したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

投下用SS一時置き場4th

79エンドロールは流れない -フリーズキールはキブシの花弁- 2:2015/02/07(土) 22:38:34 ID:G2P.Bfi20
私は唇を歪める。ジョークでも言わないと、また無駄な事を考えてしまいそうだった。
がはは、と彼は下品な笑い声を吐き出すと、踵を返し手をひらひらとさせながら岩陰に消えていった。

ふう、と溜息を零す。
私が吐いた息は山の空気に晒され、白く染まりもやもやと不穏に漂ったが、やがて空中で掻き消えていった。
肌に張り付いた髪を掻き上げ、額の汗を拭う。汗ばんだ身体は早くも山の風に冷やされ、全身の体温をひんやりと半濡れの衣服が奪った。ぶるり、と思わず体が震える。
あっという間にかじかんでしまった指を太腿の隙間で温めながら、私は空を見上げる。
晴れていた。不気味なくらいの快晴だった。
トールから見た海の天蓋の様に碧く澄んだ空は、しかしその三分の一が欠けている。
永年の風化でくり抜かれた岩壁が、まるで大波がそのまま化石になってしまったような見事なアーチを作っていて、その先端が空を隠してしまっていたのだ。
岩肌に触れると、経年劣化したペンキの様に、ぼろぼろと石が剥がれた。私はふと反対方向の景色を、南を見る。ちょうど私の左手の方向だった。
そこは、絶壁だった。2メートルほど先からは地面が無く、落ちれば命どころか肉片すら残らないような断崖だった。
落ちる時の滞空時間の長さを考えただけで酷い目眩がしそうだ。
私は重い腰を上げ、その崖に腰掛ける。高い所は別に苦手ではないのだ。
中空にぶらぶらと浮かぶ足で空を蹴りながら崖の側面を叩くと、剥がれた石がからからと音を立てて遥か崖下へと消えていった。
ふと耳を澄ませる。しん、と無音が辺りを飲んでいる。
私は遠く広がる景色を、ぼんやりと眺めた。下の景色は地図では砂漠のはずだが、何やら雪原の様な白銀一色に見えた。
そこから天を貫くように伸びた巨塔は中腹でばきりと折れてしまっている。……我々の館を襲った隕石の元凶だ。
遥か向こうに広がる南の港街、恐らく塔を砕いた魔術が居るであろうそこからはもくもくと煙が上がっており、森のそばにある西の城はよく見えないが殆ど壊れてしまっているようだった。
森の中心には、大樹があった。遠目での判断だがどうやら無事のようで、私はほっと胸を撫で下ろした。

「……運が良かっただけなんだな、本当に」

私は何の気なしに呟いた。その一言で済ませてしまうにはあまりにも壮絶な2日間だったが、本当にそうなのだ。それ以外に形容しようがない。
私は、運が良かった。
港街ではきっとまだ誰かが闘っているのだろうし、城は壊れるほどの何かがあって、砂漠が雪原に変わるほどの事があり、塔が砕けるほどの砲撃さえあった。
無力な私が居たところで誰も助けられなかったのかもしれないが、それでも後悔ばかりが私の胸を締め付け、離さなかった。
やれやれと溜息を吐いて、地面に視線を落とす。枯れ草がかさかさと寂しげに岩肌から顔を出していた。
中空で遊んでいた足を上げ、私はごつごつとした岩肌の上で胡座をかく。ついでに片肘をついた。指の隙間から、白い息が溢れる。
……休憩がてら少しだけ、このゲームの脱出条件を考えた。
クレス亡き今、エターナルソードでの脱出は不可能かもしれないと思ったが、よくよく考えればオリジンと契約したのは他でもない、私だ。
アーリィで私はエターナルソードを使って過去を見た。実際、クレスが居なくとも私にエターナルソードを扱うことは出来るのだ。
私が主神とすれば、言わばクレスは陪神のようなもの。
すると此処にダイヤモンドとエターナルソードがあるかどうかは別として、残るは多重契約の問題だけとなる。
英雄ミトス物語、世界再生伝説、古代大戦の書。モリスン邸にて読み、持ち出した情報諸々含め、このゲームに参加するミトス=ユグドラシルが英雄ミトスである事はまず間違いないだろう。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板