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避難所スレ

1サイバーゴースト名無しさん:2014/08/01(金) 21:19:56 ID:RQYHIKXM0
本スレの避難所としてのスレです。
規制で書き込めないときなどに本編・感想問わずどうぞ。
代理投下の依頼もこちらから。

166 ◆EAUCq9p8Q.:2015/01/15(木) 02:04:03 ID:k3RRJlAE0
連絡スレに書いた修正投下します
先に説明したとおりゴルゴの「気配遮断」についての描写の変更が主なので展開に変わりはありません

167 ◆EAUCq9p8Q.:2015/01/15(木) 02:05:45 ID:k3RRJlAE0
本スレ>>5

「今すぐ乳を揉ませろ!!!!! セイバァァァァ――――――!!!!!」


  夕闇に染まっていく街に、そんな声が木霊した。
  B-5地区、賃貸マンションの上で遠く、B-4地区高級マンションのある辺り眺めていた男も勿論、その声を聞いた。
  そして、不安にかられて一気に飛び退る。
  階段と自身の間に割りこませないよう、自身の背中を取られぬよう。

  一気に逃げられればどれだけ良かったか。男は少し歯噛みした。
  退路を潰されなかっただけ、運がよしと取るべきだろうか。

  逃げるよりも早く、『それ』は現れた。
  ピンク色のオーラを身にまとい、怒気を感じさせる表情をした青年。

  ヤクザことアサシン、ゴルゴ13は初めて自身のマスター以外のマスターと敵対する。
  青年、真玉橋孝一は初めて自身のサーヴァント以外のサーヴァントと相対する。


「おい、アンタ……今、何見てた?」


  その声は、つい今しがたヤクザが聞いた声と相違ない。
  『セイバー』と叫んだ青年。
  ヤクザの気配遮断を看破し、一気に距離を詰めてきたことからも明らかだ。
  この青年は、月を望む聖杯戦争の参加者だ。


「何見てたか、って聞いてんだよ!!!」


  そう判断したヤクザの反応は早かった。
  ポケットに隠してあったリボルバーを取り出し、飛び込んできた青年の眉間に向けて構える。
  一秒にも満たない、人間の反応速度を上回った速さ。
  そして放たれる弾丸。
  銃声が、闇に染まりゆく空を切り裂き、俺とお前の目を覚ます。

168 ◆EAUCq9p8Q.:2015/01/15(木) 02:06:45 ID:k3RRJlAE0
本スレ>>6

  ◎     ◎


「……ニューハーフ……そうか、ニューハーフだな!!」


  男でも女でもないものとは何なのか。
  真玉橋孝一にとってそれは、なんとも難しい問題だった。
  男が居る。女が居る。
  だが、男でも女でもないものが居る!? 居るのか!?
  それは女と扱っていいのか、それとも男と扱うべきなのか!?

  そればっかりだった。

  セイバー・神裂火織の進言など、最早どこにも残っていないようだ。

『……ニューハーフも、もともとは性別があるのでは』

「なにぃ!? じゃ、じゃあ違う、のか……いや、でも……だとしたら……
 ああああああぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

  足りない頭を必死に回して考える。
  まるでネズミ滑車がからから回る音が聞こえてくるようだ。
  頭をかきむしり、唸り声を上げながら天を仰ぐ。
  天から答えが降ってくるのを、待つように。

「……あいつ、何やってんだ?」

  ふと、自身の拠点のあるマンションの屋上を眺めながら孝一が呟いた。
  セイバーも意識をそちらに向けるが、そこには何も居ない。
  しかし、孝一は無人の屋上から何かを受け取ったらしい。

「セイバー、実体化だ」

「はい?」

「……いいか、セイバー。あいつは、おそらく、俺の知らない、超・重要な情報を持ってる!!
 ここで見逃せば、俺はその情報を手にすることができなくなる!!」

  意味がわからない。
  屋上に誰かがいるというのか。
  一瞬気配遮断を持つサーヴァントの可能性も考えたが、それならば孝一に見えてセイバーが見えない道理はないはずだ。

「くっ、仕方ねぇ!!」

  セイバーが沈黙で答えると、孝一はおもむろに右手を突き出した。
  その所作は間違いなく。
  開始前に見たあれと同じ。

「令呪を持って命じる!!」

  孝一の魔力が右腕へと流れこむ。
  まずい、これはまずい。
  こんな下らないことでまた一画消費するのか。
  それだけは避けなければ。
  そう思い、セイバーが慌てて実体化したのを見計らって。
  不敵な笑み、飛び出す命令。

「今すぐ乳を揉ませろ!!!!! セイバァァァァ――――――!!!!!」

  孝一は、世にも下らない令呪を、もう一度口にした。

  こうして、話は冒頭へとつながる。

169 ◆EAUCq9p8Q.:2015/01/15(木) 02:07:36 ID:k3RRJlAE0
本スレ>>9

  ◎  ◎  ◎

「手荒い真似、許してください」

  真玉橋孝一は、まだ生きている。
  少し離れたところに突き飛ばされ、尻もちを付いているが、まだ生きている。
  助けに来たのは当然、セイバー。
  『乳を揉ませろ』という命令が恙無く執行され、少しの間を置いて拘束が解除されたのだ。
  そして、彼女もその身体能力で孝一を追い、間一髪のところで彼を押し倒した。

「成程、これが貴方の言っていた『重要な情報を持つ人物』ですか」

  セイバーは内心で感嘆していた。孝一の言葉は本当だった、屋上には『誰か』が居たのだ。
  セイバーに見えなかったことを鑑みれば、彼はやはり『気配遮断』を持ったアサシンのサーヴァント。
  その気配遮断を孝一がなんらかの方法でかいくぐり、偵察をしているアサシンに気づき、そのまま突撃した。

  しかし、とセイバーは考える。
  目の前の、アサシンと思われる男をどうするべきか。
  普通は考えるまでもない。
  マスターかサーヴァントかは分からないが、敵意があるのは間違いない。迎撃の必要がある。
  しかし、と。
  心のなかで引っかかる。
  彼と戦い彼を殺すということは、『マスターを殺すことになる』という事実が、心にかかる。

  そのしこりを、無理やりぐっと飲み込む。
  まずは無力化する。
  それだけならば問題はない。それで情報を渡すようならば、
  もし、それでも戦うと言うならば……致し方ない、と。そう割り切るしかない。

  じり、じりとヤクザが後退る。
  しかし、セイバーはその撤退を許さない。

「……『七閃』」

  2mはあろうかという刀の鍔を弾き、収める。
  常人には抜いたとも悟らせない程の速さ。
  しかし、その精度は間違いなく無比。
  数瞬もおかず、ヤクザの全身に傷が刻まれた。

170 ◆EAUCq9p8Q.:2015/01/15(木) 02:08:43 ID:k3RRJlAE0
本スレ>>14

  ◎     ◎


「なあ、セイバー」

  顔面にいくつも痣と瘤を作った孝一が、室内で実体化しているセイバーに語りかける。

「あの時、なんで宝具であいつを倒さなかったんだ」

  湯気が立ち込め、ケトルがけたたましく存在をアピールする。
  初戦闘を終え、念のため室内の確認も終えた孝一は、少し早い夕食の準備中だった。
  彼もあの『アサシン』がサーヴァントであるということには戦闘開始後に気づいたらしい。
  体にパラメータが見えた、とのことだ。数値を聞いたが特出した点は幸運以外なく、そこから考えてもやはり彼は『アサシン』で間違いないだろう。
  のほほんとした孝一の様子に少し不快感を覚えながら、セイバーはこう答えた。

「……彼にも、マスターが居る。そう思ったからです」

「そりゃ居るだろ、サーヴァントなら。でも、マスターいるからってなんでやめるんだ?」

  湧いたお湯をカップ麺に注ぎながら孝一が言う。
  恐ろしいことを、さらりと口にする。
  その様子は、セイバーを苛立たせるのに十分なものだった。

「……貴方は、マスターが死ぬのをなんとも思わないんですか!」

「……死ぬ?」

  語気を荒らげた問いかけに、返ってくるのはオウム返し。
  何故か聞き返される。

「死ぬ、って……マスターがか? サーヴァントを、殺されて?」

  まるで『知らなかった』と言わんばかりの反応に再び呆れそうになり……そういえば、と思い出す。
  セイバー自体、この聖杯戦争を『従来の聖杯戦争』と同じものと思っていた。
  召喚されたその瞬間、たしかに彼女は『英霊同士のみでの決着』を望んでいた。
  そして、時間が経過することで『マスターも共に消滅する』という認識を取り戻した。

  もしかして、方舟に呼ばれる際に記憶のどこかに齟齬が生じているのかもしれない。
  普通はありえるはずがない。
  だが、セイバーがそうであったように、孝一もこの聖杯戦争を『従来の聖杯戦争』だと勘違いしていた可能性は否定出来ない。
  ひょっとすると、今が聖杯戦争だという認識すら失っているマスターすら居るかもしれない。

  偶然か、それとも何らかの介入の結果かは分からない。
  だが、彼も忘れている。
  『サーヴァントが死ねばマスターも同じく死ぬ聖杯戦争』ということを、忘れている。

「マスター、聞いてください」

  だからなのか。
  どうかはわからない。
  もう一度だけ、おなじ質問を。
  今度は、分かりやすく。

「貧乳の女性がマスターやサーヴァントの場合もあり、幼い子供が相手と言うこともあります。
 聖杯を手にすると言うことは、マスター・サーヴァント問わず彼ら全てを、殺すということです」

  二度目のその問いで、二人の間に横たわっていた『何か』が氷解を始める。

171 ◆EAUCq9p8Q.:2015/01/15(木) 02:10:11 ID:k3RRJlAE0
本スレ>>22

  まず思い返すのは、当初の目的だった『他サーヴァント』のこと。

(……『女性』『頭に羊のような角』『槍を所持』『背後に音量増幅機の設置』。マスターは『男性』『中肉中背』『学生服』)
(……『男性』『赤黒い装束』『忍・殺のマスク』『飛び道具』『身体能力の向上』。マスターは『男性』『スーツ』『両足に負傷』)
(……『男性』『赤と黒の装束』『全身タイツ』『拳銃』『日本刀』。マスターは『男性』『私服』『肩口までの髪』)
(……『セイバー』『女性』『長い黒髪』『紐の結界を操る』『2mほどの長さの刀』……『マスターを強化』『真贋の判別』も、か? マスターは『男性』『学生服』『桜色のオーラ』)
(そして『ルーラー』……対立する可能性は極めて低い……)

  死んでしまった岩石の化け物を除く、B-4地区に集まったサーヴァントたち。そしてそのマスターたち。
  一体一体が一騎当千の猛者たち。直接敵対すれば命がいくつ合っても足りないだろう屈指の英霊たち。
  クラスまではわからずとも、その真名を判断するのに利用できる情報はいくつも集まった。
  特に目を引いたのは、一体。
  夕方過ぎに現れて、この大混戦の事実上の引き金を引いたサーヴァント。

(『メシウマ』のサーヴァント)

  ぐしゃぐしゃの長い髪。
  着崩したスーツ。
  菱型のしっぽ。
  翳した黄色い手帳。
  人を小馬鹿にしたような振る舞い。

  そして、瞬間移動。
  そして、NPCと思われる女性への変装。
  そして、口を突いて出た『メシウマ』という単語。

  合致する。
  時期尚早と見送ったあの影と。
  『もう一人のジナコ=カリギリ』、ゴルゴが見た『それ』と恐ろしいまでに一致する。

  あの『メシウマ』が『もう一人のジナコ=カリギリ』か。

(やはり……来たか)

  引き金を引かなかった理由は変わらない。
  『姿を表すからには裏がある』。
  瞬間移動だけではない。なにか、『絶対的な自信』があり、その上で暴れている。
  事実あのサーヴァントは『忍殺』と戦っている最中もあのサーヴァントだけはただ馬鹿騒ぎをしているだけという体を崩さなかった。
  『死なないからくりがある』。
  『赤毛』『長身』『鎖』『瞬間移動』『変装能力』『メシウマ』『不死(≒攻撃無効化)』。
  足りなかったピースが継ぎ足され、完成図へと近づいていく。
  確証が取れたわけではない。だが99%の黒。限りなく黒に近いグレー。
  調べておいて損はない。
  ヤクザは頭に叩き込んだ地図から三つの情報施設を想起し、判断する。

(……病院か)

  情報検索施設のうち、最も自分の身を隠すのに適した場所。
  NPCが多く存在し、広範囲・高火力の技の使用を躊躇させることが出来る場所。
  夜間にも開いている可能性がある場所。
  そして、ヤクザの考察通りなら自身が気配遮断を用いて紛れ込んでいても区別しにくい場所。

172 ◆EAUCq9p8Q.:2015/01/15(木) 02:11:48 ID:k3RRJlAE0
本スレ>>23

  先ほどの手痛い経験を経て、ヤクザは重要なことがひとつわかった。
  やはりというべきか彼の気配遮断は万能ではない。
  対峙したマスター・セイバーのうちの少なくともどちらか一方は、ヤクザの気配遮断を見ぬいたのだ。

(……動き、か?)

  自身の気配遮断は、何らかのきっかけで特定の人物には効かないものである。
  それがいつ起きるのかは全く想定できないが、もし可能性があるとすればそれは『NPCのルーチンからの逸脱』にあるのではないか、とヤクザは考えた。
  英霊になる以前から、ヤクザは時折『常人ならざる人物だ』『あの眼光はゴルゴ13に違いない』として正体を見抜かれた事がある。
  その逸話が現れたスキルが気配遮断だと言うなら、ヤクザは『常人ならざる振る舞いをするたびに、気配遮断が外れる可能性が高くなる』のではないか。
  現にあの時、ヤクザは『敵情の視察』というNPCのルーチンには絶対に含まれていない。
  その『常人からの逸脱』が気配遮断を薄くし、そして勘のいいどちらか―――おそらくはマスターの男の方が気づいた。
  ならば、ということで選んだのが病院だ。
  病院ならば怪我人が居てもおかしくない、むしろそれが『普通』であり木を隠す『森』なのだ。気配遮断は完璧に行える、と思われる。

(しかし……)

  そのまま、先の戦闘に思考を移す。
  流れるような奇襲。
  階段側には注意を向けていたが、さすがに正面の中空から飛び込んでくるのは想定外だった。
  咄嗟に飛び退り、階段と自身の間に割り込まれなかっただけ、上出来だ。
  何故か声が聞こえた瞬間に『来る』『下がらなければ』と思い、思うより早く足が動いていた。これも『直感』のなせる技、なのかもしれない。

  これからの振る舞いは一層気をつけなければならない。
  NPCのルーチンから逸脱せず、それでいて参加者として有効な手を打ち続ける必要がある。
  異能・異質を持ち合わせた多国籍軍戦争の中で、『ここなら大丈夫』は存在しない。
  全てが見られていると思え。
  全てが聞かれていると思え。
  全てが見られ、聞かれているとして、それでもばれぬように立ち回れ。
  それでようやく、スタートラインに並べる。最弱に近いサーヴァント。

「……」

  もし、戦場がマンションの屋上などではなく、移動に制限のかからない場所だったなら。
  もし、あの場にマスターが乗り込んできていなかったら。
  もし、敵が別の宝具を放っていれば。
  もし、放たれた鉄線の一つが偶然銃口の可動域の先になければ。
  もし、セイバーが最初からこちらを殺すつもりだったなら。

  一手違えば死んでいた。

  自身が最弱だということを軽視したから死にかけた。
  しかし最後の最後、最弱だということを理解していたから生き延びた。

  鉄線一本分の幸運、肉眼では捉えられないほどか細い蜘蛛の糸。
  それを経験とセンスでなんとか手繰り寄せた。
  姿を見せた、手の内を見せた。だが、生き延びた。
  それだけで僥倖と割り切るべきだ。

  もしも、あの二人と再び対峙したなら。
  ヤクザ自身が出会うならまだいい、相手の容姿・能力を直接見ている分地の利と戦力を活かした死なない程度の立ち回りが可能だ。
  だがもしも自身の依頼人(マスター)が対峙したなら。
  瞬間的に何十倍もの身体能力を得られる異能、三騎士が一・セイバーのサーヴァント。
  情報収集が目的のようだが、共に対象を傷つけてでも情報を取り出す危害を見せた。注意が必要だ。
  夜の間にマスターとあの二人が出会うことは距離的にありえないが、二日、三日と勝負が長引けば出会う可能性も増えてくる。
  先ほどのマスター・サーヴァントの情報と共に彼らのことも伝えておくべきだろう。

  そうして、ようやく最後に考える。
  遠く離れたマスターのことを。拭い切れない彼女への違和感を。

173 ◆EAUCq9p8Q.:2015/01/15(木) 02:13:21 ID:k3RRJlAE0
本スレ>>25

  その行為を否定はしない。
  裏で動くことは結構だ。
  彼女が生き延びるために走り回ることは誰にも止める権利はない。
  ただ、召喚に応じた際にジナコに説明したようにヤクザにはヤクザの流儀がある。

(それがどういう意味を持つか……)

  ゴルゴ13は自身の存在を公にしようとしたものに報復を行う。
  ゴルゴ13は自身の姿形を故意に真似たものに報復を行う。
  ゴルゴ13は虚偽の情報で依頼をおこなったものに報復を行う。
  ゴルゴ13は自身の過去を探ったものに報復を行う。
  ゴルゴ13は自身の財産を狙ったものに報復を行う。
  彼が彼であるために、積み上げてきた幾つもの『ルール』。
  上げればまだまだある。
  しかし、今ヤクザが危惧しているのはひとつ。


  ―――即ち、ゴルゴ13は依頼人が依頼内容を漏洩した場合、報復を行う。というルール。


  もし、彼女が『もう一人のジナコの殺害をサーヴァントに依頼した』と結託した誰かに話したのなら。
  それはヤクザのルールに反するものであり、当然報復の対象になり得る―――


  マンションを背に、歩を進める。
  口から吐いた煙が視界を少しだけ白く染める。
  埃っぽい匂い、空へ消えていく靄の先にまだ明日は見えない。
  見えるのは、どこまでも続くように錯覚する闇とアスファルト地の道路だけ。
  葉巻を揉み消し、携帯灰皿の中に放り込む。
  咥え煙草で存在がばれる、ということはないだろうが念には念を入れる。過敏すぎるくらいがふさわしい。

  拳をそのままポケットへと差し込み、紫煙の残り香を漂わせながら人混みに消えていく。
  黒尽くめの暗殺者は、まるで最初からそうであったように、まるで最初から何もなかったかのように、その気配を遮断した。
  大きく逞しい背中に不釣合いな、誰かに見つかるかもしれないという可能性に怯える心を隠しながら。

  世界一臆病な男。
  臆病だから、壁を作る。
  臆病だから、信用しない。
  臆病だから、人を殺す。
  臆病だから、生き延びる。
  誰がなんと言おうとも、きっと世界で一番臆病な男。

  臆病者が嫌うのはなにか。
  それはきっと上っ面と裏切り。
  世界で一番裏切り安い生き物はなにか。
  それはきっと臆病者。

174 ◆EAUCq9p8Q.:2015/01/15(木) 02:15:33 ID:k3RRJlAE0
本スレ>>26

  先ほど、ゴルゴ13はジナコを買い被っていると述べた。
  これにはある前提が必要だ。ゴルゴ13はジナコを買っているという前提が。
  しかし、それも当然だ。なぜなら彼女は、彼だから。

  延々と時間を浪費する作業を苦に思わない解脱にも似た精神力。
  自身への外敵を病的なまでに拒み単独で生きることを望む姿。
  彼らはきっと、誰にも寄れない、世界で一番の臆病者ども。
  
  世界で一番臆病だから、世界で一番臆病に惹かれた。
  世界で一番臆病だから、俺とお前はよく似てる。

  ゴルゴ13とジナコ=カリギリは、よく似てる。
  俺はお前で私はあなた。
  鏡写しの俺と私。
  俺はお前がよく分かる
  俺はお前を見逃さない。

  深く、深く、吸った息。既に帳をおろしてしまった空の暗さが肺に染みる。
  深く、深く、吐いた息。彼女へ向けるはずだった心の暖かさが天に登る。

  不意に見た右手。リボルバーの引き金を寸分狂わず引けた右手。
  遠く、遠く、思う。別れたもう一人の臆病者を思う。
  思い描いた臆病者の顔は、やはり涙に濡れていた。

  臆病者は、幸運だから生き延びる。
  臆病者は、幸運でなければ生き残れない。

  ヤクザは掴んだ。幸運の糸を、その右手で。
  彼女はどうだ。掴んでいるか、幸運の糸を。
  もし彼女が依頼人としての領土を一歩でも踏み外しているなら。
  もし彼女が幸運の糸をつかみそこねているなら。
  その時は俺がお前を殺しに行く。
  正当な契約に基づく謀反。唯一の味方の叛逆。
  その時きっと、臆病者の顔は涙に濡れている。

  口には出さずに問いかける。臆病者から臆病者へ。
  俺とお前はよく似てる。俺とお前は似たもの同士。
  ヤクザは掴んだ、幸運の糸を。ならば……


  ―――お前は、どうだ。

175 ◆EAUCq9p8Q.:2015/01/15(木) 02:16:54 ID:k3RRJlAE0
以上です。
本スレの真玉橋くんの状態表については「あの瞬間、真玉橋くんにはゴルゴの気配遮断が発動しなかったためパラメータを確認できた」ということで対応させていただきます
お騒がせいたしました。

176サイバーゴースト名無しさん:2015/01/15(木) 18:12:24 ID:D0gpD0EM0
修正乙です。
今回ゴルゴの気配遮断が『NPCのルーチンワークから外れることで劣化する』と推測され、実際に真玉橋くんに見破られていましたが
サーヴァントであるねーちんが全く気付いていなかったのはゴルゴが推測した通り単純に勘の差と考えて宜しいのでしょうか?

>一瞬気配遮断を持つサーヴァントの可能性も考えたが、それならば孝一に見えてセイバーが見えない道理はないはずだ。

このような一文もあったのでちょっと気になりました。

177 ◆EAUCq9p8Q.:2015/01/15(木) 20:26:06 ID:k3RRJlAE0
>>176
以下がゴルゴのステータス内における気配遮断の説明になります
 気配遮断:A+
  完全に気配を断ち、発見することは不可能に近い。
  このアサシンの場合、射撃時にも気配遮断のランクはそれほど落ちない。
  しかしその代わり、通常時になぜか発見される事がある。

今回ゴルゴは真玉橋くん・ねーちんに対して「完全に気配を断ち、発見することは不可能に近い」気配遮断を発動した状態で彼らの視界に捉えられました。
通常時なら気配遮断中であるため二人には発見されませんが、今回真玉橋くんに対して説明文にある「なぜか発見される」状態が起きます。
なので、ねーちんに対してはゴルゴ本来のA+の気配遮断が発揮され、真玉橋くんには筒抜けというイレギュラーが発生した状況となります。
つまり勘ではなく気配遮断スキルの発動条件の違いで真玉橋くんのみが発見できた、ということです。

ちなみに、ゴルゴはその「なぜか」について彼なりの仮説を立てただけであり、その仮説が必ずしも真実であるとは限りません。
真玉橋くんが気配遮断を見破ったわけではなく、偶然真玉橋くんに対して気配遮断が発動しなかった。
それをゴルゴが「こうではないか」と考えそうであった場合に備えて行動を起こしただけです。

178サイバーゴースト名無しさん:2015/01/15(木) 20:37:37 ID:D0gpD0EM0
>>177
返答および解説ありがとうございます。
改めて修正乙です。

179 ◆OSPfO9RMfA:2015/01/16(金) 01:36:26 ID:fqCxbq4k0
ほんの少しの休息
修正します。修正点は

・図書館の閉館時間に間に合わない可能性。
・アキトは未明より起きており、午後に仮眠を取っただけ。
・これから未明〜早朝にかけて戦闘をする予定。

上記三点から、睡眠を優先させた旨を追加です。

加えて、状態票に翌朝カードの調査を予定している旨を追加します。

180 ◆OSPfO9RMfA:2015/01/16(金) 01:37:15 ID:fqCxbq4k0

>>修正前

 アキトにとって――今のアキトにとっては、食事はただの作業でしかない。味も分からぬそれを、黙々と食べ続けた。

「眠る。バーサーカー、見張りを頼む」

 アキトは食事を終えるとベットに潜り込んだ。
 キレイ・セイバーとの戦闘は、戦闘時間が短かったからか、大して魔力は消費していない。だが、美遊・バーサーカーとの戦闘では結構な魔力の消費を感じた。
 連戦は命に関わるだろう。休めるときに休んだ方がいい。

 そういえば、美遊との約束を思い出す。確か港に0時だったか。
 目覚ましのアラームを23時に設定すると、アキトは眠りに落ちていった。

>>修正後

 アキトにとって――今のアキトにとっては、食事はただの作業でしかない。味も分からぬそれを、黙々と食べ続けた。

 作業を終えると、時計を見やる。20時を少し回ったところだ。
 銃の回収に時間が掛かったか。今から図書館に行っても、22時の閉館時間までにカードなどの調査が終わるかは怪しい。明日、開館してから行くことにする。

「眠る。バーサーカー、見張りを頼む」

 アキトは食事を終えるとベットに潜り込んだ。
 キレイ・セイバーとの戦闘は、戦闘時間が短かったからか、大して魔力は消費していない。だが、美遊・バーサーカーとの戦闘では結構な魔力の消費を感じた。
 連戦は命に関わるだろう。休めるときに休む必要がある。
 それに、昨夜からほとんど寝ていない。昼間にベンチで仮眠を取ったきりだ。これから夜明けまで交戦することを考えると、少しでも眠気を覚ました方が良い。

 そういえば、美遊との約束を思い出す。確か港に0時だったか。
 目覚ましのアラームを23時に設定すると、アキトは眠りに落ちていった。

181 ◆OSPfO9RMfA:2015/01/16(金) 01:37:55 ID:fqCxbq4k0
>>修正前

[思考・状況]
基本行動方針:誰がなんと言おうとも、優勝する。
0.夜に備えて眠る。
1.次はなんとしても勝つために夜に向けて備えるが、慎重に行動。長期戦を考え、不利と判断したら即座に撤退。
2.五感の異常及び目立つ全身のナノマシンの発光を隠す黒衣も含め、戦うのはできれば夜にしたいが、キレイなどに居場所を察されることも視野に入れる。
3.できるだけ早苗やアンデルセンとの同盟は維持。同盟を組める相手がいるならば、組みたい。自分達だけで、全てを殺せるといった慢心はなくす。
4.早苗に関しては……知らん。勝手にしてくれ。
5.気が向いたら0時に港へ向かい、美遊と決着を着けてもいい。


>>修正後

[思考・状況]
基本行動方針:誰がなんと言おうとも、優勝する。
0.夜に備えて眠る。
1.次はなんとしても勝つために夜に向けて備えるが、慎重に行動。長期戦を考え、不利と判断したら即座に撤退。
2.五感の異常及び目立つ全身のナノマシンの発光を隠す黒衣も含め、戦うのはできれば夜にしたいが、キレイなどに居場所を察されることも視野に入れる。
3.できるだけ早苗やアンデルセンとの同盟は維持。同盟を組める相手がいるならば、組みたい。自分達だけで、全てを殺せるといった慢心はなくす。
4.早苗に関しては……知らん。勝手にしてくれ。
5.気が向いたら0時に港へ向かい、美遊と決着を着けてもいい。
6.翌朝、図書館でクラスカード、カレイドステッキを調査する。

182 ◆OSPfO9RMfA:2015/01/16(金) 01:39:01 ID:fqCxbq4k0
以上です。

問題点、指摘事項がある場合はご指摘ください。

183サイバーゴースト名無しさん:2015/01/16(金) 02:11:20 ID:tfgFA3iI0
問題ないとは思いますが、現状予約が入ってるキャラの作品修正をするのは余り好ましくない気もしますし
出来れば◆/D9m1nBjFU氏からの了承を貰うべきではないかなと思います。

184 ◆OSPfO9RMfA:2015/01/16(金) 02:35:49 ID:fqCxbq4k0
はい、その通りでした。
先走ってしまい、申し訳ありません。

◆/D9m1nBjFU氏からの了承が得られるまで保留。了承が得られ無ければ、修正は無しという方向でお願いします。
お騒がせさせて申し訳ありません。

185 ◆/D9m1nBjFU:2015/01/16(金) 07:33:20 ID:BcqrtLzI0
返答いたします
「ほんの少しの休息」の修正に関して私には全く異論はありません
昼間には予約分を投下できるかと思いますが修正の兼ね合いを考え念のためこちらに投下したいと思います

186 ◆/D9m1nBjFU:2015/01/16(金) 14:06:28 ID:BcqrtLzI0
お待たせいたしました
これより予約分を投下します

187バカばっか ◆/D9m1nBjFU:2015/01/16(金) 14:07:40 ID:BcqrtLzI0
―――どうしてこうなった




夜の闇を駆けながらアキトは後悔の念に苛まれていた。
今走り続けているのは闘争を行うためではない、逃走だ。逃げ走るためだ。
何から逃げているのかといえばマスターやサーヴァントからではなくNPC、あるいは警察から。
今やテンカワアキトは警察機構に追われる身に成り下がってしまった。
これではもはや陽の下を歩くことは不可能だ。



―――本当に、どうしてこうなった?





