイドボードに置かれた、袱紗を見る)
(その中に何があるのか、あたしは知っている)
(――あたしが打ったお前は、「鋼玉連枝」と立派な名前を貰ったお前は)
(彼らの行く手を塞ぐ藪を払って、道を切り開いてやれたのだろうか)
(ベッドに置いた手に、蓮の手が触れて、掴んでくる)
(柔らかくて、細くて、鎚など持ったことのなさそうな手)
(だが、指先だけは奇妙に硬い――不思議な手)
(逃げなどしない、ただするがままに任せ……そっと握り返した)
(少なくとも、蓮はあたしへ向かってきた)
(顔を上げて、こっちを見つめて、あたしのことを求めてきた)
(――ああ、そうか)
(やると決めたのだ)
(そして、求められたのだ)
(ならば――)
(やるのだ、やらねばならぬのだ)
(使命感などではない、責任感でもない)
(ただ、自分がそうすると決めたから、そうするのだ)
――大隅さんも、お前も、人の事なんだか盛大に持ち上げてくれちゃって。
過大評価じゃない? あんまり期待すると、後でがっかりするかもよ?
(掴まれた手を解いて、しかし拒絶するのではなく)
(体を捻って、隣の少年を抱きしめる)
大丈夫だって。今更逃げやしないから。
こんなのでよければ、是非お召し上がりください、ってね。
20
:
占部・蓮
◆v6j.R9Z2OE
:2020/12/19(土) 10:23:02
>>19
―――ン
(抱擁に、言葉が詰まる。それは小柄でいて豊かな、彼女のやわらかさに出た声だった)
(1年前。まだ、蓮の隣に双子の姉が居て。二人で彼女を抱き締め返した時に溢れた声とは、別の熱さと切なさを帯びた声)
(肉体的な接触と、精神的な、優しさやぬくもりに、胸を締め付けられて出た、甘さの交じる、微かな――喘ぎ)
(何も知らない、無垢な11歳の子供の声では、なかった)
(自分たちと8センチした身長の変わらない、女性でも小柄な体躯なのに彼女は大きく、強かった)
(人が命を預ける刀を打ち、その担い手の天命が尽きて、苦しむ夜もあった筈なのに、道に悩むこともあった筈なのに)
(少なくとも、彼女からはそんな影や弱みを、見たことがなかった。感じたことはなかった)
(あるいは、これから。そうしたものを見せて貰える関係に、なれるのだろうか)
(その時、自分は何を想い、何を言ってあげられるだろう。刀を握ることも出来ない、自分が)
(忍び寄る不安と闇の茨を、小さな小さな刀子で切り払って貰うことしか出来ない自分が)
(その時のこと。もっと深く彼女を知ったときのことは、その時でなければ、わからない)
(だから安請け合いをせずに、「いいえ」とは、声に出さなかった)
(その時にきちんと受け止めたいので、今は声に出して応えなかった)
(だが――それでも。後悔や、失望することはきっとないと思ったから)
―――
(ふるふる、と、彼女の両腕に包まれながら、微かに、けれど力強く、首を横に振った)
(長く美しい艷やかな黒髪が、さらさらと音を立てて溢れる。完全に揺らめきはしない)
(彼女と自分の間にある豊かな丘陵に、黒髪が挟まれているからだった)
(心の距離は、以前よりもずっと。体の距離も、以前よりも少しだけ近いのに)
(腕を伸ばして抱き返す背中は、以前よりも少しだけ、遠かった)
(彼女よりも、もっと身長の高い女性たちの間でも見ないくらいに彼女のそこは豊かだった)
(対する少年の胸元は、はっきりとその力強さに負けるくらいに、細く、華奢だった)
(大丈夫だと。逃げはしないと、全てを知った上で、そう告げてくれる人の背中に、手が伸びる)
(あの時は姉と二人で、縋り付くように抱き締めた背中を、今度は一人で)
(おずおずと歩み寄りながら、爪先立ちで触れた背中にかかる手に、両手が回る)
(強い。いや、熱い、と。そう表現すればいいのだろうか)
(ともすれば、あまりにも豊かな双丘に押されてしまいそうな薄い胸板)
(その向こうで、確かに……ひとりの少年の鼓動が、命が。ひどく、熱く脈打っていた)
(両手に回る手のひらに込められた力は、あの時と同じに華奢で、儚くて)
(でも、確かに、真っ直ぐに――祀を求めて、彼女を抱き寄せ返していた)
―――はい
―――ありがとう、ございます、祀さん……
(あの時と同じように、頬を重ねる。今度は、頬の間にフードと、解いた長い黒髪が揺れる)
(それでも、あの時以上にあたたかな熱とぬくもりを感じられる気がした)
(柔らかな寝間着の心地よい肌触りに、ふわりと湯上がりの少年の香りが交じる)
(石鹸とシャンプー、リンス、コンディショナー。鼻腔をくすぐる仄かな甘さは、まるで少女のようで)
(抱擁から少し身を離して視線を重ねる面影も、あまりにも中性的に過ぎた)
(柔らかく、それでいて強く打たれたしなやかな鋼のような祀の美しさとは対照的で)
(目元を隠していた長い前髪が、動きに合わせてこぼれることで露わになった蓮の)
(こぼれそうな瞳の濡れた輝きの中に、祀が揺らめいていた)
(普段は隠されている目元の陰――目尻の隈が、濃い。肌が白いせいで、それは余計に痛ましく映る)
(いつもなら、その隈が見えていたら、彼はさっと、前髪を整えて隠していただろう)
(今は、そうしなかった。ありのままの自分を曝け出して、隠さずに。臆さずに、背中にまわしていた片手を解いて)
(そっと、祀の頬へと滑り込ませて、触れた)
―――……ぁ………
(サイドボードの抽斗には、興奮剤、と。そう聞かされて渡されていた、ただのビタミン剤も眠っている)
(もし、祀が緊張でこわばってしまっていたら。リードをとりながら、流れが許すのなら)
(彼女の唇に、自分の唇で、その錠剤を運んで――そんな事を考えていた)
(今なら、いらないだろう、と。そう考えながら、自分から、唇を重ねようとする)
(ふわふわとした柴犬の可愛らしいパジャマに包まれた、いつもは元気一杯の朗らかな祀の顔の下)
(指先だけが堅い、細い繊手が壊れ物を扱うように触れた瑞々しい頬から繋がる首筋の下に)
(予想を裏切るものを――首輪を、見つけてしまって。小さな声がこぼれる)
(吐息が感じられる声まで近づいていた、小さな顔が、止まる)
(声は、驚きや、戸惑いも含まれていたけれど。引いた、という感情は一切感じられなかった)
(触れ合う華奢な胸板の奥で、トクン、と鼓動が跳ねる。静かな熱の温度が、一つ、確かに上がった)
(背中に添えられたままの片方の手に、きゅっと力が籠もる。祀をより、求めるように。引き寄せる微かな力が)
(「どうして?」、と。そんな気持ちと―――隠せない、隠さない。背徳感への昂りの熱を帯びていた)
(意図を察せないほど、鈍い子供でも、経験のない子供でもなかった。でも、だからこそ)
(「どうしてここまでしてくれるのか」と。そう尋ねる。尋ねてしまう。今日が初めてなのに)
(8センチ下から祀を見上げる、8歳年下の。体重差が、きっと5キロ以上もある華奢な少年は)
(自分を許して、受け入れてくれるだけではない。そこまで、身を尽くしてくれる女性の首筋に)
(指先だけが堅い首筋に、そっと、触れるか触れないかの繊細な指使いで触れて)
(「どうして」と。無言で、色濃い隈が目尻を彩る、潤んだ瞳のままに尋ねた)
21
:
鉄槌 祀
◆MfBiO.rGQU
:2020/12/19(土) 16:58:50
>>20
(細い体を抱きしめて、細い腕に抱きしめられる)
(――あたしの方が色々と太いくらいで、ちょっと危機感すら覚えるけど)
(でも、その細い体の奥の心臓は、はっきりと脈打っている)
(命だ、生きている証拠だ)
ありがとうとか言うな、こんなので。
やりたくてやってんだろ、そういうことにしとけ。
(手が緩み、少しだけ体が離れて)
(少女のような――いや、少女か少年か、どちらか分からなくなりそうな、その目元が)
(はっきりと解るほどに黒ずんでいるのを見つけて)
(――解ってるよ、それを解決する――とは言わないが、軽くしてやるのも役目の内だ)
(と、蓮の手が、あたしの頬に触れて……その下の固い物に――革製のゴツい首輪に、気がついた)
(――やあ、バレちまったか)
どうして、って?
別にどうってこと無いよぉ、ノリだよ、ノリ。
(水分を増した、潤んだ瞳でこっちを見つめてくる蓮)
(――泣いてるわけでも、怖がってるわけでもなさそうだ)
(だって、あたしに質問してきたその声には、明らかに熱が籠もっていて……)
でも、あえて理由つけるって言うなら……
(蓮を抱いていた手を離し、パジャマの首元に指を引っ掛けて)
(引き裂くような手付きで、べりっ!とマジックテープを引き剥がした)
(――その下は、全く何も身に着けていない……訳ではなく)
(小さな、本当に申し訳程度に、胸の先端と股間を隠す布切れと、それを支える紐だけの)
(いわゆる、マイクロビキニというやつで……)
(明らかに、水を吸ったら透けてしまいそうな、水着の役に立たない小さな布切れは、胸から一弾膨らんだ乳輪すら隠しきれていなくて)
(――しかし、その布地の下には、明らかに『段差がない』)
(股間の布地は、早くも湿り気を帯びてきていて)
(恥ずかしくないわけでもなければ――この状況に覚えているのが、羞恥だけでもないことを示している)
――ほら、これって、当人の気持ち除いたら、結局は「仕事」じゃん?
だからさ、やっちゃいけないこと以外は、何やったって「仕事」な訳さ。
……普段、やれないようなことでも、「仕事だから」で、片付くんだよ。
(言って、行った)
(蓮の頬を手で挟んで、唇を重ねた)
(すぐには離れない、唇で唇をついばみ、舌でその表面を舐めて湿らせて、チュッ、と音を立てて開放し)
(――もう一度、今度は強く唇を重ねて、舌をその中に突き入れた)
(蓮の口の中を舐め回し、舌の根元を舌先でくすぐって、反射的に分泌された唾液を吸い上げ、自分の唾液と混ぜ合わせて)
(それを半分、蓮の口の中に送り返して)
わん、わん♪
(楽しそうに、弾んだ声で、鳴いてみせた)
(蓮の唇の端から垂れた唾液を舌で舐め取り、そのまま頬や鼻筋をべろべろと舐め回して)
――ほら、こんな、『御主人様』の良しも待てないバカ犬をさ。
……思いっきり『躾けて』みたくない?
叱るのも、叩くのも、躾けの一環だよぉ?
(自分でも解るくらい、頬が上気して)
(空調が効いているのに白く曇りそうなくらい、息が熱かった)
22
:
メルティ=メルル
◆bY.FBdBpj.
:2020/12/19(土) 18:40:22
>>15
(久しぶりにお嬢様からお茶会に誘われたとき、驚きと嬉しさのあまりほんの一瞬だけど意識を飛ばされてしまった)
(私は夢魔なのに寝付きが悪い。幼い頃は寝ると力が暴走したり、寝ているときに襲われたりするのが怖かったからだ)
(お嬢様に助けられてからはマシになったけれど、今度は美しく可憐で華やかで可愛らしくて、優しくて頭も良くて何でも知っていて力強くて……才色兼備という言葉を学校で教わったとき、この言葉はお嬢様のために存在する言葉だと思ったわ)
(とにかくお嬢様は私の恩人で憧れの人で、学校へ通うようになって忙しい日々が続いていてお嬢様成分の不足も感じていたから、気を失うなのは仕方がないの)
(――毎回呼ばれる度に気を失っているけれど、お嬢様成分はいくらあっても足りないから仕方がないの!)
(お嬢様に使える執事や召し使い、メイド達の中で私は一番の下っ端だからお茶会の準備をしようとしたけれど先輩方に止められてしまった)
(学校へ通うようになってお屋敷でお仕事をする時間は減ってしまった。お屋敷代表として町内清掃なんかの町内会行事は私が参加していたけれど、それでも申し訳なくて準備くらいはしたかった)
(でも、「お嬢様とのお茶会に相応しい格好をするのがあなたの仕事」なんて言われてしまったら引き下がるしかない)
(私は器用じゃないし才能だってない。私にもできること、私にしかできないことに絞って集中するなら、それは先輩に言われたことがそうだと分かるくらいのおつむは私にだってある)
でも、何を着れば良いんだろう……?
(私は私服というものはほとんど持っていない。向こうでは怖くてお暇をいただいてもお屋敷の外へ出ることはほとんどなかったからメイドの衣装と寝間着くらいしか持っていなかった)
(こちらに来てからもそれで事足りていたし、学校へ通うことになって学校の制服やジャージ、体操服が増えて、)
(学校でできたお友達と出かけるための服も用意していただいたけれど、お嬢様とのお茶会に着るには世界が違いすぎて似つかわしくない)
う〜〜〜ん…………あ!? そうよ、あれを着ればいいんだわ!
******
いいえ、大丈夫です。
私の方こそアリスお嬢様をお待たせして申し訳ありませんでした…………ふぁぁぁ〜♡
(深々と頭を下げて遅くなったことをお詫びし、頭をあげたところで本を手にして優雅に座られているお嬢様の姿を見てため息がでてしまう)
(お城や貴族の館に飾られている高名な画家の絵画のような……いえ、それ以上の光景だったから)
(貴族の館にある絵なんて、変態貴族に捕まってあの絵のような夢を見させろと突きつけられた言葉にできない変態鬼畜絵くらいで比べものにならない)
(お屋敷にもお嬢様を描いた絵をが飾られているけど、どの絵もお嬢様の美貌の十分の一でさえ再現できていないと思う)
っとと、失礼しました! ……失礼します。
(またペコリと頭を下げてお嬢様の向かいに座る)
(私が選んだ服は学校の制服。いつも着ているものではなく、本来は来月の衣替えから着ることになる夏服の方)
(今日はお天気がよくて気温も暖かい。風が強いと寒いけど、今日は空気を読んでくれたのか気持ちよいそよ風くらい)
(白い半袖の緑やオレンジ色が使われているマドラスチェック柄の少し太めのネクタイ、同じ柄で冬服に比べると裾が短めなプリーツスカート、白いハイソックスに茶色いローファー)
(日本の学生は冠婚葬祭では学校の制服を着るらしい。着崩すのは駄目だけど公的な行事に着られる正式な服なのだとか)
(結婚式ならともかくお葬式には明るすぎる気がするけれど、今日みたいな日――日本晴れと言うらしい――にお嬢様とのお茶会で着るには相応しいと思ったのだ)
(ちゃんと日本の学校の制服を着こなせているところを見てもらえれば、お嬢様も安心してくださるだろうから)
(お嬢様はお屋敷の主として、お嬢様に使える皆々のことを心配してくださる。もちろん、私のことも)
(自殺しようとした私を拾われたお嬢様は私に生きる目的を与えて下され、救ってくれた)
(何もかもが異なる日本へ飛ばされても私達を守り、私達が安心して暮らせるよう日本政府と交渉してくださった)
(お嬢様に私は元気に生きていますと知ってもらうのはこの格好が良いだろうと思って、それがお嬢様へ感謝を伝えられる一番のことだと思ったの)
あ、あの……これは学校の制服なんです。
暑くなる夏の季節用のもので、衣替えと言ってこれを着るのは来月から何ですけど、お嬢様に見てもらいたくて着ちゃいました♡
制服の採寸あわせは冬服だけでしたから、こちらはまだ見ていただいていなかったですから。
どうでしょうか? 日本ではこれくらいは普通なんだそうですが、私には少々派手というか過激に思えてて……お嬢様はどう思われますか?
(そう、少々どころか結構過激なんじゃないかと。友達の私服はもっとすごいから日本では当たり前なのだとしても、慣れるのには時間がかかりそう)
(冬服は上着を着るから気にならなかったけど、ブラジャーのピンク色がくっきり透けちゃってるし、ネクタイがなければ谷間だって見えちゃいそう)
(この姿を見たお嬢様が興奮して襲ってくれたり……だ、ダメ! お嬢様との大切な二人だけの時間を妄想で無駄遣いなんてできないわ!)
23
:
アリス=インセント
◆BpYjFWEe7.
:2020/12/20(日) 01:34:00
>>22
(「彼女らしい」その仕草に、思わず小さな笑いを零してしまった。ただ、同時に良い変化だとも思う)
(元居た世界から離された時には、メルルの精神への影響も懸念していたのだが……それも杞憂に終わった――と言うよりも、良い方向へと転がっているのだから)
(少し珍しい身形だとは思うけれど、彼女に良く似合ったソレ。着る本人が良いのだから、何を着ても似合わない筈が無いのだが)
(それにしても、彼女も生真面目……律儀な性格だ。もう少し軽く接しても問題ない、と何度か言ってはみるものの、結局は今の所変わらずじまい)
(そんな性格が彼女の良い所でもあるのも確かであるから、結局は彼女が接しやすい様にさせているのだけれど)
見てもらいたくて、なんて相変わらずメルは言葉選びが上手いのね
そう、ねぇ――……確かに私達の世界ではあまり馴染みが無いものだけど……もう少し見てみても良いかしら?
(メルルが着ている分には違和感も見られないのが現実。――ただ、前面はよく分かったが背面も気になるというもの)
(静かに椅子から立ち上がると、メルルの直ぐ側へと歩み寄って。背中へと回れば後ろからその姿をよく観察)
(仄かな体温と僅かに感じるであろうアリスの吐息が、メルルの項や首筋に何ともむず痒いモノを与えるだろうか)
(――吸血行為の際に優しく抱き留めるのともまた異なった、直接触れる事が無くとも直ぐ側に居るという感覚)
(戯れにメルルの赤い髪を指先で少しだけ?き上げれば、そのまま優しく頭を撫でやる)
(まあ、実際の所彼女の制服姿をジッと観察したのは数秒程度だ。何せ、中庭に入って見遣った時に「似合う」と思っていたのだから)
(では、何で態々こんな事をしているのかと言えば――……最近触れ合う機会が少なかったから。そんな至極簡単な理由)
(まるで弄ぶかのように軽く頬を撫で、後ろから座っている彼女を抱き留めようとして)
良く似合っていると思うわ。……尤も、メルならば何を着た所で可笑しい事は無いのだけれど
貴女は元々の素材も良いのだから、周りの人達がつい誘惑されない様に気を付けるのよ?……なんて
――でも、楽しく通う事が出来ているみたいで安心した。この世界に迷い込んでしまったのも、そう悪い事ばかりでは無い様でなによりね
(それは全て本音の言葉。元々はあまり屋敷の外に出たがらなかった事を思うと、よっぽど社交的になったものだ)
(きっと屋敷の中だけでも完結できる。現に、そうしている者も居る。――でも、それはその者が望んでしている事)
(過酷な境遇を経て接することが怖くなってしまった彼女とは根本的に異なるのだ。だから、こうして自ら制服を着用して登校するようになったのは非常に好ましい)
(軽い冗談を一つ交えた後に離れ、再び向かいの席へ。ティーカップに香りのよい紅茶を注ぎ、焼き立てのクッキーを添えればメルルの前へと差し出して)
……ふふ。学校生活も他の事も楽しんでいるみたいね。もしも何か必要なものが有れば遠慮なく言うのよ?
折角だもの……貴女にはメイドとしての仕事よりも、先ずはこの世界で行ってみたい事を優先してほしいの
――勿論、偶にはこうしてお話してくれないと寂しくなってしまうけれど、ね?
(朱色の瞳を細めつつ、自分の事を考えてお披露目してくれた少女を眺めた。今までの人生を取り戻す意味でも、彼女には楽しむ権利がある)
(最後の言葉は小首を傾げ、冗談めかしたものの――……それもまた偽りのない言葉であっと事は、メルルならばきっと分かるだろうか)
24
:
占部・蓮
◆v6j.R9Z2OE
:2020/12/20(日) 03:13:43
>>21
(指先が触れた革の首輪。それを探り当てた時)
(祀の寝間着の前が、勢いよく開かれる)
(可愛らしい寝具の下に隠れていたとは思えないほどに扇情的な、水着姿)
(それを目にした時、蓮は微かに、でも、確かに。コクリ、と、折れそうな細い首を動かして)
(吐息と共に、その姿に興奮した口中の雫を飲み干した。興奮、しているのだ)
(今度はもう、潤んだ瞳や、薔薇色に色づき始めた頬なんて慎ましやかなものではなく)
(可愛らしく、年相応に……診察着が、自然と持ち上がった)
(力仕事で鍛えられたしなやかな肩、強く逞しい生命力を感じさせる腕の眩さ)
(そこから続く暴力的なまでの質量と量感に、彼は確かに、興奮した)
(「―――ぁ」と、自然と視線が引き寄せられるプロポーションのよさと肉付きの奥)
(漂い始めた濃い香りに湿る、秘部を殆ど隠せていない水着の向こうのデルタに、声が溢れる)
(細く、華奢で。体の線がハッキリと浮かぶ診察着のシルエットの奥で)
(祀の用意してくれた仕掛けに、彼の、いつもはそうと感じさせない、秘められた感情)
(抑えている欲望に、火がつく。―――どれだけ隠しても、抑えても。結局は、離れられない)
(小さな命の中に確かに燃える、本能の感情に、今日も、身を焦がされる)
(小さく肩を震わせながら、緩やかな角度で診察着が持ち上がっていく様が、祀の前に晒されていく)
(祀に伸ばした手が反射的に、そこを隠そうとして)
(でも、結局、祀のようにありありと自分の今の姿を曝け出した)
(潤む瞳、流れる髪。細い中性的な身体。でも、彼は確かに「男の子」だった)
(続く言葉に、応える前に。唇が触れた)
(目を閉じる。自然と、一番、好きな角度で唇が触れ合うように傾いた)
(唇を啄まれるたびに、小さなリップ音が鳴るたびに。少年は唇の角度を変える)
(唇に、祀の唇が触れていない場所がないように、目を閉じたままキスを受ける)
(それは同時に、祀の唇を蓮の唇で埋めていく、くすぐったく優しい時間だった)
(強く唇を吸われる。小槌に合わせる合槌のように、自然な呼吸で唇が開いた)
(祀の鼻腔に、肌に。別の誰かの呼気が触れる。あんなに細くて、壊れそうな子供なのに)
(吐息は熱かった。舌で口腔をくすぐられると祀の舌先にあえやかな舌の動きが返る)
(軽く口の中をまさぐられるだけで、感じている。そうすぐに判るほどに、敏感な身体だった)
(貪欲なキスの動きを拒まない。受け入れて、そして、無意識に――誘って)
(舌先と唇の中で、優しく口腔を征服してくれる舌を、唇で甘噛みして。吸気に合わせて吸って)
(首の傾け方を変えて、鼻梁で互いのことを感じ合いながら。送られる唾液を、こくん、と、音を立てて、飲み干した)
―――ゃぅ………
(明るい鳴き声と共に、いたずらめいた仕草で顔中を舐め回される)
(されるがままの少年は、くすぐったそうに。いつもは見せない表情で、笑ってみせた)
(すぐに壊れてしまう、砂糖菓子のような幸せそうな笑顔)
(それは、祀の献身的な優しさが、胸に沁み過ぎたせいで)
(少し、泣きそうな顔だったからかもしれない)
―――………ン………
(その、白く曇りそうなくらいに熱い吐息を)
(同じくらいに熱を帯びた吐息と唇が、塞いだ)
(塞ぎながら、10キロも体重差のある相手をそっと、優しく)
(けれど力強く、ベッドの上に、押し倒した――)
(犬を模したフードの中に、祀とは別の誰かの顔が、沈み込んでいく)
(彼女を快活な「女性」だと感じさせてくれる、いつもは颯爽と靡く長い黒髪が)
(同じ黒髪なのに、艶も、きらめきも、どこか儚く風に弄ばれる印象を感じさせる蓮の対照的な黒髪と混じり合う)
(フードの中に、黒髪の海が出来る。祀と、蓮の匂いの籠もった髪の海が)
(火仕事をしているからだろうか。溌剌さと熱さが瑞々しさの中に交じる祀の頬と)
(日に当たらない、今は薔薇色に上気した頬が、黒い海の中で触れ合う)
(頬を触れ合わせながら、祀の知らない色を帯びた声音が囁く)
―――叱るのも、叩くのも、苦手、です……
(笑みと親しさを帯びた声。そこに、はっきりと交じる……「男の子」の、色)
(押し倒した祀に覆い被さり、耳元で囁いた後、彼は身を起こすと――唇の雨を降らせ始めた)
(着替えは、どこを隠すんだろう、とか。どこだと、困らないだろう、とか)
(そんな事を考えずに。最初は、左頬。次に右頬。その次に――顎のラインを確かめるように)
(祀が鳴らしたキスの音色よりも弱く微かで、でも、止まないキスの雨で、応えていく)
(顔を唇で確かめる度、祀の匂いを移された蓮の顔が近づいて触れる)
(二人の匂いの混じった顔と、触れるだけのキスで、最初は弱く、弱く)
(少しずつ、下に行くたびに、少しずつ強く。左右の顎のラインに、優しいキスの愛撫を落としたら)
(次は、首筋。左の首筋に、少し強いキス。祀がしてくれた、あの情熱的な唇の動きに似た強さで)
(少しだけ弱く、首筋にキスマークをつける。多分、明日だけでは消えない。わざとそうする)
(叱るのも叩くのも上手じゃないから。だから、「優しく困らせる」と。そう、宣言するかのようなキス)
(そこが終われば、次は少し下の首筋。そこも少し強く。小さな唇のキスマーク)
(その後は、弱く、弱く。鎖骨を唇で濡らして、肩に触れて。弱く、弱く)
(弱くが続いた後、下がった唇はマイクロビキニの肩紐の上から、上下する丘陵の上に触れて、強く吸う)
(唇の痕が、マイクロビキニの肩紐でくっきりと分かたれているのが判るキスマーク)
(「そういう衣装を着て」「キスをされました」と、隠せない痕を……左右均等に刻んで)
(弱く、弱く、弱く、弱く。最後に強くのリズムで、祀の身体の形を、キスで確かめていく)
(顔が隠れてしまう。もし―――谷間に包まれてしまったら)
(年相応の可愛らしいサイズだと、顔も覗けない、そんな大きな胸の周りを、啄んで、啄んで)
(最後の「強く」が。『段差のない』場所に辿り着くような、そんな軌道とリズムで唇を動かし)
(祀の身体の、白く豊かな胸の上を………覆い被さった、線の細い少年の愛撫が、進んでいく)
(大きな姉犬にじゃれつく、子犬のように甲斐甲斐しい姿。裏腹な、一回り大きな犬を組み敷いて)
(優しく優しく屈服させるかのような、性的な愛撫。唇が弱く、弱く、弱く、進んで)
―――ン…………
(『段差のない』「左右」を。水着ごと。優しく優しく、困らせるように一際強く、吸った)
(水着に遮られた、唇の痕がしっかりと残るように)
25
:
鉄槌 祀
◆MfBiO.rGQU
:2020/12/20(日) 23:05:05
>>24
(興奮した言葉への返事は、蓮からのキスで)
(そのまま、ベッドの上に押し倒してくる――抵抗せずに、押し倒された)
(半ば脱げてしまったフードの中で、髪の毛同士が触れ合ってシャラシャラ音を立てる)
(あたしなんかよりよほど気を使っているのか、いい匂いのする髪が触れ合って、匂いを分けられて)
(――頬を寄せた耳元で、囁かれた声は、随分と――)
(「じゃあどうするの」と聞くよりも早く、連続のキスが始まった)
(軽く、リズミカルに、頬や顎、体のラインをなぞるように、キスの雨が降らされて)
――んっ!
(思わず、驚きの声を上げる)
(首筋へのキス、首輪に隠れない、結構高いところへのそれが、今までよりもずっと強く、痛みすら感じるほどに、吸い上げられて)
ちょっ、それ、キスマーク……んんっ!
(もう一つ、首筋への強いキス)
(点々と、2つの跡が首筋に残る……『印をつけられた』)
(ちょっと、待って)
(さっきなんて言ったと思ってるの、今それはちょっと……まず、い)
(ドクドク心臓が高鳴って、ますます息が荒くなって、思わず両手が、股の方に向かって……)
(重力に負けて、潰れて広がっていた胸が、両腕に挟まれて持ち上げられて)
(差し出すように、寄せられて)
(股の布をずらして、毛の生えていないそこに指を這わせて)
(両手で、クリトリスと、その奥の穴を、くちゅくちゅ弄り始めて……)
(キスが、胸に差し掛かる)
(胸の周りを、次々と唇が触れていく)
(――解る、大体わかった)
(これは、確実にあれを狙ってる……)
(体はあたしのほうが大きいのに、小さい蓮に組み伏せられて、胸を吸われている……)
(でも、もうちょっと、後ほんのちょっとだけ――)
――――っっ♥♥
(胸のてっぺんを、吸い上げられた)
(敏感なそこを、痛いくらいに吸い上げられて、カクッ、と腰が跳ねる)
(左右とも、丁寧に、優しく、きっちり吸い上げて、印をつけて)
(――解ってる?)
(『御主人様』って言ったんだぞ)
(そんな相手に、『印を付けられた』ら……)
(そんなの、所有の印にしかならないじゃん……!!)
っ、ご、ごめんっ!!
(股間を弄り倒していた指を引き抜いて、べとべとのそれで、蓮の頭を掻き抱いた)
(綺麗に手入れされたサラサラの髪に、べたり、と濡れた指が突っ込まれ、独特の匂いを放って)
(胸の片方に、蓮の顔を押し付けて)
(もう片方で、ビキニを引っ張り上げた)
(――順番間違ったかも知んない、というのは後から思ったことで)
(ビキニの紐が蓮の顔をおもいっきり引っ掻いたかもしれないのだけど)
(それは全く気にしていられなくて)
(紐でなんとか支えられていた胸が、だぷんっ!と波打つ)
(膨らんだ乳輪の先には、横一文字の割れ目のようなものがあって)
(簡単に言えば、その中に乳首が隠れている……いわゆる陥没乳首で)
(赤みを増したような跡がついたそこは、しかしまだ割れ目が閉じたままで)
(空いたもう一方のそこに、蓮の手を導いて、しっかりと手のひらを押し当てた)
ご、ごめんね、ごめんっ、ちょっと、我慢できないからっ!
お願い、お願いしますっ!
――もっと吸って、吸い出してっ!!
指でぐりぐりって、ほじくってもいいからあっ!!
後は好きにしていいです、噛んでも抓っても引っ張ってもいいですからっ!!
お願いします、あたしの乳首、好きにしてください、御主人様ぁっ!!!
26
:
占部・蓮
◆v6j.R9Z2OE
:2020/12/21(月) 04:42:48
>>25
(そこだけは少し周りよりも色合いの薄い、白く豊かな胸の海)
(唇を触れさせるたびに蕩けるような柔らかさと、その奥に詰まった柔肉の弾力が唇に襲いかかってくる)
(弱く優しいキスの動きを弾き飛ばしそうな躍動とボリューム)
(むしゃぶりつくような必死さの中に、その跳ね回る動きごと愛撫するような巧みさを交えて)
(揺れ弾むバストの上下動、祀の呼吸に合わせて唇は落ちていく)
(両腕で強調されながら差し出されれば、夢中になった)
(視覚から飛び込んでくる、深い谷間を刻む暴力的な女体の魅力にくらりと心地いいめまいがする)
(背負った悲壮感、自らの職務への罪悪感と後ろめたさを、このときだけは忘れて)
(祀が押してくれた背中を前へと動かして。キスで、白い胸元に淡い唇の桜の花を添えていく)
(――寄せられたバストで遮られて見えない足の間で、いやらしい、音がする)
(キスが熱を帯びる。触れ合う蓮の頬が、熱さを強めていくのが胸の肌に直接伝わった)
(二の腕から繋がる前腕、その指先の動きの振動が伝わるほどに、彼女の胸は大きく豊かだ)
(ふるふると興奮で跳ねる身体とは別の振動を、胸を啄む唇で拾う。あとできっと、必要になるから)
(キスを通して祀という花の全てを感じ、その身を委ねてくれる気持ちに自分の技術と心を注いでいく)
(これは「仕事」で。仕方のないことで。でも、だからといって、義務感だけで身体を重ねたくなんかなくて)
(いけないことだとわかっていても、心を通わせたくて。感じて欲しくて)
(たくさん勉強して、気持ちよくなってくれる方法を学んで。身につけてきた、磨いた技術だった)
(それで誰かの心と身体を満たせた時、蓮の幼い心と性は、絶頂とは違う喜びに満たされていく)
(つん、と香る匂い。大胆な彼女の匂いに、寄り添うように絡み合う)
(診察着の前を濡らす、男の子が射精の前にたくさん零す、透明な昂りの雫の匂い)
(腰が跳ねる。シーツの海、爪先が伸びる)
(腰が跳ねるのに合わせて、ふるりと小さな身体が震えた)
(絶頂はなくとも、唇を合わせた相手の動きとシンクロした歓喜の波が、彼の身体を漣の速度で走り抜けた)
―――……ぁ………
(祀の匂いがついた髪が、顔を引き寄せる。拒まない。手のひらに身を委ねる)
(たくさんの命を救ってきた、立派な大人の―――女の人の、手)
(その手は、自分を慰めたりもするんだと。性欲だってあるんだと、蓮に教えてくれる手)
(祀への憧れに、素直な好意と興奮が混ざり合っていく。彼女をより深く知っていく)
(濡れた指と手に、頬と髪を自分から押し付ける。顔と髪を包む匂いと濡れた感触に、小さな少年が微笑む)
(顔を、胸の片方に押し付けられる一瞬前に。鍛冶屋の女の人の手の腹に、胸の頂きにしたのと同じキスをする)
(この手が大好きだ、と、言葉よりも確かに伝えるために)
(跳ねる胸に、顔と頬を打たれる。ビキニの紐を外す時も、少しだけ打たれた)
(紐は肌に痕も残らず、軽く触れた感触がするくらいで)
(むしろ、凄まじいボリューム感で揺れた胸の肉感の方が強い)
(触れ合いがくれるそんな感触たちが、愛しい。微笑んで、求められるままに手を導かれた)
(空いたもう片方の手で、診察着を結んで留めている紐をするりと解いていく)
(叫び声)
(躾けてください、と、自分から仔犬におねだりする大きなお姉さん犬がいる)
(心臓の音が、うるさい。薄い胸板から飛び出てしまいそうなくらい、高鳴っている。祀の言葉に興奮させられてしまう)
(頭に上に、カッと半分、血が昇って。もう半分は、下半身の、痛いくらいに元気な場所へと集まっていく)
(全部曝け出して、叫んで、乱れてくれたその人の熱い吐息と言葉に、コクンと、また喉を鳴らす)
(叫び終わるのを待って――待てなくて。最後に届く、火傷しそうな「御主人様」の叫びが終わる少し前に、身体が動き始める)
(両手、唇に、理性ではなく本能が命じて。そこに積み重ねた経験と技術を、叫び終わると同時に解き放つ)
27
:
占部・蓮
◆v6j.R9Z2OE
:2020/12/21(月) 04:44:36
>>25
―――ン………
(おねだりした場所を唇で、強く吸いながら、甘く噛む。噛んで隠れている実を、押し上げる)
(甘噛みしながら吸い出す力加減は過つことなく先端を吸い上げて、顔を出した初々しい花の実に傷つけないよう歯を立てる)
(小さな手では抑えきれないほどに豊かな水蜜桃を、上手に抑え込みながら中指の先を伸ばして)
(探り当てたいやらしい蕾を、きゅっ、と、掘り返しながら、剥き出した先端を、人差し指と親指で挟んだ)
(両方の陥没乳首を外へと導き、同じタイミングで、片方には唇と歯。片方には中指と人差し指と親指の、別の種類の刺激を与えて愛していく)
(強い汗の匂い。立ち上る汗とは別の匂い。唇を寄せるたびに、何も考えずにむしゃぶりついていたくなる甘い果実)
(トランジスタグラマーな美人の極地のような肢体に溺れて、飲み込まれていく)
(無言だった。言葉を尽くすより、動きと技術を尽くした)
(身体と心で、啼き叫ぶ祀の全てを受け止めた――自分の声で遮りたくないくらいに、綺麗な声だった)
(幼子が、乳房を吸う音が響く。そこに身体がベッドを揺らす音が交じる)
(唇をつけた乳房を上から鼻梁が抑えつけて、胸肉にも堅い鼻梁の感触の刺激を与えていく)
(くっと丸みを帯びたその稜線を鼻先が押さえてつつき、唇とは別の愛撫を与えながら、唇は休まずに動いていく)
(弱く、弱く、弱く、強く――さっきまでのキスと同じリズム)
(あの、意地悪に、水着の上から頂きを吸った動きと同じリズム)
(違いは強さ。今度は、弱い時ですら、胸先を吸ったくらいに強いキス痕を、桜色の乳輪の周りに重ねていく)
(尖った先端を強く吸い上げ、甘噛みするタイミングでは、歯先、唇。歯先で挟んで舌先でねぶって。あるいは吸うだけ)
(その四種類の動きを不規則に混ぜて愛撫を繰り返す。弱く、弱く、弱く、強く)
(理性を蕩かした愛撫と同じリズムに四種類のランダムな強い愛撫を混ぜて、顔を押し付けられた乳房を徹底的に責めていく)
(彼も、夢中だった。全てを忘れるように、快楽に溺れた。溺れさせてくれるくらいに、魅力的な身体で、魅力的な女性だった)
(マゾヒズムの気が、あるのかな。そう考えた少年は、「ちゃんと」、意地悪をする)
(弱く、弱く、弱く、強く。強い愛撫をしたら、次も、弱く、弱く。そして、強く)
(10回に1回程度だけ、リズムを崩して。片方の乳房を、好きにした。時折愛撫から外れた、淡い淡い歯型をつけた)
(白い白い胸の肌に、淡く赤い、少年の歯型の花が小さく咲いた。キスマークとは別の烙印だった)
(そうして唇と顔で攻めている間に、もう片方の乳房は、手で。好きにする)
(そちらも寂しくならないように)
(最初に中指で器用に剥き出しにした乳首を、きゅっと、人差し指と親指で一番最初に強く潰した後は)
(強い刺激に驚いた先端を、優しく、胸の上で転がすように指の腹で胸肉に沈ませてあげる)
(自分の胸のいやらしさを多分、知らないだろう胸の中の住人に、自分の乳肉の柔さと弾力を埋め込みながら教えてあげる)
(優しくした後は、また指先で厳しく強く、愛してあげる。人差し指と親指で立たせた後、ピン、と弾いて)
(あるいは、中指と人差し指の根本に挟み込みながら、捕まえた可愛らしいピンク色の芽を親指の腹でくりくりと潰してみせて)
(強くした後は、また優しい。薬指と中指の間に柔らかく先端を挟んで、小さな手の残りの指で柔肉を鷲掴みにして)
(激しく揺れる振動に合わせて、やわやわと弱く優しくかき混ぜる。かき混ぜて、かき混ぜて。どこかでやっぱり強くする)
(ぎゅっと胸全体を、痛くない程度に、でも強く感じられる程度に掴んで、その時に、指の間に挟んだ先端もぎゅっとする)
(もっと強いのが欲しい時には、人差し指と親指、中指で先端を摘んで。おねだり通りに引っ張ってみせた)
(規則性とランダムを混ぜた唇と舌先、歯での愛撫に比べて、手の動きは自由奔放だった)
(両乳房に全く異なる愛撫を与えて、悦ばせて。悦ばせることに、彼自身ものめり込んでいく)
(身を尽くして祀の身体へと重なり、埋まってくたびに。診察着は彼の細い身体と肌を滑り落ちていく)
(少しずつ、どこか少女性を帯びた少年の身体が、祀色の香りを纏う黒髪に隠されながら、露わになり始める)
(気づいても、もう身体を隠す気恥ずかしさなんて、どこにもなかった。裸の肌を、汗に濡れた肌を、彼は進んで重ねていった)
(好きにして、と言われたから。好きにしてあげたかったから。「仕事だから」と言い訳をくれたから。我を忘れる)
(唇と片手で、両方の乳房を愛していく彼の、残された最後の手)
(2本目の腕は、唇と片手で掘り起こした乳房の先端を同時に攻めた時)
(そっと静かに、ついさっき跳ねた腰の間に忍び込んで――そのデルタを包む水着の上から、きゅっと)
(強く、無地の丘に隠れていたクリトリスを探り当てて、一緒に摘んでみせた)
(その後の続く指先の動きは、さっき、学んだもの)
(キスの雨を振らせていた時、まだ「よし」をしていないのに)
(勝手にそこを慰めてしまったワンちゃんの動きを、二の腕に震える胸肉)
(その揺れから、読み取ったものだった。―――つまりは、彼女の自慰の指使い)
(それを模した動きで、大陰唇に、小陰唇に、11歳の少年の指先が触れて、かき混ぜていく)
(もちろん、たったそれだけの情報で全てが読み取れる経験なんて積んでいない)
(事実、彼の指先は模してはいても、完璧なものではなかった。だから、慎重に、慎重に)
(そして情熱的に、彼は祀の感じる場所を探りながら、彼女が一番感じる動きを探って、指使いを修正していく)
(指先だけが堅い、柔らかな手が、まずはクリトリスを転がす動きを再現しようと忍び寄る)
(最初は淫核に触れて転がすだけの優しい動き。女性の性感帯は敏感で、指を置いているだけでも呼吸で淡い動きが生まれる)
(そうして感じることもある。愛撫の仕方だって千差万別だから、最初は優しく。そこから少しずつ、強く、強く)
(気持ちいい動きを探っていく。転がし方。潰し方。その強さ。陰唇や恥丘に押し付けてあげた方が気持ちいいのか)
(指で挟んであげた方がいいのか。少年の指先が探す。探していく。祀の「自慰の仕方」を、蓮の手が探って覚えていく)
(覚え込んでいく過程ごと、祀の秘所へと、愛撫として塗り重ねていく)
(秘裂の愛し方も同じだった。感じる場所。指を入れる本数。入れる深さ。感じる動かし方)
(あの、蓮の前でしていたクリトリスとヴァギナのオナニーを、蓮が指先と手で実演しながら探っていく)
(あの時、キスをされるだけで、どれくらい感じていたのか。どれぐらい気持ちよかったのか)
(ぬるりと滑り込む人差し指が締め付けられながら、性交用に爪先を整えられている11歳の指が、無言で詳らかにしていく)
(深く差し込まれた中指が、あたたかな膣天井や膣底の花弁を指で擦りたてて、くちゅくちゅと鳴らしていた音を再演する)
(茂みのない、産毛だけの初々しい恥丘を熱い手のひらで押されるタイミングを図って、充血するそこを刺激する強さを真似して)
(最後に、両手でしていたオナニーを片手で再現するために)
(蓮だけのアレンジを加えて、ずれたマイクロビキニの奥。19歳の秘所を)
(「蓮の指先で探り当てた、祀のオナニーの手付き」で、ずっと攻め続けた)
(何回イッても、手も唇も止めなかった)
(最初に啼き叫んだ姿が本当の「祀さん」だと思ったから)
(強い絶頂が欲しい時には強い刺激を。弱い絶頂が続く際は、弱く優しい刺激に強いものを混ぜて)
(乳房に顔を押し付ける手の強さが弱まったら、その間に、唇を寄せる双丘をスイッチする)
(手と唇が愛撫する乳房を交代して、彼は攻め続けた)
(「イヤだ」と聞こえたら、わざと、強く、いじわるをシた)
(祀が蕩けて、蕩けて、手も足も動かないほどに感じて絶頂してくれたなら)
(彼は最後の仕上げに――2箇所にキスマークをつけた)
(1つは、首筋。今度は革の首輪と肌の境目にくっきりと)
(もう1つは、心臓の上。深い胸の谷間に顔を埋めて、その奥へと進んで、物理的な祀の「心」の上)
(大事なその場所にも、『御主人様』の痕を残した)
28
:
鉄槌 祀
◆MfBiO.rGQU
:2020/12/21(月) 23:40:57
>>26-27
ひぃっ――――あーーーーーっ!!
(信じられない位の声で絞り出したおねだりは、あっという間に叶えられた)
(胸の中でパンパンに膨らんで窮屈なくらいだった乳首は)
(唇で、指で、あっけないくらいの一瞬で取り出され……愛撫が、始まった)
(吸い上げられ、歯を立てられて。摘まれ、転がされて)
(両方の乳首に突然与えられた刺激に、叫び声みたいな嬌声が上がった)
ふっ……ぎっ、……ん、んんっぅっ!、……うぅ、ぅぅぅ〜〜〜、……っあっあっあっ!!
(胸を、何度も何度も吸い上げられた)
(乳首だけじゃなくて、その周り、乳輪の当たりまで)
(痛みを感じるくらいに強く、何度も何度も)
(じりじりと痛む吸い跡は、すぐにカッと熱くなって)
(敏感になった肌が、次の吸い上げを待ちわびるみたいに疼いて)
(その周りの肌も、自分が吸われるのを期待するみたいに、ゾクゾクと鳥肌を立てて)
(胸全体が敏感になっていく)
(唇で吸い上げられるのを、心待ちにしていく)
(――そして、吸い上げられれば、稲妻に打たれたみたいな刺激を背筋に流して)
(時折挟まる、乳首へのより強い刺激には、ビクッ!と脚が跳ねるくらいに反応する)
(歯が当たれば、奥歯をカチカチ鳴らし、唇で摘まれれば喉を震わせ、舌で転がされれば低くうなり、吸い上げられてのけぞって)
(――胸を噛まれれば脚をばたつかせて、胸の中に生まれたやり場のない快感を発散しようと、無駄な努力を重ね)
(もう片方の胸も、休ませては貰えなかった)
(こっちは、乳首に快感を刷り込んでいくかのように)
(摘まれた乳首は血流に反応してじんじん痛み、その感覚を胸の奥に沈み込ませるように押し込まれて)
(胸の中で自分自身の柔肉にもみくちゃにされて、快感を生み出し、柔肉の中へ溜め込んでいく)
(でも、その溜め込まれた快感も、指で乳首を弾かれ、親指で転がされる度に、爆竹みたいに連続して弾けていく)
(指で摘まれながら、胸をかき混ぜられる度に、また快感を溜め込まれ……ギュッと掴まれて爆発)
(その繰り返し、胸の中に快感の火薬を溜め込まれて、一気に爆発させられ、また溜め込まれ……)
(時折挟まる、強く乳首を引っ張る動作に、溜め込まれていたものが一気に爆発する)
(股間でぶしゅっ、と何かが漏れ出て、じんわりと熱く、湿気った感触が広がっていく)
(ひ、ひ、ひっ、……)
(引きつった笑い声みたいな呼吸が続く)
(いつ爆発するかわからない、そうでなくてもずっと甘く響く快感に、息を吸うのも吐くのも、落ち着いて行えない)
(蓮が強い刺激を送る度に、ひぃっ、と喉が詰まって、びくびくっ、と腰が震える)
(手で抵抗もできない、枕を逆手に握って引きつけていないと、がくがく震える頭がどこに転がっていくかわからない)
(ただただ、与えられる快感に震え続けるしか出来ない、そんな状態で……)
―――ぃい゛い゛い゛い゛っ!!!!!
(脊髄が爆発したみたいな、快感)
(クリトリスを摘まれたんだ、と理解するのに、数秒かかった)
まっ……まっでぇ゛……それぇ……それ、待っ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!
(押さえも効かず上げた悲鳴で、あっという間にがらがらになった喉が、しかしまた全開で声を上げる)
(胸だけで快感漬けにされていた体に、もう一箇所、強い快感の発生源が加わった)
(もう、我慢もできない……)
あ゛ーーーーっ!! あ゛ぅ゛ーーーーっ!! あ゛っあ゛っあ゛っ!!!
(指が膣口を押し広げる度に、その奥の滑った肉を割り広げる度に、その中に隠れたしこりのような箇所を擦り上げる度に)
(がくんがくんと腰が跳ねて、両足と腰でブリッジを作った)
(ぶしゅぶしゅと尿道から潮を吹いて、蓮の手をビショビショに汚して、それを謝ることも出来ずに、腰を跳ね上げ続け)
(がくんっ!と腰が落ちたら、今度は逆に首がのけぞり、胸の奥で爆発する快感に喉をつまらせた)
(なにか言った記憶はない、もっと、と言ったのかもしれないし、やめて、と言ったのかもしれない)
(でもその間、快感が途切れることはなかったし、体がガクガクと跳ねたりのけぞったりするのが止まったという覚えもない)
(――だけど気付けば、力尽きたかのように両手足はだらりと投げ出されていたし)
(パジャマの中にまだ収まっていた手足は、汗まみれで)
(湯気が立つほどの熱気の篭もったパジャマの中で、むせ返るような匂いに包まれていた)
(ボーッとする頭を覚ますかのように、鋭い痛みが2つ)
(首筋と、胸元……痣になって残りそうなくらいに強く、吸い上げられ、キスマークを付けられて)
(そろそろかな……と、鈍った頭が考えた)
(このパジャマは、トイレ用なのか、マジックテープで止まる合わせ目がお尻の方まで続いている)
(その合わせ目を、のろのろと、でも股下までしっかりと開いてしまって)
(もこもこした袖口から飛び出した指先で、女性器を……おまんこを、左右に割り開いてみせた)
(両足もはしたなく開き、完全に無防備になる……)
(なのに、あくまで着ぐるみパジャマは着たままで、頭はまだかろうじてフードの中に収まっていて)
(なんだか、頭が混乱しそうだった)
(――でもまあ、そんなことは関係なく……)
ぉ、おねがい、します……
ここに、ください……ごしゅじんさまの、おちんちん……
もう、しきゅう、おりてきて、まってますから……
いちばんおくで、びゅくびゅくって、してください……
(熱に浮かされたみたいに怪しい口調で、おねだりした)
29
:
占部・蓮
◆v6j.R9Z2OE
:2020/12/22(火) 01:18:37
>>28
(防音された室内に、余韻すらかき消すような音量とテンポで、ケダモノのような喘ぎ声が弾けて響く)
(蓮の知らない祀の声。彼の知らない祀の、閨の上での表情。身体を打つ程に大きな声)
(年も身長も体重も、ずっと下の彼の下で、祀が喘ぎ、狂っていく)
(狂わない訳がなかった。昂ぶらない訳がなかった)
(白い素肌の上、二人の汗の珠の粒がいくつも流れて滴り落ち、色彩の違う二人の肌をきらびやかに艶めかせていく)
(身体が跳ねる。無理に押さえつけるのではなく、体重の軽さを利用して、動きに乗り、合わせて、愛撫を途切れさせない)
(完全に肌の上を滑り落ちていた診察着は腰の辺りに溜まっていて、しぶく――絶頂の飛潮に、あっという間に濡れそぼる)
(そこを染める蓮の先走りの雫の匂いを埋め尽くすほどに。腰の奥に疼く本能の炎が、より強く燃え盛る)
(目元の隈にいつも漂うどこか疲れを帯びた愁いも拭い去られ、狂奔に身を委ねる一匹の牡の獣に、祀によって変えられていく)
―――ン………
(全ての愛撫を終えて、キスの印をつけた後。彼も、荒い息を整える)
(ここまで無我夢中で、身体に染み付いた技術を全て注いで走ってきた)
(全力疾走にも似た独特の疲労を、呼吸を整えることで回復しようと務める)
(でも、上手に出来ない。身体の全面から、否、自分の全身からも祀の匂いが立ち込めている)
(息をする度に、吹き出した愛液と汗の匂いがする。肺と口から全身を通って、祀色に体の中が染め上げられる)
(濡れて乱れた黒髪を、指先で梳いて肩の後ろに流す。その指先すらも、祀の匂いがする)
(ぼぅっと意識が快感に霞む祀を、同じ表情で見つめながら、細い肩を上下させて)
(そうしてインターバルを挟んでいる間に、祀が動いた)
―――………ッ!! ン……ッ!
(パジャマが更に開かれて、肢体の前が殆ど露わになった祀が、女性器を指先で割り開いた)
(しなやかな両足が広がり、年下の自分の男性器を、はしたなく、直接、求めてくる)
(憧れの大人の艶姿は、強烈だった。落ち着いた呼吸が乱れる)
(小さな体躯が、また漣の震えを伴い、視線が祀のそこへと釘付けになる)
(自分の薄い腿の間に素早く手を入れて、性器の根本を押さえていなければ射精してしまっていただろう)
(それほどに扇情的で。彼は、その艶姿に震える自分を、祀の前ではっきりと見せた)
(祀の愛液でグッショリと濡れた診察着と、同じ雫で濡れた手を使って、突き抜ける衝動を堪える)
(胸から飛び出しそうなそこを押さえつけるように白い肌を押さえた指の痕が、胸板にくっきり残っていた)
―――……うん…………
(おねだりする祀の前、蓮はゆっくりと立ち上がる。「はい」、と。そう答えそうになって、言い直す)
(人には“役割(ロール)”がある。それぞれが持つ、その時に応じた“役割(ロール)”が)
(このベッドの上でもそうだ。彼女が躾けられる側。蓮は躾ける側なのだ。その機微が判らない子供ではなかった)
(細く華奢な腰の上から、祀の蜜に濡れた衣が滑り落ちて、彼の男性器が露わになる)
(白く幼く、年相応の。大人に比べれば、決して大きいとは言えないサイズの男性器)
(“おちんちん”とそう呼ぶに相応しい愛らしさと……天井を向いて、濡れ光る亀頭を輝かせながら)
(しっかりと祀の艶姿を竿やくびれの濡れた光に映し込んで屹立する、男性そのものの、力強い隆起)
(鈴口からは白く泡立ち、診察着との間に糸を引くほどにカウパーが滴っている)
(アンバランスさの中に、男性としての堅さと強さ。牡らしさがギュッと詰まった性器だった)
(少女らしさを纏い、今、女性の性の香りをたっぷりと塗り重ねた、黒髪の痩身の中で)
(そこだけは雄々しく、彼は正しく少年だった)
(彼は性器が大きい訳ではなく。絶倫、と呼べるほどに性豪でもない)
(彼自身は、年齢相応の小学生の男の子でしかなかった)
(大人との性交を辛うじて毎日続けられる体力があるだけだ)
(だからテクニックを学んで、途切れない快感に女性を導いた後に性交を行うことで)
(相手と共に絶頂へ達するための工夫を凝らしてきたのだ)
―――ン……
(衣擦れの音から抜け出て、改めてしっかりと。祀の上に覆い被さり、下から上へと唇を運ぶ)
(最後までおねだり出来た祀へのご褒美のように優しいキス)
(頬に添えた片手からは、祀の愛液の匂い。蓮の髪からも同じ匂い)
―――熱い、ね……
(もう片方の手は、腰をしっかりと掴む前に。指先で広げられた性器の少し上の下腹部に触れる)
(腹部の肉を隔てた場所にある子宮に、肉体越しに蓮の手が触れる。その熱さと興奮を、口に出して確かめる)
(手が離れる前に、腹の上から子宮を撫でる。これから交わる場所への愛情を込めて、手のひらがそこを慈しむ)
(腰を掴む手。濡れた割れ目に、熱く堅い肉棒の先端が触れる。息を呑む音が聞こえる)
(今夜は、僕とこの人の「初めて」だから。だから、後先は考えなくていい、と)
(そう言ってもらえた。だから、後先は考えない。いつもなら「次の日」を考えてセーブする)
(辛うじて、そのことを思い出す。思い出さなかったとしても……きっと我慢なんて、出来なかった)
―――上手に、おねだり、出来たね
(快感に喘ぐ、少女性の宿る顔)
(赤い薔薇色の頬は、女の子のようにしか見えない。けれど触れた肉棒の熱さは男の子そのものだった)
(覆い被さった蓮は、祀の腿を自分の腿の上に載せて、彼女の体を軽く畳むようにする)
(腰を進める前に、くしゃくしゃとフードの中の髪の毛を、犬にするように撫でてやる)
―――祀
(ただ、名前で呼んだ。今、彼は彼女の御主人様だから)
(白く幼く、年相応の。大人に比べれば、決して大きいとは言えないサイズの男性器)
(けれども。交わるのに、誓約書が必要になる、立派な、堅くて熱いその性器は)
―――いっぱい、シてあげる、ね
(女性を妊娠させられる、立派な「男性」器だった)
(囁き、もう一度優しくキスをしながら一息で挿入された堅く反り返った年相応のサイズの肉棒が)
(小柄な祀の、子宮口を、真っ直ぐに、こつんと勢いよくノックした)
(その後に続く腰使いは年齢の幼さなど一切感じさせない)
(女性を貫いて、犯して、子宮を刳り刺して性器を叩きつける)
(雌を妊娠させるための、牡の腰使いそのものだった)
30
:
鉄槌 祀
◆MfBiO.rGQU
:2020/12/26(土) 23:08:25
>>29
(蓮の視線が、明らかに質を変える)
(興奮はしていても、まだいつもの少年の視線だったのが、上下関係を明らかにした高圧的なものになっていく)
(――もしかしたら、それもテクニックのひとつなのかもしれないけど)
(だけど、それは見事にハマってしまっていて)
(視線に晒されるだけで、心臓がドクドク言って、止まらなくなって……)
(引っかかっていた検査着が落ちる、布越しだった膨らみが、顕になって)
(年齢相応のまだ「カワイイ」サイズと、年齢に似合わない経験回数が醸し出すのか、真上を向くほどにそそり立ち)
(自分で吐き出した粘液でヌラヌラと光り、泡立つ程に粘ついた、生命力とさえ言えそうな力強さ……)
(思わず口角が釣り上がり、しかし顎からは力が抜けて、愛想笑いのような、へらりとした間抜けな顔を晒してしまって……)
ん、むぅ……
(唇が、また触れていく)
(下から上へ、なぞり上げるような動きで)
(頬に添えられた指からは、生臭い匂いが漂って、でもそれは、もうこの部屋いっぱいに広がっているもので)
(目の前の蓮の髪からも、同じ匂いが漂って……)
(頭の中からもその匂いがしてきそうな、異様な感覚)
(――そこで、下腹を、その奥の子宮を、撫でられた)
(ぞくっ、と全身が総毛立つ)
(どんな意図があったかはわからない)
(もしかしたら、慈しむつもりで撫でたのかもしれない)
(――でも、その行為は、これから『ここ』を征服してやる、という、宣戦布告みたいにしか取れなくて)
(口の中に唾液が溢れる)
(飲み込もうとしても喉がうまく動かず、緩んだままの口角から、涎となって情けなく滴り落ちる)
――はい、はいっ……!
(上手だ、と、褒められて)
はっ、はいっ……!
(名前を呼ばれて)
――はいぃ……!
(いっぱいシてあげる、と、最後通告をされた)
(その全てに、馬鹿みたいに「はい」の一言で返し続ける)
(――頭が働かない、言葉が出てこない)
(本当に馬鹿になってしまったのかもしれなかった)
(だけど、これだけは、最後に――)
ごしゅじんさまの、おちん……おちんぽ、くださ……おちんぽ、ぉぉぉ、おぉぉ……ぅ、っ、ううううううう……!!
(――最後まで、言えなかった)
(うわ言みたいなおねだりは、一突きで打ち砕かれた)
(大きい、とは言えない蓮のそれが、それでも凄まじい存在感でもって突き進み、子宮口を叩く)
(それに反応して、あたしの中がぐねぐねと蠢き、襞が絡みついて、もみくちゃに、搾り取るように……ねだるように、絡みついた)
お、おうううぅ……っ、ぐ、あ、ひああああああっ! あ゛っ、あ゛っ、う゛ああああっ!! お゛っお゛っお゛っお゛っお゛おぉぉ……ぅ、ひぃぃっ!?
(あとは、もうめちゃくちゃで)
(あたしを組み伏せ、腰を叩きつける蓮に、悲鳴を上げながら、抱きつき、脚を絡めて、必死で意識を繋ぎ止めた)
(声を抑えようとか、せめてもうちょっと可愛くとか、そんな事を気にする余裕なんかなくて)
おっぱいぃ……!! おっぱい、ちくびぃっ!! もっと、すってぇ!!
めちゃくちゃに、いじめて、いっぱい、もっと、していいですからあっ!!
いっしょに、おまんこ、おちんぽで、ちくびも、いじめてえっっっ!!!
(――なにか叫んでいたような、気もするんだけど、よく覚えていない)
(ただただガクガクと腰を震わせ、締め付け、脚を絡めて、抱き寄せて)
(快感の奔流に巻き込まれながら、縋り付くように、蓮の頭を掻き抱いていた)
31
:
占部・蓮
◆v6j.R9Z2OE
:2020/12/27(日) 12:54:34
>>30
(いつもの活力に溢れた溌剌とした顔が、今は弛緩して蕩けたように崩れてる)
(そのギャップが年相応の幼い性器の裏筋に、力強い血管の筋を漲らせる)
(下から被せるように交わした唇の中へとドッと、溢れて流れ込んだ唾液が蓮の口内にも溢れてくる)
(合わせた互いの唇の端から滴る雫の匂いに、子宮を愛でていた指先は、最後の数瞬だけ)
(祀が期待したような、宣戦布告の力強さを宿していたかもしれない)
ンぐっ……!
(御主人様になりきろうとして。自分よりも上背も体格もある女性を、孕ませるつもりしかない体位で犯し貫いて)
(完全に主従の征服の交わりをしても、尚。完全にそうさせてくれない熱量と貪欲さ。肉体の豊かさが祀にはあった)
(徹底的にペースとリードをとって、相手を興奮の坩堝に投げ込んで、高みから落とさないようにして)
(それだけ手を尽くしても、狂おしく蓮を求めてうねる小柄な蜜壺の淫らさと艶やかさ、鍛えられた下半身が生む締め付け)
(そして、性交に没頭してのめり込み、性器のサイズをものともせずに絡みついてくる肉襞の熱さに、祀の目の前で蓮の顎が跳ねる)
(汗に濡れた髪が浮いて、汗の珠が散って。こびりついた隈に彩られた目元が覗いた)
(今は、その生気の薄い顔一杯に、精力と征服欲、性欲と、この夜に全てを打ち込もうとする懸命さを漲らせながら)
(祀の膣の締め付けに、ぎゅっと可愛らしく眉根を寄せて耐える御主人様)
(きっと、先に射精を伴わない絶頂に達していなければ、射精していたかもしれない)
(それほどに心地いい、と、少年の物言わぬ顔が、挿入の瞬間に語っていた)
―――ン……ッ!!
(でも、一度堪えられれば、次が来るまでに耐えられる)
(それを経験で知っていた少年は、一度だけ大きく震えた後は勢いよく腰を引いて、反り返った亀頭で祀の膣天井を一息に擦り立てる)
(ずゅっ、とも、ぞりゅっとも、音に言い表せない卑猥な擦過音を立てて、綺麗に向けたピンク色の亀頭が入り口近くまで膣壁を撫でて)
(次の瞬間、パンっと下腹部同士がぶつかる小気味良い音を立てて、子宮口まで突き刺さる)
(体重をかけて、体の角度を無意識に変えて、深々と可愛らしいサイズの牙を奥深くまで刳り込ませる腰使い)
(膣天井を擦っていた亀頭が、今度はカリ首と幹の継ぎ目の段差で、また粘膜同士が絡み合い擦れる異様な擦過音を立てて今度は膣底を擦っていく)
(性器の幼さに反して力強く荒々しい、そして祀が求めた通りの、「御主人様のお仕置きとご褒美」)
(祀からケダモノのような声があがる。悲鳴、喘ぎ声、もうどちらともとれる、とんでもなく乱れた声)
(出会った頃は想像もしなかった声に、腰を打ち込むパンパンパンパンという容赦ない腰使いと)
(充血した下腹部を薄い下腹部で打つスパンキングの音が響く)
(腰を引く動きに合わせて亀頭で膣天井を、裏筋で膣底を擦る腰使いは一定のリズムではなかった)
(上、下、上、上、下、下、下、上。腰を引いて打ち込む時に愛撫する膣内の性感帯に粘膜が触れる周期は祀の感度を腰を打つ度に図って)
(読んで、合わせて打ち込まれていた。勿論、愛らしい性器の攻めは上下だけの打ち分けに留まらなかった)
(小さいから、サイズに余裕があるから、打ち込む角度を選べるから。雌を躾ける雄の種付け体位なのに、様々な場所を打った)
(亀頭で左右の膣道を擦りながら、時に腰に円を、「の」の字を描かせて、膣内の性感帯を縦横無尽に自由度の高い性器で突いて、打って)
(ずん、と祀が大きな快感の波に翻弄されるタイミングで、深く性器を突き刺して、子宮口前のポルチオを刺激すると)
(その快感の高波に勢いをつけるように、ポルチオを性器の先で小刻みに連続で舐り、刳り続けた)
(槌を振り、鍛えられた腕と鋼を鍛える為に踏ん張る足腰が、細い細い肢体に絡みつく)
(少年は揺らがない。膂力も筋力も年相応にしかないけれど、でも。閨の上で、誰かを抱きとめる技術を重ねてきた少年だった)
(祀に腰を打ち込む少年は、必死だった。快楽に溺れて、絡みつく不安や重圧を忘れてセックスに没頭し)
(没頭していることすらも忘れるほどに、祀に惹き込まれて、飲み込まれて、誘われて、狂わされて)
(蜜壺の心地よさに歯を食いしばりながら腰を打って、ただただひたすらに、酔い痴れた)
―――……ッ!!
(祀の視界の端、あの、どこか儚く、消えてしまいそうな少年は今)
(射精に耐えながら、この時間を少しでも長く味わいたいと、全ての懊悩をかなぐり捨てて、自分の本能に身を委ねていた)
(いつもどこか泣きそうだった目元が、今は濡れた瞳で祀を下から見上げている。下から見上げているのに、主従関係は逆だった)
(はしたない犬を躾けるような、叱るような、そんな目。自分を掻き抱く祀の腕が、顔を豊かすぎる乳房に押し付ける)
(息ができないほどの圧迫と柔らかさ。膣内で腰を引いて打ち込みながら、性器の角度が露骨に上がり、当たる角度が変わる)
(はしたないおねだりをする度に、躾けるように、甘噛みをする。白い乳房に淡い歯型が増えていく)
(揺れる頂き、陥没乳首から穿り返された先端を、唇がお仕置きをするように強く吸って痕を増やす)
(今は興奮で赤らんだ白い乳肌に指が食い込む。指の間からまろび出た先端を指の根元が挟む。挟む。上に摘む)
(両の手のひらで片方ずつの乳房を握る。小さな少年の手になど収まらないサイズを、注文通りにむちゃくちゃにする)
(優しくもみくちゃにして、強く乳首をいじめて。親指と人差し指で同時にぎゅっと乳首を潰しながら、腰を打ち込む)
(パァンと音がして、はしたない犬の充血した下腹部を打つ。子宮口とポルチオを打つ)
(触れ合った下腹部の下で、クリトリスを潰しながら、ぐりゅぐりゅと押し付けた男性器で、おまんこの一番奥の奥を)
(くちゃくちゃに優しく掻き混ぜて、ピンと反った性器の先でこね回した)
(愛らしい、生命力の塊のような肉の杭で、祀の肢体を抑え込んで、突き刺して。支配していく)
―――祀
(その体勢のまま、一番、奥に深く刺さる角度を探して、パンパンパン、と別の生き物のように腰が動く)
(この先の言葉を口にする時、ふとした拍子に正気に返ることがある)
(そのときの絶望と余りにも倫理観から逸脱した現状に立ち竦むことがある)
(スキンは、つけていない。性器同士が直に触れ合っている。その先にある事実は、たった一つだ)
(彼は11歳だった。「扶養される」側だった)
(7歳から始まった。7歳差、8歳差、9歳差、10歳差)
(今は11歳差の、赤ん坊が出来るかもしれない)
(父親になるかもしれないのだ――――恐ろしかった。姉は、母親になる恐怖に怯えていた)
(どうしてもダメな時、泣きながら、人前で前立腺を弄った)
(そうすれば肉体は、心と切り離されて絶頂することを、射精することを理解していた)
(女性と交わっているのに、後ろを弄って性器も柔らかいままに射精したこともあった)
(今夜は違った。体の下で、ここまで身と心を尽くして)
(蓮ごと、完全に狂わせて乱れてくれる人がいた)
(今夜は怖くなかった。怖さを感じる隙間など、快感で満たされた心のどこにもなかった)
(名前を呼ぶ声は、怯えの冷たさなど微塵も感じさせないほどに熱かった)
―――だす、ね
(ぎゅっと祀自身の二の腕で寄せられた谷間に顔を埋める)
(中央、その谷間に顔を埋めながら、ぽつりと呟く。呟いて、片手で寄せた両の乳首をまとめて口に咥えて、淡く噛む)
(噛みながら、片方の手で、腹の上からぎゅっと、子宮を掴むように、また触れる。降りてきてる子宮を確かめる)
(子宮の位置を確かめながら打ち下ろされる腰。一番奥まで、ぴたりと刺さって子宮口にキスをする性器)
(隙間なく重なった下腹部同士でクリトリスを最後にもう一度潰しながらはっきりと宣言して)
(「ぉ、おねがい、します……」)
(「ここに、ください……ごしゅじんさまの、おちんちん……」)
(「もう、しきゅう、おりてきて、まってますから……」)
(「いちばんおくで、びゅくびゅくって、してください……」)
(そのおねだりを満たすように、凄まじい量と勢いの射精を思い切りぶちまけた)
(びゅくびゅくなどというものではない、びゅるびゅるという擬音ですら甘いほどの力強い迸りと量、濃さ)
(あの華奢な少年のどこにそんな、と思うほどの力強いほとばしり)
(年相応の――生命力を煮詰めに煮詰めたような青臭い白濁の本流の、心臓の鼓動のように高い射精音が)
(たっぷりと時間をかけて、祀の子宮を滾々と叩き続けた。大量の子種を放ち続けた)
(そこだけが、毎夜、人と閨を共にして尚、死ぬことのない彼の適合者としての頑健さを物語っていた)
32
:
メルティ=メルル
◆bY.FBdBpj.
:2020/12/27(日) 17:05:50
>>23
そ、そうでしょうか……?
(私にお嬢様を誘惑するつもりは一切無い、とは口が裂けても言えないけど、ほんの少しでも私のことをじっくり見てみようと思ってくれたならすっごく嬉しい)
(ひさしぶりのお嬢様との二人っきりの時間だから、お嬢様の視線を私で独占できる数少ない時間なんだから、見る気にならないとか時間を無駄にしたなんて思われたくない!)
もちろんで…す……? あの、お嬢様……あ、はいっ!
(だから、お嬢様が席を立ったのを見てかなりビックリして声が裏返っちゃったのはすごく恥ずかしかった)
(普通に考えれば横や後ろ姿も見たいと言うことで、新しいドレスを試着するときは左右にも鏡を置いて確認するのは当たり前だから)
(それに気が付くのもふた呼吸くらい遅れてしまって急いで背筋を伸ばしたけど変な汗がでちゃって……もう、こんな時になんで!)
ふぇっ? ……んっ! ……んん〜〜っっ!!
(アリスお嬢様!!? こんなに顔を近づけなくても後ろ姿は見られるんじゃないでしょうか!? 吐息が! お嬢様の吐息が首筋に当たってしまってます! むずむずして気持ちよすぎでしまいます!)
(駄目です、こんな近くじゃ私の汗の匂いがお嬢様の鼻を汚してしまいます! うぅぅっ、意識すると余計に汗が……逃げ…逃げたくない、逃げたくないけど、逃げたい!)
(正反対の思いが頭の中でグルグルと追いかけっこをして目を回しそうになった私は、撫でられたとたんに私の意識は妄想の夢の中へトリップしてしまう)
(私は夢魔なので白昼夢はお手の物、こちらの時間でコンマ一秒もかからない時間で生み出した白昼夢の中へ妄想と混乱を投げ込んで閉じ込めてしまう)
(もちろん捨てはしないわ、もったいないもの。夜にお布団の中で一人っきりになったらじっくり味わうのよ。でも始まったばかりでこれじゃ、一週間くらいは夢に困ることはないわね)
……わわっ、はい、ありがとうございます! それは、もちろんのこと、お嬢様やお屋敷の皆様にご迷惑はおかけしません。
(……危なかったわ。また一瞬意識が夢の中へ飛び込みそうになっちゃった。私が夢魔じゃなかったら止まれなかった)
(とは言え、お嬢様なら私の動転を察するなんてお手の物だろうし、あまり恥ずかしい姿を見せないように気を付けないと)
(なのでしっかりしているとこを見せようとキリッとした顔をしてみせる。見せるだけじゃ駄目だけど、こちらの世界の男性のえっちな視線にちゃんと気が付いているのは事実だし)
(日本のエリート役人みたいな大人は隙を見せないけれど、学校の男子生徒や先生なんかは隠しきれてないし、隠すつもりがない人もいるから間に線を引いていつでも逃げられる心構えはしているつもり)
(今の私はあの頃の私、お嬢様に手を差し伸べていただける前の私、ただ弱くて翻弄されるだけの私じゃないもの)
はいっ! 学校では楽しく勉強をさせてもらっています。勉強はとても難しくて覚えることもたくさんありますが、先生やお友達に助けてもらいながら問題を解けたときはすごく嬉しいです♪
こちらの世界でも誰もが学校へ通える国は多くはなくて、私のようなモノが学校へ通うことができる日本へ来られたのは幸運でした。
お屋敷の代表として町内会へ参加しても町の方々は温かく迎え入れてくれますし、私の力を困っている人の手助けになることを初めて体験して、何て言えばいいのでしょうか……ええと、許されたような感じがするんです。
(本来、夢魔という存在は美味しい夢を食べたいがために様々な夢を人に見させるモノ。その人が望まなくても、夢が原因で心が壊れてしまっても気にしない、悪夢の魔物)
(私は人の子として生まれてちゃんと力を自分のものとして使いこなす方法を知らなかったら、怖がられて捨てるように売られて強制的に欲望まみれの夢を生み出すことを強いられる道具になってしまったけれど)
(そのどちらであっても、困っている人を助けるモノじゃなくて、欲を満たすだけのための力で、それがこんなことに――――)
―――っ!
私はお嬢様にお使いすることができれば、どのような場所でも私にとっては楽園です!
お嬢様のお心が寂しいなら、それは私にとっても寂しいってことです。
ぜったいにお嬢様に寂しい思いなんてさせません。
私が、私だけが楽しむんじゃなくて、私がお嬢様の目や耳となってこちらの世界の楽しいことをお伝えします!
(今度は瞬き程度じゃすみませんでした。ざっと数秒くらいでしょうか。こんな不意打ちをされたら白昼夢の海にどっぷりと落っこちてしまうのは仕方がないことなんです。お嬢様のあんな顔を見せられてしまったら!)
(夢の中に潜って心と体を切り離していなかったら、まだ衣替え前で学校へ着て行っていないのに夏の制服を洗濯しなければならないところでした――鼻血で)
(もちろん、お嬢様が言わんとしていることは判っているつもりです。私はお嬢様やお屋敷の他の方々に比べれば若輩者、こちらの世界の基準ならまだ一人前と認められない子供だから、子供らしいことをしなさいと言われているのだと)
(それはとってもありがたいことだけど、やっぱり私の中での一番はお嬢様だからお嬢様のためになれることをしたい。お嬢様のお気持ちを汲みつつも、これは忘れたくない)
(学校へ通うようになってから気が付いたこと。当たり前だけどお嬢様はすごい。こちらの世界での魔物、鬼と呼ばれる存在の退治を国から依頼をされて確実に完遂させるほどにお強い)
(私くらいの実力でも怖がる人はいて、それが当たり前のことだから。あちらでもこちらでも基本的には個々で私たちより強い力を持つ人は少ない)
(だから、お嬢様は余計に多くの人達に怖がられてしまう。そんなお嬢様は気軽にお屋敷の外へは出られない。たとえ力を振るわなくても、この美貌の笑みを振りまいてしまったら町中が大惨事になってしまう!)
(自動車や電車という機械はまだまだ私には理解が難しいものだけど、馬車の御者がお嬢様を一目見て気絶したらと向こうのことに当てはめれば被害の程は理解できる)
(お嬢様はドレスを仕立てに高級店へ赴いたり政府の偉い人との会食などにでかけることはあるけれど、毎日学校へ通っている私より回数は少ないし鬼退治の依頼ででかける方が多いくらい)
(高貴なお方が気軽に街中へ遊びに出かけるのはどの世界でも難しいこと。お嬢様の代わりだなんておこがましいことだけれど、だから私の使命はお嬢様にこちらの楽しいことを伝えることなんだ!)
実は私、学校のお友達に東京のディステニィーランドという遊園地へ遊びに行きましょうと誘われているんです。
夢魔の私に日本で一番恐いお化け屋敷を体験させて感想が聞きたいと熱心に誘われてて。
でも行くのは女の子だけじゃなくて男子と半々で、その中には私に誘惑されたい人もいるみたいなので断ろうかと。
そもそも本当に危険で恐い夢を見させられることは伝えていないので比べるのはどうかと思うんですが……いつか、お嬢様を遊園地でエスコートできるように勉強しに行きたいんです!
男性を誘惑しないよう気を付けますので……行ってもいいですか?
(お嬢様のお許しがあれば、私が遊園地で体験したことを夢の形でお嬢様にも体験していただくことはできる)
(夢で先に体験するよりも、いつか実際に遊園地へ遊びに行く時まで楽しみをとっておく方を望まれるならそれでもいい)
(お化け屋敷では本当に恐くなくても怖がって意中の異性に抱きつくのがお約束らしいので、お嬢様と二人でお化け屋敷に入って♡ ――――だ、だめ! これ以上妄想したら鼻血を夢の中へ押し込めなくなっちゃう!)
33
:
アリス=インセント
◆BpYjFWEe7.
:2020/12/28(月) 18:59:40
>>32
そう――……その言葉を聞けたならば私も安心できるわね。でも、あなた自身が余り気負い過ぎない様にするのよ?
