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投下用SS一時置き場4th

63エンドロールは流れない -空穿つ暗銀の騎士- 5:2014/11/08(土) 01:18:16 ID:xQG7g5jE0

セネルは己の諦めと絶望を再認識し―――瞬間、表情だけで嗤う。
例え地の底まで堕ちても、戦士として相手の力量を計りかねるほど腐ってはいないつもりだった。
でも、だからって、こんなにも簡単に諦めたのは何故だろうか。
ふいに湧いた疑問の答えは、すぐに解った。
愛する人を生き返らせる事と、大切な妹を護る事。その二つよりも、自分にとっては“この化け物を倒せるかどうか”の方が大切だったのだ。
倒せないと分かった瞬間、自分は全てを諦めた。敵を一泡吹かせて、満足してしまった。
ステラを生き返らせるという結果も、シャーリィを守りこのゲームで優勝させるという目的も。全部、都合良く消してしまった。
自分にとってそれは所詮その程度のものだったのだ。
今まで拳を振ってきた理由は、たった一度勝てなかったくらいで砕けるような、そんな陳腐な代物だった。
それを悟った瞬間、セネルの全身からどっと力が抜ける。
一瞬でも愛する人という目的を忘れ、力量で劣るから無理だと諦めてしまった。
その結果が、これかよ。その本質が、これかよ。今更どうしてそれを解っちまうんだよ。何で気付いたんだ。
知らない方が、よっぽど幸せに逝けたのに。
嗚呼、本当に、ほんとうに――――――――――――――――――どこまで、滑稽。

『図に、乗るなよッ……餓鬼がッ! その脆い身体、微塵も残ると思わぬ事だ!!』

何処かから、叫び声が聞こえた。
泥色の思考の沼から意識を浮上させ、セネルはぼやけた視界の隅に映るそいつを見る。
膝を立て、揺れる身体をなんとか支えながら、邪神が牙を剥いていた。
思わず、温度の違いに溜息を吐く。血走った目がこちらを睨んでいる。恐怖はちっとも感じなかった。
生きたいと願わなければ、恐怖という感情は産まれない。至極当たり前で、単純な話。
セネル=クーリッジ。
愛を喪い戦う理由を落とした少年に、生への執着など、最早無かった。

「業火に焼かれ、苦しみながら灰塵に帰すがよい!!」

神の怒りの彼方を、曇った眼が恨むように睨んだ。焔の様に激しい気配が揺らめき、深紅の魔力が混沌と大気で渦を巻いていて。
きっとそれが自分を焼き殺すであろう致命的な一撃であると理解していたが、ただただセネルは光の消えた双眸で虚ろを見上げた。
口を半開きに、合わぬ焦点で、灰色の空を仰ぐ。
青い海が脳裏に過ぎた。息を飲むくらいに綺麗だった。どこまでも澄んで、終わりなんて、ずっと無い。
底も無く、濁りも無い。憎しみも、痛みも、あらそいも。
かなしみも、うらみもふくしゅうも、つみもばつも、なにもない。なにもかもが、きっとそこではゆるされる。
そんな海に沈むのを夢見るように、セネルは穢れた瞳をゆっくりと閉じる。

「フィアフル――――――」

あぁ、と。
セネルは死を前に、思考の淵で諦めたように嘲った。
漸くだ。漸く、全部終わる。やっと、くそったれな世界から消えられる。人間を、辞められる。
もう、疲れたんだ。生きる事にも復讐をする事にも、誰かを殺そうと、もがく事も。
こんな汚れた両手じゃ、ステラを抱いてやる事は、きっと出来ない。あの世で会う事すら、俺にとっては拷問だ。
そんな事、分かってたはずなのに。

自分の死を見る為に、静かに瞼を開く。その瞬間からだけは、目を逸らしてはいけないと思ったから。
しかし、これだけ絶望して死ぬ事を享受したというのに、現実とは本当に分からないものだ。
開けた世界、広がる景色。その中にあったのは、迫っていたのは、空でも闇でも、煉獄でもなく。



【9:05'---------------------------------------------------------------------------------------Xe-l Ne-l Fe-s---------------------------------------------------------------------------------------16"18】



――――――そう、それは夢に見たような、蒼い海。


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