  ◆   ◆   ◆





22時45分、アラーム設定時刻より15分早くに目を覚ましたアキトは用を足した後これからの行動について思案していた。
すなわち、0時に待ち合わせの約束をした美遊・エーデルフェルトへの対処である。
正直、考えてみるとあまり行く必要を感じられないが。

美遊のサーヴァントに令呪でB−4にいるサーヴァントを殺すよう仕向けたのが夕方のこと。
あれからそれなりの時間が経過した現在、既に美遊が脱落した可能性は決して低くない。
聖杯戦争ではサーヴァントが消滅すればマスターも死亡が確定する。
恐らく激戦区であろうB−4に突っ込んでいった美遊のバーサーカーは強力で再生力も備えているが無敵ということはあるまい。
B−4にサーヴァントが集結していれば袋叩きにされ倒された、というのは十分考えられることだ。

さらに放置しておいた美遊自身。
サーヴァントから引き離された彼女がいつまでも単独で生存できるだろうか。
別のサーヴァントはおろかマスターに発見されただけで為す術もなく殺されても何らおかしくない。
いかに子供とはいえよほどの馬鹿でもない限りわざわざ美遊を助けようとする物好きなマスターはいないだろう。
つまり約束の時間まで生きているということ自体かなり不確定要素が強い。
もしあれから心変わりして令呪でバーサーカーを呼び戻した可能性もあるがそれならそれで彼女は自分の首を絞めただけのことだ。
令呪三画を持ち続けているアキトの敵にはもうなり得ない。

「やはり放っておくか」

よしんば生きていたとしても、わざわざアキト自身が消耗を重ねてまで倒しに行く必要性は薄い。
脅威度の下がった子供一人に構っていられるほどアキトは暇ではないのだから。
敵は数多い。いずれはあのアンデルセンや早苗も殺さねばならないのだ。


「…まあ、早苗の性格なら子供を保護するなんて言い出しても不思議じゃないだろうが」



何気なく、本当に何気なく口に出した言葉。
だが何故だろう、アキトはそこに妙な引っかかりを覚えた。
何か、自分は途轍もない見落としをしているような――――?

188バカばっか ◆/D9m1nBjFU:2015/01/16(金) 14:08:44 ID:BcqrtLzI0




「……しまった!早苗だ!!」


深夜であることも一瞬忘れ、大声を出してしまう。
だがそのことについて内省することすら考えられないほどとんでもない可能性に気づいてしまったのだ。

「不味い……もし早苗があの子と接触したら、まず間違いなく保護しようとする。あの女なら絶対にそうするはずだ。
しかもあの子にはボソンジャンプとガッツの能力をほとんど全部知られてしまっている。
最悪早苗とアーチャーという傘に守られて俺達の情報を拡散するかもしれない……くそっ!」

この聖杯戦争は間違っていると言い切ったよほどの馬鹿、東風谷早苗。
そんな彼女がもし美遊と出会ってしまっていたら、一人になった幼女を見過ごすなど有り得るだろうか。
否、断じて否だ。早苗の性格からして打算抜きで保護しようとするに決まっている。
戦力の落ちた美遊も早苗を利用しようと考える程度には頭は回ることだろう。
しかも女性の早苗なら美遊と行動を共にしていてもアキトほどは怪しまれない。
もしそうなっていればアキトにどれだけの不利益がもたらされることか。

まずアキトの所業を知られることによる同盟解消。この可能性については無いとまでは言わないまでも相当低い。
早苗も事実を知ったところで目くじらを立てることはあっても「人殺しをするなとは言えない」と言った手前即座に裏切ることはまずあるまい。
そもそも早苗は積極的に行動はしても好戦的な性格はしていないのだから。

問題は早苗陣営の大幅な戦力増強と美遊がアキト、ガッツの情報を抑えていることだ。
ただでさえも油断ならない早苗のアーチャーに美遊のバーサーカーという前衛が加わりかねない。
仮令アキトがアンデルセンと結託したとしても容易に倒せる戦力ではなくなってしまう。
それは同盟間の著しいパワーバランスの崩壊を意味する。

さらに美遊の口からガッツの能力やボソンジャンプのことを知られれば対策を立てられてしまう。
如何にガッツやボソンジャンプが強力であってもその性質、性能を知られてしまえば威力は自然低減する。
さらに厄介なことにこちらは早苗を通じてアンデルセンにも知られてしまう可能性がある。
そうなれば同盟間におけるアキトの位置は圧倒的格下になってしまうことは避けられない。
アキトは早苗やアンデルセンのサーヴァントの能力を把握していないのにあちらは一方的にガッツの能力を知るのだから当然だ。

むしろ非戦を呼びかける早苗のスタンスを考えればさらに不特定多数のマスターに接触し情報が拡散されることすら有り得る。
早苗が義理を立てて黙っていようがアキトに恨みを抱く美遊は必ずそうする。

189バカばっか ◆/D9m1nBjFU:2015/01/16(金) 14:09:32 ID:BcqrtLzI0



(く、このままでは……。確かめようにも俺からあの二人に今すぐ連絡する手段がない。
こうなるとわかっていれば連絡先ぐらいは交換していたものを……。
いや、そもそも遠くの戦況を掻き乱そうなどと考えずにさっさとあの子の口を封じておくべきだったのか?
もしくはあらゆるリスクを受け入れてここに監禁しておくことも考えるべきだったのかもしれない)

今頃になって自らの失策を悟ったが全ては後の祭りでしかない。
後悔先に立たずとはよく言ったものだ。
しかし後悔したところで過去の出来事を変えられるわけもない。
今は未来志向で行動し、事態の解決を図るべきだ。

今が美遊との待ち合わせ時間より前なのは不幸中の幸いといえるだろう。
港に向かえば美遊の現在の状況を把握できるかもしれない。
首尾良く彼女が単独で港まで現れてくれればその場で殺すことができる。
バーサーカーは脅威だが向こうの手札が目減りした今なら前よりは楽な戦いができる公算が高い。
さらにアキトはサファイアとクラスカードという美遊の武器を抑えているというアドバンテージを保っている。
間違いなく奪還を狙っているであろう美遊が港に来る可能性はかなり高い。
頭が痛いのは早苗がそこに同行するかもしれない、ということだが。
その時は最悪ボソンジャンプを使ってでも撤退するしかない。

「行くしかないか……港に」

事ここに至っては空振りに終わる可能性があろうと港へ行かないわけにはいかない。
美遊が先に待ち伏せをしていることも有り得る以上、こちらも大急ぎで向かうべきだろう。
大丈夫とは思うが万が一にも奪還されないよう、ステッキとカードは居間の押し入れに置いていく。
自らの失策は自らの手で贖う。もう絶対に甘さは見せられない。



  ◆   ◆   ◆



食堂を出た後、ガッツに抱えてもらい屋根伝いに港へと向かう。
途中、公衆電話を見かけた時ふと警察を利用するべきか?という思いが過った。
港と一口に言っても決して狭くはないだろう。
むしろ子供一人が物陰に隠れ待ち伏せをするなら向いた場所とすら言える。
そこにアキトが堂々と姿を見せるのは得策とは思えない。
しかし善意の第三者を装って警察に「港を徘徊している子供がいる」とでも通報しておけば警察が美遊を見つけてくれるかもしれない。

(…いや、さすがに無理があるな。俺自身怪しい風体だしミイラ取りがミイラになりかねない。
それに下手を打てば警察や裁定者サイドを敵に回してしまう)

190バカばっか ◆/D9m1nBjFU:2015/01/16(金) 14:10:37 ID:BcqrtLzI0

今のアキトは戦闘用のバイザーとマントを纏っている。
今は何故か異様に人通りが少ないから良いが警官に見つかれば職務質問されてもおかしくない。
自分で警察に通報して自分が警察に見つかった、では笑い話にもならない。
それに警察官を戦闘に巻き込んで殺してしまえばルーラーやカレンに何を言われることか。
そのため、アキトは港の近くの茂みに陣取り美遊が現れるのを待つことにした。
もし彼女が生きていて、誰とも組んでいないのならステッキとカードを取り戻すべく現れるはずだ。
五感の衰えたこの身でも人影を捉えることぐらいはできる。

問題は現れなかった時だ。
既に脱落していて現れない、というのならまあ良い。
しかし生きているのに現れなかったのなら美遊にはアキトとの約束を鵜呑みにしない慎重さがあった、ということになる。
どちらの場合でも一度拠点に戻り、戦略を練り直す必要がある。
気は進まないが次の通達までに早苗やアンデルセンと接触を図り、それとなく美遊のことも聞いておくべきか。

「時刻は23時20分。さてどう出るか……」

茂みに身を隠し、時折目立たぬよう動きながら港の様子を伺う。
いくらか破壊の痕跡が見られるのは聖杯戦争の爪痕か。
もし近くにサーヴァントの気配があればガッツが真っ先に動いてくれるだろう。
鬼が出るか蛇が出るかあるいは何も出ないのか、その答えを静かに待つ。



  ◆   ◆   ◆



(まずい……)

美遊は焦っていた。
時刻は23時15分。このままでは約束の刻限が来てしまう。
あらかじめ考えていたせめてもの作戦を遂行するどころではなくなってしまう。
しかし、今の美遊にはここから動くことは許されていない。

(迂闊だった……)

取り決めを律儀に守る必要はない、といっても美遊に取り得る選択肢はひどく少ないものだった。
そもそもサファイアを取り戻す唯一の手掛かりがガイとのあの約束だったのだ。
反故にすればこれ以上失うものは何もないが唯一と言っていい機会を失ってしまう。
美遊の頭脳がどうこうではなく戦略的にそれほど追い詰められているのだ。
だからこそせめて先んじて港に向かい下見を済ませ、ガイが現れたなら奇襲を仕掛ける腹積もりだった。
強力なサーヴァントを従え自身も銃で武装し正体不明の転移術を操るガイを打倒し得るものがあるとすれば令呪のみ。
その令呪をどう使うか思案しながらホテルを出ようとしたのがまずかったのだろう。
注意力散漫なまま動いた結果がこれだ。

191バカばっか ◆/D9m1nBjFU:2015/01/16(金) 14:11:32 ID:BcqrtLzI0



「あー…そろそろ名前ぐらいは教えてくれないか、お嬢ちゃん?」
(まさか私服の警官に捕まるなんて……!)


そこは交番。
困ったように頭を掻く無精髭の男性刑事の前で、またしても椅子に座らされた美遊の姿が、そこにはあった。

美遊は知らないことだったが、近隣地区で起こった事件によって多くの警官が動員されていた。
その中には私服警官も含まれており、堂島と名乗ったこの刑事もその一人だった。
美遊が気づかない間にB−9は彼女にとって極めて動きづらい地域になっていたのだ。
誰にも見咎められずにラブホテルに入れたことが奇跡に近い幸運だったことにようやく気づいた。
そして何度も奇跡が続くはずもなく、ラブホテルから出たところをこの刑事に補導されてしまったのだった。

(このままじゃ…一体どうすれば……)
「ったく、いくら忙しいからって何で他に誰も待機してないんだよ……。
なあお嬢ちゃん、ホテルで何があったのか刑事さんに教えてくれないか?
辛いかもしれないが、あー…その、何だ、誰かに何かされてたなら話してほしいんだが……」

何故かはわからないがひどく気まずそうに言葉を選ぶ様子は以前の婦警とは対照的だ。
というより、明らかに刑事は何か勘違いをしている。何を間違えているのかは美遊には推し量りようもないのだが。
しかしそんなことはこの際どうでも良い、重要なことではない。
このままでは下見を済ませるどころか約束の時間に港に辿り着くことすらできなくなってしまう。
サファイアを取り戻す機会が失われてしまう。

(こうなったら……!)

傍で待機している一護を嗾け無力化を図るか。
大騒ぎになることは避けられないとしても今すぐここから脱するにはもうそれしかない。
殺さずとも実体化させるだけで逃げ出す隙を作ることはできるはずだ。
あらゆるデメリットを飲み下す覚悟を決め、顔を上げた。


「………え?」

そして、有り得ないものを見た。


「ん?一体どうしぶは!?」

背後からの突然の衝撃に堂島がその場で昏倒した。いやさせられた。
堂島を殴り倒した懐かしいそれは今、確かに美遊の目の前にいた。


「ただ今帰りました、美遊様」
「サファイア!?」



  ◆   ◆   ◆



アキトとガッツが食堂を離れてしばらく経過した後、サファイアは自律行動機能を発揮し行動を開始した。
アキトが眠っていてもガッツがいる限り迂闊な行動は出来なかったが二人ともいなくなったのならもう心配することはなかった。
押し入れを開け住居スペースの部屋の窓を内側から開けると美遊の下へと飛び立った。
朝に補導された経験と時間帯から交番を重点的に探していたところ案の定またも補導されていた美遊を発見した。
美遊が同じB−9に留まっていたことも大きい。

192バカばっか ◆/D9m1nBjFU:2015/01/16(金) 14:12:18 ID:BcqrtLzI0

アキトは知らなかった。
カレイドステッキが自我を持つばかりか自在に動き、飛び回れることを。
彼女の知能、いや知恵は持ち主である美遊よりも優れていることを。
そのサファイアが今までアキトが漏らした独り言を全て聞き取っていたことを。

アキトは何一つ知らなかったのだ。



「そう、今あの男は港にいるんだ」
「はい、恐らくそう考えてよろしいかと。
ですがここは一度あの男の拠点に行き、クラスカードを回収しておくべきでしょう」

サファイアが洗脳電波デバイスで気絶した堂島から美遊の記憶を消した後、一人と一本は路地裏へと身を隠していた。
お互い再会を喜びたいのは山々だったがガイへの逆襲の最大の好機を逸するわけにはいかなかった。
奪われていたサファイアが手に入れた情報はそれだけ重大なものだったからだ。

持ち出せなかったクラスカード・セイバーの所在にしてガイ(店の屋号と夕方に名乗った時の言動から苗字はテンカワだと思われる)の拠点の場所。
サファイアは脱出した際天河食堂の外観、所在地を見て回り正確に把握していた。
窓も開いているため今から急げば侵入してクラスカードを奪還できるだろう。
クラスカードさえ取り戻せばあの男と正面から戦える。もう銃に怖気づくことはしないと覚悟している。
しかし、サファイアの考えは違った。

「美遊様、あのマスターとバーサーカーは強敵です。
特にマスターの方は明らかに修羅場を潜っているばかりか、私でも正体の掴めないボソンジャンプなる転移術の使い手。
加えて美遊様が既に令呪を一度使わされたのに対し、あのマスターの令呪には全く欠損が見られませんでした。
クラスカードがあっても必ず勝てるとは限りません。勝てたとしても私達も相当な痛手を受けるでしょう」
「……それは、わかってる。だから今度は全員で戦って、」
「いいえ美遊様。私に策があります、今一度私を信じて全て任せていただけませんか」
「え?」

何やら意味深な相棒の言動に困惑する美遊に対しサファイアはある作戦を提言した。
どれほど効果があるのか美遊にはわからないが、サファイアには何か絶対的な自信があるようだった。
何より、大きな失態を犯した自分の元に敢えて戻ってきてくれた彼女を信じないという考えは美遊の中にはなかった。


「ここは一つ、姉さんを見習いましょう」とはサファイアの言である。



  ◆   ◆   ◆



「これは空振り、か…?」

0時半、痺れを切らしたアキトは港で美遊を探し回っていた。
何らかの不都合があって美遊が遅れている可能性も考えて今まで待っていたが、やはり既に死んでいるのだろうか?
美遊の生死に関してはどんなに遅くとも半日後の通達ではっきりするだろうがもし生きているならまずいことになりかねない。
しかし、残念ながら今の時点でアキトに出来ることは何もない。
やはり拠点に戻り落ち着いて戦略と方針を一から見直すべきかもしれない。
如何に今が深夜でも不安要素を抱えたまま闇雲に戦いに行くべきとは思えなかった。

193バカばっか ◆/D9m1nBjFU:2015/01/16(金) 14:13:12 ID:BcqrtLzI0

「帰るぞ、バーサーカー」

溜息をつくとガッツを実体化させ、行きと同じようにガッツに運んでもらいながら家路につく。

(まあいい。あのステッキとカードは変わらず俺の手の内にある。
陽が昇ってから図書館で調べてもし俺が使える目途が立てば戦力は増すだろう)

思考を巡らせながら自宅の近くでガッツに降ろしてもらい霊体化させた。
そして人通りに注意しながら天河食堂へと帰宅した。



「………?」

瞬間、アキトの脳裏に違和感が走った。
火星の後継者との暗闘を繰り返してきたアキトだからこそ感じることのできた違和感。

(誰かがいる……!?)

ほとんど反射的に懐に入れていたCZ75Bを取り出し臨戦態勢に入る。
ガッツは反応していない。ならばサーヴァントではなく人間か?
実体化させるか?いや駄目だ。小回りの利かない体格のガッツを自宅で暴れさせるのは最後の手段だ。
慎重に気配を辿り足音を極力殺し、侵入者がいると思われる居間の前に着いた。
一呼吸の後、俊敏な動作で部屋の明かりを点け正面に銃口を向けたその先には―――



「――――――は?」



思わず間抜けな声が出てしまったのも仕方ないことだろう。
そこにいたのはステッキを持ち、競泳水着のようなコスチュームに身を包んだ美遊だったのだから。
身体の各所、特に大腿部を露出させた姿は一部の好事家の欲情を誘っているとしか思えない。無論アキトはその「一部の好事家」の範疇には入らないが。
彼女の今の姿を四文字で表すなら「魔法少女」、二文字で表すなら「痴女」というところか。
あまりにも斜め上な衝撃にアキトは呆然とし、次の行動が遅れてしまっていた。

何故ここにいる?いつからここに気づいていた?
そう問い質そうとしたその瞬間、美遊はアキトをさらなる混乱へと叩き落した。




「嫌ああああああああああああああああああああっ!!!テンカワさんのケダモノ――――――ッ!!!!」
(何いいいいいいいいいいいいいいいいい!!?)



よりによってあらん限りの大音声で悲鳴を上げた。
しかも戸締りしたはずの窓が僅かだが開いている。これでは間違いなく近所中に響き渡る。
冗談ではない、これでは誤解しか招かない。
予想外すぎるアクションにアキトが半ば恐慌状態に陥った隙に美遊は軽やかな動きで身を翻すと窓を一気に全開にし外へと脱出した。

194バカばっか ◆/D9m1nBjFU:2015/01/16(金) 14:14:17 ID:BcqrtLzI0

「ま、待て!!」

無論、アキトも後を追うが小柄で身体能力も高い美遊ほどスムーズには出られない。
ガッツを使うのは論外だ。自宅の真ん中で狂戦士など出せるわけがない。
というより、ここで使えばほぼ間違いなくガッツの起こす破壊にアキト自身が巻き込まれる。
チューリップクリスタルの使用はもっと論外だ。同じ相手に切り札を二度も使えるものか。

(速い!さすがにキレイほどじゃないが、このままでは……!)

美遊は元々身体強化なしでも50メートル走6秒9の健脚を誇る。
そこに転身状態の強化が重なればアキトといえど容易く追いつけはしない。
焦ったアキトはほとんど反射的にCZ75Bを両手で構え続けざまに三発発射していた。
その行為が何を意味するのか、混乱の極みにあったアキトは咄嗟には理解できていなかった。


ドサリ、という音とともに三発のうち一発の弾丸を横腹に受けた美遊が街灯の下に倒れ伏した。
仕留めたか?いや念には念を入れて追撃するべきか―――


「きゃあああああああああ!!ひ、人殺しいいいいいい!!!」
「なっ!?し、しまった!!」

ここは住宅街。当然そこには人が住み、少女の悲鳴を聞いて何事かと窓から様子を伺うNPCがいても不思議ではない。
理解と処理能力の限界を超えるような事態に続けて見舞われたアキトはすぐにはそこまで頭を回すことが出来なかったのだ。
美遊を敵と認識していたことも軽率な行動を助長する一要因であったのかもしれない。
そういう意味ではアキトの判断ミスは責められるべき類の失態ではないといえる。
しかしいずれにせよ、もはや言い逃れのしようのない失態であることも事実だった。

そしてアキトを尻目に何事もなかったかのように立ち上がった美遊は更なる健脚で曲がり角へと身を隠した。
これもアキトにとっては予想外。防弾チョッキを着ていればともかくあんな水着同然の格好で銃弾を受けて何故立てる。

(飛んだ!?いや、跳んでいる、のか!?)

直後、予め路地に隠していたのであろうバッグを左手に持った美遊が空中を、そこに足場があるかのように何度も跳ねながら空高く舞っていく。
ボソンジャンプを使ったところで空中ではアキトもガッツも何もできない。

(くそっ!やられた!!最初からこれを狙っていたのか!!)

ここに来てようやくアキトは自分が美遊に陥れられたことを悟った。
彼女は正面からアキトを倒すのではなく拠って立つ基盤の切り崩しを狙ってきたのだ。
そしてその術中にアキトはまんまと嵌ってしまった。
あちこちからパトカーのサイレンの音が聞こえてきている。通報されたか。
ともかくここは逃げるしかない、とアキトは急いで路地裏に入り逃走を図った。
しかしそう上手く事は運ばなかった。

195バカばっか ◆/D9m1nBjFU:2015/01/16(金) 14:15:07 ID:BcqrtLzI0


「いたぞ!!」
(馬鹿な、早すぎる!?)

路地裏から次の裏道に入ろうと通りに出た直後、左右から警官と思しき殺気だった男達が殺到してきた。しかも全員拳銃を持っている。
アキトは知らなかった。ベルク・カッツェが起こした事件によってこの付近には普段より多くの警官が待機していたのだ。
そのためアキトの見積もりより遥かに早く、多くの警察が現場に駆けつけてきたのだ。

「………バーサーカー!!」

こんなところで、こんなことで終わってたまるか。
激情とともに顔の紋様が夜道を照らすイルミネーションのように光り、アキトの傍にガッツが現界する。
それ以上の言葉は不要。ガッツは手にしたドラゴンころしで右側の刑事二人を瞬く間に肉の塊へと変貌させた。

「う、うあああああああああああっ!!!?」

突然の事態に左側から来た刑事が腰を抜かして倒れ込んだ。
その哀れな刑事にガッツは何の感慨も見せることなくドラゴンころしを振り下ろしこの世界から物理的に消し去った。
警察官のNPCはなるべく殺したくなかったがこのままでは間違いなく捕まっていただろう。
どころか最悪射殺されていたかもしれない。やむを得なかったと考えるしかない。
ましてNPC相手にボソンジャンプなど使うわけにはいかないのだから。



―――どうしてこうなった?



一体全体、どうしてここまで小学生相手に鮮やかに嵌められてしまったのか理解が追いつかない。
いつの間に天河食堂の場所を割り出し、ステッキとカードを奪い返したというのか。
何故アキトがステッキとカードを置いたまま出掛けたことを知っていたかのように上手く待ち伏せすることができた。
サファイアの自律行動機能と辛辣な悪知恵を知らないアキトには正解を導き出すことはできない。
そして当然のように明後日の方向に推理を展開していく。

(そうか!俺の知らない何らかの探知能力を持っていたのか!
恐らくその能力はステッキやカードとは独立しているはずだ。
だからこうまで詳しく俺の家を探り当てられたんだ!)

迂闊だった、と臍を噛む。
キレイのような戦闘力に秀でた超人を警戒するあまり、別方面の異能への認識が甘くなっていたのかもしれない。
過ぎてしまったことはどれだけ悔やんでもどうしようもない。今はこの状況をどう打開するか考えなければ。
幸い銃と現金は予め持ち出していたため手元にある。
一方失ったのは社会的信用と拠点。ある意味令呪やチューリップクリスタルの消費より痛い。

(しかし金があっても警察を敵に回してしまった今買い物をするにも大きな制限がつくだろう。
しばらくは下水道にでも潜って警察をやり過ごすか……)

暗然たる気持ちのまま闇夜を駆け抜けていく。
テロリスト、テンカワアキトはこの方舟でも犯罪者に堕してしまったのだった。

196バカばっか ◆/D9m1nBjFU:2015/01/16(金) 14:15:49 ID:BcqrtLzI0

【B-9/路地/二日目 未明】

【テンカワ・アキト@劇場版 機動戦艦ナデシコ-The prince of darkness-】
[状態]疲労(小)魔力消費(小)、左腕刺し傷(治療済み)、左腿刺し傷(治療済み)、胸部打撲、強い憎しみ、心労(特大)
[令呪]残り三画
[装備]CZ75B(銃弾残り6発)、CZ75B(銃弾残り16発)、バイザー、マント
[道具]チューリップクリスタル1つ、背負い袋(デザートイーグル(銃弾残り8発))
[所持金]貧困
[思考・状況]
基本行動方針:誰がなんと言おうとも、優勝する。
0.警察の追跡から逃れる。
1.戦闘、敵の調査は二の次にして隠れ家になる場所を探す。
2.五感の異常及び目立つ全身のナノマシンの発光を隠す黒衣も含め、戦うのはできれば夜にしたいが、キレイなどに居場所を察されることも視野に入れる。
3.できるだけ早苗やアンデルセンとの同盟は維持。同盟を組める相手がいるならば、組みたい。自分達だけで、全てを殺せるといった慢心はなくす。
4.早苗やアンデルセンともう一度接触するべきか?
[備考]
※セイバー(オルステッド)のパラメーターを確認済み。宝具『魔王、山を往く(ブライオン)』を目視済み。
※演算ユニットの存在を確認済み。この聖杯戦争に限り、ボソンジャンプは非ジャンパーを巻き込むことがなく、ランダムジャンプも起きない。
ただし霊体化した自分のサーヴァントだけ同行させることが可能。実体化している時は置いてけぼりになる。
※ボソンジャンプの制限に関する話から、時間を操る敵の存在を警戒。
※割り当てられた家である小さな食堂はNPC時代から休業中。
※寒河江春紀とはNPC時代から会ったら軽く雑談する程度の仲でした。
※D-9墓地にミスマル・ユリカの墓があります。
※アンデルセン、早苗陣営と同盟を組みました。詳しい内容は後続にお任せします。
※美遊が優れた探知能力の使い手であると認識しました。
※児童誘拐、銃刀法違反、殺人、公務執行妨害等の容疑で警察に追われています。
今後指名手配に発展する可能性もあります。

【バーサーカー(ガッツ)@ベルセルク】
[状態]ダメージ(微)
[装備]『ドラゴンころし』『狂戦士の甲冑』
[道具]義手砲。連射式ボウガン。投げナイフ。炸裂弾。
[所持金]無し。
[思考・状況]
基本行動方針:戦う。
1.戦う。
[備考]
※警官NPCを殺害した際、姿を他のNPCもしくは参加者に目撃されたかもしれません。

197バカばっか ◆/D9m1nBjFU:2015/01/16(金) 14:16:43 ID:BcqrtLzI0



  ◆   ◆   ◆



「ただいまバーサーカー、心配かけてごめん」

上空、弓兵か騎兵以外には手の出せない空間で美遊は待機させていた一護と合流した。
全てはサファイアが提案し、美遊が実行した作戦のためであった。

アキトが察した通り、美遊たちが行ったのはアキトに対し直接的ではなく社会的にダメージを与える戦術だった。
力押しという分野においては美遊と一護ほど優れたチームはほとんど存在しないと言って良い。
さらにこれまで温存していたセイバーのクラスカードも使えば対抗できる者は皆無に近い。
しかしアキトとガッツは例外的にボソンジャンプによって美遊たちのあらゆる直接攻撃を回避することができる。
極端なことを言えば美遊がどんな攻撃を繰り出そうが即ボソンジャンプしてカウンターを仕掛けることもできる。
実際にはあと一度しか使えない切り札なのだが自分達が破格の条件で戦っている美遊とサファイアはアキトを限りなく過大に評価していた。
自分達が無限の魔力で戦えるように、あちらも無制限に転移できるのではないか?ということだ。
普通なら馬鹿げた勘違いなのだが彼女らは本気でそのぐらいに考えておくべきと結論づけていた。

仮令クラスカードを取り戻したとしても攻略の糸口を見出すまで正面切ってアキト主従とは戦うべきではない。
しかし強力な主従をそのまま放置しておくのもこれまた得策ではない。
そこでサファイアは考えた。女子小学生である美遊のハンデを武器に変える作戦を。


「すごい、本当に効果があったなんて……」

眼下で瞬く間に警察、野次馬が集まる光景を目にした美遊はサファイアの策が成功したことを実感していた。
その概要はこうだ。

まず転身し、空から天河食堂へと直行した後道路に降り立ち電柱の影にバッグを隠す。
次にサファイアが鍵を開けて置いた居間の窓から侵入すると押し入れに置いてあったクラスカードを回収。
また内部を物色した際アキトの身分証明書を発見し彼の本名が「テンカワアキト」であることを確認。
ついでにサファイアの提案でアキトが使っていたベッドに美遊の靴下のうち一足を置いておいた。
一体何の意味があるのか美遊には測りかねたがサファイアが言うには絶対的な楔になるらしい。
準備を終えた美遊は出来るだけ魔術回路の駆動を絞り気配を殺してアキトの帰宅を待った。

198バカばっか ◆/D9m1nBjFU:2015/01/16(金) 14:17:28 ID:BcqrtLzI0
そしてアキトが戻って美遊を発見したと同時にサファイアから教えられた台詞をできるだけ抑揚をつけて叫び開けておいた窓から逃走。
この時一護は上空500メートルほどの場所に保険として待機させておいた。
夕方の遭遇戦の結果からガッツの探知能力がそう高くないことを見抜いての配慮だった。
また相手の拠点内部や道路の道幅が狭い住宅街なら滅多なことではサーヴァントに頼れないという読みもあった。
細身の一護ならまだしも巨体の狂戦士が自分のマスターを巻き込まずに戦うのは著しく困難な地形だったからだ。
それでも尚サーヴァントを嗾けてくるなら美遊の合図で一護が駆けつける算段だった。
予めアキトが銃を所持していることを把握していたのも大きい。
サーヴァントより破壊規模が小さく、かつ安易で強力な武器を持っていれば高確率でそれに頼るとサファイアは踏んだのだ。
街灯に美遊の姿が映るように逃走したのも、銃弾を物理障壁ではなく物理保護で受け止めたのも全てわざとだ。
カレイドの魔法少女は物理保護を一定以上働かせている限り携行火器、それも拳銃弾の一発や二発では絶対に死なない。
NPCにアキトが少しでも凶悪犯に映るようにというサファイアの演技指導の賜物だった。
最後に予め準備していた逃走ルートに隠していたバッグを回収し相手が手出しできない可能性が最も大きい空へと逃げたのだった。



