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ペンギンの遊び小説
1
:
ペンギン
:2014/12/01(月) 22:46:59 ID:g3v2LSNo
僕が小学校に上がる前――4歳から5歳にかけての頃――、午後から仕事で家にいなくなる母によって、僕は幼稚園や保育園に入れられる代わりに、仕事先の町の、神社の神主さんの一家に夜まで預けられていた。
何でも母が仕事の面接のために慣れない街をうろうろ歩き回っていると、そこの神主さんが声をかけて道を教えてくれ、幼い僕がいる事情を聞くと、仕事終わりまで面倒を見てあげようということになったということだ。
僕の父は会社員で毎晩夜遅くまで帰ってこない。
2
:
ペンギン
:2014/12/01(月) 22:47:45 ID:g3v2LSNo
母は当時28歳。大学を出てすぐに、それ以前から付き合っていた4歳年上の父と結婚し、僕を出産後、子育てに専念して専業主婦をしていたが、家計の助けのためにパートの仕事を始めることにした。
そのため僕を保育園か幼稚園に入れるつもりだったが、どこの園も一杯で、仕方なく隣町に住む母の大学時代からの友人がその間僕の面倒を見ることにしたが、
神主さんと話をしてからは、わざわざ反対方向の友人の家にいったん預けに行くより、勤務先と同じ街の、歩いて行き来できる距離のその神社の家に引き受けてもらうほうが良かろうということになったのだ。
3
:
ペンギン
:2014/12/01(月) 22:48:21 ID:g3v2LSNo
その神主さんは山部さんといって、50絡みの短髪の白髪と、これも白いものが混じった眉が目立つ、ほんの少し細身のやや長身の人だった。
いつも背筋がしゃんとして、普段の顔のややこわばった感じも謹厳そうな印象を与えるが、参拝客や近所の人とは明るく快活に話し、時々相好を崩して、腹から来るような深い大きな笑い声を出し、周囲から慕われることの多い人だった。
奥さんの方は神主の旦那さんより一回り若く、背が少し低めのぽっちゃりとした、穏やかな顔つきの垂れ目の人で、その風貌が与える印象通り、思いやり深く、こまごまと周りに気を使ってくれる人で、引き受けた僕の世話もよく見てくれた。
4
:
ペンギン
:2014/12/01(月) 22:48:59 ID:g3v2LSNo
――真希お姉さん。二人の娘さんで、僕が預けられた当初中学二年生。母親には似ず、背が高く細く、スーッと真っ直ぐ通った鼻とやや釣り目立ちの顔をしているが、大きな眼が、全体の整った様から与える冷たい印象を打ち消している。
むしろ彼女がじっと見つめるとき、瞳が黒々と深くなり、その中に入り込んでふわっと浮くような、優しく落ち着く感じを与えることがよくあった。さらりとして綺麗な黒い長髪が、動く時空気を揺らし、僕の鼻に彼女の甘い良い香りを運んで来る。
真希お姉さんが、学校から帰った後から一緒に遊んでくれ、僕の面倒を一番よく見てくれた人だ。
5
:
ペンギン
:2014/12/01(月) 22:50:20 ID:g3v2LSNo
それと、もう一人近所の旅館の子の由香ちゃんがいて、僕より一歳下の彼女とはやはり山部さんの神社で知り合った。真希お姉さんが中学校からまだ帰らず、遊び相手がいずに、神社の境内の雑木林に積もった去年からの枯葉の下をダンゴムシが動いているのを、その枯葉と土の芳香を鼻で感じながら眺めていると、
母親と一緒に手を引かれてやってきた彼女がそんな僕を見るなり、小さくおぼつかない足取りでぎこちなくよちよちと精一杯走るように歩いて来ると、ちょこんと横に座り、一緒にダンゴムシを見始めたのだ。僕が彼女の方を見ると、彼女も顔を返してにっこりと笑った。
彼女はよくお母さんに連れられて神社に散歩に来ていたらしいが、そこにたまたま、預けられて間もない僕を見かけて、友達になったというわけだ。
当然、真希お姉さんも知っていたが、僕が神社に来ている間、由香ちゃんは僕たちと一緒に遊ぶようになり、お母さんも最初のうちはそばに付き添っていたが、そのうち真希お姉さんが僕たちの面倒を見て一緒に遊んでくれている間は、山部のおばさんと一緒に家に上がって談笑したり、家の旅館に帰って仕事に戻り、後で引き取りに来るというようになった。
山部さんたち夫婦もにこにこしてそういう状況を受け入れるようになった。由香ちゃんは濃い黒髪を首の辺りで短く切って、大きな眼に小さい鼻と口。楽しいとよく笑うが、普段の顔付きはおとなしげで、どこか気の弱そうな小柄な女の子だった。
6
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/01(月) 22:50:36 ID:pxzftShw
来たか!
初っぱなから神社が絡んできたな
7
:
ペンギン
:2014/12/01(月) 22:52:28 ID:g3v2LSNo
>>6
とりあえずここまで
投下もせずに雑談ばかりもどうかと思ったので、短いけどとりあえず出しといた
8
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/01(月) 23:23:06 ID:SuNcHWFw
ちょっと気になったのが、一文が長いように感じられた。
もう少し短く切ってもいいのかもしれない。
9
:
ペンギン
:2014/12/01(月) 23:28:55 ID:g3v2LSNo
>>8
一応普通の小説に近いつもりで書いているので、その点は変えるつもりはありません
10
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/01(月) 23:30:32 ID:SuNcHWFw
>>9
そうか。
いいこだわりだ。
11
:
訂正するペンギン
:2014/12/02(火) 00:29:12 ID:bIKUFOuw
それと、もう一人近所の旅館の子の由香ちゃんがいて(苗字は伊波【いなみ】だ)、僕より一歳下の彼女とはやはり山部さんの神社で知り合った。
僕が神社に来始めて間もない初夏になり始めの頃、真希お姉さんが中学校からまだ帰らず、遊び相手がいずに、神社の境内の雑木林に積もった去年からの枯葉の下をダンゴムシが動いているのを、その枯葉と土の芳香を鼻で感じながら眺めていると、
母親と一緒に手を引かれてやってきた彼女がそんな僕を見るなり、小さくおぼつかない足取りでぎこちなくよちよちと精一杯走るように歩いて来ると、ちょこんと横に座り、一緒にダンゴムシを見始めたのだ。僕が彼女の方を見ると、彼女も顔を返してにっこりと笑った。
彼女はよくお母さんに連れられて神社に散歩に来ていたらしいが、そこにたまたま、僕を見かけて、友達になったというわけだ。
当然、真希お姉さんも知っていたが、僕が神社に来ている間、由香ちゃんは僕たちと一緒に遊ぶようになり、お母さんも最初のうちはそばに付き添っていたが、そのうち真希お姉さんが僕たちの面倒を見て一緒に遊んでくれている間は、山部のおばさんと一緒に家に上がって談笑したり、家の旅館に帰って仕事に戻り、後で引き取りに来るというようになった。
山部さんたち夫婦もにこにこしてそういう状況を受け入れるようになった。由香ちゃんは濃い黒髪を首の辺りで短く切って、大きな眼に小さい鼻と口。楽しいとよく笑うが、普段の顔付きはおとなしげで、どこか気の弱そうな小柄な女の子だった。
12
:
訂正するペンギン
:2014/12/02(火) 00:30:27 ID:bIKUFOuw
「初夏になりたて」にするべきだった
まあいいか
13
:
名無しさん
:2014/12/02(火) 01:16:34 ID:XltVJfFw
筆運びは凄いと思います。あなたはいい意味で、こんなところにいていい人じゃない。
14
:
鎧カリバー
◆OPO1uqcrCU
:2014/12/02(火) 01:20:27 ID:QcM3mG.o
投稿乙です、読ませてもらいました
普通の小説として書いたとの事だけど、やっぱり上手だなって思いました
俺も、こんな風に書ければいいな
15
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/12/02(火) 01:24:23 ID:XltVJfFw
ただ、一般小説ということを想定しても、読みづらい箇所がありました。
たとえば、
『その神主さんは山部さんといって、50絡みの短髪の白髪と、これも白いものが混じった眉が目立つ、ほんの少し細身のやや長身の人だった。』
『奥さんの方は神主の旦那さんより一回り若く、背が少し低めのぽっちゃりとした、穏やかな顔つきの垂れ目の人で、その風貌が与える印象通り、思いやり深く、こまごまと周りに気を使ってくれる人で、」
主語と述語の間がとても長いので、読みづらさを感じる人がいるかもしれません。文章を区切ると一つ一つの印象が分かりやすくなるかもしれません。
また、
『母親と一緒に手を引かれてやってきた彼女がそんな僕を見るなり、小さくおぼつかない足取りでぎこちなくよちよちと精一杯走るように歩いて来ると、ちょこんと横に座り、一緒にダンゴムシを見始めたのだ。』
小さくおぼつかない足取りでぎこちなくよちよちと精一杯走るように歩いて来ると、と言うように、表現しようとしていることが多すぎてごちゃごちゃになっている感がありました。
基本的な文章は書ける方だと思うので、読み手にどう取られるか、と言うのを意識して書かれてみては、と思います。
自分の思い、そして書いた小説を評価するのは読者です。
16
:
ペンギン
:2014/12/02(火) 01:43:56 ID:bIKUFOuw
歯磨いて寝る前にのぞいたら・・・
読んでくださった方はありがとうございます
大したものにはならないけど
>>15
>>8
と同じ意見ですね
確かに長い文だが、それほど問題があるのだろうか・・・
お二方から指摘受けても正直ピンとこない
一人称で書くのはこれが初めてだからまた勘が必要なのかな
小さく〜は私も初めはもう少し刈り取った文章でしたが、あえて付け足してそういう形にしました
多分文章的には悪いのだが、出来るだけここは詰め込みたかった
とりあえず寝ます
また明日考えよう
おやすみなさい
17
:
ペンギン
:2014/12/02(火) 08:30:29 ID:bIKUFOuw
昨日は眠かったから考えられなかったけど、
>>15
前半の指摘に関しては改めて読んでも問題があるとは思われません
このままで行きます
後半の方は確かにちょっとくどいかな
どっちみちこれは練習のつもりで書くので、丁寧にはいきますが、完璧を求めず、そこそこのものが出来たらいいというスタンスでやっていきます
文章を書く習慣づけと、慣れで疲労しなくてもいいようにするためですから
18
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/02(火) 08:33:24 ID:.oDefgSk
>>17
慣れか。
とにかく書くことが重要ということか。
19
:
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:<削除>
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20
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21
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22
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:<削除>
<削除>
23
:
人間
◆puRgtI1HCs
:2014/12/02(火) 17:25:48 ID:XltVJfFw
ペンギンさんへ
私が不適切な発言をしてしまいましたので、
>>19
から
>>22
のレスを削除させていただきました。
お騒がせして申し訳ありません。
24
:
白レンの人
◆EvBfxcIQ32
:2014/12/02(火) 18:45:28 ID:nuGLS53g
おおう、確かにこれは一般小説だな……。読んでいて感じる、ぬっとりとすぐには通り抜けてくれないこの感覚は、正(まさ)しく一般小説のそれだ。この粘度の高い飲み込みにくさが苦手なんだよなぁ(汗)
文の長さに関しては、最初こそ不慣れ故に戸惑ったけど、初めからそういうものなんだと思えば特に違和感はない。指摘のあった箇所についても、俺はペンギン氏と同意見かなぁ
むしろ、よくこれだけ文体のを体得するに至ったなと驚きを禁じ得ないよ。人間氏の言う通り、この板には少々勿体無いお方だw
気になった箇所があるとすれば、
>>1-2
における伝聞の部分。恐らくは後に母親から聞かされた話であろうに、「ということだ」「ということになったのだ」という言い切りの形はそぐわないと思う。「ということになったらしい」「ということになったのだそうだ」という言い方にするのはいかがかな?
