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投下用SS一時置き場4th

52エンドロールは流れない -自由軍、我等の胸にはミアキスを-:2014/10/01(水) 22:01:15 ID:CSHND38c0
ぽつぽつと、冬のローンヴァレイに降る雨のように、私は呟いた。視線は地面を泳いでいる。
地面に拳大の石が落ちていた。私はそれを蹴る。石はハーブ達が植わる花壇へ飛んで行った。
私は自嘲する。今日はずっとこんな調子だ。
まるで思春期の餓鬼だな、と思う。

「でもそんな死に怯え醜くくすんだ感情すら、死と生が同義故に価値が無いと言うなら。
 それなら弱者足り得る我々の生きる道など、最早無いに等しいじゃないか。
 私は、そんな死や感情をゲーム扱いして愉しむサイグローグは、やはり赦せない……赦せないんだよ」

ようやく震えが収まった両手を開き、生きている事を確かめる様に、私は掌を閉じては開いた。
私は、そうして覚悟を決めて顔を上げる。情けない顔をしているだろう私を見ても、フォッグは眉一つ動かさなかった。
残酷だな、と思った。

「だから、なぁ。頼むよ。貴方だけはどうか、逝かないでくれ。嘘でも、誰かの前で生きるのと死ぬのが同じなんて、言わないでくれ。
 そうじゃなきゃ、フォッグの強さが怖くなってしまう。
 私は、この島にいる奴等をまとめられるのは、最早貴方しかいないと思うんだよ。
 ……向かうべき灯台の光を失ってしまったら、果たして船はどこへ向かえばいい?
 フォッグ、私にはそれが分からないんだよ……灯火一つ無い闇の中では、舵を取る勇気の無い人間の方がきっとこの世には多い」

私は懇願する様に言った。アセリアの旅で私はクレス達をまとめたが、本来それは柄ではなかった。年長だからか自然とそうなったが。
……私は、他人があまり好きではない。縛られる事も嫌いだ。知識だけはそれなりにあるが、言ってしまえばそれだけだ。
根本は餓鬼のまま。それをこの島に来て、フォッグと出会ってから嫌というほど知ってしまった。
フォッグの熱さもある意味では大人らしからぬが、しかしその器と力には、どうやっても敵わない。
だから、喪うわけにはいかない。
けれど危う過ぎるのだ。生と死に囚われない、究極のポジティブさは―――いつか、彼自身を殺すと思った。
死に無頓着な彼は、恐らく率先して前線に立つだろう。きっと敵の攻撃から仲間を守るのだろう。
その結果自分が死ぬのだと理解しても、止まらないのだろう。
今まで怪我をしても、何を失くしても喪っても、理想も足も止めなかった筈だ。
そうしてきたからこそ、彼は皆から慕われている。

しかし、人は死ぬのだ。

今までが奇跡だった。フォッグが言うように彼は不死身ではないし、その恐怖や力に立ち向かう勇気故に、死の危険は常人以上に付き纏う。
そして彼が死んだら、きっと数多くの人は向かうべき道を失ってしまう。かくいう私がそうである様に。
私がそれを彼に言ったところで彼は止まらないだろう事は先程も言った。
だが、しかしそう思う人が居る事を、彼には知って欲しかった。それ自体は無意味ではないはずだ。
誰もがいつかは、死ぬ。
フォッグ、貴方も死ぬのだ、と。

そんな事を思っていると、目の前の彼は、おう、と小さく呟いた。

「そりゃあ、そうだな。悪ィな、余計なアレしちまったぜ。でもよ、アレを許せねェのはアレよ、俺もだぜ?」

フォッグは腕を組みながらそう言った。
私の科白に対する答えとしては、それは余りに不親切で不充分だったが、期待など始めからさしてしてはいなかったし、
私としては彼に気持ちを吐露出来ただけでも充分だった。

「……あぁ、分かってるさ」

私は呟いて、空を見た。嘘みたいに静かになった景色の中に、中腹で折れ、煙を狼煙のように上げている塔がある。

「だがよ」

フォッグが私の視界の外で呟いた。私は目線を彼の顔に戻す。太陽の様な底無しの笑顔がそこにはあった。

「力を合わせりゃアレなんてねェだろ? なぁに、俺様達なら朝飯前よ。いいか、御託が言えるうちがアレだぜ!
 そのアレで、アレよ! サイグローグをぶっ潰そうぜ!!」


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