「そうか……。これは戦争、こういう戦い方もあるんだ」
「その通りです、美遊様。相性の悪い敵と真っ向から戦う必要は必ずしもありません」
「そうだね…。こんなこと、私じゃ思いつきもしなかった」

先ほどまでの自分自身を思い返す。
あの時の美遊はサファイアを取り戻すという意識が先行し無謀な策に出ようとしていた。
いや、頭を冷やして考えればサファイアが破壊されなかったこと自体幸運なことだ。
あの時の自分は無意識にその可能性を頭から閉め出していた。そうしなければ立ち行かなかった。
視野を狭め覚悟という名の言葉の麻薬に頼らなければ精神を保てないほどギリギリの状態だった。
もしサファイアが無残に破壊されていればきっと自分は精神的に壊れていた。

「……あなたは、どうして」
「美遊様?」
「ううん、何でもない。ありがとうサファイア、戻ってきてくれて」

199バカばっか ◆/D9m1nBjFU:2015/01/16(金) 14:18:02 ID:BcqrtLzI0

サファイアは無理に美遊の元に戻ってくる必要はなかったはずだ。
それこそルヴィアを見限った時のように美遊を見限り他の有望なマスターを探しても良かったはずだ。
そうしなかった理由が美遊にはわからず、それでいてとても嬉しいことだった。
今はそれで十分だと納得することにした。

【B-9/上空/二日目 未明】
【美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]健康、他者に対しての過剰な不信感
[令呪]残り二画
[装備]魔法少女の衣装、カレイドステッキ・マジカルサファイア
[道具]バッグ(衣類、非常食一式、クラスカード・セイバー)
[所持金] 300万円程(現金少々、残りはクレジットカードで)
[思考・状況]
基本行動方針:『方舟の聖杯』を求める。
1.全員で戦う。どれだけ傷つこうともう迷わない。
2.ルヴィア邸、海月原学園、孤児院には行かない。
3.自身が聖杯であるという事実は何としても隠し通す。
4.サファイアが聞いた「サナエ」というアーチャーのマスターに対して…?
5.攻略の糸口が見つかるまでアキトとの接触、戦闘は避ける。
[備考]
※アンデルセン陣営を危険と判断しました。
※ライダー、バーサーカーのパラメータを確認しました。
※搦め手を使った戦い方を学習しました。
また少しだけ思考が柔軟になったようです。
※テンカワ・アキトの本名を把握しました。
※サファイアを通じて「サナエ」という名のアーチャーのマスターがいると認識しています。
※アキトの使う転移の名称が「ボソンジャンプ」であると把握しました。

【バーサーカー(黒崎一護)@BLEACH】
[状態] 健康、不機嫌
[装備]斬魄刀
[道具]不明
[所持金]無し
[思考・状況]
基本行動方針:美遊を護る
0.美遊を護る。
1.危険な行動を取った美遊への若干の怒りと強い心配。
[備考]
※エミヤの霊圧を認識しました
※ルーラーの提案を拒否したため、令呪による回復を受けていません。
※魔力消費はサファイアを介した魔力供給で全快しました。


[全体備考]
※B−9、天河食堂周辺の騒動を周囲のNPCが目撃しました。
これによりB−9で警察が厳戒態勢を敷いています。
またこの周辺に参加者がいれば一連の流れを見聞きした可能性があります。
※天河食堂前にCZ75Bの美遊を貫通しなかった弾丸と薬莢が転がっています。
※天河食堂のアキトが使っていたベッドに美遊の靴下が一足置かれています。

200 ◆/D9m1nBjFU:2015/01/16(金) 14:18:52 ID:BcqrtLzI0
これにて投下を終了します
感想、ご指摘等お願いします

201サイバーゴースト名無しさん:2015/01/16(金) 14:51:41 ID:tfgFA3iI0
仮投下乙です。
アキトさんまんまと嵌められてしまった…
サファイアの機能を知らなかったことやジナコさんの件で警察が増えてたことは痛い
ジナコさんに続いてお縄に頂戴されそうなアキトさんの明日はどっちだ

指摘と言うか軽いツッコミですが、「バカばっか」は既にタイトルで使用されてた筈ですね

202 ◆/D9m1nBjFU:2015/01/16(金) 15:02:25 ID:BcqrtLzI0
大変申し訳ありません、初歩的な見落としをしておりました……
タイトルを「犯行(反攻)」に変更させていただきたいと思います

203 ◆/D9m1nBjFU:2015/01/17(土) 14:48:13 ID:jVR7ob2g0
タイトル以外特に指摘、修正の要望などもないようですので本スレにて本投下を行います

204 ◆vW6RE9FKJg:2015/01/24(土) 05:05:20 ID:M6PG/ldQ0
本スレにて指摘された部分を修正しましたので投下します

205悪意の所在 ◆vW6RE9FKJg:2015/01/24(土) 05:08:57 ID:M6PG/ldQ0

◇◆◇


少女はその画面に釘付けになっていた。
しばらくすれば、彼女もまたHALに従う傀儡となり、情報収集のため繰り出されることだろう。


「き」


ところが、もうすでに一分近く経っているというのに、少女は携帯の画面から目を逸らさない。
ずっと見続けている。いやむしろ目を輝かせている。


「き、き、き」


それこそ面白いオモチャでも見つけたように。
楽しい事がこれから起こるとでも言いたげに。


「き、き、き、き」
「…おい?」

画面を見続けているのもそうだが、さっきから「き」とばかり言い続けている少女を流石におかしいと思い、肩に手をかけようとした。
だが少女はすっと後ろへ下がる。浮かべる表情は先ほどの笑顔と比べてえらく無表情であった。
少女はそんな仮面のような表情を浮かべながら言葉を発した。


「すみません、浸透するのに時間がかかってしまいました」
「…そうか」


青年は電子ドラッグを何人かのNPCに浴びせてきたが、今までこういった事例はなかった。
眷属になったことも含めてHAL様に報告するべきだろう。


「ではメールアドレスの交換を」
「わかりました」


青年は少女とメールを交換し合う。
青年は電子ドラッグの配信はHALを通して行われる。
青年が手にした少女のメールアドレスをHALに知らせれば、すぐさま少女にもHALから電子ドラッグが渡される事だろう。


「…ではスーパーへはこの道を真っ直ぐ行けばたどり着きますので」
「はい、ありがとうございました、メールお待ちしてます」


そうしてメールアドレスの交換をした後、少女と青年は先ほどのやり取りを続けそのまま別れる事にした。
携帯電話の時計を見ると、そろそろ定期連絡の時間が迫っていた。
先ほどの情報を渡すにはちょうどいい。


★★★

206悪意の所在 ◆vW6RE9FKJg:2015/01/24(土) 05:09:36 ID:M6PG/ldQ0

その事にカッツェが気づいたのは、偶然であった。


ベルク・カッツェはルーラーによって干渉を禁じられた。
それは彼の能力によって、NPCの生活を乱す危険があるとみなされたからである。

実際カッツェは自身からNPCへ話しかけることができないし、攻撃することもできない。
まさにベルク・カッツェにとっての長所が完全に潰されたといってもいいだろう。



だが逆に言えば干渉されることは禁止されているのだろうか。



例えば携帯で調べ物をしている時。
あるいはNPCが付近にいるのにも関わらず、気配遮断を解いている場合。
それは果たしてNPCから干渉されてないと言えるのか。



(…試してみますかwwwwww)



そう決心したカッツェはまずこの姿からルイルイ―爾乃美家累―の姿に擬態する。
現在ストックされている容姿で、こちらに声をかけやすく、それなりに相手が油断しやすいものはこれくらいしかない。
あと本当は男性なのに、女性と勘違いした奴がいたら面白そうという遊び要素も含んでいる。


あとは適当に人が通りがかりそうな場所で道に迷った振りをするだけ。
もし自身の予想通りなら、これでNPCは自分に声をかけてくるはずである。


そうしてカッツェは待機した。






カッツェが知り得ることではないが、その推測は半分だけしか当たっていなかった。

確かに干渉されることは禁止されていない。
だが通り魔や暴行犯などの危険人物がうろついている中、見知らぬ他人に気を遣えるようなNPCは警察くらいしかいない。
つまりそう言った特殊な職業についている者からしか干渉されることはないのである。


そして肝心の警察官はこのあたりに来ることは滅多になく。
またいたとしてもこの時分には、迷子よりも優先しなければならないことがあり、対した干渉は受けられない。
故に本来なら、カッツェは自身の想像が外れて、またストレスを溜めることになっていたはずであった。



ここが錯刃大学に近くなく、


そしてこのマンションからその大学へと通う者がおらず、


なにより電子ドラッグが存在しなければ、



そうなっていたはずであった。



★★★

207悪意の所在 ◆vW6RE9FKJg:2015/01/24(土) 05:10:10 ID:M6PG/ldQ0
そんな偶然が重なってカッツェは晴れて電子ドラッグを浴びることになった。
だがカッツェにとって、犯罪欲求を解放するというのは、そよ風で涼むようなものである。
洗脳効果もあるようだが、サーヴァントには効かないのかカッツェは平然としていた。
せいぜい頭の中でうるさい文句が流れている程度であろうか。


ただそのプログラム、いやコードキャストそれ自体にカッツェは興味を引かれた。


NPCを洗脳していく効果、このようなプログラムをただのNPCが持っているとは考えにくい。
十中八九このプログラムを手引きした者、おそらくは他のマスターの仕業であろう。
だがはたしてこの青年一人にこんな重大な洗脳プログラムを渡すだろうか。


カッツェは気になり、青年から携帯を奪取しようとした。
だがやはりと言うべきか、令呪の縛りに抗う事は叶わない。


―ルーラーまじ空気読めてないわー


暴行して奪取する路線を変更、カッツェはそのまま洗脳されたふりをする。
洗脳されたふりと言っても、プログラムが指示している内容をそのまま口に出しただけだが。


効果は為した様で、あとはこのプログラムの送り主―HAL―とやらからメールがくるのを待つだけである。
まだかなーとスーパーで待機しつつ、あのコードキャストがどういった物なのかを考える。


実際に浴びたから言えるが、犯罪欲求解放のついでにHALへの服従を促すように設定されていると考える。
いやそれともHALへの服従の方が本分で、犯罪欲求解放の方がおまけなのだろうか?
どうも頭の中で騒いでいる言葉は電子ドラッグを受け取り次第、他のNPCを機会を見つけ電子ドラッグを浴びせようとしているみたいだが。


(…よくわかんねwwwwwミィ、ルイルイみたく機械に詳しいわけじゃないしwwwwww)


それに加えて手元に実物がないのだから、何をどうしたって答えが見つかるはずもなし。
結局はメール待ちである。


だがこれがもし服従させた者、全てに配られているとするなら。


(ひょっとしなくてもここいら一体のNPCはwwwwみぃんなwwwこのHALって奴に支配されてるんじゃないのかなwwwwwwww)


思わぬネタの到来にカッツェは狂笑を浮かべる。
今自分は宝箱の鍵を見つけたようなものだ。
さてどう立ち回れば、宝箱本体までたどり着けるだろうか。


ピロピロピロピロピロ


携帯がメールの着信を告げた。

208悪意の所在 ◆vW6RE9FKJg:2015/01/24(土) 05:10:48 ID:M6PG/ldQ0
◇◆◇

『もしそうならば、今現在使っている"ますたあ"の術、一旦広めるのを止めた方が良いのではないか?』
『そうしようと思ったのだがな、少し試したいこともあって現在でもNPCたちには電子ドラッグを拡散させている』
『…よもや"ますたあ"…その者と』
『まて』

一旦話を中断し、作業に移るHAL。
アサシンは続けようとした言葉を飲みこみ、HALの言葉を待つ。

『…あのサーヴァントがNPCに偽装できると知った時点で、私はNPCたちに定時連絡をするよう指示しておいた
 定刻通り全員から連絡がきたが、一人妙な反応をしたNPCと接触している
 結局電子ドラッグへ組み込まれている暗示通りの動きをしたようだが、それに至るまでの経緯が妙らしい』
『……件の"さあばんと"か?』
『それを確認するために少しばかり監視するとしよう』


HALはそう言って、端末から連絡を取る準備をした。
といっても自身の端末から、電子ドラッグで洗脳された者達へ指示を与えただけだが。
ただし、それまでとは趣が違う命令でもある。


『これからドラッグで洗脳させた者達をあれに近づけ、監視してもらう
 無論この時間帯をうろついても違和感のないNPCだ』
『良いのか、最悪夜に動くことのできる駒を何体か失う羽目になるやもしれんぞ』
『私も同じ考えだった』
『む?』


あれだけの犯罪を公衆の面前でやらかすサーヴァントだ。NPCを通しての接触だとむやみに駒を減らしかねない。
故にHALはもし電子ドラッグを浴びせようとNPCが対面した場合、間違いなく接触したNPCは暴行を加えられ携帯を盗まれるだろうと思っていた。
そのためその端末越しの接触を図るつもりでいたのだが、今回に限り、あのサーヴァントは奇行をしながらも、洗脳されたふりをしてまでしてこちらとの連絡手段を維持している。
今まで無造作に他陣営に悪意をばら撒いていた者の行動とは思えない。


『おそらく、ルーラーの令呪によって行動を縛られているのではないだろうか』
『…あれほどの事をしでかせば、その対処も当然であろうな』
『キャスター戦でのルーラーの行動から考えると、おそらくNPCへの能動行動の禁止といったところか
 処刑ではなく、処罰と言う点からすれば、それが妥当だろう』
『…なるほど、故にNPCで周りを囲むか』
『ああ、あれがNPCに攻撃できない以上、周りをNPCで固められるとその時点で詰みだ
 ただ霊体化して逃げる可能性は十二分にあるが、それならそれで構わない
 私が観察したかった事柄はそのアクションだけで十分に推察可能だ』

HALが悪意をばら撒くサーヴァントがNPCに紛れる可能性を考慮して、なおNPCたちに電子ドラッグを広めつづけていた理由はそこにある。
電子ドラッグがサーヴァントにどのような効用をもたらすのかが、知りたかったのだ。
コードキャストは通常サーヴァントに用いて、その身体能力の向上や、ダメージの回復などに貢献するものである。
HALの電子ドラッグもコードキャストに分類されている以上、サーヴァントへ使う事はできるだろうと予想はできていた。

ただNPCと違い、その効能がどう出るかまでは予想できずにいた。
通常ならば、犯罪欲求が解放されたその虚に付け込んで洗脳効果を発揮させることができよう。
だが相手は英雄と謳われし、サーヴァント。
犯罪欲求など抱かぬ者もいれば、洗脳の効果など打ち払える者など多種多様に存在する。


故に、サーヴァントで実験をするのならば、この機会を逃す手はない。


『それにもし私の考え通りなら、あれがNPCからすぐに離れるという事はあるまい』



★★★

209悪意の所在 ◆vW6RE9FKJg:2015/01/24(土) 05:11:38 ID:M6PG/ldQ0


カッツェはメールを開いて、軽く眉をしかめた。
メールには以下のように記してあった。


『新たなる同志よ、君を私は歓迎しよう
 だが、君が電子ドラッグを浴びた際に起こした奇行というものが気掛かりでならない
 故にこれより他の同志を使って、君を監視させてもらう
 行きたい方向があるのならば、私のメールアドレスを通じてそれを伝えたまえ』


これは単なる建前に過ぎない。
実際は自身を近くに置き、そして監視することにある。
おそらくこのプログラムの創造主、HALとやらは自身が本当に洗脳されているのかどうかを訝しんでいるのだろう。



―まぁ実際ミィでも疑うわwwwwwww



まぁ監視されること自体は特に問題はない。
問題は監視されることによって、こちらの行動が阻害されかねないことだが。
その問題すらもP.Sで解消するようになっている。なっているのだが。


―なぁんか監視以外の目的があるような気がするんですよねぇ


自身が人間でないから、そう思うのかもしれないが。
どうも自身のことを秘密裏に調べていたルイルイと同じ感じがする。
観察してどのような存在か探っているようだ。



―乗るのは正直危ない気がするんだけどぉwwwwww



理性ではここは従うべきではないと思ってはいるのだが。




『P.S もし監視した結果、問題ないと判断すれば通常通り電子ドラッグを配布しよう』




こう書かれては乗らずにはいられない。
電子ドラッグと称されるコードキャスト。
自身の想像通りなら、これの所有権を手にするだけで状況はひっくり返せる。

HALが電子ドラッグをコードキャストへと変換していたのがあだとなった。
現実ならいざ知らず、この電脳空間ではコードキャストはHAL一人だけにしか使えないというわけではない。
つまり所有権さえ手にしてしまえば、たとえばれんちょんだとしてもNPCの支配者たりえるのだ。

故にHALという人物の所在地がわからぬ今では、言うとおりに動いて少しでも所有者に近づく必要がある。
もっともそれをサーヴァントたるカッツェが扱おうとするなら、少しばかり手順を踏む必要があるが。
その状況へと至るにはやはりルーラーの令呪が邪魔だ。


―…令呪には令呪ですかねwwwwwww



ここにきて、カッツェはれんげの令呪を切らせることを決心した。
れんげに令呪の存在を知らせることはできるだけ伏せておきたかったが、やむなし。
どの道、このままでは手詰まりである。



―それに上手くいけば、NPC使ってれんちょんさらえるかもしれませんねwwwww


NPCに干渉はできないが、マスターには通常通り干渉できる。
HALを通して、れんちょん誘拐を促せば、流れによってはそのままこのプログラムの創造主の元までたどり着けるやもしれない。
カッツェは邪悪な笑みを浮かべた。


周りにはすでにNPCが数人集まってきている。


「それでは早速行くとしよう」
「そうですねwww幼女がいるかもしれない所なら何処でもwwwww」



そうしてベルク・カッツェは数人の監視役を伴って夜の街を行く。

その表情には隠し切れない笑みを浮かべながら。

210悪意の所在 ◆vW6RE9FKJg:2015/01/24(土) 05:12:32 ID:M6PG/ldQ0
◇◆◇


幼女がいる方向へ向かいたいです、などというメールを受け取りさっそくHALは顔をしかめた。

『ふざけているのだと思うか?』
『もしそれが自身の"ますたあ"のことを申しておるのなら、もはやたわけも同然であろう』
『…予想はしていたが、ここまで勝ちに執着がないとは』
『"ますたあ"、だからと言って油断してはならぬぞ』


アサシンはそう忠告をする。
アサシンが脳裏に浮かべたのは、甲賀を憎みに憎んで二百余念生きた男である。
己が憎しみを晴らすために、時には伊賀の者すら犠牲にしてきた男。
様々な陣営に怨恨をばら撒く様は、脳裏にその男を浮かべさせるには十分すぎた。

『…わかっている』

HALもまた他人になりすまし、犯罪をしていくという情報を知って、思い浮かべた存在が居る。
月ではなく、現実の日常で世間を騒がせている怪盗のことだ。
人を箱に詰めるという確固たる目的のあるその者とは違い、このサーヴァントにそれといった目的があるとは思えない。
だが、共に異常人物というものにカテゴライズされているということに違いはない。

故に用心を怠るつもりはない。
例えあちらからこちらへコンタクトができないのだとしても、用心を怠る理由にはならない。


『だがひとまずは監視対象の望み通りの情報を解り次第知らせてやるとしよう』
『うむ、して今後はどう動く?』
『そうだな、午前の襲撃者のこともある
 その点も含めて、しばらく思案させてもらおう』
『了解した』



こうしてベルクカッツェとHALの水面下でのコンタクトはなった。
はたして最後に電子ドラッグを掌握するのはどちらなのか。
全てを知っているかもしれない月は話すことなく沈黙を貫き通す。


【B-6 スーパー付近/一日目/夜間】

【アサシン(ベルク・カッツェ)@ガッチャマンクラウズ】
[状態]魔力消費(中)、宝具にダメージ(小)、テンション普通、苛立ち小 、電子ドラッグ感染、爾乃美家累の姿
[装備]なし
[道具]携帯電話(スマホタイプ)(HALのアドレス記録済)
[思考・状況]
基本行動方針:真っ赤な真っ赤な血がみたぁい!聖杯はその次。
1.まずはれんちょんと合流しましょうwwwww 幼女誘拐するのもありかもwwwww
2.うはぁwwww電子ドラッグ掌握するのマジ楽しみだわwwwwwww
3.頭の中の指示とか令呪の縛りとかマジうぜー
4.真玉橋孝一とルーラーへの対抗策を模索する。
[備考]
※他者への成りすましにアーカード(青年ver)、ジナコ・カリギリ、野原みさえが追加されました。
※NPCにも悪意が存在することを把握しました。扇動なども行えます
※喋り方が旧知の人物に似ているのでジナコが大嫌いです。可能ならば彼女をどん底まで叩き落としたいと考えています。
※ジナコのフリをして彼女の悪評を広めました。
ケーキ屋の他にファミリーレストラン、ジャンクフード店、コンビニ、カラオケ店を破壊しました。
死人はいませんが、営業の再開はできないでしょう。
※『ルーラーちゃん顔真っ赤涙目パーティ』を計画中です。今のところ、スマホとNPCを使う予定ですが、使わない可能性も十分にあります。
→電子ドラッグを利用することを考慮に入れています。
※カッツェがジナコの姿で暴れているケーキ屋がヤクザ(ゴルゴ13)の向かったケーキ屋と一緒かどうかは不明です。
※真玉橋組を把握しました。また真玉橋に悪意の増長が効きにくい為、ある程度の警戒を抱いています。
※HALと電子ドラッグの存在に気が付きました。いずれ電子ドラッグを自身の手で掌握しようと考えています。
※電子ドラッグで洗脳されたNPC数人によって現在監視されています。

211悪意の所在 ◆vW6RE9FKJg:2015/01/24(土) 05:13:19 ID:M6PG/ldQ0
【C-6/錯刃大学・春川研究室/1日目 夜間】

【電人HAL@魔人探偵脳噛ネウロ】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]『コードキャスト:電子ドラッグ』
[道具] 研究室のパソコン、洗脳済みの人間が多数(主に大学の人間)
[所持金] 豊富
[思考・状況]
基本行動方針:勝利し、聖杯を得る。
1.ルーラーを含む、他の参加者の情報の収集。特にB-4、B-10。
2.今後の方針を思案する。
3.悪意をばら撒くサーヴァントの監視、またそれが要望する情報を与える。
4.『ハッキングできるマスター』はなるべく早く把握し、排除したい。
5.性行為を攻撃として行ってくるサーヴァントとに対する脅威を感じている。
[備考]
※『ルーラーの能力』『聖杯戦争のルール』に関して情報を集め、
 ルーラーを排除することを選択肢の一つとして考えています。
 ルーラーは、囮や欺瞞の可能性を考慮しつつも、監視役としては能力不足だと分析しています。
 →ルーラーの排除は一旦保留しています。情報収集は継続しています。
 →1.ルーラーは各陣営が所持している令呪の数を把握している。
   2.ルーラーの持つ令呪は通常の令呪よりも強固なものである 。
   3.方舟は聖杯戦争の行く末を全て知っており、あえてルーラーに余計な行動をさせないよう縛っている。
   以上三つの可能性を考慮しつつ、情報収集を継続。
※大学の人間の他に、一部外部の人間も洗脳しています。
※洗脳した大学の人間を、不自然で無い程度の数、外部に出して偵察させています。
※C-6の病院には、洗脳済みの人間が多数入り込んでいます。
※鏡子により洗脳が解かれたNPCが数人外部に出ています。
 洗脳時の記憶はありませんが、『洗脳時の記憶が無い』ことはわかります。
※ビルが崩壊するほどの戦闘があり、それにルーラーが介入したことを知っています。
 ルーラー以外の戦闘の当事者が誰なのかは把握していません。
※他の、以前の時間帯に行われた戦闘に関しても、戦闘があった地点はおおよそ把握しています。
 誰が戦ったのかは特定していません。
※性行為を攻撃としてくるサーヴァントが存在することを認識しました。
 →房中術や性技に長けた英霊だと考えています。
※『アーカード』のパラメータとスキル、生前の伝承は知り得ましたが、アーカードの存在について懐疑的です。
 → ランサー(ヴラド3世)の情報によりアーカードの存在に確証を持ちました。
※ジナコの住所、プロフィール、容姿などを入手済み。別垢や他串を使い、情報を流布しています。
※他人になりすます能力の使い手(ベルク・カッツェ)を警戒しています。
 →現在数人のNPCを通じて監視しています。またルーラーによって行動を制限されているのではないかと推察しています。
 メールを互いに知っている為、メールを通して連絡を取り合えます。
※B-10のジナコ宅の周辺にNPCを三人ほど設置しており、何かがあれば即時報告するようにNPCに伝えています。
 →ジナコ宅に設置していたNPCは刑事です。ジナコとランサー(ヴラド3世)が交わした内容を把握しました。
※サーヴァントに電子ドラッグを使ったら、どのようになるのかを他人になりすます者(カッツェ)を通じて観察しています。


【アサシン(甲賀弦之介)@バジリスク〜甲賀忍法帖〜】
[状態] 健康
[装備] 忍者刀
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:勝利し、聖杯を得る。
1.HALの戦略に従う。
2.自分たちの脅威となる組は、ルーラーによる抑止が機能するうちに討ち取っておきたい。
3.性行為を行うサーヴァント(鏡子)への警戒。
4.他人になりすます能力の使い手(ベルク・カッツェ)を警戒。


[共通備考] 
※他人になりすます能力の使い手として、如月左衛門(@バジリスク〜甲賀忍法帖〜)について、
主従で情報を共有しています。ただし、登場していないので、所謂ハズレ情報です。
※他人になりすます能力のサーヴァントの真名を一発で検索できる量の情報を入手しました。
※ヴォルデモートが大学、病院に放った蛇の使い魔を始末しました。スキル:情報抹消があるので、
弦之介の情報を得るのは困難でしょう。また、大魔王バーンの悪魔の目玉が偵察に来ていた場合も、これを始末しました。
※ランサー(ヴラド3世)が『宗教』『風評被害』『アーカード』に関連する英霊であると推測しています。

212 ◆vW6RE9FKJg:2015/01/24(土) 05:14:52 ID:M6PG/ldQ0
修正部分の投下終了です
再度修正点や誤字などの問題点があれば、指摘よろしくお願いします

213 ◆OSPfO9RMfA:2015/01/24(土) 12:09:11 ID:Mq7O6ka60
 『干渉されることは禁止されていない』と言われれば、グレーではないかと思います。

>いよいよマンションまであと数メートルという所まで来て、彼は見慣れないモノを見ることになった。
>道に迷ったのだろうか、一人の少女がきょろきょろと辺りを見回しているのである。
>さて無視してマンションに入る事もできるが、流石にこんな時勢で素知らぬ振りをするのは少しためらう。
>結局男は少女に声をかけることにした。

 作中の青年NPCはカッツェを見たことにより、自宅に戻るという行動を変更させています。
 カッツェが実体化しなければ生じなかった事であり、これは『NPCへの干渉』をしたとも見て取れます。

 『NPCに干渉される』と言うのは、その前に『己の存在をNPCに認識させる』という『NPCへの干渉』をしているとも言えるので、“そもそもNPCの存在する場所での実体化は不可能”とも解釈できます。

 一応、“原作でアーチャーにしたような『曖昧かつ長期間にわたる命令』であり、実体化の権利を奪うほどの強制力はない”と言う解釈もできなくはないです。
 ですが、『NPCの前では実体化しない』ことがベストであることには変わりなく、それ以上の行動が令呪違反となるかは個人の裁定判断とならざる得ないと思います。

 仮に、NPCの前での実体化が問題ないとして話を進めます。

>「あ、すみません、ちょっと道に迷ってしまって」
>「スーパーなんですけど、ここからどう行けばいいのかわからなくて」

 また、カッツェは青年NPCへの挨拶に“返答”しています。
 それはNPCへ言葉を発する“能動的な行為”であり、明確に『NPCへの干渉』と見て取れます。

>「すみません、浸透するのに時間がかかってしまいました」
>洗脳されたふりと言っても、プログラムが指示している内容をそのまま口に出しただけだが。

 プログラムの指示はマスターであるHALの指示と同義、と考えても良いですが、他のマスターに指示されたから『NPCへの干渉』してもよい、とはならないと思います。

 その後はマスターであるHALとの行為なので問題ないと思います。



 解決案としては、

 ・出会い頭に青年NPCがカッツェに電脳ドラッグを見せつける(ようにHALが指示を出す)。
 ・カッツェの無反応を青年NPCがHALに伝達する。

 上記のようにすれば、カッツェは『NPCへの干渉』が極力少なく、NPCはHALに命令されたことをしただけになると思います。

 ただ、HALの行動がやや慎重さに欠ける点、『NPCへの干渉』が全くないわけではない点が存在します。


 もしくは、『電子ドラッグによりデータを改竄されたNPCは“NPCでは無い”(バーンがNPCをマネマネにすり替えたのと同義)』とするのであれば、修正話のカッツェの行動は問題なくなると思います。
 その場合、『HALへのペナルティが非常に重くなるのでは』『NPCとは何なのか』『鏡子の宝具で戻せるのに?』という点が発生します。