25
:
ペンギン
:2014/12/02(火) 23:46:25 ID:bIKUFOuw
>>24
たとえば
>>1
の「見てあげようということになったということだ。」は 「ということ」 が続いてくどいので 「になったらしい」 の方が柔らかくていいでしょうね
その時ちょっと気になったんだけど素直なその文が思いつかなかった
>>23
今来たので削除された文は見ていませんが、「小さく〜」のくどさは確かにそうですね
ただ、気にしだすと進まないので、ある程度はご容赦下さると嬉しいです
すでにこのやり取りの方が投下分よりレス数多くなってる気がするので・・・
26
:
ペンギン
:2014/12/05(金) 00:59:31 ID:O12w.olI
僕が預けられた湯枝神社は商店街の近くのやや活気のある住宅地の一角に広い敷地を持ってあり、周囲に接した他住宅とは、高さ1・5メートルほどの、あちこち枝や葉が飛び出たまま雑な形で世話された生垣で仕切られているが、
それが境内のところどころに不規則に生えている樹木や雑草とよく合っており、周囲の住宅地の綺麗に整った風情から解放されるような、柔らかく雑然とした雰囲気を作り上げていた。
境内の中ほど、拝殿に向かって右側の生け垣の一箇所が空いて、石造りの鳥居があり、それを抜けて生垣の向こう側にまた黒塗りされた金属の門扉が取り付けられており、
10メートルほど、飛び石状に敷石が置かれたその先に玄関口をこちらに向けて、時を感じさせる、外観が黒ずんだ、がっしりした古い和風屋敷があり、それが山部さんの自宅だ。
自宅からの車の出し入れも神社の境内を通ってそこから行っているらしい。
また、社殿の左側にはところどころ陽が落ち葉に埋もれがちの地面に落ちて通るくらいの小ざっぱりした感じの雑木林が、神社の敷地外の左側途中で途切れた住宅地の間に広がっており、僕が由香ちゃんと出会ったのもその場所だ。
そこそこの広さがあり、周りの住宅とも接しているが、こんもり盛り上がった小山のような場所に登ると、その周囲の住宅や境内の参拝客、商店街に行き来する人達で活気づいた神社の表通りから届いて来る雑音や喧噪もかすかになり、静かで落ち着いた空間を街の一角に現れさせていた。
27
:
ペンギン
:2014/12/05(金) 01:50:06 ID:O12w.olI
週四日ほど、電車でこの街に連れて来られ、僕が午後から神社に接した山部さんの自宅に預けられる少し前ぐらいから、由香ちゃんが大抵家の広い敷地の、ところどころ苔むし、草花が生えた土の地面の前庭か、屋敷の右側面の縁側で待っていた。
前庭にいるときはちょこんとお尻を浮かせて座り、あちこちに植えられた松や紅葉の樹などから落ちた小枝を持って柔らかい地面をほじくり返したり、小さな虫を観察して、
縁側にいるときはそばで談笑する山部と伊波のおばさんの隣で、横に自分にも一緒に出されたお茶の湯呑みにほとんど手を付けないまま、空中に投げ出した靴を履いたままの脚をばたばたさせ、僕が来るはずの、縁側からははっきり見えない家の正面の方に首を巡らせ、
あるいは、時々庭にちょこんと降り立って、注意する伊波のおばさんの声を聞きながら、そちらの方に歩いて行き、母親の手に引かれて来た僕を見かけると顔をぱっと明るくして駆け寄ってきた。
そういう時は僕も、それまできゅっと母親の手を握っていた自分の小さな手を離し、慣れない脚で精一杯彼女の方に走り寄るのだ。
28
:
ペンギン
:2014/12/05(金) 23:49:43 ID:O12w.olI
真希お姉さんが中学校から帰るまでは、僕と由香ちゃんが主に二人で遊んでいた。
由香ちゃんのお母さん――伊波のおばさん――は僕の母とより少し上の年頃で、少し小柄な、肩を少し越すぐらいの濃い黒髪をした、やや丸顔で、由香ちゃんに似て小さな鼻と口の穏やかな風貌だが、眼に活気があり、よく笑う明るい人だった。
その明るさは今にして思えば、旅館の女将をやっていた事と関係があるかもしれないが、由香ちゃんを連れて来る時も旅館の中で動く和服のままが多く、その姿がよく似合うきれいな人だった。
ただ、由香ちゃんのお母さんは僕たちのそばに付くだけで、遊んでくれることはなく、山部のおばさんも僕たちにお菓子やお茶など出してくれたり、お昼寝の寝床を用意してくれたりと、世話は細々と焼いてくれたが、一緒に少し遊んでくれるだけで、あまりそちらの方面の相手は苦手のようだった。
山部さんは神主と、どこか他のところに出ている仕事で忙しい。
29
:
ペンギン
:2014/12/06(土) 04:16:52 ID:6lCNk0Tw
僕たちは自然、真希お姉さんが中学校から帰ってくるまで二人で遊ぶことが多かった。
屋内にいる場合は、夏場は山部さんの古い屋敷の、表面の節々をそのままに、樹の元の形の面影を残して表面がでこぼこした太く丸い柱や、上の方にむき出しに表れた四角く削られたこれもまた太い梁、
ところどころ外れかけているのか、端が1〜2センチ浮き上がったり沈んだりしてみしみしいうが、足に伝わる感触からその厚さがわかる木の床板と、同じく厚そうな木の壁板で出来た、
昔からの汚れが染み着いて全体にくすんで黒ずんでいるが、どっしりした感じの広い部屋が普段の居場所で、陽が当たらず、部屋の広さが空気をよく通し、ひんやりとして過ごしやすかった。
小学校に上がる前の小さな体には、むき出しの梁の上にまだ高く伸びる天井や、横の広さの空間が空虚なものに思え、部屋の中心にいると時々ぽっかりとした空間に投げ出されたような感じがした。
冬は畳の和室だ。南に向いた縁側に廊下越しに接した部屋の一つで、山部のおばさんがあらかじめつけてくれたり、僕が来てからつけてくれた電気ヒーターの、体を温めてくれる経験と結びついてそれ自体染み入ってくるような作動音を聞きながら、神社に着いた直後の暖をその前に座って取るのが好きだった。
壁は塗り壁で、縁側に接した廊下に出る方と合わせて三面が襖で行き来するようになっており、真ん中に皆が面して座ることが出来る四角い座卓が置いてあり、きれいに整えられ、こじんまりして落ち着く部屋だった。
それらの部屋で僕と由香ちゃんは一緒に絵本を読んだり、お絵描き、山部のおばさんに読んでもらっての幼児向けのひらがなの大きな字で書かれたカルタ取り遊びなどをした。
30
:
ペンギン
:2014/12/06(土) 05:10:12 ID:6lCNk0Tw
「冬は畳の和室だ。南に向いた縁側に廊下越しに接した部屋の一つで、山部のおばさんがあらかじめつけてくれたり、僕が来てからつけてくれる電気ヒーターの、体を温めてくれる経験と結びついてそれ自体染み入ってくるような作動音を聞きながら、神社に着いた直後の冷え切った身体の暖をその前に座って取るのが好きだった。」
だな
雑になっとる
31
:
ペンギン
:2014/12/06(土) 05:51:23 ID:6lCNk0Tw
あれ、木の柱のところ表面って言葉が続いてる
直しが続いてうっかりした
32
:
ペンギン
:2014/12/06(土) 06:39:45 ID:6lCNk0Tw
「屋内にいる場合は、夏場は山部さんの屋敷の北方面にある、木の板の間にいることが多かった。
そこは、節々をそのままに、樹の元の形の面影を残して表面がでこぼこした太く丸い柱や、上の方にむき出しに表れた四角く削られたこれもまた太い梁、
ところどころ外れかけているのか、端が1〜2センチ浮き上がったり沈んだりしてみしみしいうが、足に伝わる感触からその厚さがわかる木の床板と、同じく厚そうな木の壁板で出来ており、
昔からの汚れが染み着いて全体にくすんで黒ずんでいるが、どっしりと広い空間で、陽が当たらず、部屋の広さが空気をよく通すため、ひんやりとして過ごしやすい部屋だった。」
こんな感じか
33
:
ペンギン
:2014/12/06(土) 06:44:08 ID:6lCNk0Tw
「屋内にいる場合は、夏場は山部さんの屋敷の北方面にある、木の板の間にいることが多かった。
そこは、節々をそのままに、樹の元の形の面影を残して表面がでこぼこした太く丸い柱や、上の方にむき出しに表れた四角く削られたこれもまた太い梁、
ところどころ外れかけているのか、端が1〜2センチ浮き上がったり沈んだりしてみしみしいうが、足に伝わる感触からその厚さがわかる床板と、同じく厚そうな壁板で出来ており、
昔からの汚れが染み着いて全体にくすんで黒ずんでいるが、どっしりと広く、陽が当たらず、部屋の広さが空気をよく通すため、ひんやりとして過ごしやすい場所だった。」
こうか
でも訂正しだすときりがないからこれでやめよう
34
:
ペンギン
:2014/12/06(土) 06:49:43 ID:6lCNk0Tw
「僕たちは自然、真希お姉さんが中学校から帰ってくるまで二人で遊ぶことが多かった。屋内にいる場合は、夏場は山部さんの屋敷の北方面にある、木の板の間にいることが多く、そこは、節々を〜」
前からの連結を考えると結局こうなる
35
:
29訂正ペンギン
:2014/12/06(土) 07:09:59 ID:6lCNk0Tw
僕たちは自然、真希お姉さんが中学校から帰ってくるまで二人で遊ぶことが多かった
屋内にいる場合は、夏場は山部さんの屋敷の北方面にある、木の板の間にいることが多く、そこは、節々を樹の元の形の面影を残して表面がでこぼこした太く丸い柱や、上の方にむき出しに表れた四角く削られたこれもまた太い梁、
ところどころ外れかけているのか、端が1〜2センチ浮き上がったり沈んだりしてみしみしいうが、足に伝わる感触からその厚さがわかる床板と、同じく厚そうな壁板で出来ており、
昔からの汚れが染み着いて全体にくすんで黒ずんでいるが、どっしりと広く、陽が当たらず、部屋の広さが空気をよく通すため、ひんやりとして過ごしやすい場所だった。
小学校に上がる前の小さな体には、むき出しの梁の上にまだ高く伸びる天井や、横の広さの空間が空虚なものに思え、部屋の中心にいると時々ぽっかりとした空間に投げ出されたような感じがした。
冬は畳の和室だ。南に向いた縁側に廊下越しに接した部屋の一つで、山部のおばさんがあらかじめつけてくれたり、僕が来てからつけてくれる電気ヒーターの、体を温めてくれる経験と結びついてそれ自体染み入ってくるような作動音を聞きながら、神社に着いた直後の冷え切った身体の暖をその前に座って取るのが好きだった。
壁は塗り壁で、縁側に接した廊下に出る方と合わせて三面が襖で行き来するようになっており、真ん中に皆が面して座ることが出来る四角い座卓が置いてあり、きれいに整えられ、こじんまりして落ち着く部屋だった。
それらの部屋で僕と由香ちゃんは一緒に絵本を読んだり、お絵描き、山部のおばさんに読んでもらっての幼児向けのひらがなの大きな字で書かれたカルタ取り遊びなどをした。
36
:
ペンギン
:2014/12/06(土) 17:26:59 ID:6lCNk0Tw
神社の内部を書くのを忘れてた…
何やってんだろ
37
:
26訂正ペンギン
:2014/12/06(土) 17:29:00 ID:6lCNk0Tw
僕が預けられた湯枝神社は商店街近くの活気のある住宅地の一角に広い敷地を持ってあり、その境内は、南側の道路に面した鳥居のある入り口から、北の突き当りの社殿まで一直線に参道が伸びている。
参道に面して、入ってすぐ左のところに手水舎、中ほどまで進んだ右側に社務所があり、あとは社殿近くのところに数個、神社の中心の神様とは別に、他の神様を祀った小さな大人の背丈ほどの小さな社殿が数個建てられている。
