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投下用SS一時置き場4th

60エンドロールは流れない -空穿つ暗銀の騎士- 2:2014/11/08(土) 01:08:17 ID:xQG7g5jE0
【9:00'00"09】




色が、無かった。
ただ何色なのかと尋ねられれば、それは恐らく白と形容する他は無いな、と漠然と思った。
白。
見渡す限りの白が、少年の視覚を責める様に網膜をちくちくと刺している。
その正体は果たして光だった。晶霊の弾丸が放ったむせ返るような閃光が、くたびれた体を痛めつけんと乱暴に差していた。
恐慌にして狂光。白達は涎塗れの牙を剥いて並べられた現を皿ごと喰らう。
一片の躊躇や優しささえそこにはなく、あるのはただ一方的な暴力だけだった。
その暴力的な光に影すらもが慄いた。光はまるで生きているかのように万物に絡み付き、その肌を弄び、無様に逃げ惑う影を貪り尽くした。

僅かに遅れて、風圧のような何かが少年の体を虚空に叩きつける。
熱や風、重力の類では決してなく、気配や存在感の塊の様な、そんな何かだった。
しかし暫くして光は腹を満たしたか飽いたのか、すんなりと世界から身を引く。
同時に、堰を切ったように細い黒線が大地に群がり、影が現れ、地平線へ競うように伸び、やがて焼き付いた様に中空で静止していった。

世界が、色を取り戻した瞬間だった。

少年は瞳を閉じる。
光の驟雨を耐えたのだ、開けている事だってきっと出来ただろう。それでも彼は自ずから光を閉ざした。
何かから逃げるように、或いは殺す様に、ゆっくりと鈍く光る瞳を閉じる。

命は、諦めていた。
運命なんかこれっぽっちも信じちゃいなかった。けれど多分、此処で自分は死ぬのだろう、と。
矛盾しているが、そんな定めじみた何かを確かに感じていた。
だから目を開けたら、そこはきっと罪深い自分に相応しい焔渦巻く煉獄なのだと。
そう少年は信じていた。

一筋、視界に白い線が入る。深い闇を鋭い刃で切り裂くように、その線は太く強くなった。
地平線と光の筋が重なり、空と大地の境目が無くなる。海が、向こう側に見えた。揺蕩う波が白銀に煌めいている。
一対の硝子玉が、ゆっくりと露わになった。
青い空と、銀の海。金の太陽。身体を焼き尽くす業火は、望んだ煉獄は、遙か彼方宇宙の向こう側に浮かんで世界に光を満たす。

――――――あぁ、そうだったのか。

少年はそこで漸く理解した。

今更、本当に。光から目を背けても、そこにあるのは、光だったなんて。

開いた硝子玉の曲面に映ったのは、海と空と光と、なんの事もないただの陳腐な崩れた家屋と壊れた用水路と、
割れた石畳と、砕けた名も知らぬ英雄の石像と、罅だらけの型板硝子と、剥き出しになった錆びた水道管と、水路に沈んだ女神の絵画と、砂だらけの絵本と……そんなものだった。
必死になって生きてきた世界は、守ってきた居場所は、たかだかそんなものだったのだ。
愛しいあの人の、ステラ=テルメスの姿は、名残は、その世界の何処にも無かった。
少しも、ありはしなかった。

荒れた息遣い。耳の内側から鼓膜を揺らす鼓動。黴臭い土。流れる汗。そよぐ髪。痛む怪我、流れる血潮。
輝く太陽の光は骨の髄まで染みるようだった。
なんだ。そうだったのか―――少年は空を仰いで大の字になり、やれやれと溜息を吐いた。
疎ましい光はいつも天が照らした。太陽は、煉獄はいつも天にあった。
死んだらそこへ行けるだなんて、誰が言ったんだ。光が神の象徴だなんて、誰が言ったんだ。
あまりに、この世界は。こんなに綺麗な景色のくせして、最初から、ずっと―――――――――――――。




瞬間、思考を遮断するように衝撃波が襲う。身体は吹き飛ばされ、ごろごろと転がって瓦礫の山にダイブした。
体の中から何かが弾ける音がして、口から嘘みたいな量の血が溢れる。
なんだよ、と。少年は痛みに喘ぎ血に噎せながら、諦めたようにへらへらと嘲った。結局、生ききってしまったのだ。

視界の隅、砂埃と共に舞う石畳の向こう側。共に心中した筈の悪魔がそこに、立っている。

簡単な話だ。死んだらそこに行くんじゃない。嗚呼、今になってそれに気付くのかよ。
地獄は――――――生きているだけで、そこにずっとあっただなんて。

いつだってそうだ。

取り戻すのも、気持ちを伝えるのも、戻る道を探すのも、誰かを愛する事も。

全部、遅過ぎるんだよ。

なぁ、ステラ。


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