 拙い意見ですが、ご一考していただければ幸いです。

214サイバーゴースト名無しさん:2015/01/24(土) 12:43:00 ID:kS4CHBPE0
令呪の効力や具体的な範囲に関してはそこまでガチガチでもいいんじゃないかなあと思うのが率直に。
一護の「Bー4のサーヴァントを殺せ」という命令に関しても「一騎殺害したら即帰還」という解釈が為されていましたし
余程の矛盾や問題がなければリレー次第でいいのでは。

215サイバーゴースト名無しさん:2015/01/24(土) 13:49:23 ID:aCJlo5YM0
流石に「NPCの近くではずっと霊体化してろ、喋りもするな」はまともに聖杯戦争できなくなると思います(カッツェさんがまともに聖杯戦争やる気かは置いといて)
そもそもそこまで厳密に取ると何をしても結果的に干渉となるおそれがあるのでなにもできません
(戦闘の結果その辺の建物が壊れたりすればそれにNPCが動員されるでしょうし、それも間接的な干渉扱いになりかねません)

流石にルーラーの意図から外れるような行動を取れてしまえば(喋れるから誘導する、挑発するなど)令呪が無意味となってしまうため範囲は必要だと思いますが
今回がそれに当たるとは思いません

216 ◆A23CJmo9LE:2015/01/24(土) 15:16:17 ID:go1NDOpo0
私も概ね>>214-215と同意見です。
◆OSPfO9RMfA氏の意見ではNPCに影響を与えるところでは実体化できないということになります。
視認されるのもダメとなると監視カメラ、望遠鏡なども気にしなければなりませんし、それではもはや実体化していられるところなどないでしょう。
そうなってはもはや聖杯戦争に参加している、とは言い難いです。
ルーラーはあくまで恙ない聖杯戦争の進行を進めるため動いているのですから、そこまではしないと思います。

外での実体化や話しかけられる、目撃されるくらいならセーフではないでしょうか
同様に当たり障りのない返答くらいなら許してもいいのでは、と思います。

ただ洗脳された振りについては◆OSPfO9RMfA氏と同意見です。
これはNPCを戦略的に悪意を持って騙す行為であり、NPCを利用して敵マスターと交渉を行おうとする干渉行為になってしまうと思います
これくらいは許さないと書きにくい、と思わなくはないですががNPCとほぼ干渉せず来ている美遊組などもいる以上書けなくはないとも判断します。

◆OSPfO9RMfA氏の書かれているようにノーリアクションのカッツェを不審に思ったNPCがHALに伝えたみたいな感じがいいのではないでしょうか。
HALの思考にフォローは必要になってしまうと思いますけど……

NPCが電子ドラッグで変質しているというのは、面白いとは思います。
仰ることに加えルーラーの啓示を含めリレー案件になるでしょうし、◆vW6RE9FKJg氏の判断にお任せしますが反対はしません

217 ◆IbPU6nWySo:2015/01/24(土) 16:14:52 ID:1adGkF9E0
私も概ね ◆A23CJmo9LE氏と同意見ですが
「返事・会話はできなくもないが、NPCを誘導できないように内容が制限されている」とした方がいいのではと思います。

218 ◆vW6RE9FKJg:2015/01/25(日) 02:43:10 ID:ag6USmQA0
ご指摘ありがとうございます。
確かに◆OSPfO9RMfA氏や◆A23CJmo9LE氏の言われる通り、〜〜のふりというのはそういった印象を相手に与えていると読み取れますし、
◆IbPU6nWySo氏の「返事・会話はできなくもないが、NPCを誘導できないように内容が制限されている」というのもカッツェの行動を考えると含まれているべきだと思いました。

ただ◆OSPfO9RMfA氏の言う、NPCに干渉できない=そもそもNPCの存在する場所では実体化不可というのは
他の人が言うようにカッツェの行動を縛りすぎると思いますので、その点を反映できないことを承知して頂けたら幸いです。

同様にHALの電子ドラッグを浴びたNPCはNPCと判別されないというものも面白いとは思いましたが、
自分の技量ではそこまで書ききれる自信がないので、同じく反映できてません、申し訳ありません

ではその二点以外の指摘点を踏まえた該当する修正箇所を投下いたします。

219本スレ>>108-109の☆☆☆〜◇◇◇の部分 ◆vW6RE9FKJg:2015/01/25(日) 02:44:27 ID:ag6USmQA0
★★★



そのNPCはスーパーから買い物のすませて帰宅している途中であった。


最近はやけに物騒なので、本当は大学の講義が終わり次第すぐに帰宅したかったのだが、友人たちが今日に限って飲みに行こうと言うので一軒だけ付き合った。
ようやく帰れると思っていたのだが、備品が切れたら買いに行くタイプの彼は、今日大学に行く際にスーパーによって買い物をするつもりだったことを思い出した。
急いでスーパーによって切れている備品を買ったが、飲みにかけた時間のこともあって、すでに日は暮れていた。



―結局今日も遅くなってしまったな。


そう考え、思わずため息をつく。
幸いスーパーから彼の家があるマンションはそう遠くない。
もし何かアクシデントに遭遇したとしても、大声をあげればなんとかなるだろう。
そんな楽天的なことを考えながら、彼はマンションへと向かっていた。



いよいよマンションまであと数メートルという所まで来て、彼は見知らぬ少女を見ることになった。
少女はマンションの前でじっと立っている。
マンションにピンク色の頭髪をし、眼鏡をかけた女性がいるとは記憶してないが、マンション前という事は今から帰るのか、誰かを待っているのだろう。
流石に真横を挨拶なしで素通りするほど、青年は臆病ではないので挨拶代わりに軽く声をかける。


「こんばんは」
「こんばんは」


それだけの邂逅。
青年は普通にマンションに入り、少女はマンションから帰るなり、待ち人がくるまで待機するだろう。




青年が通常通りの思考ルーチンならばそうなるはずであった。




「最近やけに物騒ですよね」
「え?まぁそうですね」



てっきり少女は挨拶で会話は終わりだと思っていたのだろう。
呆気に取られた表情を浮かべている。
当然だ、青年は臆病ではないにしろ、見知らぬ他人と会話できるほど度胸も据わっていない。




「特に午前のニュース、距離は離れてますけど、この街であんな事件が起こるなんて思いませんでした」
「え、ええそうですね」


少女もなにやら青年の様子がおかしいと感じ始めていた。
やけにこちらと会話を続けようとしている。
それに携帯電話を取り出し、何やら操作している。
新手のナンパだろうか。


「他にも最近ではこんなニュースが流行っているとか…」


どうやらニュースの話から、他のニュースについて見せたいようだ。
何故午前の事件は口で話しておいて、このニュースは携帯電話を見せる事で把握させようとしているのか疑問に思った。
だがせっかく見せてくれるというのを、無碍に断るのも悪いと思い、少女は携帯を覗きこんだ。
それに下手に断ると後が怖い予感もしていた。


「へぇ、どんなのですか……あれ?」


携帯の画面には何やらモザイクがかった画像が表示されていた。
てっきりニュースの情報を見せられると思っていた彼女は一瞬、虚ろを突かれる。
そしてそれが致命的であった。





彼女が見せられたプログラム、コードキャスト<電子ドラッグ>は他のNPCがそうされてきたように、彼女を傀儡へと誘う。





◇◆◇

220避難所205の部分 ◆vW6RE9FKJg:2015/01/25(日) 02:45:36 ID:ag6USmQA0
◇◆◇


青年が少女に目をつけたのは、簡単に言えばたやすく洗脳できると考えたからだ。
人を待つにしろ、これから帰るにしろ、年若い少女一人ならば、荒事に慣れてない自分でも容易い。
実際彼は世間話でニュース画面を見せるという行動を行う事で何人ものNPCを洗脳してきた。


そしてこの少女も今までのNPC同様、携帯の画面に釘付けになっていた。
しばらくすれば、彼女もまたHALに従う傀儡となり、情報収集のため繰り出されることだろう。


「き」


ところが、もうすでに一分近く経っているというのに、少女は携帯の画面から目を逸らさない。
ずっと見続けている。いやむしろ目を輝かせている。


「き、き、き」


それこそ面白いオモチャでも見つけたように。
楽しい事がこれから起こるとでも言いたげに。


「き、き、き、き」
「…おい?」

画面を見続けているのもそうだが、さっきから「き」とばかり言い続けている少女を流石におかしいと思い、肩に手をかけようとした。
だが少女はすっと後ろへ下がる。浮かべる表情は先ほどの笑顔と比べてえらく無表情であった。
少女はそんな仮面のような表情を浮かべながら言葉を発した。


「…なんでしょう?」
「…なんでしょうってあれ?」


少女になんでしょうと問われて、青年は逆に混乱した。
今まで浴びてきたNPCがこうなった事例は青年は経験していないからだ。
それに先ほどの会話から妙なことに青年は気づいた。


この少女は先ほどから、自分が話しかけた後返事をするのみで、自分からこちらに話しかけることが一切ないのである。
まるで自分から話しかけることができないかのように、青年からのアクションを待つのみだ。
唯一自分からしでかしたアクションと言えば、先ほどの奇行のみだが、それもなりを潜めている。


「…………」
「…………」


沈黙が続く。
青年は困り果てた。どう対応したものかと。
幸いなことに、そろそろHAL様が定めた定時連絡の時間である。
青年はHALの判断に任せることにした。


★★★

221避難所206の部分 ◆vW6RE9FKJg:2015/01/25(日) 02:46:27 ID:ag6USmQA0


その事にカッツェが気づいたのは、偶然であった。


ベルク・カッツェはルーラーによって干渉を禁じられた。
それは彼の能力によって、NPCの生活を乱す危険があるとみなされたからである。

実際カッツェは自身からNPCへ話しかけることができないし、攻撃することもできない。
まさにベルク・カッツェにとっての長所が完全に潰されたといってもいいだろう。



だが逆に言えば干渉されることは禁止されているのだろうか。



例えば携帯で調べ物をしている時。
あるいはNPCが付近にいるのにも関わらず、気配遮断を解いている場合。
それは果たしてNPCから干渉されてないと言えるのか。



(…試してみますかwwwwww)



そう決心したカッツェはまずこの姿からルイルイ―爾乃美家累―の姿に擬態する。
現在ストックされている容姿で、こちらに声をかけやすく、それなりに相手が油断しやすいものはこれくらいしかない。
あと本当は男性なのに、女性と勘違いした奴がいたら面白そうという遊び要素も含んでいる。

そうしてカッツェは待機した。





だが今思えばその判断自体が失敗だったのである。





まずカッツェはマンション前に立ち、迷ったふりをしようとした。
だがその行動を行う事はできなかった。どうやら"迷うという印象をNPCに与えるという行為"自体が干渉することに含まれているらしい。
まぁルイルイはビジュアル的には立っているだけでも声をかけられる可能性はある。
それにマンション前に立っていれば、いかに他人に無関心なNPCといえど挨拶せずにはいられまい。
そう考え、カッツェはマンション前にで待機した。


そして実際に挨拶され、返事をしたのだが、ここでもやはり令呪で縛られている箇所があった。
長話できないのである。
軽い返事をする事自体はできたのだがそれまで、そこから話を発展させることはカッツェ自身には行えなかったのだ。
おそらく話の主導権をこちらが握ると言う行為自体を禁じているのだろう。



―…令呪まじうぜー、気持ち悪いわこれ



ルーラーの令呪は正しくベルク・カッツェの長所を殺したことをここに至りようやく実感した。
NPCを扇動できる能力を持つ自分が、NPCから話の主導権すら握る事すらできないのだ。
お試し程度でやってみた実験だったが、もう二度と、少なくとも縛りが解けるまではNPCにも干渉しないとカッツェは誓った。




ここが錯刃大学に近くなく、


そしてこのマンションからその大学へと通う者がおらず、


なにより電子ドラッグが存在しなければ、



その誓いは破られぬはずであった。



★★★

222避難所207の部分 ◆vW6RE9FKJg:2015/01/25(日) 02:47:35 ID:ag6USmQA0

そうして現在カッツェは晴れて電子ドラッグを浴びることになった。
だがカッツェにとって、犯罪欲求を解放するというのは、そよ風で涼むようなものである。
洗脳効果もあるようだが、サーヴァントには効かないのかカッツェは平然としていた。
せいぜい頭の中でうるさい文句が流れている程度であろうか。


ただそのプログラム、いやコードキャストそれ自体にカッツェは興味を引かれた。


NPCを洗脳していく効果、このようなプログラムをただのNPCが持っているとは考えにくい。
十中八九このプログラムを手引きした者、おそらくは他のマスターの仕業であろう。
だがはたしてこの青年一人にこんな重大な洗脳プログラムを渡すだろうか。


カッツェは気になり、青年から携帯を奪取しようとした。
だがやはりと言うべきか、令呪の縛りに抗う事は叶わない。


―ルーラーまじ空気読めてないわー


暴行して奪取する路線を変更、カッツェはそのまま洗脳されたふりをしようとする。
だが、それもまた迷ったふりができなかったのと同様にできそうにない。
結局青年の言葉に返答をするだけに徹する。


そうして沈黙が訪れる。
青年もどうしたものかと悩んでいるようだ。
正直カッツェとしても、この空気のままじっと待機するのはあれなので、霊体化して去りたい所だったがそうもいかない。



―だってねぇwwwwこんな面白そうなものから目を離すなんてないわwwwww



どうも青年は誰かに連絡することにしたそうなので、あのコードキャストがどういった物なのかを考える。


実際に浴びたから言えるが、犯罪欲求解放のついでにHALへの服従を促すように設定されていると考える。
いやそれともHALへの服従の方が本分で、犯罪欲求解放の方がおまけなのだろうか?
どうも頭の中で騒いでいる言葉は他のNPCを機会を見つけ電子ドラッグを浴びせようとしているみたいだが。


(…よくわかんねwwwwwミィ、ルイルイみたく機械に詳しいわけじゃないしwwwwww)


それに加えて手元に実物がないのだから、何をどうしたって答えが見つかるはずもなし。
本来ならメールを通して電子ドラッグが送られるようだが、メールの交換という行為自体やってないのだから手にする手段もなし。
おそらく青年が「メールアドレス交換しよう」と言ったら、すんなり行動できるのだろうが、こちらの奇行からその行為を躊躇ってしまっているようである。


(つくづくルーラー空気読めてないわ)


いや、むしろこの場合ルーラーの目は節穴なのだろうか。
もしこの電子ドラッグとやらが服従させた者、全てに配られているとするなら。


(ここいら一体のNPCはwwwwみぃんなwwwこのHALって奴に支配されてるかもですねwwwwwwww)


思わぬネタの到来にカッツェは狂笑を浮かべる。
言うなれば自分は宝箱の鍵を見つけたようなものだ。
さてどう立ち回れば、宝箱本体までたどり着けるだろうか。



カッツェはしばらく考えてみることにした。

223修正部分 ◆vW6RE9FKJg:2015/01/25(日) 02:52:19 ID:ag6USmQA0
避難所>>208
『…あのサーヴァントがNPCに偽装できると知った時点で、私はNPCたちに定時連絡をするよう指示しておいた
 定刻通り全員から連絡がきたが、一人妙な反応をしたNPCと接触している
 結局電子ドラッグへ組み込まれている暗示通りの動きをしたようだが、それに至るまでの経緯が妙らしい』

『…あのサーヴァントがNPCに偽装できると知った時点で、私はNPCたちに定時連絡をするよう指示しておいた
 定刻通り全員から連絡がきたが、一人妙な反応をしたNPCと接触している
 奇行をしでかしたり、こちらから話さない限り黙りこくっていたり、ただただ奇妙らしい』
へ変更

避難所>>209
カッツェはメールを開いて、軽く眉をしかめた。
メールには以下のように記してあった。


『新たなる同志よ、君を私は歓迎しよう
 だが、君が電子ドラッグを浴びた際に起こした奇行というものが気掛かりでならない
 故にこれより他の同志を使って、君を監視させてもらう
 行きたい方向があるのならば、私のメールアドレスを通じてそれを伝えたまえ』


これは単なる建前に過ぎない。
実際は自身を近くに置き、そして監視することにある。
おそらくこのプログラムの創造主、HALとやらは自身が本当に洗脳されているのかどうかを訝しんでいるのだろう。



―まぁ実際ミィでも疑うわwwwwwww


青年が何者からかの連絡を受けしばらくすると、別のNPCが現れた。
別のNPCといくつか会話すると青年はそのままマンションの中へと去って行った。


―監視役交代って感じですかwwwwwww


まぁ自分でも監視役つけるわ、とカッツェは納得した。
むしろあれだけの奇行をしでかしたサーヴァントを野放しにしたら、それこそ拍子抜けである。


ふと目の前に携帯電話を突きつけられていることに気づく。
画面を見ろという事だろうか。
感じ悪wwwと思いつつ、おとなしく画面を見てみる。

そこにはメールが開いており、以下のように記してあった。


『新たなる同志よ、君を私は歓迎しよう
 だが、君が電子ドラッグを浴びた際に起こした奇行というものが気掛かりでならない
 故にこれより他の同志を使って、君を監視させてもらう
 行きたい方向があるのならば、私のメールアドレスを通じてそれを伝えたまえ』


メール本文の最後には、このメールの送り主のアドレスが記されている。
ありがたくメールアドレスを自分の携帯電話に記録しつつ、考える。

へ変更

224修正部分 ◆vW6RE9FKJg:2015/01/25(日) 02:58:06 ID:ag6USmQA0
状態表はカッツェの状態に「ルーラーの令呪によりNPCへの干渉不可」の文を追記し忘れてたので追記してくれたらありがたいです
それ以外での状態表の修正点はないと思います。
ただカッツェのNPCへできる行動とできない行動を載せた方が良い場合は修正します。

一応これで修正部分の投下は終了です。
引き続き、問題点がある場合は指摘よろしくお願いします

225 ◆A23CJmo9LE:2015/01/25(日) 14:53:31 ID:nyMxHgfM0
修正お疲れ様です。
私はこれで問題ないと思います

226サイバーゴースト名無しさん:2015/01/25(日) 15:35:13 ID:29lfuaSU0
修正乙です。
問題ないと思います。

227 ◆OSPfO9RMfA:2015/01/25(日) 20:30:28 ID:UIyZ36Vs0
修正お疲れ様です。
実体化不可の件に関しては了解しました。

修正前は「受動であるのならばNPCに干渉しても良い」と解釈ができなくもない状態でしたので、「意図的にNPCに干渉しようとすると強制的に制止が掛かる」修正案なら問題ないと思います。

228 ◆IbPU6nWySo:2015/01/26(月) 07:58:33 ID:uiXN1ZnE0
修正乙です。問題ないと思います。

229本スレ『私ではなく、オレが殺す ◇/D9m1nBjFU』の指摘:2015/03/11(水) 02:26:52 ID:UEdjIpww0
エミヤは恨み辛みで人を殺せないキャラクターであり、「復讐騎」という言葉から最も遠い位置にいます。
八つ当たりできる唯一の例外が自分である士郎であって、それすら優先順位は高くない。
凛の死に感じ入るものはあるだろうし諸々の危険要素からナラク打破は推奨はするでしょうが、それ(凛の死)を動機とするのはあり得ないと言い切っていいです。
なので>>267の「内心でエミヤは上手く行った〜」以降の復讐云々の部分だけ抜けば解決する問題であると考えています。
あと、怒りを感じること自体は間違ってないのでタイトル変更の必要性は薄いと判断します。

230 ◆/D9m1nBjFU:2015/03/11(水) 07:31:43 ID:Bo7oVvUQ0
ご指摘ありがとうございます
確かにその通りですね、後ほど該当部分を修正したものを投下いたします

231 ◆/D9m1nBjFU:2015/03/11(水) 14:42:55 ID:Bo7oVvUQ0
これより指摘にありました本スレ>>267の修正投下をいたします

232 ◆/D9m1nBjFU:2015/03/11(水) 14:45:42 ID:Bo7oVvUQ0
「やはり、同盟ないし休戦協定を結ぶしかないか。
だが今はまずNPCからの成果報告を受けておこう。予定より遅くなったが急げば間に合うだろう」
「承知した、確かに情報が十分に揃わないまま動くのは危険すぎる。
だが気をつけてくれ、夜になれば好戦的なマスターも活発に動き出すことは間違いない」



(アサシン、貴様は勝つために、少なくとも戦術的には正しい行動を取った。
凛を殺したのだとしても切嗣のサーヴァントであるオレにそれを咎める資格はない。
だが、お前はたった一つだけ大きなミスを犯した)

エミヤはアサシンの行動が合理的な判断の下行われたものであることを悟っていた。
凛がルールの穴を突いてサーヴァント不在でも生き残れる状況下にあるのならいずれ使い捨てにされるという懸念を抱いたとしてもおかしいことは何もない。
そうなる前に魔力を奪うだけ奪い殺すのは一見して完璧で無駄のない戦略に思える。
が、一つだけ大きな穴がある。

(それは衆目の目が集まりやすいあの場、あの瞬間に裏切りを働き大魔王を手ずから討ち取ったことだ。
そんなサーヴァントが第三者の目にどう映るかなど自明の理。
不特定多数の人間に恐れられ、信用されず、目の敵にされることが聖杯戦争でどれだけ命取りになるか理解できているか?
我道、理不尽を良しとし傍若無人に振る舞う輩は必ず大衆の定めた道理によって裁かれるんだよ)

それはかつて正義の味方になることを夢見たとある愚か者が辿った末路でもある。
人の道から外れた行為を周りの目も憚らずに行うのはそれだけ潜在的なリスクが高いのだ。
マスターの鞍替えは決して禁じられた行為ではないが、奨励されてもいないのだ。

(恨むなら自らの拙速さを恨むが良い。お前が作った瑕疵は遠慮なく突かせてもらう)

顔には決して出さぬよう内心でのみアサシンへの罵倒を吐き捨てる。
元よりエミヤに遠坂凛を救う手立てなどなかった。何故なら彼は衛宮切嗣のサーヴァントだからだ。
半ば偶然に凛と再契約しただけのアサシンに恨みをぶつけるのは筋違いだと了解しているし納得もしている。
しかしそれを理解していてなお、無力な自分自身への怒りだけは収めるのに今しばらくの時間が必要だった。

233 ◆/D9m1nBjFU:2015/03/11(水) 14:48:10 ID:Bo7oVvUQ0
すみません、状態表も若干修正します

【C-8(北)/ビル応接室/一日目 夜間】

【衛宮切嗣@Fate/Zero】
[状態]毛細血管断裂(中)、腹部にダメージ(中)、魔力消費(小)
[令呪]残り二角
[装備]キャリコ、コンテンダー、起源弾
[道具]地図(借り物)
[所持金]豊富、ただし今所持しているのは資材調達に必要な分+α
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を勝ち取り、恒久的な平和の実現を
1.暗示をかけたNPCに連絡を取り、報告を受ける。
2.アサシン(ニンジャスレイヤー)打倒に向け他のマスターに同盟、休戦を打診する。またこの際アサシン(ニンジャスレイヤー)の悪評を広めておく。
3. 使えそうなNPC、および資材の確保のため街を探索する。
4.好戦的なマスター、サーヴァントには注意を払っておく
[備考]
※この街のNPCの幾人かは既に洗脳済みであり、特に学園には多くいると判断しています。
※NPCを操り戦闘に参加させた場合、逆にNPCを操った側にペナルティが課せられるのではないかと考えています。
※この聖杯戦争での役割は『休暇中のフリーランスの傭兵』となっています。
※搬入業者3人に暗示をかけ月海原学園に向かわせました。昼食を学園でとりつつ、情報収集を行うでしょう。暗示を受けた3人は遠坂時臣という名を聞くと催眠状態になり質問に正直に答えます。
※今まで得た情報を基に、アサシン(吉良)とランサー(エリザ)について図書館で調べました。しかし真名まではたどり着いていません。
※アーチャー(エミヤシロウ)については候補となる英霊をかなり絞り込みました。その中には無銘(の基になった人)も居ます。
※アーチャー(アーカード)のパラメーターを確認しました。
※アーカードを死徒ではないかと推測しています。
そして、そのことにより本人すら気づいていない小さな焦りを感じています。
今のところはニンジャスレイヤーへの危機感で鎮静化しているようです。

【アーチャー(エミヤシロウ)@Fate/Stay night】
[状態]身体の右から左に掛けて裂傷(大)、右腕負傷(小)、右肩負傷(小)、左足と脇腹に銃創(小)、疲労(中)、魔力消費(中)
[装備]実体化した時のための普段着(家主から失敬してきた)
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:切嗣の方針に従い、聖杯が汚れていた場合破壊を
1.切嗣に従いアサシン(ニンジャスレイヤー)を確実に倒す。
2.出来れば切嗣とエミヤシロウの関係を知られたくない。
[備考]
※岸波白野、ランサー(エリザ)を視認しました。
※エリザについては竜の血が入っているのではないか、と推測しました。B-4での戦闘を見てその考えを強めました。
※『殺意の女王(キラークイーン)』が触れて爆弾化したものを解析すればそうと判別できます。ただしアーチャーが直接触れなければわかりません。
※身体の裂傷以外は霊体化して魔力供給を受けていれば比較的早く完治します
※バーサーカー(黒崎一護)の仮面の奥を一瞬目撃しました。
※B-4での戦闘(鬼眼王バーン出現以降)とその顛末を目撃しました。
※アサシン(ニンジャスレイヤー)について単独行動、反骨の相のスキルを持っているのではないかと推測しています。
またマスターの殺害が決定打にはならないと認識しています。

[共通備考]
※C-7にある民家を拠点にしました。
※家主であるNPCには、親戚として居候していると暗示をかけています。
※吉良吉影の姿と宝具『殺意の女王(キラークイーン)』の外観のみ確認しました。宝具は触れたものを爆弾にする効果で、恐らくアサシンだろうと推察していますが、吉良がマスターでキラークイーンがサーヴァントだと勘違い。ただし吉良の振る舞いには強い疑念をもっています。


※黒崎一護を『仮面をつけた』『黒刀の斬魄刀を所持する』『死神』と認識しました。
※ルリ、キリコ、美遊についての認識については後続の書き手にお任せします。
※レンタカーは図書館付近の駐車場に停車してあります。

234 ◆/D9m1nBjFU:2015/03/11(水) 14:48:58 ID:Bo7oVvUQ0
以上です
他にもご指摘等ありましたらお願いします

235サイバーゴースト名無しさん:2015/03/11(水) 20:02:02 ID:ESTdwvr.0
修正乙です
これで問題ないかと思います

236サイバーゴースト名無しさん:2015/03/11(水) 21:34:49 ID:chm0dcB20
修正乙です。
私も問題無いと思います。

237 ◆ysja5Nyqn6:2015/05/08(金) 00:31:29 ID:LT2LNYmE0
これより予約分を仮投下します。

238remorse ◆ysja5Nyqn6:2015/05/08(金) 00:32:27 ID:LT2LNYmE0


     02-a/ ◆ザ・バトル・コンティニュエーション サイド・A◆


 午前零時が近づく。
 聖杯戦争本戦の一日目が、ようやく終わろうとしている。
 ここ冬木市深山町の夜景は、未だ眠らぬモータルたちの民家の明かりによって、どこか夜空の星めいて瞬いている。
 これが新都であれば、街は夜通し営業するバーやクラブのネオン看板に照らされ、貪婪なブッタデーモンの宝石箱めいた幻想的な光景となっていることだろう。

 ネオサイタマと比べれば、冬木市の夜は実際静かだ。
 ネオサイタマほどサイバネ技術が発達している訳でもなく、夜空を泳ぎ回るマグロツェッペリンの広告音声もない。
 しかし人影が完全に消えたわけではなく、夜街を練り歩くモータルたちの喧騒、POWPOWPOWと響き渡るクラクションの騒音など、完全な静寂を迎えることはない。
 それでもサツバツとしたマッポーの世に生きてきたモータルたちからすれば、この街はまるで楽園めいた世界に思えるだろう。……安穏な。

 如何にマッポーとは程遠い世であっても、街の明かりが絶えず、完全な静寂が訪れぬように、“闇”がなくなることも、またない。
 実際、28組ものマスターとサーヴァントによる血で血を洗う聖杯戦争は、この一見平穏な日常の裏側で行われているのだから。


「――――Wasshoi!」

 そんな日常の裏側。闇の一ヶ所であるビルの屋上の一角に、赤黒い装束の影――ニンジャスレイヤーが前方回転しながらしめやかに降り立った。
 ニンジャスレイヤーは立膝状態でコンクリート屋上に着地すると、ゆっくりと身を起こし直立不動の姿勢を取る。

「ドーモ、足立=サン。オヌシには今すぐ森林へと潜伏してもらう。急ぎ備えよ」
「ホントいきなりだね。深夜にはまだ早いと思うけど……」
 物陰からそう答えるのは、ニンジャスレイヤーの現マスターである足立透だ。
 彼はニンジャスレイヤーが戻ってくるまでの間、ずっとこの屋上の奥ゆかしい一角で暇を持て余していた。

「無駄話をする気はない。備えぬのであれば、そのままオヌシを森林へと潜伏させるぞ」
「はいはい、わかりましたよっと。
 ……まったく、少しはこっちの状態も考えてほしいんだけどね」
 グチグチと文句を垂れ流しながらも、足立は痛みに悶えながら荷物を纏めていく。
 応急処置こそしてあるとはいえ、ニンジャスレイヤーによって負わされた傷は全く癒えていない。正直に言えば、動くのも億劫だった。
 だがニンジャスレイヤーへと目を向ければ、既に自分から背を向け、ビルの端で街を監視している。手伝う気はないのだ。足立も期待していない。

 自分は所詮、繋ぎでしかない。もし自分よりも条件の良いマスターが見つかれば、アサシンはあっさりと自分を切り捨てるだろう。
 それこそ、己がマスターとなったあの少女を殺し、自分を脅してキャスターとの契約を切らせ、再契約を迫ったように。

 ――――だが、それならばこっちにも考えはある。
 と足立は思考を巡らせる。

 ニンジャスレイヤーは確かに怖い。実際コワイ。
 アサシンというクラスにありながら三騎士級の戦闘能力を有し、単独行動に加え戦闘続行スキルまで持っている。
 更にはナラクと呼ばれるもう一つの人格により、たった一画しかない令呪では行動を縛りきることすらできない。
 下手にニンジャスレイヤーに逆らえば、自分はほぼ確実に始末されるだろう。

 ―――だが。それならばこう命じればいい。
    自分の首を撥ねて自害せよ、と。

 たとえ幾つも人格を持っていようと、体と命は一つだけ。
 そしていかな単独行動スキル、いかな戦闘続行スキルを持とうと、首を撥ねられて生きている生物はいない。
 もし首を撥ねられても生きている者がいたならば、そいつは間違いなく化け物だ。
 だがニンジャスレイヤーは狂人ではあっても怪物ではない。首を撥ねられれば確実に死ぬ!