また、それらの間に、夜でも境内を灯せるよう、中に電球が据えられた石灯籠がところどころに配置されている。
賑わう商店街そばの土地柄もあって、よく参拝客が訪れる神社で、おばさんやお婆さんたちが商店街帰りの中身が詰まった買い物袋を持ったままお参りに来ることもよくあり、そういう人たちは静かに参拝を済ます人もいれば、山部さんや、他の人たちと談笑することもあり、社交場としての機能も果たしているようだった。
そうして人と人をつなぐ神社として時として騒々しくもなる場所だが、周囲と境を決して境内を取り囲む高さ1・5メートルほどの生け垣は、あちこち枝や葉が飛び出したまま雑な形で世話をされており、そのさまが境内のところどころに不規則に生えている樹木や雑草とよく合い、周りの住宅地の綺麗に整った風情から解放される、柔らかく雑然とした雰囲気をやはりその内に作り上げていた。
境内の中ほどにある社務所を右に見たまま少し先に進むと、境内の右端――東側――の一角の生け垣がぽっかりと空いている。
そこにまた別の鳥居があり、それを抜けた生垣の向こう側にまた黒塗りされた金属の門扉が取り付けられており、そこから10メートルほど、飛び石状に敷石が置かれた先に玄関口をこちらに向けて、時を感じさせる、外観が黒ずんだ、がっしりした古い和風屋敷があり、それが山部さんの自宅だ。
自宅からの車の出し入れも神社の境内を通ってそこから行っているらしい。
また、社殿の左――西――側にはところどころ陽が落ち葉に埋もれがちの地面に落ちて通るくらいの小ざっぱりした感じの雑木林が、住宅地に占領されないまま残っており、僕が由香ちゃんと出会ったのもその場所だ。
そこはそれなりの広さがあり、周りの住宅とも接してはいるが、その中にこんもり盛り上がった小山のような場所に登ると、周囲の住宅や境内の参拝客、商店街に行き来する人達で活気づいた神社の表通りから届いて来る雑音や喧噪もかすかになり、静かで落ち着いた空間を街の一角に現れさせていた。
38
:
ペンギン
:2014/12/06(土) 18:01:56 ID:6lCNk0Tw
まだ書き忘れてた…
まあいいか
39
:
ペンギン
:2014/12/06(土) 19:25:40 ID:6lCNk0Tw
外で遊ぶ場合は山部さんの自宅の広い敷地の庭か、社殿の左――西側――に広がる雑木林の木もまばらな入口の辺りだった。
主に由香ちゃんと追いかけっこをしたり、土いじりや虫の観察をして遊んだが、境内の、人が行き来する参道の辺りは参拝客たちの邪魔になるからと禁止された。
山部さんの家の庭で遊ぶ場合は、勝手に外に出ていかないようにと、神社に通じる鉄の門扉は閉じられ、縁側に座って山部のおばさんと談笑している伊波のおばさんが、僕たちが目の届かないところにいる場合は時々つっかけに足を入れて立って覗きに来るぐらいだったが、
参拝客がほとんど近寄らない社殿西の雑木林で遊ぶ場合は、伊波のおばさんがそばにつきっきりで立ち、僕たちの気持ちを考えて出来るだけ好きに遊ばせていたが、
そわそわした動作や、ぼんやりと目を宙に泳がせた表情などが、外に出すのを抑えようとしても、明らかに内の退屈な様子を示していた。
雑木林の奥の方に行かないようにとの注意も、うっかり眼から外れて僕たちを見失うのが心配だからというよりも、後を追って一緒に奥に入るのが面倒という感じで、
時々お参りに来た近所の人たちが手持無沙汰に佇んでいるおばさんを見つけて声をかけると、ぱっと顔を輝かせて振り向き、明るい声で返事をして、そのままおしゃべりに興じていく様からもそのことはよく窺えた。
それでも時々由香ちゃんが飛びついてきたり、離れたところから差し招いたりしたときは優しく微笑みながら相手していたが、
一度、由香ちゃんがおばさんの着ている和服に、雑木林の地面に降り積もった、裏側が濡れ湿り、土も付いたままの落ち葉を両腕に抱え、ざっとかけた時は少しきつい口調で叱り、由香ちゃんもその時は泣きそうな顔をしていた。
40
:
ペンギン
:2014/12/07(日) 06:40:18 ID:qVxbeoMo
そういうわけで僕たちは、嫌がらず僕たちと一緒に遊んでくれる真希お姉さんが中学校から帰ってくるのを心待ちにするようになった。
家の中にいても、中学校の下校時間近くなる夕方近くなると、山部のおばさんに「真希ちゃんはまだ帰らないの?」と訊ねたり、玄関の引き戸ががらがら開けられる音を待ち、あるいは神社から山部さんの自宅の敷地に通じる鉄の門扉の軋む遠く離れたかすかな音を聞き分けようと必死に耳をすませながらそわそわした。
外で遊んでいる場合は、山部さんの庭にいる時は僕たちの低い身長から生垣を斜めに見上げ、その上を通してかすかに見える参拝客たちの間から真希お姉さんを見分けようとしたり、直接門扉のところに走っていって、閉じられた鉄の門扉の横並びの縦棒のところをひんやりした感触を感じて小さな手で握りながら、頭をくっつかんばかりにして境内の方を覗いたりした。
時々参拝客の人たちが驚いたり、好奇の目をそんな僕たちに向けてくる事があったが、今思えば帰ってくる真希お姉さんを心待ちに、期待の笑みを浮かべながら門扉を掴んで二人べったりそれにへばりつく有様は微笑ましくも相当奇妙だったと思う。
社殿横の雑木林入口にいる時は、灯籠や配神用の小さな社殿の隙間から参道越しに道路に面した神社の入り口の鳥居の辺りを見通そうとしてあちこち体や首を動かしたり、伊波のおばさんの注意を聞きながら、よく見えるようにと参道の方に出たりした。
また、夕方の頃合は参拝客も多く、真希お姉さんのその人たちとの挨拶のやり取りで帰宅がわかる時もあった。
41
:
ペンギン
:2014/12/07(日) 06:41:56 ID:qVxbeoMo
あと生垣の高さは1.3メートルだった
42
:
ペンギン
:2014/12/07(日) 10:27:14 ID:qVxbeoMo
真希お姉さんが帰ってきたのを認めると、僕たちはどこにいても一散に彼女の元に駆けて行った。由香ちゃんはいつも満面に笑みを浮かべて、甲高い喜びの声で「真希ちゃんだ〜!」と、叫んで走り寄って行ったが、男の子の僕はそんな風に大声を上げたりはしない。でも由香ちゃんと一緒に走る僕の顔にもやはり大きな笑みが広がっていたろうと思う。
雑木林のところから、鳥居をくぐった真希お姉さん目がけて参拝客がたくさん歩いている参道を、満面に笑みを浮かべて、大きな頭で体が転ばないように両腕を前に伸ばしてバランスを取りながら由香ちゃんがぎこちなく走り出すと、由香ちゃんのお母さんは相変わらず注意はするものの、由香ちゃんの気持ちに負けてそれほど強い声を出すことはなかった。
そんな由香ちゃんと僕と、真希お姉さんが境内に入って歩みを進めることで社務所の前辺りで行き合い、僕たちに走り寄ってまとわりつかれると、周囲の参拝客の好奇や好意の目にさらされて気恥ずかしそうにしながらも、真希お姉さんは膝を曲げて僕たちの高さに頭を合わせてしゃがみこむと、軽く微笑んで顔を見合わせながらまず由香ちゃん、次いで僕という風に頭に手を置いて撫でてくれた。
由香ちゃんはそうやって撫でられると、真希お姉さんに会えて嬉しい気持ちからの笑顔をますますくしゃくしゃに、喜びからとろけてしまいそうな表情になった。
続いて僕が撫でられるのだが、その時じっと見合わせる、細く整った眉の下の釣り目だちの大きな目を見つめるのが好きだった。見つめるうちに、真希お姉さんの黒く深い瞳がこちらの視線に合わせて広げられる。白い肌といい、子供ながらにもそうしてじっと見つめ合っていると、真希お姉さんがすごくきれいな人だという実感がわいていた。
43
:
ペンギン
:2014/12/08(月) 03:01:29 ID:70A66HO6
真希お姉さんが通学用に使っている黒い手提げ鞄を片手に持ち替えると、空いた手を由香ちゃんが握って、ゆっくり合わせて足並みを揃える真希お姉さんと並んでよちよち歩く。
由香ちゃんは真希お姉さんと手をつなぐことで満足そうにし、慣れない足取りで一生懸命急いで歩きながらも、時々真希お姉さんの顔を斜め上に見上げてにっこり笑う。真希お姉さんもそんな由香ちゃんを首を横に向けて見下ろしながら、優しく軽く微笑み返した。
僕はそんな二人の後に付いて歩きながら、よちよち歩く由香ちゃんを可愛いらしいと思い、そんな由香ちゃんを優しく見下ろす、清楚なセーラー服姿のすらりと細い真希お姉さんの後姿を見てはきれいだと思った。たまに風が強く吹いて、真希お姉さんの背中にかかった長い黒髪を大きく揺らし、そのいい香りがふわっとこちらまで届いて来ることがある。
時々、目の前の真希お姉さんがこちらまで首を後ろに振り向け、ぼーっと見とれている僕と目が合う時があった。そんな時僕が気恥ずかしくなって目を逸らすために顔を急いでうつむけると、真希お姉さんはにっこり大きく笑った。
そんな僕たちの様子に気づいて由香ちゃんもこっちを向き、キャッキャと嬉しそうに笑い出すと、怒ったふりをした僕が走って行き、真希お姉さんの手を離した由香ちゃんとの間でちょっとした追いかけっこが始まったりする。
44
:
43訂正ペンギン
:2014/12/08(月) 03:28:56 ID:70A66HO6
真希お姉さんが通学用に使っている黒い手提げ鞄を片手に持ち替えると、空いた手を由香ちゃんが握って、ゆっくり合わせて足並みを揃える真希お姉さんと並んでよちよち歩く。
由香ちゃんは真希お姉さんと手をつなぐことで満足そうにし、慣れない足取りで一生懸命急いで歩きながらも、時々真希お姉さんの顔を斜め上に見上げてにっこり笑う。真希お姉さんもそんな由香ちゃんを首を横に向けて見下ろしながら、優しく軽く微笑み返した。
そうこうしているうちに、僕たちの後を追って歩いてきた伊波のおばさんが着き、真希お姉さんは礼儀正しく挨拶する。伊波のおばさんも「いつもありがとうねえ」などとねぎらう言葉をかけ、二人の間でちょっとしたやり取りが始まる。その間由香ちゃんは真希お姉さんの手を握ったまま笑いながら二人の顔を交互に見上げていた。
山部のおばさんによろしくと言って由香ちゃんのお母さんがそのまま旅館の方に帰ってしまうと、二人は再び歩き出す。
僕は後に付いて歩いて二人を眺めながら、よちよち歩く由香ちゃんを可愛いらしいと思い、そんな由香ちゃんを優しく見下ろす、清楚なセーラー服姿のすらりと細い真希お姉さんの後姿を見てはきれいだと思った。たまに風が強く吹いて、真希お姉さんの背中にかかった長い黒髪を大きく揺らし、そのいい香りがふわっとこちらまで届いて来ることがある。
時々、目の前の真希お姉さんがこちらまで首を後ろに振り向け、ぼーっと見とれている僕と目が合う時があった。そんな時僕が気恥ずかしくなって目を逸らすために顔を急いでうつむけると、真希お姉さんはにっこり大きく笑った。
そんな僕たちの様子に気づいて由香ちゃんもこっちを向き、キャッキャと嬉しそうに笑い出すと、怒ったふりをした僕が走って行き、真希お姉さんの手を離してキャーキャー嬉しそうに叫びながらはしゃぐ由香ちゃんとの間でちょっとした追いかけっこが始まったりする。
45
:
ペンギン
:2014/12/09(火) 04:24:41 ID:QyWfKvVE
三人一緒に家に入ると、山部のおばさんが出てきて、柔らかい顔つきで真希お姉さんを出迎える。