貴女は真面目で、だからこそ悩み過ぎてしまう事もあるのだから
……なんて、子ども扱いする必要もないわよね。この世界に来て、以前よりもずっと成長しているもの
(真面目過ぎる一面がある事はメルルの良い所でもあり、そして弱い所でもある)
(一人反省会をして自分自身を叱り落ち込むことももしかしたらあるのかもしれないが――その場面を見ても、敢えて口出しをしないのが常であった)
(聡いこの子は慰めに対しても鋭く反応する事だろう。そして、気を遣わせてしまったと更なる自己反省をする材料とするかもしれない)
(それは望む所では無い。……何より今までのトラウマからその様な状態になっている可能性もあるけれど)
(何であれ、この少女には楽しく過ごして欲しい。それはこの屋敷に住まう面々が思う事だろう)
遊園地、ね……依頼で一度見に行った事だけはあるけど……
私たちの世界じゃ見られない、珍しいものが有って面白そうな場所だったわね
(異界に飲み込まれた遊園地。その時は活気も無く、僅かに以前の面影が見て取れた程度であった)
(詳しくは分からないが、元々は子供たちの歓喜に溢れていた場所なのだろうとも容易に察しが出来た――が、その時の事に関しては何を言う事も無い)
(遊園地を楽しみにしている、というメルルに対して態々不安を煽る様な真似はしないし、何か起きたのならばその時に対処をしれば良いだけだ)
(それに、屋敷の者たち以外と遊びに行く。それは喜ばしい事。ならば尚の事止める事はしない)
(「いってらっしゃい」――と、言葉を繋げようとしたけれど。続く彼女の言葉に、思わず少しの間黙ってしまった)
(――自分の為に、とは本当に彼女らしい。思わず口元を僅かに上げて)
ええ、行ってくるといいわ。……折角だから、屋敷用のお土産も買ってきて貰えないかしら?
きっと皆も喜ぶと思うもの。勿論、私もね
メル……貴女のエスコート、期待しても良いのよね?
(エスコートしたい、との心遣いも素直に嬉しかった。思えば、メルルと二人で何処かに出かける事はそう多くもない)
(況してや、彼女からその誘いが来れば断る理由だって無いだろう)
(それが何時の事になるのかは分からないけれど、その様な気持ちを持ってくれるだけでも嬉しいというものだ)
(尤も、それへの期待もあるのは確かだが……何より、今度はどんな土産話を聞かせてくれるのか。そんな楽しみも大きい)
――後、一応お守りも持っていて頂戴。何も起きる事は無いでしょうけど……それでも、万が一という事があるでしょうから
折角そのお友達と行くのだもの。保険はあるに越したことは無いでしょう?
(そう言ってティーテーブルの上に置いたのは強い魔力が込められた小さな水晶が数個置かれて)
(丁度ペットボトルの蓋の直径と同じくらいの大きさのソレは、何も分からない者が見れば精々アクセサリー程度にしか見えないものだけれど)
(蓄えられた魔力は並みの鬼ならば数体纏めて屠る事が可能な程には強く、もし倒せずとも逃げるには十分な時間を稼ぐことが出来る)
(お守り、と呼ぶには高価な品。実際、アリスがコレを錬金して売った際には相応の金額になるので纏めて買うともなれば数十万を費やすことになるのだが……)
(使い方は簡単。地面に叩き付けて魔力を外に逃がすか、対象に投げつければ良いだけだ)
(戦う力を持たない者が外出する際に持たせることも多い故に説明せずとも使い方は分かるだろうが――……)
(本当は戦闘が得意な誰かを一緒に行かせるのが良いのだろうが、友人との外出にそれは無粋。ならば、と。この吸血鬼なりの代案であった)
(受け取るか否かはメルルの自由。何であろうと、強制される事は無いのだから)
34
:
鉄槌 祀
◆MfBiO.rGQU
:2020/12/29(火) 23:30:47
>>31
――んヴっ、んヴっ、んヴっ、んヴっ……
(一突きごとに、喉の奥から声が漏れる……けど、それはもう、喉が締まって音が漏れているだけで)
(こんなくぐもった変な音しか出てこない)
(体中が快感でぐでぐでになっていて、もう声を上げる余裕がないんだ)
(それでも蓮は、必死にあたしに快感を撃ち込んでくる)
(腰の動きは縦横無尽で、あたしの中の色んな所を抉ってくる)
(一回一回が違う快感で、それに敏感に答えた膣内が、暴れまわる子供を捕まえようとするみたいに、ギュッと締まる)
(でもそうすると、今度は奥を連続で叩かれて……腰を跳ね上げて、ぐじゅり、と熱い汁を吐き出すことになる)
(それでもさらに、蓮の攻撃は続く)
(乳首を、おっぱいを噛まれ、それすらも快感に感じる)
(乳首を抓られ、吸い上げられ、乱暴に握ってメチャクチャに揺すぶられて)
(呼吸を詰まらせ、一突きごとに筋肉を痙攣させ、しかしただ必死に脚と手は蓮の体に巻き付けて)
――は、はいぃっ!
ください、いっぱい、お好きなだっ……ぃい゛っ……!!
(出す、と宣言され、脱力していた肺に力が入る)
(ほんの少しだけ、しかし完全な屈服の言葉を口にして……子宮に加わる圧迫と、乳首に走った痛みに喉を詰まらせて)
――ぅ、ごっ……おっ、おおおっ……っ、っ、っ……!
(圧倒的な快感の奔流に、全身を震わせながら、絶頂した)
(乳首に噛み付いていた顔を押し付けるように、頭を抱きしめていなかったら)
(白目をむいた間抜けな顔を晒していたかもしれない)
(腰に絡んだ脚は足首から先をばたばた動かして)
(でも決して腰からは外れずに、蓮の腰を掻き抱いて、最後の一滴まで精液を搾り取ろうとする)
(一発で子宮を一杯にしそうな量の精液を、ごくごくと飲み干して、その熱さでやけどしそうになりながら)
(しかし蓮の性器を締め付け、最後の一滴まで吸い上げて)
――ふ、はぁ…………
(ぐたり、と、全身から力が抜けた)
(ずるっ、と手足が蓮の体から滑り落ち、情けなく両手足を開いた格好になってしまう)
(全身汗だくで、叫び通しで、二重の意味で喉がガラガラで)
(みず、水は、どっかに……)
ちょ、ちょっと、ごめんね……
(こちらに覆いかぶさる蓮をごろんと転がし、体を起こす)
(ずるり、と性器が抜けるのに合わせて、どこか寂しいような感覚も覚えるけど)
(今はただ、水が欲しかった)
(――枕元には、無い)
(サイドボードにも……こりゃローションか、無いな……)
(部屋のどこかに……と、見回して)
(シャワールームが目に入った)
(ベッドから転げ落ちるように、床に立とうとして……膝に力が入らなくて、へたり込んだ)
(なんとかベッドに手をついて立ち上がり、ぺたしぺたし、とたった数歩に手こずりながら、シャワー室に転がり込んで)
(べちゃん、と床に崩折れた)
(なんとか扉を閉め、シャワーのノブに手を伸ばし、ギリギリ指先を引っ掛けて、回す)
(途端に雨のように降り注ぐお湯を、透明な壁にもたれかかり、脚を投げ出して座ったまま、浴びる)
(顔を上に向かせ、ごくごくとシャワーのお湯を飲み下して、ほんの少しだけ落ち着いた)
(よっこらせ、と立ち上がり、外を見ると、床に点々と白い液体が……やべ、垂れてた)
(こりゃいかん、と思ったところで)
っ、と……あ、ありゃ?
(がくん、と膝から崩れ落ちた)
(両手を透明な壁について踏ん張るけど、膝立ちまでで)
(胸を壁に押し付けるような格好で、中途半端な膝立ちになって)
(――だんだんと膝が滑り、ずるずると体が下がっていく)
(終いには、壁に手をついて尻を突き出しているような、無駄に疲れる格好になってしまって……)
(――あーこれ、一回寝転がったほうが楽なやつ……?)
35
:
占部・蓮
◆v6j.R9Z2OE
:2020/12/30(水) 05:34:03
>>34
―――ハッ……ンッ……ンッ……フッ……
(小さな体躯が二つ、寝台の上で腰をぶつけ合う度に、互いが今夜、初めて聞き合う吐息の音を耳にする)
(祀の零すくぐもった声、叫び声に掠れてしまった声が喉奥で弾ける音)
(男女の本気の交わりでしか聞くことの出来ない声に、祀の膣内で、小さな勃起が膣天井を擦り続けるほどに屹立し続ける)
(対する蓮の声も同じものだ。同じ響きだ)
(膣内を跳ね回り突き上げる腰の動きに合わせて、素晴らしい収縮で締め付けてくる祀の膣圧に)
(少年はただ荒く息をすることしか出来ない。幼く線の細い、少女のような少年の、セックスの吐息)
(下腹部を濡らす熱い愛液の飛沫に、性器へと血液を送り込む少年の下腹部の興奮は天井知らずに燃え上がっていく)
(乳房への愛撫を繰り返しながら、やがて二人で迎える絶頂)
(小さく幼く、それでいてどこまでも牡そのものな性器が、根本からうねり、精液を搾り取ろうとする性器の動きに)
(今湧き上がっている精液と精子の最後の一滴までを、卑猥な音を立てて、貪られていく)
(目の前が白むほどの快感と絶頂に、祀に抱き締められた蓮の体も、ピン、と張り詰めて、身動き一つ出来なかった)
―――ン……ぁ………
(二人同時に迎える絶頂。絶頂の余韻が長い女性の祀より、射精後の余韻が短い蓮の体が先に弛緩する)
(小柄な体躯に倒れ込むように覆い被さって、ただ今は、忘れていた息を整えてゆく)
(力を失った祀と同じような姿で、身を起こそうにも、手足に力が入れられない)
(それほどの快感だった。その証に、祀の中へと埋められたままの性器は、まだ元気にピンとそそり勃っていた)
―――は、い……ン……ッ……
(祀の動きに合わせて、自分からも身を捻って、ごろりと寝台の上に仰向けになる)
(ピン、と最大仰角から少しだけ角度を下げた性器が、祀の性器からぷちゅりと音を立てて抜けていく)
(まだまだ、この年頃らしい性欲に裏打ちされた性器は、抜けた際にぴゅっと、尿道に残った精液を)
(祀の白い下腹部へと迸らせて、小さく震え、その快感に合わせて蓮も小さな喘ぎを零す)
(そのまま、意識を保って――眠らないように注意しながら、呼吸を整える)
(視界の端で動く祀の姿に、やはり大人の、働いている女性なんだなと力強さを実感しながら、その後姿を追う)
(扇情的な後ろ姿だった。1年前、そんな後ろ姿を視ることになるとは思ってもみなかった)
(そんなことを考えながら祀のフラフラとした動作に……情欲よりも、心配の念が湧き上がってくる)
(―――何、か、探してる……?)
(ぼやけていた意識の鮮明さが、他人への心配と気遣いでより素早くクリアになっていく)
(深呼吸が鋭く行われる。何をしているのか、と身を起こして確認すれば、上向いてシャワーを浴びる祀の姿)
(―――あ)
(自分も覚えている喉の乾き。合点がいった蓮は、一つ強く息を吸うと、裸のまま)
(濡れた髪を肌に張り付かせながら手足に力を入れて立ち上がって、部屋の壁へと向かう)
(向かって、一見、壁としか見えない壁面のパネルと叩くと、パネルが開く)
(中にはミネラルウォーターやスポーツドリンク、栄養補給用のゼリーが収められていた冷蔵庫が隠れていた)
(その中から一本ずつ、水とスポーツドリンクを手に取り、キャップを捻って予め蓋を開放してからシャワールームへ向かう)
(―――ン)
(角度が少し柔らかくなっていた男性器が、ピン、と、力強く最大仰角を取り戻す)
(シャワールーム内の祀の、まるで男を誘うような後ろ姿に、一度立ち止まって、赤い指の痕が残る胸を抑える)
(さっきまでの激しい行為が思い出されて、一瞬だけ、その後姿にむしゃぶりつきたい欲望が本能的に過ぎってしまう)
(彼だって男の子だ。そして経験もある。後ろから抱きついて、いやらしい姿の祀を突きたい、また啼かせたいと思う欲望は湧く)
(肉感的な肢体が誘うように差し出され、締まった瑞々しいヒップと腿の間から垂れるのは、自分が注いだ精液だ)
(興奮しない方がおかしい。でも、と。彼は息を一つ吸う)
(ただ――そう。ただ。彼は占部・蓮だった)
―――祀、さん、大丈夫、ですか?
(雨のように降り注ぐシャワーの中、同じ湯気の立つガラス張りの浴室に少年が佇む)
(艷やかに濡れ光る長い髪が肌を彩る姿は、やはり少女性を強く感じさせるもので)
(その中でピン、と、力強く天井を向いた性器の先端だけが、彼の性別を主張している)
―――無理に、立たなくても、大丈夫、ですから
(その姿を隠さずに晒しながら祀にかけられた声は、けれど情欲の一切ない、心からの心配を含んだ声だった)
(性欲よりも情欲よりも、人への心配と優しさ、気遣いが先に立つ少年だった。その善良さを大人たちが守ってくれている双子だった)
(一度身を離して、呼吸を整える時間を置けば、性交の最中に見せていた主従関係の色も声や態度には見えない)
(祀への心配が第一に胸に浮かんでいるからだ。そういう、気遣いと優しさで出来ているような子だった)
(彼は両手に持った水とスポーツドリンクのペットボトルをまず、シャワールームのシャンプーやリンスを置くボトル台に一旦置くと)
(祀が滑って転ばないように注意しながら手をとって導き、一旦、彼女を床へと座らせ、楽な姿勢をとって貰う)
(それから一度、シャワーのノブを回して止めると、ボトル台のペットボトルを再び手にして、水かスポーツドリンクかを尋ね)
(祀が選んだ方を、完全に蓋を開けて差し出した)
(もし、祀の手が震えて飲めない、などの姿が見えたら、彼は手渡したボトルを手に取り)
(そっと自分の口に含んで――自然な仕草で、祀に唇を重ねて、口に含んだ中身を口移しで届けるだろう)
(そういう行為が、もう染み付いている経験をしてきた双子だった)
―――あの、祀さん
―――ありがとう、ございます
(ペタン、と両足を投げ出す姉と同じ座り方で、彼も祀の目の前に座ると、自分のペットボトルを傾けて中身を飲む)
(人心地ついて小さく息をすると……悲愴な重圧と、一日に数百人の人命を背負う葛藤)
(人と体を重ねなければいけない倫理から外れた能力に苦しむ、儚く脆い、善良な少年は)
(この時ばかりは、何の愁いもない、心の底から幸せそうな笑みで、はにかむように笑った)
(シャワーに濡れた髪から覗く目元の隈も、心なしか、薄くなったように見えた)
36
:
鉄槌 祀
◆MfBiO.rGQU
:2021/01/01(金) 23:38:24
>>35
(あー駄目だ、滑る、風呂場に転がる死体になっちゃう)
(と、力尽きようとしたところで)
(優しい声とともに、手が差し伸べられた)
(――なんとか顔を上げてみれば、当然そこにいるのは蓮でしかなくて)
(その股間が目に入ると、そこには立派に勃ち上がったものがあって、あ、後ろから興奮した?という感じではあったけど)
(それでもこちらへの気遣いを優先してくれるのは、流石というか、蓮らしいというか)
――やあ、ありがと……
(素直に手を取り、なんとか手をついて体を支え、半回転して壁に体を預け、座り込む)
(――なんのことはない、さっきと同じ姿勢になっただけだけど)
あー……スポドリで。
(蓮に差し出されたボトルを手に取り、口に運ぼうとして……つるり、とすっぽ抜けた)
(ぼすっ、と音を立てて、奇跡的に脚の間に突き刺さり、倒れなかったペットボトルに思わず吹き出したけど)
(それでもなんとか手を伸ばして……つるっ、と指先が滑った)
――あれ、えー……?
(指に力が入らない)
(このくらいで、とは自分でも思うが、まあ信じられないほど乱れたし)
(思った以上に体力を消耗したのかもしれない)
(と、蓮がボトルに手を伸ばし、一口含むと……唇を重ねられ、体温で温まったスポーツドリンクが流し入れられる)
(それを抵抗もせずに受け入れて、舌を伝わせて喉に運び、こくん、と飲み下して)
(含まれている色々のせいか、ちょっとだけ力が戻った気もする)
(蓮の持つボトルに手を伸ばし、掴んでみれば今度はちゃんと握りしめられて)
(ありがと、と手振りで返し、次は自分でボトルの中身を口に含んで)
――あー?
だから、ありがとうとか言うなって。
仕事だよ仕事。そういうことにしときな。
(まだ多少力の抜けた仕草で手を振って、ボトルを煽り)
(――ごきゅごきゅごきゅ、と一息に中身を飲み干して)
(……ちょっとは発散できたかな、と、横目で見る蓮の顔に明るいものを見て)
はー……ちょっと元気出たけど、もう一発って訳には……
――寝る? というかね、実は正直今もちょっと眠……
(ふらん、と頭が揺れかけて)
(あ、いかんいかん、と頭を振って復帰をかけようと)
37
:
メルティ=メルル
◆bY.FBdBpj.
:2021/01/02(土) 19:37:19
>>33
いえ、私なんてまだまだ半人前の未熟者です。
こんなにお嬢様の気を煩わせてしまっているんですから。
それでも、少しでも私が成長できているのなら、それはお嬢様のおかげです。
(お嬢様は私の駄目なところをしっかり見抜いている。それは恥ずかしいことけど、お嬢様に気にかけてもらえていることだから嬉しい)
(だけど、やっぱりそれは喜んじゃいけないこと。心配事がなければ言葉にしないでただ待っているだけで良いはずだもの)
(お屋敷の中で重要な役を担っている方達にこんなことを言われているとこは見たことがないし……こちらへお屋敷ごと飛ばされてしまった時は色々あったけど、あれは例外だもの)
(早く一人前になりたい! こちらには「千里の道も一歩から」という言葉があって、私を勇気づけてくれた言葉だけど、それでも……一人前になれたらなら、お嬢様もあの事を考えてくださるはず)
(……お嬢様は、私のこの願いのことは気が付いているのかな?)
っ! ……あ、あの、ありがとうございます。
お土産ですね! もちろんです。お嬢様の分も、皆さんの分も全員の分を買ってきます!
あ、えっと…にぃ、さん、しぃ……お小遣いの範囲で。
(遊園地に行ったことがあると聞いてちょっとビックリしちゃった。行ったことはないと思っていたから)
(でも依頼でなら遊ぶどころか鬼と命のやりとりをしていたってこと)
(友達が誘ってくれたところとは別な遊園地ところか、もしかしたらお嬢様が鬼を追い払って再開したところとか?)
(それは聞かないと分からないし、聞くべきではないと思う。お嬢様が許してくださったのだから、気遣いするべきなのはそこじゃない)
(学校へ通うようになって貯めていたお小遣いは減っちゃっていたけど、交通費や入園料なんかを差し引いてもみんなにそれなりのお土産は買えるはず)
(元から高い物を買うつもりはなかったし、スマホのカメラの使い方はお友達に教えてもらってそこそこ使えるようになったから私の分はいっぱい写真を撮ることにすれば少しは残せるだろうし)
え、えすこーと……は、はいっ! 遊園地のことは私にお任せください!
隅から隅まで調べてデートコッ、ケホンッ、お嬢様に楽しんでもらえるよう下調べしてきますから!
(あ、危なかった。思わずデートコースって言いそうになっちゃった)
(デートなんて言ったりしたらお嬢様と私が……ダメダメ! 白昼夢の誘惑に負けちゃダメ! もちろん鼻血もダメ!)
(私がするのはお嬢様が遊園地をお楽しみになられるためのエスコートなんだから、私の欲望をかなえるためのエスコートじゃないの!)
(お茶を飲んで気持ちを落ち着かせないと……はぁぁぁ〜〜、お嬢様が入れてくださるお茶はなんでこんなにも美味しいのかしら?)
(私がお嬢様と同じ時間を過ごせたとしても、同じくらい美味しいお茶を淹れられるようになれるのかな? 自信ないなぁ……私が夢の中でお嬢様とのティータイムを何度も再現できちゃうのが駄目なのかも)
(なんておめでたいことを考えていた私の前にお嬢様が置いたのは小さな水晶だった)
(使ったことも誰かが使うところも見たことはないけど、これが何なのかは教えてもらっている)
(初めて外への買い出しに連れて行かれたときで、メイド長が使い方と効果を教えてくれたのだ)
(メイド長は普段こんなささいな買い物には出てこないので、たぶん初めての私がいるからだろうというのは説明されなくても察することができた)
これは……これを私に?
(他にも察することができたのは、強い魔力が込められた魔法の品の価値だ)
(私のお給金、お給金と言うよりお小遣いだけど、お小遣いじゃ払いきれないくらい高価な品)
(私の持っているものの中でこれと同じかより高いものは、私自身の奴隷としての価値くらいだ)
こんな高価なものを……わかりました。
もしも、もしも万が一のことがあったら、これを使わせていただきます。
アリスお嬢様の名を汚すようなことはいたしません。
(私はお嬢様に使える者で、お嬢様はこの国から信頼を得て依頼を受けている)
(もしも私がいるのに私の友達に何かあったとしたら、友達を守れなかったら、お嬢様が苦労して勝ち得た信頼を損なってしまう)
(それは学校でも同じだけど学校内では私も生徒として学校の庇護を受ける立場だから、遊びという私事ではお嬢様の名と私の友達を守れるのは私しかいないんだから)
(だから私はテーブルの上に置かれた水晶に手を伸ばして……指先が触れた途端に思わず指を引っ込めてしまった)
あの……お嬢様、握ったくらいでは割れたりしないですよね?
その、あの時の……壺を割ってしまったことを思い出してしまって……
(まだ向こうでのこと。お嬢様に拾われてから多少は元気になって、メイド見習いとしてお屋敷の中の掃除などを手伝うようになった時のこと)
(雑巾で床を拭くと顔が映るくらいにきれいになって、それが嬉しくて夢中になって拭いていたら足を滑らせて玄関ホールの壁際に飾られていた大きな壺にぶつかって割ってしまったことがあった)
(最底辺の農村で生まれて目利きなんてできない私でも貴族の館で奴隷として飼われていた経験から大きな壺がもの凄く高い物だというのはわかったわ)
(あちこち破片で切って血だらけになりながら気絶するまで平伏して謝り続けて、目が覚めたあとに傷一つ残らず完全な状態に復元された壺を見せられて、ビックリしすぎて腰を抜かしてしまって)
(凄腕の錬金術師であるアリスお嬢様にとってはささいなことでも、私には神様の御業に思えたわ)
(でも、この魔法の道具は壺と異なって使ったら無くなってしまうものだから)
受け取るのは、その……直前でもいいですか?
それとも早く馴れた方がいいのでしょうか?
(壺はもう安心して掃除できるようになったけど何かやらかしてしまうのが怖くて、私は指先を水晶へ近付けることしかできなかった)
38
:
占部・蓮
◆v6j.R9Z2OE
:2021/01/02(土) 21:50:10
>>36
―――………ぅ………
(ガラス張りのバスつきシャワールームへと入った蓮)
(その股間に、祀の視線が注がれる。流石に、羞恥を感じたのだろう)
(視線が股間へと向いた時、細い腿がきゅっと内側に寄せられて、少し視線から逃げる動きをした)
(降り注ぐシャワーに洗われていく性器は、白く力強い幼さの残る威容から精液の残滓を拭い去っていく)
(さっきまで繋がっていたそれは、彼の若さを象徴するように力強かった)
(だが、そんな恥じらいもわずかな間だけだった)
(祀の手を導き、裸を誰かに見られることに慣れている自然さで祀の復帰を助ける)
(腿の間にペットボトルが見事に落ちて立ったままになった瞬間、彼も同時に小さく吹き出して笑う)
(そしてボトルの蓋を開けると、そっと、行為が始まる前と同じ優しい口づけを交わし)
(人心地ついた祀の様子に微笑む。目の前に座り、お互い裸のまま、シャワールームで事後の一息をつく)
(嵐のような性交の後の、優しい事後の心地よい疲れに浸る。彼の股間の性器の仰角が、落ち着きと共に少しずつ下がっていく)
―――はい
(彼女なりの気遣いに、もう一度、優しく穏やかに微笑んだ蓮は)
(豪快にペットボトルをあおる祀の逞しい姿とは対照的に、こくこく、と小さく喉を鳴らして)
(ミネラルウォーターのボトルを傾けていた。と、そこでかかる祀の声)
―――ん……
(疲労に揺蕩う姿に、改めて、我を忘れてしまい過ぎただろうか、との想いが胸に浮かび、小さな謝罪の念が湧き上がる)
(濡羽色に輝く濡れた長い黒髪に彩られた肢体には、強く吸った痕がいくつも残り)
(首輪をされた首筋や剥き出しの胸元には、特に念入りに痕がつけられている)
(普段の溌剌とした活発な姿からは想像もつかない、扇情的な艶姿だった)
(もう少し控えめにしてもよかったんじゃないだろうか?)
(せめて痕を残す場所は見えない場所でも)
(そう思いもするが、実行が可能だったかどうかはあやしく)
(あそこで……思い切りぶつからないのは、祀の身を捧げてくれる想いに対して失礼に思えたのだ)
(「すみません」と謝るのは、なんだか違う気がしたので、疲労困憊の祀の様子に、彼は小さくなりながらも、その言葉は口にしなかった)
(代わりに、ふらり、と揺れる祀の裸の腰へと手を伸ばして、そっと肢体を自分の方へと少し寄せる)
(華奢な自分でも支えになれる、と、揺れる祀の体を抱き寄せ、体を預けて貰えれば、お互いの裸の胸の間で、甘噛みの痕がついた胸が潰れる)
(普通に座って抱き寄せるにしては、随分をお互いの顔に距離が出来てしまう。それくらいに立派なサイズだった)
(小さくなりつつあった性器がまた、角度を取り戻す。けれど、一番の急角度までにはならない。生理現象と言える反応だった)
―――はい、無理、しないで、ください
―――このまま、シャワーで、汗だけ、流し、ちゃいます、ね?
―――起きて、ちゃんと、お風呂、入りたく、なったら
―――遠慮せず、つかって、ください
(トク、トクと、いつもより鼓動が早く伝わってしまうのは、互いの胸が裸だからか)
(それともこの状況に興奮しているからか。きっと、どちらでもあるからだろう)
(眠そうな祀の耳元に届くのは、柔らかい、どこか眠気を誘う蓮の静かな声色)
(互いの飲んでいたペットボトルに蓋をすると、彼も腰に力を入れて立ち上がる)
(自分より体格も体重もある祀を相手にしたが、絶頂回数で言えば桁が一つ違うのだ)
(心地よい疲労は確かにあるが、まだ蓮の方に余裕があった。祀の視線の先、生理反応で上向いた性器が目に入っても、今度は恥じらわなかった)
(今は、祀を助けている最中だからだ。誰かのためであれば、自分の恥じらいや気持ちを忘れられる子供だった)
(シャワーヘッドを手に取ると、シャワーを出す前に、屈んで祀へと最後に声をかける)
―――眠く、なったら、眠って、ください
―――僕だと、祀さんを、ベッドに運べない、ので
―――そのときは、ちょっと、外の方を、呼ぶことに、なるんですけど……
(彼の膂力は小学生程度だ。眠った祀をベッドまで運ぶ力はない)
(そこは申し訳無さそうに伝えると、「シャワー、出しますね」と声をかけて)
(ここに入った時、降り注いだお湯の雨が、再び祀の体へと、今度は優しく降り注いだ)
39
:
アリス=インセント
◆BpYjFWEe7.
:2021/01/03(日) 18:05:42
>>37
――相変わらず心配性ねえ、メルは
(水晶に触れる事に対してすら戸惑いを見せる姿が何だか面白く思えてしまって、僅かに笑って見せた)
(確かにこれは高価なモノだ。――ただ、何個でも新たに作り出せるものでもある)
(昔の失敗を引き摺っている事は容易に想像出来るし、それに対して気にするなと諭した所で彼女は気を遣われたと捉える事だろう)
(壺の時にも気にする様なものでも無いとは告げたのだが……何となく、小動物を連想させてしまう)
(メイド長から扱いのレクチャーを受けていれば、それで十分。何も無理強いする必要も無い)
大丈夫よ。握ったくらいなら当然割れる事は無いし、何かにぶつけた所で簡単に効果が出る様には作っていないの
必要な時に初めて効果を発揮する。その様な呪いも込めて作ってあるのよ
そうでもしなければ、逆にコレが原因で鬼達に気付かれてしまう事もある……と、思って
(テーブルの上に置かれたままの水晶を一つ手に取ると、目線の高さまで持ち上げてから落として見せ)
(「コンッ」なんて音が生じるものの、皹の一つも無く。ころころとテーブルの上を静かに転がるソレは、完全な球体を保ったまま)
(魔力が漏れ出ている様子も見られないから、文字通りの無傷なのだろう。これで安心した?と問うかの様に小首を傾げて見せるけれど)
慣れる――と言う程のモノでも無いから、行く前でも問題ないわ
使い方も聞いているならば、それほど難しいものでも無いと分かるでしょうし……
でも、壊さずとも無くしたりしてしまいそうで不安だと言うのならば、直前に渡すとしましょうか
出発する前にメイド長に声を掛けて頂戴な。あの子に預からせておくようにするから
(気を付けるべき点としては、過信し過ぎない事。その程度のものだ)
(でも、無理に今持たせて当日までハラハラとした気分で過ごさせる訳にも行くまい)
(その結果、出した答えが出発前にメイド長から受け取って貰うという物。本当は自分から渡したい所ではあったのだが、その時に屋敷に居るとも限らず)
(更に、メイド長ならば序に気を効かせて何か別な物も持たせてくれるだろう。そんな期待からでもあった)
(時計を見遣れば時間も良い頃合い。新たな依頼の詳細を伝えに来る者が、もう少しで到着するだろうか)
(椅子から立ち上がると、一度指を鳴らして。たったそれだけの動作だけれど……アリス側のティーセットが綺麗に片付けられていた)
(まるで新品同然の様にピカピカと光を放ち、紅茶の残り香すらも無く)
もう少し、貴女のお話を聞いてみたかったけれど……そろそろ時間になってしまったわね
まだ色々と聞いてみたい事があるから、改めてまたこうしてお茶会を開きましょうか
……そうそう。お土産分のお金は別に渡すから気にしなくて良いわ
それに、全員分買ってきてしまったら貴女の持ち運びに負担が掛かってしまうでしょうから簡単なもので問題ないわよ
私はどんなものが有るのか今一分からないけれど……でも、みんなで分けられる様な物なら何でも大丈夫
何よりも貴女が楽しまなければ損でしょう?……折角お友達と行くのだもの
(お土産代についての補足を入れつつ、水晶も回収してお開きの合図)
(本当は一緒に行く者達の分まで資金を出しても問題無いのだが、そこまでしてしまったらメルルが逆に気負ってしまうと自重して)
(――次にこうして話す時は、一緒に行った友達についても聞いてみよう。望むのならば、その友達を数日泊めても構わない)
(メルルの額に軽く口付けをして、その場から立ち去ろうとした――が。ふ、と思い出したように振り向いて)
そういえば、貴女の行っている学校にも文化祭……と呼ばれるものはあるのかしら
もし貴女が嫌でなければ、少し見に行ってみようかなと思うのだけれど
(「どう?」――とは口に出さない。何処か悪戯っぽい小悪魔な様な笑みを浮かべて見せての問いかけ)
(メルルの通っている学校に興味があるのは本当の事なのだろう。それと、彼女の馴染み具合も)
(尤も、アリスが学校に現れればそれはそれで色々と何か起こそうでもあるけれど)
40
:
鉄槌 祀
◆MfBiO.rGQU
:2021/01/03(日) 23:28:51
>>38
(ふらんふらんしている視界をしっかりさせようと、頬をペタペタと叩いてみる)
(――そして目に入る胸元。うわー凄いことになってる)
(なんというか、『獣にやられたのか!?』といった感じで)
(自分が当事者でなければ「いやあ溜まってらしたんですねえ」とでも言ってしまいたくなる状態だった)
(と、近寄ってきた蓮に抱き寄せられた)
(お互いの胸が押し付け合って、むぎゅり、と胸の肉が押しつぶされる)
(さっきまでならテンションで喘ぎ声の一つも挙げてただろうけど、疲労と気の抜けた雰囲気でそれもままならず)
(なんとか体を支えるのに苦心して――おっと、手をブラブラさせるのは気をつけよう)
(うっかり股間を触ってしまうと気まずいかもしれない……どっちのものにしろ)
あー、ありがとね……だいじょぶ、だいじょぶ……そのくらいまでは、起きてられるから……
(温かいシャワーのお湯に打たれながら、なんとか意識を保つ……)
(――保った、はず。正直、そのへんから記憶が飛び飛びで)
(最後にベッドに倒れ込んだのは、たしか自分の足でだったと思うけど……)
――んでまあ、覚えてるんだよなあ……
(パチリ、と目を覚まして、小さくつぶやいた)
(当然だ、普通にシラフだったしクスリにも手を出してない、いやまあちょっと記憶飛んでる部分はあるけど)
(いやー、なんというか、「ゆうべはおたのしみでしたね」って感じだ)
(というか、今までここまでテンション上がらなかったのなんなんだろ、ショタコンだったのかしら……?)
(――テクニックの問題かなあ)
(……あのチャラい先輩に食われてたら、鬼鉄屋ヤバかったかなあ……)
(と、そこまで考えて)
(自分が全裸でベッドに潜っていることに気がついた)
(――あれ? パジャマは?)
(思い返してみれば、シャワーに行った辺りから全裸だった気がする)
(――パジャマだけじゃなくて、マイクロビキニもだな?)
(ウヒャー良くもそんな格好で11歳に迫ったもんだ、と改めてテンションの怖さに震えて)
(……あれ、やっぱりショタコン……?)
(もぞり、と寝返りを打ってベッドの下を見てみれば、グシャグシャに丸まったパジャマと、その中に白い紐みたいなのが見えた)
(どこで脱いだか……多分シャワーに行った辺りだろう、そのへんで無意識に脱ぎ捨てたか)
(まあ、有ったから良しとする)
(どうせ帰って洗濯するんだ、見つかればよしよし……)
(と思って姿勢を戻して、ふと気づく)
(――あれ、蓮は?)
(普通に隣で寝ていると思ってたけど、ベッドの上にはあたし一人だけで……)
41
:
占部・蓮
◆v6j.R9Z2OE
:2021/01/05(火) 00:14:04
>>40
―――髪と体、軽く、流しちゃい、ますね?
(今夜一日で、ひどくこの人との距離が近づいてしまった)
(ふわふわと夢見心地で湯を浴びる祀の、19歳の等身大の素顔に、そんな事を思う)
(法と倫理の観点から、自分たち姉弟の能力は許されない条件を有していて)
(自分や姉、その他の大勢の人々の心を削りながら、救える命を必死に掬い上げている)
(そこに哀しみや苦しみは確かにあるが……同時に。その中でしか見えなかったことも、たくさんあった)
(きっと。エントランスで話し合うだけの間柄だったら、見られなかった素顔)
(それがこんなにも近くにあることが、素直に嬉しい)
(祀の髪を洗う為、ボトル台のシャンプーとリンス、コンディショナーの混合の)
(一番手早く髪を洗える洗髪剤を手に取ると、シャワーヘッドを一度立て掛け、湯を止める)
(手の中で泡立てて、しっかりと祀の髪の上に載せる。流石にブラッシングをするまでの勇気はなかった)
(行為以外で相手に触れるのは、セックス以上に勇気と信頼、親しさが必要だ、と。いつの間にか覚えていた姉弟だった)
(特に女性の髪は、同性の姉でも緊張する、とも。髪の毛に極力触れないよう、泡を載せ終えると)
(今度は同じ要領でボディソープを泡立てて、彼女の肌の上にボディソープの泡を載せていく)
(肌も髪も艷やかで、何よりも生命感に溢れた美しい裸身だった)
―――あの、足の間、綺麗に、します、ね?
(甲斐甲斐しく、姉や家族にそうするように、泡で彩った祀を再びシャワーの湯で清めていくと)
(最後に、勇気を出しながらも、必要なことだからと伝えて、祀の腿を開かせて貰った)
(この後、アフターピルを飲んでもらうとしても……なるべく、膣内に精液の残留は避けなければいけない)
(無心に相手への気遣いを込めた動きで腿を開いて、無毛の丘の奥の精液をシャワーで洗い流していく)
(自分も手早くシャワーを済ませて、二人でベッドへと歩き、バスタオルで水気を拭き取った髪を)
(ドライヤーで乾かしていく。祀が先だ。他人の髪を拭いて、丁寧に、傷つけないよう乾かす)
(長い黒髪で二人並んで、そうしていると、どこか姉妹のようにも見える)
(快活な姉と、おとなしく控えめな妹。裸で並んでいてもそう見える光景は)
―――ぁ……
(髪を乾かしている最中、船を漕いでいた祀が、髪が乾くのと同時にベッドに倒れ込むことで終わりを告げる)
(ぼすり、と、裸身を柔らかく抱きとめる寝台。完全に横になった彼女は、すぐに安らかな寝息を立て始める)
(こうなってしまっては、起こして服を着せるのは蓮だけの力では難しい。そして心地よさそうな寝顔に、起こしてしまうのも気が引けてしまう)
(蓮は祀を起こすのを諦め、彼女が冷えてしまわないよう、しっかりと布団をかけて空調を強めて、加湿器を入れておく)
(枕元、サイドボードにミネラルウォーターとアフターピル、栄養補給用のゼリー飲料を用意して)
(サイドボートの収納式テーブルを引き出し、祀に合うサイズの診察着を畳んだ状態で、部屋着として出しておく)
(その側にはメモ……長さ的には、短い手紙だろうか……を書き残しておいた)
(朝、挨拶を交わす時間は、きっとないから)
『おはようございます
祀さん
昨日はありがとうございました
お相手をして貰えて すごく嬉しかったです
ご挨拶も出来なくてごめんなさい
サイドボードのアフターピルは
出来れば お腹に何かを入れてから飲んで下さい
ゼリー飲料 好きじゃなかったらごめんなさい
でも ここのは美味しいと思います
診察着は祀さんの分です
歯ブラシはシャワールームに 新しいものがあります
使って下さい
サイドボードの2段目の抽斗にコールボタンがあるので
何かお困りでしたら コールで外の方を呼んでください
今日は大隅さんの担当なので 大隅さんが来てくれます
「ありがとう」はいらないって
そう 祀さんは言ってくれるけど
僕には 他に返せる言葉がないから
だから ありがとうございます
祀さんのおかげで
僕は今まで以上に 頑張れます
祀さんのおかげで
僕は 戦えます
風邪を引いたりしないで
元気でいてください』
(彼女の起床時の用意をすべて整えると、蓮は静かに、パーティションへと歩み寄り、パーティションをどける)
(キャスターのロックを外し、自分が寝る側のベッドサイドへと端末を移動させると、端末のスタンバイ状態を確認)
(スリープモードで画面が落ちているだけなのを確認すると、モニタアームを定位置に展開し、端末起動時に)
(すぐに予報が始められるように準備を整え、端末に備え付けられたマイクへと、小さく、けれど力の籠もった声で囁く)
――占部・蓮です
――2024、就寝します
――就寝前の性行為は、あり、です
(彼にとって、眠る前からが戦いだった。寝間着代わりに新しい診察着へと袖を通し)
(祀の隣へと布団をめくり、潜り込もうとする。少しだけ止まる手)
(寝台で眠る、裸の年上の女性の顔に、身を屈めた11歳の少年の顔が落ちる)
(頬に触れるだけの、親愛のチークキス。「―――おやすみなさい」の、小さな呟き)
(その後、そっと隣へと潜り込む小さな体は、自分よりも少しだけ大きな体の力強いぬくもりに寄り添う)
(その夜は、夢も見ない眠りへと穏やかに誘われていった――――)
42
:
占部・蓮
◆v6j.R9Z2OE
:2021/01/05(火) 00:24:22
>>40
(―――視線を戻し、少し視線を上げた祀の目の前に)
(小さな背中と、それを取り囲むように伸ばされたマルチディスプレイモニタのアームが映った)
―――257
―――35.7
―――138.1
―――長野県伊那市……
―――モニタ3番です
―――空中からの光景でした、遮蔽物なし、飛行型です
(そして、呼吸を整え、予報を告げる小さな子供の後ろ姿が)
(診察着の上に、カーディガンを羽織っただけの小さな後ろ姿。表情は端末を目にしているので祀からは見えない)
(ベッドから少し離れた位置で、キャスター付きの端末を固定して、既に彼は予報に入っていた)
(立ち上げた端末に緯度と経度が入力されれば、モニタに即座に航空写真)
(複数のストリートビューからの角度の写真が映され、蓮の脳裏に浮かんだ光景との照合が行われる)
(華奢な、触れれば脆く砕けてしまいそうな儚い体躯の少年が)
(気力を振り絞って、何もかもを見逃すまいとモニタに視線を走らせる)
(いつもは静かに、区切るように溢れる声からは、喉笛を裂いて溢れる血の泡が見えるほどに必死さが滲み出ていた)
(祀が起きた気配に、気づく様子はない。常の彼なら、気づいてもよさそうな敏感さであったというのに)
―――258
―――37.0
―――140.6
―――福島県いわき市……
―――モニタ該当なし
―――土中です、土中潜航型、地上の光景は見えません
―――木の根、草の根も見えません、植生がない深度です
―――褶曲なし、傾斜不整合なし、層理面なし、単層に見えます
(彼と双子の姉の能力の有効射程は海抜から上下4キロ。土中であれば掘削で温泉が湧く深度1000mのゆうに4倍の深さに届く)
(双子たちに能力を齎した親である鬼の異界射程よりも長い。地層状況を答える声に澱みはなかった)
(知識を有しなければ理解できない景色、救えない命があると学び続けてきた5年間だった)
(航空写真と地質学を学びながら、いつか正式な後方課員として零課に。そう、姉と二人で誓い合った)
―――259
―――35.2
―――140.0
―――千葉県君津市
―――詳細略、ケセランパサランの飼育槽あり、違法飼育です
(誰かと情を交わした状態での予報の的中率は100%)
(新規発生の異界であれば、どれほど小さな異界であっても予報が適応される)
(違法飼育の小さな鬼。この無害な鬼たちが、常に大きな予報の間に立ち塞がってくる)
(「数の暴力」というものが、どれほど怖ろしいか痛感しながら毎日を生きる日々だった)
(モニタのストリートビューをいくつかを切り替え、予報で見た光景を探りながら)
(モニタと端末を捜査する手とは別の方の手が、紙のメモにケセランパサランと思しき予報を先に書き留めていく)
(この場の誰一人として知らないその手付きと仕草は皮肉なことに、彼の姉を拐かした組織の幹部)
(巨躯の黒蟻の後ろ姿に、よく似ていた)
―――2、60
(声が、悲鳴の引き攣れを抑えて発せられる)
―――35.6
―――138.1
―――長野県下伊那郡……
―――モニタ2番
―――山小屋が見えます
―――破損物は車両1台、車中から練炭がこぼれています
(自殺だ)
(だがその願いは敵わなかった)
―――死者、3名
―――服装から男性と女性と、子供です
―――外傷から赤号と推定
―――骸化して、互いに襲い合う光景が見えました
―――車のナンバーは……
(泣くな)
(泣くな)
(泣くな!!!!!!)
(予報を続けろ)
(言い聞かせる。泣いている暇などない)
(まだ救える。救えるかもしれないのだ! まだ救えるかもしれないのだ!!)
(この時世に山中で自殺するほどに追い込まれた一家にどこまで手が伸ばせるか)
(考えるのは自分ではないのだ。泣いている暇など寸毫たりとてあるわけがない!!!)
(カーディガンを羽織った背中が、喉元までせり上がった嗚咽も苦しみも激情も何もかもを抑え込んで)
(震えながらも次の言葉を遅れなく紡ぐ。脳の襞に詰め込まれた、眠りの中で下賜された贈り物を紐解いていく)
(ある程度の件数の緯度経度を入力し、被害箇所の特定を行った後に次の予報へ)
(彼の脳裏に映し出される光景は建造物の破壊と、死者の断末魔。損壊した死体)
(毎日壊され続ける世界を、それでも「覆せない未来ではない」と信じさせてくれる地獄の預言に従って)
(彼は、閨を共にしてくれた女性への寝覚めの挨拶も、感謝の言葉も振り切って、その時間すらも惜しんで)
(今日も手を伸ばし続ける。子供など、望むべくもなかった)
(もし、彼らが成人したとしても、夜泣きする赤子に起こされでもすれば)
(その時点で……赤子をあやすことも出来なくなるのだ。子供にだって、子供だからこそわかる)
(そんな人間が親になっていい筈がない。彼らはどうしようもなく性行為を必要としながら)
(その先にある恋愛も家庭も妊娠も出産も育児も、全てが既に破壊され尽くしている人生だった)
(彼は男だからまだいい。彼の姉は出産を終えた後、安らかな目覚めすら赦されていないのだ)
(だが。概算で、日に約200人、年間で約7万3000人。4年でのべ約30万人)
(弾き出された数字を見れば、この能力を呪うことなど、出来はしなかった)
(端末に表示された彼の予報件数の総数は3275件)
(小さな端末の牢獄に、自らを繋ぎ止めて。贄となることで積み重ねた数字が)
(1日の被災死者数500人前後という数字だった)
『祀さんのおかげで
僕は 戦えます』
(その言葉には、真実しかなかった)
(そこが彼の戦場だった)
43
:
メルティ=メルル
◆bY.FBdBpj.
:2021/01/06(水) 18:34:09
>>39
うぅぅ、小心者なので……きゃっ! おおおお嬢様!?
(私が元々小心者だったのかは分からないけど、もしも夢魔ではなくて売られもせずにド田舎の村で暮らしていたのなら……やっぱり小心者だったと思う)
(ううん、きれいなお屋敷の庭で高価な物を目の前でコンッなんて落とされたら、私じゃなくても田舎者ならビックリして飛び上がっちゃいますって)
(お嬢様を疑ってるなんてことはこれっぽっちもないけれど、間に合わないと分かってても受け止めようと手を伸ばしちゃいました)
(腰も浮いちゃったしみっともない格好……でもよかった、椅子が倒れなくて)
は、はい。それでお願いします……でも、できれば落とす前に教えてほしかったです。
ただでさえ胸がドキドキしているのに、心の臓が止まっちゃうかと思いました……。
(あ、よけいなことを言っちゃった! 高貴な吸血鬼であられるお嬢様なら私の心臓が暴走してることなんて把握済みだろうけど、それでも私の口から言っちゃうのは恥ずかしい!)
(だって、それってお嬢様に血を吸って欲しいって暗に言っているようではしたない感じがしちゃうから)
(この想いもお嬢様は見抜いていらっしゃるんだろうな……でもいいか、こんな私を見てお嬢様が笑っておられるのだから)
(メイド長には呆れられて先輩方にも笑われてしまいそう。大切で貴重な時間を慌てふためいて終わらせてしまったの、って)
っ! ……あぁ、もう時間、か……はい、ありがとうございました。
今日はお嬢様とお茶会ができて、とても嬉しかったです。
(片付けくらいは私にさせてくださいとは言えなかった。私の方は残されているのだし、今回はこれがお嬢様が決められたことなのだから)
(私がしなくてはならないのは、私が片付けた方がどちらか一目では判らないくらいきれいにすること。せめて10秒くらいはもたせないとね)
ふぇ? ……あ、お気遣いありがとうございます!
お嬢様にもお屋敷の方々に喜んでもらえるものを選んできますね。
一緒に行く子たちはみんな何度も遊びに行ってったことがあるので相談すれば、きっと……お嬢様? ……☆◎◆¥★♡♡♡!?!!!
(油断していました。お金の心配事がなくなったので友達から聞いていた定番のお土産のことをつい思い出してしまったのが失敗でした)
(おでこに口付けなんて初めてじゃないのに、二人だけのお茶会なんだからお嬢様がそうされるくらい予想できるはずなのに、これは不意打ちじゃなくて私の頓死よ)
(あぅ〜、制服は大丈夫かな? 下着は履きかえないと……固まってたのは数瞬だけど、たぶん白昼夢の中で数日はイッちゃてたかも)
……ふぇぇ? ぶ、文化祭……ですか? 確か秋頃に……はっ、お嬢様が!?
いいいい嫌なんてことありません! 私もまだよく判っていないですがすぐ調べてエスコートできるよう準備します!
(文化祭とは生徒が中心になって行うお祭りらしい。真面目な文化的なことから遊戯的な出し物までクラスや部活などの集まりで行う学校のお祭り、だったかな?)
(どう考えてもお嬢様の来訪は騒ぎになるに決まっているから、失礼のないようにクラスのみんなや先生方にも話しを通して……それも大切だけど文化祭がどんなお祭りなのか調べなくっちゃ!)
(この時の私は知りませんでした。自由に見て回れる時間はみんなで順番に交代なのでずっとお嬢様のエスコートができないということを)
(私が入学したことは学校史に残ることだそうですが、お嬢様の来訪が口伝えのみで受け継がれていく大騒動になると、私は予想すらできませんでした)
44
:
鉄槌 祀
◆MfBiO.rGQU
:2021/01/07(木) 00:25:33
>>41-42
(少し視線を上げると、そこにはモニタに食らいつくような勢いで睨みつけながら)
(何かを延々と報告し続ける蓮の姿があった)
――
(すっ、と視線を外し、落ち着いてあたりを観察してみる)
(サイドボードの上には水のボトルと錠剤、所要時間10秒で2時間キープしてくれるっぽいゼリー飲料)
(そして、メモ用紙に残された伝言だった)
(メモ用紙を手に取り、読む……読む……三度読み返す)
(そして、書かれた通りにした)
(ゼリー飲料を飲み干して、錠剤をボトルの水で飲み下した)
(シャワーを浴びて、体中綺麗に洗って、丁寧に歯も磨いた)
(診察着を着ようとして……なんかゲームの「一般的な服装のはずなのにエッチに見えるキャラ」みたいになったのでやめて)
(部屋の隅に寄せてあった、自分のバッグをそろそろと回収)
(その中の着替えを着ることにした)
(下着を身に着け、ジャージとTシャツを着て、髪もドライヤーで乾かして)
(――それでも、蓮の作業は終わっていなかった)
(だから、ベッドに戻り、体育座りで、その背中を見つめていた)
(いくら部屋の中を歩き回っても、蓮は作業を止めなかった)
(なので、邪魔にならないように、蓮に触れないように、ある程度距離をとって、その姿を見つめ続けた)
(画面の内容が目に入らないように気をつけつつ、報告の声は聞こえてきてしまうのは勘弁してもらって)
(じっと、その背中を見つめ続けた)
(――蓮の『仕事』を、見つめ続けた)
(こんなに誰かの仕事を見ていたのは、じいちゃんの鍛冶場を見ていたとき以来だ)
(自分は適合者ではないし、その前から居たという超能力者でもないし、異界からの来訪者でもない)
(だから、蓮の頭の中を覗くことなど出来はしない)
(――だから、蓮がどれだけ苦しんでいるかなど、分かりはしない)
(だから、これは勝手な感想で)
(――すごく、立派な仕事だと思った)
(小学生の感想文みたいだが、本当にそう思ったのだ)
(そのまま、蓮の背中を見つめ続けて)
(何分経ったのか、何時間経ったのか)
(通し番号が3275を数えたところで、蓮の作業は終わった)
(――その背中に、そっと手を伸ばして)
(細い肩を抱き寄せ、ギュッと抱きしめた)
――お疲れ様。あと、おはよ。
メシ行く? 行くんだったら一緒に食べよ。
一緒にメシは、駄目なやつじゃないよね?
(後ろから、頬や首筋にぐりぐりと頬ずりして)
(背中に胸を押し付けながら、そんなことを聞いた)
(――「ご挨拶も出来なくてごめんなさい」、だとぉ?)
(ありがとうは要らない、って言ったけどなあ)
(ごめんなさい、はもっと要らないんだよ)
45
:
占部・蓮
◆v6j.R9Z2OE
:2021/01/07(木) 02:56:55
>>44
(予報件数の総数は3275件。しかし、この総数全てが報告が必要なものではない)
(占部姉弟の予報範囲時間は24時間以内。概ね12時間後には就寝する為、うち、6〜7割が「既に報告済」の予報となる)
(本日の既存報告予報は6割程度、新規件数が1310件ほど。そしてその中でケセランパサランは7割を占める)
(残り390件ほどが完全に新規の、異界災害となる。47都道府県で平均して1件で新規発生は8件)
(1件を2分で予報したとしても、1時間で30件。それが人力での予報の限界だった)
(もし、彼一人で全ての予報を処理し切ったとしたら、作業が終わるのは13時間後)
(作業を終えたら性行為をして眠らなければならない。物理的に、時間と体力が足りなくなる計算だった)
(その作業を3〜5時間程度の作業で終わらせられるのは、ひとえに、他予報士から齎された情報との照合)
(予報分析が齎す統計予測。零課、国防軍、他国防部署との連携が産む組織としてのマンパワーだった)
(零課、国防軍、国防部署の人々が双子にくれたものは、あまりにも大きかった)
(それでも、どうしても時間はかかる)
(背後で祀が起きているのにいずれ気づけても、視線を送れる暇が、ない)
(申し訳無さを胸に、彼は作業に没頭する。祀が起きて、動いて)
(シャワーを浴びて、身だしなみを整えている気配と音がして)
(何か言葉をかけたくても、唇は先に、予報を紡ぐ。予報を告げる)
(少しでも指先が届きますようにと。それが染み付いた体が、全てをかなぐり捨てて動く)
(やがて、動く気配が寝台の上に戻り、動かなくなる)
(機嫌を損ねただろうか、と心配が胸に湧き上がる。だが――――ふと、視線の気配を感じた)
(振り向くことは出来なかったが、それでも。祀の視線が背中に注がれている気がしたのだ)
(それは怒りや憐れみ、痛ましさを含む視線ではなく……うまく、言葉に出来ないが)
(一人の職人としての彼女が、自分の『仕事』を、見守ってくれている気がしたのだ)
(胸の重圧が、少しだけ軽くなる。今、手元にはないが、『鋼玉連枝』を抱きしめているのと同じぬくもりを感じた)
(前線と後方、戦う場所は違えども、同じ戦士として、自分の小さな背中を激励してくれる人たちがいた)
(自分たちに課せられた使命の重さに、ひたすらに無事と幸福を祈ってくれる優しい人たちがいた)
(小さな背中を見ずに、互いの領分を尊重して、振り返らずに戦いに行く人たちがいた)
(――――職人のように、見守ってくれたのは彼女が初めてだった)
(報告を続けながら、蓮は幻の中、真っ赤に燃える炉から取り出した鋼を打つ祀の背中を幻視する)
(その背中を見たとき、きっと自分は……姉と自分は、その背中を同じように見つめるのだろう)
(自らの本分に魂を込めて打ち込む、そんな人の背中を)
―――全、件……報告……完了、しました………
―――通信、終わり、ます……
(起床から4時間、祀が目覚めてから3時間)
(必要最低限の水分補給だけをして作業を終えた蓮の声は、ようやく。自らに震えること)
(疲れることを許し、緩みを帯びて、静かに落ちる)
(一夜の夢の中、少しだけ薄れた目元の隈は……疲労のせいか。また色濃さを増している気がした)
(小さな背中は、肩に背負った荷を下ろすかのように下がる。一回り上背が縮んだような背中だった)
(座ったチェアに、倒れ込むように身を預ければ、ふわりと背中から回された手と、力強いぬくもりに包まれる)
―――…………
(吐息にもならない、弱々しい声が溢れた)
(嗚呼、と。瞼を閉じた蓮は、そのまま自分を見守り続けてくれた祀へと、身を預ける)
(昨日、祀をあんなにも力強く犯していたとは思えない小さな小さな体と肩だった)
(3時間で精も根も搾り尽くしたかのように、性交以上に全てを吐き出しきっていた)
(だが、仮眠をとって休むことは出来ない。眠りは、新しい予報を呼ぶ儀式でしかないのだ)
(一休みしたら、動かなければならない。睡眠の質を高めるため、健康のための運動)
(縁故採用ではない、実力で零課の後方課員として動けるだけの基礎学力のための勉強)
(予報精度をあげるための地質や気象学、各種実験への協力。眠る前にしなければならないことは山ほどあった)
(自らで選んだ道だ。後悔はない。だが、ずっと独りで走り続けられるほど、強くはないと思った)
(二人でなら、きっと走り続けられた。今は、独りだ。だから)
(―――そんな、祀さんだから、もっと、優しく、して欲しい)
(―――あの、日、抱きしめてくれた、ぬくもりを、もっと、貰いたい)
(―――僕たちを、助けて欲しい)
(そう思った。そして、祀はそのぬくもりをくれた)
(大人に助けて貰わなければ、誰も助けられない自分たちをこうして助けてくれる優しくて大きな大人の人)
(憧れの他に新しい感情を覚えこそすれ、憧憬は薄れることなど一切なかった)
(目元に溢れた涙の粒がひとしずく、頬を伝って、縋り付くように回された手を抱きしめる蓮の手へと落ちた)
(このぬくもりを、恋にわけてあげたいと。このぬくもりと一緒に、姉を抱きしめたいと、強く想った)
―――おはよう、ござい、ます
(強がらずに、気を抜いて、心地よいスキンシップに身を委ねる)
(小さな仔犬のように目を細めて、気の置けない挨拶を交わしてくれる祀へと首を回して振り返る)
(目元の隈は一晩で濃さが戻っていたが、それでも、目元に力は宿っていた)
(一つ、鼻を鳴らして濡れがちな声を整えると。彼は手紙で伝えていた挨拶を、自分の言葉と声で伝えた)
―――はい、ダメじゃ、ないです
―――食べてる、時に、僕たちの、能力に関わる話題は、ダメですけど……
―――ご飯、一緒に、食べたい、です
(いつも以上に声が掠れていたのは、ずっと報告を続けていたからだろう)
(それでも彼は、はっきりと甘えを口にして、祀の気遣いに寄り添う)
(二人の手を、蓮の黒髪が音もなく撫でて滑っていく)
―――待っていて、くれて
―――見守って、くれて
―――ありがとう、ございます
(寄り添いながら、大事な言葉を伝えた。「ごめんなさい」より「ありがとう」は)
(みんなみんな、そう伝え続けてくれたから。大人たちの気持ちに、学んだことだった)
(最後にもう一言だけ、彼は胸に生まれた想いを素直に伝える)
―――あの、祀さん
―――いつか、僕が……僕たちが、外に出られるように、なったら
―――お仕事、してる、祀さんの背中を、見ても、いいですか?
(彼女が自分にそうしてくれたように。自分も、彼女が戦っている姿を見たいと思った)
(出来れば、姉と一緒に。いつか。そんな願いを口にしながら、彼はもう一度、縋るように手を重ねた祀の手を、ぎゅっと抱き締めた)
46
:
鉄槌 祀
◆MfBiO.rGQU
:2021/01/08(金) 23:58:00
>>45
(抱きしめた蓮が、すこしだけ鼻を鳴らす)
(ガラガラだった喉が、ちょっとだけマシになって)
――ん。じゃあ、一緒に行こ。
着替えとかどうすんの? その格好で行くのは流石にちょっと不躾っつ―か、
TPO的にお行儀が悪いんじゃないかなとか思わんでも――ん?
(そんな軽口を口にしていると)
(蓮がなにか言いたそうな気配を察して、口を閉じて……)
――バカ、ありがとうは要らない、って言ってるだろ。
……でも、それは頂いとこ。……どういたしまして。
(もう一度、ギュッと蓮を抱きしめて)
……ん? そりゃ良いけど……
あんまり面白くないよ? 熱いし、うるさいし、火の粉は危ないし。
でもまあ――ダイダラは面白いか。ああいうの男の子は好きだしな。
うん、何時でもおいで。
――恋と一緒に、な。……味しねー団子もご馳走しちゃる。
(つい言ってしまった言葉を、照れ隠しの冗談でごまかして)
(頬をくっつけて目をつむった)
(一晩眠ったはずなのに、蓮の目元の隈は濃い)
(あの作業が、どれだけ蓮の心身に負荷をかけているのか、見て取れるというもので)
――お前は凄いね。
――毎日毎日、必死になって、あれを続けてたんだな。
――凄いよ、本当に偉い。
――こっちこそ、ありがとうな。あたしたちを、守ってくれて。
(耳元で囁くように、御礼の言葉をつぶやいていた)
(その後は、あまり言うことはない)
(零課の食堂で、二人で遅い朝食を食べながら、他愛もないことを喋りあって)
(蓮の日課にまでは参加できないので、そこで別れた)
(――これから、こういう機会は増えるのだ、別に寂しがることもない)
(とりあえず今日は、朱火ちゃんにご機嫌取りのお土産でも買って帰ろう)
(どこか食べに行くのも良いかもしれない、『次』に向けて、英気を養っとくのもいいだろう)
(……今夜は焼き肉かなあ……)
【了】
47
:
占部・蓮
◆v6j.R9Z2OE
:2021/01/09(土) 12:47:06
>>46
(―――物心がつく頃には、零課が彼らの「家」だった)
(戦う人々の背中を見つめながら、その帰りを待つ日々だった)
(戻らぬ誰かに慟哭する人々の肩を抱きしめるには、背伸びをしなければ届かない子供たちだった)
(市井に暮らす人々の底力は強く、だからこそ、そこにはただ善意だけがあるのではないと)
(身を以て―――文字通り、「身を以て」、善意と悪意が等しくあることを幼いながらに学んだ少年と少女だった)
(彼らの能力は強力だ。そして群を抜いて効果範囲が広く、精度が高い)
(国家防衛政策上、危険から遠ざけられた生活は――外出の記憶が極端に少ない幼年期だった)
(外出にも人員や予算を使う。安全管理が国に紐付けられており、そういう暮らしが当たり前の双子だった)
(彼らの能力を淫らがましいと詰る者もいれば、褒めてくれる者もいた)
(彼らの守った平和を感謝してくれる者も大勢いた)
(彼らに能力の研鑽を要求する者たちもいた)
(皆、国家と公的機関に関わる者たちばかりだった)
(市井の誰かが入り込む余地は、国防網の隙間にはなかった)
(外出時、外で予報のことを耳にすることはあった)
(全ての地域に手が回らない国家機関を責める声。優先すべき場所を自分勝手に述べる誰か)
(「いつものことだ」と取り合わない、当たり前に流されている予報を聞き流して歩き去る若者たち)
(「気が滅入るから辞めて欲しい」と、平和だった時代を懐かしんで愚痴を零す高齢者)
(電話で避難所へ避難した家族の声を聞き、涙しながら予報に感謝する誰かの両親、あるいは子供たち)
(街頭で流れる予報のラジオ、映像にふと足を止めて、被災地域への募金活動に硬貨を投じる学生の集団)
(公園で避難訓練と、避難した際に空き家となる家屋からの窃盗を防ぐ為の見回りについて相談する警官たちと高齢者)
(予報に感謝する者もいれば、予報を厭う者もいた)
(その誰も彼もが、外出している双子たちに気づかずに通り過ぎていった)
(彼らの守った、けれど彼らを知らない大勢の「誰か」)
(当たり前だ。彼らの情報は国家機密なのだ。市民に気づかれてはならない)
(だから、これが――――彼らの守った「彼らを知る誰か」から、直接言われた、初めての「お礼」だった)
(肉付きが薄く、やや不安になる華奢な体躯でも、頬は子供らしく柔らかくあたたかい)
(重ねた祀の頬を、一筋の雫が濡らしていく。最初は一筋だった涙の小川は、後から続く涙の雨に)
(やがて大きな河へと育っていく。華奢で、細くて。善良で素直で。強い。あまり泣かない子供たちだった)
――――……ひっ………んっ………っ……
(喉の奥で押し殺した、引き連れるような。自分が泣いていることを隠すような泣き方だった)
(大人たちを心配させないようにと、その習慣が染み付いた涙の流し方だった)
(嬉しかった)
(予報に疲れた体にあまりにも優しすぎる嬉しさは、強固な彼の涙の堤防を決壊させるには十分で)
(嬉しさとあたたかさで胸が詰まる。たくさんの「誰か」から、一度でいいから、褒めて欲しかった)
(偉いねと言って欲しかった。自分たちが守った平和への感謝と笑顔を、自分たちだけに向けて欲しかった)
(子供っぽくてワガママな、小さな小さな夢。二人で抱えていたその夢は、ついに叶った)
(自分たちだけの大切な勲章を貰えた嬉しさで、涙が止まらなかった)
(そして――同時に、悲しかった。自分だけしか、この優しさを味わえないことが)
(誰よりもこの優しさと喜びを味わって欲しい姉が傍にいないことが淋しかった)
(一緒に、この嬉しさを分かち合って。互いが流す涙を拭いながら、抱き合いたかった)
(この場にいたのがもし、彼の姉であっても、同じ泣き方をしただろう)
(そして祀が「思い切り泣いていいんだ」と言ってくれても、この双子たちは首を横に振っただろう)
(自分たちは子供だから。せめて。子供のような泣き方くらいは早く卒業しようとする)
(占部・蓮という少年は、占部・恋という少女は、そんな子供たちだった)
(長い髪のかかる目元を伏せて。すぐに泣き止むので、あともう少しだけ)
(これが終われば着替えて、一緒に朝食を食べられるから。その時には、もう切なさに負けない心になっているからと)
(そんな思いを込めて、祀の手に顔を埋めながら――――彼はしばし、静かに泣き続けた)
【了】
48
:
アリス=インセント
◆BpYjFWEe7.
:2021/01/09(土) 17:22:19
>>43
あら、此処では心臓が止まってしまう位ならば直ぐに蘇生してあげられるわよ?
それとも……その時には、目覚めのキスの方が良いのかしら。貴女がそう望むのならば、シない事もないけれど
でも、額に口付けをするだけで此処まで心臓の高鳴りが聞こえてきそうなのだから……唇にしてしまったら、目が覚めてもまた気絶してしまいそうね
……折角だから、試してみようかしら?
(――メルルが眷属となりたがっている事は分かる。それでも、眷属と化すという事は時間の概念から外れるにも等しい)
(だからこそ、慎重にならなければいけない。もし、自分が死んでしまった時のこと。今度はそれぞれが別々の場所へと飛ばされてしまった時の事)
(何よりも、永劫にも近い歳月に耐える事が出来るか否か。――屋敷の住民は大切な家族。だからこそ、安易に縛り付ける様な真似は出来なくて)
(そんな代わりの言葉として、額の口付けだけで固まった少女を揶揄うような言葉。今度は唇を重ねてみようか、なんて)
(当然それは戯れであって、本気ではないけれど。それでも、額に触れた唇の柔らかさを再度思い出させるには十分であろうか)
――それじゃ、メルル。期待しているわよ?
考えてみれば、貴女の学校に行ってみるのなんて最初に話をしに行ったとき以来かしら
……そこでも貴女がエスコートしてくれるというのなら……とっても楽しめそうね
(思い返してみれば、そこに行くのはメルルが学校に通える様になった際、その学校の代表者と話した時以来だろう)
(何と伝わっていたのかは分からないが、政府から自分については吸血鬼だとでも素直に伝えられていたのか恐々とした態度であったのは今でも鮮明に思い出せる)
(尤も、それを責める気は無いし仕方のない事だとも思う。メルルを受け入れてくれたのだから、尚の事だ)
(文化祭序に其処にも一応顔を出しておくか、なんてことを思いながら言葉を区切って)
(――後の文化祭。メイドを数人だけ連れて見学に来たものだから、写メを撮ろうと知るもので溢れたりオカルト研究部の突撃取材があったのは言うまでもない)
(それらも含めて面白いものだった、と上機嫌ではあった様だが)
さ、そろそろ私も行くとするわ。貴女も十分に気を付けるのよ?
此方の世界の方が元々居た世界より過ごしやすい所だとしても――また異なった面倒ごともあるのだから
慌てて片付けをしなくても良いわ。折角だから、今日は一日休みにしてゆっくるとしていなさいな
(後はゆっくり寛いでいてくれ。そんな旨の言葉だが――果たして本当にメルルが寛ぐことが出来るのか否か)
(最後に一度だけ微笑みかけると、そのまま中庭を後に。今日もまた何処かでの討伐なのだろう)
(本人は態々どんな鬼を討伐した、なんて話す事は少ないけれど……それでも、新聞を見れば凡その予想は出来る)
(このお屋敷の住民含め、世界が果たしてどの様な方向へと向かうのかはまだ誰も分からないけど――……)
49
:
鉄槌 祀
◆MfBiO.rGQU
:2021/01/09(土) 23:26:00
【閑話】
(『アレ』から暫くして)
(今日は、日疋のヤツが工房に来ていた)
(能力の関係上、日疋の武具……特にガントレットとワイヤー、ナイフは消耗が激しい)
(ワイヤーなんかはほとんど消耗品だ、あんまり質を上げても仕方ないというところはあっても、数回も使えばボロボロになってしまう)
(当然、いくつも予備は渡しているし、有料とはいえ再制作も随時やっているのだけど)
(今日も、そういう武具の修復の日)
(修復頻度の高い日疋は、零課の一斉受付とは別口で修復を受け付けている)
(ナイフの狂いを直してから研ぎ直し、ガントレットは装甲を打ち直して内張りを交換、ワイヤーは新しいのを1ダースほど用意して……)
「――なあ」
ん、なーに? もうちょっとで出来るから、大人しく……
(と、喉の渇きを覚えて一升瓶を傾けて)
「蓮と、ヤッたんだってな」
――ぶっっっっっっは!?
(盛大に吹いた)
――ぅぇほっ!!ぇほっ!!んぐ、っかはっ!!
「おい、大丈夫か? なんでそんな動揺してんだよ」
(背中を(ミトンを嵌めた手で)とんとん叩いてくる日疋に、大丈夫だから、と手のひらを見せて)
げふっ、んっ、ぐふ、げふん、えふん……ふう。
いや、だって、あれ一応秘密だって……
「まだトラックが着いてねえのに、朝から食堂で蓮と仲良く飯食ってたら、蓮の事情知ってるやつなら誰だって察するだろ。
術式だって万能じゃない、人が勝手に察するのは止めちゃくれねえし、口外しなきゃ記憶も飛ばねえよ」
(――そう言われればそうか)
(手で口元を拭いながら、むしろ自分の反応の迂闊さに反省する)
で、何、それがどうかした?
「いや、な……ありがとう、筋違いだろうが、礼を言う」
(両手を腿に当て、深々と礼をしてくる日疋)
(その態度に、ちょっとばかり混乱してしまって)
えっ、いや、ちょっとまって、なんでお礼言われてんのわかんない。
アンタだってやってるんでしょ、蓮の事知ってるんだから……
「いや、俺はやってねえ。俺の能力の事もあるし……個人的な……いや、俺が嫌だったから、断った」
――あー。
(そう言われれば、ああそうかも、という思いはある)
(古き良きヤンキー然としたコイツなら、仕事とはいえ、あの双子を抱くなんてしないだろう)
(そういうのは、コイツの理想に反するからだ――子供は守るものだ、という)
(正直、そういうのは好ましくはある、と思う)
「だから、俺が出来ないことをやってくれてるお前には、礼を言っておくべきだと思った。――ありがとう」
(再び、深々と頭を下げる日疋)
(――だけど、なあ……これは……はぁーん?)
関係ないで、すぅ〜!
(五穀団子をつまみ、ちょうど空になったタッパーを、日疋に投げつけた)
(真下を向いていたからこちらが見えていなかった日疋の脳天に、タッパーがぶつかって、コォーン!と音を立てる)
「ぅいったっ!! 何しやがるいきなり!!」
(頭を押さえてこっちを睨む日疋に、言い返す)
そりゃこっちの言うことだい。何が「俺が出来ないことやってくれてる」だ、アンタにゃ関係ないですぅ〜。
あたしが頼まれたからやっただけですぅ〜。勝手に自分の仕事肩代わりさせないでくれますぅ〜?
――アンタの仕事は別にあるだろが。さっさと恋ちゃん取り返してきなさいよ。
あの二人一緒にここの見学に招待すんだからね。
あたし、じいちゃんみたいに体力バカじゃないかんね、何十年も待ってられないからね。
何年かしたら弟子も取るつもりだし、そいつが使えるとなりゃ、さっさと跡継ぎに指名して隠居すっからね。
だから、はよ見つけて取り返してきな。
(ほら、とガントレットを収めたケースと、それとは別にナイフとワイヤードラムを入れたケースを渡し)
――『アレ』も設計は終わってから。素材になる鬼さえあればすぐにでも作れるよ。
でも、何度も言ってっけど、相応にデカくて、質のいい鬼鉄が要るからね。かなり強い鬼じゃなきゃ駄目だよ。
――頑張ってきなよ、双子、助けたいんだろ。
「……当たり前だ。ヤンキー舐めんなよ」
(ケースを受け取り、両手にぶら下げて、挨拶もせずに出ていく日疋を見送って)
(さて、次の仕事は何だったかな、とスケジュール帳を開いた)
(……所々に入る、赤い丸の印が何日後かを数えて)
(ちょっと巻き入れなきゃな、と作業に戻った)
50
:
メルティ=メルル
◆bY.FBdBpj.
:2021/01/10(日) 19:26:20
>>48
はわわぁぁぁ〜、お、お嬢様ぁ、お戯れが過ぎますよ〜
本当の本当に止まってしまったときは全てをお嬢様にお任せします、しますがっ!
いまそれをされたら蘇生と心臓停止の繰り返して私が壊れてしまいます……
(本気じゃなくてからかっているのは分かっている。でも、それはホントにシャレにならないので勘弁してほしいです)
(私が耐えられない。心臓も壊れちゃうかもしれないし、幸せすぎて現実と夢の狭間に挟まれておぼれてしまいそう)
(夢魔でも夢におぼれちゃうのかわからないけど、少なくともお嬢様におぼれてしまうのは確実だもん)
はい。お気遣いありがとうございます。
こちらにも怖いことがあることは忘れていません。
その……ゆっくりさせていただきます……あ、暗くなる前にちゃんと片付けます。
なので、いってらっしゃいませ……お帰りをお待ちしています。
(メイド長や先輩方から聞いていないし教えてもらってもない。これはただの感で、結構はずれちゃうことも多い感だけど)
(ただ、何となく思っちゃったのだ――心細いって。親とはぐれて迷子になってしまった子供のような思い)
(お嬢様はお強いし、こちらの鬼になんか負けないって信じているけど……私はまだお嬢様のように強くはないから)
(深々と頭を下げてお嬢様をお見送りする。でも下げ続けられなくて、こっそり頭をあげてお嬢様が見えなくなるまで目で追い続けて)
……もう終わっちゃった。
(お嬢様の姿が見えなくなってしばらくしてから、やっと私は椅子に座りなおした)
(取り残されてしまったようでさみしい。でも、そう思ってしまうのはすっごく贅沢なことだ)
(今日のお茶会であんなにお嬢様成分を取得することができたのに、何度か夢の中にトリップしちゃったくらいなのに)
(早くベッドの中でお嬢様の夢に浸りたい気持ちと、お嬢様と二人っきりになれたこの庭園から離れがたい気持ちが半々で)
(分かっているのは目覚まし時計という文明の利器をちゃんとセットしておかないと、明日は朝になっても夢から戻ってこれないってこと)
遊園地に学校の文化祭かぁ……どんなのかな?
お友達と遊んで、次はお嬢様とも……なんか不思議……あんなに擦り切れて終わってたはずなのに、お嬢様に拾っていただいてからもお屋敷から出られなかったのに。
こんなに幸せでいいのかな? もう一生分の幸せにどっぷり浸かってしまったのに、まだたくさん幸せがあふれてて、どうやってお返ししたらいいんだろう?
(できることから少しずつ。町内会のお仕事を手伝ったり、ボランティア活動に参加したりしてるけど、まだまだ全然お返しできていないもの)
(私がお嬢様にお返しできることもお役にたてることも少なくて、あふれてしまう幸せを無駄にしないようできることをしているけど間に合ってない)
(お屋敷の皆様に、町内の人たちに、学校のお友達の先生方に、私たちを受け入れてくれた日本の人たちに。どうしたらもっとお嬢様から頂いた幸せをおすそ分けできるのかなぁ?)
お嬢様、ちゃんとエスコードできるようしっかり下調べしてき…ます……ね……
(お日様のご機嫌が良くてポカポカの日差しに包まれた私が目を覚ましたのは、もう空が茜色に染まってしまう頃合いでした)
(時間をとっても無駄遣いしてしまった後悔で胸が押しつぶされる――ことはありませんでした)
(だって、夢の中でずっとお嬢様との二人っきりのお茶会を何度も何度も繰り返し浸ることが無駄なんてことはないんだから!)
51
:
天道組
◆BpYjFWEe7.
:2021/01/16(土) 20:55:10
(――「デウキ」に複数存在する待機室兼休憩室の一室)
(政界でも上の立場にある者、或いは裏に通じるものが客の殆どであるこの娼館)
(たかが待機室といえども、嬢は奴隷だけでなく稼ぐための商売道具であるとの考えを持つ天道により備品も全て一級品の物が取り揃えられていた)
(ソファーやテレビ。菓子類も駄菓子から高級スイーツ。来訪者の味覚に合わせた物)
(飲み物もあれば、娯楽用具もある。マッサージチェアにスキンケア用具。――他にも、望むものが有れば大抵のものは取り寄せられる。……相応に稼いでいるならば、だが)
(抱かれる女が美しければ買う者達も更に金を落とす。何しろ、殆どNGが無い上に「外」であればどれだけ金を積もうが買えない女を此処ではその金で好きに扱えるのだ)
(言ってしまえば、天道にとって此処は女の飼育小屋。嬢達に必要以上のストレスと疲労を与えなければ大きな金が定期的に手に入るシノギの一つに過ぎない)
(だからこそ、稼げない女はやがて消えていく。その行く末は――何時か明かされる事であろう)
(そんな「デウキ」だが今日は鈴女に管理が任命されていた。管理、とはそのままの意味である)
(嬢の体調管理、備品の管理、売り上げを向上させるための策、客に問題が無いか、或いは客の弱みを握れたか――etc.)