 ……問題は、考えなしにアサシンを自害させたところで、自分も巻き添えになって死ぬ、という事だ。
 この方舟では、サーヴァントとの契約を失ったマスターは消去されて死ぬ。多少の猶予こそあるだろうが、それもそう長くはないだろう。
 つまりニンジャスレイヤーを自害させるのであれば、その変わりとなるサーヴァントを見つけなければならないのだ。
 そして当然、それはニンジャスレイヤーよりも扱いやすいサーヴァントでなければいけない。ニンジャスレイヤーよりも厄介なサーヴァントと契約してしまっては、本末転倒だからだ。

239remorse ◆ysja5Nyqn6:2015/05/08(金) 00:32:56 ID:LT2LNYmE0

 詰まる所これは、自分とニンジャスレイヤーのどっちが先に、より良い契約相手を探すかという戦いなのだ。
 …………だが。

「ま、今はどうでもいいか」
 どうせ世の中クソだらけだ。どう足掻いたってなるようにしかならない。
 足立はそう呟くと防寒着を重ね着し、食料の中からキャベツを取り出し、葉を一枚毟り取って齧った。

 どうせこれから森に潜伏するのだ。マスターどころかNPCとの遭遇すら怪しくなるだろう。
 ならば今は、このロクに動かない身体を少しでも回復させるべきだ。

 そう胡乱気に考えながら、視線を上の方へと移す。
 見上げた夜空には、もうすぐ中点へと差し掛かろうとする大きな満月が浮かんでいる。
 地上よりは近くても、月との距離はなおも遠い。
 それがまるで、今の自分の状況を物語っているかのように思えて、何故か少し笑えてきた。

「ハッ…………」
 堪えることもせず、再度小さく嘲笑を溢した――――その時だった。
「うん? 鳥……いや、コウモリ?」
 空に浮かぶ満月に、奇妙な影が差しかかった。


    ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ――――より良い契約相手を探すかという戦い。
 足立のその考えを、ニンジャスレイヤーもまた当然のように理解していた。

 如何にペルソナ・ジツを使えるといっても、現在の足立は魔力が枯渇し、両膝が破壊され重傷を負っている。
 そして当然、その傷を負わせ、威して無理矢理契約させたニンジャスレイヤーを憎んでいる可能性もある。
 つまり足立には、自身の延命以外にニンジャスレイヤーに協力する理由がないのだ。
 もしニンジャスレイヤーより都合のよいサーヴァントがいれば、足立はニンジャスレイヤーとの契約を絶ち、そのサーヴァントと契約しようとするだろう。
 無論、そうそう都合よくそんなサーヴァントがいる筈もないし、両膝が破壊された足立は碌に身動きが出来ず、自分で探すこともできない。
 より良い契約相手を探すというこのイクサは、ニンジャスレイヤーに圧倒的に分があるのだ。

 ――――だが、ニンジャスレイヤーにとって、足立とのイクサは実際どうでもよいものだった。
 何故なら、今のニンジャスレイヤーにとって重要なのは、たった二つの目的だけだからだ。
 すなわち、如何にしてしんのすけを死に追いやったアサシンをスレイするかという事と、
 聖杯戦争を勝ち残り、聖杯の力でしんのすけを生き返らせ、その後に聖杯をスレイするという事のみだ。
 ましてやニンジャスレイヤーがマスターとして認めたのはしんのすけただ一人。それ以外の者では、どれだけマスターとして優れていようと価値はない。

「――――――――」
 そしてその二つの目的のために、ニンジャスレイヤーはビルの縁に足を掛け、遠く、錯刃大学の在る方位を見据えていた。
 そこでは今、サーヴァントによるイクサが起きている。この仮の潜伏場所に戻る直前に始まったイクサだ。

 ニンジャスレイヤーがそのイクサに気づけたのは、強いカラテの反応が二度続けて生じたからだ。
 おそらくは令呪によるもの。マスターが何らかの理由で令呪を使用し、相手もそれに応対して使用したのだろう。
 その結果、強いカラテの反応が二度生じたのだ。

 それを偶然にも感じ取ったニンジャスレイヤーは、急ぎカラテを感じた場所を確認し、即座にこの潜伏場所へと戻ってきた。
 この周辺地域で起きたサーヴァントのイクサ。それには、あのアサシンが高い確率で関わっている可能性がある。
 いや、あのアサシンの性格を考えれば、たとえ自身とは無関係であっても、イクサ場を引っ掻き回すために横槍を入れてくる可能性があるだろう。
 ゆえにニンジャスレイヤーは、次の潜伏場所となる森林へ足立を運び、急ぎあのイクサ場へと戻らなければならなかった。

 ……本音を言えば、足立を放置してでも今すぐにイクサ場に向かい、アサシンを探したかった。
 だがニンジャスレイヤーはそうするわけにはいかなかった。
 何故なら、いかに可能性が高くとも、しんのすけを殺したアサシンが現れない可能性もあるからだ。
 そしてその場合、状況によっては戦いを避け、今後のイクサのためにダメージの回復に努める必要があった。
 そんな状態で、現マスターである足立を失う訳にはいかなかったのだ。
 いかに単独行動スキルを持っていようと、マスターの有無による差は大きい。カラテを大きく消耗している今の状態ならばなおさらだ。

240remorse ◆ysja5Nyqn6:2015/05/08(金) 00:33:29 ID:LT2LNYmE0

 加えて言えば、あのアサシン自身のカラテ能力も強力だ。すでに弱点を知っているとはいえ、真正面から挑むのは非常にアブナイ。
 アサシンを確実にスレイするには、最初のアンブッシュであの弱所を破壊する必要がある。
 つまりニンジャスレイヤーは、アサシンより先にエントリーしてはいけないのだ。
 それはすなわち、あのイクサ場で長時間ヘイキンテキを保つ必要があるかもしれないということだ。
 そんな状態で、自身の弱所である足立を放置するわけにはいかなかったのだ。

 故にニンジャスレイヤーは、チャドーの呼吸でセイシンテキを強く保ちながら、静かに足立の準備が終わるのを待っていた。
 フーリンカザン。より確実にアサシンをスレイするためにも、今はイクサに備えるのだと、そう自身に言い聞かせながら。



 そうしてニンジャスレイヤーは、足立が移動する準備を終えたことを気配から察すると、しめやかに振り返った―――その時だった。
 ニンジャスレイヤーのニンジャ聴力が、何かが砕けるような音を捉えた。
「ヌッ!?」
 即座にその音源へと振り返り重点確認。常人を遥かに凌ぐニンジャ眼力が、ほんの僅かな、空へと昇る土煙を捉える。
 即座に視線を空へと移せば、視界に映るのは月に差し掛かった一つの人影。
 その翼を持った人影が、その手から何かしらの物体を投げ放ったのを視認する。その狙いは……この屋上!
 何たるアンブッシュか! ニンジャスレイヤーは即座に足立の元へと駆け戻る!

 KRAAAAAASH! 遥か上空から投擲された物体が屋上の床に突き刺さり、その衝撃が周囲の構造物を吹き飛ばす。
 奥ゆかしかった屋上の一角の床が砕け散り、一瞬で荒れ果て開けた場所へと変わり果てる。
 そこにいたニンジャスレイヤーと足立もまた、瓦礫と諸共に吹き飛ばされる……否! ニンジャスレイヤーは足立を米俵めいて担ぎ上げ、屋上の端へと素早く飛び退いている。

「グワッ……ッ!? クソッ、いったい何だってんだよ!?」
 突然のインシデントに、足立は混乱の極みだ。
 だがそれに構うことなく、ニンジャスレイヤーは注意深く飛来物を確認する。
 砕かれた屋上の床に突き立つそれは、ニンジャスレイヤーにとって実際見覚えのある槍だった。

「ようやく見つけたわ、アサシン」
 ゴウランガ! 遥か上空からアンブッシュを行なった下手人が、空から槍の柄に降り立った。
 少女だ。血のように紅い髪、華奢な体格、マイコめいた衣装、そして平坦な胸をした少女だ。
 しかしこの少女からは……ナムアミダブツ……少女の身体からは、デーモンめいた紅い巻き角、白い皮膜の両翼、滑らかな鱗を持つ尻尾が生えていた!
 何たる異質的光景か! 少女はあからさまにサーヴァントなのだ!

 紅い少女は槍の柄から砕けた屋上へと降り立つと、その腕に抱えていた青年を屋上へと降ろした。
 少女がサーヴァントならば、この青年はマスターだ。
 マスターの青年は、一見ではどこか個性に乏しい風貌だが、その瞳には確かな意思が宿っている。
 その強い意志の宿った瞳で、臆することなく、まっすぐにニンジャスレイヤーを見据えている。

 ……ニンジャスレイヤーは、紅い少女の事も、その青年の事もよく知っていた。
 それも当然。何しろほんの数時間前に別れたばかりなのだから。

「さあ、今度は逃がさないわよ」
 険呑なアトモスフィアを纏いながらそう言うと、紅い少女は屋上に突き刺さった槍を抜き放ち、逆手に構えた。
 ランサーのサーヴァントとそのマスター――――殺戮者たちのエントリーだ!


     01/ 行動原理/癒えない疵痕


 赤黒のアサシンを警戒しながらも、ウェイバーの後に続いて彼の住むマンションへと向かう。
 たとえ魔術的な防備がなくとも、屋内であれば休息も取れるし、襲撃される可能性も下がるはずだ。
 無論、凛が遠坂邸で襲われたことを考えると絶対とは言えないが、屋外にいるよりはましだろう。

「……………………」
 ――――――――。
 マンションへ向かう道中に会話はなく、重い沈黙が続いていた。
 アサシンの一件が尾を引いているのか、なかなか話題を切り出せないでいるのだ。
 だからだろう。岸波白野の脳裏には、遠坂凛のことばかりが浮かんでいた。


 守れると思っていた。
 それが決して楽な道でないことは解っていた。
 幾つもの困難が待ち構えていることなど、最初から想像できていた。
 それでも自分は、彼女を守れるのだと信じていたのだ。
 …………けれど。

241remorse ◆ysja5Nyqn6:2015/05/08(金) 00:34:16 ID:LT2LNYmE0

 凜を守れなかった。
 ランサーとの約束を果たせなかった。
 この手で守ると誓ったのに、目の前で見殺しにしてしまった。

 油断……いや、慢心していたのだ。
 月の聖杯戦争を勝ち残ったという事実が驕りを生み、自分に力がないことを忘れさせたのだ。
 その結果が、遠坂凛の死だ。
 自分に出来ることを見誤ったために、岸波白野は、守るべきものを取りこぼしたのだ。

 いったい自分はどうすればよかったのか。
 あの時アサシンをもっと警戒していれば―――
 それともルーラーの要請に従わず、撤退すれば―――
 あるいはランサーたちとともに、キャスターの陣地へ乗り込んでいれば―――
 もしくはキャスターへと攻め込まず、最初から令呪による令呪破りを行っていれば―――
 …………いやそもそも、自分と出会いさえしなければ、凛もランサーも死なずに済んだのではないか?

 後悔は、轍に咲く花のように。
 もはや覆せないその結末が、そんなありもしない“if(もし)”を連想させる。


 ――――だからそれは、やはり奇跡だったのだろう。


 不意に、誰かに呼ばれたような気がした。
 どこか聞き覚えのある声。
 気のせいかとも思ったが、エリザも戸惑うように立ち止まっていた。

「ねえ子ブタ。今のって……」
 エリザの問いに頷く。
 彼女も感じ取ったのであれば、これは気のせいではない。
 すぐさま神経を張り巡らせ、注意深く周囲の様子を探っていく。

 ……サーヴァントの気配はない。魔力の反応もない。そもそも何の反応も感知できない。
 感じ取れるのは、ウェイバーとバーサーカーのそれだけだ。
 だからこれは、もっと別の何かだ。それがきっと、自分たちを呼んだのだ。

 その呼び声の正体を探ろうと、より注意深く、慎重に周囲を見渡していく。
 …………だが周囲には自分たち以外何の人影も、違和感やおかしな点も見受けられない。

「おい、いきなり立ち止まってどうしたんだよ」
「なになに? 変な電波でも受信しちゃった?」
 足を止めた自分たちに気付いたウェイバーたちが、怪訝そうに声をかけてくる。
 それで気付く。

 ――――これは違う。肉声によるものではない。
 あの声は念話のように、内側から響いたものだ。

 周りからの情報を遮断するように目をつむり、自分の内側へと意識を向ける。
 そうして数秒か、数十秒か、あるいは一分近くたった時、

『                』

 ―――先ほどと同じ呼び声が、確かに脳裏に響いた。

 即座に目を見開き、“声の聞こえた方”へと注視する。
 するとその瞬間。

「Wasshoi!!」

 民家の屋根へと飛び乗る、赤黒の衣装を纏った人影が見えた。
 間違いない。アサシンだ。
 互いの距離は遠く、そのためか、アサシンはこちらに気付くことなく屋根の上を走り去っていった。

 ……しかし、アサシンを追うことはできなかった。
 気配遮断スキルの影響だろう。その姿は視界に写っているというのに、気配をまるで感じられなかった。
 そのため、その姿が建物の陰に遮られたほんの一瞬で、アサシンを見失ってしまったのだ。
 だがアサシンがいたということは、この場所に何かしらの目的があったという頃だ。
 その手がかりを得ようと、アサシンが飛び足してきた地点へと向かう。

「ここって、しんのすけの……」
 そうしてそれを見たウェイバーが、そんな風に呟いた。

 アサシンが飛び出してきた場所にあったのは、一軒の民家。
 その家の表札には『野原』という苗字と家族の名前が書かれており、そしてその中に、しんのすけの名前があった。
 それが意味することは一つ。
 この家が、アサシンの本来のマスターであった子供――しんのすけの住んでいた家なのだ。

242remorse ◆ysja5Nyqn6:2015/05/08(金) 00:35:40 ID:LT2LNYmE0

 ……家の中からは男性と赤ん坊の泣き声が聞こえる。
 アサシンがどういった目的でこの家に立ち寄ったのかはわからない。
 だがその声からすると、『魂喰い』のために襲った、というわけではないようだ。
 ――ならこの場所で自分ができることは何もない。
 野原家に背を向けて、アサシンが去って行った方へと向き直る。

「お、おいお前! どこ行く気だよ!」
 岸波白野の行動の意味に気付いたのだろう。ウェイバーは驚いたように、そう声を荒げた。

「アサシンを追うつもりか? どう考えたって無理だ。あいつは気配遮断スキルを持ってるんだぞ! 見けられるわけない!
 それにもし見つけられたとしても、今の状態であいつと戦って勝てるのかよ!?」
 ウェイバーの言葉は、自分を心配してのものだ。

 確かに彼の言った通り、アサシンを見つけられる保証などない。
 落ち着いて冷静に考えれば、そんなことは不可能だ。
 相手はアサシン。気配遮断スキルを有する、隠密行動を得意とするサーヴァント。
 加えて昼間でならばともかく、今は夜。闇に紛れる暗色の衣装の人間を見つけ出すのは困難極まる。
 ましてや相手はサーヴァント。霊体化してしまえば視認すら不可能になる。
 そんな彼らを、手掛かりの一切ない状態で見つけ出すことなど出来るはずがない。
 それにそもそも、もし仮にアサシンを奇跡的に見つけ出せたとして、その時一体どうするのかという答えも、今の岸波白野にはない。
 …………だが、それでも――――

   1.ウェイバーに従う
  >2.アサシンを追いかける

「お前…………」

 一歩強く、前へと踏み出す。
 確かにアサシンに対する怒りはある。
 だが自分がアサシンを追いかける理由は、決して怒りではなく、

 ―――敗北を、認められない。

 あの時懐いたその感情が、こうして岸波白野を突き動かしている。

「それでこそ私の子ブタ(マスター)よ。諦めの悪さなら誰にも負けないものね」
 背中を押すようなエリザの言葉。
 そう。あの月の聖杯戦争で――そして月の裏側で、それだけは決してできなかった。
 諦めないこと。
 それだけが、岸波白野の誇りだった。
 だからたとえ、それがゼロに等しい確率だったとしても、そこに可能性がある限り、諦めることだけはしたくなかった。

「……………………」

 それに、まったく手がかりがないというわけではない。
 アサシンの現マスターである足立透は重傷を負っていた。あの重傷ではそう遠くには行けないはずだし、足立が自力で動くのも難しいだろう。
 そしてさっき見たアサシンは足立透を連れていなかった。こんな近場に重傷のマスターを匿うはずがないし、長時間放置するなんてことも普通はあり得ない。
 それらを踏まえて考えれば、アサシンが向かった先に足立透が匿われている可能性は高い。
 アサシンと足立透の関係を鑑みれば絶対とは言えないが、探す価値は十分にあるはずだ。

 それに時間が経ってしまえば、アサシンは足立を別の場所に匿うかもしれない。
 手がかりが全くない以上、今を逃してしまえばアサシンはそれこそ見つけられなくなる。
 アサシンを探すのなら今しかないのだ。

「それは……けど……」

 手伝ってくれとは言わない。
 アサシンは強力なサーヴァントだ。たとえここにいる全員で戦っても勝てるかはわからない。
 ましてやウェイバーは、バーサーカーの能力によって大きく魔力を消耗している。もし戦闘になれば、彼には相当な負担がかかるだろう。
 ……いや、アサシンと戦わずとも、バーサーカーを維持するだけで今のウェイバーには辛いはずだ。
 ……それにそもそも、これは自分のわがままでしかない。そんなものに無理に付き合う必要はないのだから。

「あ、おい! 待てよ……!」

 そうして岸波白野は、ウェイバーの静止の声を背に、アサシンが去って行った方向へと駆け出した。
 その右手に、凛の形見であるアゾット剣を握りしめながら。

243remorse ◆ysja5Nyqn6:2015/05/08(金) 00:36:20 ID:LT2LNYmE0


      †


「あ、おい! 待てよ……!」
 そんな自身の声を無視して走り去っていった二人に、ウェイバーはただ手を伸ばすことしかできなかった。
「あらら、行っちゃった。どうする、ウェイバータたん?」
 同じように彼らを見送ったバーサーカーが、そう茶化すように訊いてくる。

「どうするって、何をだよ」
「だからぁ、はくのんたち追いかけないのかって聞いてんの。早くしないと見失っちまうぜ?」
「な、なんで僕があいつらを追いかけないといけないんだよ」

 バーサーカーの言葉に、ウェイバーは動揺したように返す。
 確かに今から追いかければ追いつけないことはないだろう。
 アサシンと戦うにしても、白野たちだけよりは自分たちも一緒に戦った方が有利のはずだ。
 だが、自分に追いかけなければいけない理由はないはずだ。
 彼らとは決して仲間になったわけではないのだし、別に手伝ってくれと頼まれたわけでもないのだから。

「けどよ、あのまま放っておいたら、下手すりゃあいつら死ぬぜ?」
「っ…………!」

 『死ぬ』という言葉に、ウェイバーは再び動揺を表す。
 しんのすけと、遠坂凛。目の前で殺された、まだ幼い子供たち。
 今のウェイバーにとって、“死”とはその二人を連想させるものだった。
 その二人と同じように、岸波白野たちも死ぬかもしれないとバーサーカーは言っている。

「だ、だから何だって言うんだよ! これは聖杯戦争だ! 負けたヤツが死ぬのは当たり前のことだろ!」
 そう、当たり前のことのはずだ。
 だというのに、なぜ自分はこんなにも動揺しているのか、ウェイバーにはわからなかった。
 自分が殺されそうになっているのならまだわかる。情けなくはあるが、それは当然の反応だ。
 だがなぜ、出会ったばかりで、ろくに話してもいない人間の死に、ここまで動揺しているのだろう。

「あいつらがどうなろうと知ったことか! 誰が何と言おうと、僕は絶対に追いかけないからな!」
 たとえ岸波白野が死んだとしても、それはアサシンを追いかけた彼らの自己責任だ。
 だから彼らがどうなろうと、自分には何の関係もない、とウェイバーは自分に言い聞かせる。
 脳裏に浮かぶ二人の子供の姿。それを振り払って、懸命に意地を張る。……だが。

「あっそ。まあウェイバーたんが追いかけなくても、俺ちゃんは追いかけちゃうんだけどね! だってその方が面白そうだし!」
「は、はあ!?」
「んじゃ、先に行ってるからねー!」

 ウェイバーの張った意地をまるっと無視して、バーサーカーはその場から消え去った。
 テレポート装置を使用したのだ、とウェイバーが気づいたのは、それから数秒ほど経ってからのことだった。

「ふ――ふざけるなああ! 何を考えてやがりますかあの馬鹿はあああッ!」

 バーサーカーのあまりにも突飛な行動に、ウェイバーは半ば錯乱したように叫び声をあげる。
 思わず再び令呪による呼び戻しをしようかと考えたほどには、頭に血が上っていた。
 それをどうにか堪えたのは、残り二画という令呪の残数ゆえか、それとも別の理由からか。

「ああもうちくしょう!
 確かに今を逃したら、次にアサシンを見つけられるのがいつかはわからない。下手をすればアサシンの方から襲撃してきてアドバンテージを取られる可能性もある。
 それに戦いが避けられないなら、少しでもこっちが有利なうちに倒しておくべきだ。そして戦うのなら、一騎より二騎で挑んだ方がいいに決まってる。
 加えてあの馬鹿が勝手に行動したせいで、僕は非常に危険な状況にある。こんな状態でほかのマスターにでも遭遇したら、何もできずに殺される可能性だってある」

 ウェイバーは自分に言い訳をするように、白野たちを追いかける考えられる限りの理由を口にしていく。
 そうしなければ、自分を納得させられなかったのだ。
 その内心にあるのは、アサシンへ立ち向かうことへの恐怖と、勝手に動き回るバーサーカーへの苛立ちと、そして――――。

「馬鹿にしやがって馬鹿にしやがって馬鹿にしやがって!
 バーサーカーの馬鹿野郎おおおお――――っ!!」

 そうしてウェイバーは悲鳴のような罵声を上げながら、岸波白野を追って走り出した。

244remorse ◆ysja5Nyqn6:2015/05/08(金) 00:38:49 ID:LT2LNYmE0


     02-l/ ザ・バトル・コンティニュエーション サイド・L


 エリザと共に、夜の街を駆け抜ける。
 彼女に抱えられながら、ビルの屋上から別のビルの屋上へと跳び回る。
 あれから一時間近くが経過した。
 アサシンの姿は、影も形も見つけられていない。
 ――――――だが。

「………子ブタ」
 エリザの声に頷く。
 サーヴァントの気配はない。魔力の反応もない。そもそも何の反応も感知できていない。
 だがそれでも、アサシンに近づいているという確かな実感があった。
 理由のわからない、正体不明の直感。
 しかし恐れる必要も、迷う必要もないと、岸波白野の心が告げていた。

 ポケットから携帯端末を取り出し、データとして格納していた魔術礼装を具現する。
 取り出した礼装の名は、『遠見の水晶玉』。使用できるコードキャストは《view_map(); 》。
 月の聖杯戦争での効果は、一定時間アリーナの階層データを全表示させるというも。
 そしてこの聖杯戦争においては、一エリア範囲の地形データと、範囲内にいる存在の簡易的な識別が可能となる。

 コードキャストの使用と同時に、岸波白野を中心として簡易地形図が展開され、その上に無数のマーカーが表示される。
 表れたマーカーは、その地点に何かがいることを示している。たとえば月の聖杯戦争では、マスターとエネミー、そしてアイテムフォルダ、といった具合に。
 当然強大な魔力の塊であるサーヴァントも、反応の違いから識別することが可能だ。
 と言っても、あくまで簡易的にであるため、マスターとNPCの識別は難しく、また霊体化したサーヴァントを捉えることもできない。
 加えて相手はアサシン。たとえ実体化していても、礼装による簡易的な探索など容易く欺けるだろう。
 ここまでの探索で礼装を使用しなかったのはそのためだ。何が起こるかわからない以上、無駄に魔力を消耗するわけにはいかなかったのだ。

 表示されたマーカーの数は、夜中であっても数えきることは難しい。
 そして当然のようにサーヴァントの反応はない。
 だが、今なら何かあるはずだと、マーカーの一つ一つをすばやく確認していく。

 そうして無数のマーカーの中に、たった一つ気になるマーカーを発見する。
 おそらく、何かしらのビルらしき建造物。その屋上に存在するマーカーだ。
 マーカーの反応は、それが人間であることを表している。
 だがこんな時間帯に、たった一人でビルの屋上にいるということが気にかかった。

 ……ならば考える必要はない。元より手掛かりは皆無。気になるモノや場所は、全て調べるべきだ。
 即座にエリザへと指示を出し、そのマーカーが示した場所へと向けて駆け出した。



 ―――そうして岸波白野たちは、その赤黒い影を捉えた。

 双葉商事という会社のビルの屋上。
 その縁で赤黒い影―――アサシンは、どこか遠くを見据えていた。

 ともすれば見逃してしまいそうなその姿は、こうして視認している今も、その気配を感じ取ることが出来ない。
 少しでも視界から外せば、再び視認することは困難だろう。
 そんなアサシンを見つけられたのは、マーカーが示していたビルを確認していた際に、アサシン自身が視覚内に映り込んで来たからだ。
 ……ならばマーカーが示していたのは、アサシンの現マスターである足立透だったのだろう。

 単なる偶然か、まだ距離があるためか、おそらくアサシンはこちらに気付いていない。
 気付いていれば、二人の状態からして即座に逃げ出しているはずだからだ。
 接近するならば、今しかない。

「行くわよ、マスター」
 エリザの呼びかけに頷き、より強く彼女へと抱き付く。

 アサシンの俊敏のステータスは、基本値ではエリザに劣るが瞬発力において勝っている。
 こちらが接近する前に気付かれれば逃げられる可能性が非常に高く、そして追撃戦になれば気配遮断を持つアサシンが圧倒的に有利となる。
 さらに気配を消したアサシンは、《view_map(); 》では捕捉できない。マスターがNPCに紛れてしまえば、『遠見の水晶玉』による追跡も不可能となってしまう。

 故に、自分たちが取る手段は一つ。
 こちらの存在に気付かれるより早く、敵の意表を突く一手を以て、アサシンたちへと接近する。

245remorse ◆ysja5Nyqn6:2015/05/08(金) 00:39:23 ID:LT2LNYmE0

 エリザの背中から、一対の翼が現れる。
 それは本来、人には存在しないモノ。伝説に謳われる、ドラゴンの翼だ。
 エリザベートは無辜の怪物によって魔人化ししている。それ故に、ドラゴンの翼による飛行が可能なのだ。
 とは言っても、それは本来人体に存在し得ないモノ。如何に魔人化していようと、元が人であるエリザでは自在に飛び回ることは出来ない。
 しかし仮にもドラゴンの翼だ。跳躍や滞空の補助として使うには充分過ぎる能力を持つ。

 ―――そう。自分たちが行うアサシンへの一手。
    それは飛行機などを使わぬ限り人間には到達し得ない、遥か上空からの強襲だ。


 エリザが獲物を定めるようにビルの屋上を睨み付け、深く体を沈めて力を籠める。

 ――跳躍にはまだ速い。
 今アサシンに気付かれれば、強襲を掛ける前に逃げられてしまう。
 故に――狙うは一点。町を俯瞰するアサシンの気が逸れる、その一瞬。

 静かに、大きく息を吸い込み、大気を掴むようにその背の両翼を広げる。

 ……なぜ、何のために追いかけてきたのか。
 こうしてアサシンを視認して、ようやくその答えを自覚する。
 同時に―――マスターに呼びかけられたのか、アサシンが背後へと振り返った。

 ――――瞬間。エリザが翼を力強く羽ばたかせ、衝撃とともに飛翔した……!