真希お姉さんが「ただいま」と言って、伊波のおばさんがそのまま帰った言伝など、二言三言言葉を交わすと、靴を脱いで玄関を上がっていくと、山部のおばさんが「ごめんねえ」と、手を頬に当てて、目を細めて困ったような顔をしながら、こちらの方に屈みこんで謝ってくる。
真希お姉さんが学校から帰って制服を着替える間、僕たちは待たなければならないのだ。玄関に座って、土間の上に足をぶらぶらさせながら不服そうに待つこともあれば、玄関口に出て前庭の辺りで気持ちを躍らせながら軽く二人で遊んで、待つことを紛らわせることもあった。
時には待ち切れず、真希お姉さんの後を追って家の中にどたどた入ることもあり、そんな時いつも由香ちゃんが先だった。
平屋のどっしりした和風屋敷の奥の方、自室につながる廊下を曲がり、真希お姉さんが僕たちの目から姿を消す姿を、玄関の上に両手をついて身を乗り出しながら由香ちゃんがじーっと見守ってにこーっと大きく笑うと、
頭と体の欲求に逆らうつもりはまるでないという風に、身を乗り出したまま土間の上に投げ出した足をお互いこするようにすり合わせ、大きくばたばたと振ることで、いつも履いている女の子用の小さなピンクの靴を土間の上に脱ぎ散らかすと、
そのまま玄関に上がって起き上がり、肘を曲げて両手を上に向けた状態で両腕を持ち上げてバランスを取りながら、上体を左右に捻って動きながらどたどたと駈け出して行った。靴下を履いた小さな足の裏がこっちに向けて見える。
僕は一人で待たされるのが嫌で、両手で靴を脱ぐが、やはり由香ちゃんと同じように土間の上に放り出すと、同じくどたどたと走ってそんな由香ちゃんの後を追いかける。
僕の方が一つ上だし、男の子で体も大きいから走る速度は速いが、先に家の中に上がって行かれてから、一瞬考える時間のぶん由香ちゃんの方が先に真希お姉さんの部屋に通じる廊下へと曲がる。時々みしみしいうが、足の裏に伝わる分厚い床板の感触が頼もしくて心地よい。
真希お姉さんの部屋は木の板の引き戸で行き来するようになっているが、そんな僕たちの騒がしい音に気付いて、部屋に入った真希お姉さんが、一人で戸を開けられずがたがた動かす由香ちゃんのために入口に戻って開けて、はしゃぎながら飛びついて来る由香ちゃんを制服姿のまま頭を撫でてあやしたり、持ち上げて遊んであげたりしたが、
一度気付かず、戸を揺らす由香ちゃんに僕が追いつき、二人で力を合わせて引き戸をがらがら開けたところ、真希お姉さんがまさに着替え中のところだったことがあった。
背が高くほっそりした体に、白い肌によく合って清潔感を与える少し襞のついた白の下着姿。すらりと長い脚が印象的だった。
真希お姉さんは驚いて瞳孔を広げて見開いた目でこっちを見、相変わらず構わず飛びついて来る由香ちゃんに続いて僕に気付くと、「きゃっ」っと言って手にした着替え用の服で前の方を隠したが、
由香ちゃんに長い脚に飛びつかれ、それの相手で身動きが取れなくなるうちに、やはり子供相手だからと気にしなくなったのか、幾分恥ずかしそうにだが、由香ちゃんのために屈みこみながら、顔をこちらに上げて微笑んだ。
僕はお姉さんの細い肢体、白い下着に一部隠された部分以外からむき出しに露わになった白くてきれいな肌に目が釘付けになった。
結局その時は恥ずかしくなって顔を俯けて目を外し、大急ぎで走って玄関の方に戻ったが、その光景が忘れられず、それからも由香ちゃんの後を追う時は都合よく真希お姉さんの着換え姿を見られるようにと思っていた。
数度繰り返すうちに、真希お姉さんもそんな僕に慣れて、相変わらず恥ずかしそうではあったが、少し困ったように笑いながら、まとわりついて来る由香ちゃんを上手にあやしながら着替えるばかりだった。
その度ごとの、白い肌と下着によく映える、不規則に体にかかり、下の白地との間で真っ直ぐな線紋様を作るきれいな長い黒髪の様子が印象に残っている。
46
:
ペンギン
:2014/12/09(火) 04:28:15 ID:QyWfKvVE
「真希お姉さんが僕たちの目から消す姿を、」
が正しい
修正の際削除をうっかりした
47
:
ペンギン
:2014/12/09(火) 04:33:59 ID:QyWfKvVE
あれ、日本語おかしいか
「目から姿を消す様子を」
だ
何か混乱してきた
48
:
ペンギン
:2014/12/09(火) 06:00:02 ID:QyWfKvVE
「その度ごとの、不規則に体にかかり、下の肌と下着の白地との間で真っ直ぐな線紋様を作るきれいな長い黒髪の様子が印象に残っている。」
49
:
ペンギン
:2014/12/09(火) 06:09:00 ID:QyWfKvVE
「その度ごとの、白い肌と下着によく映えた綺麗な長い黒髪が不規則に体にかかり、下の白地との間で真っ直ぐな線紋様を作る様が印象に残っている。 」
やはり普通のこの文章で行くか
しかしきりないな
50
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/09(火) 07:29:55 ID:ZQKzIvf2
ペンギンさんは直しだすと止まらないタイプだな
51
:
ペンギン
:2014/12/10(水) 04:50:26 ID:KX23Osgk
真希お姉さんが着替え終わると、僕たちは連れ立って大抵社殿横の雑木林の方へ向かって遊ぶことにしていた。山部さんの家の庭は普段から好きに走り回って遊ぶことが出来たので、真希お姉さんが帰るのを待つ間、由香ちゃんのお母さんがお守りをしてくれるものの、面倒がってからか一緒に行ってくれない雑木林の奥の方にお姉さんと入ることにしていたのだ。
真希お姉さんが上に着るシャツや上着は白や水色のさっぱりした感じのものが多く、下には普段はスカートをよく履くようだが、僕たちと外で遊ぶときはそれに合わせて長ズボン――その時は知らなかったが、真希お姉さんぐらいの年頃ではボトムズパンツなどと呼ぶらしいが――を履いていた。
僕と由香ちゃんが待ち切れずに、門扉を開けてくれた真希お姉さんの先に立って境内に飛び出し(注意する伊波のおばさんはもう帰ってしまっていない)、はしゃぎながら雑木林に向かうこともあれば、僕と由香ちゃんで片手ずつ真希お姉さんの両手を握って、三人並んでゆっくり歩いていくこともあった。
参拝客の人がそんな僕たちを見て、真希お姉さんに「いつもえらいわねえ」などと声をかけ、挨拶をする真希お姉さんとの間でちょっとしたやり取りが始まると、大人の人ときちんと言葉を交わす事のできる真希お姉さんに対し、由香ちゃんが尊敬とあこがれのきらきらした眼差しで微笑みながら顔を見上げた。
僕も早く雑木林に到着して遊びたい気持ち半分、真希お姉さんのことを誇らしく思ったが、そういう時せっかくの機会だし、いつも真希お姉さんの手をぎゅっと強く握ってその触感を楽しむことにしていた。小さな子供の僕にとって大きな真希お姉さんの手はふわっと柔らかく、少し温かかった。
52
:
ペンギン
:2014/12/10(水) 05:21:08 ID:KX23Osgk
「小さな子供の僕にとって真希お姉さんの手は大きくてふわっと柔らかく、少し温かかった。」
53
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/10(水) 18:21:31 ID:vQ3shTHM
小さい子から見れば、中学生は充分大人だ。
そして大人に憧れる子供の心情がリアルですね。
54
:
ペンギン
:2014/12/10(水) 18:39:59 ID:KX23Osgk
>>53
今日帰る途中で描写の中で重大な書き落としに気付いたが目をつぶってこのまま行こう
ほんとは「彼女」という言葉を使いたいんだが、幼児っぽくないんだよね
以前使ったけど
「真希お姉さん」の連打はきついんだがどうしても避けようがないところがある
55
:
ペンギン
:2014/12/10(水) 20:42:49 ID:KX23Osgk
真希お姉さんがいると遊ぶのも全然違った。やっていることは追いかけっこや、木の枝を拾ってのちょっとしたチャンバラごっこなど、由香ちゃんと二人で遊ぶ内容とそれほど違わないが、今度は真希お姉さんという二人にとって共通の‘敵’がいる。
大人の(真希お姉さんは中学生だが、小さな僕たちからしたら大人も同じだ。長身で、落ち着いたきれいな顔立ちもそういう印象を僕たちに与えていた)真希お姉さんは僕たちにとって加えた攻撃を受け止めてくれる格好の標的で、由香ちゃんと二人で追いかけ回して追いついたら体当たりしたり、木の枝のチャンバラで大きな‘悪者’の脚や腰の辺りを二人してパシパシ叩いたりした。
真希お姉さんは笑いながら腕や手でそれをかばったり、大げさに痛がる振りをして走ってそんな僕たちから逃げたりした。もちろん、本気で走って逃げられたりしたら僕たちの脚で追いつけるはずもないのだが、脚を緩めてくれ、さらに僕たちは雑木林の木を回り込んでの挟み撃ちなどの‘作戦’があった。
そうやって二人でお姉さんを苛めるように攻撃していたが、時にははしゃいだ笑顔のまま急に由香ちゃんが寝返り、突如としてこちらに矛先を変えて攻撃を加えてくる事があった。そうすると立場逆転で、今度は真希お姉さんが笑いながらふざけた怖がらせる表情を作って体の前に手を持ち上げ、それを軽く握ったり閉じたり動かしながら「がおー」などと言って由香ちゃんと組んで追いかけてき、僕は必死に逃げるのだ。
そういう時キャッキャと嬉しそうにはしゃぐ由香ちゃんのチャンバラの攻撃はお姉さんと一緒の立場で行動して気が高ぶっているのか、いつもよりきつく、時には本気で痛い時もあった。
もちろん三人で普通に鬼ごっこをしたりすることもあり、一年中落ち葉がざくざくと積もった、小山のうねりのある広い林の中を思い切り伸び伸びと走り回るのは楽しかった。時々転んで落ち葉まみれになるが、落ち葉が深く積もる秋はかえって深く潜り、そうでない時は手と腕ですくって上に放り投げてかぶって遊んだりもした。
神社の中心部から出っ張った形で境内が広がっているこの林の周りにも僕たちが越えることができない生垣が巡らされていたが、それでも真希お姉さんは走り回りながらも僕たちがどこかに行かないか気を使っている様子で、よく僕たちの方を注意深い目で観察していることがあり、僕たちも真希お姉さんのそんな気遣いを大事にして、決して心配させるように遠く目の届かないところに外れることはなかった。
56
:
ペンギン
:2014/12/12(金) 06:16:57 ID:5EgsFJFs
外で遊んでいても暗くなり始めたり、雨の日や、またあまり暑かったり寒すぎる日は山部さんの家の中で遊んだが、そういう時真希お姉さんは僕たちにお手玉や折り紙をして見せたり、教えたりしてくれた。
お母さん――山部のおばさん――に習ったそうだが、おばさんはめったにしてくれなかったし、お姉さんがそういった遊びを僕たちの目の前で器用にして見せて、教えてくれるのは楽しかった。
中に小豆の入った布の袋で出来たお手玉は持つだけならともかく、宙に放り投げて受け取るには僕たちの手はあまりに小さく、力も弱かったので、真希お姉さんがするのを見るだけだったが、折り紙は僕たちでも真似できた。
特に由香ちゃんが熱心で、お姉さんが折っている紙の上に、両手と膝をついた四つん這いの格好で顔をやって、常にない真剣な表情で目を見開いてじーっとお姉さんの折る様を眺めていた。
それでもいざ自分が折るとなると、子供の指が短く小さな手と思い通りに動かない腕でぎこちなく、きれいに上手くはいかなかったが、結局は僕よりだいぶのレパートリーを増やしたようだ。