(挙げればキリが無いが、概ねはその様な事。つまり、大雑把に表せば娼館を通じて天道組に貢献出来る事を考える立場でもある)
(無論その中には特に指名の無い客に合った嬢を宛がうだとか、そんな事もあるのだけれど)
(――そんな立場を任されたのは何時からだったか。組長である天道に呼び出され「興味があれば如何ですか」と声を掛けられた事は間違いあるまい)
(他の嬢への当たりの良さや売り上げ等から声を掛けた事は先ず間違いは無いし――何か裏があったとしても、それが鈴女に対して不利益が生じる様な事で無いのは理解できただろう)
(逆に、何か見返りを欲するならばある程度の所までは承諾されたはずだ。それもまた、天道組に不利益が生じるもので無いならば、だが)
(隷属者や敵対関係で無いならば一方的に使い捨てる様な事はせず、相応の報酬を与える。天道曜はそんな女であり――だからこそ、気に食わないが信用は出来ると評する者も居る)
(さて、ここから先は数時間前の話。此処でバイト兼臨時の管理を行う鈴女に良く懐いている少女。年齢にして17歳前後の嬢が待機室に現れた時の事だ)
(鈴女の姿を見るなり目を輝かせて「鈴女さぁーんっ!」何て言いながら小走りで近寄り、遠慮を見せる事無く抱き着こうとして――)
(もし拒絶する事も無く受け入れれば、暫しの間ガッチリとホールドされることとなるのだが)
今日は鈴女さんが居る日なんですねっ!良かったら私が終わった後にお話しましょう!
ガールズトークです!ガールズトークっ!楽しみにしてますねーっ!
(そんな事を言った後にやっと解放して、手をブンブンと振りながら今日の客を迎える準備へと)
(彼女の能力は「破壊」。その代償は記憶。――詳細こそ明かされていないものの、その能力に応じただけの記憶が失われると考えるのが妥当であろう)
(彼女が何故「デウキ」に居るのか。それは件のガールズトークとやらで明らかになるのかもしれないけれど)
(何であれ、それを楽しみにしているのもまた確かな事だ)
(「響香」と呼ばれる彼女の相手は政界でも国民に寄り添った考えを持つと人気のある男。結局のところ、見た目や評判では人間なんて分からない)
(更に言ってしまえば、その彼が彼女に求めるプレイが――……そこは省く。だが、高い金を払って何度もリピートをさせる程に彼女が満足させている事も確かだ)
(――――そして今現在。鈴女の膝上にはまた別の一人の少女が座っていることとなる)
(濡れ烏色の黒に、艶めかしさを覚えさせる褐色の素肌。髪と同じ色合いをした毛並みの狼の耳と尾。それでも、瞳だけは鮮血の如く赤く染まっていて)
(服装は決まって黒のローブ。理由は着るのが簡単だから、との事らしい)
(身長は凡そ頭頂部が鈴女の胸と同じ高さ程度。見た目も華奢ではあるけれど、歴とした強者である事には変わりない)
(――強者。そう、つまりは嬢ではなくまた別な要員として存在している人材である)
(存在理由は至極単純。「場を派手に荒らす」。物を壊すだけ意味ではない。生き物も壊し、原型を想像させる事すら難しい肉塊を作り出す)
(「終わらせる者」「終結者」それが“元居た世界での”呼び名。この世界では理も異なるのだから力も大きく制限されている――が)
(それでも並みの適合者や来訪者では相手にならない程度の実力は有している)
(そんな少女が鈴女の膝に座って何をしているのかと言えば――……)
「――…ん。鈴女。仕事、楽しい?」
「――最近。千代。遊んでくれないから。つまんない」
(ミルクの注がれたカップを小さな両手で持ち、足をプラプラと揺らしながら見上げてそんなことを尋ねるのであった)
(何処か拙い喋り方はまだ此方の言葉に慣れていないからであろう)
(此方の世界では「クロ」と呼ばれる事が多いこの少女。表情も乏しいのだから感情は読み取り辛いけれど)
(鈴女の膝上や千代の隣などがこの少女にとってお気に入りのスペース。見かけてはトトトっと近寄り、許可を得る事も無く勝手に居座るそれが大体のお決まりであって)
(鈴女の胸を枕代わりに頭を預ければ、何処か不貞腐れたかの様にミルクを啜り)
(――仕事とは自分と遊ぶより楽しいものなのだろうか。組に属する存在でありながらシノギに関わりが無い少女には分からない事)
(だから、千代が大きな案件を抱えていても知った事ではないのだろう)
「鈴女も。お仕事楽しいと。遊んでくれなくなる?」
(まあ、娼婦としての仕事を楽しめる者は限られる。――でも、「クロ」が問うているのはそんな事では無いのだろう)
(更に言ってしまえば、彼女の言う遊びとは幅が広い。こうして話している事も遊びであり、出かけたり買い物をすることも遊び)
(――天道の指示で「荒らしてくること」もそれであり……つまる所、最近千代が忙しくて相手してくれない事に対して不満を抱いているのだろう)
(澄んだ声で問うたのは、貴女もその内遊んでくれなくなるのだろうか――そんな事)
(不意に耳がピョコピョコと動いて鈴女の喉を擽るのは、頭を撫でろ何て欲求を伝える為。結局、我儘な子供なのである)
52
:
「鈴女」
◆v6j.R9Z2OE
:2021/01/17(日) 00:14:07
>>51
あら、響香さん。お疲れ様です♪
(苦界にあって、場違いにならない程度に明るく朗らかで、けれど品を崩さない淑やかさに濡れた声が「デウキ」の一室に響く)
(声の主は皆様御存知、忍法・「燕女」。このきらびやかな現代の妓楼で生きる名として「鈴女」と名乗っている女であった)
(彼女は自ら以上に溌剌とした天真爛漫な少女の目一杯の抱擁を、両手を広げ、少し身を屈めて満身の大歓迎で受け止めると)
(まるで映画のワンシーンのように、飛び込んでくる彼女をしっかりと受け止めて器用にくるりと一回転をしてみせる)
(そつのない立ち振舞いは、華麗にターンを決めてみせても、どこにぶつかることも何にも触れることのない可憐なものだ)
(今日の彼女は「デウキ」の管理を任されており、事務仕事がメインなので、いつものマフラーにフォーマルなダークのパンツスーツ姿)
(着痩せするのか控えめに見える胸もあるので、男装の麗人と言ったいつもの風情で「響香」と呼ばれる少女の熱い抱擁をしっかりと堪能する)
(もっとも、腰の位置も高く、ヒップラインの美しさやふわりと靡く燕を思わせるショートヘアの雰囲気で、男装美人と元気な少女の)
(初々しい百合めいた一幕にしかならないのだが)
はい、今日は私がシフトです。何かお困りのことがあれば、遠慮なく言ってくださいね?
はいはい、承知しました。勿論、忍法・大歓迎ですよ♪
(本日の彼女の「仕事」も、「仕事内容」も。しっかりと把握している彼女は、それでも、明るい少女の姿に、同じく笑顔を崩さない)
(なんら、瑕疵のない笑顔と明るさで彼女としばし抱き合い、慕ってくれる彼女の求めに応じてみせる)
(美しく夜に咲き誇る一夜妻たちの園、「デウキ」。そこはきらびやかに装飾された現代の妓楼)
(様々な過去と事情を秘めた女たちが堕ちて、あるいは墜ちてくる奈落の底だ)
(彼女たちは皆、一様に春を鬻いで糧を得る。生きていく為の金を。あるいは、生きていく為の糧そのものを)
(この世界に来訪し、元の世界と同じ様に男の精を貪る者も居ないではないのだ)
(ここは紛うことなき苦界には違いないだろう)
(だが、苦界にあるからと言って、何も四六時中、身の上を嘆くこともないのではないか)
(それが彼女――忍法・「燕女」、否、この場では「鈴女」の持論である)
(彼女はそんな世界に咲いたひだまりの匂いがする花を大切に愛で)
(また彼女自身も明るくあろうとする、日陰に咲く花々を優しく寄り添う一輪であった)
(花には笑顔の潤いが必要である)
(もっとも――単純に、そう理屈を捏ね回さずとも、彼女自身が響香を好んでいるので)
(ガールズトーク大歓迎なのも紛うことなき真実である。遊女・「鈴女」は女の子も大好きである)
響香さんですと……冷蔵庫に在庫はあったかな?
ん、ないですね。すみません4号、買い出しに追加を頼めますか?
(響香が意気揚々と仕事に出かけて分かれると、彼女のぬくもりが残る手のひらを自分の頬に当て)
(高い体温を頬で感じて、元気を分けて貰う。活力の溢れている誰かの姿は、大変にいとをかしい)
(日々、小さなことの積み重ねで仕事のモチベーションを上げるのが彼女流の仕事術の秘訣である)
(休憩室に残った鈴女は冷蔵庫を開け、響香の好みのお菓子がないことを確認すると)
(耳に手を当てて、某か独り言として呟く。瞬時、耳目に返る、「了解」の一言)
(それは決して、独り言などではなかった――――)
53
:
忍法・「燕女」
◆v6j.R9Z2OE
:2021/01/17(日) 00:18:31
>>51
(さて、皆様におかれては、あえて、この時は元の名である燕女で彼女を呼ぶが)
(「燕女さん働きすぎじゃない?」「どうやってあのタスクをこなしてるの……?」と)
(そう思う方もおられるやもしれない。その為、これを機に、その秘密の一端をお教えしよう)
(忍法・「燕女」は忍法である。それすなわち、忍者であるということは)
(彼女は分身の術を行使出来るということでもある)
(彼女の分身術は大別して3つ)
(忍法まで行使出来る高度な戦闘分身である「影分身」と)
(何らかの媒介を利用して、忍法を行使しない単純作業、肉体作業オンリーである「媒介分身」である)
(媒介の部分には水、木、火、紙などが入り、媒介にちなんで「水分身」などと称される)
(最後の分身は幻術を利用した実態のない虚像の分身である「陽炎分身」となる)
(この3つの分身のうち、「影分身」は大幅に忍法と身体能力に制限の掛かった戦闘力5までの分身を最大で3体)
(「媒介分身」であれば、忍法も使用出来ず、戦闘力2程度の、要は見た目そのままな)
(戦闘者として最低限の身体能力の分身を最大で10体まで呼べる)
(そして上記2つの分身は本体である燕女と意識をリンクさせながらも独立して行動可能である)
(ただし、「影分身」か「媒介分身」のどちらかを発動中は、未発動のもう片方の分身術は使用できない)
(また距離制限があるが、それについては戦闘ではないので今は別の機会に譲ろう)
(さて、ここまで述べれば、察しのいい方はおわかりであろう)
(燕女さんのマルチタスクの秘密の一つとはそれすなわち―――マンパワー)
(本体を含めて総勢11人による燕女さんによる必勝の戦法、忍法・人海戦術である)
(事務仕事などは不眠不休の出し入れ可能な11人によるゴリ押しで片付ける)
(出来た時間を嬢とのコミュニケーションやレクリエーションに当てる)
(外見変化の技まで披露しているので、いまさら分身を隠そうものかである)
(性格的に合わない嬢がかち合わないようシフト調整、嬢の生理周期や体調変化。必要であれば簡単な医学処置や漢方の処方)
(備品の在庫管理や買い出し、エントランスや館内の見回り、設備の調査。仕事が終わった後の部屋の見回り掃除)
(顧客とのセールストーク、ビジネストークによる販路拡大と、ライバル店の嬢の調査やスパイの監視)
(やはり苦界ゆえにどうしても辛くなってしまう嬢へのカウンセリングや呑みにケーション)
(なんと言っても肉体労働なので、仕事終わりの忍び特製マッサージ。後進の指導、ローション捌きの訓練)
(何より、そもそも異常に忙しいので不在なことが多い自分の代わりに「デウキ」を回してくれている)
(他の担当者との折衝調整、引き継ぎなどなどど、細かな仕事は挙げればキリがない)
(キリがないので、マンパワーでゴリ押してしまう。忍法・11人の燕女)
(人を使うべきところは勿論使っているが、その分、現場にもしっかり出る中間管理職型現場出向タイプのビジネスウーマン)
(これが忍法・「燕女」の恐るべき秘密である。この奥義、見切ったところで抗し得まい)
(不眠不休の11人分の社畜精神と社畜労働を受け止める荒業である)
(彼女が忍法でなければ最大で11人分の情報同期と分身操作を可能とすることは不可能であっただろう)
(ちなみに給料はこれで1人分と言えば、その恐ろしさも理解して貰えるであろう)
(なお、本体ばかりがいい思いをしていると分身からブーイングが来るので)
(美味しい思いをする役も定期的に交代している模様である)
(分身にも福利厚生の充実が叫ばれるのは時代ゆえか)
(閑話休題)
54
:
「鈴女」
◆v6j.R9Z2OE
:2021/01/17(日) 00:21:44
>>51
(分身によるマンパワーで仕事を片付け、そろそろ響香の仕事も終わろう時分に、再び休憩室へと滑り込む)
(そこで待ち受けていたのは美しい褐色の肌と烏の濡羽色の髪をした「クロ」と呼ばれる少女との邂逅だった)
(響香と同じく笑顔で彼女を受け止めると、ふかふかと腰がゆったり沈む高級ソファに腰を預けて)
(その膝の上の特等席へとクロが収まる。彼女が嬢ではなく、戦闘要員、つまりは用心棒として控えているのも把握していれば)
(彼女が怖ろしい力を有しているのも勿論、理解した上で……彼女は全く、この「クロ」と呼ばれる少女を恐れない)
(物理的な死の恐怖が希薄なのもあるが、それ以上に、膝の上に相席してくれる相手を内心で恐れていては)
(膝の上の美少女が本心から寛げないことが一番の大きな理由である)
(「はい、それはもう♪」)
(「クロさんがこうして甘えてくれる役得もありますからね♪」)
(乏しい表情の中に、どこかつまらなさそうな、拗ねた表情を交えたクロへと本来、返る筈だったのは)
(「ああ、この人、仕事も人生も何もかも楽しくて仕方ないんだろうなあ」と、1000人中の9割に思わせるような)
(心の底からの笑顔と返答であった。満面の笑みであった。実際、この環境は鈴女にとって天国でしかないのだ)
(裏社会の情勢を探るうち、ひょんなことから―――果たして、「組長さんの顔が好みだったので♪」と)
(というのが、娼婦に……売春婦になる理由がひょんなことならと言っていいのであれば、「ひょんなこと」になるのだが)
(ともあれ、天道組に行き着き、すすんで風俗嬢となった彼女が「デウキ」に務め始めてはや数年)
(すっかり信任を得て、今では娼館経営の代打になるまでになったのだが……感想としては「やってよかった」の一言である)
(まず天道組組長である天道・曜は彼女にとって、正に申し分のない主人である)
(鈴女の特性をよく理解し、他組織に探りを入れている彼女の益不益の嗅ぎ分け方を察し)
(その上で、うまく泳がせては利鞘を得て、忍びである彼女の齎す働きを組織の拡大に活かしている)
(それだけなら、海千山千の表、裏社会の組織の上にいる人間ならある程度はこなせるであろう)
(彼女はそこに加えて、気風が良いのである。つまり「払わなければならないところに金を払う」人材だ)
(これは中々に難しい。大抵の経営者、組織の上の人間はケチである。彼女は、ケチはあんまり好みではないのだ)
(「デウキ」に務めて数年、他の娼館の裏側やバックヤード、楽屋も数多く目にしてきたが、酷い場所も多かった)
(男女問わずに身体を売る商売は、それこそ身体が資本であるのに、「商品」の品質維持に金を回している者は多くなかった)
(働いたら働いた分だけ、儲けや精神的な、あるいは忍法・大人絵巻な「ご褒美」はあってしかるべきだろう)
(それが鈴女の働く者としての哲学である。金は払うべきところに払ってこその金である)
(天道にはそれがある。苦労してその哲学に辿り着いた裏打ちされた人生論がある)
(そこに至るまでに差した人生の影と心の傷が、恐らくある。閨でそれが感じられる)
(齢8年の自分がいうことではないかもしれないが、酸いも甘いも噛み分けた25歳と思えない貫禄がある)
(影があり、人生哲学があり、冷たい倫理と極道の信念と野心があり)
(美人でスタイルもよくて、油断ならない取引先である)
(そして時折覗く可愛らしさ。百点満点中で120点は堅い)
(そういう相手との付き合いを続けながら、緊張感のある人生を送り)
(その上で、生来の淫蕩さを満たせる職場で、こうして美女美少女に囲まれる仕事が出来るのだ)
(多少どころか多大な苦労があったところで、全て消し飛ばせる)
(そんな天国にいるのだ)
(何ら一切の曇りもない笑顔で、元気よく反射的に答えたいところではあるが……)
(それは悪手である。ミルクを嗜む彼女が求めているのは、そんな答えではないだろう)
どうしたんですか、クロさん?
(ゆえに)
(膝の上に座り、脚を揺らすクロへと返るのはクロが拗ねている原因を尋ねる言葉だった)
(浮かべる笑顔は満面のものではあるが、優しく、そしてどこか大人びていた)
(無邪気な彼女の抱える悩みをするりと引き出して、耳を傾ける。そんな表情だった)
(マフラーの片端を手に変え、クロを支えて軽く包みながら、自分の片手も腰に回して彼女に触れる)
(近しい場所にある顔からこぼれた、「――最近。千代。遊んでくれないから。つまんない」と)
(自分との時間をとってくれないことへのなんとも可愛らしい不満)
そんなことないですよ。
私も千代さんも、クロさんと遊ぶのは楽しいです。
お仕事の方が楽しいから、なんてことはないですよ。
(澄んだ声での問いかけに返るのは、ふんわりと相手を包み込むように慰撫する微笑みと)
(艷やかな美しい黒髪とぴょこぴょこと動く狼耳を同時に撫でる、細い手の細やかな指使い)
(寂しさを素直に訴えかける幼い心を言い聞かせようとするのではなく、ありのままを述べる言葉だった)
(耳と髪を撫で終えたら、くしくしと耳の付け根をくすぐるように指を使い、腰に回した片手を引き寄せ)
(マフラーの片端の手でゆるいホールドを保持。しっかりとクロと密着すると、腰に回していた手を)
(ローブの腰辺りへとするりと動かし、ローブの上から、艷やかな毛並みの尾の付け根を少し擽るように滑らせる)
(「しっかりと貴女と遊んでいます」とまず行動で示しながら、寂しさにさいなまれる彼女に心と一緒に身体を寄り添わせる)
(抱き寄せた彼女の髪の毛に頬を触れさせ、全身でしっかりと抱擁すると)
天道さんに、クロさんが寂しがってたこと、それとなく伝えておきますね。
今度のおやすみまでは遠いですから……明日か明後日かな?
千代さんが休憩時間にここへ来てくれるように、私からもお願いしておきます。
(「それじゃダメですか?」と最後に尋ねて、相手の顔を覗き込む)
(納得してくれた、あるいは笑顔になってくれたのなら、おでこへのキスを忘れずに落とす)
(曖昧な言葉で誤魔化すと、余計に寂しがらせてしまう、拗ねさせてしまう)
(なので、言葉ではなく、具体的に提案する。彼女の哀しみを癒やすプランを即座に立てる)
(千代の仕事周りやシフトをある程度把握しており、嬢などのケアを含めて任されている)
(自分ならではの解決方法を出してみせる。実際にうまく行くかは、千代の忙しさも踏まえると五分五分だが)
(そこで千代の代わりに自分がピンチヒッターに立てば、八割は堅い、と、頭の中で算盤を弾く)
(千代に頼むのではなく、天道に頼むのがポイントだ。千代本人の差配でどうにも抜けられない事案も)
(天道本人であれば、どうとでも振れるのだ。同僚を飛び越えて上司に直談判出来る立場の強みを思い切り活かす)
(したたかさと度胸と笑顔と要領の良さも鈴女の武器であった。「業務範囲ですので」が鈴女からの天道への回答である)
(千代は同性の自分ですら魅入られるほどに冷たく整った美人だが)
(ああ見えて、可愛らしい小動物が好きだ。彼女にとってもいい時間にはなるだろう)
(千代にとっても悪い提案ではない筈だ。鈴女のモットーは「Win-Win」である)
55
:
天道組
◆BpYjFWEe7.
:2021/01/17(日) 23:48:27
>>52-54
(耳の付け根を触れられれば擽ったそうにパタパタと動きはするものの、それを拒絶する様な動作は見られない)
(寧ろ、グリグリと自ら頭を擦り付ける様な動作を行って「もっともっと」と強請っている様でもある)
(頭を撫でられれば気持ちよさそうに目を細め、心情を表すかのように自身の背と鈴女の腹との間に挟まっている尾が静かに揺れる)
(――鈴女のその慰めは正解であった。高い力を持つクロではあるものの、中身はまだ子供)
(それ故に、好き嫌いもハッキリとしているのだ。現に鈴女が耳を触ろうが尾に触れようが嫌がる素振りも見せる事は無いが)
(まだ此処にきて浅い嬢や敵対勢力が「デウキ」から離れた所でクロに触れようとした時は悲惨な事に陥る事も少なくはなく)
(撫でようと伸ばした腕は真逆の方向に折れ、指に至っては今後動かせる見込みが無い程に酷い状態となっていた)
(……その辺りは「デウキ内での研修で学ぶ事」でもある。或いは鈴女が新人に自ら教える機会もあっただろうか)
(――が。こうして気に入って居る相手には全く違う顔を見せる)
(尾の付け根に触れられるとピクンと体が少し反応はするけれど、毛並みの良いソレはゆさゆさと揺れ)
(確りと包まれる心地よさに僅かに顔も綻んだ。他者が見れば何の変化も無い様に見えるけれど……鈴女ならば分かるだろう)
(精々耳や尻尾の揺れ幅でしか感情を読み取れない狼が顔を綻ばせる。それは上機嫌の他ならないけれど)
「……本当? …………別に。寂しがってない。千代。遊んでくれないから。つまんないだけ」
「鈴女。勘違い。ダメ。私は。寂しくない」
(少しばかり頬を膨らませ、顔を覗き込んできた鈴女へと訴えかける。自分は別に寂しくは無い、つまらないだけだと)
(――そうやって繕うのが寂しがっている証左でもあるのだが、やはり素直になれない所があるのだろう)
(ただ、千代とクロの仲が悪いのかと言えばそうでも無い。冷たいながらも面倒見が良い千代がクロと一緒に過ごしている光景はデウキ内でもそれなりに見られた)
(日の当たるソファーに座り、膝に凭れる様に寝ているクロを見ている内に千代もうたた寝をしている所も幾つか見られたはずだ)
(その時ばかりは普段は視線を隠すために被っている狐の面も半分程度ずらされた状態だったが)
(何であれ、「寂しくは無い」と意地っ張り。それが余計に子供らしい印象を与えるのだとも知らず)
(鈴女が天道に何かの交渉をする時は、それに見合った代案があればすんなりと通るのが基本であった)
(その内容自体が天道組や「デウキ」の根本に関わるものであるならば弾かれるだろうが……聡い忍ならばその辺りは敢えて踏み込まない)
(若しくは元より関わらない様にして上手く避けている事だろう。だからこそ大体の物は通る)
(天道としても自分や千代に対して委縮して話せないような内容であっても、鈴女相手であれば嬢達が悩みを打ち明けやすいと理解している)
(その内容を蹴れば嬢のモチベーションにも影響が出る上に、嬢達から鈴女への信頼が落ちてしまう)
(結果的にソレは嬢の心情を下げ、鈴女へ嬢からの相談が減る事を理解しているからこそではあるのだが)
(……千代が今現在遂行している仕事は鬼と協力して千年会を出し抜こうとする組の裏取りと壊滅)
(その鬼が「使える様であれば」痛めつけた後に隷属の契約。――裏取りさえ済めば一気に片付く仕事だ。だが、その組とてボロボロと証拠を漏らすような馬鹿ではない)
(確実な証拠を幾つか揃えた上で叩かねば、元より天道組を敵対視している他の組が付け入る隙を作ってしまう)
(根気と確かな判断力、そして時間が必要な事であった。だから、自然とクロと接する時間が無くなっていくのも仕方あるまい)
(ただ単純に壊滅させるだけならばクロも連れて行っていたのだろうが――……)
「……でも。つまんないのは嫌。ちゃんと言ってて」
(千代が遊んでくれるようにちゃんと天道に伝えておけ。そんな言葉をドストレートに言い放って)
(クロから天道に言う事も有るが、大抵は思った通りの展開にならない。……交渉も取引も出来ないから、仕方ないのだが)
(それならば鈴女を頼った方が千代と遊べる確率も上がるとよく理解しているのだろう)
(言ってしまえば頼っているのだ。プライドもあり、子供らしさもあるのだから素直に口には出せないが)
(……一応納得した様ではある。額へ口付けを受けると嬉しそうに耳を動かしての反応)
(もう暫くの間膝の上に座り続け、ストレス解消と言う名の戯れを続けていたけれど)
(マフラーの手へとまだ少しミルクの残ったカップを手渡して、膝から飛び降り)
「……そろそろ行く。鈴女。天道にちゃんと言って。約束」
(顔を近付けてキス――とまでは行かないが、頬を擦り合わせての挨拶。それはクロが懐いている者にしか行わないもの)
(懐いている犬が頭を擦り付けて来る仕草と同じ行為と考えれば間違いはないであろう)
(その後はじぃ〜っと鈴女の顔を見ての返答待ち。それが自分の望むものであったならば、自らの返答代わりにゆらりと尻尾を揺らして応える)
(もし別れ際だからと頭でも撫でてやったならば、揺れ幅も大きくなるという物)
(そんなこんなで気ままな少女が豪奢な待機室から離れて数分。再びドアが開かれたと思えば――)
鈴女さーんっ!お疲れ様ですっ!
お菓子貰いましたお菓子っ!一緒に食べましょう!!
(仕事を終えた響香が元気よく入ってきて。手にしているのは某高級店の菓子箱)
(普通であれば捨てるのだろうが――この店に於いては客としての面子や下手な事をすれば文字通り死に直結する事も有る)
(鈴女が気を効かせて買ってくれた菓子が届いているなら嬉しさもまた倍増。どれだけお菓子を食べても太らないお年頃)
(――しかしながら。これまたデフォルメされた尻尾でも見えそうな喜びようである。仕事直後でも元気な具合は相変わらず)
(鈴女の人当たりの良さや嬢達との適切な距離の詰め方。それらから判断してバイトである鈴女にこの立場を持ち掛けた天道の采配はきっと間違っていない筈で)
56
:
「鈴女」
◆v6j.R9Z2OE
:2021/01/18(月) 02:42:30
>>55
(「もっともっと」とねだられれば、鈴女の指先は一層に繊細さを増し)
(付け根をくすぐる動きのみならず、パタパタと動く耳の先に、自分の指先を重ねて)
(揺れる耳と指先が戯れるような動きも加わっていく)
(耳の裏側を擦る際の動きは、ローブの上から尾の付け根に触れる動きに連動し)
(艷やかな毛並みの下に息づく、確かな軟骨や肉の感触を愛でることも忘れない)
(上機嫌に尾を揺らし、乏しい表情に確かな満足が宿れば、それを見守って)
(ふんわりと鈴女の笑顔も、より優しく穏やかに深みを増していく)
(こうしていれば可愛らしい少女なのだが、その本質は怖ろしい)
(彼女は好悪の感情がハッキリとしており、また触れられることに敏感だ)
(彼女に迂闊に触れようとした者の末路については語り草なのだが、嬢は組の大事な商品)
(鈴女がここに来るようになってからは、嬢たちには暴力的な被害が及ばないように)
(なんとか心を砕いてきた次第である。これもまた、具体的な対策としてだが)
(なるべく、彼女が誰かに甘えている時、彼女と仲良くしたい嬢を同席させて)
(親しい相手と一緒にいる時に間接的に時間を作ることで、クロとの距離を縮めるなどをしてみたのだ)
(どこの職場も人間関係の構築というのは大切なもの。そこに心を砕くのが鈴女流である)
あっと、これはすみません。
そうですね、クロさんは大人ですもんね。
ごめんなさい、つまらないだけですもんね。
(ぷくり、と膨れる愛らしい頬が見られると、ここは茶化したりからかうなどせず)
(素直に、大人だと主張するクロの子供らしい意地に身を引いて謝罪する)
(内心では微笑ましさにクスクスと笑いたいところだが、そこは忍びの処世術)
(そんな心は微塵も見せずに、「自分の勘違いでした」と、小さく合掌して頭を下げた)
(現在、天道組で行われている案件については、少々、鈴女が関わるには深すぎるところに絡んでいる部分になる)
(出しゃばらず、分を弁えて行動するのが鈴女の本分だが、さりとて、この膝の上の美しい少女の悩みも捨て置け無い)
(極道の裏街道をひた走る謀略と、我侭な子供の寂しさを癒やす為の時間作り)
(それらを同じ天秤にかけて釣り合わせを考えられるのが彼女の強みでもあった)
(少々、出過ぎを悩む部分ではあるが……迷ったら報連相である。そこは天道に、クロの話を持ち掛ける際)
(「自分の業務範囲内」として、天道に自分の助力が必要かを尋ねればいいだろう)
(あくまで、「クロのご機嫌取り」の為に働き、必要以上には出ないつもりである)
(遊女・「鈴女」は判断能力に優れているが、自己判断を過信もし過ぎない、報連相の出来る部下であった)
はい、お任せください。
ちゃんと伝えておきますよ。
(細かい組の裏事情を彼女に説くことはせず、自分の出した代替案を天道に通すことだけを答える鈴女)
(そうやって、柔らかい中間層の人間として、嬢の為、「デウキ」の為に動いてきた彼女である)
(今回もまた、そうやって動くのみである。頼られれば信頼に応える。そうやって勝ち取ってきた天国の信頼と実績である)
(クロにはクロのプライドと心がある。まずはそこを第一に。そこを上とすり合わせるのが鈴女の仕事だ)
(頼って貰えるのは何より嬉しい。今回も果たさねば、鈴女が廃るというものだ。応える鈴女の笑顔は朗らかだった)
(その後、しばし、つまらなさに苛まれていた彼女の慰安の為に心いくまでじゃれ合いを楽しみ)
(芳しい香りと高い体温、艷やかに煌めく黒髪や悩ましく蠢く耳と尻尾を堪能して心の栄養を補給すると)
(ストン、と綺麗にマフラーの手の中に落ちてきたカップを美しいキャッチで受け止め)
(別れ際の頬を合わせる挨拶に、目を閉じてしっかりと応じる。心を許された相手だけのその行為)
(他の嬢には悪いが、もう少しばかりはこの役得は自分他数名だけで囲わせて貰いたいものだ)
(希少価値というのは安易に暴落させてはいけないものである、とは彼女の真の上司の哲学だった)
(ふにふに、と、鈴女も頬を合わせて、親しさとぬくもりを堪能すると、問いかけには)
はい、万事、鈴女にお任せを。
(伝家の宝刀、「鈴女にお任せを」と、打てば響く速度で返すのであった)
(これで失敗するしたことは殆どない彼女の太鼓判を押して、こちらを見つめるクロの頭と耳、黒髪を優しく撫で)
(「忍法・承知之助です」と念を押して応えた後、自らも彼女を抱き寄せ、自分に存分に身を委ねてくれた彼女へ)
(自分からも、頬をすり合わせ、抱き寄せた拍子に尾の付け根と尾をふわりと指先で撫でて)
(「いってらっしゃいませ」と、去りゆく気配を感じて、彼女を送り出す)
57
:
「鈴女」
◆v6j.R9Z2OE
:2021/01/18(月) 02:49:32
>>55
やー……いい環境ですよねホント……
(大人びた顔で去りゆくクロを見送った後は、素の表情に戻って、ほっこりと)
(美しい異界の狼少女に懐かれるなど、ここでしか味わえない経験だ。職務に身も入ろうものである)
(残ったミルクは勿体ないので、ありがたく飲み干した後、カップを洗って片付ける)
(そろそろ響香が戻ってくる頃、と踏んで、今度は彼女と自分の愛用のカップを取り出し)
(彼女の好みの銘柄のアップルティーを用意し始める。彼女の能力の代償は記憶、であるという)
(果たして、記憶と味覚がどこまで密接に関わっているのかに興味は尽きないが、そこはさておき)
(相手の好みを覚えるというのは、遊女・「鈴女」の得意技であった)
(「せめて相手の好みは覚えておこう」ではなく、ごく普通の彼女の在り方として)
(年頃の少女らしい、彼女の好みのお菓子と好みの飲み物を用意して、仕事終わりの彼女を迎える準備をする)
(と、同時に)
―――忍法・鬼役定方(おにやくさだめかた)
(さっと、響香が戻ってくる前に、マフラーの中から古めかしい筆入を取り出すと、筆入からするり)
(古式ゆかしい細い毛筆を一本取り出し、指先で弾いて空中に飛ばしている間に結印)
(手元に落ちてきた筆を見事、キャッチするとピンクの舌先をちょこんと出して、舌の先に)
(墨のついていない筆先で梵字を描いて、口訣を口ずさむ)
(この忍法は食物に混入された異物や毒物を舌先で判断する毒見の忍法だ)
(忍法・「燕女」は飲食不要だが、飲食が「出来ないわけではない」、人と同じ味覚を持っているのはこの為である)
(響香の相手であれば、恐らく、何らかの菓子折りが来るのではないかと踏んでの判断である)
(「デウキ」では客からの差し入れを受け取ることがあるので、自分がいる間は、と天道に伝えている話の一つである)
ついでに。
―――忍法・鬼役見定方(おにやくみさだめかた)
(舌先に走らせた細い毛筆を、今度はマフラーから取り出した無地の二枚の符に走らせる)
(やはり墨のない毛筆ゆえに文字などは刻まれないが、先程の梵字よりも多い数の梵字を刻み)
(その二枚の符をそれぞれの目の瞼に当てて、すっと走らせる。役目を終えた符は虚空に溶けるように消えていく)
(今度の忍法は、毒見役の効果を目に及ぼすようにしたものだ)
(……食は人を取り巻く環境によって日々進化していく。それと同時に、業も深まっていく)
(「デウキ」は風俗、女の体を売って、快楽に身を焦がして夢を枕を共にする場所である)
(岡場所に渦巻く情念が深いのは、今も昔も変わらない。差し入れの菓子に髪の毛を混ぜたなど)
(今の時代で言えばストーカーじみた真似をする輩も多かろうものである)
(先程の毒味の忍法と合わせて、今度は食物に異物混入がないかを見定める忍法を目にかけておく)
(ここは高級娼館、そんなことをすれば客の評判にも関わるので、まずはなかろうものだが)
(さりとて皆無ではないのだ。嬢の安全と安心を健康を守るのが鈴女の仕事である)
(これで準備は万端。あとは響香を出迎えるのみであった)
おかえりなさい、響香さん。お疲れ様です♪
ジャストタイミングですね、私も丁度、休憩をとるところでした♪
(近づく足音と元気のいい気配。扉を勢いよく開けてやってくる響香を出迎えるのは、彼女と同じ明るさの)
(けれど、もう少し明るさを控えて、二人一緒の時に他の嬢が眩しすぎないようにと自然に整えられた朗らかな笑顔だった)
(ぬけぬけとそう言い放ちつつ、休憩室のテーブルに用意されたアップルティーのカップは響香と鈴女のものが2つ)
(指摘されれば、「バレちゃいました? 響香を待ってたんですよ♪」と笑顔で言い放つ)
(鈴女さんはすぐそういうことを言う。すぐ言う。ずるい女なのだ)
(その傍に添えられているのは、スーパーやコンビニでも買える、ごくありふれたイチゴ味のポッキー)
(高級店の菓子とは比べ物にならない値段だが、食事の好みは値段ではない、というのは)
(幻の尻尾をちぎれんばかりに振ってくれる響香の喜びようを見ればわかる)
(こういう時、鈴女は仕事にやりがいを感じるのである。可愛い女の子の笑顔も生きる糧であった)
(菓子箱を受け取り、テーブルに置いた後は、休憩室で分かれる前に行われたガッツリめのハグの再現とばかりに)
(今度は鈴女の方から、仕事を終えた響香を抱き寄せて、もう一度、「お疲れ様です」とねぎらいの言葉をぬくもりを投げかける)
(その後は、待ちに待ったガールズトークの時間である)
(テキパキと菓子箱の中から、二人分のフルーツタルトを取り出し、余った分は、冷蔵庫にしまっておく)
(鬼役見定方の効果よし。異物混入などなしと確認は怠らない。己にいうのもおかしい話だがなんと便利な)
(「これは私、大人気なのも頷けますね」と自己肯定感を高めていくことも忘れない)
(この時、響香の好みを聞いてから、この後休憩に入る嬢と、クロが戻ってきたときのことも考えて)
(自分のタルトを取り出すのを忘れない。残りのタルトは嬢の好みとクロの好みを考えて割り振りの札を添えておく)
(「○○さんの分」と書いておくのだ。「貴女の好み、覚えてますよ」アピールということもあるが、単純に)
(「早い者がち」は喧嘩になるからだ。嬢の不公平感をなくして、日々の業務を気持ちよく過ごして貰うのも彼女の職務)
(職責にはとことん真面目な彼女であった。この用意までにおよそ1分。タイム・イズ・マネーは鉄の掟ゆえに)
おまたせしました。
では、ティータイムにガールズトークと参りましょうか♪
(諸々の準備を終えると、首元のマフラーをするりと外して縮め、胸ポケットにしまうと)
(彼女はふわり、名前とは裏腹に麗らかな燕のような笑顔で、お楽しみの時間の始まりを告げた)
(ちなみに、少々行儀が悪いが、必ず響香より先に口をつけるのを忘れない)
(「毒味も出来るんですよ」というのは変に隠さず、嬢全体に伝えてあることであり)
(殆どないことではあるが、それで難を逃れたこともある説明はしてあった)
58
:
◆MfBiO.rGQU
:2021/01/19(火) 01:03:30
【閑話】
「――あのさあ、めっちゃデリカシーの無い事聞いて良い?」
(ある日、夕食を終え、炬燵で寛いでいた時の事)
(この家の主が、そんなことを聞いてきた)
――なんじゃ、でりかしー、とは。
「あ、えーと……うーん、配慮、みたいな?」
……お前の質問に、配慮のあった覚えがないのじゃが。
「えー、酷いなソレ。あたしだって普段は気ィ使ってるよ?
……いやまあソレは良いとしてさ。OKとして聞くけど、――朱火ちゃん、なんで人襲ったりしないん?」
(こちらの言葉を意にも介さず問われたのは、確かに……)
――本気で配慮の欠片もありゃあせんのう。
別に、大した理由も無いわ。気が向かんだけじゃ……
※ ※ ※ ※ ※ ※
(――辺りは、血に染まっていた)
(鎧姿のモノ、粗末な着物姿のモノ、上等な着物姿のモノ)
(数々の命ある者だったモノが、斬られ、折られ、潰されて、モノになって転がっている)
(生きている者は、たった三人……鎧姿の男女と)
(絹の着物を大胆に着崩した、世にも麗しき女――だが、その額には、一対の赤い角が生えていた)
(鬼だ)
(地に倒れ込み、岩に背を預けた鬼の女を、鎧姿の男女が見下ろし、刀を突きつけている)
(鬼の女の白磁のような肌は、しかし血と泥で汚れ、豊満な胸の谷間には血が溜まり)
(何よりその左腕は、肩口からバッサリと切り落とされ、人形の腕のように転がっていた)
――まさか、儂を軽々と斬り裂く刀とはのう。
それだけではない、力も速度も、儂以上とは……
何処の武者じゃ、貴様ら。
(鬼の女は、もう観念しているのか、酷く落ち着いた声で問いかける)
(しかし、問われた男女は何も答えず……突きつけた刀の切っ先は、ブルブルと震え始めていた)
「武者では、無い。我らは鍛冶師だ。この鎧も刀も、我ら二人が打ったものだ」
……何? そんな訳はなかろう。たかが鍛冶師に、この儂が斬られるとでも――ああ、その鎧か。
「そう、だ。朝廷が保管していた、温羅の躯から作った」
――はあ?
(鍛冶師の男の言葉に、心底驚いたように、鬼が声を漏らす)
「我らが生み出した、新たな武具だ。鬼の躯から鉄を作り、そこから武具を作る。
刀は鬼の骨を断ち、鎧は身につけた者に鬼の力を与える。――今は、これだけしか存在しないが」
(震えながら、声すら震わせながら、そう答える鍛冶師の男)
(その言葉に、鬼は)
――は、かはっ、カハハハハハハハハ!
真逆、真逆そんな物まで作り出すとはのう!
流石は人間、えげつない真似をする!!
同族を斬る道具にされるとは、温羅も浮かばれんじゃろうて!!
(笑った)
(腕を切り落とされた傷口を押さえた手の隙間から、ドクドクと血を流しながら)
(それでも力の限りの大声で、心の底から)
ええぞ、殺せ。
貴様らの勝ちじゃ。儂の首を朝廷にでも持っていけば、屋敷でも財宝でも手に入るじゃろう。
さっさとせえ、儂とて痛いもんは痛いんじゃ……
「――いや、殺さない。その代わり、約束しろ。もう人を害する事は無いと」
――はあ?
何を言うとるんじゃ、血迷ったか?
早うせえ、儂も冗談に付き合っとるほど我慢強くは……
「殺さないと、言ったんだ!! ――もう、十分死んだだろう!!」
(思わず、鬼も言葉を詰まらせた)
(男の言葉が、血を吐きそうな程に悲しみに染まっていたからだ)
(女の方も、目を伏せ、唇を噛み締めている――異論は無い様だ)
――何を、言うとるんじゃ?
「もう、沢山だ――お前の部下は皆死んだ。私達の目付役の、お武家様達も皆死んだ!
もう良いだろう、ここでお主が生き延びても、もう何も変わりはせぬ。
この武具が認められ、源氏郎党にでも渡れば、お主にもう勝ち目はない。
――ならば、死なずとも良いだろう。
鬼は約定を守るのだろう、人を害さぬと誓え、そして何処ぞの山奥で静かに暮らせ。
……俺はもう、誰かを斬りたくはない」
(『そんな事を言われるとは、思いもしなかった』)
(そう書いて有りそうな顔で、鬼は周囲を見渡した)
(死体の中には、男が居た、女も居た)
(年寄りも、若い――殆ど子供と言って良い年頃の者も居た)
(鬼が投げ出した脚の上には、うつ伏せに若い男が倒れていた――背中に、深い刀傷を負って)
(鍛冶師の一太刀から、鬼を身を挺して守ろうと、立ちはだかった男だった)
(――鬼が率いた、盗賊団の面々だった)
(もう、生き残りは居ない)
(膝の上の男が、最後の一人だった)
(鬼が、ぽかん、と夜空を見上げた)
(明るい月が、妙に赤く光っていた)
――解った。
……が、その約は結べん。鬼とは人を害するモノじゃ。
犬が吠えるように、鶏が鳴く様に、鬼は人を襲い、喰う。そういうモノだからじゃ。
鬼は約定を違えぬが、守れぬ約定を結ぶことは出来ん。
「――ならば、せめて自ら人を襲わぬよう、そして殺した者は必ず喰うように、と。
お主が、鬼を獣に例えたのだ。獣は無駄な殺生をせぬ、殺したならば、喰ってやれ」
……良かろう、が、それならば一つ余計じゃな。
命を救われる代償に、自らは人を襲わんと約束しよう。
ならば、殺した者を必ず喰うという約には、何を持って釣り合いを取る?
(思わず、そんな言葉が口をついた)
(少しだけ余裕が生まれたが故の、軽口のようなものだった)
(それに、鍛冶師は真剣に考え)
「――ならば、我らも必ず喰らおう。
我らが炉を焚き、鉄を打つ間、五穀と神酒のみを口にし、他の物は口にせぬと誓おう」
……ええじゃろう。約定は成った。
鬼の約定は口約束じゃ、何も形には残さんが……それが破られることはない。
お主も努々、忘れぬことじゃ。
「……ああ、誓おう、鬼の姫よ。お主が生きておる限り、子々孫々まで守り継ぐと」
ハ、言うたの。
(そう言うと、鬼はゆっくりと立ち上がり、よろめきながらも山の中へ消えていった)
(鍛冶師達も、よろよろと山を下っていき)
59
:
◆MfBiO.rGQU
:2021/01/19(火) 01:04:02
>>58
※ ※ ※ ※ ※ ※
(そこから暫く、その鬼が見つかることはなかった)
(文字通り、「この世界から消えていた」からだ)
(元より鬼というものはそろそろ潮時だろうかと考えていた矢先のことであり)
(暫くの間、ほとぼりが冷めるまで身を隠そうと思ったのだ)
(――鬼であるからには異界を持っていたその鬼は、しかしそれを放っていた)
(これを期に、その異界の中に入り、全く何もなかったそこを、弄くり回し始めたのだ)
(作り上げるのは、かつて居た大陸で歌われた理想郷)
(桃の花が咲き乱れ、清水が湧き、冷たい泉を作る仙境――「桃花源」)
(それを数十年かけて再現し、出来栄えに満足すると、鬼はそこから動かなくなった……食っちゃ寝の生活に入ったのである)
(実際に外から持ち込んだ、一粒の種から増やした桃の木が立ち並ぶそこは、非常に繊細な操作の上に成り立っている)
(そこに力を注ぎ込んだ鬼は、随分と小さな――童女の姿と成っていたが、それはまあどうでも良かった)
(泉がいつの間にか桃の酒を湛えていたのは完全に計算外だったが、それもまあ好都合ではあった)
(桃を齧り、桃の酒を飲み、だらだらと暮らしていた)
(――いっそここで朽ちてしまっても良い、と思っていたのかもしれない)
(それが、気まぐれに外に出てみようと思ったのは何故だったか)
(桃をかじったらうっかり頬を噛んでしまったからだっただろうか)
(なんにせよ、何年ぶりか、下手をすると数十年ぶりだろうか、と、異界の外に出て――)
(結論から言えば、3人殺した)
(身なりの良い子供だ、金になる、と思ったのだろう)
(武装した下卑た男たち3人を、3つ数える間に皆殺しにし、死体を前に思案した)
さて……約定があるからには、こやつらを喰わねばならんのだが……
まあ、ええか。
(何年か振りの肉でもあったし)
(昔は相手が何だと気にせずに喰っていたということもあった)
(近くの川で汚れを洗い落とし、千切った肉に齧り付く)
(――久しぶりの食感、香り、味)
(うむ、見た目の割にはなかなかだ、と思い、噛み砕いて飲み下し)
(二口目を口にしようとしたところで、異変が起きた)
(ぎり、と腹が捩れた)
(胃の腑が裏返るような感触、上がってくる酸っぱい匂いと、喉が焼ける痛み)
(ぐび、と喉が鳴り、思わず舌を突き出すように俯いて)
――ぐぇ、げ、ごぇぇっ、……が、げっ……ひゅ、げぇえぇぇ……
(吐いた)
(ほぼ空っぽの胃の腑を絞るように、中身を全て吐き出して)
(思わず顔を川に突っ込み、口の中をゆすぐ)
……な、なんじゃ、今のは。
(肉が悪かったということはない……と、思う)
(もっと痩せた肉も、年寄りの肉も喰ったことがある)
(それに比べたら遥かに上物であったし、そもそも鬼が病になど罹らない)
(なにかの間違いか、と思い、もう一度口にして……結果は同じだった)
――なんじゃ、何なんじゃっ、これはっ……!
(ヒリヒリと焼け付く喉で、呻くように毒づいた)
(人が、喰えなくなっている)
(――しかし、約定がある)
(『殺した者は、必ず喰わねばならない』)
――が、ごえっ……あぐ、んぐっ、――げええっ……!!
……ん、ごくっ……んんっ!! ぉえ、ええぇ……!
……んぐっ、んぐっ、んぐっ……がぼっ、ごぼ、ごぼぼぉぇぇ……
(半日かけて、喰うのと吐くのを繰り返し、一応、全て喰い付くした)
(――喰った分は、ほとんど全て吐き出してしまったが)
(最後には大量の水と一緒に肉を飲み込み、そのまま水と一緒に吐き出した)
(死にそうな思いで、立ち上がる)
(帰ろう)
(『桃花源』に帰って、大人しく寝ていよう)
(久しぶりに外を見てみよう、という気分は、すっかり萎えていた)
(道中、何故こんな事になったのかを考えた)
(鬼にとって、人を喰うのは当たり前の事だった筈だ)
(自分で言っていたはずだ、「犬が吠えるように、鶏が鳴く様に」――)
(と、そこで気づいた)
(今まで、何年か何十年か知らないが、人を喰っていなかった)
(それは、鬼として正しかったのか?)
(犬が何年も吠えなければ、鶏が何年も鳴かなければ、それは犬なのだろうか、鶏なのだろうか)
――もしや、儂は、鬼ではなくなってしまったのか……?
(そんな、絶望的な思いに囚われながら)
(山奥に作った『桃花源』の入り口に、身を躍らせた)
(――同じことをまた繰り返せば、どうなるかは解ったものではなかった)
(だが、今はもう、何も考えたくはなかった)
(少なくとも、『桃花源』には居られる)
(今はそれだけが頼りに思えて……)
※ ※ ※ ※ ※ ※
――そうじゃな、強いて言えば……
儂の作った桃が、美味すぎたせいかものう。
「あー。たしかにメチャクチャ美味しいもんね、あの桃。
人とか襲って食べるより絶対美味しいよね。
売ったらどう? ネットとかでさ。ほら、燕女さんとか詳しそうじゃん?」
ハ、そうじゃの、気が向いたら聞いてみるか……
(そう呟くと)
(鬼は、炬燵に肩まで潜り込み、寝息を立て始めた)
60
:
天道組
◆BpYjFWEe7.
:2021/01/19(火) 20:11:04
>>56
>>57
(飛び切りの明るい笑顔での挨拶を終えた後、くんくんと鼻を鳴らす音。その後「おー……」なんて何だか感心したような感嘆の溜息)
(好きな香り。――何時からこの香りが好きだったのか、自分でもよく分からないけれど)
(それでも、この紅茶は好きだ。何だか楽しい気分にさせてくれるから。……きっとそれには意味があった筈。もう、忘れてしまったが)
(匂いは記憶を呼び覚ます事もあるらしいが、無くなってしまった記憶は呼び覚ますも何も無いのだから)
(能力の代償として大事な物から忘れていく。昔の自分にすれば忘れる事が出来ない大事なものだったのかもしれないけれど)
ふっふっふっ……流石は鈴女さんですな〜……相変わらず茶葉の香りを立たせる淹れ方をされまする……
響香、感服いたしましたぞ……!
(どこぞの時代劇の物まねのつもりか、妙に声色を変えての感謝。……まあ、何時もの調子だ)
(べっ、と舌を出して自身の思考を誤魔化すとそのまま抱き寄せられる形に)
(それに応えるかのように自らもぎゅう、っと顔を埋めて見せた。そんな光景はそう珍しい事でもあるまい)
(もしかしたら何時かは鈴女達の事も忘れてしまうかもしれないけれど。それでも、相手が忘れてくれなければそれで良い。それが、今の響香が導き出した答え)
(ポッキーの存在にも気付けばこれまた喜びも昂るという物であり。更に目が爛々と輝くのである)
(菓子は幾らあっても困らない。その癖ニキビの一つも無いのは日々の努力の賜物か或いは「デウキ」内のお高いスキンケアのお陰か)
(貰い物の菓子に鈴女が先に口を付けるまで律儀に待つ。それは以前に鈴女本人から行動理由を聞かされたからでもあるが)
(何より、彼女のその行動を尊重して。――能天気に楽しく生きていそうな娘ではあるが、存外に気は効く様だ)
(――若しくは気が利くからこそこの立ち振る舞いなのだろうか。それは本人にしか知りえない事ではあるけれど)
(何であれ、鈴女が先に口にしてから暫し待って自分も食べ始め……)
う〜ん……唯でさえ美味しいものが鈴女さんと一緒に食べると更に美味しく……!
って、よくよく考えると鈴女さんって寮母さんって感じですよね!
何ていうのかな……こう、出来る若い寮母さん!みんなのマネージメントもしっかりしてます!……みたいな!
(お世辞ではない。お友達や親しい人と食べるお菓子は何でもより美味しく感じるものだ)
(鈴女は勿論の事、クロに千代、天道――ずばり、響香の場合は誰と食べても美味しい訳だが。そういった意味では鈴女と似ている部分もあるだろうか)
(フルーツを先に食べ、その後にタルトを頬張り。これまた甘すぎず上品な味わいを楽しんでいた時にポツリと漏らした例え)
(誰の面倒でもしっかりと見る人……と言いたいようだが、何故だかパッと出てきた例えが寮母)
(――まあ、高校生位の歳であればその単語が出ても可笑しくは無いだろう。それとも知らない過去が勝手に口から出てきたか)
えへへ……もしも鈴女さんが本当に寮母さんだったら、男子にも女子にも大人気で大変な事になっちゃいますね!
一人の麗人を巡って毎年繰り広げられる告白合戦にお風呂の覗き見……!
卒業時にはまた告白して玉砕する男子の諸君っ!それを尻目に鈴女さんをサラっと最後の打ち上げにお誘いする私達女子組!
モチのロンでその後は私だけ鈴女さんと秘密のアフターですっ!
(妄想という物はどんどんと膨らんでいくもので、別な世界線の話を実に楽し気に紡いでいく)
(あり得ない話。有りもしない話。そんな事は分かっているけれど、もしかしたら――を話す事は自由だから)
(最後の最後には自分が選ばれちゃいます!……なんてちゃっかり勝手な妄想で終えるとともに決め顔。フォークを咥えながらビシッ!と鈴女に向けられた人差し指が何とも勇ましい)
(その指も不意に下げられると。明るい笑みだけが残る。決して捨て鉢なんかでは無く、今を生きると決意しているからこそ)
なーんて。……でも、昔だったらきっとそんな事もあったんですよね?
鬼も居なくて、能力を持った人も居ない時代なら。……ちょっぴり、羨ましいな
(――けれど。やはり、そうで無かったら。自分が記憶を失う事が無ければ。世界が昔のままだったら。そんな「たられば」を想像してしまうとつい何時もの様に笑えなくなってしまう)
(両親の顔も声も分からない。生きているのかさえも。兄弟姉妹も、友人も。自分の出身地や母校も何も無い。空っぽな状態であったところを拾われ、今に至る)
(天道が仕組んだ事だろうか?それとも能力の代償によって記憶が無くなった自分を偶然見つけただけだろうか?)
(そもそも私はなぜ能力を使った?大体鬼なんて居なければこんな事には――……)
(疑問を抱く事も直ぐに止めた。此処には私よりも辛い人たちが居る。それなら、少しでも明るくしてあげたい。生きている事を嫌になって欲しくない)
(単純にそれだけ。だから、今までの振る舞いも鈴女に対する好意も全て偽りではなく本心からの事)
(でも、僅かに……本当に僅かに哀しみが入った笑み。それを鈴女が知る事があるのかは分からないけれど)
…………さあ、響香ちゃんの楽しい学園妄想タイムは終わり終わりっ!そんな事よりも鈴女さんが買ってきてくれたポッキータイムっ!
鈴女さんっ!お待ちかねのチキチキポッキーゲームのお時間ですよ!キスしちゃったら鈴女さんの負けで、私の言うことを一つ聞いて貰うイベントです!
(パンッ!と手を叩いて自分の気持ちを取り繕えば開けられるポッキーの箱。因みにタルトは全て平らげている。早い)
(ポッキーを一本取り出し、それを咥えるともう片方の端を鈴女が咥えるまで待っていて)
(お待ちかね、と言っているが普段からやっている訳では無い筈。寧ろ、今回が初めての可能性とてある。しんみりとした自分の気持ちを誤魔化すのに必要なのはその場のノリと勢い)
(響香に大幅有利……所か、そもそも勝敗の決め方が不明である事を突っ込むか否かは鈴女の判断に委ねられ)
61
:
「鈴女」
◆v6j.R9Z2OE
:2021/01/19(火) 22:25:39
>>60
(飛び切りの明るい笑顔の裏側に、鈴女では推し量れない、決して共感出来ない、分かち合えない悲しみがあったのかもしれない)
(他の嬢たちの表情や態度からもそれは感じられる。そこで、遊女・鈴女はその悲しみを理解しつつ、けれど共に沈むことをしない女性だった)
(「患者は医者に一緒に悲しんで欲しいのではない、痛がって欲しいのではない」)
(「病気を治して、癒やして欲しいのだ」と、さる書物にはあった。なるほど、その通りだと鈴女も強く思う)
(能力、環境、過去、そして現在。この誰もに厳しい世界の更に奥深くの苦界)
(そこに渦巻くのは表沙汰にならない、世の水面には浮かばない数え切れないほどの悲しみたちだ)
(全てを掬い上げることの出来ない鈴女に出来ることはせめて、彼女たちの心に優しくあたたかな)
(ごく当たり前の楽しさや朗らかさを齎すことだと、そう思う。ゆえに彼女は、娼婦たちの心に寄り添う)
(時に静かに、時に激しく。そして大体において賑やかに淑やかに)
ははっ、恐悦至極に存じます!
(応じる鈴女の受け答えも極めて軽い。軽いが、受け答えの調子にはやや本職っぽい響きがあった)
(なにせ忍法、時代がかった受け答えこそが本領である。――ぎゅう、と抱きしめて顔を埋める響香を抱きしめる手は優しい)
(それは彼女の抱える虚無や恐怖。怖れに無頓着ではない、自覚のある人間の抱き締め方だった)
(ポンポン、と背をあやす手はなおも優しい。だが、それ以上、悲劇的に抱きしめることも包み込むこともしなかった)
(スキンシップの範疇に、少し感じる切なさも包み込むように。たとえ、このやりとりと響香の台詞が何度目かであったとしても)
(彼女の受け答えは変わらない。遊女・「鈴女」は忍法・「燕女」だ。歴史の闇に生き、老いを知らずに生きる死なずの忍び)
(それは永遠に近い時間に少しだけ耐えられることを意味している)
(そして、少しだけ耐えられるということは、ずっと耐えられるということでもある)
(もし彼女が自分のことを忘れても、鈴女はこう思うだろう)
(「それでは、貴女との『2週目』を楽しむとしましょう」)
(「こんな可愛い子を1からもう一度、攻略出来るなんて、私はラッキーですね♪」)
(永遠に近い時間を生きられるということは、生き方から喜びを見つけられることに他ならないのだから)
響香さんにそう言って貰えると、私としては3倍美味しく感じられますね……
気遣いの出来る可愛い美少女さんに褒め殺しされながら、この一日限定60個の激震堂のフルーツタルトを食べられる喜び……
嗚呼、鈴女、幸せすぎます……
(これまた、応える鈴女の返事もお世辞などでは一切ない。遊女・「鈴女」は飲食可能で、ついでにグルメだ)
(自分の毒味に気遣いを見せてくれる、可愛らしさだけではない美少女と同席しているだけで)
(ない筈の寿命が延びる性格な上に、文句なしに美味しい高級菓子を食べられるとあらば)
(今しがた「出来る」と褒められた若い寮母さんは、そこら辺の女子高生にしか見えない顔でぷるぷると感激に打ち震えてみせる)
(謙遜を知りはするが、それはそれとして褒められたガールなのである。だから彼女自身も、人を褒める。とてもすぐ褒める)
(寮母さん、という例えには気づいても触れないで置く。彼女がどこかの全寮制の学園に通っていた子女で)
(憧れていた誰かが居たかもしれないとして。それに今、触れてしまっては、せっかくの笑顔と甘いティータイムが台無しになる)
(なので、おくびにも出さない。分身を分割並行操作可能な彼女の脳裏は、感情の処理と表現にも大変に長けていた)
62
:
忍法・「燕女」
◆v6j.R9Z2OE
:2021/01/19(火) 22:30:24
(ちなみに、そんな彼女が、分身を使っていて折に触れて思うのは、遊女・「鈴女」と同じく、彼女の仮の姿の一つ)
(キネマの「梟」が見かけた、さるキネマの重鎮の能力である)
(さて、皆様におかれては、あえて、この時は元の名である燕女で彼女を呼ぶが)
(「分身11人と同期して動いてるのすごくない?」「どうやってるの?」と)
(そう思う方もおられるやもしれない。その為、そこについてご説明しよう)
(答えは単純、彼女はその気になれば、両手両足の指1本ずつで別の端末に向かって)
(指1本のフリック入力で、別々の文章を打つことが可能なだけである)
(この際、指の長さが足りない、端末の大きさはどうなっているんだという条件は無視する)
(両手両足で○△□☓を同時に描きながら、唇で寿限無を口ずさむことなど造作もない)
(彼女の泣き所は火力不足、出力不足に尽きるが、その分、技巧派なのである)
(そんな彼女が、初見で腰を抜かしそうになった能力こそ、キネマ劇場幹部「監督」)
(ゲオルグ・コルヴィッツの能力、「スモールソルジャーズ」である)
(彼が同時に運用出来る分体の数は、正確な総数までは把握できていないが、勘定したところで)
(少なくとも三桁。信憑性の高い情報では1000体以上の操作を可能としているとのことだ)
(彼女は与り知らぬことだが、最大数は2000体)
(彼女が自壊覚悟で、単純な肉体能力だけを持った「媒介分身」の最大数を増やしても)
(三桁に届かせた時点で精々が数分、ろくすっぽ動けない分身を動かす程度である)
(代償に彼女はオーバーヒートで自壊する)
(実態を伴わない「陽炎分身」でも1000体単位は試したことはない)
(行動のパターンから推測して、おそらくは大半がオート操作と思われるが、それでも1000体)
(その光景を目の当たりにした「梟」の中、忍法・「燕女」はこう胸中で独りごちたという)
(「――――人間業ではありませんね。これが適合者」)
(魑魅魍魎と絶望へのカウントダウンが蔓延るこの世界に「適合」した者たちの頂点)
(心胆寒からしめられた彼女はこの世界に対して、一層に気を引き締めることとなったのは、また別な話である)
(閑話休題)
63
:
「鈴女」
◆v6j.R9Z2OE
:2021/01/19(火) 22:39:09
>>60
しかし寮母さんですか。
こんな若くて美人でえっちも上手で気遣いの出来る美人の寮母さんがいたら
私自身も放っておきませんからね……あ、響香さん、おべんとついてますよ♪
(さても皆さん、お察しかもしれないが、遊女・「鈴女」は割とナルシストでもある)
(いやさ、自分「も」大好きであるとも言えようか。自己肯定感の塊なのだ)
(ぬけぬけとそんな事を言い放ちながら、さり気なく微笑むほっぺについたタルト生地のかけらを)
(ひょい、と摘んでぱくり、と口に入れる。美少女の頬についていたと考えると4倍美味だ)
(「美人」については大事なことなので2回繰り返しておく)
日々の洗濯物や食事のトレイ、寮母の管理室や仕事中のエプロンに忍ばされるラブレターを読み、お返事を書き
呼び出しに丁寧にお断りの返事をしては、皆さんが覗きやすいように一人でお風呂に入る時間を設け
男子と女子で喧嘩しないように覗き見の時間を分けては、たまに写真までは許して皆さんの財布と若い性欲を潤し
そして上前を跳ねて私の懐も潤うWin-Winの関係……いいですね学園生活!!
男子の皆さんには悪いですが、最後のアフターの話を聞いてはもう、女子の皆さんへと向かうしか……
盛り上がって眠くなって、次々に倒れていく皆さんを尻目にそっと打ち上げを二人で抜け出して
寮母室に鍵をかけて……
「卒業おめでとうございます。もう、ご卒業ですから、『寮母』と『生徒」じゃないですね」
なんて言って、大人の階段も卒業していただく感じで……
卒業したら一つ、屋根の下にはいられないですからね、もうその機会を逃す筈もなく
その時の下着にちょっと今から迷いますね。響香さんの好みへのリサーチ力が試されます。
(自分が寮母である、と想像し、広がる響香の妄想へと、言葉を遮らない絶妙のタイミングで合槌を挟んでいく)
(大人気なのは間違いない、間違いないので具体的のどう動くかのプランを練る)
(お風呂の覗きでお金を稼ごうとするのは、お色気を忘れないくノ一としての本能ともう筋金入りの経済の申し子の血の故だった)
(くすくすと笑いながら、見事、この場で自分を射止めてくれた相手の勇ましい人差し指に、自分の手を絡めようとする)
(一瞬、遅い。折り悪く、その時はタルトを平らげて、丁度フォークと皿を置くところだったのだ。一瞬だけ遅い)
(そのタイミングで、不意に響香の指先が下がってしまった。楽しげに話していた、幼さと賑やかさの光る笑顔に、大人びた優しさが宿る)
――――
(全く音を立てずに、タルトの載っていた皿とフォークを置き、彼女が胸に秘めていた悲しみに耳を傾ける)
(何か、言葉を返すことも遮ることも。彼女の言葉を否定することも、そこに言葉を重ねることもない)
(鈴女は――忍法・「燕女」は、その「昔」を知らないのだ。彼女には答えられない)
(この世界の「平和」と「かつてあった日常」を知らない者の言葉に、真実の響きは宿らない)
(そして、響香の喪われた過去を、彼女は繕う術を持たないのだ)
(たとえ鈴女がその過去を知っていたとしても、それはもう、「響香の記憶」ではなくなってしまっている)
(彼女から喪われてしまった「時間」は、彼女にしか判らない、そしてもう感じられない喪失なのだ)
(鈴女に出来ることは、だから、悲しみに寄り添うことだけだ)
(いつもは人に見せない苦しみと葛藤に寄り添うことだけだ。耳を傾けることだけだ)
(それでも随分と、心と気持ちは軽くなることを知っているから)
(そして、そこで終わらせない)
(彼女に出来ることは、あるのだ。人は悲しみ続けることも、苦しみ続けることもない生き物だ)
(悲しみ、苦しむと同時に、笑うこと、喜ぶこともある。そして鈴女はそれを覚えていられる)
(彼女には響香が笑ったこと、喜んだことを忘れずに、再び、彼女に与えることが出来るのだ)
(記憶は喪われる。だが、彼女が喜んだ事実だけは、鈴女の中に記録として残る)
(時に失敗することもあるが、それでも、そこには響香の笑顔に紐づくことがあったのだ)
(なら、もう一度、彼女に笑って貰えばいい。喜んで貰えばいい)
(可愛い女の子の笑顔は、何度見ても、いいものなのだから)
(彼女の抱えた過去の辛さや不安と同じくらい、鈴女は、今を懸命の生きる彼女の笑顔と強さを見てきた)
(誰かを励まそうとする魂の輝きは、鈴女の中に宿り――そして響香に「還る」のだ)
(誰かに浮かんだ哀しみを癒そうとした、響香自身の行動によって)
――――――
(「承知しました」とニコリと微笑み、タルトの皿とフォークを置き。並んで座ったソファの上)
(互いの膝が触れ合うように、少し近づくと静かに笑って、ポッキーの片端を咥える)
(咥えて、すぐに。するりと、細くたおやかな手が、響香の頬へと絡みつく)
(浮かんだ笑みの中に交じる哀しみの傷を撫でて癒やすように、指先が動く)
(目を閉じて、響香の頬を両手で包み込んだ鈴女の口元が、躊躇いなく、前に進んだ)
(首を少し傾けて、自分から首を伸ばして。どうやったのか)
(長いポッキーを一度も折らずに口中へと吸い込ませて、飲み込みながら)
(彼女が語った妄想の、「秘密のアフター」を、再現するように)
(明るく強く、大きな哀しみを秘めても負けずに頑張る、素敵な女の子に)
(「大好きですよ」と言葉で語るよりも雄弁な大人のキスを届けた)
――――負けちゃいましたね。
それじゃあ、鈴女の罰ゲームです。
なんでも、響香さんの言うこと、一つ。聞いちゃいますよ?
(いちご味のする唇を離すと、からかいを交えない、本当に何でも一つ)
(言うことを聞くつもりの笑みを浮かべて、唇の端に残った、響香が咥えていた側のポッキーの芯を)
(彼女はつい、と。自分の唇の中に収めてみせた)
(不言実行、有言実行が遊女・「鈴女」のモットーである)
(もし、これが何度目であっても。悪いことばかりではないと思うのなら)
(いつだって、素敵なファーストキスをこの子に)
(壊され続ける優しさと思い出に、いつも刹那の永遠となるときめきを)
64
:
天道組
◆BpYjFWEe7.
:2021/01/21(木) 19:24:42
>>61-63
(――本当に期待を裏切らない人だな、と思う。唇の柔らかな感触から伝わるのは、何も官能的なソレだけでは無い)
(客の要望があれば、目の前で嬢同士の絡みを見せる事も多く――その時の口付けは、客の趣向に合わせたモノ)
(フレンチ・キスだろうが舌を絡めるキスだろうが、総じて気分を昂らせる事を目的としたもの。気恥ずかしいなんて気持ちが湧く筈もないが)
(……これは。このキスは響香にとって今までのどんな事よりも恥ずかしくて。そして、嬉しくもあった)
(目の前の女性はズルい人だな、とも思う。打算的でない事が分かってしまうから)
(これがただその場を取り繕うだけの行為だと分かれば、自分も合わせる事が出来る。また誤魔化すことが出来る)
(……でも。頬を優しく包まれて口付けをされれば、真っ直ぐに目を見る事だって難しくなる。優しさに慣れていない訳では無い。真面目な事が苦手だから)
(何となく、場の雰囲気を誤魔化すつもりで口から出た言葉だったのに。――やっぱり、ズルい人だな……そんな事を胸の中で独り言ちて)
もう……負ける気満々で来られてもぜーんぜん罰ゲームを出す楽しみが無いじゃないですかっ!
そ・れ・に!私の好きなポッキーを鈴女さんの方が沢山食べるなんてひどいですよう!
……そんな訳で、今から言うことはぜっっったいに守って貰いますからねっ!指キリの約束なんてしませんっ!これは決まりなんですから!
(私は何をお願いしたいんだろう。いいや、鈴女さんはこんな事をしなくても大抵のことは聞いてくれる。そんな事は分かっている)
(何時もの様に冗談っぽく笑いながら場を繋いで、自分自身を考える。私は何をお願いするべきなんだろう)
(私だけの為にお願いすべき事……?普段はどうでも良い時には沢山浮かぶのに、いざ真剣な場になったら上手く纏まらないものだ)
(――ふと、脳裏に浮かんだこと。お願いが思いつかない程に、今が充実しているのではないだろうか。それなら、それで良いじゃないか)
(難しく考えて、無理に絞り出した物なんて本当に叶えて欲しいものだとは言い難い。だから、響香が出した言葉は――)
鈴女さんはずっと私が大好きな鈴女さんのままで居て下さいね。……それと、今度はクロちゃん達も誘ってお話しましょう!
みんなで好きなお菓子を持ち寄ってする様な賑やかで楽しいヤツです!
新しい方も増えたりしていますし、きっと皆さんの事をもっと知れるチャンスにもなるんじゃないかって!
(それだけだ。お願いでも命令でも何でもない。きっと、“今の響香で無くとも”同じような答えに辿り着いていた筈だ)
(今度遊びに行きましょう。何時か何処かに泊まりましょう。それを自分が覚えていられる保証なんてない)
(そうだとしても、鈴女が鈴女で居る間は例え自分が記憶の全てを失くしてもまたこうしてお話してくれる気がするから。だから、貴女は変わらないで、と)
(全部を忘れてしまっても、きっとまた慕う事が出来る。――響香なりの「今後ともよろしくお願いします」の挨拶とも取れるだろうか)
(態々重苦しい話にする理由も無い。これで意味が通じてくれる、と理解しているからこその言葉)
(もうその瞳には先ほどまでの悲しみも無くなっていて、代わりに何時も通りの明るく元気が良い表情)
(元より持ち合わせている性格もあるが――何より、鈴女の優しさが直ぐに切り替えさせてくれたのだろう)
(お礼半分、キスのお返し半分。今度は自分から優しく口付けを行おうとした所……丁度、扉の開く音)
「やあやあ、組長さんがお呼びなのだけど鈴女君は居るかなぁ〜……っと。……ん?お楽しみ中だったかな?それとも研修中?」
「……鈴女君と響香君の性格を考えると前者な気がするけど……いざ仕事に差支えが無い範囲なら好きにして良いんじゃないかな」
「いや……でも二人共嬢達から慕われる質だからね、公の場でしていたら嫉妬が――……と、そんな話は後回しでいいね」
「兎も角、組長さんが“話し合い”をしたいとの事だったよ。それじゃ、確かに伝えたから後は宜しく頼むよ〜」
(顔を覗かせたのは、人形の様に整った容姿をした一人の女性だ。異世界から来た魔術師であったか)
(その実力と来歴は面白い物であったが――……それはまた、別な機会があった際に語るとして)
(組長が呼んでいた、との伝言だけを残せば、再び扉が閉じられる。……これもまた何時も通り)
やっぱり頼られる人っていうのは大変ですね〜……あっちで呼ばれたと思えばこっちでも呼ばれって具合ですねっ!
あ、そうだ……ねえ、鈴女さん。次の休みの日に一緒にお買い物に行きましょ〜!
天道さんから外出許可は貰っておきます!鈴女さんが一緒って言うと天道さんもすんなり許可を出してくれますし!
(響香を始めとする一部嬢には基本的に常に外出許可を与えているのだが……これは、何時か鈴女と買い物をする為の口上)
(組長たる天道に呼ばれているとなれば、長く引き留めはしない。それに、こうして一緒にお菓子を食べてお話も出来た)
(――最後の最後に、ちょっとした我儘。数多くある中の、一つの楽しみ)
(響香は天道から知らされてはいないけれど、鈴女も多くの組織に属する身。その時間を取れるかは、分からないけれど)
(その答えが何であれ、お見送りモード。仕事が仕事だ。互いに気遣うような別れ挨拶を交わさずとも、引き際は理解している)
65
:
「鈴女」
◆v6j.R9Z2OE
:2021/01/22(金) 14:16:59
>>64
(目を閉じた理由はいくつかある。その方が雰囲気が出るから。その方が美人に見えるから)
(こういうときのキスは、目を閉じるのが作法だから。そして)
(ずるい不意打ちに目を合わせられない女の子の、行き場のない瞳から目を逸してあげられるから)
(唇が触れ合っていた時間は長くはなかった。正確に時を刻む時計の秒針を見れば、2〜3秒で終わった出来事)
(けれど――その時間を分かち合う自分たちの体感時間は、世界が止まって感じるほどに長かった)
(青い青い、幼心に震える春色の味の口づけ。苦界に咲く、蕾とも言えない百合の花)
(唇から感じられる戸惑いと気恥ずかしさ。喜びと嬉しさに、鈴女の胸も、優しく高鳴る)
(目を閉じた理由はいくつかある。その方が雰囲気が出るから。その方が美人に見えるから)
(こういうときのキスは、目を閉じるのが作法だから。そして)
(その胸のときめきから伝わってくる、響香の「ずるい」という心の声を、聞かないフリで誤魔化すことが出来るからだった)
ふふ、ごめんなさい♪
はぁい、かしこまりました♪
(まったくちっともこれっぽっちもいささかも。微塵も反省していない年上の笑みで微笑んだ鈴女は)
(態度だけは殊勝に真面目に、ソファの上で綺麗に正座をして膝の上に手を置いて、響香の出す条件に耳を傾ける)
(果たしてそれは、かしこまるフリを続ける鈴女の心に音もなく刺さり)
(ニコニコと浮かべていた笑みに、先程の大人びた優しさが宿る微笑みを取り戻させる)
(――――鈴女の元いた世界。否、生まれた世界というべきか)
(彼女の出身世界も、それなりに苦境ではあった、と、身に覚えはある)
(だが、それは「知識として」理解しているだけに過ぎない)
(忍法・「燕女」は忍びが跋扈し、忍びと程近い、隠忍――「おに」と呼ばれる不可思議な血統を有するまつろわぬ民)
(人類社会の裏側に潜む血を吸う鬼、「吸血鬼」と、月光と都市の影に潜む異形の獣、「モノビースト」)
(そして不死の秘儀を身につけ、禁書を狩る「魔法使い」たちの棲まう世界で古に産み落とされた忍法だ)
(彼女の故郷にも避け得ぬ悲劇、日々生み出される哀しみの連鎖が渦巻いていたという)
(だが、彼女はその世界から切り離されて、こちら側に「落ちた」。正確には引き寄せられて「喚ばれた」)
(だから、この世界が実質的な故郷のようなものだった。あちら側で稼働した、「今の燕女」の記憶はない)
(故に、紐付けられる哀しみや悲劇も、どこか心の面を滑り落ちていく記録としか感じられない)
(翻って、この世界はどうだろう。彼女が今、触れている少女の、眩いばかりの心根も明るさはどうだろう)
(この世界は地獄だ。もし本当の地獄があるとしたら、きっとこの世界の隣にあるのだろう)
(ただ級友と笑い合い、優しい寮母に見送られながら、日々を過ごす筈だった少女から取り上げられた日常と笑顔)
(代償に支払われた力が果たして、どれだけ、その対価に見合うだろう。鈴女にはわからない)
(だが、きっと釣り合うことのない天秤なのだろう。この世界にはその傾き切った天秤を抱えた人間で溢れていた)
(何度忘れられても誰かと触れ合うことを怖れない勇気。そして孤独に怯える切なさと懊悩)
(だのに昏さを感じさせずに、優しく生きようとする尊さに、鈴女の心は、常に打たれる)
はい――――ずっと、貴女を好きでいますね。
ふふ、いいですね。そういう楽しみはいくらあっても、いいものですからね♪
(折角、彼女が吹き飛ばしてくれた空気をわざわざ昏くすることはない)
(だから彼女は、ニコニコと笑ったまま、彼女の言葉に合槌を打ってみせた)
(その機会は……彼女が約束を忘れて。そして親しかった皆のことを忘れても)
(態度に出ない、もしくは重すぎる捉え方をしない相手に、響香が自分たちのことを忘れている可能性を告げ)
(その上で、それが自然であることのように振る舞って欲しい、と、いつものように頼んでから、訪れることになるだろう)
(――――ここ最近、新しく入った嬢はいない。だが、「そういう話」にすることは出来る)
(遊女・「鈴女」のここでの仕事は、「そういう気配り」をする仕事なのだ)
(そして今、ズルをして響香の唇を奪った鈴女には、約束ではなく、「新しいきまり」が一つ課せられてしまった)
(ならば、彼女が求める通りに。その「きまり」を守るのみである。誰の為でもない)
(一人の哀しくも美しい、強い心を持った少女の魂に、「喪われた彼女」を「還す」為に)
(晴れやかな笑顔を浮かべる響香の挨拶を受け取ると、最後にもう一度、ふわりと微笑み)
(――彼女の耳目は、扉の外に近づいてくる足音を察知する)
(足音から、誰が近づいてきたのかは判別できる。目の前、近づいてくる唇が一つ)
(足音が辿り着く頃に、唇が重なるだろう。となれば、やることはやはり一つ)
―――――
(自分からも、また首を伸して口づけをする。キスを重ねて、丁度、扉が開く)
(気にせず、響香が扉の方を向こうとしないよう、また頬を両手で包み込んで、今度はしっかりとキスをする)
(舌を入れたりはしないが、けっこう、長いキスだ。今回もまた、きちんと目を閉じておく)
(彼女は、「大好きなままで居て下さい」と、そう言ったから)
(有言実行、不言実行がモットーの鈴女は、しっかりと、それを、態度と行為で示した)
ふふ、それは忍法・乙女の秘密です♪
あら、嫉妬していただけたりします?