 直後、岸波白野の身体を凄まじい加重が襲いかかる。
 人ならざるモノの跳躍、その加速による負荷が掛かっているのだ。
 だがそれも一瞬。ただ一度の飛翔によって、エリザは上空100メートルを超えて飛び上がっていた。

「―――見つけた」
 眼下のビルの屋上を見下ろしながら、エリザが静かにそう呟く。
 岸波白野には、既にアサシンを視認できていない。再度発見するには偶然か、見逃しようのない距離で目視する必要がある。
 それはエリザも同じはずだ。ならば発見したのは、同じく屋上にいる筈の、アサシンの現マスターである足立透だろう。
 彼を標的としてか、エリザは己が槍を具現化させると、逆手に構えて大きく振り上げ、屋上目掛けて勢いよく投擲した。そして自身もすぐさま、槍を追って急降下する。

 一瞬、意識が跳びそうになった。
 命懸けのジェットコースター。人間には不可能な、急上昇から即座の急降下。
 地面へと落下する恐怖と肉体にかかる過負荷によって、岸波白野の心身が悲鳴を上げているのだ。
 ……だが、この程度で意識を失うことは出来ない。
 こんなものは、ただ怖いだけ、ただ苦しいだけだ。凛の命を奪った『死』からは遥か程遠い。

「ようやく見つけたわ、アサシン」
 狙い通りに周囲の障害物を吹き飛ばし、屋上を粉砕して突き刺さった槍の柄へと、竜の娘が舞い降りる。
 力任せの強引な陣地作成。この屋上はすでに、彼女が戦う(歌う)ためのステージだ。

 その舞台上へと、エリザは槍の柄から降り立つ。そして自分も、彼女に支えられながら屋上に足を付ける。
 先程の急制動の影響で、思わず体がふらつきそうになる。が、それをただ意地だけで堪え、まっすぐに目前のアサシンを見据える。
 ―――その、背後で。

「さあ、今度は逃がさないわよ」
 冷酷な殺意ともに槍を逆手に抜き構え、ランサーはアサシンへとそう宣告した。


     03/ Sword or Death


 目の前には、赤黒い衣装のアサシン―――凜を殺した、謎のサーヴァントがいる。

「……ドーモ、ランサー=サン、ハクノ=サン」
 彼は足立透を担いだまま、そう小さくお辞儀をする。
 その挨拶に対し、ああ、さっきぶりだね、と言葉を返す。
 エリザは無言だ。先ほどの強襲で、挨拶は既に終わらせたという事だろう。
 だが、きっかけさえあれば、今すぐにでもアサシンへと襲い掛かりそうな雰囲気だ。

 ……アサシンの真名はすでに知っている。その戦い方、その能力も確認した。しかし、その詳細には至っていない。
 MATRIX LEVEL 3。万全を期すには、まだ一手足りない。
 彼がキャスターとの戦いの最後に見せた状態になれば、苦戦することもあり得るだろう。
 ……だが、今はそれでも構わない。なぜなら岸波白野は戦うためではなく、

 ――――貴方を信じ、貴方が裏切った凛に対して、何か言うことはないのか。

 それを訊くためだけに、アサシンを追ってきたのだから。

246remorse ◆ysja5Nyqn6:2015/05/08(金) 00:40:05 ID:LT2LNYmE0



 ―――自分が殺したあの少女に対して、何か言うことはないのか。
 その問いに、ニンジャスレイヤーは答えることが出来なかった。
 言いたいことはあった。
 あれは決して、自分の本意ではなかった。
 自らのニューロンに潜む邪悪な同居人――ナラクが、自らが主導権を握るために少女を殺したのだ、と。

 そう説明をすれば、目の前の少年も納得し、ともすれば許してくれるかもしれなかった。
 過去の遺恨を捨て、自身と契約してくれた少女の協力者だ。可能性は高い。
 ……だがそれは、決して口にしてはならない事だと、自分は許されてはならないのだと、ニンジャスレイヤーは思っていた。

 自分はあの少女を裏切った。
 自分から契約を持ちかけておきながら、信頼してくれた少女の命を、この手で奪ってしまった。
 それは決して許されることではない。もし許されることがあったとしても、自分はケジメすべきだろう。実際、セプク級のケジメ案件だ。
 ……………………だが。

(……しんのすけ……)

 ニンジャスレイヤーは、まだセプクする訳にはいかなかった。
 何故なら自分には、何よりも優先すべき目的があったからだ。
 それはしんのすけを死に追いやったアサシンへの復讐と、そしてしんのすけの蘇生だ。
 己のエゴであるこの二つの目的だけは、どうしても譲ることが出来なかった。
 もしニンジャスレイヤーがセプクするとすれば、それは目的を果たした時か、ナラクに完全に飲み込まれ、完全に邪悪存在へと成り果ててしまった時だけだ。

 故に……ニンジャスレイヤーがランサーたちへと返せる答えは一つ。
 ニンジャスレイヤーは足立透をビルの一角へと米俵めいて投げ飛ばすと、チャドーの呼吸とともにカラテを構えた。
 ランサーたちと戦うつもりなのだ!
 だが、ニンジャスレイヤーはカラテを大きく消耗している。キャスターとの戦いによるダメージも回復していない。状態は非常にアブナイだ。
 もしこのままランサーたちと戦えば、たとえ生き残ったとしても、アサシンへの復讐は困難なものとなるだろう。
 それを理解していながら、それでもニンジャスレイヤーは構えを解かない。
 後悔は死んでからすればよい。
 それが彼らに許しを乞えず、己がエゴのためにセプクもできぬニンジャスレイヤーの、彼らへのケジメだった。
 それに何より――――。

「………全サーヴァント……殺すべし!」

 ショッギョ・ムッジョ。元よりこの聖杯戦争において、全てのサーヴァントは殺し合う定めにあるのだから―――。



 アサシンのその答えを聞いて岸波白野の胸中に浮かび上がったのは、怒りでも憎しみでもなく、悔しさだった。

 月の聖杯戦争と違い、この方舟の聖杯戦争には最低限のルールしかない。
 それが聖杯へと至る手段ならば、大凡あらゆる行いは肯定される。
 無論、アサシンの行いを認めるわけではない。
 だが、どちらが間違っていたのかで言えば、敵であるアサシンを信じた凛と、そしてそれを許した岸波白野なのだ。

 ………けれど。
 それでも自分は、悔しかった。
 別に、その場しのぎの言い訳でも、愚かな自分たちへの侮蔑でもよかった。
 ただせめて、ほんの一言だけでも、凛に対して何かを言ってほしかったのだ。
 だがアサシンが返したのは、静かな戦意だけ。
 全てのサーヴァントを殺すという、聖杯戦争においてごく当たり前の宣告だけだった。


  ――――ランサー。
 と、失意とともにエリザへと声をかける。
 自分は――――

  >1.アサシンと戦う
   2.この場から立ち去る

 彼女の前へと、静かに左手を差し出した。

「本当に良いのね、マスター」
 その問いに、ただ頷きで返す。
「わかったわ。じゃあ、少しだけ我慢してね」
 少し悲しげに、エリザがそう応じた―――直後、

 ――――――――ッ!

 左手に、激痛が走った。
 痛みに明滅する視界の先で、アサシンが驚き目を見開いたのが見える。
 それも当然だろう。何故ならエリザが岸波白野の左手に、強く噛み付いているのだから。

247remorse ◆ysja5Nyqn6:2015/05/08(金) 00:41:57 ID:LT2LNYmE0


 サーヴァントが自身のマスターを傷つけるという異常。当然、それには理由がある。
 もちろんアサシンのような裏切りではない。そもそも岸波白野は、自ら左手を差し出したのだから。
 ならば何故か。

 それは魔力の回復のためだ。
 通常サーヴァントはラインによって、マスターからの魔力供給が成されている。これはその気になれば、その供給量の増加も可能だ。
 ましてや岸波白野は、瞬間的にではあるが、より効率良く魔力供給を可能とさせる礼装も持っている。
 そうでありながら、エリザに直接吸血させた理由は二つ。

 一つは自身の魔力温存のため。
 魔術師の肉体……特に体液には、それなりの魔力が宿っている。
 供給量の増加も、礼装による回復も、結局はマスター自身の魔力を消費している。
 しかし体液交換による魔力回復であれば、さほど自身の魔力を消費することなく相手に魔力を譲渡することが可能なのだ。

 そしてもう一つは、エリザの二つ名が理由だ。
 “鮮血の伯爵令嬢”吸血鬼カーミラのモデルともなった彼女は、他のサーヴァントが行う場合に比べ、吸血による魔力回復の効率が遥かに良いのだ。
 実際その性質は、彼女の持つスキルにも色濃く出ている。

 だが当然、そう何度も使える手ではない。
 吸血を行うたびにマスターが傷付くし、そもそも戦闘中に行うのはほぼ不可能だ。
 ましてや今のように、戦いの直前で行っては、わざわざ隙を晒す様なものだ。
 今回アサシンが攻撃してこなかったのは、こちらの行動に驚いたが故だろう。つまり、次はない。

 岸波白野がそれを承知で行ったのは、アサシンが強敵であればこそだ。
 加えて現マスターである足立の能力も未知数。
 予想外の攻撃に対処するためにも、少しでも魔力は温存しておく必要があったのだ。


 そうして吸血を終えたエリザが、アサシンに向かい前へと踏み出す。
 吸血を行なったからか、その様子は先ほどよりも多少落ち着いていた。

「ねぇアサシン。私は別に、アナタがリンを裏切ったことに関してどうこう言うつもりはないわ。
 私自身、月の裏側では何度もマスターを乗り換えたし、最初のマスターに至っては自分で殺したわけだしね」

 そう告げるランサーの顔に、後悔の色はない。何故なら、エリザベートは“そういう英霊”だからだ。
 鮮血の伯爵令嬢。純粋培養の悪の華。岸波白野が出会った中では、最も残酷で純粋な反英雄。
 ――――だが。

「だから私が怒っているのは別のこと。
 よくも………よくもリンを、ハクノの誓いを踏み躙ってくれたわね! 竜の逆鱗に触れたわよ、オマエ……ッ!」

 彼女は、岸波白野に力を貸してくれている。
 自身の在り方とは反する自分のやり方に、従ってくれている。
 それが自身の贖罪のためだったとしても、こうして自分と凜を理由に、怒りを露わにしてくれている。
 ……それが彼女にとって、どれ程の苦痛となっているのか、岸波白野には推し量ることは出来ない。
 けれど……だからこそ、その思いに応えるためにも……そして、凛の死に報いるためにも……アサシン――ニンジャスレイヤーを、ここで倒す……!

「ステージ・オン! ミュージック・スタート!
 ライブ開始よ。この屈辱の借りは、数十倍にして返してあげる……ッ!」
 エリザ――ランサーが歌う様に口上を述べ、踊る様に槍を構える。
「――――――――」
 それに応じて、アサシンがより深く腰を下ろし、手刀を構える。

 ――――剣か死か(ソード オア ダイ)。
 その決意とともに、岸波白野はランサーへと指示を下した―――。

248クレイジー・コースター ◆ysja5Nyqn6:2015/05/08(金) 00:43:03 ID:LT2LNYmE0


     04/ VSアサシン(cause)


「Wasshoi!」
 初手はアサシン。その高い瞬発力を生かし、ランサーへと一気に接近する。だが。

「最初からクライマックスよ! 鮮血魔嬢の名の意味を、その魂に刻みなさい!」
 ランサーはアサシンを迎え撃つのではなく、己が槍を再び屋上へと突き立てる。
 直後、それを起点として、ランサーの周囲が鮮血に彩られる。
 その鮮血の中から浮かび上がる巨大な城――“鮮血魔嬢(バートリー・エルジェーベト)”。

「ヌッ!?」
 それを見たアサシンの眼が、いきなりの宝具の発動に驚き見開かれる。
 だが、驚いている暇はない。ランサーの宝具は広域に及ぶ超音波攻撃だ。
 しかしランサーへと接近したことにより、回避は出来ない。先手を打ち宝具の発動を阻止するか、堅実に防御するしかない。
 シークタイム・ゼロカウントで判断し、アサシンは決断的に屋上の床を蹴り砕いた。

「“LAAAAAAAAAAAA――――――――――――ッッッッ!!!!!!”」

 周囲の空気全てを飲み込むような吸い込みからの、雷鳴の如き一声。
 それはランサーの背後に出現した、アンプに改造された城によって増幅され、更なる破壊力を伴って解き放たれる。

 キャスターと戦った時とは異なる、ランサーの宝具の完全開放。
 耳を劈く衝撃波は、このビルのみならず周囲のビルにまでおよび、その窓ガラスを粉々に粉砕する。

「アイエエエ!」「ガラス!? ガラスナンデ!?」
 当然、砕け散った窓ガラスは地上へと降り注ぎ、そこにいたNPCたちに被害をもたらす。
 その微かに聞こえる悲鳴を耳にしながらも、岸波白野はまっすぐにアサシンへと視線を向ける。
 アサシンは強敵だ。手加減をする余裕はない。無論わざと巻き込むつもりはないが、周囲への被害を気にしいる余裕もない。
 それにその肝心のアサシンは、

「ヌウーッ……!」
 屋上の一角で、腕を交叉させ耐え切っていた。
 アサシンは咄嗟にグレーター・ウケミを応用し、ランサーの宝具による衝撃を屋上へと受け流したのだ。
 その証拠に、アサシンの足元の床は、周囲と比べて重点的に粉砕されていた。
 だが衝撃波を完全に受け流せたわけではなく、その身体には無数の裂傷が奔り、先の戦いによる傷も開いていた。
 これが“竜鳴雷声”であれば完全に受け流せていたが、より強力な“鮮血魔嬢”を防ぎきることは出来なかったのだ。


 ……予想はしていたが、ランサーの超殺人的、東京ドーム一個分を倒壊させる超音痴攻撃を、耐えたか……っ!
「音波! 超音波! 音速のドラゴンブレスだって前にも言ったわよねぇ!?」
 アサシンを倒せなかったことに岸波白野はそう悔しげに口にし、その発言にランサーが苦言を呈する。
 それを聞き流しながら端末を操作し、礼装の一つを換装。『破戒の警策』によるコードキャスト、《mp_heal(32); 》でランサー魔力を回復させる。

 アサシンが対処することも想定内ではあったが、やはりこの一撃で決められなかったのはやはり痛い。
 なぜならランサーとアサシンに蓄積されていたダメージはほぼ同量。消耗戦になればそれだけで不利になるし、今よりさらに消耗した状態であの状態になられれば、たった一手選択を誤っただけで倒されかねない。
 決定的な情報が欠けている今、手を読み切れない相手との長期戦は避けるべきなのだ。
 加えて、アサシンに対する再度の“鮮血魔城”の使用は、もはや意味を成さないだろう。仮に使用したとしても、今の状況では発動の隙に対処されるだけだ。
 直撃を決めるには、あと一手、手を凝らす必要がある。


「グワッ、痛う……っ!? ちょ、なんだよ今の! 耳が、耳がキーンって……!」
 アサシンの背後からそんな声が聞こえてくる。そこには、アサシンの現マスターである足立透がいた。
 そう。アサシンが宝具発動の阻害ではなく防御を選んだのは、足立を庇うためだった。
 それも当然か。
 足立は両膝を破壊されており、ロクに動くこともできない。仮に阻害行動を選んでいた場合、阻止できたのなら問題はないが、もし失敗してしまえば、ランサーの宝具の余波をまともに受けていたのだ。
 無論、アサシンが足立を庇ったのは、足立のためではない。
 カラテの消耗しきった今の状態では、マスターを失うことが致命的であるが故の行動だった。

249クレイジー・コースター ◆ysja5Nyqn6:2015/05/08(金) 00:44:31 ID:LT2LNYmE0

「スゥーッ! ハァーッ!」
 だからだろう。アサシンは足立を気遣う言葉をかける事もなく、チャドーの呼吸とともにジュー・ジツを構える。
 だがそれはランサーも同じだ。その瞳はアサシンだけをまっすぐに見据え、足立の存在など歯牙にも掛けていない。
 警戒していないわけではないだろうが、気に留める必要もないと思っているのだ。

 それは半ば正しい。
 アサシンと足立透との間に信頼などない。足立にはアサシンへの的確な支援などできないだろう。
 それにそもそも、重傷を負い消耗したままの足立にはそんな余裕などない。
 岸波白野はそう予測をし、ランサーへと更なる指示を下す。

「ハッ――!」
 一手目と異なり、二手目はこちらから。ランサーは深紅の弾丸となって、アサシンへと疾駆する。
 槍兵(ランサー)の名に恥じぬ神速の踏み込み。両者の間にあった空白は瞬く間に詰められる。
 そして放たれる振り下ろし。
 アサシンの頭部を叩き潰さんと、監獄の槍はその頭上から豪速で襲い掛かる。

「イヤーッ!」
 対するアサシンも、自身に向け振るわれた槍を的確に迎撃する。
 頭上から迫り来た槍は、側面に叩き付けられた蹴りによって横方向に軌道を変えられる。
「そーれっ!」
 だがランサーは、弾かれた勢いをそのままに、薙ぎ払いによる攻撃へと移行する。
 蹴りの勢いも加算された槍はランサーの身体ごと一回転し、大気を唸らせながら再度アサシンへと迫る。
 追撃を放とうとしていたアサシンは、咄嗟に攻撃を中断しブリッジ回避! ランサーの槍はアサシンの胴の上を空しく空振る。

「イヤーッ!」
 そしてこのブリッジ体勢は攻撃の予備動作でもあった。アサシンの脚が霞み、反撃の一撃が繰り出される!
 薙ぎ払いを躱されたランサーは咄嗟の行動を取ることが出来ない。放たれた足撃は的確にその胴体を蹴り飛ばした。
「ンアッ!」
 腹部に受けたダメージに、ランサーは堪らずたたらを踏む。
 アサシンは即座に追撃のワザを放とうとカラテを構え、
「グワッ……!?」
 唐突に胴体にダメージを受ける。フシギ!
 だがその現象に驚愕する間もあればこそ、アサシンへ更なる一撃が襲いかかる。

「不愉快。返すわっ!」
 頭上から振り下ろすような刺突。ブリッジ回避は無意味。
 アサシンは素早く側転を繰り返し、回避と同時にランサーから距離を取る。しかし。
「ハッ、トロいのよ!」
 弾丸の如き踏み込み。アサシンが開けた距離を、ランサーは一瞬でゼロにする。
「ほらほらほら!」
 そして放たれる連続攻撃。縦横無尽と振るわれる槍が、アサシンの肉体を穿たんと高速で奔る!
「ヌウ……ッ」
 その疾風怒濤の連撃を、アサシンは紙一重で躱していく。
 ランサーの攻撃を的確に捌きながらも、その表情には苦渋の表情が浮かんでいた。


 ランサー――エリザベートは本来、通常のサーヴァントのような“戦う者”ではない。
 生前の逸話によって英霊となり、それにより生じたスキルと、その身に宿る竜の血によって高いステータスを得ただけの少女だ。
 そのため、サーヴァントとしての評価こそB+〜Aランク相当とされるが、戦闘技術そのものは格下のサーヴァントにも劣る。
 そんな彼女が仮にも戦闘を行えているのは、その独特な感性(リズム)から繰り出される卓越した拷問技術が理由だ。
 つまりエリザベートは、その奔放な動きで翻弄し、的確に弱所を突く事で、他のサーヴァントと渡り合うことが出来るのだ。

 故に、その動きに惑わされず冷静に対処をすれば、彼女の攻撃を防ぐことは難しくはない。
 ましてや格闘戦に優れるアサシンならば、十分に応戦することが可能だろう。
 事実、岸波白野は三度に渡って、彼女を打ち倒してみせたのだから。
 …………だが。

(先ほどのダメージ。あれは、ランサーさんのジツか)
 ランサーへと反撃した際に生じた謎のダメージ。その奇怪現象ゆえに、アサシンはランサーへと攻めあぐねていた。
 あの瞬間、ランサーはもちろん、マスターのジツによる支援もなかったことは視認している。
 となれば、考えられる理由は一つ。ランサーの宝具攻撃を受けた際に、同時にジツを掛けられていたのだ! ワザマエ!

250クレイジー・コースター ◆ysja5Nyqn6:2015/05/08(金) 00:45:11 ID:LT2LNYmE0


 アサシンが考えを巡らせる間も戦いは続いている。

「これはどうっ!?」
 一際大きな薙ぎ払い。アサシンの胴を目掛けて、ランサーの槍が襲い掛かる。
「イヤーッ!」
 対するアサシンは、後方へと大きくジャンプ回避。同時に両手から無数のスリケンを投擲し牽制する。
 だがその程度の小細工では、一瞬の足止めにしかなりはしない。

「逃がさないわよ、ロックンロールッ―――!」
 ランサーはスリケンを弾き飛ばすと素早く槍の柄に腰かけ、直後、文字通りの弾丸となって撃ち出された。
 ――――“絶頂無情の夜間飛行(エステート・レピュレース)”。
 先ほどの踏み込みよりもなお疾いその一撃が、アサシンの肉体を穿たんと飛翔する。

「グワーッ!」
 屋上へと着地する寸前だったアサシンに、これを回避する術はない。
 咄嗟に両手のドウグ社製ブレーサーによって防御するが、堪らずタカイ・ビルの屋上から弾き飛ばされる!
 だがそれは、アサシンへと突撃したランサーも同様だ。彼女もまた、勢いのままに屋上から跳び出している。キヨミズ!
「あはっ! どんどん行くわよっ!」
 しかし、ランサーはその背中からドラゴンの翼を出現させると、精確にアサシンへと向けて飛翔する。
 そして放たれた槍を、アサシンはドウグ社製ブレーサーとジュー・ジツによって防ぎ、その反動を利用して距離を取る。

(ヌウ……このままではジリー・プアー(徐々に不利)だ。やはり無理にでも宝具の発動を阻止するべきだったか)
 アサシンは近場のビルを足場にジャンプしながら、内心でそう歯噛みする。
 先ほどの牽制の際、スリケンのいくつかがランサーの体を掠め傷付けていった。
 しかしそのダメージもまた、アサシンへと反射されていたのだ。ナムアミダブツ!

 ウカツな攻撃をすれば無用に反射ダメージを受け、かと言って攻撃しなければやはり自分だけがダメージを受ける。
 戦闘続行スキルを持つアサシンにとって、ダメージ量自体は無視できる程度だ。
 だがランサーの攻撃も加わり大きく消耗している今、僅かなダメージでさえ軽視はできない。
 加えて足立と違い、ランサーのマスターは万全だ。しかもいかなるジツによるものか、ランサー自身もまた、スリケンによって負った傷が少しずつ癒えている。
 カラテが不足している上に、ダメージ反射のジツがいつ解かれるのかもわからない以上、このままでは実際ヤバイ!

「邪魔っ!」
 アサシンの放った牽制スリケンを弾き飛ばし、ランサーは同じようにビルを足場にジャンプ。
 ドラゴンの翼によって的確にアサシンへと接近し、驚異的な槍を繰り出す。
「イヤーッ!」
 対するアサシンはどうにかランサーの槍を迎撃し捌いていくが、足場のない空中では踏ん張りがきかず、その衝撃に容易く弾き飛ばされる。

 お互いのマスターの差。ダメージを反射するジツと回復するジツ。そして空中というイクサ場。フーリンカザンは完全にランサーにある。
 この危機的状況を脱すべく、アサシンはランサーの攻撃を捌きながらイマジナリー・カラテによって打破の方法を模索し始めた。


      †


 ビルの端へと駆け寄り、ランサーたちの姿を追いかける。
 二騎のサーヴァントはビルの壁面を足場に、縦横無尽に跳び回っている。
 一見では、二人の戦いは互角に見える。しかしだからこそ、早急に手を打つ必要がある。
 先制の一撃、地の利を得てなお互角ということは、時間を経るごとに戦況は不利になっていくということだからだ。

 故にこそ、ランサーへと最適な指示を下す必要があるのだが……それは困難を極めた。
 高速で動き回る二人はビルの陰に隠れては現れ、まるでストロボのように常に捉えていることはできないからだ。
 一瞬の判断が重要となるサーヴァントの戦いにおいて、不確かな状況でむやみに指示を出すことはできない。
 下手に戦況を読み違えれば、それが即死に繋がる。

 ――――ならばどうするか。
 ランサーと視界を繋げる、という手はある。
 そうすればランサーの視点からではあるが、間断なく戦況を知ることができる。
 ……だがその判断はまだ早い、と直感する。
 なぜなら、こうしている今も、二人がどこにいるかということだけは、確かに感じ取ることができていたからだ。

 ――――そう。それこそが今、岸波白野が考えるべきことだ。
 こうしてアサシンを見つけられた理由。今なおアサシンを捉えられている不思議な感覚。
 その正体を知ることが、アサシンとの戦いにおける鍵となるだろうからだ。
 それに加えて……。

251クレイジー・コースター ◆ysja5Nyqn6:2015/05/08(金) 00:45:43 ID:LT2LNYmE0


 風の音に紛れて、バチッと、背後から空気の弾けた音が聞こえた。
 咄嗟にその場から飛び退くと同時に、先ほどまで立っていた場所を雷撃が奔り抜けた。
 肝を冷やしながらも雷撃の発生源へと目を向ければ、そこにはこちらへと右手を向けた足立透の姿があった。

「はっ。あのままボーッと突っ立っていれば、楽に死ねたのにね」
 そう口にする足立の背後の空間には、何かのノイズのようなものが奔っている。
 そのノイズも、足立が腕を下すと同時に消えた。おそらくは、何かの“力”の名残なのだろう。

「一つ聞きたいんだけどさぁ。君、なんでここにいるわけ? わざわざこんな場所まで、あんな無茶苦茶な方法でさ?」
 本当に不思議そうでありながらも、どこかどうでもよさ気な問い。
 自分は――――

   1.聖杯を手に入れるため
  >2.アサシンと話し合うため
   3.遠坂凛の仇を討つため

「あいつと、話し合う? ハッ、何言ってんの君。あんな奴と話してどうすんだよ。
 君だってもう解ってるんだろう。あいつはただの狂人。目的のためなら手段を択ばない、人でなしだ」

 ……だが、決して人の心がないわけではない。
 でなければ、復讐などという目的を持つはずがないのだから。

「復讐、ねぇ。それはむしろ君の方なんじゃないの?
 君と一緒にいたあの女の子。その子もあいつに殺されちゃったもんねぇ。
 しかもわざわざマスターになってやったっていうのに、速攻で裏切られちゃってさ」

 それは違う。
 確かに裏切られたことに対する怒りも、凛を守れなかったことへの悲しみもある。
 だが決して、復讐のためにアサシンを追いかけてきたわけではない。

「ふうん、そう……。ま、何だっていいけどね。
 結局最後にはどっちかが裏切ってたんだ。早いか遅いか、それだけの違いでしかない。
 だってそうだろう? これは聖杯戦争。生き残れるのは、聖杯を手に入れたたった一組だけ。どうせ最後には殺しあうのに、協力なんてできるわけがない」

 それも違う。
 確かに自分と凛は、最後には戦って、どちらかが死んでいただろう。
 だけどそれは、決してどちらかが裏切ったからなんかじゃない。
 自分は彼女と約束したのだ。聖杯戦争の最後に、正々堂々と戦おうと。

「ハア? 約束した、だって? あははははははは! ヤバイヤバイ腹痛い……。
 ……で、約束したからなに? 無理に決まってんじゃんそんなの。あんまり笑わせないでよ、こっちは怪我人なんだからさ。
 それに、そんなヌルい事を口にしてるからあっさり裏切られるんだよ。ま、自業自得ってやつ?」

 自業自得。確かにその通りだろう。
 凛がアサシンに殺されたのは、完全に自分たちの落ち度だ。
 ……だがあの約束は、決して笑われていいものなんかじゃない。

「いいかげん自分に素直になりなよ。結局は聖杯が欲しいだけなんだろ? 君も、あの子も。
 別に恥じることはないさ。誰だって死にたくないもん。当然、僕だって死にたくない。だから聖杯が欲しい
 ……それに、聖杯があれば、こんなクソみたいな世の中だってどうにでもできるだろうしね」
 その言葉は、今の状況に対してではなく、彼が認識している“世界”そのものに向けて放たれたように聞こえた。
 そしてそれがきっかけになったかのように、足立はいらだたしげに頭をかきむしり始めた。

「……ああ、そうだよ。おまえらさえいなければ、僕はあのクソ忍者にこんな目にあわされずに済んだんだっ……!
 あいつが今生きてるのも、俺がこんな目にあってるのも、全部おまえらのせいなんだよ!」
 そう口にする足立にはもう、先ほどまでの余裕ぶった様子は見えない。
 結局のところ、今の言葉が彼の本音なのだ。

 確かに彼の言った通り、自分たちがキャスターへと攻め込まなければ、彼はアサシンに襲われることはなかっただろう。
 仮に襲われたとしても、あのキャスターならば余裕をもって撃退していたはずだ。
 ……だが言わせてもらえば、それこそ聖杯戦争というもので、自業自得というやつだろう。

 アサシンが復讐に走ったのは、キャスターがアサシンの召喚者であったしんのすけを殺したからだ。
 だというのに、どうしてキャスターのマスターであった足立が無関係だと言えるのか。
 加えて言えば、あの地区で違反行為があったことはルーラーによって通達されていた。
 ならば自分たちが攻め込まずとも、いずれは他のサーヴァントがやってきていた可能性だってあったのだ。
 現にあの場には、自分たちだけではなく、白面のバーサーカーもやってきていたのだから。

252クレイジー・コースター ◆ysja5Nyqn6:2015/05/08(金) 00:46:17 ID:LT2LNYmE0

「っ……うるさい! うるさいうるさいうるさい!
 クソ生意気なガキが、偉そうな口ききやがって。目障りなんだよ!
 消してやる……おまえも、あのガキのように消してやる!」
 足立はそう罵声を上げると、再び右手を持ち上げる。
 直後その手に現れる、赤く禍々しい光を放つ、一枚のタロットカード。
 それを視認した瞬間、左手がかすかに疼いたような気がした。
 ……令呪の反応ではない。ならばこの疼きは何なのか。

「ペルソナ……“マガツイザナギ”!」
 その正体を確かめる間もなく、足立はそのタロットカードを握り砕く。
 瞬間、足立の背後に大きな人影が現れた。
 赤黒く禍々しい装飾を纏い、矛のような剣を逆手に構えたその人影は、サーヴァントではない。
 おそらくあれが、最初の雷撃を放った足立透の“力”の正体なのだろう。

 しかしマガツイザナギの体は大部分がノイズに覆われ、今にも消えてしまいそうなほどに希薄だ。
 足立自身がそうであるように、彼の力の具現であるマガツイザナギもまた弱っているのだろう。
 もっとも、それでも岸波白野を殺すには十分すぎる力を持っているはずだ。
 その力に応戦するために、端末を操作して礼装を換装する。

 ………だが忘れるな。岸波白野に、戦う力などないということを。

「ガキは黙って死ねばいいんだよ!」
 瞳を金色に染めた足立が叫ぶと同時に、その声に従うようにマガツイザナギが動き出す。
 それにわずかに先んじて、コードキャストを発動する――――!