真希お姉さんは家の中で座る時は下が板の間でも畳でもきちっとした正座で、僕たちに遊びを教えてくれる際もそうだったが、正座の状態から前屈みになって、白くて細く長い指で折り紙にきちんと整って折り目を付けていく様の姿はきれいで、時々前にかかる長い黒髪を横に払う際、ふわっとこちらに漂ってくる髪の匂いを嗅ぐたびに気持ちが宙に浮くような、幸せな気分になった。
雨の日など、外で遊ぶつもりなく、帰って最初からスカートに着替えた時は床の上に伸びる、スカートの丈下からの白いすねや足を見るのが好きで、さらに夏に丈が短いものを履いている場合は、座ることで裾の位置が上にずれた、きちっと閉じ合わされた両脚を正面から見て、膝頭や、少し覗く腿に見とれたりした。
57
:
ペンギン
:2014/12/12(金) 19:56:55 ID:5EgsFJFs
神社に生まれた真希お姉さんはお父さんの山部さんを手伝って巫女の仕事もしていた。僕が初めて真希お姉さんの巫女姿を見たのは、山部さんの家に預けられて二週間ほどたった日だ。
その時はもう知り合ったばかりの由香ちゃんと子供同士の気安さで一緒にはしゃいだり遊んだりして、ここに預けられる前、母親に連れられて行った家の近所の公園でその時たまたま出会った同年代の子と遊ぶぐらいで、継続した友達関係を持つことのなかった僕は、由香ちゃんと遊びの経験の中で電気の刺激を与えるようにお互い気質や好みを分かり合って、急速に打ち解け始める新鮮な驚きと喜びの体験をしている最中の時期だった。
そのことは、恐らく僕より一つ小さく、恐らく僕が初めての同年代の友達だろう、由香ちゃんにとってもそうだろうと思われた。ふざけて笑いながら叩き合っている最中のふとした間にもそういう気持ちが空気を伝わって、出会って間もない僕たちの気持ちを確認して、固め合う実感をする時があった。
真希お姉さんとも仲良くなり、最初は僕も由香ちゃんもちょっと遠慮していたが(僕が初めて会ったのは神社に預けられた初日だから由香ちゃんはいなかった。由香ちゃんはそれ以前からお母さんに神社に連れられてきていたから真希お姉さんのことは知っているはずだが、いざ実際に遊ぶとなると少し気後れを感じていたようだ)、
優しく僕たちを遊びに先導してくれるお姉さんに僕たちはすぐに懐いて、馴れ馴れしすぎるといっていいほどの態度で接するようになり、真希お姉さんはそんな僕たちにいつも笑いながら接してくれた。
58
:
ペンギン
:2014/12/12(金) 19:58:36 ID:5EgsFJFs
あれ、なんか違和感あると思ったら「接する」の濫用だ・・・
59
:
ペンギン
:2014/12/12(金) 20:05:04 ID:5EgsFJFs
真希お姉さんとも仲良くなり、最初は僕も由香ちゃんもちょっと遠慮していたが(僕が初めて会ったのは神社に預けられた初日だから由香ちゃんはいなかった。由香ちゃんはそれ以前からお母さんに神社に連れられてきていたから真希お姉さんのことは知っているはずだが、いざ実際に遊ぶとなると少し気後れを感じていたようだ)、
優しく遊びに先導してくれるお姉さんに僕たちはすぐに懐いて、馴れ馴れしすぎるといっていいほどの態度で接するようになり、真希お姉さんはそんな僕たちにいつも笑いながら相手してくれた。
60
:
ペンギン
:2014/12/12(金) 20:10:36 ID:5EgsFJFs
やはり
「真希お姉さんはいつも笑いながらそんな僕たちの相手をしてくれた。」
か
約束通りの文章で行くのがいいな
61
:
晒すスレの者
◆iJwtISSDjM
:2014/12/12(金) 20:16:24 ID:H3ql5bSU
何というか主人公が真希お姉さんの足に見とれる描写が上品だ
62
:
ペンギン
:2014/12/12(金) 20:20:21 ID:5EgsFJFs
>>61
うまく描写できないが、まあ書いているうちに経験値がたまってちゃんと書けるようにレベルアップすると思っています・・・
とにかく字数こなさないとにゃん
63
:
ペンギン
:2014/12/12(金) 20:23:44 ID:5EgsFJFs
今見返しても変な文章だ・・・
直さないと…
64
:
ペンギン
:2014/12/12(金) 20:31:45 ID:5EgsFJFs
>>55
最後
「決して心配させるように遠く目の届かないところに外れることはしなかった。」
か
65
:
ペンギン
:2014/12/13(土) 17:29:08 ID:VCLR3eeA
しとしと小雨が降る梅雨に入りかけの頃、南の縁側に面した和室で、座卓の上に雑誌を広げて読んでいる由香ちゃんのお母さんの横で、由香ちゃんが自分の家から持ってきた絵本を二人で並んで読んでいると、山部さんの敷地に通じる鉄の門扉がキィッと軽く軋む音が聞こえ、前庭の敷石の上をトントンと歩く靴の足音、玄関前でバサバサと傘に付いた水を払う音が続いて聞こえてきた。
足音の軽やかさとリズムから、真希お姉さんが帰ってきたことを知った僕たちはまた遊んでもらおうと、二人で片手ずつ両側を持っていた絵本を畳の上に放り出し、起き上がって我先にドタドタと廊下を玄関の方に駆けていった。
果たしてそこには、靴が並べて置いてある土間に立って、斜め下に向けて持った傘を柄を持っていないほうの手を使って付属のバンドで巻き畳もうとしている、長い髪の端の方をかすかに湿ったように濡れて黒光りさせた真希お姉さんが立っていたが、いつものように出迎える山部のおばさんは僕たちより早く玄関に到着しており、何やら二人で話し込んでいた。
66
:
白レンの人
◆EvBfxcIQ32
:2014/12/13(土) 21:52:27 ID:y3.lUCrU
>>64
「決して〜」を受けるのは否定の言葉だから、「決して心配させないように、遠く目の届かないところに外れることはしなかった」とするべきじゃないだろうか?
67
:
ペンギン
:2014/12/14(日) 07:09:39 ID:i2xRuk2g
>>66
私もそれを真っ先に考え、何度も検討したのですが(それが一番一般的ですからね)、結局別の形にしたんですよ
もっと進んで一段落してからまた考え直すかな
68
:
ペンギン
:2014/12/14(日) 07:15:38 ID:i2xRuk2g
しかしそうだな
>>66
の通りに元のところを直しとこう
69
:
ペンギン
:2014/12/14(日) 08:41:53 ID:i2xRuk2g
「――雨なのにごめんねえ。お父さんから帰ったらすぐに伝えてくれって言われてね――」
「――ううん、わかった。すぐ着替えるから――」
足を止めてぼーっと立ち尽くしている僕たちに二人が気付くと、おばさんがこちらに近づいてきて、僕たちに向かって屈みこんで顔を近づけながら言った。いつもの癖で目を細めて困ったような申し訳なさそうな顔をしている。その間に真希お姉さんは手際よく傘を巻き畳むと、傘立てに差し込んで、靴を脱いで家に上がっていた。
「ごめんなさいね。これから真希ちゃん、ちょっとお父さんのお手伝いしなくちゃいけなくて、一緒に遊んであげられないの」
ぽかんと顔を見上げている僕たちのそばに今度は真希お姉さんがおばさんの横に並んで立ち、
「二人ともごめんね」
と、やはり屈みこんで少し悲しそうに微笑みかけ、鞄を持っていない空いた手で僕たちの頭を順番に撫でると、
「じゃあ、シャワー浴びてから着替えるから――」
「うん。ごめんなさいね」
とおばさんと言葉を交わすと、廊下の奥に進んで自室の方へと曲がって姿を消した。
70
:
ペンギン
:2014/12/14(日) 20:45:05 ID:i2xRuk2g
僕たちは突っ立ってそんな真希お姉さんを見送っていたが、やがて由香ちゃんが姿の見えなくなった真希お姉さんを追いかけようと、ダッと走り出そうとすると、おばさんがそのふっくらした体を素早く由香ちゃんの前に動かし、その足を止めさせた。
「いい子だから今日はおとなしくしててね?」
腿に手を突いて屈みこんで、優しく微笑みながらあやしつけるような言い方だったが、立ち止まった由香ちゃんと、離れて立っている僕に横からすり抜けることのできないよう注意を巡らせているさまが体全体の緊張から伝わり、それまで大抵の子供ながらのわがままを通すことのできた僕たちも今回は無理だと思わされた。そうこうしているうちに、廊下の奥の突き当りを、右側の自室の方に曲がった真希お姉さんが制服姿のまま左の方に進んで一瞬姿を現してまた消すのが見えた。
いつも構ってくれる二人が慌ただしい空気の中で動いているようで、廊下に立ったままの僕はぽつんと置いていかれたような気がした。その思いは、通り抜けさせまいとしているおばさんの横から、少しだけ真希お姉さんが再び姿を見せた廊下の奥を体を傾けて、目を細めた不満と不安が入り混じったような表情で凝視している由香ちゃんも同じようだった。
71
:
ペンギン
:2014/12/15(月) 00:45:27 ID:L.mrftSY
「その思いは由香ちゃんも同じようで、通り抜けさせまいとしているおばさんの横から、先ほど真希お姉さんが再び少しだけ姿を見せた廊下の奥の方を体を傾けて凝視する、目を細めた不満と不安を入り混じらせた表情にそれが現れていた。 」
72
:
ペンギン
:2014/12/16(火) 19:25:19 ID:KyOYPScc
由香ちゃんのお母さんが玄関の廊下に出て来た。和服でなく、ボタン留めの灰がかった白のブラウスに、膝の下までかかる黄土色のスカートの洋服姿だ。
元いた縁側に面した和室から広い屋敷の廊下を通ってここに出てきたところだが、玄関廊下の東奥の突き当りを見ながら立ち尽くしている僕たちと、その前をふさぐように立っている山部のおばさんをしばらく見ているうちに、何やら事情を察したように目と口を開き、息を吸い込みながら背を伸ばした。
「――あら、真希ちゃんまたお手伝いするの?」
山部のおばさんが由香ちゃんのお母さんに気付いて、由香ちゃんに向けて屈めていた腰を伸ばす。由香ちゃんもお母さんの方にぐるんと首を回して見上げ、それを見た山部のおばさんはもうすり抜けられることはなさそうだと判断したのか、息を吐きながら体の緊張を解いた。
「――ええ、そうなの。午前中に電話があったんだけど、こちらに観光旅行にいらっしってる敬老会の団体の方たちがこの神社をぜひ皆で見学に参拝したいとおっしゃってね。お父さんだけじゃ相手できないし、真希ちゃんに手伝ってもらおうと思ってね」
「真希ちゃんしっかり者でお手伝いもしてえらいわねえ。美人さんだし。何時ごろいらっしゃるの?」
「暗くなる前に来るだろうから、もうそろそろだと思うんだけどね――」
どうやら由香ちゃんのお母さんは事情を知っていそうだ。由香ちゃんが口をへの字にし、瞳孔を狭めて目を見開いた、不満が入り混じった物問いたげな目でお母さんの方を見上げている。
回した首で顎をツンと突き出し、無意識になのか、微かに体全体を左右に捻って回しながら揺らしており、事情を知りたいのと、やはり真希お姉さんと遊ぶことのできない不満を表明しているような、駄々をこねている仕草に映った。
73
:
ペンギン
:2014/12/16(火) 22:45:34 ID:KyOYPScc
「――さ、そういうわけだから佳くん(佳太が僕の名前だ)も由香ちゃんもあっちで大人しくしましょうね」
由香ちゃんのお母さんが僕と、依然物問いたそうに見上げる由香ちゃんの横に回り込む。
