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投下用SS一時置き場4th

90エンドロールは流れない -Common destiny- 2:2015/11/22(日) 20:08:03 ID:l39KhIco0
一面の闇を天地に裂く白い地平線が、真一門に走った。ゆっくりと瞼を上げるのと同時に、意識が徐々に覚醒してゆく。
呼吸は寝息の様に穏やかで、心は恐ろしく落ち着いていた。目を擦り、両手を開き、閉じて、感触を確かめる様にもう一度開く。甲冑が擦れ、カチャリと音を上げた。
腰を上げ、頭を掻きながら周りを見渡す。ひんやりとした青白い煙が地表を満たしていた。
ぼさぼさの金髪をくしゃくしゃと手で揉み、天を見上げる。ジェノスの空のような、深く澱んだ灰色に満ちていた。
次に、僅かに視線を落として地平線を見る。深い霧のような青い靄がかかって、壁なのか地面なのか空なのか、果たしてそれが分からなかった。
夢。そう、それは例えるなら、朝方に見る得体の知れない夢の様な空間だった。頭の中は浮遊感で満ちていて、しかし何故かそんな場所に居る事への不安はなく、むしろ妙な安堵感があった。
腰に手を当てると、案の定、そこには剣の柄が下がっている。視線を下げず、右手で握った。いつも通りの触り心地、いつも通りの重さ、いつも通りのグリップ。
鞘を抜くときの音も、構えた時の切っ先の長さも、間合いも、技も。全てが目を閉じていても思い出せる。
苦しい時も、悲しい時も、楽しい時も。ずっと一緒にいて、いつだって力をくれて、叱ってくれて。一番の友達で、一番の兄貴で、一番の父親で。
そして、一番の、相棒。

「……ディムロス」

目を開ければ、ほら、そこはいつか見た紅蓮の魂剣。
ハイデルベルグ城を化粧する雪の様に透き通った白銀の刀身、その中心に、今にも燃え上がる様な焔のレリーフ。
見飽きたくらいのソーディアンは、けれどもそのコアクリスタルを光らせることはない。
問いかけにも応えなければ、小うるさい説教を垂れてくる事もない。
しかしながら、その剣はディムロスとしか言えないほど、あまりに精巧で、あらゆる面から見ても“本物”だった。
感触を確かめる様に、スタンは剣を翻しながら鞘に仕舞う。瞳を閉じれば、そこはいつか見た薄暗く寒いあの城の地下通路。
ぽつんと汚れた石畳に立つ、苔の生えた石碑の文字が、ぼんやりと緋色に光った。

「“吹き上がる炎の奔流、正しくそれは魔王の息吹”」

一つ一つ、文字を確認する様に呟くと、スタンは一気に剣を振り抜く。一閃。軌跡を追う様に花咲く紅蓮の炎が、中空をじりりと焦がした。

「魔王……炎撃波」


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