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投下用SS一時置き場4th

91エンドロールは流れない -Common destiny- 3:2015/11/22(日) 20:09:04 ID:l39KhIco0
スタンは溜息を吐くと、静かに瞳を開いた。灰色の空に跳ねる火の粉を手で払うと、空をきりりと見上げる。
“濁っている”。そう思った。まるでそれは、何かを映す事を止めた鏡の様に。

「なあ、そろそろ姿を見せろよ。こっちを見てるのはわかってるんだ」

曇って向こう側が見えない底無しの灰を見ながら、スタンは肩を竦めた。揺れる金髪を掻き上げ、背後を振り返る。
途端に青白い煙が捻れて淀んで、渦を作った。
歪んだ空間の中心が裂けて、その暗がりから、よく見慣れた金髪が顔を出す。
やれやれ、とスタンは思う。
ここに来て、やっぱりお前が来るのか、と。

「よく来たね、“俺”」

何故って、現れたそいつが“スタン=エルロン”そのものだったのだから。
自分そっくりの人間が現れた意味は、スタンにはさっぱり理解できなかった。けれど、何となく何をすれば良いのかは理解できた。
だいいち、そうでなければ、大層な剣など腰に下げ、やってくるはずがあるまいて。

「俺、おまえに会える気がしてたよ」

スタンは先ず、そう言った。本当になんとなく、此処は所謂そういう場所なんだろうな、と思っていた。
目の前のスタンは少し意外そうに目を丸くする。スタンはそんな様子に口を僅かに歪めて、続けた。

「多分、こうなるだろうって思った」

剣を翻し、切っ先をそいつへと向ける。
視界が僅かにぶれていたことに此処で漸く気づいて、左手で片目を触った。穴が空いている。
成程ハンデは大きいな、とスタンは思った。

「そうか……なら今さら、名乗る必要もないよな」

目の前のそいつも肩を竦めてそう言うと、同じに笑う。何所か悲しそうな、影のある笑みだった。
見慣れた剣を見慣れた動きで抜いて、そいつは構える。
スタンは自嘲した。よく知っているからだ。その構えも、その動きも、その強さも。そしてそれは、相手も同じ。
自分と戦うというのは、こうもやり辛いものだったのか。

「スタン=エルロン……お前は、俺だ」

そいつは呟くと、剣を肩に乗せ、不敵に嗤った。
良い感じだ、とスタンは冷や汗を拭きながら思った。戦いの前のこの感じ。火蓋が落ちる前の緊張感。息をする事すら躊躇う様な、張り詰めた殺意。今にも弾けそうな闘気。
油断は即、死だ。何せ相手は自分なのだから。癖も弱点も何もかもを全部把握している。一手間違えば、首が飛ぶ。
溢れる晶力に怯え固まった空気に、思わずスタンは身震いした。
嗚呼、こうだ。
戦いは、こうじゃなきゃあ面白くない。


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