お母さんが動くのに合わせて、その顔にぴったりと貼りつけた視線を外すことなくぐるりと首を回して追い続ける由香ちゃんに構わず、山部のおばさんとの間に立った由香ちゃんのお母さんは膝と腰を曲げて屈みこむと、僕たちのいる両側に両腕と手を広げて回し、横からすくうようにすることで僕たちに半ば強制的に動くよう促した。
「そうだ、せっかくだからあとでこの子達に見せてあげてもいい? 私も久しぶりに見たいし」
直接押して動かすわけではないが、軽く触れた状態から抱え込むようにして圧力をかけて、不服な僕たちを元いた部屋に向かう廊下に押し戻そうとしながら、由香ちゃんのお母さんが山部のおばさんの方を振り向きながら言った。
「ええ、もちろんいいわよ。二人ともごめんなさいね。あとで真希ちゃんに会わせてあげるから」
目を細めて首を傾げ、頬に手を当てて山部のおばさんが言った。
僕は依然何が起こっているのかわからなかったが、今では、いずれ僕たちも起こっていることに参加させてもらえそうなことに気付いて、半ば納得した形で不満は薄れ、徐々にこれから起こることへの期待が気持ちを多く占めるようになっていった。
由香ちゃんもまだ少し口を尖らせたままで、少々不満が残っているようだが、僕と同じでそれなりに納得したらしいことは狭めていた瞳孔が少し柔らかく広がって元に戻り、大人しくお母さんに促されるままに向きを変えて元いた部屋へと歩き出すことからわかった。
74
:
ペンギン
:2014/12/20(土) 14:26:48 ID:8gwSEeZE
僕たちが縁側に面した部屋に戻って、二人並んでくっついて座卓に向かって座り、いつもお絵描き用にと何枚か用意されている広告チラシの白い裏側にクレヨンで落書きしていると
(さっきまで読んでいた絵本は、そのうち呼んでもらえるかもしれない真希お姉さんが今していることが気になって続きを読む気になれず、
僕が何となく座卓に向かってそこに用意されたチラシとクレヨンを手に取り、手を動かすことで気持ちを紛らわせられるお絵描きを始めると、
由香ちゃんもそんな僕を見てその気になったのか、にこーっと笑いながら隣に座り、僕の描いてるチラシに横から身を乗り出して一緒に描き始め、時々僕の描いた絵に落書き攻撃を加えてくる事もあった)、
ガラガラと玄関の引き戸の開く音が聞こえ、
「どうだー、もう準備は出来たかー」
と、山部のおじさんが家の中に呼びかけるよく通る声が続けて聞こえて来た。
75
:
ペンギン
:2014/12/20(土) 15:26:38 ID:8gwSEeZE
パタパタとおばさんのスリッパの廊下を走る音が微かに聞こえた。続いて、何を言っているかわからないが、何やら二人で話をしているこもった声の音が玄関の方から届いて来る。
すると、由香ちゃんのお母さんが座卓の上に乗せた雑誌をパタンと閉じて、座布団の上の正座の状態から立ち上がった。
それを見た僕たちはチラシの上に屈みこんでいた頭を由香ちゃんのお母さんの方に見上げ、黙って襖を開けて出ていこうとする姿を、座ったままの体と首を大きくねじって二人で目で追っていたが、その後ろ姿に特に拒否の雰囲気を感じなかった僕は、チラシの上にクレヨンを放り出し、ばっと大急ぎで立ち上がった。
由香ちゃんは隣の僕の動きに何が起こったのかよくわからない風で、口を半開きにして、ぱちくりした目で立ち上がった僕の方を見上げていたが、何だかよくわからないままに、置いて行かれるのは嫌だと判断したらしく、すぐに自分もクレヨンをコロンと放った小さな手を座卓の上に突き、急いで立ち上がった。
76
:
ペンギン
:2014/12/22(月) 00:10:31 ID:Wwb24ckY
僕たちが由香ちゃんのお母さんを追ってドタドタと駈け出すと、ちょうどお母さんが玄関の廊下に出たところでその後ろ姿に追い付いた。玄関の土間に立って奥さんと向かい合っていた山部のおじさんは僕たちの足音と、廊下の角から顔を出した由香ちゃんのお母さんに反応して顔をこちらの方に振り向けた。
いつも神社の仕事をしている時の、上腕の肩近くの辺りで前面に縦に切れ込みが入り、腰から脚の膝の辺りにかけて前と後ろに垂れた形で布が伸びている紺の和服と(当時は知らなかったが、狩衣【かりぎぬ】というらしい)、黒の烏帽子に紫の袴だ。上腕の切れ込みから下に着た服の白い地が覗いている。おじさんは由香ちゃんのお母さんと顔を合わせると目を見開いて軽く頭を下げた。
「――あら、真希ちゃんまたお手伝いするみたいね」
由香ちゃんのお母さんの言葉を聞くと、おじさんは目を細め、口の端を上げて軽く微笑んだ。
「もうすぐ敬老会の方たちが見えられるので手伝わせようと思いましてね」
「ほんとにもう、よく出来た娘さんねえ」由香ちゃんのお母さんが手を胸の高さにかかげて、腕を軽く一振りして手首を揺らしながら言うと、山部のおじさんはますます口の端を持ち上げ、相好を崩して微笑んだ。
「そうそう、この子たちにも――由香ちゃんのお母さんはおじさんの方を向いたまま、左手で横に立っている僕たちの頭を後ろからすくうようにして、おじさんの目につくように軽く前に押し出した――真希ちゃんの巫女さん姿見せてあげたいんだけどいいですか?」
由香ちゃんのお母さんが言うと、山部のおじさんは目を開いて、少し背筋を伸ばしてのけぞりながらこっちの方を見た。
「――もちろん構いませんよ。二人にはもっと神社の事に興味を持ってほしいし、由香ちゃんにも将来は巫女さんになってもらおうかな」おじさんが由香ちゃんの方を見ると、目が合った由香ちゃんは何を言われてるかよくわからないまま、おずおずと微笑んだ。
続いて僕の方に目を移し、「佳太君にも将来は神主になってもらえると嬉しいな」微笑んだ柔らかい顔つきだが、真っ直ぐ僕の目を見て言った。僕も由香ちゃんと同じように、訳も分からず笑い返すしかできなかった。
77
:
ペンギン
:2014/12/23(火) 22:05:56 ID:TSbZPlaY
「で、まだなのか」おじさんが奥さんの方を向いて言った。
「もうそろそろだと思いますけど――」
山部のおばさんがちょっと焦って困ったように廊下の奥を見渡すと、丁度突き当りの左右に曲がり角が分かれた左の方から真希お姉さんが出てくるところだった。
ただ、いつもと違うのは、上に白い和服、下に赤い袴姿で(白装束に緋袴らしい。袴は山部のおじさん――真希お姉さんのお父さん――が履いているのとは違って、脚に合わせて股で分かれておらず、スカートのように一つの裾で広がる形で、行灯袴というらしかった)、前髪を生え際で分けて後ろにひっつめた長い黒髪を白い‘のし’で束ねた(‘のし’の名称も、それが檀紙という高級な和紙の種類であることも無論当時の僕は知らなかった)姿で、
今まで見たことのない服装もだが、その着ている服自体のしわ一つなく、おろしたてのような感じが、簡単に触れることでしわくちゃにして台無しにしてはいけないような気ちを起こさせて近寄りがたかった。
いつもと同じ優しげな表情の真希お姉さん自身も、ひっつめて後ろに束ねた髪型のせいでどこか少し張り詰めた印象を与え、普段より小さな歩幅での慎重な歩き方もその感じを強めた。
真希お姉さんが突き当りの角を曲がって姿を現し、廊下を少しこちらに進んできたところで由香ちゃんが走って行こうとして、お母さんにすぐにその両肩を後ろから押さえて止められたが、いつもと違って特にじたばたしようとせず、じっと立ち尽くして真希お姉さんの姿を見つめていたことから、由香ちゃんもいつもと違う雰囲気を真希お姉さんに強く感じ取っていたらしい。
真希お姉さんもそんな由香ちゃんの方をゆっくり歩きながらちらと見て軽く微笑みかけるだけだった。
78
:
ペンギン
:2014/12/24(水) 20:37:45 ID:2Yc96jJw
やはり街中にあるでかい神社で巫女に無縁というのはおかしいから書き直した
それ以前のとこもいろいろ手加える必要あるが、まあ先に進もう
79
:
ペンギン
:2014/12/24(水) 20:42:23 ID:2Yc96jJw
「で、まだなのか」おじさんが奥さんの方を向いて言った。
「もうそろそろだと思いますけど――」
山部のおばさんがちょっと焦って困ったように廊下の奥を見渡すと、丁度突き当りの左右に曲がり角が分かれた左の方から真希お姉さんが出てくるところだった。
ただ、いつもと違うのは、上に白い和服、下に赤い袴の服装に(白装束に緋袴らしい。袴は山部のおじさん――真希お姉さんのお父さん――が履いているのとは違って、脚に合わせて股で分かれておらず、スカートのように一つの裾で広がる形で、行灯袴というらしかった)、前髪を生え際で分けて後ろにひっつめた長い黒髪を白い‘のし’で束ねた(‘のし’の名称も、それが檀紙という高級な和紙の種類であることも無論当時の僕は知らなかった)、巫女さんの姿だった。僕たちが湯枝神社に来ている時、アルバイトで働いているらしき巫女さんは何度か見、その人たちもきれいだったが、緋袴の上に白装束を着た真希お姉さんはすらりとした背の高さが際立ち、普段接している姿からかけ離れた様が一層強い印象を与え、それまで見た他の巫女さんたちの姿の記憶を色褪せるものにした。
真希お姉さんはいつもと同じ優しげな表情だったが、ひっつめて後ろに束ねた髪型が大きな眼を目立たせているものの、額から生え際にかけてどこか少し張り詰めた印象をこちらに与えて近寄りがたく、普段より小さな歩幅での慎重な歩き方もその感じを強めた。
真希お姉さんが突き当りの角を曲がって姿を現し、廊下を少しこちらに進んできたところで由香ちゃんが走って行こうとして、お母さんにすぐにその両肩を後ろから押さえて止められたが、いつもと違って特にじたばたしようとせず、じっと立ち尽くしてその姿を見つめていたことから、由香ちゃんもいつもと違う雰囲気を強く感じ取っていたらしい。
真希お姉さんもそんな由香ちゃんの方をゆっくり歩きながらちらと見て軽く微笑みかけるだけだった。
80
:
ペンギン
◆aTogMd7XVM
:2015/01/11(日) 01:18:47 ID:LkQP.F3o
結局
>>79
でなく、
>>77
で行くことにした
81
:
ペンギン
◆aTogMd7XVM
:2015/01/11(日) 03:45:31 ID:LkQP.F3o
「おお、準備できたのか」
山部のおじさんが言うと、真希お姉さんは土間に立っているおじさんの正面で立ち止まり、手を腰の前で重ねてこくんと頷いた。
「――ならそろそろお見えになる頃だから行くぞ。今日は社務所も開けるからな。――少し雨が降ってるけどまあ大丈夫だろう」
右手でいつでも開けられるよう、左手に持った傘の柄を持ち替えて、開け放しの玄関戸から出て行こうとするおじさんの背中に由香ちゃんのお母さんが声をかけた。
「お仕事の具合、この二人にもお見せしていい?」
「構わんですよ。この雨ですからちょっと厄介ですがな」
山部のおじさんは振り返らずに返事すると、敷居を跨いで外に出たところで立ち止まり、右手を加えて傘を操作した。しばらくすると、バッと傘が開き、おじさんはその傘を差して雨を避けることの出来る庇の下から脱け出すと、玄関と門の間につながっている敷石の上に足を乗せて、今出てきた玄関の方に振り返って真希お姉さんを待って立った。
「――じゃ、私も手伝いに行くから――」
真希お姉さんがお母さん――山部のおばさん――の方を向いて言った。
「うん。お父さんも言ってたけど、雨降ってるけどお願いね」