(人前で堂々とキスをし終えた鈴女は、キスのお相手のお嬢さんに、胸ポケットから取り出した)
(小さく畳まれたマフラーをふわりと広げて、まるで花嫁のヴェールのように、恥じらいを隠すために被せると)
(大変にぬけぬけと悪びれることも恥じらうこともなく、来訪者――二重の意味でだ――の彼女へと告げてみせた)
(彼女に挨拶をし、唇の余韻が残る口元を隠してクスクスと笑うと、伝言に例を告げて、彼女へと)
(冷蔵庫にフルーツタルトがあることを伝えて、後ろ姿を見送って手を振る)
(響香といい、クロといい。美しい魔術師たる彼女といい、千代といい)
(「デウキ」の人材の厚さには改めてつくづく驚くばかりだが、今はさておき、招集に応じなければ)
皆様にご愛顧いただき、感謝の極みですね♪
ううん、今度のおやすみは……すみません。天道さんのご用件次第ですので、今はまだ。
でも、もし手が空きそうでしたら是非♪ 時給1鈴女の「時間制限・ご休憩コース」になるかもしれませんが……
(マフラーに隠した響香が落ち着き、そんな別れの時間となれば、彼女からの頼まれごとには、すぐに確たる返事を返さない)
(本当にこの後の要件次第で、ともすれば他の組織との兼ね合いの予定もズラさなければならなくなる可能性もあるからだ)
(社交辞令のような「手が空きそうでしたら」だが、鈴女はこういう場面で、社交辞令のみならず、一つ具体案を出す)
(時給1鈴女、つまり1時間に1鈴女が支払われる、要は「デート」のプランの一つとして)
(「時間制限・ご休憩コース」を代替案として述べるのだ)
(職場に合わせたジョークの一種だが、要は「時間制限つきのデートでもよければ、喜んで」という返事である)
(中々にフルタイムでデートをするのは、忍法・人海戦術を以てしても厳しい)
(厳しいが、だからと言って、毎回「忙しくて」と断るのも、鈴女の主義に反する)
(反するので、短時間のショッピングやデートを楽しむプランを出しているのである)
(――――勿論、字義通りに「ご休憩」もどんと来いである)
(遊女・「鈴女」は老若男女大好きである)
(ちなみに、無慈悲な話だが大抵、「延長なし」である)
(忍びのタイムスケジュールは非情なのだ……)
(―――もし。この約束を彼女が忘れてしまっても、鈴女は気にしないし、気にさせない)
(その時は、「ちょっと私、少しだけ時間があるのですが、よければショートタイムデート、していただけますか?」と)
(そう、笑顔で彼女を自分から、彼女の為だけに作った時間に誘うのみなのだから)
それじゃあ、すみませんが後片付け、お願いしちゃいますね。
フルーツタルト、ごちそうさまでした♪ ポッキーの残りはご遠慮無くです。
お疲れ様でした、響香さん。後ほど連絡しますね。
(立ち上がり、響香に被せた白いヴェール状のマフラーを、再びマフラーへと戻し、颯爽と身に纏うと)
(後片付けを彼女に任せて、一礼し――別れ際にキスなどねだられたら、しっかりと返してから部屋を後にする)
(一路、目指すのは天道の待つ部屋である)
66
:
「鈴女」
◆v6j.R9Z2OE
:2021/01/22(金) 14:19:37
>>64
(―――が)
(部屋を出て、扉が閉まるのを確認。通路の左右、天井、床下)
(監視カメラや各種、監視機器の類が自分を確認していないことを素早く確かめ)
(通行人や部屋の中の響香が扉に近づく気配がないことを確認する)
(ヨシ!)
――――
(一度だけ、顔を覆ってしゃがむ)
(たとえ、このやりとりと響香の台詞が何度目かであったとしても彼女の受け答えは変わらない)
(遊女・「鈴女」は忍法・「燕女」だ。歴史の闇に生き、老いを知らずに生きる死なずの忍び)
(それは永遠に近い時間に少しだけ耐えられることを意味している)
(そして、少しだけ耐えられるということは、ずっと耐えられるということでもある)
(もし彼女が自分のことを忘れても、鈴女はこう思うだろう)
(「それでは、貴女との『2週目』を楽しむとしましょう」)
(「こんな可愛い子を1からもう一度、攻略出来るなんて、私はラッキーですね♪」)
(永遠に近い時間を生きられるということは、生き方から喜びを見つけられることに他ならないのだから)
(でも別に悲しくないかと言われると一切そんなことはない)
(明るく前向きに生きられるし切り替えられる「だけ」であって)
(あんな明るくて笑顔の眩しい女の子が、辛い重荷を背負って健気に生きている現状に)
(「しんどぃ……」と感じない心がないわけではないのである)
(しんどい。可愛いからこそしんどい。正直しんどい)
(あんな初々しい唇の子がどうして。なんで。なんと無情な)
(やはりこの世界は地獄だ)
(きっかり2秒)
(しんどさを無理に我慢せずに、顔を覆ってしゃがむことでしっかりと感じ終えたらマインドセット)
(誰にも見られていないことを――見られたら響香の耳に入って彼女を悲しませることになるからだ)
(誰にも見られていないことを確認し、立ち上がって今度こそ、天道の待つ部屋へと向かう)
(移動し始めてから2秒)
(その頃にはするりと気持ちを切り替え、鈴女は既に天道の顔を思い出すことで気分を上げている)
(彼女のマルチタスクの秘密の一つは、この異常なまでに完璧なエモーションコントロールにあった)
67
:
◆v6j.R9Z2OE
:2021/01/22(金) 15:05:21
刻一刻とバレンタインが近づく昨今、皆様いかがお過ごしでしょう
うちはバレンタインネタを考えるだに、燕女さんが
「死-DEATH-」って表示されてる画面中央でヤムチャしてる場面しか浮かびません
燕女さん、バレンタインの準備で確実に死ゾ……
>>85
「鈴女さんはずっと私が大好きな鈴女さんのままで居て下さいね」
「はい――――ずっと、貴女を好きでいますね」
みたいなことを色んな組織で繰り返してる感じだと
バレンタインに燕女さん、チョコ作りで死ぬと思うんですよ
やはりDLCアペンドの悪魔だとロールしてて思いました
「鬼!悪魔!燕女!」って呼んであげてください
いえ、キャラ限定引き換えコードはあるとして……なんだろう、うまいこと言えないんですが
世の中にはですね、艦隊これくしょんと言って、艦娘を集めてイベントをこなすソシャゲの筈なのに
旧海軍ゆかりの地で同人イベントやったら、何故か同人誌そっちのけで地元の皆さんが出す出店がメインになり
何故か伊藤みどりとかのプロスケーターを呼んでアイススケートでライブやったり
百貨店とコラボして普通にもう艦娘とか艦これのロゴが全然入ってないスーツを売り切れさせたりするソシャゲがあるんですよ
聞いていてわからないと思うんですけど、自分もよくわからないんですが何故か全然艦娘がメインじゃなくて
ソシャゲ集金じゃなくて「殆ど艦娘と関係ないけどお高くても良品を売る」運営がありまして……多分、そんな感じだと思います
最近、受注生産限定で車がコラボで販売されるとかで、艦隊これくしょんなのにマジの自動車はホントなんなんだろう……
なんかそういう、筆舌に尽くしがたい、「ソシャゲで集金するスタイル」ではない手を打ってくると思います……
「皇帝」、儲かるのは好きなんですけど、ソシャゲ運営だけ儲かって毟り取るよりかは
エノーラさんのライブでオペラを知ったお客の為に、お一人様で楽しめる手軽なオペラプランとか
エレティコス課長オススメラーメンが一同に集うラーメンフェスタとかそういうのをやる感じじゃないでしょうか
祀さん絡みのイベントを打つなら、割とガチで刀鍛冶のなり方について説明する窓口とパンフが置いてあって
師匠筋の紹介状が出るところまでアフターフォローしてくれるイベント説明会をやる
ええい、なんの話か、ともあれ、響香さんの「初めて」の相手になるとかになると
燕女さんも半ばお仕事抜きで、優しく再開発してメロメロにしちゃいますね、ええ!
数日前の乳揉み可能な距離感から、全然知らないって感じの状態になると………すみません……!
透ちゃんの精神は耐えられないので、逃亡を選んじゃいますね……彼女は辛い現実からの逃避がメイン……!
しょんぼりしているところを慰めてもらってください……
NEW響香さんが組からはぐれたところにいるとなると、とりあえず稼ぎ頭なので燕女さんは全力で捜査網を展開しちゃいますね
そして神羅さん相手だと、実はメンタルが一般人以下に弱り切ってるので、やりたい放題だったりします……
なので、神羅さん相手ルートだと、そちらと相談の上、透ちゃんを好き勝手に作り変えて悲劇を撒き散らすエンドになりますね!
割と、他の方と話した後に神羅さんルートだと、知り合いのどなたかに殺されるのを勘定にいれた状態で人を襲う鬼になり果ててしまうかな……
こういうスレでは珍しいかもなのですが、流れ的にそれが自然で、かつ、他の方がOKをされるのであれば
戦闘によるキャラクターの死亡も厭わぬ方針だったりします
そこは零課の皆さんに迷惑かかっちゃうかららめぇ……!
研修についてなんですが、そういうしっかりした「絶望を楽しみたい」系の調教だと、燕女さんは辞退する形になります
そこは自分の専門ではないので、という口上ですが、燕女さんが仕込むと、娼婦の状況を楽しめちゃう淫蕩さに仕上がっちゃうからですね
自分がまず楽しんでしまうので、相手にそれがどうしても伝染してしまう、と……逆に甘い感じの快楽堕ちならノリノリでやります
メスガキプレイは事前に徹底的にリサーチしますねえ!
わからせおじさんがしたい方もいれば、徹底的にメスガキに侮られたまま挿入せずに果てたい派
メスガキを「あーっ!?」と威嚇しながらもエア手コキを見せれば途端によわよわマゾになってすぐに負ける派
メスガキに逆レされたい派などがあるので、そこを正確に調査した上での即堕ち2コマ系は全然ありです
メスガキとシたいおじさまを「ざぁーこ♡ ざぁーこ♡」とキモ中年煽りしてからのボロンで目を丸くして
次のコマでの「おんっ♡ おぉんっ♡」とドチュドチュされてるのもしっかりやり遂げます
ふふふ、助手の燕女さんは有能なので、そもそも仕事は女の人絡みのものしかとってきません
とってきませんが、冥塚さんが動いたところで、「実は人妻」「彼氏持ち」「彼女がいる」だったり
普通に悲しい事件だったりと緩急織り交ぜて冥塚さんの勤労意欲をコントロールしてきます
たまに普通に手を出していい相手が混じったりしていて気が抜けない
それこそ「10t」で有名なシティーハンターを愛読書にして……!
エンディングに空港で飛び立つ飛行機に背を向けながら二人で帰るシーンの絵が止まって
「Get Wild」が流れ始める光景を想像しておなかがいたいですん……
68
:
「鈴女」
◆v6j.R9Z2OE
:2021/01/22(金) 16:00:26
【――忍法・投稿ミス】
【(彼女はキメ顔でそう言った)】
【……ふふふ、よもやの返信場所ミスですよ!】
【どうか、
>>67
はお気になさらず……!】
69
:
天道組
◆BpYjFWEe7.
:2021/01/23(土) 21:33:39
>>65
>>66
(響香は鈴女を何ら変わりの無い笑顔で送った事だろう。いや、何ら変わりないと言えば嘘になる)
(少しだけ、顔が赤くなっていたことは正直に伝えるべきであろう)
(真面目な話をして、あんな風にキスをされてしまったのだ。それに、その場面を見られた)
(普段なら気にすることは無いが、その時ばかりは嬢から年相応の少女に戻っていたのだから……それも仕方あるまい)
(別れのキスは――せがまなかった。何だか、さっきのドキドキとした気持ちを今は大切にして居たかったから)
(天道の居る部屋の扉もまた、何時も通りすんなりと開く事だろう)
(ソファー、テーブルのインテリアだけで先ずサラリーマンが生涯稼ぐ金額を合わせても足りないインテリア群がお出迎え)
(掃除を任せている者も余程優秀なのか、この事務室兼組長室も何年経とうが汚れの一つも見当たらず)
(――座り心地と肌触りの良いソファーを贅沢にもベッドに使っているクロの姿も見られるか)
(天道に対して千代と遊べない事への直談判を行いに来た。……という訳でも無く)
(単に其処が昼寝スポットの一つであるというだけ。静かな寝息を立てていたものの、扉の開く音が聞こえれば耳だけをそちらの方へ)
(……鈴女が来たのだと分かると、起き上がる事も無く再び寝息が聞こえ始めるのだが)
――……鈴女。ご苦労様です
(その事務室の一番奥。幾つかの書類を机前に置いて眺めている女)
(千年会直系天道組組長こと天道曜が先ず口にしたのは、社交辞令的な挨拶であった)
(千代とはまた異なった冷たさを抱かせる声質。視線も雰囲気も何処か近寄りがたい、とは嬢達のみならず他の組の者達も口を揃えて言う事だ)
(稼ぐ者には相応の対価を。愚か者には制裁を。それを地で行う天道は一部では恐怖の対象でもあるのだ)
(顔色を変えずに自ら拷問をする事もあり、天道組に損害を与えるために他の組織から送られた女がこれから先死んだ方がマシだ、と思う様な程に凄惨な状況に追い込まれた事も有る)
(では何故、鈴女を使っているのか。それは彼女が相応に稼ぐ女であるから。更に言えば、自分とは反対の性格である故に嬢達のケアに適任であるからだ)
(――仕事だから、で済ませられない程に嬢を想っている事も分かる。そして、深く踏み入れ過ぎない点も悪くない)
(ちょうど良い塩梅、という訳だ。目で適当な所に腰を掛けろ、と促して)
(…………余談、ではあるが。クロの前を通り過ぎるならば、その裾を掴んで引き留められる事だろう)
(意図を汲んで隣に座ってやれば、モゾモゾと動いて鈴女の膝に頭を乗せてまた眠りにつく事になる。もしそうなったとしても、天道は気にする様子も無いのだが)
呼び出しを行った理由についてです
話すべきことは幾つかありますが、先ずは一つ。今夜政治家先生方の予約が入ったので“何時も通りの手筈”でお願いします
入手できる物は全て入手し、纏めておいてください。特に今回は「組対」に関わっている方も居るので、そちらは貴女が直に相手を務めて貰います
(世間話、という事は基本的に行わない性格であった。精々、艶事の際に多少行ったりする程度)
(だから、彼女の話は何時も単刀直入だ。変に誤魔化す真似はせず、本題から遠ざかっていくような無駄な話も挟まない)
(そして天道組の根本に関わる様なものには鈴女を交える事が無いが――こういった、互いに儲けのある話には、鈴女を噛ませることが多い)
(これもまた一つの対価であり、美味しい思いが出来なければ誰だってモチベーションが下がる事を理解しているからだ)
(口止めをされたもの以外ならば、その時に得た情報をどの様に扱っても構わない。それが暗黙の了解でもあった)
(天道は手間が省ける。鈴女はコネを作ったりなどの労をする事無く国に関わる人物たちから上手い事情報を得られる。互いに悪くないであろう)
(政治家連中の弱みを握れ、とは直接言わず――否。そんな意図を伝えずとも鈴女ならば分かるか)
(何故、その様な危険を冒してでも「デウキ」を訪れる客は減らないのか。それはその危険を承知の上で抱きたい女が多く在籍する場所だから)
(普通の風俗では抱けない女ばかり。況してや、客の好みに完全に合わさった女も多い)
(高い金を払って、危険を冒して。それでもそれに見合った価値があるからこそなのである)
――特に事前の打ち合わせが必要なければ、他の話に移りますが。必要なものが有る場合は後程纏めてお願いします
(そして、天道組のシノギは娼館だけではない。薬物の売買や拉致調教など多岐に渡っているが……鈴女がそれらの方面に関わる事は先ず無いであろう)
(鈴女が他の組織にも属している事を知らされているが故である。完全に非合法な事を任せ、彼女の面が割れるのは此方としてもうま味が無い)
(自ら関わって来るならば別だが――少なくとも、天道が直々にソレを頼むことは無い)
(他の話、とは。鈴女に於いては専ら「デウキ」に関係することで間違いは無いであろう。彼女好みか否かは分からないが……少なくとも、忌避する様な事ではあるまい)
70
:
ゴマ子
◆ZiOG0lyEZs
:2021/01/23(土) 23:03:49
(数カ月前のこと。その町は異界に包まれ、壊滅の危機にあった。)
(そこを襲っていた鬼は、生存者の目撃証言に曰く、ビルの三階か四階に届くほどの西洋の竜か、恐竜か、といった姿で)
(異界に包まれ一変した景色の中、インフルエンザにかかったときのような寒気、痛み、怠さでまともに動くこともできなくなった)
(周りの人々も同様で、揃って道端で蹲り、または倒れながら、そいつが壊した建物から犠牲者を探しているのが、)
(せめて少しでも食われるのが遅くなるのを願うしかなかった、と)
(周囲への衰弱、病魔のような影響をばらまく危険な鬼は、しかし、何者かによって討伐された。莫大な価値のある死骸をそのままに、誰が名乗り出ることもなく)
(ことが済んでから駆けつけた公安零課は困惑しながらそれを回収。あちこちを焼き切ったり、焼けた穴が空いたりしていた)
(そして、それからしばらく。零課の事後調査にきた適合者が何者かからの威嚇射撃、どこのものかわからない言語で脅され、事件は明るみになった)
(聞き込みからさらに、夜間喧嘩をしていた不良、ストリーキングした変態などが、怒りの剣幕の半裸少女に銃で脅され、不明な外国語で何かを言われていたという)
(さて。そんな不思議な事件が起こる街で、その猫はブロック塀の上を渡り、辺りを見回っていた)
(しっぽについた鈴をちりんと鳴らした、グレーの毛並みのスコティッシュフォールドは、散歩がてらに歩き回り、)
(現在、街と街のか主な交通手段となっているバスの停留所で、それに気づく)
(バスから降りてきた男の……少年の、明らかに他と違うニオイ)
(なにかが違う、訝しみながら後をつけることにした)
【こんな書き出しで大丈夫でしょうか、よろしくお願いします】
71
:
「鈴女」
◆v6j.R9Z2OE
:2021/01/24(日) 00:11:05
>>69
鈴女です。失礼しますね。
(いつものスーツとマフラー姿に戻り、パタパタと響く足音も軽やかに天道の部屋へと辿り着く)
(ノックと入室を告げる声や態度に、先程、廊下で顔を覆っていた姿は微塵も残ってはいなかった)
(余談ではあるが、鈴女は大抵、別の組織に出入りをしている時であっても足音を殺さない)
(殺そうと思えば無音に近い精度まで忍び足に落とせるが、わざと殺していないのだ)
(答えは単純な話で、様々な組織に顔を出している諜報員が常に足音を殺していれば)
(出先の組織の部屋に入室するとき、無用の警戒を抱かせてしまう為である)
(足音の消し方で鈴女の腕を下の下だと見る相手もいれば、逆に)
(自然な足音の出し方で彼女の腕を上の上と見る相手もいる)
(その上で、「足音から人柄が滲み出すぎている」と、遠回しに鈴女が明るすぎることに釘を差した忍びも居た)
(なので、普段は先人の言葉に習い、軽やかに、品よく、そして明るすぎない足音を響かせている鈴女であった)
(うーん、質実剛健ながら、女性らしい艶やかさもあり……)
(入室を許可されるとするりと扉を開いて部屋の中へと。事務室のインテリアは何度も見慣れた光景であるが)
(調度品には部屋の主の性格が出る、とは彼女の大殿の言葉であったか。部屋のインテリアを見る度に思う)
(ソファの柔らかさや色合い。デスクのデザイン。チェアの肘置きの曲線一つに無駄がなく)
(だからと言って、全てを無機質に統一しているわけではない、艷やかな丸みがどれもにあった)
(金が掛かっている物を雑多に並べていないのも実にいい。部屋の内装が主人の「顔」だとすれば)
(まさに鈴女好みの顔をしている女主人が千年会直系の盃を頂く天道組、組長。天道曜その人である)
ご苦労様です、天道さん。
(肩口まで伸びた冷たい烏羽玉の艷やかな黒髪。整ったシャープな輪郭)
(皺一つなく着こなされたダークグレーのスーツは、ともすれば彼女をどこかの女社長のようにも見せるだろう)
(だが、彼女の瞳を正面から見れば、誰もそんな印象は抱くまい。――瞳の輝きが常人とは違う)
(酸いも甘いも噛み分けて、どん底から這い上がってきて今も尚、他人の臓腑を喰らいながら懐を潤し)
(盃を交わした組の為に命を捨てて尽くす覚悟を決めた、深く昏い輝きを秘めた、「極道」の目だ)
(生き馬の目を抜くこの世界で25歳という若さで組長にまで上り詰め、そして会長代行を任される)
(そんな尋常ならざる傑物の目が、カタギの目をしている訳がない)
(自分をねぎらう言葉一つとっても、決して自らを若輩とは侮らせないだけの威厳と冷たさが隅々にまで満ちている)
(出来上がっている。仕上がっている。完成して、後は只管に上を目指し続ける人間の器がそこにある)
(敵対者に一片の容赦もなく、そして自らに報いる者には相応しい対価を与える、苛烈な女ヤクザの生き様が)
(彼女という形をとって、そのまま姿を成している)
(それでいて厳しさだけではないのが、彼女の事務室でソファに寝そべるクロの姿に表れている)
(実力が伴うのであれば、多少の無礼は大目に見る。実力さえあれば、個人の事情に斟酌してくれる)
(締めるところは締め、緩めるところは緩められる懐の深さがあることが、彼女の手掛けるシノギの一つ一つから)
(有言、不言で伝わってくる。――まず天道に挨拶を済ませ、その後、クロの視線に小さく微笑む)
(挨拶は大事だ。忍法・「燕女」にもそう書かれている。ちょっとしたことでも笑顔とコミュニケーションは欠かさない)
はい、失礼しますね。
ふふ、クロさんも失礼します♪
(鈴女の好みの顔だった。複雑で辛い人生を、自らの力で屈服させてきた人間の顔)
(鈴女はそういう人物が大好きだ。遊女・「鈴女」は忍法・「燕女」である)
(彼女は自らを仕えさせてくれる、使ってくれる。そして「仕えたい」「使われたい」と思わせてくれる人間を)
(忍法、誰かに行使されるモノのサガとして本能的に好む。だから鈴女は、まず本能の部分で彼女が好きだ)
(そして、そういう前提がある上で――ドラマのある人生がふと揺れる肩や歩き方。言葉の端)
(酒を嗜む時の杯の傾け方に出る彼女が、個人として好きだ。角度をつけてキスをする時に見える表情も)
(欲を言えば、背の高さが同じくらいなので、もう少し背が高い方が好みだった)
(こういう人相手には、下からキスをしたい。上からキスをして欲しい)
(――なので、一緒にベッドに入る時、こっそりと身長を縮める時がたまにある)
(たまに、なのが、また、いい。好きな物は毎日食べず、たまに楽しむのが鈴女流だった)
(女性らしく愛らしい部分もある。が、それを「デウキ」の嬢の皆にも知って貰うには無理がある)
(締めるところを締めるためには威厳と畏怖は欠かせない。それを理解した上で、鈴女のような)
(組織人としては少々、胡散臭い人間を巧く使いこなしてくれているのが、またいい)
(こういう相手の、余人には見せないところを自分だけで独り占めに出来るのは)
(他では味わえない醍醐味と楽しみで、彼女にとっても格別な報酬だった)
(大抵のことに「またいい」とつく位に、仕事を抜きにしても彼女が大好きな鈴女であった)
(天道に促されて、彼女の斜向いに腰掛けようと移動する。と、スーツの裾を掴まれる)
(ソファにのんびりと寝そべったクロがまた、甘えようとしているのだ)
(鈴女はまず、天道を見た。無言で許可を求める。許可が下りるのは判っていたが、さりとて)
(こういう細かなところで礼を欠いては、組織人として小さな瑕疵が積み上がっていく)
(「玉は磨き続けてこその玉」、とは、彼女のモットーと大殿からの助言である)
(無言の許可を確認するとクロの寝そべるソファへと身を沈め、膝の上の特等席を彼女に再び提供する)
(真面目ぶった話をするには、いささか、微笑ましい光景だが、それも慣れたもの)
(膝の上、先程ぶりに味わう黒髪と柔らかな耳を、クロを起こさない強さで甘やかに撫でてやり)
(この組での鈴女の日常が、今日も滞りなく回っていく)
72
:
「鈴女」
◆v6j.R9Z2OE
:2021/01/24(日) 00:12:07
>>69
はい、失礼しますね。
ふふ、クロさんも失礼します♪
(鈴女の好みの顔だった。複雑で辛い人生を、自らの力で屈服させてきた人間の顔)
(鈴女はそういう人物が大好きだ。遊女・「鈴女」は忍法・「燕女」である)
(彼女は自らを仕えさせてくれる、使ってくれる。そして「仕えたい」「使われたい」と思わせてくれる人間を)
(忍法、誰かに行使されるモノのサガとして本能的に好む。だから鈴女は、まず本能の部分で彼女が好きだ)
(そして、そういう前提がある上で――ドラマのある人生がふと揺れる肩や歩き方。言葉の端)
(酒を嗜む時の杯の傾け方に出る彼女が、個人として好きだ。角度をつけてキスをする時に見える表情も)
(欲を言えば、背の高さが同じくらいなので、もう少し背が高い方が好みだった)
(こういう人相手には、下からキスをしたい。上からキスをして欲しい)
(――なので、一緒にベッドに入る時、こっそりと身長を縮める時がたまにある)
(たまに、なのが、また、いい。好きな物は毎日食べず、たまに楽しむのが鈴女流だった)
(女性らしく愛らしい部分もある。が、それを「デウキ」の嬢の皆にも知って貰うには無理がある)
(締めるところを締めるためには威厳と畏怖は欠かせない。それを理解した上で、鈴女のような)
(組織人としては少々、胡散臭い人間を巧く使いこなしてくれているのが、またいい)
(こういう相手の、余人には見せないところを自分だけで独り占めに出来るのは)
(他では味わえない醍醐味と楽しみで、彼女にとっても格別な報酬だった)
(大抵のことに「またいい」とつく位に、仕事を抜きにしても彼女が大好きな鈴女であった)
(天道に促されて、彼女の斜向いに腰掛けようと移動する。と、スーツの裾を掴まれる)
(ソファにのんびりと寝そべったクロがまた、甘えようとしているのだ)
(鈴女はまず、天道を見た。無言で許可を求める。許可が下りるのは判っていたが、さりとて)
(こういう細かなところで礼を欠いては、組織人として小さな瑕疵が積み上がっていく)
(「玉は磨き続けてこその玉」、とは、彼女のモットーと大殿からの助言である)
(無言の許可を確認するとクロの寝そべるソファへと身を沈め、膝の上の特等席を彼女に再び提供する)
(真面目ぶった話をするには、いささか、微笑ましい光景だが、それも慣れたもの)
(膝の上、先程ぶりに味わう黒髪と柔らかな耳を、クロを起こさない強さで甘やかに撫でてやり)
(この組での鈴女の日常、が、今日も滞りなく回っていく)
かしこまりました。
あら、九十九坂先生もいらっしゃるんですね。
ふふ、お久しぶりですから楽しみです♪
(―――そういうわけで、「ご予約」と「ご指名」です。時間までに引き継げるようにお願いしますね?)
((((((了解))))))(「道之誉」はまだありました?)(3本です)(買い足した方がよさそうですね)
(4号、お願いしますね)(承知。「名勝怒涛」は?)(6本です)(大丈夫そうですね)
(御堂寺先生もいらっしゃいます?)(はい)(では誰か倉庫から6号をお願い出来ますか?)
(私ですか?)(((((いえ、貴女ではなくて)))))
(「まず結論から」というのはビジネスの鉄則だ。単刀直入に無駄なく本題に切り込んでくれる小気味よさがいい)
(既に何年もここに務める仲である。手筈通りと言われれば、阿吽の呼吸で遅れなく返事を返し)
(脳裏で今も稼働している分身たちに意識通信で呼びかける。即座に返る複数の返信)
(接待に使う饗応の品、各お歴々の性癖に合わせたプレイに必要な品の準備)
(6号の隠語でよばれる、少々ご禁制な興奮剤の手配や、隠語に引っ掛けたちょっとした小芝居などをまとめつつ)
(天道から「予約」に関する書類を受け取り、素早く目を通していく)
(ちなみに流石に、話している最中はクロを撫でる手は止めておく。緩急はやはり大事だ)
(「組対」、つまり「組織犯罪対策部」関連のお偉方がいるとなっては失敗は赦されない)
(だが、逆を言えば、失敗しなければ、そこに携わる政治家たちから寵愛と協力を得られるということでもある)
(警視庁の組織犯罪対策部が関与する範囲は、鈴女の他の顔の仕事と重なってくる部分も多い)
(警察庁の直下組織である零課は言わずもがな、来訪者犯罪に関する取締などもここが絡んでくる)
(特別異界対策別動隊は法務省の直轄だが、異界犯罪者が最終的に行き着く場所となるとあそこも無関係ではない)
(そこに携わっている先生方とお近づきになれるとなれば、鈴女にとってのメリットも大変に大きい)
(会議や日々の業務、働きかけだけで手の届かない部分というのは、組織というものの関係上、どうしても出てくる)
(そういうとき、役に立つのは相手の下半身を――文字通りの意味でも――握ることで、夜の共犯者となり)
(弾力的な運用で、正道では難しい部分を助けられるツテを作れるのは、諜報員冥利に尽きる報酬である)
(何より、今の鈴女は『「デウキ」の鈴女』だ。複数組織に出入りをしている立場を利用して)
(天道組への「おめこぼし」や他の邪魔な組織への掣肘の根回しをそっと仕掛ける)
(この国に莫大な金を落としてくれる太客を捕まえ、その金で、他の組織ではどうしても取りこぼしてしまう)
(適合者や来訪者を掬って貰い、そして単に、異界を発生させて人を殺すだけの動き方をしない)
(世の闇に潜んで、異界ではなく、別の方法で世界を蝕む、社会の裏側に潜んだ鬼を潰して貰う)
(そんな両得に繋がる仕事なのだ。所属組織のみならず潤う案件に、モチベーションも上がろうものである)
(それとは別に、個人としても――また大変に嬉しい)
(人の好みは千差万別だが、鈴女は政治家というものが嫌いではない)
(むしろ好きか嫌いかで言われれば、「好き」という回答になるだろう)
(組織人として動くと判るが、組織を動かすのは体力がいる)
(言葉通りに物理的な、そのままの意味での「体力」である)
(会議、会食、密談、談合。裏取引、接待、etc)
(彼らの仕事を挙げていけばキリがない。アレで結構、ハードワークである)
(秘書やら部下に任せたところで、結局は自分で動かなければならないことが多い)
(案外と年中仕事である。政治家なのだから、市井から罵倒されるのも日常茶飯事である)
(それをこなした上での、風俗。それをこなした上で、女を抱くのだ)
(精力的と言わざるを得ない。しかも彼らは女遊びに慣れている。つまりは、巧いのだ)
(されるばかりの政治家であっても、女の突き方程度は心得ている)
(特に「デウキ」に来るような政治家は、普通の女遊びは一通り心得てから刺激を求めてくる政治家が多い)
(つまりは巧いのだ。お腹の出たおじさんであっても、女遊びが上手で)
(しかも精力的で長持ち、複数ラウンドもOK、ぽろりと情報を漏らしてくれるお金持ちとあれば)
(文句を言ってはバチがあたるというもの)
(なので、鈴女は政治家も大好きであった。もちろん、性的な意味で)
はい、大丈夫です♪
あ、次の話をしていただく前に、ですね。こちらからも一つだけ。
これは全てのお話の最後でいいのですが、ちょっと、私の業務範囲内のお話がありますので
天道さんのお話が終わったら少しご相談させてください。
(こうした、「旨い話」を定期的にぶら下げてくれるのがたまらない)
(特に隠す必要もないので、態度から笑顔から、溢れんばかりのやる気を発散させて書類を読み終える)
(事前に打ち合わせが必要な部分はなかった為、語尾を弾ませて、次の話を促す――前に)
(彼女は膝の上、すこやかに眠るクロを再び、もう一度撫でて、案に、要件を匂わせる)
(全ての話が終わった後で構わない、至急ではない案件だが、さりとて)
(見過ごしていい案件でもない、彼女の寂しさ……否、「退屈」について)
(その解消に向けて身を入れるのも、臨時にマネージャーを務める鈴女の役目だ)
(天道組の根幹部分に近い案件にもなるので、忘れずに時間をとってくれるよう、お願いをしておく)
(少々、非合法な部分に関わるかもしれないが……相手は鬼だと聞いている。そして敵対する組だとも)
(で、あれば、世のため人のためになる部分もあるだろう。世の闇に蠢く鬼には手綱をつけて貰う方がありがたい)
(申し訳ないが、鬼と関わったのが運の尽き。というのは鈴女の勝手な理屈だが)
(一番、運が悪いのは――クロを退屈させてしまったことだろう)
(遊女・「鈴女」は敵にはドライだ。そんな理由で、相手の首に指を掛ける程度には)
(「ちゃんと覚えていますよ」と口には出さない笑みと、耳の根本を撫でる指先をクロに届けて)
(「お話を止めてしまってすみません」と非礼を詫びると、鈴女は天道に、他の案件の話を促した)
(もし、天道から「クロが寂しがっているのか」という単語が出たりすれば)
(「いえ。でも、退屈なさっているそうでして」と、膝の上の可愛らしい破壊神の)
(ちいさな名誉とささやかな矜持を守ることも忘れない)
73
:
◆MfBiO.rGQU
:2021/01/24(日) 22:52:26
>>70
……未確認の、来訪者?
(朝食と、弁当用の包子を蒸しているときに掛かってきた電話は、そんな事を言っていた)
「はい、そうだろうと判断されています。
大型の鬼の撃退痕、しかも当の鬼の死骸――今の御時世では何処も喉から手が出るほど欲しがる、大型の物ですが、
それもまるごと残してありました。
鬼の死骸の価値を知らない、まだこちらに来て日が浅いか、あるいは現地で何らかの形で保護されている、
戦闘力の高い来訪者です。
――そこで、貴方です。その来訪者への接触、及びVisitorGuildへの勧誘を依頼します。
万国言杖(バベル・セプト)を供与されており、戦闘力も高く、自身も……その、
見るからに来訪者であることから、信頼も得やすいでしょう」
んー、まあそうですけどね?
(蒸し器がシュンシュンいい出したので火を弱める……この「がすこんろ」ってのすっげー便利……)
(マキに火付けたり足したり減らしたりとか全然要らないなんて……ちょっと火力不足だけど、まあ気持ちだし)
勧誘ってーと、とりあえず本部に連れてくれば良いんですか?
(シブヤ、という場所の本部には、何度か行ったことがある)
(他にも支部がいくつかあるそうなのだが、一番近いのが本部らしいのでよく知らない)
「そうです、以降はこちら側の担当員が応対します。
……VisitorGuildへの参加を希望されない場合は、最低でも万国言杖(バベル・セプト)の効果発動だけでもお願いします。
コミュニケーション不全で敵味方を判断できていない可能性が高いですので」
はいはい……んならオッケーですよ、今日行きます?
(「がすこんろ」の火を消して、蒸し器を開ける)
(クンクン匂いを嗅いで、火の通りを確認……よし良いだろう)
「有難うございます、最寄りのバス停と、目標の来訪者の予測行動範囲をメールで送りますので、確認しておいてください」
はいはーい、了解ですー。
(そこまでの通話で、電話が切れた)
(ほぼ同時に、ぴこん♪と音を立ててメールが届く)
(開くと、地図アプリへのリンクが貼ってあり、タップでアプリが起動、バス停へのピンと、四角く囲われた予測範囲が……)
(――我ながら慣れたなー、最初はどんな術使って作ってんだ、って分解しそうになってたのになー)
(ともあれ、大して時間もかからない距離だと解ったので……あ、そうだ)
(来訪者と合うんだったら、ちょっと考えがある……なにせ、自分も来訪者だったのだ)
(では早速、といそいそと準備を始め……)
※ ※ ※ ※ ※ ※
(で、肝心のバス停に降り立った訳だが)
(背中には大きな風呂敷包み、おおきな水筒も脇にぶら下げて)
(さっき地図を見たら、小さな公園のようなものがあった)
(まずはそこに行こう、と脚を進めて)
(行ってみれば、そこはほとんど空き地みたいな公園だった)
(小さな遊具……滑り台、だっけ……と砂場があるだけの、やや寂しい公園)
(そこで、準備を始めた)
(風呂敷包みを下ろし、広げると、中から出てきたのはコンロと蒸し器)
(蒸し器の中には、さっき準備していたものに加えてもっと多く、蒸し器いっぱいの包子が入っていて)
(公園の隅にあった水道の水をすこし入れ、コンロに乗せると、火を付けた)
(ズボンに挿していた如意金箍棒を抜くと、手頃な大きさに伸ばし、だが少し離れた滑り台の脚に立てかける)
(もちろんわざとだ)
(準備ができた、と一息ついて、両手を口元に当て、すうっ、と息を吸って)
――すいませぇーーーーん!! VisitorGuildから来ましたぁーーー!!
ホロケウってものでぇーーーーす!!
このへんで大きな怪物と戦った方、少しお話聞かせていただいてよろしいでしょうかぁーーーー!!
お茶とお茶請けもありますので、食べながらお話しませんかぁーーーーー!!
(近所迷惑は承知の上、その辺り一帯に響き渡る大声で、呼びかけた)
(自分はもう万国言杖(バベル・セプト)の効果を受けている、この呼びかけは通じるはずだ……!)
(ついでに言えば、蒸し器の水が湧き始めた)
(だんだんと、包子の甘い皮の香りが漂い始めている)
(――来訪者が一番困るのは、言葉と食べ物!)
(食べ物を奪われたという話はなかったから、お腹をすかせているか、何処かで食べ物を調達しているか、2つに1つ!)
(お腹をすかせているならもとより、ちゃんと食べているのなら、冷静な判断でこちらに対応してくれるはず!)
74
:
ゴマ子
◆ZiOG0lyEZs
:2021/01/25(月) 10:36:08
>>73
(怪しい少年を観察する。今はお兄ちゃんも妹も“学校”。この時間にはあまり街にはいない)
(というか……明らかに、他の人とは違う耳と尾がある)
(犬のやつだ。犬は面倒だ。大きめのやつは、単純な力で勝てないから、基本的には逃げを打つしかない。撒く分には簡単なので負けないが)
(公園の植え込みにまぎれて様子をうかがう)
(なにか用意してる。……ママが料理するときに使うやつだ。あれって運べたんだ。公園で料理とか変なの)
(と、ここまでは、変なの、という認識でしかなかった)
!!?
(毛がブワッと逆立つ。どういうこと?聞いたことのない音なのに、私がいた世界の言葉として、意味がわかる)
(2年ぶりの明瞭な言葉に、小さな心臓はドキドキと、警戒心と、話ができるかもしれないことそのものに跳ねる)
(化け物……あれと戦ったのは私だ。私を探しに来ている。目的はわからない。敵かどうかもわからない)
(カリカリのキャットフードを食べてきて、特別腹ペコではない、ないが、美味そうな匂いに惹かれないこともなくはない)
(家族の皆と、同じものを食べたい、食べてみたい、そんな気持ちがずっと燻っていた)
(おいそれと名乗り出るのも危ないかもしれないし、何より……話をするには、あの姿でなければならない)
(怖がられたり、戸惑われたりするあの姿に……)
(さっきの大声で、近所のおばちゃんも見ている中、出ていくのもとにかく不安で、動くに動きにくい)
……み゛ゃああ!
(こっちにこい、そんなつもりで鳴いて、そいつの足にぶつかりにいく。ぶつかったら、より人目の無い建物の裏へ。ついてきてくれるだろうか)
(銀色の防災倉庫の裏、日陰でじめっとしたそこに入ると、話せるようにあの姿になり、銃を握る)
75
:
天道組
◆BpYjFWEe7.
:2021/01/25(月) 20:29:39
>>71
>>72
(髪と耳を撫でられれば、気持ちよさそうに動かしはするものの起きる気配は無い)
(余程リラックスしているのか、狼の癖にまるで猫のような気紛れといった具合である)
(――千代や鈴女を始めとした、懐いている相手が好きな匂いだからというのもあるのだろう)
(この場合、クロの言う好きな匂いとは言葉そのままの意味ではなく、気配等々を纏めてそう呼んでいる訳だが……それはさておき)
(鈴女の相談させてほしいとの言葉には、他の資料から一度目を逸らし、そちらを見遣るだけの反応)
(即ち、別に構わない。……その意図を汲むことが出来る人物は限られてくるのだが、鈴女であれば問題無いであろう)
(彼女が――目の前の女性がそういった話を持ち掛けてくるときは、代案を一緒に持ってくることも多い)
(つまり、最初から相談等では無く、挙げられた代案に対して「可」か「不可」の答えを出すのみ)
(そして、今回の相談とやらも大体察知できる。クロにお願いされた、ではなく殆ど自主的な考えであろうことも)
では、事前の打ち合わせも不要との事なので次の話に移ります
先ず一つ。近々「デウキ」に新たな人員が送られてくることが決まっているので、鈴女に教育を担当して貰います
稼げるように育つのであれば、方針は問いません
――コレがその資料です。もしより詳細なデータが必要であれば、後程渡しましょう
(一つ目は新たに送られてくる嬢の教育であった。主に娼館として名を馳せている「デウキ」ではあるが、幾つかの異なった顔もある)
(その代表的なものが調教の依頼だ。他の世界ではどれだけの権力者であろうと、この世界ではその肩書も無に等しい)
(それでもプライドばかりが高い者を嬲ろうとする悪趣味な輩も珍しくは無い。高い金を払い、天道を通じて調教の依頼を出すのだ)
(ただ、それに鈴女が関わる事は先ず無いであろう。では、今回の「教育」と何か)
(――新たに送られてきた人員を骨抜きにして、嬢として使える様にする事)
(人当たりの良い鈴女ならば自然と距離を詰め、そのまま蕩けさせる事が出来るであろうとの判断)
(逆に言えば、それだけ嬢としての腕は信用しているのだろう。何しろ、まだ手付かずの人材を預けるのだ)
(因みに。今回預けられる人物は別な世界戦から召喚された暗殺者である)
(異なった世界を治めていた姫を幼少期から陰ながら守っていた女性。危険な任務を数多く遂行するが、体に傷痕が無い事から実力の高さも伺える)
(この世界とは相性が悪かったのか、迷い込んだ時には力も半分以下。更に海野悪い事に千年会に見つかって――との流れだ)
(性格容姿経歴その他諸々が凡そ鈴女が好みそうな人材。――まあ、つまりは。普段「デウキ」に貢献している分の特別報酬とも取れる)
(何しろ、方針は任せると既に明言されているのだ。じっくり話を重ねるも初回から房中術で虜にするのも、全ては鈴女次第)
(金は十分に出しているが、他の事でも相応の報酬を与えてこそ。十分な働きには十分な見返りがあって然るべき。それが天道の考えである)
(勿論、手を付ける前であれば断る事も出来る。これについては強制では無いのだから)
(差し出された資料には、件の暗殺者の身体データや写真が複数枚載っていて。此処に拾われなければ別方面で大成していたであろうと推測が出来る情報もある)
(――此処が本当に嘆き悲しむ地獄か否かは、人によって異なるのだろうが)
二つ。最近松原組が公安関係の場所への襲撃を企てて居る様です
この辺りだとは思いますが……無用な怪我をしないよう“此処は避けて”下さい
(もう一つは情報だ。他の組が国に襲撃を考えている、と)
(それが成功したとしても、始末された上で後で割りを食うのは上の方だ。天道組を始め、会長代理の属する他の組と計画を練ったうえでならば問題は無いのだが)
(余りにも浅はかすぎる計画。かと言って、盛り上がっている武闘派を自分らが直接潰しても天道組を潰す隙を虎視眈々と狙っている他の組の良いタネとなる)
(だが、襲撃を公安側が事前に防げたならばどうだろうか。面倒な後処理も手回しも最小限に済む上に派手なドンパチも無い。そして不穏分子も排除出来る)
(――その公安と通じている者が居るのも、良い。彼女のお陰で防げたとなれば、信頼を得られる。巡ってそれは天道組への利益にもなる)
(潰せ、とは直接言うことは今まで一度も無かった。情報を与え、それをどの様に扱うかは鈴女次第だ)
(彼女が動けない案件ならば、自分が直接関わるか他の手法を取るのみ。それが常である)
(あくまでバイトの嬢として扱っているのだ。表面上は、だが)
(地図上には赤い丸が二つ。一つは松原組の事務所であり、もう一つは襲撃予定先。“スパイ先で入手した土産”としては上等な筈)
私からは以上です。……それで、相談とは何でしょうか
(クロの事か、とは敢えて聞かない。既に話す事がまとまっているであろうから、それを聞いた方が相談内容も分かりやすいというものだ)
(当事者たるクロは起きたかと思えば、眠たそうに眼を擦って。もぞもぞと動くと、鈴女に向かい合って抱っこして貰うような形でまた眠るのである)
(ぐりぐりと頭を鈴女の肩口に擦り付けて、頭を預けるのに丁度よい位置を見つけると再び小さな寝息)
(――自由な少女だが、戦闘時の力は相当なもの。だから、こうして天道も好きにさせてやっているのだろう)
(不意に立ち上がったかと思えば冷蔵庫へ。中には来客を持て成す為の特上品ばかりだが――……隅に、庶民的なペットボトルのアイスコーヒーもあり)
(二つのグラスにソレを注ぎ。一つにはクロを抱えたままでも飲みやすいように、とストローを差してから差し出して)
(自身も別なグラスで飲みつつ、相談の内容を促し)
76
:
ホロケウ
◆MfBiO.rGQU
:2021/01/25(月) 23:18:02
>>74
(公園の隅の茂みが揺れる、潜んでいた何かが動いた、飛び出す気配、しかし『鼻』に反応はない)
(大丈夫、攻撃じゃない、大仰な反応はしない!)
――おっと。
(ぽふん、と軽い衝撃が脚に来た)
(ぱっと首をそっちに回すと、灰色の毛玉が公園を抜け、建物の裏に走っていくのが見えた)
(――普通の獣じゃない、普通、ぶつかって逃げるだけ、なんて行動をする獣は居ない)
(なにか伝えたいなら、見えるところからこちらを見つめたりするし、そうじゃないならそもそもぶつかって来ない)
(あれだ、あれが適合者!)
(あんな小さな毛玉が戦えるとは思えないが、なにか秘密があるのだ……「じいちゃん先生」みたいに、変化(ヘンゲ)するとか)
(――そうなると、うかつに付いていくのは危険だという可能性もあるが……『鼻』は相変わらず変な匂いは嗅ぎ取らない)
(なら、自分の感覚を信じて……まずはコンロの火を切った)
(正しくは、携帯コンロとかカセットコンロと言うそうだ、持ち運びできるなんて便利便利)
(乱暴だけど、五徳をざっと水で冷やして風呂敷で包み、背中に背負って)
(蒸し器を手で抱えて水筒を引っ掛け、準備完了――おっと、如意金箍棒も忘れずに)
(よし、これで忘れもんは無し……と、周囲から怪訝そうに見られているのに気づいた)
(いやあすんませーん、とペコペコ頭を下げて、改めて毛玉を追う……)
(なにかの倉庫らしい、石?造りの建物の裏に周り……)
――っと、やっぱり変化だった? それともあれ、君の使いか何か?
(さっきの毛玉は見えず、そこに居たのは、ボロ布をまとった女の子だった)
(人間……ではない、猫の耳が生えてる)
(手にはなにかごちゃごちゃした……じゅ、ジュウ、そう、銃、だ)
(銃のようなものを持っている……あんな小さなもので鬼と戦える?)
(「てれび」で見た、赤いのとか青いのとか、5人位の戦士が戦うやつでは)
(鬼みたいなのを倒すには、5人で支えなきゃいけないようなでかい奴を使っていたけど……)
あ、大丈夫、大丈夫だよ、戦うつもりはない、話を聞きたい……あと、ちょっと提案とかさせてほしいだけ。
ほら、武器も捨てる、ほいっと。
(ズボンに挿していた如意金箍棒を手に取り、身長くらいまで伸ばすと、地面に転がした)
(コロコロ転がっていった如意金箍棒が、壁にあたって「かあん」と音を立てる)
(ふと、背中に背負っているものを思い出し、そっちも少し離れた地面に置いて)
――俺の言葉、通じてるよね?
まずはほら、お腹すいてない? 包子食べない?
肉のと甘いのとあるけど、どっちが良い?
(蒸し器を下ろし、中から包子を2つ取り出した)
(ギュッとひねった形のは肉入り、つるんと丸いのは小豆あん入り)
(アチチチ、と思いながらちょっと待って……)
……あ、大丈夫大丈夫、毒なんて入ってないよ。
ほら……
(あぐっ、と肉入りの方に齧り付いてみせる)
(あぐあぐあぐ、と口の中に押し込んで、もぐもぐごくん、と一口で食べてみせた)
(――正直蒸したてだからめちゃくちゃ熱い)
ほら、な? だから安心して。
まだ一杯あるし、いくつ食べてもいいよ?
(と、もう一つ、蒸し器の中から肉入りを出して見せて)
77
:
ゴマ子
◆ZiOG0lyEZs
:2021/01/26(火) 00:23:20
>>76
(私は普通の猫じゃない。猫ならこんな風にはしない。構われたいならその場で絡む、その気じゃないならそもそも触れない)
(あちらも、ぶつかった意図に気付いたんだろう。振り返れば)
(片付けしている。早く来てよ!)
(……いや、泥棒にあうかもしれないから仕方ないけど)
(ひんやりして、夏場の避暑地にしている倉庫裏で、昔の姿で待つ)
(ホロケウっていってた。変な名前。警戒は緩められない。レーザー銃を向けはしないけれど、握ったまま)
(よくわからないことを言っている。)
なんであのクニの言葉が喋れる?
(武器の棒を捨てても、油断はしない。犬には力じゃ勝てない。それは猫になってからよくよく知ったことだし、前世でも、男には不利だったんだ)
(まず質問に答えるより、こっちの質問をぶつける。礼儀もなにもあったもんじゃない)
…………すいてない、けど
(じーっ……冬に家族が食べてたやつと同じのだ。いや、もっと大きいのかも)
(食べたい……気持ちはある。毒味もしてるから、そこは平気。でも、いざ食べたら詐欺師なんてことがあるかも。手を伸ばせない)
(前世と違って、皆優しいことは知ってても、変なのもいるし、)
先に。何?なんで……私のことを呼んだ?
何したいの
(視線は包子に吸い寄せられ、ホロケウの顔と行ったり来たりしながら、)
(抜けきらない警戒から、先に話をと促す)
(全くこちらからは、相手のことを知らないし、相手はどこまでか私のことを知ってきているから)
78
:
「鈴女」
◆v6j.R9Z2OE
:2021/01/26(火) 00:33:31
>>75
ありがとうございます♪
(送られる天道の一瞥に返るのは、我が意を得たりと言わんばかりの満面の笑み)
(言葉少なに語るのが月影の冷たさが天道の魅力なら、逆に鈴女の魅力は爛漫な日差しの輝きだ)
(わざと声に出して、彼女の意を重々に汲めていることを控えめ、かつ、明るくアピールする)
(あざとくとも打って出るのが鈴女の処世術だった)
(ぽふぽふ、と、膝の上のクロの背を優しくあやして手を止めると、次なる案件に耳を傾ける)
あら、これは―――――
(渡された次の資料に、鈴女は軽く目を見開く。そこに映るのは冷たい美貌の――同業者だ)
(「新人の教育」で自分が任される領分というものを心得ている彼女は、彼女の教育方針については迷うことはない)
(ただ、今回はズブの素人ではない。写真の中、囚えられながらも凛然とした輝きの宿る瞳は)
(心に己を支える柱のある宮仕え者特有の強い輝きだ。添付資料に素早く目を通し、嘗ての敵を震え上がらせた)
(鬼神の如き実力は見る影もないことを確認して、鈴女は、数瞬、考え込む)
(強い。強いが、彼女の真の強さは身体能力や技の冴えではない)
(勝手の分からぬ世界に、姫と離れて放り出されたとしても何が何でも生き延びて元の世界に帰る)
(帰還を諦めない胆力こそが彼女の本当の強さだ)
(自分向きの案件だ、と鈴女は理解する。確かに顔は好みだ。だが何より、目が好みだった)
(一流の忍びは己の命を顧みない。だが、その先に到達する忍びは最後まで生きることを諦めない)
(彼女の心は折れない。そして鈴女に回ってくる、ということは「その心を折れ」という依頼でもない)
(「彼女で稼がせろ」という依頼である。こういう手合を丸め込む、のではなく)
(「考え方、目先の向きを変えさせる」のは、鈴女の得意分野だった)
(鈴女に対する金銭的な報酬は既に十二分に支払われている)
(その上で、こんな美人の同業者を仕込めるのであれば、この件についての報酬は前払いで既に余りある)
(故に、鈴女の得についてはこの際、除外しても全く問題ない)
(この件で考えるべきは、「天道組」と「彼女」―――この来訪者の「利益がどう重なるか」である)
(「天道組」が彼女から得られるものは明白に金銭ということがはっきりしている)
(単純に仕込めば、そこいらの忍びに淫術、枕事、房中術で遅れを取らない自負が鈴女にはある)
(だが、そこには「彼女」の「利がない」。それでは彼女は天道組に一方的に搾取され、いずれは衰え掠れて潰える)
(あるいは天道組を恨んでよからぬ謀に手を貸すかもしれない――天道が手を回す以上、考えにくいが何事も絶対はない)
(それでは天道組も丸損な上、嬢に手を噛まれるオチがついて回る。極道のメンツは丸潰れだ。それはよろしくない)
(何故、そうなるかと言うと、そこにはやはり、「彼女への利がない」からだ)
(では、彼女の利とは何か? それはある程度、推測できる)
(「元の世界への帰還」、そして「守るべき姫がこの世界に来訪していないかの確認」だ)
(「元の世界への帰還」については、少々心当たりがある。可能性は低いが、無いよりはマシだ)
(流石に所属を変えてやるところまでは見過ごせないが、アテがないよりは希望も湧くだろう)
(どれほど優秀な忍びであっても、生きるための希望は必要だ)
(そして探し人に関しては、鈴女自身、ちょっとしたものだと思っている)
(公安零課、国防軍、国連軍、来訪者互助組合、特異対。六本木樹海にも多少、顔は利く)
(探偵など、人探しに使える表の顔には全く困らない。交友関係もこの世界8年目の新人としては中々の筈だ)
(何より、彼女の大殿はそう言った顔の広さで行けば、鈴女などまるで及ばないツテと情報網を持っている)
(鈴女であれば、彼女の望む「利益」を彼女に提示出来るのだ)
(この「デウキ」で一生懸命、励んで稼いでくれれば、彼女の望む報酬を対価として大手を振って提供できる)
(彼女の強さを殺さぬまま、「強さ」を「強かさ」に変えた上で――――)
(「ここの仕事も、楽しんでいってくださいな。ね?」と、誘いをかけ易くなるのだ)
(つまり「『デウキ』で働き、いざという時の金を稼がせ」た上で)
(彼女自身への報酬として、鈴女自身が彼女の利益の為に個別に動く理由を作れるのだ)
(なんとなれば、その報酬自体を天道から伝えて貰ってもいい)
(それは姫の状況次第だが、天道から与えて問題ない報酬になっていた場合は躊躇なく、手柄を譲る気でいた)
(無理に崩すのではなく、仕方なくでもなく、相互利益を持って、「お願いする」)
(その上で……後は、好きでもない相手に抱かれるのは確かに多少イヤかもしれないが)
(相手は海千山千の郭遊びの上手ばかりである。女としての悦びは他よりも余程、楽しみやすい)
(組長の天道は美人の上に気風もいいし、気前もよく懐も深い。三食と寝床までついてくる)
(なので、もしもの時の為に金も貯めやすいとくれば――悪いことばかりではないと思うのだ)
(そう話すのである。囁く、堕とす、でなく、話す)
(「そういう考え方もあるのか」と、考え方を返させて――彼女の雰囲気を柔らかく丸くしていく)
(さすれば、普段はツンと取り澄ました女暗殺者が、そのうち、ため息をついて)
(「まあ、貴方に抱かれるのは、イヤでは、ないよ」と、客相手に閨でこぼすようになるのである)
(稼げる)
(これは稼げる)
(テンプレートなツンデレではない、大人のツンデレである)
(鈴女だったら札束をねじ込みたい。オプションも!オプションもお願いします!)
(しかもそれは、意図的に作って歪めたモノではない、天然物の、「ほだされた女暗殺者の素顔」である)
(それでもう、バンバン稼いで欲しい。バンバン甘く蕩けた本気のえっちな顔を色んな男の人や女の人に見せて欲しい)
(鈴女もアフターをお願いしたいくらいだ。天道さん気に入ってくれるかな、3Pとかしたいですよね)
(そういう嬢になって貰って、楽しみながら稼いで貰う。この仕事を「楽しむ」というのは大事だ)
(その心の余裕を作った上で、骨抜きになって貰うよう仕向けるのが自分の務めだろう、と、鈴女は理解する)
(自分向きの案件だ。少なくとも、姫の安否は仕事抜きでも世話をしてやりたいところなのだから)
(ちなみに、姫の所在が見つかったとして――そこから先は姫の所在次第となる為、今は考えない)
(もし零課や国防軍、国連軍、来訪者互助組合などに保護されていれば、彼女に姫の安否は伝えるだろう)
(その先は、少なくとも天道組からの無断の足抜けは断固として鈴女のプライドに賭けて阻止する)
(同じく、そこから姫を誘拐してくる、というのも、他組織への義理があるのでやはり断固として拒否する)
(考えられる線としては、天道に相談の上で稼ぎの目標額を決めての身請け、円満退社が理想だろう)
(それはそのときに考えればいい。――姫には申し訳ないが、当て所もなく彷徨っていたりすれば)
(それはそのときの鈴女の所属次第なので、保証は出来ない。ただ、身の安全だけは保障する)
(遊女・「鈴女」は忍法・「燕女」だ。出来る宮仕えは仕事抜きで応援したいものである)
(選択肢の自由なしに天道組に引っ張ってきて、姫と護衛のセットとして売り出し)
(問答無用で泡風呂に沈んで貰う、というのは、少なくともない)
(「高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に」は忍者の基本である)
(この結論に至るまで、凡そ2秒)
(当面の目標はお相手の女暗殺者殿の目標をリサーチし、それに見合った報酬を別途、用意することで)
(彼女のモチベーションを高めつつ、仕事を楽しんでくれるようにちょっとベッドの上でお話させていただき)
(ゆくゆくは……ゆくゆくは。「デウキ」の新たなドル箱としてしっかり稼いで天道組に貢献して貰い)
(その上で、彼女の人生を全うして、得をしつつ、もしよければ、鈴女の仕事を手伝ってくれるようになったりすると)
(鈴女としても嬉しいなあ、というのが結論であった。なんでかんでも鈴女が回していると、後進が育たない)
(新人の嬢を育てるということはつまり、自分の後進を同時に育てるということである、と考えるのが遊女・「鈴女」であった)
(ここに拾われたのは確かに運がなかったかもしれない。が、「最悪」だとは思わない)
(むしろここは地獄に仏の一丁目。ケチな親分衆に飼い殺されるよりも余程マシな浮島の郭である)
(で、あるならば。『天道組の遊女・「鈴女」』としては、そこを存分に味わっていただこう)
(別の場所で大成出来るのであればすなわち――此処でも大成出来るという事に他ならないのだから)
かしこまりました。
そうですね、天道さんの掛けた縛りが気になりますので、後ほど詳細資料をお願いします。
(資料を受け取り、目を通し終えて2秒。鈴女は美しく微笑んで了承の意を込めて頷くと、より具体的なプランと)
(この組に引き入れている、ということは、恐らく天道の能力対象となっている筈なので)
(その詳細条件から、その先の図面を引く算段を立てつつ、その件については後ほどに詳細情報を求めた)
79
:
「鈴女」
◆v6j.R9Z2OE
:2021/01/26(火) 00:38:44
>>75
んもう、あそこの方、遂にですか……
(弾んだ笑顔で一つの案件を話し終えると、次の案件の話には、一転してげんなりと肩を落とす)
(前々から血気盛んで、このご時世に元気なのはいいと思っていたのだが、少々、血の気が多すぎたようだ)
(――――この国の治安は、響香が夢見た「昔」に比べて、決していいとは言えない)
(鈴女のいた世界に比べても、かなり治安の悪い「日本」だ)
(度重なる災害による政治やインフラ、都市の崩壊と、それに伴う犯罪の増加)
(これ幸いにと侵攻を開始した大陸の共産圏国家の介入は市中に密入国者と難民の流入を招き)
(追い打ちをかけるように発生した来訪者の召喚がその混乱に拍車をかけている)
(小さな少年少女が大人たちと共に死力気力を振り絞っても)
(友人を鬼に食われて故郷を捨てざるを得ない少女はどうしても産み出されてしまう)
(平和の為に拳を握り、己の心臓を捧げて異界を収める者たちの影で)
(己の力で鬼を退け、守りたい家族にすら厭われながらも戦う者が街の陰に潜んでいる)
(鬼は無慈悲で、理不尽だ。金色の小麦で喉を潤しながら、その造り手たちに見向きもせずに惨殺する)
(だが、何者にも縛られないその生き方に輝く笑顔は時に鮮烈に美しく)
(あるいは、その報いを受け、打ちのめされて、静かに雪を見上げる童女の鬼の横顔は余りにも悲しく美しい)
(そんな世界で、行政の手が届かぬ場所に手を伸ばすのは、いつも)
(社会の枠からはみ出た者たちをまとめ上げる、裏社会の住人たちだった)
(ある警官に聞いたことがある。「この国は昔に戻ったようだ」と)
(古き良き、あるいは忘れ去りたいこの国の過去。猥雑で、人が生きるために必死だった時代)
(巷には誰かの涙を啜ってのし上がる極道たちが居た。裏社会に踊る古い活劇のスタァたちが居た)
(そんな者たちが再び台頭し始めたのだ。その現状が今である)
(そんな現状であるからこそ――ヤクザは他とぶつかる。メンツを守るために命を賭ける)
(一昔前、「上下関係がイヤで誰もヤクザにならない」と嘆いていた若頭たちの悲嘆は既にそこにはない)
(血風渦巻く修羅の巷が、守られた平和のすぐ隣にあるのがこの国の今だ)
(それでも、南米の、インドネシアの、中東の、大陸共産圏国家のお膝元よりはマシだ)
(少なくともコンビニはあるところにはあるし、繁華街や不定期の市にはギラついた活気が溢れている)
(国がまるごと山賊と化し、人喰いまで始めることも、アメリカのダウンタウンで拐ってきた「商品」を)
(丁寧に腑分けしてスペインの臓器市や人体市で売ることも、国全体が麻薬をばら撒く為に稼働していることもないのだから)
(だからと言って、零課だって忙しいんだから、下手を打って幹部がしょっぴかれたからって)
(今時、お礼参りに公安襲撃とかホントやめて欲しい。忙しいの、佐々木忙しいの!)
(これからバレンタインのお返しとかプランとか考えないといけないの!!)
(スマホ5台の連絡先登録上限のお返し考えなきゃいけないの!!)
(百歩譲ってまともに計画を練ってくれるならまだいいが、完全に頭に血が昇っての襲撃である)
(親分衆の会合でどう言い訳するつもりだったのか……鈴女のため息は大きい)
承知しました。
“転ばないよう”に“気をつけます”。
“小石拾い”には“いい夜ですね”。
(ため息を一つ、ついた後は――くるりと。燕が大きく円を描くように、鈴女の表情が明るく変わる)
(自分の使い方を「判っている」人間に使われるのは、たまらなく気持ちがいいのだ)
(彼女は忍法・「燕女」。謀略と暗闘に踊る忍びの刃が本分である)
(面倒事は面倒事だが、それはそれとして、天道が自分を買ってくれているのが嬉しい)
(こんなに大きな土産まで貰ったならば、励まないわけにはいかないだろう)
(暗に、「公安で処理します」、と請け負った旨をまず伝え)
(次に――「松原組からタレコミがあって漏れました」と。そういう筋書きを作るために裏工作を頑張ります、と)
(そして、折よく今夜は「組対」に関わるお歴々の皆さんも予約が入った夜なのだから)
(そこも利用して、うまく片付けますね、と笑顔で請け負っておく。やはり、物理的にも精神的にも)
(情報的にも繋がっていられるのは、強い。バイトの嬢の立場を十二分に活用させて貰う)
(松原組の皆さんは……再就職先なら特異対だろうか。あそこに入るにはちょっと刑期が足りないかもしれないが)
(気のいい兄貴分気質の人もいるから、武闘派には案外居心地がいいかもしれない)
(面倒事ではあるが、さりとて、鈴女も、天道も、天道組も、今夜いらっしゃる政治家の先生方も)
(そして松原組の皆さんも、派手に暴れて鬱憤晴らしが出来て、いつも鬱憤晴らしが出来る組織に再就職の斡旋も出来る)
(鈴女は天道さんにより信頼され、きっとベッドの上で可愛がって貰える。最後が特に最高ですね!)
(多方面に利がある案件なので、そこを素早く計算し切った鈴女の表情は既に明るかった)
80
:
「鈴女」
◆v6j.R9Z2OE
:2021/01/26(火) 00:42:24
>>75
どれも魅力的なお話、ありがとうございました。
精一杯、務めさせていただきますね。
あら、すみません。ありがとうございます♪
(すっかりと甘え切っているクロの甘やかな体臭と、高い体温)
(滑らかな肌触りとぬくもりを抱きかかえて堪能しつつ、彼女が落ちないよう)
(しっかりと両手で抱きかかえた鈴女は、全ての案件を話し終え)
(こちらの要件を尋ねる天道の心遣いに、ふわりと微笑み)
(差し出されたアイスコーヒーをマフラーの片端を布の手に変え、冷えたグラスを受け取った)
(天道さん可愛い♪)
(こういう、特上品でなく、庶民的な品をひっそりと愛するところがたまらないのだ)
(顔に思いっきり描いている笑顔で、けれどそれは口には出さずにアイスコーヒーのストローに口をつける)
(ちゅーっと、よく冷えて、そして気取らない味わいのそれで喉と心を潤すと、鈴女は自身の案件を切り出した)
実はクロさんのことでして……
クロさん、最近、千代さんと遊べなくてつまらないそうなんです。
お忙しいのは私も重々承知の上なのですが……明日か明後日。
クロさんの休憩時間と、千代さんの休憩時間を重ねられないでしょうか?
(クロがずり落ちないように再び抱き上げ、アイスコーヒーのグラスも触れないよう)
(器用にマフラーの手を動かすと、鈴女も単刀直入に、まずは要件を結論から切り出した)
(千代と天道が進めている案件は、手を抜けるような案件ではないのは勿論、重々承知だ)
(クロの、子供らしい幼いワガママと、本来、天秤にかけるようなものでは決してない)
(だが、鈴女の声は穏やかで、優しく。落ち着き払っていて、気後れはなかった)
(親身になって我が子を案ずる母性すらも感じさせる声で、組の一大事と食客のご機嫌取りを)
(同じ天秤にかけて、本心から、天道に願いを申し出る)
ご迷惑でなければ、不肖、この鈴女。
微力ながら、お手伝いをさせていただきたいと存じます。
(彼女らしい、しっかりとした代替案を添えて。クロと千代の休憩時間を合わせるとして)
(そこで二人が触れ合える時間というのは、恐らく長くとも1時間はないだろう)
(だが、そこに親身になって心を砕き、我が身を尽くすのが鈴女だった)
(そのために3日4日働き詰めになろうとも安いもの)
(組の重要事だが、ありがたいことに諜報と奸計渦巻く類の話なら、多少なりとも力添えは出来る)
(身を入れて踏み込みすぎないように図りつつも、仕事をこなすつもりで天道に提案し、答えを待つ)
(後は沙汰を待つばかりだ。おっといけない)
こちらは今の私の「業務範囲内」ですから、お手当はお気持ちだけいただいておきます。
他の案件でも十分すぎるほどにいただいていますから。
(政治家の皆さんとの酒池肉林に逆ハーレムプレイ――鈴女一人で女遊びの巧い精力絶倫の政治家を独り占め出来るのだ)
(これを逆ハーレムと言わずになんと言おう――新人教育に巧く行けば新人から「鈴女殿のは、その、世話になった」と)
(懐かれて体を開かれるかもしれないイベントの特典付き。さらには公安関連のタレコミと事前防止に点数稼ぎ)
(ついで、クロからの信頼回復までついてくるのだから、これでは鈴女が得をしすぎである)
(せめてここはロハで、と一応のことわりを入れるが……もし、ボーナスがつくのなら、それを辞するのも失礼というもの)
(明日への勤労意欲と組への貢献にさらに励もうとやる気を出して受け取る所存である。最後にそれだけを付け足すと)
――――
(鈴女は天道の沙汰を待ちつつ、向かい合って抱き上げるクロの背中を、優しくあやした)
(伝家の宝刀、「万事、鈴女にお任せください」を抜いたのだ。これも大事な忍びの務め)
(遊女・「鈴女」は仕事に真面目だ)
81
:
天道組
◆BpYjFWEe7.
:2021/01/27(水) 21:42:31
>>78-80
(此方の出した“相談事”についての返答は得られた。後はこの先、それらは全て鈴女の預かりとなる)
(後は、その鈴女が引き受けた以上失敗をしない限りは何か口を出すことも無い。――まあ、彼女に限って失敗は無いのだが)
(アイスコーヒーを渡したときの笑みの意味を知ってか知らずか、僅かながら溜息を吐いたならば)
貴女はこちらの方が好みかと思って出したまでです。口に合いますか?
(――天道は冗談で言っているのか本気で言っているのかよく分からない、と他の者達が良く零す)
(基本的に仏頂面なのだ。そう思われるのも仕方ない事であり、天道自身もその事を特には気にしていない)
(発言が冗談であるか否か分かるのは側に居る事が多い付き人……或いは、鈴女くらいなものだろう)
(では、この発言はどうか。正解は、半分冗談で半分本気である。やっぱり、分かり辛い)
そろそろだとは思っていましたが――……やはり、そうでしたか
以前は我慢を強いたので、今回は更に鬱憤も溜まっているのでしょう
クロに癇癪を起されても宥めるのに手間が掛かりますから、此方としても早めに手を打って置くべき案件ではありますが
(実際、クロが癇癪を起した際は死傷者は出ずとも負傷者は数多く出る。加えて、止めるには付き人の中でも高い能力を持つものが必要だ)
(本人からすればストレス発散の遊び。ただ、それについていけるだけの力を持つものは限られてくる)
(そんな爆弾でもあるのだが、上手く運用さえできればそれらの犠牲など気にならない程の恩恵も得られる)
(……どの様な采配に変えるか。魔術師を密偵に向かわせても良いが、今は別件がある。他にも人員は居るが、“コレ”に向く者も限られる)
(さて、では魔術師に任せていた案件を他の者に回し――……と、考えていたころ)
(ある意味では、想定内の言葉が続いた。彼女ならばそういった代案を出してくるだろう、と)
(千年会の内部事情に関わる場所の裏取りは終わった。後は鬼の詳細を知る事――異界や能力を知る事がメインとなる)
(駒として、或いは女としても扱えそうな存在ならば捕獲。そうで無いならば殺害)
(――正に、これからそこを見定める所だ。飛ばされた連絡用の式神から、幾人か構成員を拉致したとの連絡も入っている)
(拷問による答え合わせは此方がする所。鈴女には――)
分かりました。では、貴女には千代の代わりに一時的にその任を引き継いでもらいます
内容としては鬼の詳細を調べ上げる事。また、他に繋がりを持って居ないか探る。主にこの二点ですね
千代から引継ぎを行った上でソレに当たって下さい
(鬼とは欲望のままに本能のままに活動する者も多い。こうして人間の組織と関りを持つ者を珍しく思い、そこに興味を抱くのも仕方あるまい)
(ただ潰すだけでない。それすらも飲み込んで力に変えられるならばそうする)
(使えるものは全て使ってどん底からのし上っているのだ。その方針が変わる事なんて無いのだろう)
(更に言えば、この世界は鬼に恨みを抱いている者も少なくない。捕えられれば、そういった者達に向けてのビジネスも増やすことが出来る)
(簡単には死なないのだ。心が折れれば、相応の使い道を探すまで)
――それで、問題はありませんか?手当の件は貴女の働き次第で検討しておきます
他の案件は他の案件ですから。不必要と言うならば、相応に手を抜いて構いません
……それとも、この組にはそれだけの資金力が無い、と?
(これは、冗談だ。何時も通りの真顔ではあるのだが)
(下っ端が聞けば血相を変えて謝り倒しそうなものではあるけれど、それも鈴女ならば関係あるまい)
(逆にお道化られたり恭しく冗談めかした返答を受けるならば、僅かに唇の端が上がる。そんな些細な変化だけだ)
(嫌味を言った訳では無い。鈴女が手を抜かない、と分かっている上での言葉)
(クロも鈴女に抱えて貰って楽しい夢でも見ているのか、時折尾がゆらりと揺れて)
(話している内容こそ不穏なものではあるけれど、その場面だけを見れば平和な日常の一コマとしても見れようか)
(後は鈴女の返答次第。――大体決まっている様なものではあるが、最終確認という意味合いもある)
82
:
ホロケウ
◆MfBiO.rGQU
:2021/01/27(水) 22:37:46
>>77
(公園は子供が遊ぶところ、それは知ってる)
(だから、火が出るものを置いておくと危ない、それも知ってた)
(故に片付ける、そういう事だ)
あの国? ……あ、もしかして、君の故郷のこと?
(どうにも警戒を解いてくれない彼女に、とりあえず懐柔策を試していると)
(先に質問をぶつけられた)
(まあそうだね、普通びっくりするよね、俺もしたもん)
ホントは喋れてないんだ、えーとね、これ……
(ズボンのポケットの一つから、四角い板のような物を取り出した)
(細い鎖でズボンに繋がれたそれは、一見したらただの板のようだが)
バベルなんちゃら、って道具で、これを振るだけで、誰とでも喋れるようになる術がかかるんだ。
喋れるだけじゃなくて、どんな文字も読めるようになるんだ、すげえよね。
(実際驚いた、見たことない文字が普通に読めるんだもん)
(「じいちゃん先生」もそんな術使えるかどうか、誰が作ったんだヤバくね?)
(おっ、折れるか? 良いぞ食え、食うんだ!!)
(となんだか釣りみたいな気分になってたところで)
あー……それな。
(まあ当然の疑問だろう、じゃあ説明するか)
(――となったところで、持ってるのが冷めてきたし腹も減ってきたし)
(餡入りのほうに齧りついた)
(もぐもぐごくん、やっぱクルミ入れると食べごたえが出るよね)
(本当は桃まんにするつもりだったけどめんどくさくなってな……)
えーとね、ほら、さっきも言ったけど。
キミ、前にでっかい怪物倒したでしょ?
こっちだと、ああいうの『鬼』って言うんだけどね。
(あぐり、もぐもぐごくん)
んで、その後もこの辺の人たち脅かしてたりするじゃん?
あれが流石にこっちの人達が、「問題じゃね?」ってなったんよ。
(水筒の蓋に中身の烏龍茶を注ぎ、くぴ、と一口)
さっきも言った「VisitorGuild」――かんたんに互助会、って言ってるけど、そこが、
「来訪者(あ、俺達みたいに、別の世界からこの世界に来たやつのことね)がこの世界でやってけるように支援しようぜ!」
っていう変な人達でさ、だから、正直な話、キミがこっちの世界の人に怪我させたりするとヤバいんよ。
キミのこと、捕まえるか、下手すると退治しないといけなくなるし、
「来訪者は危ない奴らだー!!」
って言い出す奴もでてくるしさあ。
(肉まんを取り、あぐあぐ、もっぐもっぐ、ごくん、くぴくぴ)
――んっく。で、まあ、最低でもこの、バベルなんちゃらでこっちの人と話が通じるようになってもらって、話し合いで解決しようぜ、って。
もしよかったら互助会入ってもらえれば、寝床と仕事は貰えるよ。
仕事すればお金が貰えるし、働きが良ければ貰えるお金も増える。まあ、その分仕事は大変になるけどね。
まあ、仕事しないと追い出されちゃうけど。
(もう一個あんまんを取ってあぐっ、もぐもぐもぐ(念入り)、ごくん、くぴくぴ)
(4つも喰えば流石にお腹いっぱいになってきた)
(ふう、とひと心地着いて)
――だから、このバベルなんちゃらだけでも使わせて貰えないかなーって。
そうだ、今どっかにお世話になってる?