     04.5/ interlude『甲賀のアサシン(壱)/&color(black,yellow){デップー殿がまた死んでおるぞ!}』


 ――――その二組の戦いを、遠く離れたビルから観察している存在がいた。
 真名を、甲賀弦之介。電人HALに従うアサシンのサーヴァントだ。
 彼は己がマスターの命を受け、【C-6】に現れた赤黒のアサシン――ニンジャスレイヤーの追跡を行っていたのだ。

 彼のマスターがその命を下した理由は、自身の把握する範囲内に、更なる不確定要素を増やさぬためであった。
 現在【C-6】では、いくつもの戦いが起きている。そこにニンジャスレイヤーが介入し、さらなる混乱が起きるのを避けようとしたのだ。
 だがニンジャスレイヤーは戦いが起きている場所を軽く探ると即座に引き返し、己がマスターのもとへと帰還した。

 それだけであれば、彼のマスターはニンジャスレイヤーのことを捨て置いただろう。
 だが【B-4】で起きた戦いを知っていた彼のマスターは、ニンジャスレイヤーが戻ってくると予測した。
 その結果下された命令が、「赤黒のアサシンを追跡してその動向を探り、可能であればそのマスターを殺害せよ」というものだった。

 もちろん【C-6】で起きている戦いが彼のマスターの下まで波及する可能性もあった。
 だが電人HALの所在はまだ露呈してはいないし、最悪の場合、令呪の使用による召喚が可能だ。
 故にアサシンは、己がマスターの命に従い、アサシンを追跡した。



 そうして現在、彼の視線の先では、二つの戦いが起きていた。
 赤黒のアサシンたちと、それを追跡してきたらしい紅色のランサーたちによる、サーヴァント同士とマスター同士の戦い。
 紅のランサーたちが赤黒のアサシンたちを追跡してきた理由は、おそらく赤黒のアサシンに殺された少女の敵討ちだろう。
 その思いは、アサシン自身の生前を思えばわからぬでもない。だがそれは、赤黒のアサシンとて同じことだろう。

 ……しかもこの戦いは、アサシンにとって好機でもあった。
 紅のランサーと赤黒のアサシンは、己がマスターの下を離れて戦っている。
 つまりサーヴァントの襲撃から、彼らのマスターを守るものは存在しないのだ。
 無論、その戦いを見て分かるように、彼らとて何の力も持たない存在ではない。
 だがサーヴァントのそれからすると、あまりにも脆弱であり、障害にはなりえないだろう。

(すまぬな、名も知らぬ“ますたぁ”達よ。だがこれも、我らの望みを叶えるため)

 アサシンはもともと、殺生を好む性格ではない。だが必要であるならば躊躇う性格でもない。
 眼前で戦いを繰り広げる二人のマスターを殺すために、アサシンは静かに忍者刀を抜き放った。

253クレイジー・コースター ◆ysja5Nyqn6:2015/05/08(金) 00:46:47 ID:LT2LNYmE0





「いやー、あいつらもよくやるよな。あんな派手にドンパチやっちゃってさ。
 特にあの赤黒のアサシンの方。お前ホントにアサシンか! みたいな? あんたもそう思わね? 同じアサシンとしてさ」


「ッ―――!?」
 直後、自身の隣から放たれたその声に、文字通り戦慄した。
 咄嗟に大きく飛び退き、声の方へと振り返れば、そこには赤黒のアサシンとはまた異なる赤黒の衣装を着た男。
 間違いない。赤黒のアサシンやランサーと同様、【B-4】にいたサーヴァントの内の一騎だ。

「ドーモ、アサシン=サン。バーサーカーです」
「――――――――」
 バーサーカーの挨拶に対し、アサシンは沈黙を通す。
 表面上は冷静を装っているが、その内心は激しく動揺していた。

 あの瞬間、唐突にバーサーカーが現れたこともそうだが、アサシンは気配遮断を解いてはいなかった。
 確かに気配遮断スキルは攻撃態勢に移ればランクが下がる。だがあの時、アサシンは刀こそ抜いていたが、マスターたちには近づいてすらいなかった。
 加えて言えば、アサシンは忍術スキルの併用によってスキルランクの低下を抑えることが可能だ。
 つまりこのバーサーカーは、アサシンの気配遮断スキルを無効化して接近してきたことになるのだ。

「それは何故かって? 知りたい? じゃ教えてあげちゃう!
 俺ちゃんがアサシンを見つけることができたのはぁ、俺ちゃんの宝具、“第四の壁の破壊(フォースウォール・クライシス)”のおかげなのでした!
 要するに、地の文=サンがあんたのことを解説した以上、気配を消していようがいまいが俺ちゃんには関係ないっつうこと。
 まあ、俺ちゃんがここに現れたのは、この場所があいつらの戦いを観察しやすいってだけで、単なる偶然なんだけどね。
 あ、偶然って書いて話の都合って読むのは無しの方向でお願いします。俺ちゃんとの約束だぞ」

 あらぬ方向へと向けて話しかけるバーサーカー。
 なるほど、その様子は確かに狂人のそれだ。狂戦士のクラスで呼ばれたのも、それが所以だろう。

「――――――――」
 だが、とアサシンは刀を構えなおす。

 いずれにせよ、見つかったのであればやることは一つだ。
 即ち、このバーサーカーに対処する。
 二人のマスターをどうするかは、それからの話だ。

「お、やる気? いいね、そういうの。俺ちゃん嫌いじゃないぜ」
 アサシンに呼応して、バーサーカーも背中の二本の刀を抜き放つ。
 たとえ狂っていようと、サーヴァントとしての本能に変わりはないということだろう。

 そうして両者の視線が絡み合い、緊張が限界に達した、その瞬間。
 我慢できないとばかりにバーサーカーが躍り掛かり――――

「イヤーッ! ……あ、アレ?」

 ―――アサシンの宝具が発動した。

「うっそーん。マジで?」

 困惑したように口にするバーサーカー。
 その胸には、彼自身の二本の刀が突き刺さっていた。

「オゴーッ、ヤラレター!」

 バーサーカーはその覆面越しに血を吐き出し、そのまま倒れ伏した。
 それを見届けて、アサシンはバーサーカーから背を向けた。
 確認せずともわかる。バーサーカーは死んだのだ。
 何故ならそれがアサシンの宝具――“瞳術”の効果だからだ。

 アサシンに向けて害意を以て襲い掛かったものを、強制的に自害させる“瞳術”。
 この宝具の前では、およそあらゆる武力が無意味だ。
 何の対策もせずに挑めば、己が手によって屍をさらすだけに終わるだろう。
 今自らを死に追いやった、狂想のバーサーカーのように。

254クレイジー・コースター ◆ysja5Nyqn6:2015/05/08(金) 00:48:18 ID:LT2LNYmE0

 そうしてアサシンは、再び二人のマスターが戦っているビルへと向き直り、

「ドーモ、アサシン=サン。バーサーカーです」

「なにっ!?」
 再び目の前に現れたバーサーカーに、更なる戦慄を露わにした。
 即座に大きく飛び退き、最大の警戒を以てバーサーカーを観察する。

「いやまさか、いきなり自害させられるとは、さすがの俺ちゃんにも予想できんかったわ。
 そういうのはランサーの役目でしょ。これ読んでるPCの前のみんなもそう思わない?」

 またもあらぬ方向へと語りかけるバーサーカーの胸には、日本の刀が刺さったままだ。
 即ち、“瞳術”が無効化されたわけではない。だとすれば、考えられる答えは一つ。

(そうか。彼奴の能力は、天膳と同じ……!)
「ピンポンピンポーン! だいっせーかーい!
 っつーか、チャプタータイトルにヒントが書かれてたしね」

 気配遮断を無効化し、自らの死をも覆す能力。
 このサーヴァントは間違いなく己の天敵だ、とアサシンは理解する。
 その制約がどれほどのものかはわからないが、早急に対処しなければならない。

「そうそう。あいつらの戦いはあいつらに任せて、俺ちゃんたちは俺ちゃんたちでとっとと始めようぜ。尺もあんまないことだしよ」
 バーサーカーはそう口にすると二丁の拳銃を取り出し、その銃口をアサシンへと突きつけ、引き金を引いた。

 こうして人知れず、また新たな戦いが始まったのだった――――。


     05/ VSアサシン(corner)


 ――――ビルの壁面および窓ガラス、無残!
 幾つも立ち並ぶ街灯と電光掲示板、無残!
 アスファルト舗装された道路、無残!
 違法路上駐車中の車両、無残!

 ドラゴンの翼とトライアングル・リープを駆使した空中高速戦闘。
 いくつもの痕跡を残しながら、ランサーとアサシンがビルの谷間をしめやかに跳び回る。
 両者が交差するたびに相手へと攻撃を加え、結果その余波によって周囲の構造物が破壊されていく。
 残業帰りのサラリマン、深夜パトロール中に呼び出されたマッポ、騒ぎを聞きつけてきた野次馬には、彼らの姿は色つきの風にしか見えない事だろう。
 彼らに把握できることは、先ほど唐突に割れた窓ガラスが降り注いだことと、現在進行形で唐突に建物が破壊されているということだけだ。
 この町のNPCたちはそのようにして、オペレーション中のサーヴァント存在を知覚できずにいるのだ。それは幸運な事だ。

 だがその幸運を理解できぬモータルNPCたちは、戦いの発生源である双葉商事ビルへと集まっていく。
 何故ならそこが最も被害の大きい場所だからだ。
 特にマッポたちは、そのルーチン故にその行動が顕著になっている。このままでは双葉ビルの屋上で起きているもう一つの戦いが発覚してしまうだろう。
 ランサーはそのことを正しく把握し、湧き上がる焦りにその身を焦がし始める。

 警官の手によって戦いが明るみに出るということは、彼女のマスターが指名手配されるということに繋がる。
 それはすなわち、NPCに追われるということであり、同時に多くのマスターに自分たちの存在を知られるということだ。
 そうなってしまえば、聖杯戦争をまともに続けることは困難になるだろう。
 そんな事態を防ぐためにも、警官に見つかるわけにはいかなかった。もし見つかってしまえば、最悪その警官を殺すしかなくなってしまう。
 それはなるべく取りたくない手段だし、何よりマスターが望まないだろう。たとえ相手が、NPCだったとしても。
 ………………だが。


「っ………さっきからずっとちょこまかと。いつまでも逃げ回ってんじゃないわよ!」

 ランサーはビルの壁面を踏み砕いてアサシンへと一息で接近し、その手の槍を勢い良く振り抜く。
 アサシンはその一撃を空中ブリッジ回避。振るわれた槍は空を薙ぎ払うだけに終わる。
 それならばと即座に背中の翼によって姿勢制御し、アサシンへと大気を穿つ刺突を繰り出す。
 だがアサシンはブリッジ姿勢からそのまま後方宙返りを行い、背後のビルを足場に上空へと跳躍回避。放たれた槍はビルの壁面を穿ち、放射状の亀裂を入れるだけに終わる。

「イヤーッ!」
 そこへ反撃とばかりに、アサシンがトライアングル・ドラゴン・トビゲリを放つ。
 対するランサーはビルの壁面に突き立った槍を支点に体を回転させ、ドラゴンの尻尾による薙ぎ払いを放つ。

255クレイジー・コースター ◆ysja5Nyqn6:2015/05/08(金) 00:49:12 ID:LT2LNYmE0

「なめんじゃ――ないわよ!」
 放たれた“徹頭徹尾の竜頭蛇尾(ヴェール・シャールカーニ)”は、アサシンのトライアングル・ドラゴン・トビゲリと打ち合い、相殺されつつもアサシンを弾き飛ばす。
 その隙にビルの壁面を勢いよく蹴りつけ、槍を引き抜くと同時にアサシンへ向けて跳躍、“絶頂無情の夜間飛行(エステート・レピュレース)”を繰り出す。
 しかしアサシンは空中で体を回転させ、ジュー・ジツによってランサーの突撃をいなした。


 この二騎の戦いは、一貫してランサーが攻め、アサシンが受けるという様相を呈していた。
 無論アサシンとて攻撃はしているが、それはあくまでも牽制の域を出ない。
 何故なら空中戦において、ランサーはアサシンを上回る機動をとることが可能であり、さらにアサシンはダメージ反射効果を持つ鮮血魔嬢の呪いを受けていたからだ。
 加えて言えば、お互いのマスターの魔力残量の差により、使用できる魔力量においても両者には大きな差ができていた。
 そしてランサーは、多少のダメージなら“鮮血は湯水の如く(レ・サング・デ・オングリ)”によって回復が可能なのだ。
 つまり半端な攻撃によるダメージでは即座に回復され、逆にダメージ反射の呪いによってアサシン自身が不利になるだけでしかないのだ。

 ……だがそれは、決してランサーの優位を表すものではなかった。
 なぜなら戦いが長引けば長引くほどに、アサシンのジュー・ジツはランサーの攻撃に対応し、反撃の機会を掴みやすくなるからだ。
 それに鮮血魔嬢の呪いも間もなく解けてしまう。そうなればランサーの有利が一つ失われてしまうのだ。
 そして彼らのマスターたちの方でもまた戦いが始まっており、加えて時間をかけ過ぎればNPCの警官に捕捉されるという問題もあった。
 確かに単純な持久戦であれば、最終的には魔力残量の差によってランサーが勝利していただろう。
 だがこの戦場における様々な要因によって、その優位性は失われていたのだ。
 それ故にランサーは早急に決着を付けようと逸り、その結果、焦りによって攻撃の手を誤ることとなった。


「チィ、ッ――!?」
 “絶頂無情の夜間飛行(エステート・レピュレース)”を躱されたランサーはビルの壁面へ槍を突き立て、コンクリートブロックを抉りながら急停止。即座に振り返りアサシンの姿を確認する。
 しかし、先ほどの地点にはすでにアサシンの姿はいない。加えてその気配も感じ取ることができなかった。
 気配遮断スキルによって、その姿を隠したのだ。
 ……だが、この場から逃げたわけではないとランサーは直感する。理由の解らない感覚によって、アサシンがまだ近くにいると感じていたのだ。

「イヤーッ!」
 それを証明するかのように、無数のスリケンが掛声とともに投擲される。
 ランサーは即座にその場から跳躍回避。無数のスリケンによってビルの壁面はハチの巣にされる。
 別のビルの壁面に着地すると同時に、同時にスリケンが放たれた場所へと視線を向けるが、アサシンの姿は見えない。すでにその場から離れているのだ。

「イヤーッ!」
 それを確認する間もあればこそ、再び無数のスリケンが掛け声とともに投擲される。
 ランサーは槍を旋回させてスリケンを弾き飛ばし、スリケンの放たれた場所を確認するが、やはりアサシンの姿は見えない。
 気配遮断スキルを駆使した、遠距離からのヒットアンドアウェイだ!

 確かに気配遮断スキルは攻撃態勢に移るとランクがダウンする。スキルがBランクしかないアサシンならそれはなおさらだ。
 だが攻撃態勢を解除すれば気配遮断スキルは再び機能し始め、その姿を捉えることは困難になるのだ。
 つまりアサシンはスリケンを投擲すると同時に姿を隠し、攻撃態勢を解くことで気配も消しているのだ。
 これは高い身体能力を持ち、アイサツからの素早い攻撃を行ってきたアサシンだからこそ可能なカラテだった。

「イヤーッ!」
「このっ……!」
 散発的に放たれる無数のスリケンを躱し、弾きながら、ランサーはビルの谷間を駆け抜ける。
 こうしている間にも、彼女のマスターは危機に陥っている。
 敵マスターとの交戦、迫りくるNPC警官。戦う力を持たない岸波白野では、そのどちらもが強敵だ。
 故にランサーは、早急にアサシンを見つけ、撃破しなければならなかった。

256クレイジー・コースター ◆ysja5Nyqn6:2015/05/08(金) 00:50:11 ID:LT2LNYmE0

 無論、アサシンを無視し、マスターのもとに駆け付けるという手もあった。
 むしろ現実的な目で見れば、現状においてはそちらの方が確実な手段だろう。
 だがこのアサシンに対して自ら背を向けるような行為は、自ら命を危機にさらすようなものだと、アサシンと実際に戦ったが故の感が告げていたのだ。
 つまりアサシンを撃破するにしてもマスターのもとへ向かうにしても、まずはアサシンを見つけ出し、それを可能とするだけの隙を作り出す必要があったのだ。


「ッ――――――!」
 自身へと迫りくる無数のスリケンを弾きながらビルの壁面へと着地し、対面のビルへと向けて勢いよく跳躍。着地と同時に屋上へと向けてビルの壁面を駆け上る。
 周囲に遮蔽物の少ない屋上で、アサシンを誘いだそうと判断したのだ。
 そうしてランサーがビルの壁面を登り切り、屋上へと躍り出た――――その瞬間!

「ッ、しま―――!?」
 アナヤ! ランサーの視線が、すでに屋上で待ち構えていたアサシンと交差する。
 アサシンの右手には、一枚のスリケン。両足は大きく開かれ、腰は深く落とされ、上半身には縄めいた筋肉が浮き上がるほどに力が込められている。
 クロス・レンジ距離からのツヨイ・スリケンだ!
 ランサーは咄嗟の判断でビルの縁を蹴り砕き、勢いよくアサシンから距離をとる。

「イィィヤァァアーッ!!」
 両腕をクロスさせた体勢から、裂帛のニンジャ・シャウトとともに放たれるスリケン投射。
 アサシンのツヨイ・スリケンは螺旋の軌道を描きながらほとんど一瞬でランサーへと迫り―――しかし、ランサーの槍によって弾き飛ばされた。

「ッ………!」
 危なかった。とランサーは背筋を凍らせる。
 咄嗟の跳躍によって稼いだ距離がなければ、防ぐ間もなくアサシンのスリケンを受けていた。
 その威力は、防いだにも拘らず体勢を大きく崩されるほど。直撃していれば致命傷は免れなかっただろう。

 だが、これでアサシンは姿を現した。
 体勢は崩されたが、ドラゴンの翼を使えば即座に整えられる。
 今はとにかく、アサシンの追撃に対処しなければ。
 と、一瞬でそう思考を巡らせたところで、

「なっ!?」
 ランサーの体に、一本のロープが絡みつく。ドウグ社製巻き上げ機構付きフックロープだ!
 アサシンはダブル・ツヨイ・スリケンの応用で、ツヨイ・スリケンと同時にこのフック付きロープを投擲していたのだ。ワザマエ!

「この……っ!」
 アサシンがフック付きロープを引き絞り、ランサーの体が締め上げられる。
 このままでは拘束されたまま、アサシンの前へと引きずり出されてしまう。
 それに対抗しようとドラゴンの翼を大きく羽ばたかせた―――その瞬間。

「Wasshoi!」
 アサシンが大きく跳躍した。
 ランサーの羽ばたきにフック付きロープの巻き上げ機構も加味され、アサシンの跳躍力は倍増! 一瞬でランサーへと接近する!
 その高速接近によりフック付きロープによる拘束は緩むが、ランサーが反撃を行うより早く、その体をドラゴンの翼ごと羽交い絞めにする。
 さらにドラゴンの翼は拘束されたことにより浮力を失い、二人は地上へと向けて落下を開始した。
 アサシンのヒサツ・ワザの一つ、アラバマオトシだ!

「な、何よ! 放しなさい!」
 ランサーはアサシンの拘束を外そうともがくが、両者の筋力値は互角。さらに瞬間的にはアサシンが上回る。抜け出すことはできない。落下地点をずらすのが精一杯だ。
「イヤーッ!」
 CABOOM!
 結果、ランサーはアサシン放ったニンジャ・シャウトとともに、ビルの屋上へと叩き付けられ、同時に爆音が響き渡った――――。


      †


 マガツイザナギの振り下ろした剣を、大きく飛び退いて回避する。
 剣の威力に屋上の床が砕け、破片が四散する。
 続いて振るわれた横凪ぎの一撃も同様に回避。しかし剣圧によって大きく吹き飛ばされる。
 無様にも地面に打ち付けられるが、即座に立ち上がりマガツイザナギから距離をとる。

「ほらほらどうしたの? さっきから逃げてばっかりじゃん。そんなんじゃ、僕には勝てないよ?」
 余裕に満ちた足立の声。それに追従してマガツイザナギが追撃をかけてくる。
 振るわれた一撃を先ほどと同様、大きく飛び退いて回避する。

 このビルの屋上は、ランサーが降り立った時の一撃によって開けた場所となっている。
 でなければこうして回避するスペースなどなく、自分はとっくにマガツイザナギに追い詰められていただろう。
 そのことを思い、内心で大きく安堵するが、それを表に出す間などない。
 マガツイザナギの更なる追撃に備え、わずかな初動も見逃すまいと、その動きを注意深く観察する。

257クレイジー・コースター ◆ysja5Nyqn6:2015/05/08(金) 00:50:45 ID:LT2LNYmE0


 岸波白野には、足立のペルソナと戦う力はない。
 ダメージを与える手段はあるが、それを使う余裕がないのだ。
 自分がまだ生きていられるのは、二つの礼装によるコードキャストのおかげだ。
 すなわち、『強化スパイク』による《移動速度強化(move_speed(); )》と、『守りの護符』による《耐久力強化(gain_con(16); )》だ。
 これらがなければマガツイザナギの攻撃を躱すことなどできず、躱せたとしても余波だけでダメージを受けていただろう。

 そして礼装は同時に二つまでしか装備できず、また礼装の換装にも多少の手間を要する。
 カレンから渡された携帯端末によって簡略化してはあるが、それでも攻撃を回避しながら行う余裕はない。
 凛のアゾット剣を用いれば攻撃はできるが、マガツイザナギを相手には心許無すぎる。武器として有効なのは、足立を直接攻撃するときだけだろう。
 だが足立を直接攻撃するには、マガツイザナギが障害となっていた。そしてマガツイザナギを倒せない以上、岸波白野には一切の攻撃手段がない。
 結果、現状において岸波白野にできることは、マガツイザナギの攻撃を耐え凌ぐことだけだったのだ。

 ……だが、耐え凌ぐことさえできれば、きっとチャンスはある。
 狙うは一点。マガツイザナギを掻い潜り、足立へと接近できるその一瞬。
 その隙さえ突ければ、足立を倒すことも不可能ではない。
 あるいは、ランサーとアサシンの戦いが決着するか、ランサーが帰還すれば、状況は逆転する。
 だからまだ、焦る必要はない。その時まで耐え凌ぐことこそが、岸波白野のするべき戦いなのだ。

「とっとと諦めなよ。どうせ何にも出来ないんだろう?
 しつこく食い下がったって見苦しいだけだって」
 足立の声を聞き流し、マガツイザナギに集中する。
 ただの一度でも受ければ死に至る攻撃を、転げ回りながら躱していく。
 『守りの護符』の上位互換である『身代わりの護符』ならば、一撃くらいなら耐えられるかもしれない。
 だが強力なコードキャストは、相応に発動までの時間を要する。マガツイザナギの攻撃を躱しながらでは、そんな余裕はない。

 ……見苦しいのは百も承知だ。だが、自分にも譲れないものがある。諦めることだけは、失してできない。

「チッ。いい加減ウザいんだよ。ガキはさっさと消えろ!」

 苛立たしげな足立の声。それに呼応するように、マガツイザナギが剣を大きく振りかぶる。
 今までで一番大きな隙。この一撃を回避し、マガツイザナギの懐へと潜り込めれば、そのまま足立へと接近できるかもしれない。
 自分は――――

   1.潜り込む
  >2.飛び退く

 一か八かには出られない。危険な賭けをするには、まだ早すぎる。
 そう判断し、マガツイザナギから大きく距離をとる。
 直後、マガツイザナギの剣が降り抜かれ、

 ―――その瞬間、周囲の空間に、無数の斬撃が奔り抜けた。
 屋上の床を切り刻むその衝撃に、屋上の端まで吹き飛ばされる。

 ………………ッ!
 危なかった。もし潜り込もうとしていれば、そのまま切り殺されていた。
 だがこれで危機が去ったわけではない。まだ油断も安心もできない。

「ははっ、よく躱せたねぇ。けどこれでゲームオーバーだ。そのまま屋上から突き落としてやる!」
 足立の言葉とともに、マガツイザナギが迫りくる。

 背後に逃げ場はない。一歩でも後ろに下がれば、そのまま屋上から落ちてしまう。
 今度こそ、前へと踏み込むしかないのだと覚悟を決めた―――その時。

 遥か上空から赤黒い影が屋上へと激突し、爆音とともに崩落した――――。

258メモリー・オブ・シー ◆ysja5Nyqn6:2015/05/08(金) 00:51:47 ID:LT2LNYmE0


     05.5/ interlude『影の助力/&color(black,yellow){つーか、俺ちゃんのバトルパート手抜きじゃね? 加筆を要求する!}(無理です)』


「は―――、は―――、っ、は………!」

 その頃ウェイバーは、一人夜の街を駆けずり回っていた。
 それはいまだに岸波白野たちが見つけられないから、ではない。
 それどころか彼らの居場所なら、すでに大方の見当がついていた。
 でありながらウェイバーが駆けずり回っているのは、ランサーとアサシンの戦いへの対処に追われてのことだった。

 本来魔術師の戦いというものは、一般人には隠匿するものだ。
 もし発見された場合、最悪その人物を文字通り“消す”ことだって有り得る。
 それはたとえ、サーヴァント同士の戦いであっても変わりはない。
 もっとも、この町はすべてが聖杯戦争のために用意された仮想世界だ。さほど重要視する必要はないかもしれない。
 しかし、だからと言って等閑にし過ぎれば、ルーラーの裁定対象となる可能性がある。
 となればやはり、戦いの痕跡は極力隠すべきなのだ。……というのに―――。

「ちくしょう、あいつら、無茶苦茶、しやがって……ッ」
 おそらくランサーの宝具であろう、大音響攻撃による周辺への被害に始まり、そこらかしこに破壊された車やら看板やらビルの瓦礫やらが散見している。
 一目見ればすぐにわかる戦いの痕跡。事態の隠蔽など全く考慮されていない。
 これでは、是非とも自分たちの戦いを見つけてください、と言っているようなものだ。
 故にウェイバーは、せめて戦いの中心地点が露見しないよう、周囲のNPCたちに暗示をかけて回っていたのだ。

 幸いというべきか、代わりとなる目印はいくらでも散らかっていた。
 NPCたちの注目を岸波白野とアサシンの現マスターがいるだろうビルから逸らすことは、そう難しいことではなかった。
 もっともウェイバーからしてみれば、そもそもこんな目立つような戦いをするな、と声を大にして言いたいところだろうが。

 ――――だがしかし、ウェイバーのそんな涙ぐましい努力を、たった一瞬で無為にするような事態が発生した。

 それは暗示による人払いがあらかた終わり、そろそろ岸波白野たちがいるはずのビルに向かおうとした、まさにその瞬間のことだった。
 騒動によってNPCの増えてきた夜の町に、またも唐突に爆音が響き渡ったのだ。
 しかもその発生源は、岸波白野たちがいるはずの……つまり懸命に注目されないようにしてきたビルの屋上からだった。

「な……ななな、な―――!」
 当然、NPCたちの注目はそのビルに集まる。
 注目が集まるということは、そこで起きている戦いが露見する可能性に繋がる。
 そしてNPCたちの注目を再び逸らしていくような余力は、ウェイバーには残っていなかった。

「何をやってくれやがりますかあいつらは――――っ!!」

 激情のままに叫びながらそのビルへと駆け着ければ、ビルの周囲には複数人の警官の姿があった。
 おそらくはNPCたちの鎮圧・陽動と、そして先ほど発生した事態の調査のためだろう。
 数人の警官たちが、恐る恐るビルへと入っていく姿が遠目に見えた。
 明らかにまずい状況だった。

「……ああもう、どうなっても僕は知らないからな!」
 半ば自棄になりながら、警官の目を誤魔化してどうにかビルの内部へと侵入する。
 爆発の影響か、エレベーターは停止していた。
 そのためウェイバーは、ビル内部の警官に見つからないよう慎重に階段を上って行った。
 ……可能な限り息を潜め、やっぱり一人でも帰っていればよかったと、ほとんど本気で後悔をしながら。


      †


 同じころ、ウェイバーのサーヴァントであるバーサーカーもまた、もう一騎のアサシンとの戦いを続けていた。

「BangBang! BaBaBaBang! BangBaBang!」
 バーサーカーは子供のように銃声を口にしながら、アサシンへと向けた銃の引き金を引く。
 たとえバーサーカーの銃声は真似事でも、同時に鳴り響く銃声や、放たれる弾丸は本物だ。
 当たり所によっては、十分にアサシンを殺し得る。

259メモリー・オブ・シー ◆ysja5Nyqn6:2015/05/08(金) 00:52:20 ID:LT2LNYmE0

「――――――――」
 対するアサシンは、放たれた弾丸を回避、または刀で切り払うことで、バーサーカーの銃撃に対処している。
 確かにアサシンの武器である忍者刀は、遠距離かつ連続での攻撃が可能なバーサーカーの銃に対して不利だ。
 だが闇雲に放たれるだけの弾丸では、アサシンを捉えることはできない。
 故にこの二騎の戦いは、次第に膠着状態へと入り始めていた。
 ………だが。

「っ………………」
 バーサーカーの銃撃を的確に捌きながらも、アサシンはこのままではまずい、と判断していた。
 確かにバーサーカーの銃撃は、未だにアサシンには届いていない。
 がしかし、アサシンの攻撃もまた同様に、バーサーカーに対して有効とは言えなかったからだ。