おばさんが目を細めて頷くと、真希お姉さんはもう、おばさんがすでに土間に用意して出していたらしい、藁色(材質はスポンジだったようだが)に赤い鼻緒の草履に白足袋を履いた足を差し入れていた。傘立てから傘を抜き出し、軒先で家の中の方を向いて立って待っているおじさんの前に立つと、自分も傘を開け、二人で神社の境内の方へと、連れ立って敷石の上を歩いて行った。
82
:
ペンギン
◆aTogMd7XVM
:2015/01/11(日) 04:26:53 ID:LkQP.F3o
「さあさあ、私たちも早く出なきゃ!」
いきなり大声を出した由香ちゃんのお母さんに僕たちはびっくりした。屈んで僕たちに手を添えて、そのまま足を進めて土間の方に押し出しながら、振り返って山部のおばさんの方に言う。
「――すみませんけど、この子たちのレインコートお願いできないでしょうか。ご主人と真希ちゃんの仕事ぶり見せてあげたいので」
「――え、ええ、わかったわ」
山部のおばさんは屋敷の軒下に吊るしてある僕と由香ちゃんのレインコートを取りに、パタパタと廊下の奥へ走って行った。その間に由香ちゃんのお母さんはぐいぐいと僕たちを土間に押し出して、靴を履かせる。小さい手で、靴を履くのに手間取る由香ちゃんに対し、玄関にしゃがんだ後ろからじれったそうに腕と体を伸ばして、足を掴んで靴を無理やりはめ込んでいった。由香ちゃんはその間、あまりのことで何かわからず、ぽかんとした表情をしていた。
やがて山部のおばさんが両手に僕たちの――僕のは水色、由香ちゃんのはピンク色――レインコートを抱えて慌ただしく廊下を戻ってきた。まだ僕たちが来た時の雨水は完全に落とせていないようだが、手に持ったり、家の中を持って進んで水が垂れない程度には水気が落とせているらしい。
「わざわざすみません。――じゃ、これからお二人の仕事、この二人に見せてあげますね」
自分も靴を履いて土間の上から、山部のおばさんからレインコートを受け取りながら由香ちゃんのお母さんが言った。
「――ええ、伊波さんもお気をつけて」
傾けた顔の頬に右手を添えて言う。
「大した雨じゃないし、大丈夫ですよ」
僕と由香ちゃんにレインコートを渡し、由香ちゃんの方にはまたも体に手を回してぞんざいに着せながら言う。自分も傘立てから、自分が来た時の傘を取り出した。
「――それじゃ。――さ、行くわよ」
後の言葉はまだ事態がよくわかっていないらしく、のろのろと外に向かって歩き出した由香ちゃんに対して、後ろから背中を押しながら言った言葉だった。
83
:
ペンギン
◆aTogMd7XVM
:2015/01/12(月) 00:33:15 ID:7Vvt/fRI
僕たちがしとしと雨の降る中、レインコートと長靴で、先を立って歩く由香ちゃんのお母さんの後について門から鳥居をくぐって境内に入ると(小雨のせいか、普段は多い参拝客も二人ほど拝殿に向かってお参りしているだけだった)、普段は閉じられている社務所の北側の引き戸が開け放されていた。東西の側面4メートル、片側が参道に面した南北の縦の長さが8メートルほどの、長方形の木造の社務所の、参道側の社務所正面の陳列棚の上に何かこまごました物が並んだほか、室内の端に並べられた棚の上や仕切りの中に紙やら、何かに使う道具らしい物やらが散らかって(僕にはそう見えた)置かれた中で、山部のおじさんと真希お姉さんが何やら忙しく動き回っていた。
僕と由香ちゃんが雨の中ぼーっと立ち尽くしてその様を眺めていると、由香ちゃんのお母さんが言った。
「これからお二人は大勢来るお客さんたちのため、お仕事するの。ちょっと私たちも正面に回ってみましょうか」
再び先に立って歩き出した由香ちゃんのお母さんについて、僕たちは参道側の、社務所の正面に回り込んだ。
84
:
ペンギン
◆aTogMd7XVM
:2015/01/12(月) 22:05:18 ID:7Vvt/fRI
普段は閉じられている、正面の、曇りガラスに木枠の格子窓が引き開けられていた。
大人の腰かそれより少し低いくらいの高さで、さらに木の板の張り出しが窓の下枠のところから突き出ていて、まだ小さい僕には一生懸命背伸びして何とかその張り出しの上から開けられた窓の中を覗き込めるぐらいで、さらに小さい由香ちゃんは背伸びしても頭が届かず、ちょっと離れたところから斜めに見通すのがやっとで、近づくと張り出しに邪魔されて社務所の中はほとんど見えないようだった。
立てた人差し指を口に当て、好奇心のもの欲しさの目で、一生懸命背伸びして中を覗き込もうとする由香ちゃんに、巫女姿の真希お姉さんが窓からぴょこんと上半身を出し、張り出し板の上に両手をついて、そんな由香ちゃんを見下ろしながら優しく微笑みかけた。と、同時に由香ちゃんのお母さんが由香ちゃんを抱え上げ、窓を通して社務所の中がよく見えるように抱っこして持った。
なおも人差し指を口に当てたまま、じーっと中を物珍しげに見つめる由香ちゃんに対し、真希お姉さんは張り出しに手をついたまま見上げてまた微笑みかけた。
僕も一生懸命背伸びして窓の中を見ようとした。
張り出しの他、窓の下の木枠が邪魔だったが、それでも社務所の内側のすぐ窓際に置いてある木箱はこちらに対して斜めに傾斜して向いており、そんな僕にも見やすい角度で、箱の中に入っているものを一通り見ることが出来た。
木箱は外枠が低く底が浅く、中が細かく仕切られており、それぞれの小部屋の中には布で出来た長方形だったり丸かったりして、横に筋がいくつも入ったように見えるちょっと変わった紐が付いているものや、長方形の折りたたんだ白い紙の上に墨で何やら僕には読めない難しい漢字が縦に書かれているものが入っていた。
あと、木箱とは別に、これも斜めに見やすい様に置かれた平らな木の板の上に色々な飾りがついた大きな矢が何本かあり、木箱と矢のそれらに並んで、水平な棚の上に直接、上に小さい長方形の穴が開いたきりの筒も立てて置いてあった。
85
:
ペンギン
◆aTogMd7XVM
:2015/01/12(月) 23:37:33 ID:7Vvt/fRI
傾けて置いてある木箱の仕切り部屋ごとの下――手前――側に、それぞれ手書きのペン文字で置いてあるものの名前と値段が書かれた小さな白い厚紙が立ち、矢が置いてある木の板の方はその下端と窓枠の間に挟まれた位置に、置いてある長い筒の方は棚の上に直接名前と値段とが書かれた紙がテープで貼られていた。
86
:
ペンギン
◆aTogMd7XVM
:2015/01/14(水) 03:59:32 ID:nNjd1xGI
「あれがお守り、あの紙でたたまれているのが神符。あの矢は破魔矢というのよ」
僕たちに見やすいように、張り出しの上についた手を離して社務所の窓の内側に上体を戻した真希お姉さんの前で、お母さんが抱っこした由香ちゃんを持ち替えて動かしやすいようにした右手で順に指差しながら、由香ちゃんと恐らく僕にもわかるように、社務所に並べてある物の名前を教えてくれた。
「由香ちゃんにも買ってあげようか。何がいい?」
お母さんが首を曲げて抱っこした由香ちゃんの顔を覗き込むと、依然口に親指と人差し指を当てたままじーっと並べられた物を眺めている由香ちゃんは、やがてちゅぱと口に当てた指を少し中に突っ込んで舌でなめとると、口から出したその右手を斜め下に伸ばし、濡れた人差し指の指先を向けて、
「あれ」
と言った。距離は離れていたが、位置と、自分の娘の好みそうなものから見当をつけたお母さんは、由香ちゃんを抱っこしたまま苦労して膝を曲げて体を落とし、窮屈そうに右手を伸ばすと、小さく丸く赤い、さっきお守りといったらしい物を指先でつまみ上げて、由香ちゃんの顔の前にぶら下げて再び顔を覗き込んで訊いた。
「これ?」
再び二本の指を口の中に戻してちゅぱちゅぱやっていた由香ちゃんはそれを聞くと、こくんとうなずいた。その間真希お姉さんはそんな二人の方を微笑みながら眺めていた。
87
:
ペンギン
◆aTogMd7XVM
:2015/01/14(水) 04:00:19 ID:nNjd1xGI
「佳くんにも買ってあげるよ。何がいい?」
由香ちゃんのお母さんが由香ちゃんに今しがた取ったばかりのお守りを渡し、両腕でうまく抱き直すのとあやすのを兼ねて、ゆさゆさと抱っこした由香ちゃんを揺らしながら、抱えたその体越しに首を伸ばしてこっちの方を見下ろして言ってきた。その間由香ちゃんは揺らされながらも、受け取った赤いお守りを両手の指先で紐をつまんで顔の前に持ち上げながら、じーっと眺めていた。両手の指先につまんだお守りが動きに合わせて一緒にゆらゆらと揺れた。
僕は木箱の中に並べられた物を見渡した。今度は真希お姉さんはこっちの方を見たが、背伸びして一生懸命置かれたものを張り出し越しに見ようとする僕に対し、申し訳なさそうに微笑みかけるばかりだった。やがて、真希お姉さんが僕に見やすいようにと、箱の両端に手をかけ、角度をもっと上げてさらに見やすくするか、張り出しの上に箱を移動させようとするかしようとする時、僕は「これ」と、同じものがいくつかある箱の中の一室を指さした。
箱に両手をかけた真希お姉さんが顔をうつむけて、僕が背伸びしたままぴょんと飛び跳ねながら、張り出しの上に腕を伸ばして指差した物を確認すると、それを白く細長い指で箱から少しつまみ上げて、軽く振って言った。
「これ?」
微笑みながら訊いてくる。僕はうなずいた。
88
:
ペンギン
◆aTogMd7XVM
:2015/01/15(木) 04:47:46 ID:kY3YNYZA
あれ、何やってんだろ
雨の日のはずなのに描写がおかしい
しばらく間を空けたおかげでぼけてる
89
:
ペンギン
◆aTogMd7XVM
:2015/01/17(土) 04:00:23 ID:NBn3fmkE
>>84
から先を訂正して貼る
90
:
ペンギン
◆aTogMd7XVM
:2015/01/17(土) 04:02:03 ID:NBn3fmkE
再び先に立って歩き出した由香ちゃんのお母さんについて、参道側の、社務所の正面に回り込むと、普段は閉じられている正面の、木枠に曇りガラスがはめられている格子窓が引き開けられていた。
僕は中を見ようとしたが、大人の腰かそれより少し低いくらいの高さに、30センチほどの奥行の木の板の張り出しが窓の下枠のところから突き出ていて、まだ小さい僕には一生懸命背伸びして何とかその張り出しの上から開けられた窓の中を覗き込めるぐらいで、
さらに小さい由香ちゃんは背伸びしても頭が届かず、ちょっと離れたところから斜めに見通すのがやっとで、近づくと張り出しに邪魔されて社務所の中はほとんど見えないようだった。
91
:
ペンギン
◆aTogMd7XVM
:2015/01/17(土) 04:03:27 ID:NBn3fmkE
由香ちゃんが曲げてくっつけた親指と人差し指を口に当て、好奇心のもの欲しさの目で、一生懸命背伸びして中を覗き込もうとしていると、巫女姿の真希お姉さんが窓からぴょこんと上半身を出し、社務所の庇で雨から守られて乾いている張り出し板の上に両手をついて、由香ちゃんを見下ろしながら優しく微笑みかけた。
と、由香ちゃんのお母さんがしゃがみ込むと、手に持った傘を首と肩の間に挟み、空けた両手を由香ちゃんの脇の下に差し込んで、由香ちゃんの着る雨に濡れたレインコートで自分の服と体を濡らさないように、腕を伸ばして自分と持ったその体との距離を取り、傘を首に挟んだまま窮屈そうに持ち上げて立った。