キミがいきなり言葉話せるようになったらびっくりするだろうし、ご挨拶に行って、説明させてもらいたいかな。どう?
83
:
ゴマ子
◆ZiOG0lyEZs
:2021/01/28(木) 02:08:24
>>82
……そう。同じ生まれ……には見えない
(もっと、擦れて、目はギラついている強い人の目か、怯えたり諦めた弱者の目しかない。こいつは、そうじゃない)
(でも、このクニとも異質だ)
なに……?
道具?術って……読むって?
(識字率が崩壊した世界から来た私は、文字がなんだったのかは少しわかるけど、文字を読めない)
(だからいまいちそこはピンとこないけど……)
誰とでも?このクニの、人とも?
(それは……とても魅力的で、だけどにわかには信じられなくて。本当に?確かめるように聞く)
(もし、それができるなら、私は……私は……!)
……うん。それ。
(それを知らないことには、どうにもできない)
……うん。でっかい、危ないの。
…………あの子が……
(思い出すだけでゾッとする。ママの悲痛な叫び、動かない妹、そのママも弱って、倒れて、どんどん声が小さく掠れて……)
(表情が青くなったところで、頭をぶんぶんぶるぶる、怖い思い出を吹き飛ばす)
オニ……あれオニっていうんだ。
(怖いもの、の代表。まあ、そう呼ぶのか)
……?脅かし……ああ。悪い人。誰か殴ったり、してたから
(喧嘩と痴漢は、言葉はわからなくても伝わる悲鳴があって、追い払った)
あとは……オニと、近いニオイ、したから
(ニオイ、というと正しくはないけれど)
(夜、出歩いてて、しかもどこか近いような気配があって。見た目は人間だったから、追い払っちゃって)
問題なの?
(当然の自衛……銃での脅しを、そんな風に捉えるくらいには、殺伐とした世界にいた)
え、他の世界……他にもあるの?
いっぱいいるの?
(まずそこが驚きで)
(そんな人たちが、コミューン……ゴマ子のいた世界での共同体……を組んでいることも驚きだった)
(ただ、自分の出自もそうだけど、この犬っぽい、人間とも違う雰囲気のする人を見れば、生まれた世界が違うくらいの差はあると信じられる証拠で)
……まだ、怪我はさせてない
(……あれ、戦ったときは流れ弾とかあったかな。だいたいあれに当たってたし、あそこは死んだ人しかいなかったから大丈夫?)
……身内を殺したら、殺し返すよね、それは……
(原始的な目には目を、のルールは滅びかけた世界でも健在だった。だから、私も攻撃されるまでは当ててない)
それは、私も、助かる……くれるの?
(話したい。話したい人がいる。信用はともかく、それが欲しいのは、確かだった)
(ただ、参加していいのかはわからない。)
(あの世界のコミューンは、王様と、側近と、奴隷くらいの関係しかなかった)
(入ったら奴隷?仕事って?そこは、すぐ頷くほど楽観視できない)
……使っていいの?代わりに何かしろとか、何か寄越せとか、ない?
(物欲しそうだけど……それだけ疑いの心を手放せない、そんなところにいた、信じたいけど理性が蓋をしているような状態)
…………まって
……………………
……………………
……家族がいる。私を飼ってる。……猫だから
(しばらく答えるべきか悩んで、悩んで……)
(最終的に、自分の身分を示すように、一度ホロケウの手が届かない距離に下がってから猫の姿になる。フェードアウトするように人の姿が消え、先程足にぶつかった、尾に鈴をつけた猫の姿になり)
(またフェードインで人間の姿が浮かび上がる)
(まだ、どこの誰が家族だ、とは言っていないからセーフ。これ以上は、まだやめよう、と考えていた)
84
:
「鈴女」
◆v6j.R9Z2OE
:2021/01/28(木) 13:34:11
>>81
はい、それはもう♪
(嬢たちが怖れを以て、そう口にする時。鈴女は決まって、にこりと笑って言うのだ)
『私も全部が全部、判ってるわけじゃないんですよ?』
『え? そういう時はどうしてるか、ですか?』
『そういう時の為に、普段から愛嬌を磨いてるんですよ♪』
(つまり、「笑って凌いでます」と言って、笑い話にしてしまうのだ)
(天道組の組長相手に、それが出来るのは貴女くらい、と。そうよく言われてオチがつく)
(鈴女もそれでいいと思うので、敢えてその真相は語らない)
(極道の頭には畏怖や威厳が必要だ。特に天道は極道の親としてはかなり若い)
(厳しく締めなければいけないところもあるだろう。鈴女にもその意見には賛成する)
(だから、天道の近寄り難さについてはむしろ、歓迎する節もある)
(それを理解した上で、笑って物怖じせず、下からの意見を彼女に通せる仲介役が必要で)
(鈴女は喜んで、その役を買って出ている、などという話は、嬢の皆には話さずともいい腹芸の一つである)
(確かに天道の冗談は分かり辛い)
(が、つまり、それは巧く拾えればそれだけ信頼を勝ち得ている証となるのだ)
(一介の――というと少々、語弊のある仕事の抱え方をしているが――バイトの風俗嬢に)
(天下の天道組の組長が、光栄にも冗談を飛ばしてくれているのだから)
(にっこりと、微笑んでみせるのが度量というものだろう)
(――――そういうところも含めて可愛らしい方なんですけれど♪)
(今度の内心が笑顔から外に漏れぬよう、胸中で独りごちる)
(そして鈴女の提案した話が出れば、天道から返ってきたのは正確にクロのストレスを把握している返答だった)
(慈母のように微笑む鈴女は、そのことについてただ、笑みを一つ深め、幸せそうに眠るクロの背をもう一度)
(優しくあやすと、甘えるように頬に寄せられた彼女の耳に、ひたりと唇を当てて、小さな小さな声で呟く)
―――― 千代さんも天道さんも私も、お仕事の方が楽しいわけじゃないんですよ。
(「クロさんと遊ぶのは楽しいです」)
(そう呟いて、美しい黒髪を指で梳って整えてやる。彼女も抜群に優秀だ)
(それ故に、「デウキ」でも天道組でも愛される。ここは実力のある者がより愛される無情の世界でもある)
(新しく迎えられる彼女は、さてどうだろうか。出来れば、愛される者であって欲しいと思う)
(それは忍びとしての本能と、彼女個人としての願いだ。ここは地の底、地獄には違いない)
(だが、仏のいる地獄にも違いないのだ。天道は少なくとも、自ら這い上がる者を助ける慈悲がある)
(少なくとも、響香は今、幸せだ)
承知しました。
(提案した代替案の可決に、ただ短く優雅に一礼を返すことで、鈴女は無駄なく「諾」の意で応える)
(もっとも、正面には抱きついたクロ。決まらないこと夥しいが、そこは彼女のキャラクターの範囲内だろう)
(そこまで計算しているあざとさと愛嬌も自分の魅力のうち、と割り切っている)
(自分の代案が通った、ということは、少なくとも関わってはいけない段階の地固めが終わったタイミングなのだろう)
(そこに無駄な確認を挟まず、引き継ぎについては後ほど、千代に引き継ぎを頼む形で以心伝心の会話を終える)
(勝率八割の賭けについては無難に勝ちの目を引けたようだ。心中でホッと胸を撫で下ろし、抱き上げたクロの)
(夢見心地にゆらりと揺らめく尻尾に、じゃれつかせるように優しく自分の手を絡めてするりと引き抜く)
(それにしても、と頭の片隅で微かに思う)
(異界を展開して自侭に振る舞う鬼たちにしては、裏社会に潜んで人間と交渉を持つケースは確かに少々珍しい)
(珍しいのだが―――そういう意味では、彼女はとびきりの「変わり種」を知っている)
(ご本人の言ではそれを千年ほど続けているらしい。鬼というのもにはつくづく常識が当てはまらない)
(彼女の任された案件故、大殿の耳に入れることはないが、彼女の主は変わり種も好んでいる)
(鬼の詳細、異界、能力の調査となると、地道な聞き込み、一般の構成員に化けての潜入)
(情報屋のツテの他に、大殿の「書庫」の世話にもなるかもしれない)
(手間が省けるに越したことはないので、出来れば多少、有名所であるところを祈りたいものだった)
(いや待て? 有名所で記録があり、尚且つ、暗躍できているということは相応に実力があるということか?)
(やはり有名所でないことを祈りたいものであった。鈴女は仕事は好きだが、それはそれとして楽はしたいのだ)
85
:
「鈴女」
◆v6j.R9Z2OE
:2021/01/28(木) 13:36:33
>>81
―――まさか。
(そんな物思いに耽っていれば、なんともくすぐったく、胸に火を点けてくださる御言葉が下る)
(手を、抜く。この鈴女が? この忍法・「燕女」が? 与えられた任務に対して?)
――忍法・御冗談。
(忍法・御冗談を! 思わず、くすくすと楽しげに笑ってしまう)
(そんな風に言われては、満額いただいた上で、ボーナスがつくまで働かざるを得ない)
(ふわり、と優雅に。空に円弧を描く燕のように笑うと、気取った仕草で、マフラーの片端が持ち上げたグラス)
(その中身にアイスコーヒーを一滴残らず飲み干してみせる。ストローで吸った筈なのに、音もなかった)
(これくらいにやってご覧にいれますよ、という、彼女なりの意思表示だ)
(天道の冗談に、こちらも冗談めかした返答で返すと、よく似た角度で口角を少し釣り上げてみせる)
―――神歩 影門 羅喉千里法
―――空輪 我は万里の陰を歩む
ずるい方。
そうやって、勤労意欲を煽られるんですから。
(華々しく飾られた郭の裏側、苦界の片隅で象印(しょういん)が閃く)
(グラスを置き、音もなく立ち上がった鈴女の首元、そのマフラーの両端が第三、第四の布腕として印を刻んでいるのだ)
(そして音もなく分裂し、するりと伸びた第五、第六のマフラーの両端の布腕が揺らめき、まず第五の布腕でクロをふわりと覆い隠す)
(彼女に今からする秘め事が見られぬように。続いて伸びた第六の布腕が、鈴女と天道を覆い隠すようにふわりと二人を包み込む)
(「顔が好みだ」というファーストインプレッションは裏切らないようにしている。ありがたいことに勘が外れたことはあまりない)
(彼女好みの顔の相手は、いつも、彼女を理解して、見事に使いこなしてくれる。天道のように)
もっと。
天道さんのこと、好きになってしまいますよ。
(小首を傾げて。吐息の触れ合う距離で囁く。まだキスには早い時間だ)
(褒美は見事、仕事を果たした暁にでも。けれど、胸の裡に湧く言葉は我慢し難い)
(だからわざわざ、勿体ぶって、二人だけの覆いを作って、睦言のように濡れた瞳と声で囁く)
(マフラーで隠された口元からは、淀みなく言葉を紡ぐ鈴女の声とは別に)
(もうひとつの鈴女の声が、忍法の口訣を紡いでいく)
(四象五輪を操るのが彼女の世界の忍法。すなわち)
(陰……負)
(陽……正)
(天……天理、天の定めた物の司、物理と科学)
(羅……羅喉、天に逆らう羅刹の星、不思議の術)
(定めて四象)
(地……地、固、抗)
(水……水、流、合)
(火……火、熱、活)
(風……風、気、変)
(空……空、無、時)
(定めて五輪)
(己の影を繋げて空渡り万里を駆ける。これぞ)
―――忍法・影男
万事、鈴女にお任せ下さい。
吉報の暁には、またこの鈴女を――――くださいましね?
(幻のように後ろへと下がり、いつしか総身を包むほどに肥大化したマフラーの布腕)
(秘伝・萬海川集に包まれた鈴女は、最後に一言。「愛して」の言葉だけは、天道の耳にだけ運んで)
(白布の繭の中、己の足元の影へと溶け込むように消えていった。美しい、燕のような微笑みだけを残して)
(次の瞬間にはもう眠っているクロと彼女。そしてあの膨れ上がったマフラーの繭の姿は既にどこにもない)
(明朗快活な少女が過去を売って明日を得る。美しき野生の少女の暴威が必要とされる)
(迷い込んだ異世界の旅人の今日を手練手管で淫らに誑し込み、希望の糸を垂らして心を蕩かす)
(この国の舵を取る男たち。その下の舵をとりながら、闇に蠢く鬼を追う)
(極道の世界の夜を駆ける、一巻の忍法帖にまた。日々が一つ刻まれる――――)
86
:
ホロケウ
◆MfBiO.rGQU
:2021/01/28(木) 23:50:00
>>83
あー、そっか、そういう感じか……
(女の子は、どうも『読む』という行為を知らないらしい)
(時々あるんだ、文字ってものが存在しない世界)
(完全に口伝で知識を伝えてたりとか、変わり種だと紐の結び目が文字の変わりだったりとか)
(紐の方の人には会ったことがある……「努力」と「友情」と「水虫」は教えてもらった)
ああ、うん、誰とでも。
俺の言葉解るでしょ? 俺も元は来訪者だから、ここの言葉全然解らなかったんだけどね。
今じゃもう普通に聞けるし喋れるし、読めるし書ける。
だから、使わせてくれると嬉しい。
(言葉を交わすのは大事な事だ)
(暴力でしか解決しないと思っていた物事が、話せば割とスッと解決することもある)
(――まあ、その逆もあるんだけど)
おっ、ちち、悪かった悪かった、ごめんね、大丈夫大丈夫、今はいないから、ね。
(思い出してしまったのか、顔を青ざめさせる女の子)
(手を伸ばしかけて、触るのはやめたほうが良いか、と思い直す)
(慣れないうちは馴れ馴れしい行動は止めておいたほうが良い)
そう、鬼。
そういうのは、俺も手伝いはするけど、専門で退治をやってる人達がいるんだ。
そっちの人達に任せた方が……いや、まあ、それじゃ間に合わなかったってのは解るんだけど……
あ、喧嘩とかの方は駄目だよ、脅かしたっつったって、鬼殺したその銃でやったんでしょ?
危ないからね、当たると死んじゃうだろ?
――もちろんもちろん、ここは平和なの、怪我とかさせたらそれだけで捕まっちゃうからね?
そういう問題は、警察……警察って解る? というか伝わる?
えーと、ここの、治安維持組織……でいいかな? そういうもんに来てもらったほうが良い。
(うーん、かなり殺伐とした環境から来たのだろうか)
(ちょっと色々と常識にズレがある)
(――互助会でそういうのの講習やってたっけ?)
(それと、鬼に近い匂い、か……)
(――見た目が人間だということは、適合者?)
(逃げるような人なら、そこまで問題視はしなくていいだろうけど……一応、報告はしておこう)
うん、いっぱい有るし、いっぱい居る。
互助会が作った町……『シャタク』っつうんだと……には一杯集まってるよ。
一回遊びに来る? 君とか俺みたいに、頭に耳生えてる奴も珍しくないし。
もっと凄いのも居るよ、岩の塊みたいなやつとか、全身トゲトゲなやつとか。
うん、それは良かった……
(いやマジで良かった)
(怪我させてたら割と零課案件だった、良かったセーフ!!)
(流石に互助会もルールを破ってまで助けてくれるとは思えない、危ないところだった)
うーん、使うのは良いんだけど、あげるのは君が互助会に入ってくれたら、かなあ。
流石に誰にでもポンポン渡して良い、ってわけじゃ無いみたい。
俺もこれ一個しか持ってないから、これを渡すわけにも行かないし。
――うん、使う分には何も言わないし、君にも要求はない。
むしろ、俺の方からお願いするくらい。使わせてくれる?
(と、聞くが)
…………あー。
そう、か、そういう系のやつか……
(家に居た家族の一員が、思っていたのと違うやつだった)
(そういうのは基本、揉める)
(ほら、お話にあるだろ、嫁だと思ってたら鶴だったとか、天女様だったとか、雪女だったとか)
(「猫だと思っていたら女の子だった」……まあ、多分揉めるよなあ)
(あ、姿が変わったのは別に驚かないです)
(じいちゃん先生は名手だったんで)
あーんー……そうだなあ……
とりあえず、術は掛ける方向でいい?
それから説明に行く?
それとも……ご家族には黙っとく?
(正直、後者は選んでほしくない)
(こっちからもあっちからも連絡ができない状況というのは、流石に不味い)
(けど……本人の意向が第一、というところもある)
(バラせば確実に今の環境は壊れる、少なくとも変化する)
(それを嫌だと言われれば……まあ、仕方ないというところで)
(その場合、何か有った時のためには……ウチの場所教えとくべきかなあ……)
87
:
ゴマ子
◆ZiOG0lyEZs
:2021/01/30(土) 04:32:51
>>86
……?
(ニュアンスを取れず、きょとん)
(文字に対する勘所がなく、なにがどうなのか、という顔)
……誰とでも……パパとも、ママとも……
すごい、すごい、使って……ほしい
(使わせて、っていうくらいだし、後からなにか言われても断っていいよね、これは)
(パパとも、ママとも、話せる……!)
うん……大丈夫。あれは、やっつけた、から
(なるべく思い出したくないけど)
(だけど、あの子を、ママを助けたんだ、助けられたんだ)
(表情がキリッとして)
ハンター?……うん、急がないと、死んでた……
……当てないようにはしてた……むぅ
(微妙に納得はしてないけれど、このクニでは、それはなし、らしい)
(それで身を守れるのか、と思うけれど、だけどたしかにここは、暴漢とか泥棒とかあんまりいない)
(そういうものなのか、と複雑げにも、納得して)
警察!?警察……!?
(尋問、拷問、思想矯正、再教育、密告、粛清……警察から連想するワードがこれらである)
(猫耳をぺたんと伏せカクカクブルブル)
(彼女の中の警察とは、ゲシュタポや特高の類で、恐怖の対象であった)
ねえ、それなら、銃で追い払うほうが、優しくない!?そんなの……酷すぎるよ……!
(青ざめ怯えていう。もしこの人も警察に洗脳されていたら……確信できないとはいえ、もしものために、銃を握る手に力がこもり)
(すったもんだして)
シャタク……ここ以外から来た人がいっぱい
ううん、行くかどうか……まだ、わかんない
気には、なるけど
(好奇心はあるけれど、どれくらい遠いかとか、怖いところじゃないかとか、なんとも言えなくて)
やっぱり、やり返される……?
(それなら、やっぱり、威嚇に留めておいて正解だったかな)
(流れ弾は、多分ないし)
……ん?使えば、ずっと話せるの?それなら、もらわなくてもいい
……お願い。
(バベルなんとか、で話せるようになるなら、さあどうぞと)
(どうやって使われればいいのか。なんとなく、じっとしていた)
……?
(どういうやつだろう……って、判断できない顔で首かしげて)
(ただ、表情から、なにか考えなきゃいけない、というのはわかった)
うん、術は、はやく。
(少し図々しくなって、それは要求して)
うん、家族に説明、お話し……
……あ……ど、どう、しよう
(ウキウキと、話そう、話そう、と思って、思い出す。嫌な記憶だから、極力、思い出さないように……忘れさせてた、その記憶)
ママ……わたし、敵だと、思ってる……どうしよう
(震える声で、困って、縋るような声をあげた)
88
:
ホロケウ
◆MfBiO.rGQU
:2021/01/30(土) 23:47:19
>>87
よしよし、じゃあ手っ取り早く行くか。
(手に持っていた板を、女の子の額あたりにかざして)
えーい。
(ひゅっ、と額に向けて振った)
はいできた。――ちょっと待ってね。
(――開発した人にお願いしたい)
(もうちょっと、「使いました!」みたいなのをはっきりさせて欲しいんだ)
(もっと光るとか音が出るとかさあ)
はいこれ、ちょっと見てみて?
(取り出したスマホを差し出す)
(画面に表示されているのは、この辺りの地図で、この辺りの地名やらなんやらが書かれているが)
これ、書いてある文字、読める?
(ちゃんと効いているのなら読めるはず)
よし、と、これで――感慨とか凄い全く無いけど――色々解決、っと。
ハンター? いやよく分かんないけど……まあ、これからはおいおい解ってくるでしょ。
そうそう警察……ってアレェー?
(いかん、妙な反応を引き出してしまった)
(――そういえば噂に聞いたことがある)
(所によっては、警察は恐怖の対象なんだと)
(国家権力、というやつである警察は、ときに弾圧機構へとあっさり切り替わる、とか)
(もちろん、この国ではそういうことはないんだけど……)
あーあーあー、ごめんごめん、大丈夫大丈夫、警察怖くないよー。
この国の警察はそんなに怖くないから、世のため人のために働いてくれる優しい組織だから、な?
(まあ一概にそうなのかは分からないけど、零課とかは頑張ってくれているので。よく一緒に仕事してるので)
捕まったってそんな怖いことにならねーから、留置所に入れられて一晩頭冷やせ、とかそんなんだから、な?
ほらこれ食うか?甘いもん食べると落ち着くぞー?
(あんまんとお茶を入れた水筒の蓋を握らせてやって)
(なんやかんやで)
まあそうだよな、落ち着いたらおいでよ、俺も住んでるから。
(なんなら迎えに来てもいいし……と、これからが穏健に進まないと連絡手段もないのか)
(まあまあ、頑張ろうかね)
いやまあ、ね、ちょっと説明に気をつけなきゃいけないかなー、と……って、ん?
(いやいや何だ何だ、どうしたんだ?)
(急に挙動不審になった女の子に、話しかけようとして……)
(――アチャー)
(もうなんかあったのね……)
――いや待て待て、悲観するのはまだ早い、ちょっと落ち着こう、ほらもう一個食いな、甘いぞ? お茶も飲もう?
(もう一個あんまんを手渡し、お茶を継ぎ足してやって)
(食べるのを促すために自分も一つ手にとって、もしゃもしゃ)
(――さすがにちょっとお腹パンパンです)
ふう……落ち着いた?
ちょっと状況整理しよ、まずはほら、どういう状況で敵だと思われてるか、詳しく説明してみ?
――あ、それとも、話し難いか?
それなら、なんとかぶっつけ本番で説明に行くけど……
89
:
榎本・正
◆v6j.R9Z2OE
:2021/01/31(日) 21:48:49
(休日)
(目が覚め、朝昼兼用の食事を済ませて部屋の掃除を終えると、それでやることはなくなってしまう)
(体は休まるが、心は片隅に抱えた空虚な喪失を埋める何かを榎本・正は未だに見いだせずに居る)
(食事は概ね、近所の惣菜売りのキッチンカーで買ったおかずと小分けにして冷凍した冷や飯を温めたものがもっぱらだ)
(男やもめだ。一時期、自炊をしてみたことがあるが、その頃には職があった。負傷して何日も帰れない日もあった)
(買った生鮮食材を傷ませてしまうことが多く、また、記憶の中にある故郷の味というのを再現してみようとしたが)
(どうしても、母や祖母の味にならずに自然と台所からは足が遠のいてしまった。今では、味も覚えているかどうかだ)
(職にかまけて家庭を顧みなかったせいだろう。若い男と不倫して離婚した妻も、彼の故郷の味を覚えることはなかった)
(米だけは炊いて、後は買ってすませるのが楽になってしまった。そうするようになって、もう何年か)
(一昔前、少し歩けば近くに何かの食事処があったものだが、昨今はどこもかしこも店を畳んでしまった)
(食事処、というのも今の御時世では中々に高級な商売になる。大枚をはたいて店を構えても、以前より店舗がダメになる例が激増したからだ)
(よく見るのは移動販売のキッチンカー。そして昔懐かしい青空の直売所だ。野菜に困らないのはありがたい)
(知り合いのやっていた食堂も、三度の店舗破損で心が折れてシャッターを下ろしてしまった)
(たまに宅飲みをする時、居抜きになっている家の1階で杯を交わしていると、なんとも寂しそうな目でカウンターを眺める横顔を目にする)
(三度の内訳は、一度目は赤鬼が町中に入り込んで大暴れをした時に店先を破壊されて。二度目は店中で適合者が暴れた時に)
(泥酔した適合者が酔っ払って投げた酒瓶は、1階の天井を貫通して2階の床下を突き抜け、最後に屋根まで突き破っている)
(一般の大リーガーがやったところで、そんな勢いでガラスの酒瓶は飛ばない。適合者という生き物の恐ろしさを付近の住民が痛感した瞬間だった)
(幸い、家族に酒瓶は命中しなかったが、ぶつかっていれば腕の1本、脚の1本は軽くイカれていただろう)
(通報を受けて慌てて駆けつけたが、組み合う気はさらさらなかった。店中で暴れているのだ、障害物が多くて脚を払いになどいけない)
(支給されていた電磁刺股と上半身をある程度隠す軽量のジェラルミンシールドで武装し、人数で囲んで感電させて無力化する)
(一頃では拳銃を抜いた警察官など、それだけで大ニュースになるほどだったのに、適合者が出現してからはテイザーや麻酔弾入の拳銃が支給され)
(威嚇のための空砲も職務規定から抜かれるほどになった。その時も現着した時は拳銃役の新人が既に抜いており、結局、麻酔弾を発砲して事なきを得た)
(その時、榎本は前衛で盾で適合者を抑える役についていたが、振り払われた際に盾の向こう側の両腕を骨折して難儀をした)
(タバコが切れたので、コンビニへ足を運ぶついで。足が向いた先で見かけた)
(シャッターの下りた知り合いの家の軒先を見て、ふと古傷が痛み、そんなことを思い出した)
(色々と適合者には会ってきたが、やはり――連中は人間ではないと、折に触れて思う)
(では、人間の方がマシか、というと。榎本には答えられない)
(店舗の三度目の破壊は強盗だった。それも一般人の。ここで、人種や国籍について、「日本人ではなかった」と)
(そう思い出す記憶の独白に、「幸いなことに」と付け足してしまいそうになるのは、自分が狭量だからだろうか)
(榎本にはわからない。昔からの馴染みの知り合いでないことだけは、本当に幸いだと思うが)
(二度の店舗破壊でもしぶとく商売を続けようとするこの店を見て、金を持っていると踏んだ輩が居たのだ)
(夜中、シャッターを下ろした店に侵入して売上を掠め取ろうとしたその外国人は)
(たまたまトイレに降りてきていた店主とかち合い、もみ合いの大喧嘩になった挙げ句)
(カウンターに干してあった出刃で鎖骨と叩き割られてお縄になった)
(それで店主の心が折れた。それはそうだ。商売道具の包丁で人様を傷つけたら、料理人としてはやっていけまい)
(若くから苦労して、ようやくこじんまりとした店を持てた店主の、男泣きが今でも忘れられない)
(今日日、そんな話は珍しくない。五体満足で、家を完全に壊されていないだけマシな方だ)
(今では、店主の息子夫婦がやっている惣菜売のキッチンカー。その材料の仕込みを手伝っていると聞いた)
(再起出来ただけ、救いのある余生と言えるだろう。今の榎本には、眩しい話だった)
(踵を返し、シャッターの下りた店先から離れる。少し歩いたところで、コンビニの手前)
(一つ入った路地から大きな音が響いた。チェーンが切れて、自転車のコケる音)
(ため息をつく。厄介事に関わるのが面倒だから、ではない――何かしらの変化に喜んでいる自分を、自己嫌悪してのため息だった)
おい、どうかしたか?
(塩辛声で路地に入って呼びかける。路地に入る前、手挟んでいる警棒とプッシュなしの音声でコールを呼び出せる用意は忘れない)
(覗いた路地では、チェーンが切れて、何かが衝突してフレームの曲がったMTB、だった残骸)
(それを見下ろしている、少年と言っていい背丈の後ろ姿だった。親のお古だろうか? 年季の入ったスカジャンの袖に)
(適合者だと証明する適合者証明のステッカーが安全ピンで止められていた。適合者だ)
(少年は呼び掛けにビクリと背中を震わせて振り向く。気の弱そうな)
(言ってしまっては悪いが、学校でいじめを受けていそうな、陰気さの漂う表情の少年だった)
(ちらり、とMTBを見る。それから、少年に向かって、こう言葉をかけた)
……ペダル漕ぎすぎて、足回り壊れた拍子に、つんのめってフレームに突っ込んじまったのか?
(MTBのフレームは、サドルからフロントに向かって、何かがぶつかったようにひしゃげていた)
(誰かを轢いたり、誰かにぶつかったのであればそんな壊れ方はしない。音がしてから路地を覗くまでに2秒程度)
(誰かとぶつかったなら、今頃、転んだ相手が身を起こしている最中だろう)
(榎本の推理に、少年は泣きそうな顔で、「はい」と頷いた)
90
:
榎本・正
◆v6j.R9Z2OE
:2021/01/31(日) 21:49:50
(知り合いの軽トラの持ち主に連絡し、破損したMTBを荷台に詰むと、軽トラを借りて)
(少年を彼の家まで送り届けるついでに、彼の身の上話を聞く)
(予想通り、と言っては悪いが、やはり学校でいじめられていたらしい)
(以前は暴力も振るわれていたと言ったが、もうそんなことをする輩はいないだろう)
(適合してしまったのは、暴力を受けている最中だ、と少年は言った)
殺さずに済んだのか。
(あっさり、榎本がそう尋ねたことに、少年は驚いた様子だった)
(「昔、警官やっててな」。そう言った時の納得顔に、苦笑いをする)
(相手を外見で判断するのは、お互い様らしい。ともあれ、冗談でそんなことを聞いたのではない)
(暴行の最中に適合者として目覚めてしまったのであれば、当然、報復をしただろう)
(少年はMTBを走らせている最中、フレームに自分から激突しても全く痛がる素振りもなく呆然としていた)
(そんな身体強度と身体能力で報復された他の少年たちの末路は、推して知るべしだろう)
(そこで、相手を殺傷しなかったのは幸運か。それとも彼が暴力の怖さを身に沁みていたからだろうか)
(少年は躊躇った後に、「はい」とだけ答えた。沈黙は長かった。死なずに済んだだけ、というところか)
よかったじゃねえか。
ネンショー……じゃ通じねえか。少年院行かずに済んで。
(とても、その一言で済まされる現状ではないだろう。今までいじめていた相手が適合者になった)
(しかも身体能力は並の適合者レベルではない。並よりは一段階、上のレベルだ)
(赤号はヒグマ並だが、それよりは上だろう。今までいじめていた相手が、象やカバを凌ぐ身体能力を手に入れたのだ)
(いじめられていた少年にこそ同情しなければいけないのだろうが、軽トラのハンドルを握る榎本は)
(むしろ周りの少年少女たちに同情してしまう己を戒めなければならなかった。両腕の古傷が痛んだ気がした)
(少年からは、やはり返事はなかった。「すまん」とも言ってやれない。本心だからだ)
(いじめは今も続いているのだ。この少年に怯える少年少女たちの、暴力を介さない、より陰湿ないじめに発展して)
(虐げられる側に甘んじている彼が、適合者用の特別少年院に入れられて、いじめられないとはとても思えなかった)
……ワリィ。
ちょっとだけ寄り道するわ。交番寄る。
(この少年に、榎本自身は何もしてやれない。彼はもう警察官ではなかった)
(だが、MTBを前にして打ちひしがれていた少年の背中が忘れられない)
(人間用のMTBのフレームなど、彼の今の身体能力では飴細工も同然だ)
(あれは、自分がもう、今まで楽しんでいたことすら許されなくなって絶望している人間の後ろ姿だった)
(そういう姿を、何度も見てきた。救えた者もいる。救えなかった者もいる)
(共通しているのは、榎本は大したことをしてやれなかったということだけだ)
(少年に断りを入れてハンドルを切る。最寄りの……古巣へと軽トラを走らせ、交番に顔を出す)
(もうそこに詰めている昔なじみはいないが、彼は地元では多少、有名な警察官だった)
(声をかけた若い警察官が、かしこまった形で敬礼する。苦笑して敬礼を取り下げさせ、事情を話し)
(交番に置かれているいくつかのチラシを手に取って、一度思い直して、メモを一枚貰い)
(電話番号と店の名前を書き留めてから軽トラに戻る)
ワリィな。ほら、これ。
(少年にそれらのチラシとメモを渡してやり、軽トラを走らせ、彼の生家に向かう)
(チラシは、適合者支援会やその他の適合者支援組織。警察庁や国防軍の募集チラシだった)
俺ァ、こうやってお前を家に届けてやるくらいしか出来ねぇし
頭も悪いからよ……これくらいしかしてやれねえが、そこはお前さんみたいなのの専門家がわんさかいる。
ヤケ起こす前と、親御さんが参っちまう前に、一度、そこに相談してみんのもいいさ。
一人で悩んでもいいことなんかねえぞ。学校は、まあ、行かなくてもいいなんて言うのは無責任だから言わねえけどよ。
一度、続けるかどうかは親御さんに相談してみろよ。また自転車ぶっ壊しちまう前にな。
(少年から、彼の両親が、息子の変貌によってノイローゼを起こしかけていることは聞いてはいない)
(だが大抵そうだった。だからその話をして、目を細める。少年は助手席で、ずっとチラシを握りしめたまま口を開かなかった)
もう相談した後で、追い返された後ならすまねえな。
窓口はお役所仕事だからよ……ただ、そこの適合者支援会がまだなら、そこに助っ人を頼むといい。
他の窓口へついてきてくださいっつうんだよ。それだけで、お役所さんの対応も変わったりすんだよ。
生活保護と一緒だ。……そいつらを恨まねえでくれとは言わねえよ。
すがりついたら邪険にされたんだもんな。仕方ねえよ。
(少年がやっとのことで、「はい」と口を開く。ホッと肩を撫で下ろした)
(門前払いも已むを得ない。どこの役所も窓口はパンク寸前なのだ。理由をつけてあしらいたい気持ちも判る)
(それは助けを求めている相手にとって、何の言い訳にもならないことも。やりきれない)
(そして、少年がメモに気づく。「これは」と問われたので、「ああ」と店の名前に目を向ける)
アホほど高いんだけどな。適合者向けに自転車のカスタムやってるらしい店なんだよ。
……好きなんだろ、MTB(アレ)。金貯めたら、今度はぶつかっても壊れないヤツ頼んでみりゃいいや。
顔見知りが店やってるのを思い出したんだよ。今も潰れてなきゃだがな。
(話ではそこそこ有名だと聞いていたが、MTB好きに知られてないとはまだまだだな、と思う榎本だが)
(彼は少年が、知る人ぞ知るMTBの名店の店名と番号を知っていることに驚いたのだと最後まで気づかなかった)
(話の途中、完全に素人だ、と言っていたことを忘れているのだ)
(少年を生家に送り届け、彼に渡したチラシの話をして、壊れたMTBを下ろし)
(お茶を出そうとする両親の申し出を辞退して彼の家を去る)
(両親の顔もやつれていたが、彼の申し出に、幾分か救われた表情が見えた。彼らのこの先がどうなるかは判らない)
(ただ、そう。出来れば。――――泥酔して、人の夢を叩き壊すような人生を歩んで欲しくはなかった)
(なんのことはない)
(少年の将来や彼らの家庭を慮ったのではない。彼らを危険物として扱い、その危険を未然に遠ざけようとしただけなのだ)
(榎本はそう自分に言い聞かせる。後ろめたさに、去りゆく彼の背中に頭を下げる三人の姿は、ついぞ、見なかった)
(彼がタバコを買い忘れたことに気がついて、賃貸の我が家の部屋に戻って舌打ちをするのは)
(まだ先の話である)
91
:
ゴマ子
◆ZiOG0lyEZs
:2021/02/02(火) 00:45:34
>>88
うん…………
……でき、たの?
(これといって、発動しましたという感じはなく、目をぱちぱち)
(実感がないのはあちらもみたい)
なに……?
……文字?これ、文字?わかる、一丁目……児童公園……
(文字が読める、という体験がまずもって初めてのことで)
(目をまんまるく見開いて、地図を食い入るように見る)
うん、危ないのを壊したり、集める人……ちがう?
(故郷には、稼働したままの自律兵器を壊してバラして売ってる人が、少数いた)
(震えながら、逃げたりする構え、から)
警察がそんなのの筈…………!
……もく、もくもく……
(テンパった頭は、押し付けられた饅頭に強制停止、おずおずと食べてみると)
(甘い……おいしい!)
(少し落ち着いたところで、こちらの世界の警察について聞いて)
…………そうなの?……これ壊れてない?
(あまりに自分の理解と違う警察の説明に、バベルなんとかを疑う方向にいった)
(コトバムツカシーネ)
……行けそうなら
(判断保留で、シャタク訪問をゆるく約束して)
……ひっ、ちがうの、に、どうしよう……もぐっ
……んぐ、んぐっ……
(半泣きのところに追加されたお饅頭。嗚咽でビクビクする喉も、物が入れば静かになるしかなく)
んく、んく……んくっ
え、えと……
(涙を饅頭で引っ込められ、落ち着きを取り戻して、話せるようになると)
オニ……あれのせいで、家族の、妹、死んじゃいそうで
やっつけたあとに、駆けつけたの……でも
ママね、私の、姿見て……敵だって目をしてて
話せないから、そのまま逃げて……
(話すほどに、嗚咽がまたぶり返し、声が震えて)
(最後には、ひっくひっく泣き出して、それ以上喋れなくなって)
92
:
ホロケウ
◆MfBiO.rGQU
:2021/02/06(土) 23:45:12
>>91
うん、その筈……あ、大丈夫みたいね。
(地図の文字を読めているようなので効果はあったようだ)
(とりあえずこれで色々と問題は解決した、と一安心)
壊す……? 殺すじゃなくて?
壊れるようなもんを壊すのを仕事にしてる人は心当たりないなあ……
(多分機械ゴミとかそういう話じゃなかろう)
(文化の違いかなー……)
(あんまん食わせたらとりあえずおとなしくなった)
(警察については、まあこれからおいおい勉強してもらおう)
まあまあ、そこは信用してよ、そのうち知り合いとか紹介するし。
……あー。
(状況をざっくり聞いてみたけども)
(よくある……というわけじゃないけど、まあ有るだろうなあ、といった感じ?)
(そこまで複雑な話じゃないのは幸運だったかもしれない)
(と、そんな事を考えていたら)
――あーあー、泣くな泣くな。
多分大丈夫、俺がちゃんと説明してあげるから。
大丈夫だって、お前が家族のこととっても大事にしてるって解ったから。
それ、ちゃんと説明すれば解ってもらえるって。
あとは……まあ、難しいところは互助会に頼めば大丈夫。
俺も相談にのるから、な?
(また泣き出してしまった女の子の背中を軽くさすってやって)
――じゃあ、説明行くか?
案内してくれよ、とりあえず家の前まで道教えてくれれば、後は俺がなんとかするから。
……あ、そうだ、あのさ……
※ ※ ※ ※ ※ ※
(ぴんぽーん、と呼び鈴を鳴らす)
(……呼び「鈴」なのに、どうしても鈴には聞こえない音を鳴らすのはなんでなんだろう)
(まあ、それはともかく)
すいませーん、VisitorGuildから参りましたー、ホロケウと言いまーす。
お宅の猫ちゃんについて、お話があって参りましたー。
少しお時間頂いてもよろしいでしょうかー?
(呼び鈴の「まいく」に向かって話す)
(これは携帯電話みたいなもので、家の中と話ができるんだ、ということは聞いていた)
(家の中からこっちの姿を見ることができる、ということも)
(――だから、俺が抱いているこの灰色の猫も、家の中から見える筈だった)
93
:
ゴマ子
◆ZiOG0lyEZs
:2021/02/08(月) 18:44:40
>>92
……酔った
(顔を青くして、目を閉じしんどそうな顔)
(読むにあたって前提知識の不足から、例えば緯度経度とはなんぞや、縮尺とはなんぞや、1丁目2丁目とはなんぞや、地名の意味は、そんな情報の洪水が流れ込んできて目が回る)
(知識水準が、言葉を操り読む段階まで一足飛びに上げられたのに齟齬を起こして)
……放棄オートマトンとか。こっちにはないみたいだけど
(ハンターに相当する言葉が、危険動物や狩猟獣が希少化した世界だったので、オートマトンハンターか人狩りかになっているらしい)
……別世界ってすごい
(隔たりが)
(警察が人々を守る組織なんだ)
ぐすっ、ひぐっ……ほんと?おねがい、しまっ、あぅ……ううう……
(どうしてここまでしてくれるんだろう)
(もし、代わりに何か求められても……もう、なんでも応じていいかもしれない)
(優しく、助けを与えてくれる人というのが初めてのようなもので)
(なかなか泣き止まないのは、途中から、ありがとうと嬉しいの涙になっていたからだった)
※ ※ ※ ※ ※ ※
(そうか。この音は、家の外から人を呼ぶための音だったのか)
(よく聞く音だったけど、やっとその意味をきちんと認識した)
(ホロケウがしゃべる。ママに……私のこと……)
(改めて緊張してきて、しっぽの毛がブワッと膨らむ)
(ホロケウの腕は、家族の誰の腕とも違って、なんだか強い。パパの腕より細いのに)
(落ち着かなそうに、腕の中であっちを見たり、こっちを見たりソワソワしていて)
『はい?うちのゴマちゃんが何か……どうしたんですか?す、すぐ出ますね』
(急な訪問に戸惑いながら、ママはゴマ子をインターホンの映像で見つけると)
(ゴマ子に何かあったか、それとも何かをやらかしたか、どっちにしろ大変なことじゃないかと、慌てて玄関まで出てくる)
(今日だと……パパは仕事、二人は学校で、ママしかいないはず)
(一番、問題のママしかいない……それが余計に緊張させて)
(腕の中で忙しなくもぞもぞしてしまう)
94
:
ホロケウ
◆MfBiO.rGQU
:2021/02/08(月) 23:47:31
>>93
あ、びっくりしちゃったか?
この画面見慣れないと疲れるんだよな、ごめんごめん。
(ちょっと方向性を間違った気遣いで、スマホをポケットに戻す)
(割と目が疲れるんだ、あと寝る前も見ないほうがいいんだとか)
――おーとまとん?
(今度はこっちがキョトンとする番だった)
(聞いたことのない名前だ……誰かに今度聞いておこう)
あーあー、泣くな泣くな。
もう何度も言ってんなこれ、大丈夫だって、ちゃんと協力するから。
安心しなー、俺もちゃんと頑張るから、な。
(――まあ、仕事だからなあ)
(この子には悪いが、完全に優しさだけってわけでもない)
(この世界はこの世界で、なかなか厳しい……お金がないと生きていけない)
(もちろん、故郷もそうだったけど、あっちはまだ自給自足で生きていくこともできた)
(こっちは、何から何までお金が必要で――そのためには、仕事をしなきゃ)
(……いや、だからといって、完全に仕事だからってだけじゃないのよ?)
(この子の境遇には同情できるし、なんとかしてやりたいとも思っている)
(でもほら、それはあれだ、気持ちだけでやってるんじゃない、ってことで)
(ちゃんと利益で動いてないと気持ち悪い、なんて人もいるみたいだし)
※ ※ ※ ※ ※ ※
(腕の中の灰色の猫が、ぶわっとしっぽを膨らませた)
……大丈夫だって、上手くやるよ、安心しろって。
(喉元をくすぐって、猫をなだめる)
(緊張するのは解る、無理もない)
(なにせ一世一代、ここでこれからもやっていけるかどうかの瀬戸際なのだ)
(――うん、自分でもちょっと緊張してきたぞ?)
あ、すいません、――どうも、失礼します、改めまして、VisitorGuildのホロケウと言います。
(玄関まで出てきたお母さんに、ぴしりと背筋を伸ばして――これ疲れるんだけどね、印象大事だって言うから――挨拶する)
(同時に、スマホの画面を差し出した)
(表示されているのは、VisitorGuildの身分証アプリの画像)
(その画面を直接スマホのカメラで撮ってもらえば、インターネットからVisitorGuildの正式なメンバーかどうか、照会できるようになっている)
えーとまず……すいません、玄関、入らせてもらっていいですか。
ちょっと、込み入った話がありまして……
(言って、渋々ながらも玄関に入れてもらう)
(ドアを閉め、腕の中の猫の喉をくすぐって――これ、もしかして俺、怪しい人か……? 強盗系か……? と気づいてしまった)
(やべえ失敗したかも、でもまあ仕方ない、押し通す!!)
えーと、その、ですね……単刀直入に、こちらの猫ちゃん……ゴマ子ちゃん? 来訪者……来訪猫だと分かりました。
(ガツン、と一発)
VisitorGuildで使用している、こちら、バベル・セプト、ご存知ですか?
来訪者とこちらの言葉で話すことができるようになる、すごい道具です。
俺も、これを使って話せるようになりました……と、それはいいとして。
これを使って、ゴマ子ちゃんとさっき色々と話しました。
この子、こちらのご家族に拾っていただいた事を、とても感謝していて。
これからも一緒に暮らしたい、と。
(続けて細かいのを連打、連打!)
なので、VisitorGuildとしても、来訪者のこちらへの定着は望むところでありまして。
仕事の斡旋やメンタルケア、いろいろ知っておくべき、または知っておいたほうがいい事柄についての勉強会など、
ゴマ子ちゃんだけでなく、ご家族へのフォローも積極的に行っていきたい、と、そういう感じな訳です。
(ここでニッコリ笑って懐柔の方向へ)
(笑顔は大事だ、じいちゃん先生も言っていた)
(「美人に化けても、笑顔のあるなしで懐柔できるかどうかガラッと違う」、と)
(――そして、お母さんは気づくかどうか)
(大事な事を、一つ話していないことに)
(……ゴマ子ちゃんと、話せるのか、ということ)
(だって相手は猫じゃないか、と……)
95
:
ゴマ子
◆ZiOG0lyEZs
:2021/02/09(火) 21:49:36
>>94
(優しい声に目を細める)
(けどその程度で緊張なんて解れなくて、もぞもぞするのが邪魔そうだからと動きを止めたら、石になったかのようにギュッと固まって)
「は、はあ、ビジターギルド……?」
(来訪者にも適合者にも縁のなかったママは、いまいちピンと来ておらず)
(見せられたスマホ画面の身分証を、ママのスマホで読み取って確認する。そうしてやっと、来訪者の団体だと把握する)
(公務員?……だけど子供?息子よりちょっとお兄さんなくらいだから、果たして大人として対応すべきか、子供として対応すべきか)
(それよりも、要件はなんだろう)
「あ、ええと……」
(少し迷う、けれど、ゴマちゃんを抱えているし、そのゴマちゃんも暴れたりはしていない)
(詐欺とかそういうのでは……ない、のかな。あとは、子供だし、なんか犬の耳があるし、もしかしてちょっと他人と気安い文化の人なのかな、と、警戒は緩めて)
「わかりました、じゃあ、少し待ってもらえます?」
(途中だった家事のものを軽く片付けるへく、一度玄関でホロケウを待たせた)
(リビングのソファーに、冷蔵庫にストックしてあったジュースを出して、ホロケウを迎える。リビングには猫のケージ、子供二人のものだろうキャラクターもの、家族写真、そんなものがあって)
「……え?ゴマちゃんが?異世界の?」
(きょとんと、目を丸くしてゴマ子を見る。しかし、見つめられたゴマ子は、あまりにいきなり直球で伝えたことにびくーん!と固まって)
(緊張が最大限に高まって震えるゴマ子)
(その様子が、普段のゴマ子の様子とあまりに違って、言葉の信憑性が高まる)
「はあ、そんなすごいものが……それが?ま、まあ、まあっ」
(不思議な力がある、それ自体はもう常識になっているけれど、それが動物とお話できる力で)
(さらに、愛猫がそんなに私達と暮らしたいと、そう言ってるのなら、もう嬉しいとしか言えない)
(犬と猫だからかしら?この子、ゴマちゃんとお話できるのね、と。動物っぽい子だから為せる技なのだと、そう理解していて)
「そうなの、ゴマちゃん?」
(ニコニコ笑顔で尋ねながら話の続きを聞き)
「ええ、ええ、ええ……仕事?メンタルケア?」
(続いた、ビジターギルドの言葉にずれを感じて)
「……ゴマちゃんのことで、お仕事の斡旋……?」
(何かおかしい、と、引っかかる。ただし、怪しむというより、理解不能で首をひねるような感じで)
「あの、もう少し、きちんとお話してもらえる?まとまったお金がかかる、ということ?それなら主人と相談が必要しないといけないけど」
(子供だから話をすっ飛ばしたりしたのかしら?と、若干失礼な考えで、)
(なにか、大事なことを聞けていないのではないか、と切り替えしてくる)
96
:
ホロケウ
◆MfBiO.rGQU
:2021/02/10(水) 00:07:23
>>95
(……あれえ、お母さん互助会のこと知らねえぞ?)
(広報不足だよこれ……報告しとこう)
(という渋面はしっかりと隠しておく)
(じいちゃん先生は人を騙すのも得意だったんだ、なにせ「昔は俺もワルだった」が口癖だったから)
(――地獄まで行って寿命を管理してる帳面から名前を消してやった、なんてのは、流石に嘘だと思うけど)
はい、すいません、ご迷惑おかけします。
(深々と頭を下げる)
(――よし、いいぞ、玄関先でいいところだったけど、部屋に上げてもらえる!)
(自分の縄張りでは動物は警戒心が落ちる、これで行ける確率が上がった!!)
(部屋に上げてもらい、ジュースまで出してもらって)
(どうぞお構いなく、とは言うものの強く否定はせずに)
(ただしジュースに手はつけないで)
(びっくりしたゴマ子――ゴマってあのゴマ?黒いやつ?――の喉をこしょこしょしてなだめる)
(大丈夫、最初にでっかく出て、だんだん落ち着かせていくんだよ)
(ほらもうわろてるやん、いや変な言葉になった、笑顔まで見えた、カマすならそろそろだ……)
――ええ、はい、ある意味、お金の問題でもあります……
いえ、ギルドの方でお金が必要、というわけではなく。
勉強会などは無料で参加できますし、さっきのお仕事の斡旋、それにはもちろん報酬も出ます。
問題はその……生活費とか、そっちの方でして。
――あの、つかぬことをお伺いしますが、来訪者の中には、姿を変える生態とか、能力とか、技術とか……
そんな物を持っているものが居るの、ご存知ですか?
じいちゃ……んふん、俺の師匠もそうでした、なんでも72種類の変化の術が使えるとか。
ええと、まあ、つまり、姿を変える来訪者はあんまり珍しくないってことで……
――ちょっと、驚かないで……は、無理でしょうから、あまり大声出さないでくださいね。
ゴマ子もびっくりすると思うので。
(ここで、今まで抱いたままだったゴマ子を、長椅子……ソファーだったか、の上に下ろした)
――ほら、ゴマ子。怖いだろうけど、度胸だ。
どうせいつかはやらなきゃいけないことだ、だったら今やったって同じだ。
俺も見ててやる、何かあったら守ってやるから。――だから、頑張れ!
(ゴマ子をそっとなでながら、言った)
97
:
ゴマ子
◆ZiOG0lyEZs
:2021/02/10(水) 05:08:40
>>96
(相当乱発するような広告をしている、またはニュースの常連でもなければ、一部の人にしか関わらない政府団体なんか当事者以外は気にも留めないものなのだ)
(逆に言えば、関連不祥事はあんまり出てきてないとも言えるが)
「礼儀正しいのね」
(出したジュースに丁寧なお返事があって、子供なのに凄いわぁ、と関心とともに好感度プラス1)
(ゴマ子は、びっくりして緊張して……この状況で撫でられるのはむしろうざい!首を嫌がるように避けた)
「ふふ、撫ですぎるとプイってするの、パパがよくああされてるわ」
(そんなゴマ子の様子にクスッと笑って)
「まあ。じゃあ、やっぱり主人に相談しないと……え?はあ、生活費……?異世界の子だと、なにか、お薬とか必要なんですか?」
(だとしてももう、ざっと2年は何もなかったのに?なんで?と、歯切れの悪いホロケウの言葉に訝しそうにして)
「……まあ、そうなの?つまり、変身みたいな……
え……待ってください、じゃあ、なんですか、ゴマちゃんが変身してる……?」
(すでにこの時点でびっくりもの。だとすると正体は?いや、でも、一緒に暮らしたいって)
(雌猫だから女の子、だと思ってたけど、変身だと関係なかったら?怖い人だったら?)
(そんな不安もあって、目を丸くして、ゴマ子を見つめ)
……!
(ホロケウの手から離れたゴマ子は、正体を明かす不安に尻尾をぶわわわわと膨らませ)
(挙動不審にその場で回り、立ったり座ったりを繰り返して)
(ホロケウの言葉に、ついに意を決する)
(目を見つめながら、それをするのは怖くて……俯きながら)
(ゴマ子の姿に、重なるようにして、人間の姿が浮かんでくる)
(猫の毛と同じ色合いのボサボサ髪。ぴょんと出た猫耳)
(痩せっぽちの体をボロボロの布に包んだ小柄な少女は、不安に潰されそうできゅっと口を引き結んでいて、)
(お守りのように、銀色の銃を握りしめていた)
「ゴマ……ちゃん……?」
(その姿は、あの日、たしかに見たことがあるものだった)
(その時は血まみれで、興奮して息を切らし、まるでさっきまで殺人現場にでもいたような姿で)
(悲鳴を上げ、来るなと拒絶してしまって)
(翌日、事件を起こしたのは竜型の鬼だと知ったあとは、熱の中で見た幻覚だと思っていた、あの人は)
「ゴマちゃん、だったの?あれ……」
(ぽかんと、呆然と、なぜ、どうしてを顔に貼り付けて)
………………ママ……
(ゴマ子は、その一言を、震える声でなんとか絞り出すのが精一杯で)
98
:
ホロケウ
◆MfBiO.rGQU
:2021/02/10(水) 23:25:26
>>97
(あら、手を跳ね除けられた、意外と気難しいんだな)
(だけどまあ、元気が有るのはいいことだ)
ああいえ、薬とかでは……食べ物に気をつけたほうがいいのは確かですけど。
(俺も含めて、獣の要素を持っている、いわゆる獣人ってタイプの来訪者は、大抵その獣の方に食べ物を合わせたほうがいい)
(というか、人間が何でも食べ過ぎなんだってさ。解毒能力がちょっと信じられないくらい凄いんだって)
(ぶわん、と、姿が入れ替わっていくような不思議な変化)
(じいちゃん先生はドロン、と煙に包まれて、煙が晴れると姿が変わってる、って感じだった)
(それに比べるとどうにも、変な現象感が強い)
(――が、頑張ったのは事実だ)
(不安そうに銃を握っているゴマ子の背中を擦ってやる)
よーしよーし、頑張ったな、大丈夫だ、心配ない、俺は味方だ。
俺だけじゃない、もちろんお母さんも、な。
(優しく言いながら、視線をお母さんに向ける)
(「そうですよね? あなたも、こいつの味方ですよね?」と、視線で投げかける)
(ぽんぽん、と背中を叩いて、今度はお母さんの方に向かう)
(顔を寄せて、できるだけゴマ子に聞こえないように)
(――多分、耳が良いだろうから、聞こえてしまうとは思うけど)
さっき、あいつと話したって言いましたけど……
その前まで、俺と会うまで、あいつ、この世界の言葉が解らなかったんです。
だから、自分からこの事を打ち明けることもできないし、誰にも相談できなかった。
でも……あいつ、鬼と戦ったんですよ、一人で、あんな小さな武器だけで。
(見れば解る……あいつは、身は軽いけど、戦い慣れているわけじゃない)
(あの武器が強力なんだろうけど、本人はド素人だ)
(そんなやつが、何故鬼に立ち向かったのか……)
あなた達を、この家の家族を、守りたかったんです。
言葉が通じなくても、猫としてでも、一人ぼっちだったあいつを拾って、家に置いてくれたから。
――俺も、来訪者だから分かります。
一人ぼっちなのは、辛いです。
だから……お願いします、あいつを、受け入れてやってください。
そのための援助は、いくらでもします、俺個人としても、VisitorGuildとしても。
――どうか、お願いします。
(言って、静かに頭を下げた)
(ああそうだ、泣き落としだよ)
(そのくらいはやるよ? 効くからな!!)
(――でも、本心じゃないとは言わない)
(俺だって来訪者だからな)
99
:
ゴマ子
◆ZiOG0lyEZs
:2021/02/13(土) 12:31:16
>>98
「まあ……キトンマッシグラーは大丈夫かしら」
(※相当期間のゴマ子の主食、いわゆる猫缶)
(幽霊や幻影のような形で姿を変えたゴマ子は、不安に俯き小さく震えて)
(その背を優しく叩く手は、とても心強く)
「え……ええ、はい」
(この返事は事態を掴めないまま、ホロケウに促され、半ば流れで言ってしまった形だったけれど)
(ホロケウが向き直り、耳元で語る内容を聞こうと軽く屈んで……聞き終えると、静かに言葉を絞り出す)
「……そう。じゃあ……あれは……」
(あれは、鬼の返り血で。ゴマ子が、戦い終わって、真っ先にこの家に駆けつけたのなら、辻褄が合う)
(そして……殺人鬼かと思って、半狂乱で拒絶してしまった自分が、言葉が通じずともゴマちゃんをどんなに傷つけたかも)
(ぽん、とホロケウくんの頭を撫で、立ち上がる。余計な返事は要らないだろう)
(ゴマ子の前に立ち)
「ごめんね、ゴマちゃん……知らなかったとはいえ。私達の家族を、私達のヒーローを、来るな、だなんて……」
(ギュッと、人間のサイズになってなお小さな体を抱きしめながら)
ママ……いいの。いいよ……
(銃をその場に置いて、ママに抱きついて、ふえぇ、と声を上げて泣き出す。悲しいとかの涙じゃない。喜びの涙)
(つられてママもぐすっと涙目になりながら、ゴマ子と、しばらく抱き合って、改めて私達は家族だと、確かめあった)
(しばらくののち)
(ゴマ子を後ろからあすなろ抱きにしながら、ママはホロケウに改めて話を振る)
「ホロケウさん……やはり主人のいるときに、改めて細かなお話伺えますか?人一人、増えるとなると……やはりお金など色々考えることもあるので」
(人一人増える……それを前提に話を始めた)
(まずはお金。猫の飼育費と、人間の生活費……子供だから学費とかも諸々あるんだろうか)
(それから、これまでゴマちゃんはリビングのケージが定位置、となると部屋の用意をどうするかとか、これまでの猫缶やチュールや猫トイレなどはどうするかとか)
(冷静になれば、現実的問題の数々がそこにあって、ビジターギルドの援助については、詳しく、パパを交えて聞かなきゃいけないところだった)
100
:
ホロケウ
◆MfBiO.rGQU
:2021/02/14(日) 22:43:53
>>99
……??
今まで食べてたんだったら、多分問題ないんじゃないかなと……
(自分は駄目な食材以外は基本的に人間と同じで大丈夫なので、猫缶というものに思い至らず)
(頭を下げていたら、ぽん、と手を置かれる感触)
(攻撃的なものではない、大丈夫か、とそっと頭を上げると)
(お母さんとゴマ子がしっかりと抱き合っていた)
(……ひとまず、上手く行ったみたいだ)
(とりあえず落ち着き、向き直る)
(――お母さんはゴマ子に抱きついたままだけど)
ええ、はい、それはもちろん大丈夫です。
……正直なところ、俺は戦闘のほうが得意で。
万一、ゴマ子ちゃんがその……敵意の有る存在だったら、というのがありましたので。
ああいや、今はもちろんそんな事は無いとわかってますよ、ギルドの方にも危険性はないと報告します。
――次は、そういう、制度とかお金とかの問題に詳しい、専門の職員が来ると思います。
俺はあんまり詳しいわけではないので……
――あ、でも、一応俺のスマホの番号登録しておいてください。
もし何か有ったときに駆けつけるのは、ギルドよりも俺に直接のほうが早いと思いますから。
(そう言って、スマホの画面をまた差し出す)
(今度表示されているのは電話帳の自分の項目)
(名前と電話番号だけでも伝われば十分だろう)
では、今日はこれで失礼します……っと、お父さん達との顔合わせは、大丈夫ですか?
俺が居たほうがいいって言うなら、まだ居ます。
――ああ、そうだ、ちょっとギルドへの報告様に、ゴマ子ちゃんの写真を撮らせてもらっていいですか?
次に来る職員に、顔を知らせておいたほうが良いので……できれば、猫のときの方も。
――はい、笑ってー。
(と、スマホを向けてパシャリ)
(――ホント便利だなあ、この機械)
101
:
ゴマ子
◆ZiOG0lyEZs
:2021/02/19(金) 19:57:35
>>100
「大丈夫なの……?アレルギーがあるかもとか、そういう?」
(食事で気がかりがある、というのをそんな風に認識し、後々パッチテストとかすればいいのかしら、と理解した)
「敵意……?……ああ、どんな子か知らないで来た、のね。わかりました、それなら専門の方に合わせて、お仕事休んでもらおうかしら……」
(自分も敵意ある相手かと思った手前、正体不明の相手にそうなる気持ちが分かってすんなりそこは理解し)
(次に、の予定をすぐに持とうと)
「あ、はい、ホロケウさん……ああ、ええと、郁橋と申します、こちらからも……何があればでは、ご連絡しますね」
(電話帳機能で連絡先を交換し)
「はい、ええと……大丈夫です」
え……あ、ううん、大丈夫
(少し不安そうにしたゴマ子だけれど、ママが平気そうなので、それでいいと)
(これから、大分楽にはなると思うけれど、また緊張の顔合わせがあると思って表情は固い)
(撮影……そこで)
「待ってホロケウさん!ちょっと待って……この格好で写真はダメ!」
(ママは大きな声で止めた)
(ゴマ子の格好は、ボロ布一枚。少し動いて捲れたら、色々見えちゃう格好だ)
「男の子だから、終わるまで入っちゃ駄目」
べ、別にいい……いつもこれだったし
「よくありません、ね?」
(一度部屋に引っ込み、お兄ちゃんの服を合わせる。けれども、成長期がまだの男の子と、成長期を迎えた頃の女の子の体だからとてもピッタリとはいかない。)
(最終的に、色々試して、ママのお古をブカブカで着せて、ひとまずの間に合わせの写真は撮ってもらった)
あったかい……
「……服、何より先に買わないと」
(着替えの間だけでも、これから越えなきゃいけない常識の違いやコストを感じていたようで)
(ママの目は少し遠くなっていた)
102
:
ホロケウ
◆MfBiO.rGQU
:2021/02/20(土) 22:47:27
>>101
ああ、多分なんかそういうやつです。
食ったら死ぬ食材とか、そういう。
(あっ、なんだかだんだん気安くなっている、気をつけなきゃ)
はい、イクハシさん、ですね、はい、……っと。
(こちらも番号と名前を登録して)
分かりました、ならあとは……っと、はい?
(写真を撮ろうとしたら、急に呼び止められた)
(なんじゃ?と思ったら、……ふむ、格好)
(俺も実は故郷では上半身裸が普通だったりしたので気にしなかったけど、ゴマ子の格好が問題だったのだそうで)
(別室に連れて行かれるゴマ子を見送り、入っちゃ駄目、と言われれば大人しく待つ)
――あ、大丈夫ですか? はい、じゃあもう一回、笑って―。
(どうも大きすぎるようにしか見えない服を着せられて戻ってきたゴマ子にスマホを向けて)
(改めてパシャリ)
では、改めて……俺はこれで失礼します。
何かあったら、俺かギルドの方にご遠慮無くどうぞ。
では、お邪魔しました。
(玄関先で一礼して、外に置いていた蒸し器と携帯コンロを抱えて家を出た)
(――実は外に置きっぱなしだったのをすっかり忘れてた)
(完全に冷めている……失敗だった)
(それはともかく)
(まずはギルドに一報)
(郁橋さん宅のゴマ子ちゃんでした、と、地図アプリの位置情報とゴマ子の写真を添付して)
(詳しいことはこれから本部で報告します、と添えて送信)
(バスに乗って一路本部へ)
(本部へたどり着くと受付で詳細報告)
(連絡先や今の状況、次は支援制度に詳しい専門の職員を送ってほしい、という要望)
(最後に、緊急連絡先として自分のスマホの番号を伝えました、と報告しておいて)
(これで任務完了、報酬は口座振込)
(さてさて今日もよく働いた、と家路についた)
――ふうー。
(社宅の収納付きベッドに倒れ込み、一息ついて)
……うわああああああああ危なかったああああああああああ!!
完全に手順失敗したあああああああ!!
(ゴロンゴロン転がりながら身悶える)
(落ち着いて考えれば、ゴマ子と話がついた時点で、一旦ギルドに帰って本職に明け渡すべきだった)
(俺がお母さん相手までやらずとも、そっちのほうが色々安心だっただろう)
……まあ、今後の糧ってことで。
(暫く身悶えてから、落ち着いて)
(飯食って風呂入って寝よう)
(マントウをあっためて、適当に肉とキャベツを炒めてご飯を済ませて)
(社宅の近くの銭湯に出向いた……)
103
:
忍法・「燕女」
◆v6j.R9Z2OE
:2021/02/21(日) 07:35:43
(そして来訪者互助組合よりの連絡を受け、後日、郁橋様の御宅に伺ったのは皆様御存知、忍法・「燕女」)
(その日は来訪者互助組合員かつ公安第零課の課員、佐々木・燕女としてのご訪問であった)
(ちなみに、来訪者互助組合員で公安零課ってありなの?という話については)
(そもそも来訪者互助組合はボランティアなので副業にはあたらない。ゆえに無問題である)
(皆様方もふるって来訪者互助組合にご参加いただきたい)
(閑話休題)
(郁橋様宅に事前に連絡を入れてアポイントメントを取得)
(ご家族全員との話し合いの場を設けていただいたら、第一発見者のホロケウ氏)
(そして所轄最寄りの交番でもベテランの、谷本巡査を伴ってのご訪問である)
(本当は所轄警察署の生活安全課や地域課、警務課の課長代理クラスの方も伴いたいのだが)
(そこは人数が多くなりすぎるのと、事前の詳細報告で警察機構によい感情がないことを確認し、泣く泣く断念)
(公安零課の制服をパリッと着こなした上でお伺いすることにする)
(所在のはっきりした国家権力が後ろ盾にいることがわかる方が市民も安心できるだろう)
(そしてもちろん、諸々の手続きや調書に必要なため、同行もしてもらっているのである)
(ホロケウ氏からの事前情報の確認と、少々申し訳ないがご家族の詳細調査については予め済ませておく)
(この世界では中々に気合の入った、一昔前の「裕福な中流階級上層」の暮らしだ)
(ゴマ子という子はホストとして金銭面では「アタリ」を引いている)
(見事、ホストファミリーとの和解を成し遂げてくれたホロケウ氏には)
(篤いお礼を組合員として申し上げることも忘れない)
(一番デリケートな部分が解決しているので、もうあとは流れの事務作業だけで済むのだ)
(これは大変にありがたい。何度も頭を下げざるを得まい)
(装備としては手土産にご家族の好みを伺った上での、少しいいお菓子を人数分)
(ゴマ子ちゃん用のチュールも忘れずに)
(そして左腕と右目の欠損である。佐々木・燕女はけっこうな美人だ)
(故に、美しく着こなされた制服の左腕が当て所もなく揺れる様)
(美しい顔の右半分が黒い眼帯に包まれているのは痛々しくも映るだろう)
(少々、市井の方は正常な判断力を失いかねない金額の話が出てくるので)
(それにバランスをとる為の事前の措置であった)
(お昼前にご訪問し、込み入った挨拶を済ませると、早速、用件を片付けていく)
(まずは何はともあれ、新たな来訪者を迎えられるホストファミリーと)
(地域に新たな来訪者を迎え入れる地元警察の方々へと細々とした説明を済ませる)
(事前に組合のマニュアルや細かい規則を初心者用にまとめた配布資料を作成)
(困った時用の窓口電話番号なども網羅したものをご家族と所轄の方に配布)
(資料に則って軽い講習のような形で来訪者支援制度や補助金が出る旨)
(来訪者が何かトラブルを起こした際の取り扱いなどをスラスラと説明していく)
(家族の大事な話である。お兄ちゃんと妹さん、そしてゴマ子ちゃん用の対象年齢に合わせた配布資料も作成)
(一緒に話を聞いてもらう。ちなみに資料は全て日本語製)
(今となってはゴマ子ちゃんも読めるようになった家族の母国語の資料を眺めて一体感を高めて貰う)
(佐々木・燕女は事務屋の女だ。そこら辺はお手の物である)
(ちなみに、皆様には揺れる左袖について「名誉の負傷」と「特異体質なので自分は治る」と事前説明はした上で)
(今日は制服の内側のポケットにそっと忍ばせた白マフラー)
(「秘伝・萬海川集(ひでん・ばんかいせんしゅう)」を伸して腕の代わりに五指を備えた布腕を走らせる)
(子供たちがびっくりしてくれたら「実は忍者なんですよ」と虚実織り交ぜた話をして、残った左目でウインクを一つ)
(チャーミングに魅了をかけておいたら、ベテランの谷本巡査には「実は螺旋丸も使えます」と忍者への好感度を上げておく)
(本格的な疑問点やらについては、組合の分厚いマニュアルに、「このトラブルや質問はありそうだ」というところへ)
(付箋を張っておいたものを手渡し、ご両親にお渡ししたところでお昼前の説明は完了)
(「お昼をとったら、お金の話をいたしましょう」とやわらかく伝えてのお昼休憩である)
(さて、かくもスムーズに説明が終わったかのようになっているが)
(事前にクッッッッソ可愛いスコティッシュフォールド姿のゴマ子ちゃんが配信されている姿を見ていた佐々木氏としては)
(まず最初に「ゴマ子さん、人型と猫の姿に変身出来る来訪者さんでして」と事前説明をした上で)
(ベテラン巡査の谷本巡査に動画を見せ、クッッッッソ可愛いスコティッシュフォールドの魅力に完堕ちして貰い)
(「お前も沼に落ちるんだよッッッ!!」と谷本巡査の好感度をしっかりクソカワレイプしてメロメロにすることは忘れない)
(実際に変身などして貰って、堅苦しい説明の前、説明の最中、説明が終わった後に)
(「可愛い、可愛さがすごい」「いとかわし」と可愛さを連呼することしきりであったことを付け加えておこう)
(虚空の「いいね」と「RT」ボタンを忍法・五連打していたものである)
104
:
忍法・「燕女」
◆v6j.R9Z2OE
:2021/02/21(日) 07:39:50
(お昼は郁橋様たちの手料理をご馳走していただくか、はたまた店屋物をとるか)
(ホロくんの料理の腕を披露して貰うかは場の流れに任せるが――そこでも既に仕事は始まっている)
(皆様には料理を堪能していただき、燕女さんも料理を幸せそうに堪能するとして)
(食事をしながら、ゴマ子ちゃんと郁橋様たちにゴマ子ちゃんの問診票を作る為の質問をなめらかに重ねていく)
(2年、食事に関してトラブルがなかったということは、ゴマ子ちゃんは猫の姿であれば)
(こちらの猫用の食事については問題なく摂取出来ていたということなので)
(普段の猫用の食事について聞き取った上で、2年で判っているだけの彼女の生態を確認)
(問診票形式で記憶していく。食事中なので書き写しは後にするのだ)
(人用の食事については、可否が不明瞭なのだ)
(今は家族と同じ食事が摂れないか、摂らせていいかわからない状態だろう)
(そこについても、来訪者互助組合に来訪者も診れる医療機関があることを説明)
(一度受診して貰い、猫の姿と人の姿でのアレルギーなどについても検査して貰うよう勧めておく)
(ゴマ子ちゃんはクッッッッソ可愛いスコティッシュフォールドで人型も美少女である)
(同じ食事を摂らせてあげたい気持ちもわかるが、アレルギーが出たりするとお互いに辛い思いをする羽目になる)
(そこはお互いの為を思って受診結果が出るまでは控えていただくと)
(その流れで、「変身能力のある来訪者と暮らす際のあるある倫理観」の話についても確認しておく)
(ゴマ子ちゃんは猫の姿と人の姿になれる来訪者である)
(そして人の姿が本当の姿の来訪者であり、本質的には人間に近い)
(そういう来訪者を愛玩動物のように扱っていいものか)
(愛玩動物と同じ食事だけで満足させていいものか)
(逆に人間と同じとして扱わなければならないのか)
(それはホストファミリーが迎える問題の一つである)
(それに答えはない。答えはないが、実例はいくつもある)
(食事をしながら、ささっと問診票用の質問を終えた燕女さんは、まったり食事を続けながら)
(他のホストファミリーの様子を話し、家族でひとつ、その問題について考えていただく種を撒いておく)
(さて、食事を終えれば血糖値が上がり、眠くなるもの)
(なので、ここでいきなり大事な金銭の話を切り出したりはしない)
(まったりした時間はまったりした話を挟もうと一つ提案する)
(お土産のケーキと猫姿のゴマ子ちゃん用のチュールを振る舞いつつ)
(ゴマ子ちゃんの問診票を秒で書き終えたらやるのはゴマ子ちゃんの身の上話を調書としてまとめる仕事である)
(当たり前の話だが、来訪者の世界はこの世界とはだいぶ常識が違う)
(そこについて、家族全員揃って、また所轄の谷本巡査と、今後付き合いが発生する可能性もある)
(ホロケウ氏も合わせて、彼女の世界の身の上話を聞いておいて損はないだろう)
(特に警察機関についてはいい印象がないと聞いているので、そこの認識については)
(ホストファミリー全員が持ってもらわないと、危ない)
(この世界はどこに居ても、異界災害がいつ起こるか全くわからない)
(つまりこの家から避難しなければならない事態がいつ発生するか、誰にもわからないのだ)
(その際の避難誘導に従って貰えないと、家族を危険に晒す必要もあるし、そこで公務執行妨害が発生すると)
(ゴマ子ちゃんの持つ武器の威力から考えると、所轄の署員や警察官の方々の身も危ない)
(その他、常識のズレから起こるトラブルは多々ある)
(そういったものの認識合わせに、家族全員からの質問を交えてのゴマ子ちゃんの身の上話となる)
(もちろん、燕女さんが誘導質問を混ぜて、肝心の要点は綺麗に抑えた上で、だ)
(この家の家族構成は交友関係に至るまで、事前に丸裸にさせていただいている)
(そこから予想されるトラブルについて、事前に小石を退けられそうな質問をさりげなく混ぜておくのだ)
(お兄ちゃんを好きな子がいるのにゴマ子ちゃんが家にいるからっていう話になって)
(その好きな女の子がゴマ子ちゃんに色々と面倒をかけてレーザーが発射される事態になったら、まあ)
(家庭崩壊は免れまい。クッッッッソ可愛いスコティッシュフォールドを愛する燕女さんとしては御免である)
(この調書をとる意味はもうひとつある)
(調書と身の上話を進めていき、最後はこの街を数ヶ月前に襲った鬼の話が出てくるか、である)
(あの鬼は零課が回収しているが、民間で遺骸を回収していれば一千万単位で報奨金の出る大物だ)
(その鬼を倒したのは他ならぬゴマ子ちゃんである。そこの証拠固めをはっきりさせないといけない)
(鬼を討伐したのが彼女なら、本来なら彼女が受け取るべき報酬だ)
(だが額が額だけに慎重に確認を行わなければいけない)
(ゴマ子ちゃんの身の上話を聞き、攻撃、殺傷した対象の確認がとれ)
(その上で、彼女の武器の威力が真実、鬼を殺傷させられるかを確認する)
(あらかじめ用意しておいた、零課で回収された当該鬼の遺骸を加工した装甲板)
(それを撃って貰うだけである。無論、外に出て、忍法で左右上下と上空の安全確認)
(それを行った上で、萬海川集を変形させた、鬼の遺骸装甲板以上の強度をもたせた上で)
(光学系の攻撃をジャミングする忍法を周囲に配置して、繭状にした萬海川集の中の装甲板を)
(繭に銃口を突っ込んで撃って貰う。装甲板が見事貫かれたら証明は完了である)
(銃痕を確認するためのテストなどを思い浮かべていただければありがたい)
105
:
忍法・「燕女」
◆v6j.R9Z2OE
:2021/02/21(日) 07:42:12
(そして、お昼を食べた後の眠気もそろそろ引いた頃合いになったら――金銭の話になる)
(互助組合から出る来訪者ホストへの補助金は巡り巡れば国庫から出ていること)
(そして細かい税制などについての話と書類を来訪者互助組合の佐々木・燕女としてご両親に渡した後)
(公安零課の佐々木・燕女として、鬼を民間の人間が倒した際には報酬が支払われること)
(そして諸税を処理した後の額が1200万ほどであることを伝えた上で、報酬を受け取っていただく)
(それは零課や国防軍の各方面軍が本来果たすべき業務を代行してくれた民間人への正当な報酬であり)
(国政が護るべき市民の救出に間に合わなかった分、その生命を救ってくれた者へ贈る金銭なのである)
(一、零課員として、改めて)
(数ヶ月前、予報をすり抜けて襲来した鬼の討伐について、ゴマ子ちゃんへと感謝を込めて佐々木・燕女は頭を下げる)
(市町村でも町規模となると、死傷者は数千〜万単位にのぼっていた可能性がある)
(国政の防衛政策としてはそれだけの死傷者が出れば完全な敗北だ)
(ここ数年、死傷者を日毎で1000人以下に抑えていた予報部署としても足元の崩れる失態である)
(それを未然に防いでくれた彼女には、それを受け取るだけの権利と、心からの感謝を受け取る権利がある)
(来訪者互助組合員として深々と頭を下げた後、顔をあげると僅かな乱れもない敬礼)
(零課の課員。国家公務員たる警察官としての感謝をゴマ子に伝えた後)
(きりりとしまった場の空気をそのままに燕女は金銭面での話を進めていく)
(ゴマ子ちゃんが暮らすには補助金が出るが、流石に医療保険も効かない来訪者の一生の面倒を見られる額ではない)
(何故、子供を交えてこんな話をするのか、というと。「それは皆さんがこれから、本当の家族になるからです」と燕女は前置く)
これから、貴女はこのご家族と本当の家族になるんですよ
それは、そう
たとえば、です
こちらの可愛い妹さんが大きくなって
奥様と旦那様みたいな素敵な恋をして
幸せな家庭を築いて
その時、ゴマ子さんは妹さんの愛する人を受け入れられるか
ずっと一緒に過ごしてきた妹さんを他の誰かを好きになっても我慢できるか
なんて、少し難しいことを考えたり
この国は大体、お箸でご飯を食べますから、まず手づかみで食べ物を食べるのをやめて
フォーク、スプーン、そこからお箸の使い方を
日常の小さなことから妹さんやお兄さんに教えて貰ったりするんです
妹さんの恋人の話は、まだ早いかもしれませんね
でも
貴女がここにいる限り、それは『いつか』、貴女だけではないご家族全員の下に訪れる未来
一緒に暮らしていく人たちの20年、30年
40年、50年先が訪れる場所にいること
それが本当の家族になるっていうことじゃないでしょうか
ちょっとうまくいかないことも、泣きたいこともあるかもしれません
その時は、貴女が銃を手にした時に見た、妹さんの苦しそうな顔を思い出して下さい
それで大抵はうまくいく筈ですが、どうにもならなかった時は遠慮せず、ギルドを頼って下さい
逆に貴女もこれからは家族なんです、貴女も苦しそうな顔を我慢しないでください
貴女の世界では馴染みが薄いかもしれませんが、この世界では
誰かが苦しそうにしていたら、他の誰かが手を差し伸べてくれる世界でもあるんです
そのときもギルドやこの制服を着た警察官の皆さん、先程資料を見せた中にある
国防軍の軍服を着た方を頼ってみてください
そして願わくば、いつか貴女の手が
貴女を助けてくれたホロくんのように誰かに差し伸べられますように
一組合員からの言葉としては、こんなものですね
独身貴族の口から出たことなので、話半分で
最後のところだけ聞いてください
来訪者互助組合は、いつでも人手不足
ゴマ子さんを含めた郁橋様のご支援をお待ちしていますね
(家族になる。「誰かと一生を共にする」というのは、綺麗事ではない)
(この、人一人、老後まで生きていけるかという世界で、子供たちが適合者になった時)
(あるいは両親が事故で一生の怪我を負った時。「その先」を一緒に考えていく関係になるということである)
(そこには金がいる。ゴマ子ちゃんが「愛玩動物」ではなく、「家族」になるのであれば)
(それは誰かから、金を与えられ続ける関係のままでいてはいけないということだと燕女は語る)
(その上で、子供二人をこの世界で育てている郁橋家がどれだけ立派かということ)
(子供たちがいかに恵まれて愛されているかということを、燕女は静かに語る)
(「こういう機会でもないと、照れくさいかもしれませんので」とはにかみながら)
(本心ではある。本心ではあるが、打算と下心が0というわけではない)
(家族愛を強調し、家族の絆を確認していただいた後、こう切り出すのである)
106
:
忍法・「燕女」
◆v6j.R9Z2OE
:2021/02/21(日) 07:47:44
(「ゴマ子さんは非常に強力な武器をお持ちです。大型の鬼も仕留められるでしょう」)
(「お仕事の選択肢として、民間のハンターとして働くという選択肢もありますが」)
(「そちらについては、一度よく、話し合ってください」)
(「確かに、実入りは成功すれば大きいのですが、同業者との軋轢もありますし」)
(「何より――“こう”なって引退。残りの余生を病院のベッドの上で過ごされる方も少なくありません」と)
(気軽に1200万稼げる手段があるのである。ただしそこにはリスクが伴う)
(ゴマ子が負傷しても回復する、というのは現時点では知らない話ではあるが)
(だとしても、前提は同じだ。1200万、ポンと渡されて浮足立っているかもしれない家族に)
(左腕がなく、右目のない燕女と同じ姿になって稼がせる道を選ばせますか、と)
(そう問うて、「ゴマ子が家族のために金を運ぶだけの傭兵」にならぬように釘を刺す)
(家族が決めた上で結論を出すのなら、燕女に否やはない。そこは干渉するところではない)
(ただ、金銭の話は容易く倫理観を狂わせる。狂った倫理観に冷水を浴びせるくらいは許されるだろう)
(出来る営業のトークスキルというヤツである)
(零課用、そして来訪者互助組合用に調書を取り終わり、金銭授受を行い)
(今後の話として、民間傭兵のリスクについて説明した後は、「怖がらせてしまってすみません」と微笑み)
(「それでも」と道を選ぶ際のテクノロア社を含めた契約傭兵、民間ハンターとしての選択肢の資料)
(それ以外、バベルセプトの影響下にある為、国際通訳としての様々な通訳業や事務員としての選択肢)
(その他、クッッッッソ可愛いスコティッシュフォールドである面を活かしてのアニマルアクターへの道)
(それはそれとして地域の平和に貢献する為の防衛講習を受けるなどの互助組合の講習がある旨を伝え)
(このまま猫チューバーとして活躍するのであれば当面はそれもいい旨を話すと、事務方の仕事は終わりである)
(どこかのタイミングで少々、ご両親に時間をとっていただき、大人だけで)
(普段が猫の姿であり、人型の羞恥心が薄そうなことについてご両親ともちゃんと話し合っておく)
(堅い話が続くので、ひと休憩挟んだタイミングなどが適当なところだろう)
(とまれ、当面の生活、医療、金銭関係問題を解決)
(ゴマ子ちゃんの身の上話を皆で共有することで)
(出身世界の警察機構が、所謂特別警察のようなものであり、通常の治安機関への意識が皆無なことを関係者が認識)
(大型の鬼を殺害出来る殺傷力を備えた上で、彼女の武装は変身時に出現する常備化装備であり)
(どこかに離れて保管しても、結局彼女の装備として戻ってしまうことを確認)
(彼女の殺傷力は彼女と不可分であることを改めて確認したところで、必要がなければ武器を使用しないよう伝えて)
(その日はお開きとなる。その他、諸々の質問などあれば来訪者互助組合か地元警察署の窓口へ)
(そのために税金を貰って動いているのが国政が営むお役所というものであるのだから)
(その場で燕女が答えられることについては全て回答は済ませておいて貰ったと思っていただいてかまわない)
いやあ、あんなにクッッッッソ可愛いスコティッシュフォールドのお嬢さんと
お知り合いになれたのは大変な役得ですねえ……♪
(全ての仕事を終え、最後に、忍法で左腕と右目をご家族の前で再生し、「どうぞお健やかに」と敬礼して微笑む)
(ちなみに彼女だけの特異体質であり、普通はあんな重傷は一生モノの怪我だということも忘れない)
(そして郁橋様宅を辞した燕女さんは、帰りにホロケウ氏ことホロくんと谷本巡査を食事に誘い)
(その席で心底幸せそうに、クッッッッソ可愛いスコティッシュフォールドさんと撮った写真を眺めてたという)
(零課の仕事をし、来訪者互助組合の組合員としてもしっかり働いた燕女さんは大変に幸せそうだった)
107
:
ゴマ子
◆ZiOG0lyEZs
:2021/02/23(火) 17:20:18
>>102
「玉ねぎとか……?」
(敬語が抜けてきて、息子の友達みたいな感覚が強くなってきた……けれど、悪印象にならないのはホロくんの少年然とした姿のおかげか)
「郁橋……私がカリンで、主人がユキヤスです。よろしくお願いします」
(電話番号交換、そして)
(むー、といまいち何が悪かったかわかってない顔のゴマ子が写真に撮れて)
(それから猫モードになると、着せられていた服はその場にとさりと落ち、布の中から猫が出てきて)
(また人間になると、件のボロを着た状態……ママはどうしたものかと天井を見上げる1幕があったりした)
……ありがとう
「どうもお世話になりました、今後もゴマ子のこと、よろしくお願いします」
(玄関まで出てきて――ゴマ子はまた服を着せられ――お見送りし)
(見送ってすぐに、取り急ぎ、服屋へ急ぐのだった)
【まずはここまで、ありがとうございました。無事ゴマ子の人間としての暮らしが始まりますね】
108
:
ザック・ヒメタン
◆k1072NP5UU
:2021/02/24(水) 00:40:42
【α-130型さんとのロールに、レスを置かせて頂きます】
――うちの嫁はね。料理がとっても上手いんです。
チーズ味のキャセロール。具だくさんのクラムチャウダー。ミートボール入りのトマトスパゲッティ。
ベーグルは粉から捏ねて作るし、タルトやパイ菓子のレパートリーもめちゃくちゃ多い……。
(独り言のように言いながら、あたし……ザック・ヒメタンは、アサルトライフルの銃口を、すっと持ち上げた)
(胸と腕で、その重々しい兵器をがっちりと支える。バレルが真っ直ぐ前を向き、セメントで固めたように揺らがなくなる)
(軽く首を傾げて、ピープサイトを覗き込む。200メートル先に設置した標的が、風景の中に浮かび上がって見えた)
何かコツがあるのかと聞いてみると、まず第一に、道具を手になじませることが必要だって言うんですな。
包丁もフライパンも、秤や計量カップ、コンロやオーブンだってそう。
自分の手に合うサイズを選んで、何回も使って、指に重さと形、操作の仕方を覚えさせる。
料理が終わったら、ちゃんと出し入れしやすい場所に整理して片付けて、次に使うまでに手入れもしっかりしておく。
最初にそういう訓練をしておくと、初めてのレシピを見て料理を始めても、もたつくことなく、上手く作れるんだそうです。
なるほどなぁ……と、思いました。
自分に合った道具選び、道具の扱いの最適化、そして反復練習。確かに全部、大事なことです。
(鳥の声もしない、静かな山の中。青々と茂った木立ちの中にすっくと立つ、人型の黒い板はよく目立つ)
(その頭部に、意識を集中し……すぅ、と息を吸い込み……止めて……)
(引き金を搾るように、引く)
(風船の破裂に似た乾いた音が響き、銃口が薄い煙を吐いた)
(そして、標的の狙った場所に、小さな穴がぱつんと空く)
(10センチ下……ノドを狙って、もう一発。……命中。さらに下、胸の真ん中を狙って、もう一発。……グッド)
(縦にみっつ、直線に並んだ弾痕を確認して、あたしは気分よく頷く)
鬼退治を仕事にしていると、道具のありがたみがよくわかります。
銃が持ち運びやすい大きさと形で、きちんと言うことを聞いてくれるというのは、本当に心強いですもん。
……あー……それで、α-130型さん。あなたにお渡しした「支給品」の調子はいかがです?