 アサシンが頼みとする武器は、その身に培ってきた忍術と、そして切り札である“瞳術”のみだ。
 そしてこの“瞳術”は、相手の害意を相手自身に返すという性質上、こと戦闘においては強力無比な忍法だった。

 ……だがこのバーサーカーは、非常に強力な回復・蘇生能力を有していた。
 たとえ刀で切ってもすぐに癒え、“瞳術”によって自害させても蘇る。
 即ち、アサシンの攻撃ではバーサーカーを殺し切れないのだ。

 無論、それほど強力な能力であるなら、相応の代償ないし制約があるはずだ。
 それが回数制限か消費魔力か、それ以外の条件なのかはわからないが、殺し続けていればいつかは殺し切れるだろう。
 が、しかし。皮肉なことに、そこにも問題が生じていた。
 如何なる理由からか、なんとバーサーカーは“瞳術”の影響を受けなくなっていたのだ。

 胸に突き立つ二本の刀によって、己は自害し続けていると判断しているのか。
 それともその狂気によって、“瞳術”の暗示そのものを無効化しているのか。
 あるいはその両方か。
 いずれにせよこのバーサーカーに対しては、アサシンの切り札たる“瞳術”は大きな効果を与えられない。
 つまりアサシンがバーサーカーを倒すには、通常攻撃のみで相手を殺し続けなければならないのだ。
 それもいつ尽きるとも知れぬ治癒能力と、相性的に不利である銃を相手に。

 故にアサシンは、己がとるべき行動を迷うことなく決定した。
 そしてその時は、意外に早く訪れた。

「うっひょー。あいつらホント派手にやってるなぁ。俺ちゃんも一発花火を上げてみてぇぜ」
 唐突に起きたマスターたちが戦っていたビルの屋上での爆発に、バーサーカーの気が逸れた。
 その瞬間、アサシンはすばやくその場から撤退したのだ。
 このバーサーカーは完全に己の天敵だ。故に、戦うのであれば万全を期す必要がある、と判断したためだ。

「あらら、あいつ逃げやがった。
 ……まいいや。俺ちゃんはあいつらの戦いでも観賞してよーっと」

 取り残されたバーサーカーはアサシンを追おうともせず、銃や胸に突き刺さったままだった刀を納め、無造作にその場に座り込んだ。
 いつの間にか入手したらしいチミチャンガを取り出しているあたり、岸波白野たちの下へ向かう気は完全にないらしい。

「ん? はくのんたちの加勢にいかないのかって?
 無茶言うなよ。今のバトルで俺ちゃんの残機(MP)はとっくに/ZEROよ。俺ちゃんがこれ以上戦ったら、ウェイバーたんがナルホド君になっちまうだろ。
 しかも相手は忍殺おじさんだろ? 今の状態じゃちょっとばかし相手が悪いぜ。映画放映もまだ先だってのに、こんな早々に脱落できるかっつ〜の。
 まあもっとも、ウェイバーたんもこっち来てるだろうし、はくのんたち死なせてウェイバーたんが危ない目に合っちまったら本末転倒だから、ほどほどでエントリーするけどね。
 それにほら、よく言うだろ? ヒーローは遅れてやってくるってさ。俺ちゃんこれでもヒーローだから、多少遅れて登場しても全然OKなのだー!
 つ〜訳で、次のパートよろしく。たのしみにしてるぜー!」

 バーサーカーはそう口にすると、チミチャンガを片手に鼻歌を歌いだしたのだった。

260メモリー・オブ・シー ◆ysja5Nyqn6:2015/05/08(金) 00:53:02 ID:LT2LNYmE0


     06/ VSアサシン(bonds)


 視界が明滅する中、どうにか立ち上がる。
 落下の衝撃で全身が痛むが、どうやら大きな怪我はないようだ。
 慎重に周囲を見渡せば、幾つもの瓦礫が散乱している。見上げれば天井はなく、粉塵の合間に夜空に浮かぶ月が見える。
 もはや屋内の体をなしていない。屋上の崩落に巻き込まれた結果、生じた瓦礫によって内装が破壊されたのだ。

 自分と同様に崩落に巻き込まれたのか、足立透や彼のペルソナの姿は見えない。
 彼は重傷を負っていて、ろくに身動きが取れなかったはずだ。もしかしたら瓦礫の下敷きになっているのかもしれない。
 ……そのまま気絶してくれればいいのだが、とどこか他人事のように思った。
 そうして崩壊の中心地点へと目を向ければ、

「――――ッああ!!」
「――――Wasshoi!」
 その瞬間、舞い上がる土煙の中から、二つの赤い影が飛び出してきた。
 ランサーとアサシンだ。屋上へと激突した影の正体は、彼女たち二人だったのだ。

「ッ……!」
 ランサーはこちら側へと着地すると、苦悶の声を漏らして片膝をついた。
 その様子に慌てて彼女へと駆け寄り、大丈夫かと声をかける。

「ごめん……なさい……。あいつを、倒せなかったわ……」
 ランサーは本当に申し訳なさそうな様子で、悔しげにそう口にする。
 そんな彼女を労りながらも礼装を換装し、『人魚の羽織り(heal(32); )』と『破戒の警策(mp_heal(32); )』によって回復させる。

 明らかにダメージを受けているランサーと違い、アサシンの様子はあまり変わっていない。
 あれだけ有利な条件を以てなお、単騎ではランサーよりもアサシンが上なのだ。
 ならばこの戦いに勝利するには、マスターである自分がどうにかするしかない。

「どうにかするって、逆転の秘策はあるの、マスター?」
 ランサーの問いに頷く。
 秘策と呼べるほど上等なものではないが、この劣勢から逆転することは可能なはずだ。
 そのためにも、ランサーがからアサシンとの戦いで開示した手札を知る必要がある。
 それを聞いたランサーは頷いて、アサシンを警戒しつつ、先ほどの戦いを振り返り始めた――――。



「スゥーッ! ハァーッ!」
 一方アサシンは、そんな様子のランサーたちを警戒しながら、チャドー呼吸とともに自身の状態を確認していた。

 ランサーの攻撃で受けた大きなダメージは、最初の宝具攻撃によるもののみ。
 だがそのダメージによって傷が開き、出血したことによって血中カラテを消耗している。
 チャドー呼吸によって回復させているが、次に大きなダメージを受ければ、イクサを続けることは困難だろう。
 幸いなことにランサーのジツは、アラバマオトシを放った時点ですでに解けていたようだ。反射されたダメージはない。
 ここから先のイクサにおいて、攻撃を躊躇う必要がないというのは実際大きい。
 ………だが。

(ランサー=サンめ。まさかあのような方法でアラバマオトシを脱するとは)
 アサシンは改めてランサーへと視線を向ける。
 マスターのジツによるものだろう。ランサーの傷は目に見えて癒えている。

 ―――あの瞬間。
 屋上へと激突する寸前に、ランサーはなんと、屋上へと向けて“竜鳴雷声”を放ったのだ。
 身動きを封じられ、唯一自由だった“声”を用いたヤバレカバレとも思えるその行動は、結果として実際にランサーの命を救った。
 それまでの戦闘によってダメージを蓄積させていた屋上は、ランサーの一撃によってさらに大きく損傷。
 そこへ叩き付けられたアラバマオトシの衝撃によって崩落し、結果としてランサーへのダメージが半減されたのだ。

 だが、この一撃でランサーを倒せなかったのは実際痛い。
 何故ならここから先のイクサでは、ランサーはマスターの助力を得ることになるからだ。
 対するアサシンは、マスターである足立の助力など期待できない。つまり実質的には二対一だ。
 先ほどの自己分析の通り、カラテを大きく消耗している今の状況では実際アブナイだ。
 ――――しかし。

「スゥーッ! ハァーッ!」
 チャドー呼吸によってニンジャ回復力を高め、傷を塞ぐと同時にカラテを高める。
 彼らはマスターとサーヴァント。どちらか一方を倒せば、もう一人もムーンセルによって消される。アブハチトラズだ。
 それにたとえ相手が何人であろうと、いずれ倒す敵であることに変わりはない。その時が今であったというだけのこと。

「Wasshoi!」
 アサシンは自身のカラテが高まりきると同時に、ランサーへと決断的に跳躍した。

261メモリー・オブ・シー ◆ysja5Nyqn6:2015/05/08(金) 00:53:36 ID:LT2LNYmE0



「いい指示をよろしくね、マスター? 頼りにしてるわよ!」
 アサシンが跳躍すると同時に、ランサーも槍を構えて勢いよく踏み出した。

 ランサーからはすでに話を聞き終えている。逆転のための策も整った。
 だが逆転の秘策があろうと、アサシンが強敵であることに変わりはない。
 しかしこの状況からアサシンに勝つことは、決して不可能なことではない。
 ならば自分が、やるべきことは決まっている。
 即ち、岸波白野にできる最善を尽くすことだけだ――――!


      †


「イヤーッ!」
 跳躍したアサシンはランサーの接近に合わせ、側面回転。その上半身めがけカマキリ・トビゲリを繰り出す。
「ハアッ!」
 対するランサーは、アサシンの攻撃を迎撃。繰り出された蹴りを、槍を打ち付けて弾く。
「イヤーッ!」
 攻撃を弾かれたアサシンはその反動を利用し、宙返りしながら二連続の逆さ蹴りを繰り出す。連撃のカマキリケンだ。
「そーれっ!」
 だがランサーはすばやく飛び退きこれを回避。再度踏み込みアサシンへと高速の槍を突き出す。
 だがアサシンは左手を槍の柄に添えるように当て、最小限の動作でランサーの槍を逸らす。

「まだまだ!」
 攻撃を受け流されたランサーは、即座に槍を引き戻し、更なる刺突を繰り出す。
 マシンガンめいて繰り出される槍は、「沢山撃つと実際当たりやすい」という江戸時代の有名なレベリオン・ハイクを思い出させる。
 だが現実は――特にサーヴァントのイクサにおいては、そう上手くはいかないものだ。
 アサシンはサークルガードによって、ランサーの攻撃をすべて受け流す。アサシンのジュー・ジツは、既にランサーの攻撃に適応し始めていたのだ……!

「っ! だったら……!」
 自身の攻撃が受け流されることに焦れたランサーは、攻撃を付きから薙ぎ払いへと変更する。
 アサシンはその一撃をブリッジ回避。大気を唸らせる一撃が、上半身のあった場所を通り過ぎる。
 だがアサシンの回避行動を読んでいたランサーは、振り抜いた勢いのまま体を高速で回転させ、アサシンが反撃するよりも早くさらに槍を振り抜く。
 アサシンはブリッジ状態からそのままバック転。古代カラテ技、マカーコよって、ランサーの連撃を回避する。

「これで、どうっ!?」
 そこへ槍を大きく振りかぶったランサーが、アサシンへと一気に接近してくる。
 その瞬間アサシンは小刻みなステップ――コバシリによって、一呼吸の内にランサーの懐へ飛び込む。
 ランサーの攻撃を、完全に予測していたのだ!

「イヤーッ!」
 ランサーの懐へと踏み込んだアサシンは、その心臓めがけて致命的なチョップ突きを放ち、
  ―――GUARD!
 咄嗟に引き下げられた槍によって、その一撃を阻まれた。
 その瞬間、ランサーが反撃のために、即座に槍を振りかぶる。

「ぬっ!?」
 渾身の一撃を防がれたアサシンは、ランサーの反撃に対処すべく、咄嗟に飛び退いた。
  ―――BREAK!
 瞬間、ランサーの後方から響いた声に応じ、ランサーは“タメ”の一拍を作り、結果アサシンの回避に対応した一撃を放つ。

「無礼者にはお仕置きってねっ!」
「グワーッ!」
 回避動作直後の硬直を突かれたアサシンにこれを回避する術はなく、咄嗟にドウグ社製ブレーサーで防御する。
 だが十分に力の込められた一撃を防ぎきることはできず、アサシンはその衝撃に弾き飛ばされた。
 ―――“竜鱗は絶壁の如く(スカーラ・サカーニィ)”。
 ランサーの一撃はただ力が込められただけではなく、スキルによって防御(GUARD)からの反撃の威力も強化されていたのだ。

(ヌウ……っ! 白野=サン、なんと的確な指示だ……!)
 迫りくるランサーの追撃を受け流しながら、アサシンは内心でそう感嘆した。

 アサシンのジュー・ジツはランサーの攻撃に適応し始めている。ランサーの技量では、もはや通常攻撃でアサシンを傷つけることは難しい。
 ……だがそれは、ランサーの攻撃がアサシンの予測通りであればの話だ。
 いかにジュー・ジツがランサーの攻撃に適応していようと、その読みが外れてしまえば、的確な対処はできない。
 そして岸波白野は、アサシンの行動を逆に予測し、それに対応した指示をランサーへと出しているのだ。
 つまりアサシンは、ランサーのみならず、岸波白野の繰り出す指示さえも予測しなければならないのだ。

262メモリー・オブ・シー ◆ysja5Nyqn6:2015/05/08(金) 00:54:03 ID:LT2LNYmE0

(……だが、そんなことは元より承知している)
 これは初めから二対一のイクサ。それが明確な形で浮き彫りになったに過ぎない。
「イヤーッ!」
 アサシンは気迫を込めたカラテ・シャウトとともに、ランサーへとその拳を繰り出した。

「そーれっ!」
 対するランサーはその一撃を、体を回転させると同時に槍の柄で受け流し、そのままの勢いでアサシンの胴を狙い打つ。
 攻撃を受け流されたアサシンは左手で槍を外へと打ち払うと同時に、さらにランサーへと踏み込み体当たりを行う。
 強烈な踏み込みから、肩から背中にかけてを用いて放たれる一撃――ボディチェックだ!

「っ、は……っ」
 胴体を打つ強烈な一撃に、ランサーは肺の中の空気を吐き出しながら弾き飛ばされる。
 アサシンはさらなる追撃を行うために、コバシリによってランサーへと迫る。
  ―――ランサー!
 そこに放たれる彼女のマスターの声。
「ッアア……ッ!」
 ランサーは即座に気を取り戻し、地面へと槍を穿つ。
 そして弾かれた勢いを利用し槍を支点に体を回転させ、その尻尾を振り被る。

「!」
 その行動を見たアサシンは、即座に慎重の三倍の高さでジャンプ!
 ランサーの見せた初動作から放たれる攻撃。即ち振り被られた尻尾による薙ぎ払い。その予測回避だ!
 アサシンはコバシリによる勢いのまま、ランサーの頭上を飛び越え着地。再度ランサーへと接近する―――その瞬間。
「何ッ!?」
 ランサーは尻尾を振り抜かず、さらにもう半回転。同時に突き立てた槍を引き抜いて振り上げ、一気に振り下ろし股下を滑走させた……!

「作戦、通りねっ!」
「グワーッ!」
 ―――“不可避不可視の兎狩り(ラートハタトラン)”。
 ウカツ! ランサーたちはアサシンの行動を完全に読み切っていたのだ!
 アサシンはアンブッシュの如き一撃を咄嗟に回避するも、失敗。ダメージを受ける!

「あはっ! まだまだ行くわよ!」
 即座にランサーが、更なる一撃を加えんとアサシンへと飛び掛かる。
 アサシンはその追撃に対処すべくジュー・ジツを構え直すが、
「ヌウ……ッ! これは麻痺か!」
 全身が痺れ、明らかに動作が鈍くなっている。
 先ほどの一撃によって、アサシンはマヒ・ジツに掛かってしまったのだ!

「ネズミみたいに潰してあげるッ!」
 そこへ今度こそ振り落される竜尾の鉄槌。
 ナムサン! 麻痺によって回避動作は間に合わない!
 アサシンはならばと、両腕を頭上でクロスさせ、防御の姿勢をとる。
「ヌウーッ!」
 直後、ランサーの竜尾による一撃が、アサシンへと防御の上から叩き付けられた……!

 ―――その瞬間。アサシンは己が失策を悟った。
 竜尾の一撃による衝撃ゆえか、アサシンの体はカナシバリ・ジツを受けたかのように動けない!
 この一手、この一瞬に限り、アサシンはあらゆる動作が不可能となってしまったのだ……!

  ―――聖杯の誓約に従い、令呪を以て我がサーヴァントに命じる!

 直後、そこへ発せられる、岸波白野の力ある言葉。
 発動を命じられたその手の令呪が、一際赤い輝きを放つ。


 ―――この戦いの最中、ずっと考えていた。
 なぜ自分たちは、アサシンの存在を感じることができたのか、と。

 自分たちとアサシンの関係など、キャスターとの戦いで起きたことが全てだ。
 アサシンの存在を感じ取れる理由にはなりえない。
 ならば考えるべきは別のこと。
 それは即ち、自分とランサー、そしてアサシンとを繋ぐ共通点だ。

 その答えに思い至った時、アサシンを追ってきたことは、そしてこうして戦っていることは、間違いではないのだと確信した。
 そして同時に、まだ僅かにでも救いがあるかもしれないことに、嬉しくて泣きそうになった。
 何故なら――――

  ―――“凛の魂を奪い返せ”、ランサー!!

 彼女はきっと、まだそこに存在しているのだから――――!!

263メモリー・オブ・シー ◆ysja5Nyqn6:2015/05/08(金) 00:54:50 ID:LT2LNYmE0


「了解したわ、マイマスター―――ッ!」
 岸波白野の令呪を受けたランサーが、膨大な魔力とともにその手の槍を投擲する。
「グワーッ!」
 ―――“拷問は血税の如く(アドー・キーンザース)”。
 生き血を啜る吸血の一撃が、身動き一つ出来ぬアサシンの胴体に突き刺さり――その瞬間、岸波白野の令呪の効果が発現した。

 “拷問は血税の如く”は本来、敵へと与えたダメージをそのまま自身の生命力へと還元するスキルだ。
 だが令呪の影響を受けたこのスキルは、通常とは異なる効果を発揮した。
 即ち、アサシンの全身を巡る血液、そこに宿る魔力から、遠坂凛の残滓を全て吸い上げたのだ。
 その結果がどうなるか。

 ――――血とは魂の通貨。命の貨幣。命の取引の媒介物に過ぎない。
 そして血を吸う事は、命の全存在を自らのものとするということだ。

 吸い上げられた残滓は一つの結晶となり、槍が突き刺さったアサシンの傷口から、吹き出る血に弾かれるように、赤い輝きを放って飛び出した。
 令呪によって吸い上げられ、血によって製錬された赤い結晶。それは即ち、遠坂凛の魂に他ならない……!


「リンを、返してもらうわよ!」
 ランサーは赤い結晶をその手に掴み、槍を引き抜くと同時に大きく飛び退く。
 同時に岸波白野もまた、堪え切れないとランサーの下へと駆け出した。

「ハクノ!」
 ランサーはその手の赤い結晶を岸波白野へと向けて差し出し、
 岸波白野もまた、その左手を赤い結晶へと懸命に伸ばし、

 指先が結晶へと触れた瞬間、岸波白野の意識は、白い世界に飲み込まれた――――。


      / 無垢心理領域『メモリー・オブ・シー』


 ――――気が付けば、いつか見た海を漂っていた。
 上も下もない。空も大地もない。静かに完結した、碧い天球に浮かんでいる。
 それは、彼女の心象、彼女の魂のカタチが表れた世界だ。
 その世界の異物として/その世界の主として、岸波白野はソコにいた。

『Gid dem wandernden Vogel das Trinkwasser, der vom langen Weg kommt.
 Benutz den Vogelrahmen, in dem der Schlussel nicht angewendet wird.』

 詠唱(うたごえ)が響く。
 まるで“海”そのものが歌っているかのように、岸波白野の外側から/内側から、碧い海に響き渡っている。
 ………その歌はまるで、何かに/誰かに別れを告げるように感じた。

『lch spinne den Regenbogen in neuem selbst.
 Heites Wetter, Regen, Wind, Schnee, Krieg, Ende ununterbrochen.』

 その歌に紛れて、幻影を見る。
 倒錯する。岸波白野のものではない、秘められた過去が流れ込む。
 ある日。見覚えのある面影の少女を、もう手を繋ぐ事はないと、自らの嘆きに蓋をして、見送った。

『Nimm an, ohne anderer Meinung zu sein, ohne zu fallen.
 Es nimmt an, ohne zu f&uuml;tchten. ohne zu zweifeln.
 Sieg im Freund, der auf eine Reise entfernt geht.』

 歌が終わる。
 外側と内側が入れ替わる。
 曖昧だった自己は確かなカタチを取り戻し、

  ―――凛。

 この世界の本来の主が現れた。
 こうして彼女とまた会えたことに、堪らず泣きそうになった。

「よかった、どうにか間に合ったみたいで」
 凛はそう言って、本当に安心したように息を吐いた。

 そんな彼女に、どうして自分を呼んだ、いや、“呼べた”のかと尋ねる。
 あの時、彼女が自分たちを呼ばなければ、自分たちはきっとアサシンに気付くことはできなかったはずだ。
 けど彼女はアサシンに殺され、その魂を喰われた。岸波白野を呼ぶことなどできなかったはずだ。

264メモリー・オブ・シー ◆ysja5Nyqn6:2015/05/08(金) 00:55:21 ID:LT2LNYmE0

「さあ。それは私にもわからない……いえ、何となくならわかるけど、説明できるほどじゃないわ。
 まあ理由なんてどうでもいいけどね。とにかく、アサシンに殺された後も、ぼんやりとではあったけど、私には意識があったの。
 というより、私があいつの一部になっていたって感じかな? まあ実際、あいつに喰われちゃったわけだしね」

 そう語る凛の体は、まるで何かに食い荒らされたかのようにあちこちが欠け、すでに半分以上が失われていた。
 間違いなく、アサシンの魂喰い……それによって得た魔力が消費された影響だろう。

「あの時の私にできたことは、ラインを通じて白野へと呼びかけることだけだった。
 もっとも、意識を向けるのが精一杯で、『言葉』なんて明確なカタチはとれなかったけどね」

 そう。それが、岸波白野たちがアサシンを……より正確にいえば、その中にいた遠坂凛を感じ取ることができた理由だった。

 遠坂凛と岸波白野、そしてランサーは、互いの魔術回路を結ぶパスを結んでいた。
 そして魔術回路は肉体ではなく魂に宿るモノだ。遠坂凛が遠坂凛としてのカタチを失わない限り、それが失われることはない。
 そしてランサーは、令呪の後押しによってその僅かな繋がりを辿ることで、アサシンの内から遠坂凛を救い出せたのだ。

 ……だがそれは、彼女の生存を意味するものではない。
 たとえこうして話し合うことができようと、遠坂凛は間違いなく死んでいるのだ。
 その事実を覆すことは、岸波白野には決してできない。

「……そんな顔しないでよ。
 そりゃすごく悔しかったし、やり返してもやりたいけど、もうどうしようもないことよ。
 それにアサシンを信用するって決めたのは私。白野は、そんな私を信じてくれただけでしょ?」

 わかっている。
 けど……それでも自分は、凛のことを守りたかった。
 リンと、そしてランサーと交わした約束を、守りたかったのだ。

「…………………っ!
 じゃあ命令! 約束を破った罰よ!
 私の分までこの聖杯戦争を戦って、そして絶対に勝ち残りなさい!」

 ……凛。

「前に言ったでしょう? 聖杯戦争優勝者の実力を見せてもらうって。
 私はまだ満足してない。あなたの力を、見せてもらっていない。
 ……だからこの先は、あなたの中から見せてもらうわ」
 彼女はそう言って、岸波白野にその指先を突き付けてくる。
 その言葉は、今の自分にとって、何にも勝る励ましだった。

「いい? 約束だからね。途中で負けるなんて、絶対に許さないんだから!」

  >1.……ああ、約束だ

 湧き上がる感情を堪え、力の限りに頷く。
 たとえ自分が死んだとしても、その約束だけは決して破るまいと、自分自身に誓うように。

「まあ、ギリギリ及第点ってところかな。さっきよりは十分ましな顔をしてるわ。
 ……それじゃあ、約束の証に、白野にこれを渡しておくわね」

 凛は安心したように微笑むと、岸波白野へと右手を差し出した。
 同時に岸波白野の左手が、小さな熱を帯びる。そこには一画にまで欠けた令呪がある。
 その令呪が、三画全てが揃った完全な形へと戻っていた。
 これは……。

「使い損ねてた、私の令呪。私は体ごと喰われたから、令呪も一緒に取り込まれたみたい。
 令呪って要は魔力の塊でしょ? これだけはアサシンに使われないようにって、がんばったんだから」

 ……渡された令呪は、ずしりと重かった。
 それは物質的な重さではなく、令呪に込められた誓いの重さだ。
 だからだろう。その重さが、ひどく尊いものに想えてならなかった。

「ああそれと、わかっているかもしれないけど、私は消えるわけじゃないわ。私はあなたの一部になるの。
 だから、さよならは言わないわ」

 ―――そう。遠坂凛はムーンセルには消されない。
 何故なら、岸波白野が遠坂凛の魂に触れた時点で、彼女の魂は岸波白野の“構成情報(からだ)”に取り込まれたからだ。
 ゆえに、これから先、遠坂凛が消えるとすれば、それは岸波白野が敗北した時だけ。
 それが、岸波白野が遠坂凛のためにできる、最後の救い――約束の守り方だった。

「それから最後に」
 凛はそう言うと、不意打ちのように岸波白野へと唇を重ね、
「ありがとう、出会ったばかりの私に協力してくれて。本当に、嬉しかったわ」
 この碧い海に融けるように、儚く消えていった。

265メモリー・オブ・シー ◆ysja5Nyqn6:2015/05/08(金) 00:55:48 ID:LT2LNYmE0

 そうして海には、岸波白野だけが残された。
 だがそれは、離別を意味するものではない。
 この海はすでに、岸波白野の一部だ。そしてこの海には、遠坂凛が融けている。
 これから先の未来。岸波白野と遠坂凛は、決して別たれることはない。
 ただ………もう二度と、言葉を交わすことができないだけだ。

 ……だから自分も、ありがとう、と、彼女へ言葉を返した。
 ありがとう。こんな自分を、今もまだ、信じていてくれて――――


     07/ VS真・アサシン 〜Ninjaslayer Abnormal Reaction Against Karate Urgency〜


 ―――そうして、泡沫が弾ける様に、岸波白野は意識を取り戻した。

 海での出来事は、時間にして一瞬の出来事だったのだろう。
 周囲に大きな変化は見られない。
 ともすれば、あの出来事が夢だったのではないか、とさえ思えてしまう。

 だが、左手には、完全な形を取り戻した令呪がある。
 あの出来事は夢ではないのだと、その重みが告げている。
 自分は間違いなく、凛と最後の約束を交わしたのだ。

「……ハクノ」
 ランサーの声に、わかっている、と頷く。
 そう。岸波白野は確かに、遠坂凛と約束を交わした。―――必ず聖杯戦争を勝ち残ると。
 そしてそのためには、今も床に倒れ伏すアサシンを倒す必要がある。
 そう覚悟を決めた、その時だった。

「――――――――」
 岸波白野の戦意に反応してか、アサシンの体が、痙攣するように小さく跳ねた。
 同時にアサシンの纏う気配が禍々しく変質していき、その傷口から赤黒い色の炎が熾り始め、
 直後、アサシンはまるで解放された発条のように飛び上がった!
 そのままアサシンはランサーめがけてダイブ! そして暗黒の炎を纏ったケリ・キックを繰り出した!

「ッ……!」
 ランサーとともに咄嗟に飛び退き、その一撃を回避する。
 アサシンは一撃とともに着地した位置から全く動かず、直立不動の姿勢だ。
 そしてそのまま静かに両手を合わせると、小さくオジギをした。

「ドーモ、ナラク・ニンジャです」

 そう名乗るアサシンの貌は、先ほどまでとは明らかに変わっていた。
 両の瞳は小さく収縮しセンコめいて赤く光り、瞳孔は邪悪に見開かれている。
 そのメンポも牙のような禍々しい形状に変化し、その隙間から硫黄の蒸気めいた吐息が吐き出されている。

「フジキドめ。なんたる堕落。なんと情けない男よ。ついにここまでフヌケたか。
 くだらぬセンチメントに流され要らぬイクサを行い、揚句このザマ。これでは話にならんぞ」
 アサシンはまるで、先ほどまで戦っていた自分を己とは別人のように侮蔑する。
 そのどこか矛盾した言葉に思考を巡らせ、その答えに思い至る。
 二重人格。
 それが、アサシン――ニンジャスレイヤーの、最後のマトリクスなのだと。

 ……そして同時に理解する。
 凛との契約を求めたアサシンは、自分たちが先ほどまで戦っていた、フジキドと呼ばれる人格であり、
 そしてナラク・ニンジャと名乗った、今目の前に立っている人格こそが、凛を殺した存在なのだと……!

「だがよい。フートンで寝ておれフジキド。オヌシは実際限界であろう。
 代わりにワシが、あのトカゲどもに真のカラテを見せてやろうではないか。このワシが!」
 自らにカラチ変えるようにそう呟いていたナラクは、ランサーたちを見据え、愉快気にその貌を歪めた。
 否応なしに緊張が高まる。
 キャスターとの戦いで見せたナラクの戦闘能力。その暴威が、今度こそ自分たちに向けられるのだ。
 そう存立を浮かべた―――その瞬間。

「アイエエエエ!?」
「ニ、ニンジャ!?」
「ニンジャナンデ!?」

 崩壊したこの階層の奥から、唐突にそんな悲鳴が聞こえてきた。
 驚きとともにそちらへと視線を送れば、そこには数人の警官。
 いかなる理由からか、彼らはナラクに対し、異常なまでの驚愕した様子を見せている。
 そしてそれを見たナラクは、その異形の相貌をさらに愉快そうに歪め、
「サツバツ!」
 唐突に体を高速回転させ、自身の周囲全方位へと無数のスリケンを投げ放った!


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