社務所の中がよく見えるように持ち上げられた由香ちゃんは、時々レインコートのパーカーから滴る水滴の一部を髪や顔に受けながら、なおも親指と人差し指を口に当てたまま、じーっと中を物珍しげに見つめ、そんな由香ちゃんに対し、真希お姉さんは張り出しに手をついたまま、顔を見上げてまた微笑みかけた。
92
:
ペンギン
◆aTogMd7XVM
:2015/01/17(土) 04:04:32 ID:NBn3fmkE
僕も、しとしとした小雨ながら、時間がたって量が溜まり、滴となってパーカーの縁から滑り落ちる水滴に顔や髪を濡らされ、邪魔されながら一生懸命背伸びして窓の中を見ようとした。
張り出しの他、窓の下の木枠が邪魔だったが、それでも社務所の内側のすぐ窓際に置いてある木箱はこちらに対して斜めに傾斜して向いており、そんな僕にも見やすい角度で、箱の中に入っているものを一通り見ることが出来た。
木箱は外枠が低く底が浅く、中が細かく仕切られており、それぞれの小部屋の中には布で出来た長方形だったり丸かったりして、横に筋がいくつも入ったように見えるちょっと変わった紐が付いているものや、長方形の折りたたんだ白い紙の上に墨で何やら僕には読めない難しい漢字が縦に書かれているものが入っていた。
あと、木箱とは別に、これも斜めに見やすい様に置かれた平らな木の板の上に色々な飾りがついた大きな矢が何本かあり、木箱と矢のそれらに並んで、水平な棚の上に直接、上に小さい長方形の穴が開いたきりの木の筒も立てて置いてあった。
傾けて置いてある木箱の仕切り部屋ごとの下――手前――側に、それぞれ手書きのペン文字で置いてあるものの名前と値段が書かれた小さな白い厚紙が立ち、矢が置いてある木の板の方はその下端と窓枠の間に挟まれた位置に、置いてある長い筒の方は棚の上に直接名前と値段とが書かれた紙がテープで貼られていた。
93
:
ペンギン
◆aTogMd7XVM
:2015/01/17(土) 04:05:12 ID:NBn3fmkE
「あれがお守り、あの紙でたたまれているのが神符。あの矢は破魔矢というのよ」
僕たちに見やすいように、張り出しの上についた手を離して社務所の窓の内側に上体を戻した真希お姉さんの前で、お母さんが後ろから持ち上げた由香ちゃんの向きと角度を変えることでそれぞれを示し、由香ちゃんと恐らく僕にもわかるように、社務所に並べてある物の名前を教えてくれた。
持ち上げるだけならともかく、さすがに傘を首に挟んだまま体勢を維持して動かすのは難しそうに見えた。
94
:
ペンギン
◆aTogMd7XVM
:2015/01/17(土) 04:06:13 ID:NBn3fmkE
「由香ちゃんに買ってあげるよ。何にする?」
無理な体勢を続けて少しこわばった声だったが、お母さんが持ち上げた由香ちゃんに後ろから優しく話しかけた。口に親指と人差し指を当てたままじーっと並べられた物を眺めている由香ちゃんは、やがてちゅぱと口に当てた指を少し中に突っ込んで、舌を出して二本の指の間のえらの部分ごとべろりと付いた水滴をなめとると、口から出したその右手を斜め下に伸ばし、人差し指の先を向けて、
「あれ」
と言った。口でなめとった親指と人差し指周りの部分にまた上から雨の滴が降り落ち、とどまった。由香ちゃんが指差した物と社務所に置いているものの距離は離れていたが、指の角度と、自分の娘の好みそうなものから見当をつけたお母さんは、「――よいしょ」と言って社務所の正面まで分かれている、今は雨で濡れている参道の石畳の上に由香ちゃんを降ろした。
すぐに右の首と肩に挟んだ傘を右手に持ち、解放されたという風に軽々と左手に柄を持ち替えると、空けた利き腕を伸ばして、社務所に置かれた木箱の中から小さく丸く赤い、さっきお守りというものだと僕たちに説明した物を指先でつまんで取った。
張り出し板の、覗き込むことの出来ない社務所の中の部分の角度に当てた視線から、お母さんがお守りをつまみ上げて視界に入ったその動きに合わせて首をぐるりと振り向けて目で追い、最後にお母さんがつまんだそのお守りを、雨を受けないように由香ちゃんごと傘で覆いながらしゃがみこんで、由香ちゃんの目の前にぶら下げて、
「これ?」
と訊くと、由香ちゃんは顔の間近に来たそのお守りに寄り目でじっと視線を合わせ、こくんとうなずいた。お母さんが由香ちゃんにお守りを渡す。その間真希お姉さんはそんな二人の様子を微笑みながら眺めていた。
95
:
ペンギン
◆aTogMd7XVM
:2015/01/17(土) 04:06:59 ID:NBn3fmkE
「佳くんにも買ってあげようか。どれにする?」
由香ちゃんのお母さんが僕に訊いてきた。
僕はそれを聞くと、再び背伸びして木箱の中に並べられた物を見渡した。真希お姉さんは二人に向けた顔をこっちに向けたが、背伸びして一生懸命置かれたものを張り出し越しに見ようとする僕に対し、申し訳なさそうに微笑みかけるばかりだった。
やがて、真希お姉さんが僕に見やすいようにと、箱の両端に手をかけ、角度をもっと上げてさらに見やすくするか、張り出しの上に箱を移動させようとするかしようとする時、僕は「これ」と、同じものがいくつかある箱の中の一室を指さした。
箱に両手をかけた真希お姉さんが顔をうつむけて、僕が背伸びしたままぴょんと飛び跳ねながら、張り出しの上に腕を伸ばして指差した物を確認すると(上に伸ばした僕の腕のむき出しの手と、レインコートの袖に付いた雨滴で張り出しの上に点々と水跡がついた)、それを白く細長い指で箱から少しつまみ上げて、軽く振って言った。
「これ?」
微笑みながら訊いてくる。僕はうなずいた。
96
:
ペンギン
◆aTogMd7XVM
:2015/01/17(土) 04:07:53 ID:NBn3fmkE
僕が選んだのは由香ちゃんが選んだ丸く小さいお守りの色違いの、青色のやつだった。本当は二回りくらい大きくて長方形で平べったい、これも青色――というより紺色――のが欲しかったが、そっちは500円で、由香ちゃんと、僕が今回選んだ小さくて丸いやつの300円より高く、よその子供の僕が由香ちゃんを差し置いてそれより高いものを選ぶのは気が引けたのだ。
97
:
ペンギン
◆aTogMd7XVM
:2015/01/18(日) 06:46:13 ID:BOdnDgy2
「それでいいのね?」
由香ちゃんのお母さんが僕に訊いてくる。僕は真希お姉さんからそちらに首を向けて、またうなずいた。由香ちゃんのお母さんが真希お姉さんから青い小さなお守りを受け取り、それをこちらに渡してくる。
「――じゃ、この二つと――、あとせっかくだからおみくじもお願いしようかしら――こら! 由香! ふらふらしてないでこっち来なさい!」
僕にお守りを渡した後、スカートのポケットから黒いがま口の小銭入れを取り出そうとしていたお母さんが後ろの方を振り向いて言った。
振り向いた先では由香ちゃんが、本体が雨に濡れないように、指先で紐をつまんだ両手のひらを上にドーム状に覆うように持ったお守りを顔のそばに近づけてじーっと見つめながらよちよちと、石畳の上の参道と社務所の分かれる辺りまで歩いて出て行っていくところだった。
ちょうどさっきまで拝殿にお参りをしていた中年の男性の参拝客が一人参道を歩いて鳥居の出口に向かって歩いていくところで、傘を差して参道の左端を歩いていたその人はそんな由香ちゃんの方を横目に観察しながら通り過ぎようとしていたが、由香ちゃんがふらふらと参道の方に出、ぶつかりそうになるのを体をよじってかわした。
98
:
ペンギン
◆aTogMd7XVM
:2015/01/18(日) 06:46:47 ID:BOdnDgy2
「由香!」
お母さんが本格的に体を後ろに向けて由香ちゃんに対し怒鳴りつける。傘を差したまま申し訳なさそうにぺこぺことその参拝客に対し頭を下げもした。参拝客の方は気にしないようにとでもいう風ににっこり笑って、こちらも会釈して返すと、最後に優しく由香ちゃんの方を見つめてそのまま鳥居の方へと歩き去って行った。
「早くこっちに来なさい!」
お母さんが右手に小銭入れを持ったまま少し怖い顔をして由香ちゃんの方を差し招くと、由香ちゃんはお守りから目を離し、指でつまんだ右手をだらんと横に下げてよちよちとこちらに戻ってきた。ピンクのレインコートに長靴のその格好で不器用に体を揺らしながら歩くたびにレインコートの大きな皺が動きに合わせて位置や形を変え、新たに雨滴を受けながらも、由香ちゃんのその動きでわしわしと表面の水滴を左右に弾き落としてもいった。
もはや雨に濡れることは気にしていないのか、無造作に横に投げ出された右手に持ったお守りを、僕のそばに来て前に立った由香ちゃんは腕を勢いよくあげて僕の顔の前にかざし、にこーっと笑って、
「お揃い」
と言った。どうやら僕が両手で体の前に持った青いお守りをこちらに近づくまでの間に見ていたようだ。僕も思わず笑うと手を上げ、並べるようにして由香ちゃんのお守りのすぐ横に僕のお守りを持ち上げた。
99
:
ペンギン
◆aTogMd7XVM
:2015/01/18(日) 06:57:21 ID:BOdnDgy2
「お揃い」
と言った。どうやら僕が両手で体の前に持った青いお守りをこちらに近づくまでの間に見ていたようだ。僕も思わず笑うと手を上げ、並べるようにして由香ちゃんのお守りのすぐ横に僕のお守りを持ち上げると、
「うん」
と、笑いながらうなずいた。これにしてよかったと思った。
100
:
ペンギン
◆aTogMd7XVM
:2015/01/18(日) 21:49:47 ID:BOdnDgy2
そんな僕たちの方を由香ちゃんのお母さんがちらりと振り向いて、「二人ともおみくじするわよ」と声をかけてきた。僕たちを見る目の瞳孔が少し開き、心なしかいつもより声と表情が柔らかいように感じられた。真希お姉さんはそんな僕たちの様子を見て相好を崩して微笑んでいるばかりだった。
「佳くんはおみくじは初めて?」
右手に持った小銭入れを傘の柄を持ったままの左手に近づけ、手慣れた様子で器用にその左手の空いた指でがま口の金具を外し開け、中から取り出した小銭を、「初穂料800円となります」と言う真希お姉さんに渡しながら由香ちゃんのお母さんは訊いてきた。お姉さんがお釣りを渡さなかったところを見るとちょうどそれだけの金額だったようだ。
僕はうなずいた。と、いってもおみくじ自体どんなものかわからなかったのだが。由香ちゃんのお母さんは真希お姉さんが両手で持って渡す、棚のこちらから向って右端に置いてあった木の筒を片手で掴んで受け取ると、
「この筒を下に向けて振ってね――」由香ちゃんのお母さんは筒を水平より少し傾けて、筒の上を向いていた面を僕たちに見えるように下に向けると、傘の柄を持った左手の人差し指を伸ばし、筒の上面に小さく開いた長方形の穴を指差した。
「――この穴から出てきた木の棒を神主さんか巫女さんに渡すの」筒を持った右手を少し動かして社務所の方を示して言った。普段親しく話している二人の名前を直接言わないのは、こういう神社――おみくじのやり方――一般の作法の事を言っているのと、現に今仕事をしている二人に敬意を表してのことだというのは僕にもわかった。
神主さん――山部のおじさん――の方は社務所の受付の僕たちの対応をさっきから巫女の真希お姉さんに任せきりにして、その後ろの社務所の奥内部でさっきから何やらごそごそ整理らしきことをしていた。
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