(銃を下ろして、少し離れた場所に顔を向ける)
(標的の板とは真逆の、真珠を思わせる純白のシルエットが、森の風景を切り取っていた)
(もっと具体的に言うなら、不自然なまでに白い髪を長く伸ばした、小柄な少女がそこにいるのだった)
(そう、少女である。背が低く、線も細く、顔立ちも幼い。ジュニア・ハイスクールにでも通っていそうな歳格好だ)
(しかし、そんな彼女が身につけているのは、学生服なんかじゃなく、軍人が着そうな飾り気のない戦闘用スーツで)
(その小さな手には、少し前に他ならぬあたしが、テクノロア社製のアサルトライフルを握らせている)
(……あー、度し難い話ではあるけども。この少女は銃を持って敵と直接戦う、いわゆる戦闘要員というやつで)
(あたしと一緒に、人類の敵である鬼の支配領域に突入する任務を帯びた、一人前の鬼退治屋なのだ)
(さらにいうと、最近流行りの適合者とか来訪者とかいうジャンル区分ともちょっと違っていて)
(どこかの組織の誰かしらがクリエイトした、人工生命とか人工知能とかそういった感じのシロモノらしいよ。わお)
(……うん)
(テクノロア社に入り、鬼どもを狩るという特殊な仕事に就いて、異常な出来事への遭遇には慣れてきたつもりだが)
(世の中にはまだまだ、あたしの想像の及ばない奇妙なことがあふれているようだ)
うちの上司とあなたの上司が、どういう目的であなたとあたしを組ませて、仕事をさせようとしてるのかはわかりませんが。
少なくとも、期待している結末は「失敗」じゃあないでしょう。
勝って帰るためにも、α-130型さん、あなたにゃ最高のパフォーマンスを発揮して頂く必要がある。
そのために、うちの社のライフル銃が、お気に召してくれたらいいんですが。
バレルを多少短めにして、重心も移動させて取り回しやすいようにカスタムしてあります。
威力はそれほどデカくないが、滑らかに連射できて反動が少ない。非常に扱いやすい、良い製品だと思いますよ。
……ええ、ハンティングには、たぶん最適なものです。
今回の標的……『コールドナンバー1201』を仕留めるにはね――……。
(苦いものを噛むような気持ちで、その名前を口にする)
(この山の奥、少し歩けばたどり着く場所に、居を構えた一匹の鬼……人類の敵であり、あたしらがこれから撃ちに行く獣の名前を)
【では、こんな書き始めで、よろしくお願いします!】
109
:
α-130型
◆BpYjFWEe7.
:2021/02/24(水) 20:53:15
>>108
(そんな話を半分――正確に表すならば、9割5分程度聞き流しながら白い少女は手にしたアサルトライフルを眺めていた)
(マガジンを外せばそこから弾薬を一発分取り出し、手のひらの上で転がしてみる)
(――何気ない動作だが、それだけで一発分の凡その火薬量は把握出来た。これによって何が分かるか)
(引き金を引いた際の衝撃を推測できる。つまりは、反動の制御も容易になる。試し撃ちもしない、その動作だけで、だ)
(彼女は人間では無い。適合者でも、来訪者でも――鬼ですらない。人工生命体……目的をもって造られた命である)
(だから、その容姿もまた綺麗に作られている。それこそ、二次元に生きる者を三次元の世界に引き戻す程度には)
(彼女の所属する組織は殆どが謎に包まれたままだ。人数も、目的も、長すらも。とは言え、こうして他の組織に話を持ち掛ける位の社交性はある)
(それでも尚情報が洩れる事が無いのだから……相応の実力者達である事も知れよう)
(発砲音が聞こえた時、漸く少女は今回組むこととなった男性へ視線を向けた)
(その後、「的」へと視線を移す。……手のひらで弄んでいた弾薬を込め直し、マガジンを装填)
(――「的」へ数発の発砲。この間、約二秒。幾ら動かない「的」とは言え、銃口を向けて狙いを定めるまでに掛かった時間は極短い)
(更には、一発毎に狙いを直す素振りすらも見せない。見掛けこそ幼い物の、銃火器の扱いに関しては其処らの軍人よりも優れているのだろう)
(さて、「的」だが……新たな穴が増えている様子は無い。視力さえ良いのならば、男性が空けた穴が僅かに大きくなっている事が分かるだろうか?)
(つまり、だ。短時間の間に装填、リロード、発砲を行ったに関わらず彼女の弾は男性の弾痕をほぼ正確に撃ち抜いたのである)
ふふん。優秀な者ならば、どんなに劣悪な物であっても戦果を出すことは容易なのですよ?
――……ま、コレも合格点に届くレベルではあるのです。逆にポンコツを寄越すようならお前の頭に3段のたんこぶでも作ってやっていたのです
あと、αで良いのです。お前はエアコンに対しても一々エア・コンディショナーとでもいうのです?
私の名前を呼ぶのが恐れ多いのならば、α様と呼ぶのを許可してやるのですっ!
(ドヤ顔。物凄くドヤ顔。まるで誰もが羨望する人形の様な顔立ちが一気に憎たらしい顔へと変わるのである)
(この少女であれば、泥水に浸したカラシニコフでも一定の戦果を挙げるのは誇張でも無いのだろう)
(でも、やはり性能が高い銃器の方が使っていて好ましい。この少女が素直に(?)褒めるのは珍しいのだが――それはまだ、知る所では無いだろうか)
(そもそも褒めていると取って貰えるかすら怪しくもあるが……)
(黙っていれば良いのに勿体ない。俗にそう言われる様な少女なのである)
モジャモジャ頭にしては気が利くのですね?――ま、私が関わっている以上少なくとも失敗は無いのですよ
お前の考える失敗と私の考える失敗の意味が同じかどうかは知った事では無いのですが
傾斜や石に躓いた挙句に頭を打って死ぬならば、それは誰が見ても失敗として評価する上に今後の教訓として未来永劫語り継がれるのは間違いなしですが
(初対面であろうと罵詈雑言。相手が上の立場であろうと、自分の組織の者でなければ平気でズケズケと言う)
(――そう、まるで人間みたいに。人間一人を造った。それは一部論争の火種ともなりうるのだけれど)
(本人はそんな事はまるでどうでも良いと言わんばかり。ポケットから取り出したチョコレートを一欠けら頬張ると、残りを男性の方へと放り渡そうとして)
そんな間抜けな死に方をしたく無ければ食べておくと良いのですよ。お前の弱々しい細胞も多少は活性化するのです
血小板や白血球の一時的な増加、エネルギー効率に筋肉疲労の軽減――その上後遺症も生じないクリーンなドーピングなのです!
お前が死んで始末書を書くのも面倒ですし、お仲間のお悔やみごっこに参加させられるのもまっぴらごめんなのです!
……それで、『コールドナンバー1201』とやらをさっさと片付けるのですよ。お前と二人でこうしてるより、早く終わらせて甘いお菓子でも食べている方が有意義なのです
(協調性:著しく乏しい。いや、チョコを渡したのが彼女なりの心配なのか、それとも本当に死なれると面倒だからなのか)
(――兵器の扱いには突出して優れている。だが、耐久面がその容姿通りだ。まともに攻撃を喰らう事は極力避けなければならない)
(その事も加味してザックという男性と組むことになった。――との経緯があるとか無いとか)
(そんなことは兎も角として、早く任務を終わらせて直ぐに帰る。そう言い放てば、男性に先導して案内する様に目で合図)
(まだ信頼関係的な意味合いでの距離は大分遠いけれど)
110
:
ゴマ子
◆ZiOG0lyEZs
:2021/02/25(木) 14:42:29
>>103
(ホロケウの訪問があった午後、お兄ちゃんこと北斗、妹こと渚は、ペットからお姉ちゃんにクラスチェンジしたゴマ子と面通し)
(夜にはパパこと幸安とも顔を合わせ、無事に、一家に受け入れられた)
(ただ……大人二人は、経済的問題、部屋の問題、などなど多くの課題に頭を悩ませることになったが)
(実際に受けられる保障内容を聞くまで確定できないながら、取りうる手段をあらゆる形で検討していた)
(それらプランがいい意味で崩壊するとは思いもせずに……)
(郁橋一家は、お客様を迎えるにあたりそれぞれに、きちんとビジネス正装で備えていた。子どもたちも私服ながら襟付きだ)
(さて。郁橋幸安はただのサラリーマンである。警察とも軍需産業とも、その逆のワルな人々とも関わりのない。血生臭さと無縁の暮らしをしてきた家族だった)
(だから、警察というか軍服様の零課の制服に、ぴりりと緊張が走る。それも、美人ながら目立つ負傷の跡があるのだから余計に)
「郁橋幸安と申します。この度は、我が家のゴマ子がお世話になります。」
(複数の、制服をパリッと着た公的、かつ警察・軍人的性質の人々を前に、かしこまった態度で臨む。決して体力も態度も猛々しくはないけれど、一家を背負う父の背中だった)
(とはいえ。最初は特異な経歴による諸注意だ。堅苦しかったり、小難しい話は後になっていた)
(子どもたちは開幕お土産のお菓子で、負傷のびっくりするような見た目にも警戒感なく、素直に注意を聞き、スムーズに和やかに諸々は進む)
(子どもたちの注意の傍らで、大人は戸籍の新規登録なり保険加入なり、そうした手続きも並行して進め、名前を書いたりサインしたりのよくあるお役所の作業で、最初の緊張感も解れていく)
(なお、途中で実際に変身するところを見せるにあたっては、ゴマ子が人間になって直後は半裸という事情から、燕女さんだけを別室に通してのこととなり)
(谷本氏には少しの間、蚊帳の外になってもらうこととなった)
(お昼はお客様には出前のお寿司、子どもたちはお子様寿司サビ抜き、一匹は猫缶。万全を期して、食事はあと少しの、専門家の受診まではと、もう少しの我慢を強いていた)
(寂しそうな顔をしたゴマ子には、変わりにとちゅ〜るが与えられ、ぴちゃぴちゃぺろぺろする姿が来客達に範囲攻撃を繰り出したのである)
(それと同時に、ママと燕女さんとの間で、診断未確定とはいえママからも、来訪者食事事情の一般論リサーチも行われていた)
(もし大きな差し障りがあったなら、重度アレルギー者向けの食事や、ハラルフードのように専門店があるかとか、)
(そんな逆質問の合間に、ゴマ子のほぼ一般猫然とした暮らしが明かされる)
(診断が頼めると聞き、すぐに受診しましょう、そうしたらお祝いのご馳走ね、とママが約束をすると、「本当に!?」と、どうしてもお返事したかったゴマ子は人前で変身。幼い生尻が見えるのも構わずで、パパとママを慌てさせるのだった)
(少なくとも……郁橋家は、ゴマ子を一人として迎えなおす、それを前提にしていたので、倫理問題は半ばふーん、というものだった。強いて言えば、ゴマ子とは異なる、動物形態が正体である例には関心が向いたが……子どもたちが青い鼻のトナカイくんのイメージを共有してから、そっちの話に流されてしまって有耶無耶になってしまった)
(午後、お茶をテーブルに……ゴマ子はひとまずはお水を傍らに、身の上話を始める)
私のいた世界は……酷いところだったの
(そんな語り出しからはじまったのは、滅びかけの世界の悲惨な姿)
(空はずっと鈍色。彼女が生まれる少し前、隕石群に世界は打ちのめされ、半壊した。草木はろくに育たず、)
(その前は、生まれる前の話だから、と辿々しいうろ覚えの語り口だけれど)
(いるかいないかもわからない敵に怯えた国が、怯えてパニックに陥り、僅かでも反体制、反国家の言動をしたものは通報、警察により逮捕の後、再教育という名の拷問や洗脳、および処断がされる)
(それを奨励するために、賞金を出してのスパイ狩りなど行ったものだから、無辜の民もスパイ疑惑で捕まり、魔女狩り同然の行為が行われ)
(そして国や警察が物理で崩壊してからは、誰も信じちゃいけない、人を見たら泥棒か人さらいだと思うのが常という世界になっていた)
(そんな中、何歳かまでいたママ……実母とはぐれてからは、旧世界の保存食を漁ったり盗んだり、不味いコケ、焼いたネズミを糧に、生き延びたという)
(なお、ゴマ子は母国語で、「痛いことをして言う事聞かせる」みたいな辿々しい言い方をしていたのだけれど、バベルセプトによる翻訳がそれを脅迫でなく「拷問」と伝えるなど、幼さに不釣り合いな語彙を流暢に操っているように聞こえた)
(そんな身の上に絶句し、パパママの守護らねば意識をより強固にしたあと)
(現役警官および大人たちによる、ここの警察は安心だよプレゼン大会になって)
(それから、その後に話が向かう。ただ……ゴマ子は、自分が抱えたそれの価値を、わかっていた。どんな願いも、変な形でだけど叶えてくれる力なんて、言いふらしたら危ない。必要なときまで伏せるべき札だ、と)
(だから……お祈りしたらこの世界に猫としてきた、と。家族の危機にまたお祈りしたら、前の世界と同じ姿になれるようになったと。あと一度願いが叶うことは、伏せて語った。)
(そうして、その話が終わると、銃の使用試験だ。厳重に流れ弾が飛び出ないように構築されたケースの中、ZAPZAPと繰り出されたビームは、見事に竜の鱗の装甲板を溶かしせしめ)
(ゴマ子の銃の、恐ろしさと頼もしさを知らしめたのだった)
(そして……ついに告げられた、ゴマ子を倒した鬼の価値。1200万円)
(パパは0を一つ多く数えたのかと何度も書面を確認し、ママは氷漬け。)
(パパはこんなに貰えない、と言いそうになり、ゴマ子へのお金なのだからとぐっと飲み込んだ。ママはまだ凍っている。)
(ゴマ子が守ったもの。お向かいさんの、お隣さんの、子どもたちのクラスメートの、いつも通うスーパーの店員の、そんな人たちの価値がこれなんだと。燕女の説明が続いて、その価値の正当性を理解した)
(ただ……貨幣経済もボロボロ、遺失はしていなくても底辺民には縁のなかったゴマ子は、その金額の価値にピンとこず、また、家族以外を守った意識もなくて)
(当の本人はまるできょとん、ぽかんとしていたのだが)
(そんな当事者意識のない彼女だったけれど……本当の家族、その言葉で、パパ・ママに遅れて意識がひきしまる。)
(けれど。恋愛もなにもあまりなかった過去のため、最初の例えがあまりピンとこずに、代わりにパパがやきもきして)
(お箸やフォーク・スプーン、そんな身近なところで、いろんな違いが壁になることに、深く頷く。服の文化をはじめ、ほんの数日の間にも色々な違いに躓いてきたから)
(頼ること。助けること。それが、家族以外の人にも、頼って、助けての関係ができうることに、まだ半信半疑ながらも)
(信じて、動いてみよう、そう思わされて、大きく頷いた)
(仕事……となると、この子に?まだ学校も通ってないのに?といったパパママの反応と、仕事とは……?なゴマ子と、どちらもすぐには考えられなかったけれど)
(そして……)
(一つ。大きな実績があって、ハンター職ならすぐ適性があるんじゃ、と確かに考えた。学習に大きなハンデがある今、確実な将来像にも見えたから)
(しかし、すぐに燕女が、欠けた片眼と片腕を示せば、止まる。それは駄目だ。それは……どうしてもゴマ子がそうしたいとしても、認めたくない)
(すぐにそれにNOは出した、けれど)
(地域の防衛講習。家族をまた、あんな事態から守れる講習には、ゴマ子は目を輝かせて)
(渋るパパママを置いて、燕女に食いつくように詳しく聞いた……理解度はともかくとして)
(それはともかく、アニマルアクターの道には、パパが食いついた。パパが主体となって動画配信、盛況でスパチャも得ているくらい)
(自然体にではないけれど、それなら平和だしもっと大舞台に……と乗り気な反応)
(ただ、それらを決めるのはゴマ子だし、その道をすぐ決めるのも早急にすぎる。14歳のハ○ーワークを見せようか、と、現段階ではそれで落ち着かせ)
(当面のことを共有、把握、将来的な課題の認識、そうした諸々で大きな実りを得て、その日はお開きとなった)
(最後にネタバラシで再生した眼と腕に、なるほどしてやられた、そんな気持ちと、そこに込められた、よく考えられた忠告に納得するしかなく)
(ともあれ、まずは……ゴマ子のこれからの学習をどうするか。そこから始めよう、と決まったのだった)
【大変なボリュームで、掻い摘み返すにも色々悩ましく、このようになりましたが】
【ゴマちゃんがこの世で生きるあれこれを固めていただきありがとう御座いました】
111
:
ザック・ヒメタン
◆k1072NP5UU
:2021/02/26(金) 00:29:33
>>109
……ん? んんん〜……? ……ほぉーう?
こりゃお見事。正確さと速さがいい感じに同居してますな。
これほどうまく「刺せる」なら、たとえば看護士なんかに転職したとしても、超一流になれるでしょうよ。
(目を凝らして、α-130型が狙い撃った訓練用標的の状態を確かめたあたしは)
(彼女のやってのけたことを理解し、降参するように両手を挙げた)
(針の穴に糸を通すような、繊細な狙撃。それも、ほとんど間隔を開けずに、連続して撃ち込んでいる)
(低反動で狙いのブレにくい銃を与えはしたが、だとしても弾痕という極小の的を射抜く腕前は尋常じゃない)
(実際の戦場で、動く標的に対しても、このレベルの狙撃ができるのなら、何とも心強い……)
(……いや、「できるのなら」なんて、仮定の言葉を使う必要もないのだろう)
(彼女は「できる」のだ。だからこそ、あたしと一緒にここに来ている――)
(とはいえ。メンタルはどうやら、見た目の年齢相応みたいだなぁ……)
(彼女の言葉使いに、あたしは苦笑する。声のトーンは淡々としているが、感情の温度が高めだ)
(人の脇腹を小突いてくるような種類のトークではあるけれど、特にむかっ腹は立たなかった)
(アメリカに住んでた時、親戚のちびっ子にこういう感じのが何人かいたことを思い出す)
(生意気盛りで、飛び蹴りや首へのぶら下がりを得意技にしている連中だったが……みんな、根はいい子たちだった)
(連中の思い出を参考に、彼女の言葉をよく咀嚼すれば、その内容も別にきついものではないとわかる)
(こちらをバカにして下げるというより、自分を誇っているものがほとんどだ)
(結局のところ、彼女の能弁は、絶対的な自信の表れなんだろうと思う)
(戦うための力を、ためらうことなく怯えることなく十全に発揮できる心を持っているのなら。それはきっといいことだ)
ふむ? α……アルファと?
それは、悪くないですな。うん、わかりました、アルファ。これからはあなたをそう呼ぶことにしましょう。
あたしのことも、ザックでよろしい。……部隊の部下からは、「コーン」って呼ばれたりもしますがね。
ちなみに嫁はね、ふたりっきりの時は「ハニー・クッキー」なんて呼んでくれるんですよ。
ザクザクした歯ごたえのクッキーと、ダーリン・ハニーから連想したあだ名らしくて……おっと、話が横に逸れましたな。
とりあえず、その銃があなたの手足と大して変わらず動くってことがわかって、ホッとしましたよ。
これで安心して、本番用の弾丸をお渡しできるってもんです。……はい、どうぞ。
(言いながら、あたしはずっしりと重いマガジンと、同じくしっかりした重みのある卵型の塊を、アルファに差し出した)
弾頭は、金属質の鬼の外骨格から削り出したものです。さっきお使いになった練習用の弾と、発射の感触は変わりません。
そしてもうひとつ。文字通りの爆発力が欲しい時のために、鬼の鱗を使った手榴弾。
ちょいとばかし過剰かも知れませんが、異界の中じゃ何が起こるかわかりませんからね。
あなたのいうところの、間抜けな死に方を免れるためには、攻撃手段をひとつでも多く持っていた方がいい。
……ああ、もちろん、その甘みとカロリーに優れたドラッグで、体力を底上げするのも良い手ですな!
あたしは死にたくないし、甘党でもあるんで、遠慮なくごちそうになりますよ。……うまうま。
(弾薬と交換するように、アルファから与えられたチョコレートのブロックをパキリとかじって、その甘みを楽しむ)
(アルコールほど劇的ではないが、糖分は血を温めて、頭の働きを良くしてくれる作用がある)
(仕事の前に、そうして体を活性状態にしておくことは、実際悪くない行動だろう)
(親指にこびりついたチョコの欠片をぺろ、と舐めて、「ごちそうさま」を呟き……頭の中のスイッチを入れる)
ウォーミングアップ、よし。装備品、よし。本部との通信、よし。記録装置も……オン。
オーケイ、準備はととのった。アルファ、お望み通り、狩りに行きますよ。
あたしの右斜め後ろから着いてきて下さい。敵の領域はもう、ホントに近いんです。
今いる場所から、ちょいと下ったところに……ここからも一部は見えてますな……高速道路があるでしょう。
■■インターチェンジから、■■■パーキングエリアまでの約5キロメートルの区間が、敵の支配領域になっています。
――あなたも資料は受け取って読んでいるでしょうが、認識のすり合わせも兼ねて、簡単に説明しておきましょう。
今回の敵、コールドナンバー1201は……「道路」を異界に変える性質を持つ、巨大な鹿です。
(話しながら、木々を掻き分けて斜面を下っていく)
(やがて、整備されたアスファルトの地面……高速道路内のパーキングエリアの敷地にたどり着く)
(現在は異界発生のため、避難指示が出されていて、人のひとり、車の一台も見当たらない)
(そして……高速道路へ合流する道の先に……薄紫色の、半透明のカーテンのような膜が広がり、不気味に揺れていた)
(これが異界への入り口。現世と幽冥を分かつ、恐るべき境界線……)
(あたしは感覚を鋭く研ぎ澄ませながら、それに歩み寄っていく。後ろにいるアルファに話しかける言葉も、途切れさせない)
大きさはまあ、ちょっとした軽トラぐらいと思っといて下さい。大きく、重量もあり、車並みのスピードで走行します。
異界に入り込んだ人間を発見すると、主に、突進による体当たりで攻撃してきます。
要するに、単純な物理攻撃の獣ですな。
……でも、1201の真の脅威はそこじゃない。我々が特に警戒すべきは……やつに付き従う、眷属。
異界の中に大量に湧いている、「生きた道路標識」たちです……。
(薄紫色のカーテンを潜るようにして、異界に足を踏み入れる。境界さえ越えてしまえば、中の明るさは外と変わらない)
(同じ幅で長く続く、黒いアスファルトの道路。空は青く、太陽は輝いている。そんな空間の真ん中に、あたしたちは立つ)
(そして周囲を見渡すと……あちこちに……ひらひら……ひらひら……ひらひらと)
(春の野原で遊ぶ蝶のように、何十匹もの「交通標識」が、身をよじるように羽ばたいて、ゆっくりと宙を飛んでいた)
(『一時停止』。『徐行』。『指定方向外進行禁止』。『すべりやすい』、などなど……種類も様々)
(幻想的というか、悪夢的というか、シュールというか。非現実的で、不気味な光景である)
(もちろん、そんなものに見とれてやる義理などない。あたしはあご下に取り付けた通信機に口を寄せて、本部へ連絡を送った)
……イチサンマルマル。こちら『コーン』。『アルファ』とともに、1201の異界に突入。これより捜索を開始する。
アルファ。周囲を警戒しながら、異界の主である「鹿」を探して下さい。
交通標識どもには、近付いたりしないように。撃ったりして、刺激するのも駄目です。
連中の周囲、およそ半径2メートルの空間では、物体はその表示に従った運動を強制されます。
『一時停止』に近付けば、3秒ほど動けなくなるし、『徐行』なら動きがゆっくりになる、といった具合ですね。
積極的に襲ってはこないし、動きも緩慢だが。それでもあれらは敵の一部。
無数の「状態異常トラップ」が、そこら中に仕掛けられているものと意識して行動して下さい。オーケイ?
(あたしらは急造のコンビで、信頼関係はまだできちゃいない)
(でも、この異界の中では、あたしたちはふたりっきりだ。彼女以外に信頼できるものはないと考えて、指示を出す)
(はたしてうまくやれるか……いや、やらなきゃならない。気合いを入れて取り組みましょうや、アルファ?)
(銃を構えて、やや身を低くして、長い道路を慎重に進み始める。まずは、1201の本体を見つけるところからだ……)
112
:
α-130型
◆BpYjFWEe7.
:2021/02/26(金) 23:31:23
>>111
態々そんなものに転職する訳が無いのですよ。それに、もしソレに転職でもするならお前の血管に空気でも送り込んでやるのです
――大体にして、私がそんな事をしなくても医療に特化した妹がいるのです
人間の看護士や医者なんかよりもよっぽど優れているのですよ。お前が死ぬには惜しい人間なら、その時は診せてやってもよいのですよ?
(妹、との言葉から察するにこの人工生命体は他にも複数人存在しているのだろう)
(それぞれがそれぞれの役割を持つ為に作られた存在。知識を取り入れてその職に就く人間とは元から異なる存在だ)
(だから――少女が誇るのも無理はないであろうか。自分の分野に関しては並大抵の人間よりも秀でている。それは明らかな事なのだから)
(そして、ザックの少女に対する推測だが――当たって居る。まあ、外見の年相応素直でない……そんなところもあるのだが)
(ただ、少女もプロフェッショナルだからこそ戦果も能力も無い人間とは組まない。つまり、簡単な資料に目を通した上でザックの事を認めているからこそ組んでいる)
(上司の――マスターの言う事は基本的に絶対ではあるが、αの意志を確認したうえで命令を与えられる事が殆どだ)
(今回も同じこと。ザックと組む事に対しての軽い意思確認を行ったうえで今に至っているのだろう)
(――実際に本人に「ザック・ヒメタンに実力を認めているのか」と問えば、何時も通りの罵詈雑言が返されることになるのだが)
別にお前はお前で良いのです。此処にはそれ以外に居ないのですから、問題は無いのです?
そのお前がコーンでもクッキーでもどんな様に呼ばれていても構いませんが、精々爆散してあだ名がポップコーンや焼きトウモロコシにならない様に気を付けるのですよ
そんな死に方をすればお前の墓石に私が渾名をキチンと刻んでおいてやるのです!
日本式の戒名まで考えてやらない事もないのですよ?最後の晩餐は私に恵んで貰ったチョコだったとも付け加えておいてやるのです!
(マガジンを受け取ると、それ自体の重さの計算。更には、マガジン交換後の重心変化の再確認)
(弾の説明を聞きながらサイトを覗き込む動作。――先ほどと大きく変わる事も無いと判断すると、銃を下げて手榴弾も手に取る)
(破片により対象にダメージを負わせるオーソドックスな性能な物の様だが、この場ではそれが正解なのだろう)
(それもまた、手に馴染ませるようにして何度か握ったりと繰り返して。重さ、遠投に必要な筋力――それらを把握すると、スールの空いている枠へと提げた)
(狩りの準備も整った。バイタルも異常なし。自分が遭遇する初のタイプだが……やる事に変わりはない)
鹿なんて山にでも籠っていれば良いのに、何で態々高速道路なんかに陣取るのか理解に苦しむのですよ
鬼の鹿も山で草でも食べて過ごして居ればいいのです。そんなに道路が好きならばアスファルトの中にでも埋もれていれば良かったのです
……それで、その鹿狩りについてはよく分かったのですが
(素直に斜め後ろ、直ぐに援護も回避も可能な距離と角度を保ちながら注意事項とも言える言葉に対して耳を傾けた)
(簡単な事、とまでは言わないが、それでも良くある鬼に等しい。大型でも無ければ、極めて特殊な力を持ち合わせている風でも無い)
(それだけならば直ぐ終わる。でも、その鹿が最大限に力を発揮する道路というフィールド……そこに普段は人々を守るために立てられた標識が脅威になるとは)
(つくづく皮肉な物だ。資料を流し読んでいた時にも一癖二癖あるとは思っていたが――より詳しく理解している彼の言葉を聞くと、やはりげんなりとするものだ)
(本体にこの弾が通用するであろうことが幸い。ただ、発射された弾丸すらもその標識に従うとなれば、その場その状況に応じた即興的な作戦も必要になってくる筈だ)
(殆どの状況で、その標識達は脅威となり得る。されど、敵の武器を上手く扱うことが出来れば不意を突く事もまた可能となるだろうか)
(後に続いて異界内に入り込めば、僅かに顔を顰めて見せた。先ほど話を聞いたばかりだが、何だか感覚が可笑しくなってしまったかのような錯覚すら覚える)
(道路がチキンと道路らしく真っ直ぐな道である事だけが喜び。もしもこれで道まで歪んでいたら、慣れるまでに少し時間を要していた)
まるで薬に溺れる中毒者が見る幻覚のような世界なのですね。どうせならばケーキやクッキーでも浮いていた方がよっぽど楽しいのです
――お前は1201とやらと何回の交戦経験があるのです?
それだけの詳細なデータが残っているとなれば、何回か討伐しているか……何度か交戦して逃げているか。そのどちらかの筈なのです
でも、お前たちの組織力から考えると後者は先ず考えられないのです。――お前は何回その鬼を殺したことがあるのです?
(少女は自分の力に自信を持って居る。ただ、それは力を過信しているということでは無い)
(刺激しない様に、との注意があるならばそれに従うだけの協調性も持ち合わせてはいる)
(何より――この鬼については、彼の方がよっぽど詳しい筈だ。互いの生存確率を高めるには、より多くの実績を持って居る者を指揮官とするのが常)
(身を低くしたザックに反し、普段通り歩きながらもその足音は聞こえず。軽口の頻度も変わらないが、感覚はしっかりと研ぎ澄まされていた)
(まるで空気の揺れからでも獲物の気配を捉えようとする研ぎ澄まされた感覚。耳も僅かな情報も逃すまいと周囲の音をしっかりと聞き取り)
(――山を抜けたにもかかわらず、僅かな汚れも見られない白の髪。それは太陽の光も鋭く反射させる事だろう)
(つまり……相手の注意を引く可能性もある、ということだけれど)
113
:
ザック・ヒメタン
◆k1072NP5UU
:2021/02/28(日) 00:32:21
>>112
まったくねぇ。鹿らしく山とか森とか、自然の中に巣を作ってくれるのなら、人間の犠牲も出にくくて助かるのに。
よりによって出現場所が道路に限定されてるもんだから、運が悪いととんでもない数の死者を出すんですよね、こいつ。
まあ、今回はこの場所に1201が出現するって予知を、異界予報士が成功させてくれたんでね。
運良く犠牲がひとりも出ないうちに、異界全体を封鎖することができましたよ。
……それでも、高速道路が一日使えないってだけで、経済的には相当な損失なんで、早めの始末を頼まれちゃいるんですが。
(アルファの軽口に、こちらもまったりと言葉を返しながら)
(しかしかなりの速さで、あたしたちは車のいない高速道路を駆けていく)
(周りには数十の道路標識が踊り、中には好奇心でもあるのか、近寄ってくるようなそぶりを見せる個体もあったが)
(それらのすべてを無視し、進行に邪魔ならば大きく迂回するように避けて、先へ進む)
(昼の1時、太陽は真上からわずかに正面寄りにある。あたしたちの体が作る影は、身長よりやや短い)
(敵本体である鹿の姿も見えないが……しかし……2キロほども走ると、視界に映る標識の数が、やや増してきたように思えた)
交戦経験? 1201との? んー……そうですねぇ、ざっと30回ぐらいですかね。
最初の数回は、どんな性質の鬼なのかを調べるために、異界を見て回るだけして、ろくに戦わずに撤退しましたが。
それでも、かなり早い段階で能力がわかったんでね。いろいろ試した結果、安全な狩り方も確立できました。
これまでにうちのチームで、25、6回はぶち殺すことに成功してます。
かなり楽にハメられるんで、よっぽど予想外の大事故でも起きない限り、今後も負けることはないでしょう。
……ただ、ええと……ひとつ問題があるとすれば、ですね。
そのハメ方を実行するのに必要な仲間を。1201を無力化できる能力を持った部下を、今回は連れてきてません。
ま、仕方ないですわな。これは、あたしとあなたのふたりが任されたお仕事ですもん。
そんな時に、あなたが関わる必要もない安全な殺し方をしても意味がないし……あなたもそれを良しとはしないでしょう?
(ラクゴでいうところのオチを言ったような気分で、ははは、と小さく笑いつつ)
(ちら、と一瞬だけ振り返って、背後のアルファの様子を確認)
(小柄で口の悪い相棒は、問題なく着いてきている。声の大きさは控えめ、足音もほぼない)
(顔色も変わらず、呼吸も異常なし。実によろしい。……というか、人工生命って息が上がったりするんだろうか?)
(ただひとつ……細かいことだが、気になることがあった……美しい光沢のある、彼女の長い髪についてだ)
(降り注ぐ太陽の光を跳ね返し、オパールのような光沢を見せるその髪)
(ことによると、それは遠距離にいる敵に、我々の存在を知らせかねないものではないだろうか)
(今回の敵は接近戦専門の鬼で、遠距離戦を得意とするスナイパーではない。光の反射は、それほど脅威ではない)
(だが、先手を取られる可能性があるなら……)
(……飛ぶ標識たちの様子を見る。『一時停止』や『徐行』、そして『通行止め』の数が増えてきている)
(それともうひとつ、少し前方で、道路そのものに顕著な変化が起きていた)
(地面が。人が息を吸い込んだ時の胸のように……ぐぐ、と、盛り上がっている)
(ああ、こりゃ向こうさん、明らかに先手を取りに来ているな)
(だが、それに気付けた以上、こっちにもその先手を逆手に取れる目が残ったようだ)
……アルファ。あたしの後ろから着いてくるのはそのままで。そして、前方に集中。
銃を正面に構えて、いつでも撃てるように。
(上り坂になった道路。角度はざっと、10パーセントぐらいか)
(その原因は、道路にぽつぽつと止まって羽根を休めている『急こう配あり』の標識だ)
(こいつが地面に接触すると、その場所の高さが高くなったり低くなったりする。最も露骨なフィールド効果だ)
(しかし、今、こいつらが集中して、あたしらの向かう先を高くするってことは)
(相対的に、こちらのいる場所を低くするってことは……自分たちに有利な土俵を作り始めたってことは……)
(やっこさん、もうそこにいるんだろ?)
(地面がわずかに振動するのを、足の裏が感じた)
(ダカッ……ダカッ……ダカッ……と、硬い蹄がアスファルトを蹴る音が連続し、はっきりと近付いてくる)
(坂の向こうから。頂上を乗り越え。その姿を我々の前に現す――)
_人人人人人人人人人人人_
> シ カ に 注 意 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
(まず、その明確な警告文が、目に飛び込んできた)
(コールドナンバー1201は、巨大な鹿の姿をした鬼だ。ただし、本物の鹿とはかなり様相が異なる)
(その全身は、角も顔も胴体も脚も、全身がコールタールに浸かったように真っ黒だ)
(そして、頭上には、1201本体と同じぐらいデカい「シカに注意」の文字が、天使の光の輪よろしく浮かんでいる)
(あー……つまり……『動物が飛び出すおそれあり』系の道路標識から、そのまま抜け出してきたかのような姿なのだ)
(……うん、見た目はちょっとアホっぽいな?)
(でも、結局は軽トラ……どころか、小型のバスぐらいあるでっかい鹿だから)
(踏まれたり蹴られたり、角で引っ掛けられたりしたら、即死するぐらいの脅威的存在ではあるのだ)
(そんな化け物が、坂を駆け下りながら加速して、あっという間にあたしたちの目前に迫る……)
――アルファ、散開! 左右から横腹を狙う!
(というわけで、まずはセオリー通りにいこう)
(1201の真正面からの突進に対して、あたしはとっさに叫びながら、左に飛んだ)
(今回の相棒であるアルファは、機械のような冷静さと正確さを持ち、そして、人の言うことをきちんと聞く子だ)
(本番前の練習も真面目だったし、準備もしっかりしていた。あたしが声をかければ、律儀に皮肉混じりで返してくれる)
(この指示に反応できないほど、頭の回転が遅いとは思えないし、不真面目な子供のようなサボタージュもあり得ない)
(彼女はあたしの右斜め後ろにいたから、右に飛ぶ方が楽だろう。なのであたしは左へ行きます)
(標的がふた手に分かれれば、1201も両方同時には襲えなくなる)
(少なくともあたしたちのどちらか片方は、相手の意識から外れた状態で攻撃ができるようになるわけだ……)
114
:
α-130型
◆BpYjFWEe7.
:2021/02/28(日) 21:03:41
>>113
ふん、経済的な損失がどうだろうと、私にとってはお前の食べた朝食並みにどうでも良い話なのですよ
ただお気に入りのお菓子が来なくなると困ることと、命令だからするだけのことなのです
――それにしても、異界の予報が出来るなら、その中に予めお前でも案山子みたいに立たせて置けば良いのです
全く……それか車を全部鬼の身体で作った装甲車にでもしてそのまま轢いてしまえばいいのです!
(果たしてそれを実現した場合、どれだけの費用が掛かるのか――いや、この少女からすればそんな事はどうだっていいのだろう)
(背丈は男性に比べて非常に小さい。ともなれば、足の長さも異なる。それでもしっかりと速度に合わせているのはこの少女が見た目とは裏腹にそれなりに体力がある証左ともなろう)
(この場の主たる鬼を探しながらも辺りを漂う標識達を眺め、「コレはどんな意味だったっけ」なんて考える余裕も持ち合わせている)
(あまり害の無い物にはつい触れたくなってしまう。出来れば持ち帰ってマスターに渡したり悪戯の材料にしたい)
(――まあ、流石に任務の遂行中に捕獲なんて真似はしないけれど。この標識達も鬼を倒してしまったらきっと消えると思うと、少しだけ残念である)
115
:
α-130型
◆BpYjFWEe7.
:2021/02/28(日) 21:09:37
それなりの数を経験しているのですね。ならば、失敗した場合はお前の責任として全部被せておくのです
――…ある意味お前にとっても良い経験になるのですよ。その仲間とやらが死んだら、同じ作戦は使えないのです
況してやアホの鹿が新たな能力を入手した場合、不意を突かれる事だってあるのです
こんな世界じゃ何時消えるかも分からないし、何時組織に切られるかも分からないのです
……私の心配は無用なのです。後ろを見ている暇があるなら、髪の一本一本に神経を通して、鬼の気配がある方に髪が立つようにでもする事を勧めるのですよ?
――もうその必要も無くなって居る様ですが
(風を切って進む速度に、髪が靡く。きらりきらり、その存在を辺りに良く知らせる)
(男性の速度に合わせるためには、男性よりも多く地面を蹴らねばならない。それにも関わらず体軸はブレず、音も立てず)
(態々心配をして後ろを見てくれたザックに対し、「べっ」と軽く舌を出して毒づく位にはまだまだ大丈夫な様子)
(この少女を構成している材料が材料だ。鬼――では無いが、鬼に近い身体能力でもある。……それも鬼によって様々ではあるが)
(目の前の道路が盛り上がっていく様は初めてだ。成る程、標識が厄介とは確かにその通り)
(自分達に目掛けてくるだけならば対処法だって幾つも思い浮かぶが……こうして地形自体も変えられてしまう事を考えると、瞬時の判断も必要になってきそうだ)
116
:
α-130型
◆BpYjFWEe7.
:2021/02/28(日) 21:10:19
……本当にアホな鹿なのです。案外目立ちたがり屋なのです?
それとも、夜になると見辛い事を考えると逆に恥ずかしがり屋なのですか?
(足裏に伝わる微細な振動。近づく蹄の音。そろそろ今回の討伐対象の姿が見える頃か)
(巨大な鹿とは聞いているが、単純なソレとは異なるであろう事は予期していた。していた、が――流石に予想外である)
(標識云々の事からこの可能性も考えておくべきであった。……本体、どっちだ)
(アレ、「シカに注意」の「シカ」を上手い具合に消したり壊したりしたらあのまっくろくろすけにも影響したりしないだろうか)
(そんな事を考えながらも、同時に辺りの状況を把握。標識達が一時停止だとか、上り坂に向けて一方通行だとかして来ない事から搦め手はあまり使ってこないと思いたいが)
(あの鬼の知能がどの程度なのかは――交戦しながら見極めていけば良い。本来の獣よろしく本能のままに突撃するだけならば楽なのだが)
――ッ!言われなくてもそうするのですっ!挟撃失敗して私を撃ったらお前の腹にも穴を空けるのですよ!
ついでに少し耳を背けておくのも勧めるのです!
(ザックの声よりも数舜早く右へと飛び退く。一度の跳躍ではあるものの、それだけで十数メートル……ザックが反対側へと飛んだことを考慮すると、二人の間は数十メートルの距離があるだろうか)
(跳躍の最中、両足を宙に浮かせながらも黒き鹿の側腹目掛けて肝臓、心臓、後ろ足の股関節――と、思われる部位――それぞれに数発の弾丸を放って)
(巨体とはそれだけで脅威だ。だが、プラスに考えれば同時に大きいという事でもある。一般的な鹿と同じ場所に同じ臓器があるかは分からないが……機動力を削る事が出来れば僥倖)
(僅かな砂埃を上げながらアスファルトに着地すると、左手を銃身から離して――パチン、と指を鳴らす)
(それに呼応するかのように左掌に現れたのは、丁度野球ボールと同じ大きさの球体。所謂魔術によって作り出されたソレ)
(正体は「音」を閉じ込めたもの。スタングレネード程に強力では無く、広範囲に影響を及ぼす訳では無いが……間近で炸裂すれば、まともな生物ならば一時的に聴覚を阻害する事も可能であろう)
(狙いとしては、この鬼の性質を知る事だ。生き物らしい外観では無いが、五感があるのか否かを探るため)
(此方を認識しているのが視覚や聴覚であるならば、良い。ただ、この道路全体に神経を巡らせて位置の特定をしているならば隠れるのも無意味となろう。――だが、その情報を得られるだけでも儲けものだ)
(更に指先に魔力を込めれば、鬼の頭部へ向けて放たれ――何の阻害も無ければ、丁度耳に当たる部分に到達した頃に炸裂する)
(耳を背けておけ。それは少女なりの注意。元よりザックの聴覚を麻痺させる程の範囲は無いが……銃撃以外の何かが起きる、と心構えをさせる猶予を与えるには十分だろうか)
117
:
ザック・ヒメタン
◆k1072NP5UU
:2021/03/03(水) 00:32:29
>>114
、
>>115
、
>>116
……胴体なら、貫通の恐れはない! 標識を避けて、撃ちまくれ!
あと、耳、了解!
(1201の走行ルートから、ひとっ跳びで距離を取る)
(体を丸めて地面を横向きに転がり、その勢いのまま身を起こし、敵の方へ銃口と視線を向ける)
(目の前には真っ黒な巨体。このまま引き金を引いて、弾を適当にばら撒くだけでも、まず外しはしないだろう)
(だが、あたしは多少臆病なところがある男なので。安全を確保するために、もう一手加えておきたい)
(目を大きく見開き、視界をできるだけ広く取って)
(頭の中でスイッチを入れるようにして、能力を発動させた)
――Towards ZERO――。
(瞬間的に、世界が写真のように動きを止める)
(適合者になって手に入れた、奇妙な超能力……自分の精神以外の時間を停止させるという、よくわからない力)
(世界まるごとピタッと動けなくしてしまえるが、あたし自身も動けなくなる)
(最初は、「何だこれ役に立たねぇ」と思っていたが、いざ戦いの場で使ってみると、なかなかどうして)
(シューティングゲームで「ポーズ」をかけて、目の前の状況をチェックできるのって、意外とめっちゃ便利なのだ)
(さて、着地した巨大な1201だが、やつは立派なツノの生えた頭を、ぐるりとアルファの方に向けている)
(ふむ、やっぱりあのキラキラした髪が気になっているのか? それとも単に、何となく気が向いたのがそっちだっただけか?)
(標識は――1201が突進する時、後ろから着いてきていたのだろうか――かなりの数がこの場に集まってきていて)
(1201とあたしの間を遮る壁を作るように、空中に平面的に並んで、独特の幾何学模様を作っていた)
(数を数えてみる。ひーふーみーよー……こっちに来ているのは、今のところ28枚か)
(『通行止め』が8枚。『指定方向外進行禁止』が5枚。『一時停止』が7枚。『徐行』が4枚。『すべりやすい』が4枚と)
(こちらからはよく見えないが、アルファの方にも同じくらいの数の標識が行っているはずだ)
(そして、時間が経てば経つほど、集まってくる標識の数は増え、1201は戦力を増す)
(つまり、敵の軍勢が整列する前に、できるだけ速攻でぶちのめすのが正解、というわけだ)
(オーケイオーケイ。それはあたしの得意技だ)
(今は、アルファの方に気が向いているだろうが、クソ痛い注射をぶち込んで、むりやりにこっちを向かせてやる)
(ああ、いや、彼女も彼女で撃つだろうから、あっちとこっち、どっちを向いていいかわからなくしてやる……が正解か?)
(ま、どっちでもいいさ。鬼なんてみんな、痛がってビビッて慌てて、何もわからないうちに死んじまえばいいんだ)
(全部の標識の位置、1201本体の位置、そしてアルファの位置、すべてをしっかり頭に入れて)
(『Towards ZERO』解除――)
(瞬間、動き出す世界。音も風も、標識たちの羽ばたきも、1201本体の咆哮も再開する)
(あたしは落ち着いた気持ちで、ピープサイトを覗き込む)
(そして、時間を止めている間にゆっくり厳選した、標識と標識の間のごくわずかな隙間に)
(紳士的な余裕と冷静さでもって、銃弾をありったけ注ぎ込む!)
――オラアアァァ――ッ! くたばれや鬼アアアァァァ――ッ!
こっち無視して、そっちのちっこいのイジメようとしてんじゃねェ――ッ!!!
ケンカ売ってんだから買ってけやアアァァ――ッ!!!!!
(シンプルな罵声と弾丸が、標識たちの間をうまくすり抜けて、1201の黒い毛皮に突き刺さる)
(狙いは腹部。肋骨よりは下半身に近いあたり。本物の動物であれば、腸がたっぷり詰まってる位置だ)
(弾丸が命中したことを知らせるように、ビシビシ、ビシビシと、薄い金属板に穴を空けるような音が響く)
(そしてその音は、1201の巨体の向こう側でも、合唱でもするかのように重なって響いていた)
(見ると、アルファが煙を吐くライフルを右手で支えつつ、アスファルトの地面を踏み締めたところだった)
(彼女はどうやら、あたしとは違い、跳んで着地するまでの空中にいる間に、攻撃を開始する決断をしたらしい)
(前のめりというか、思い切りがいい。ううむ、うすうす感づいてはいたけど、彼女は口以外の部分も攻撃的だったか)
(でも、その決断が有効打を生んだようだ。おそらくだが、彼女が銃撃を行なったタイミングは、あたしより半秒ほど早い)
(その速攻のせいで、きっと、あっち側では標識たちの整列が間に合わなかった)
(身を守る準備のととのっていない場所に、すばやく正確に、弾丸が刺し込まれたわけだ)
(あたしの分も、彼女の分も。どちらの殺意も、1201に届いた)
(狙った場所から、ばっ、と真っ黒いしぶきが飛び散る)
(1201は「Puiiiiiiimmmm!!!!!」と、車の警笛のようなけたたましい音を発し、前脚を振り上げた)
(胸が悪くなるようなシンナー臭が、風に乗って漂ってくる)
(それは悲鳴であり、香っているのは体液……血の匂いだ。あたしたちはさっそく、相手に手傷を負わせることに成功した)
(だが、すべての弾丸が命中したわけではない)
(1201に直撃したのは、主に最初の1、2秒の間に放たれた数発程度だろう)
(敵側の兵隊である交通標識たちは判断が早く、本体にダメージが通っていると気付くや否や、速やかに隊列をずらして)
(弾の軌道に割り込んできては、攻撃をうまくいなし始めた)
(『すべりやすい』のマークのそばを通った弾丸が、ぐにゃっとぶれるように蛇行し、地面にめり込んだ)
(『通行止め』のマークはバリアだ。4平方メートルほどの八角形をした光の壁を展開し、キン、キンと弾丸を弾く)
(『指定方向外進行禁止』。その矢印の向いている方向に弾丸が向きを変え、どこへとも知れず飛び去ってしまう)
(うん、典型的な1201の眷属による、防御行動だ。ひとつひとつの標識が自分で思考しているような動きを見せて、本体を守る)
(あたしはこれまでに1201と向かい合ってきた経験から、その動きや特性を把握しているが)
(アルファもこれを見ることで、敵の行動パターンを学習できるだろう)
(書類で読む情報も大事だが、実地で得た情報は、さらに深く理解できる「経験」として、彼女の頭の中に入るはずだ)
(――経験)
(あたしにとっても、良い経験になる……先ほど、アルファが言った言葉が、頭の中でふと蘇った)
(うん、その通りだ。完璧で安全な狩り方がわかっていても、それだけあれば他はいらないというほど、この世界は甘くない)
(仲間がいない時に、独りで。あるいは、戦えない誰かを守りながら)
(はたまた、今回のように、初対面の相手と連携を取って仕事にあたらないといけなかったり)
(「普段とは違う状況」で戦うことを強いられる場面には、きっとこれから先、いくらでも遭遇する)
(だからこそ、この世界でやっていくなら、アドリブの強さを……即応力を鍛える必要がある)
(今回の任務に、あたしなりの意味を見い出すなら、それにしよう)
(初めての相棒のことを可能な限り把握し、可能な限りうまく使う。アルファの能力を活かし、支える)
(そうして、普段の必勝パターンと変わらない戦果をあげる。よし、よし、わかりやすい。あたし好みにまとまった……)
118
:
ザック・ヒメタン
◆k1072NP5UU
:2021/03/03(水) 00:33:15
(……で、そのアルファだけども。銃撃音が止まったと思ったら、左手を1201に向けて、カッコいいポーズを取っておられる)
(その手のひらには、なんか得体の知れない球体があるように見える。なんだあれ)
(可能性として高いのは……彼女が得意としているという『魔術』という力によって生み出されたものだろう)
(ゲーム的な表現をしてもいいなら、『攻撃呪文』的なやつ? メ■とか■ラゾーマならギリわかる!)
(銃撃の合間に、別な手段による攻撃も試してみようというのだろう)
(うん、ピンときた。さっき耳を塞いどけって言ってたのは、きっとこれに関連しての指示だな?)
(ならば、それがうまく決まるようにサポートしてやるのが相棒の務めだ。敵の意識を、あの魔法弾から逸らしてやろう)
――ヘイッ、まだ終わっちゃいねーぞッ、マヌケ!
ほんの10か20発はじいた程度で、生き残った気になるたぁ残念な脳ミソしてんなァ――ッ!?
いいぜ、その薄っぺらい紙切れで、あとどれだけ防げるのか試してやるよォッ!
(今度はあえて、標識にもそれなりに当たるように、やたらめったら弾丸をばら撒いてやる)
(キン、キン、キンと、無駄弾をはじかせる。軌道の湾曲を許して、空や地面に弾を逃がすことを許す)
(だが、その行動は広い目で見れば無駄にはならない。そんだけ撃ちまくってれば、1201はこちらを喫緊の脅威と見なし)
(アルファの方にいる防御用の標識を、徐々にあたしの方に移動させるだろう)
(向こうの防御が手薄になれば、それだけ彼女が、狙った場所に一発の攻撃を当てやすくなるってわけだ)
(……うん、この囮作戦はうまくいった)
(アルファが放った謎の球体は、標識のガードが薄くなった空間を、するりと抜けるように飛び)
(1201の頭部に接したあたりで激しくはじけて、爆発的な轟音を撒き散らした)
(あたしはそのタイミングの直前に撃ち方をやめて、とっさに耳を塞いだが、それでも内臓がずしっと揺れるほどの重い音)
(これを、まさに文字通り耳に叩き込まれる形で聞かされた1201の心地たるやどれほどのものか)
(外見的な反応は……まず、その黒い巨体が、びびくん! と感電したかのように跳ねた)
(よっぽど驚いたのか、四本の足が一瞬、30センチぐらい浮き上がった。全身の毛も、ぶわっと逆立ったかのように見える)
(そして……)
「Puiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiimmmmmmmmmmmmmmmm!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
(アルファの音爆弾に、負けじと張り合うかのように、1201は高らかに吠えた)
(そして、その全身から、青地に白で稲妻のマークが2本並んだような標識を何十枚と生み出し)
(そのすべてから、けたたましいブザー音を鳴り響かせ始めた)
(……この状況から、あたしが得られた情報は、ふたつ)
(1201は、少なくとも聴覚を持つ鬼だということ。それも、すぐそばでの大きな音を嫌う、デリケートな耳を持っている)
(そしてもうひとつ。……野郎、今の攻撃を喰らわせたアルファに対して、激怒しやがったということ)
(やつの巨大な頭が、地面を嗅ぐように下を向く。そして、後ろ脚が、ザッ、ザッ、と、具合を確かめるように道路をこする)
(それからの展開は速かった)
(どごん、と、アスファルトがひび割れるほどの力で、1201は大地を蹴り、アルファに向かって突進した)
(その姿はまさに、黒い砲弾)
(先端の枝分かれした、ごつく鋭い角が。車をも上回る重量の巨体が。そして、『シカに注意』という明朝体の極太文字が)
(一気に、アルファの小さなシルエットに迫っていった)
119
:
α-130型
◆BpYjFWEe7.
:2021/03/04(木) 23:26:34
>>117
>>118
(放った弾丸の数発の着弾を確認。確かに効いている様だ。――効いていなかったら、この弾丸を渡した男性の尻を蹴り上げようと物騒な事を考えていたのは内緒)
(標識達の行動も幾つか把握した。咆哮を行っている辺り、痛みも感じているのだろうか)
(……そんな事は今はどうだって良い。先ずはこの真っ黒な鹿を如何に素早く仕留めるか、必要なのはそれだけ)
(この弾速であっても標識の強制力からは逃げられない。地面にすら作用するのだから、想定範囲内ではある)
(だが、防御に割り切った動きをされればたちまち厄介な事となるだろう。能力を無効化するか……それとも、意識外からの強い一撃を与えるべきか)
(今この場では後者の選択しかあるまい。幸いにして、それを行うに相応しい物も一つ受け取っている)
(だからと馬鹿正直に真正面から投げた所で破片は防がれるだろうし――逆に此方へ返ってくる可能性も考慮せねばなるまい)
(一度限りのチャンス。緊張などする筈が無い。彼女はこういった作戦を行う為に造られたのだ。即興でのプラン立てなど直ぐに行って見せる)
口が悪いアホなのです。誰が「ちっこいの」なのか後で吐かせた上でトウモロコシ畑の肥料にでもしてやるのですよ
――ま、判断自体は悪くない様なのです。引き立て役としては十分な能力を持って居る事は素直に評価するのです
(音による攻撃を確実に決められるようなアシスト。即興のペアであってもそれを瞬時にこなす事には内心感心していた)
(一瞬が命取りの場面で何を行うのか詳細に語る時間は無い。最低限の会話で伝わるのは大きなアドバンテージである)
(やはり個々に攻撃しているよりも連携を取った方が火力が上がるのも明らか。魔法の質を瞬時に理解して、合わせる。伊達に隊長を務めていないという事か)
(まあ、この少女が素直にその事を褒めたりする筈が無いのだが)
(「音」に対しては過敏に反応して見せた。成る程、五感があると考えて良いだろうか)
(――怒り。良い、実に良い。確かに動物的である。これで標識で身を固められたら別なプランを練り直す必要があったが……この反応は悪くない)
(流石に盛大なブザー音で応戦されれば僅かにビクリ、と体が反応するけれど、怯みはしない)
(鼻息荒く、怒りも隠さず此方へと突撃してくる姿を見て次の一手が確定した。だが、先ずはこの窮地を乗り越えるのが先決だろう)
(ザックは――流石に猛スピードで迫ってくる鬼から守るだけの援護も期待は出来ないだろう。尤も、それに対して嫌味を言う少女では無い)
(あの魔法によりこうなる事は元々想定の一つにあった。誤算を挙げるとすれば……想像以上に鬼のスピードが速い点である)
(下げた頭部に向けて弾をありったけ撃ち込むか?いや、仕留められなかった時のリスクが大きい)
(推進力と重量を利用して首を真っ二つに切断しようにも自分の持って居るナイフではそれは難しく、もっと言えばそれだけの技量も無い)
(そうなると、避ける事になる訳だが――……)
あぅ――ッ――…!こん、のォ……ッ!
(思いっきり肉を叩きつけたような鈍い音が響く。宙に舞うのは少女の左前腕)
(角によって切断されたソレが、断面から血を吹き、回転しながら辺りに細い朱の線を描きやがて落ちる)
(少女は、と言えば。左の肘から先を失いつつも無事であった。――深手を負いはしたが、死に至るものでは無い)
(最小限のリスクによって回避できたのだから上々だ。生きているならばまだ任務は続行できる)
(少女自体も錐揉み状に回転していたが、バランスを取り直すとアスファルトに両足からの着地)
(――痛覚を遮断。腕を失った、という現状を認識すると小さく悪態を吐きはするものの、怯えの表情は見られず)
(外見こそ少女だが、やはり造られた存在。精神力は勿論、思考回路も見た目と同年代の少女等とは大きく異なる)
(鬼の様子を伺うことも無く、ザックの方へと駆け出す。折角的が二つに分散していたのに意味が無くなる?)
(いや、それで良い。確実に此方へと向かわせる必要があるのだから)
(ライフルをその場に捨て置き、後ろを見ずに後ろへと同じ音魔法を放つ。注意が此方に向けば良い。激昂すれば更に良い)
(汚れを知らなかった白髪も、今や彼女の血で斑に汚れている。それでも、気にする事なんて無い。――鬼を仕留める、それだけだ)
「ザック」!!合わせた後にさっさとその場から離れるのです!!
あの害獣をさっさと仕留めて
(初めて「ザック」と名を呼んだ。認めた、という証であろう)
(何をするのか、それを伝える暇はない。ただ、ザックに対しては身体能力が大幅に上がる魔術が掛けられる事となる)
(――これから何を行うのか把握できればそれで良い。考える必要があるとしても……彼には、その時間を安全且つ長時間取る事が出来る能力がある)
(即ち、ザックの手を借りて高く飛び上がった後に頭上から手榴弾を最大限のダメージを狙って放る)
(標識達に囲まれたとてど真ん中目掛ければ良いだろうし、標識の種類によっては想定以上の効果も望めそうだ)
(その為には地上付近を漂っている標識を避けて通れるだけの高さに飛ばねばならず、同時に信管を抜いた上で正確な時間まで保持しなければならない)
(仮にこれが致命とならずとも、ザックが更に追い打ちを掛けるであろうと踏んだ上での作戦だ)
(音であれだけ驚いていたのだ。今度はそれの比では無い)
(そしてザックが爆発までの短時間の間に破片の被害を受けない位置に移動できるかと言えば――身体能力の向上している間ならば十分に出来るだろう)
(意識が着いてこれるか否かは……彼ならばきっと大丈夫だろうか)
120
:
α-130型
◆BpYjFWEe7.
:2021/03/04(木) 23:33:35
【ちょっと文字抜けの修正を!】
「ザック」!!合わせた後にさっさとその場から離れるのです!!
あの害獣をさっさと仕留めて
↓
「ザック」!!合わせた後にさっさとその場から離れるのです!!
あの害獣をさっさと仕留めて戻るのですよ!
121
:
ザック・ヒメタン
◆k1072NP5UU
:2021/03/06(土) 00:39:24
>>119
、
>>120
(その一撃を妨害するには、あたしとアルファの間に横たわる距離が大き過ぎた)
(野生動物そのものの瞬発力には、残念ながら人の身では追いつけない)
(アサルトライフルの弾をどれだけぶち込んでも、すでに走り出した真っ黒い巨体を止めることはできない)
(その結果――ああ、くそっ――まるでサムライ・ソードを真っ直ぐ振り下ろしたかのように、アルファの腕がひじから離れる)
(黒いアスファルトの地面に多量の血液が飛び散り、彼岸花を思わせる鮮やかで複雑な模様が浮かび上がった)
――アルファっ!?
(1201の突進の直撃を食らったわけではない。おそらく、角の先がかすめただけだ)
(それでも爆発的な運動エネルギーは侮れるものではなく、小柄な少女を翻弄し、その肉体に深い深い傷を負わせた)
(――この結果は、明らかにあたしの失策である)
(気を張っているつもりでいたけど、きっと無意識では油断していた。これまで楽に倒せていた相手だからと)
(敵が『警笛鳴らせ』の標識で悲鳴を表現した時点で、次の展開を予想し、アルファを救助できる位置に移動するべきだったか?)
(いや、もっと前に、音爆弾による実験が行なわれた時点で、集中して敵の足を潰しにかかるべきだったか?)
(どうであっても、起きてしまった事故は覆せない。あたしの脳内自分テストに、マイナス30点をつけておく)
(それで……ここからどうする?)
(安全を取るなら、もちろん即座に撤退だ)
(1201の異界は、高速道路の中だけ。つまり、道を横に外れれば、簡単に敵の手の届かないところに脱出できる)
(アルファを連れて外に出て、すばやく治療をすれば、傷口の具合によっては、ちぎれた腕でもくっつくかも知れない)
(あたしの中では、8割方その方針で決定しつつあった。迷いはない。考える時間も、0.1秒も必要なかった)
(……まあ、うん、あたしもこれまで、機動部隊のリーダーとしてやってきたからね。安全を大事にするのが当然なのよ)
(ひじから先がふっ飛ぶ怪我って、普通に重症だしね。ヘタすると普通に死ぬし)
(勝ちにこだわって、パートナーに無理をさせる選択肢はなかったんだ)
(なかったんだけどさぁ……)
(鬼にふっ飛ばされて、くるくると宙を舞って、片腕なくしたアルファがさ?)
(悲鳴も上げずに、力強く両足で着地して、白銀色の目を戦意でギンギンに輝かせたまま、こっち向かってダッシュしてきたらさ?)
(後ろ向きの方針をほとんど決めかけてても、「あ、これ、考え直さないとダメなやつだ」ってなっちゃうだろ?)
おまっ……お前、イカれてんのかぁああぁっ!?
ああもう、ああもう――こーなったら速攻で片付けるぞっ、気合い入れろよ、アルファ――ッ!!!
(こういう時、彼女があたしの本名を呼んでくれたように、あたしも彼女の名を呼んでやれば格好がつくのだが)
(アルファベットと数字の組み合わせである彼女の本名は、とっさに叫ぶには向いていないのが残念だ)
(だがまあ、愛称で呼ぶのもさ、信頼の形のひとつってことで。こらえてくれ)
(アルファが空き缶でもポイ捨てするかのようなフォームで放った2発目の音爆弾が、1201の足元で炸裂する)
(1201はその時、アルファに向かって再度ぶちかましをかけようとしていたのか、方向転換をしてこちらに顔を向けつつあった)
(派手な破裂音に続いて、またしても鳴り響く『警笛鳴らせ』の耳障りなブザー音)
(たぶんだけど、この鬼は轟音に驚いて悲鳴を上げているというより、単純にこの魔法の音が嫌いなんじゃないだろうか)
(とにかく、この嫌がらせによって、やつがまた頭を下げて突進を始めるのが、ひと呼吸ほどの時間分遅くなった)
(そして、そのひと呼吸の間にあたしは、アルファがどのような構想のもとに動いているのか、推理する必要に迫られた)
――Towards ZERO。
(時間を止める。考える。気を落ち着かせて、アルファの気持ちになって、考える)
(目の前には、血まみれで、しかし殺る気マンマンって顔でこちらに駆けてくるアルファの姿がある)
(その背後には、身をよじってこちらを向こうとしている1201がいる)
(時間停止がなければ、あと5〜10秒程度であたしのいる位置まで突撃してくるだろう)
(やつは何発かの銃弾を受けてケガをしてはいるが、まだ充分に元気だ)
(倒すとしたら、頭や心臓などの急所に、あたしとアルファで大量の銃弾を集中させるしかない)
(うん、銃弾……アサルトライフルでの速攻が、あたしの考えていた一番シンプルなやり方だったんだが)
(アルファのやつ、どう見ても自分の銃を放り捨ててやがる)
(んー? どういうことだこれ。走るのに重いから、速さを得るために捨てた? まさかね)
(彼女の考えている1201の倒し方に、銃は必要ない? じゃあどうやって? ナイフじゃ弱いし、他に高火力な武器は……)
(――あ。ひとつあった。作戦開始前に、あたしがひとつ手渡している)
(え、あれ使うの? いや、まあ、当たれば大ダメージだけどさぁ……敵に近付かないとダメだよね?)
(怒り狂ってめっちゃ走り回る1201相手には、ちょっと危ないよ? 手榴弾)
(い、いや、いやいや。アルファひとりでやるつもりじゃない。こいつ、さっき言った。「合わせたあとに離れろ」って)
(敵に手榴弾を通すために、あたしが必要だってことだ)
(彼女がそれを投げる時、確実にぶち当てられるように。障害を排除し、彼女自身を守る。それがあたしに求められている)
(やれってんだな? 綱渡りになるぞ? それでも1201を殺して、勝って凱旋するんだな?)
(ああ、いいよ、いいともさ。パートナーの期待だもん、応えなきゃなぁ)
(目の前の状況を、よく観察する。いつだって、目の前の不可能を可能にする鍵は、目の前の光景の中にある)
(よし、よし、よし……いける。やる。失敗しないようにやる……アルファ、お前もしくじるなよ?)
(時間停止、解除)
よっしゃオラァッ! 来たな! 何も聞かずに、腹に力を入れてろよッ!
(すべてが動き出すと同時に、あたしのもとにアルファが到達する)
(無事な方の彼女の手を取……らない。細いウエストに腕を回し、コンパクトな体を持ち上げる)
(そのままあたしの肩と背中を使って、彼女のお腹を下にするように抱えれば、ファイヤーマンズ・キャリーの出来上がりだ)
(日本だと、お米様抱っことか言われることもある。ネーミングセンスやべーな日本人)
(本来なら、自力で歩けないような人を運ぶ時の抱え方で、力いっぱい走れるアルファには必要のないものなんだが……)
(今回の手榴弾作戦には、あたしがアルファを持ち上げて移動することが重要になる)
(どういうことかって? まあ、見てておくれよ)
(地面を砕くほどに猛然と加速しながら、1201がこちらにやってくる)
(巨大で頑丈な角を突き出して迫り来るそれは、まさに戦車。さらに、何十枚もの標識たちが周囲を浮遊して、防御を固めている)
(今、バカ正直に真ん前から手榴弾を投げても、あまり効果はないだろう)
(なので、狙うとしたら――うん、ここしかない――やつの頭上だ)
(1201の真上、高い位置に、手榴弾を持ったアルファを送り届ける。そのために、1ミリのミスも許されない綱渡りの始まりだ)
(でも、何でだろう。失敗する気が微塵もしない)
(アルファを抱え上げた瞬間、全身が石炭をくべられたように熱くなったのを感じた)
(その熱は、体の内側から湧きあがってくる力であり、「あたしならやれる」という、自信そのものでもあるような気がした)
まずは……ここっ!
(腰の鞘からコンバットナイフを抜いて、地面に近い位置を浮遊していた『一時停止』の標識に向けて投げつける)
(この標識は、周囲にあるものの動きを3秒間、停止させる。停止空間に侵入したナイフは、ぴたり……と空中で固定された)
(これで、ナイフは3秒間、何をしてもそこから動かない。……たとえ、あたしが全体重をかけて踏んづけても)
コンクリートで固めたみたいな、いい足場の出来上がりっ……とっ!
(アルファを抱えたまま、あたしは空中に固定されたナイフの柄を踏んで、跳び上がった)
(人ひとり抱えた上でのジャンプだ、そう簡単ではない。全力でやらねば失敗する……はずだったのだが)
(異様に熱を帯びた筋肉が膨れ上がり、あたしはまるでオランウータンのように、軽々と宙を駆けることができた)
(跳んだ先にあるのは『通行止め』。バリアとして攻撃をはじき返すその標識も、要するにただ硬いだけなので、問題なく踏める)
(さらにさらに、『通行止め』を蹴った先には、上に矢印を向けた『指定方向外進行禁止』のマーク)
(この標識の作り出す力場の影響を受けて、あたしたちの体は、さらに上へ……ふわっと浮き上がる……)
――オーケイ。ここまで昇りゃ、充分でしょうよ。
アルファ、あとはあんたの仕事だ。絶対に、はずすんじゃありませんよ。
(まるで、スポーツジムのボルダリングの壁を攻略するように、標識を利用してポンポンと跳んだあたしは)
(ほんの2、3秒のうちに、8メートル近い高さにまで上り詰めていた)
(こちらに向かって突撃してくる1201が、斜め下に見える。「シカに注意」のロゴすら、今なら見下ろせる)
(今、このアングルからなら、こちらの攻撃を邪魔する標識もほとんどいない)
(敵の急所である、太く頑丈そうな首が、あたしからはよく見えた)
(当然、アルファからも丸見えだろう……あとは彼女の、投擲の正確さ次第だ)
122
:
ザック・ヒメタン
◆k1072NP5UU
:2021/03/06(土) 00:41:40
>>120
【オーケイオーケイ、大丈夫、意味わかりますよ!】
123
:
α-130型
◆BpYjFWEe7.
:2021/03/07(日) 03:04:06
>>121
(うむ。最低限の伝達であったが結果としては上々な気がする。作戦実行前の軽いブリーフィングにてザックの能力は軽く教えられたが)
(取り敢えず、安全に長考可能な時間が取れるとだけ認識をしていた。間違いは無い筈だ。多分)
(後はその状況、言葉からの推測に賭けていた。――ただの兵士相手ならば、そんな一か八かなんて事はしなかったけれど)
(彼の実力を評価している。求めている答えに辿り着くと判断したからこその行動)
(α-130型は人工生命体である。基本的に合理的な処理を好む。――だから、この場では力を借りる事こそが、最もよい結果を導き出せると踏んだ。それだけだ)
至極真っ当なのですよ。思考もクリーンで内部状態も腕が吹っ飛んだ以外にはオールグリーンなのです
――ふふ。幼子が此処まで痛めつけられているのに撤退の二文字を出さないお前は鬼なのですね
だけれど――……この場では、その判断は極めて評価できるものだと伝えてやるのです
(片腕を失くし、血に濡れても少女は何時も通りにトゲトゲな言葉を放つ。だが、心なしかその表情は嬉しそうでもあった)
(此処で撤退と伝えていれば、冗談で無く回し蹴りでも放って蹴り飛ばそうとした事だろう。それも、「舐めているのか」と悪態を吐きながら)
(だが、ザックの出した答えはこの少女に合わせるというもの。つまるところ、作戦の続行だ)
(それは信用しているとも取れるだろうし、一兵士として認めているとも取れるだろうか)
(α-130型は優秀な人工生命体だ。それでも、その容姿で実力を侮られる事がある。――彼女を作った人物曰く、それも狙いの一つであるという)
(α自身もソレを良しとしている。――だが、「仲間」からその様に思われる事に対しては憤慨するのだ)
(彼女が問題無いと言えば問題無い。過度に心配すれば逆に刺激する。だから、ザックの判断はベストなものである)
――……ま、抱え具合は100点中10点といった具合なのですが
この私を荷物の様に扱うなんて、失礼なお猿なのですよ
仕事が無くなったら曲芸師になる事でも勧めるのです
(これからの行動については聞かない。ザックもそれを語るだけの時間は無いだろうし、下手に舌でも噛まれて失敗されては困る)
(それに、今回は完全なアドリブ作戦だ。刻一刻と変化する状況から瞬時に最適解を見つけなければいけない状態なのだから、「討伐する」以外の情報は不要だ)
(いざαを抱えてみれば分かる事だが、見た目に比べて非常に軽い。そして、人に比べて明らかに体温が低い)
(彼女が人間と異なる事を改めて示唆するかの様である。ただ、感触自体は人間と何ら変わりはない)
(大人しく――でも、無いが――抱えられたまま上に上がっていく事は彼に任せる。その最中に自分が行うことは、最良の手を打てるように幾つもの平行思考)
(起爆に必要時間。投げた後の到達時間。その後のダメ押し。それらは全て、彼が標識を攻略した頃には終えていて)
誰に対して外す事を心配しているのです?
――私は外さないのですよ。特に、私を怒らせた相手に対しては……絶対に外さないのです
(手榴弾のレバーを握り、ピンを歯で咥えて引き抜く。それをやれば歯が欠ける、なんて話も有るが――そんなの、人間で無ければ心配いらない)
(この高さであれば、気持ち早めの投擲を行えば最大火力をあの首にぶつける事が出来るだろう)
(――1秒。2秒。コンマの単位まで、少女は正確に測り……やがて、その首目掛けて投げつけられた)
(余程のイレギュラーが起きない限り、それは首の直ぐ真後ろで起爆する事だろう。爆発自体のダメージが無くとも、中枢神経に深手を負わせる事が出来ればよい)
(対象が大きければそれだけ破片が刺さる範囲も広がるという物だ。)
(この場所も良い。高さも良い。角度も悪くは無さそうだ)
さ、終わらせるのですよ。あの鬼には早く地獄に帰って貰うのです
お前も無駄な残業をしたくなければ此処で片を付けるのですよ
二人揃って帰って任務完了なのです。モジャ毛、生きて帰るまでが遠足なのです
(抱えられながらもニヤリ、と今度は明らかな笑みを見せた。それは自分への強い自信と、この一手で終わると言う確信)
(するり、とザックの肩から抜ければ猫の様に軽やかに着地。場所は鬼のやや後方――そう、アサルトライフルを置き捨てた場所である)
(鬼と自分との間に幾つかの標識があれば計画通りだ。爆風も破片も干渉され此方に被害は及ぶまい)
(左腕が無いから精密な射撃は出来ないが、手榴弾が成果を出していれば問題ない)
(それに今回は単独任務では無く、二人での任務だ。もし火力が足りなかったとしても、ザックの方が補ってくれるだろう)
(信頼と取るか否かは人によるのだろうが)
(銃を拾い上げ、大雑把に狙いを定める。片手で長物を扱う故に、本来通りに構えて撃つという事は不可)
(――それでも、数発を放つ事は可能だ。今回は精密な射撃も要らない。手榴弾によって抉れた箇所に弾を通す。それだけで良い)
(剥き出しの箇所を弾が貫けばそれだけで甚大なダメージを与えられるとも考えられよう)
(仮にこれらがオーバーキルであったとしても気にしない。鬼なんて、必要以上に攻撃する位が丁度良いのだから)
124
:
ザック・ヒメタン
◆k1072NP5UU
:2021/03/08(月) 23:33:08
>>123
ええ、ええ、ええ。あんたに任せるのが今の最善ってことですよ。
ここに来る前に見せてくれた、標的を精密に狙う腕前。銃でなくても発揮できるって信じてます。
――もし外したら……成功の時はご褒美として、フルーツパフェの美味しい喫茶店に連れてってやるつもりでしたけど……。
その代わりに、超がつくレベルの激辛系ラーメンのお店にご招待してやる……!
(『指定方向外進行禁止』の標識による上昇が止まり、あたしとアルファの体は一瞬、空中で停止する)
(これから落下が始まるまでの、ほんの短い時間。しかしそれでも、アルファならしっかり狙いをつけることができるはずだ)
(そこに疑いはない。……疑いはないけど、一応、近所の辛い系ラーメンの美味しい店を、頭の中でピックアップしておく)
(アルファの片腕が、いくらかの血のしたたりと一緒に、手榴弾を放る)
(くるくると回転しながら、その兵器は1201の首の根元あたりに吸い込まれていき)
(相手の黒い毛皮に触れるか、触れないかといった素晴らしいタイミングで……炸裂した)
(白い閃光と、腹に響くような轟音。アルファが使っていた音爆弾とは違う、暴力的な衝撃)
(もうもうとした黒煙が1201の頭部と背中を包み、その姿を数秒、視認不可能にする)
(あたしとアルファは……爆風に少しばかり流されはしたものの、落下するタイミングはちゃんと計れていたので)
(ケガをすることも転ぶこともなく、優雅に着地することに成功していた)
(……おっと、もちろん、1201への警戒も怠っちゃいないとも)
(器用に身をくねらせて、あたしの肩から下りたアルファは、先ほど放り捨てたアサルトライフルを拾い上げると)
(本来両手で扱うべきそれを、片手でむりやり持ち上げて、その銃口を煙に包まれた1201に向けていた)
(ふむ、よし。手榴弾で勝負が終わったと決めつけてない。敵の反撃を前提に、迎え撃つ準備を整えている)
(アルファにプラス20点。でも、しっかり支えきれない片手だけでアサルトライフルを扱おうとするのはよくない)
(あたしというおじさんがすぐそばにいるんだし、頼ってくれていいんだよ?)
(彼女に倣うように、あたしも銃を1201に向ける)
(片膝を地面についた射撃姿勢。位置取りは……アルファのすぐ前)
(彼女のライフルの銃身を、あたしの肩に乗せられるようにする)
(片手だけで銃を支えようとすれば、どうしても反動でブレが大きくなるが……簡易な台座があれば、ずっと安定するはずだ)
(耳元で発砲されることになるんで、めちゃくちゃうるさいのは間違いないだろうが、うん、それくらいは耐えてみせる)
煙、晴れますよ……。
(自然の風が、1201を覆う煙幕を拭い去っていく)
(黒いヴェールがはらわれて、初めてあたしたちは、手榴弾が奴に与えたダメージを確認できた)
(1201は、まだ、生きていた)
(首全体が大きく傷つき、滑らかな毛皮はズタズタに引き裂かれている)
(角が両方ともへし折れて、頭部の右半分が大きくえぐれていた。普通の鹿であれば、脳がこぼれ落ちているだろう)
(頭上の『シカに注意』の文字も破損しており、『ンカ こ 主意』みたいな感じになっている)
(最後のは敵にとって、どれくらいダメージなのかわからないが。少なくとも、先の爆発はやつの命を、ほとんど刈り取っていた)
(瀕死である。瀕死であるが……それでもまだ、敵は生きる意志を失っていない)
(「Puiiiiiiiiiiii……」と鳴きながら、またしても頭を下げ、突進の姿勢を見せる)
(頭の上から、標識を生成し始める。「!」マークの『その他の危険』標識を、大量に――……)
――発射ァ!
(当然、こちらはその反撃の準備など待ちはしない。新たな標識が効果を現す時間など与えたりしない)
(フルオート設定でトリガーを引く。やつの頭部の傷跡に、弾丸をこれでもかとぶち込んでやる)
(明るい中でも、菫色のマズル・フラッシュが閃き……敵の体が、バイブレーターをあてられたかのようにぶるぶると震えて……)
(ちょっとしたバスのような巨体が、悲しげにひと声鳴いて、つんのめるように前脚を折って倒れていき……)
(ばちゃん!)
(……と……大量の黒いペンキのような粘液となって、崩壊した)
(それが、コールドナンバー1201の最期であった)
(5秒ほど緊張を解かずに、その様子を見届けてから、あたしは銃を下ろし)
(ふ――っ……と、肺の中に溜めていた空気を一気に吐き出した)
……本部へ。こちら『コーン』。ターゲットの無力化を確認……。
これより、ポイント23-Gより脱出する。『アルファ』の治療の準備を頼む。通信終わり……。
……アルファ……あー……アルファ。よくやりました……討伐作戦は完了。あの鬼はしっかりぶち殺せましたよ。
あなたはいい仕事をしました……ええ、実に。打ち上げはラーメンじゃなく、もとの予定通りパフェでいきましょう。
もちろん、その腕の治療をしてからね。ちぎられてから今、1分ぐらい? 急いで手術すればくっつくかな?
ああ、ああ、希望は捨てないで! うちの社の医療スタッフは優秀だから! きっと元通りに治してくれますよ!
というか、えっと、吹っ飛んだ腕どこにいった? ちぎれた部分がないこと、くっつけるも何もないもんだ!
脱出前に、あれ回収しないと……ああ畜生、敵倒したってのにこんなざまじゃ、嫁に笑われちまう!
(鬼が死に、異界が崩壊し。眷属である標識たちも一斉に命を失い、風に吹かれた枯葉のように地面に落下していく)
(なんとも儚いその光景の中で、あたしはわたわた、きょろきょろしながら、落ちた腕を探していた)
(戦いが終わると、なんかどうしても緊張の糸が切れる。この辺カッコがつかないと、部下にもよく注意されてる)
(家に帰るまでがピクニックだってのは、わかっちゃいるんだけどね……やっぱり、自然とホッとしちゃうんだよなぁ)
125
:
α-130型
◆BpYjFWEe7.
:2021/03/11(木) 20:58:41
>>124
(パートナーの肩を銃座とする事には躊躇いを見せなかった。逆転劇が有り得る状況でそれだけの気遣いも出来まい)
(平時でもそんな気遣いを発揮する事が無い事も否めないが……それは兎も角として、やはりまだ鬼は生きていて)
(予想通りと言うべきか何と言うべきか。ただ、限界が近い事も一目で分かる。どれだけボロボロになっても同情などない)
(――合わせる様にして射撃。もう弾倉の中身を気にする必要も無いだろう。撃ち切る頃には鬼が事切れていることなど明白なのだから)
(今回の討伐が終わった、と実感したのは鬼が粘液と化した時だ)
(それと同時に覚えるのは疲労感。初めてのタイプの鬼との戦闘はやはり疲れるものだ。さっさと帰って糖分補給でも、なんて思っていたけれど)
(横で報告を行っていた男性が何やら若干のパニック状態。……自身の無くなった左腕を見て、「嗚呼」と納得し)
――手術なんて必要ないのですよ。マスターに言って新しく腕を作って貰うだけなのです
お前達人間と違って私は元々造られた体なのです。腕の一本程度ならば少し時間を掛けてまた付け直すだけなのです
……共闘記念に持って帰りたいと言うのならば止めはしないのですよ?ガラスケースに入れて毎朝拝むことも許可してやるのです!
それよりも……これ、お前に返すのですよ。新しく鬼がまた湧いて来ない限りは不要なのです
(何十年という長い時間を掛け、様々な経験を経た訳では無い。故に、命の価値観も異なるのだろう)
(指差す先には少女の細い腕が落ちていて――何も知らない人物が見れば、鬼から逃げきれず犠牲となった子供の一部分とすら認識されそうで)
(その腕に対しても、当の持ち主はさして執着を見せはしない。もし持ち帰るのならば、それはそれで良い研究材料となるだろうか)
(実際に腕を拾った所で咎めはしない。好きにしろ、とは文字通りの事だ)
(代わりとしてマガジンの中身を撃ち尽くした無理やり銃を押し付け、自身は身軽になれば)
さ、早く帰るのですよ。任務が終わったのに長居していても無意味なのです
そんな事よりも、お前にはパフェを奢って貰うと言う新たな任務があるのです
――別に食べるのは片腕が無くても支障は無いのですよ
(もがれたて新鮮な左腕を周りが見てどの様に思うか、なんて事は重要では無い。ザックが食わせてくれるというパフェの方が今は大事だ)
(帰りの道中もジュースも追加しろだのお土産も欲しいだの、散々好き放題言うのは今更伝えるまでも無いか)
(……しかし、つい先ほどまで異界との境目であった所に一人何者かが立っていた)
(後から別な者達が追って来るのか、それはまだ分からない)
(バイザーを下したフルフェイスのヘルメットを被り、オートバイジャケット。手はミリタリーグローブで、足はミリタリーブーツ)
(完全に肌の露出を隠した、所謂不審者。そんな人物が二人の姿を見つけると、あいさつ代わりに大きく手を振って)
「やあやあ、お疲れ様二人共。特にザック・ヒメタン君はじゃじゃ馬のお守りもあって大変だっただろう?」
「α-130型の視覚から得られた情報を元に、コールドナンバー1201について私から見た限りの情報を纏めてみたよ」
「君達の組織は優秀だからねェ……もうあの鬼についての情報は探り尽くしているだろうけど、別な人物からの観点として役立てて貰えたら嬉しいよ」
「お世話になった隊長くんへの労いと言うにはちょっと味気が無いが……この天才画伯の私が描いた図解付きだからね。売っても良い金にはなると思うぜ?」
……マスターは何時も通り絵が壊滅的に下手なのです。これじゃ古代壁画の謎生物と言われても信じるのですよ
(α曰く、マスターと呼ばれる人物らしい。声も変声機を通している所為で男か女かも分からない)
(バイザーにはネオン文字で「労い」と浮かんでいる始末だ。人工生命体が変人なら、それを造った人物も変人らしい)
(差し出された一冊の薄い紙の束は今回討伐対象となった鬼の情報がこの人物なりに纏められているのだが――その量が半端では無い筈)
(更には丁寧にイラスト付きだ。ネコか犬かはたまたモンスターかよく分からない図に色々と文字が書き加えられている)
(新たな発見を得られるかは分からないが……受け取ってやるならば、バイザーに浮かんでいた文字がサムズアップへと変わり)
「本当は色々とザック・ヒメタン君から生の声を聴きたい所だけど……流石に今この場で聞く程に空気読めないさんでは無いからね」
「取り敢えずは休息して貰うのと……α-130型。君は腕を早めに治さなければいけないね。まーた私が色々と面倒を見るのはごめんだからさァ」
「あ、でもこれだけは聞いておきたいな。ザック・ヒメタン君――α-130型。延いては人工生命体との共同作戦はどうだったか。そこだけ率直な感想を聞かせて貰って構わないかな」
(α-130型の片腕が無くなって居る所を見ても、特に動揺は見せなかった。寧ろ、冗談めかして一言述べるだけである)
(やはり人間とは根本的に異なるのだろう。創作では腕の一本や二本、何て言う者も居るが……正に、その通り)
(バイザーに浮かんでいたサムズアップも消え、今度は「?」だけが浮かび上がっていた)
(問い掛け自体も何ら難しいものでは無い。実際に感じたことを伝えれば良いだけだ)
(――別組織の者達との共闘が可能か否か。それもまた、今回の調査対象であって)
126
:
ザック・ヒメタン
◆k1072NP5UU
:2021/03/13(土) 00:58:11
>>125
……あ、あそこかぁ! よかった、今の戦闘で踏み潰されてたりしたらどうしようかと!
どれどれ……ん、よし。切断面もきれいだ。これならたぶん……って、えー?
いらないってあんた……あー……そうか、人工生命ってそういうことできるのかぁ……。
ん、ん、ん、んー。まあ、この場にポイしとくわけにはいけないんで、お持ち帰りは確定ですけども。
(アルファの指差した先に目をやるあたし。そこにあった切断された腕に駆け寄り、持ち上げる)
(アスファルトの破片や散乱した1201の体液で多少汚れていたが、状態は良さそうだ)
(これで少なくとも、アルファは今後の活動を片手でこなさねばならない、という事態は避けられるだろう)
(……と、思っていたんだけれども)
(α-130型という存在は、怪我というものを人間が思うほど重大なエラーととらえていないようで)
(血のしたたる白い腕は、なんかあたしのお持ち帰り品になりそうな雰囲気が生まれてしまった)
(えええ……これ飾るの、さすがにあたしみたいな流血慣れしたおじさんでも勇気いるんだけど?)
あー、銃の方はまあ、返してもらっても困らないですが。え、この腕ホントに、あたしにパスするの?
まあ、うん、それでいいってんなら、もらっときますけど。これを置物扱いするよりは、有効に扱える人の心当たりあるし。
でもとりあえず、最優先は止血……! 傷口から血ィポタポタ垂れてたら、どこの喫茶店も入店させてくれないですもん!
おごりをつつがなく遂行するためにも最低限の処置はしていきましょう!? ね!?
(アサルトライフル2丁と、血まみれの腕を抱えておろおろする中年男。見る人が見れば新しい都市伝説が生まれるやつだな?)
(ステーション・フェブラリーとかミズ・240センチみたいに、ネットを騒がせることになってもいけない)
(何とかして速やかな返却を試みたいが……でも、いらんって言ってるもんを無理に押しつけるのもよくないし)
(そんな風に悩みながら、異界の外――正確には、さっきまで異界だった道路の外――に向かっていると)
(行く先に、何かメカニカルな誰かが待ち受けているのを発見した)
(うん、メカニカル)
(ライダースーツの質感は金属的ではないが、ごついヘルメットとグローブ、ブーツと組み合わせると、総合的にロボっぽくなる)
(中身はたぶん……たぶん、人間だよね? いや、そうでもないのかも……横にいるアルファがまず、人じゃないし)
(でもまあ、その辺はどちらでもいいとしよう。今考えるべきことではない)
(かかとを揃え、右腕を上げて、額に手のひらを添える敬礼をする。相手はあたしの上司ではないが、目上の相手だ)
(具体的には、今回のビジネスの取引先。アルファの方の上役さんである)
(メットのバイザーに電気的な手法で、文字やピクトグラムを表示して意思を表現するパンクな種類のお方だが)
(うちの上司が相手方のお偉いさんだって教えてくれたので、お偉いさんで間違いない。……世の中変なのしかいないな?)
お疲れ様です! ザック・ヒメタンならびにα-130型、第20■■03■号作戦を完了し、帰還しました!
ターゲットのコールドナンバー1201は撃破。これ以降の現場での活動は、当社の資源回収班が引き継ぎます。
……それはそれとして。はい。まずこれだけは先に。――申しわけありませんでした。
そちらからお借りした人員を、こちらの不手際で傷つけてしまいました。
事前情報は充分でしたが、敵の行動速度にあたしの対応が間に合わず……本当に申しわけありませんでした!
(アルファと一緒にいるうちにこの人に会えたのは、ある意味ではちょうどよかった)
(こういったことのケジメは、早いうちに済ませておいた方が誰にとっても良いのである)
(自分の怪我を、アルファは気にしていなさそうだった。でも、だからいいってわけではないのだ)
(今回の作戦は、テクノロア社と向こう側の共同のものだが、現場を用意したのはこちらで、あたしはリーダー職)
(それでいて、あたしは無傷で向こうは怪我をした。――頭下げねーとダメなあれである)
(あたしとアルファの状態が逆か、どっちも怪我してたら少しは違ってたんだけどなぁ! あたし能力的に怪我し難いんだよなぁ!)
(まあ、この謝罪を向こうさんがどうとらえるかは、向こうさんに任せるとして)
(向こうさんが現場を観察してまとめて下さったという資料については、ありがたく受け取らせて頂く)
(こういった情報は、あたしたち機動部隊でなく、専門の研究班に回されることになるが)
(ぱらっとめくって読んでみただけでも、ものすごい情報量が詰まっているように見えたんだけども)
(この人いったい、どういう情報処理能力をお持ちなんだ?)
(あと、アルファみたいな見目麗しい人工生命の製作に関わってるわりに、挿絵のつたなさはどういうことだ)
(さすがに、古代壁画の謎生物だなんて、失礼な感想は浮かばなかったが)
(それでも、オムライスにケチャップで描いたんじゃないかって思うぐらいの線のよれ方ではあった)
(……どっちにせよ、口に出すべき感想ではない? オーケイオーケイ、まったくもってそうだな)
(マスター氏の絵の上手さについては言及を避けて通ろう。ジャングルで地雷を避ける要領で)
【ふたつに分けます】
127
:
ザック・ヒメタン
◆k1072NP5UU
:2021/03/13(土) 00:59:18
このレポートは、ありがたく頂戴いたします。こちら視点でまとめた情報も後日、お届けにあがりましょう。
アルファ……α-130型さんについては……率直な感想、でよろしいのであれば、そうですな……。
フィジカル、特に技術的な部分については、見事としか言いようがありませんね。
道具の扱い。狙撃の正確さ。反射神経。行動速度。どれも一級品でした。
メンタルも強靭。最初から最後まで、動揺が見られませんでした。
腕を切断されてもうろたえず、作戦の続行を即時決断していました。本職の軍人でもこの思い切りはなかなかできません。
……一方、課題もあります。
いや、アルファの課題じゃないな。これは、あたしとアルファ、両方の課題なのですが。
人間の意識と、アルファの持つ人工生命としての意識。そのふたつのギャップを埋めることに、もう少し時間を取るべきでした。
あたしは、彼女が腕を失ってもショックをあまり受けない、ということを知りませんでした。
人工生命だから、肉体を損壊しても容易に治せる。そしてそれゆえに、果敢な決断をすることができる……それを知らなかった。
アルファもおそらく、人間のものの感じ方について、無知であるか、あるいは鈍感な部分があるように思われます。
人間は、他者のものでも、腕が飛んだら動揺します。それは人間の認識では、充分に死につながり得る重傷だからです。
重傷を負ってなお攻撃をするのは、無謀な選択であり、さらに致命的な失敗を招くとしか思えないからです。
だからあたしは、正直な話をすると、アルファが腕を失った時、作戦の中止を考えました。
でも、アルファはやった――……片腕のまま、敵を抹殺する予定を変更せず、むしろアクセルを踏み込むように行動した……。
(まだほんのり温度のある血まみれの腕を、あたしはマスター氏に差し出す)
(アルファにとっては、すぐ直せる部品のようなそれを。あたしにとっては、宙を舞ったのを見た瞬間、背筋が凍りついたそれを)
運が悪ければ、あの時、あたしとアルファの間に、意見の食い違いが生まれていたでしょう。
そしてそれは、もしかすると、あたしたちの敗北につながったかもしれないのです。
偶然、そうはなりませんでしたが。この人間と人工生命の感性のズレは、今後を考えると非常に恐ろしい。
手足の破損を計算に入れて行動できる者と、手足を失うと致命的な者。同じ感覚で運用すれば、きっと大事故を起こすでしょう。
……もっと深く、分かり合うことが必要です。
人間と人工生命で話をして、お互いがどういう存在なのか、どういう考えで生きているのか、共有しなければなりません。
たぶん、それほど苦労はしないんじゃないかと思います。アルファの話を聞く限り、味覚なんかは共通してるっぽいんで。
あー……大勢で甘いもんでも食って、お茶をして。くだらないおしゃべりに時間を使えば、充分、理解は進むんじゃないでしょうか。
もし、また我々がアルファと組むことを許して頂けるなら。いえ、他の誰かと組ませるのだとしても。
彼女という人材について、そういった方向での運用を提案したいのです。
……いかがでしょうか?
(首を傾げて、相手の様子をうかがう)
(どうも目上相手だと、堂々と話を進めることができないあたしだけど、言ったことは限りなく本心だ)
(マスター氏はアルファをして、「じゃじゃ馬」と表現した。あたしもその意見には全面的に賛成する)
(言うことは小生意気だし、凄まじく飛び跳ねるし。こいつを使いこなそうとすれば、相当な苦労をともなうだろう)
(でもそれは、気に入らないとか、勘弁してくれとか、そういう気持ちにはつながらない)
(その実力も、その性格も――人工生命としての矜持込みでも――とても魅力的だし、信頼に値する)
(これからも一緒に仕事ができたら、きっと退屈しないだろう。うちのチームの仲間たちも、彼女を気に入ると思う)
(うちの嫁だってそうさ。あいつは……自分の精神に、しっかりした芯があるような性格の持ち主を気に入るんだ……)
(いつか、信頼できる仕事仲間として、嫁にアルファのことを紹介できる日が来ればいいなぁ)
(……きっと来る。一生懸命に仕事を続けていれば、いつかはそういう日も来るさ)
(でも、少なくとも今日は、あたしひとりでこいつにパフェをごちそうしないとなぁ)
(それが約束だ。いいパフェは値段が張るけど、あたしも社会人だもん……うん、たまには財布のヒモを緩めるよ!)
(時刻はまだ、午後2時にもなっていない)
(諸々の後始末を終えた頃、きっとちょうどよくおやつ時に、あたしたちは近くの喫茶店に向かえるんじゃないだろうか)
【……という感じで、こちらは締めさせて頂きます!】
【いい感じにバトルできたし、いい感じに今後も絡めそうに展開できたー……!】
【頭からしっぽまで、とても満足できるロールでした(*´ω`*)どうもありがとうございます!】
128
:
α-130型
◆BpYjFWEe7.
:2021/03/14(日) 00:47:58
>>126
>>127
「いやなに、『道具』という物は傷付くのだからしかたないのだよ。うん」
「それに、それ相応の成果を出して来たんだろう?だったら猶更問題無いさ」
「もっと言えばその件でザック・ヒメタン君も再度同じような状況に陥った際に経験を活かせる。実に実に良いじゃないか。何事もプラス思考だよザック・ヒメタン君」
「君のは失敗でも無く、今後の糧を増やしただけじゃあないか」
(肩を竦めた後にこれ以上の慰めは見当たらないとばかりに天を仰いだ)
(バイザーには「HAHAHAHAHA」とアメリカンな笑いが左から右へとずっと流れ続けている。文字だけで五月蠅い)
(――しかし、マスターなる人物はαを「道具」と例えた。作り出した本人がそういうのだ、皮肉でも何でも無いのだろう)
(感情が有り、喋り、食べる。生物から産まれた訳でも無いにしても、確かに生きている少女に対してコレは道具であると)
(対してαは特別何かいう訳でも無い。ソレで良しとしているからであろう)
(……腕一本を犠牲にする事すら厭わない事から、その精神性は既に垣間見えたかもしれないが)
(組織図も不明瞭で、人工生命体と呼ばれるそれらが後何体居るかも分からない。況してや、AIなどとは比べ物にならないほどの人間らしさ)
(未だバイザーに文字を流し続けている人物も、きっとまともな人間では無いのだろう)
「それは素晴らしい。だが、我々の場所に届けに来るには色々とリスクが高いなぁ……そうだ、後日頃合いを見て別な人工生命体を向かわせよう」
「ザック・ヒメタン君の好みは何かな?クラシックなタイプのメイドやお転婆な少女……ふふふ、我が組織には豊富な人材が居るからね」
「その時には好みのタイプを派遣しようじゃあないか。……ああ、お触りはほどほどにしたまえよ?」
「今挙げた二名は許可無く振れ過ぎていると腕を捩じり折ってきてねぇ……かくいう私も腕を2回転させられたクチでさ」
「全く酷い話だと思わないかい?」
(やはり変人である。圧倒的変人である。バイザーには「期日までに好みを教えてね♥」と浮かび上がっていた)
(その時の出来事を再現するかの様に左手がギュルンギュルンと音を鳴らして回転を始める)
(可動域の限界は無いらしい。この世界で常識を抱えて生きていくとSAN値が一気に低下しそうだ)
「ザック・ヒメタン君。君は優しすぎるきらいがあるな。確かに理解を深めればそれだけ作戦を立てやすくなるだろう」
「しかし……君は理解した上で、どうしてもその相手の命を駒として使わなければいけない作戦が上がった際には許可できるのかい」
「何も知らなければ、ただ人の形をした道具であるとの認識だけで済む。もし、戦友との認識が芽生えたら……果たして、同じように出来るかい」
「四肢を?がれ、機能停止をするその直前まで敵の注意を引き付ける事が目的の彼女らを尻目に任務を遂行出来そうかな」
「ナパーム弾で特攻して、炭と化していく人型のソレに見向きもせずに任務の続行が可能かい」
「――何も知らずに、道具であると言われた方が気楽じゃないかい。種族が異なれば、考えの擦り合わせも難しいものさ」
「…………と、カッコよく言いたい所だったけど……ふむ、悪くない。少しその辺りのデータも取ってみたいところだ」
(使い捨ても許容範囲として造られた命。それを何処まで受け入れる事ができるのか)
(人工生命体の殆どが女性型だ。相手を欺くため、本能的に油断させるため。そこには様々な理由がある)
(ザックの言う事も大いに理解できる。――だからこその助言でもあった。それらを人として見るべきではない、と)
(差し出された腕に触れると、忽ちそれは崩れ落ち……ザックの掌には、異界産のこぶし大の鉱石だけが残って)
「自身の過少評価は出世に影響するぜ?ザック・ヒメタン君。それは偶然では無い、必然だよ」
「君は柔軟に対応し、即興な組み合わせながらも確実にαに合わせる事が出来る能力を有している」
「――だからこの結果は必然だ。君は極めて優秀な人材だ。ザック・ヒメタン君」
「後はもう少し現実を見る目があれば完璧なのだが……いやはや、こればっかりは時間を掛けて養っていくほかないねェ」
(αと組ませる際に、ザックの情報もある程度流して貰っている。優秀な彼が伴侶を亡くしたという事実を受け入れる事が出来ていない)
(惜しい。同時に、どれだけ強く優秀でも人間はやはり脆い存在だと思い知らされる)
(まあ、後半の言葉は聞き取れなかった事だろう。何せ、そろそろ飽き始めたαが――)
もう話は終わりなのです?なら、さっさとパフェに行くのですよ!
マスター!今日は買えりが遅くなるのです!このあほうに色々奢って貰わなきゃいけないのです!
(ザックの尻を蹴って、その場から動く様に促すのだから)
(それはマスターの紡ぐ言葉を考えさせない為の彼女なりの気遣いだろうか。その答えは、彼女にしか分からないけれど)
(奢るつもりの無かったものも沢山奢らされ、結構な出費になったであろう事だけは付け加えておく)
「人工生命体が個々の感情を持つことは私も想定外ではあったけどねぇ」
「――鬼を作り出す計画も一歩……いや、半歩前進といった所かな。世界を綺麗にするのも大変だ大変だ」
「人格コード停止。オートモードに移行。座標は――……」
(その座標。異界に飲み込まれ、誰も近寄らなくなった山の一角であると知る者は多くとも――そこに基地を構えている者達が居ると知るのはほんの一握り)
(更にはその中でどの様な事が行われているのか知る者は……)
(――後日、ザック達の下を一人の少女が訪れる事となる)
(話を聞いてやれば、どうやら「マスター」から命じられて来たとの事だ)
(ただ、α-130型とは異なりその少女は髪が蒼く、肩口辺りで切りそろえられていた)
(更にはαとは正反対に口数が少ない。話せない訳でも無いし、話したがらない訳でも無いが兎に角物静かなのだ)
(おもむろに差し出されたペンダント。中を開けば、ミニチュアサイズのマスターがホログラフィックとして浮き出て)
「やっほー、ザック・ヒメタン君。α-130型はまた別な任務に就いていてね……αを送る事は出来ないが、代わりに別な人工生命体を送ってみたよ」
「ソレは隠密作戦や現地の情報収集に長けている個体だから良かったら上手い具合に使ってみてくれないかい?」
「ああ、でも定期的に海馬領域からの情報は此方にバックアップとして送らせているから、機密作戦には同行させない様に。私も巻き込まれるのはゴメンだからねぇ」
「もし作戦中に壊れてしまっても気にしないでくれたまえよ。コレはまだ試作型だ。君達は多少の戦力が増える、私はデータを得ることが出来る。双方にとって悪くは無いと思うがどうだろう?」
「そうそう、因みに……あ、もう出発時間?あー、悪いねザック・ヒメタン君。そんな訳だ!チャオ〜☆」
(つまり、この少女を暫くおいてやって欲しいとの事らしい)
(短刀の扱いに長け、弓にも精通。音も無く忍び寄り、体が小さい故に様々な場所に潜り込める)
(――もし、名を問うたのならば)
「-next試作型です。宜しくお願いします」
(一度お辞儀をすると、また素晴らしく綺麗な直立の姿勢で命令を待つ。……新たな変わり者を採用するか否かは、ザック達に委ねられた)
129
:
オスカー
◆v6j.R9Z2OE
:2021/03/14(日) 00:50:24
(―――休むこと無く、ペンの走る音が響く)
(そこは聖堂に似た空間だった)
(この世界の教会の、どの建築様式とも異なる内装は、だが根底に近しい何かを感じさせずにはいられない)
(すなわち、祈りを捧げる以外に術を失った者たちを受け入れる、開かれた神の家)
(救いを求める者たちが幽き希望に肩を寄せ合う、迷い子たちの仮初の宿の気配を)
(だが建築様式がどうであれ、そこを聖堂と見做す者は恐らくはいないだろう)
(聖堂様の壁にも、灯りも入らぬ形だけの窓にも)
(大理石にも似た材質の冷たい床の一片に至るまでに)
(ここに集う者たちの妄念が染み付いていた)
(そこは愚者たちが魂を繋ぎ止められた牢獄であり)
(怨嗟と祈りが積み重ねられた墓標であり)
(この世界を拒む客人たちが夢の中に逃げ込むための微睡みの寝所であり)
(狂おしい望郷の念と共に、散っていった同志たちの無念が渦巻く棺桶だった)
(聖堂の中央、棺桶の主がいる)
(自らの郷里の土を踏むことなく、物言わぬ亡者と成り果てた者たちの始祖がいる)
(何故、我々はこの世界に繋ぎ止められなければならないのだ)
(何故、我々は明日を奪われ続け、崩れ去る昨日に怯え続けながら今日を生きなければならないのか)
(何故、我々は我々の国を、空を、大地を望みながら死ぬことすら叶わないのか)
(そう吼えた男が居る)
(その熱を伝え続けた男がいる)
(“帰還”)
(その「熱病」を「広めた」男がいる)
(男の名はオスカー)
(キネマ劇場が幹部の一人)
(「監督(director)」を務める男だった)
(その男は、何かが優れている訳ではなかった)
(昔は殴り合いなど考えることもなかった気弱な男であり)
(拳を握りしめるのは、作品を紡ぎ出す時に鉛筆を握るときくらいだった)
(近所の子供を叱ることも躊躇う、優しい男だった)
(生来、あまり人付き合いの多い男でもなく)
(彼が師に見い出されたのはまったくの偶然と言ってもよかった)
(長じてからも、付き合いのあった人々は、昔あった両手両足の指の数で足りるほどだった)
(今も、自らの手足の指の数で足りるほどの付き合いしかない)
(その両手足が、合わせて4本のままであれば、この男にとって、どれだけよかっただろう)
(世界と子供に、夢を願っている男だった)
(自らの道を定めて職を得、幼い子どもたちに夢を見せるために)
(優しくあたたかな物語を紡ぐことを生業として、未来に想いを馳せる)
(彼はそんな作家だった)
(もう、彼には、そんなものは一欠片も残っていない)
(全て棄てて、歩き続けていた)
(顔を見ずに誰かの体を引き千切ることも厭わず)
(世に闇に蠢き、届かぬ願いを自らの手に引きずり下ろす為に他者を陥れる)
(大人も、子供も。男も、女も。等しく自らの想いを遂げる為の贄でしかない)
(自分の、無数に増えた手とも足ともしれぬ異形の指先)
(その数ほどに泣き叫ぶ魂を置き去りにして)
(それでも、彼は歩き続ける)
(たった一つの願いの為に)
130
:
オスカー
◆v6j.R9Z2OE
:2021/03/14(日) 00:51:36
(彼は抗い続けていた)
(人の姿を棄て、人の魂を棄て、人の情を棄て)
(人の眠りを棄て、何もかもを擲って)
(この世界の条理……否、不条理に。理不尽に、抗い続けていた)
(“帰れない”という、その一つの現実を否定する為に)
(その想いが、積み重ねた十数年以上の年月以上の重みを以て、その場所に渦巻いていた)
(ある者は、その異形の背中に望みを見出して胸打たれるという)
(ある者は、その痛ましい姿に目を逸し、悍ましいものとして彼を遠ざけるという)
(ある者は、その姿に殉ずる。せめてこのインバネス姿の男の願いが、報われますようにと)
(この聖堂の真の主、物言わぬ、物言えぬ乙女である一人の女性がそうであるように)
(たった一つの願いを叶えるための狂気と執念)
(それが、その何かに優れているわけでもないただの男)
(ただのチンピラとホームレスに痛めつけられて何度も死にかけた、ただの男を)
(キネマ劇場の幹部にまで押し上げた)
(聖堂の中心。祭壇が本来は鎮座しているべき場所に設えられた剥き出しの書斎)
(その背後、祈りを捧げるべき神の証が鎮座する筈の場所に、十字架や神像に類する祭器の姿はない)
(そこには男の紡ぎ出す犠牲者の頁を編纂し、組織内部に供給する為の複雑な機構が備わっていた)
(見た目としては、パイプオルガンに似ている。だが、複雑な駆動機関が紡ぎ出すのは荘厳な賛美歌などではなく)
(どこか禍々しさを伴って聞こえる無慈悲な歯車と機巧の駆動音だった)
(蒸気駆動なのか。それとも類似の動力を用いているのだろうか)
(機構からは時折、呼吸音のように蒸気にも似た煙が吹き出して、装置の稼働を伝えていた)
(装置の至るところには譜面台のような板が取り付けられ)
(分厚い、羊皮紙にも似た質の紙束がうず高く積み重なる)
(中心に座す男の姿は、正しく異形だ)
(直立した3mほどの黒い蟻。ただ、蟻に似ているだけで蟻そのものではない)
(その姿には、昆虫類に特徴的な巨大な腹部が欠けているからだ)
(蟻の頭部、人の胴体に似た形状の胸部。一際大きな、上体を支える為の巨大な2本の脚部)
(その異形の体躯を隠すように黒いインバネスコートが翻り、頭部には黒いソフト帽)
(そして胸部から無数に伸びる、数多の節足は譜面台に設えられた紙束に向かって)
(休むこと無く、ペンを走らせている。羊皮紙に文字列が綴られ、筆が止まり、執筆が終わった瞬間)
(巨大な機構の幾許もの譜面台の下から小さな小さなアームが伸び、その『リスト』を機構内部へと飲み込んでいく)
(機械内部に飲み込まれた『リスト』の頁は読み取られ、編纂され、電子的、あるいは書面として複製され)
(そうして、真実、組織の者が閲覧できる「名簿」として編纂されていくのだ)
(それは中心に座す男を一つの部品として完成する、異形の情報収集機関にして)
(巨大な「活版印刷機」に他ならなかった)
(男にとって、そこが世界の中心であり、世界の全てであり)
(そして、いずれ“帰る”ための術を探る全てであった)
(あった筈なのだ―――)
131
:
オスカー
◆v6j.R9Z2OE
:2021/03/14(日) 00:54:40
(――――少なくとも、2年以上前)
(その重苦しい聖堂にして書斎。編纂室にして活版印刷室に訪れた一人の少女)
(この世界で成人も迎えていない、一人の少女に向き直る為、男は一度、筆を止めた)
(そうして、振り返り、再び節足を譜面台に走らせながら、異形の複眼で少女を見た)
『――――「監督」、オスカーだ』
『“帰還派”の首魁になる』
(男の声は、奇妙なエコーを伴っていた。発声器官が異なるのだろう)
(無理矢理、人間の声を出し、一音一音をつなぎ合わせたかのような酷薄さを感じさせる冷たい声だった)
(男が出迎えたのはキネマが新たに迎え入れた適合者の一人であり、幹部候補生に値する戦闘力を有する剣士だった)
(男の属する派閥は、男が広めた思想の元に団結する“帰還派”と呼ばれる来訪者たちの一派だった)
(来訪者。異なる世界から様々な事情でこの世界を訪れ、そして「帰れなくなった」異邦人たちの総称)
(男は、その来訪者たちの中でも強く、強く故郷への帰還を望むうちの一人であり)
(彼は志を同じくする者たちに呼び掛け、組織に身を寄せる来訪者たちの居場所を作った)
(実績がなかった訳ではない。彼は彼自身が生きた実績だった)
(彼以外の被検体が全て、脳を覆い尽くす圧倒的な情報量により狂死した因子適合試験を潜り抜け)
(その上で、彼はさらに2つの因子の適合を乗り越えてみせたからだ)
(彼に適合している鬼の因子は3つ)
(そのうちの1つはかつて日本に凄まじい災害をもたらした“黄泉十種神宝”の一柱だ)
(派閥の長となるには十分な実績だった)
(そして彼の勢力が、適合者が殆どの組織である一定の影響力を持ち始めるのに、そう時間はかからなかった)
(何より、中心の彼の持つ能力は組織が運営されるにあたって、無視できないほどに強力なものだった)
(この世界の住人ですらない、来訪者たちの集う集団。組織内での警戒は当然の帰結となる)
(故に、彼らの派閥には定期的に組織の別派閥から監視、監査役としての人材が送り込まれてきた)
(その組織のパワーゲームのやりとりに取り合う者は多くない)
(“帰還派”は目的意識がハッキリしている分、組織内の権謀術数については興味がない者が殆どだったからだ)
(だが首魁ともなると、派閥の長ともなるとそうはいかない)
(男にとって世界の中心、世界の全てであった筈の場所から、彼は、「外」への対応を否応無しに迫られた)
(致し方ない。彼が始めた、彼の始めた物語であり大望だった)
(彼らの望みは、彼らだけで叶えるにはあまりにも大きすぎた)
(彼らは仕方なく、必要にかられて、組織との繋がりを維持し、各派閥との連携を続けてきた)
(全ては“故郷への帰還”の為に。ただそれだけの望みのために)
(監査と言われれば持てる情報で出せるものは全て供出し、必要であれば派閥の人材を別の派閥に派遣し)
(自らの望み、帰還を阻もうとする者があれば脅し、突き返し。謀ろうとする者たちには牙を剥いた)
(十数年。そんなことを続けていれば、どうしても生まれてくる)
(人と人との繋がりが。組織の中での繋がりが)
(その姿は、正しく異形だ)
(少女を見つめる複眼は、昆虫が苦手な者にとってじゃ生理的な嫌悪感を催さずにはいられないだろう)
(感情を浮かべる表情筋などは皆無だ。冷たい外骨格の頭部には人間らしい表情など望むべくもない)
(人外の発声は感情の発露を感じさせない、冷たい単語の羅列としか聞こえず)
(組織で、彼と彼の派閥を評する声は概ね「血も涙もない帰還狂いの化け物共」という評価で統一されていた)
(だが。その少女――エマをこの派閥に紹介した、派閥と古馴染みの男はこう言った)
(「そう、悪いヤツじゃないんだよ。ただ、哀しいだけだ」と)
『事情は聞いている』
『――望みは薄いが、僕の「シンドラーのリスト」が少しは役に立てることもあるだろう』
(『シンドラーのリスト』)
(キネマという、地獄の劇場に招かれる為の招待者を綴り重ねたリスト)
(男が、自らの欲望の為に、人生を、悲哀を、そして能力と隠された秘密を余す所無く綴った地獄の人別帖)
(事前にエマへと詳細を知らされていたその、彼の贖い切れない罪が記された告解の石版を)
(眠り姫が目覚める為の手段として。彼女が眠り続ける秘密を明かす為の一つの道標として)
(ごく自然に、その男は示してみせた)
『祈るといい、君の信じるものに』
『なければ、抗うといい』
『祈る神すら遠い、僕たちのように』
(――それが、後に幹部へと上り詰める少女エマと、オスカーとの出会いだった)
132
:
エマ
◆ZiOG0lyEZs
:2021/03/17(水) 15:06:22
>>129-131
(私達の命は、そこで終わるはずだった。個人にとっては極めて不幸な、ただ、世界を見渡せば酷くありふれた理由で)
(自然公園に避難命令の放送が響く。異界に飲まれたスピーカーは、すぐにノイズだらけになり、たちまち機能を停止した)
(公園の奥にある展望デッキには、私と彼女、それからもう二人がきていた。私達はデートに、その二人は、取引のために)
(そんなところを獣のような鬼に襲われ、一人は一瞬で物言わぬ肉塊になり、もう一人も片腕を失い血みどろ)
(鬼は腹ペコだったのか、最初に仕留めた獲物を食べるのに気を取られた。負傷したそいつは、私達の隠れ場所に来た)
『……これを使えば、適合者になれる……』
(そいつは、左手で不器用にアタッシュケースを開く)
(それは、即死したもう一人が買うはずのものだった、アンプルが二つ)
(鬼の因子を込めたアンプル。麻薬同様の扱いで、買うな使うなと広報されている、危険な代物)
(学校であれこれ言われても、縁なんてないと思っていたそれが、そこにあった)
『知ってるだろうが、ご禁制品だ。勝てるとも限らない、副作用もありえる、それでも三人でオダブツするくらいなら……賭けちゃくれないか?』
(私も、彼女も、濃厚な血の臭いと、異界に蝕まれる息苦しさで、このままだと死に至ることを身を持って感じていた)
(互いに、向き合って、頷く。それぞれにアンプルを手にする。きっと大丈夫。二人で生き延びよう。そう誓って)
(そして、その瞬間、私と彼女の運命は分かたれた)
(“バケモノだよ。見た目もだがそっちじゃない、機械みたいなバケモノ”……オスカーについて語られた構成員の言葉を、私は目で見て理解した)
幹部候補生、“花咲ける騎士道”、エマ。本日よりあなたの指揮下に就きます。
(端的な挨拶に感情は見受けられない。薄く、冷たく、ただ昆虫のように、駒が一つ加わった事実だけを認識したかのよう)
(動き続ける節足のため、やり取りも片手間で、機械のように蠢き続ける。それは、有機質の見た目をしながら、まるで無機物のように気味が悪く思えて)
(直後、加えられた言葉に、覆される)
……痛み入ります。
(“哀しいだけ”……オスカーと馴染みの男がの言葉の意味を、心で理解した)
(人は泣き、笑い、浮き沈む動きを感情だと認識する。ただ、このオスカーは、強すぎる感情が、存在と常の行動を形作っているのだろう。感情が強く振り切れたままい続けているのだ)
(声音にも表情にも表せないキチン質の体が、さらにその理解を妨げる)
(そして、改めて、バケモノだった。休むことなくその激情を燃やし続け、動き続けている、その精神力が、人外の強さだった)
それでは……情け深い上司の、その腕に祈りましょう
(彼の悲願が叶うまでは、意味ある神託を綴り続けるその腕は、神や仏より確かなもので)
(膝を付き、手を組んで)
祈りを託した分は、この剣を、あなたの願いのために役立ててください
(立ち上がって、深く礼をする。恐ろしいまでに強い心に、感服と敬意、信頼を示す)
(彼の剣となれることを、誉れだと感じられた)
133
:
オスカー
◆v6j.R9Z2OE
:2021/03/20(土) 08:47:33
>>132
(年の頃は十五に届くか届かないか、と聞いていた)
(意図せずに手に入れた適合者の力。変貌を続ける日常の裏に潜むもうひとつの世界)
(陽の当たる場所を歩んでいれば、一生交わることのない社会の闇を覗き込んだ少女)
(決して、望んで足を踏み入れたわけではなかった筈だ)
(だが彼女には守りたい人が居た。守るべき大事な日常の絆があった)
(彼女は生き延びた。そして、彼女の大切な「誰か」は、目覚めなかった)
(この世界の十五歳や、それよりも年下の少年少女たちは、オスカーから見て幼い)
(明日を夢見て、自分の行く道を悩み、未来に想いを馳せる、そんな年頃だ)
(彼の世界では既に成人に近い年齢で彼自身も師の徒弟として作家の道を歩んでいた)
(それだけ社会が成熟している証拠なのだろう。この世界は子供の未来を守る仕組みが出来ていた)
(そこから理不尽に蹴り落とされて、少し。彼女はもう、組織に馴染み始めている)
(あるいは、組織と水が合っていたのかもしれない)
(彼女の所作には淀みがなかった。戦士の振る舞いだった)
(挙措は風雅と評するにはまだ若々しく眩しい。だが清淑たると評するには足る風格がある)
(幹部候補生に名が挙がるのも納得出来るだけの逸材だった)
(もう少し若ければ。もう少し早く、今の彼女と出会っていれば)
(未練がましい過去の亡霊をまだ見ていた頃の男なら、彼女が舞台に立つ姿を夢想したかもしれない)
(動きに華がある者を見た時に沸き起こる、かつての生業の残滓だった)
(才と、それを支えるに足る強い信念と想いがあるのか)
(それを問うことはすまい。それは問うものではない。答えを告げられるものではない。おのずと語られるものだ)
(為すことで推し量るものだ。その先を語られるのは、彼女が為すことを見てからでもいい)
(だが――そうした気風を纏う者を、彼は慮らずにはいられない)
(表情の伺えない黒衣と黒殻の怪人は、物言わぬ面映えの男は、最後の最後で人間性を棄てられずにいた)
『―――――』
(跪拝を受ける男の表情は元より変わらない。何某かの言葉を発することもない)
(ただ向けられる、己を仰ぎ、敬する若い志の徒を冷たい複眼が静かに見据える)
(祈りを向ける声、捧げる心に「やめろ」と言えれば、どれだけよかっただろう)
(自分はそんな大層なものではない。そう叫びたくなる時がある)
(現に十数年、誰も彼もを地獄に叩き落としながら、己の帰郷を叶えられずにいるではないか)
(自分は飢えた無様な負け犬なのだと、己を呪いながら筆を走らせている心の裡がどうしても消えてはくれない)
(託された物の重さに、堅い心と体が軋む。誰も彼もが生き残る彼に託す)
(「君は願いを叶えろ」と。最期に言い残して、叶わぬ望みを彼に託す)
(この、億を超える砂粒の中から一粒のガラスを探す為の作業に願いを込める)
(「いつか」と言いながら、その訪れぬ「いつか」に心が折れて諦め、別の願いを見つけて去っていく)
(人らしい姿も、人らしい生き方も。人の情も、涙も眠りも全て擲ってきた)
(己の中にたった一つだけの願いを込めて、叫び、歩き続けてきた)
『わかった』
(だから)
(せめて同じ地獄に踏み込んだ者たちが投げ掛けるものだけは、擲つことなく背負おう)
(いつか叶う願いの日に、その時まで積み上げた犠牲と想いを無駄にしない為に)
(「帰還狂いの化け物」と呼ばれた男は、己を打つ運命の過酷さに精一杯、花開いて抗おうとする若き剣士の言葉に)
(短い返答を返した。己を称え、慕う言葉に、常と変わらぬ冷たい――鋼そのものの堅く強固な声で)
『――だが見ての通り、僕は忙しい』
『君への細かい指示や作戦指揮は彼女が担当する』
『エリー、後は任せる』
(重苦しい応答とその余韻。それらをしっかりと踏まえた間をとった後、怪物は空いた節足を二本広げ)
(両腕を広げて自らを見せる仕草をした後、聖堂の闇に言葉を放つ)
(下知を受け、舞台袖から「了解」と静かな声で姿を現したのは、白髪の女性だった)
(身長は155センチ程度)
(服装はゆったりしたカジュアルなもので、黒のニット・セーターにジーンズとラフなものだ)
(足運びや身のこなしから、戦闘訓練をしっかりと積んできたことが伺える)
(一見して、白髪であること以外は普通の人間にしか見えない)
こんにちは、お嬢さん
私はエリー、キネマではそう呼ばれているわ
(年の頃は、容姿を見れば20代の、若々しい姿で、彼女が若いらしい、ということは伺える)
(伺えるが……彼女の纏う空気が、彼女を年齢通りに見させてはくれない)
(30、失礼だが40代と言われても納得するだけの老成が彼女からは漂う)
(あるいは、それは拭いきれない諦観や疲れともとれたかもしれない)
これでも異世界人なの
よろしくね、エマ
(にこやかに手を伸ばし、握手を求める女性とエマ)
(二人を一度ずつ、交互に見遣った男は、冷たい声音にどこか)
(言いしれぬ哀しみと、他人へと伝播する己の熱を込めて、常より少し重く、エマへと告げた)
『エマ』
『君に働きに期待する』
(――その言葉に込められた真意は、程なく、明らかとなる)
134
:
エリー
◆v6j.R9Z2OE
:2021/03/20(土) 08:48:51
>>132
(平山・真白)
(その名前が明かされたのは、エマが“帰還派”へと派遣され、少し経った頃になるだろう)
(エマが、一つ一つ。“帰還派”へと課された任務をこなし、実績を積んで)
(彼女とオスカー、その二人から信頼を勝ち得ていくたびに、その白い女性の来歴が明らかになっていく)
(エマに当初、課されたのは単純な戦闘任務だ)
(世に蔓延る鬼を狩り、その因子を持ち帰る)
(時代はようやく、占部姉弟の異界予報の精度が上がり始めた頃)
(日常的に行われる予報の精度が上がり、その予報を元に)
(キネマでも行われている予報と照らし合わせ、治安機関の介入の少ない地域)
(国連軍と駐屯地、零課の守備範囲から遠い地方の田舎での鬼狩りは)
(むしろその空所を狙うフリーランス、あるいはその地域を縄張りとするヤクザ)
(日本の国土に飛び地の拠点が欲しい、主に中国が占める大陸系の工作員との戦闘が主となる)
(下級構成員を率いての鬼狩りやフリーランス、ヤクザの排除は本来は結構な難易度だ)
(戦闘力2の「経立」程度であっても、山岳地形で襲われれば脅威度は高く)
(フリーランスで生計を立てられる適合者や来訪者の実力は高い、撃退はより困難を極める)
(脅威度の低い鬼を倒せるからこそ生き残れる面々なのだから)
(さらにヤクザともなれば、荒事専門の人間が出張ってくることもある)
(それらは武装した下級構成員には荷が重い相手となる)
(だが、高くとも戦闘力は5程度の相手だ)
(戦闘力6、幹部候補生の実力の前には物の数ではなかった)
(多少の能力の過多など、スペックで叩きのめせる)
(目覚ましいエマの活躍と共に、組織内での名声と信頼は高まり)
(大切な恋人を目覚めさせるという願いを秘めた少女の前に)
(平山・真白という女性の実態が、彼女自身の口から語られていく)
私がこの世界に来たのはね、もう8年も前になるかな
……私、いくつに見える? 30? 40かな?
気にしなくていいよ、老けてみえるのは自覚があるから
今はね、23歳
そ、この世界に来たときはね、君とよく似た年頃
15歳のときだった
(エマからの報告を受け、戦勝へのねぎらいに、と連れられた組織内のバーで)
(静かにウイスキーのグラスを傾けるのは、「元少女」の独白だった)
ひどかったな
あのクソザル、そう、「経立」
私が異世界転移をしたところは、他の人が襲われてる真っ最中の場所でね
そこで私もめでたく、「女の子」は卒業
ここに拾われてなかったら、きっとあのエテ公のお腹の中だった
逃げる逃げないの話じゃないよ
私、この世界に転移する原因は交通事故だったんだ
トラックに撥ねられた直後だったの、笑っちゃうよね
そんなわけのわからない状態で、オランウータンの化け物に襲われたんだから
逃げられるわけないよ、異世界ガチャ、外しちゃったな
(穏やかに笑って過去を語る、あまり裏社会の組織には似つかわしくない「元少女」)
(その姿はありえたかもしれないエマという少女のifであり)
(そして)
……そこから8年か
気づけば、もうお酒も煙草も出来る歳になっちゃったな
(エマという少女の歩む、残酷な未来の姿の一つに他ならなかった)
135
:
エリー
◆v6j.R9Z2OE
:2021/03/20(土) 08:51:50
>>132
(任務で信頼と実績を重ねていくエマに許された次の任務は)
(“帰還派”の内情に幾許か関わる、派閥の資金源に関わる任務だった)
(「リンク」)
(1986年制作の、サルによるアニマルホラー映画)
(その名前が何故、彼女につけられたのか)
(答えはあまりにも皮肉なものだった)
(「経立」によって適合者へと覚醒した彼女に与えられた能力は、憎んでも憎みきれない)
(嫌悪しても飽き足らない「経立」への変身能力だった)
(同一の能力は既に症例がある程度確認されているメジャーなものだ)
(彼女はエマへと語る)
(“帰還派”の収入源の一つは、裏社会で一般的に出回っている非合法薬物)
(『モンキーエナジー』と呼ばれる興奮剤、その精製と売買によるものだと)
(平山が身を寄せ、そしてエマという少女が身を寄せる組織の、明確な非合法性に関わる暗部)
(それを明らかにしながら、小柄な、元内気な少女は、自身が暴走した際の立会人)
(そして、「麻薬の資金源」である彼女の護衛としてエマを選び)
(学閥派のラボ、実験室の前で衣服を脱ぎ、美しく哀しい裸身をさらしながら首筋に無針注射器を突き立てる)
ひどい話だよね
……ひどい話だよ、ホント
(容姿から10年、あるいは20年、老成して見える秘密がそれだった)
(そして鬼の因子に適合する、というのがどういう悲劇を生むのか)
(――眠り続ける少女の目覚めが帰結するかもしれない可能性の一つ)
(それを示しながら、自分の運命を受け入れた異世界人は彼女が最も忌み嫌う化け物の牡へと姿を変えた)
(獣欲と情欲に猛り狂い、供された実験体の女性を2メートルの長身で覆い隠して、言葉通り、サルになって腰を振る)
(あるいは拘束器具に己を拘束させ、ただビーカーや試験器具に精液を吐き出すだけの経済動物)
(牛や豚、屠殺されて肉を加工されるだけの食肉動物よりも下の、麻薬の種を搾り取るだけの生き物と成り果てた姿を)
(彼女は臆することなく、エマへと晒してみせた)
(それらを晒し終えた後、やはり、平山はエマを酒に誘う)
(いつもと変わることなく、彼女と酒盃と、時を共にする)
……この世界なんて、どうなってもいいと思うよ
昔よりも、ずっと
もう8年、ああいうことしてるからね
明日、この世界が滅びてくれるなら大喜びで秘蔵のお酒、あけちゃうと思うな
でもね、そうしないとやっていけないから
……帰れないから、それならやるしかないよね、って思いながら、仕事してるな
少し意趣返しの意味もあるかな、この世界をめちゃくちゃにしたい気持ちは正直あるよ
そりゃ、辛いよ
イヤになるし、自殺未遂も何度か
私のかもしれない麻薬でボロボロになった人がキネマに運ばれてきたこともあった
殺されそうになったこともあるかな
まあ、自業自得だよね
私にとっては異世界でも、君たちにとってはこの世界が自分の故郷だもの
その世界をしっちゃかめっちゃかにされて怒るのは当たり前だよね
自分が畜生だっていう自覚も、もちろんあるよ
(「それでも」と)
(8年、少女から女性になり、異世界から転移し、願いを抱いたときから8年の年月を経ても)
(棄てきれぬ願いを抱えたままの「元少女」は告げた)
それでも、帰りたいんだ
好きな子がいるの
君と同じで、女の子なんだ
136
:
平山・真白
◆v6j.R9Z2OE
:2021/03/20(土) 08:54:04
>>132
(朴訥な語り口だった)
(そのときだけは、30代にも40代にも見える、まだ20代の少女は)
(15歳の頃に還って、思い出を語る)
私、昔は、ちょっと根暗な子でね
内気で読書好きな……今だと陰キャっていうのかな?
そんな子だった
だからいじめられて、家庭にも居場所がなくて
死のうかな、って思って
そんなとき、早美ちゃんに助けてもらったの
久藤・早美ちゃん
あんなに、誰かに優しくしてもらったことなんてないよ
お父さんもお母さんも、泣くときは私を叱る時だけだった
でも、早美ちゃんはそうじゃなかった
死のうとした私のために泣いてくれた
居場所のない私の、帰るところになってくれたの
早美ちゃんが、私の世界のすべてだった
(もうその頃とは何もかも変わってしまった)
(身長が伸びて、化け物に変わって)
(辛いときは酒に逃げて、煙草で自分を誤魔化す)
(同性の少女に未だに恋い焦がれながら、同性を牡になって犯す)
(そんな大人になってしまった)
(平山の横顔は、そう語っていた)
……早美ちゃんにね
帰って、「あなたのことが好きです」って、言いたいんだ
言えないまま、こっちに来ちゃったから
だからまあ、お姉さんはさ
君みたいな子の味方なんだよ
応援してるよ、君のこと
大事な人に、また逢えるといいね
(「がんばりなよ」)
(そう締めくくって、彼女は隣の少女に微笑んでみせた)
――それにね、この世界は最悪だけど、悪いことばかりじゃなかった
君、私の悪い噂はキネマで聞かなかったでしょ?
あんなことしてるのにね
私が、ああいう仕事に手を染め始めた頃にね
学閥派のラボで私のことを「サル」って吐き捨てた人が居たんだよ
その次の仕事の時にね
オスカーがラボまで付き添いに来て、仕事を見てたの
前回と同じく、「サル」だって私のことを言った人は、真っ二つになった
私は仕事中だから、その光景は見られなかったけど
生きたまま、力任せに正中線で引き千切られて死んだんだって
それから、私は「リンク」の一人なのに少なくとも聞こえるところでは何も言われなくなった
君のことを調べた上で、教育係を私に決めたのは彼
いじめられてても助けてくれない大人ばかりじゃないんだって、少しは判ったから
悪いことばかりじゃ、なかったよ
(いつか、辿り着くかもしれない結末。叶わぬ望みを抱えたまま、年月を重ねていく姿)
(残酷な未来が待ち受けているかもしれない可能性)
(華やかな舞台だけではない、どす黒い裏側と、世界の残酷さと理不尽さを知らしめた上で)
(『君の働きに期待する』と)
(『折れることなく戦い続けろ』と、そう、直截には言わずに告げた男と)
(彼が選んだ元少女との日々は、そうして過ぎていき――やがて、現在から2年前へと至る)
137
:
◆v6j.R9Z2OE
:2021/03/20(土) 09:35:16
平山、もう死んでるってよ(現在時間軸では)
>>339
というわけで、お待たせしました……!
“帰還派”の資金源かつ、この世界で一般的な麻薬というか興奮剤というか
バイアグラ的なものを一つこさえた上での新キャラ投入
そして、ロールの返信をさせていただきました!
4分割で恐縮なんですが、「キネマで普段なにやってるのかなー」
「ファルスハーツ的な悪役の人、普段何して過ごしてるのかなー」
という風景の参考になれば幸いです
来訪者らしい資金稼ぎについては、一つ思いついたんですが
今回入れるには尺をとりすぎなのでカットいたしました
オスカーとのロールなのにオスカーが全然出てきませんが
平山さんとも絆が深まったところで、次の返信で双子拉致計画の話を切り出す流れになるかな、と
138
:
平山・真白
◆v6j.R9Z2OE
:2021/04/03(土) 10:30:49
>>132
【本来ならロールオンリーで使用すべきなんだろうけど、2週間経過したから伝言させてもらうね】
【すごく忙しい時期にロールをお願いしてしまったか、あるいはこちらのロールの力不足か】
【どちらにせよ、返信が難しい状況になってしまって、ごめんね】
【あと1週間待って返事がなければ、一旦、ロールはキャンセルさせてもらえるかな】
【重ねて返事が難しいロールをしてしまったか、返信の難しい時期にロールをお願いしてしまってごめんね】
【もちろん、返信が難しそうなら、今すぐキャンセルでもかまわないから】
【本当にごめんね】
139
:
平山・真白
◆v6j.R9Z2OE
:2021/04/10(土) 23:46:09
>>132
【もう一度だけ、伝言に使わせて貰うね】
【返信が難しいか、とても忙しい時期にロールを申し込んでしまって、ごめんね】
【宣言通り、1週間経過したから、エマちゃんとのロールはキャンセルさせて貰うね】
【色々と至らなくて、本当にごめん】
【今回は巡り合わせが悪かっただけだと思うから、また手が空いたときにでも】
【スレ主さんのスレには顔を出してね】
【それじゃ、どうか元気で】
140
:
◆BpYjFWEe7.
:2021/05/13(木) 22:40:06
(――時刻は正午。普段は人々の活気で溢れるこの港町に建つショッピングモールも今や地獄と化していた)
(一帯を全て覆う程の異界が発生。異界の特性は人間の生気を奪うといった単純な物ではあったが、長居すればそれすらも脅威となり得る)
(悲鳴、怒号、断末魔。異界の主たる巨大な蜘蛛型の鬼を中心にそれらが広がっているのだから、離れた場所からでもその状況は理解出来よう)
(蜘蛛の大きさは凡そ中型のトラック程。逃げ遅れ、腰を抜かしていた男性が、たった一本の脚でいとも簡単に――原型を僅かに留める程度の肉塊となったのだから重量も外見相応か)
(更には各国で人気の氷菓を集めたイベントが重なって居た事も不味かった。親子連れに他県から訪れた者。この建物内はいつも以上に賑やかで、それ故に被害も大きくなる)
(イベント会場となっていた場所に異界の主が足を運び、本能のままに破壊と殺戮の限りを行う――その、刹那)
――あー……もう。面白いコトでもあるかと思って来てみれば、まーた虫だよ……
喋れねェし単純だし、今回も外れか……
(小柄な影が上階から飛び降り、巨大な得物を横薙ぎにして左側面の脚4本を纏めて切断。体勢が崩れるものの、ついさっきまで絶対的な強者と思っていた鬼には何が起きているのか理解も出来ず)
(対してその影は――緑色の体液が降り注ぎ、悲鳴とも咆哮とも取れる鬼の叫びを無視して頭胸部と腹部の境目たる括れを切断するかの如く、今度は得物を……巨大な鎌を、振り上げる)
(死神を思わせる様なその大鎌は人間が持つには余りにも巨大で非効率。それを易々と振り回すその人物もまた、普通ではない)
(蜘蛛が漸く状況を理解する。然れど、胴が二つに割れて止めどなく体液が溢れている状態で理解したところで何が出来よう)
(既に反撃の力は無い。この異界による特性も“鬼”が相手であれば意味を為さない)
(残った4本の脚が床を掻き、必死に逃げようとするもその動作は苦痛を長引かせるだけだ。かしゃかしゃ、かしゃかしゃ。束の間の絶対王者が立てる情けない音)
(――複眼が退屈そうに大鎌を振り下ろす少女の姿を捉える。それが、この鬼の見た最後の光景であった)
(異界発生時間十数分。異界による建物及び食料品への被害無し。人的被害不明)
ッたく!人間共が多い場所に何か出てきたと思えば小粒小粒小粒!ぜーんぶ雑魚ばっかじゃねーか!
オレが同族の中で最強だって決まってるのは当然だけど――だからって張り合い無さすぎんだろ!
あー、もう!ムシャクシャする!!いっそ此処の物全部ぶっ壊せば少しは気が晴れ――……
(鬼を瞬く間に片付けたのも、また別な鬼であった。但し、今度は少女の形をした姿だ)
(漆黒のローブを纏い、目深くフードを被った姿。身長は140前後。大鎌は少女よりも大きいのだから、恐らくは150cm程はあるだろうか)
(蜘蛛の頭部目掛けて振り下ろした故に床に深く突き刺さった切っ先を引き抜き、腹いせとばかりにその頭を思いっ切り蹴り飛ばそうとして――結果、力が強すぎて破裂する)
(『ワールド愛すフェスティバル!〜売り上げの一部は異界災害復興に寄付されます〜』そんな大きな幕が下げられ、煌びやかであった会場も今や緑色の血があちらこちらに飛散し)
(アイスが保存されているカート群も例外無く汚し……異界発生直前に誰かが購入したのだろう。ミント系のアイスなんて、蓋が開いたままであったが故に悲惨な事になっていた)
(更には……べちゃり、と。少女の蹴りで四散した肉片の一部がチョコミントのケース内にトッピングされることになる。まあ、具体的な表現は避けるが少なくとも食べ物では無くなった状態である)
――る訳、無いよなぁ。反撃も何もして来ないし。
はぁ……取り敢えずもうどっか行くかなァ……人間殺すのも飽きたし……
(異界の発生か、人々の悲鳴か――或いは、催しに釣られてか。何であれ、この場に関心を寄せる要因は数多くある)
(若しくは、既にその場に居たものの大鎌を携えている少女が気付いていなかった可能性も考えられるか)
(何であれ……もし新たに何者かの存在が生じれば、この鬼の興味を引くには十分であろうか)
141
:
ウエハースメザー
◆k1072NP5UU
:2021/05/18(火) 00:12:33
>>140
(ウエハースメザー・パシフィックが、人間という存在に対して持つ印象はただひとつである)
(この鬼は、生まれてまだ数ヵ月しか経っていない。海の中で意識を覚醒し、潮流に揉まれて自我を形成した)
(なのでもちろん、地上にいるひとつの種族のことを深く学ぶ時間などなかったが、それでも知っていることはあった)
(ヒトという生物は、塩水のない陸地に広く繁栄する、ウエハースメザー自身によく似た姿の生物であり)
(ウエハースメザーのものであるべき世界で増えまくってエラそーな顔をしている、クソ邪魔で不快な害虫であった)
(陸上はいずれ、自分によって征服されねばならないと彼女は思っている)
(そのために邪魔な陸生生物は、一匹残らず駆逐しなければならないと彼女は決意している)
(もちろん、倒さねばならない相手の数の膨大さは、理解しているつもりだ)
(しかしそれでも、やらねばならないと感じているし、自分にはそれができるだけの力があると確信してもいる)
(ならば、やらねばなるまい。――彼女はやる気に満ちており、行動力も並外れていた)
(暗い海の水の中から、ざばりと身を起こし、砂浜を踏みしめ、人々の暮らす街々へ向かい)
(自らの手足であり兄弟であり信奉者である眷属たちと、生きとし生けるものを無差別に殺しにかかる)
(それが、彼女が目覚めてから今日まで、一日たりとも欠かしていない日課であった)
(濡れた足で、整備されたコンクリートの地面を踏みしめながら考える――今日は何人殺せるだろうか)
(今、目の前には、カラフルな壁面に堂々たる企業のロゴマークを掲げた、横に広い巨大な建物があった)
(それはショッピングモールと呼ばれている施設で、大規模な商業活動の場として利用されていることを彼女は知っていた)
(つまり、ヒトが大勢集まる場所で。ひとつ発見できたら、一気に大量に殺せる可能性があるボーナスステージというわけ)
(……なのだが)
(ウエハースメザーは、その入り口のそばにじっと立って、深い緑色の目を訝しげに細めていた)
んー? ……ん、ん、んんー。なんぞこれ。……しーんとしてない? してるよね。
おかしいなぁ。これまでに襲った『しょっぴんぐもぉる』って、遠くからでもわかるぐらいガヤガヤしてたのに。
ヒトいるのこれ? いなかったりしない? 静か過ぎる。妙だよね、妙。
『てーきゅーび』ってやつ? ……いや、違うなぁ……こういうデカい施設は、年中無休だってホタテ貝が言ってた。
おかしい。おかしいわ……今までない感じがしてるわ、ここ。
無抵抗なやつらを殺し放題で、美味しい加工食を食べ放題な『しょっぴんぐもぉる』とは違う気配を感じる。
(ざりり、と音を立てて腕組みし、赤く輝く髪を軽く振って、静寂に包まれた真昼の商業施設を見上げる)
(若い人間女性の姿をしている彼女だが、その精神性は野生の肉食獣に近い)
(自然な殺意と慎重さを併せ持っていて、さらに「自分は世界一の強者である」というプライドも持っている)
(敵を倒すという作業は、一方的なものでなければならないと思っているし、獲物を諦めることは屈辱だと思っている)
(なので、目の前の建物の異常さを肌で感じ取りつつ、背中を向けて立ち去るという選択肢を喪失し、思案していた)
(何が起きていようと、中に入ることは確定。それでいて、強者として余裕たっぷりにふるまうには、どうすればいいか)
(情報が必要だ、と、ウエハースメザーは結論した)
……ふむ、よし。ローカルフォース。アスレチックレビー。ピンクスイッチ。ボンブ。ペーパーエール。
ランドコード。シープスグラス。フードマンマイヤー。スプラバッグ。デザー。プレグニ。コインジョック。
スパゲッティン。アウトフラー。ジュエルプラグ。チェアフラグナー。モ。コーストコールト。ガムシャイン。
あんたたち、私に先んじて、中をちょっと見てらっしゃい。
人間がいるようだったら、てきとーに殺しといて。いなかったら、食べ物があるところを探して報告ね。
ぱっと見でわかる異常があったら、それも教えなさい。――はい、レッツゴー。
(ウエハースメザーの後ろからぞろぞろと着いてきていた、無数の眷属……手のひらサイズの、レンガ色のカニ……が)
(あるじからの命令を受けて、まるで専門の訓練を受けた軍隊のように、ざっざ、ざっざと建物の中に乗り込んでいく)
(集団である彼らは、広範囲の情報収集、そして一般人に対する虐殺という仕事に関して、非常に適していた)
『ひろいひろい。このおみせ、だいぶ中身、ぼろぼろ』『ひと、いない。いないというか、死体だらけ?』
『ごしゅじんさま、いっぱいひと死んでる。うずくまって、くるしそうにして、死んでる』
『こっち、つぶれて死んでるひとはっけーん。血だらけ。ないぞうでてる』『あ、生きてるひといたー。ころしとくね』
(カニたちは手分けして行動し、それぞれが見た情報をウエハースメザーに伝えていく)
(ぼろぼろになった建物の内部。衰弱して死んでいる人々。たまに、明確に暴力的に殺害された死体もある)
(ウエハースメザーは比較的愚かであるが、それでも、この場所が他の鬼に襲撃されたのだということは察せられた)
(しかし、その次にもたらされた情報には、少なからず混乱させられることになった)
『あ、でっかいクモさん死んでる。カラダばらばらになって死んでる』『すごいみどりいろ。ミントのアイスみつけた!』
『たってるひとみつけたー。おんなのこ。げんきそう!』『でっかいおれまがったはものもってる! おもそう!』
ん、ん、ん、んー……?
(メザーは考える。でかくて死んでる蜘蛛。立っている刃物持ちの人間。何が起きた? 鬼はどちらだ?)
(冷静に考えて、蜘蛛が鬼だ。そして、立っている人間は、その鬼を退治したやつだということだろう)
(となると……「となると、この建物で起きた異常は、もう解決してるってことになるわけかしらね」)
(「鬼による虐殺があって『しょっぴんぐもぉる』は静かになった。その鬼も倒されて、鬼退治が最後に残った」)
(「うるさい人間どもが死にまくったのはイイ気味だけど……今、建物に入ったら、私が鬼退治と遭遇することになる」)
(「ん、別に怖くはないけど……楽ができるならしたいわね……プレグニがミントアイス見つけたって言ってるし」)
(「よし、みんな。その立ってる人間、寄ってたかってぶち殺しちゃって」)
(「一応、鬼を殺せる実力はあるみたいだから、油断せずに……なるべく近寄らないように、削り殺すのよ!」)
『『『『『りょうかーい、ぼすー』』』』』
(あるじの指示を受けたカニたちが、かさかさ、かさかさと音を立てて、死神風の格好をした少女へと接近する)
(左右のハサミをフリフリしながら、5メートルほどの距離を保って、数十匹が少女を取り囲んだかと思うと)
(――ドゴン!――)
(という鈍い音が、突如、地面を揺るがした)
(少女を中心に、集中線を引いたかのように、モールの床に深いひび割れが生じている)
(それが、少女やカニたちを囲む壁や柱にまで、びきびき、びきびきと音を立てつつ、あっという間に広がって――)
(半径10メートルほどの範囲限定ではあるが、建物を構成する要素のほとんどが、ほんの2、3秒で破砕)
(太い石の柱や、鉄骨を含んだ重い瓦礫などが、集中線の中心にいる少女に向かって、倒れ込むように崩落し始める……!)
【お待たせー! こちらこんな感じで、早速だけどケンカ売らせてもらったわ!】
【私は今、モールの外。あなたとはそれなりに離れた位置にいるけど、アイス食いたいから徐々に近づいていくつもり】
【眷属たちの攻撃をかわし、眷属たちを倒しながら、本体である私に攻撃を届かせることができるかしら!?】
【そんな、遠隔攻撃型スタンドに襲われたジョジョの主人公みたいな窮地を、ぜひ楽しんで欲しい……!】
142
:
◆BpYjFWEe7.
:2021/05/19(水) 20:35:16
>>141
(鬼という同族であっても所詮蜘蛛は蜘蛛。ヒリヒリと生きている事を実感できるような、血肉を滾らせるような命の遣り取りは出来なかった)
(完全に持て余した闘志に行き場も無く、また一つ舌打ちをすれば新たにこの後のプランを練ってみる)
(此処で待って居れば、人間共の中で鬼を狩る任務を与えられた者達がその内来るだろうけど――自分が興味あるのは鬼同士で優劣を競い合うことだ)
(そんなのを相手にして生き残った所で、鬼としての格付けが上がる事は無い。……と、少なくともこの死神は考えていて)
(どこぞの適当な異界でも見つけ出して殴り込みにでも行こうか。それとも帰って不貞寝でもしてしまおうか)
(――そんな事を考えていた時の事だった)
……あァ?何だコイツ等。……さっきの蜘蛛の子供か何かか?
一生懸命仇討ちのつもりか何か知らねーけど、こんなチビを踏み付けた所で暇潰しにもならないしなァ……
やっぱり帰って寝るか。完全に時間の無駄だっt――ッ!?
(何処からともなく現れ、辺りを囲み始めた蟹には早々に気付いていた。が、だからと言って何か行動に移すことは無く)
(どうせ先ほど殺した鬼の眷属なり子供なりであろうと考えたのだろう。何だか見た目も少し似ているし)
(一瞥しただけで興味も失せ、もう帰るかと歩みを進めたその瞬間……漸く、違和感に気付く)
(この音はなんだ?振動はなんだ?いや、幾度も聞き覚えのある音だが……何故、今此処で?)
(あの蜘蛛は建物が倒壊する程暴れる前に始末した。――人間共の部隊到着には早すぎるし、今までの経験からこんな小規模な崩壊を起こす奴らは居ない筈だ)
(――小規模な崩壊?つまり、これは自分を狙った攻撃か。それ、なら――……)
(蟹達の狙い通り、崩落したそれらは完全にその死神を捉えていた。総重量にしたら一体どれ程の瓦礫だろうか?)
(……ただ、瓦礫が落ちる数舜前。その少女が浮かべたのは笑みであった)
(驚きでも絶望でも無い。口角を吊り上げ、犬歯を覗かせ――実に楽しそうな表情。それも、一瞬で下敷きとなったのだが)
(死んだ筈だ。少なくとも、人間であれば。……だが、瓦礫の間から僅かにでも流れ出る筈の血が一筋も見当たらない)
(呻きも、命乞いの言葉さえも、だ。……僅かに瓦礫の下から音は聞こえるか。まるで石を擦り合わせる様な、ギリギリとした音)
(そして、数秒後。小さな山の頂上に乗っていた石柱が、転がり落ち……代わりに、細腕が突き出され)
ハハハハハハハッッ!!悪くない、嗚呼、思ったよりも悪くない!!
やっと久し振りに楽しめそうな気がする……!
(中から這い出てきたのは、先ほど潰されたはずの死神だ。目立った傷は無い。それよりも、笑みが深まっている)
(正確には、あの蜘蛛の体液が飛び散った物が崩落物として体に当たった際に打撲だ切り傷といったものは生じていたが、それでも想定よりも相当な軽傷であろう)
(――つまり、人工物が大きなダメージを与える事が出来なかった。此処から導かれる答えは、鬼同士であれば分かる事)
(この少女もまた鬼である。それも、人間達への一方的な蹂躙を好む蟹達の主とは異なり、命の遣り取りにおけるスリルを楽しむ性)
(初手がこの攻撃であると言う事は、自分が鬼であると言う事にまだ気付いていなかったか……それとも、目眩しが目的だろうか)
(しかし追撃が無い。ならば前者として考えるのが妥当だろう。……つまり、きっとコレで対鬼への攻撃にシフトする訳だ)
(そう思うだけでもゾクゾクとしてきてしまう。そして、連携力も高い)
(この蟹達が群れで一つの鬼か、それとも指揮を執る鬼が居るのかは分からないが――……関係ない。全て、壊してしまえば良い)
(散らせばこれらが独自に動いているのか、そうで無いのかも必然的に理解できる筈)
――まさかコイツ等だけでお散歩って訳じゃねェーだろ、なァ!?
何処に居ンのか知らねェけど、放っておくと大事なお友達全部潰しちまうぜェ!?
(フードが外れ、露わとなった素顔は銀色のショートに緋色の双眸)
(好戦的を通り越し、狂犬にも思える様な表情は新たな獲物――件の蟹達を捉えていた)
(同時に、僅かに腓腹筋が僅かに膨らむ。走り出す直前に起きる筋肉の膨張、だが――……)
(この鬼に加速という概念は無い。最初からトップスピードで奔るだけの筋力を持ち合わせている)
(故、大鎌を肩に乗せて蟹達に向かって走り出すのも実に一瞬の事であった)
(的が小さい。敢えて鎌を振るならば、それは無駄な時間を増やすだけ。だから、この死神が選んだのは原始的な攻撃……「踏みつぶし」であった)
(余程硬く無ければ、次から次へと踏みつける事だろう。甲羅が砕け、その肉が床に散ろうと滑る事もせずに次の一匹、また次の一匹へと足を伸ばす)
(無論、最初の一匹に狙いを定めた瞬間に他の蟹が距離を取っても不思議な話ではあるまい)
(その蟹達が踏まれ、そして断末魔と言うものを上げるのかはまだ分からないが……仮にそうであるならば。その主たる鬼にも良く聞こえるだろうか?)
(甲羅が砕ける音。肉の潰れる音。一命と取り留めたとしても、トドメと足首を捻った事で挽肉へと変わる音)
(尤も、崩落物の下敷きにした後も油断を解いていなければまた半紙は変わってくる。何しろ、小さな生き物を踏みつぶすと言う単純な行動だ)
(瓦礫から這い出てきたときに距離を取るなり、小さな体を活かして何処かへと隠れる事は十分に可能)
(もし、そうでないならば。宣戦布告には十分な惨状となるであろうか――――)
【蟹がどうなっちまうかについての判断は全て一任!瓦礫から手が突き出てきた瞬間に様子見で離れちまうのも十分アリ!】
【取り敢えずオレが鬼って事も理解させる為に、崩落物の下敷きになった上で対人間と同じじゃ意味がねェって事を直ぐに勘付かせる様にしてみた!】
【名前は必要が出てきたときに入れておく!……蜘蛛の肉片入りアイス、食うのか……】
143
:
ウエハースメザー
◆k1072NP5UU
:2021/05/24(月) 22:07:36
>>142
んっふっふー。んっふっふー♪ 今日はちょっとばかし期待できそうねー♪
この横断幕に書かれてる文字……ヒトの言語に興味はないけど、この形だけはわかるんだなぁー。
『アイス』って書いてある! それもかなりでっかく! 派手派手しく!
これってつまりあれよねー、この建物にどっさりと、アイスクリームが備蓄されてるってことよねー!
うん、うん、今日、この場所に来てよかったわー。ヒトもいなくて静かだから、アイス探しも落ち着いてできそうだし。
鬼退治野郎が単独で生きてはいるみたいだけど、それもローカルフォースたちがすぐ始末してくれるだろうしー……。
――――んん?
(ひと気なく、静まり返ったショッピングモールのホールを、ルンルン気分で歩いていたウエハースメザー)
(その頭脳に、先触れとして派遣した眷属たちの思考が届く)
(彼女としては、「鬼退治の人間をつつがなく倒した」とか、そういう報せが来るものと期待していたのだが)
(実際に受け取ったのは、そんなめでたいものではなかった)
『うわーん! うわーん! ぼすー! 鎌もったにんげんにはんげきされたー!』
『がれきでおしつぶすの、きかないよー! というかこいつにんげんじゃないかもー! 腕力がひどい!』
『にゃー! スプラバッグとアウトフラーとボンブがふまれたー! にげろにげろー!』
(信頼する眷属たちの、動揺の声)
(敵は並の――いや、鍛えている能力者でも殺害できる質量攻撃を耐え切り、それどころか即座に反撃を開始した)
(哄笑しながら瓦礫を振り払い、地を這い回る小さな眷属たちを、楽しそうに踏み潰しにかかる)
(狂乱とでも表現すべきその様子を、メザーは眷属たちの目と耳を通じて、鮮明な情報として受け取った)
何だ……? 人間にしてはパワフルすぎる……言ってることも過激過ぎるような……。
いや、そもそも本当にヒトか、こいつ? ……もしかしてとは思うけども、私と同じだったり……?
可能性はあるわよね。転がってる死骸はクモ……『鬼』にも、いろんな形がある……ヒト型のやつも多いのかも知れない。
でも、まあ、あの暴れまくってる女がヒトだろうと鬼だろうと、やることは変わらないわね。
スプラバッグとアウトフラーとボンブ……仲良し3人組だ……サザエの殻を投げ合って遊ぶのが好きな子たちだった。
あんないい子たちを薄汚い靴底で足蹴にしたってんなら、その報いをくれてやらないと。
――総員、ちゅうもーく。
他の作業は全部中断。最優先で、私たちの食べ物狩りを邪魔するクソみたいなやつをぶちのめすわ。
敵は――鎌を持ってるし、仮に『昆布採り』とでも名付けましょうか――。
昆布採りは、建物西側のホールで、ローカルフォースたちと交戦中。今出ている仲間全員で、加勢に向かいなさい。
ローカルフォースたちは、《フォーメーション:うずしお》でやつを巻き込んで。
私もすぐに、そちらに向かう……!
(怒りのこもったその思念を受け取ったカニたちは、速やかに指示を実行しにかかる)
(死神装束の少女に踏まれまいと、必死にジグザグに、ばらばらの方向と速度で走り回っていた彼ら)
(その動きが、スイッチを切り替えたように、等速で、パターンを持ったものに変化した)
『めいれーい。ぼすからのめいれーい。《ふぉーめーしょん:うずしお》ー』
『ならべならべー。ぱわーをきんとうにじめんにながせー』
『こんぶとりをまんなかにしろー。おくれるなおくれるなー』『かせいにきたぜー。おれたちもまぜろー』
『あいてるところにはいるよー。ぼくらでじめんにもようをかくんだー』
(カニたちが少女を中心に、また並んでいく)
(少女の動きは激しく、すばやいが、わらわらといるカニ全部をあっという間に全部潰してしまえるほどの速度ではない)
(4匹目のカニが、彼女の足の裏の下に消えた時、その靴底は甲羅を踏み潰す感触を捉えなかった)
(「バキン」という音とともに、少女の足首までが、地面に沈み込む)
(バキン――バキン――バリリッ、ビキッ――!)
(少女は目にするだろう。自分のいるフロアの床に、碁盤の目のような、等間隔な縦と横の直線のひびが刻まれていくのを)
(16マス×16マスの、きれいな正方形の模様が生まれ――それがさらに分割され、32マス×32マスになり)
(それがさらに細かくひび割れ、64マス×64マスに――128マス×128マスに――さらに、さらに、さらに割れていき……)
(分割に分割を重ねて破砕されていった床は、瓦礫から小石に、小石から砂に、砂から粉に、粉からさらに細かな粒子になり)
(ひと粒ひと粒が目に見えないサイズになるまで、延々とすり潰されていく)
(そういった処理を施された床に触れた時、生き物が感じるのは「さらさら」とした感触ではない)
(水分をまったく含んでいないにもかかわらず、質感はまるで液体のように「とろり」として感じられるようになるのだ)
(死神の少女も、「とろり」となった床に、足がずぶずぶと沈み始める)
(もちろん、カニたちを踏み潰すという攻撃方法は、足元がそのような状態になったからには使えないし)
(仮にだが、彼女が泳げなかった場合、沈みこむ深さによっては、溺れてしまう可能性だってあるだろう)
(そして、これが何より危険だが……液状になった床の中を「泳いで」、カニたちが少女を襲える環境が生まれてしまった)
『よしゃー、はんげきかいしするぞー』『ぼすとおなじ鬼さんだろうと、なにするものぞー』
『にんげんにやるのとおなじように、たかってまとわりついてぶっころせー』『はだもにくもほねもそぎ落とせー』
(じゃば、じゃば、じゃばと、とろけた床のあちこちで、小さな波紋が起こる)
(それはカニたちが床の中を泳ぐことで発生しているもので、いくつもの波紋が少女に接近していた)
(彼らの本質的な能力は、物体の激烈な劣化と剥離である)
(人間が彼らに触れれば、たまねぎの皮を剥くように、全身を薄く剥かれまくって殺されてしまう)
(鬼に対しては、多少効果が薄くなるかも知れないが……それでも、まったく効かない、ということにはならないだろう)
(カニたちが少女の足にまとわりついた時。ざっと2秒ほども、彼らと密着したならば)
(触れた部分の皮膚が、肉が、痛みもなく剥離してしまうだろう……たとえるならば、剃刀で削ぎ落とされるかのように)
【『ハーヴェスト』のように、何匹か潰されても次から次へ湧いてくる系ちっちゃいのがうちの眷属!】
【それでも仲間を踏み潰されたので、怒ってそっちに向かいます】
【あなたがとろとろの床を脱出できないと、クソ不利なフィールドで私と握手する感じになっちゃうよ!】
【とりあえず、こっちが勝手に呼ぶ仮の名前として(ターゲット的なやつ)、『昆布採り』と呼ばせてもらうことにしたわ!】
【私って海を拠点にしてるから、鎌って漁師や海女さんが、昆布やワカメを採る時に使う道具って印象なのよね……】
144
:
◆BpYjFWEe7.
:2021/05/26(水) 23:09:12
>>143
(靴底から伝わる感覚は、確かに仕留めたと確信を持てるものであった)
(何分この蟹達の数は多い。全てを潰すのは非効率であり、非現実的でもある。……だが、コレを行う事で見えてくるものもある)
(相手に指示系統が存在するか否か。仲間意識を持つのか、死の恐怖を会得しているか)
(――……踏み潰した所で怒った大きな蟹が出てくる訳でも無かったが、行動を変えるという事が分かった)
(やはり、一匹一匹が本能のままに攻めているのではなく、組織的。何よりもこの数の差は如何に一匹が弱小であろうと、それを容易にひっくり返すだけの差である)
(範囲攻撃の様な能力を持たない自分からすれば、正に圧倒的不利な立場だ。――だからこそ、燃える)
さーて、親玉が居るんだとしたらどうやって引き摺りだしてやろうか……
時間を掛け過ぎれば人間たちの茶々が入るにしても、こんな楽しい状況を逃がす手はねェ
いっその事、この一帯をぶっ壊せば――うおォッ!?
(複数の展開を想像し、次の一手を想像しながら更に一匹を踏みつぶそうとしたその時)
(急に、床の感覚が無くなる。心構えも無く伝わる筈であった感覚を喪失した脚。既に床を蹴っていた方とは逆の脚が前に運ばれていた故に)
(派手に転び、大きな飛沫を上げる事となる。――別個体の異界に巻き込まれたか?しかし、辺りの物の劣化が進んでいる様子は見当たらない)
(口に入ってきた泥とも砂とも言い表せない物を吐き、状況を整理しようとするけれど)
(余りに予想外。這い出る事もままならず、手にしていた大鎌の柄の感触だけを確りと確かめる)
(――鮫でも出てくるか?それとも鯨でも現れて一飲みさせるつもりか?……いや、この音は。無数の小さな水音は、そのどれでも無い)
ッ、ビックリさせやがって……
そんな小さいハサミで一生懸命オレを刻んだ所で、解体が終わる頃には2晩位過ぎちまってんじゃねーか?
さっさと親蟹に泣きつかねーと数日分の食料としてお前らを――……あァ?
(最初は足止め程度だと思っていた。液状化にして脱出を困難にさせ、時間を取らせるつもりなのだろう、と)
(当然、短時間それが出来たとしても長い間この場に留まるつもりはない)
(ハサミで刻まれた所で肉体的に大したダメージにもならないと思っていた。……が)
(鬱陶しくも顔に近付いた蟹を手の甲で払いのけた時、「ソレ」に気付いた。先ほどまで別な蟹が触れていた前腕の一部皮膚が剥がれ、筋肉がハッキリと見えているのだ)
(小指に至っては最早動かせるだけの筋肉が剥がれ、多少の肉と腱で繋がっている様な状況)
(痛覚を刺激しない、という事が厄介であった。――先ほど、どれだけの蟹が入ってきた?どれだけの蟹が触れていた?)
(もっと早く気付くべきであった。警戒すべきだった。顔に触れようとしていた蟹を払えた事だけがまだ救いだった)
(もし、気管まで達していたらどうなっていただろう。――この液体に沈んだ状態では、自身の身体の程度は分からない)
(足は動いている。動いている、筈だ)
――随分と厭らしい事シてくれるじゃねーか……ア?親の蟹ってヤツを見てーもんだなァ!!
ゼッテーブチ殺してやるからよォ!
(大鎌の柄を両手で持ち、腰を大きく捻る。――ぷつり、と何処かの筋が切れた感覚はあれど、気にしている場面では無い)
(――グォン!!水中で大きく横薙ぎされたソレは、無数の小さな波紋が生じていた所に一つの変化を生むだろうか)
(奇しくも、渦潮の様な流れ。逆らうことが難しい程では無いが、確かに渦が生じている)
(――グォン!!二度目の横薙ぎ。流れに沿って行われたそれは、死神の少女を中心としてより一層大きな渦を作り出す)
(渦の中心部に居るのだから、余計に蟹が体に纏わり易くなりだろう。だが、少女の狙いはその先にあった)
(三度目の横薙ぎ。この水面一帯を1つの渦巻きと化す程に大きくなれば、当然少女も水中に飲み込まれる事となる)
(吸い込む力に従って、下へ、下へと流れに運ばれ――足裏が「底」に着いたとき)
(全身の力を込めて、「底」を使って一気に跳躍した。泳ぐでも鎌先を何処かに引っ掛ける訳でも無い脱出法を選んだ訳だ)
(水柱と共に再び宙に姿を現すと、猫の様に宙返りを行いつつ液体と化していない床に降り立ち)
……チッ。細々と小さい割には小賢しい動きをしやがる……どっかで見て指示を出してるヤツでも居んのか?
ンなチビを全部潰したトコで決着なんて訳にもならねェだろうけどよォ
(――右手小指。左大腿部。右足関節。大きく目立って「剥がれている」のはその部分だ)
(筋肉の半分近くが削がれ、動かす事が可能である程度。鬼同士の肉弾戦ともなれば、圧倒的に不利である事は確か)
(他にも糜爛の様な個所も数多く見受けられるが――闘志、殺意が消えた様子は無さそうだ)
(尤も、件の作戦が著しいダメージを負わせ、機動力を幾分奪っているのも見て分かる通り。それでも撤退を選択しない程に、この鬼は争いを好んでいた)
(ウエハースメザーがこの場に到着するならば。真っ先に向けられたのは射貫く様な鋭い視線――では無く、この鬼の血が付着した拳サイズのコンクリート片)
(目で捉えるのが難しい、という程の速さでは無いけれど。当たれば痛い、で済まないのは先ず確実であろう)
【おー、湧いて出て来んなら安心した。べ、別に有限だったらとかそんな心配をしてた訳じゃねーけどな】
【脱出すべきか否か悩んだけど、取り敢えず力任せに出てみた!っても、遠慮なく追撃で全然構わねェ!】
【ついでに投げつけた瓦礫も好きに対処しちまってくれよなー!】
【……つか、昆布採りなんて随分変な名前付けてくれるじゃねーかよ。もっとデビルシャークとかカッコいい呼び名を……】
【あァ?鎌のせい?……コレか〜……】
145
:
ウエハースメザー
◆k1072NP5UU
:2021/05/31(月) 23:38:32
>>144
(──ドパァン! という、海中で魚雷が爆発したかのような重い轟音が、ショッピングモール全体を揺るがした)
(滑らかな粉末の水面から、昆布採りが脱出するのに必要としたエネルギーは、それだけ大きいものだった)
(ただでさえ重い流体に大渦を巻かせ、微粒子化していない水底にまで沈み込み、自身にかかる流体の重みを、脚力ではね除ける)
(爆発物に例えても大袈裟でない、巨大な力だったはずだ)
(それによって、微粒子の中を泳ぐカニたちは──狙ってやったかどうかはともかく──思いがけぬダメージを負うことになった)
(少女の体が水面から飛び出すと同時に、その周囲にあった流体も四方八方に超高速で飛び散る)
(カニたちも巻き込まれて吹っ飛び、建物の構造物──壁や天井に叩きつけられる)
(超音速に近いその衝撃を耐え抜くには、カニたちの甲殻はあまりに柔らか過ぎた)
(ホールで昆布採りと対峙していたカニの数は、全部で63匹。そのうち、45匹が即死。7匹が行動不能の重傷)
(残りも激しく渦巻く不透明な水面の中で、敵の姿を完全に見失ったまま混乱していた──)
えー……えええ……マジなわけ、これぇ……?
じ、冗談じゃないわ、冗談じゃないわよこんなの……いくらなんでもひどすぎる……!
私のきょうだいを何だと思ってるのよ、あいつ! う、う、海鳥が貝を岩場に落として割るみたいに、あの子たちを……!
許せない、許せない……死んだ子たちを『作り直す』の、メチャクチャ手間がかかるってのに……!
(その光景を、カニたちの視界を通じて目撃していたウエハースメザーの機嫌は、もう底の底の底である)
(苛立つどころではない。一歩進むごとに、昆布採りへの憎悪が頭の中でグツグツと煮えたぎる)
(冷静さを殺意が覆い隠し、思考のほとんどがとにかく突撃したいという欲求に収束する)
よーし、よし、殺す……あれは純粋なパワータイプだ……殴る蹴る、鎌を振り回す以外の行動を見せてない……ぶち殺す……。
あの子たちの肉体破壊も効いてたし、極端な防御力も回復力も確認できない……特殊能力はないと考えていい……殺す殺す殺す……。
あいつの皮膚が食らってたダメージから考えて……私が『2メートル』の距離まで近付ければ……かなり優位に立てる……!
あとは、あの場所に私が着くまでに、あいつが逃げないかどうかだけが不安だわね……。
生き残った子たち、落ち着いて……! 攻撃はもう仕掛けなくていいから、あいつの位置を探し出して?
ああ、もう、粉塵が舞い上がって、広い範囲で霧がかかったみたいになっちゃってるじゃない!
あの子たちの目を使っても、よく見えない……まだ、あのホールのどこかにいるのは間違いないけど……!
(彼女の踏みしめた床は、バキバキ、ビシビシという音とともに、蜘蛛の巣状にひび割れていく)
(その派手な破砕音の連続は、静謐な無人のショッピングモールの中では、かなり遠くまで響いた)
(もちろん、昆布採りが身を潜めているホールにだって届くだろう)
(複数の廊下がそのホールにつながっていたが、メザーは自分がどこからやって来るのか、大声で宣伝しているようなものだった)
(そしてついに、もはや破壊し尽くされて、採石場と沼地を混ぜたみたいなありさまになったホールに、メザーは足を踏み入れる)
さーて来てやったわよクソ漁師いぃっ! いったいどこに隠れ――ぅぼふぅっ!?
(メザーの悲鳴と、ハンマーがコンクリートを叩き割ったかのような硬い衝突音が重なる)
(昆布採りの投擲した岩は、油断していたメザーの左側頭部に見事、直撃した)
(赤い髪が乱れ、細い体が大きく傾く。血まみれの岩がこめかみに深くめり込んで、白い肌に深い亀裂が走る)
(亀裂。そう、メザーの顔面に、本当に岩を割ったかのような、稲妻型のひび割れが入っていた)
(こめかみから目の下を通り、鼻を上下まっぷたつに断ち、右の頬まで達する黒い傷跡)
(人間の柔らかい肉体であれば、まず生じないような硬質な谷間……)
(その奥から、どぼっ……どぼどぼどぼっ……と、大量の液体があふれ出す)
(血ではない。透明でさらさらとした、磯の香りを漂わせる液体だ)
(エビや、カサゴのような小魚も、ぴちぴちと跳ねながらこぼれ落ちてくる。アサリなどの貝、ヒトデ、クラゲもいくらか)
(それはどうやら、多くの命を含む海水だった。海が、彼女の中にある)
――見つけた。
(ごり、ごりごり、ごりごりと。石と石がこすれ合うような音をさせて、傾いていたメザーの首が起き上がる)
(そして、自分の顔から噴き出す海水を、手のひらにすくい、それを野球のピッチャーのようなフォームで振りかぶり……)
どっせぇい!
(石が飛んできた方向に、お返しとばかりに、思いっきり投げつけた)
(投擲された水しぶきは、薄い霧のように空気中に広く漂う粉塵を貫いて、昆布採りに迫る)
(水は直線でなく、扇状にバラけて飛び散るので、狙いを外れた水の玉が、積み重なった瓦礫や壁にいくらか降りかかるが)
(そういった場所には――ババババッ! と、散弾銃ででも撃たれたかのような無数の穴が、深く穿たれる)
(実を言うと、メザーが放ったのは、ただの水ではなかった)
(本当に小さな、1、2センチほどの生まれたての赤ちゃんガニが何十匹も、ウヨウヨと泳いでいる水なのだ)
(もちろん、それらは眷属としての破壊性能を有している。接触すればその部分が崩壊し、穴が空く)
(石でも鉄でも、人でも、鬼であってもだ)
アンタッ、よくもうちの子たちを足蹴にしてくれたわねっ!
たまに海に潜ってきては、昆布だけ刈り取っていく大人しい人間みたいな見た目して……絶対許さねーわよ、このスカタンッ!
ボロッボロのバラッバラのズッタズタの肉片ッつーか粉微塵にして、生まれてきたことを後悔させてやるわ――ッ!
(片手で首を掻っ切るようなジェスチャーをして、宣戦を布告)
(その上で、子ガニたちを含んだ海水をまた手に受けて、相手のいるであろう方向に向かって投擲、投擲、投擲!)
(粉塵によって視界は不充分であり、一発目の攻撃が相手に当たったかどうかも判断できない状況ではあるが)
(何発も投げてれば、どれかはきっと当たってくれるだろう……という、シンプルな思考をメザーはしていた)
【眷属たちはいっぱいいるわ! 繁殖もして、子供もぽこぽこ生まれてくるから実質無限!】
【投げつけた瓦礫も好きに対処していい、ってことだったから、ホールに入った瞬間投げつけられた、という形で書いたけど】
【問題ない……わよね? たぶん!】
【人間の創作物や宗教概念に触れていれば、鎌から死神をイメージしたんでしょうけど、私はそういうの読まないから……】
【文字もろくに知らなくて、「アイス」をかろうじて甘くて冷たくて美味しいものとして理解している程度よ!】
【でびるしゃーく……デビルシャーク……カッコい……かっこ、いい……?】
【……うん! 強そうで悪そうで、すごくかっこいいネーミングね!(その目は優しかった)】
146
:
◆BpYjFWEe7.
:2021/06/05(土) 00:32:03
>>145
――ハンッ。蟹共の親分がどんなヤツかと期待してみれば、ただのガキじゃねェか
もっと目玉を飛び出させるなり蟹に近付く努力でもしてみたらどうだ?
……っても、大分「らしく」なってるみてェだけどな。ちいせェ子分にコソコソ頼んでる様じゃ鬼としての格も落ちるんじゃねェーの
本当の殺し合いってのはな……こうやって、相手をぶん殴る感触を楽しむのもだぜ――!!
(投擲を終えたフォームのまま、その攻撃が当たったことに対してニヤリと笑みを零した)
(鬼のダメージは人間と異なって外見では判別が難しい事もある。だが、あの音に外見の変化……それなりの効果は得られた筈だ)
(ならば、追撃を選択するのが常。ウエハースメザーの分析は決して間違ってはいない)
(この鬼は搦め手を用いない純粋なパワータイプである。異界も広範囲に展開する事もなく、その大鎌自体にも鬼に対して目立った力がある訳でも無い)
(――だから、追撃も単純だ。近づいて一気に片を付ける。グ、と力を込めればロケットスタートの合図)
(蟹によって抉られた箇所もある。先程の様な速度にまで達する事は不可能だが……近付くには十分だ)
(そして。ウエハースメザーが海水を投げるのと、走り出すのは殆ど同時であり)
苦し紛れにンな物を投げた所でテメェが死ぬ未来は変わらねェんだからぼうっと立っとけボケェ!!
なぶり殺しにする趣味はねーから大人しくしとけば直ぐに――……な、ぁッ!?
(海水に対して、自ら突っ込む様な形になる事だろう。そして、横っ腹に当たったそれは彼の鬼の狙い通りの効果を上げる)
(風穴、と言うには大きすぎる……指4本分程の穴が、この鬼の腹に空く事となって)
(失速した状況を見れば、ダメージも相応に大きいものである事が見て取れるであろうか――失速したとは言え、それでも速い事に変わりは無いのだが)
(痛みはある。だが、脚は止めない。――このまま殴れば、あの海水をまともに浴びる可能性……も、頭から排除する)
(殺す。単純に、破壊する。それだけを念頭に、ただ突っ走り)
嫌だったら最初からテメーが出てくるべきだったなァ!
子分どもに任せて胡坐を掻いてたせいで相当な数が死んじまったんじゃねェか!?
オレはなァ……ズッタズタの肉片になろうが、テメェは絶対にブチ殺す!!!
(2つ3つと投げられている事が分からなかった訳では無い。そして、視界不良の危険性を認知していなかった訳でも無い)
(ただ単に、逃げる事が性に合わないから突き進む。そんなイノシシの様な思考からの突撃だ)
(幾つかのソレをいなし、避ける事は出来たが……距離が縮まっていくに従って、それも難しくなる)
(ガチャン、と聞こえた音は大鎌の落ちた音だろうか。だが、未だに足音は止まらない)
(――――粉塵を分けて現れたその鬼を目視出来た頃。謂わば満身創痍に近い状態である事が理解できるだろうか)
(抉れた頬からは鋭い歯が?き出しとなり、左手は致命傷を庇ったが故に手首に穴が空き)
(右手も一部指の先端が欠けていたり――その他にも、飛沫によって幾つもの小さなダメージを負っている)
(だが、獲物を見る目だけは変わっていなかった。それは、至近距離になった事でより一層良く分かる事だろう)
(正に、鬼だ。相手を食い殺す怪物。伸ばされた右手は、ウエハースメザーの顔面を掴もうとして――……)
(亀裂から漏れた海水が直に手を焼こうとお構いなしに、だ。被害を抑える事よりも、相手にダメージを与える事を最優先とする生粋の戦闘狂)
(以降、もしも顔を鷲掴みにされたならば……の、話だが)
ふはまえはへ―――!!
(「捕まえたぜ」。残った半分の唇を楽しそうに吊り上げて、実に楽しそうにそう宣言するのだ)
(死ぬ恐怖にも勝る戦闘欲。――そのままウエハースメザーの顔を握りつぶそう、という訳では無い)
(走った際の勢いを殺すことなく、思いっ切り自分の膝に後頭部を叩き付ける事こそが目的)
(コンクリート片を投げた時と同じように、思いっ切り頭を振るって――叩き付ける。まともに受けたならば、人間基準で考えればスイカの如く砕けてしまうであろうか)
(しかし、この鬼の指は欠けている。必然的に握力も弱まり、急所をズラす……或いは抜け出すことも可能である)
(何よりも、『2メートル』よりも更に近いこの距離感。凌げれば、大きなアドバンテージとなる事だろう)
(対して鎌を持って居た鬼は見ての通りの状態だ。コレは決死の一撃――と、捉えても良いか)
【無限に出せる蟹……狐辺りが聞いたら日本酒持っていきそうだな……依り代の本体が飲めないのに……】
【瓦礫も本当に好きな様に扱って貰って良かったから助かったぜ!ありがとうな!】
【……へっ。オレの方が学があるじゃねーか!FACK←これはファックって言うんだぜ!……スペルミス?スペルってなんだ?】
【お!このネーミングセンスの良さがお前にも分かるんだなっ!えーっと……マッドクラブ!!】
【よぉし、これからオレとお前でデビルシャークandマッドクラブってチームで世界を取りにいくぜ!!(それはそれは純粋な目だった)】
147
:
ウエハースメザー
◆k1072NP5UU
:2021/06/08(火) 22:43:23
>>146
ほほうほほう来るか来るか来るかァッ!
いい度胸だわね好感持てるわだからこそ今ここでわかりやすくえぐれて崩れて飛び散って落ちろおぉ──ッ!
(硬いものに穴を穿つ音が、タイプライターを激しく叩くかのように絶え間なく連続する)
(海水を手に受ける。腕を鞭のようにしならせる。子ガニを含んだ飛沫を投げつける)
(この3行程だけで、ウエハースメザーは重機関銃のフルオート連射に匹敵する破壊を眼前にばらまいていた)
(粉塵の煙幕は千々に切れて吹き飛ぶ。床のタイルは剥がれてめくれ上がる)
(そして、メザーに向かって突進してくる死神の肉体が、徐々にしかし確実にすりおろされていく)
(皮膚が散る。肉片が散る。血が飛沫よりも細かくなって粉塵に混ざり吹き散らされる)
(しかし、彼女は止まらない)
(人間であれば最初の一撃を受けた時点で行動不能、悪くすればショック死しかねない大怪我であるのに)
(ガソリン満タン、オーバーホール完璧のトラックのように、パワフルに地面を蹴ってメザーとの距離を詰めていく)
(さて、そんな相手にメザーが向ける感情はいかなるものであるのか)
(さしあたり、憎悪が30パーセントほど。すごいガッツだと称賛したい気持ちが2パーセントくらい)
(で、残る68パーセントは、焦りであった)
え、ちょ、当たって……当たってるわよねこれ!? 大部分直撃してるわよね間違いなく!?
何で倒れないっつーかどんどん加速してるとか嘘でしょ!?
うおああああっ、た、倒れろ倒れろ倒れろ倒れろ倒れろいい加減倒れときなって力尽きろこのこのこのこの!
その汚ならしいザマで近づくなってちょっまだ走れ骨見えてる顔剥がれかけてるってうわぁ目がイッてるヤバいこいつ!
ちょ、ちょっとはダメージ気にしなさいよバカアアアアッ!?
(敵がどのくらい体力を残しているのか、それを判断するためのファクターのひとつに表情がある)
(疲れている時、くじけそうな時、もう残り時間が少ない時。それにふさわしい表情を浮かべるのが人型存在にとっての当たり前だ)
(ウエハースメザーは今までに大勢の人間を殺し、力尽きていく時の表情を見てきた)
(文字はほとんど知らなくても、「私の攻撃が効いてるわね! ヨシ!」と判断できる表情がどんなものかは知っている)
(どの程度肉体を破壊すれば、人がその表情を浮かべるのかを知っている)
(なので、ダメージがめちゃくちゃ大きく見えるのに、不敵な笑みを浮かべて突っ込んでくるバーサーカーのような昆布採りの姿は)
(メザーの頭の中の理屈に真っ向から反していて、不気味としか言いようがなかった)
(最初は「接近して戦う」つもりでいたのに、今では少し及び腰になってるくらいには、無自覚にビビっているのはナイショだ)
(来る。瞳孔が開き、狼よりも歯を剥き出しにした獣が来る)
(ボロボロのその手が、メザーの顔に伸ばされる。血まみれの指が、赤い髪を櫛けずりながら頭皮に食い込む)
(人ならぬ握力。めしり、と音がして、メザーの顔面に刻まれていたひび割れがさらに大きく広がる)
(上下の唇が左右に両断され、あご、首、胸元に達する裂け目が生じる。左目が砕けて、ガラス片のように地に落ちる)
(首がもげそうなくらい、深いひびによって安定感を欠いたメザーの体が、大きく傾いた)
(そこに繰り出される、昆布採りの渾身の一撃)
(ダッシュの勢いと、万力のような握力によって補強されるハンマーのような膝が、メザーを打ち砕くべく迫る──)
(直前に)
(メザーの濡れた手が、昆布採りの手首をつかんだ)
──私は岩礁。私は珊瑚。
私は朽ちた船。私は鯨の骨。
広い海原の底に沈むものすべてで、
暗い塩水に潜むものすべてのゆりかご──。
(ひび割れた唇から、搾り出すような乾いた声がこぼれる)
(負けてたまるかという必死さが、ギリギリのところで焦りと恐怖を上回った)
(冷静になれば勝てる。敵の剣幕に押しきられるな。自分は自信を持つに相応しい強者だという事実を忘れるな)
(呪詛を紡ぐのは、心をととのえるため。言葉そのものに意味はない)
(いや、己の根源を見つめれば、自分に最も向いた行動ができるわけだから、意味はちゃんとあるのかも)
(とにかく、冷静にやることが必要だ──合気道の使い手が、瞬間的な判断で技を正確にかけるように)
(『2メートル以内』)
(こちらから踏み込むはずだった殺しの距離に、向こうからやって来てくれたのだ。うまく利用しなければ失礼というもの)
(メザーは、つかんだ昆布採りの手首に、自分の能力を注ぎ込んだ)
(ばり、べき、という破砕音とともに、メザーの頭をとらえていた指の表面が、牡蠣殻のように変化して剥離し始めた)
(もともと欠けていた指を、そうしてさらに弱くする。結果、緩む拘束──ずれる上半身の位置)
(耳の横を、昆布採りの膝が唸りをあげてかすめていく)
(その勢い。直撃していたら、メザーの頭は本当に粉々だったかもしれない)
水の深さが光を奪う──最も深い場所に雪が降る。
軟らかな肌のものが、衰えた目を持つものが、その冷たさを知る。
原始の粒。白く滑らかな平面。何ものもいつかはそこへたどり着く。
私はゆりかご。私は終着点のくらやみ。私は始まりから終わりまでの道のり。
軽く小さく儚いものたちの中でひとつだけ、重く巨大でゆるぎないもの。
私の出会うもの、私を見るもの、私の声を聞くもの──すべて、すべて、すべて──。
すべて、私とともに沈め──。
(バランスの崩れた体は、昆布採りの胸に顔を埋めるような形で倒れ込んだ)
(石のような質感を持つ両腕が、昆布採りの背中に回され、ぎゅっと引き寄せる)
(ゼロ距離)
(ウエハースメザーの異界が──ものを劣化粉砕する厚さ2センチのヴェールが、昆布採りを音もなく抱擁した)
【うちの子は食べちゃダメだって! 仮に調理したあとでも能力残ってたら、歯がボロボロになるわよ!?】
【日本酒も若いうちは肝臓の負担が大きいから控えなさい! 甘酒とか栄養豊富で美味しいんじゃないかしら?】
【……くっ……! 英語でマウント取られる日が来るなんて思いもしなかったわ……アルファベットはまだキツい……!】
【で、その、ふぁっく? ってどういう意味なの? ウミウシかなんかの仲間?】
【そして生暖かいネーミングで私にも生暖かい二つ名がつけられてしまった。すごく頭の中が簡単そうなコンビに見える!】
【くそう、こうなったらホントにそのコンビで世界を獲って、こんな名前のふたりにやられた人間どもを笑い者にしてやるわ!】
【(そして、実際にコンビが結成された場合、いつか……数百年後ぐらいに……起こり得る出来事)】
【(そういやデビルシャークって、本名何だろう?)(`・ω・)(・ω・´)(そういやマッドクラブって、本名何だろう?)】
【さて、そろそろ私たちのバトルも決着かしらね? どんな風に締めたものか、どんな風に閉まるものか】
【お互い悔いのないよう、派手に絢爛にクライマックスしたいものだわね!】
148
:
◆BpYjFWEe7.
:2021/06/12(土) 16:57:48
>>147
(決まった。久し振りに楽しい殺し合いを終える事が出来た。この場で立っているのは自分だけ)
(さあ、後はこの場から立ち去って傷を再生させよう。一週間で済むだろうか――なんて、考えていたけれど)
(渾身の一撃が外れた事を悟ると、そんなのも全て無くなってしまい。本能的に、それが外れた原因を探る思考へと移る)
(――成る程。よくもまあ咄嗟の判断を行ったものだ)
(ただただ心底楽しそうに笑って見せる。それだけ)
(きっと反撃が来る事は予測できるが、それを躱すだけの体力も無ければ潰す力も残っては居なかった)
(それに死闘には勝敗がつきものだ。戦いに生きていたのだから、何れ死ぬ事は理解していた)
(つまらない死に方では無いのだから良しとしよう。――でも、大人しく死ぬのは柄では無い)
――小難しい言葉ばっか並べやがって――……ハッ……最後まで気に食わねぇやつ……
……でも、まぁ……今回はオレの――……
(抱擁されるその寸前、先ほど掴まれていた手首をウエハースメザーの顔を目掛けて思いっ切り振るった)
(――が。それには既に蚊程の力も残ってはいなかった。当たった所でそれが何かの脅威となる事は無いであろう)
(やがて、抱擁されたならば。そのまま胸部から上だけがどさり、と床上に落ちる事となる)
(まるで胸像にも似た――と表すと語弊もあるだろうが。しかし、誰が勝者であるのかハッキリと分かる構図)
(流石は鬼と言うべきか、未だにしぶとく生きてはいる様だが正に虫の息であり)
(トドメを差すのも差さないのも自由。それは戦い抜いて生き残った者だけが選べる特権なのだから)
(――――そして、戦闘が終わった直後。遠く離れた入り口からこの場に迫る複数人の足音や気配も感じ取れるだろうか)
『鬼同士の争い?縄張りでも荒らしてたのかね』『どうでしょうね。詳細は不明だけれど、人型の鬼が争っていた事だけは確からしいけれど』
『派手に暴れられたら店の再開も大変だろうネ。ワタシ関係無いけど』『大企業サマだから異界災害の保険でも入ってんじゃねーの』
『はいはーい、お喋りタイムは終わり。今回の依頼内容は分かってるね?鬼の生け捕り。貴重な武器として活用するから、出来る限り殺さない様に』
『戦闘音も止んだ様だし、どっちかが死んだのかしらね。早く見つけないと何処かに逃げられてしまうんじゃないかしら。政府の組織が来ても面倒だし……』
『鬼を殺さずに生け捕りっていう依頼も無茶苦茶ダヨネ。知性ある鬼ならコッチの誰か死ぬヨ?』
(鬼の遺骸から作り出したアーマーを着た集団。装備は別世界の鉱物によって造られた銃火器に刀類にと実に様々である)
(今から鬼の居る場所を探り当て、剰え戦闘を繰り広げるというのに談笑をしている様子から、今までに何度も異界の修羅場を潜っているのだろう)
(接敵までまだ暫く時間がある。敵も少数先鋭であるが故に建物も封鎖されて居らず、幾らでも逃げ道はある――が)
(そこに、更に新たな気配。今度はウエハースメザー達から数歩離れた距離)
「あっははは♪凄いわね、とっても凄いのね、貴女。まさか1対1で勝てるなんて思っていなかったもの」
「おめでとう?お疲れ様?怪我は痛い?――どれを言おうかしら。どれを言うべきかしら。どれでも良いわね、うん、きっとどれでも良いの」
(話しかけてきたのは、赤いドレスを纏った少女だ。艶のある銀髪に整った顔立ち――まるで精巧な人形を思わせる様な姿)
(しかし、この少女もまた鬼である事は理解できるだろうか。何より、「1対1で勝てるなんて思っていなかった」と言っている事から、昆布採りと呼んでいた鬼を知っているのだろう)
(笑みを浮かべたままに、小首を傾げながらメザーの顔を眺め――くすくす、より一層愉快そうに笑って見せて)
「本当は少し貴女とお茶会をしてみたかったの。あの子に勝った貴女とお話をしてみたかったの」
「本当よ?ホントの本当。だけれど、人間達が邪魔をする為に来ているみたいね。困っちゃう。とても困っちゃうわ」
「――だから、また今度お話しましょう?お茶会に招待するわ。紅茶は好き?クッキーはどうかしら。あ、それとも――……」
(視界に入ったのは、もう解け始めているアイス達。「飛びっきり美味しいアイスは如何?」と言葉は続けられて)
(深紅の双眸はじぃ、っとメザーを見つめていた。「その誘い」にどう返すも自由ではあるが、了承の意を表したのだとしたならば外見相応の嬉しそうな表情を見る事となる)
(それだけを見れば、人間の子供とそう違いは無い。――が、鬼は鬼だ)
「その状態で帰るのは大変でしょう?送ってあげましょうか。貴女のお家は何処かしら。名前を聞いても構わないの?」
「わんわんわわん、私は犬のおまわりさんでは無いけれど――……今度貴女とお話しするのに、死なれてしまっては困るもの」
「それに、その子もちゃんと回収していかなければいけないの。そう、貴女の足元に居るその子」
(敵意が無い事は明確。抱いている感情と言えば好意……或いは、興味。少なくとも、攻撃してくる気配が無い事だけは確かであって)
(自力で脱出を行うのも良いであろう。ただ、この鬼の誘いに乗っても危険は無い筈だ。……恐らくは、だが)
【「メザーがママ属性を持ち始めてる……流石小蟹ならぬ子蟹を沢山従えてるだけはあるね……」】
【「ボク自身は並みの人間よりはずっと長生きだからいいんだよ!沙羅が酔い潰れたら介抱だけ宜しくね〜」】
【ファックは世界平和って意味らしいぜ!!ファックファックファァァァッック!!!】
【それじゃあオレがギターとボーカル担当だな!お前はドラムッ!……何だよ】
【世界を取りに行くって言ったらロックに決まってんだろ!!】
【(こうして楽器と壊滅的な音痴を武器に戦う鬼が云々……)】
【返しに大技をブチ込む!!と思ったけど、それじゃあ締まりがねェからこんな風にしてみた!】
【新しく出てきた奴は戦闘になったりする訳じゃねえからな!】
149
:
ウエハースメザー
◆k1072NP5UU
:2021/06/18(金) 22:12:22
>>148
ふっ、ふ、ふあははははっ、や、やった……やった、わよね?
これでもうケリついたわよね? また起き上がってファイティングポーズ決めるとか、いらないどんでん返ししてこないでしょうね?
こ、ここまでボロッカスにしたんだもの。さすがに死んでくれないとウソよ。正々堂々、物言わぬ屍になってもらわないと困るってもんだわ。
……動かない、わよね? 止まってるわよね? か、勝鬨上げるわよ? わーい……わーい……! か、勝ったー……!
(ウエハースメザーの抱擁によって、上半身と下半身をまっぷたつに断ち切られた昆布採り)
(倒れ伏し、その全身から力を失っている相手を見下ろし、勝ち誇ってみせるメザー)
(しかし──しかし、勝者としての立場に反して、彼女の言葉は怯えを含んで震えていたし、腰は引けていた)
(そうなるのも仕方ないと言えば仕方ない。相手は、皮膚や肉を骨が見えるほど抉られてなお、殺意満点で突っ込んできた猛犬のような鬼なのだ)
(メザーが本気で勝利を確信し、背を見せた瞬間、「かかったなアホが!」とか言いながら脳天ぶち抜くチョップを繰り出してきても意外ではない)
(だから、安心して勝利の感覚に浸るために、もう少し念を入れておきたいとメザーは考えた)
(具体的には、残った昆布採りの上半身をさらに粉砕し、死を確実にする)
(それほど難しい仕事ではない。ほんの数歩近づき、もう一度ゼロ距離でステキ異界パゥワーを浴びせる。それだけでいい)
(それだけでいいのだが──その作業の最中に、ガバッ! と相手が起き上がってきたりしたら本気で怖いので)
(歩み寄るメザーの一歩一歩は、じりじりと慎重で遅いものになってしまっていた)
(結局のところ、ここで思いきらなかったのが彼女の失敗だった)
(速攻で昆布採りに飛びかかっていれば、この戦場に第三者が介入する余地など生まれなかったのだから)
…………ッ!?
足音……声……? ちっ……まずい……。
どこの誰よ、空気読めないわね……私の獲物を横からかっさらおうっての……?
そうはさせない……そうはさせるもんですか。このボロ屑は私がぶち殺すんだ……私を舐めてかかったやつは私の手で殺す……。
何て言うんだっけ……ぎょふのり? だっけ? そんなのを狙ってくるアホどもも、私を舐めてる……殺さなきゃ……!
でも、くそっ、何人いる……? ふたり以上だ……あっちから来てる……今の私の怪我で、迎え撃てるか……?
今いる子供たちを全員集合させれば、いけるかもしれないけど、でも──。
(不愉快そうに独り言をつぶやいて、声と足音のする方に目を向けたとき)
(メザーは意識の範囲外に、いつの間にかさらにもうひとり、歓迎しない誰かが立っていることに気づき、肌を粟立たせた)
(華麗な赤い服をまとった妖女。ヒト型ではあるが、有機的な気配のない異様な美人である)
(もちろん、今のメザーにとって、それの登場は新たな脅威の到来以外の何事も意味しなかった)
(相手がどれだけ友好的な言葉と態度を取っていても、今、この状況で、それができるというだけで充分にやべーやつ認定が可能なのである)
(じり、と、そのフランス人形じみた女から──同時に、ぴくりとも動かない昆布採りから──距離を取りながら、メザーは思考を回転させる)
お茶会……? クッキー……? 何言ってんの? 人間どもが会話で使うっていう、暗喩とかいうやつ?
生憎だけど、このウエハースメザー様は美味しそうな言葉が並んだくらいで油断するほど甘くはないのよ。
それよりあんた、その昆布漁師の知り合い? そいつをかばい立てするってんなら、ふたりまとめてチリカスにしてや──ぐ、うぎぎっ……!
(凄みをきかせて優位を取ろうと試みるが、それは成功したとは言えなかった。メザーにも、苦痛という感覚があったからだ)
(昆布採りとの戦いでひび割れた、彼女の体。左目から上、頭全体の4分の1ほどが、床に落ちて、がしゃんと砕け散る)
(胸や肩にもひびは走っており、そこから流れ出るのは海水であっても、普通の人間の怪我同様にズキズキと痛む)
(認めなければならない。メザーは満身創痍だ)
(赤い服の女がどれほどの戦闘能力を持っているのかはわからないが、よっぽどの雑魚でもない限りはメザーを殺し得る)
(時速120キロぐらいに加速した乗用車で、正面からぶつかる程度の弱い力でいい)
(たったそれだけの衝撃で、今のウエハースメザーは命を落とす。力量のわからない相手に挑むのは危険だ)
(では、戦わなければいいのだろうか?)
(赤服の言葉に敵意はない。それどころか、怪我をしている自分のことを助けようとしているようだ)
(お言葉に甘えて、安全なところまで移動させてもらうというのも、ひとつの選択肢ではある)
(いや、メザーはそれを絶対に選ばない)
(誰かに手を差しのべるというのは──強者が弱者にたいしてすることだ)
(世界最上の存在であると自認しているメザーにとって、助けてもらうというのは他者の下につくということだ)
(それは許容できない屈辱である)
(相手が他意のない善意でそうしようとしているのであっても関係ない。助けられるぐらいなら、まだ危険を選ぶ)
(なら、結局どうすればいい? ──メザーは考える)
(「まず昆布採りに突進して、頭を踏み潰してから、返す刀で赤服を殴るか?」)
(「いや、死んでる確率が高い昆布採りより、先に赤服に飛び蹴りした方がよくないかしら」)
(「いやいや、こいつを相手にしてたら、あとから来る連中も混ざってわちゃわちゃしちゃう」)
(「まだ遠くにいる連中を先に殺すよう、小ガニたちに命令して……」)
(「それより頭がスゴく痛い! まず怪我の手当てがしたい、したくない? 珊瑚でこう、隙間を埋める感じで!」)
(「アイスクリームどうする? そもそも私、アイス奪いにここに来たんじゃん……もうお腹空いたよ……」)
(「どうしよう」「昆布採りを」「赤服を先に」「遠くにいる奴らを奇襲しよう」「アイス……」)
……うう……うううううぅうううー……ううううー……!
うが────────ッ!
(数秒間の熟考ののち、メザーの中で)
(何か張りつめていたものが、プチンと切れた)
(げしっ、と地面をひと蹴りし、澱んだ右目で赤福の女を睨む)
【長くなったから、ふたつに分けるわ!】
150
:
ウエハースメザー
◆k1072NP5UU
:2021/06/18(金) 22:14:04
【
>>149
の続きー】
……あんた……お腹壊したこと、ある?
私は一回だけあるわ。でっかい船がこぼした、重油? ってのを間違えて飲んじゃってね。
あの時はツラかったー……下っ腹がしくしく痛くてさぁ。何もする気が起きないし、何も考えたくなくなるんだもん。
三日ぐらい、真っ暗な海の底で丸くなって、うんうん唸ってたわ。
今の私、限りなくそれに近い気分。体じゃなくて、心が。
何ていうかもう、考えるのめんどくさい。
全部ぶっ壊してスカッとできればそれが最高だけど、力をぶん回すにはコンディションが最悪。
あれもこれもあんたもあいつもそいつもこいつもどれもこれも全部みんな無視して、冷たい水に浸ってじっくり寝たい。
言いたいことわかる? あんたは無傷で余裕がありそうだからきっとわかるわよね。察しの良さは全生物にとって美徳であるべきだもの。
ああ、でも、いちおう言っとくわ。可能性は少ないだろうとはいえ、誤解が起きたらかわいそうだもの。つまり──。
(苛立ちをたっぷり含んだ言葉を垂れ流しながら、メザーは右手を振り上げ、握りしめて拳を作り)
(そしてそれを──ぶんっ、と──ハンマーのように、床に叩きつける──)
もーやだあぁーっ! あたしもうおうみにかえる!
お前らみんな大っ嫌いだああぁぁ! オニダルマオコゼ踏んで苦しんで死ね──ッ!
(ゴグンッ、と鈍い音がして、メザーの周囲の床面が細かいサイコロ状に切断される)
(そしてそのまま、泣きわめく赤毛の鬼は、落とし穴にでもハマったかのように、地面に素早く全身を沈めた)
(ほんの少し前に、眷族のカニたちがやってのけた、固体の流動化である)
(自分の真下、直径2メートルほどの範囲を、深さ十数メートルに渡って分子レベルにまで粉砕し、滑らかにして飛び込んだ)
(彼女は充分な深さまで沈んだら、今度は海の方向に向かって、横にトンネルを掘って進むだろう)
(戦場となったショッピングモールは、海に近い)
(液状となった地面を泳ぐことのできるメザーが、自分のホームに帰りつくには、3分もかからない)
(そう。彼女は考えに考えた末、ちゃぶ台をまるごとひっくり返して、今日という日をなかったことにする決断をしたのだった)
(より簡潔にいうなら、逃げた)
(でも、ウエハースメザー・パシフィックという鬼は、それを逃走とは認識していないだろう)
(例えるなら、ゲームしてたら読みこみがやたら遅くてストレスが溜まったんで、途中で電源を切ってふて寝した、みたいな感覚だ)
(「痛いのはイヤだ! 戦闘狂の相手もやってらんない!」)
(「さらに相手変えて二戦目、三戦目? そんなギリギリチャレンジするもんかっての!」)
(「一方的になぶり殺しにするのは楽しいけど、こっちも死にかねないつばぜり合いは趣味じゃなーい!」)
(「めんどくさい邪魔者どもめ……死んじゃえ、死んじゃえ、くそっ……昆布採りも、あの赤服も、顔覚えたかんな!」)
(「今度、どっかでひとりきりでブラついてるとこ見かけたら、後ろから問答無用で即死パンチ叩き込んでやるぅ!」)
(そんなことを思いながら、「うわーん」と涙声で叫びつつ、我が家へ向かってゴーゴゴー)
(その後ろから眷族のカニたちも、わらわらわらわらついてくる)
(穴に逃げ込みきれなかった子たちは、四方八方にバラバラに別れて、陸路で戻ってくるだろう)
(潮が引くような動き。メザー本人はけっして認めることはないだろうが──)
(それは彼女の、生まれて初めての撤退であった)
【ファックが世界平和……? なんてこと、人類ぶちのめして世界を自分のものにしたい私には敵対的な単語じゃない!】
【ならばここは、街中で「ファック」と叫ぶ平和主義者たちを後ろから叩いて砕くロックな生き物を目指すことにしましょう】
【ドラム? ↑のとおり、私はまさにモノを叩くのが好きよ。岩状のものでごすんと叩いて、音楽を奏でてあげるわ!】
【あんたもギターと、お得意の大鎌を振り回して、美声で人類抹殺を叫びなさい! 真の音楽がここにある……!】
【作詞作曲はできないけれど、きっとわかる人にはきっとふたりのソウルが伝わるはずよ!】
【(世界初! 観客の悲鳴をメロディとして奏でる系ロックバンドがここに誕生した!)】
【(同じ観客、同じコンディションはありえないので、同じ演奏は二度と聴けないぞ! 要チェックだ!)】
【そしてこちらはこんな風に。第三者の出現は、私らしいへタレさを出すのにちょうどよかったかもしれない……!】
【昆布採りは、赤い子預かりで復活するのかしらん。……メカ昆布採りとか、今後顔出したりしないわよね……!?】
151
:
◆BpYjFWEe7.
:2021/06/23(水) 20:04:08
>>149-150
昆布漁師?誰かしら、誰の事かしら?――ああ、この子ね!きっとそう、この子の事ね!
駄目よ、名前はしっかりと言ってあげなければいけないわ。この子は――……名前、何だったかしら
フフフ、ごめんなさいね、ごめんなさい。私もこの子の名前は知らなかったわ
(メザーの心情を知ってか知らずか、くつくつと笑いを零しながら床に転がるもう一人の鬼を眺めて)
(対して、敗者たる伏した鬼は最早その会話すらも耳には入っていないのだろう。当然の事だ)
(確かにまだ生きている。生きているが――「まだ」が付く。その内に失血死かそれ以外が原因か、どちらにしても死ぬ未来は確実であろう)
(「かばい立てする」……その言葉に対して、これまた可笑しそうに笑って居た)
(最初は声を殺すかのように――やがて、我慢できなくなった様に体を震わせて)
(何が楽しいのか、何処が面白いのか。それは当の本人にしか分からない事ではあるけれど)
そうね、それも面白いかもしれないけれど――でも、この子は知り合いであって仲間では無いのだから
このまま死んでしまっても悲しまないの。悲しまない……?まるで人間みたいな事ね、どうなのでしょうね
ええと……ウエハースメザー?悲しむってどういう感情なのかしら。きっと難しい感情なのね。だって想像が出来ないもの
――……それで。私が此処に来た理由は簡単よ、とっても簡単。きっと私がこの子と戦ったら負けてしまうから
そんな子に勝った貴女とお話してみたかったの。だって、面白そうでしょう?どんな風にして勝ったのか、直接生き残った鬼から聞くのって
でも、巻き添えにされてしまうのは嫌、痛いのは嫌いなの。だから、その時は逃げるの。こう見えても逃げる事には自信があるのよ?
ウエハースメザーが追いかけようとしても、ずっとずっと遠くに逃げてしまうの
(見ず知らずでは無い。だけれど助ける理由も無い。仮にメザーがトドメを刺したとて、特段咎める事も止める事も無かったであろう)
(先ほどの鬼が闘争心を原動力として生きていたならば、この鬼は楽しそうであればそれで良い、との生き方をしているに違いない)
(敵意は無い。――それは強者の余裕だとかその様な物では無く、猫が興味を持って近寄ってきたと表した方がより正確)
(恐らくは、満身創痍なメザー相手でもこの鬼は逃げの一手を選択するのだろう。実力差、メザーの殺傷力の高さ、応用性。それらを判断した故に)
(尤も、この場で更なる戦闘に発展する事も無いのだからそれが実現する事も無いのだが――……)
――……あら。頭が落ちてしまったけれど痛く無いのかしら。とっても大きな塊が落ちてしまったみたい
ウエハースメザーは肉では無いのね。石かしら?陶器?もしかしたらもっと別なもの?
赤でも緑でも黒でも無い……貴女の血は透明なのね。血、かしら。血?綺麗な色の血が流れているのね
とても素敵な血。でも、頭に大きな穴が空いていたら少し揺れただけでも零れそう。――大変ね、大変
(床に砕けたそれを興味深そうに見つめ、次に視線を蟹を従える少女へと移す)
(――文字通り、“肉”体の鬼ならば数多く見かけてきたが、まるで陶器にも思える体を持つ鬼を見たのはこれが初めてだ)
(爛々と輝かせた目は、より深く観察したい気持ちの表れ。――それを少女が許すとも思えないが、触れずに見る分には良いだろうか)
(威嚇されようと警戒されようとなんのその。どこ吹く風で砕けた破片と、大穴とを視線が何度も行き来して)
(そんな最中。咆哮……とまで行かずとも、感情をそのまま声にした様なソレには僅かにピクリと体を動かし)
(警戒を見せるも、攻撃を行う前兆でないと知ればまたくつくつと笑って)
お腹を壊したことは無いから分からないの。でも、酷いのね。凄くすごく酷いのかしら?
でも、私は戦いが嫌いだもの。痛くて面倒で、嫌なの。とっても嫌
――だから…………?
(戦う気は無い、と繋げようとした所。拳を振り上げた動作を見て――次の出来事を予期し、首を竦めた)
(――果たして叩き壊すような熾烈な音と異なれど、床へと変化を齎したその一撃)
(止める事もせず――否、止める術を持たないが故にそのまま見送る事となるのだが)
(呪いの言葉を吐いた少女に対して、和やかに手を振ってのソレだ。敵意が無い、そして気紛れ)
(まあ、また次の機会があるならば話してみれば良い――そんな考えなのだろう)
(世界は広い。そんな中で、また巡り合わせがあるかも分からないが……鬼の寿命は長い)
(それに、必然的に話題となるのだからソレを追えば良いのだ。何より、楽しそうな子だから……きっと、また名前を聞く日も遠くは無いだろう)
振られてしまったわね。でも、それもまた出会いの一つじゃないかしら
ねえ、貴女もそう思うでしょう――……?もう死んでしまったかしら。死んでしまったわね
でも大丈夫。私が貴女を本にしてお話を綴ってあげるから。貴女は死んでしまったけれど、それまで紡いだ貴女のお話が消えたわけではないのよ?
そろそろあの人たちも此処に到着しそうね。ふふ……私も帰ろうかしら
此処で死んでしまっては、新しいお話が読めなくなってしまうもの、ね?
(逃げ遅れた蟹達に何らかの危害を加える事もせず、小動物を見守るかの様に眺め)
(液体と化した床を興味深そうに指で触れていたが、遠くから近寄りつつある足音に中断)
(指の腹を擦り合わせて粒子を落したならば、腕を一振り)
(直ぐ側には球体状の虚ろな空間が出現して膨張し――少女と、死んだ鬼と。そして、鎌だけを飲み込んで消え失せてしまった)
(それから十数秒後。武装した人間達が到着するも、その通りの状態)
(既に朽ちつつある蜘蛛型の鬼を素材として回収し、被害状況の写真を収めた上での撤収となったのだと言う)
(数日後、件のショッピングモールも再開。事件翌日には鬼同士の争いであった可能性も含め新聞の一面記事となったり)
(ネット上では様々な考察が飛び交ったりするものの、それもまた何時もの事件として風化して行く)
(――結局は、人間は自分に直接の被害が無ければ興味も薄れていくのだろう)
【えー、出演者1名死亡によりお狐様であるボクが引き継ぐこととなりました。ファンの皆様にはご了承願います】
【それに伴ってグループ名も蟹の日本酒鍋へと変更になり……何さメザー。まさか不満があったりしないよね!】
【絶対こっちの方が活かしてるって!キミは和太鼓、ボクは篠笛か尺八でも吹いてさぁ……】
【木魚でも良いよ?あの形と音は良いものだし……何より魚って字がキミに相応しい!】
【「オレは倒される度に復活して立ちはだかってやるからなァ!!ゼッテー次こそブっころ……」】
【今回でキミの出番は終わりだからメカ化も第2形態も無いってスタッフさんが】
【「……現場からは以上だ!!!」】
152
:
ウエハースメザー
◆k1072NP5UU
:2021/06/28(月) 23:27:24
>>151
(人類は社会的な動物だ)
(一体一体は脆弱で、彼らの造るもの自体も鬼にとっては藁のようなものだが)
(しかしその数と連携という面で見ると、人類に匹敵できる鬼は存在しないだろう)
(鬼と鬼の殺し合いによって、ずたずたに破壊されたショッピングモールも)
(彼らの知識と技術にかかれば、ほんの数日で復旧し、出来事そのものが過去へと押しやられていく)
(ウエハースメザー・パシフィックは、無数の眷属を抱える集団戦を得意とする鬼ではあるが)
(その本質はあくまで、大量の道具とたったひとりの使用者だ。そこに社会性はない)
(戦いで負った傷を治すのはメザー自身がやらねばならないし、破損した道具を直すのもメザーの仕事だ)
(マイナスをゼロに戻し、再び動き出すために必要とする時間は、どうあがいても人間に勝てない)
(……深く暗い海の底。さらさらの砂地に胎児の姿勢で横たわり、メザーはうーんうーんと唸っている)
(昆布採りとの死闘で負った傷を、少しずつ、少しずつ、持ち前の回復力だけを頼りに治していく)
うえあああぁぁ〜……いたい、いたいいいぃぃぃ〜……。
こん畜生めぇ〜……今回の遠征は、さ、さ、散々だったわっ……!
あ、あんな、でかいわけでも数が多いわけでもないやつ相手に、ここまで怪我させられるなんてっ!
地力か? ただ純粋なフィジカルかぁ〜っ……? それだけで私、こんなにバッキバキに割られたのっ……!?
くそう、ガチ悔しい……私も拳に拳でやり返せるぐらい、カラダ鍛えたほうがいいのかしら。
あ、痛っ、いたたたっ……頭のひびが広がるっ……まだちゃんとつながってないっ、絶対安静、絶対安静ッ……!
(もうすでに一週間ほど、彼女は療養を続けている)
(欠けて落ちた頭からは、赤い珊瑚の枝を無数に生やし、顔や首に走ったひびはフジツボで埋めている)
(これらが定着し、メザーの新しい肉体のパーツとしてなじんだあと、余計な部分が剥落し、彼女は健康体に戻るのだ)
(メザーより構造が簡単な小ガニたちは、どれだけの数が失われても、3日程度で『作り直し』することができるが)
(今は本体がそれどころではないため、眷属の補填作業も棚上げになっている)
あーもう、アイスも持ってこれなかったし、最悪よっ……!
でも、でもでも、損失ばかり抱えて泣き寝入りする根性なしの私じゃないわ。
痛い目見ながらも、学んだことは確かにあるっ……次に生かすために、忘れちゃいけないことは覚えておこうっ!
ひとつっ、物陰からの不意討ちには注意すべーしっ! 特に頭を狙った石投げッ!
ふたつっ、チビで防御力紙でも、かまわず突進してくるやつはいるっ……! 慌てず対処しないとダメっ……!
みっつっ、とどめ刺すと決めたときは、迷わず頭を踏み潰すべしっ……! とろとろしてたら邪魔が入るっ……!
……いやでも、みっつめはいいかな? あの昆布採り、きっと死んだだろうし……あそこまでやったら生きてないよね?
でも、万が一生きてたら……いやいや、心配しすぎだと思うけど……。
ええい、こんなことグルグル考えなくてもいいように、やっぱり頭は踏んどくべきだ! そしたら安心できる!
……というか。あとから来たあの赤い服の女は、何だったのかしら。
昆布採りの仲間にしては言ってることおかしかったし、あれを助けようって雰囲気もなかったし。
よく考えたら、あれの名前も聞いてない……聞いてなかったわよね確か……?
うん、どっちにせよ、これも忘れちゃいけないよっつめね。戦いに乱入してくるアホがいるかもって思っとくべし。
あいつが下品にも「こんにちは、死ね!」してきてたら、さすがの私も死んでたかもしれない。マジで気をつけないと。
次にどこかで見かけたら、問答無用で即死攻撃ぶち込むのがいいかも。
眷属たちを10匹ぐらいまとめて、球体にして投げつけるの。直径5メートルぐらいの範囲なら一瞬で粉にできるわ。
この必殺技、いざというときにさっと使えるよう練習しとこう。名前は……かに玉アタックでいいか。
まあ、この広い世界、どこかで偶然出会うなんて、そうそうないかもだけど……。
(水面すらまともに見えないぐらい、深い深い水の底で、ひとりつぶやきながら、メザーはさざ波立つ心を押さえつける)
(あの不気味な赤服の女に、またどこか出会うかもしれないという不安)
(死を確かめられなかった昆布採りが、本当は生きていてまた戦うことになるかもという不安)
(それらはまったく好ましくない、精神にぶら下がった重りだ)
生きるならば。……幸福でいたいならば。「安心」を持たなければいけない。
不安や恐怖は、弱者のものだわ……私はこの世界を支配し……完全な「安心」を得なければならない……。
誰にも脅かされることがないという、最強者のみが持ち得る幸福を、他ならぬこの私が手に入れなくっちゃ……。
うん。やはり、狙って会おうとは思わないけれど、あの赤服はいつか殺す。
10年後か、100年後か、10000年後か、10000000000年後か。偶然出会ったときは叩き潰して、「安心」するとしましょう。
どんな能力の鬼か人間かわかんないけど、なぁに、粉にすりゃさすがに死ぬでしょ。
先のことを決めると少し安心した。よし……休みながら、もう少しいろいろ決めるかな……。
(ゆっくりと流れる時間の中で、まぶたを閉じたり、開けたりしながら、取り留めのない思考に浸る)
(次はどこの海岸から上陸して、人を襲おうか。チョコミントアイスと抹茶アイスを見つけたら、どっちを先に食べようか)
(より効率的に人を粉々にするには、どんな風に眷属たちを動かせばいいか。軽油は飲んでも大丈夫だろうか)
(海流に巻き上げられた砂に半ば埋もれて、まどろみはさらに深くなる)
(ウエハースメザー・パシフィックの駆逐すべき敵対生物は、まだこの世に何十億と存在する)
(それでも慌てることはないし、恐れることもない。時間は鬼である彼女の味方だし、彼女は自分の強さを知っている)
(遠い遠い年月の果て。地球上に自分しかいないという、理想の未来を夢見ながら、メザーは眠る……)
【というわけで、こちらも締めよ!】
【昆布採り、死んでしまったのね……とりあえず合掌(ただし、あの世という概念はない)】
【でも、これで終わりなのかしら……? 赤服女がしれっと死骸を持っていったし、あるいはと思ってしまうわ……!】
【生き返らないにしても、能力が収集されるとかぐらいはありそう。能力バトル系だとひとりはいるラーニング能力者!】
【鍋の名前は油揚げと冬野菜の京風鍋とかならご馳走になるわ。海草以外の植物もたまに食べたくなるの】
【木魚……木魚かぁ……確かに字ヅラはとても魅力的……!】
【でも、実物見たら、どこも魚っぽくなくて首を傾げる自身がある! 魚と称するには丸すぎない!?】
【そして最後にもう一度、良い試合をしてくれた昆布採りに合掌】
【まあ安心なさい! 某世界には、ひとりで30種類以上の不老不死のパターンを網羅した元オーストラリア首相もいるのよ!】
【メカ化も第2形態もなくても、その他いろいろな方法で復活のとかリターンズとか帰ってきたとかできるかもしれない!】
【いっそ、私の記憶の中で生き続ける系のオチでもいいわよ!】
【とにかく、ありがとう! 楽しい命の取りあいだったわ! 鬼同士でなら、これくらい殺伐としたのもアリよね!】
【こちらの現場からも以上よ!】
153
:
◆MfBiO.rGQU
:2021/07/04(日) 23:16:36
【閑話】
(『鬼鉄屋』の工房は、巨大な炉や巨大な作業機械『ダイダラ』が収まるだけあり)
(小さな体育館ほどもある巨大な建物であるが)
(今そこは、巨大な肉の塊によってみっちりと占拠されていた)
――でーっか。
これ、あれでしょ? 市街地のし歩いてたのが、誰ぞに穴だらけにされてたっていう……
(鬼鉄屋の主、金鎚 祀は、専用のグローブで覆われた手で、巨大な肉塊……鬼の死骸を撫でる)
(固く、しかし表面的には柔らかいそれは、子供の頃に遠足で行った動物園で見た、アフリカ象を思わせた)
(――いや、象に乗ってみる体験イベントやってたんだ)
「ああ、どうも来訪者らしいが……詳しいことは解らねえ、ギルドの方に取られちまったからな。
知り合いのワンコロにも聞いてみたけど、「守秘義務ですんで!」の一点張りだ。
――ま、良いだろ、それは。要求通り、『相応にデカくて、質のいい鬼鉄』だ」
(そう言ってくるのは、零課の日疋 暁一)
(季節柄だいぶ薄着ではあるが、相変わらずの分厚いミトン型グローブが暑苦しい)
でも、こんな大物よく売ってくれたねえ、零課。
研究用でも武装用でも、喉から手が出るほど欲しいって人多いんじゃない?
「それが、研究用にはもうあんまり役に立たないんだと。
――まあ、穴だらけだしな。内臓もボコボコで、欲しい所が根こそぎ駄目になっちまってるんだとさ」
あー、うん、まあ、そりゃあねえ……
(死骸を見れば、焼け焦げた大穴や、切り落とされた部分が結構多い)
(SFで見るレーザーとかビームとか、そういう武装でやられたような傷口だ)
(確かに、見るからに「状態の良い」死骸ではない……)
「んで、武装用の方は……まあ、金積んだ。
貯金だいぶと、向こう10年のローンと……」
……家でも買う気?
そーんなに突っ込んじゃって、入れ込み過ぎじゃない?
(呆れ顔で、言う)
(いくら今の世界で『鬼』が深刻な問題だと言っても、こいつは鬼退治に身命を賭すってタイプではないと思っていたからだ)
(おとぎ話の桃太郎さんじゃあるまいし)
(だが、当人は平然と)
「恋助けるために頑張れ、つったのはお前だろうが。
ちっとやそっとは入れ込まねえとな」
(こうだ)
へいへい。ヒーロー気取りかよ。
少年漫画のキャラじゃねーんだから……
(そう言われれば、引き下がるしかない)
(その通り、言ったのは自分だったから)
「おい聞こえてんぞ。――あと、作戦があるっつってな」
作戦? なんの? 恋ちゃん救出の?
「いや……エノーラ・デフラル。あいつの攻略作戦だ」
エノーラ……って、あの『べとべと鬼』? ネットじゃ観察スレとかあるアイツ?
どっかの地ビール工場が潰されたってビールマニアからヘイト集めてるアレ?
「いや知らんが……てか、そんな事になってたのかあいつ。
まあ多分そいつだ。お前と話してた通りのモンに仕上がって、ギルドのワンコロに話が通れば、行けそうなんでな。
慣れねえ頭使って、大隅さんにも手伝って貰って、作戦提案書にしてアピールした。
……あんまり上等なもんじゃねえと思うが、どこもかしこも攻めあぐねてんだろ。
ウチと国防軍、あとどっかの企業軍で、アホみてーな作戦が実行された記録もあるしな……」
(そう言う日疋の顔は――いつもそうだが、更に酷い――しかめっ面で)
アホ……そんなに……?
ま、まあいいよ、これだけデカけりゃ、かなりの量の鬼鉄にできるだろうし、そうなりゃ試作品も作れるから。
――なんか、病気みたいなもん撒いてたんだって?
「ああ、インフルエンザみてーな症状のな。幸い、後遺症みたいなもんは残らなかったらしいが……」
ふんふん、いいねいいね、そういうバラマキ系のは実にいい感じだよ。
上手いこと『毒抜き』して、「伝染」を「伝搬」に抑えられれば……
(言っている内に、段々とテンションが上ってきて)
(べしべしべし、と鬼の死骸を叩く)
(――うん、なかなかにいい感触)
(こういうでっかい肉の塊みたいな、そういう感触ってちょっと癖になるんだけど、わからん?)
(……と、ちょっと色々とテンション任せになっていたのに気付いて、コホン、と咳払い)
――え、ええと、まあ分かった、早速取り掛かるよ。あんたの体型は取ってあるし、まあ鬼鉄だから、あんまり不都合もないと思う。一回試作品作って、それを基にして本番作る感じかな、色々調整も要るだろうし。
余った鬼鉄は……買取ってことにしよか。せっかくだからそれで制作費はチャラにしたげるよ。
「おう。……正直、ありがてえ。こいつの買取でだいぶ困窮してるんでな……」
――まあ、そうだよね。ともかく、制作にはスグ取り掛かるけど、割と時間かかるだろうし、他の仕事も挟まるだろうし……
形になったら連絡するから、暇なときにでも来てよ。試しもやってもらわなきゃいけないしね。
「ああ、分かった。――よろしく頼む」
はいはい、仕事だからね。――半分くらいはあたしの実験でもあるし。
(ただ、早速、とは言っても、実際に取り掛かるのは明日からだ)
(今夜から早速『食事制限』を始めなければならない)
(体力勝負でもあるし、今夜は食って風呂に入って、さっさと寝てしまおう)
(――朱火ちゃんになにか文句を言われるかもしれないが、我慢してもらうしか無い)
(仕方ない、社会人は大変なのだ……)
【了】
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